チルテルは、ヘールに命じて初稚姫を呼びにやらせたが、いつまでたっても戻ってこない。耳をすましてみれば、ヘールは初稚姫を横領しようとあからさまに口説いている。怒ってやってきてみれば、ヘールは初稚姫に押さえつけられて苦しんでいる。
その有様を見たチルテルはヘールの有様に吹き出してしまった。チルテルは、妻とはもう別れたから初稚姫を後妻に入れようと言い、横恋慕したヘールを首にすると言い渡した。
初稚姫はヘールを押さえつけながら、この男はあまり憎いとは思わないが、力をためそうとこのようにしているのだと答え、どことなしに益荒男の息が通っているとヘールを誉めた。
いぶかるチルテルに対し、初稚姫は妻を縛って蔵の中へ投げ込むような恐ろしい男にはけっして靡かないと歌で答えた。
初稚姫はぱっとヘールを放した。チルテルとヘールは初稚姫を巡って角突き合わせている。初稚姫は、自分は階級などには頓着しない、ただ男らしい男であればよく、器量が悪くても力の強い夫を持ちたいと二人に答えた。
初稚姫に乗せられた二人は、庭で相撲を取って勝負を決めることになった。二人は落とし穴の側で四股を踏んでいる。そこへテクが走ってやって来た。テクはいぶかったが、二人の行司を買って出た。
初稚姫は、自分が行司をするから、三人で誰が自分の夫になるか力比べをするのがよいと言いだした。さっそくヘールがチルテルに組みついて勝負が始まった。
二人はしばらく闘っていたが、チルテルが勝り、ヘールは押し倒されて深い落とし穴へ投げ込まれてしまった。次いでテクがチルテルに突っかかる。半時ばかりの勝負の後、テクがチルテルを落とし穴に投げ込んだ。
相撲の間に、ワックス、ヘルマン、エキス、エルの四人は関所の門を潜り、裏庭に妙な音が聞こえるので中へ入ってきた。見れば、二人の男が相撲を取っているのでそばに来て勝負を眺めていた。
勝者のテクは起き上がり、自分が初稚姫の夫となってキャプテンの座もいただくのだ、と悦に入っている。ワックス他三人は、初稚姫の美貌に見とれてポカンとしている。
初稚姫は、勝利のお祝いに、やってきた四人のバラモン信者に酒でも振る舞ったらどうか、とテクに勧めた。テクはすっかりキャプテン気取りになって、四人を酒宴に誘う。
初稚姫はテクに手を差し出した。テクは手を伸ばして初稚姫の手を握った。たちまち姫の手から白い毛がモジャモジャと生えだした。驚いてみると、姫は驢馬のような大きな白狐となってしまった。
テクとワックスたちは驚いて逃げ出そうとするとたん、ワックスたち四人は落とし穴に落ち込んでしまった。初稚姫に変化していたのは、三五教を守護する白狐・旭であった。旭は庭園の茂みを潜って、どこともなく姿を隠した。