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第一一章 黒白(あやめ)〔一五一一〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第59巻 真善美愛 戌の巻 篇:第2篇 厄気悋々 よみ(新仮名遣い):やっきりんりん
章:第11章 黒白 よみ(新仮名遣い):あやめ 通し章番号:1511
口述日:1923(大正12)年04月02日(旧02月17日) 口述場所:皆生温泉 浜屋 筆録者:北村隆光 校正日: 校正場所: 初版発行日:1925(大正14)年7月8日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]
ヘールは初稚姫の居間の前にやって来たが、なんだか敷居が高くて心が怖気づく。ヘールは自分の副守を落ち着かせ、また恐怖心を落ち着かせ、歌で歌いかけて初稚姫にアピールしようと歌いだした。
ヘールは初稚姫と自分を夫婦神になぞらえて、勝手な理屈をこねつつ、チルテルよりも自分になびくべきだと歌った。
初稚姫は中から戸を開いて、ヘールの姿を見て微笑しつつ、自分は神の使いとして夫を持つことはできないと歌い返した。ヘールは初稚姫への恋の思いを歌い、互いに歌を交わしていく。
ヘールはついに力づくで迫ろうと表戸を開けて初稚姫の手を握ろうとした。初稚姫は手早くかわして、襟髪をとって窓の外にフワリと投げ出した。
ヘールは、男の恋の意地だと言って起き上がり、再び初稚姫に武者ぶりつく。初稚姫は手もなくヘールを押さえつけてしまった。
ヘールは、初稚姫の姿を見て神がかりとなり、神の命にしたがって初稚姫に迫ったのだ、と屁理屈をこねる。初稚姫は剛力でヘールを押さえつけながら笑い飛ばしている。そこへチルテルが血相を変えてやってきた。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる] 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2017-05-06 14:48:57 OBC :rm5911
愛善世界社版:144頁 八幡書店版:第10輯 536頁 修補版: 校定版:152頁 普及版: 初版: ページ備考:
001 ヘールは(いきほひ)()んで初稚姫(はつわかひめ)()もれる(やかた)(まへ)(まで)やつて()たが、002(なん)だか敷居(しきゐ)(たか)くて(こころ)()ぢつく。
003ヘール『エー、004(また)副守(ふくしゆ)卑怯者(ひけふもの)()005(せい)守護神(しゆごじん)行動(かうどう)防止(ばうし)せむと(いた)すか。006猪口才(ちよこざい)千万(せんばん)な、007左様(さやう)(こと)躊躇(ちうちよ)逡巡(しゆんじゆん)するヘールさまではないぞ。008全隊(ぜんたい)()まれ』
009 (はら)(なか)から副守(ふくしゆ)010一同(いちどう)に『ハーイ』。
011ヘール『よしよし、012(しば)らく沈黙(ちんもく)(まも)るのだ。013いや()()るが()い。014非常(ひじやう)召集(せうしふ)喇叭(ラツパ)()つたら、015その(とき)こそ一度(いちど)立上(たちあが)るのだ。016それ(まで)副守(ふくしゆ)全隊(ぜんたい)休息(きうそく)(めい)ずる。017(いま)(うち)郷里(きやうり)にでも(かへ)つて爺婆(ぢぢばば)(ちち)でも()むで()い。018アハヽヽヽ、019到頭(たうとう)副守(ふくしゆ)(やつ)沈黙(ちんもく)しやがつたな。020(しか)しまだ恐怖心(きようふしん)(やつ)021喰付(くつつ)いてゐると()えるわい。022これ恐怖心(きようふしん)023(まへ)(はや)郷里(きやうり)(かへ)つて在郷(ざいごう)軍人(ぐんじん)となり、024農工商(のうこうしやう)(げふ)従事(じうじ)せよ。025一旦(いつたん)緩急(くわんきふ)あらば(すき)鉄砲(てつぱう)()へ、026算盤(そろばん)(けん)()へ、027(のみ)(やり)()へて義勇(ぎゆう)奉公(ほうこう)(じつ)(しめ)すのだ。028それ(まで)(この)ヘール体内国(たいないこく)現役兵(げんえきへい)(めん)ずる。029有難(ありがた)(おも)へ。030アハヽヽヽ、031どうやらチツト(ばか)恐怖心(きようふしん)退散(たいさん)したさうだ032(いな)帰郷(ききやう)したさうだ。033エー(ひと)(うた)でも(うた)つて(ひめ)精神(せいしん)恍惚(くわうこつ)たらしめるのだな。034(おれ)硬骨(かうこつ)男子(だんし)()はれて()たが、035(をんな)にかけたら(なん)()軟骨(なんこつ)だらう。036(この)二〇三(にひやくさん)高地(かうち)一寸(ちよつと)(ほね)()れるわい。037(くち)法螺(ほら)()き、038(しり)喇叭(ラツパ)()いた(ぐらゐ)ぢや容易(ようい)効果(かうくわ)(あが)らない。039未来(みらい)聖人(せいじん)礼楽(れいがく)(もつ)()(をさ)めたと()ふ。040射御(しやぎよ)書数(しよすう)(すゑ)(すゑ)だ。041()(れい)(あつ)くし(がく)(そう)し、042微妙(びめう)なる音声(おんせい)()して名歌(めいか)(うた)ひ、043(ひめ)(こころ)(うご)かすに(かぎ)る。044(うた)神明(しんめい)(こころ)(やは)らげ045(また)天地(てんち)(うご)かすと()ふ。046(いは)んや、047人間(にんげん)(こころ)(おい)ておやだ。048(うた)なる(かな)(うた)なる(かな)だ。
049(こひ)といふ()分析(ぶんせき)すれば
050 (いと)(いと)しと()(こころ)恋の旧字体は「戀」……か、
051やア此奴(こいつ)(ふる)い。052初稚姫(はつわかひめ)(ぐらゐ)のナイスになつたら(すで)()いてるだらう。053(おれ)発明(はつめい)した(うた)だと(おも)つて()れれば()いが054(かび)()えた(やう)受売歌(うけうりうた)だと(おも)はれちや、055(かへつ)(をとこ)(さが)る。056よし(なん)とか(かんが)へて()よう。
057(いと)可愛(かあい)(こころ)(おも)
058 (いと)しお(かた)先方(むかふ)()ふ(戀)
059これでスツカリ(あたら)しくなつた。060(しか)(なが)引繰(ひつくり)(かへ)しの焼直(やきなほ)しだから、061矢張(やつぱり)もとの(はう)がどうも()(やう)だ。062はてな、063今度(こんど)(あい)()()分析(ぶんせき)して(うた)つてやらうかな。
064可愛(かはい)(こころ)(つらぬ)くなれば
065 (きみ)(かなら)()けるだらう。
066今度(こんど)至上(しじやう)主義(しゆぎ)至上(しじやう)だ、067ベストだ。068エヘヽヽヽ、069どうか(うま)くやり()いものだナ。
070ラブのベストは(ひと)つで(ござ)
071 (つち)(うへ)には(きみ)ばかり。
072初稚姫(はつわかひめ)のナイスさま
073(あま)川原(かはら)(ふね)(うか)
074黄金(こがね)(さを)をさし(なが)
075キヨの海原(うなばら)()()えて
076これの(やかた)天降(あも)りまし
077(はな)(かんばせ)(つき)(まゆ)
078(ほし)(ころも)をつけ(たま)
079天女(てんによ)姿(すがた)その(まま)
080これの(やかた)にビカビカと
081(ひか)らせ(たま)(たふと)さよ
082朝日(あさひ)()るとも(ひか)るとも
083(つき)姿(すがた)(きよ)くとも
084初稚姫(はつわかひめ)(くら)ぶれば
085(そば)へもよれない(みじ)めさよ
086(ゆき)(あざむ)(しろ)(かほ)
087(はだ)(なめ)らかにツルツルと
088水晶玉(すゐしやうだま)(ごと)くなり
089そも天地(あめつち)真相(しんさう)
090(しろ)きは(いろ)(はじ)まりよ
091(くろ)きは(いろ)(とどめ)なり
092(とどめ)(すなは)年増(としま)ぞや
093(いろ)年増(としま)(とど)めさす
094(しろ)(くろ)とが()()ふて
095キチンとしたる碁盤(ごばん)()
096(たて)(よこ)との仕組(しぐみ)をば
097(あそ)ばしました大御神(おほみかみ)
098(あか)(かさ)なりや(くろ)うなる
099(くろ)がかへれば(しろ)となる
100初稚姫(はつわかひめ)(しろ)(はだ)
101ヘールの(つかさ)(くろ)(かほ)
102これぞ(まつた)(うしとら)
103(いづ)御霊(みたま)()再来(さいらい)
104初稚姫(はつわかひめ)瑞御魂(みづみたま)
105(ひつじさる)なる姫神(ひめがみ)
106(すめ)大神(おほかみ)()再来(さいらい)
107(いづ)(みづ)との水火(いき)(あは)
108夫婦(めをと)(ちぎり)永久(とこしへ)
109(あめ)御柱(みはしら)(めぐ)()
110山川(さんせん)草木(さうもく)諸々(もろもろ)
111(うづ)(おん)()()みましし
112(かむ)伊邪那岐(いざなぎ)大神(おほかみ)
113その古事(ふるごと)神習(かむなら)
114(この)()(うへ)永遠(えいゑん)
115天国(てんごく)浄土(じやうど)建設(けんせつ)
116所在(あらゆる)(もも)神人(しんじん)
117(すく)はむ(ため)皇神(すめかみ)
118(いろ)(くろ)尉殿(じやうどの)
119(いろ)(しろ)姥殿(うばどの)
120目出度(めでた)くここに(くだ)しけり
121初稚姫(はつわかひめ)神司(かむづかさ)
122如何(いか)にヘールを(きら)ふとも
123(かみ)のよさしの(えにし)ぞや
124(かへり)みたまへ惟神(かむながら)
125(かみ)(をしへ)目覚(めざ)めたる
126ヘールの身魂(みたま)(あきら)かに
127(かがみ)(ごと)(うつ)りけり
128(この)()(あるじ)チルテルは
129肝腎要(かんじんかなめ)女房(にようばう)
130他所(よそ)見捨(みすて)遠近(をちこち)
131(あだ)(をんな)(うつつ)をば
132()かして(たま)(くさ)らせつ
133夫婦(ふうふ)喧嘩(げんくわ)()えまなく
134家財(かざい)一切(いつさい)ガタガタと
135時々(ときどき)(さわ)(をど)()
136化物(ばけもの)屋敷(やしき)()(やう)
137(あを)(しろ)とをつき()ぜた
138干瓢面(かんぺうづら)()(なが)
139キヨの関守(せきもり)(かさ)()
140キャプテン(づら)振廻(ふりまは)
141(てん)から(くだ)つた初稚姫(はつわかひめ)
142(かみ)(みこと)神女(しんぢよ)をば
143(ねや)のお(とぎ)になさむとて
144チルナの(ひめ)難癖(なんくせ)
145うまうまつけて(しば)()
146(くら)(なか)へと無慚(むざん)にも
147押込(おしこ)めたるぞ(にく)らしき
148かかる残虐(ざんぎやく)無道(ぶだう)をば
149(あへ)(はぢ)ない(おに)畜生(ちくしやう)
150(かなら)(まよ)はせ(たま)ふなよ
151(なみだ)もあれば()(かよ)
152義勇(ぎゆう)一途(いちづ)のこのヘール
153昨晩(ゆうべ)(かみ)(おん)()げに
154其方(そなた)神世(かみよ)(むかし)から
155(ふか)因縁(いんねん)ある身魂(みたま)
156初稚姫(はつわかひめ)(その)(むかし)
157夫婦(ふうふ)となつて(みち)(ため)
158(つく)しまつりし天人(てんにん)
159弥勒(みろく)神代(かみよ)()るにつけ
160(まへ)変性(へんじやう)女子(によし)となし
161初稚姫(はつわかひめ)神司(かむづかさ)
162変性(へんじやう)男子(なんし)(あら)はれて
163(かみ)御国(みくに)(まつぶさ)
164(つく)(かた)めよと(おごそ)かに
165()らせ(たま)ひし(たふと)さよ
166初稚姫(はつわかひめ)神司(かむづかさ)
167(かなら)(うそ)ではない(ほど)
168(かみ)言葉(ことば)二言(にごん)ない
169(むね)()をあて神勅(しんちよく)
170(ただ)しく(さと)りヘールをば
171(かみ)(むす)びし(をつと)とし
172(むつ)(した)しみ神業(しんげふ)
173参加(さんか)なされよ瑞御魂(みづみたま)
174変性(へんじやう)女子(によし)()(つた)
175朝日(あさひ)()るとも(くも)るとも
176仮令(たとへ)大地(だいち)(しづ)むとも
177夫婦(ふうふ)(みち)(かは)らない
178兎角(とかく)浮世(うきよ)人間(にんげん)
179(こころ)(まま)にはなりませぬ
180(たがひ)欠点(けつてん)辛抱(しんばう)して
181採長(さいちやう)補短(ほたん)(むつま)じく
182天地(てんち)水火(いき)(かた)むべし
183(わが)言霊(ことたま)(おん)(みみ)
184安全(うまら)委曲(つばら)()るならば
185いと(すみや)けく返事(かへりごと)
186()らせ(たま)へよ(ひめ)(みこと)
187(まこと)(あつ)きヘール(つかさ)
188ここに(つつし)神勅(しんちよく)
189(みこと)(まへ)()りまつる
190あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
191恩頼(みたまのふゆ)(たま)へかし』
192 初稚姫(はつわかひめ)(なか)よりパツと()(ひら)いて193ヘールの姿(すがた)(うち)見守(みまも)(なが)微笑(びせう)して、
194初稚姫(はつわかひめ)何人(なにびと)言霊(ことたま)ぞやと(あや)しみて
195(まど)(ひら)けば面白(おもしろ)(きみ)
196種々(さまざま)(いづ)言霊(ことたま)繰返(くりかへ)
197(きみ)(こころ)(かな)しくぞある』
198ヘール『(われ)とても()()(なか)()()なれば
199如何(いか)(をんな)(こころ)(みだ)さむ。
200さり(なが)(かみ)言葉(ことば)(そむ)かれず
201(なれ)(みこと)()(つた)へける。
202(この)(こひ)人恋(ひとこひ)ならず(かみ)(こひ)
203ラブ・イズ・ベストの(かがみ)なりけり』
204初稚姫(はつわかひめ)(いぶ)かしや(かみ)言葉(ことば)()(うへ)
205(そむ)かむ(すべ)もなきにあらねど』
206ヘール『瞹眛(あいまい)(ひめ)言霊(ことたま)如何(いか)にして
207()(よし)もなき(わが)(おも)ひかな。
208益良夫(ますらを)(おも)ひつめたる(こひ)()
209やがて(いは)をも射貫(いぬ)くなるらむ』
210初稚姫(はつわかひめ)『さは()へど(わらは)(かみ)御使(みつかひ)
211(つま)()たすなと(きび)しき(いまし)め。
212(いまし)めを(かた)(まも)りて(すす)()
213(しこ)(あらし)(さそ)(すべ)なし。
214(いつは)りのなき()なりせば()くばかり
215(わが)(たましひ)(いた)めざらまし。
216(わが)()には(こひ)てふものは白雲(しらくも)
217(そら)にまします(つき)大神(おほかみ)
218ヘール『(われ)とてもこれの関所(せきしよ)につきの(かみ)
219テルモン(ざん)雄々(をを)しき姿(すがた)よ』
220初稚姫(はつわかひめ)(はる)(はな)(なつ)(たちばな)(あき)(きく)
221(ふゆ)水仙(すゐせん)(さび)しき(はな)よ。
222手折(たを)るべき(ひと)なき(われ)(いつく)しむ
223()()(かみ)(ひと)しとぞ(おも)ふ。
224真心(まごころ)(わが)(たましひ)(かよ)へども
225詮術(せんすべ)もなし天人(てんにん)()は。
226現世(うつしよ)(ひと)一所(ひととこ)なりあはぬ
227しるし()れども(われ)はこれなし。
228()かれ()(わが)身体(からたま)()らずして
229(まよ)はせ(たま)(こと)果敢(はか)なさ』
230ヘール『どうしても(すめ)大神(おほかみ)御教(みをしへ)
231(まも)りて(きみ)(わが)(つま)とせむ。
232如何(いか)(ほど)()らせ(たま)ふも(たゆ)みなく
233(したが)()かむ(うみ)(そこ)まで』
234初稚姫(はつわかひめ)(おも)ひきや(おも)はぬ(ひと)深情(ふかなさけ)
235()(よし)もなき(われ)(かな)しき』
236ヘール『(やはら)かに(うづ)言霊(ことたま)()(くるま)
237()(きみ)こそは(あま)於須(おす)(かみ)
238ラブベスト那須野(なすの)(はら)若草(わかくさ)
239()まれ(にじ)られ(なが)(はな)()く』
240初稚姫(はつわかひめ)()まれても(また)()られても(はな)()かず
241()(かげ)もなき無花果(いちぢく)()は。
242(かみ)(みち)(ただ)無花果(いちぢく)(すす)()
243春風(はるかぜ)()くも()(ためし)なし。
244(はな)()(わらは)姿(すがた)見限(みかぎ)りて
245()()(にほ)(はな)(もと)めよ。
246紫雲英(げんげ)(ばな)()目覚(めざ)ましく(ひら)くとも
247(とこ)(かざ)りにならぬ(われ)なり』
248ヘール『野辺(のべ)()紫雲英(げんげ)(はな)花莚(はなむしろ)
249()きてやすやす()ねむとぞ(おも)ふ。
250もどかしき(きみ)言葉(ことば)(はや)(われ)
251()くも()(がた)くなりにけらしな。
252男心(をごころ)大和心(やまとごころ)()(おこ)
253手籠(てご)めにしても手折(たを)らで()まじ』
254()(なが)表戸(おもてど)をガラリと()け、255ツカツカと初稚姫(はつわかひめ)(まへ)(すす)猿臂(ゑんぴ)()ばして、256グツと(その)()(にぎ)らむとした。257初稚姫(はつわかひめ)手早(てばや)(その)()(はな)258襟髪(えりがみ)とつて(まど)(そと)(ねこ)(ひつさ)げた(やう)調子(てうし)でフワリと()()した。259ヘールはムクムクと()(あが)260(ふたた)座敷(ざしき)性懲(しやうこ)りもなく初稚姫(はつわかひめ)(まへ)(すす)()り、
261ヘール『一旦(いつたん)(をとこ)()ひだした(こひ)意地(いぢ)262中途(ちうと)屁古垂(へこた)れる(やう)(をとこ)では(ござ)らぬ。263もう(この)(うへ)平和(へいわ)手段(しゆだん)では到底(たうてい)駄目(だめ)だ。264覚悟(かくご)()され、265美事(みごと)(なび)かして()せよう』
266武者(むしや)()りつくを初稚姫(はつわかひめ)()もなく、267グツと(おさ)へつけ、
268初稚姫(はつわかひめ)『ホヽヽヽ269ヘールさま、270()加減(かげん)悪戯(じようだん)なさいませ。271貴方(あなた)はお(さけ)()つて()らつしやるのでせう。272(すこ)しく(よひ)()めるまで、273此処(ここ)でお(やす)みなさいませ』
274ヘール『(けつ)して()うては()りませぬ。275()うたと()ふのは貴方(あなた)容色(ようしよく)()つたのです。276(これ)(まつた)貴女(あなた)より(おこ)つた(こと)277(わが)(こころ)(しづ)めて(くだ)さるのは貴女(あなた)より(ほか)にはありませぬ。278(けつ)して(わたし)(はじ)めから貴女(あなた)にラブしようとは(おも)つて()なかつたのです。279それが(には)かに貴女(あなた)のお姿(すがた)()るにつけ、280(たちま)神懸(かむがかり)となり、281()(たて)もたまらず、282(かみ)(めい)(したが)つて貴女(あなた)にかけ()つたのです。283(けつ)してヘールの(かんが)へではありませぬ』
284初稚(はつわか)『ホヽヽヽ285よい(とし)をして、286ようまアそんな(こと)仰有(おつしや)いますな。287ブリンギング・アップ・ファーザー(老年(らうねん)教育(けういく))を(ほどこ)さなくては到底(たうてい)貴方(あなた)駄目(だめ)でせう。288(かみ)さまの命令(めいれい)だなどと()つて(わらは)誤魔化(ごまくわ)さうと思召(おぼしめ)しても、289(ほか)(をんな)ならいざ()らず、290(わらは)(たい)しては寸功(すんこう)(あら)はれませぬから、291どうか左様(さやう)詐言(さげん)はお(つつし)(くだ)さいませ』
292ヘール『(なん)仰有(おつしや)つても(をとこ)(かほ)()ちませぬ。293何卒(どうぞ)そこ(はな)して(くだ)さい。294左様(さやう)剛力(がうりき)(おさ)へられましては(いき)()れますわい』
295初稚(はつわか)(いき)()えても(かま)はぬぢやありませぬか。296貴方(あなた)(わたし)(ため)には(うみ)(そこ)まで()いて()くと仰有(おつしや)つたでせう、297ホヽヽヽヽ』
298(ちひ)さく(わら)ふ。299そこへ(あし)をチガチガさせ(なが)血相(けつさう)()へてやつて()たのは300(やかた)関守(せきもり)チルテルのキャプテンであつた。
301大正一二・四・二 旧二・一七 於皆生温泉浜屋 北村隆光録)
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