霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第九章 暗内(あんない)〔一五〇九〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第59巻 真善美愛 戌の巻 篇:第2篇 厄気悋々 よみ(新仮名遣い):やっきりんりん
章:第9章 暗内 よみ(新仮名遣い):あんない 通し章番号:1509
口述日:1923(大正12)年04月01日(旧02月16日) 口述場所:皆生温泉 浜屋 筆録者:北村隆光 校正日: 校正場所: 初版発行日:1925(大正14)年7月8日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]
玉国別と真純彦は、長途の旅路につかれて振る舞い酒に酔い、その夜は熟睡してしまった。翌朝、神殿で祝詞を奏上した後休んでいると、バーチルが急いでやってきた。そして三千彦、伊太彦、デビス姫がいなくなっており、どうやらバラモン軍に連れ去られたようだと告げた。
バーチルは、三人を取り戻すために村中から人を呼んで玉国別に加勢しようと申し出た。玉国別は村人に怪我人が出てはいけない、と真純彦と二人で乗り込むことに決めた。
二人が出立しようとしていると、テクがやってきた。テクはこれまで悪いことばかりしてきたが、玉国別からいただいた酒を飲んだらすっかり改心してしまったと話した。そして、チルテルの館にはあちこちに落とし穴があるから、自分が案内役として同行しようと申し出た。
バーチルは、アンチーが暇を申し出たから、代わりに本当に番頭になってくれとテクに申し出て、テクも承諾した。アンチーもと一緒にチルテル館に乗り込みたいと申し出たので、玉国別は承諾した。
四人は作戦会議を開いた。アンチーは、チルテルにはいろいろな企みがあるだろうから、できる限り事前に様子を探って、夕暮れ以降に忍び込んだ方がよいだろうと提案した。アンチーの案が採用され、テクが斥候となって館の様子を探ってくることになった。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる] 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日: OBC :rm5909
愛善世界社版:117頁 八幡書店版:第10輯 526頁 修補版: 校定版:123頁 普及版: 初版: ページ備考:
001 玉国別(たまくにわけ)002真純彦(ますみひこ)長途(ちやうと)海路(うなぢ)草臥(くたび)れきつた(うへ)003振舞酒(ふるまひざけ)にグツタリ()ふて(その)()(つぶ)れた(やう)熟睡(じゆくすゐ)して(しま)つた。004()手洗(てうづ)使(つか)(くち)をすすぎ、005東天(とうてん)(はい)し、006()いで神殿(しんでん)(すす)祝詞(のりと)奏上(そうじやう)し、007(しば)らく休息(きうそく)して()る。008そこへバーチルは顔色(がんしよく)()へて()(きた)り、
009バーチル『もし先生(せんせい)(さま)010大変(たいへん)(こと)出来(しゆつたい)(いた)しました。011(まこと)申訳(まをしわけ)のない(こと)(ござ)います』
012玉国(たまくに)大変(たいへん)とは何事(なにごと)(ござ)いますか』
013バーチル『はい、014(わたし)もグツタリと草臥(くたび)れて、015よく寝込(ねこ)んで(しま)ひましたので、016夜中(やちう)出来事(できごと)(すこ)しも(ぞん)じませぬが、017三千彦(みちひこ)(さま)018伊太彦(いたひこ)(さま)019デビス(ひめ)(さま)のお三方(さんかた)が、020何程(なにほど)そこらを(さが)しても行衛(ゆくゑ)(わか)りませぬ。021里人(さとびと)(はなし)によりますと022裏門口(うらもんぐち)(ひら)いてバラモンの軍人(ぐんじん)三人(さんにん)(さま)をフン(じば)(かへ)つたとの(こと)023(じつ)申訳(まをしわけ)のない(こと)(いた)しました』
024玉国(たまくに)(なに)025(さん)(にん)がバラモン(ぐん)(さそ)はれたと、026やア、027それは大変(たいへん)だ。028真純彦(ますみひこ)029こりやかうしては()られまい。030(これ)から両人(りやうにん)がバラモンの関所(せきしよ)押掛(おしか)けて()つて様子(やうす)(さぐ)つて()ようぢやないか』
031真純(ますみ)如何(いか)にも大変(たいへん)(こと)出来(しゆつたい)(いた)しました。032さア(まゐ)りませう』
033バーチル『もし先生(せんせい)(さま)034一寸(ちよつと)()(くだ)さいませ。035バラモンの関所(せきしよ)には一中隊(いつちうたい)勇猛(ゆうまう)なる兵士(へいし)(かか)へて(ござ)いますから、036二人(ふたり)(さま)では険難(けんのん)(ござ)いませう。037(さいは)()うして村中(むらぢう)(もの)昼夜(ひるよる)(べつ)なく、038(いはひ)()()りますから039(この)(うち)から(つよ)(もの)(えら)むで数十(すうじふ)(にん)()れになつてはどうでせう。040(わたし)(いのち)(たす)けて(もら)つた()恩返(おんがへ)しに今度(こんど)(いのち)()てます。041何卒(どうぞ)さうなすつて(くだ)さいませぬか』
042玉国(たまくに)『いや、043(けつ)して()心配(しんぱい)(くだ)さいますな。044(また)宣伝使(せんでんし)貴方(あなた)(がた)助力(じよりよく)によつて多数(たすう)(たの)むで押掛(おしか)けたと()はれては()みませぬ。045(また)一方(いつぱう)武器(ぶき)()つたもの、046里人(さとびと)怪我(けが)でもあつては()みませぬから047吾々(われわれ)両人(りやうにん)直接(ちよくせつ)出掛(でか)けませう』
048バーチル『さう仰有(おつしや)れば是非(ぜひ)(ござ)いませぬ。049(かは)りに(わたし)がお(とも)(いた)しませう』
050玉国(たまくに)『いや、051それには(およ)びませぬ。052(しか)(なが)(わづ)かに二人(ふたり)053(てき)(なか)(まゐ)るので(ござ)いますから054(これ)がお(かほ)見納(みをさ)めになるかも()れませぬ。055何卒(どうぞ)貴方(あなた)(かみ)(さま)御心(みこころ)をよくお(さと)りなさつて、056(この)里人(さとびと)(みちび)可愛(かあい)がつておやりなさいませ』
057 かかる(ところ)へサーベル(ひめ)(ふすま)をソツと押開(おしひら)058(なみだ)(とも)(ころ)げる(やう)にして()(きた)り、
059サーベル『玉国別(たまくにわけ)(さま)060真純彦(ますみひこ)(さま)061大変(たいへん)(こと)出来(しゆつたい)(いた)しました。062何卒(どうぞ)(かみ)(さま)()神徳(しんとく)によつて()三方(さんかた)(すく)()し、063無事(ぶじ)にお(かへ)(くだ)さいませ。064(わらは)(かみ)(さま)(ねん)無事(ぶじ)成功(せいこう)(いの)ります』
065玉国別(たまくにわけ)有難(ありがた)(きみ)(なさけ)厚衣(あつごろも)
066()(まと)ひつつ(すす)()くべし。
067真心(まごころ)(ふか)(つつ)みし衣手(ころもで)
068()ぎて(ほふ)らむ(しこ)(たぶれ)を』
069真純彦(ますみひこ)曲神(まがかみ)(くる)しめられし(わが)(とも)
070(たす)けに()かむ(かみ)のまにまに。
071大神(おほかみ)御前(みまへ)(ぬかづ)()(まを)
072(この)首途(かどいで)真幸(まさき)くあれよと』
073バーチル『真心(まごころ)()めて打出(うちだ)言霊(ことたま)
074刃向(はむか)(あだ)如何(いか)であるべき。
075さり(なが)(こころ)(くば)りて()でませよ
076(たく)みも(ふか)陥穽(おとしあな)あれば』
077サーベル(ひめ)玉国別(たまくにわけ)(かみ)(みこと)真純彦(ますみひこ)
078(あだ)(やかた)()(くば)りませ』
079玉国別(たまくにわけ)有難(ありがた)(かみ)(ささ)げし(わが)(いのち)
080よし()つるとも如何(いか)(おそ)れむ』
081真純彦(ますみひこ)皇神(すめかみ)(えにし)(いと)(むす)ばれし
082()ながら(いま)()けむとぞする』
083バーチル『(わが)(しもべ)アンチー()れて()でませよ
084(かれ)(ちから)(つよ)益良夫(ますらを)
085玉国別(たまくにわけ)(わが)(みち)(ひと)(たよ)らず(つゑ)につかず
086(ただ)真心(まごころ)(すす)むのみなり。
087折角(せつかく)思召(おぼしめし)をば()みするは
088(こころ)()まねど(ゆる)(たま)はれ。
089三千彦(みちひこ)(さぞ)今頃(いまごろ)仇人(あだびと)
090(いづ)言霊(ことたま)()()()るらむ』
091真純彦(ますみひこ)言霊(ことたま)(たたか)ひなれば(おそ)れまじ
092兇器(きようき)()ちし(てき)陣中(ぢんちう)も。
093曲神(まがかみ)(うつ)りきつたる仇人(あだびと)
094言向(ことむけ)(やは)()とはなりぬる』
095アンチー『神司(かむづかさ)()れを()()()でまして
096真心(まごころ)(かぎ)りを(つく)させ(たま)へ。
097よしやよし(いのち)(てき)(わた)すとも
098いかで()いなむ()てし(この)()は』
099玉国別(たまくにわけ)(たま)()(いのち)()へて(うれ)しきは
100(なれ)(こころ)(まこと)なりけり』
101 ()(たがひ)(うた)取交(とりかは)し、102玉国別(たまくにわけ)103真純彦(ますみひこ)(いま)宣伝使(せんでんし)(ふく)()ぎ、104バーチルの(あた)へたる衣服(いふく)着替(きか)(なが)立出(たちい)でむとする(ところ)へ、105泥酔者(よひどれ)のテクはツカツカと(あら)はれ(きた)り、
106テク『ヘー、107御免(ごめん)なさいませ。108(わたし)今日(けふ)(まで)はバラモン(けう)目付役(めつけやく)(した)(はたら)くスパイで(ござ)いました。109一方(いつぱう)には海賊(かいぞく)張本人(ちやうほんにん)ヤッコスと兄弟分(きやうだいぶん)となり、110種々(いろいろ)雑多(ざつた)と、111よくない(こと)(ばか)りやつて()ましたが、112玉国別(たまくにわけ)(さま)(なん)とも()れぬ般若湯(はんにやたう)(いただ)き、113それから(こころ)(ひそ)(おに)(わたし)身内(しんない)から逐転(ちくてん)しまして、114(いま)(まつた)人間心(にんげんごころ)立帰(たちかへ)りました。115()きましてはチルテルの(やしき)には沢山(たくさん)陥穽(おとしあな)(ござ)いますれば116(この)テクが()案内(あんない)(いた)しませう。117うつかり()かうものなら118えらい()()ひます。119その秘密(ひみつ)()つてるのは(ほか)には(ござ)いませぬ。120関所(せきしよ)(まも)つてる軍人(ぐんじん)(ほか)(たれ)()りませぬから121(あぶな)(ござ)います』
122玉国(たまくに)『おう、123(まへ)はテクさまだつたな。124や、125有難(ありがた)う、126それ(ほど)沢山(たくさん)陥穽(おとしあな)(こしら)へてあるかな』
127テク『ヘーヘー、128彼方(あちら)にも此方(こちら)にも陥穽(おとしあな)(ばか)りで(ござ)います。129あんな(ところ)()ちたが最後(さいご)130(あが)(こと)出来(でき)ませぬ。131さうして此頃(このごろ)(なん)とも()れぬ(うつく)しい(をんな)(かた)離家(はなれ)(ただ)一人(ひとり)()られます。132さうして(その)()初稚姫(はつわかひめ)(さま)だとか()(こと)(ござ)います。133関守(せきもり)のキャプテンがその(をんな)(うつつ)()かし、134それが(ため)夫婦(ふうふ)喧嘩(げんくわ)がおつ(ぱじ)まり、135いや、1351もう136内部(ないぶ)醜態(しうたい)()つたら(はなし)になりませぬ』
137玉国(たまくに)『なに、138初稚姫(はつわかひめ)(さま)(ござ)ると()ふのか。139どんな年格好(としかつかう)なお(かた)だ』
140テク『はい、141明瞭(はつきり)(わか)りませぬが142一寸(ちよつと)()(ところ)では十七八(じふしちはつ)(さい)かと(おも)ひます。143(しか)何処(どこ)ともなく十五六(じふごろく)(さい)(をさな)(ところ)(ござ)いますし、144体中(からだぢう)宝石(はうせき)(もつ)(かざ)つて()られます。145それはそれは綺麗(きれい)なお(かた)ですよ』
146玉国(たまくに)『はてな、147初稚姫(はつわかひめ)(さま)は、148そんな宝石(はうせき)(など)()(かざ)(やう)なお(かた)ぢやないと()いて()る。149大方(おほかた)同名(どうめい)異人(いじん)だらう。150なア真純彦(ますみひこ)
151真純(ますみ)『そら、152さうで(ござ)いませう。153世間(せけん)(おな)()何程(いくら)(ござ)いますからな』
154玉国(たまくに)『あ、155そんなら屋敷(やしき)案内(あんない)をお(ねが)ひしようかな』
156テク『いや早速(さつそく)()承知(しようち)157有難(ありがた)(ござ)います。158大抵(たいてい)(とこ)(みな)(わたし)()つて()りますから、159(わたし)(あと)()いて()(くだ)さいますれば160メツタに不調法(ぶてうはふ)はさせませぬ。161そして()(をんな)一度(いちど)()ひになれば真偽(しんぎ)(わか)るでせう。162大方(おほかた)貴方(あなた)のお弟子(でし)陥穽(おとしあな)()()みなさつたかも()れませぬ。163うつかりして()ると(いのち)(あや)しう(ござ)います。164沢山(たくさん)兵士(へいし)()つて(うへ)から(いし)()()むのですから、165(たま)つたものぢやありませぬわ』
166バーチル『テクさま、167(まへ)さまはアキスから()けば(うち)番頭(ばんとう)になつたと()つて()られたさうだが168本当(ほんたう)番頭(ばんとう)になつて()れますか。169アンチーも(しばら)(やす)まして(くだ)さいと()つてるから、170(まへ)さまが番頭頭(ばんとうがしら)になつて(くだ)さらば大変(たいへん)都合(つがふ)(よろ)しいがな』
171テク『承知(しようち)(いた)しやした。172貴方(あなた)からお言葉(ことば)のかからぬ(うち)から(すで)番頭(ばんとう)一人(ひとり)(きめ)()りますから173(なん)異議(いぎ)(ござ)いませう。174もとは悪人(あくにん)(ござ)りましたが175(かみ)(さま)(ひかり)()らされて最早(もはや)(あく)(おそろ)しくなり、176その罪亡(つみほろぼ)しに(ひと)つでも善事(ぜんじ)(おこな)()いと決心(けつしん)をして()りますから177何卒(どうぞ)(よろ)しくお(ねが)(まを)します。178サア玉国別(たまくにわけ)(さま)179真純彦(ますみひこ)(さま)180(まゐ)りませう』
181アンチー『是非(ぜひ)とも(わたし)をお(とも)(ねが)ひます』
182玉国(たまくに)『それ(ほど)(おほ)せらるるなれば()同行(どうかう)(ねが)ひませう』
183とバーチル夫婦(ふうふ)(いとま)()げ、184裏口(うらぐち)より一行(いつかう)()(にん)キヨの関守(せきもり)チルテルが(やかた)()して(すす)()く。185テクは先頭(せんとう)()ちヤッコス(をどり)をし(なが)186(こころ)イソイソ(うた)(はじ)めた。
187テク『バラモン(けう)のキャプテンが
188部下(ぶか)使(つか)はれ(いぬ)となり
189彼方(かなた)此方(こなた)湖辺(うみべ)をば
190(たづ)ねまはりて三五(あななひ)
191(かみ)(つかさ)信徒(まめひと)
192一人(ひとり)(のこ)さずフン(じば)
193キヨの関所(せきしよ)()()きて
194褒美(はうび)(かね)沢山(どつさり)
195(いただ)()きなお(さけ)をば
196()んで浮世(うきよ)面白(おもしろ)
197(くら)さむものと(こころ)をば
198(おに)大蛇(をろち)変化(へんげ)させ
199(あく)(みち)のみ辿(たど)りたる
200悪党(あくたう)無頼(ぶらい)(この)テクも
201玉国別(たまくにわけ)(かみ)(さま)
202(あつ)(こころ)感服(かんぷく)
203(まよ)ひの(ゆめ)()()てて
204バーチルさまの(いへ)()
205(つか)ふる()とはなりにけり
206バラモン(けう)関守(せきもり)
207如何(いか)(ほど)神力(しんりき)あるとても
208如何(いか)(およ)ばむ三五(あななひ)
209(まこと)(ひと)つの言霊(ことたま)
210(てき)する(こと)出来(でき)よまい
211屋敷(やしき)(なか)沢山(たくさん)
212陥穽(おとしあな)をば穿(うが)ちつつ
213三五教(あななひけう)やウラル(けう)
214(みち)(をしへ)のピュリタンを
215否応(いやおう)()はさずフン(じば)
216(みな)(ことごと)陥穽(かんせい)
217(おと)して(よろこ)悪神(あくがみ)
218(しこ)(うつは)となり()てし
219チルテル(つかさ)()(おに)
220(おも)(まは)せば(おそろ)しや
221かかる悪魔(あくま)逸早(いちはや)
222(ほろ)ぼし(つく)()(ひと)
223災難(なやみ)(はや)(すく)はねば
224イヅミの(くに)人々(ひとびと)
225(まくら)(たか)(ねむ)れない
226(われ)(もと)より悪人(あくにん)
227(たね)ではなけれど()むを()
228バラモン(けう)勢力(せいりよく)
229刃向(はむか)(その)()不幸(ふかう)をば
230(まね)かむ(こと)(おそ)れてゆ
231(こころ)にもなき間諜(いぬ)となり
232(わが)良心(りやうしん)(せめ)られて
233(くる)しき月日(つきひ)(おく)りつつ
234せつなき(おも)ひを()さむとて
235(あさ)から(ばん)まで(さけ)()
236浮世(うきよ)(なか)夢現(ゆめうつつ)
237三分(さんぶ)五厘(ごりん)(くら)さむと
238(かね)さへあれば自棄酒(やけざけ)
239(あふ)つて(すご)浅間(あさま)しさ
240あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
241(かみ)(めぐ)みの(さちは)ひて
242(いよいよ)今日(けふ)三五(あななひ)
243(うず)(つかさ)先走(さきばし)
244(いま)(まで)(をか)せし罪科(つみとが)
245(つぐな)ひまつる(いま)(とき)
246(すめ)大神(おほかみ)大神(おほかみ)
247テクの(こころ)(あは)れみて
248今度(こんど)御用(ごよう)(つつが)なく
249()げさせ(たま)惟神(かむながら)
250仮令(たとへ)天地(てんち)(かは)るとも
251一旦(いつたん)(かみ)(おん)(まへ)
252(つみ)()いたる(この)テクは
253(きたな)(こころ)(つゆ)()たじ
254(てき)如何(いか)なる謀計(ぼうけい)
255(めぐ)らし(われ)()()むるとも
256(なに)(おそ)れむ神心(かみごころ)
257(ふる)(おこ)して何処(どこ)(まで)
258(かみ)(おん)(ため)()(ため)
259悪魔(あくま)(すぐ)ひしチルテルの
260(しこ)(つかさ)(こら)しめて
261世人(よびと)(ため)(わざはい)
262(のぞ)かせ(たま)惟神(かむながら)
263御伴(みとも)(つか)へし(この)テクが
264真心(まごころ)(ささ)げて()(まつ)
265あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
266御霊(みたま)(さちは)ひましませよ』
267 アンチーは(また)(うた)ふ。
268アンチー『(さん)(ねん)()りに(わが)主人(あるじ)
269バーチルさまに(めぐ)()
270(よろこ)(いさ)()もあらず
271(いのち)(おや)神司(かむづかさ)
272(あやふ)(てき)(やかた)へと
273()でます(きみ)(あん)じつつ
274主人(あるじ)(きみ)(ゆる)()
275(とも)(つか)(すす)()
276如何(いか)なる(まが)(たく)みをも
277如何(いか)(おそ)れむ敷島(しきしま)
278大和(やまと)男子(をのこ)(たましひ)
279(あら)はしまつりて高恩(かうおん)
280万分一(まんぶんいち)(むく)ふべし
281キヨの(みなと)(とほ)けれど
282勝手(かつて)(おぼ)えし()(みち)
283(すす)むで()けば一時(ひととき)
284(うち)には容易(たやす)(たつ)すべし
285さはさり(なが)真昼中(まひるなか)
286(てき)(やかた)(すす)()
287これが第一(だいいち)険難(けんのん)
288日暮(ひぐ)れを()つてボツボツと
289(すみ)から(すみ)まで探索(たんさく)
290三千彦(みちひこ)さまの所在(ありか)をば
291(さが)(もと)めた(その)(うへ)
292あらむ(かぎ)りのベストをば
293(つく)すもあまり(おそ)からじ
294玉国別(たまくにわけ)宣伝使(せんでんし)
295真純(ますみ)(ひこ)神司(かむづかさ)
296新番頭(しんばんとう)のテクさまよ
297貴方(あなた)()意見(いけん)詳細(まつぶ)さに
298()らせなさつて(くだ)されや
299(てき)にも(ふか)(たく)みあり
300軽々(かるがる)しくも(すす)みなば
301(ほぞ)()むとも(およ)ぶなき
302大失敗(だいしつぱい)(まね)くべし
303(かへり)(たま)神司(かむづかさ)
304(この)アンチーは意外(いぐわい)にも
305卑怯(ひけふ)(をとこ)(みな)さまは
306思召(おぼしめ)すかは()らねども
307注意(ちうい)(うへ)注意(ちうい)して
308()かねばならぬ(てき)(なか)
309あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
310(いづ)れにしても大神(おほかみ)
311(ちから)(たよ)(すす)むべし
312玉国別(たまくにわけ)(おん)(まへ)
313(あらた)(うかが)(たてまつ)る』
314(うた)(をは)り、315玉国別(たまくにわけ)意見(いけん)(もと)めた。316玉国別(たまくにわけ)はアンチーの言葉(ことば)一理(いちり)ありとなし、317途上(とじやう)(たたず)みて(しば)思案(しあん)(めぐ)らして()る。318テクは無雑作(むざふさ)(くち)(ひら)いて、
319テク『もし、320皆様(みなさま)321(わたし)(さいは)種々(いろいろ)関係(くわんけい)(じやう)チルテルに接近(せつきん)せなくてはなりませぬ。322それについては色々(いろいろ)とチルテルの(はら)(さぐ)り、323(また)(てき)様子(やうす)三千彦(みちひこ)(さま)以下(いか)所在(ありか)探索(たんさく)するに余程(よほど)便宜(べんぎ)()つて()りますから、324貴方(あなた)(しば)らく(この)密林(みつりん)()()るる(まで)()休息(きうそく)(ねが)ひ、325(わたし)一応(いちおう)取調(とりしら)べた(うへ)326()()れてからお出掛(でか)けになつた(はう)がよからうと(ぞん)じますが327貴方(あなた)(がた)のお(かんがへ)如何(いかが)(ござ)いませうか』
328玉国(たまくに)成程(なるほど)329(かへ)つて夜分(やぶん)(はう)()いかも()れない。330()神諭(しんゆ)にも「(いま)(まで)()(くれ)(わる)いと(まを)したが331(これ)からは()(くれ)(はじ)めた(こと)何事(なにごと)もよい」とお(しめ)しになつて()る。332そんならテクさま、333()苦労(くらう)(なが)らチルテルの(やかた)(まかり)()し、334(あた)(かぎ)りの偵察(ていさつ)をして(くだ)さい。335それまで()森蔭(もりかげ)祈願(きぐわん)をして()つて()りませう』
336テク『いや、337早速(さつそく)()同意(どうい)338有難(ありがた)(ござ)います。339それなら(この)テクがうまく様子(やうす)(さぐ)つて(まゐ)ります。340何卒(どうぞ)(この)(もり)(おく)(ゆつく)りと休息(きうそく)をして()つて()(くだ)さい。341左様(さやう)なら』
342()(なが)(しり)引紮(ひつから)343トントントンと夏草(なつくさ)(しげ)(ほそ)野道(のみち)()()した。344(さん)(にん)(もり)木蔭(こかげ)(こし)(おろ)し、345(とき)(いた)るを()つて()る。
346大正一二・四・一 旧二・一六 於皆生温泉浜屋 北村隆光録)
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