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第70巻(酉の巻)
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特別編 入蒙記
天祥地瑞
第73巻(子の巻)
第74巻(丑の巻)
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第77巻(辰の巻)
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第65巻(辰の巻)
序文
総説
第1篇 盗風賊雨
01 感謝組
〔1657〕
02 古峽の山
〔1658〕
03 岩侠
〔1659〕
04 不聞銃
〔1660〕
05 独許貧
〔1661〕
06 噴火口
〔1662〕
07 反鱗
〔1663〕
第2篇 地異転変
08 異心泥信
〔1664〕
09 劇流
〔1665〕
10 赤酒の声
〔1666〕
11 大笑裡
〔1667〕
12 天恵
〔1668〕
第3篇 虎熊惨状
13 隔世談
〔1669〕
14 山川動乱
〔1670〕
15 饅頭塚
〔1671〕
16 泥足坊
〔1672〕
17 山颪
〔1673〕
第4篇 神仙魔境
18 白骨堂
〔1674〕
19 谿の途
〔1675〕
20 熊鷹
〔1676〕
21 仙聖郷
〔1677〕
22 均霑
〔1678〕
23 義侠
〔1679〕
第5篇 讃歌応山
24 危母玉
〔1680〕
25 道歌
〔1681〕
26 七福神
〔1682〕
余白歌
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第九章
劇流
(
げきりう
)
〔一六六五〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第65巻 山河草木 辰の巻
篇:
第2篇 地異転変
よみ(新仮名遣い):
ちいてんぺん
章:
第9章 劇流
よみ(新仮名遣い):
げきりゅう
通し章番号:
1665
口述日:
1923(大正12)年07月16日(旧06月3日)
口述場所:
祥雲閣
筆録者:
北村隆光
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1926(大正15)年4月14日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2024-05-24 12:25:52
OBC :
rm6509
愛善世界社版:
107頁
八幡書店版:
第11輯 648頁
修補版:
校定版:
111頁
普及版:
51頁
初版:
ページ備考:
001
セールは
吾
(
わが
)
居間
(
ゐま
)
にゐて、
002
愈
(
いよいよ
)
願望
(
ぐわんまう
)
成就
(
じやうじゆ
)
の
時
(
とき
)
至
(
いた
)
れりと、
003
前祝
(
まへいはひ
)
の
心持
(
こころもち
)
にて、
004
乾児
(
こぶん
)
共
(
ども
)
がそこら
内
(
うち
)
より
盗
(
ぬす
)
み
来
(
きた
)
れる
葡萄酒
(
ぶだうしゆ
)
を
傾
(
かたむ
)
け、
005
グタグタに
酔
(
よ
)
つて
了
(
しま
)
ひ、
006
その
夜
(
よ
)
は
前後
(
ぜんご
)
を
忘
(
わす
)
れて
眠
(
ねむ
)
つて
了
(
しま
)
つた。
007
エールは
今
(
いま
)
の
間
(
うち
)
にセールを
引
(
ひつ
)
括
(
くく
)
り、
008
牢獄
(
らうごく
)
へ
打
(
ぶ
)
ち
込
(
こ
)
んでやらうと、
009
窺
(
うかが
)
ひ
寄
(
よ
)
つて
見
(
み
)
れば、
010
用心
(
ようじん
)
深
(
ぶか
)
いセールは、
011
錠前
(
ぢやうまへ
)
を
固
(
かた
)
く
下
(
お
)
ろして、
012
唯
(
ただ
)
一人
(
ひとり
)
眠
(
ねむ
)
つて
居
(
ゐ
)
るので、
013
どうする
事
(
こと
)
も
出来
(
でき
)
ず、
014
その
夜
(
よ
)
は
治道
(
ちだう
)
居士
(
こじ
)
の
牢獄
(
らうごく
)
の
前
(
まへ
)
で
明
(
あか
)
して
了
(
しま
)
つた。
015
これより
先
(
さき
)
エールは、
016
治道
(
ちだう
)
居士
(
こじ
)
に
向
(
むか
)
ひ、
017
小声
(
こごゑ
)
になつて、
018
エール『もし、
019
治道
(
ちだう
)
居士
(
こじ
)
様
(
さま
)
、
020
貴方
(
あなた
)
のお
手紙
(
てがみ
)
を
持
(
も
)
つて
参
(
まゐ
)
りました
所
(
ところ
)
、
021
牢獄
(
らうごく
)
の
扉
(
とびら
)
の
前
(
まへ
)
に
一人
(
ひとり
)
の
大男
(
おほをとこ
)
が
立
(
た
)
つて
居
(
を
)
りますので、
022
此奴
(
こいつ
)
ア
失敗
(
しま
)
つたと、
023
よくよく
考
(
かんが
)
へて
見
(
み
)
れば、
024
セールの
親方
(
おやかた
)
でした。
025
夜
(
よ
)
の
目
(
め
)
も
碌
(
ろく
)
に
寝
(
ね
)
ず、
026
女
(
をんな
)
の
前
(
まへ
)
で
何
(
なん
)
だか
愚痴
(
ぐち
)
な
事
(
こと
)
を
云
(
い
)
つて、
027
口説
(
くど
)
いて
居
(
を
)
つた
所
(
ところ
)
と
見
(
み
)
えますわい。
028
本当
(
ほんたう
)
に
困
(
こま
)
つた
奴
(
やつ
)
ですな』
029
治道
(
ちだう
)
『アハヽヽヽヽ、
030
其奴
(
そいつ
)
は
面白
(
おもしろ
)
い。
031
そして
手紙
(
てがみ
)
はうまく
先方
(
むかふ
)
へ
届
(
とど
)
いたかな』
032
エール『はい、
033
確
(
たしか
)
に
放
(
ほ
)
り
込
(
こ
)
んでおきました。
034
然
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
らあの
二人
(
ふたり
)
の
女
(
をんな
)
は
妙
(
めう
)
な
事
(
こと
)
を
云
(
い
)
つてゐましたぜ。
035
私
(
わたし
)
は
親分
(
おやぶん
)
が
一時
(
いつとき
)
も
早
(
はや
)
く、
036
あちらへ
行
(
ゆ
)
けと
云
(
い
)
ふのでその
場
(
ば
)
を
立
(
たち
)
去
(
さ
)
り、
037
暗
(
くら
)
がりで
様子
(
やうす
)
を
聞
(
き
)
いてゐますと、
038
ブラヷーダ、
039
デビスの
二人
(
ふたり
)
の
姫
(
ひめ
)
が
貴方
(
あなた
)
を
非常
(
ひじやう
)
に
恨
(
うら
)
んで
居
(
を
)
りました』
040
治道
(
ちだう
)
『あ、
041
さうだらう さうだらう。
042
俺
(
おれ
)
もズイ
分
(
ぶん
)
いぢめたからのう』
043
エール『エー、
044
本当
(
ほんたう
)
ですか。
045
随分
(
ずいぶん
)
貴方
(
あなた
)
も
悪党
(
あくたう
)
ですな……
今度
(
こんど
)
はセールの
大将
(
たいしやう
)
に
願
(
ねが
)
つて、
046
二人
(
ふたり
)
寄
(
よ
)
つてお
前
(
まへ
)
さまを
嬲
(
なぶり
)
殺
(
ごろし
)
にさして
呉
(
く
)
れと
云
(
い
)
つて
願
(
ねが
)
つて
居
(
ゐ
)
ましたよ。
047
二人
(
ふたり
)
別々
(
べつべつ
)
に
牢獄
(
らうごく
)
に
入
(
い
)
れてあるのを
一所
(
いつしよ
)
に
入
(
い
)
れ、
048
治道
(
ちだう
)
さまをそこへフン
縛
(
じば
)
つて
突込
(
つつこ
)
み、
049
嬲
(
なぶり
)
殺
(
ごろし
)
にさしたら、
050
セールの
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
を
聞
(
き
)
くと
云
(
い
)
つてゐましたが。
051
一体
(
いつたい
)
どうしたら
宜
(
よろ
)
しう
厶
(
ござ
)
いませうか』
052
治道
(
ちだう
)
『ヤ、
053
それは
面白
(
おもしろ
)
い。
054
流石
(
さすが
)
はブラヷーダ
姫
(
ひめ
)
、
055
デビス
姫
(
ひめ
)
だ。
056
いや
満足
(
まんぞく
)
々々
(
まんぞく
)
、
057
アハヽヽヽ
愉快
(
ゆくわい
)
で
堪
(
たま
)
らないわ』
058
エール『もし、
059
治道
(
ちだう
)
さま、
060
貴方
(
あなた
)
どうかしてゐますな』
061
治道
(
ちだう
)
『ウン、
062
どうかしてゐるよ』
063
バット『もしもし
治道
(
ちだう
)
様
(
さま
)
、
064
妙
(
めう
)
な
事
(
こと
)
を
仰有
(
おつしや
)
るぢやありませぬか。
065
貴方
(
あなた
)
が
嬲
(
なぶり
)
殺
(
ごろし
)
にあつて、
066
吾々
(
われわれ
)
をどうして
下
(
くだ
)
さる
積
(
つも
)
りですか』
067
かく
話
(
はな
)
す
所
(
ところ
)
へヤクがコソコソとやつて
来
(
き
)
た。
068
ヤク『ヤ、
069
エール、
070
お
前
(
まへ
)
ここに
居
(
を
)
つたのか。
071
あまり
大
(
おほ
)
きな
声
(
こゑ
)
で
云
(
い
)
ふと、
072
外
(
はた
)
の
小盗人
(
こぬすと
)
が
聞
(
き
)
くと
大変
(
たいへん
)
だぞ』
073
エール『どうも
合点
(
がつてん
)
の
行
(
ゆ
)
かぬ
事
(
こと
)
を
治道
(
ちだう
)
さまが
仰有
(
おつしや
)
るので、
074
不思議
(
ふしぎ
)
で
堪
(
たま
)
らないのだ』
075
ヤク『アハヽヽヽ、
076
智勇
(
ちゆう
)
兼備
(
けんび
)
の
治道
(
ちだう
)
様
(
さま
)
だ。
077
何
(
なに
)
かよい
妙案
(
めうあん
)
があるのだらう。
078
マア
心配
(
しんぱい
)
するな。
079
お
前
(
まへ
)
等
(
たち
)
はユツクリ
計画
(
けいくわく
)
するがよい。
080
俺
(
おれ
)
はそこらを
廻
(
まは
)
つて
来
(
く
)
るから、
081
その
間
(
あひだ
)
トツクリ
相談
(
さうだん
)
しとくがいいわ』
082
と
云
(
い
)
ひすて、
083
見廻
(
みまは
)
りに
出
(
で
)
て
行
(
い
)
つた。
084
治道
(
ちだう
)
居士
(
こじ
)
は
声
(
こゑ
)
をひそめて、
085
バット、
086
カークス、
087
ベース、
0871
及
(
および
)
牢番
(
らうばん
)
のエールに
向
(
むか
)
ひ、
088
治道
(
ちだう
)
『
二人
(
ふたり
)
の
姫
(
ひめ
)
様
(
さま
)
は、
089
此
(
この
)
治道
(
ちだう
)
居士
(
こじ
)
を
嬲
(
なぶり
)
殺
(
ごろし
)
にし
度
(
た
)
いと
云
(
い
)
つてゐるのは
深
(
ふか
)
い
訳
(
わけ
)
があるのだ。
090
今晩
(
こんばん
)
は
遅
(
おそ
)
いが、
091
いづれ
明日
(
あす
)
の
晩
(
ばん
)
の
仕事
(
しごと
)
だ。
092
バットが
俺
(
おれ
)
の
身代
(
みがは
)
りとなり、
093
カークス、
094
ベースの
両人
(
りやうにん
)
が、
095
二人
(
ふたり
)
の
女
(
をんな
)
と
化
(
な
)
り、
096
女
(
をんな
)
の
声色
(
こわいろ
)
を
使
(
つか
)
つて
暗
(
くら
)
がりを
幸
(
さいは
)
ひ、
097
牢獄
(
らうごく
)
に
入
(
い
)
つて
一芝居
(
ひとしばゐ
)
やるのだな。
098
そして
此
(
この
)
治道
(
ちだう
)
と
二人
(
ふたり
)
の
姫
(
ひめ
)
を
外
(
そと
)
へ
出
(
だ
)
すのだ。
099
そしたら
言霊
(
ことたま
)
を
以
(
もつ
)
て、
100
セールを
初
(
はじ
)
めその
他
(
た
)
の
奴
(
やつ
)
を
一度
(
いちど
)
に
帰順
(
きじゆん
)
させる
計画
(
けいくわく
)
だ。
101
二人
(
ふたり
)
の
姫
(
ひめ
)
はその
計画
(
けいくわく
)
をやらうとしてゐるのらしい。
102
どうだ、
103
バット、
104
お
前
(
まへ
)
は
俺
(
おれ
)
の
声色
(
こわいろ
)
が
使
(
つか
)
へるのかな』
105
バット『そりや
使
(
つか
)
へぬ
事
(
こと
)
は
厶
(
ござ
)
いませぬが、
106
私
(
わたし
)
が
嬲
(
なぶり
)
殺
(
ごろし
)
にされちや
堪
(
たま
)
りませぬな』
107
治道
(
ちだう
)
『そこが
芝居
(
しばゐ
)
だよ。
108
キヤツキヤツと
泣
(
な
)
きさへすれば
宜
(
よ
)
いのだ。
109
本当
(
ほんたう
)
に
突
(
つ
)
いたり、
110
斬
(
き
)
つたりするものかい。
111
そして
二人
(
ふたり
)
の
女
(
をんな
)
はカークス、
112
ベースがするのだが、
113
女
(
をんな
)
の
声色
(
こわいろ
)
は
出来
(
でき
)
るかな。
114
些
(
ちつ
)
とは
使
(
つか
)
へるだらう』
115
カークス『そいつア
面白
(
おもしろ
)
い。
116
私
(
わたし
)
は
若
(
わか
)
い
時
(
とき
)
から
芝居
(
しばゐ
)
が
好
(
す
)
きでしたから、
117
女
(
をんな
)
の
声色
(
こわいろ
)
は
婆
(
ばば
)
アでも、
118
娘
(
むすめ
)
でも、
119
古嬶
(
ふるかかあ
)
でも、
120
何
(
なん
)
でもやりますわ』
121
治道
(
ちだう
)
『そんならお
前
(
まへ
)
はデビスになつて
呉
(
く
)
れ。
122
デビスは
二十
(
にじふ
)
二三
(
にさん
)
だから、
123
そのつもりでゐてくれ。
124
何
(
なに
)
せよ
暗
(
くら
)
がりだから、
125
声
(
こゑ
)
丈
(
だ
)
け
出
(
だ
)
せばいいのだ』
126
カークス『(
声色
(
こわいろ
)
)「
汝
(
なんぢ
)
は
恨
(
うら
)
み
重
(
かさ
)
なる
治道
(
ちだう
)
居士
(
こじ
)
であらうがな。
127
よくもよくも
妾
(
わらは
)
に
侮辱
(
ぶじよく
)
を
加
(
くは
)
へよつたな。
128
思
(
おも
)
ひしれやー……」と
之
(
これ
)
ではどうですか』
129
治道
(
ちだう
)
『アハヽヽヽうまいうまい、
130
それなら
秀逸
(
しういつ
)
だ。
131
サア
之
(
これ
)
でデビス
姫
(
ひめ
)
は
出来
(
でき
)
た。
132
オイ、
133
ベース、
134
お
前
(
まへ
)
はブラヷーダになるのだ。
135
まだ
十六
(
じふろく
)
だ。
136
娘
(
むすめ
)
の
声
(
こゑ
)
が
使
(
つか
)
へるかな』
137
ベース『
使
(
つか
)
へますとも。
138
やつて
見
(
み
)
ませうか……(
声色
(
こわいろ
)
)「
汝
(
なんぢ
)
は
治道
(
ちだう
)
居士
(
こじ
)
ではないか。
139
ようもようも
妾
(
わたし
)
をさいなみよつたな。
140
天
(
てん
)
は
飽迄
(
あくまで
)
も
罪人
(
ざいにん
)
をお
許
(
ゆる
)
しなさらぬぞや。
141
サア
妾
(
わらは
)
両人
(
りやうにん
)
が
刃
(
やいば
)
の
錆
(
さび
)
となれ。
142
恨
(
うらみ
)
はつもる、
143
虎熊
(
とらくま
)
の
山
(
やま
)
」ヘヽヽヽ。
144
この
位
(
くらゐ
)
でどうですかな』
145
治道
(
ちだう
)
『アハヽヽヽ、
146
上等
(
じやうとう
)
上等
(
じやうとう
)
。
147
先
(
ま
)
づ
之
(
これ
)
でブラヷーダ
姫
(
ひめ
)
が
出来
(
でき
)
た。
148
オイ、
149
バット、
150
お
前
(
まへ
)
は
俺
(
おれ
)
の
声色
(
こわいろ
)
を
使
(
つか
)
ふのだ。
151
どうだ、
152
一
(
ひと
)
つここでやつて
見
(
み
)
ないか』
153
バット『(
声色
(
こわいろ
)
)「
之
(
これ
)
は
心得
(
こころえ
)
ぬ、
154
デビス
姫
(
ひめ
)
、
155
ブラヷーダ
姫
(
ひめ
)
とやら、
156
拙者
(
せつしや
)
はそなたに
向
(
むか
)
つて
侮辱
(
ぶじよく
)
を
加
(
くは
)
へた
事
(
こと
)
は
厶
(
ござ
)
らぬ。
157
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
には
同名
(
どうめい
)
異人
(
いじん
)
が
沢山
(
たくさん
)
厶
(
ござ
)
るぞ。
158
そなたは
暗
(
くら
)
がりの
事
(
こと
)
とて
間違
(
まちが
)
つて
思
(
おも
)
ひ
ひがめ
て
居
(
ゐ
)
るのだらう。
159
ても
扨
(
さ
)
ても
迷惑
(
めいわく
)
千万
(
せんばん
)
、
160
如何
(
いか
)
に
暗
(
くら
)
がりとは
云
(
い
)
へ、
161
声
(
こゑ
)
の
色
(
いろ
)
でも
分
(
わか
)
るであらう。
162
誤解
(
ごかい
)
せられちや
困
(
こま
)
りますよ……」もし
治道
(
ちだう
)
様
(
さま
)
この
位
(
くらゐ
)
で
如何
(
どう
)
ですか』
163
治道
(
ちだう
)
『マア
可
(
か
)
なりだ。
164
然
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
二人
(
ふたり
)
の
姫
(
ひめ
)
が
懐剣
(
くわいけん
)
を
以
(
もつ
)
て、
165
グツと、
166
突
(
つ
)
くによつて、
167
その
時
(
とき
)
は
痛
(
いた
)
さうな
声
(
こゑ
)
を
出
(
だ
)
さねばならぬぞ』
168
バット『ハイ、
169
私
(
わたし
)
は
勘平
(
かんぺい
)
の
腹切
(
はらきり
)
をやつた
事
(
こと
)
が
厶
(
ござ
)
いますから、
170
痛
(
いた
)
さうな
声
(
こゑ
)
を
出
(
だ
)
すのは
何
(
なん
)
でもありませぬ。
171
安心
(
あんしん
)
して
下
(
くだ
)
さいませ』
172
治道
(
ちだう
)
『オイ、
173
勘平
(
かんぺい
)
では
落付
(
おちつき
)
がない。
174
塩谷
(
えんや
)
判官
(
はんぐわん
)
位
(
ぐらゐ
)
の
所
(
ところ
)
でやつて
見
(
み
)
よ』
175
バット『ハイ、
176
やつて
見
(
み
)
ませう……。
177
「
力弥
(
りきや
)
々々
(
りきや
)
、
178
由良之助
(
ゆらのすけ
)
はまだ
来
(
こ
)
ぬか。
179
……ハハア
未
(
ま
)
だ
参上
(
さんじやう
)
仕
(
つかまつ
)
りませぬ……。
180
エー、
181
チエヘー、
182
エ、
183
是非
(
ぜひ
)
もない……」と
覚悟
(
かくご
)
を
定
(
さだ
)
め
懐剣
(
くわいけん
)
抜
(
ぬ
)
くより
早
(
はや
)
く、
184
左手
(
ゆんで
)
の
脇腹
(
わきばら
)
へグツとつき
立
(
た
)
て……「アー、
185
由良之助
(
ゆらのすけ
)
に
会
(
あ
)
はぬのが
残念
(
ざんねん
)
だわいイ……
由良之助
(
ゆらのすけ
)
、
186
只今
(
ただいま
)
、
187
参上
(
さんじやう
)
……ヤ
待
(
ま
)
ち
兼
(
か
)
ねたぞや。
188
近
(
ちか
)
う
近
(
ちか
)
う……」ハツハヽヽヽヽ』
189
治道
(
ちだう
)
『オイ、
190
そこは、
191
近
(
ちか
)
う
近
(
ちか
)
うと
云
(
い
)
はずに
治道
(
ちだう
)
治道
(
ちだう
)
と
云
(
い
)
ふのだよ。
192
然
(
しか
)
し、
1921
芝居
(
しばゐ
)
になつちや
敵
(
てき
)
に
悟
(
さと
)
られるから、
193
ヤツパリ
治道
(
ちだう
)
居士
(
こじ
)
でなくちやいかぬぞ』
194
バット『そんな
事
(
こと
)
に
抜目
(
ぬけめ
)
がありますか。
195
マア
安心
(
あんしん
)
して
下
(
くだ
)
さい』
196
エール『ア、
197
此奴
(
こいつ
)
は
面白
(
おもしろ
)
いアツハヽヽヽヽ。
198
私
(
わたし
)
が
牢番
(
らうばん
)
を
幸
(
さいは
)
ひ、
199
うまくすりかへて
見
(
み
)
ませう。
200
明日
(
あす
)
の
晩
(
ばん
)
が
待
(
ま
)
ち
遠
(
どほ
)
しいわい』
201
ヤクは
慌
(
あわ
)
ただしく
入
(
い
)
り
来
(
きた
)
り、
202
ヤク『オイオイ、
203
さう
大
(
おほ
)
きな
声
(
こゑ
)
を
出
(
だ
)
しちや、
204
露見
(
ろけん
)
するぞ。
205
今
(
いま
)
お
前
(
まへ
)
のやつてゐた
芝居
(
しばゐ
)
は
一丁
(
いつちやう
)
程
(
ほど
)
向
(
むか
)
ふへ
聞
(
きこ
)
えたよ。
206
幸
(
さいは
)
ひ
誰
(
たれ
)
も
外
(
ほか
)
に
居
(
ゐ
)
なかつたから
宜
(
よ
)
いが、
207
もしも
人
(
ひと
)
に
聞
(
きこ
)
えたら
大変
(
たいへん
)
だ』
208
治道
(
ちだう
)
『フン、
209
お
前
(
まへ
)
はヤクか、
210
ヤク
目
(
め
)
御
(
ご
)
苦労
(
くらう
)
、
211
大儀
(
たいぎ
)
だ。
212
充分
(
じゆうぶん
)
心
(
こころ
)
を
配
(
くば
)
つて
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
の
世話
(
せわ
)
を
ヤク
のだよ。
213
その
代
(
かは
)
りお
ヤク
が
済
(
す
)
んだら、
214
ヤク
束
(
そく
)
通
(
どほ
)
り、
215
立派
(
りつぱ
)
な
宣伝使
(
せんでんし
)
にしてやるからな』
216
ヤク『はい、
217
有難
(
ありがた
)
う』
218
かく
話
(
はな
)
す
所
(
ところ
)
へ
足音
(
あしおと
)
高
(
たか
)
く、
219
一人
(
ひとり
)
の
牢番
(
らうばん
)
がやつて
来
(
き
)
た。
220
治道
(
ちだう
)
居士
(
こじ
)
は
此
(
この
)
場
(
ば
)
を
誤魔化
(
ごまくわ
)
さむとて
経文
(
きやうもん
)
とも
偈
(
げ
)
ともつかぬ
事
(
こと
)
を
喋
(
しやべ
)
り
出
(
だ
)
した。
221
治道
(
ちだう
)
『
弥勒
(
みろく
)
真
(
しん
)
弥勒
(
みろく
)
。
222
水銀
(
すゐぎん
)
無仮
(
むか
)
。
223
分身
(
ぶんしん
)
千百億
(
せんひやくおく
)
。
224
阿魏
(
あぎ
)
無真
(
むしん
)
。
225
長
(
ちやう
)
汀
(
てい
)
子
(
し
)
来
(
らい
)
也
(
や
)
。
226
眼
(
まなこ
)
に
三角
(
さんかく
)
を
生
(
しやう
)
じ、
227
頭
(
かうべ
)
に
五嶽
(
ごがく
)
を
峭
(
そびやか
)
す。
228
好
(
かう
)
は
未
(
いま
)
だ
必
(
かなら
)
ず
好
(
かう
)
ならず。
229
悪
(
あく
)
は
未
(
いま
)
だ
必
(
かなら
)
ず
悪
(
あく
)
ならず。
230
布袋
(
ほてい
)
頭
(
とう
)
開
(
ひら
)
くや、
231
隈々
(
わいわい
)
㏍
々
(
たいたい
)
たり、
232
骨々
(
こつこつ
)
董々
(
とうとう
)
たり。
233
軽
(
かる
)
きことは
毫毛
(
がうまう
)
の
如
(
ごと
)
く、
234
重
(
おも
)
きことは
丘山
(
きうさん
)
の
如
(
ごと
)
し。
235
拈得
(
ねんとく
)
して
便
(
すなは
)
ち
擲
(
なげう
)
ち、
236
拏得
(
どとく
)
して
便
(
すなは
)
ち
用
(
もち
)
ふ。
237
払子
(
ほつす
)
を
竪
(
たて
)
て、
238
云
(
いは
)
く
猶
(
なほ
)
是
(
こ
)
れ
兜
(
と
)
率
(
そつ
)
陀
(
だ
)
天
(
てん
)
底
(
てい
)
。
239
只
(
ただ
)
弥勒
(
みろく
)
未生
(
みしやう
)
以前
(
いぜん
)
の
如
(
ごと
)
きは
如何
(
いかん
)
か
剖露
(
ばうろ
)
せむ。
240
床
(
しやう
)
を
撃
(
う
)
つて
云
(
いは
)
く、
241
雨声
(
うせい
)
を
収拾
(
しうじゆ
)
して
旧樹
(
きうじゆ
)
に
帰
(
き
)
す。
242
放教
(
さもあらばあれ
)
秋色
(
しうしよく
)
の
梧桐
(
ごどう
)
に
到
(
いた
)
るを。
243
五祖
(
ごそ
)
六祖
(
ろくそ
)
の
像
(
ざう
)
に
題
(
だい
)
して
云
(
い
)
はく、
244
「
恨
(
こん
)
殺
(
さつ
)
す
此
(
こ
)
の
頭陀
(
づだ
)
。
245
山
(
やま
)
は
磨
(
ま
)
すとも
恨
(
うらみ
)
磨
(
ま
)
せず。
246
吾
(
われ
)
今
(
いま
)
檐頭
(
えんとう
)
重
(
おも
)
く、
247
汝
(
なんぢ
)
が
為
(
ため
)
に、
248
松
(
まつ
)
を
種
(
う
)
うる
多
(
おほ
)
し」
西巌
(
せいがん
)
三十余
(
さんじふよ
)
年
(
ねん
)
、
249
仏鑑
(
ぶつかん
)
の
処
(
ところ
)
に
所得
(
しよとく
)
する
底
(
てい
)
、
250
拈出
(
ねんしゆつ
)
して
人
(
ひと
)
に
示
(
しめ
)
す、
251
涓滴
(
けんてき
)
の
滲漏
(
しんろふ
)
なし。
252
後
(
のち
)
の
三十
(
さんじふ
)
年
(
ねん
)
、
253
点眼
(
てんがん
)
の
薬
(
くすり
)
なり』
254
夜
(
よ
)
は
深閑
(
しんかん
)
として
更
(
ふけ
)
渡
(
わた
)
り、
255
時々
(
ときどき
)
かすかな
風
(
かぜ
)
が、
256
雨戸
(
あまど
)
をゴトゴトと
揺
(
ゆ
)
する
声
(
こゑ
)
のみ、
257
ちぎれちぎれに
聞
(
きこ
)
えてゐる。
258
(
大正一二・七・一六
旧六・三
於祥雲閣
北村隆光
録)
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