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第73巻(子の巻)
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第75巻(寅の巻)
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第77巻(辰の巻)
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第49巻(子の巻)
序文
総説
第1篇 神示の社殿
01 地上天国
〔1275〕
02 大神人
〔1276〕
03 地鎮祭
〔1277〕
04 人情
〔1278〕
05 復命
〔1279〕
第2篇 立春薫香
06 梅の初花
〔1280〕
07 剛胆娘
〔1281〕
08 スマート
〔1282〕
第3篇 暁山の妖雲
09 善幻非志
〔1283〕
10 添書
〔1284〕
11 水呑同志
〔1285〕
12 お客さん
〔1286〕
13 胸の轟
〔1287〕
14 大妨言
〔1288〕
15 彗星
〔1289〕
第4篇 鷹魅糞倒
16 魔法使
〔1290〕
17 五身玉
〔1291〕
18 毒酸
〔1292〕
19 神丹
〔1293〕
20 山彦
〔1294〕
余白歌
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第一三章
胸
(
むね
)
の
轟
(
とどろき
)
〔一二八七〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第49巻 真善美愛 子の巻
篇:
第3篇 暁山の妖雲
よみ(新仮名遣い):
ぎょうざんのよううん
章:
第13章 胸の轟
よみ(新仮名遣い):
むねのとどろき
通し章番号:
1287
口述日:
1923(大正12)年01月18日(旧12月2日)
口述場所:
筆録者:
松村真澄
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1924(大正13)年11月5日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
高姫は杢助のような立派な男を夫に持つことができ、鼻息荒く、翌日からは義理天上日の出神をやたらに振り回しだした。
高姫はヨルに朝食の用意を言いつけた。そこへ杢助が朝の礼拝から帰ってきた。高姫は、杢助の耳がよく動くのに気が付いて指摘した。杢助は、神格に充たされた神人は耳が動くのだとごまかした。
高姫と杢助は、ヨルが朝食を一膳しか用意しなかったことで喧嘩を始め、ヨルがうまく言ってその場を収めた。杢助は祠の森の境内を巡視すると言って一人で出て行った。高姫は装束を着かえて日の出神と成りすまし、参拝者が来るのを待っている。
ヨルが受付に控えていると、お寅と魔我彦がやってきた。二人はヨルから、高姫が日の出神の生き宮としてここに現れたと聞いて、高姫に合わせてもらようヨルに頼んだ。
高姫はヨルの報告を聞いて、蠑螈別と魔我彦がやってきたと勘違いし、まずは魔我彦だけを呼んで話を聞いた。魔我彦は、高姫が三五教に改心してから蠑螈別が小北山にウラナイ教を開いたこと、その後三五教の宣伝使がやってきて皆三五教に改心したことを話した。
高姫は、魔我彦の連れが、お寅という蠑螈別と一緒に小北山を開いた元幹部だと聞いて、義理天上日の出神から言って聞かせることがあるからと、お寅を自室に呼んだ。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
[×閉じる]
:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2023-06-27 09:47:28
OBC :
rm4913
愛善世界社版:
184頁
八幡書店版:
第9輯 99頁
修補版:
校定版:
190頁
普及版:
85頁
初版:
ページ備考:
001
高姫
(
たかひめ
)
は
思
(
おも
)
ひもよらぬ
立派
(
りつぱ
)
な
夫
(
をつと
)
を
持
(
も
)
ち、
002
ますます
鼻息
(
はないき
)
荒
(
あら
)
く、
003
翌朝
(
よくてう
)
よりは
義理
(
ぎり
)
天上
(
てんじやう
)
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
を
又
(
また
)
もや
矢鱈
(
やたら
)
にふり
廻
(
まは
)
し
出
(
だ
)
した。
004
時置師
(
ときおかしの
)
神
(
かみ
)
は
朝
(
あさ
)
の
間
(
ま
)
早
(
はや
)
うから、
005
神殿
(
しんでん
)
に
参拝
(
さんぱい
)
すると
云
(
い
)
つて
出
(
で
)
て
行
(
い
)
つた。
006
跡
(
あと
)
に
高姫
(
たかひめ
)
は
火鉢
(
ひばち
)
を
前
(
まへ
)
におき、
007
キチンと
坐
(
すわ
)
り
乍
(
なが
)
ら
長
(
なが
)
い
煙管
(
きせる
)
で
煙草
(
たばこ
)
をポカポカふかしてゐる、
008
そして
鈴
(
りん
)
をチンチンと
叩
(
たた
)
いた。
009
ヨルはコワゴワ
乍
(
なが
)
ら
頭
(
あたま
)
を
掻
(
か
)
きもつて、
010
襖
(
ふすま
)
をソツとひらき、
011
ヨル
『へ、
012
御免
(
ごめん
)
なさいませ』
013
と
身体
(
からだ
)
を
半分
(
はんぶん
)
つき
出
(
だ
)
し、
014
早
(
はや
)
くも
逃
(
に
)
げ
腰
(
ごし
)
になつてゐる。
015
高姫
(
たかひめ
)
『コレ、
016
ヨル
公
(
こう
)
、
017
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
ふ
恰好
(
かつかう
)
だいな。
018
其
(
その
)
腰
(
こし
)
は
何
(
なん
)
だい、
019
みつともない、
020
サツサとお
這入
(
はい
)
りなさい』
021
ヨル『ヘー、
022
何分
(
なにぶん
)
夜通
(
よどほ
)
し、
023
使
(
つか
)
つたものですから、
024
とうとこんな
腰
(
こし
)
になりました。
025
本当
(
ほんたう
)
に
世界中
(
せかいぢう
)
一所
(
いつしよ
)
によつた
様
(
やう
)
な
心持
(
こころもち
)
で
厶
(
ござ
)
いましたよ、
026
エヘヽヽヽ』
027
高姫
(
たかひめ
)
『お
前
(
まへ
)
は、
028
私
(
わたし
)
たちのヒソヒソ
話
(
ばなし
)
を
聞
(
き
)
いてゐたのだな』
029
ヨル『ハイ、
030
エヽヽ、
031
世界中
(
せかいぢう
)
、
032
よつた
様
(
やう
)
だと、
033
貴女
(
あなた
)
が
仰有
(
おつしや
)
つたものだから、
034
私
(
わたし
)
も
気
(
き
)
が
気
(
き
)
でなく、
035
もしもこんな
所
(
ところ
)
へ
世界中
(
せかいぢう
)
押寄
(
おしよ
)
せて
来
(
こ
)
うものなら、
036
貴女
(
あなた
)
の
前
(
まへ
)
の
夫
(
をつと
)
が
交
(
まじ
)
つてゐるに
違
(
ちが
)
ひない。
037
さうすりや
大喧嘩
(
おほげんくわ
)
が
始
(
はじ
)
まるだらうと、
038
捻鉢巻
(
ねぢはちまき
)
でチヤンと
夜通
(
よどほ
)
し
控
(
ひか
)
えてゐました、
039
先
(
ま
)
づ
先
(
ま
)
づ
無事
(
ぶじ
)
で
岩戸
(
いはと
)
開
(
びら
)
きも
相
(
あひ
)
すみ、
040
お
目出度
(
めでた
)
う
厶
(
ござ
)
います、
041
エツヘヽヽヽ、
042
何分
(
なにぶん
)
ヨルの
守護
(
しゆご
)
で
厶
(
ござ
)
いますから、
043
此
(
この
)
ヨル
公
(
こう
)
は
夜分
(
やぶん
)
は
寝
(
ね
)
られませぬので……』
044
高姫
(
たかひめ
)
『
外
(
ほか
)
の
連中
(
れんちう
)
は
何
(
ど
)
うして
居
(
を
)
つたのだい』
045
ヨル『ハイ、
046
次
(
つぎ
)
の
間
(
ま
)
で
六
(
ろく
)
人
(
にん
)
乍
(
なが
)
ら、
047
並列
(
へいれつ
)
致
(
いた
)
しまして、
048
御
(
お
)
招伴
(
せうばん
)
に、
049
ラマ
教
(
けう
)
の
修業
(
しうげふ
)
を
致
(
いた
)
して
居
(
を
)
りました。
050
随分
(
ずいぶん
)
勢
(
いきほひ
)
のよいものでしたよ』
051
高姫
(
たかひめ
)
『エーエ、
052
困
(
こま
)
つた
連中
(
れんちう
)
だなア、
053
サ
早
(
はや
)
く
御
(
お
)
膳
(
ぜん
)
の
拵
(
こしら
)
へをしておくれ』
054
ヨル『ハイ
畏
(
かしこ
)
まりました。
055
併
(
しか
)
しお
膳
(
ぜん
)
は
一
(
ひと
)
つですか、
056
二
(
ふた
)
つにしませうか』
057
高姫
(
たかひめ
)
『そんなこた
言
(
い
)
はいでも、
058
大抵
(
たいてい
)
気
(
き
)
を
利
(
き
)
かしたら
何
(
ど
)
うだいなア』
059
ヨル『そんならお
二人
(
ふたり
)
さまですから、
060
二
(
ふた
)
つに
致
(
いた
)
しませうか』
061
高姫
(
たかひめ
)
『エーエ、
062
気
(
き
)
の
利
(
き
)
かぬ
男
(
をとこ
)
だなア、
063
二
(
ふた
)
つは
即
(
すなは
)
ち
一
(
ひと
)
つ、
064
一
(
いち
)
といへば
二
(
に
)
を
悟
(
さと
)
る
男
(
をとこ
)
でないと
誠
(
まこと
)
の
御用
(
ごよう
)
には
立
(
た
)
ちませぬぞや』
065
ヨル『どうぞハツキリ
云
(
い
)
つて
下
(
くだ
)
さいませ。
066
二
(
ふた
)
つか
一
(
ひと
)
つかと
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
を……』
067
高姫
(
たかひめ
)
『エーエ、
068
よいかげんに
考
(
かんが
)
へておきなさい。
069
大抵
(
たいてい
)
分
(
わか
)
つて
居
(
ゐ
)
るだらう』
070
ヨル『なる
程
(
ほど
)
、
071
ヤ
分
(
わか
)
りました。
072
昨夕
(
ゆうべ
)
は
二
(
ふた
)
つでしたな、
073
そんなら
二
(
ふた
)
つに
致
(
いた
)
しませう。
074
据膳
(
すゑぜん
)
くはぬは
男
(
をとこ
)
の
中
(
うち
)
でないと
云
(
い
)
ひますから、
075
イツヒヽヽヽ』
076
と
云
(
い
)
ひ
乍
(
なが
)
ら、
077
舌
(
した
)
をチヨツとかみ
出
(
だ
)
し、
078
腮
(
あご
)
を
二
(
ふた
)
つ
三
(
み
)
つしやくり
出
(
い
)
でて
行
(
ゆ
)
く。
079
高姫
(
たかひめ
)
は
煙管
(
きせる
)
で
火鉢
(
ひばち
)
をポンと
叩
(
たた
)
き
乍
(
なが
)
ら、
080
高姫
(
たかひめ
)
『あゝ
惟神
(
かむながら
)
霊
(
たま
)
幸倍
(
ちはへ
)
坐世
(
ませ
)
惟神
(
かむながら
)
霊
(
たま
)
幸倍
(
ちはへ
)
坐世
(
ませ
)
。
081
何卒
(
なにとぞ
)
々々
(
なにとぞ
)
時
(
とき
)
さまと
末永
(
すゑなが
)
く
添
(
そ
)
はれまして、
082
神界
(
しんかい
)
の
為
(
ため
)
に
結構
(
けつこう
)
な
御用
(
ごよう
)
が
出来
(
でき
)
ます
様
(
やう
)
に……』
083
と
祈
(
いの
)
つてゐる。
084
そこへ
時置師
(
ときおかし
)
の
神
(
かみ
)
は
神殿
(
しんでん
)
の
礼拝
(
れいはい
)
を
了
(
をは
)
り、
085
ニコニコし
乍
(
なが
)
ら
帰
(
かへ
)
り
来
(
きた
)
り、
086
時置
(
ときおか
)
『ヤア
高
(
たか
)
ちやん、
087
えらう
待
(
ま
)
たせました。
088
さぞお
淋
(
さむ
)
しいこつて
厶
(
ござ
)
りませう』
089
高姫
(
たかひめ
)
『コレ
時置師
(
ときおかし
)
の
神
(
かみ
)
さま、
090
誰
(
たれ
)
が
聞
(
き
)
いてるか
分
(
わか
)
りませぬよ。
091
高
(
たか
)
ちやんなんて
言
(
い
)
つて
貰
(
もら
)
ふと、
092
サツパリ
威信
(
ゐしん
)
が
地
(
ち
)
におちます。
093
義理
(
ぎり
)
天上
(
てんじやう
)
日出
(
ひのでの
)
神
(
かみ
)
と
云
(
い
)
つて
貰
(
もら
)
はにやなりませぬぞや』
094
時置
(
ときおか
)
『ヤツパリ
日出
(
ひのでの
)
神
(
かみ
)
で
立
(
た
)
て
通
(
とほ
)
す
積
(
つも
)
りですかな。
095
成程
(
なるほど
)
そいつあ
妙
(
めう
)
だ。
096
宜
(
よろ
)
しい、
097
そんならこれから
日出
(
ひのでの
)
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
と
申上
(
まをしあ
)
げませう』
098
高姫
(
たかひめ
)
『
何
(
なん
)
ですか、
099
改
(
あらた
)
まつた
物
(
もの
)
の
云
(
い
)
ひやうをして、
100
本当
(
ほんたう
)
に
白々
(
しらじら
)
しい』
101
時置
(
ときおか
)
『そんなら、
102
山
(
やま
)
の
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
、
103
何
(
なん
)
と
申
(
まを
)
したらいいのですか』
104
高姫
(
たかひめ
)
『
義理
(
ぎり
)
天上
(
てんじやう
)
日出
(
ひのでの
)
神
(
かみ
)
といふのだよ』
105
時置
(
ときおか
)
『よしよし、
106
そんなら、
107
これから、
108
さう
申
(
まを
)
しませうかな』
109
高姫
(
たかひめ
)
はツーンとすねて、
110
肩
(
かた
)
をプリツとふり、
111
背中
(
せなか
)
を
向
(
む
)
け、
112
高姫
(
たかひめ
)
『
勝手
(
かつて
)
になさいませ。
113
どうでこんなお
多福
(
たふく
)
はお
気
(
き
)
に
召
(
め
)
しますまいからなア、
114
ヘン』
115
時置
(
ときおか
)
『アツハヽヽヽ、
116
芋虫
(
いもむし
)
の
様
(
やう
)
に、
117
能
(
よ
)
うプリンプリンと
遊
(
あそ
)
ばすお
方
(
かた
)
だなア』
118
高姫
(
たかひめ
)
『あゝ
貴方
(
あなた
)
、
119
耳
(
みみ
)
が
動
(
うご
)
くぢやありませぬか、
120
あらマア
不思議
(
ふしぎ
)
なこと』
121
時置
(
ときおか
)
『
私
(
わたし
)
の
耳
(
みみ
)
の
時々
(
ときどき
)
動
(
うご
)
くのは、
122
生
(
うま
)
れつきだよ。
123
それだから
時
(
とき
)
と
云
(
い
)
ふのだ。
124
お
前
(
まへ
)
だつて、
125
歩
(
ある
)
く
拍子
(
ひやうし
)
に
尻
(
しり
)
をふるだらう。
126
夫
(
そ
)
れ
位
(
くらゐ
)
な
大
(
おほ
)
きな
尻
(
しり
)
でさへもプリン プリンふるのだから
小
(
ちひ
)
さい
耳
(
みみ
)
が
動
(
うご
)
く
位
(
くらゐ
)
、
127
何
(
なに
)
が
可怪
(
をか
)
しいのだ。
128
お
前
(
まへ
)
たちの
耳
(
みみ
)
は
不随意
(
ふずゐい
)
筋
(
きん
)
と
云
(
い
)
つて、
129
思
(
おも
)
ふやうに
動
(
うご
)
かないのだらう。
130
祝詞
(
のりと
)
の
文句
(
もんく
)
にもあるだないか、
131
天
(
あめ
)
の
斑駒
(
ふちこま
)
の
耳
(
みみ
)
ふりたてて
聞
(
き
)
こしめせとか、
132
小男鹿
(
さをしか
)
の
八
(
や
)
つの
耳
(
みみ
)
ふり
立
(
た
)
てて……とか
書
(
か
)
いてあるだらう。
133
すべて
神格
(
しんかく
)
に
満
(
み
)
たされた
大神人
(
だいしんじん
)
は
耳
(
みみ
)
が
動
(
うご
)
くのだよ。
134
国治立
(
くにはるたち
)
の
大神
(
おほかみ
)
様
(
さま
)
でさへも、
135
大変
(
たいへん
)
によく
耳
(
みみ
)
が
動
(
うご
)
いたのだ。
136
それだから、
137
あれ
丈
(
だけ
)
の
大神業
(
だいしんげふ
)
が
出来
(
でき
)
たのだ。
138
暫
(
しばら
)
く
其
(
その
)
御
(
ご
)
神力
(
しんりき
)
を
隠
(
かく
)
させ
玉
(
たま
)
ふたのを、
139
耳
(
みみ
)
をかくし
玉
(
たま
)
ふと
祝詞
(
のりと
)
に
書
(
か
)
いてあるのだ。
140
耳
(
みみ
)
の
動
(
うご
)
くのは
大神人
(
だいしんじん
)
の
生
(
うま
)
れ
代
(
かは
)
りたる
証拠
(
しようこ
)
だよ。
141
義理
(
ぎり
)
天上
(
てんじやう
)
さま、
142
此
(
この
)
時置師
(
ときおかし
)
の
耳
(
みみ
)
が
動
(
うご
)
くのが
厭
(
いや
)
なら、
143
これきり
私
(
わたし
)
は、
144
お
前
(
まへ
)
さまのお
気
(
き
)
にいらぬに
違
(
ちが
)
ひないから、
145
別
(
わか
)
れませうよ』
146
高姫
(
たかひめ
)
『さう
怒
(
おこ
)
つて
貰
(
もら
)
つちや
困
(
こま
)
るぢやありませぬか。
147
互
(
たがひ
)
に
打解
(
うちと
)
けた
夫婦
(
ふうふ
)
の
仲
(
なか
)
、
148
耳
(
みみ
)
が
動
(
うご
)
くと
云
(
い
)
つて
褒
(
ほ
)
めた
位
(
くらゐ
)
に、
149
さう
怒
(
おこ
)
るといふ
事
(
こと
)
がありますか』
150
時置
(
ときおか
)
『アハヽヽヽ、
151
お
前
(
まへ
)
が
余
(
あま
)
りプリンプリンするので、
152
何
(
なに
)
か
一
(
ひと
)
つ
返報
(
へんぱう
)
がへしをせうと
思
(
おも
)
つてた
所
(
ところ
)
だ。
153
それで
一寸
(
ちよつと
)
すねて
見
(
み
)
たのだよ。
154
アハヽヽヽ』
155
高姫
(
たかひめ
)
『おきやんせいなア
[
※
「おきやん」は「おきゃん(御侠)」か?「おてんば、軽はずみ」の意。
]
、
156
よい
年
(
とし
)
をしてゐて、
157
みつともない』
158
時置
(
ときおか
)
『エツヘツヘツヘ』
159
かかる
所
(
ところ
)
へ
楓
(
かへで
)
は
襖
(
ふすま
)
をソツとあけ、
160
楓
(
かへで
)
『もし
日出
(
ひのでの
)
神
(
かみ
)
の
小母
(
をば
)
様
(
さま
)
、
161
御
(
お
)
膳
(
ぜん
)
が
出来
(
でき
)
ました』
162
と
膳部
(
ぜんぶ
)
を
持
(
も
)
ち
運
(
はこ
)
んで
来
(
き
)
た。
163
高姫
(
たかひめ
)
『あゝ
御
(
ご
)
苦労
(
くらう
)
さま、
164
どうぞ
其処
(
そこ
)
においといておくれ、
165
そして
御
(
お
)
膳
(
ぜん
)
はたつた
一
(
ひと
)
つだなア、
166
早
(
はや
)
くもう
一膳
(
いちぜん
)
持
(
も
)
つて
来
(
き
)
て
下
(
くだ
)
さい』
167
楓
(
かへで
)
『あの、
168
小母
(
をば
)
さま、
169
御
(
お
)
膳
(
ぜん
)
はこれきりのよ、
170
ヨルさまが
一膳
(
いちぜん
)
持
(
も
)
つて
行
(
ゆ
)
けばよいと
云
(
い
)
ひましたの』
171
高姫
(
たかひめ
)
『エヽ、
172
気
(
き
)
の
利
(
き
)
かぬ
男
(
をとこ
)
だなア。
173
コレ
楓
(
かへで
)
さま、
174
ヨルを
一寸
(
ちよつと
)
此処
(
ここ
)
へお
出
(
い
)
でといつて
下
(
くだ
)
さい』
175
楓
(
かへで
)
『ハイ』
176
と
云
(
い
)
ひ
乍
(
なが
)
ら
此
(
この
)
場
(
ば
)
を
立
(
た
)
つて
行
(
ゆ
)
く。
177
時置
(
ときおか
)
『オイ
日出
(
ひのでの
)
神
(
かみ
)
さま、
178
僕
(
ぼく
)
はモウお
暇
(
いとま
)
する。
179
これ
丈
(
だけ
)
虐待
(
ぎやくたい
)
されちや、
180
居
(
を
)
りたくても
居
(
を
)
られないからな。
181
俺
(
おれ
)
だつて
木像
(
もくざう
)
ではなし、
182
なんぼ
杢助
(
もくすけ
)
だと
云
(
い
)
つてもヤツパリ
食物
(
しよくもつ
)
は
必要
(
ひつえう
)
だ。
183
朝飯
(
あさめし
)
もよんで
貰
(
もら
)
へぬやうな
所
(
ところ
)
に
居
(
を
)
つても
約
(
つ
)
まらないから……』
184
と
憤然
(
ふんぜん
)
として
立上
(
たちあが
)
るを、
185
高姫
(
たかひめ
)
は
慌
(
あわ
)
てて
取
(
とり
)
すがり、
186
金切声
(
かなきりごゑ
)
を
出
(
だ
)
して、
187
高姫
(
たかひめ
)
『コレ、
188
時
(
とき
)
さま、
189
さう
短気
(
たんき
)
を
出
(
だ
)
すものぢや
厶
(
ござ
)
んせぬわいな、
190
昨夕
(
ゆうべ
)
のことを
覚
(
おぼ
)
えてますか、
191
気
(
き
)
の
利
(
き
)
かない
奴
(
やつ
)
許
(
ばか
)
りだからこんな
不都合
(
ふつがふ
)
致
(
いた
)
しましたのですよ。
192
私
(
わたし
)
がトツクリと
言
(
い
)
ひ
聞
(
き
)
かせますから、
193
御
(
ご
)
機嫌
(
きげん
)
を
直
(
なほ
)
して、
194
此
(
この
)
お
膳
(
ぜん
)
を
召上
(
めしあが
)
つて
下
(
くだ
)
さいな』
195
時置
(
ときおか
)
『
一人前
(
いちにんまへ
)
の
男
(
をとこ
)
を
化物扱
(
ばけものあつか
)
ひ
致
(
いた
)
して、
196
耳
(
みみ
)
が
動
(
うご
)
くの
何
(
なん
)
のと
侮辱
(
ぶじよく
)
を
加
(
くは
)
へた
上
(
うへ
)
、
197
何
(
なん
)
だ。
198
貴様
(
きさま
)
の
膳部
(
ぜんぶ
)
許
(
ばか
)
り
持
(
も
)
て
来
(
き
)
て、
199
俺
(
おれ
)
をてらしよつた。
200
馬鹿
(
ばか
)
らしい、
201
そんな
所
(
ところ
)
にのめのめと
居
(
ゐ
)
る
時
(
とき
)
さまぢやないぞ』
202
高姫
(
たかひめ
)
『お
前
(
まへ
)
さまは
此
(
この
)
高姫
(
たかひめ
)
の
心
(
こころ
)
が
分
(
わか
)
りませぬのかい、
203
……コレコレ、
204
ヨル、
205
一寸
(
ちよつと
)
お
出
(
い
)
で』
206
此
(
この
)
声
(
こゑ
)
にヨルは、
207
ソツと
襖
(
ふすま
)
をあけ、
208
ヨル『ハイ、
209
何
(
なん
)
ぞ
御用
(
ごよう
)
で
厶
(
ござ
)
いますか』
210
高姫
(
たかひめ
)
『お
前
(
まへ
)
なぜ、
211
お
膳
(
ぜん
)
を
二
(
ふた
)
つして
来
(
こ
)
ないのだい』
212
ヨル『ハイ、
213
夜前
(
やぜん
)
ソツと
聞
(
き
)
いて
居
(
を
)
りましたら、
214
二
(
ふた
)
つにせうか、
215
イヤイヤ
今度
(
こんど
)
は
始
(
はじ
)
めてだから、
216
一
(
ひと
)
つにしておかうと
仰有
(
おつしや
)
つたぢや
厶
(
ござ
)
いませぬか、
217
それ
故
(
ゆゑ
)
仰有
(
おつしや
)
つた
通
(
とほ
)
り
致
(
いた
)
しました』
218
高姫
(
たかひめ
)
『
何
(
なん
)
と、
219
気
(
き
)
の
利
(
き
)
かぬ
男
(
をとこ
)
だなア。
220
コレからキツと
二人
(
ふたり
)
居
(
を
)
つたら、
221
二人前
(
ににんまへ
)
持
(
も
)
つて
来
(
く
)
るのだよ』
222
ヨル『ハイ、
223
今後
(
こんご
)
は
心得
(
こころえ
)
ます。
224
実
(
じつ
)
の
所
(
ところ
)
は
貴女
(
あなた
)
は
何時
(
いつ
)
も
断食
(
だんじき
)
断食
(
だんじき
)
と
仰有
(
おつしや
)
るものですから、
225
今朝
(
けさ
)
から
断食
(
だんじき
)
をお
始
(
はじ
)
めなさつたかと
思
(
おも
)
ひ、
226
お
客様
(
きやくさま
)
の
丈
(
だけ
)
持
(
も
)
つて
来
(
き
)
たので
厶
(
ござ
)
います。
227
楓
(
かへで
)
さまが
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
つたか
知
(
し
)
りませぬが、
228
此
(
この
)
お
膳
(
ぜん
)
は
貴女
(
あなた
)
のぢや
厶
(
ござ
)
いませぬ。
229
トさまので
厶
(
ござ
)
います』
230
高姫
(
たかひめ
)
は
機嫌
(
きげん
)
を
直
(
なほ
)
し、
231
高姫
『あゝさうかな、
232
さうだらう さうだらう、
233
そんな
気
(
き
)
の
利
(
き
)
かぬ
男
(
をとこ
)
は
此処
(
ここ
)
には
居
(
を
)
らない
筈
(
はず
)
だ。
234
併
(
しか
)
し
今朝
(
けさ
)
は
私
(
わし
)
も
頂
(
いただ
)
くのだから、
235
どうぞモウ
一膳
(
いちぜん
)
拵
(
こしら
)
へして
来
(
き
)
て
下
(
くだ
)
さい……コレ
時置師
(
ときおかし
)
様
(
さま
)
、
236
今
(
いま
)
お
聞
(
きき
)
の
通
(
とほ
)
りで
厶
(
ござ
)
います、
237
これで
御
(
ご
)
合点
(
がつてん
)
が
参
(
まゐ
)
りましただらう』
238
時置
(
ときおか
)
『ヤア、
239
済
(
す
)
まなかつた。
240
あ、
241
それを
聞
(
き
)
いて、
242
私
(
わし
)
も
満足
(
まんぞく
)
した。
243
高姫
(
たかひめ
)
、
244
エライ
心配
(
しんぱい
)
をかけてすまなかつた。
245
コレ
此
(
この
)
通
(
とほ
)
り
杢助
(
もくすけ
)
が
両手
(
りやうて
)
を
合
(
あは
)
せて、
246
お
詫
(
わび
)
を
致
(
いた
)
します。
247
惟神
(
かむながら
)
霊
(
たま
)
幸倍
(
ちはへ
)
坐世
(
ませ
)
』
248
高姫
(
たかひめ
)
『オツホヽヽヽ、
249
おきやんせいなア、
250
人
(
ひと
)
を
困
(
こま
)
らせようと
思
(
おも
)
ふて、
251
本当
(
ほんたう
)
に
仕方
(
しかた
)
のない
人
(
ひと
)
だ。
252
私
(
わたし
)
に
気
(
き
)
許
(
ばか
)
り
揉
(
も
)
まして、
253
憎
(
にく
)
らしいワ』
254
時置
(
ときおか
)
『ワハツハヽヽ、
255
マア
能
(
よ
)
いワイ。
256
犬
(
いぬ
)
も
食
(
く
)
はぬ
喧嘩
(
けんくわ
)
をして
居
(
を
)
つても、
257
はづまぬからなア』
258
ヨルは
膳部
(
ぜんぶ
)
の
用意
(
ようい
)
をなすべく、
259
急
(
いそ
)
いで
此
(
この
)
場
(
ば
)
を
立去
(
たちさ
)
つた。
260
漸
(
やうや
)
くにして
二人
(
ふたり
)
は
機嫌
(
きげん
)
よく
朝餉
(
あさげ
)
をすまし、
261
時置師
(
ときおかし
)
は
祠
(
ほこら
)
の
森
(
もり
)
の
境内
(
けいだい
)
を
一々
(
いちいち
)
巡視
(
じゆんし
)
すると
云
(
い
)
つて、
262
只
(
ただ
)
一人
(
ひとり
)
瓢然
(
へうぜん
)
と
出
(
で
)
て
行
(
い
)
つた。
263
高姫
(
たかひめ
)
はソロソロ
寄
(
よ
)
つて
来
(
く
)
る
参詣者
(
さんけいしや
)
に
対
(
たい
)
し、
264
教
(
をしへ
)
を
伝
(
つた
)
ふべく
装束
(
しやうぞく
)
をキチンと
着替
(
きか
)
へて、
265
日出
(
ひのでの
)
神
(
かみ
)
と
成
(
な
)
りすまし、
266
簾
(
みす
)
を
吊
(
つ
)
つて、
267
鉛
(
なまり
)
の
天神
(
てんじん
)
さま
然
(
ぜん
)
と
脇息
(
けふそく
)
に
凭
(
もた
)
れ
乍
(
なが
)
ら、
268
客
(
きやく
)
待
(
ま
)
ち
顔
(
がほ
)
である。
269
ヨルは
例
(
れい
)
の
如
(
ごと
)
く
朝餉
(
あさげ
)
をすまし、
270
受付
(
うけつけ
)
にすました
顔
(
かほ
)
で、
271
賓頭盧
(
びんづる
)
尊者
(
そんじや
)
宜
(
よろ
)
しくといふ
態
(
てい
)
で
控
(
ひか
)
えてゐる。
272
そこへスタスタやつて
来
(
き
)
たのはお
寅
(
とら
)
、
273
魔我彦
(
まがひこ
)
の
両人
(
りやうにん
)
であつた。
274
お
寅
(
とら
)
『
何
(
なん
)
でも
此処
(
ここ
)
に
御
(
ご
)
普請
(
ふしん
)
が
出来
(
でき
)
てると
聞
(
き
)
いて
居
(
を
)
りましたが、
275
立派
(
りつぱ
)
な
御
(
ご
)
普請
(
ふしん
)
だなア、
276
十曜
(
とえう
)
の
紋
(
もん
)
の
旗
(
はた
)
が
閃
(
ひらめ
)
いてゐる。
277
イソの
館
(
やかた
)
へ
参
(
まゐ
)
るには
此処
(
ここ
)
を
通
(
とほ
)
りぬけにする
訳
(
わけ
)
にも
行
(
ゆ
)
くまい。
278
心
(
こころ
)
が
急
(
せ
)
くけれど、
279
一
(
ひと
)
つ
参拝
(
さんぱい
)
して
参
(
まゐ
)
りませうか』
280
魔我
(
まが
)
『
同
(
おな
)
じ
三五教
(
あななひけう
)
の
神
(
かみ
)
さまぢやありませぬか、
281
是非
(
ぜひ
)
共
(
とも
)
参拝
(
さんぱい
)
致
(
いた
)
しませう』
282
と
受付
(
うけつけ
)
にツカツカと
進
(
すす
)
みより、
283
魔我
(
まが
)
『モシ、
284
私
(
わたくし
)
は
元
(
もと
)
は
小北山
(
こぎたやま
)
のウラナイ
教
(
けう
)
の
副教主
(
ふくけうしゆ
)
で
厶
(
ござ
)
いましたが、
285
三五教
(
あななひけう
)
の
松彦
(
まつひこ
)
様
(
さま
)
に
教
(
をしへ
)
を
承
(
うけたま
)
はり、
286
両人
(
ふたり
)
連
(
づ
)
れでイソの
館
(
やかた
)
へ
参
(
まゐ
)
る
途中
(
とちう
)
、
287
一寸
(
ちよつと
)
お
邪魔
(
じやま
)
を
致
(
いた
)
しました。
288
どうぞ
参拝
(
さんぱい
)
をさして
頂
(
いただ
)
きたいもので
厶
(
ござ
)
います』
289
ヨル『それは
能
(
よ
)
う
御
(
お
)
参
(
まゐ
)
りで
厶
(
ござ
)
います。
290
私
(
わたくし
)
も
斯
(
か
)
うして
受付
(
うけつけ
)
を
致
(
いた
)
して
居
(
を
)
りますが、
291
元
(
もと
)
はバラモン
教
(
けう
)
の
信者
(
しんじや
)
で
厶
(
ござ
)
いました。
292
そしてイソの
館
(
やかた
)
へ
宮潰
(
みやつぶ
)
しにゆく
軍
(
いくさ
)
の
中
(
うち
)
に
加
(
くは
)
はり
乍
(
なが
)
ら
其
(
その
)
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
御
(
ご
)
家来
(
けらい
)
となつて、
293
御用
(
ごよう
)
をするとは、
294
本当
(
ほんたう
)
に
人間
(
にんげん
)
の
運命
(
うんめい
)
といふものは
不思議
(
ふしぎ
)
なものですよ。
295
お
前
(
まへ
)
さまもウラナイ
教
(
けう
)
では
立派
(
りつぱ
)
なお
方
(
かた
)
だと
承
(
うけたま
)
はりますが、
296
さぞ
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
はお
喜
(
よろこ
)
びでせう。
297
ここには
義理
(
ぎり
)
天上
(
てんじやう
)
日出
(
ひのでの
)
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
生宮
(
いきみや
)
様
(
さま
)
が
御
(
ご
)
降臨
(
かうりん
)
遊
(
あそ
)
ばし それはそれは エライ
御
(
ご
)
威勢
(
ゐせい
)
で
厶
(
ござ
)
いますよ』
298
魔我
(
まが
)
『エ、
299
何
(
なん
)
と
仰
(
おほ
)
せられます、
300
日出
(
ひのでの
)
神
(
かみ
)
の
生宮
(
いきみや
)
様
(
さま
)
とは……それは
何方
(
どなた
)
で
厶
(
ござ
)
いますか』
301
ヨル『ハイ、
302
楓姫
(
かへでひめ
)
といふ
若
(
わか
)
い
娘
(
むすめ
)
に
御
(
お
)
神懸
(
かむがか
)
り
遊
(
あそ
)
ばしてゐられましたが、
303
それはホンの
四五
(
しご
)
日
(
にち
)
の
間
(
あひだ
)
で、
304
本当
(
ほんたう
)
の
日出
(
ひのでの
)
神
(
かみ
)
の
生宮
(
いきみや
)
、
305
三五教
(
あななひけう
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
高姫
(
たかひめ
)
様
(
さま
)
がお
出
(
い
)
でになつて
居
(
を
)
られます、
306
それはそれはエライ
御
(
ご
)
神力
(
しんりき
)
で
厶
(
ござ
)
りますわ』
307
魔我
(
まが
)
『ヤア、
308
其奴
(
そいつ
)
ア
不思議
(
ふしぎ
)
だ。
309
こんな
所
(
ところ
)
で
高姫
(
たかひめ
)
様
(
さま
)
にお
目
(
め
)
にかかるとは
夢
(
ゆめ
)
にも
知
(
し
)
らなかつた。
310
あゝあ
蠑螈別
(
いもりわけ
)
さまが
居
(
を
)
つたら、
311
さぞ
喜
(
よろこ
)
ぶことだらうに……コレお
寅
(
とら
)
さま、
312
蠑螈別
(
いもりわけ
)
さまのレコですよ。
313
腹
(
はら
)
を
立
(
た
)
てちや
可
(
い
)
けませぬよ』
314
お
寅
(
とら
)
『オツホヽヽヽ、
315
コレ
魔我
(
まが
)
ヤン、
316
いつ
迄
(
まで
)
も
何
(
なに
)
を
言
(
い
)
ふのだい。
317
此
(
この
)
お
寅
(
とら
)
は
最早
(
もはや
)
そんな
恋着心
(
れんちやくしん
)
は
露
(
つゆ
)
程
(
ほど
)
も
有
(
あ
)
りませぬぞや。
318
それより
早
(
はや
)
く、
319
高姫
(
たかひめ
)
様
(
さま
)
とやらに
会
(
あ
)
はして
頂
(
いただ
)
きたいものだ』
320
魔我
(
まが
)
『
早
(
はや
)
く
高姫
(
たかひめ
)
様
(
さま
)
に
魔我彦
(
まがひこ
)
が
来
(
き
)
たと
伝
(
つた
)
へて
下
(
くだ
)
さい。
321
さういへば
高姫
(
たかひめ
)
様
(
さま
)
は
御存
(
ごぞん
)
じですから』
322
ヨル『ハイハイ、
323
承知
(
しようち
)
致
(
いた
)
しました。
324
何
(
なん
)
と
高姫
(
たかひめ
)
さまはお
顔
(
かほ
)
の
広
(
ひろ
)
い
人
(
ひと
)
だなア。
325
昨日
(
きのふ
)
も
高姫
(
たかひめ
)
さまを
尋
(
たづ
)
ねてトさまとやらがお
出
(
い
)
でになるなり、
326
今日
(
けふ
)
も
亦
(
また
)
マさまとやらがお
越
(
こ
)
し
遊
(
あそ
)
ばす、
327
此奴
(
こいつ
)
もヤツパリ、
328
レコだなア』
329
と
呟
(
つぶや
)
きつつ、
330
二人
(
ふたり
)
を
受付
(
うけつけ
)
に
待
(
ま
)
たせおき、
331
高姫
(
たかひめ
)
の
居間
(
ゐま
)
に
慌
(
あわ
)
ただしく
駆
(
か
)
け
込
(
こ
)
んだ。
332
ヨル『もしもし
高姫
(
たかひめ
)
さま、
333
マヽヽマヽヽガヽヽヒヽヽコとかいふお
方
(
かた
)
が
見
(
み
)
えました』
334
高姫
(
たかひめ
)
『ナニ、
335
魔我彦
(
まがひこ
)
が
来
(
き
)
たといふのかい』
336
ヨル『ハイ、
337
魔我彦
(
まがひこ
)
さまと、
338
そして
何
(
なん
)
でも
蠑螈別
(
いもりわけ
)
とか……
云
(
い
)
つてゐらつしやいました、
339
訪問者
(
はうもんしや
)
はお
二人
(
ふたり
)
で
厶
(
ござ
)
います』
340
高姫
(
たかひめ
)
『コレ、
341
ヨルや、
342
魔我彦
(
まがひこ
)
さま
丈
(
だけ
)
、
343
一寸
(
ちよつと
)
此方
(
こちら
)
へ
来
(
き
)
て
貰
(
もら
)
つておくれ、
344
そして
一人
(
ひとり
)
の
方
(
かた
)
は
私
(
わたし
)
が
会
(
あ
)
ひに
行
(
ゆ
)
く
迄
(
まで
)
、
345
都合
(
つがふ
)
があるから
待
(
ま
)
つて
下
(
くだ
)
さるやうにいつておくれ、
346
余
(
あま
)
り
急
(
いそ
)
いで
行
(
い
)
つちや
可
(
い
)
けないよ、
347
此
(
この
)
長廊下
(
ながらうか
)
の
椽板
(
えんいた
)
を
一
(
いち
)
枚
(
まい
)
一
(
いち
)
枚
(
まい
)
間違
(
まちが
)
はぬやうに、
348
読
(
よ
)
みもつて
行
(
ゆ
)
くのだよ』
349
ヨル『
椽板
(
えんいた
)
は
百八十
(
ひやくはちじふ
)
枚
(
まい
)
キチンと
有
(
あ
)
ります。
350
今更
(
いまさら
)
よまなくつても
分
(
わか
)
つて
居
(
を
)
りますがな』
351
高姫
(
たかひめ
)
『エーエ、
352
気
(
き
)
の
利
(
き
)
かぬ
男
(
をとこ
)
だな、
353
ボツボツ
行
(
ゆ
)
きなと
云
(
い
)
ふのだ』
354
ヨル『エヘヽヽヽヽ、
355
又
(
また
)
其
(
その
)
間
(
ま
)
におやつし
[
※
「おやつし」は「お+やつし」か?「やつす(俏す・窶す)」は「化粧する」の意。
]
の
時間
(
じかん
)
が
入
(
い
)
りますからな、
356
随分
(
ずいぶん
)
貴女
(
あなた
)
も
凄
(
すご
)
い
腕前
(
うでまへ
)
ですな、
357
イツヒヽヽヽ』
358
高姫
(
たかひめ
)
『エーツ、
359
此
(
この
)
心配
(
しんぱい
)
なのに、
360
そんな
気楽
(
きらく
)
な
事
(
こと
)
どこかいな。
361
サ、
362
彼方
(
あつち
)
へ
往
(
い
)
つて
下
(
くだ
)
さい』
363
ヨルは『ヘーエ』と
云
(
い
)
ひ
乍
(
なが
)
ら、
364
舌
(
した
)
をニユツと
出
(
だ
)
し、
365
頭
(
あたま
)
をかき、
366
腰
(
こし
)
を
蝦
(
えび
)
に
屈
(
かが
)
め、
367
スゴスゴと
出
(
で
)
て
行
(
ゆ
)
く。
368
高姫
(
たかひめ
)
は
窓
(
まど
)
の
外
(
そと
)
を
見
(
み
)
まはし、
369
時置師
(
ときおかしの
)
神
(
かみ
)
の
姿
(
すがた
)
の
見
(
み
)
えぬのにヤツと
胸
(
むね
)
撫
(
な
)
でおろし
独言
(
ひとりごと
)
、
370
高姫
(
たかひめ
)
『あゝあ、
371
蠑螈別
(
いもりわけ
)
さまも、
372
気
(
き
)
の
利
(
き
)
かぬ
方
(
かた
)
だなア。
373
モチツと
早
(
はや
)
く
来
(
き
)
て
下
(
くだ
)
されば
可
(
い
)
いのに、
374
折角
(
せつかく
)
こがれ
慕
(
した
)
ふて
来
(
き
)
て
下
(
くだ
)
さつても、
375
高姫
(
たかひめ
)
にはモウ
時
(
とき
)
さまと
云
(
い
)
ふ
夫
(
をつと
)
が
出来
(
でき
)
たのだから、
376
大
(
おほ
)
きな
顔
(
かほ
)
でお
目
(
め
)
にかかる
訳
(
わけ
)
にもゆかず、
377
あゝ
何
(
ど
)
うしたらよからうかな。
378
歯抜婆
(
はぬけばば
)
でも、
379
ヤツパリどこかによい
所
(
ところ
)
があるとみえる……とはいふものの
困
(
こま
)
つた
事
(
こと
)
だワイ』
380
かかる
所
(
ところ
)
へ、
381
ヨルは
魔我彦
(
まがひこ
)
の
手
(
て
)
をひいてやつて
来
(
き
)
た。
382
魔我
(
まが
)
『これはこれは
高姫
(
たかひめ
)
さま、
383
久
(
ひさ
)
し
振
(
ぶり
)
でお
目
(
め
)
にかかります。
384
私
(
わたし
)
もたうとう
三五教
(
あななひけう
)
になりました。
385
貴女
(
あなた
)
は
偉
(
えら
)
う
御
(
ご
)
出世
(
しゆつせ
)
をなさいましたなア。
386
イヤお
目出度
(
めでた
)
う
厶
(
ござ
)
います』
387
高姫
(
たかひめ
)
『ヤア
魔我彦
(
まがひこ
)
さま、
388
御
(
ご
)
機嫌
(
きげん
)
宜
(
よろ
)
しう、
389
久
(
ひさ
)
しくお
目
(
め
)
にかからなかつたが、
390
一体
(
いつたい
)
お
前
(
まへ
)
はどこに
居
(
を
)
つたのだえ、
391
どれ
丈
(
だけ
)
捜
(
さが
)
してゐたか
知
(
し
)
れやしないワ』
392
魔我
(
まが
)
『ハイ、
393
有難
(
ありがた
)
う
厶
(
ござ
)
います。
394
実
(
じつ
)
の
所
(
ところ
)
は
貴女
(
あなた
)
が
三五教
(
あななひけう
)
へお
入信
(
はい
)
りになつてから、
395
蠑螈別
(
いもりわけ
)
様
(
さま
)
が
北山村
(
きたやまむら
)
を
立退
(
たちの
)
き、
396
坂照山
(
さかてるやま
)
に
貴女
(
あなた
)
のお
筆先
(
ふでさき
)
を
元
(
もと
)
として、
397
ユラリ
彦様
(
ひこさま
)
や、
398
ヘグレ
神社
(
じんしや
)
様
(
さま
)
、
399
種物
(
たねもの
)
神社
(
じんしや
)
、
400
其
(
その
)
外
(
ほか
)
の
神々
(
かみがみ
)
を
祭
(
まつ
)
り、
401
小北山
(
こぎたやま
)
の
神殿
(
しんでん
)
と
称
(
しよう
)
して、
402
蠑螈別
(
いもりわけ
)
様
(
さま
)
が
教主
(
けうしゆ
)
となり、
403
私
(
わたし
)
が
副教主
(
ふくけうしゆ
)
として
活動
(
くわつどう
)
してゐました。
404
そこへ
三五教
(
あななひけう
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
がみえまして
結構
(
けつこう
)
な
教
(
をしへ
)
を
聞
(
き
)
かして
頂
(
いただ
)
きまして、
405
たうとう
帰順
(
きじゆん
)
致
(
いた
)
しました。
406
貴女
(
あなた
)
にここでお
目
(
め
)
にかからうとは
思
(
おも
)
ひませなんだ』
407
高姫
(
たかひめ
)
『さすが
蠑螈別
(
いもりわけ
)
さまだ。
408
エライものだ、
409
お
前
(
まへ
)
も
頑固
(
ぐわんこ
)
な
男
(
をとこ
)
だが、
410
高姫
(
たかひめ
)
の
教
(
をしへ
)
を
仮令
(
たとへ
)
ゆがみなりにせよ、
411
よう
立
(
た
)
てて
下
(
くだ
)
さつた、
412
マア
三五教
(
あななひけう
)
に
帰順
(
きじゆん
)
すれば
之
(
これ
)
に
越
(
こ
)
した
事
(
こと
)
はない。
413
そして
蠑螈別
(
いもりわけ
)
はヤハリ
三五教
(
あななひけう
)
に
帰順
(
きじゆん
)
されたのかな』
414
魔我
(
まが
)
『ハイ、
415
サツパリ、
416
心
(
こころ
)
の
底
(
そこ
)
から
改心
(
かいしん
)
されまして、
417
今
(
いま
)
では
治国別
(
はるくにわけ
)
さまに
従
(
したが
)
ひ、
418
宣伝
(
せんでん
)
に
歩
(
ある
)
いてゐられます』
419
高姫
(
たかひめ
)
『
今
(
いま
)
ここへお
前
(
まへ
)
さまのつらつて
来
(
き
)
た、
420
モ
一人
(
ひとり
)
の
方
(
かた
)
は
蠑螈別
(
いもりわけ
)
さまぢやありませぬか』
421
魔我
(
まが
)
『ハイ
違
(
ちが
)
ひます、
422
蠑螈別
(
いもりわけ
)
さまの……
実
(
じつ
)
は
御
(
お
)
敷蒲団
(
しきぶとん
)
で
厶
(
ござ
)
います。
423
今
(
いま
)
にお
目
(
め
)
にかけませう』
424
高姫
(
たかひめ
)
『
定
(
さだ
)
めて
若
(
わか
)
い
奇麗
(
きれい
)
な
御
(
お
)
方
(
かた
)
でせうなア、
425
本当
(
ほんたう
)
に
蠑螈別
(
いもりわけ
)
さまは、
426
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
つても
色男
(
いろをとこ
)
だ、
427
私
(
わたし
)
のやうな
者
(
もの
)
は
見限
(
みかぎ
)
り
遊
(
あそ
)
ばすのは
無理
(
むり
)
はない、
428
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
今
(
いま
)
となつては
却
(
かへつ
)
て
結構
(
けつこう
)
だ』
429
魔我
(
まが
)
『イエイエ
滅相
(
めつさう
)
もない、
430
六十
(
ろくじふ
)
許
(
ばか
)
りのお
寅
(
とら
)
といふお
婆
(
ば
)
アさまですよ、
431
元
(
もと
)
は
浮木
(
うきき
)
の
村
(
むら
)
の
女侠客
(
をんなけふかく
)
、
432
白波
(
しらなみ
)
の
艮
(
うしとら
)
婆
(
ばあ
)
さまといふ
剛
(
がう
)
の
者
(
もの
)
ですよ。
433
それがスツカリ
改心
(
かいしん
)
して、
434
治国別
(
はるくにわけ
)
様
(
さま
)
の
添書
(
てんしよ
)
を
戴
(
いただ
)
き、
435
これからイソの
館
(
やかた
)
へ
参拝
(
さんぱい
)
して、
436
宣伝使
(
せんでんし
)
にならうといふとこです。
437
此
(
この
)
魔我彦
(
まがひこ
)
もお
寅
(
とら
)
さまのお
伴
(
とも
)
してウブスナ
山
(
やま
)
の
聖場
(
せいぢやう
)
へ
修行
(
しうぎやう
)
に
参
(
まゐ
)
る
積
(
つも
)
りです』
438
高姫
(
たかひめ
)
『それは
誠
(
まこと
)
に
結構
(
けつこう
)
だ。
439
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
らお
寅
(
とら
)
さまとやらにも、
440
お
前
(
まへ
)
にも、
441
トツクリと
義理
(
ぎり
)
天上
(
てんじやう
)
日出
(
ひのでの
)
神
(
かみ
)
から
云
(
い
)
つておかねばならぬ
事
(
こと
)
があるから、
442
其
(
その
)
お
寅
(
とら
)
さまを
此処
(
ここ
)
へよんで
来
(
き
)
て
下
(
くだ
)
さい……コレコレ ヨルや、
443
お
前
(
まへ
)
其
(
その
)
お
寅
(
とら
)
さまとやらを、
444
ここ
迄
(
まで
)
御
(
ご
)
案内
(
あんない
)
申
(
まを
)
しや』
445
『ハイ』と
答
(
こた
)
へてヨルは
受付
(
うけつけ
)
を
指
(
さ
)
して、
446
長廊下
(
ながらうか
)
をドシドシ
威喝
(
ゐかつ
)
させ
乍
(
なが
)
ら
走
(
はし
)
り
行
(
ゆ
)
く。
447
(
大正一二・一・一八
旧一一・一二・二
松村真澄
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