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第25巻(子の巻)
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第33巻(申の巻)
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第61巻(子の巻)
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第66巻(巳の巻)
第67巻(午の巻)
第68巻(未の巻)
第69巻(申の巻)
第70巻(酉の巻)
第71巻(戌の巻)
第72巻(亥の巻)
特別編 入蒙記
天祥地瑞
第73巻(子の巻)
第74巻(丑の巻)
第75巻(寅の巻)
第76巻(卯の巻)
第77巻(辰の巻)
第78巻(巳の巻)
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第81巻(申の巻)
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第54巻(巳の巻)
序文
総説
第1篇 神授の継嗣
01 子宝
〔1387〕
02 日出前
〔1388〕
03 懸引
〔1389〕
04 理妻
〔1390〕
05 万違
〔1391〕
06 執念
〔1392〕
第2篇 恋愛無涯
07 婚談
〔1393〕
08 祝莚
〔1394〕
09 花祝
〔1395〕
10 万亀柱
〔1396〕
第3篇 猪倉城寨
11 道晴別
〔1397〕
12 妖瞑酒
〔1398〕
13 岩情
〔1399〕
14 暗窟
〔1400〕
第4篇 関所の玉石
15 愚恋
〔1401〕
16 百円
〔1402〕
17 火救団
〔1403〕
第5篇 神光増進
18 真信
〔1404〕
19 流調
〔1405〕
20 建替
〔1406〕
21 鼻向
〔1407〕
22 凱旋
〔1408〕
附録 神文
余白歌
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第七章
婚談
(
こんだん
)
〔一三九三〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第54巻 真善美愛 巳の巻
篇:
第2篇 恋愛無涯
よみ(新仮名遣い):
れんあいむがい
章:
第7章 婚談
よみ(新仮名遣い):
こんだん
通し章番号:
1393
口述日:
1923(大正12)年02月21日(旧01月6日)
口述場所:
竜宮館
筆録者:
北村隆光
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1925(大正14)年3月26日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
ビクトリヤ王はさまざまなことが一度に起きて体がぐったりと弱り、ヒルナ姫に足をもませてベッドに横たわり休んでいた。
そこへ左守がやってきて、アールの婚姻話を報告した。ビクトリヤ王は息子が賤しい身分の女を連れてきたことに嘆息したが、ヒルナ姫は、自分も賤しい身分でありながら王によって見出されて王妃となったことを挙げ、家庭が円満に治まり国家が泰平に治まればよいのではないか、と王に意見した。
ビクトリヤ王も、自分が手本を見せたことだから、これも因縁だと思い直し、アールの思うとおりに縁談を進めるように左守に伝えた。左守から、治国別も同じ意見だと聞くと、刹帝利はすぐに準備にとりかかるよう左守に命じた。
一方、アールはハンナに、自分は人間の作った不自然な階級制度を打破し、四民平等の政治するのが自分の本懐だと決心を明らかにしていた。しかし到底この婚姻が認められる見込みはないだろうから、今のうちに裏門から抜け出し、山林に潜んで一緒に暮らそうと相談しているところであった。
そこへ左守がやってきて、二人の案に相違して、ビクトリヤ王が結婚を許可したという報せを持ってきた。左守に促されて、アールとハンナはビクトリヤ王に面会するために王の居間に進んで行った。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2020-05-21 11:12:31
OBC :
rm5407
愛善世界社版:
91頁
八幡書店版:
第9輯 653頁
修補版:
校定版:
89頁
普及版:
43頁
初版:
ページ備考:
001
刹帝利
(
せつていり
)
ビクトリヤ
王
(
わう
)
はフェザーベッドの
上
(
うへ
)
に
横
(
よこ
)
たはり、
002
ヒルナ
姫
(
ひめ
)
に
足
(
あし
)
を
揉
(
も
)
ませ
休
(
やす
)
んでゐた。
003
何分
(
なにぶん
)
老年
(
らうねん
)
の
上
(
うへ
)
に
嬉
(
うれ
)
しい
事
(
こと
)
や、
004
恐
(
おそ
)
ろしい
事
(
こと
)
等
(
など
)
が
一度
(
いちど
)
に
出
(
で
)
て
来
(
き
)
たので
体
(
からだ
)
がグツタリと
弱
(
よわ
)
り
半病人
(
はんびやうにん
)
の
如
(
ごと
)
き
有様
(
ありさま
)
で、
005
どこともなく
体
(
からだ
)
が
痛
(
いた
)
むので
休養
(
きうやう
)
してゐた。
006
そして
世継
(
よつぎ
)
のアールが
此
(
この
)
頃
(
ごろ
)
ソハソハとして
城内
(
じやうない
)
に
居
(
を
)
らず、
007
臣下
(
しんか
)
の
目
(
め
)
を
忍
(
しの
)
んで
一人
(
ひとり
)
郊外
(
かうぐわい
)
に
出
(
い
)
で、
008
日
(
ひ
)
が
暮
(
く
)
れてから
帰
(
かへ
)
つて
来
(
き
)
てはシュナップスを
呷
(
あふ
)
り、
009
酔
(
よ
)
うては
大声
(
おほごゑ
)
を
張
(
は
)
り
上
(
あ
)
げ
近侍
(
きんじ
)
の
役人
(
やくにん
)
共
(
ども
)
を
手古摺
(
てこず
)
らせる
等
(
など
)
の
事
(
こと
)
が
刹帝利
(
せつていり
)
の
心
(
こころ
)
を
痛
(
いた
)
めた
大原因
(
だいげんいん
)
となつてゐる。
010
かかる
処
(
ところ
)
へ
左守
(
さもり
)
のキユービツトは
衣紋
(
えもん
)
を
繕
(
つくろ
)
ひ
拝謁
(
はいえつ
)
を
乞
(
こ
)
うた。
011
刹帝利
(
せつていり
)
は
左守
(
さもり
)
の
伺
(
うかが
)
ひと
聞
(
き
)
いて
直
(
ただ
)
ちに
之
(
これ
)
を
許
(
ゆる
)
した。
012
左守
(
さもり
)
はフェザーベッドの
側
(
そば
)
近
(
ちか
)
く
進
(
すす
)
み
寄
(
よ
)
り、
013
両手
(
りやうて
)
をついて、
014
左守
(
さもり
)
『
申上
(
まをしあ
)
げます』
015
刹帝
(
せつてい
)
『
左守
(
さもり
)
、
016
何事
(
なにごと
)
だ。
017
常
(
つね
)
に
変
(
かは
)
つて
其方
(
そなた
)
の
様子
(
やうす
)
、
018
何
(
なに
)
か
又
(
また
)
変事
(
へんじ
)
が
突発
(
とつぱつ
)
したのではないか』
019
左守
(
さもり
)
『ハイ、
020
王
(
わう
)
様
(
さま
)
に
申上
(
まをしあ
)
げたら、
021
嘸
(
さぞ
)
お
驚
(
おどろ
)
き
遊
(
あそ
)
ばすで
厶
(
ござ
)
りませうが、
022
アール
様
(
さま
)
は
人
(
ひと
)
もあらうに
卑
(
いや
)
しきサーフ
[
※
愛善世界社版の脚注p304に「サーフ」の説明として「serf(英)農奴」とある
]
の
娘
(
むすめ
)
ハンナとやら
云
(
い
)
ふ
者
(
もの
)
をホーフスに
引入
(
ひきい
)
れ、
023
「
何
(
ど
)
うしても
此
(
この
)
女
(
をんな
)
でなければ
結婚
(
けつこん
)
はしない。
024
そして
万一
(
まんいち
)
父
(
ちち
)
が
之
(
これ
)
をお
聞届
(
ききとど
)
けなくば、
025
城内
(
じやうない
)
を
脱出
(
だつしゆつ
)
し
山猟師
(
やまれふし
)
となつて
田園
(
でんえん
)
生活
(
せいくわつ
)
を
送
(
おく
)
る」と
駄々
(
だだ
)
を
捏
(
こね
)
られますので、
026
此
(
この
)
老人
(
らうじん
)
も
大変
(
たいへん
)
に
心配
(
しんぱい
)
を
致
(
いた
)
しました。
027
如何
(
いかが
)
取計
(
とりはか
)
らつたら
宜
(
よろ
)
しう
厶
(
ござ
)
りませうかな』
028
刹帝利
(
せつていり
)
は
左守
(
さもり
)
の
意外
(
いぐわい
)
の
注進
(
ちうしん
)
に
驚
(
おどろ
)
いて、
029
ベツドを
下
(
お
)
り
火鉢
(
ひばち
)
の
前
(
まへ
)
に
端座
(
たんざ
)
し
乍
(
なが
)
ら、
030
刹帝
(
せつてい
)
『
嗚呼
(
ああ
)
、
031
ビクトリヤ
王家
(
わうけ
)
も
最早
(
もはや
)
終末
(
しうまつ
)
だ。
032
肝腎
(
かんじん
)
の
長子
(
ちやうし
)
がサーフの
娘
(
むすめ
)
を
女房
(
にようばう
)
に
持
(
も
)
ちたいと
云
(
い
)
ふ
様
(
やう
)
になつては、
033
最早
(
もはや
)
貴族
(
きぞく
)
も
末路
(
まつろ
)
だ。
034
如何
(
どう
)
したら
宜
(
よ
)
からうかなア』
035
と
双手
(
もろて
)
を
組
(
く
)
んで
思案
(
しあん
)
の
態
(
てい
)
、
036
ヒルナ
姫
(
ひめ
)
は
側
(
そば
)
より
手
(
て
)
をついて、
037
ヒルナ『
刹帝利
(
せつていり
)
様
(
さま
)
、
038
さうお
驚
(
おどろ
)
きには
及
(
およ
)
びますまい。
039
如何
(
いか
)
にアール
様
(
さま
)
が
耕奴
(
かうど
)
の
娘
(
むすめ
)
をお
娶
(
めと
)
りになつた
所
(
ところ
)
で、
040
家庭
(
かてい
)
が
円満
(
ゑんまん
)
に
治
(
をさ
)
まり、
041
国家
(
こくか
)
が
太平
(
たいへい
)
に
治
(
をさ
)
まれば
宜
(
い
)
いぢや
厶
(
ござ
)
りませぬか。
042
妾
(
わらは
)
だつて
腰元
(
こしもと
)
が
抜摺
(
ばつてき
)
され、
043
尊
(
たふと
)
き
貴方
(
あなた
)
の
御
(
お
)
見出
(
みいだ
)
しによつてアーチ・ダッチェスに
抜摺
(
ばつてき
)
されたぢやありませぬか。
044
アールさまの
結婚
(
けつこん
)
問題
(
もんだい
)
を
御
(
ご
)
心配
(
しんぱい
)
遊
(
あそ
)
ばすならば、
045
先
(
ま
)
づ
刹帝利
(
せつていり
)
様
(
さま
)
から
妾
(
わらは
)
を
放逐
(
はうちく
)
遊
(
あそ
)
ばさねばなりますまい』
046
刹帝
(
せつてい
)
『うん、
047
さうだな。
048
親
(
おや
)
から
手本
(
てほん
)
を
見
(
み
)
せておいて
吾
(
わが
)
子
(
こ
)
を
責
(
せ
)
むる
訳
(
わけ
)
にも
行
(
ゆ
)
くまい。
049
いや
如何
(
どう
)
なり
行
(
ゆ
)
くも
因縁
(
いんねん
)
だ。
050
左守
(
さもり
)
、
051
アールの
申
(
まを
)
す
通
(
とほ
)
りにしてやつて
呉
(
く
)
れ。
052
さうして
一応
(
いちおう
)
、
053
治国別
(
はるくにわけ
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
に
御
(
ご
)
相談
(
さうだん
)
をせなくてはなるまいぞや』
054
左守
(
さもり
)
は
案
(
あん
)
に
相違
(
さうゐ
)
しヤツと
胸
(
むね
)
を
撫
(
な
)
で
下
(
お
)
ろし、
055
左守
(
さもり
)
『
実
(
じつ
)
の
所
(
ところ
)
は
治国別
(
はるくにわけ
)
様
(
さま
)
へお
伺
(
うかが
)
ひをして
参
(
まゐ
)
りました
所
(
ところ
)
、
056
治国別
(
はるくにわけ
)
様
(
さま
)
のお
言葉
(
ことば
)
では、
057
なるべく
此
(
この
)
結婚
(
けつこん
)
は
整
(
ととの
)
へたがよい、
058
との
事
(
こと
)
で
厶
(
ござ
)
ります』
059
刹帝
(
せつてい
)
『
宣伝使
(
せんでんし
)
のお
言葉
(
ことば
)
とあれば
大丈夫
(
だいぢやうぶ
)
だらう。
060
善
(
ぜん
)
は
急
(
いそ
)
げだ、
061
一事
(
いちじ
)
も
早
(
はや
)
く
伜
(
せがれ
)
に
此
(
この
)
由
(
よし
)
を
伝
(
つた
)
へて
呉
(
く
)
れ』
062
左守
(
さもり
)
『
実
(
じつ
)
に
有難
(
ありがた
)
き
君
(
きみ
)
の
仰
(
おほ
)
せ、
063
嘸
(
さぞ
)
アール
様
(
さま
)
も
御
(
ご
)
満足
(
まんぞく
)
に
思召
(
おぼしめ
)
すで
厶
(
ござ
)
りませう。
064
之
(
これ
)
で
郊外
(
かうぐわい
)
散歩
(
さんぽ
)
もお
止
(
とど
)
まりになるでせう。
065
左様
(
さやう
)
ならば
之
(
これ
)
からお
使
(
つかひ
)
に
行
(
い
)
つて
参
(
まゐ
)
ります。
066
何分
(
なにぶん
)
宜
(
よろ
)
しう、
067
吾
(
わが
)
君様
(
きみさま
)
、
068
ヒルナ
姫
(
ひめ
)
様
(
さま
)
、
069
お
願
(
ねが
)
ひ
申
(
まを
)
します』
070
と
欣々
(
いそいそ
)
として
此
(
この
)
場
(
ば
)
を
下
(
さ
)
がり
行
(
ゆ
)
く。
071
アールの
居間
(
ゐま
)
にはハンナと
二人
(
ふたり
)
、
072
いろいろの
話
(
はなし
)
が
初
(
はじ
)
まつてゐた。
073
ハンナ『もし、
074
アール
様
(
さま
)
、
075
貴方
(
あなた
)
は
何
(
なん
)
と
仰有
(
おつしや
)
つて
下
(
くだ
)
さいましても
御
(
ご
)
両親
(
りやうしん
)
様
(
さま
)
を
始
(
はじ
)
め
頑迷
(
ぐわんめい
)
固陋
(
ころう
)
な
老臣
(
らうしん
)
共
(
ども
)
が
沢山
(
たくさん
)
ゐられますれば、
076
屹度
(
きつと
)
此
(
この
)
話
(
はなし
)
は
駄目
(
だめ
)
で
厶
(
ござ
)
りませう。
077
何卒
(
どうぞ
)
そんな
事
(
こと
)
を
仰有
(
おつしや
)
らずにお
暇
(
ひま
)
を
下
(
くだ
)
さいませ。
078
そして
貴方
(
あなた
)
はビクトリヤ
王
(
わう
)
の
世継
(
よつぎ
)
としてビク
一国
(
いつこく
)
に
君臨
(
くんりん
)
し
相当
(
さうたう
)
の
奥様
(
おくさま
)
を
迎
(
むか
)
へて
安楽
(
あんらく
)
に
世
(
よ
)
をお
送
(
おく
)
りなさる
様
(
やう
)
お
願
(
ねが
)
ひ
致
(
いた
)
します』
079
アール『エー、
080
最前
(
さいぜん
)
も
云
(
い
)
ふ
通
(
とほ
)
り、
081
私
(
わし
)
は
永
(
なが
)
らくの
間
(
あひだ
)
山住居
(
やまずまゐ
)
をし、
082
放縦
(
はうじう
)
な
生活
(
せいくわつ
)
に
慣
(
な
)
れて
来
(
き
)
たのだから、
083
斯様
(
かやう
)
な
窮屈
(
きうくつ
)
な
貴族
(
きぞく
)
生活
(
せいくわつ
)
は
到底
(
たうてい
)
堪
(
た
)
へきれない。
084
万一
(
まんいち
)
其方
(
そなた
)
と
添
(
そ
)
ふ
事
(
こと
)
が
出来
(
でき
)
なければ
私
(
わし
)
はここを
脱
(
ぬ
)
け
出
(
だ
)
して
山林
(
さんりん
)
に
入
(
い
)
り
簡易
(
かんい
)
生活
(
せいくわつ
)
を
送
(
おく
)
る
考
(
かんが
)
へだ。
085
何卒
(
どうぞ
)
そんな
心細
(
こころぼそ
)
い
事
(
こと
)
云
(
い
)
はずに
俺
(
おれ
)
の
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
を
聞
(
き
)
いて
呉
(
く
)
れ。
086
頼
(
たの
)
みだから……』
087
ハンナ『
私
(
わたし
)
の
様
(
やう
)
な
耕奴
(
かうど
)
の
娘
(
むすめ
)
が
一国
(
いつこく
)
の
王
(
わう
)
様
(
さま
)
になるお
方
(
かた
)
を
堕落
(
だらく
)
させたと
云
(
い
)
はれては
申訳
(
まをしわけ
)
が
厶
(
ござ
)
りませぬ。
088
出来
(
でき
)
る
事
(
こと
)
ならばお
小間使
(
こまづかひ
)
になりとお
使
(
つか
)
ひ
下
(
くだ
)
さいまして
此
(
この
)
縁談
(
えんだん
)
だけは
何処
(
どこ
)
迄
(
まで
)
もお
許
(
ゆる
)
し
下
(
くだ
)
さいませ。
089
然
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
終身
(
しうしん
)
貴方
(
あなた
)
のお
側
(
そば
)
で
御用
(
ごよう
)
をさして
頂
(
いただ
)
きますから……』
090
アール『
私
(
わし
)
は
刹帝利
(
せつていり
)
だの、
091
浄行
(
じやうぎやう
)
だの、
092
毘舎
(
びしや
)
、
093
首陀
(
しゆだ
)
等
(
など
)
と、
094
そんな
区別
(
くべつ
)
をつける
虚偽
(
きよぎ
)
な
社会
(
しやくわい
)
が
嫌
(
いや
)
になつたのだ。
095
それで
純朴
(
じゆんぼく
)
のサーフの
娘
(
むすめ
)
のお
前
(
まへ
)
と
如何
(
どう
)
しても
結婚
(
けつこん
)
をして
見
(
み
)
たいのだ。
096
そして
人間
(
にんげん
)
の
作
(
つく
)
つた
不自然
(
ふしぜん
)
な
階級
(
かいきふ
)
制度
(
せいど
)
を
打破
(
だは
)
し、
097
上下
(
じやうげ
)
一致
(
いつち
)
、
098
四民
(
しみん
)
平等
(
べうどう
)
の
政事
(
まつりごと
)
をして
見
(
み
)
たいのだ。
099
それが
出来
(
でき
)
なければ
私
(
わし
)
は
現代
(
げんだい
)
に
生存
(
せいぞん
)
の
希望
(
きばう
)
はない』
100
ハンナ『そこ
迄
(
まで
)
仰有
(
おつしや
)
つて
下
(
くだ
)
さるのならば
私
(
わたくし
)
はお
言葉
(
ことば
)
に
甘
(
あま
)
へて
従
(
したが
)
ひませう。
101
然
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
御
(
ご
)
両親
(
りやうしん
)
に
背
(
そむ
)
きなさつて
迄
(
まで
)
決行
(
けつかう
)
なさる
考
(
かんが
)
へですか。
102
さうすればもはや
此
(
この
)
城内
(
じやうない
)
へ
止
(
とど
)
まる
事
(
こと
)
は
出来
(
でき
)
ますまい。
103
私
(
わたくし
)
の
様
(
やう
)
な
者
(
もの
)
を
貴方
(
あなた
)
の
妻
(
つま
)
にお
許
(
ゆる
)
し
下
(
くだ
)
さる
筈
(
はず
)
はありませぬ』
104
アール『そら、
105
さうだ。
106
私
(
わし
)
も
其
(
その
)
覚悟
(
かくご
)
はしてゐる。
107
さア、
108
之
(
これ
)
からソツと
裏門
(
うらもん
)
から
脱
(
ぬ
)
け
出
(
だ
)
し、
109
山林
(
さんりん
)
に
入
(
い
)
つてお
前
(
まへ
)
と
簡易
(
かんい
)
生活
(
せいくわつ
)
を
楽
(
たの
)
しまうぢやないか。
110
照国山
(
てるくにやま
)
には
私
(
わし
)
が
長
(
なが
)
く
住
(
す
)
まつてゐた
古巣
(
ふるす
)
がある。
111
そこへ
行
(
ゆ
)
けばどうなりかうなり
生活
(
せいくわつ
)
が
出来
(
でき
)
るから……』
112
ハンナ『そんなら
仕方
(
しかた
)
厶
(
ござ
)
りませぬ。
113
お
伴
(
とも
)
を
致
(
いた
)
しませう』
114
アール『ヤ、
115
早速
(
さつそく
)
の
承知
(
しようち
)
、
116
満足
(
まんぞく
)
に
思
(
おも
)
ふ。
117
さア
早
(
はや
)
く
旅
(
たび
)
の
用意
(
ようい
)
をしよう』
118
と
二人
(
ふたり
)
は
一生
(
いつしやう
)
懸命
(
けんめい
)
に
城内
(
じやうない
)
を
脱
(
ぬ
)
け
出
(
だ
)
す
用意
(
ようい
)
に
取
(
と
)
りかかつてゐた。
119
そこへ
左守
(
さもり
)
は
現
(
あら
)
はれ
来
(
きた
)
り、
120
左守
(
さもり
)
『
御免
(
ごめん
)
なさいませ。
121
アール
様
(
さま
)
、
122
一寸
(
ちよつと
)
貴方
(
あなた
)
にお
父
(
とう
)
さまのお
言葉
(
ことば
)
をお
伝
(
つた
)
へ
申
(
まを
)
し
度
(
た
)
いと
思
(
おも
)
ひ
参
(
まゐ
)
りました。
123
又
(
また
)
足装束
(
あししやうぞく
)
を
遊
(
あそ
)
ばして
郊外
(
かうぐわい
)
散歩
(
さんぽ
)
にでもお
出
(
で
)
ましになるのですか。
124
郊外
(
かうぐわい
)
散歩
(
さんぽ
)
にしては
大変
(
たいへん
)
なお
準備
(
こしらへ
)
ぢやありませぬか』
125
アール『
左守殿
(
さもりどの
)
、
126
実
(
じつ
)
の
所
(
ところ
)
は
私
(
わし
)
はここにゐると
色々
(
いろいろ
)
の
女
(
をんな
)
を
勧
(
すす
)
められ
気
(
き
)
に
合
(
あ
)
はぬ
女房
(
にようばう
)
を
持
(
も
)
つのが
辛
(
つら
)
いから、
127
何処
(
どこ
)
かへ
脱
(
ぬ
)
け
出
(
だ
)
す
心算
(
つもり
)
で
居
(
を
)
つたのだ。
128
何卒
(
どうぞ
)
頼
(
たの
)
みだから
見逃
(
みのが
)
して
呉
(
く
)
れ』
129
左守
(
さもり
)
『いや、
130
それはなりませぬ。
131
今
(
いま
)
結婚
(
けつこん
)
問題
(
もんだい
)
の
持上
(
もちあが
)
つた
最中
(
さいちう
)
、
132
そして
貴方
(
あなた
)
はここを
出
(
で
)
られてはなりませぬぞ。
133
国家
(
こくか
)
のため、
134
王家
(
わうけ
)
のため、
135
何処
(
どこ
)
迄
(
まで
)
も
刹帝利
(
せつていり
)
の
後
(
あと
)
を
継
(
つ
)
いで
下
(
くだ
)
さらねばならぬのです』
136
アール『さアその
結婚
(
けつこん
)
問題
(
もんだい
)
が
気
(
き
)
に
入
(
い
)
らないので、
137
脱
(
ぬ
)
け
出
(
だ
)
さうと
云
(
い
)
ふのぢやないか。
138
私
(
わし
)
がゐなくてもまだ
四
(
よ
)
人
(
にん
)
の
弟
(
おとうと
)
がある。
139
その
弟
(
おとうと
)
でいかなければ、
140
国民
(
こくみん
)
の
中
(
うち
)
から
立派
(
りつぱ
)
な
人間
(
にんげん
)
を
選
(
よ
)
り
出
(
だ
)
して
刹帝利
(
せつていり
)
の
後
(
あと
)
を
継
(
つ
)
がせばよいぢやないか。
141
何
(
なに
)
も
自分
(
じぶん
)
が
後
(
あと
)
を
継
(
つ
)
がねばならぬ
神
(
かみ
)
の
命令
(
めいれい
)
でもあるまい。
142
それよりも
私
(
わし
)
はここに
居
(
ゐ
)
る
此
(
この
)
女
(
をんな
)
と
山林
(
さんりん
)
に
入
(
い
)
り
簡易
(
かんい
)
生活
(
せいくわつ
)
を
楽
(
たの
)
しむつもりだ』
143
左守
(
さもり
)
『
若旦那
(
わかだんな
)
様
(
さま
)
、
144
御
(
ご
)
心配
(
しんぱい
)
遊
(
あそ
)
ばしますな。
145
此
(
この
)
左守
(
さもり
)
が
東奔
(
とうほん
)
西走
(
せいさう
)
の
結果
(
けつくわ
)
、
146
治国別
(
はるくにわけ
)
様
(
さま
)
やヒルナ
姫
(
ひめ
)
のお
骨折
(
ほねをり
)
によつて
到頭
(
たうとう
)
刹帝利
(
せつていり
)
様
(
さま
)
のお
心
(
こころ
)
を
動
(
うご
)
かし、
147
ハンナ
様
(
さま
)
と
御
(
ご
)
夫婦
(
ふうふ
)
とおなり
遊
(
あそ
)
ばす
様
(
やう
)
にお
話
(
はなし
)
がきまりましたので
御
(
ご
)
報告
(
ほうこく
)
に
参
(
まゐ
)
つたのです』
148
アール『うん、
149
さうか、
150
それは
頑固
(
ぐわんこ
)
な
父
(
ちち
)
に
似
(
に
)
ずよくまア
開
(
ひら
)
けたものだな。
151
ヤツパリ
之
(
これ
)
も
時節
(
じせつ
)
の
力
(
ちから
)
だらう。
152
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
らお
前
(
まへ
)
も
一寸
(
ちよつと
)
談判
(
だんぱん
)
をして
貰
(
もら
)
はねばならぬ
事
(
こと
)
がある。
153
それは
外
(
ほか
)
でもない、
154
自由
(
じいう
)
自在
(
じざい
)
に
夫婦
(
ふうふ
)
が
手
(
て
)
に
手
(
て
)
をとつて
城外
(
じやうぐわい
)
の
散歩
(
さんぽ
)
をさして
貰
(
もら
)
へるか、
155
それもならぬと
云
(
い
)
ふのなら
俺
(
わし
)
はこれから、
156
此処
(
ここ
)
を
飛
(
と
)
び
出
(
だ
)
し
田園
(
でんえん
)
生活
(
せいくわつ
)
を
続
(
つづ
)
ける
覚悟
(
かくご
)
だから』
157
左守
(
さもり
)
『そんな
事
(
こと
)
は
御
(
ご
)
心配
(
しんぱい
)
なさいますな。
158
大丈夫
(
だいぢやうぶ
)
で
厶
(
ござ
)
ります。
159
屹度
(
きつと
)
私
(
わたくし
)
が
取
(
とり
)
もつて
自由
(
じいう
)
自在
(
じざい
)
に
御
(
ご
)
行動
(
かうどう
)
の
出来
(
でき
)
る
様
(
やう
)
に
致
(
いた
)
しませう』
160
アール『
父
(
ちち
)
の
証言
(
しようげん
)
を
得
(
え
)
て
置
(
お
)
かなくては、
161
又
(
また
)
後
(
あと
)
からゴテゴテ
干渉
(
かんせう
)
されると
困
(
こま
)
るからな』
162
左守
(
さもり
)
『
決
(
けつ
)
して
決
(
けつ
)
して
左様
(
さやう
)
な
御
(
ご
)
心配
(
しんぱい
)
は
御
(
ご
)
無用
(
むよう
)
です。
163
さア、
164
早
(
はや
)
く、
165
お
父上
(
ちちうへ
)
が
待
(
ま
)
つて
居
(
ゐ
)
られます。
166
お
二人
(
ふたり
)
共
(
とも
)
お
居間
(
ゐま
)
へお
越
(
こ
)
しを
願
(
ねが
)
ひます。
167
治国別
(
はるくにわけ
)
様
(
さま
)
の
方
(
はう
)
へも
使
(
つか
)
ひを
立
(
た
)
てておきましたから、
168
直
(
すぐ
)
お
越
(
こ
)
しになるでせう』
169
アール『アアそんならお
目
(
め
)
にかからうかな。
170
これハンナ、
171
お
前
(
まへ
)
は
私
(
わし
)
について
来
(
く
)
るかな』
172
ハンナ『ハイ、
173
如何
(
いか
)
なる
処
(
ところ
)
へもお
伴
(
とも
)
致
(
いた
)
します。
174
卑
(
いや
)
しき
妾
(
わらは
)
の
身
(
み
)
、
175
畏
(
おそ
)
れ
多
(
おほ
)
う
厶
(
ござ
)
りますが、
176
貴方
(
あなた
)
に
附属
(
ふぞく
)
致
(
いた
)
した
以上
(
いじやう
)
は、
177
影法師
(
かげばふし
)
の
如
(
ごと
)
く
何処
(
どこ
)
迄
(
まで
)
も
跟
(
つ
)
いて
参
(
まゐ
)
りませう』
178
左守司
(
さもりのかみ
)
はヤツと
安心
(
あんしん
)
したものの
如
(
ごと
)
く
顔色
(
がんしよく
)
を
和
(
やはら
)
げ、
179
二人
(
ふたり
)
の
先
(
さき
)
に
立
(
た
)
つて
刹帝利
(
せつていり
)
の
居間
(
ゐま
)
に
誘
(
いざな
)
ひ
行
(
ゆ
)
く。
180
(
大正一二・二・二一
旧一・六
於竜宮館
北村隆光
録)
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