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第59巻(戌の巻)
序
総説歌
第1篇 毀誉の雲翳
01 逆艪
〔1501〕
02 歌垣
〔1502〕
03 蜜議
〔1503〕
04 陰使
〔1504〕
05 有升
〔1505〕
第2篇 厄気悋々
06 雲隠
〔1506〕
07 焚付
〔1507〕
08 暗傷
〔1508〕
09 暗内
〔1509〕
10 変金
〔1510〕
11 黒白
〔1511〕
12 狐穴
〔1512〕
第3篇 地底の歓声
13 案知
〔1513〕
14 舗照
〔1514〕
15 和歌意
〔1515〕
16 開窟
〔1516〕
17 倉明
〔1517〕
第4篇 六根猩々
18 手苦番
〔1518〕
19 猩々舟
〔1519〕
20 海竜王
〔1520〕
21 客々舟
〔1521〕
22 五葉松
〔1522〕
23 鳩首
〔1523〕
24 隆光
〔1524〕
25 歓呼
〔1525〕
余白歌
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第一章
逆艪
(
さかろ
)
〔一五〇一〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第59巻 真善美愛 戌の巻
篇:
第1篇 毀誉の雲翳
よみ(新仮名遣い):
きよのうんえい
章:
第1章 逆艪
よみ(新仮名遣い):
さかろ
通し章番号:
1501
口述日:
1923(大正12)年04月01日(旧02月16日)
口述場所:
皆生温泉 浜屋
筆録者:
松村真澄
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1925(大正14)年7月8日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
玉国別一行を湖上に亡き者にしようとしたワックスは、にわかに一変した天候に翻弄され、船頭を失い漂流していた。ワックスは大自在天に願いをかけ、改心して衆生済度のために比丘となり、ハルナの都に出て衆生済度に励むつもりだと無事を祈った。
不思議にも颶風はぴたりと止まった。ワックスはにわかに元気回復し、先ほどの殊勝な気持ちはどこへやら、またしても減らず口を叩きはじめた。仲間たちに自分の祈願の効験を自慢するが、エキスに嵐の中ふるえて神頼みしていた姿をからかわれてしまう。
ワックスたちは船に帆をかけて風の力を借り、三五教の宣伝使たちを追いかけることにした。ワックスは櫓を握ってこぎだし、下らぬ歌を歌って悦に入っている。小さな町にいてデビス姫をものにしようと気張って追いかけていたが、生まれて初めて船に乗って旅行く愉快さと引き比べて思えば馬鹿なことをしていたものだ、などと勝手な感慨にふけっている。
エキスが船漕ぎを変わり、ワックスのこれまでの悪行と失敗をからかう歌を歌った。ワックスは面白くなく、ヘルマンに代わるように命じた。ヘルマンは、三五教の方が女神がやってきて船を与えてくれたりして、よっぽど自分たちより気が利いている、と三五教への傾倒を吐露した。
ワックスはヘルマンの弱きをたしなめて、キヨの港に着きさえすれば、バラモン教の勢力範囲だから三五教徒たちは手もなく捕まえることができるだろうし、そうしてからハルナの都に行けばよい、と諭した。そしてまた自分が櫓を握って船をこぐ。
一行は交代で櫓をこぎ、順風に助けられて、三日目の夕方にキヨの港に安着した。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
[×閉じる]
:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
OBC :
rm5901
愛善世界社版:
7頁
八幡書店版:
第10輯 487頁
修補版:
校定版:
7頁
普及版:
初版:
ページ備考:
001
広袤
(
くわうぼう
)
千里
(
せんり
)
のキヨの
湖
(
うみ
)
002
俄
(
にはか
)
に
天候
(
てんこう
)
一変
(
いつぺん
)
し
003
逆巻
(
さかまく
)
浪
(
なみ
)
に
船体
(
せんたい
)
を
004
上下
(
じやうげ
)
左右
(
さいう
)
に
奔弄
(
ほんろう
)
され
005
悪虐
(
あくぎやく
)
無道
(
ぶだう
)
のワックスも
006
肝腎要
(
かんじんかなめ
)
の
機関手
(
きくわんしゆ
)
を
007
逆巻
(
さかまく
)
波
(
なみ
)
に
攫
(
さら
)
はれて
008
進
(
すす
)
みもならず
退
(
しりぞ
)
きも
009
ならぬ
海路
(
かいろ
)
の
苦
(
くる
)
しさに
010
気
(
き
)
を
取直
(
とりなほ
)
し
立上
(
たちあが
)
り
011
無性
(
むしやう
)
矢鱈
(
やたら
)
に
櫓
(
ろ
)
を
漕
(
こ
)
いで
012
何
(
いづ
)
れの
岸
(
きし
)
にか
辿
(
たど
)
らむと
013
心
(
こころ
)
あせれど
生
(
うま
)
れつき
014
テルモン
山
(
ざん
)
の
片隅
(
かたすみ
)
に
015
鳥
(
とり
)
なき
里
(
さと
)
の
蝙蝠
(
かうもり
)
を
016
気取
(
きど
)
つて
威張
(
ゐば
)
りちらしたる
017
其
(
その
)
天罰
(
てんばつ
)
は
忽
(
たちま
)
ちに
018
報
(
むく
)
ゐ
来
(
きた
)
りて
湖
(
うみ
)
の
上
(
へ
)
に
019
心
(
こころ
)
焦
(
あせ
)
れば
焦
(
あせ
)
る
程
(
ほど
)
020
老朽船
(
らうきうせん
)
はキリキリと
021
浪
(
なみ
)
の
面
(
おもて
)
で
目
(
め
)
を
眩
(
まは
)
す
022
ワックス
初
(
はじ
)
め
三
(
さん
)
人
(
にん
)
は
023
舟
(
ふね
)
諸共
(
もろとも
)
に
目
(
め
)
を
眩
(
まは
)
し
024
方角
(
はうがく
)
さへも
見失
(
みうしな
)
ひ
025
逆巻
(
さかまく
)
波
(
なみ
)
と
闘
(
たたか
)
ひて
026
運
(
うん
)
をば
天
(
てん
)
に
任
(
まか
)
しつつ
027
ワックス『
梵天
(
ぼんてん
)
帝釈
(
たいしやく
)
自在天
(
じざいてん
)
028
大国彦
(
おほくにひこ
)
の
大御神
(
おほみかみ
)
029
守
(
まも
)
らせ
玉
(
たま
)
へ
吾々
(
われわれ
)
は
030
この
海上
(
かいじやう
)
の
暴風
(
しけ
)
に
会
(
あ
)
ひ
031
神
(
かみ
)
の
試練
(
しれん
)
と
畏
(
かしこ
)
みて
032
いよいよ
改心
(
かいしん
)
仕
(
つかまつ
)
り
033
サットヷ(
衆生
(
しゆじやう
)
)
済度
(
さいど
)
のそのために
034
此
(
この
)
長髪
(
ちやうはつ
)
を
剃
(
そ
)
りおとし
035
此
(
この
)
世
(
よ
)
を
捨
(
す
)
てて
比丘
(
びく
)
となり
036
ニテヨーデユクタ(常精進)を
励
(
はげ
)
みつつ
037
至仁
(
しじん
)
至愛
(
しあい
)
の
大神
(
おほかみ
)
の
038
誠
(
まこと
)
の
教
(
をしへ
)
に
仕
(
つか
)
ふべし
039
あゝ
皇神
(
すめかみ
)
よ
皇神
(
すめかみ
)
よ
040
吾
(
われ
)
等
(
ら
)
四
(
よ
)
人
(
にん
)
の
改心
(
かいしん
)
を
041
憫
(
あは
)
れみ
玉
(
たま
)
ひて
此
(
この
)
颶風
(
しけ
)
を
042
とめさせ
玉
(
たま
)
へ
惟神
(
かむながら
)
043
赤心
(
まごころ
)
籠
(
こ
)
めて
願
(
ね
)
ぎ
奉
(
まつ
)
る
044
悪魔
(
あくま
)
は
如何
(
いか
)
に
強
(
つよ
)
く
共
(
とも
)
045
憑
(
つ
)
き
物
(
もの
)
如何
(
いか
)
に
多
(
おほ
)
くとも
046
仮令
(
たとへ
)
スマートが
来
(
きた
)
る
共
(
とも
)
047
誠
(
まこと
)
一
(
ひと
)
つのバラモンの
048
教
(
をしへ
)
の
道
(
みち
)
は
世
(
よ
)
を
救
(
すく
)
ふ
049
テルモン
山
(
ざん
)
の
山颪
(
やまおろし
)
050
早
(
はや
)
く
治
(
をさ
)
まり
吾々
(
われわれ
)
の
051
行手
(
ゆくて
)
の
幸
(
さち
)
を
守
(
まも
)
りませ
052
偏
(
ひとへ
)
に
願
(
ねが
)
ひ
奉
(
たてまつ
)
る
053
テルモン
山
(
ざん
)
の
聖地
(
せいち
)
をば
054
痛
(
いた
)
い
苔
(
しもと
)
を
加
(
くは
)
へられ
055
追放
(
つゐはう
)
された
吾々
(
われわれ
)
は
056
最早
(
もはや
)
詮
(
せん
)
なし
月
(
つき
)
の
国
(
くに
)
057
ハルナの
都
(
みやこ
)
に
立出
(
たちい
)
でて
058
心
(
こころ
)
の
底
(
そこ
)
より
改良
(
かいりやう
)
し
059
命
(
いのち
)
を
惜
(
をし
)
まず
魂
(
たましひ
)
を
060
大黒主
(
おほくろぬし
)
に
奉
(
たてまつ
)
り
061
一心
(
いつしん
)
不乱
(
ふらん
)
に
神
(
かみ
)
の
旨
(
むね
)
を
062
四方
(
よも
)
に
開
(
ひら
)
かむ
吾
(
わ
)
が
覚悟
(
かくご
)
063
此
(
この
)
海
(
うみ
)
無事
(
ぶじ
)
にキヨ
港
(
こう
)
の
064
花
(
はな
)
咲
(
さ
)
く
岸
(
きし
)
に
安々
(
やすやす
)
と
065
進
(
すす
)
ませ
玉
(
たま
)
へ
惟神
(
かむながら
)
066
神
(
かみ
)
かけ
念
(
ねん
)
じ
奉
(
たてまつ
)
る』
067
と
一生
(
いつしやう
)
懸命
(
けんめい
)
に
歌
(
うた
)
ひ
乍
(
なが
)
ら
櫓
(
ろ
)
を
操
(
あやつつ
)
てゐる。
068
バラモンの
大神
(
おほかみ
)
がワックスの
願
(
ねが
)
ひを
聴許
(
ちやうきよ
)
遊
(
あそ
)
ばしたのか、
069
或
(
あるひ
)
は
三五教
(
あななひけう
)
の
大本
(
おほもと
)
大神
(
おほかみ
)
がお
許
(
ゆる
)
し
遊
(
あそ
)
ばしたのか、
070
不思議
(
ふしぎ
)
にも
颶風
(
ぐふう
)
はピタリと
止
(
と
)
まり、
071
見
(
み
)
るも
恐
(
おそ
)
ろしき
激浪
(
げきらう
)
怒濤
(
どたう
)
は
漸
(
やうや
)
く
凪
(
な
)
いで
鏡面
(
きやうめん
)
の
如
(
ごと
)
く
鎮
(
しづ
)
まり、
072
浪
(
なみ
)
キラキラと
日光
(
につくわう
)
に
輝
(
かがや
)
き
初
(
はじ
)
めた。
073
テルモン
山
(
ざん
)
は
前方
(
ぜんぱう
)
に
当
(
あた
)
つて、
074
雲表
(
うんぺう
)
に
高
(
たか
)
く
其
(
その
)
雄姿
(
ゆうし
)
を
現
(
あら
)
はし、
075
中腹
(
ちうふく
)
に
雲
(
くも
)
の
帯
(
おび
)
を
締
(
し
)
めて、
076
泰然
(
たいぜん
)
として
此
(
この
)
湖面
(
こめん
)
を
眺
(
なが
)
めてゐる。
077
ワックスは
大旱
(
たいかん
)
の
水田
(
すいでん
)
に
喜雨
(
きう
)
を
得
(
え
)
たるが
如
(
ごと
)
く、
078
俄
(
にはか
)
に
元気
(
げんき
)
恢復
(
くわいふく
)
し、
079
叶
(
かな
)
はぬ
時
(
とき
)
の
神頼
(
かみだの
)
み、
080
慄
(
ふる
)
ひ
戦
(
をのの
)
いてゐた
魂
(
たましひ
)
はどこへやら、
081
ソロソロ
減
(
へ
)
らず
口
(
ぐち
)
を
叩
(
たた
)
き
始
(
はじ
)
めたり。
082
『オイ、
083
エキス、
084
ヘルマンの
恐喝
(
きようかつ
)
先生
(
せんせい
)
、
085
六百
(
ろくぴやく
)
円
(
ゑん
)
の
強奪者
(
がうだつしや
)
、
086
並
(
なら
)
びに
睾丸潰
(
きんたまつぶ
)
しのエルの
奴
(
やつ
)
、
087
何
(
なに
)
をグヅグヅしてゐやがるのだい。
088
いいかげんに
頭
(
あたま
)
を
上
(
あ
)
げぬかい。
089
仕方
(
しかた
)
のない
代物
(
しろもの
)
だなア。
090
流石
(
さすが
)
の
颶風
(
しけ
)
も
怒濤
(
どたう
)
も、
091
此
(
この
)
ワックスさまの
御
(
ご
)
祈願
(
きぐわん
)
に
仍
(
よ
)
つて、
092
之
(
こ
)
れ
見
(
み
)
ろ。
093
言下
(
げんか
)
に
静
(
しづ
)
まり、
094
ケロリカンとして、
095
夢
(
ゆめ
)
をみたやうな
面
(
つら
)
をさらしてゐるぢやないか。
096
本当
(
ほんたう
)
にワックスさまの
御
(
ご
)
威勢
(
ゐせい
)
といふものは
偉大
(
ゐだい
)
なものだらう』
097
エキス『ヘン、
098
仰有
(
おつしや
)
いますわい。
099
恐怖心
(
きようふしん
)
に
襲
(
おそ
)
はれ、
100
ガタガタ
慄
(
ぶる
)
ひの
大将
(
たいしやう
)
奴
(
め
)
、
101
憫
(
あは
)
れつぽい
声
(
こゑ
)
を
出
(
だ
)
して、
102
哀求
(
あいきう
)
歎願
(
たんぐわん
)
と
出
(
で
)
かけた
時
(
とき
)
の、
103
汝
(
きさま
)
の
御
(
ご
)
面相
(
めんさう
)
つたら、
104
絵
(
ゑ
)
にもかけないやうだつたよ。
105
ああ
云
(
い
)
ふ
時
(
とき
)
に
泰然
(
たいぜん
)
自若
(
じじやく
)
、
106
動
(
うご
)
かざること
山岳
(
さんがく
)
の
如
(
ごと
)
し、
107
態
(
てい
)
の、
108
吾々
(
われわれ
)
は
態度
(
たいど
)
を
以
(
もつ
)
て、
109
運命
(
うんめい
)
を
天
(
てん
)
に
任
(
まか
)
してゐたのだ。
110
汝
(
きさま
)
は
生
(
せい
)
の
執着
(
しふちやく
)
が
人一倍
(
ひといちばい
)
濃厚
(
のうこう
)
だから、
111
こんな
時
(
とき
)
になつて、
112
醜体
(
しうたい
)
を
演
(
えん
)
ずるのだ。
113
何
(
なん
)
だ、
114
男
(
をとこ
)
らしうもない。
115
限
(
かぎり
)
ある
狭
(
せま
)
い
舟
(
ふね
)
の
上
(
うへ
)
を
右往
(
うわう
)
左往
(
さわう
)
に
転
(
ころ
)
げ
廻
(
まは
)
りよつて、
116
其
(
その
)
みつともなさ、
117
本当
(
ほんたう
)
に
吾々
(
われわれ
)
男子
(
だんし
)
の
面汚
(
つらよご
)
しだよ』
118
ワックス『コリヤ、
119
汝
(
きさま
)
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
ふことをほざくのだ。
120
又
(
また
)
罰
(
ばち
)
が
当
(
あた
)
つて、
121
今度
(
こんど
)
こそ
舟
(
ふね
)
が
転覆
(
てんぷく
)
して
了
(
しま
)
ふぞ。
122
其
(
その
)
時
(
とき
)
になつて
吠面
(
ほえづら
)
かわいても、
123
ワックスの
救主
(
すくひぬし
)
は
知
(
し
)
らぬぞよ。
124
早
(
はや
)
く
改心
(
かいしん
)
したが
其
(
その
)
方
(
はう
)
の
得
(
とく
)
だぞよ。
125
改心
(
かいしん
)
致
(
いた
)
さねば、
126
目
(
め
)
に
物
(
もの
)
みせてやらうぞよ……と
大自在天
(
だいじざいてん
)
様
(
さま
)
の
御
(
お
)
諭
(
さと
)
しにあるのを、
127
汝
(
きさま
)
知
(
し
)
つてゐるだらうなア』
128
エキス『そんなことは、
129
とうの
昔
(
むかし
)
に
御存
(
ごぞん
)
じの
此
(
この
)
方
(
はう
)
さまだ。
130
オイ、
131
ワックス、
132
肝腎要
(
かんじんかなめ
)
の
魔法使
(
まはふつかひ
)
を
取逃
(
とりに
)
がし、
133
どうする
積
(
つもり
)
だい』
134
ワックス『どうせ、
135
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
も
此
(
この
)
海原
(
うなばら
)
を
渡
(
わた
)
らねばならぬのだから、
136
又
(
また
)
途中
(
とちう
)
で
追
(
お
)
ひついて、
137
十分
(
じふぶん
)
油
(
あぶら
)
を
絞
(
しぼ
)
り、
138
往生
(
わうじやう
)
さしてやれば
可
(
い
)
いのだ』
139
エキス『ヘン、
140
往生
(
わうじやう
)
させられるのだらう、
141
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
つても、
142
弱
(
よわ
)
きを
挫
(
くじ
)
き、
143
強
(
つよ
)
きに
従
(
したが
)
ふといふ
悪酔会
(
あくすゐくわい
)
前会長
(
ぜんくわいちやう
)
だからな』
144
ワックス『
汝
(
きさま
)
等
(
ら
)
145
可
(
い
)
いかげんに
起
(
お
)
きて
此
(
この
)
櫓
(
ろ
)
を
操縦
(
さうじう
)
せないか。
146
放
(
ほ
)
つておいたら、
147
どんな
所
(
とこ
)
へ
漂着
(
へうちやく
)
するか
知
(
し
)
れぬぢやないか』
148
エキス『
漂着
(
へうちやく
)
を
待
(
ま
)
つてゐるのだ。
149
一時
(
いつとき
)
も
早
(
はや
)
く
陸地
(
りくち
)
へ
着
(
つ
)
いて、
150
そこからテクつた
方
(
ほう
)
が
何程
(
なにほど
)
安心
(
あんしん
)
だか
分
(
わか
)
らぬワ。
151
メツタに
山
(
やま
)
で
溺死
(
できし
)
する
気遣
(
きづかひ
)
はないからのう』
152
ワックス『
先方
(
むかふ
)
は
舟
(
ふね
)
で
一直線
(
いつちよくせん
)
に
走
(
はし
)
つて
行
(
ゆ
)
きよるなり、
153
こつちや
山
(
やま
)
を
越
(
こ
)
え
谷
(
たに
)
を
越
(
こ
)
え、
154
難路
(
なんろ
)
を
辿
(
たど
)
つて
居
(
を
)
らうものなら、
155
何時
(
いつ
)
キヨの
港
(
みなと
)
迄
(
まで
)
つくか
分
(
わか
)
らないワ。
156
何
(
なん
)
とかして
此
(
この
)
水路
(
すゐろ
)
を
進
(
すす
)
むことにしたら
如何
(
どう
)
だ』
157
エキス『
何
(
なん
)
としても
法
(
はふ
)
がつかぬぢやないか、
158
何奴
(
どいつ
)
も
此奴
(
こいつ
)
も
舟
(
ふね
)
を
操縦
(
さうじう
)
する
事
(
こと
)
に
妙
(
めう
)
を
得
(
え
)
て
居
(
ゐ
)
ない
阿呆
(
あはう
)
人種
(
じんしゆ
)
計
(
ばか
)
りだからのう』
159
エル『オイ、
160
其
(
その
)
アホを
此
(
この
)
北風
(
きたかぜ
)
にかけて、
161
一直線
(
いつちよくせん
)
に
駆
(
か
)
けて
進
(
すす
)
んだら
可
(
い
)
いぢやないか、
162
さうすりや
骨
(
ほね
)
を
折
(
を
)
つて
櫓
(
ろ
)
を
操
(
あやつ
)
る
必要
(
ひつえう
)
もなし、
163
風
(
かぜ
)
の
神
(
かみ
)
が
自然
(
しぜん
)
に
先方
(
むかふ
)
へ
渡
(
わた
)
してくれるワ』
164
ワックス『
成程
(
なるほど
)
、
165
よい
考
(
かんが
)
へがついた』
166
とガラガラと
綱
(
つな
)
を
引張
(
ひつぱり
)
上
(
あ
)
げ、
167
茶色
(
ちやいろ
)
になつた
帆
(
ほ
)
を
巻上
(
まきあ
)
げた。
168
忽
(
たちま
)
ち
帆
(
ほ
)
は
弓
(
ゆみ
)
の
如
(
ごと
)
く
風
(
かぜ
)
を
孕
(
はら
)
むでサア サア サア サアと
音
(
おと
)
を
立
(
た
)
て
乍
(
なが
)
ら、
169
勢
(
いきほひ
)
よく
辷
(
すべ
)
り
出
(
だ
)
した。
170
エルは
櫓
(
ろ
)
を
手
(
て
)
に
握
(
にぎ
)
り
覚束
(
おぼつか
)
なげに、
171
舟
(
ふね
)
の
舵
(
かぢ
)
をとり
乍
(
なが
)
ら、
172
欵乃
(
ふなうた
)
を
唄
(
うた
)
い
出
(
だ
)
した。
173
エル『(
追分
(
おひわけ
)
)
虎
(
とら
)
は
千
(
せん
)
里
(
り
)
の
藪
(
やぶ
)
さへ
越
(
こ
)
すに
174
これの
湖水
(
こすゐ
)
がなぜ
越
(
こ
)
えられぬ。
175
(
安来節
(
やすきぶし
)
調
(
てう
)
)
神
(
かみ
)
の
館
(
やかた
)
の
宝珠
(
ほつしゆ
)
の
玉
(
たま
)
を
176
盗
(
ぬす
)
みそこねた
人
(
ひと
)
がある。
177
月
(
つき
)
は
御空
(
みそら
)
にテルモン
館
(
やかた
)
178
デビスの
姿
(
すがた
)
は
花
(
はな
)
か
雪
(
ゆき
)
。
179
花
(
はな
)
の
香
(
かを
)
りを
慕
(
した
)
うて
来
(
き
)
たる
180
蝶
(
てふ
)
かあらぬか
蛆虫
(
うじむし
)
か。
181
劫
(
ごふ
)
をワックス
家令
(
かれい
)
の
悴
(
せがれ
)
182
今
(
いま
)
は
湖上
(
こじやう
)
で
泣
(
な
)
いてゐる。
183
泣
(
な
)
いて
明志
(
あかし
)
のテルモン
館
(
やかた
)
184
これが
此
(
この
)
世
(
よ
)
の
見
(
み
)
をさめか。
185
(
琉球節
(
りうきうぶし
)
調
(
てう
)
)
風
(
かぜ
)
は
北
(
きた
)
からみ
舟
(
ふね
)
を
送
(
おく
)
る
186
送
(
おく
)
る
風
(
かぜ
)
こそケリナの
息
(
いき
)
よ。
187
薬鑵爺
(
やくくわんおやぢ
)
に
先
(
ま
)
づ
生
(
い
)
き
別
(
わか
)
れ
188
デビスのお
姫
(
ひめ
)
さまにや
泣
(
な
)
き
別
(
わか
)
れ』
189
ワックス『コラコラ エルの
奴
(
やつ
)
、
190
何
(
なに
)
を
吐
(
ぬか
)
すのだ、
191
せうもない。
192
汝
(
きさま
)
、
193
チツと
休
(
やす
)
むだらよからう。
194
俺
(
おれ
)
がこれから、
195
櫓
(
ろ
)
を
握
(
にぎ
)
つて
一
(
ひと
)
つ
唄
(
うた
)
つてやるのだ』
196
エル『(
琉球節
(
りうきうぶし
)
調
(
てう
)
)
素破
(
すつぱ
)
ぬかれたワックスさまは
197
肚
(
はら
)
が
立
(
た
)
つなり
波
(
なみ
)
が
立
(
た
)
つ』
198
と
唄
(
うた
)
ひ
乍
(
なが
)
ら
櫓
(
ろ
)
をパツと
放
(
はな
)
した。
199
ワックスは
手早
(
てばや
)
く
櫓
(
ろ
)
を
握
(
にぎ
)
り、
200
ワックス『コラ、
201
スツテのことで
櫓
(
ろ
)
を
波
(
なみ
)
に
取
(
と
)
られるとこだつた。
202
チツと
気
(
き
)
をつけぬかい。
203
此奴
(
こいつ
)
を
取
(
と
)
られた
以上
(
いじやう
)
、
204
思
(
おも
)
ふ
所
(
とこ
)
へ
舟
(
ふね
)
が
向
(
む
)
けられぬぢやないか。
205
馬鹿
(
ばか
)
だなア』
206
エル『ヘン、
207
マア
馬鹿
(
ばか
)
になつておかうかい、
208
悧口
(
りこう
)
の
者
(
もの
)
や
賢
(
かしこ
)
い
者
(
もの
)
や
器用
(
きよう
)
な
者
(
もの
)
になると、
209
皆
(
みな
)
阿呆
(
あはう
)
共
(
ども
)
の
道具
(
だうぐ
)
に
使
(
つか
)
はれるからなア。
210
少
(
すこ
)
し
書
(
しよ
)
でも
甘
(
うま
)
いと、
211
あのエルさまに
看板
(
かんばん
)
を
書
(
か
)
いて
貰
(
もら
)
はうとか、
212
橋
(
はし
)
の
名
(
な
)
を
書
(
か
)
いて
貰
(
もら
)
はうとか、
213
大福帳
(
だいふくちやう
)
の
表紙
(
へうし
)
を
認
(
したた
)
めて
貰
(
もら
)
はうとかぬかしよつて、
214
阿呆
(
あはう
)
共
(
ども
)
の
弄物
(
おもちや
)
にしられるのだ。
215
学者
(
がくしや
)
や
智者
(
ちしや
)
になるものぢやないワ。
216
ワックスさま、
217
宜
(
よろ
)
しく
頼
(
たの
)
みます。
218
随分
(
ずいぶん
)
お
前
(
まへ
)
さまが
櫓
(
ろ
)
を
握
(
にぎ
)
つた
時
(
とき
)
は
立派
(
りつぱ
)
なものだ。
219
足
(
あし
)
の
爪先
(
つまさき
)
迄
(
まで
)
力
(
ちから
)
が
入
(
はい
)
つてるやうだ。
220
最前
(
さいぜん
)
の
船頭
(
せんどう
)
のやうに、
221
自分
(
じぶん
)
の
握
(
にぎ
)
つた
櫓
(
ろ
)
の
柄
(
つか
)
に
撥
(
は
)
ね
飛
(
と
)
ばされぬやうになさいませや』
222
と
鼻
(
はな
)
の
頭
(
あたま
)
を
三
(
み
)
つ
四
(
よ
)
つかき
乍
(
なが
)
ら、
223
船底
(
ふなぞこ
)
にゴロリと
横
(
よこた
)
はる。
224
ワックスは
櫓
(
ろ
)
を
握
(
にぎ
)
り、
225
広
(
ひろ
)
き
湖面
(
こめん
)
を
眺
(
なが
)
めて、
226
ワックス『
旭
(
あさひ
)
輝
(
かがや
)
く
鏡
(
かがみ
)
の
湖
(
うみ
)
に
227
悪
(
あく
)
の
鏡
(
かがみ
)
を
乗
(
の
)
せて
行
(
ゆ
)
く。
228
清
(
きよ
)
き
真水
(
まみづ
)
の
漂
(
ただよ
)
ふ
湖
(
うみ
)
を
229
悪酔
(
あくすゐ
)
カイ
が
舟
(
ふね
)
を
漕
(
こ
)
ぐ。
230
悪
(
あく
)
に
強
(
つよ
)
けりや
善
(
ぜん
)
にも
強
(
つよ
)
い
231
善
(
ぜん
)
と
悪
(
あく
)
との
海
(
うみ
)
を
行
(
ゆ
)
く。
232
波
(
なみ
)
は
立
(
た
)
つ
共
(
とも
)
心
(
こころ
)
は
立
(
た
)
たぬ
233
腰
(
こし
)
のぬけたる
阿呆舟
(
あはうぶね
)
。
234
舟
(
ふね
)
は
舟
(
ふね
)
だが
白河
(
しらかは
)
夜舟
(
よぶね
)
235
夢
(
ゆめ
)
か
現
(
うつつ
)
で
世
(
よ
)
を
送
(
おく
)
る。
236
牛
(
うし
)
に
睾丸
(
きんたま
)
踏
(
ふ
)
まれた
奴
(
やつ
)
は
237
とても
乗
(
の
)
られぬ
玉
(
たま
)
の
舟
(
ふね
)
。
238
死
(
し
)
なぬ
前
(
さき
)
からあわてた
奴
(
やつ
)
が
239
十字
(
じふじ
)
街頭
(
がいとう
)
に
踏
(
ふ
)
み
迷
(
まよ
)
ふ。
240
迷
(
まよ
)
うた
亡者
(
まうじや
)
の
睾丸
(
きんたま
)
潰
(
つぶ
)
し
241
阿呆
(
あはう
)
の
帆
(
ほ
)
(
呆
(
はう
)
)かけ
此
(
この
)
湖
(
うみ
)
渡
(
わた
)
る。
242
傷
(
きず
)
はヅキヅキ
膿
(
うみ
)
ボトボトと
243
涙
(
なみだ
)
流
(
なが
)
して
波
(
なみ
)
の
上
(
うへ
)
。
244
上
(
うへ
)
にや
青雲
(
あをぐも
)
下
(
した
)
には
藻草
(
もぐさ
)
245
中
(
なか
)
を
乗
(
の
)
り
行
(
ゆ
)
く
阿呆
(
あはう
)
のエル。
246
アハヽヽヽ、
247
面白
(
おもしろ
)
い
面白
(
おもしろ
)
い、
248
生
(
うま
)
れてから
始
(
はじ
)
めて
舟
(
ふね
)
に
乗
(
の
)
つたが、
249
何
(
なん
)
と
愉快
(
ゆくわい
)
なものだな。
250
デビスの
暗
(
くら
)
がり
船
(
ぶね
)
に
乗
(
の
)
りたい
乗
(
の
)
りたいと
思
(
おも
)
つて、
251
今
(
いま
)
迄
(
まで
)
どれ
丈
(
だけ
)
マストを
立
(
た
)
てたり、
252
白帆
(
しらほ
)
をあげて、
253
きばつたか
知
(
し
)
れないが、
254
今
(
いま
)
となつて
考
(
かんが
)
へてみると、
255
本当
(
ほんたう
)
に
馬鹿臭
(
ばかくさ
)
い
様
(
やう
)
だ。
256
矢張
(
やつぱり
)
、
257
人間
(
にんげん
)
は
広
(
ひろ
)
い
所
(
ところ
)
へ
出
(
で
)
て
来
(
こ
)
ねば
駄目
(
だめ
)
だな』
258
エキス『オイ、
259
ワックス
先生
(
せんせい
)
、
260
チツと
一服
(
いつぷく
)
したら
何
(
ど
)
うだ。
261
俺
(
おれ
)
も
一
(
ひと
)
つ
練習
(
れんしふ
)
の
為
(
ため
)
に、
262
此
(
この
)
静
(
しづ
)
かな
湖
(
うみ
)
で、
263
櫓
(
ろ
)
の
稽古
(
けいこ
)
をやつておかぬと、
264
マサカの
時
(
とき
)
に
栃麺棒
(
とちめんぼう
)
を
振
(
ふ
)
るからのう』
265
ワックス『
長
(
なが
)
い
海路
(
かいろ
)
だから、
266
俺
(
おれ
)
も
今
(
いま
)
から
精力
(
せいりよく
)
を
消耗
(
せうまう
)
さしてはつまらぬから、
267
汝
(
きさま
)
に
櫓権
(
ろけん
)
を
暫
(
しばら
)
く
掌握
(
しやうあく
)
させてやらう。
268
サア
早
(
はや
)
く
握
(
にぎ
)
つたり
握
(
にぎ
)
つたり』
269
エキス『ヤ、
270
有難
(
ありがた
)
い、
271
それなら、
272
新内閣
(
しんないかく
)
の
総理
(
そうり
)
大臣
(
だいじん
)
だ。
273
官海
(
くわんかい
)
游泳術
(
いうえいじゆつ
)
に
慣
(
な
)
れた
此
(
この
)
方
(
はう
)
だから、
274
マア
見
(
み
)
てゐ
玉
(
たま
)
へ、
275
随分
(
ずいぶん
)
素晴
(
すばら
)
しい
技能
(
ぎのう
)
を
発揮
(
はつき
)
してお
目
(
め
)
にかけるから……』
276
ワックス『ヘン、
277
官海
(
くわんかい
)
なんて、
278
馬鹿
(
ばか
)
にするない、
279
汝
(
きさま
)
は
渡海
(
とかい
)
否
(
いや
)
盗界
(
たうかい
)
の
覇者
(
はしや
)
だ。
280
盗界節
(
たうかいぶし
)
でも
唄
(
うた
)
うて、
281
追手
(
おつて
)
の
目
(
め
)
を
韜晦
(
とうくわい
)
する
方
(
はう
)
が
余程
(
よほど
)
性
(
しやう
)
に
合
(
あ
)
うてるだらうよ』
282
エキス『どうどうと
握
(
にぎ
)
る
天下
(
てんか
)
の
大権
(
たいけん
)
よりも
283
櫓櫂
(
ろかい
)
つかんだ
面白
(
おもしろ
)
さ。
284
面白
(
おもしろ
)
い
悪
(
あく
)
と
悪
(
あく
)
との
身魂
(
みたま
)
を
乗
(
の
)
せて
285
キヨの
海
(
うみ
)
をば
汚
(
けが
)
し
行
(
ゆ
)
く。
286
犬
(
いぬ
)
に
乗
(
の
)
りたる
以前
(
いぜん
)
のナイス
287
今
(
いま
)
は
何処
(
いづこ
)
の
波
(
なみ
)
の
上
(
うへ
)
。
288
三百
(
さんびやく
)
の
金
(
かね
)
は
何時
(
いつ
)
しか
吾
(
わが
)
懐
(
ふところ
)
を
289
辷
(
すべ
)
り
出
(
い
)
でたる
海
(
うみ
)
の
上
(
うへ
)
。
290
金
(
かね
)
が
仇
(
かたき
)
の
浮世
(
うきよ
)
と
聞
(
き
)
けど
291
金
(
かね
)
が
無
(
な
)
ければ
渡
(
わた
)
れない。
292
さり
乍
(
なが
)
ら
海
(
うみ
)
を
渡
(
わた
)
るにや
金
(
かね
)
ではゆかぬ
293
舟
(
ふね
)
が
命
(
いのち
)
の
守神
(
まもりがみ
)
。
294
神
(
かみ
)
の
館
(
やかた
)
を
放逐
(
ほうちく
)
されて
295
尻
(
しり
)
の
据場
(
すゑば
)
に
困
(
こま
)
る
奴
(
やつ
)
。
296
金盥
(
かなだらひ
)
尻
(
しり
)
に
当
(
あて
)
られカンカンと
297
照
(
て
)
らす
夏日
(
なつひ
)
の
其
(
その
)
暑
(
あつ
)
さ。
298
面
(
つら
)
の
皮
(
かは
)
あつい
許
(
ばか
)
りか
尻
(
しり
)
迄
(
まで
)
が
299
あつい
男
(
をとこ
)
とほめられた。
300
ワックスは
色
(
いろ
)
と
欲
(
よく
)
との
二
(
ふた
)
つに
離
(
はな
)
れ
301
泣
(
な
)
いて
彷徨
(
さまよ
)
ふ
海
(
うみ
)
の
上
(
うへ
)
。
302
エキスさま
甘
(
うま
)
いエキスふ
新
(
あたら
)
し
男
(
をとこ
)
303
蛸
(
たこ
)
のお
化
(
ば
)
けと
人
(
ひと
)
が
云
(
い
)
ふ。
304
吸
(
す
)
いついて
鼠泣
(
ねずみな
)
きせうと
夢
(
ゆめ
)
みた
男
(
をとこ
)
305
猫
(
ねこ
)
に
逐
(
お
)
はれて
逃
(
に
)
げ
出
(
だ
)
した。
306
猫
(
ねこ
)
かぶり
薬鑵爺
(
やくくわんおやぢ
)
の
機嫌
(
きげん
)
をとりて
307
居
(
を
)
つた
甲斐
(
かひ
)
なく
馬鹿
(
ばか
)
にされ。
308
肝腎
(
かんじん
)
の
金
(
かね
)
は
他人
(
たにん
)
にぼつたくられて
309
尻
(
しり
)
にお
金
(
かね
)
の
叩
(
たた
)
き
払
(
ばら
)
ひ。
310
天葬式
(
てんさうしき
)
泣
(
な
)
いて
笑
(
わら
)
うて
悔
(
くや
)
んで
踊
(
をど
)
る
311
義理泣
(
ぎりな
)
き
女
(
をんな
)
のホクソ
笑
(
ゑみ
)
』
312
ワックス『コラ、
313
エキス、
314
湖上
(
こじやう
)
で
死
(
し
)
ぬだの
死
(
し
)
なぬのと、
315
ナニ
不吉
(
ふきつ
)
なことをほざくのだ。
316
又
(
また
)
、
3161
颶風
(
しけ
)
が
襲来
(
しふらい
)
するぞ。
317
チツと
言霊
(
ことたま
)
を
慎
(
つつし
)
まぬか』
318
エキス『
手
(
て
)
がだるい、
腹
(
はら
)
が
立
(
た
)
つ、
極道
(
ごくだう
)
息子
(
むすこ
)
と
湖上
(
こじやう
)
を
越
(
こ
)
せば
319
あちら
此方
(
こちら
)
に
信天翁
(
あはうどり
)
。
320
信天翁
(
あはうどり
)
、
運上
(
うんじやう
)
取
(
と
)
らうとワックス
目
(
め
)
がけ
321
バタバタ
翼
(
つばさ
)
を
打
(
う
)
つてゐる。
322
ゆすられて、
泣
(
な
)
き
泣
(
な
)
き
放
(
ほ
)
り
出
(
だ
)
す
惜
(
を
)
しい
金
(
かね
)
323
首
(
くび
)
をつなぐと
泣
(
な
)
く
涙
(
なみだ
)
』
324
ワックス『オイ、
325
ヘルマン、
326
エキスの
奴
(
やつ
)
、
327
仕方
(
しかた
)
がないから、
328
汝
(
きさま
)
一
(
ひと
)
つ
目出度
(
めでた
)
い
唄
(
うた
)
を
唄
(
うた
)
つて
宣
(
の
)
り
直
(
なほ
)
してくれないか』
329
ヘルマン『さうだなア、
330
のり
直
(
なほ
)
さうと
云
(
い
)
つたつて、
331
外
(
ほか
)
に
空舟
(
あきぶね
)
もなし、
332
矢張
(
やつぱり
)
乗続
(
のりつづ
)
けるより
仕方
(
しかた
)
がないぢやないか。
333
玉国別
(
たまくにわけ
)
は
甘
(
うま
)
く
乗直
(
のりなほ
)
して、
334
サツサとお
先
(
さき
)
へやつて
行
(
ゆ
)
きよつたが、
335
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
は
一体
(
いつたい
)
行末
(
ゆくすゑ
)
が
案
(
あん
)
じられて
仕方
(
しかた
)
がないワ。
336
最前
(
さいぜん
)
から、
337
実
(
じつ
)
は
前途
(
ぜんと
)
を
案
(
あん
)
じ、
338
チツと
許
(
ばか
)
り
憂愁
(
いうしう
)
の
涙
(
なみだ
)
に
沈
(
しづ
)
みてゐた
所
(
ところ
)
だ。
339
あーあ。
340
仕方
(
しかた
)
がない、
341
……
寄辺渚
(
よるべなぎさ
)
の
捨小舟
(
すてをぶね
)
、
342
どこへ
取
(
とり
)
つく
島
(
しま
)
もなしか……ぢやと
云
(
い
)
つて、
343
湖水
(
こすゐ
)
に
投身
(
とうしん
)
して
魚腹
(
ぎよふく
)
に
葬
(
はうむ
)
られるのも、
344
何
(
なん
)
だか
気
(
き
)
が
利
(
き
)
かないやうだし、
345
あゝ
何
(
ど
)
うしたら
可
(
よ
)
からうかなア。
346
俺
(
おれ
)
やモウ
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
が
厭
(
いや
)
になつたのだ。
347
何
(
なん
)
とかして
三五教
(
あななひけう
)
のムニヤ ムニヤ ムニヤ』
348
ワックス『ヤ、
349
何
(
なん
)
と
申
(
まを
)
す、
350
汝
(
きさま
)
は
三五教
(
あななひけう
)
の
弟子
(
でし
)
になりたいといふのだな』
351
ヘルマン『ナアニ、
352
三五教
(
あななひけう
)
の
向
(
むか
)
うを
張
(
は
)
つて
一
(
ひと
)
つ
男
(
をとこ
)
を
立
(
た
)
てねば
世間
(
せけん
)
に
顔出
(
かほだ
)
しが
出来
(
でき
)
ないといふのだ。
353
玉国別
(
たまくにわけ
)
一行
(
いつかう
)
には
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
があこ
迄
(
まで
)
仕組
(
しぐ
)
みて、
354
既
(
すで
)
に
仇
(
あだ
)
を
報
(
むく
)
ゐむと、
355
九分
(
くぶ
)
九厘
(
くりん
)
迄
(
まで
)
行
(
い
)
つた
所
(
ところ
)
へ、
356
マンヂューシリ
菩薩
(
ぼさつ
)
か、
357
アバローキテー・
358
シュヷラのやうな
女神
(
めがみ
)
様
(
さま
)
が
立派
(
りつぱ
)
な
船
(
ふね
)
を
以
(
もつ
)
て
迎
(
むか
)
へに
来
(
き
)
たり、
359
自分
(
じぶん
)
は
犬
(
いぬ
)
に
乗
(
の
)
つて
海上
(
かいじやう
)
を
渡
(
わた
)
つて
行
(
ゆ
)
くといふ
様
(
やう
)
な
離
(
はな
)
れ
業
(
わざ
)
が
出来
(
でき
)
るのだからなア。
360
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
つても
敵
(
てき
)
乍
(
なが
)
ら
大
(
たい
)
したものだよ』
361
ワックス『サア、
362
そこが
魔法使
(
まはふつかひ
)
の
魔法使
(
まはふつかひ
)
たる
所以
(
ゆゑん
)
だ。
363
正法
(
しやうはふ
)
に
不思議
(
ふしぎ
)
なし、
364
君子
(
くんし
)
は
怪力
(
くわいりき
)
乱神
(
らんしん
)
を
語
(
かた
)
らずといふぢやないか。
365
キツと
邪法
(
じやはふ
)
だよ』
366
ヘルマン『それでもお
前
(
まへ
)
の
様
(
やう
)
に
微力
(
びりよく
)
乱心
(
らんしん
)
に
比
(
くら
)
べてみたら、
367
余程
(
よほど
)
マシぢやないか。
368
俺
(
おれ
)
は
何
(
なん
)
だか、
369
あの
三五教
(
あななひけう
)
とやらが、
370
俄
(
にはか
)
に
好
(
すき
)
に……なつて……は
来
(
こ
)
ぬのだ。
371
本当
(
ほんたう
)
に
三五教
(
あななひけう
)
の
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
とバラモン
教
(
けう
)
の
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
とは、
372
正邪
(
せいじや
)
善悪
(
ぜんあく
)
の
差別
(
けじめ
)
が
非常
(
ひじやう
)
についてゐる
様
(
やう
)
に
思
(
おも
)
はれてならないのだ』
373
ワックス『どちらが
正
(
せい
)
で
374
どちらが
邪
(
じや
)
といふのだ』
375
ヘルマン『
邪
(
じや
)
と
申
(
まを
)
して、
376
俄
(
にはか
)
に
判断
(
はんだん
)
がつかないワ。
377
マア
行
(
ゆ
)
く
所
(
ところ
)
迄
(
まで
)
行
(
ゆ
)
かねば
分
(
わか
)
らない。
378
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
安心
(
あんしん
)
してくれ、
379
俺
(
おれ
)
は
素
(
もと
)
よりバラモン
教徒
(
けうと
)
だから、
380
メツタに
外道
(
げだう
)
の
教
(
をしへ
)
に
溺没
(
できぼつ
)
するやうな
無腸漢
(
むちやうかん
)
ぢやないからのう。
381
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
らよく
考
(
かんが
)
へてみよ、
382
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
四
(
よ
)
人
(
にん
)
はバラモン
教
(
けう
)
のピュリタンぢやないか。
383
それにも
拘
(
かかは
)
らず、
384
バラモン
館
(
やかた
)
を
大勢
(
おほぜい
)
の
前
(
まへ
)
で
笞刑
(
ちけい
)
をうけて
放逐
(
はうちく
)
されたのだから、
385
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
から
見放
(
みはな
)
されたのかも
知
(
し
)
れないよ。
386
さすれば
捨
(
す
)
てる
神
(
かみ
)
もあれば
拾
(
ひろ
)
ふ
神
(
かみ
)
もありといふから、
387
実際
(
じつさい
)
捨
(
す
)
てられたとすれば、
388
人
(
ひと
)
は
無宗教
(
むしうけう
)
で
此
(
この
)
世
(
よ
)
に
立
(
た
)
つてゆけないから、
389
何
(
なん
)
とか
考
(
かんが
)
へねばなるまい』
390
ワックス『ナニ、
391
心配
(
しんぱい
)
するな。
392
キヨの
港
(
みなと
)
へついたら
最後
(
さいご
)
、
393
どこもかも
皆
(
みな
)
バラモン
教
(
けう
)
の
勢力
(
せいりよく
)
範囲
(
はんゐ
)
だから、
394
三五教
(
あななひけう
)
の
魔法使
(
まはふつかひ
)
を
巧
(
うま
)
く
捕縛
(
ほばく
)
するか、
395
もしも
力
(
ちから
)
に
及
(
およ
)
ばねば
関所
(
せきしよ
)
へ
密告
(
みつこく
)
して
手柄
(
てがら
)
を
現
(
あら
)
はしさへすれば、
396
又
(
また
)
立派
(
りつぱ
)
なバラモン
教
(
けう
)
のピュリタンとして、
397
安全
(
あんぜん
)
無事
(
ぶじ
)
に
関所
(
せきしよ
)
の
切手
(
きつて
)
を
貰
(
もら
)
ひ、
398
ハルナの
都
(
みやこ
)
へ
安全
(
あんぜん
)
に
行
(
ゆ
)
かうとままだ。
399
何
(
なん
)
とマア
舟
(
ふね
)
の
早
(
はや
)
いことだのう。
400
これも
全
(
まつた
)
くバラモンの
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
のお
蔭
(
かげ
)
だよ。
401
サア、
402
エル、
403
そこどけ、
404
俺
(
おれ
)
が
一
(
ひと
)
つ
櫓
(
ろ
)
を
操
(
あやつ
)
つてやらう』
405
と
言
(
い
)
ひ
乍
(
なが
)
ら、
406
代
(
かは
)
る
代
(
がは
)
る
櫓
(
ろ
)
を
握
(
にぎ
)
り、
407
順風
(
じゆんぷう
)
に
助
(
たす
)
けられて
408
都合
(
つがふ
)
好
(
よ
)
くキヨの
港
(
みなと
)
へ
三日目
(
みつかめ
)
の
夕方
(
ゆふがた
)
安着
(
あんちやく
)
したりける。
409
(
大正一二・四・一
旧二・一六
於皆生温泉浜屋
松村真澄
録)
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PTC2 出口王仁三郎の霊界物語で透見する世界現象 T之巻
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