霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第一一章 道晴別(みちはるわけ)〔一三九七〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第54巻 真善美愛 巳の巻 篇:第3篇 猪倉城寨 よみ(新仮名遣い):いのくらじょうさい
章:第11章 道晴別 よみ(新仮名遣い):みちはるわけ 通し章番号:1397
口述日:1923(大正12)年02月22日(旧01月7日) 口述場所:竜宮館 筆録者:松村真澄 校正日: 校正場所: 初版発行日:1925(大正14)年3月26日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]
治国別の従者となった晴彦は、玉国別を助けて河鹿峠の神殿造営に携わった。神殿が完成した暁に名を道晴別と賜り、治国別を追って、ビクトル山を通過し、シメジ峠にやってきた。
すると山道で、玉木村(フサの国)の豪農の僕たち三人連れに出会った。彼らが言うには、猪倉山にこのごろ砦を構えたバラモン軍の鬼春別将軍が主人の娘姉妹をさらっていったので、三五教の宣伝使に救助を依頼するべくビクトル山に行く途中だと言う。
道晴別はビクトル山は通過してしまったので、師匠や兄弟弟子たちと行き違いになったかもしれないと考えたが、玉木村の話を聞いて宣伝使として見過ごすことはできず、まずは一人でこの件を受諾することにした。
道晴別は僕たちに案内されて玉木村に向かった。その途中、玉木村の娘たちをさらったバラモン軍の二人の士官、フエルとベットが山道を張っていた。玉木村の者が、ビクトル山の治国別に応援を頼みに行かないように警戒していたのである。
フエルとベットは、道晴別が歌う宣伝歌の声が耳に入るとやにわに怖気づいてしまった。上官のフエルが逃げようとしたので、ベットは捕まえて逃げ出さないようにもみあっているところへ、道晴別たちがやってきた。
二人は道晴別の言霊で霊縛され、尋問を受けた。玉木村の僕の一人が、ベットが娘をさらいに来たバラモン軍の士官だと報告した。ベットとフエルはうまくごまかして逃げようとしたが、道晴別は霊縛したまま二人を玉木村まで連行した。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる] 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2024-04-10 15:00:00 OBC :rm5411
愛善世界社版:129頁 八幡書店版:第9輯 666頁 修補版: 校定版:129頁 普及版:58頁 初版: ページ備考:
001道晴別(みちはるわけ)(かむ)素盞嗚(すさのを)大神(おほかみ)
002神言(みこと)(かしこ)みウブスナの
003(うづ)聖地(せいち)立出(たちい)でて
004治国別(はるくにわけ)従者(とも)となり
005河鹿(かじか)(たうげ)打越(うちこ)えて
006魔神(まがみ)のたけぶ山口(やまぐち)
007(もり)一夜(いちや)()かす(をり)
008(たちま)(うし)(とき)(まゐ)
009妖怪(えうくわい)変化(へんげ)出現(しゆつげん)
010(あや)しみゐたる(をり)もあれ
011松彦司(まつひこつかさ)胆力(たんりよく)
012よくよく()れば(いもうと)
013(おも)(がけ)なき楓姫(かへでひめ)
014やれ(うれ)しやと兄妹(きやうだい)
015名乗(なのり)()ぐる(とき)もあれ
016(かみ)(めぐみ)(さち)はひて
017二人(ふたり)(おや)(めぐ)()
018(ほこら)(もり)立帰(たちかへ)
019玉国別(たまくにわけ)諸共(もろとも)
020(みづ)御舎(みあらか)()(をは)
021道晴別(みちはるわけ)()(たま)
022(わが)()(きみ)(あと)()
023(やうや)此処(ここ)(きた)りけり
024(なが)れも(きよ)きライオンの
025(ひろ)河瀬(かはせ)横切(よこぎ)りて
026ビクトル(さん)右手(めて)()
027(くさ)青々(あをあを)()ひしげる
028野路(のぢ)(わた)りて(いま)ここに
029シメジ(たうげ)()きにけり
030ああ惟神(かむながら)々々(かむながら)
031(わが)()(きみ)如何(いか)にして
032いづくの(はて)にましますか
033(こころ)(いそ)一人旅(ひとりたび)
034一日(ひとひ)(はや)大御神(おほみかみ)
035()はさせ(たま)惟神(かむながら)
036(かみ)御前(みまへ)()ぎまつる』
037(うた)(なが)ら、038シメジ(たうげ)(のぼ)(ぐち)(まで)やつて()たのは道晴別(みちはるわけ)である。039道晴別(みちはるわけ)はシメジ(たうげ)急坂(きふはん)(なが)めて、040(しば)(いき)(やす)めてゐた。041()りみ、042()らずみ、043五月雨(さみだれ)(そら)(ひく)うして、044時鳥(ほととぎす)(こゑ)彼方(あなた)此方(こなた)森林(しんりん)より(きこ)(きた)る。045(やま)()一面(いちめん)(みどり)新装(しんさう)()らし、046(なん)とはなく()(あつ)く、047上着(うはぎ)邪魔(じやま)になる(やう)気分(きぶん)になつて()た。048道晴別(みちはるわけ)急阪(きふはん)打仰(うちあふ)(なが)ら、
049道晴(みちはる)『ああ(なん)ときつい(さか)だらう。050(わが)()(きみ)(はじ)め、051松彦(まつひこ)052竜彦(たつひこ)053万公(まんこう)最早(もはや)此処(ここ)(とほ)られたであらうか、054(この)道端(みちばた)岩石(がんせき)(もの)()ふものならば()らしてくれるだらうに、055ああ仕方(しかた)がない。056()(この)岩上(がんじやう)端座(たんざ)して瞑想(めいさう)(ふけ)り、057()(きみ)(とほ)られたか(とほ)られないか(うかが)つてみよう。058(しか)(なが)らまだ自分(じぶん)(みたま)(みが)けてゐないから、059ハツキリした(こと)(わか)らぬ、060(こま)つたものだなア』
061(つぶや)いてゐる。062そこへ二三(にさん)(にん)(をとこ)()はし(さう)にスタスタと(さか)(くだ)つて()る。063(さん)(にん)岩上(がんじやう)道晴別(みちはるわけ)()て、
064(かふ)(シーナ)一寸(ちよつと)(もの)をお(たづ)(まを)します。065貴方(あなた)(さま)三五教(あななひけう)宣伝使(せんでんし)(さま)ぢや(ござ)いませぬか』
066道晴(みちはる)『ハイ、067拙者(せつしや)はお(さつ)しの(とほ)り、068道晴別(みちはるわけ)(まを)宣伝使(せんでんし)(ござ)います。069(なん)御用(ごよう)(ござ)るかな』
070(かふ)(シーナ)『かやうな(ところ)でお(はなし)申上(まをしあ)げても(おそ)(おほ)(ござ)いますが、071(じつ)(ところ)はビクトル(さん)(たふと)宣伝使(せんでんし)(あら)はれ、072人民(じんみん)(くるし)みをお(たす)(くだ)さるといふ(こと)(うけたま)はり、073主人(しゆじん)命令(めいれい)()つて、074(その)(かた)にお()にかかりたいと、075吾々(われわれ)(しもべ)(さん)(にん)危険(きけん)(をか)して、076此処(ここ)(まで)(まゐ)りました』
077道晴(みちはる)『ビクトル(さん)三五教(あななひけう)宣伝使(せんでんし)がゐるといふ(はなし)がありますかな、078はてなア』
079()()み、
080道晴(みちはる)『ああ失策(しま)つた、081こんな(こと)なら、082一寸(ちよつと)道寄(みちよ)りをして()たらよかつたに、083(わが)()(きみ)がまだ(あと)にゐられたかも()れない。084(あま)(おく)れたと(おも)うて(いそ)いで()たものだから、085大方(おほかた)行過(ゆきす)ぎたのだなア』
086(ひそ)かに小声(こごゑ)(ささや)いてゐる。
087(かふ)(シーナ)貴方(あなた)は、088さうすると、089三五教(あななひけう)宣伝使(せんでんし)()一行(いつかう)ぢや(ござ)いませぬか、090(なん)でも()(にん)(ばか)りゐられるといふ(こと)(ござ)いますが』
091道晴(みちはる)『ああ(その)()(にん)(かた)は、092(わたし)師匠(ししやう)なり友人(いうじん)だ。093ビクトル(さん)(たしか)にゐられるといふ(こと)(わか)つてゐるかな』
094(かふ)(シーナ)『イエイエ、095もうお()ちになつたか、096まだゐられますか、097それが判然(はつきり)(わか)らないのです』
098道晴(みちはる)『そして宣伝使(せんでんし)()ひに()くとは、099如何(いか)なる御用(ごよう)があるのかな』
100(かふ)(シーナ)『ハイ(じつ)(ところ)は、101(わたし)玉木村(たまきむら)豪農(がうのう)(しもべ)(ござ)いますが、102二人(ふたり)のお(ぢやう)さまが猪倉山(ゐのくらやま)山寨(さんさい)()(かま)へてゐる、103鬼春別(おにはるわけ)とか()ふバラモンのゼネラルの部下(ぶか)(とら)はれ(あそ)ばし、104()主人(しゆじん)夫婦(ふうふ)はいろいろ雑多(ざつた)とお(ぢやう)さまの()(うへ)(あん)じ、105(よる)(ひる)水行(すいぎやう)をして、106(かみ)(さま)にお(ねがひ)(あそ)ばした(ところ)107(ゆめ)のお(つげ)に、108ビクトル(さん)には三五教(あななひけう)宣伝使(せんでんし)()てゐられるから、109(その)(かた)にお(ねがひ)(まを)せば、110キツと取返(とりかへ)して(くだ)さるだらうとのお言葉(ことば)111それを(ちから)としてお(ねがひ)(まを)さむと、112此処(ここ)(まで)(まゐ)つたので(ござ)います』
113道晴(みちはる)『フーン、114それは()(どく)(こと)だ。115宣伝使(せんでんし)として、116こんな(こと)()いて見遁(みのが)(わけ)には()くまい。117()(かく)主人(しゆじん)(うち)案内(あんない)してくれ、118(かみ)(さま)()神力(しんりき)でキツと取返(とりかへ)して()げるから』
119(かふ)(シーナ)『ハイ有難(ありがた)(ござ)います。120(さだ)めて主人(しゆじん)(よろこ)ばれる(こと)でせう。121(しか)らばお(とも)(いた)します。122(これ)から(さん)()(ばか)り、123(この)(たうげ)(のぼ)(くだ)(あそ)ばしたならば、124つい(ちか)くの(むら)(ござ)います。125()(かく)そこ(まで)()(くだ)さいまして、126主人(しゆじん)御緩(ごゆつく)(はなし)をして(くだ)さいませ。127(この)(たうげ)はバラモン(ぐん)雑兵(ざふひやう)徘徊(はいくわい)(いた)しますれば、128随分(ずいぶん)()をつけて()つて(くだ)さいませ、129到底(たうてい)一人(ひとり)では(とほ)れない(ところ)(ござ)いますから、130かうして(さん)(にん)(まゐ)つたので(ござ)います。131ここへ()(まで)にも、132随分(ずいぶん)危険(きけん)()()うて(まゐ)りましたので(ござ)います』
133 道晴別(みちはるわけ)は、
134道晴(みちはる)『そんならお(まへ)主人(しゆじん)(たく)()かう』
135(さん)(にん)後前(あとさき)(したが)へ、136胸突阪(むなつきざか)(あへ)(あへ)(のぼ)つて()く。
137 シメジ(たうげ)山頂(さんちやう)(やや)平坦(へいたん)地点(ちてん)がある。138そこには(かぜ)()まれて、139枝振(えだぶり)のひねた面白(おもしろ)いパインが四五本(しごほん)(なら)びゐたり。140チューニック姿(すがた)二人(ふたり)(をとこ)141一人(ひとり)はベツトと()ひ、142一人(ひとり)はフエルと()ふ。143(ちひ)さい(いし)(こし)をかけて、144四方(よも)風景(ふうけい)見下(みおろ)(なが)雑談(ざつだん)(ふけ)つてゐた。
145ベツト『オイ、146随分(ずいぶん)(この)地方(ちはう)絶景(ぜつけい)ぢやないか。147どの(やま)も、148この(やま)も、149あの(とほ)(うへ)(はう)禿頭病(とくとうびやう)(あたま)のやうになつて、150(その)(あひだ)(あを)()が、151点綴(てんてつ)してゐる(さま)(まる)()()(やう)だ。152ライオン(がは)(なが)れは(かす)かに(おび)()いたやうに()えて()るが、153(おれ)(たち)随分(ずいぶん)154あこを(わた)つた(とき)にや苦労(くらう)をしたものだ』
155フエル『成程(なるほど)156中途(ちうと)(うま)屁古垂(へこた)れて、157貴様(きさま)四五丁(しごちやう)(ばか)押流(おしなが)され、158土人(どじん)(たす)けられて屁古垂(へこた)れた(とき)のザマは(いま)()()えるやうだ。159随分(ずいぶん)(はな)をたらしやがつて、160()(ねづみ)のやうになつて、161(くちびる)まで紫色(むらさきいろ)()めて()つた(とき)のザマつて、162なかつたよ。163あの(とき)(おれ)がゐなかつたら、164貴様(きさま)土人(どじん)(さら)はれて、165嬲殺(なぶりごろ)しに()うて()つたか(わか)らぬのだ。166無類(むるゐ)()()りの悪党(あくたう)だからなア』
167ベツト『ヘン、168偉相(えらさう)()ふない、169(これ)でもバラモン(ぐん)の、170グレジナアーだ。171第一(だいいち)玉木村(たまきむら)豪農(がうのう)(むすめ)スミエル、172スガールの両人(りやうにん)(うま)くチヨロまかし、173猪倉山(ゐのくらやま)本陣(ほんぢん)()れて(かへ)つたのも、174ヤツパリ(この)ベツトだから、175(えら)(もの)だらう。176(あく)もここ(まで)徹底(てつてい)せないと貴様(きさま)のやうな(こと)では到底(たうてい)軍人(ぐんじん)にはなれやしないぞ。177ゴテゴテ(まを)さずに(おれ)命令(めいれい)服従(ふくじゆう)するのだ。178(また)(おれ)(うま)くゼネラルに取持(とりも)つて伍長(ごちやう)(ぐらゐ)にはして(もら)うてやるワイ』
179フエル『ヘン、180馬鹿(ばか)にすない、181(おれ)はかうみえても准士官(じゆんしくわん)だ、182少尉(せうゐ)候補生(こうほせい)だ。183(きさま)はまだ軍曹(ぐんさう)ぢやないか、184(おれ)()()けて()るのを()らぬのかい』
185ベツト『ヘン、186(うま)(こと)()ふない。187(きさま)肩章(けんしやう)()れば()(わか)つてるぢやないか』
188フエル『サア、189そこが秘密(ひみつ)(やく)(おほ)せつかつてゐる(だけ)で、190エッボオーレッポの(しるし)()いてあるのだ。191モウ一月(ひとつき)もすれば、192立派(りつぱ)なユウンケルだ。193さうすれば、194(きさま)195(おれ)(あご)使(つか)つてやるのだから、196(いま)(うち)機嫌(きげん)()つておかぬと出世(しゆつせ)(さまた)げになるぞ。197(うそ)(おも)ふなら(これ)をみい』
198(えり)(ひつ)くり(かへ)して()せた。199ベツトはよくよく(のぞ)いて()ると、200ユウンケル候補生(こうほせい)(しるし)がついてゐる。201(たちま)大地(だいち)平太張(へたば)り、
202ベツト『これはこれは上官(じやうくわん)とは()らず、203(まこと)失礼(しつれい)(いた)しました』
204フエル『アハハハハ、205往生(わうじやう)したか、206バラモン(ぐん)のマーシヤル閣下(かくか)より内命(ないめい)()けて()るのだぞ。207(しか)(きさま)部下(ぶか)(とも)()(かへ)つた二人(ふたり)(をんな)は、208何時(なんどき)取返(とりかへ)しに()るか()れぬから、209ここに(ばん)をしてゐるのだ。210豪農(がうのう)テームスの(しもべ)(やつ)が、211ビクトル(さん)()三五教(あななひけう)宣伝使(せんでんし)報告(はうこく)()きよつたら、212()れこそ大変(たいへん)だから、213(この)一筋道(ひとすぢみち)(やく)して、214一人(ひとり)(のこ)らず此処(ここ)(とほ)(やつ)取調(とりしら)べ、215(あや)しとみたならば、216(くび)()ねるのだ。217(この)頂上(ちやうじやう)(ただ)一人(ひとり)()れば、218仮令(たとへ)何万(なんまん)(にん)()()ても、219一度(いちど)にかかる(わけ)には()かぬのだから、220(きさま)交替兵(かうたいへい)()(まで)神妙(しんめう)(つと)めて()るのだぞ』
221ベツト『ハイ、222承知(しようち)(いた)しました。223(しか)しどうも(わたし)一人(ひとり)では、224心細(こころぼそ)(ござ)います。225(かは)りが()(まで)226ここに(しばら)貴方(あなた)付合(つきあ)つて(もら)ひますまいか、227どうやら宣伝使(せんでんし)(こゑ)(きこ)えて()るやうですから……』
228 フエルは(かす)かに三五教(あななひけう)宣伝歌(せんでんか)(みみ)這入(はい)つたので、229(はや)くも、230ベツトを此処(ここ)におき自分(じぶん)(てい)よく逃出(にげだ)(かんが)へで、231こんな命令(めいれい)(くだ)してゐた。232宣伝歌(せんでんか)益々(ますます)(たか)(きこ)えて()た。
233フエル『オイ、234ベツト、235サア、236ここが(きさま)手柄(てがら)(あらは)(どき)だ。237(おれ)軍務(ぐんむ)都合(つがふ)()つて、238ここを退却(たいきやく)する、239(しつか)(たの)むぞ』
240ベツト『マア、241一寸(ちよつと)()つて(くだ)さい。242千騎(せんき)一騎(いつき)(この)場合(ばあひ)243貴方(あなた)(てい)よい(こと)()つて()げるのぢやありませぬか。244何程(なにほど)軍務(ぐんむ)(いそが)しいと()つて、245眼前(がんぜん)(てき)(ひか)へて、246大将(たいしやう)から()げると()(こと)がありますか』
247とグツと(うしろ)から、248フエルに()()き、249剛力(がうりき)(まか)せて(うご)かさぬ、250フエルは()()さうとすれ(ども)251ビクともする(こと)出来(でき)ぬ。252()げやうとする、253()がそまいとする。254(あせ)みどろになつて()みあうてゐる(ところ)へ、255(やうや)(のぼ)つて()たのは道晴別(みちはるわけ)であつた。256ベツト、257フエルは道晴別(みちはるわけ)姿(すがた)()て、258おぢけづき、259手足(てあし)はワナワナ(ふる)()し、260バタリと地上(ちじやう)(こし)(おろ)した。
261道晴(みちはる)『お(まへ)はバラモン(ぐん)兵士(へいし)()えるが、262玉木村(たまきむら)豪農(がうのう)テームスの(むすめ)263スミエル、264スガールの両人(りやうにん)猪倉山(ゐのくらやま)山寨(さんさい)(かく)してゐると()(こと)だが、265(まへ)はそれを()つてゐるか』
266ベツト『ヘーヘーヘー、267()つから(ぞん)じませぬ。268そんな(うはさ)があつたやうにも(ござ)いましたが、269よくよく調(しら)べてみますると、270(まつた)く……(うそ)(ござ)いました。271(わたし)はゼネラルの従卒(じゆうそつ)(いた)して()りましたから、272(なに)もかも陣中(ぢんちう)(こと)(ぞん)じて()りますが、273(をんな)なんかは一人(ひとり)()りませぬ』
274 (かふ)はベツトの(かほ)()て、
275(かふ)(シーナ)『ああお(まへ)はお(ぢやう)さまを、276(この)(あひだ)277四五(しご)(にん)(をとこ)()れて()りに()大将(たいしやう)だなア……、278モシ宣伝使(せんでんし)(さま)279(この)(をとこ)(ござ)います。280此奴(こいつ)()(かへ)つたのですから、281よくお(しら)(くだ)さいませ』
282ベツト『エエ滅相(めつさう)な、283(わたし)()(かほ)沢山(たくさん)()りますから、284取違(とりちが)へて(もら)つては(こま)ります。285コレ、286テームスさまの(うち)(やつこ)さま、287()(わたし)(かほ)()(くだ)さい。288()(ところ)があつても、289どつかに(ちが)つた(ところ)があるだらう。290(まへ)(あま)(にはか)(こと)(おどろ)いたから間違(まちが)つたのだらう。291テームスやベリシナが、292何卒(どうぞ)(むすめ)(だけ)(こら)へて(くだ)さい。293(その)(かは)(わたし)を……と()つた(とき)に、294(かほ)もあげずに(うつむ)いて()つたぢやないか。295(まへ)(たち)もさうだつたらう、296(こは)(とき)()でみたら、297キツと見違(みちが)ひするものだ』
298(かふ)(シーナ)『ハツハハハ、299(わたし)主人(しゆじん)()つた言葉(ことば)や、300(その)(とき)状況(じやうきやう)(まで)(いま)()つたでないか。301さうすればヤツパリお(まへ)(ちが)ひない。302先生(せんせい)303此奴(こいつ)(ござ)います。304何卒(どうぞ)(ひと)つドテライ()()はして、305(ぢやう)さまを取返(とりかへ)すやうに(めい)じて(くだ)さいませ』
306道晴(みちはる)『ウン、307よし、308オイ、309ベツト、310本当(ほんたう)(こと)()はぬと、311此方(こちら)にも(かんが)へがあるぞ』
312ベツト『エー、313(じつ)(ところ)は、314此処(ここ)(ござ)るフエルさまの命令(めいれい)()りまして、315ホンの機械(きかい)(てき)(うご)いたので(ござ)います。316何卒(どうぞ)フエルさまに談判(だんぱん)をして(くだ)さいませ。317(いま)貴方(あなた)のお(こゑ)(きこ)えたので、318(この)フエルさまがビツクリして()げようとした(ところ)を、319(わたし)()()めて、320貴方(あなた)突出(つきだ)さうと(おも)ひ、321(いま)格闘(かくとう)してをつたのです。322()はば(この)(をとこ)張本人(ちやうほんにん)ですから、323(わたし)(その)張本人(ちやうほんにん)(つか)まへた()褒美(ほうび)に、324何卒(どうぞ)(たす)けて(くだ)さいな』
325フエル『コリヤ、326ベツト、327馬鹿(ばか)()ふな、328(おれ)何時(いつ)そんな命令(めいれい)をしたか』
329ベツト『ヘヘヘヘヘ、330(うま)(こと)仰有(おつしや)いますワイ、331モシ宣伝使(せんでんし)(さま)332(この)フエルは普通兵(ふつうへい)肩章(けんしやう)をかけて()りまするが、333此奴(こいつ)(あく)証拠(しようこ)にや、334襟裏(えりうら)にユウンケル候補生(こうほせい)(しるし)()つて()ります。335それをお調(しら)べになつたら一番(いちばん)よう(わか)ります。336(わたし)御存(ごぞん)じの(とほ)軍曹(ぐんさう)ですから……』
337道晴(みちはる)『どちらが(ぜん)(あく)()らぬが、338()(かく)自分(じぶん)(つみ)上官(じやうくわん)()りつけようとする(ところ)から(かんが)へてみれば、339ヤツパリ貴様(きさま)(はう)(わる)い。340まて、341(いま)言霊(ことたま)()馳走(ちそう)をやる、342(あく)(つよ)(やつ)言霊(ことたま)()たれようがきついから、343直様(すぐさま)(わか)るのだ』
344(かふ)(シーナ)『ハハハハハ、345(その)ザマ(なん)だ。346(よる)夜中(よなか)に、347四五(しご)(にん)雑兵(ざふひやう)()れて()やがつて、348偉相(えらさう)威張(ゐばり)()らした(とき)権幕(けんまく)と、349今日(けふ)権幕(けんまく)とは、350まるで(おに)餓鬼(がき)(ほど)(ちが)ふぢやないか。351ザマ()やがれ。352三五教(あななひけう)宣伝使(せんでんし)(あら)はれた以上(いじやう)は、353仮令(たとへ)バラモンに幾万(いくまん)(てき)()らうと()のお(ちや)だ、354エヘヘヘヘ、355よい気味(きみ)だな』
356道晴(みちはる)『オイ(かふ)357せうもない(こと)()ふものでない。358(まへ)(だま)つてをれば()いのだ。359バラモン(ぐん)のフエル殿(どの)360鬼春別(おにはるわけ)361久米彦(くめひこ)両将軍(りやうしやうぐん)はお達者(たつしや)(ござ)るかな』
362フエル『ハイ()親切(しんせつ)有難(ありがた)(ござ)います。363(きは)めて壮健(さうけん)軍務(ぐんむ)にお(つく)しになつて()ります』
364道晴(みちはる)『さうか、365それや(じつ)にバラモン(ぐん)(ため)には大慶(たいけい)だ。366(しか)しモウ()うなつては(かく)しても駄目(だめ)だから、367実地(じつち)(こと)()つて(もら)ひたい』
368フエル『ハイ、369(わたし)直接(ちよくせつ)(その)(にん)(あた)つたのぢやありませぬが、370玉木村(たまきむら)豪農(がうのう)(むすめ)スミエル、371スガールといふ美人(びじん)(たしか)にゼネラルの(そば)()りまする』
372道晴(みちはる)『あ、373さうだらう、374よう()つてくれた。375(しか)しお(まへ)(たち)両人(りやうにん)は、376(この)(まま)(かへ)してやるは(やす)いが、377(また)すべての計画(けいくわく)障害(しやうがい)になると(こま)るから、378()(かく)379玉木村(たまきむら)のテームスが(いへ)まで()いて()てくれ』
380フエル『ハイ、381ソレヤ()かぬこた(ござ)いませぬが、382それよりも此処(ここ)見逃(みのが)して(くだ)さいますれば、383(うま)二人(ふたり)(むすめ)(たす)()して()ますがなア、384のう、385ベツト、386ここは思案(しあん)仕所(しどころ)だ。387一層(いつそう)(こと)388バラモン(ぐん)脱退(だつたい)して、389三五(あななひ)のお(みち)帰順(きじゆん)するお土産(みやげ)として、390二人(ふたり)玉木村(たまきむら)(かへ)さうだないか』
391ベツト『ヘーン、392そんな(こと)出来(でき)ますかな』
393 フエルは()をグツと(にら)み、
394フエル馬鹿(ばか)だなア、395(なん)とか()とか()つてここを(たす)かるのだ、396チと()をつけぬかい』
397といふ意味(いみ)()()らした。
398ベツト『モシ道晴別(みちはるわけ)(さま)399フエルの大将(たいしやう)様子(やうす)御覧(ごらん)になれば、400どちらが(ぜん)(あく)(わか)るでせう。401()(かく)(わたし)帰順(きじゆん)(いた)します。402何卒(どうぞ)霊縛(れいばく)()いて(くだ)さい()恩返(おんがへ)しを(いた)しますから……』
403道晴(みちはる)『ハハハ、404(いま)霊縛(れいばく)()いたら、405一目散(いちもくさん)逃出(にげだ)すだらう。406()(かく)玉木村(たまきむら)()るがよい。407何程(なにほど)(いや)(まを)しても、408神力(しんりき)()つて引張(ひつぱ)つて()く、409どこなつと()くなら()つてみよ』
410()(なが)ら、411(さん)(にん)(やつこ)()れて、412シメジ(たうげ)急阪(きふはん)(くだ)()く。413フエル、414ベツトは(つな)をつけて引張(ひつぱ)られるやうな心地(ここち)し、415足元(あしもと)(あやふ)く、416(いや)(さう)自然(しぜん)(てき)()いてゆく。417(やうや)くにして玉木村(たまきむら)(やや)(ひろ)原野(げんや)中央(まんなか)に、418老木(らうぼく)(しげ)一構(ひとかま)へがある。419ここがテームスの屋敷(やしき)であつた。420道晴別(みちはるわけ)宣伝歌(せんでんか)(うた)(なが)ら、421(さん)(にん)(やつこ)案内(あんない)され、422フエル、423ベツトを霊縛(れいばく)した(まま)門内(もんない)(まね)()れられたり。
424大正一二・二・二二 旧一・七 於竜宮館 松村真澄録)
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