高姫は、お寅、魔我彦、ヨルがイソ館に向かって出立してしまったので、これはたいへんだと心も心ならず、守護神のふがいなさを嘆き、イル、イク、サール、ハル、テルらに悪態をついている。
イル、イク、サールは高姫の暴言に反抗して、世界を自在にする義理天上日の出神がなんとかすればいいではないかと揶揄した。高姫は怒ってイクを締め上げる。サールはみかねて高姫の足をさらえて転ばせた。
高姫は怒って金切り声を出してわめきたてる。そこへ杢助がやってきて高姫をなだめた。高姫はイク、イル、サールを放逐すると宣言し、ハルとテルを代わりに取り立てた。
高姫はハルとテルに、早速お寅、魔我彦、ヨルの三人を引き戻してくるようにと命じた。ハルは、自分にはバラモン教で習い覚えた引っ掛け戻しの魔法があると言って高姫を煙にまいてしまった。
ハルは、放逐されたイク、イル、サールに蓑笠をつけさせて旅の装いをさせ、酒を飲ませて道に待機させた。そして太鼓の合図がなったら、お寅・魔我彦・ヨルのふりをして坂を下って戻ってくるようにと言い含めた。
ハルとテルは魔法の準備ができたと高姫を呼んできた。そして、魔法を使うためには沢山の魔神の眷属に酒を飲ませる必要があるといってグイグイ飲み始めた。
ハルとテルは眷属の声色を使って高姫をしばらくからかった後、文言を唱えて太鼓をたたいた。するとお寅に扮したイルが、受付の前を取って坂の下に戻って行ってしまった。そして順番に魔我彦とヨルに扮したイルとサールを合図で呼び戻した。
ハルは魔法の術式だと言って、自分の股ぐらへ突っ込んだ鞭を高姫の鼻に当ててにおいをかがせた。そして鞭で鼻をついたため、高姫は倒れて目まいを起こしてしまった。
ハルとテルはまんまと魔法で三人を引き戻したと高姫に思い込ませた。高姫は二人の魔法に感心し、酒と御馳走をふるまうと、安心して杢助との居間に戻って行った。
杢助は高姫からハルとテルが魔法で三人を引き戻したと聞くと、感心しながらも、ただ引き戻しただけでは、遠回りをして結局イソ館に行ってしまうと指摘した。それを聞いて不安になった高姫に、杢助は今度は自分が魔法を使って三人をここへ呼び寄せてやると言った。
杢助は、高姫を木魚の代わりに長煙管でうち、呪文を唱えた。高姫はまたのぼせてあたりが回りだした。するとお寅の姿が目の前に現れた。杢助は今度は、魔我彦とヨルを引き戻す魔法だと言って高姫に目をつぶらせて、火鉢の灰を口に突っ込んだ。
高姫が杢助の合図で目を開くと、魔我彦とヨルが目の前に座っている。高姫は説教を始めるが、魔我彦は地獄の灰を口にねじ込んであげたと高姫を愚弄した。高姫が怒って怒鳴りつけると、お寅・魔我彦・ヨルの三人は怪獣となって高姫に唸りだした。
高姫はアッと叫んでその場に正気を失ってしまった。怪獣は玄関口めがけて飛び出した。ハルとテルは頭をかかえて縮こまり、怪獣が帰り去るのを待っていた。