霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第一〇章 添書(てんしよ)〔一二八四〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第49巻 真善美愛 子の巻 篇:第3篇 暁山の妖雲 よみ(新仮名遣い):ぎょうざんのよううん
章:第10章 添書 よみ(新仮名遣い):てんしょ 通し章番号:1284
口述日:1923(大正12)年01月18日(旧12月2日) 口述場所: 筆録者:北村隆光 校正日: 校正場所: 初版発行日:1924(大正13)年11月5日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]
治国別は道々、新参のランチ、片彦、ガリヤ、ケース、お寅、お民たちに三五教の教理を説き諭しながら進んで行った。そしてお寅に向かい、一度斎苑館に参拝し、正式な宣伝使となるよう修業をしてはどうかと勧めた。お寅も同意し、治国別は紹介状を書いて持たせた。
お寅は得意の色を満面にうかべ、治国別一行に別れを告げて斎苑館をさして一人進んで行った。途中、小北山に立ち寄った。
お寅は受付の文助に挨拶し、奥へ進んでお菊や魔我彦と面会した。お寅は、斎苑館への修業の旅について話し、魔我彦にも参拝を勧めた。松姫もやってきて、魔我彦がお寅に同道して参拝することに賛成した。
お寅はしばし休息の上、魔我彦を伴って各神社を遙拝し、信者たちに挨拶を終えたのち、河鹿峠の山口さして神文を唱えながら進んで行った。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる] 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2023-06-19 16:08:01 OBC :rm4910
愛善世界社版:136頁 八幡書店版:第9輯 82頁 修補版: 校定版:141頁 普及版:63頁 初版: ページ備考:
001 治国別(はるくにわけ)浮木(うきき)(もり)のランチ将軍(しやうぐん)002片彦(かたひこ)将軍(しやうぐん)(その)()帰順(きじゆん)せしめ道々(みちみち)三五(あななひ)教理(けうり)()(さと)(なが)らクルスの(もり)(まで)(すす)んで()つた。003さうしてお(とら)(むか)ひ、
004治国(はるくに)『お(とら)さま、005(まへ)さまはウラナイ(けう)熱心(ねつしん)肝煎(きもいり)であつたが、006かうして三五教(あななひけう)帰順(きじゆん)立派(りつぱ)信者(しんじや)となられたのは(じつ)吾々(われわれ)大慶(たいけい)です。007(しか)(なが)ら、008(これ)から一度(いちど)イソの(やかた)()参拝(さんぱい)になり、009大神(おほかみ)(さま)()(ゆる)しを()けて立派(りつぱ)宣伝使(せんでんし)となつてお(つく)しになつては如何(いかが)です。010(ひら)信者(しんじや)となつて()くよりも余程(よほど)便宜(べんぎ)かも()れませぬよ』
011(とら)『はい、012有難(ありがた)(ござ)ります。013(わたし)(やう)(ばば)でも宣伝使(せんでんし)にして(いただ)けませうかな』
014治国(はるくに)(ばば)だつて、015(なん)だつて貴方(あなた)身魂(みたま)(その)(もの)(けつ)して老若(らうにやく)区別(くべつ)はありませぬ。016老人(らうじん)如何(どう)しても無垢(むく)(もの)ですから(かへつ)吾々(われわれ)よりも立派(りつぱ)宣伝使(せんでんし)になれませう。017(わたし)手紙(てがみ)()きますから(これ)(もつ)河鹿(かじか)(たうげ)(わた)りイソの(やかた)参拝(さんぱい)八島主(やしまぬし)さまに()面会(めんくわい)(うへ)018(ひやく)(にち)ばかりも修行(しうぎやう)して(その)(うへ)立派(りつぱ)なる宣伝使(せんでんし)となり神界(しんかい)のためにお(つく)しなされ。019それが(なに)よりの後生(ごしやう)()めですよ』
020(とら)(わたくし)(やう)(あく)たれ(ばば)でも改心(かいしん)さへすれば貴方(あなた)(つめ)(あか)(ぐらゐ)(はたら)きが出来(でき)ませうかな。021それなら(これ)から(あふ)せに(したが)一度(いちど)参拝(さんぱい)をして(まゐ)りませう』
022治国(はるくに)『そんなら(いま)手紙(てがみ)()いてあげませう。023(これ)(もつ)ておいでなさいませ』
024()(なが)ら、025(こし)矢立(やたて)をとり(いだ)(いち)(まい)(かみ)にスラスラと何事(なにごと)()(しる)した。026(その)文面(ぶんめん)によると、
027(文面)治国別(はるくにわけ)より八島主(やしまぬしの)(みこと)(さま)()紹介(せうかい)申上(まをしあ)げます。028(わたし)(いま)途中(とちう)(おい)種々(しゆじゆ)雑多(ざつた)(かみ)(さま)のお(ため)しを(いただ)広大(くわうだい)無辺(むへん)()神徳(しんとく)(かうむ)り、029神恩(しんおん)(ふか)きを感謝(かんしや)(なが)(やうや)くクルスの(もり)(まで)安着(あんちやく)(いた)しました。030さうしてバラモン(ぐん)先鋒隊(せんぽうたい)031ランチ、032片彦(かたひこ)将軍(しやうぐん)(いま)(まつた)大神(おほかみ)(さま)()神徳(しんとく)によつて三五教(あななひけう)帰順(きじゆん)(いた)しました(ゆゑ)033何卒(どうぞ)大神(おほかみ)(さま)()奏上(そうじやう)(ほど)(ねがひ)()(たてまつ)ります。034(いづ)(これ)()人々(ひとびと)はも(すこ)予備(よび)教育(けういく)(ほどこ)した(うへ)035手紙(てがみ)(もつ)()(やかた)参籠(さんろう)(いた)させ修行(しうぎやう)結果(けつくわ)宣伝使(せんでんし)にお取立(とりた)(くだ)さる(やう)()(ねが)(いた)(かんが)へなれば万事(ばんじ)よろしく(ねが)ひます。036()(この)手紙(てがみ)持参者(ぢさんしや)小北山(こぎたやま)のウラナイ(けう)牛耳(ぎうじ)()つて()た、037もとは浮木(うきき)(むら)女侠客(をんなけふかく)(とら)()婦人(ふじん)(ござ)ります。038治国別(はるくにわけ)出征(しゆつせい)途中(とちう)(ほこら)(もり)(おい)片彦(かたひこ)将軍(しやうぐん)秘書役(ひしよやく)たりし愚弟(ぐてい)松彦(まつひこ)(めぐ)()ひ、039(かれ)松彦(まつひこ)(ただち)三五(あななひ)(みち)帰順(きじゆん)(いた)小北山(こぎたやま)のウラナイ(けう)本山(ほんざん)(まゐ)蠑螈別(いもりわけ)040魔我彦(まがひこ)(および)(とら)(やうや)くにして()神徳(しんとく)のもとに帰順(きじゆん)せしめたる(もの)(ござ)ります。041()いては(この)手紙(てがみ)持参人(ぢさんにん)(すなは)ちお(とら)さまを(よろ)しく(ねが)ひます。042(やや)迷信(めいしん)(ふか)脱線(だつせん)気味(きみ)(ござ)りますれど十分(じふぶん)()教育(けういく)(くだ)さるれば相当(さうたう)宣伝使(せんでんし)にならうかと(ぞん)じます。043左様(さやう)ならば』
044()(しる)しお(とら)(わた)した。045(とら)得意(とくい)(いろ)満面(まんめん)(うか)(かた)(いか)らし治国別(はるくにわけ)(およ)一行(いつかう)(わか)れを()げイソの(やかた)をさして(ただ)一人(ひとり)(すす)()く。
046 途中(とちう)小北山(こぎたやま)(かたはら)(とほ)()(かく)一度(いちど)立寄(たちよ)つて最愛(さいあい)のお(きく)(めぐ)()(かつ)松姫(まつひめ)047魔我彦(まがひこ)(その)()面会(めんくわい)自分(じぶん)(さと)()教義(けうぎ)()()かし、048小北山(こぎたやま)聖場(せいぢやう)をして益々(ますます)(さか)えしめむと、049参拝(さんぱい)途中(とちう)意気(いき)揚々(やうやう)として立帰(たちかへ)つた。050小北山(こぎたやま)聖場(せいぢやう)依然(いぜん)として信者(しんじや)相当(さうたう)(あつ)まつてゐる。051(しか)(なが)らお(とら)見覚(みおぼ)えのある(かほ)(あま)沢山(たくさん)見当(みあた)らなかつた。052何故(なぜ)ならば小北山(こぎたやま)のヘグレ神社(じんしや)053(その)()神々(かみがみ)(まこと)(かみ)(しん)じてゐたが、054サツパリ()もなき邪神(じやしん)たりし(こと)曝露(ばくろ)され、055親族(しんぞく)朋友(ほういう)知己(ちき)(など)より嘲笑(てうせう)さるるのが馬鹿(ばか)らしさに、056(まへ)信者(しんじや)はあまり()()かなかつたからである。057さうして改革(かいかく)以来(いらい)(なん)とはなしに(まへ)信者(しんじや)不平(ふへい)()たされたからである。058(いま)(まで)(たふと)(かみ)生宮(いきみや)(また)霊魂(みたま)因縁(いんねん)(しん)得意(とくい)になつて信仰(しんかう)してゐたのが、059(なん)でもない邪神(じやしん)であつた(こと)をスツパぬかれ大難(だいなん)小難(せうなん)(すく)はれ(なが)(なん)とはなしに(こころ)面白(おもしろ)くなくなつた(もの)もあるからである。
060 お(とら)はスツと受付(うけつけ)立寄(たちよ)()れば文助(ぶんすけ)依然(いぜん)として一生(いつしやう)懸命(けんめい)()()いてゐる。061よくよく()れば(かぶら)でもなく大根(だいこん)でもなく黒蛇(くろくちなは)でもない。062(そば)()()守護(しゆご)()(しる)老松(らうしよう)(みき)(べに)(やう)太陽(たいやう)(かがや)いてゐる。063かなり立派(りつぱ)()(ゑが)いて()た。064(とら)突然(とつぜん)(こゑ)をかけ、
065(とら)『これ文助(ぶんすけ)さま、066()機嫌(きげん)(よろ)しう。067相変(あひかは)らず立派(りつぱ)()掛軸(かけぢく)()けますな。068竜神(りうじん)(さま)はモウお()しなさつたのですか』
069 ()のうとい文助(ぶんすけ)はお(とら)とは(ゆめ)にも()らず、
070文助(ぶんすけ)『ようお(まゐ)りなさいませ。071誰方(どなた)()りませぬが(おく)()(とほ)(くだ)さいませ。072さうして(いま)(まで)(この)聖地(せいち)もヘグレ神社(じんしや)種物(たねもの)神社(じんしや)073(その)(ほか)いろいろの(かみ)(さま)(まつ)つて(ござ)りましたが、074教祖(けうそ)蠑螈別(いもりわけ)さまやお(とら)さまが逐電(ちくでん)されましてから、075三五教(あななひけう)大神(おほかみ)(さま)(まつ)()へました。076それで掛軸(かけぢく)(また)()()へねばなりませぬので、077大神(おほかみ)(さま)のお(ゆる)しを()(この)(とほ)り、078(まつ)()()()掛軸(かけぢく)(したた)めております。079貴方(あなた)()信仰(しんかう)(あそ)ばすなら()げますから表具(へうぐ)をしてお(まつ)りなさい。080()()()081(まつ)()といつて(これ)さへ(まつ)つて()れば家内(かない)安全(あんぜん)商売(しやうばい)繁昌(はんじやう)082(みたま)になつても天国(てんごく)()旅券(りよけん)になりますよ』
083(とら)『これ文助(ぶんすけ)さま、084シツカリしなさらぬか。085(まつ)()()(まこと)結構(けつこう)だが、086(わたし)はお(とら)ですよ』
087文助(ぶんすけ)(なん)だか()(おぼ)えのある(かた)だと(おも)つてゐました。088アヽお(とら)さまですか、089それはマア、090よう(かへ)つて(くだ)さいました、091(きく)さまは(まを)すに(およ)ばず(みな)さまお(よろこ)びでせう。092(わたし)(なん)だか()がいそいそして()ました。093それでは松姫(まつひめ)さまや魔我彦(まがひこ)さまに申上(まをしあ)げませう。094一寸(ちよつと)()つてゐて(くだ)さい』
095(とら)『いえいえお(まへ)はここに受付(うけつけ)をしてゐて(くだ)さい。096()(わる)(ひと)(うご)いて(もら)ふよりも(この)達者(たつしや)なお(とら)(わたし)居間(ゐま)(かへ)りますから……お(きく)もゐるでせう。097さうすればお(きく)(もつ)松姫(まつひめ)(さま)魔我彦(まがひこ)通知(つうち)をさせますから』
098()(なが)自分(じぶん)居間(ゐま)をさして(いそ)()く。099(あと)文助(ぶんすけ)(くび)(しき)りにかたげて独言(ひとりごと)
100文助(ぶんすけ)『あゝお(とら)さまも大変(たいへん)人格(じんかく)(あが)つたものだな。101(まる)別人(べつじん)(やう)だつた。102(もの)()(やう)()(なん)とはなしに身体(からだ)から(ひかり)()(やう)だつた。103(これ)(だけ)(なが)らくつき()ふて()つた(わし)でさへも見違(みちが)へる(くらゐ)だから、104神徳(しんとく)()ふものは(えら)いものだな。105どれどれお(とら)さまが(かへ)つて(くだ)さつた(この)(うれ)しさを(かみ)(さま)へお(れい)(まを)して()う』
106独語(ひとりごち)つつトボトボと神殿(しんでん)さして(すす)()く。107(とら)(わが)居間(ゐま)(かへ)るに先立(さきだ)小北山(こぎたやま)のお(みや)一々(いちいち)巡拝(じゆんぱい)し、108(わが)居間(ゐま)(かへ)つて休息(きうそく)せむとする(ところ)へ、109何時(いつ)のまにかお(とら)さまが(かへ)つたと()(うはさ)()つたので魔我彦(まがひこ)110(きく)(あわ)てて松姫館(まつひめやかた)から(はし)(きた)り、
111(きく)『お()アさま、112貴方(あなた)松彦(まつひこ)(さま)宣伝(せんでん)のためにおいでになつてから、113()幾何(いくら)()()たないのにお(かへ)りになつたのですか。114(また)()でも()して縮尻(しくじ)つたのではありませぬか』
115(とら)(なに)116縮尻(しくじ)(どころ)か、117結構(けつこう)なお神徳(かげ)(いただ)いて()たのだよ。118(きく)119(まへ)(その)()機嫌(きげん)よう御用(ごよう)をして()たのか』
120(きく)『はい、121機嫌(きげん)ようしてゐました。122何卒(どうぞ)(わたくし)(こと)(あん)じて(くだ)さいますな。123さうして万公(まんこう)さまは機嫌(きげん)ようしてゐましたかな』
124(とら)『ホヽヽヽヽ、125ヤツパリ万公(まんこう)のことが()にかかるかな。126いや(たの)もしいお(まへ)心掛(こころがけ)127(わたし)もそれ()いて安心(あんしん)(いた)したぞや』
128(きく)『お(かあ)さまの……マア(いや)(こと)129(ぢき)(めう)(ところ)()(まは)しなさるのだね』
130(とら)『それだつて、131五三公(いそこう)さまは如何(どう)だとも、132アクさまは如何(どう)だとも()はぬぢやないか』
133魔我(まが)『お(とら)さま、134よう(かへ)つて(くだ)さつた。135(その)()(この)聖地(せいち)(きは)めて円満(ゑんまん)()神業(しんげふ)発達(はつたつ)してゐますから、136安心(あんしん)して(くだ)さいませ』
137(とら)魔我彦(まがひこ)さま、138どうか脱線(だつせん)せぬ(やう)(この)聖場(せいぢやう)(まも)つて(くだ)さいや。139(わたし)は、140松彦(まつひこ)さまの先生(せんせい)治国別(はるくにわけ)()立派(りつぱ)なお(かた)から()手紙(てがみ)(いただ)いてイソの(やかた)(まゐ)り、141(ひやく)(にち)(ぎやう)をして立派(りつぱ)宣伝使(せんでんし)となつて()(つも)りだから(よろこ)んで(くだ)さい』
142魔我(まが)『それは至極(しごく)結構(けつこう)です。143何卒(どうぞ)144不調法(ぶてうはふ)のない(やう)修行(しうぎやう)して立派(りつぱ)宣伝使(せんでんし)となつて(かへ)つて(くだ)さい。145(わたし)もお(ゆる)しさへあれば一度(いちど)改心(かいしん)記念(きねん)参拝(さんぱい)したいものですがな』
146(とら)『お(まへ)松姫(まつひめ)(さま)()都合(つがふ)(うかが)つてお(ひま)(いただ)き、147(わたし)一所(いつしよ)参拝(さんぱい)したら如何(どう)だい。148百聞(ひやくぶん)一見(いつけん)()かずと()ふから、149ヤツパリ一度(いちど)ウブスナ(やま)聖地(せいち)(をが)んで()ねば、150満足(まんぞく)(をしへ)出来(でき)ず、151()神徳(しんとく)(もら)へませぬぞや』
152魔我(まが)『さう(ねが)へば結構(けつこう)ですがな……』
153(きく)『お(かあ)さま、154魔我彦(まがひこ)さま、155(これ)から(わたし)松姫(まつひめ)(さま)(うかが)つて()ませう。156まアゆつくりと魔我彦(まがひこ)さまとお(ちや)なと(あが)つて()つてゐて(くだ)さい』
157()()足早(あしばや)(ほそ)二百(にひやく)(いし)階段(かいだん)(のぼ)つて松姫(まつひめ)(やかた)(いそ)()く。158(あと)魔我彦(まがひこ)はお(とら)(むか)ひ、
159魔我(まが)『お(とら)さま、160貴方(あなた)はスツカリ()人格(じんかく)(かは)つた(やう)ですな。161(かほ)(つや)()(かみ)()(まで)(くろ)くなつたぢやありませぬか。162本当(ほんたう)(こゑ)(まで)(かは)つてゐるので別人(べつじん)(やう)ですわ』
163(とら)『お蔭様(かげさま)(かみ)(さま)(あい)(ねつ)(わか)やぎました。164さうして信仰(しんかう)(ひかり)()らされて何処(どこ)ともなしに身体(からだ)から(ひかり)()(やう)気分(きぶん)ですよ、165ホヽヽヽヽ、166(また)()められて慢心(まんしん)をすると谷底(たにそこ)()ちますから、167もう(これ)(くらゐ)でやめておきませう』
168魔我(まが)(とき)にお(とら)さま、169蠑螈別(いもりわけ)さまの()()げしたお(かね)()()りましたか』
170(とら)魔我彦(まがひこ)さま、171(かね)(こと)なんか、172まだ貴方(あなた)(おも)つてゐるのかい。173(この)(とら)(かね)なんかは(はなし)()いても気持(きもち)(わる)うなります。174蠑螈別(いもりわけ)さまも生来(しやうらい)淡白(たんぱく)(ひと)だから、175あの(かね)をスツカリ(ひと)にやつて(しま)ひ、176(いま)では無一物(むいちぶつ)ですよ。177そしてお(たみ)(なか)ようして()ります』
178魔我(まが)(なに)179(たみ)一所(いつしよ)()りますか。180エーエー』
181(とら)『これ、182魔我彦(まがひこ)さま、183エーとは(なん)だ。184(まへ)はヤツパリお(たみ)(たい)恋着心(れんちやくしん)(のこ)つてゐるのかな。185それでは改心(かいしん)出来(でき)ませぬぞや。186(なに)がエーだい』
187魔我(まが)『エー(こと)をなされましたな、188()ひかけたのですよ。189エー、190エーン((えん))と()ふものは不思議(ふしぎ)なものですな』
191(とら)『エー加減(かげん)(こと)()つて誤魔化(ごまくわ)さうと(おも)つても駄目(だめ)ですよ。192(たみ)如何(どう)やら()()めて蠑螈別(いもりわけ)さまと、193(いま)はホンの(をしへ)(とも)として、194つき()つてる()けのものですよ。195(たみ)随分(ずいぶん)改心(かいしん)出来(でき)ましたからな。196(いづ)れお(まへ)立派(りつぱ)神徳(しんとく)(いただ)いたら(わたし)媒介(なかうど)をしてお(まへ)夫婦(ふうふ)にして()げたいと(おも)ふて(かんが)へてゐるのよ』
197魔我(まが)本当(ほんたう)世話(せわ)をして(くだ)さいますか』
198(とら)(なに)199(うそ)()ふものか。200(わし)はお(たみ)蠑螈別(いもりわけ)さまの様子(やうす)()をつけて(かんが)へてゐたが、201どちらにも未練(みれん)がない(やう)だ。202(かへつ)魔我彦(まがひこ)さまの(はう)がお(たみ)()()つてる(やう)だから、203マア(よろこ)びなさい』
204魔我(まが)『エーヘツヘヽヽヽ、205(ちが)やしませぬかな』
206(とら)最前(さいぜん)のエーとは(おな)じエーでも大変(たいへん)調子(てうし)(ちがひ)ますな。207オホヽヽヽ、208(なん)現銀(げんぎん)(をとこ)(こと)
209魔我(まが)『お(とら)さま、210(まへ)さまは蠑螈別(いもりわけ)さまに(たい)する恋着(れんちやく)は、211最早(もはや)212とれたのですか。213()うも(あや)しいものですな。214貴女(あなた)()様子(やうす)()ひ、215(なん)だか(うれ)(さう)若々(わかわか)してゐられます。216(これ)には(なに)(うれ)しい(こと)がなくては(かな)はぬ(こと)だ』
217(とら)『これ魔我(まが)ヤン……』
218(かた)平手(ひらて)(ふた)()(たた)き、
219(とら)馬鹿(ばか)にしておくれな。220(この)(とら)はそんな(こと)(うれ)しいのではありませぬよ。221一旦(いつたん)(まこと)(みち)()()めた(うへ)は……阿呆(あほ)らしい……(こひ)の、222(かね)のと、223よい(とし)をして、224そんな馬鹿(ばか)げた(こと)(ゆめ)にも(おも)へますか。225あまり(ひと)見下(みさ)げて(くだ)さいますな。226(とら)はそんな柔弱(じうじやく)(をんな)とはチツと(ちが)ひますよ。227ヘン、228自分(じぶん)(こころ)()(くら)べて(わし)(こころ)忖度(そんたく)しようとは、229()しからぬ(をとこ)だな』
230魔我(まが)『こりや失礼(しつれい)(いた)しました。231(すずめ)(ひやく)(まで)雄鳥(をんどり)(わす)れぬと()(たとへ)もありますから……ツイお(たづ)ねしたのです。232()無礼(ぶれい)(だん)何卒(なにとぞ)233見直(みなほ)聞直(ききなほ)しを(ねが)ひます。234どうか()機嫌(きげん)(なほ)して松姫(まつひめ)さまの(ゆる)しがあれば(この)魔我彦(まがひこ)一度(いちど)ウブスナ(やま)聖場(せいぢやう)()れて()つて(くだ)さいませ』
235(とら)『あゝよしよし、236井戸(ゐど)(そこ)(かはづ)世間見(せけんみ)ずでは宣伝使(せんでんし)(など)出来(でき)ないから、237一度(いちど)見聞(けんぶん)(ひろ)くするために大神(おほかみ)()出現地(しゆつげんち)参拝(さんぱい)するのは結構(けつこう)だ』
238 かく(はな)(ところ)へお(きく)松姫(まつひめ)239千代(ちよ)(とも)(かへ)(きた)り、
240(きく)『お(かあ)さま、241松姫(まつひめ)(さま)がお()しで(ござ)りますよ。242さア()挨拶(あいさつ)なさいませ』
243 お(とら)(あと)ふり(かへ)松姫(まつひめ)姿(すがた)()て、244さも(うれ)しげに打笑(うちゑ)(なが)言葉(ことば)(おだや)かに両手(りやうて)をつき、
245(とら)『これはこれは松姫(まつひめ)(さま)246日々(にちにち)()神務(しんむ)()苦労(くらう)(さま)(ござ)ります。247(きく)のヤンチヤがお世話(せわ)(あづ)かりまして(さぞ)()迷惑(めいわく)(ござ)りませう。248(わたくし)治国別(はるくにわけ)宣伝使(せんでんし)から()手紙(てがみ)(いただ)いてイソの(やかた)修行(しうぎやう)(まゐ)途中(とちう)249一寸(ちよつと)()挨拶(あいさつ)(かたがた)(かみ)(さま)参拝(さんぱい)(いた)しました。250何卒(なにとぞ)(きく)()(うへ)251(よろ)しくお(ねが)(いた)します』
252松姫(まつひめ)『お(とら)(さま)(ござ)りますか、253よう()立寄(たちよ)(くだ)さいました。254(きく)さまの(こと)()心配(しんぱい)(くだ)さいますな。255貴女(あなた)()出立(しゆつたつ)(あと)はお(きく)さまも、256文助(ぶんすけ)さまも、257魔我彦(まがひこ)さまも、258大勉強(だいべんきやう)(ござ)ります。259(その)(かげ)信者(しんじや)日々(にちにち)()参拝(さんぱい)なされ()神徳(しんとく)()()(あが)りまして(まこと)()結構(けつこう)(ござ)ります。260そしてお(とら)さま、261貴女(あなた)大変(たいへん)にお(かほ)(つや)出来(でき)ましたな。262(つむ)(いろ)()一寸(ちよつと)()ても二十(にじふ)(ねん)ばかりお(わか)うお()りなさつた(やう)(ござ)りますわ。263本当(ほんたう)()神徳(しんとく)()ふものは有難(ありがた)いもので(ござ)りますな』
264(とら)『はい、265何分(なにぶん)雪隠(せつちん)(みづ)つきで(ござ)りますからな、266ホヽヽヽヽ』
267魔我(まが)『アハヽヽヽ、268さうするとお(とら)さまは、269浮木(うきき)(もり)余程(よほど)()いて()たと()えますな』
270(とら)『オホヽヽヽ、271(わたし)恋人(こひびと)出来(でき)ました。272それ(ゆゑ)(この)(とほ)(わか)くなつたのですよ』
273魔我(まが)『アハヽヽヽ、274(なん)だか可笑(をか)しいと(おも)つてゐたて、275到頭(たうとう)本音(ほんね)()きましたね』
276松姫(まつひめ)『お(とら)さまの恋人(こひびと)()ふのは(みづ)御霊(みたま)(かむ)素盞嗚(すさのをの)大神(おほかみ)(さま)でせう。277それは本当(ほんたう)によい恋人(こひびと)をお(さだ)(あそ)ばしましたね。278(わらは)矢張(やは)素盞嗚(すさのをの)(みこと)(さま)唯一(ゆゐいつ)恋人(こひびと)(いた)して()りますよ、279ホヽヽヽヽ』
280魔我(まが)『これは()しからぬ、281(とら)さまはそれで()いとして、282松姫(まつひめ)さまは立派(りつぱ)松彦(まつひこ)さまと()恋人(こひびと)(いな)二世(にせ)(ちぎ)つた(をつと)があるぢやありませぬか。283チと不貞腐(ふていくさ)れぢやありませぬか』
284松姫(まつひめ)第一(だいいち)大神(おほかみ)(さま)()(した)第二(だいに)(をつと)(した)つてゐます。285それで二世(にせ)(つま)()ふのですよ』
286魔我(まが)『ヤア、287自惚気(おのろけ)をタツプリと()かして(いただ)きました。288魔我彦(まがひこ)(これ)満足(まんぞく)(いた)します。289(しか)(ひと)つお(ねが)ひが(ござ)りますが、290(しばら)(わたし)はお(とら)さまのお(とも)してウブスナ(やま)聖場(せいぢやう)(まゐ)()いのですが(ゆる)して(いただ)けませぬか』
291松姫(まつひめ)『それは(ねが)うてもなき(こと)292(じつ)(わらは)より一度(いちど)魔我彦(まがひこ)さまに()修行(しうぎやう)()つて(もら)ひたいと(おも)つて()たのです。293(しか)(なが)(をんな)差出口(さしでぐち)(おも)はれちやならないと差控(さしひか)へて()りました。294それは結構(けつこう)(ござ)りますが、295(とら)さま、296何卒(どうぞ)魔我彦(まがひこ)さまをお(あづ)けしますから(よろ)しくお(ねが)(まを)します』
297(とら)『はいはい(わたし)(あづ)かりました以上(いじやう)はメツタの(こと)はさせませぬ。298()安心(あんしん)(くだ)さいませ』
299魔我(まが)(しか)らば松姫(まつひめ)(さま)300(しばら)()(いとま)頂戴(ちやうだい)(いた)します』
301松姫(まつひめ)何卒(なにとぞ)聖地(せいち)へお(まゐ)りになりましたら、302松姫(まつひめ)(よろ)しう申上(まをしあ)げたと()つて(くだ)さいませ』
303(とら)『はい、304承知(しようち)(いた)しました』
305とお(とら)(しば)休息(きうそく)(うへ)306魔我彦(まがひこ)(ともな)(かく)神社(じんじや)遥拝(えうはい)し、307受付(うけつけ)文助(ぶんすけ)数多(あまた)信者(しんじや)挨拶(あいさつ)(をは)一本橋(いつぽんばし)打渡(うちわた)河鹿(かじか)(たうげ)山口(やまぐち)さして(おい)(あし)もともいと(すこや)かに、308神文(しんもん)(とな)(なが)ら、309(いきほ)()んで(すす)()く。
310大正一二・一・一八 旧一一・一二・二 北村隆光録)
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