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第59巻(戌の巻)
序
総説歌
第1篇 毀誉の雲翳
01 逆艪
〔1501〕
02 歌垣
〔1502〕
03 蜜議
〔1503〕
04 陰使
〔1504〕
05 有升
〔1505〕
第2篇 厄気悋々
06 雲隠
〔1506〕
07 焚付
〔1507〕
08 暗傷
〔1508〕
09 暗内
〔1509〕
10 変金
〔1510〕
11 黒白
〔1511〕
12 狐穴
〔1512〕
第3篇 地底の歓声
13 案知
〔1513〕
14 舗照
〔1514〕
15 和歌意
〔1515〕
16 開窟
〔1516〕
17 倉明
〔1517〕
第4篇 六根猩々
18 手苦番
〔1518〕
19 猩々舟
〔1519〕
20 海竜王
〔1520〕
21 客々舟
〔1521〕
22 五葉松
〔1522〕
23 鳩首
〔1523〕
24 隆光
〔1524〕
25 歓呼
〔1525〕
余白歌
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第一一章
黒白
(
あやめ
)
〔一五一一〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第59巻 真善美愛 戌の巻
篇:
第2篇 厄気悋々
よみ(新仮名遣い):
やっきりんりん
章:
第11章 黒白
よみ(新仮名遣い):
あやめ
通し章番号:
1511
口述日:
1923(大正12)年04月02日(旧02月17日)
口述場所:
皆生温泉 浜屋
筆録者:
北村隆光
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1925(大正14)年7月8日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
ヘールは初稚姫の居間の前にやって来たが、なんだか敷居が高くて心が怖気づく。ヘールは自分の副守を落ち着かせ、また恐怖心を落ち着かせ、歌で歌いかけて初稚姫にアピールしようと歌いだした。
ヘールは初稚姫と自分を夫婦神になぞらえて、勝手な理屈をこねつつ、チルテルよりも自分になびくべきだと歌った。
初稚姫は中から戸を開いて、ヘールの姿を見て微笑しつつ、自分は神の使いとして夫を持つことはできないと歌い返した。ヘールは初稚姫への恋の思いを歌い、互いに歌を交わしていく。
ヘールはついに力づくで迫ろうと表戸を開けて初稚姫の手を握ろうとした。初稚姫は手早くかわして、襟髪をとって窓の外にフワリと投げ出した。
ヘールは、男の恋の意地だと言って起き上がり、再び初稚姫に武者ぶりつく。初稚姫は手もなくヘールを押さえつけてしまった。
ヘールは、初稚姫の姿を見て神がかりとなり、神の命にしたがって初稚姫に迫ったのだ、と屁理屈をこねる。初稚姫は剛力でヘールを押さえつけながら笑い飛ばしている。そこへチルテルが血相を変えてやってきた。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2017-05-06 14:48:57
OBC :
rm5911
愛善世界社版:
144頁
八幡書店版:
第10輯 536頁
修補版:
校定版:
152頁
普及版:
初版:
ページ備考:
001
ヘールは
勢
(
いきほひ
)
込
(
こ
)
んで
初稚姫
(
はつわかひめ
)
の
籠
(
こ
)
もれる
館
(
やかた
)
の
前
(
まへ
)
迄
(
まで
)
やつて
来
(
き
)
たが、
002
何
(
なん
)
だか
敷居
(
しきゐ
)
が
高
(
たか
)
くて
心
(
こころ
)
が
怖
(
お
)
ぢつく。
003
ヘール『エー、
004
又
(
また
)
副守
(
ふくしゆ
)
の
卑怯者
(
ひけふもの
)
奴
(
め
)
、
005
正
(
せい
)
守護神
(
しゆごじん
)
の
行動
(
かうどう
)
を
防止
(
ばうし
)
せむと
致
(
いた
)
すか。
006
猪口才
(
ちよこざい
)
千万
(
せんばん
)
な、
007
左様
(
さやう
)
な
事
(
こと
)
に
躊躇
(
ちうちよ
)
逡巡
(
しゆんじゆん
)
するヘールさまではないぞ。
008
全隊
(
ぜんたい
)
止
(
と
)
まれ』
009
腹
(
はら
)
の
中
(
なか
)
から
副守
(
ふくしゆ
)
010
一同
(
いちどう
)
に『ハーイ』。
011
ヘール『よしよし、
012
暫
(
しば
)
らく
沈黙
(
ちんもく
)
を
守
(
まも
)
るのだ。
013
いや
寝
(
ね
)
て
居
(
ゐ
)
るが
宜
(
よ
)
い。
014
非常
(
ひじやう
)
召集
(
せうしふ
)
の
喇叭
(
ラツパ
)
が
鳴
(
な
)
つたら、
015
その
時
(
とき
)
こそ
一度
(
いちど
)
に
立上
(
たちあが
)
るのだ。
016
それ
迄
(
まで
)
副守
(
ふくしゆ
)
全隊
(
ぜんたい
)
に
休息
(
きうそく
)
を
命
(
めい
)
ずる。
017
今
(
いま
)
の
間
(
うち
)
に
郷里
(
きやうり
)
にでも
帰
(
かへ
)
つて
爺婆
(
ぢぢばば
)
の
乳
(
ちち
)
でも
飲
(
の
)
むで
来
(
こ
)
い。
018
アハヽヽヽ、
019
到頭
(
たうとう
)
副守
(
ふくしゆ
)
の
奴
(
やつ
)
沈黙
(
ちんもく
)
しやがつたな。
020
然
(
しか
)
しまだ
恐怖心
(
きようふしん
)
の
奴
(
やつ
)
、
021
喰付
(
くつつ
)
いてゐると
見
(
み
)
えるわい。
022
これ
恐怖心
(
きようふしん
)
、
023
お
前
(
まへ
)
も
早
(
はや
)
く
郷里
(
きやうり
)
に
帰
(
かへ
)
つて
在郷
(
ざいごう
)
軍人
(
ぐんじん
)
となり、
024
農工商
(
のうこうしやう
)
の
業
(
げふ
)
に
従事
(
じうじ
)
せよ。
025
一旦
(
いつたん
)
緩急
(
くわんきふ
)
あらば
鋤
(
すき
)
を
鉄砲
(
てつぱう
)
に
代
(
か
)
へ、
026
算盤
(
そろばん
)
を
剣
(
けん
)
に
代
(
か
)
へ、
027
鑿
(
のみ
)
を
槍
(
やり
)
に
代
(
か
)
へて
義勇
(
ぎゆう
)
奉公
(
ほうこう
)
の
実
(
じつ
)
を
示
(
しめ
)
すのだ。
028
それ
迄
(
まで
)
此
(
この
)
ヘール
体内国
(
たいないこく
)
の
現役兵
(
げんえきへい
)
を
免
(
めん
)
ずる。
029
有難
(
ありがた
)
く
思
(
おも
)
へ。
030
アハヽヽヽ、
031
どうやらチツト
許
(
ばか
)
り
恐怖心
(
きようふしん
)
が
退散
(
たいさん
)
したさうだ
032
否
(
いな
)
帰郷
(
ききやう
)
したさうだ。
033
エー
一
(
ひと
)
つ
歌
(
うた
)
でも
歌
(
うた
)
つて
姫
(
ひめ
)
の
精神
(
せいしん
)
を
恍惚
(
くわうこつ
)
たらしめるのだな。
034
俺
(
おれ
)
も
硬骨
(
かうこつ
)
男子
(
だんし
)
と
云
(
い
)
はれて
居
(
ゐ
)
たが、
035
女
(
をんな
)
にかけたら
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
ふ
軟骨
(
なんこつ
)
だらう。
036
此
(
この
)
二〇三
(
にひやくさん
)
高地
(
かうち
)
は
一寸
(
ちよつと
)
骨
(
ほね
)
が
折
(
を
)
れるわい。
037
口
(
くち
)
で
法螺
(
ほら
)
を
吹
(
ふ
)
き、
038
尻
(
しり
)
で
喇叭
(
ラツパ
)
を
吹
(
ふ
)
いた
位
(
ぐらゐ
)
ぢや
容易
(
ようい
)
に
効果
(
かうくわ
)
が
上
(
あが
)
らない。
039
未来
(
みらい
)
の
聖人
(
せいじん
)
は
礼楽
(
れいがく
)
を
以
(
もつ
)
て
世
(
よ
)
を
治
(
をさ
)
めたと
云
(
い
)
ふ。
040
射御
(
しやぎよ
)
書数
(
しよすう
)
は
末
(
すゑ
)
の
末
(
すゑ
)
だ。
041
先
(
ま
)
づ
礼
(
れい
)
を
厚
(
あつ
)
くし
楽
(
がく
)
を
奏
(
そう
)
し、
042
微妙
(
びめう
)
なる
音声
(
おんせい
)
を
出
(
だ
)
して
名歌
(
めいか
)
を
歌
(
うた
)
ひ、
043
姫
(
ひめ
)
の
心
(
こころ
)
を
動
(
うご
)
かすに
限
(
かぎ
)
る。
044
歌
(
うた
)
は
神明
(
しんめい
)
の
心
(
こころ
)
を
和
(
やは
)
らげ
045
又
(
また
)
天地
(
てんち
)
を
動
(
うご
)
かすと
云
(
い
)
ふ。
046
況
(
いは
)
んや、
047
人間
(
にんげん
)
の
心
(
こころ
)
に
於
(
おい
)
ておやだ。
048
歌
(
うた
)
なる
哉
(
かな
)
歌
(
うた
)
なる
哉
(
かな
)
だ。
049
恋
(
こひ
)
といふ
字
(
じ
)
を
分析
(
ぶんせき
)
すれば
050
糸
(
いと
)
し
糸
(
いと
)
しと
言
(
い
)
ふ
心
(
こころ
)
[
※
恋の旧字体は「戀」
]
……か、
051
やア
此奴
(
こいつ
)
ア
古
(
ふる
)
い。
052
初稚姫
(
はつわかひめ
)
位
(
ぐらゐ
)
のナイスになつたら
已
(
すで
)
に
聞
(
き
)
いてるだらう。
053
俺
(
おれ
)
の
発明
(
はつめい
)
した
歌
(
うた
)
だと
思
(
おも
)
つて
呉
(
く
)
れれば
宜
(
よ
)
いが
054
黴
(
かび
)
の
生
(
は
)
えた
様
(
やう
)
な
受売歌
(
うけうりうた
)
だと
思
(
おも
)
はれちや、
055
却
(
かへつ
)
て
男
(
をとこ
)
が
下
(
さが
)
る。
056
よし
何
(
なん
)
とか
考
(
かんが
)
へて
見
(
み
)
よう。
057
糸
(
いと
)
し
可愛
(
かあい
)
と
心
(
こころ
)
に
思
(
おも
)
や
058
糸
(
いと
)
しお
方
(
かた
)
と
先方
(
むかふ
)
が
言
(
い
)
ふ(戀)
059
これでスツカリ
新
(
あたら
)
しくなつた。
060
然
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
引繰
(
ひつくり
)
返
(
かへ
)
しの
焼直
(
やきなほ
)
しだから、
061
矢張
(
やつぱり
)
もとの
方
(
はう
)
がどうも
宜
(
い
)
い
様
(
やう
)
だ。
062
はてな、
063
今度
(
こんど
)
は
愛
(
あい
)
と
云
(
い
)
ふ
字
(
じ
)
を
分析
(
ぶんせき
)
して
歌
(
うた
)
つてやらうかな。
064
可愛
(
かはい
)
心
(
こころ
)
が
貫
(
つらぬ
)
くなれば
065
君
(
きみ
)
は
必
(
かなら
)
ず
受
(
う
)
けるだらう。
066
今度
(
こんど
)
は
至上
(
しじやう
)
主義
(
しゆぎ
)
の
至上
(
しじやう
)
だ、
067
ベストだ。
068
エヘヽヽヽ、
069
どうか
巧
(
うま
)
くやり
度
(
た
)
いものだナ。
070
ラブのベストは
一
(
ひと
)
つで
厶
(
ござ
)
る
071
土
(
つち
)
の
上
(
うへ
)
には
君
(
きみ
)
ばかり。
072
初稚姫
(
はつわかひめ
)
のナイスさま
073
天
(
あま
)
の
川原
(
かはら
)
に
船
(
ふね
)
泛
(
うか
)
べ
074
黄金
(
こがね
)
の
棹
(
さを
)
をさし
乍
(
なが
)
ら
075
キヨの
海原
(
うなばら
)
乗
(
の
)
り
越
(
こ
)
えて
076
これの
館
(
やかた
)
に
天降
(
あも
)
りまし
077
花
(
はな
)
の
顔
(
かんばせ
)
月
(
つき
)
の
眉
(
まゆ
)
078
星
(
ほし
)
の
衣
(
ころも
)
をつけ
玉
(
たま
)
ひ
079
天女
(
てんによ
)
の
姿
(
すがた
)
その
儘
(
まま
)
に
080
これの
館
(
やかた
)
にビカビカと
081
光
(
ひか
)
らせ
玉
(
たま
)
ふ
尊
(
たふと
)
さよ
082
朝日
(
あさひ
)
は
照
(
て
)
るとも
光
(
ひか
)
るとも
083
月
(
つき
)
の
姿
(
すがた
)
は
清
(
きよ
)
くとも
084
初稚姫
(
はつわかひめ
)
に
比
(
くら
)
ぶれば
085
側
(
そば
)
へもよれない
惨
(
みじ
)
めさよ
086
雪
(
ゆき
)
を
欺
(
あざむ
)
く
白
(
しろ
)
い
顔
(
かほ
)
087
肌
(
はだ
)
滑
(
なめ
)
らかにツルツルと
088
水晶玉
(
すゐしやうだま
)
の
如
(
ごと
)
くなり
089
そも
天地
(
あめつち
)
の
真相
(
しんさう
)
は
090
白
(
しろ
)
きは
色
(
いろ
)
の
始
(
はじ
)
まりよ
091
黒
(
くろ
)
きは
色
(
いろ
)
の
終
(
とどめ
)
なり
092
艮
(
とどめ
)
は
即
(
すなは
)
ち
年増
(
としま
)
ぞや
093
色
(
いろ
)
は
年増
(
としま
)
が
艮
(
とど
)
めさす
094
白
(
しろ
)
と
黒
(
くろ
)
とが
寄
(
よ
)
り
合
(
あ
)
ふて
095
キチンとしたる
碁盤
(
ごばん
)
の
目
(
め
)
096
経
(
たて
)
と
緯
(
よこ
)
との
仕組
(
しぐみ
)
をば
097
遊
(
あそ
)
ばしました
大御神
(
おほみかみ
)
098
赤
(
あか
)
が
重
(
かさ
)
なりや
黒
(
くろ
)
うなる
099
黒
(
くろ
)
がかへれば
白
(
しろ
)
となる
100
初稚姫
(
はつわかひめ
)
の
白
(
しろ
)
い
肌
(
はだ
)
101
ヘールの
司
(
つかさ
)
の
黒
(
くろ
)
い
顔
(
かほ
)
102
これぞ
全
(
まつた
)
く
艮
(
うしとら
)
の
103
厳
(
いづ
)
の
御霊
(
みたま
)
の
御
(
ご
)
再来
(
さいらい
)
104
初稚姫
(
はつわかひめ
)
は
瑞御魂
(
みづみたま
)
105
坤
(
ひつじさる
)
なる
姫神
(
ひめがみ
)
の
106
皇
(
すめ
)
大神
(
おほかみ
)
の
御
(
ご
)
再来
(
さいらい
)
107
厳
(
いづ
)
と
瑞
(
みづ
)
との
水火
(
いき
)
合
(
あは
)
せ
108
夫婦
(
めをと
)
の
契
(
ちぎり
)
永久
(
とこしへ
)
に
109
天
(
あめ
)
の
御柱
(
みはしら
)
廻
(
めぐ
)
り
合
(
あ
)
ひ
110
山川
(
さんせん
)
草木
(
さうもく
)
諸々
(
もろもろ
)
の
111
珍
(
うづ
)
の
御
(
おん
)
子
(
こ
)
を
生
(
う
)
みましし
112
神
(
かむ
)
伊邪那岐
(
いざなぎ
)
の
大神
(
おほかみ
)
の
113
その
古事
(
ふるごと
)
に
神習
(
かむなら
)
ひ
114
此
(
この
)
地
(
ち
)
の
上
(
うへ
)
に
永遠
(
えいゑん
)
の
115
天国
(
てんごく
)
浄土
(
じやうど
)
を
建設
(
けんせつ
)
し
116
所在
(
あらゆる
)
百
(
もも
)
の
神人
(
しんじん
)
を
117
救
(
すく
)
はむ
為
(
ため
)
に
皇神
(
すめかみ
)
は
118
お
色
(
いろ
)
の
黒
(
くろ
)
き
尉殿
(
じやうどの
)
と
119
お
色
(
いろ
)
の
白
(
しろ
)
き
姥殿
(
うばどの
)
を
120
目出度
(
めでた
)
くここに
下
(
くだ
)
しけり
121
初稚姫
(
はつわかひめ
)
の
神司
(
かむづかさ
)
122
如何
(
いか
)
にヘールを
嫌
(
きら
)
ふとも
123
神
(
かみ
)
のよさしの
縁
(
えにし
)
ぞや
124
省
(
かへり
)
みたまへ
惟神
(
かむながら
)
125
神
(
かみ
)
の
教
(
をしへ
)
に
目覚
(
めざ
)
めたる
126
ヘールの
身魂
(
みたま
)
に
明
(
あきら
)
かに
127
鏡
(
かがみ
)
の
如
(
ごと
)
く
映
(
うつ
)
りけり
128
此
(
この
)
家
(
や
)
の
主
(
あるじ
)
チルテルは
129
肝腎要
(
かんじんかなめ
)
の
女房
(
にようばう
)
を
130
他所
(
よそ
)
に
見捨
(
みすて
)
て
遠近
(
をちこち
)
の
131
仇
(
あだ
)
し
女
(
をんな
)
に
現
(
うつつ
)
をば
132
抜
(
ぬ
)
かして
魂
(
たま
)
を
腐
(
くさ
)
らせつ
133
夫婦
(
ふうふ
)
喧嘩
(
げんくわ
)
の
絶
(
た
)
えまなく
134
家財
(
かざい
)
一切
(
いつさい
)
ガタガタと
135
時々
(
ときどき
)
騒
(
さわ
)
ぎ
躍
(
をど
)
り
舞
(
ま
)
ふ
136
化物
(
ばけもの
)
屋敷
(
やしき
)
に
居
(
ゐ
)
る
様
(
やう
)
だ
137
青
(
あを
)
と
白
(
しろ
)
とをつき
交
(
ま
)
ぜた
138
干瓢面
(
かんぺうづら
)
を
下
(
さ
)
げ
乍
(
なが
)
ら
139
キヨの
関守
(
せきもり
)
笠
(
かさ
)
に
着
(
き
)
て
140
キャプテン
面
(
づら
)
を
振廻
(
ふりまは
)
し
141
天
(
てん
)
から
降
(
くだ
)
つた
初稚姫
(
はつわかひめ
)
の
142
神
(
かみ
)
の
命
(
みこと
)
の
神女
(
しんぢよ
)
をば
143
閨
(
ねや
)
のお
伽
(
とぎ
)
になさむとて
144
チルナの
姫
(
ひめ
)
に
難癖
(
なんくせ
)
を
145
うまうまつけて
縛
(
しば
)
り
上
(
あ
)
げ
146
倉
(
くら
)
の
中
(
なか
)
へと
無慚
(
むざん
)
にも
147
押込
(
おしこ
)
めたるぞ
憎
(
にく
)
らしき
148
かかる
残虐
(
ざんぎやく
)
無道
(
ぶだう
)
をば
149
敢
(
あへ
)
て
恥
(
はぢ
)
ない
鬼
(
おに
)
畜生
(
ちくしやう
)
150
必
(
かなら
)
ず
迷
(
まよ
)
はせ
玉
(
たま
)
ふなよ
151
涙
(
なみだ
)
もあれば
血
(
ち
)
も
通
(
かよ
)
ふ
152
義勇
(
ぎゆう
)
一途
(
いちづ
)
のこのヘール
153
昨晩
(
ゆうべ
)
の
神
(
かみ
)
の
御
(
おん
)
告
(
つ
)
げに
154
其方
(
そなた
)
は
神世
(
かみよ
)
の
昔
(
むかし
)
から
155
深
(
ふか
)
い
因縁
(
いんねん
)
ある
身魂
(
みたま
)
156
初稚姫
(
はつわかひめ
)
と
其
(
その
)
昔
(
むかし
)
157
夫婦
(
ふうふ
)
となつて
道
(
みち
)
の
為
(
ため
)
158
尽
(
つく
)
しまつりし
天人
(
てんにん
)
ぞ
159
弥勒
(
みろく
)
の
神代
(
かみよ
)
が
来
(
く
)
るにつけ
160
お
前
(
まへ
)
を
変性
(
へんじやう
)
女子
(
によし
)
となし
161
初稚姫
(
はつわかひめ
)
の
神司
(
かむづかさ
)
162
変性
(
へんじやう
)
男子
(
なんし
)
と
現
(
あら
)
はれて
163
神
(
かみ
)
の
御国
(
みくに
)
を
細
(
まつぶさ
)
に
164
造
(
つく
)
り
固
(
かた
)
めよと
厳
(
おごそ
)
かに
165
宣
(
の
)
らせ
玉
(
たま
)
ひし
尊
(
たふと
)
さよ
166
初稚姫
(
はつわかひめ
)
の
神司
(
かむづかさ
)
167
必
(
かなら
)
ず
嘘
(
うそ
)
ではない
程
(
ほど
)
に
168
神
(
かみ
)
の
言葉
(
ことば
)
に
二言
(
にごん
)
ない
169
胸
(
むね
)
に
手
(
て
)
をあて
神勅
(
しんちよく
)
を
170
正
(
ただ
)
しく
覚
(
さと
)
りヘールをば
171
神
(
かみ
)
の
結
(
むす
)
びし
夫
(
をつと
)
とし
172
睦
(
むつ
)
び
親
(
した
)
しみ
神業
(
しんげふ
)
に
173
参加
(
さんか
)
なされよ
瑞御魂
(
みづみたま
)
174
変性
(
へんじやう
)
女子
(
によし
)
が
宣
(
の
)
り
伝
(
つた
)
ふ
175
朝日
(
あさひ
)
は
照
(
て
)
るとも
曇
(
くも
)
るとも
176
仮令
(
たとへ
)
大地
(
だいち
)
は
沈
(
しづ
)
むとも
177
夫婦
(
ふうふ
)
の
道
(
みち
)
は
変
(
かは
)
らない
178
兎角
(
とかく
)
浮世
(
うきよ
)
は
人間
(
にんげん
)
の
179
心
(
こころ
)
の
儘
(
まま
)
にはなりませぬ
180
互
(
たがひ
)
に
欠点
(
けつてん
)
辛抱
(
しんばう
)
して
181
採長
(
さいちやう
)
補短
(
ほたん
)
睦
(
むつま
)
じく
182
天地
(
てんち
)
の
水火
(
いき
)
を
固
(
かた
)
むべし
183
吾
(
わが
)
言霊
(
ことたま
)
の
御
(
おん
)
耳
(
みみ
)
に
184
安全
(
うまら
)
に
委曲
(
つばら
)
に
入
(
い
)
るならば
185
いと
速
(
すみや
)
けく
返事
(
かへりごと
)
186
宣
(
の
)
らせ
玉
(
たま
)
へよ
姫
(
ひめ
)
命
(
みこと
)
187
誠
(
まこと
)
に
厚
(
あつ
)
きヘール
司
(
つかさ
)
188
ここに
慎
(
つつし
)
み
神勅
(
しんちよく
)
を
189
命
(
みこと
)
の
前
(
まへ
)
に
宣
(
の
)
りまつる
190
あゝ
惟神
(
かむながら
)
々々
(
かむながら
)
191
恩頼
(
みたまのふゆ
)
を
賜
(
たま
)
へかし』
192
初稚姫
(
はつわかひめ
)
は
中
(
なか
)
よりパツと
戸
(
と
)
を
開
(
ひら
)
いて
193
ヘールの
姿
(
すがた
)
を
打
(
うち
)
見守
(
みまも
)
り
乍
(
なが
)
ら
微笑
(
びせう
)
して、
194
初稚姫
(
はつわかひめ
)
『
何人
(
なにびと
)
の
言霊
(
ことたま
)
ぞやと
怪
(
あや
)
しみて
195
窓
(
まど
)
を
開
(
ひら
)
けば
面白
(
おもしろ
)
の
君
(
きみ
)
。
196
種々
(
さまざま
)
と
厳
(
いづ
)
の
言霊
(
ことたま
)
繰返
(
くりかへ
)
す
197
君
(
きみ
)
の
心
(
こころ
)
の
悲
(
かな
)
しくぞある』
198
ヘール『
吾
(
われ
)
とても
男
(
を
)
の
子
(
こ
)
の
中
(
なか
)
の
男
(
を
)
の
子
(
こ
)
なれば
199
如何
(
いか
)
で
女
(
をんな
)
に
心
(
こころ
)
乱
(
みだ
)
さむ。
200
さり
乍
(
なが
)
ら
神
(
かみ
)
の
言葉
(
ことば
)
は
背
(
そむ
)
かれず
201
汝
(
なれ
)
が
命
(
みこと
)
に
宣
(
の
)
り
伝
(
つた
)
へける。
202
此
(
この
)
恋
(
こひ
)
は
人恋
(
ひとこひ
)
ならず
神
(
かみ
)
の
恋
(
こひ
)
203
ラブ・イズ・ベストの
鑑
(
かがみ
)
なりけり』
204
初稚姫
(
はつわかひめ
)
『
訝
(
いぶ
)
かしや
神
(
かみ
)
の
言葉
(
ことば
)
と
聞
(
き
)
く
上
(
うへ
)
は
205
背
(
そむ
)
かむ
術
(
すべ
)
もなきにあらねど』
206
ヘール『
瞹眛
(
あいまい
)
な
姫
(
ひめ
)
の
言霊
(
ことたま
)
如何
(
いか
)
にして
207
解
(
と
)
く
由
(
よし
)
もなき
吾
(
わが
)
思
(
おも
)
ひかな。
208
益良夫
(
ますらを
)
が
思
(
おも
)
ひつめたる
恋
(
こひ
)
の
矢
(
や
)
は
209
やがて
岩
(
いは
)
をも
射貫
(
いぬ
)
くなるらむ』
210
初稚姫
(
はつわかひめ
)
『さは
云
(
い
)
へど
妾
(
わらは
)
は
神
(
かみ
)
の
御使
(
みつかひ
)
よ
211
夫
(
つま
)
持
(
も
)
たすなと
厳
(
きび
)
しき
戒
(
いまし
)
め。
212
戒
(
いまし
)
めを
固
(
かた
)
く
守
(
まも
)
りて
進
(
すす
)
む
身
(
み
)
は
213
醜
(
しこ
)
の
嵐
(
あらし
)
の
誘
(
さそ
)
ふ
術
(
すべ
)
なし。
214
詐
(
いつは
)
りのなき
世
(
よ
)
なりせば
斯
(
か
)
くばかり
215
吾
(
わが
)
魂
(
たましひ
)
を
痛
(
いた
)
めざらまし。
216
吾
(
わが
)
身
(
み
)
には
恋
(
こひ
)
てふものは
白雲
(
しらくも
)
の
217
空
(
そら
)
にまします
月
(
つき
)
の
大神
(
おほかみ
)
』
218
ヘール『
吾
(
われ
)
とてもこれの
関所
(
せきしよ
)
につきの
神
(
かみ
)
219
テルモン
山
(
ざん
)
の
雄々
(
をを
)
しき
姿
(
すがた
)
よ』
220
初稚姫
(
はつわかひめ
)
『
春
(
はる
)
は
花
(
はな
)
夏
(
なつ
)
は
橘
(
たちばな
)
秋
(
あき
)
は
菊
(
きく
)
221
冬
(
ふゆ
)
水仙
(
すゐせん
)
の
寂
(
さび
)
しき
花
(
はな
)
よ。
222
手折
(
たを
)
るべき
人
(
ひと
)
なき
吾
(
われ
)
を
慈
(
いつく
)
しむ
223
男
(
を
)
の
子
(
こ
)
は
神
(
かみ
)
に
等
(
ひと
)
しとぞ
思
(
おも
)
ふ。
224
真心
(
まごころ
)
は
吾
(
わが
)
魂
(
たましひ
)
に
通
(
かよ
)
へども
225
詮術
(
せんすべ
)
もなし
天人
(
てんにん
)
の
身
(
み
)
は。
226
現世
(
うつしよ
)
の
人
(
ひと
)
は
一所
(
ひととこ
)
なりあはぬ
227
しるし
有
(
あ
)
れども
吾
(
われ
)
はこれなし。
228
浮
(
う
)
かれ
男
(
を
)
の
吾
(
わが
)
身体
(
からたま
)
を
知
(
し
)
らずして
229
迷
(
まよ
)
はせ
玉
(
たま
)
ふ
事
(
こと
)
の
果敢
(
はか
)
なさ』
230
ヘール『どうしても
皇
(
すめ
)
大神
(
おほかみ
)
の
御教
(
みをしへ
)
を
231
守
(
まも
)
りて
君
(
きみ
)
を
吾
(
わが
)
妻
(
つま
)
とせむ。
232
如何
(
いか
)
程
(
ほど
)
に
振
(
ふ
)
らせ
玉
(
たま
)
ふも
撓
(
たゆ
)
みなく
233
従
(
したが
)
ひ
行
(
ゆ
)
かむ
海
(
うみ
)
の
底
(
そこ
)
まで』
234
初稚姫
(
はつわかひめ
)
『
思
(
おも
)
ひきや
思
(
おも
)
はぬ
人
(
ひと
)
の
深情
(
ふかなさけ
)
235
汲
(
く
)
む
由
(
よし
)
もなき
吾
(
われ
)
ぞ
悲
(
かな
)
しき』
236
ヘール『
柔
(
やはら
)
かに
珍
(
うづ
)
の
言霊
(
ことたま
)
生
(
い
)
き
車
(
くるま
)
237
押
(
お
)
す
君
(
きみ
)
こそは
天
(
あま
)
の
於須
(
おす
)
神
(
かみ
)
238
ラブベスト
那須野
(
なすの
)
ケ
原
(
はら
)
の
若草
(
わかくさ
)
は
239
踏
(
ふ
)
まれ
躙
(
にじ
)
られ
乍
(
なが
)
ら
花
(
はな
)
咲
(
さ
)
く』
240
初稚姫
(
はつわかひめ
)
『
踏
(
ふ
)
まれても
又
(
また
)
切
(
き
)
られても
花
(
はな
)
咲
(
さ
)
かず
241
見
(
み
)
る
影
(
かげ
)
もなき
無花果
(
いちぢく
)
の
樹
(
き
)
は。
242
神
(
かみ
)
の
道
(
みち
)
只
(
ただ
)
無花果
(
いちぢく
)
に
進
(
すす
)
む
身
(
み
)
は
243
春風
(
はるかぜ
)
吹
(
ふ
)
くも
咲
(
さ
)
く
例
(
ためし
)
なし。
244
花
(
はな
)
の
無
(
な
)
き
妾
(
わらは
)
の
姿
(
すがた
)
を
見限
(
みかぎ
)
りて
245
野
(
の
)
に
咲
(
さ
)
き
匂
(
にほ
)
ふ
花
(
はな
)
を
求
(
もと
)
めよ。
246
紫雲英
(
げんげ
)
花
(
ばな
)
実
(
げ
)
に
目覚
(
めざ
)
ましく
開
(
ひら
)
くとも
247
床
(
とこ
)
の
飾
(
かざ
)
りにならぬ
吾
(
われ
)
なり』
248
ヘール『
野辺
(
のべ
)
に
咲
(
さ
)
く
紫雲英
(
げんげ
)
の
花
(
はな
)
の
花莚
(
はなむしろ
)
249
敷
(
し
)
きてやすやす
寝
(
い
)
ねむとぞ
思
(
おも
)
ふ。
250
もどかしき
君
(
きみ
)
の
言葉
(
ことば
)
を
早
(
はや
)
吾
(
われ
)
は
251
聞
(
き
)
くも
堪
(
た
)
え
難
(
がた
)
くなりにけらしな。
252
男心
(
をごころ
)
の
大和心
(
やまとごころ
)
を
振
(
ふ
)
り
起
(
おこ
)
し
253
手籠
(
てご
)
めにしても
手折
(
たを
)
らで
止
(
や
)
まじ』
254
と
云
(
い
)
ひ
乍
(
なが
)
ら
表戸
(
おもてど
)
をガラリと
開
(
あ
)
け、
255
ツカツカと
初稚姫
(
はつわかひめ
)
の
前
(
まへ
)
に
進
(
すす
)
み
猿臂
(
ゑんぴ
)
を
伸
(
の
)
ばして、
256
グツと
其
(
その
)
手
(
て
)
を
握
(
にぎ
)
らむとした。
257
初稚姫
(
はつわかひめ
)
は
手早
(
てばや
)
く
其
(
その
)
手
(
て
)
を
放
(
はな
)
し
258
襟髪
(
えりがみ
)
とつて
窓
(
まど
)
の
外
(
そと
)
に
猫
(
ねこ
)
を
提
(
ひつさ
)
げた
様
(
やう
)
な
調子
(
てうし
)
でフワリと
投
(
な
)
げ
出
(
だ
)
した。
259
ヘールはムクムクと
起
(
お
)
き
上
(
あが
)
り
260
再
(
ふたた
)
び
座敷
(
ざしき
)
に
性懲
(
しやうこ
)
りもなく
初稚姫
(
はつわかひめ
)
の
前
(
まへ
)
に
進
(
すす
)
み
寄
(
よ
)
り、
261
ヘール『
一旦
(
いつたん
)
男
(
をとこ
)
が
云
(
い
)
ひだした
恋
(
こひ
)
の
意地
(
いぢ
)
、
262
中途
(
ちうと
)
に
屁古垂
(
へこた
)
れる
様
(
やう
)
な
男
(
をとこ
)
では
厶
(
ござ
)
らぬ。
263
もう
此
(
この
)
上
(
うへ
)
は
平和
(
へいわ
)
の
手段
(
しゆだん
)
では
到底
(
たうてい
)
駄目
(
だめ
)
だ。
264
覚悟
(
かくご
)
召
(
め
)
され、
265
美事
(
みごと
)
靡
(
なび
)
かして
見
(
み
)
せよう』
266
と
武者
(
むしや
)
振
(
ぶ
)
りつくを
初稚姫
(
はつわかひめ
)
は
手
(
て
)
もなく、
267
グツと
押
(
おさ
)
へつけ、
268
初稚姫
(
はつわかひめ
)
『ホヽヽヽ
269
ヘールさま、
270
宜
(
い
)
い
加減
(
かげん
)
に
悪戯
(
じようだん
)
なさいませ。
271
貴方
(
あなた
)
はお
酒
(
さけ
)
に
酔
(
よ
)
つて
居
(
ゐ
)
らつしやるのでせう。
272
少
(
すこ
)
しく
酔
(
よひ
)
の
醒
(
さ
)
めるまで、
273
此処
(
ここ
)
でお
休
(
やす
)
みなさいませ』
274
ヘール『
決
(
けつ
)
して
酔
(
よ
)
うては
居
(
を
)
りませぬ。
275
酔
(
よ
)
うたと
云
(
い
)
ふのは
貴方
(
あなた
)
の
容色
(
ようしよく
)
に
酔
(
よ
)
つたのです。
276
之
(
これ
)
も
全
(
まつた
)
く
貴女
(
あなた
)
より
起
(
おこ
)
つた
事
(
こと
)
、
277
吾
(
わが
)
心
(
こころ
)
を
鎮
(
しづ
)
めて
下
(
くだ
)
さるのは
貴女
(
あなた
)
より
外
(
ほか
)
にはありませぬ。
278
決
(
けつ
)
して
私
(
わたし
)
は
初
(
はじ
)
めから
貴女
(
あなた
)
にラブしようとは
思
(
おも
)
つて
居
(
ゐ
)
なかつたのです。
279
それが
俄
(
には
)
かに
貴女
(
あなた
)
のお
姿
(
すがた
)
を
見
(
み
)
るにつけ、
280
忽
(
たちま
)
ち
神懸
(
かむがかり
)
となり、
281
矢
(
や
)
も
楯
(
たて
)
もたまらず、
282
神
(
かみ
)
の
命
(
めい
)
に
従
(
したが
)
つて
貴女
(
あなた
)
にかけ
合
(
あ
)
つたのです。
283
決
(
けつ
)
してヘールの
考
(
かんが
)
へではありませぬ』
284
初稚
(
はつわか
)
『ホヽヽヽ
285
よい
年
(
とし
)
をして、
286
ようまアそんな
事
(
こと
)
を
仰有
(
おつしや
)
いますな。
287
ブリンギング・アップ・ファーザー(
老年
(
らうねん
)
教育
(
けういく
)
)を
施
(
ほどこ
)
さなくては
到底
(
たうてい
)
貴方
(
あなた
)
は
駄目
(
だめ
)
でせう。
288
神
(
かみ
)
さまの
命令
(
めいれい
)
だなどと
云
(
い
)
つて
妾
(
わらは
)
を
誤魔化
(
ごまくわ
)
さうと
思召
(
おぼしめ
)
しても、
289
外
(
ほか
)
の
女
(
をんな
)
ならいざ
知
(
し
)
らず、
290
妾
(
わらは
)
に
対
(
たい
)
しては
寸功
(
すんこう
)
も
現
(
あら
)
はれませぬから、
291
どうか
左様
(
さやう
)
な
詐言
(
さげん
)
はお
慎
(
つつし
)
み
下
(
くだ
)
さいませ』
292
ヘール『
何
(
なん
)
と
仰有
(
おつしや
)
つても
男
(
をとこ
)
の
顔
(
かほ
)
が
立
(
た
)
ちませぬ。
293
何卒
(
どうぞ
)
そこ
放
(
はな
)
して
下
(
くだ
)
さい。
294
左様
(
さやう
)
な
剛力
(
がうりき
)
で
押
(
おさ
)
へられましては
息
(
いき
)
が
絶
(
き
)
れますわい』
295
初稚
(
はつわか
)
『
息
(
いき
)
が
絶
(
た
)
えても
構
(
かま
)
はぬぢやありませぬか。
296
貴方
(
あなた
)
は
妾
(
わたし
)
の
為
(
ため
)
には
海
(
うみ
)
の
底
(
そこ
)
まで
跟
(
つ
)
いて
行
(
ゆ
)
くと
仰有
(
おつしや
)
つたでせう、
297
ホヽヽヽヽ』
298
と
小
(
ちひ
)
さく
笑
(
わら
)
ふ。
299
そこへ
足
(
あし
)
をチガチガさせ
乍
(
なが
)
ら
血相
(
けつさう
)
変
(
か
)
へてやつて
来
(
き
)
たのは
300
館
(
やかた
)
の
関守
(
せきもり
)
チルテルのキャプテンであつた。
301
(
大正一二・四・二
旧二・一七
於皆生温泉浜屋
北村隆光
録)
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