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第2巻(丑の巻)
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第6巻(巳の巻)
第7巻(午の巻)
第8巻(未の巻)
第9巻(申の巻)
第10巻(酉の巻)
第11巻(戌の巻)
第12巻(亥の巻)
如意宝珠
第13巻(子の巻)
第14巻(丑の巻)
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真善美愛
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第51巻(寅の巻)
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第61巻(子の巻)
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第71巻(戌の巻)
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特別編 入蒙記
天祥地瑞
第73巻(子の巻)
第74巻(丑の巻)
第75巻(寅の巻)
第76巻(卯の巻)
第77巻(辰の巻)
第78巻(巳の巻)
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第49巻(子の巻)
序文
総説
第1篇 神示の社殿
01 地上天国
〔1275〕
02 大神人
〔1276〕
03 地鎮祭
〔1277〕
04 人情
〔1278〕
05 復命
〔1279〕
第2篇 立春薫香
06 梅の初花
〔1280〕
07 剛胆娘
〔1281〕
08 スマート
〔1282〕
第3篇 暁山の妖雲
09 善幻非志
〔1283〕
10 添書
〔1284〕
11 水呑同志
〔1285〕
12 お客さん
〔1286〕
13 胸の轟
〔1287〕
14 大妨言
〔1288〕
15 彗星
〔1289〕
第4篇 鷹魅糞倒
16 魔法使
〔1290〕
17 五身玉
〔1291〕
18 毒酸
〔1292〕
19 神丹
〔1293〕
20 山彦
〔1294〕
余白歌
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第一二章 お
客
(
きやく
)
さん〔一二八六〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第49巻 真善美愛 子の巻
篇:
第3篇 暁山の妖雲
よみ(新仮名遣い):
ぎょうざんのよううん
章:
第12章 お客さん
よみ(新仮名遣い):
おきゃくさん
通し章番号:
1286
口述日:
1923(大正12)年01月18日(旧12月2日)
口述場所:
筆録者:
松村真澄
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1924(大正13)年11月5日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
祠の森の玄関口にはヨルが受付をしていた。そこへ、深編笠をかぶった大男が現れ、ウブスナ山の斎苑館から来たと告げた。そして自分は斎苑館の高級な職務に就いている「ト」の付く者だと高姫に取り次ぎを依頼した。
ヨルから報告を聞いた高姫は、てっきり元夫の東助が訪ねてきたと思ってうれしげに身づくろいをなし、ヨルに訪問者を呼んでくるように言いつけた。訪問者の男はヨルに案内されて高姫の奥室に迎えられた。
男が被り物を取ると、それは東助ではなく時置師の神・杢助だった。杢助は、自分は東助と争いごとになり、斎苑館を放り出されたのだ、と高姫に語った。杢助は東助の悪口を高姫に吹き込み、高姫と気脈を通じてしまった。
高姫は東助に一泡ふかせたい気持ちから、杢助にここで一旗揚げようではないかと持ちかけた。杢助も乗り気になり、高姫と杯を交わし祝酒を交わして歌いだした。
ヨルをはじめ、祠の森に仕える者たちも高姫と杢助の関係を隣室で聞いてしまったが、高姫も杢助も夫婦を公言してしまった。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2023-06-24 20:34:25
OBC :
rm4912
愛善世界社版:
164頁
八幡書店版:
第9輯 91頁
修補版:
校定版:
170頁
普及版:
75頁
初版:
ページ備考:
001
祠
(
ほこら
)
の
森
(
もり
)
の
玄関口
(
げんくわんぐち
)
には、
002
例
(
れい
)
の
如
(
ごと
)
くヨルが
受付
(
うけつけ
)
をやつてゐる。
003
そこへ
深編笠
(
ふかあみがさ
)
を
被
(
かぶ
)
つた
雲
(
くも
)
突
(
つ
)
く
許
(
ばか
)
りの
大
(
だい
)
の
男
(
をとこ
)
現
(
あら
)
はれ
来
(
きた
)
り、
004
底
(
そこ
)
づつた
太
(
ふと
)
い
声
(
こゑ
)
で、
005
男
(
をとこ
)
『
拙者
(
せつしや
)
はウブスナ
山
(
やま
)
のイソの
館
(
やかた
)
より
参
(
まゐ
)
りし
者
(
もの
)
で
厶
(
ござ
)
る。
006
高姫
(
たかひめ
)
殿
(
どの
)
はここにゐられる
筈
(
はず
)
、
007
一寸
(
ちよつと
)
内々
(
ないない
)
お
目
(
め
)
にかかりたいと
申
(
まを
)
し
伝
(
つた
)
へて
下
(
くだ
)
さい』
008
ヨル『ハイ、
009
申伝
(
まをしつた
)
へぬ
事
(
こと
)
は
厶
(
ござ
)
いませぬが、
010
御
(
ご
)
姓名
(
せいめい
)
を
承
(
うけたま
)
はらなくては、
011
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
つても
義理
(
ぎり
)
天上
(
てんじやう
)
日出
(
ひのでの
)
神
(
かみ
)
の
生宮
(
いきみや
)
様
(
さま
)
で
厶
(
ござ
)
いますから……』
012
男
(
をとこ
)
『
如何
(
いか
)
にも
申
(
まをし
)
遅
(
おく
)
れました。
013
今
(
いま
)
少
(
すこ
)
し
様子
(
やうす
)
があつて
名乗
(
なの
)
り
難
(
がた
)
い
場合
(
ばあひ
)
で
厶
(
ござ
)
いますから、
014
只
(
ただ
)
一口
(
ひとくち
)
トといふ
名
(
な
)
のつく
男
(
をとこ
)
だといつて
貰
(
もら
)
へば
宜
(
よろ
)
しい。
015
そしてイソの
館
(
やかた
)
の
重要
(
ぢうえう
)
なる
職
(
しよく
)
に
就
(
つ
)
いている
者
(
もの
)
だと
御
(
お
)
伝
(
つた
)
へ
下
(
くだ
)
さらば、
016
高姫
(
たかひめ
)
殿
(
どの
)
には
成程
(
なるほど
)
と
合点
(
がてん
)
がゆくでせう』
017
ヨル『あなたはイソの
館
(
やかた
)
の
重要
(
ぢうえう
)
なる
役人
(
やくにん
)
様
(
さま
)
と
聞
(
き
)
きましたが、
018
私
(
わたし
)
はバラモン
教
(
けう
)
から
帰順
(
きじゆん
)
致
(
いた
)
しましたヨルと
申
(
まを
)
すもので
厶
(
ござ
)
います、
019
何分
(
なにぶん
)
に
宜
(
よろ
)
しく
御
(
お
)
願
(
ねがひ
)
いたします』
020
男
(
をとこ
)
『あゝヨルといふ
男
(
をとこ
)
はお
前
(
まへ
)
であつたか、
021
五十子
(
いそこ
)
姫
(
ひめ
)
殿
(
どの
)
より
確
(
たしか
)
に
承
(
うけたま
)
はつてゐる。
022
それは
御
(
ご
)
苦労
(
くらう
)
だ。
023
一度
(
いちど
)
イソ
館
(
やかた
)
へお
参
(
まゐ
)
りなさるがよからう』
024
ヨル『ハイ、
025
有難
(
ありがた
)
う
厶
(
ござ
)
います。
026
かうして
御用
(
ごよう
)
をさして
戴
(
いただ
)
いてゐるものの、
027
肝腎
(
かんじん
)
の
御
(
ご
)
本山
(
ほんざん
)
を
知
(
し
)
らいでは
話
(
はなし
)
も
出来
(
でき
)
ませぬので、
028
参
(
まゐ
)
りたいのは
山々
(
やまやま
)
で
厶
(
ござ
)
いますが、
029
日出
(
ひのでの
)
神
(
かみ
)
の
生宮
(
いきみや
)
様
(
さま
)
が……まだ
身魂
(
みたま
)
が
研
(
みが
)
けないから、
030
此
(
この
)
方
(
はう
)
が
許
(
ゆる
)
す
迄
(
まで
)
参拝
(
さんぱい
)
してはならぬと
仰
(
おほ
)
せられますので
差控
(
さしひか
)
えてをります。
031
どうぞ
早
(
はや
)
く
霊
(
みたま
)
を
研
(
みが
)
いて
聖地
(
せいち
)
のお
庭
(
には
)
を
踏
(
ふ
)
まして
戴
(
いただ
)
きたいもので
厶
(
ござ
)
います。
032
聖地
(
せいち
)
も
知
(
し
)
らずに
受付
(
うけつけ
)
をして
居
(
を
)
りましては
何
(
なん
)
だか
気掛
(
きがか
)
りでなりませぬ』
033
男
(
をとこ
)
『
兎
(
と
)
も
角
(
かく
)
も、
034
トといふ
名
(
な
)
のついたものが
内証
(
ないしよう
)
で
折入
(
をりい
)
つて
話
(
はなし
)
のしたい
事
(
こと
)
があると
云
(
い
)
つて
居
(
ゐ
)
ると
伝
(
つた
)
へて
下
(
くだ
)
さい』
035
ヨルは、
036
ヨル
『
承知
(
しようち
)
致
(
いた
)
しました。
037
暫
(
しばら
)
くここにお
待
(
まち
)
を
願
(
ねが
)
ひます』
038
と
云
(
い
)
ひすて、
039
高姫
(
たかひめ
)
の
居間
(
ゐま
)
に
急
(
いそ
)
ぎ、
040
奥
(
おく
)
の
間
(
ま
)
の
襖
(
ふすま
)
をソツと
開
(
ひら
)
き、
041
見
(
み
)
れば
高姫
(
たかひめ
)
は
脇息
(
けふそく
)
に
凭
(
もた
)
れ、
042
何
(
なに
)
か
思案
(
しあん
)
にくれてゐる
最中
(
さいちう
)
であつた。
043
ヨル『もし、
044
日出
(
ひのでの
)
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
、
045
貴女
(
あなた
)
にお
目
(
め
)
にかかりたいと
云
(
い
)
つて、
046
イソの
館
(
やかた
)
からトと
名
(
な
)
のついた
大
(
おほ
)
きなお
方
(
かた
)
が
見
(
み
)
えました、
047
内証
(
ないしよう
)
でお
話
(
はなし
)
申
(
まを
)
し
上
(
あ
)
げたい
事
(
こと
)
があると
云
(
い
)
つてお
出
(
いで
)
になりましたから、
048
一寸
(
ちよつと
)
御
(
ご
)
報告
(
はうこく
)
申上
(
まをしあ
)
げます』
049
高姫
(
たかひめ
)
『ナニツ、
050
イソの
館
(
やかた
)
から、
051
大
(
おほ
)
きな
男
(
をとこ
)
の、
052
トといふ
名
(
な
)
の
付
(
つ
)
いたお
方
(
かた
)
がお
出
(
い
)
でになつたと
申
(
まを
)
すのか』
053
ヨル『ハイ、
054
それはそれは
大
(
おほ
)
きな
男
(
をとこ
)
で
厶
(
ござ
)
います。
055
そして
聖地
(
せいち
)
の
最
(
もつと
)
も
高級
(
かうきふ
)
な
職務
(
しよくむ
)
に
仕
(
つか
)
へて
居
(
ゐ
)
るお
方
(
かた
)
だと
仰有
(
おつしや
)
いました』
056
高姫
(
たかひめ
)
は
嬉
(
うれ
)
しげに
打
(
う
)
ちうなづき、
057
高姫
(
たかひめ
)
『ヤア、
058
ヨル
殿
(
どの
)
、
059
お
目
(
め
)
にかかると
云
(
い
)
つておくれ。
060
併
(
しか
)
し
暫
(
しばら
)
く
次
(
つぎ
)
の
間
(
ま
)
に
控
(
ひか
)
えて
居
(
を
)
つて
下
(
くだ
)
さい、
061
今
(
いま
)
すぐ
行
(
い
)
つて
貰
(
もら
)
ふと、
062
此方
(
こちら
)
の
準備
(
じゆんび
)
が
出来
(
でき
)
ぬから、
063
私
(
わたし
)
が
此
(
この
)
鈴
(
りん
)
を
叩
(
たた
)
いたら、
064
ソロソロと
出
(
で
)
てゆくのだよ、
065
それ
迄
(
まで
)
控室
(
ひかへしつ
)
で
煙草
(
たばこ
)
でも
呑
(
の
)
んで
待
(
ま
)
つて
居
(
ゐ
)
て
下
(
くだ
)
さい』
066
ヨル『ハイ、
067
承知
(
しようち
)
致
(
いた
)
しました。
068
どうぞ
鈴
(
りん
)
をしつかり
叩
(
たた
)
いて
下
(
くだ
)
さい、
069
さうすれば
其
(
その
)
音
(
おと
)
を
合図
(
あひづ
)
にお
迎
(
むか
)
へに
参
(
まゐ
)
りますから……』
070
高姫
(
たかひめ
)
『あゝさう
頼
(
たの
)
む。
071
併
(
しか
)
しヨルや、
072
日出
(
ひのでの
)
神
(
かみ
)
が
許
(
ゆる
)
す
迄
(
まで
)
、
073
誰
(
たれ
)
にもトと
云
(
い
)
ふお
方
(
かた
)
がみえたとは
云
(
い
)
つてはなりませぬぞや』
074
ヨル『エヘヽヽヽ、
075
どんな
秘密
(
ひみつ
)
でも
申
(
まを
)
すよなヨルぢや
厶
(
ござ
)
いませぬ、
076
まづ
御
(
ご
)
安心
(
あんしん
)
なさいませ。
077
貴女
(
あなた
)
は
日
(
ひ
)
の
出
(
で
)
の
御
(
ご
)
守護
(
しゆご
)
、
078
私
(
わたし
)
はヨルの
守護
(
しゆご
)
で
厶
(
ござ
)
いますから、
079
ヨルのお
楽
(
たのし
)
みも
結構
(
けつこう
)
で
厶
(
ござ
)
いますワイ』
080
高姫
(
たかひめ
)
『コレコレ、
081
ヨル、
082
いらぬ
事
(
こと
)
を
云
(
い
)
ふものぢやありませぬ。
083
次
(
つぎ
)
の
間
(
ま
)
に、
084
サア
早
(
はや
)
く
控
(
ひか
)
えなさい。
085
そして
受付
(
うけつけ
)
は
誰
(
たれ
)
に
頼
(
たの
)
んでおいたのだい』
086
ヨル『ハイ、
087
ハル
公
(
こう
)
に
頼
(
たの
)
んでおきました』
088
高姫
(
たかひめ
)
『ウンよしよし、
089
それで
能
(
よ
)
い、
090
あの
男
(
をとこ
)
は
気
(
き
)
の
利
(
き
)
いた
人間
(
にんげん
)
だからなア。
091
お
前
(
まへ
)
もトといふ
人
(
ひと
)
がお
出
(
い
)
でになつたら
気
(
き
)
を
利
(
き
)
かすのだよ』
092
ヨル『ヘヽヽヽ、
093
委細
(
ゐさい
)
承知
(
しようち
)
致
(
いた
)
しました』
094
と
頭
(
あたま
)
を
掻
(
か
)
き
乍
(
なが
)
ら、
095
次
(
つぎ
)
の
間
(
ま
)
に
行
(
い
)
つて、
096
高姫
(
たかひめ
)
の
合図
(
あひづ
)
を
待
(
ま
)
つ
事
(
こと
)
とした。
097
高姫
(
たかひめ
)
はツツと
立
(
た
)
つて、
098
そこらの
窓
(
まど
)
を
覗
(
のぞ
)
き
乍
(
なが
)
ら、
099
一人
(
ひとり
)
も
人
(
ひと
)
のゐないのにヤツと
安心
(
あんしん
)
したものの
如
(
ごと
)
く、
100
胸
(
むね
)
をなでおろし
独言
(
ひとりごと
)
、
101
高姫
(
たかひめ
)
『
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
つても、
102
ヤツパリ
男
(
をとこ
)
だなア、
103
あのよな
気強
(
きづよ
)
い
事
(
こと
)
を、
104
東助
(
とうすけ
)
さまは
仰有
(
おつしや
)
つたので、
105
チツと
許
(
ばか
)
り
恨
(
うら
)
んで
居
(
を
)
つたが、
106
ヤツパリ
大勢
(
おほぜい
)
の
人
(
ひと
)
の
前
(
まへ
)
だと
思
(
おも
)
つて、
107
あのよにつれなく
言
(
い
)
はんしたのだろ。
108
あゝあ、
109
男
(
をとこ
)
の
心
(
こころ
)
を
知
(
し
)
らずにすまぬ
事
(
こと
)
を
致
(
いた
)
しました。
110
なア
東助
(
とうすけ
)
さま、
111
その
優
(
やさ
)
しいお
心
(
こころ
)
を
承
(
うけたま
)
はれば、
112
最早
(
もはや
)
高姫
(
たかひめ
)
はこれで
死
(
し
)
んでも
得心
(
とくしん
)
で
厶
(
ござ
)
んす。
113
ドレ、
114
顔
(
かほ
)
でも
作
(
つく
)
つて
髪
(
かみ
)
をなであげ、
115
着物
(
きもの
)
を
着替
(
きがへ
)
にやなるまい』
116
と
俄
(
にはか
)
に
白
(
しろ
)
いものをコテコテと、
117
念入
(
ねんい
)
りにぬり
立
(
た
)
て、
118
髪
(
かみ
)
を
政岡
(
まさおか
)
に
結
(
むす
)
び、
119
着物
(
きもの
)
を
新
(
あたら
)
しいのと
着替
(
きか
)
へ、
120
紫
(
むらさき
)
の
袴
(
はかま
)
をゾロリとつけ、
121
赤
(
あか
)
い
襟
(
えり
)
を
一寸
(
ちよつと
)
出
(
だ
)
し、
122
鏡台
(
きやうだい
)
の
前
(
まへ
)
に
立
(
た
)
つたり
坐
(
すわ
)
つたりし
乍
(
なが
)
ら、
123
高姫
(
たかひめ
)
『あゝこれでよい これでよい、
124
三国一
(
さんごくいち
)
の、
125
言
(
い
)
はば
婿
(
むこ
)
どのが
来
(
く
)
るやうなものだ。
126
これで
高姫
(
たかひめ
)
もいよいよ
願望
(
ぐわんまう
)
成就
(
じやうじゆ
)
だ。
127
なア
東助
(
とうすけ
)
さま、
128
ヤツパリ
幼馴染
(
をさななじみ
)
はよいものですなア。
129
マア
能
(
よ
)
う
来
(
き
)
て
下
(
くだ
)
さつた。
130
縁
(
えん
)
あればこそ
子
(
こ
)
迄
(
まで
)
なした
仲
(
なか
)
だ
厶
(
ござ
)
んせぬかい。
131
本当
(
ほんたう
)
に
枯木
(
かれき
)
に
花
(
はな
)
の
咲
(
さ
)
いたよな
心持
(
こころもち
)
が
致
(
いた
)
しますぞや。
132
ドコともなしに
男
(
をとこ
)
らしいお
方
(
かた
)
、
133
さすが
高姫
(
たかひめ
)
の
思
(
おも
)
ふ
丈
(
だけ
)
あつて、
134
杢助
(
もくすけ
)
さまの
一段上
(
いちだんうへ
)
となり、
135
副教主
(
ふくけうしゆ
)
の
地位
(
ちゐ
)
迄
(
まで
)
進
(
すす
)
ましやんしたお
方
(
かた
)
だもの、
136
高姫
(
たかひめ
)
が
気
(
き
)
をもむのも
無理
(
むり
)
は
厶
(
ござ
)
いませぬわいの。
137
ドレドレいつ
迄
(
まで
)
もおまたせ
申
(
まを
)
してはすまない、
138
モウこれ
丈
(
だけ
)
化粧
(
けしやう
)
した
上
(
うへ
)
は、
139
何時
(
なんどき
)
お
越
(
こ
)
しになつても
差支
(
さしつかへ
)
ない。
140
併
(
しか
)
し
何
(
なん
)
とはなしに
恥
(
はづ
)
かしいやうな
気
(
き
)
がして
来
(
き
)
た。
141
ホヽヽヽヽ、
142
年
(
とし
)
はよつても
何
(
なん
)
だか
昔
(
むかし
)
の
事
(
こと
)
が
偲
(
しの
)
ばれて、
143
顔
(
かほ
)
がパツとあつくなつたやうだ。
144
ホンに
女
(
をんな
)
の
心
(
こころ
)
と
云
(
い
)
ふものは
優
(
やさ
)
しいものだ。
145
此
(
この
)
初心
(
うぶ
)
な
心
(
こころ
)
を
東助
(
とうすけ
)
様
(
さま
)
が
御覧
(
ごらん
)
になれば、
146
キツと
御
(
ご
)
満足
(
まんぞく
)
なさるだろ、
147
イヒヽヽヽヽ、
148
あゝコレコレ、
149
ヨル
公
(
こう
)
や、
150
モウ
可
(
い
)
いから、
151
トと
云
(
い
)
ふお
方
(
かた
)
に、
152
さういつて
来
(
き
)
て
下
(
くだ
)
さい』
153
と
鈴
(
りん
)
を
叩
(
たた
)
くのを
忘
(
わす
)
れて
了
(
しま
)
ひ、
154
なまめかしい
声
(
こゑ
)
で
呼
(
よ
)
んでゐる。
155
ヨルは、
156
モウ
鈴
(
りん
)
がなるかなるかと
待
(
ま
)
つてゐたのに、
157
思
(
おも
)
ひ
掛
(
が
)
けない
高姫
(
たかひめ
)
の
声
(
こゑ
)
を
聞
(
き
)
いて、
158
襖
(
ふすま
)
を
開
(
ひら
)
き
恐
(
おそ
)
る
恐
(
おそ
)
る
首
(
くび
)
をニユツと
出
(
だ
)
し、
159
ヨル
『
日出
(
ひのでの
)
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
、
160
何
(
なん
)
ぞ
御用
(
ごよう
)
で
厶
(
ござ
)
いますか』
161
と
云
(
い
)
ひ
乍
(
なが
)
ら、
162
顔
(
かほ
)
をあげて
見
(
み
)
ると、
163
高姫
(
たかひめ
)
はうつて
変
(
かは
)
つて、
164
立派
(
りつぱ
)
な
装束
(
しやうぞく
)
をつけ、
165
白
(
しろ
)
いものをコテコテとぬり、
166
頬辺
(
ほほべた
)
の
皺
(
しわ
)
も
何
(
なに
)
もツルツルに
埋
(
うづ
)
まつてゐる。
167
ヨルは
驚
(
おどろ
)
いて、
168
ヨル
『イヤア、
169
これはこれは、
170
日出
(
ひのでの
)
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
、
171
何
(
なん
)
とお
若
(
わか
)
うおなりなさいましたなア。
172
ヤアこれでよめました。
173
ヤツパリ
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
でも、
174
ありますかいな、
175
ヘーン、
176
お
浦山吹
(
うらやまぶ
)
きで
厶
(
ござ
)
います』
177
高姫
(
たかひめ
)
『コレ、
178
ヨル、
179
余
(
あま
)
り
冷
(
ひや
)
かすものぢやありませぬよ。
180
サ
早
(
はや
)
く、
181
ト
様
(
さま
)
を
御
(
ご
)
案内
(
あんない
)
してお
出
(
い
)
で』
182
ヨル『(
芝居
(
しばゐ
)
口調
(
くてう
)
)エツヘヽヽヽ、
183
確
(
たしか
)
に……
承知
(
しようち
)
……
仕
(
つかまつ
)
りました、
184
急
(
いそ
)
ぎ
参上
(
さんじやう
)
仕
(
つかまつ
)
ります』
185
高姫
(
たかひめ
)
『コレ、
186
ヨル、
187
何
(
なに
)
を
云
(
い
)
つてゐるのだい、
188
早
(
はや
)
く
行
(
い
)
つて
来
(
き
)
なさいよ。
189
ホンにホンに、
190
気
(
き
)
の
利
(
き
)
かぬ
男
(
をとこ
)
だなア』
191
ヨル『
日出
(
ひのでの
)
神
(
かみ
)
さま、
192
マア
使
(
つか
)
つてみて
下
(
くだ
)
さい、
193
中々
(
なかなか
)
能
(
よ
)
う
気
(
き
)
が
利
(
き
)
きますで……』
194
と
云
(
い
)
ひすて、
195
表
(
おもて
)
へかけ
出
(
だ
)
し、
196
大
(
だい
)
の
男
(
をとこ
)
に
向
(
むか
)
ひ、
197
ヨル『これは これは、
198
ト
様
(
さま
)
、
199
日出
(
ひのでの
)
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
に
申上
(
まをしあ
)
げました
所
(
ところ
)
、
200
一寸
(
ちよつと
)
少時
(
しばらく
)
御
(
ご
)
思案
(
しあん
)
遊
(
あそ
)
ばし、
201
容易
(
ようい
)
に
御
(
ご
)
返事
(
へんじ
)
を
遊
(
あそ
)
ばしませぬので、
202
此
(
この
)
ヨルがいろいろと
申上
(
まをしあ
)
げました
所
(
ところ
)
、
203
折角
(
せつかく
)
はるばるお
出
(
い
)
で
下
(
くだ
)
さつたのだから、
204
義理
(
ぎり
)
にでも
会
(
あ
)
はねばなるまい。
205
何
(
なに
)
を
云
(
い
)
つても、
206
義理
(
ぎり
)
を
重
(
おも
)
んずる
義理
(
ぎり
)
天上
(
てんじやう
)
日出
(
ひのでの
)
神
(
かみ
)
だと
仰有
(
おつしや
)
いまして、
207
奥
(
おく
)
へ
御
(
ご
)
案内
(
あんない
)
せいとの
仰
(
おほ
)
せ……サア
私
(
わたし
)
についてお
出
(
い
)
で
下
(
くだ
)
さいませ。
208
随分
(
ずいぶん
)
きれいな
方
(
かた
)
で
厶
(
ござ
)
いますよ』
209
男
(
をとこ
)
『ハイ
有難
(
ありがた
)
う、
210
併
(
しか
)
し
少
(
すこ
)
しく
内密
(
ないみつ
)
の
用
(
よう
)
で
参
(
まゐ
)
つたのですから、
211
被物
(
かづき
)
は
此
(
この
)
儘
(
まま
)
で
願
(
ねが
)
ひたい、
212
差支
(
さしつかへ
)
厶
(
ござ
)
らぬかなア』
213
ヨル『そんな
事
(
こと
)
に
気
(
き
)
の
利
(
き
)
かぬようなヨルぢや
厶
(
ござ
)
いませぬ。
214
ヨルの
守護
(
しゆご
)
のヨル
公
(
こう
)
で
厶
(
ござ
)
いますよ。
215
ヘツヘヽヽ』
216
男
(
をとこ
)
『アハヽヽヽ、
217
然
(
しか
)
らば
御
(
ご
)
案内
(
あんない
)
、
218
お
頼
(
たの
)
み
申
(
まを
)
す』
219
とヨルに
導
(
みちび
)
かれ、
220
高姫
(
たかひめ
)
の
居間
(
ゐま
)
に
足音
(
あしおと
)
高
(
たか
)
く、
221
ドシンドシンと
進
(
すす
)
み
行
(
ゆ
)
く。
222
高姫
(
たかひめ
)
は
一足
(
ひとあし
)
一足
(
ひとあし
)
近付
(
ちかづ
)
く
足音
(
あしおと
)
に
胸
(
むね
)
をドキ……ドキとさせ
乍
(
なが
)
ら、
223
恋人
(
こひびと
)
の
入
(
い
)
り
来
(
きた
)
るを、
224
一息
(
ひといき
)
千秋
(
せんしう
)
の
思
(
おも
)
ひにて
待
(
ま
)
つてゐた。
225
そして
大男
(
おほをとこ
)
が
襖
(
ふすま
)
を
開
(
ひら
)
いた
時
(
とき
)
は、
226
恥
(
はづ
)
かしさが
一
(
いち
)
時
(
じ
)
に
込
(
こ
)
み
上
(
あ
)
げて
来
(
き
)
たと
見
(
み
)
え、
227
グタリと
俯
(
うつむ
)
いてゐた。
228
男
(
をとこ
)
『
御免
(
ごめん
)
なさいませ、
229
高姫
(
たかひめ
)
さま、
230
先日
(
せんじつ
)
は
失礼
(
しつれい
)
致
(
いた
)
しました、
231
定
(
さだ
)
めて
御
(
ご
)
立腹
(
りつぷく
)
で
厶
(
ござ
)
いませうな』
232
高姫
(
たかひめ
)
はやうやう
口
(
くち
)
を
開
(
ひら
)
き、
233
高姫
『
東助
(
とうすけ
)
様
(
さま
)
、
234
能
(
よ
)
う
尋
(
たづ
)
ねて
来
(
き
)
て
下
(
くだ
)
さいました。
235
本当
(
ほんたう
)
に
女子
(
をなご
)
の
至
(
いた
)
らぬ
心
(
こころ
)
から、
236
お
恨
(
うら
)
み
申
(
まを
)
しまして
誠
(
まこと
)
に
済
(
す
)
みませぬ……コレお
前
(
まへ
)
はヨルぢやありませぬか、
237
気
(
き
)
を
利
(
き
)
かすと
云
(
い
)
つたぢやないか』
238
ヨル『ハーイ、
239
承知
(
しようち
)
致
(
いた
)
しました。
240
どうぞ、
241
シツポリとねえ、
242
お
楽
(
たのし
)
み
遊
(
あそ
)
ばせ、
243
ト
様
(
さま
)
と……』
244
高姫
(
たかひめ
)
『エヽいらぬ
事
(
こと
)
を
云
(
い
)
ふものぢやありませぬ。
245
お
客様
(
きやくさま
)
に
失礼
(
しつれい
)
ぢやありませぬか』
246
ヨルは
両手
(
りやうて
)
で
頭
(
あたま
)
を
抱
(
かか
)
へ
乍
(
なが
)
ら、
247
腰
(
こし
)
を
屈
(
かが
)
めて、
248
スゴスゴとここを
立去
(
たちさ
)
つた。
249
高姫
(
たかひめ
)
『モシ、
250
東助
(
とうすけ
)
様
(
さま
)
、
251
どうぞ
被物
(
かづき
)
を
取
(
と
)
つて
下
(
くだ
)
さいませ、
252
そして
此
(
この
)
居間
(
ゐま
)
は
誰
(
たれ
)
も
来
(
き
)
ませぬから、
253
どうぞ
打寛
(
うちくつろ
)
いで、
254
御
(
ご
)
ゆるりと
御
(
お
)
話
(
はなし
)
を
願
(
ねが
)
ひます』
255
男
(
をとこ
)
『
何
(
なん
)
だか
体裁
(
ていさい
)
が
悪
(
わる
)
くつて、
256
昔
(
むかし
)
の
事
(
こと
)
を
思
(
おも
)
ひ
出
(
だ
)
し、
257
年
(
とし
)
がよつても
恥
(
はづ
)
かしくなりましたよ、
258
アツハヽヽヽ』
259
高姫
(
たかひめ
)
『モシ
東助
(
とうすけ
)
さま、
260
私
(
わたし
)
だつて、
261
ヤツパリ
恥
(
はづか
)
しいワ、
262
エルサレムの
山道
(
やまみち
)
でねえ、
263
ホヽヽヽ』
264
男
(
をとこ
)
は『
高姫
(
たかひめ
)
殿
(
どの
)
、
265
御免
(
ごめん
)
被
(
かうむ
)
ります』と
被物
(
かづき
)
をパツと
除
(
と
)
つた。
266
見
(
み
)
れば
東助
(
とうすけ
)
にはあらで、
267
時置師
(
ときおかし
)
の
神
(
かみ
)
杢助
(
もくすけ
)
であつた。
268
高姫
(
たかひめ
)
『ヤ、
269
貴方
(
あなた
)
は
時置師
(
ときおかしの
)
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
……マアマア、
270
お
腹
(
はら
)
の
悪
(
わる
)
いこと……』
271
時置
(
ときおか
)
『アハヽヽ、
272
東助
(
とうすけ
)
さまだと
宜
(
よろ
)
しいに、
273
誠
(
まこと
)
に
不粋
(
ぶすゐ
)
な
男
(
をとこ
)
が
参
(
まゐ
)
りまして、
274
さぞ
御
(
ご
)
迷惑
(
めいわく
)
で
厶
(
ござ
)
いませう』
275
高姫
(
たかひめ
)
『これはこれは
能
(
よ
)
くこそ
御
(
ご
)
入来
(
じゆらい
)
下
(
くだ
)
さいました。
276
お
尋
(
たづ
)
ね
下
(
くだ
)
さいました
御用
(
ごよう
)
の
筋
(
すぢ
)
は、
277
如何
(
いかが
)
な
事
(
こと
)
で
厶
(
ござ
)
います』
278
時置
(
ときおか
)
『
実
(
じつ
)
の
所
(
ところ
)
は、
279
私
(
わたし
)
はイソの
館
(
やかた
)
をお
暇
(
ひま
)
を
頂
(
いただ
)
き、
280
此処
(
ここ
)
へ
参
(
まゐ
)
つたのです』
281
高姫
(
たかひめ
)
『それは
又
(
また
)
、
282
神徳
(
しんとく
)
高
(
たか
)
き
貴方
(
あなた
)
が、
283
何
(
ど
)
うして
左様
(
さやう
)
な
事
(
こと
)
にお
成
(
な
)
り
遊
(
あそ
)
ばしたので
厶
(
ござ
)
ります』
284
時置
(
ときおか
)
『お
前
(
まへ
)
さまの
前
(
まへ
)
で、
285
こんな
事
(
こと
)
は
申
(
まを
)
し
上
(
あ
)
げにくいが、
286
実
(
じつ
)
の
所
(
ところ
)
は
東助
(
とうすけ
)
様
(
さま
)
と
事務
(
じむ
)
上
(
じやう
)
の
争
(
あらそ
)
ひから、
287
止
(
や
)
むを
得
(
え
)
ず、
288
拙者
(
せつしや
)
は
辞職
(
じしよく
)
したといふのは
表向
(
おもてむき
)
、
289
実
(
じつ
)
は
東助
(
とうすけ
)
さまに
放
(
ほ
)
り
出
(
だ
)
されたのですよ』
290
高姫
(
たかひめ
)
『それはマアマア
何
(
なん
)
とした
気
(
き
)
の
毒
(
どく
)
な
事
(
こと
)
で
厶
(
ござ
)
いませう。
291
東助
(
とうすけ
)
さまもそんな
悪
(
わる
)
い
方
(
かた
)
ぢや
厶
(
ござ
)
いませなんだのになア、
292
どうしてそんな
気強
(
きづよ
)
いお
心
(
こころ
)
になられたのでせうか、
293
人間
(
にんげん
)
の
心
(
こころ
)
といふものは
分
(
わか
)
らぬもので
厶
(
ござ
)
いますなア』
294
時置
(
ときおか
)
『
高姫
(
たかひめ
)
さま、
295
貴女
(
あなた
)
だつてさうでせう。
296
はるばると
自転倒
(
おのころ
)
島
(
じま
)
から
後
(
あと
)
を
慕
(
した
)
つてお
出
(
いで
)
なさつた
親切
(
しんせつ
)
を
無
(
む
)
にして、
297
あの
通
(
とほ
)
り
大勢
(
おほぜい
)
の
前
(
まへ
)
で
肱鉄
(
ひぢてつ
)
をかまし、
298
恥
(
はぢ
)
をかかすやうな
人
(
ひと
)
だもの、
299
大抵
(
たいてい
)
分
(
わか
)
つたものでせう。
300
私
(
わたし
)
だつたら、
301
貴女
(
あなた
)
のやうな
親切
(
しんせつ
)
な
御
(
お
)
方
(
かた
)
なら、
302
何
(
ど
)
うしてあんな
気強
(
きづよ
)
い
事
(
こと
)
が
出来
(
でき
)
ませう』
303
高姫
(
たかひめ
)
『そらさうですなア、
304
本当
(
ほんたう
)
に
東助
(
とうすけ
)
さまは
無情
(
むじやう
)
な
方
(
かた
)
ですワ。
305
若
(
わか
)
い
時
(
とき
)
はあんな
水臭
(
みづくさ
)
いお
方
(
かた
)
だなかつたですがなア』
306
時置
(
ときおか
)
『あれ
丈
(
だけ
)
、
307
東助
(
とうすけ
)
さまのやうに
沢山
(
たくさん
)
女
(
をんな
)
があつてはたまりませぬワイ。
308
イソ
館
(
やかた
)
の
今子姫
(
いまこひめ
)
さまだつて、
309
五十子
(
いそこ
)
姫
(
ひめ
)
さまだつて、
310
夫
(
をつと
)
のある
身
(
み
)
でゐ
乍
(
なが
)
ら
秋波
(
しうは
)
を
送
(
おく
)
り、
311
其
(
その
)
外
(
ほか
)
聖地
(
せいち
)
の
女
(
をんな
)
は
老若
(
らうにやく
)
の
嫌
(
きら
)
ひなく、
312
箸
(
はし
)
まめな
方
(
かた
)
だから、
313
皆
(
みな
)
つまんでゐられるのです、
314
それをお
前
(
まへ
)
さまが
御存
(
ごぞん
)
じないものだから、
315
あんな
不覚
(
ふかく
)
を
取
(
と
)
つたのです。
316
私
(
わたし
)
などは
御存
(
ごぞん
)
じの
通
(
とほ
)
り
不粋
(
ぶすゐ
)
な
鰥鳥
(
やもめどり
)
ですから、
317
牝猫
(
めんねこ
)
一匹
(
いつぴき
)
だつて、
318
見向
(
みむ
)
いてもくれませぬワ。
319
アツハヽヽヽ』
320
高姫
(
たかひめ
)
『
貴方
(
あなた
)
は
本当
(
ほんたう
)
にお
偉
(
えら
)
いですな。
321
よう
独身
(
どくしん
)
で
今
(
いま
)
迄
(
まで
)
御
(
ご
)
辛抱
(
しんばう
)
なさいました。
322
私
(
わたし
)
も
貴方
(
あなた
)
のやうな
夫
(
をつと
)
があつたら、
323
何程
(
なにほど
)
力
(
ちから
)
になるか
知
(
し
)
れませぬがなア、
324
ホツホヽヽ』
325
と
顔
(
かほ
)
赤
(
あか
)
らめ、
326
袖
(
そで
)
で
目
(
め
)
をかくす。
327
時置
(
ときおか
)
『イヤもう、
328
高姫
(
たかひめ
)
様
(
さま
)
にきつう
冷
(
ひや
)
かされました。
329
腹
(
はら
)
の
悪
(
わる
)
い
事
(
こと
)
いつて
下
(
くだ
)
さるな、
330
何
(
なん
)
だか
此
(
この
)
時置師
(
ときおかし
)
も
妙
(
めう
)
な
気分
(
きぶん
)
になりますワ』
331
高姫
(
たかひめ
)
『どうぞ、
332
貴方
(
あなた
)
、
333
今晩
(
こんばん
)
ゆつくりとお
泊
(
とま
)
り
下
(
くだ
)
さいませ。
334
そして
外
(
ほか
)
の
間
(
ま
)
は
役員
(
やくゐん
)
共
(
ども
)
が
休
(
やす
)
みますので、
335
不都合
(
ふつがふ
)
で
厶
(
ござ
)
います。
336
どうぞ
私
(
わたし
)
の
居間
(
ゐま
)
で、
337
失礼
(
しつれい
)
乍
(
なが
)
ら、
338
おやすみ
下
(
くだ
)
されば、
339
お
足
(
みや
)
でも
揉
(
も
)
まして
頂
(
いただ
)
きます。
340
サ、
341
マア
一杯
(
いつぱい
)
お
酒
(
さけ
)
でもおあがり
下
(
くだ
)
さいませ』
342
時置
(
ときおか
)
『ヤア、
343
これは
有難
(
ありがた
)
い、
344
暫
(
しばら
)
く
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
のお
道
(
みち
)
に
入
(
はい
)
つて、
345
お
酒
(
さけ
)
を
心得
(
こころえ
)
て
居
(
を
)
りましたが、
346
今晩
(
こんばん
)
はここでゆつくりと
頂
(
いただ
)
きませう。
347
高姫
(
たかひめ
)
様
(
さま
)
のお
酌
(
しやく
)
で、
348
何
(
なん
)
とマア、
349
こんな
結構
(
けつこう
)
な
事
(
こと
)
は
近年
(
きんねん
)
厶
(
ござ
)
りませぬワ、
350
アツハツハヽヽ』
351
高姫
(
たかひめ
)
『モシ
時置師
(
ときおかし
)
様
(
さま
)
、
352
貴方
(
あなた
)
は
三五教
(
あななひけう
)
の
三羽烏
(
さんばがらす
)
といはれたお
方
(
かた
)
でせう、
353
バカらしい、
354
東助
(
とうすけ
)
如
(
ごと
)
きに
放
(
ほ
)
り
出
(
だ
)
されて、
355
此
(
この
)
後
(
のち
)
何
(
ど
)
うなさる
積
(
つも
)
りですか、
356
一寸
(
いつすん
)
の
虫
(
むし
)
も
五分
(
ごぶ
)
の
魂
(
たましひ
)
といふ
事
(
こと
)
が
厶
(
ござ
)
りませう』
357
時置
(
ときおか
)
『それで
実
(
じつ
)
の
所
(
ところ
)
は、
358
ソツと
御
(
ご
)
相談
(
さうだん
)
に
参
(
まゐ
)
つたのですよ。
359
何分
(
なにぶん
)
生田
(
いくた
)
の
森
(
もり
)
以来
(
いらい
)
、
360
特別
(
とくべつ
)
の
御
(
ご
)
昵懇
(
じつこん
)
に
願
(
ねが
)
つた
仲
(
なか
)
なのですからなア』
361
高姫
(
たかひめ
)
『
左様
(
さやう
)
左様
(
さやう
)
、
362
私
(
わたし
)
も
又
(
また
)
貴方
(
あなた
)
のお
館
(
やかた
)
の
守役
(
もりやく
)
となりましたのも、
363
何
(
なに
)
かの
因縁
(
いんねん
)
で
厶
(
ござ
)
いませう。
364
どうぞ
杢助
(
もくすけ
)
様
(
さま
)
、
365
私
(
わたし
)
と
力
(
ちから
)
を
併
(
あは
)
せて、
366
東助
(
とうすけ
)
の
高慢
(
かうまん
)
な
鼻
(
はな
)
を
挫
(
くじ
)
き、
367
三五教
(
あななひけう
)
の
為
(
ため
)
に
彼
(
かれ
)
を
改心
(
かいしん
)
さしてやる
気
(
き
)
はありませぬか』
368
時置
(
ときおか
)
『さうですなア、
369
貴方
(
あなた
)
と
一所
(
いつしよ
)
に
願
(
ねが
)
へば、
370
大変
(
たいへん
)
面白
(
おもしろ
)
いでせう。
371
併
(
しか
)
し
生田
(
いくた
)
の
森
(
もり
)
は
何
(
ど
)
うなさる
積
(
つもり
)
ですか』
372
高姫
(
たかひめ
)
『ハイ
生田
(
いくた
)
の
森
(
もり
)
は、
373
駒彦
(
こまひこ
)
に
一任
(
いちにん
)
しておきましたから、
374
私
(
わたし
)
が
仮令
(
たとへ
)
一
(
いち
)
年
(
ねん
)
や
二
(
に
)
年
(
ねん
)
帰
(
かへ
)
らなくても
大丈夫
(
だいぢやうぶ
)
ですよ。
375
一
(
ひと
)
つ
貴方
(
あなた
)
、
376
此処
(
ここ
)
で○○になり
一旗
(
ひとはた
)
挙
(
あ
)
げちや
何
(
ど
)
うで
厶
(
ござ
)
いませうかな』
377
時置
(
ときおか
)
『イヤ
此奴
(
こいつ
)
ア
妙案
(
めうあん
)
です。
378
私
(
わたし
)
の
様
(
やう
)
な
老
(
おい
)
ぼれでもお
構
(
かま
)
ひなくば
御
(
お
)
世話
(
せわ
)
になりませう。
379
併
(
しか
)
し
私
(
わたし
)
には
初稚姫
(
はつわかひめ
)
といふ
一人
(
ひとり
)
の
娘
(
むすめ
)
が
厶
(
ござ
)
いますが、
380
それは
御
(
ご
)
承知
(
しようち
)
で
厶
(
ござ
)
いませうな。
381
実
(
じつ
)
の
所
(
ところ
)
は
娘
(
むすめ
)
が
可愛
(
かあい
)
いので、
382
継母
(
ままはは
)
にかけまいと
思
(
おも
)
ひ、
383
今
(
いま
)
迄
(
まで
)
独身
(
どくしん
)
生活
(
せいくわつ
)
をやつて
来
(
き
)
たのですが、
384
最早
(
もはや
)
娘
(
むすめ
)
も
一人前
(
いちにんまへ
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
となりましたので、
385
私
(
わたし
)
も
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
御用
(
ごよう
)
を
勤
(
つと
)
め
乍
(
なが
)
ら、
386
気楽
(
きらく
)
に
余生
(
よせい
)
を
送
(
おく
)
りたいのです』
387
高姫
(
たかひめ
)
『あの
可愛
(
かあい
)
らしい
初稚姫
(
はつわかひめ
)
さまの……
私
(
わたし
)
は
仮令
(
たとへ
)
継母
(
ままはは
)
にもせよ、
388
母
(
はは
)
となるのは
満足
(
まんぞく
)
で
厶
(
ござ
)
います。
389
キツト
大切
(
たいせつ
)
に
致
(
いた
)
しますから、
390
御
(
ご
)
安心
(
あんしん
)
下
(
くだ
)
さいませ』
391
と
妙
(
めう
)
な
目
(
め
)
をして、
392
斜
(
はす
)
かいに
時置師
(
ときおかし
)
の
顔
(
かほ
)
を
睨
(
にら
)
んでゐる。
393
時置
(
ときおか
)
『サア
高姫
(
たかひめ
)
さま、
394
一杯
(
いつぱい
)
行
(
ゆ
)
きませう』
395
と
盃
(
さかづき
)
をわたし、
396
ドブドブと
徳利
(
とくり
)
から
注
(
つ
)
いでやる。
397
高姫
(
たかひめ
)
はえもいはれぬ
嬉
(
うれ
)
しさうな
顔
(
かほ
)
をして、
398
キチンと
両手
(
りやうて
)
に
盃
(
さかづき
)
を
持
(
も
)
ち、
399
鼠
(
ねづみ
)
のやうな
皺
(
しわ
)
のよつた
口
(
くち
)
で、
400
グーツと
呑
(
の
)
み、
401
懐
(
ふところ
)
から
紙
(
かみ
)
を
出
(
だ
)
して
盃
(
さかづき
)
をソツと
拭
(
ふ
)
き、
402
首
(
くび
)
を
二
(
ふた
)
つ
三
(
み
)
つ
振
(
ふ
)
つて、
403
盃
(
さかづき
)
を
両手
(
りやうて
)
にささげ、
404
手
(
て
)
を
左右左
(
さいうさ
)
に
体
(
からだ
)
グチふり
乍
(
なが
)
ら、
405
高姫
(
たかひめ
)
『モシこちの
人
(
ひと
)
、
406
返盃
(
へんぱい
)
致
(
いた
)
しませう』
407
とさし
出
(
だ
)
す。
408
時置師
(
ときおかし
)
は、
409
時置
(
ときおか
)
『アツハヽヽヽ』
410
と
笑
(
わら
)
ひながら
盃
(
さかづき
)
を
受取
(
うけと
)
り、
411
なみなみとつがしてグツと
呑
(
の
)
み、
412
時置
(
ときおか
)
『○せう○せうと
言
(
い
)
つて
鳴
(
な
)
く
鳥
(
とり
)
は
413
鳥
(
とり
)
の
中
(
なか
)
でも
鰥鳥
(
やもめどり
)
414
あゝコリヤコリヤ』
415
と
調子
(
てうし
)
にのつて
手
(
て
)
を
拍
(
う
)
ち
歌
(
うた
)
ひ
出
(
だ
)
した。
416
高姫
(
たかひめ
)
は
杢助
(
もくすけ
)
のこんな
打解
(
うちと
)
けた
姿
(
すがた
)
を
見
(
み
)
た
事
(
こと
)
は
始
(
はじ
)
めてである。
417
『なんと
面白
(
おもしろ
)
い
可愛
(
かあい
)
い
人
(
ひと
)
だなあ』と
思
(
おも
)
ひ
乍
(
なが
)
ら、
418
高姫
(
たかひめ
)
『
三五教
(
あななひけう
)
の
大元
(
おほもと
)
で
419
三羽烏
(
さんばがらす
)
の
杢助
(
もくすけ
)
さまは
420
月
(
つき
)
か
花
(
はな
)
かよ、はた
雪
(
ゆき
)
か
421
見
(
み
)
れば
見
(
み
)
る
程
(
ほど
)
美
(
うつく
)
しい
422
こんな
殿御
(
とのご
)
と
添
(
そ
)
ひぶしの
423
女
(
をんな
)
はさぞや
嬉
(
うれ
)
しかろ
424
ヨイトナ ヨイトナ
425
ドツコイシヨ ドツコイシヨ』
426
と
手
(
て
)
を
拍
(
う
)
つて、
427
調子
(
てうし
)
に
乗
(
の
)
り
歌
(
うた
)
ひ
出
(
だ
)
したり。
428
杢助
(
もくすけ
)
『
酔
(
よ
)
ふては
眠
(
ねむ
)
る
窈窕
(
えうてう
)
高姫
(
たかひめ
)
の
膝
(
ひざ
)
429
醒
(
さ
)
めては
握
(
にぎ
)
る
堂々
(
だうだう
)
天下
(
てんか
)
の
権
(
けん
)
』
430
と
博文
(
はくぶん
)
もどきに
高姫
(
たかひめ
)
の
膝
(
ひざ
)
を
枕
(
まくら
)
に、
431
足
(
あし
)
を
上
(
あ
)
げ、
432
手
(
て
)
を
拍
(
う
)
ち
打解
(
うちと
)
けて
歌
(
うた
)
ひ
出
(
だ
)
した。
433
高姫
(
たかひめ
)
『
三五教
(
あななひけう
)
の
其
(
その
)
中
(
なか
)
で
434
私
(
わし
)
ほど
仕合
(
しあは
)
せ
者
(
もの
)
が
又
(
また
)
あろか
435
三羽烏
(
さんばがらす
)
の
一
(
いち
)
人
(
にん
)
と
436
時
(
とき
)
めき
渡
(
わた
)
る
時
(
とき
)
さまを
437
夫
(
をつと
)
に
持
(
も
)
つて
意地悪
(
いぢわる
)
い
438
東助
(
とうすけ
)
さまの
向
(
むか
)
ふ
張
(
は
)
り
439
これから
一
(
ひと
)
つ
堂々
(
だうだう
)
と
440
旗挙
(
はたあげ
)
致
(
いた
)
してみせませう
441
日出
(
ひのでの
)
神
(
かみ
)
の
義理
(
ぎり
)
天上
(
てんじやう
)
442
其
(
その
)
神徳
(
しんとく
)
は
此
(
この
)
通
(
とほ
)
り
443
訳
(
わけ
)
の
分
(
わか
)
らぬ
奴
(
やつ
)
共
(
ども
)
を
444
アフンとさせねばなりませぬ
445
ホンに
嬉
(
うれ
)
しい
事
(
こと
)
だなア
446
こんな
結構
(
けつこう
)
な
所
(
ところ
)
をば
447
高山彦
(
たかやまひこ
)
や
黒姫
(
くろひめ
)
に
448
お
目
(
め
)
にかけたら
何
(
ど
)
うだらう
449
何
(
なん
)
でもかんでも
構
(
かま
)
やせぬ
450
ホンに
目出
(
めで
)
たいお
目出
(
めで
)
たい
451
サアサア
時
(
とき
)
さま ねよかいな
452
遠音
(
とほね
)
に
響
(
ひび
)
く
暮
(
くれ
)
の
鐘
(
かね
)
453
塒
(
ねぐら
)
求
(
もと
)
める
群烏
(
むれがらす
)
454
小鳥
(
ことり
)
も
吾
(
わが
)
巣
(
す
)
へ
帰
(
かへ
)
るのに
455
いつ
迄
(
まで
)
起
(
お
)
きてゐたとてせうがない
456
ヤートコセーヨーイヤナ
457
アレワイセー、コレワイセー
458
サツサ、ヤツトコセー』
459
かかる
所
(
ところ
)
へヨルは
走
(
はし
)
り
来
(
きた
)
り、
460
ヨル『モシ、
461
高姫
(
たかひめ
)
様
(
さま
)
、
462
お
呼
(
よ
)
びになりましたか、
463
何
(
なん
)
とマアお
楽
(
たのし
)
みの
最中
(
さいちう
)
を
失礼
(
しつれい
)
致
(
いた
)
しました』
464
高姫
(
たかひめ
)
はビツクリして
頓狂
(
とんきやう
)
な
声
(
こゑ
)
を
出
(
だ
)
し、
465
高姫
『コレ、
466
ヨル、
467
誰
(
たれ
)
が
呼
(
よ
)
んだのだい、
468
彼方
(
あつちや
)
へいつてなさい、
469
本当
(
ほんたう
)
に
気
(
き
)
の
利
(
き
)
かぬ
方
(
かた
)
だなア』
470
ヨル『ハイ、
471
実
(
じつ
)
の
所
(
ところ
)
は
次
(
つぎ
)
の
間
(
ま
)
に
控
(
ひか
)
えて
御
(
ご
)
様子
(
やうす
)
を
承
(
うけたま
)
はつてゐました。
472
あんな
事
(
こと
)
云
(
い
)
つて
貴方
(
あなた
)
に
危害
(
きがい
)
を
加
(
くは
)
へるのぢやあるまいかと、
473
受付
(
うけつけ
)
はそつちのけにして、
474
イル、
475
イク、
476
サール、
477
テル、
478
ハル、
479
楓
(
かへで
)
さま
迄
(
まで
)
が、
480
次
(
つぎ
)
の
間
(
ま
)
で
貴方
(
あなた
)
方
(
がた
)
の
御
(
お
)
話
(
はなし
)
を
一伍
(
いちぶ
)
一什
(
しじふ
)
聞
(
き
)
いてゐましたよ。
481
マア
此
(
この
)
分
(
ぶん
)
ならば
結構
(
けつこう
)
で
厶
(
ござ
)
いますワ、
482
お
目出
(
めで
)
たう』
483
高姫
(
たかひめ
)
は
焼糞
(
やけくそ
)
になり、
484
高姫
(
たかひめ
)
『
此
(
この
)
方
(
かた
)
は
私
(
わたし
)
の
夫
(
をつと
)
だよ。
485
お
前
(
まへ
)
も
聞
(
き
)
いてをつただらうが、
486
昔
(
むかし
)
からの
許嫁
(
いひなづけ
)
だから、
487
別
(
べつ
)
に
隠
(
かく
)
す
必要
(
ひつえう
)
もないのだ、
488
サア
彼方
(
あつち
)
へ
行
(
い
)
かつしやれ』
489
ヨル『ハイ、
490
承知
(
しようち
)
致
(
いた
)
しました。
491
甘
(
うま
)
い
事
(
こと
)
仰有
(
おつしや
)
いますワイ、
492
コレコレ
楓
(
かへで
)
さま、
493
イル、
494
イク、
495
サール、
496
ハル、
497
テル、
498
彼方
(
あつち
)
へ
行
(
い
)
かう、
499
グヅグヅしてると、
500
高姫
(
たかひめ
)
様
(
さま
)
が、
501
事
(
こと
)
にヨルと、
502
頭
(
あたま
)
をハルと、
503
いふテル……でもない。
504
これから、
505
夜
(
よる
)
にイルと、
506
高姫
(
たかひめ
)
さまとトさまのイクサールが
始
(
はじ
)
まるのだから、
507
サアサアあちらへ
控
(
ひか
)
えたり
控
(
ひか
)
えたり、
508
ホンにホンに、
509
仲
(
なか
)
のいい
事
(
こと
)
だ、
510
お
目出
(
めで
)
たいなア』
511
と
云
(
い
)
ひながら、
512
七
(
しち
)
人
(
にん
)
は
足音
(
あしおと
)
高
(
たか
)
く、
513
ドスドスドスと
表
(
おもて
)
へ
駆
(
か
)
け
出
(
だ
)
した。
514
高姫
(
たかひめ
)
『コレ
時
(
とき
)
さま、
515
起
(
お
)
きなさらぬかいな、
516
意地
(
いぢ
)
が
悪
(
わる
)
い、
517
若
(
わか
)
い
奴
(
やつ
)
といふ
者
(
もの
)
は、
518
物珍
(
ものめづら
)
し
相
(
さう
)
に
仕方
(
しかた
)
のないものですよ。
519
最前
(
さいぜん
)
から
貴方
(
あなた
)
との
話
(
はなし
)
を、
520
皆
(
みな
)
次
(
つぎ
)
の
間
(
ま
)
で
聞
(
き
)
いてゐたのですもの』
521
時置
(
ときおか
)
『アハヽヽヽ、
522
そりや
面白
(
おもしろ
)
い、
523
何
(
いづ
)
れ
年
(
とし
)
が
老
(
よ
)
つて、
524
結婚
(
けつこん
)
をせうと
云
(
い
)
ふのだから、
525
チツと
度胸
(
どきよう
)
がなくちや
駄目
(
だめ
)
だ。
526
一層
(
いつそう
)
の
事
(
こと
)
いいぢやないか、
527
披露
(
ひろう
)
する
必要
(
ひつえう
)
もなくて……なア、
528
高
(
たか
)
ちやん』
529
高姫
(
たかひめ
)
『さうですなア、
530
私
(
わたし
)
もトちやんがお
出
(
い
)
でになつてから、
531
何
(
なん
)
だか
気
(
き
)
がイソイソして
心強
(
こころづよ
)
くなりましたワ。
532
サ
就寝
(
やす
)
みませう』
533
時置
(
ときおか
)
『それだと
云
(
い
)
つて、
534
今
(
いま
)
すぐに
休
(
やす
)
む
訳
(
わけ
)
にや
行
(
い
)
くまい。
535
御
(
ご
)
神殿
(
しんでん
)
へ
行
(
い
)
つて
御
(
お
)
礼
(
れい
)
を
申上
(
まをしあ
)
げ、
536
そして
時置師
(
ときおかし
)
と
高姫
(
たかひめ
)
が
臨時
(
りんじ
)
結婚
(
けつこん
)
を
致
(
いた
)
しますと
申上
(
まをしあ
)
げて
来
(
き
)
たら
何
(
ど
)
うだらうなア』
537
高姫
(
たかひめ
)
はプリンと
背中
(
せなか
)
をそむけ、
538
高姫
(
たかひめ
)
『コレ
時
(
とき
)
さま、
539
臨時
(
りんじ
)
結婚
(
けつこん
)
なんて、
540
厭
(
いや
)
ですよ、
541
永遠
(
ゑいゑん
)
無窮
(
むきう
)
の
結婚
(
けつこん
)
でなくちや
嘘
(
うそ
)
ですわ』
542
時置
(
ときおか
)
『さうだと
云
(
い
)
つて、
543
さう
俄
(
にはか
)
に
大層
(
たいそう
)
な
婚礼式
(
こんれいしき
)
も
出来
(
でき
)
ぬぢやないか、
544
今晩
(
こんばん
)
は
一寸
(
ちよつと
)
仮結婚
(
かりけつこん
)
としておいて、
545
互
(
たがひ
)
に
気
(
き
)
に
入
(
い
)
つたら
玉椿
(
たまつばき
)
八千代
(
やちよ
)
迄
(
まで
)
も
契
(
ちぎ
)
るのだ。
546
想思
(
さうし
)
の
男女
(
だんぢよ
)
の
事
(
こと
)
だから、
547
マアゆつくりと
楽
(
たの
)
しんで、
548
婚礼
(
こんれい
)
迄
(
まで
)
に
互
(
たがひ
)
の
長短
(
ちやうたん
)
を
調
(
しら
)
べて、
549
いよいよ
両方
(
りやうはう
)
から、
550
これならば
偕老
(
かいらう
)
同穴
(
どうけつ
)
を
契
(
ちぎ
)
つてもよいといふやうになつたら、
551
それこそ
改
(
あらた
)
めて
公々然
(
こうこうぜん
)
と
結婚式
(
けつこんしき
)
を
挙
(
あ
)
げやうぢやないか』
552
高姫
(
たかひめ
)
『あてえ
今晩
(
こんばん
)
は、
553
体
(
からだ
)
の
都合
(
つがふ
)
が
悪
(
わる
)
う
厶
(
ござ
)
いますから、
554
御
(
お
)
礼
(
れい
)
はこらへて
戴
(
いただ
)
きます、
555
お
客
(
きやく
)
さまのある
時
(
とき
)
に
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
へ
参
(
まゐ
)
るものぢやありませぬからな』
556
時置
(
ときおか
)
『
月
(
つき
)
に
七日
(
なぬか
)
のお
客
(
きやく
)
さまがあるといふのかな、
557
ソリヤ
仮結婚式
(
かりけつこんしき
)
も
駄目
(
だめ
)
だないか』
558
高姫
(
たかひめ
)
『ホツホヽヽ、
559
合点
(
がつてん
)
の
悪
(
わる
)
いお
方
(
かた
)
だこと、
560
お
客
(
きやく
)
さまといへば
此
(
この
)
人
(
ひと
)
だよ』
561
と
細
(
ほそ
)
い
目
(
め
)
をし
乍
(
なが
)
ら、
562
時置師
(
ときおかし
)
の
肩
(
かた
)
をポンと
叩
(
たた
)
いた。
563
時置師
(
ときおかし
)
はワザとグナリとし
乍
(
なが
)
ら、
564
細
(
ほそ
)
い
目
(
め
)
をして、
565
時置
(
ときおか
)
『エヘツヘヽヽ』
566
こんな
話
(
はなし
)
をし
乍
(
なが
)
ら
二人
(
ふたり
)
は
灯火
(
あかり
)
を
消
(
け
)
して、
567
睦
(
むつま
)
じく
一夜
(
いちや
)
を
明
(
あか
)
しける。
568
(
大正一二・一・一八
旧一一・一二・二
松村真澄
録)
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