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第75巻(寅の巻)
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第54巻(巳の巻)
序文
総説
第1篇 神授の継嗣
01 子宝
〔1387〕
02 日出前
〔1388〕
03 懸引
〔1389〕
04 理妻
〔1390〕
05 万違
〔1391〕
06 執念
〔1392〕
第2篇 恋愛無涯
07 婚談
〔1393〕
08 祝莚
〔1394〕
09 花祝
〔1395〕
10 万亀柱
〔1396〕
第3篇 猪倉城寨
11 道晴別
〔1397〕
12 妖瞑酒
〔1398〕
13 岩情
〔1399〕
14 暗窟
〔1400〕
第4篇 関所の玉石
15 愚恋
〔1401〕
16 百円
〔1402〕
17 火救団
〔1403〕
第5篇 神光増進
18 真信
〔1404〕
19 流調
〔1405〕
20 建替
〔1406〕
21 鼻向
〔1407〕
22 凱旋
〔1408〕
附録 神文
余白歌
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> 第4篇 関所の玉石 > 第17章 火救団
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第一七章
火救団
(
くわきうだん
)
〔一四〇三〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第54巻 真善美愛 巳の巻
篇:
第4篇 関所の玉石
よみ(新仮名遣い):
せきしょのぎょくせき
章:
第17章 火救団
よみ(新仮名遣い):
かきゅうだん
通し章番号:
1403
口述日:
1923(大正12)年02月23日(旧01月8日)
口述場所:
竜宮館
筆録者:
北村隆光
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1925(大正14)年3月26日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
次に八衢の関所にやってきた女は、スミエルだった。守衛との問答の中で、スミエルは自分が婿養子の縁談を断っていたのは、番頭のシーナに恋着していたことを明かす。
スミエルは夫婦の理想こそが重要で、双方に人格が平等な関係でなければ真の結婚とは言えないと結婚論を披露した。赤の守衛は、また恋愛至上主義者がやってきたと言いながらも、スミエルの論が最も優れていると評した。
そこへスガールがやってきた。守衛は二人に対して、二人の肉体は暗い落とし穴に放り込まれているが、まだ生死簿には寿命が残っているからには神様が何とかして現界に帰してくれるだろう、と言い渡した。
そこへ道治別とシーナが宣伝歌を歌いながらやってきた。道晴別とシーナも、守衛からまだ寿命が残っていることを知らされた。赤の守衛は四人に対して、何れ立派な宣伝使の精霊がやってきて、四人を現界に連れて行ってくれるだろうと述べた。
すると東の方から呼ばわる声が聞こえてきた。一道の光明が低空を轟かして進み来たり、四人の前に緩やかに落ちた。火団はたちまち四柱の神人と化した。
道晴別がよくよく見れば、師匠の治国別、松彦、竜彦、万公の一行であった。道晴別はうれし涙にくれながら、四人に呼びかけてお礼を述べた。
いつとはなしに四方から普遍的な光明が差してきた。この光明に照らされて、八人の姿は煙のように消えてしまった。八衢の関所も、赤と白の守衛の姿も見えなくなった。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
OBC :
rm5417
愛善世界社版:
211頁
八幡書店版:
第9輯 697頁
修補版:
校定版:
214頁
普及版:
99頁
初版:
ページ備考:
001
八衢
(
やちまた
)
の
関所
(
せきしよ
)
にトボトボとやつて
来
(
き
)
た
一人
(
ひとり
)
の
女
(
をんな
)
がある。
002
守衛
(
しゆゑい
)
は
女
(
をんな
)
に
向
(
むか
)
ひ、
003
赤
(
あか
)
『ここは
八衢
(
やちまた
)
の
関所
(
せきしよ
)
だ、
004
一寸
(
ちよつと
)
調
(
しら
)
べる
事
(
こと
)
があるから
待
(
ま
)
つて
貰
(
もら
)
ひ
度
(
た
)
い』
005
女
(
をんな
)
はハツと
驚
(
おどろ
)
いて
叮嚀
(
ていねい
)
に
辞儀
(
じぎ
)
をし
乍
(
なが
)
ら、
006
女
(
をんな
)
『ハイ、
007
何
(
なに
)
か
御用
(
ごよう
)
で
厶
(
ござ
)
りますか』
008
赤
(
あか
)
『お
前
(
まへ
)
は
何処
(
どこ
)
の
女
(
をんな
)
だ。
009
姓名
(
せいめい
)
を
聞
(
き
)
かして
貰
(
もら
)
はう』
010
女
(
をんな
)
『ハイ、
011
私
(
わたし
)
はフサの
国
(
くに
)
、
012
玉木村
(
たまきむら
)
のテームスの
娘
(
むすめ
)
スミエルと
申
(
まを
)
します』
013
守衛
(
しゆゑい
)
は『フサの
国
(
くに
)
フサの
国
(
くに
)
』と
云
(
い
)
ひ
乍
(
なが
)
ら
横
(
よこ
)
に
長
(
なが
)
い
帳面
(
ちやうめん
)
を
念入
(
ねんい
)
りにめくつて、
014
赤
(
あか
)
『お
前
(
まへ
)
は
未
(
ま
)
だ
未婚者
(
みこんしや
)
だなア』
015
スミエル『ハイ、
016
左様
(
さやう
)
で
厶
(
ござ
)
ります。
017
どうも
縁
(
えん
)
が
遠縁
(
とほえん
)
で
厶
(
ござ
)
りまして
困
(
こま
)
つて
居
(
を
)
ります』
018
赤
(
あか
)
『
今
(
いま
)
迄
(
まで
)
幾度
(
いくど
)
ともなく
縁談
(
えんだん
)
の
申
(
まを
)
し
込
(
こ
)
みがあつたぢやないか。
019
何故
(
なぜ
)
両親
(
りやうしん
)
の
言葉
(
ことば
)
を
聞
(
き
)
いて
早
(
はや
)
く
養子
(
やうし
)
を
迎
(
むか
)
へなかつたか』
020
スミエル『
随分
(
ずいぶん
)
立派
(
りつぱ
)
な
養子
(
やうし
)
も
申
(
まを
)
し
込
(
こ
)
んで
下
(
くだ
)
さいましたけれど、
021
御存
(
ごぞん
)
じの
通
(
とほ
)
りお
多福
(
たふく
)
で
厶
(
ござ
)
りますれば、
022
心
(
しん
)
から
私
(
わたくし
)
を
愛
(
あい
)
して
養子
(
やうし
)
に
来
(
く
)
る
人
(
ひと
)
はありませぬ。
023
皆
(
みんな
)
父
(
ちち
)
の
財産
(
ざいさん
)
を
相続
(
さうぞく
)
するのが
目的
(
もくてき
)
で
養子
(
やうし
)
の
申
(
まを
)
し
込
(
こ
)
みがあるのですから、
024
そんな
犠牲
(
ぎせい
)
にせられちや
堪
(
たま
)
りませぬからな。
025
既
(
すで
)
に
養子
(
やうし
)
とならば
主人
(
しゆじん
)
です。
026
両親
(
りやうしん
)
の
目
(
め
)
の
黒
(
くろ
)
い
間
(
うち
)
は
兎
(
と
)
も
角
(
かく
)
、
027
両親
(
りやうしん
)
が
国替
(
くにがへ
)
でも
致
(
いた
)
しましたら、
028
そろそろ
被
(
かぶ
)
つて
居
(
ゐ
)
た
猫
(
ねこ
)
の
皮
(
かは
)
を
剥
(
は
)
ぎ
本性
(
ほんしやう
)
を
現
(
あら
)
はし、
029
美
(
うつく
)
しき
女
(
をんな
)
を
妾
(
てかけ
)
に
置
(
お
)
いたり、
030
或
(
あるひ
)
は
本妻
(
ほんさい
)
をおつ
放
(
ぽ
)
り
出
(
だ
)
し、
031
妾
(
てかけ
)
を
本妻
(
ほんさい
)
にする
悪性
(
あくしやう
)
男
(
をとこ
)
の
多
(
おほ
)
い
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
ですから、
032
うつかり
養子
(
やうし
)
を
貰
(
もら
)
ふ
訳
(
わけ
)
にも
参
(
まゐ
)
りませぬ』
033
赤
(
あか
)
『お
前
(
まへ
)
は
実際
(
じつさい
)
の
所
(
ところ
)
、
034
番頭
(
ばんとう
)
のシーナに
恋着
(
れんちやく
)
してゐるのだらう。
035
それだから
左様
(
さやう
)
な
事
(
こと
)
を
申
(
まを
)
して、
036
立派
(
りつぱ
)
な
養子
(
やうし
)
があつても
皆
(
みな
)
刎
(
は
)
ねつけてゐるのだらうがな』
037
スミエル『お
察
(
さつ
)
しの
通
(
とほ
)
り、
038
宅
(
うち
)
に
置
(
お
)
いた
番頭
(
ばんとう
)
で
厶
(
ござ
)
りますけれど、
039
ラブに
上下
(
じやうげ
)
の
区別
(
くべつ
)
は
厶
(
ござ
)
りませぬ。
040
又
(
また
)
番頭
(
ばんとう
)
を
養子
(
やうし
)
にして
置
(
お
)
けば、
041
世間
(
せけん
)
の
夫
(
をつと
)
の
様
(
やう
)
に
威張
(
ゐば
)
らなくて
何程
(
なにほど
)
宜
(
い
)
いか
知
(
し
)
れませぬから、
042
家
(
いへ
)
の
為
(
た
)
めにも
自分
(
じぶん
)
の
為
(
た
)
めにも
大変
(
たいへん
)
好都合
(
かうつがふ
)
と
存
(
ぞん
)
じまして、
043
両親
(
りやうしん
)
は
如何
(
どう
)
考
(
かんが
)
へてるか
知
(
し
)
りませぬが、
044
私
(
わたくし
)
はそれに
定
(
き
)
めて
居
(
を
)
ります。
045
何程
(
なにほど
)
番頭
(
ばんとう
)
と
云
(
い
)
つても
人格
(
じんかく
)
に
変
(
かは
)
りはありませぬ。
046
凡
(
すべ
)
て
男
(
をとこ
)
も
女
(
をんな
)
も
相互
(
あひたがひ
)
に
個人
(
こじん
)
としての
人格
(
じんかく
)
を
基礎
(
きそ
)
として
結合
(
けつがふ
)
すべきものだと
思
(
おも
)
ひます。
047
一方
(
いつぱう
)
から
一方
(
いつぱう
)
を
奴隷扱
(
どれいあつか
)
ひするのでもなく
物品視
(
ぶつぴんし
)
するのでもなく、
048
又
(
また
)
神
(
かみ
)
の
如
(
ごと
)
く
尊崇
(
そんすう
)
するのでもない。
049
双方
(
さうはう
)
共
(
とも
)
に
平等
(
べうどう
)
の
人格
(
じんかく
)
と
人格
(
じんかく
)
との
結合
(
けつがふ
)
でなければ
真
(
しん
)
の
恋愛
(
れんあい
)
でもなく、
050
結婚
(
けつこん
)
でもありませぬ。
051
今日
(
こんにち
)
の
如
(
ごと
)
き
男尊
(
だんそん
)
女卑
(
ぢよひ
)
的
(
てき
)
の
結婚
(
けつこん
)
は
実
(
じつ
)
に
不合理
(
ふがふり
)
極
(
きは
)
まるもので、
052
其
(
その
)
性的
(
せいてき
)
関係
(
くわんけい
)
に
就
(
つ
)
いても
殆
(
ほとん
)
ど
主人
(
しゆじん
)
と
奴僕
(
どぼく
)
の
如
(
ごと
)
く、
053
顧客
(
こきやく
)
と
商品
(
しやうひん
)
との
如
(
ごと
)
く、
054
或
(
あるひ
)
は
牝馬
(
ひんば
)
と
種馬
(
たねうま
)
との
如
(
ごと
)
く、
055
個人
(
こじん
)
として
已
(
すで
)
に
一度
(
ひとたび
)
目
(
め
)
の
覚
(
さ
)
めた
人間
(
にんげん
)
から
見
(
み
)
れば
甚
(
はなは
)
だしく
非人間
(
ひにんげん
)
的
(
てき
)
な
非論理
(
ひろんり
)
的
(
てき
)
な
性的
(
せいてき
)
関係
(
くわんけい
)
だと
云
(
い
)
はねばなりますまい。
056
夫
(
をつと
)
が
女房
(
にようばう
)
に
対
(
たい
)
して
可愛
(
かあい
)
がるとか、
057
面倒
(
めんだう
)
を
見
(
み
)
てやるとか、
058
優
(
やさし
)
くするとか
等
(
など
)
の
言葉
(
ことば
)
に
対
(
たい
)
して、
059
妻
(
つま
)
の
方
(
はう
)
から
旦那
(
だんな
)
様
(
さま
)
のお
気
(
き
)
に
入
(
い
)
るとか、
060
可愛
(
かあい
)
がられるとか
云
(
い
)
ふ
言葉
(
ことば
)
が
存立
(
そんりつ
)
し
得
(
う
)
る
如
(
ごと
)
き
夫婦
(
ふうふ
)
関係
(
くわんけい
)
は、
061
そこに
仮令
(
たとへ
)
如何
(
いか
)
なる
愛情
(
あいじやう
)
が
存在
(
そんざい
)
して
居
(
を
)
らうとも、
062
決
(
けつ
)
して
真正
(
しんせい
)
な
結婚
(
けつこん
)
ではありませぬ。
063
飼
(
か
)
ひ
主
(
ぬし
)
が
愛犬
(
あいけん
)
に
対
(
たい
)
する
愛情
(
あいじやう
)
、
064
或
(
あるひ
)
は
資本家
(
しほんか
)
が
賃金
(
ちんぎん
)
報酬
(
ほうしう
)
に
対
(
たい
)
する
温情
(
をんじやう
)
主義
(
しゆぎ
)
と
称
(
しよう
)
するものと
何
(
なん
)
等
(
ら
)
異
(
こと
)
なるものなきもので、
065
真
(
しん
)
の
人
(
ひと
)
と
人
(
ひと
)
との
道徳
(
だうとく
)
的
(
てき
)
な
関係
(
くわんけい
)
ではありませぬ。
066
女性
(
ぢよせい
)
に
向
(
むか
)
つて
只々
(
ただただ
)
温良
(
をんりやう
)
貞淑
(
ていしゆく
)
をのみ
強要
(
きやうえう
)
せむとする
如
(
ごと
)
き
夫
(
をつと
)
は、
067
所謂
(
いはゆる
)
奴隷
(
どれい
)
の
道徳
(
だうとく
)
を
異性
(
いせい
)
に
強
(
し
)
ゆるものであります。
068
私
(
わたくし
)
等
(
たち
)
は
社会
(
しやくわい
)
の
因襲
(
いんしふ
)
的
(
てき
)
、
069
かかる
悪弊
(
あくへい
)
は
絶対
(
ぜつたい
)
的
(
てき
)
に
排除
(
はいじよ
)
したいもので
厶
(
ござ
)
います。
070
今日
(
こんにち
)
の
多
(
おほ
)
くの
婦人
(
ふじん
)
の
間
(
あひだ
)
に
媚
(
こ
)
びるとか、
071
甘
(
あま
)
へるとか、
072
じやれるとか、
073
飼
(
か
)
ひ
犬
(
いぬ
)
や、
074
飼
(
か
)
ひ
猫
(
ねこ
)
と
共通
(
きようつう
)
的
(
てき
)
な
性情
(
せいじやう
)
をさへ
具有
(
ぐいう
)
せしむるに
至
(
いた
)
つた
悲
(
かな
)
しむべき
事実
(
じじつ
)
を
見
(
み
)
るに
至
(
いた
)
つたのは、
075
畢竟
(
つまり
)
今
(
いま
)
迄
(
まで
)
の
人間
(
にんげん
)
に
少
(
すこ
)
しも
恋愛
(
れんあい
)
結婚
(
けつこん
)
に
対
(
たい
)
する
理解力
(
りかいりよく
)
がなかつたからで
厶
(
ござ
)
います。
076
私
(
わたし
)
は
第一
(
だいいち
)
、
077
主人
(
しゆじん
)
だとか
番頭
(
ばんとう
)
だとかの
下
(
くだ
)
らぬ
障壁
(
しやうへき
)
を
取除
(
とりのぞ
)
き、
078
神聖
(
しんせい
)
なる
恋愛
(
れんあい
)
に
生
(
い
)
き
度
(
た
)
いもので
厶
(
ござ
)
います。
079
それ
故
(
ゆゑ
)
何程
(
なにほど
)
立派
(
りつぱ
)
な
男
(
をとこ
)
でも
智者
(
ちしや
)
学者
(
がくしや
)
でも、
080
此
(
この
)
間
(
かん
)
の
道理
(
だうり
)
が
分
(
わか
)
らない
頑固
(
ぐわんこ
)
な
人
(
ひと
)
には、
081
一身
(
いつしん
)
を
任
(
まか
)
せる
事
(
こと
)
は
出来
(
でき
)
ませぬ。
082
恋愛
(
れんあい
)
至上
(
しじやう
)
の
思想
(
しさう
)
があつて
初
(
はじ
)
めて
一夫
(
いつぷ
)
一婦
(
いつぷ
)
の
的確
(
てきかく
)
なる
精神
(
せいしん
)
的
(
てき
)
、
083
道理
(
だうり
)
的
(
てき
)
、
084
合理
(
がふり
)
的
(
てき
)
基礎
(
きそ
)
を
与
(
あた
)
ふる
事
(
こと
)
が
出来
(
でき
)
るものでせう。
085
それ
以外
(
いぐわい
)
の
一夫
(
いつぷ
)
一婦
(
いつぷ
)
論
(
ろん
)
は
偽善説
(
ぎぜんせつ
)
にあらざれば、
086
即
(
すなは
)
ち
単
(
たん
)
なる
便宜
(
べんぎ
)
的
(
てき
)
、
087
因襲
(
いんしふ
)
的
(
てき
)
、
088
実利
(
じつり
)
的
(
てき
)
の
御
(
ご
)
都合主義
(
つがふしゆぎ
)
か、
089
形式
(
けいしき
)
主義
(
しゆぎ
)
たるものに
過
(
す
)
ぎないでせう。
090
理想
(
りさう
)
の
合
(
あ
)
はない
夫婦
(
ふうふ
)
は、
091
何時
(
いつ
)
か
相互
(
さうご
)
の
間
(
あひだ
)
に
必然
(
ひつぜん
)
的
(
てき
)
紛擾
(
ふんぜう
)
を
起
(
おこ
)
し、
092
モルモン
宗
(
しう
)
の
様
(
やう
)
に
一夫
(
いつぷ
)
多妻
(
たさい
)
主義
(
しゆぎ
)
を
止
(
や
)
むを
得
(
え
)
ず
採
(
と
)
らなければならない
様
(
やう
)
になります。
093
又
(
また
)
女
(
をんな
)
の
方
(
はう
)
では
已
(
や
)
むを
得
(
え
)
ずラマ
教
(
けう
)
の
様
(
やう
)
に、
094
表面
(
へうめん
)
は
兎
(
と
)
も
角
(
かく
)
、
095
裏面
(
りめん
)
に
一妻
(
いつさい
)
多夫
(
たふ
)
主義
(
しゆぎ
)
を
心
(
こころ
)
ならずも
行
(
おこな
)
はねばならぬ
様
(
やう
)
な
破目
(
はめ
)
になりますから、
096
此
(
この
)
結婚
(
けつこん
)
問題
(
もんだい
)
のみは、
097
何程
(
なにほど
)
両親
(
りやうしん
)
の
言葉
(
ことば
)
だと
云
(
い
)
つても
承諾
(
しようだく
)
する
事
(
こと
)
は
出来
(
でき
)
ませぬ。
098
それ
故
(
ゆゑ
)
番頭
(
ばんとう
)
のシーナさまも
私
(
わたし
)
も
困
(
こま
)
り
果
(
は
)
てて
居
(
ゐ
)
るのですよ。
099
頑迷
(
ぐわんめい
)
不霊
(
ふれい
)
の
親
(
おや
)
を
持
(
も
)
つた
娘
(
むすめ
)
位
(
ぐらゐ
)
不幸
(
ふかう
)
な
者
(
もの
)
は
厶
(
ござ
)
いませぬ』
100
赤
(
あか
)
『またしても
恋愛
(
れんあい
)
神聖論
(
しんせいろん
)
者
(
しや
)
がやつて
来
(
き
)
て、
101
吾々
(
われわれ
)
の
頭脳
(
づなう
)
に
一種
(
いつしゆ
)
異様
(
いやう
)
の
反響
(
はんきやう
)
を
与
(
あた
)
へよつた。
102
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
此
(
この
)
女
(
をんな
)
の
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
も、
103
今日
(
こんにち
)
の
人間
(
にんげん
)
としては
最
(
もつとも
)
勝
(
すぐ
)
れた
考
(
かんが
)
へだ』
104
斯
(
か
)
く
云
(
い
)
ふ
所
(
ところ
)
へ
少
(
すこ
)
しく
年
(
とし
)
の
若
(
わか
)
い、
105
非常
(
ひじやう
)
な
美人
(
びじん
)
がトボトボとやつて
来
(
き
)
た。
106
スミエルは
此
(
この
)
女
(
をんな
)
を
見
(
み
)
るより
嬉
(
うれ
)
しさうに、
107
スミエル『やア
其方
(
そなた
)
は
妹
(
いもうと
)
スガールぢやないか』
108
スガール『ハイ、
109
姉
(
ねえ
)
さまで
厶
(
ござ
)
いましたか。
110
いい
所
(
ところ
)
でお
目
(
め
)
にかかりました。
111
猪倉山
(
ゐのくらやま
)
の
岩窟
(
がんくつ
)
に
連
(
つ
)
れ
込
(
こ
)
まれ
暗
(
くら
)
い
陥穽
(
おとしあな
)
へ
落
(
おと
)
されたかと
思
(
おも
)
へば、
112
こんな
所
(
ところ
)
へ
抜
(
ぬけ
)
て
来
(
き
)
てゐました。
113
姉
(
ねえ
)
さまもヤツパリ
私
(
わたし
)
の
様
(
やう
)
な
目
(
め
)
に
会
(
あ
)
つたのでせうね』
114
スミエル『これ
妹
(
いもうと
)
、
115
ここは
現界
(
げんかい
)
ではなく、
116
どうやら
霊界
(
れいかい
)
の
様
(
やう
)
な
塩梅
(
あんばい
)
ですよ。
117
姉妹
(
おとどい
)
二人
(
ふたり
)
が
深
(
ふか
)
い
穴
(
あな
)
へ
放
(
ほ
)
り
込
(
こ
)
まれ、
118
命
(
いのち
)
を
失
(
うしな
)
つて
霊魂
(
れいこん
)
がここへ
来
(
き
)
てゐるのでせうよ』
119
スガール『そんな
事
(
こと
)
は
厶
(
ござ
)
いますまい。
120
これ
丈
(
だ
)
け
気分
(
きぶん
)
が
確
(
しつか
)
りしてゐますもの。
121
夢
(
ゆめ
)
でもなければ
死
(
し
)
んだのでもありませぬ。
122
そんな
事
(
こと
)
云
(
い
)
つて
下
(
くだ
)
さるな。
123
私
(
わたし
)
心
(
こころ
)
淋
(
さび
)
しう
厶
(
ござ
)
いますわ』
124
赤
(
あか
)
『スガールとやら、
125
其方
(
そなた
)
スミエルの
妹
(
いもうと
)
と
見
(
み
)
えるが、
126
ここは
霊界
(
れいかい
)
の
八衢
(
やちまた
)
だから
未
(
ま
)
だお
前
(
まへ
)
達
(
たち
)
の
来
(
く
)
る
所
(
ところ
)
ではない。
127
之
(
これ
)
から
現界
(
げんかい
)
へ
帰
(
かへ
)
つて
暫
(
しばら
)
く
働
(
はたら
)
かねばなりますまいぞ。
128
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
両人
(
りやうにん
)
の
身体
(
からだ
)
は、
129
深
(
ふか
)
い
暗
(
くら
)
い
陥穽
(
おとしあな
)
に
放
(
ほ
)
り
込
(
こ
)
まれてゐるのだから、
130
容易
(
ようい
)
に
救
(
すく
)
ひ
出
(
だ
)
す
事
(
こと
)
は
出来
(
でき
)
まい。
131
併
(
しか
)
し
不思議
(
ふしぎ
)
な
事
(
こと
)
には
生死簿
(
せいしぼ
)
には
生
(
せい
)
としてあるから、
132
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
が
何
(
なん
)
とかして
現界
(
げんかい
)
に
返
(
かへ
)
して
下
(
くだ
)
さるだらう』
133
スガール『
左様
(
さやう
)
で
厶
(
ござ
)
いますか。
134
さうするとヤツパリ
此処
(
ここ
)
は
霊界
(
れいかい
)
で
厶
(
ござ
)
いましたかな。
135
鬼春別
(
おにはるわけ
)
、
136
久米彦
(
くめひこ
)
と
云
(
い
)
ふゼネラルの
部下
(
ぶか
)
に
捕
(
とら
)
へられ、
137
深
(
ふか
)
い
穴
(
あな
)
に
放
(
ほ
)
り
込
(
こ
)
まれたと
思
(
おも
)
へばヤツパリその
時
(
とき
)
に
私
(
わたし
)
等
(
たち
)
姉妹
(
しまい
)
は
現界
(
げんかい
)
を
去
(
さ
)
つて
来
(
き
)
たのですかな』
138
かかる
所
(
ところ
)
へ
道晴別
(
みちはるわけ
)
、
139
シーナの
二人
(
ふたり
)
は
道々
(
みちみち
)
何事
(
なにごと
)
か
話
(
はな
)
し、
140
又
(
また
)
幽
(
かす
)
かな
声
(
こゑ
)
で
宣伝歌
(
せんでんか
)
を
歌
(
うた
)
ひ
乍
(
なが
)
ら、
141
此方
(
こなた
)
に
向
(
むか
)
つて
進
(
すす
)
んで
来
(
く
)
る。
142
その
姿
(
すがた
)
が
道端
(
みちばた
)
の
樹
(
こ
)
の
間
(
ま
)
を
透
(
すか
)
して、
143
仄
(
ほのか
)
に
現
(
あら
)
はれて
来
(
き
)
た。
144
道晴別
(
みちはるわけ
)
『
神
(
かみ
)
が
表
(
おもて
)
に
現
(
あら
)
はれて
145
善
(
ぜん
)
と
悪
(
あく
)
とを
立別
(
たてわ
)
ける
146
此
(
この
)
世
(
よ
)
は
神
(
かみ
)
のゐます
国
(
くに
)
147
世
(
よ
)
の
人草
(
ひとぐさ
)
は
押
(
お
)
し
並
(
な
)
べて
148
尊
(
たふと
)
き
神
(
かみ
)
の
御恵
(
みめぐ
)
みに
149
洩
(
も
)
れたる
者
(
もの
)
はあらざらめ
150
斎苑
(
いそ
)
の
館
(
やかた
)
を
立出
(
たちい
)
でて
151
魔神
(
まがみ
)
の
猛
(
たけ
)
る
月
(
つき
)
の
国
(
くに
)
152
大雲山
(
だいうんざん
)
に
蟠
(
わだか
)
まる
153
醜神
(
しこがみ
)
等
(
たち
)
を
言向
(
ことむ
)
けて
154
此
(
この
)
世
(
よ
)
の
塵
(
ちり
)
を
払
(
はら
)
はむと
155
治国別
(
はるくにわけ
)
に
従
(
したが
)
ひて
156
進
(
すす
)
み
来
(
きた
)
れる
折
(
をり
)
もあれ
157
祠
(
ほこら
)
の
森
(
もり
)
に
残
(
のこ
)
されて
158
瑞
(
みづ
)
の
御舎
(
みあらか
)
仕
(
つか
)
へつつ
159
その
神業
(
しんげふ
)
も
相果
(
あひは
)
てて
160
又
(
また
)
もや
進
(
すす
)
む
宣伝使
(
せんでんし
)
161
浮木
(
うきき
)
の
森
(
もり
)
を
後
(
あと
)
にして
162
シメジ
峠
(
たうげ
)
の
山麓
(
さんろく
)
に
163
来
(
き
)
かかる
折
(
をり
)
しも
曲津見
(
まがつみ
)
が
164
猪倉山
(
ゐのくらやま
)
に
陣取
(
ぢんど
)
りて
165
四辺
(
あたり
)
の
人
(
ひと
)
を
悩
(
なや
)
ませつ
166
玉木
(
たまき
)
の
村
(
むら
)
のテームスが
167
娘
(
むすめ
)
二人
(
ふたり
)
を
掠奪
(
りやくだつ
)
し
168
帰
(
かへ
)
りし
事
(
こと
)
を
聞
(
き
)
くよりも
169
見捨
(
みす
)
て
兼
(
か
)
ねたる
義侠心
(
ぎけふしん
)
170
軍服姿
(
ぐんぷくすがた
)
に
身
(
み
)
を
窶
(
やつ
)
し
171
シーナと
共
(
とも
)
に
曲神
(
まがかみ
)
の
172
集
(
あつ
)
まる
岩窟
(
いはや
)
に
立
(
た
)
ち
向
(
むか
)
ひ
173
悪神
(
あくがみ
)
達
(
たち
)
の
計略
(
けいりやく
)
の
174
暗
(
くら
)
き
穴
(
あな
)
へと
投
(
な
)
げ
込
(
こ
)
まれ
175
気絶
(
きぜつ
)
したりと
思
(
おも
)
ひきや
176
何時
(
いつ
)
とはなしに
漂渺
(
へうべう
)
と
177
涯
(
かぎ
)
りも
知
(
し
)
らぬ
大野原
(
おほのはら
)
178
知
(
し
)
らず
知
(
し
)
らずに
辿
(
たど
)
りける
179
思
(
おも
)
ふにここは
霊界
(
れいかい
)
の
180
八衢
(
やちまた
)
街道
(
かいだう
)
にあらざるか
181
四辺
(
しへん
)
の
空気
(
くうき
)
はなんとなく
182
現
(
うつつ
)
の
世
(
よ
)
とは
変
(
かは
)
りけり
183
ああ
惟神
(
かむながら
)
々々
(
かむながら
)
184
御霊
(
みたま
)
幸
(
さち
)
はひましまして
185
現界
(
うつしよ
)
幽界
(
かくりよ
)
隔
(
へだ
)
てなく
186
罪
(
つみ
)
に
穢
(
けが
)
れし
吾々
(
われわれ
)
の
187
身魂
(
みたま
)
を
救
(
すく
)
ひ
天国
(
てんごく
)
に
188
上
(
のぼ
)
らせ
玉
(
たま
)
へ
惟神
(
かむながら
)
189
国治立
(
くにはるたち
)
の
大御神
(
おほみかみ
)
190
豊国姫
(
とよくにひめ
)
の
大御神
(
おほみかみ
)
191
瑞
(
みづ
)
の
御霊
(
みたま
)
の
大前
(
おほまへ
)
に
192
慎
(
つつし
)
み
敬
(
うやま
)
ひ
願
(
ね
)
ぎ
奉
(
まつ
)
る
193
ああ
惟神
(
かむながら
)
々々
(
かむながら
)
194
御霊
(
みたま
)
幸
(
さち
)
はひましませよ』
195
二人
(
ふたり
)
は
漸
(
やうや
)
く
関所
(
せきしよ
)
の
門前
(
もんぜん
)
に
着
(
つ
)
いた。
196
よくよく
見
(
み
)
れば
救
(
すく
)
ひ
出
(
だ
)
さうとしてゐた、
197
スミエル、
198
スガールが、
199
赤
(
あか
)
、
200
白
(
しろ
)
の
守衛
(
しゆゑい
)
と
共
(
とも
)
に
何
(
なん
)
だか
話
(
はなし
)
をしてゐるので
道晴別
(
みちはるわけ
)
は
不思議
(
ふしぎ
)
相
(
さう
)
に、
201
道晴
(
みちはる
)
『
拙者
(
せつしや
)
は
三五教
(
あななひけう
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
道晴別
(
みちはるわけ
)
と
申
(
まを
)
します。
202
ここにゐられるのは
玉木村
(
たまきむら
)
のテームス
殿
(
どの
)
の
番頭
(
ばんとう
)
シーナさまで
厶
(
ござ
)
ります。
203
二人
(
ふたり
)
の
御
(
ご
)
婦人
(
ふじん
)
はスミエル、
204
スガール
様
(
さま
)
ぢや
厶
(
ござ
)
りませぬか』
205
赤
(
あか
)
『
左様
(
さやう
)
で
厶
(
ござ
)
る。
206
只今
(
ただいま
)
ここへ
精霊
(
せいれい
)
となつてお
入来
(
いで
)
になりましたから、
207
今
(
いま
)
お
帰
(
かへ
)
りを
勧
(
すす
)
めて
居
(
ゐ
)
る
所
(
ところ
)
です』
208
道晴
(
みちはる
)
『あ、
209
それは
御
(
ご
)
厄介
(
やくかい
)
で
厶
(
ござ
)
いました。
210
私
(
わたくし
)
も
仄
(
ほのか
)
に
心
(
こころ
)
に
浮
(
うか
)
びますのは、
211
此
(
この
)
御
(
ご
)
両人
(
りやうにん
)
を
助
(
たす
)
け
出
(
だ
)
さうと
思
(
おも
)
ひ、
212
猪倉山
(
ゐのくらやま
)
の
岩窟
(
がんくつ
)
へ
奇計
(
きけい
)
を
以
(
もつ
)
て
忍
(
しの
)
び
入
(
い
)
り、
213
失敗
(
しつぱい
)
を
致
(
いた
)
し、
214
敵
(
てき
)
に
覚
(
さと
)
られ
暗黒
(
あんこく
)
なる
深
(
ふか
)
き
穴
(
あな
)
に
投
(
な
)
げ
込
(
こ
)
まれたと
思
(
おも
)
へば、
215
斯様
(
かやう
)
な
処
(
ところ
)
へ
両人
(
りやうにん
)
が
来
(
き
)
て
居
(
を
)
りました。
216
さうすれば、
217
吾々
(
われわれ
)
もヤツパリ
現界
(
げんかい
)
の
者
(
もの
)
ではありませぬかな』
218
赤
(
あか
)
『いや
御
(
ご
)
心配
(
しんぱい
)
は
要
(
い
)
りませぬ。
219
まだ
貴方
(
あなた
)
方
(
がた
)
四
(
よ
)
人
(
にん
)
共
(
とも
)
ここに
来
(
こ
)
られる
方
(
かた
)
ぢやありませぬ。
220
何
(
なん
)
等
(
ら
)
かの
手続
(
てつづ
)
きを
以
(
もつ
)
て
現界
(
げんかい
)
へ
帰
(
かへ
)
られるでせう。
221
時
(
とき
)
にシーナとやら、
222
ここにスミエルさまが
来
(
き
)
て
居
(
を
)
られるから
御
(
ご
)
挨拶
(
あいさつ
)
をなさらぬか』
223
シーナ『ハイ、
224
何
(
なん
)
とも
恥
(
はづ
)
かしくて
言葉
(
ことば
)
が
出
(
で
)
ませぬ』
225
と
俯向
(
うつむ
)
く。
226
赤
(
あか
)
『シーナさま、
227
随分
(
ずいぶん
)
スミエルさまは
貴方
(
あなた
)
に
対
(
たい
)
し、
228
大々
(
だいだい
)
的
(
てき
)
気焔
(
きえん
)
を
吐
(
は
)
いてゐられましたよ。
229
ま
一度
(
いちど
)
現界
(
げんかい
)
へ
帰
(
かへ
)
つて
何卒
(
どうぞ
)
親密
(
しんみつ
)
に
社会
(
しやくわい
)
奉仕
(
ほうし
)
なり、
230
神霊
(
しんれい
)
奉仕
(
ほうし
)
をお
励
(
はげ
)
みなさい』
231
シーナ『
一旦
(
いつたん
)
肉体
(
にくたい
)
をとられた
私
(
わたくし
)
、
232
如何
(
どう
)
して
現界
(
げんかい
)
へ
帰
(
かへ
)
る
事
(
こと
)
が
出来
(
でき
)
ませうかな』
233
赤
(
あか
)
『ここへ
来
(
こ
)
なくてならぬものは、
234
何程
(
なにほど
)
嫌
(
いや
)
だと
云
(
い
)
つても
来
(
こ
)
なくてはなりませぬ。
235
又
(
また
)
現界
(
げんかい
)
に
命数
(
めいすう
)
のある
人
(
ひと
)
は
何程
(
なにほど
)
来
(
き
)
たいと
云
(
い
)
つても
来
(
く
)
る
事
(
こと
)
は
出来
(
でき
)
ませぬ。
236
何
(
いづ
)
れ
立派
(
りつぱ
)
な
宣伝使
(
せんでんし
)
の
精霊
(
せいれい
)
が
来
(
き
)
て、
237
貴方
(
あなた
)
等
(
がた
)
を
現界
(
げんかい
)
へ
連
(
つ
)
れて
行
(
い
)
つて
下
(
くだ
)
さるでせう』
238
四
(
よ
)
人
(
にん
)
は
意外
(
いぐわい
)
の
感
(
かん
)
に
打
(
う
)
たれて、
239
二人
(
ふたり
)
の
守衛
(
しゆゑい
)
の
顔
(
かほ
)
を
見
(
み
)
つめてゐた。
240
そこへ
東
(
ひがし
)
の
方
(
はう
)
から、
241
『オーイ オーイ』と
三四
(
さんよ
)
人
(
にん
)
の
声
(
こゑ
)
が
聞
(
きこ
)
えて
来
(
き
)
た。
242
四
(
よ
)
人
(
にん
)
はハツと
声
(
こゑ
)
する
方
(
はう
)
に
身
(
み
)
を
転
(
てん
)
ずれば、
243
一道
(
いちだう
)
の
光明
(
くわうみやう
)
が
低空
(
ていくう
)
を
轟
(
とどろ
)
かしてゴウゴウゴウと
進
(
すす
)
み
来
(
きた
)
り、
244
四
(
よ
)
人
(
にん
)
の
前
(
まへ
)
に
緩
(
ゆる
)
やかに
落
(
お
)
ちて
来
(
き
)
た。
245
火団
(
くわだん
)
は
忽
(
たちま
)
ち
四柱
(
よはしら
)
の
神人
(
しんじん
)
と
化
(
くわ
)
した。
246
道晴別
(
みちはるわけ
)
は『はて
不思議
(
ふしぎ
)
』と、
247
よくよく
顔
(
かほ
)
を
透
(
す
)
かし
見
(
み
)
れば、
248
恋
(
こ
)
ひ
慕
(
した
)
うてゐた
治国別
(
はるくにわけ
)
の
一行
(
いつかう
)
である。
249
道晴別
(
みちはるわけ
)
は
嬉
(
うれ
)
し
涙
(
なみだ
)
にくれ
乍
(
なが
)
ら、
250
道晴
(
みちはる
)
『ああ
先生
(
せんせい
)
様
(
さま
)
、
251
松彦
(
まつひこ
)
、
252
竜彦
(
たつひこ
)
、
253
万公殿
(
まんこうどの
)
、
254
よう
来
(
き
)
て
下
(
くだ
)
さいました』
255
と
涙
(
なみだ
)
を
袖
(
そで
)
に
拭
(
ぬぐ
)
ひ
嬉
(
うれ
)
し
泣
(
な
)
きに
泣
(
な
)
く。
256
何時
(
いつ
)
とはなしに
四方
(
しはう
)
から
普遍
(
ふへん
)
的
(
てき
)
な
光明
(
くわうみやう
)
がさして
来
(
き
)
た。
257
此
(
この
)
光明
(
くわうみやう
)
に
照
(
て
)
らされて
八
(
はち
)
人
(
にん
)
の
姿
(
すがた
)
は
煙
(
けぶり
)
の
如
(
ごと
)
くに
消
(
き
)
えて
了
(
しま
)
つた。
258
随
(
したが
)
つて
八衢
(
やちまた
)
の
関所
(
せきしよ
)
も
赤
(
あか
)
白
(
しろ
)
の
守衛
(
しゆゑい
)
の
姿
(
すがた
)
も
見
(
み
)
えなくなつた。
259
(
大正一二・二・二三
旧一・八
於竜宮館
北村隆光
録)
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