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第75巻(寅の巻)
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第59巻(戌の巻)
序
総説歌
第1篇 毀誉の雲翳
01 逆艪
〔1501〕
02 歌垣
〔1502〕
03 蜜議
〔1503〕
04 陰使
〔1504〕
05 有升
〔1505〕
第2篇 厄気悋々
06 雲隠
〔1506〕
07 焚付
〔1507〕
08 暗傷
〔1508〕
09 暗内
〔1509〕
10 変金
〔1510〕
11 黒白
〔1511〕
12 狐穴
〔1512〕
第3篇 地底の歓声
13 案知
〔1513〕
14 舗照
〔1514〕
15 和歌意
〔1515〕
16 開窟
〔1516〕
17 倉明
〔1517〕
第4篇 六根猩々
18 手苦番
〔1518〕
19 猩々舟
〔1519〕
20 海竜王
〔1520〕
21 客々舟
〔1521〕
22 五葉松
〔1522〕
23 鳩首
〔1523〕
24 隆光
〔1524〕
25 歓呼
〔1525〕
余白歌
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> 第1篇 毀誉の雲翳 > 第2章 歌垣
<<< 逆艪
(B)
(N)
蜜議 >>>
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第二章
歌垣
(
うたがき
)
〔一五〇二〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第59巻 真善美愛 戌の巻
篇:
第1篇 毀誉の雲翳
よみ(新仮名遣い):
きよのうんえい
章:
第2章 歌垣
よみ(新仮名遣い):
うたがき
通し章番号:
1502
口述日:
1923(大正12)年04月01日(旧02月16日)
口述場所:
皆生温泉 浜屋
筆録者:
北村隆光
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1925(大正14)年7月8日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
キヨの港の関所の総取締であるキャプテン・チルテルの留守宅では、チルテルの妻チルナ姫が、部下のカンナとヘールを呼んで、ひそびそ話をしている。
この頃、チルテルが美しい女を奥の別室に招き入れたので妻のチルナ姫は悋気を起こし、部下の二人に、女を口説いてチルテルから引き離すようにと命じていたのであった。
カンナとヘールは、チルナ姫にうまく丸め込まれ、女を口説こうと庭園を縫って奥の別室に近づいたが、いざとなると心がドギマギして戸を開けることができない。
ヘールとカンナは歌を歌って美人の気を引くことにした。二人はおかしな手つきで一生懸命、滑稽な歌を歌い始めた。
美人が戸を開けると、二人の軍人が尻をまくって滑稽踊りをやっている。美人は戸を開けて二人を室内に招き入れた。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
[×閉じる]
:
備考:
タグ:
リュチナント(リュウチナント)
データ凡例:
データ最終更新日:
2020-05-22 17:01:47
OBC :
rm5902
愛善世界社版:
24頁
八幡書店版:
第10輯 493頁
修補版:
校定版:
25頁
普及版:
初版:
ページ備考:
001
キヨの
港
(
みなと
)
の
関所
(
せきしよ
)
の
総取締
(
そうとりしまり
)
チルテル・キャプテンの
留守宅
(
るすたく
)
にキャプテンの
妻
(
つま
)
チルナ
姫
(
ひめ
)
は、
002
リュウチナント
[
※
英語でLieutenant(ルーテナント)、中尉のこと。
]
のカンナと、
003
ユゥンケル
[
※
ドイツ語でJunker(ユンカー)、士官候補生のこと。
]
のヘール
三
(
さん
)
人
(
にん
)
が
004
密々
(
ひそびそ
)
首
(
くび
)
を
鳩
(
あつ
)
めて
何事
(
なにごと
)
か
小声
(
こごゑ
)
で
囁
(
ささや
)
き
居
(
ゐ
)
たり。
005
チルナ『これ、
0051
カンナさま、
006
ヘールさま、
007
此頃
(
このごろ
)
の
旦那
(
だんな
)
様
(
さま
)
の
様子
(
やうす
)
は、
008
チツと
変
(
へん
)
だとは
思
(
おも
)
ひませぬか』
009
カンナ『さうですな、
010
奥様
(
おくさま
)
の
前
(
まへ
)
だから
申上
(
まをしあ
)
げ
難
(
にく
)
う
厶
(
ござ
)
いますが、
011
此頃
(
このごろ
)
は
余程
(
よほど
)
旦那
(
だんな
)
様
(
さま
)
も
怪
(
あや
)
しうなられた
様
(
やう
)
ですわ。
012
のうヘール』
013
ヘール『ウン、
014
さうだな。
015
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
吾々
(
われわれ
)
卑
(
いや
)
しき
者
(
もの
)
が
上官
(
じやうくわん
)
の
行動
(
かうどう
)
に
就
(
つ
)
いて
云々
(
うんぬん
)
する
権利
(
けんり
)
はないからのう』
016
チルナ『これ、
017
ヘールさま、
018
公務
(
こうむ
)
上
(
じやう
)
の
事
(
こと
)
は
兎
(
と
)
も
角
(
かく
)
も、
019
今日
(
けふ
)
は
私事
(
しじ
)
に
関
(
くわん
)
して
打解
(
うちと
)
けて
話
(
はなし
)
をして
居
(
ゐ
)
るのだから
020
旦那
(
だんな
)
様
(
さま
)
の
事
(
こと
)
だつて、
021
矢張
(
やは
)
り、
022
よくないと
思
(
おも
)
つたら
妾
(
わし
)
に
忠告
(
ちうこく
)
して
呉
(
く
)
れるのがお
前
(
まへ
)
の
役
(
やく
)
ぢやないか。
023
お
前
(
まへ
)
から
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
が
出来
(
でき
)
なければ
024
妾
(
わし
)
が
又
(
また
)
機嫌
(
きげん
)
の
可
(
い
)
い
時
(
とき
)
を
見
(
み
)
てお
話
(
はなし
)
するから、
025
気
(
き
)
の
付
(
つ
)
いた
事
(
こと
)
があれば
遠慮
(
ゑんりよ
)
は
要
(
い
)
らぬ、
026
トツトと
云
(
い
)
ふて
下
(
くだ
)
さい。
027
如何
(
いか
)
なる
英雄
(
えいゆう
)
豪傑
(
がうけつ
)
でも
028
女房
(
にようばう
)
が
確
(
しつか
)
りして
居
(
を
)
らねば
成功
(
せいこう
)
するものぢやありませぬよ』
029
カンナ『
如何
(
いか
)
にも、
030
奥様
(
おくさま
)
の
仰有
(
おつしや
)
る
通
(
とほ
)
り、
031
どんな
難問題
(
なんもんだい
)
でも
裏口
(
うらぐち
)
からソツと
這入
(
はい
)
つて
奥様
(
おくさま
)
の
御
(
ご
)
機嫌
(
きげん
)
さへ
取
(
と
)
つて
置
(
お
)
けば、
032
直
(
すぐ
)
に
解決
(
かいけつ
)
がつくものだ。
033
表
(
おもて
)
の
玄関口
(
げんくわんぐち
)
から
這入
(
はい
)
つて
来
(
く
)
る
奴
(
やつ
)
は
官海
(
くわんかい
)
游泳術
(
いうえいじゆつ
)
を
知
(
し
)
らぬものだ。
034
一寸
(
ちよつと
)
裏口
(
うらぐち
)
からソツと
奥様
(
おくさま
)
の
気
(
き
)
に
入
(
い
)
りさうな
反物
(
たんもの
)
や
宝石
(
はうせき
)
等
(
など
)
を
持
(
も
)
ち
込
(
こ
)
みて
置
(
お
)
くと、
035
屹度
(
きつと
)
出世
(
しゆつせ
)
の
出来
(
でき
)
るものだ。
036
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
つても
裏
(
うら
)
に
女性
(
ぢよせい
)
がついて
居
(
を
)
らなくては、
037
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
で
成功
(
せいこう
)
する
事
(
こと
)
は
出来
(
でき
)
ないからな。
038
アハヽヽヽ』
039
チルナ『これ、
040
そんな
事
(
こと
)
は
如何
(
どう
)
でも
宜
(
よ
)
い。
041
お
前
(
まへ
)
等
(
たち
)
、
042
奥
(
おく
)
の
別室
(
はなれ
)
に
一絃琴
(
いちげんきん
)
を
朝
(
あさ
)
から
晩
(
ばん
)
まで
弾
(
だん
)
じて
居
(
ゐ
)
る、
043
彼
(
あ
)
の
女
(
をんな
)
を
何
(
なん
)
と
思
(
おも
)
ひますか』
044
カンナ『さうですな。
045
第一
(
だいいち
)
私
(
わたし
)
は、
046
それが
不思議
(
ふしぎ
)
で
堪
(
たま
)
らないのですよ。
047
朝
(
あさ
)
から
晩
(
ばん
)
まで
座敷
(
ざしき
)
を
締
(
し
)
めきつて、
048
琴
(
こと
)
ばつかり
弾
(
だん
)
じて
居
(
ゐ
)
る
美
(
うつく
)
しい
女
(
をんな
)
は、
049
まだ
吾々
(
われわれ
)
にも
一言
(
ひとこと
)
の
挨拶
(
あいさつ
)
もした
事
(
こと
)
もなし、
050
旦那
(
だんな
)
様
(
さま
)
とニタニタ
笑
(
わら
)
ひ
乍
(
なが
)
らコソコソ
話
(
ばなし
)
をやつて
居
(
ゐ
)
るのです。
051
そして
肝腎
(
かんじん
)
の
奥様
(
おくさま
)
にも
挨拶
(
あいさつ
)
せないのだから、
052
怪
(
け
)
ツ
体
(
たい
)
なものだと
思
(
おも
)
ひますワ』
053
ヘール『ウン、
054
あれかい。
055
ありや
旦那
(
だんな
)
様
(
さま
)
に
聞
(
き
)
いて
見
(
み
)
たら、
056
「あの
方
(
かた
)
は
天上
(
てんじやう
)
からお
降
(
くだ
)
り
遊
(
あそ
)
ばしたアバローキテー・シュヷラ
様
(
さま
)
だ。
057
バラモン
教
(
けう
)
を
守護
(
しゆご
)
の
為
(
ため
)
にお
降
(
くだ
)
り
下
(
くだ
)
さつた
天人
(
てんにん
)
様
(
さま
)
だ」と
仰有
(
おつしや
)
つて
居
(
を
)
られました。
058
奥様
(
おくさま
)
、
059
必
(
かなら
)
ず
御
(
ご
)
心配
(
しんぱい
)
なさいますな、
060
失礼
(
しつれい
)
乍
(
なが
)
ら、
061
よもや
嫉妬
(
しつと
)
をなさる
様
(
やう
)
な
卑屈
(
ひくつ
)
な
事
(
こと
)
は
厶
(
ござ
)
いますまいな。
062
嫉妬
(
しつと
)
は
婦徳
(
ふとく
)
を
汚
(
けが
)
す
最
(
もつと
)
も
恐
(
おそ
)
るべき
悪魔
(
あくま
)
で
厶
(
ござ
)
いますからな。
063
あの
方
(
かた
)
はトライロー・キャボクラーの
救世主
(
きうせいしゆ
)
だと
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
ですから、
064
うつかり
穢
(
けが
)
れた
身魂
(
みたま
)
のものが
側
(
そば
)
に
寄
(
よ
)
つては
大変
(
たいへん
)
です』
065
チルナ『
何程
(
なにほど
)
、
0651
観自在天
(
くわんじざいてん
)
様
(
さま
)
か
知
(
し
)
らぬが、
066
矢張
(
やつぱり
)
先方
(
むかふ
)
が
美
(
うつく
)
しい
女
(
をんな
)
の
肉体
(
にくたい
)
を
以
(
もつ
)
て、
067
自分
(
じぶん
)
の
主人
(
しゆじん
)
と
喋々
(
てふてふ
)
喃々
(
なんなん
)
と
甘
(
あま
)
つたるい
口
(
くち
)
で
話
(
はな
)
してゐるのを
聞
(
き
)
くと、
068
余
(
あんま
)
り
宜
(
よ
)
い
気分
(
きぶん
)
がしないぢやないか』
069
ヘール『
成程
(
なるほど
)
、
070
奥様
(
おくさま
)
の
立場
(
たちば
)
とすれば、
071
そんな
気分
(
きぶん
)
にお
成
(
な
)
り
遊
(
あそ
)
ばすのも
無理
(
むり
)
も
厶
(
ござ
)
いますまい。
072
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
らそこが
辛抱
(
しんばう
)
と
云
(
い
)
ふものです。
073
まアまア
暫
(
しば
)
らく
様子
(
やうす
)
を
考
(
かんが
)
へて
御覧
(
ごらん
)
なさい。
074
あの
品行
(
ひんかう
)
方正
(
はうせい
)
な
旦那
(
だんな
)
様
(
さま
)
が
立派
(
りつぱ
)
な
奥様
(
おくさま
)
があるのに
075
女
(
をんな
)
を
引張
(
ひつぱ
)
り
込
(
こ
)
むだり、
0751
なさる
様
(
やう
)
な
筈
(
はず
)
が
厶
(
ござ
)
いませぬワ』
076
カンナ『おい、
077
ヘール、
078
さう
楽観
(
らくくわん
)
は
出来
(
でき
)
ないよ。
079
男
(
をとこ
)
と
云
(
い
)
ふものは
女
(
をんな
)
に
掛
(
か
)
けたら
目
(
め
)
も
鼻
(
はな
)
も
無
(
な
)
い
者
(
もの
)
だ。
080
況
(
ま
)
して
天下
(
てんか
)
無双
(
むさう
)
の
美人
(
びじん
)
、
081
年
(
とし
)
も
若
(
わか
)
し、
082
肌
(
はだ
)
は
紫磨
(
しま
)
黄金色
(
わうごんしよく
)
、
083
愛嬌
(
あいけう
)
たつぷり、
084
何処
(
どこ
)
から
見
(
み
)
ても
三十二
(
さんじふに
)
相
(
さう
)
揃
(
そろ
)
ふた、
0841
欠点
(
けつてん
)
のない
女菩薩
(
によぼさつ
)
だから、
085
如何
(
いか
)
なる
強骨
(
きやうこつ
)
男子
(
だんし
)
もあの
一瞥
(
いちべつ
)
にかかつたら
086
忽
(
たちま
)
ち
章魚
(
たこ
)
の
様
(
やう
)
に
骨
(
ほね
)
も
何
(
なに
)
もなくなつて
了
(
しま
)
ふからな。
087
頭
(
あたま
)
の
先
(
さき
)
から
足
(
あし
)
の
先
(
さき
)
までスヴァラナやルーブヤや、
088
ブラヷーザ、
089
バヅマラーカ、
090
マニラツナ、
091
ムサラガルワ、
092
アスマガルタと
云
(
い
)
ふ
様
(
やう
)
な
七宝
(
しつぱう
)
を
鏤
(
ちりば
)
め
093
一目
(
ひとめ
)
見
(
み
)
てもマクマクする
様
(
やう
)
な、
0931
あのお
姿
(
すがた
)
、
094
木石
(
ぼくせき
)
ならぬ
人間
(
にんげん
)
として、
095
どうして
心
(
こころ
)
を
動
(
うご
)
かさぬものがあらうかい。
096
実
(
じつ
)
に
奥様
(
おくさま
)
、
097
御
(
ご
)
注意
(
ちうい
)
なさらぬと
険難
(
けんのん
)
で
厶
(
ござ
)
いますよ。
098
うつかりして
居
(
ゐ
)
ると、
099
「チルナ
姫
(
ひめ
)
は
夫
(
をつと
)
に
愛
(
あい
)
がないから、
100
今日
(
けふ
)
限
(
かぎ
)
り
暇
(
ひま
)
をやる」なぞと
何処
(
どこ
)
から
低気圧
(
ていきあつ
)
が
襲来
(
しふらい
)
するやら、
101
地震
(
ぢしん
)
、
102
雷
(
かみなり
)
、
103
火
(
ひ
)
の
雨
(
あめ
)
の
大騒動
(
おほさうどう
)
が
勃発
(
ぼつぱつ
)
するやら
分
(
わか
)
りませぬぞえ』
104
チルナ『
如何
(
いか
)
にもカンナさまの
御
(
ご
)
観察
(
くわんさつ
)
は
違
(
ちが
)
ひますまい。
105
何
(
なん
)
とか
二人
(
ふたり
)
さま、
106
よい
考
(
かんが
)
へは
浮
(
うか
)
むで
来
(
こ
)
ないかな。
107
実
(
じつ
)
はあの
女
(
をんな
)
が
此
(
この
)
館
(
やかた
)
へ
来
(
き
)
てから
神経
(
しんけい
)
が
興奮
(
こうふん
)
して
一目
(
ひとめ
)
も
眠
(
ねむ
)
られないのよ』
108
カンナ『
成程
(
なるほど
)
、
109
奥
(
おく
)
さまのお
目
(
め
)
が
血走
(
ちばし
)
つて
居
(
ゐ
)
ますわ。
110
用心
(
ようじん
)
せないとヒステリックになりますよ』
111
チルナ『そらさうだとも、
112
何時
(
なんどき
)
自分
(
じぶん
)
の
不幸
(
ふかう
)
の
種
(
たね
)
となるかも
知
(
し
)
れない
美人
(
びじん
)
だから、
113
妾
(
わたし
)
だつて
安心
(
あんしん
)
が
出来
(
でき
)
さうな
事
(
こと
)
がないぢやないか。
114
あの
方
(
かた
)
は
決
(
けつ
)
して
観
(
くわん
)
自在天
(
じざいてん
)
でも
文珠
(
もんじゆ
)
師利
(
しり
)
菩薩
(
ぼさつ
)
でもありませぬ。
115
矢張
(
やつぱ
)
り
普通
(
ふつう
)
の
人間
(
にんげん
)
だ。
116
旦那
(
だんな
)
様
(
さま
)
がそんな
巧
(
うま
)
い
事
(
こと
)
云
(
い
)
つてお
前
(
まへ
)
等
(
たち
)
を
誤魔化
(
ごまくわ
)
して
厶
(
ござ
)
るのだ。
117
何卒
(
どうぞ
)
今
(
いま
)
の
間
(
うち
)
にお
前
(
まへ
)
等
(
ら
)
の
考
(
かんが
)
へで、
118
あの
女
(
をんな
)
をどうか
口説
(
くど
)
き
落
(
おと
)
し、
119
旦那
(
だんな
)
様
(
さま
)
の
鼻
(
はな
)
を
明
(
あ
)
かして、
120
思
(
おも
)
ひ
切
(
き
)
らして
下
(
くだ
)
さる
訳
(
わけ
)
には
行
(
ゆ
)
きますまいかな』
121
カンナ『ヘー、
122
そりや
願
(
ねが
)
ふてもなき
御
(
ご
)
命令
(
めいれい
)
、
123
直
(
ただ
)
ちにお
受
(
う
)
け
致
(
いた
)
し
度
(
た
)
いは
山々
(
やまやま
)
で
厶
(
ござ
)
いますが、
124
そんな
事
(
こと
)
をして
旦那
(
だんな
)
様
(
さま
)
の
御
(
ご
)
機嫌
(
きげん
)
を
損
(
そこ
)
ねやうものなら、
125
それこそ
足袋屋
(
たびや
)
の
看板
(
かんばん
)
で
足上
(
あしあが
)
り、
126
忽
(
たちま
)
ち
風来者
(
ふうらいもの
)
になつて
了
(
しま
)
ふぢやありませぬか』
127
チルナ『ホヽヽヽヽ、
128
何
(
なん
)
とまア、
129
お
前
(
まへ
)
さまの
魂
(
たましひ
)
も
時代遅
(
じだいおく
)
れだな。
130
リュチナントの
職名
(
しよくめい
)
を
剥
(
は
)
がれるのが、
131
それ
程
(
ほど
)
恐
(
おそ
)
ろしいのかい。
132
よう
考
(
かんが
)
へて
御覧
(
ごらん
)
、
133
あの
様
(
やう
)
なナイスをお
前
(
まへ
)
さまの
女房
(
にようばう
)
にしようものなら、
134
それこそ
天下
(
てんか
)
に
名
(
な
)
が
揚
(
あが
)
り、
135
ゼネラルよりも
尊敬
(
そんけい
)
されるやうになりますよ。
136
あの
体
(
からだ
)
に
着
(
つ
)
いて
居
(
ゐ
)
る
宝石
(
はうせき
)
を
一
(
ひと
)
つ
金
(
かね
)
にしても
一代
(
いちだい
)
安楽
(
あんらく
)
に
暮
(
くら
)
されるぢやないか。
137
あんな
美人
(
びじん
)
を
見
(
み
)
す
見
(
み
)
す
見逃
(
みのが
)
す
位
(
くらゐ
)
なら
138
男
(
をとこ
)
を
廃業
(
はいげふ
)
なさつたが
宜
(
よ
)
からう。
139
男
(
をとこ
)
は
決断力
(
けつだんりよく
)
が
肝腎
(
かんじん
)
ですよ』
140
カンナ『
成程
(
なるほど
)
、
141
さう
聞
(
き
)
けば
食指
(
しよくし
)
大
(
おほ
)
いに
動
(
うご
)
いて
来
(
き
)
ました。
142
併
(
しか
)
し、
143
私
(
わたし
)
も、
144
もう
十
(
じふ
)
年
(
ねん
)
許
(
ばか
)
り
辛抱
(
しんばう
)
して、
145
せめてカーネルの
地位
(
ちゐ
)
に
上
(
のぼ
)
り、
146
郷里
(
きやうり
)
に
錦
(
にしき
)
を
飾
(
かざ
)
り
代議士
(
だいぎし
)
の
候補者
(
こうほしや
)
にでもなつて
巧
(
うま
)
く
当選
(
たうせん
)
し、
147
議事
(
ぎじ
)
壇上
(
だんじやう
)
で
花々
(
はなばな
)
しく
言霊戦
(
ことたません
)
を
開始
(
かいし
)
し、
148
天晴
(
あつぱれ
)
政治家
(
せいぢか
)
と
褒
(
ほ
)
められ
様
(
やう
)
と
思
(
おも
)
つたのですが、
149
ここは
一
(
ひと
)
つ
思案
(
しあん
)
の
仕所
(
しどころ
)
ですな』
150
チルナ『
議場
(
ぎぢやう
)
雑沓
(
ざつたふ
)
議員
(
ぎゐん
)
や、
151
矛盾
(
ほことん
)
議員
(
ぎゐん
)
、
152
着炭
(
ちやくたん
)
議員
(
ぎゐん
)
、
153
事故
(
じこ
)
議員
(
ぎゐん
)
、
154
陣笠
(
ぢんがさ
)
議員
(
ぎゐん
)
、
155
墓標
(
ぼへう
)
議員
(
ぎゐん
)
、
1551
等
(
など
)
と
156
国民
(
こくみん
)
から
冷評
(
れいひやう
)
を
浴
(
あ
)
びせかけられ、
157
痺
(
しび
)
れケ
原
(
はら
)
の
糞蛙
(
くそがへる
)
と
云
(
い
)
はれるよりも、
158
あんなナイスを
女房
(
にようばう
)
に
持
(
も
)
ち
159
総理
(
そうり
)
大臣
(
だいじん
)
の
裏口
(
うらぐち
)
からソツと
出入
(
でいり
)
させてお
髯
(
ひげ
)
の
塵
(
ちり
)
を
払
(
はら
)
はせ、
160
伴食
(
ばんしよく
)
大臣
(
だいじん
)
にでもなる
方
(
はう
)
が
余程
(
よほど
)
出世
(
しゆつせ
)
の
近道
(
ちかみち
)
だよ。
161
陣笠
(
ぢんがさ
)
になつた
所
(
ところ
)
で
到底
(
たうてい
)
知事
(
ちじ
)
にもなるこたア
出来
(
でき
)
やしない。
162
先
(
ま
)
づ
出世
(
しゆつせ
)
をしようと
思
(
おも
)
へば、
163
あの
位
(
くらゐ
)
の
美人
(
びじん
)
を
女房
(
にようばう
)
に
持
(
も
)
つのだな』
164
ヘール『もし
奥様
(
おくさま
)
、
165
此
(
この
)
ヘールは
予算外
(
よさんぐわい
)
で
厶
(
ござ
)
いますか。
166
カンナが、
167
あの
美人
(
びじん
)
を
女房
(
にようばう
)
に
持
(
も
)
つのならば
私
(
わたし
)
も
持
(
も
)
ち
度
(
た
)
う
厶
(
ござ
)
います。
168
一人
(
ひとり
)
の
女
(
をんな
)
に
二人
(
ふたり
)
の
男
(
をとこ
)
、
169
どうも
平衡
(
へいかう
)
がとれぬぢやありませぬか』
170
チルナ『そこはお
前
(
まへ
)
さま
等
(
たち
)
が
選挙
(
せんきよ
)
競争
(
きやうそう
)
でもやつて、
171
うまく
当選
(
たうせん
)
するのだな。
172
負
(
まけ
)
た
処
(
ところ
)
で
運動
(
うんどう
)
が
足
(
た
)
らないのだから
諦
(
あきら
)
めるより
仕方
(
しかた
)
がない。
173
又
(
また
)
次期
(
じき
)
の
総選挙
(
そうせんきよ
)
を
待
(
ま
)
つて、
174
やり
直
(
なほ
)
せば
可
(
い
)
いのだから』
175
ヘール『もし、
176
その
運動
(
うんどう
)
方法
(
はうはふ
)
は
如何
(
どう
)
すれば
可
(
い
)
いのですか。
177
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
つても
先方
(
むかふ
)
は
天下
(
てんか
)
無双
(
むさう
)
の
美人
(
びじん
)
、
178
そして
宝
(
たから
)
は
何程
(
いくら
)
でも
持
(
も
)
つてゐるのだから、
179
黄白
(
くわうはく
)
を
以
(
もつ
)
て
歓心
(
くわんしん
)
を
得
(
う
)
る
事
(
こと
)
は
出来
(
でき
)
ないし、
180
男前
(
をとこまへ
)
でゆかうと
思
(
おも
)
へば
零
(
ぜろ
)
なり、
181
弁舌
(
べんぜつ
)
は
巧
(
うま
)
くなし、
182
到底
(
たうてい
)
寄
(
よ
)
りつけないぢやありませぬか』
183
チルナ『さア、
184
そこが
選挙
(
せんきよ
)
は
水物
(
みづもの
)
と
云
(
い
)
ふのだ。
185
縁
(
えん
)
は
異
(
い
)
なもの、
186
乙
(
おつ
)
なものと
云
(
い
)
つて、
187
女
(
をんな
)
は
妙
(
めう
)
な
所
(
ところ
)
に
惚
(
ほ
)
れるものだから、
188
一
(
ひと
)
つ
憖
(
なまじひ
)
に
知恵
(
ちゑ
)
を
出
(
だ
)
して
内兜
(
うちかぶと
)
を
見透
(
みす
)
かされるよりも、
189
力
(
ちから
)
一杯
(
いつぱい
)
滑稽
(
こつけい
)
を
演
(
えん
)
じて
女
(
をんな
)
の
腮
(
あご
)
を
解
(
と
)
き、
190
「
何
(
なん
)
とまア
調子
(
てうし
)
の
宜
(
い
)
い
人
(
ひと
)
だな、
191
余程
(
よつぽど
)
チヨカ
助
(
すけ
)
だ、
192
斯
(
こ
)
んな
男
(
をとこ
)
と
添
(
そ
)
ふて
居
(
を
)
つたら
嘸
(
さぞ
)
面白
(
おもしろ
)
からう。
193
妾
(
わたし
)
一人
(
ひとり
)
でこんな
所
(
ところ
)
でコードを
弾
(
だん
)
じて
居
(
を
)
つても
面白
(
おもしろ
)
くない。
194
久振
(
ひさしぶ
)
りで
腮
(
あご
)
の
紐
(
ひも
)
も
解
(
ほど
)
けた。
195
何
(
なん
)
とまア
好
(
よ
)
いオツチヨコチヨイだ」と
思
(
おも
)
はせるのが
一番
(
いちばん
)
近道
(
ちかみち
)
だよ』
196
ヘール『ヘー、
197
生
(
うま
)
れつき
無粋
(
ぶすゐ
)
な
私
(
わたし
)
、
198
滑稽
(
こつけい
)
なぞは
到底
(
たうてい
)
出来
(
でき
)
ませぬわ』
199
カンナ『や、
200
好
(
い
)
い
事
(
こと
)
を
教
(
をし
)
へて
下
(
くだ
)
さつた。
201
滑稽
(
こつけい
)
諧謔
(
かいぎやく
)
、
202
口
(
くち
)
をついて
出
(
で
)
ると
云
(
い
)
ふチーチャーのカンナさまだから
勝利
(
しようり
)
疑
(
うたが
)
ひなし、
203
さア
之
(
これ
)
から
一
(
ひと
)
つ
逐鹿
(
ちくろく
)
場裡
(
ぢやうり
)
に
立
(
た
)
つて
烏鷺
(
うろ
)
を
争
(
あらそ
)
ひませう。
204
エヘヽヽヽヽ、
205
もし、
206
当選
(
たうせん
)
したら
奥
(
おく
)
さま、
207
何
(
なに
)
を
奢
(
おご
)
つて
下
(
くだ
)
さいますかナ』
208
チルナ『
当選
(
たうせん
)
した
方
(
はう
)
から
奢
(
おご
)
つて
貰
(
もら
)
はなくちやならぬぢやないか。
209
そして
落選
(
らくせん
)
した
方
(
はう
)
には
妾
(
わたし
)
が
慰安料
(
ゐあんれう
)
として
210
一生
(
いつしやう
)
食
(
く
)
へる
丈
(
だ
)
けのお
金
(
かね
)
を
上
(
あ
)
げませう。
211
さア
之
(
これ
)
から
二人
(
ふたり
)
寄
(
よ
)
つて
精一杯
(
せいいつぱい
)
ベストを
尽
(
つく
)
して
下
(
くだ
)
さい。
212
早
(
はや
)
くやらなければ
旦那
(
だんな
)
様
(
さま
)
が
帰
(
かへ
)
つては
駄目
(
だめ
)
になりますよ。
213
アヅモス
山
(
ざん
)
にでも
引張
(
ひつぱ
)
り
出
(
だ
)
して、
214
巧
(
うま
)
く
要領
(
えうりやう
)
を
得
(
う
)
るのだな。
215
勝
(
か
)
てば
結構
(
けつこう
)
、
216
負
(
まけ
)
ても
結構
(
けつこう
)
、
217
こんな
甘
(
うま
)
い
選挙
(
せんきよ
)
競争
(
きやうそう
)
がありますか。
218
さア
勇
(
いさ
)
むでやつて
下
(
くだ
)
さい』
219
カンナ『はい、
220
然
(
しか
)
らば
仰
(
おほ
)
せに
従
(
したが
)
ひ
捨身
(
しやしん
)
的
(
てき
)
活動
(
くわつどう
)
を
御覧
(
ごらん
)
に
入
(
い
)
れませう。
221
おいヘール、
222
貴様
(
きさま
)
も
俺
(
おれ
)
の
暫
(
しば
)
らく
艶敵
(
えんてき
)
となつて
逐鹿
(
ちくろく
)
場裡
(
ぢやうり
)
に
立
(
た
)
つのだ。
223
時
(
とき
)
遅
(
おく
)
れては
一大事
(
いちだいじ
)
だ。
224
さア
行
(
ゆ
)
かう』
225
と
二人
(
ふたり
)
は
庭園
(
ていゑん
)
の
樹木
(
じゆもく
)
の
間
(
あひだ
)
を
縫
(
ぬ
)
うて
226
美人
(
びじん
)
の
居間
(
ゐま
)
に
胸
(
むね
)
を
躍
(
をど
)
らせ
乍
(
なが
)
ら
近
(
ちか
)
づいた。
227
何
(
なん
)
だか
心
(
こころ
)
がドギマギして、
228
戸
(
と
)
を
開
(
あ
)
けて
這入
(
はい
)
る
事
(
こと
)
が
出来
(
でき
)
ない。
229
二人
(
ふたり
)
はモジモジし
乍
(
なが
)
ら
庭
(
には
)
の
木立
(
こだち
)
に
立
(
た
)
つてコソコソと
囁
(
ささや
)
いて
居
(
ゐ
)
る。
230
カンナ『おい、
231
此処迄
(
ここまで
)
来
(
く
)
るは
来
(
き
)
たものの、
232
何
(
なん
)
だか
恥
(
はづか
)
しくて
頬
(
ほほ
)
が
赤
(
あか
)
くなつて、
233
あの
戸
(
と
)
一
(
いち
)
枚
(
まい
)
開
(
あ
)
ける
勇気
(
ゆうき
)
が
出
(
で
)
なくなつたぢやないか。
234
男
(
をとこ
)
も
斯
(
か
)
うなると
弱
(
よわ
)
いものだな』
235
ヘール『さうだ、
236
到底
(
たうてい
)
正面
(
しやうめん
)
攻撃
(
こうげき
)
は
駄目
(
だめ
)
だよ。
237
ここで
一
(
ひと
)
つ
二人
(
ふたり
)
が
歌
(
うた
)
でも
唄
(
うた
)
つて、
238
品
(
ひん
)
よう
踊
(
をど
)
らうぢやないか。
239
そしたらナイスが
窓
(
まど
)
を
開
(
あ
)
けて、
240
あの
涼
(
すず
)
しい
目付
(
めつき
)
で
覗
(
のぞ
)
いて
呉
(
く
)
れるかも
知
(
し
)
れない。
241
さうなりや、
242
此方
(
こつち
)
のものだ。
243
其
(
その
)
時
(
とき
)
ヤ
一生
(
いつしやう
)
懸命
(
けんめい
)
にラブ・イズ・ベストを
唄
(
うた
)
ふのだ。
244
屹度
(
きつと
)
先方
(
むかふ
)
だつて
血
(
ち
)
が
通
(
かよ
)
ふて
居
(
ゐ
)
る
水
(
みづ
)
の
垂
(
た
)
る
様
(
やう
)
なボトボトとした
盛
(
さか
)
りの
肉塊
(
にくくわい
)
だから、
245
屹度
(
きつと
)
動
(
うご
)
くに
違
(
ちが
)
ひない。
246
それより
良
(
い
)
い
方法
(
はうはふ
)
は
無
(
な
)
からうぢやないか。
247
オツト
失敗
(
しま
)
つた。
248
こんな
妙案
(
めうあん
)
奇策
(
きさく
)
を
政敵
(
せいてき
)
のお
前
(
まへ
)
に
聞
(
き
)
かすぢやなかつたに』
249
と
云
(
い
)
ひ
乍
(
なが
)
ら
250
ヘールは
窓
(
まど
)
の
外
(
そと
)
にて
黒
(
くろ
)
い
尻
(
しり
)
を
捲
(
まく
)
り
251
妙
(
めう
)
な
手付
(
てつき
)
で
唄
(
うた
)
ひ
踊
(
をど
)
り
狂
(
くる
)
ふ。
252
ヘール『
俺
(
わし
)
は
印度
(
いんど
)
のハルナの
育
(
そだ
)
ち
253
こんなナイスは
未
(
ま
)
だ
知
(
し
)
らぬ
254
ヨイトサヨイトサ、ヨイトサのサツサ。
255
夏
(
なつ
)
の
暑
(
あつ
)
いのに
一間
(
ひとま
)
に
籠
(
こ
)
もる
256
さぞや
暑
(
あつ
)
からう
淋
(
さび
)
しからう
257
ヨイトサー ヨイトサー。
258
人
(
ひと
)
は
如何
(
どう
)
しても
一人
(
ひとり
)
ぢや
暮
(
く
)
れぬ
259
女
(
をんな
)
ばかりぢや
夜
(
よ
)
が
明
(
あ
)
けぬ。
260
男
(
をとこ
)
持
(
も
)
つならヘールさまを
持
(
も
)
ちやれ
261
顔
(
かほ
)
に
面痤
(
にきび
)
がこの
通
(
とほ
)
り
262
ア、ヨイトサー ヨイトサー』
263
カンナ『
男
(
をとこ
)
持
(
も
)
つならカンナさまを
持
(
も
)
ちやれ
264
リュウチナントの
軍人
(
いくさびと
)
よ
265
ヘールは
偉
(
えら
)
さうに
威張
(
ゐば
)
つて
見
(
み
)
ても
266
ユウンケルでは
仕様
(
しやう
)
が
無
(
な
)
い。
267
ここに
厶
(
ござ
)
るのは
天女
(
てんによ
)
か
又
(
また
)
は
268
三十三
(
さんじふさん
)
相
(
さう
)
の
観音
(
くわんのん
)
さまか
269
一度
(
いちど
)
お
顔
(
かほ
)
が
拝
(
をが
)
み
度
(
た
)
い。
270
吹
(
ふ
)
けよ
夏風
(
なつかぜ
)
上
(
あが
)
れよ
簾
(
すだれ
)
271
中
(
なか
)
のナイスの
顔
(
かほ
)
見
(
み
)
たい
272
ア、ヨイトサー ヨイトサー。
273
女旱
(
をんなひでり
)
もない
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
に
274
惚
(
ほ
)
れて
出
(
で
)
て
来
(
く
)
る
粋
(
いき
)
な
男
(
をとこ
)
。
275
此
(
この
)
男
(
をとこ
)
色
(
いろ
)
が
黒
(
くろ
)
うても
浅漬
(
あさづけ
)
茄子
(
なすび
)
276
噛
(
か
)
めば
噛
(
か
)
む
程
(
ほど
)
味
(
あぢ
)
が
出
(
で
)
る
277
ア、ヨイトサー ヨイトサー。
278
これ
丈
(
だ
)
けに
二人
(
ふたり
)
男
(
をとこ
)
が
心
(
こころ
)
を
尽
(
つく
)
し
279
踊
(
をど
)
り
狂
(
くる
)
ふのを
知
(
し
)
らぬ
姫
(
ひめ
)
。
280
一絃
(
いちげん
)
の、
琴
(
こと
)
の
音色
(
ねいろ
)
に
俺
(
わし
)
や
憧憬
(
あこが
)
れて
281
ピンピンシヤンシヤン
撥
(
は
)
ね
廻
(
まは
)
る
282
ア、ヨイトセー ヨイトセー。
283
ヘールさま
一
(
ひと
)
つお
前
(
まへ
)
が
皺嗄
(
しわが
)
れ
声
(
ごゑ
)
で
284
姫
(
ひめ
)
の
腮
(
あご
)
をば
解
(
と
)
いて
呉
(
く
)
れ。
285
勝
(
か
)
つも
負
(
まけ
)
るも
時世
(
ときよ
)
と
時節
(
じせつ
)
286
負
(
まけ
)
た
所
(
ところ
)
で
金
(
かね
)
になる』
287
ヘール『カンナさまもう
此
(
この
)
上
(
うへ
)
は
惟神
(
かむながら
)
288
神
(
かみ
)
のまにまに
任
(
まか
)
しませう。
289
三五
(
あななひ
)
の
神
(
かみ
)
の
教
(
をしへ
)
に
照
(
て
)
らされて
290
バラモン
教
(
をしへ
)
が
嫌
(
いや
)
になつた。
291
こう
云
(
い
)
へば
屹度
(
きつと
)
ナイスが
窓
(
まど
)
開
(
あ
)
けて
292
俺
(
わし
)
の
黒
(
くろ
)
い
顔
(
かほ
)
見
(
み
)
るであらう。
293
ア、ヨイトサー ヨイトサー。
294
これ
程
(
ほど
)
に
唄
(
うた
)
ひ
踊
(
をど
)
れど
此
(
この
)
ナイス
295
耳
(
みみ
)
が
無
(
な
)
いのかぢれつたい。
296
月
(
つき
)
はテラテラ テルモン
山
(
ざん
)
の
297
峰
(
みね
)
を
掠
(
かす
)
めて
昇
(
のぼ
)
り
行
(
ゆ
)
く。
298
星
(
ほし
)
の
顔
(
かほ
)
より
綺麗
(
きれい
)
なナイス
299
月
(
つき
)
の
様
(
やう
)
なる
光
(
ひかり
)
出
(
だ
)
す
300
ア、ヨイトサー ヨイトサー。
301
宝石
(
はうせき
)
を
体
(
からだ
)
一面
(
いちめん
)
ピカピカと
302
誰
(
たれ
)
も
欲
(
ほ
)
しがる
着
(
つ
)
けたがる。
303
月
(
つき
)
にや
村雲
(
むらくも
)
花
(
はな
)
には
嵐
(
あらし
)
304
カンナ、ヘールの
雲
(
くも
)
が
出
(
で
)
る。
305
紫
(
むらさき
)
の
雲
(
くも
)
の
中
(
なか
)
より
現
(
あら
)
はれた
306
二人
(
ふたり
)
男
(
をとこ
)
の
此
(
この
)
踊
(
をど
)
り。
307
棚機
(
たなばた
)
も
年
(
とし
)
に
一度
(
いちど
)
の
逢
(
あ
)
う
瀬
(
せ
)
はあるに
308
何故
(
なぜ
)
に
渡
(
わた
)
れぬ
恋
(
こひ
)
の
橋
(
はし
)
』
309
カンナ『
惟神
(
かむながら
)
神
(
かみ
)
のまにまに
唄
(
うた
)
歌
(
うた
)
ふ
310
開
(
あ
)
けて
嬉
(
うれ
)
しい
姫
(
ひめ
)
の
顔
(
かほ
)
。
311
窓
(
まど
)
開
(
あ
)
けて
庭
(
には
)
の
面
(
おもて
)
を
見
(
み
)
やしやんせ
312
罪
(
つみ
)
な
男
(
をとこ
)
が
二人
(
ふたり
)
居
(
を
)
る。
313
チルナ
姫
(
ひめ
)
、
角
(
つの
)
を
生
(
はや
)
してブツブツ
叱言
(
こごと
)
314
云
(
い
)
ふに
云
(
い
)
はれぬ
訳
(
わけ
)
がある。
315
トントンと
叩
(
たた
)
く
妻戸
(
つまど
)
を
開
(
あ
)
けて
呉
(
く
)
れ
316
棄
(
す
)
てた
男
(
をとこ
)
ぢや
無
(
な
)
い
程
(
ほど
)
に』
317
二人
(
ふたり
)
の
歌
(
うた
)
の
声
(
こゑ
)
を
聞
(
き
)
いて
一絃琴
(
いちげんきん
)
の
手
(
て
)
を
止
(
や
)
め、
318
美人
(
びじん
)
は
耳
(
みみ
)
を
傾
(
かたむ
)
けて
暫
(
しば
)
らく
様子
(
やうす
)
を
考
(
かんが
)
へて
居
(
ゐ
)
た。
319
カンナ『
一絃
(
いちげん
)
の
琴
(
こと
)
の
音色
(
ねいろ
)
がピツタリ
止
(
や
)
んだ
320
思案
(
しあん
)
投首
(
なげくび
)
窓
(
まど
)
の
中
(
うち
)
』
321
ヘール『さア
〆
(
し
)
めた
閉
(
し
)
めた
障子
(
しやうじ
)
をサラリと
開
(
あ
)
けて
322
観音
(
くわんのん
)
菩薩
(
ぼさつ
)
が
今
(
いま
)
覗
(
のぞ
)
く。
323
その
時
(
とき
)
は
互
(
たがひ
)
に
顔
(
かほ
)
の
整理
(
せいり
)
して
324
男
(
をとこ
)
比
(
くら
)
べをせにやならぬ
325
ア、ヨイトサー ヨイトサー』
326
美人
(
びじん
)
は
連子窓
(
れんじまど
)
の
障子
(
しやうじ
)
をサツと
開
(
あ
)
けて
庭
(
には
)
の
面
(
おもて
)
を
見渡
(
みわた
)
せば、
327
チュウリック
姿
(
すがた
)
の
両人
(
りやうにん
)
が
臀部
(
でんぶ
)
を
現
(
あら
)
はし、
328
滑稽踊
(
こつけいをどり
)
をやつて
居
(
を
)
る。
329
美人
(
びじん
)
『
庭
(
には
)
の
面
(
おも
)
を
見
(
み
)
れば
怪
(
あや
)
しき
人
(
ひと
)
の
影
(
かげ
)
330
胸
(
むね
)
は
躍
(
をど
)
りぬ
人
(
ひと
)
も
踊
(
をど
)
りぬ。
331
何人
(
なにびと
)
か
知
(
し
)
らず
妾
(
わらは
)
の
窓前
(
まどさき
)
に
332
踊
(
をど
)
り
狂
(
くる
)
へる
姿
(
すがた
)
可笑
(
をか
)
しき。
333
面白
(
おもしろ
)
き
唄
(
うた
)
を
唄
(
うた
)
ひて
面黒
(
おもくろ
)
き
334
人
(
ひと
)
が
手
(
て
)
を
拍
(
う
)
ち
舞
(
ま
)
ひ
狂
(
くる
)
ひけり』
335
カンナ『
村肝
(
むらきも
)
の
心
(
こころ
)
のかぎり
真心
(
まごころ
)
を
336
尽
(
つく
)
して
君
(
きみ
)
を
慕
(
した
)
ひ
来
(
き
)
にけり』
337
ヘール『
今更
(
いまさら
)
に
驚
(
おどろ
)
かれける
汝
(
な
)
が
面
(
おもて
)
338
月
(
つき
)
の
顔
(
かんばせ
)
花
(
はな
)
の
姿
(
すがた
)
に』
339
美人
(
びじん
)
『
如何
(
いか
)
にせむ
天津
(
あまつ
)
乙女
(
をとめ
)
の
妾
(
われ
)
なれば
340
人
(
ひと
)
の
恋
(
こひ
)
をば
入
(
い
)
るる
術
(
すべ
)
なき』
341
カンナ『いぶかしや
人
(
ひと
)
の
体
(
からだ
)
を
持
(
も
)
ち
乍
(
なが
)
ら
342
天津
(
あまつ
)
乙女
(
をとめ
)
と
免
(
のが
)
れ
給
(
たま
)
ふか。
343
吾
(
われ
)
も
亦
(
また
)
高天原
(
たかあまはら
)
の
天人
(
てんにん
)
の
344
霊魂
(
みたま
)
を
受
(
う
)
けし
益良夫
(
ますらを
)
ぞかし』
345
ヘール『
此
(
この
)
男
(
をとこ
)
人
(
ひと
)
の
頭
(
あたま
)
を
削
(
けず
)
る
奴
(
やつ
)
346
それ
故
(
ゆゑ
)
名
(
めい
)
をばカンナとぞ
云
(
い
)
ふ』
347
カンナ『
此
(
この
)
男
(
をとこ
)
酒
(
さけ
)
ばかり
飲
(
の
)
みて
財産
(
ざいさん
)
が
348
日向
(
ひなた
)
に
氷
(
こほり
)
ヘール
馬鹿者
(
ばかもの
)
』
349
美人
(
びじん
)
『
兎
(
と
)
も
角
(
かく
)
も
珍
(
うづ
)
の
益良夫
(
ますらを
)
吾
(
わが
)
居間
(
ゐま
)
へ
350
進
(
すす
)
ませ
玉
(
たま
)
へ
勧
(
すす
)
め
参
(
まゐ
)
らす』
351
カンナ『
惟神
(
かむながら
)
姫
(
ひめ
)
の
言葉
(
ことば
)
に
従
(
したが
)
ひて
352
進
(
すす
)
み
入
(
い
)
らむか
君
(
きみ
)
の
御前
(
みまへ
)
に』
353
ヘール『
今
(
いま
)
こそはラブ・イズ・ベストを
振翳
(
ふりかざ
)
し
354
登竜門
(
とうりうもん
)
を
安々
(
やすやす
)
潜
(
くぐ
)
らむ』
355
美人
(
びじん
)
『
兎
(
と
)
も
角
(
かく
)
も
優
(
やさ
)
しき
二人
(
ふたり
)
の
益良夫
(
ますらを
)
よ
356
吾
(
わが
)
前
(
まへ
)
に
来
(
こ
)
よ
心
(
こころ
)
安
(
やす
)
けく』
357
カンナ『
思
(
おも
)
ふたよりいと
安々
(
やすやす
)
と
門
(
かど
)
の
戸
(
と
)
を
358
打開
(
うちあ
)
け
玉
(
たま
)
ひし
姫
(
ひめ
)
ぞ
畏
(
かしこ
)
き』
359
と
詠
(
うた
)
ひ
乍
(
なが
)
ら
表門
(
おもてど
)
をガラリと
開
(
あ
)
け、
360
何
(
なん
)
となく
手足
(
てあし
)
を
微動
(
びどう
)
させつつ、
361
美人
(
びじん
)
の
前
(
まへ
)
に
恥
(
はづか
)
しげに
座
(
ざ
)
を
占
(
しめ
)
た。
362
(
大正一二・四・一
旧二・一六
於皆生温泉浜屋
北村隆光
録)
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『
王仁文庫 第六篇 たまの礎(裏の神諭)
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飯塚弘明著『
PTC2 出口王仁三郎の霊界物語で透見する世界現象 T之巻
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【霊界物語ネット】
霊界物語ネットに出口王仁三郎の
第六歌集『霧の海』
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