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第69巻(申の巻)
第70巻(酉の巻)
第71巻(戌の巻)
第72巻(亥の巻)
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天祥地瑞
第73巻(子の巻)
第74巻(丑の巻)
第75巻(寅の巻)
第76巻(卯の巻)
第77巻(辰の巻)
第78巻(巳の巻)
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第65巻(辰の巻)
序文
総説
第1篇 盗風賊雨
01 感謝組
〔1657〕
02 古峽の山
〔1658〕
03 岩侠
〔1659〕
04 不聞銃
〔1660〕
05 独許貧
〔1661〕
06 噴火口
〔1662〕
07 反鱗
〔1663〕
第2篇 地異転変
08 異心泥信
〔1664〕
09 劇流
〔1665〕
10 赤酒の声
〔1666〕
11 大笑裡
〔1667〕
12 天恵
〔1668〕
第3篇 虎熊惨状
13 隔世談
〔1669〕
14 山川動乱
〔1670〕
15 饅頭塚
〔1671〕
16 泥足坊
〔1672〕
17 山颪
〔1673〕
第4篇 神仙魔境
18 白骨堂
〔1674〕
19 谿の途
〔1675〕
20 熊鷹
〔1676〕
21 仙聖郷
〔1677〕
22 均霑
〔1678〕
23 義侠
〔1679〕
第5篇 讃歌応山
24 危母玉
〔1680〕
25 道歌
〔1681〕
26 七福神
〔1682〕
余白歌
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第一八章
白骨堂
(
はくこつだう
)
〔一六七四〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第65巻 山河草木 辰の巻
篇:
第4篇 神仙魔境
よみ(新仮名遣い):
しんせんまきょう
章:
第18章 白骨堂
よみ(新仮名遣い):
はっこつどう
通し章番号:
1674
口述日:
1923(大正12)年07月17日(旧06月4日)
口述場所:
祥雲閣
筆録者:
加藤明子
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1926(大正15)年4月14日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
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:
主な登場人物
[?]
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2018-04-06 15:00:12
OBC :
rm6518
愛善世界社版:
203頁
八幡書店版:
第11輯 682頁
修補版:
校定版:
213頁
普及版:
92頁
初版:
ページ備考:
001
三千彦
(
みちひこ
)
は、
002
山野
(
さんや
)
を
渉
(
わた
)
り
谷
(
たに
)
を
越
(
こ
)
え、
003
漸
(
やうや
)
くにして
仙聖山
(
せんせいざん
)
の
阪道
(
さかみち
)
に
取
(
と
)
りかかつた。
004
これは
仏者
(
ぶつしや
)
の
云
(
い
)
ふ
所謂
(
いはゆる
)
十宝山
(
じつぽうざん
)
の
一
(
ひと
)
つである。
005
さすがアルピニストの
三千彦
(
みちひこ
)
も、
006
長途
(
ちやうと
)
の
旅
(
たび
)
に
疲
(
つか
)
れ
果
(
は
)
て、
007
仙聖山
(
せんせいざん
)
の
頂
(
いただき
)
を
眺
(
なが
)
めて
吐息
(
といき
)
をついて
居
(
ゐ
)
る。
008
三千
(
みち
)
『あゝ
漸
(
やうや
)
く
此処
(
ここ
)
迄
(
まで
)
山野
(
さんや
)
を
渡
(
わた
)
り、
009
やつて
来
(
き
)
たものの、
010
何処
(
どこ
)
かで
道
(
みち
)
を
取
(
と
)
り
違
(
ちが
)
へ、
011
仙聖山
(
せんせいざん
)
の
方
(
はう
)
へ
来
(
き
)
て
仕舞
(
しま
)
つたやうだ。
012
どこにも
家
(
いへ
)
は
無
(
な
)
し、
013
声
(
こゑ
)
するものは
鳥
(
とり
)
の
声
(
こゑ
)
と
獣
(
けだもの
)
の
声
(
こゑ
)
ばかりだ。
014
実
(
じつ
)
に
淋
(
さび
)
しい
事
(
こと
)
だわい。
015
三千彦
(
みちひこ
)
は
健脚家
(
けんきやくか
)
だと、
016
玉国別
(
たまくにわけ
)
様
(
さま
)
に
褒
(
ほ
)
められたが、
017
かう
酷
(
きつ
)
い
山阪
(
やまさか
)
を
当途
(
あてど
)
もなしに
跋渉
(
ばつせう
)
しては、
018
もはや
弱音
(
よわね
)
を
吹
(
ふ
)
かねばならなくなつて
来
(
き
)
た。
019
二
(
ふた
)
つのコンパスは
何
(
なん
)
だか
硬化
(
かうくわ
)
しさうだ。
020
どこか
此処辺
(
ここら
)
でよい
雨宿
(
あまやど
)
りがあれば
息
(
いき
)
を
休
(
やす
)
め
運
(
うん
)
を
天
(
てん
)
に
任
(
まか
)
して、
021
月
(
つき
)
の
国
(
くに
)
の
名山
(
めいざん
)
を
跋渉
(
ばつせふ
)
し
山頂
(
さんちやう
)
から
見下
(
みお
)
ろし、
022
エルサレムの
方向
(
はうかう
)
を
定
(
さだ
)
めて
往
(
ゆ
)
く
事
(
こと
)
にせう。
023
それについてもデビス
姫
(
ひめ
)
、
024
ブラヷーダ
姫
(
ひめ
)
は
繊弱
(
かよわ
)
き
女
(
をんな
)
の
足
(
あし
)
、
025
定
(
さだ
)
めし
困難
(
こんなん
)
して
居
(
ゐ
)
るだらう、
026
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
らブラヷーダ
姫
(
ひめ
)
はハルセイ
山
(
ざん
)
で
泥棒
(
どろばう
)
に
出逢
(
であ
)
つた
時
(
とき
)
の
度胸
(
どきよう
)
、
027
実
(
じつ
)
に
見上
(
みあ
)
げたものだつた。
028
あれだけの
勇気
(
ゆうき
)
があれば、
029
屹度
(
きつと
)
無事
(
ぶじ
)
に
往
(
ゆ
)
くであらう。
030
夫
(
そ
)
れよりも
今
(
いま
)
は
自分
(
じぶん
)
の
体
(
からだ
)
を
大切
(
たいせつ
)
にして、
031
往
(
ゆ
)
く
所
(
ところ
)
迄
(
まで
)
往
(
ゆ
)
かねばなるまい。
032
どこかよい
木蔭
(
こかげ
)
があれば
休
(
やす
)
む
事
(
こと
)
にして、
033
まだ
日
(
ひ
)
の
暮
(
くれ
)
に
間
(
ま
)
もあれば
一
(
ひと
)
つ
登
(
のぼ
)
つて
見
(
み
)
よう』
034
と
独
(
ひと
)
りごちつつ、
035
形
(
かたち
)
ばかりの
細
(
ほそ
)
い
道
(
みち
)
を、
036
右
(
みぎ
)
に
左
(
ひだり
)
に
折
(
を
)
れ
曲
(
まが
)
りつつ
登
(
のぼ
)
りゆく。
037
日
(
ひ
)
は
漸
(
やうや
)
く
高山
(
かうざん
)
の
頂
(
いただき
)
にさしかかり、
038
大
(
おほ
)
きな
影
(
かげ
)
が
襲
(
おそ
)
ふて
来
(
く
)
る。
039
道
(
みち
)
の
傍
(
かたはら
)
に
一
(
ひと
)
つの
白骨堂
(
はくこつだう
)
が
立
(
た
)
つて
居
(
ゐ
)
る。
040
三千彦
(
みちひこ
)
はつと
立
(
た
)
ち
留
(
ど
)
まり、
041
三千
(
みち
)
『ハテ
不思議
(
ふしぎ
)
だ。
042
こんな
所
(
ところ
)
に
白骨堂
(
はくこつだう
)
が
立
(
た
)
つて
居
(
ゐ
)
る
以上
(
いじやう
)
は、
043
此
(
こ
)
の
山
(
やま
)
の
上
(
うへ
)
に
人
(
ひと
)
の
家
(
いへ
)
が
立
(
た
)
つて
居
(
を
)
るだらう。
044
先
(
ま
)
づこの
堂
(
だう
)
のひさしを
借
(
か
)
りて、
045
今宵
(
こよひ
)
一夜
(
いちや
)
を
過
(
す
)
ごさうかなア』
046
と
言
(
い
)
ひつつ
俄
(
にはか
)
に
勇気
(
ゆうき
)
を
鼓
(
こ
)
して、
047
細
(
ほそ
)
い
天然石
(
てんねんせき
)
の
階段
(
かいだん
)
を
登
(
のぼ
)
り
白骨堂
(
はくこつだう
)
に
近
(
ちか
)
づいた。
048
見
(
み
)
れば
一人
(
ひとり
)
の
女
(
をんな
)
が
細
(
ほそ
)
い
声
(
こゑ
)
を
出
(
だ
)
して
何事
(
なにごと
)
か
祈
(
いの
)
つて
居
(
ゐ
)
る。
049
三千彦
(
みちひこ
)
は
訝
(
いぶ
)
かりながら
足音
(
あしおと
)
を
忍
(
しの
)
ばせ、
050
白骨堂
(
はくこつだう
)
の
密樹
(
みつじゆ
)
の
蔭
(
かげ
)
に
身
(
み
)
を
潜
(
ひそ
)
ませ、
051
女
(
をんな
)
の
祈
(
いの
)
りを
聞
(
き
)
いて
居
(
ゐ
)
た。
052
『
憐
(
あは
)
れ
憐
(
あは
)
れ
吾
(
わが
)
命
(
いのち
)
白
(
しろ
)
く
荒廃
(
くわうはい
)
せり
053
○
054
愁
(
うれ
)
へる
異端者
(
いたんしや
)
の
胸
(
むね
)
に
055
虐
(
しひたげ
)
の
力
(
ちから
)
を
悲
(
かな
)
しく
受
(
う
)
けて
泣
(
な
)
く
056
忍従
(
にんじゆう
)
と
犠牲
(
ぎせい
)
の
痛
(
いた
)
ましさ。
057
○
058
蒼白
(
あをじろ
)
き
中
(
なか
)
に
吾
(
われ
)
も
彼
(
かれ
)
も
朽
(
く
)
ちて
行
(
ゆ
)
く
059
其
(
その
)
幻滅
(
げんめつ
)
の
果敢
(
はか
)
なさよ
060
○
061
恋
(
こひ
)
もなく
友
(
とも
)
もなし
062
悲
(
かな
)
しくあえぎて
恋
(
こひ
)
も
忘
(
わす
)
れ
友
(
とも
)
も
忘
(
わす
)
れむ
063
一人
(
ひとり
)
行
(
ゆ
)
く
生命
(
いのち
)
の
原
(
はら
)
に
064
唯
(
ただ
)
横
(
よこ
)
たはる
黒
(
くろ
)
き
暗闇
(
くらやみ
)
065
父
(
ちち
)
よ
母
(
はは
)
よ オーそして
兄弟
(
はらから
)
よ
066
身失
(
みう
)
せたまひし
吾
(
わが
)
背
(
せ
)
の
為
(
ため
)
に
067
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
のすべて
滅
(
ほろび
)
行
(
ゆ
)
くものの
為
(
ため
)
に
068
大空
(
おほぞら
)
包
(
つつ
)
む
天
(
てん
)
の
空
(
そら
)
に
健
(
すこや
)
かなれ
069
○
070
白
(
しろ
)
き
生
(
せい
)
淋
(
さび
)
し
071
果敢
(
はか
)
なく
淋
(
さび
)
し
072
あはれあはれ
亡
(
な
)
き
人
(
ひと
)
あはれ』
073
斯
(
か
)
く
悲
(
かな
)
しげに
謡
(
うた
)
ひ
終
(
をは
)
り、
074
徐
(
おもむろ
)
に
懐中
(
ふところ
)
より
懐剣
(
くわいけん
)
を
取
(
と
)
り
出
(
だ
)
し、
075
淋
(
さび
)
しげにニヤリと
笑
(
わら
)
ひ、
076
顔
(
かほ
)
の
写
(
うつ
)
るやうな
刃口
(
はぐち
)
をつくづく
打
(
う
)
ち
眺
(
なが
)
めながら、
077
『オー、
078
願
(
ねが
)
はくは
吾
(
われ
)
等
(
ら
)
を
作
(
つく
)
りたまひし
皇神
(
すめかみ
)
よ。
079
百
(
もも
)
の
罪
(
つみ
)
汚
(
けが
)
れを
許
(
ゆる
)
し
給
(
たま
)
ひて、
080
吾
(
わが
)
身魂
(
みたま
)
をスカーワナ(
安養
(
あんやう
)
浄土
(
じやうど
)
)へ
導
(
みちび
)
きたまへ』
081
と
云
(
い
)
ふより
早
(
はや
)
く、
082
今
(
いま
)
や
一刀
(
いつたう
)
を
吾
(
わが
)
喉
(
のど
)
に
突
(
つき
)
立
(
た
)
てむとする。
083
三千彦
(
みちひこ
)
は
吾
(
われ
)
を
忘
(
わす
)
れて
飛
(
と
)
び
出
(
だ
)
し、
084
矢庭
(
やには
)
に
腕
(
うで
)
を
叩
(
たた
)
いて
短刀
(
たんたう
)
を
打
(
う
)
ち
落
(
おと
)
した。
085
女
(
をんな
)
は
驚
(
おどろ
)
いて
三千彦
(
みちひこ
)
の
顔
(
かほ
)
をつくづく
眺
(
なが
)
め、
086
唇
(
くちびる
)
をびりびり
慄
(
ふる
)
はせて
居
(
ゐ
)
る。
087
三千
(
みち
)
『これこれお
女中
(
ぢよちう
)
、
088
短気
(
たんき
)
を
出
(
だ
)
しちやいけませぬ。
089
何
(
なん
)
の
為
(
た
)
めに
此
(
この
)
結構
(
けつこう
)
な
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
を
見捨
(
みす
)
てようとなさるのか、
090
まづまづ
気
(
き
)
を
落
(
おち
)
着
(
つ
)
けなさい。
091
吾
(
われ
)
は
三五教
(
あななひけう
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
三千彦
(
みちひこ
)
と
申
(
まを
)
すもの、
092
神
(
かみ
)
の
御
(
ご
)
命令
(
めいれい
)
を
受
(
う
)
けてエルサレムに
参
(
まゐ
)
る
途中
(
とちう
)
道
(
みち
)
踏
(
ふ
)
み
迷
(
まよ
)
ひ、
093
此処
(
ここ
)
迄
(
まで
)
出
(
で
)
て
来
(
き
)
た
所
(
ところ
)
幽
(
かす
)
かに
白骨堂
(
はくこつだう
)
が
見
(
み
)
えるので、
094
一夜
(
いちや
)
の
宿
(
やど
)
をからむものと
来
(
き
)
て
見
(
み
)
れば
貴女
(
あなた
)
の
今
(
いま
)
の
有様
(
ありさま
)
、
095
これが
何
(
ど
)
うして
黙言
(
だまつ
)
て
見
(
み
)
て
居
(
を
)
られようかとお
止
(
と
)
め
申
(
まをし
)
た
次第
(
しだい
)
で
厶
(
ござ
)
います。
096
何程
(
なにほど
)
辛
(
つら
)
いと
云
(
い
)
ふても
死
(
し
)
ぬには
及
(
およ
)
びますまい。
097
先
(
ま
)
づ
先
(
ま
)
づお
静
(
しづ
)
まりなさいませ』
098
女
(
をんな
)
『ハイ、
099
有難
(
ありがた
)
う
厶
(
ござ
)
います。
100
妾
(
わたし
)
は
此
(
この
)
山奥
(
やまおく
)
に
住
(
す
)
まひして
居
(
を
)
りまする、
101
小
(
ちひ
)
さき
村
(
むら
)
の
女
(
をんな
)
でスマナーと
申
(
まを
)
します。
102
親
(
おや
)
兄弟
(
きやうだい
)
夫
(
をつと
)
には
死
(
し
)
に
別
(
わか
)
れ、
103
頼
(
たよ
)
る
所
(
ところ
)
もなく、
104
又
(
また
)
村人
(
むらびと
)
の
若
(
わか
)
い
男
(
をとこ
)
等
(
たち
)
が
種々
(
いろいろ
)
様々
(
さまざま
)
の
事
(
こと
)
を
云
(
い
)
つて、
105
若後家
(
わかごけ
)
の
貞操
(
ていさう
)
を
破
(
やぶ
)
らせうと
致
(
いた
)
しますから、
106
一層
(
いつそう
)
の
事
(
こと
)
親
(
おや
)
兄弟
(
きやうだい
)
、
107
夫
(
をつと
)
の
後
(
あと
)
を
追
(
お
)
ふて
安楽
(
あんらく
)
世界
(
せかい
)
へ
参
(
まゐ
)
らうと
存
(
ぞん
)
じ、
108
祖先
(
そせん
)
の
遺骨
(
ゐこつ
)
の
納
(
をさ
)
めてあるこの
白骨堂
(
はくこつだう
)
の
前
(
まへ
)
で、
109
自刃
(
じじん
)
せむと
致
(
いた
)
した
所
(
ところ
)
で
厶
(
ござ
)
います。
110
もはや
此
(
この
)
世
(
よ
)
に
在
(
あ
)
つても
何
(
なん
)
の
楽
(
たの
)
しみもなき
妾
(
わたし
)
、
111
悪魔
(
あくま
)
の
誘惑
(
いうわく
)
にかかつて
罪
(
つみ
)
を
作
(
つく
)
らうより、
112
夫
(
をつと
)
の
後
(
あと
)
を
慕
(
した
)
ふて
極楽
(
ごくらく
)
参
(
まゐ
)
りをせうと
覚悟
(
かくご
)
を
定
(
き
)
めました。
113
どうぞお
止
(
と
)
め
下
(
くだ
)
さいますな』
114
三千彦
(
みちひこ
)
は
涙
(
なみだ
)
を
払
(
はら
)
ひ
声
(
こゑ
)
を
曇
(
くも
)
らせて、
115
三千
(
みち
)
『
貴女
(
あなた
)
のお
言葉
(
ことば
)
も
一応
(
いちおう
)
尤
(
もつと
)
もながら、
116
貴女
(
あなた
)
が
一人
(
ひとり
)
残
(
のこ
)
されたのも
神界
(
しんかい
)
の
御
(
ご
)
都合
(
つがふ
)
でせう。
117
貴女
(
あなた
)
が
自殺
(
じさつ
)
すると
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
は
罪悪中
(
ざいあくちう
)
の
罪悪
(
ざいあく
)
ですよ。
118
止
(
や
)
むを
得
(
え
)
ずして
命
(
いのち
)
が
終
(
をは
)
つたなら
天国
(
てんごく
)
に
往
(
ゆ
)
けませうが、
119
吾
(
わが
)
身
(
み
)
勝手
(
かつて
)
に
命
(
いのち
)
を
捨
(
す
)
てたものは
天国
(
てんごく
)
へは
往
(
ゆ
)
けませぬ。
120
屹度
(
きつと
)
地獄
(
ぢごく
)
に
往
(
ゆ
)
きますから、
121
お
考
(
かんが
)
へ
直
(
なほ
)
しを
願
(
ねが
)
ひます』
122
スマナー『
自殺
(
じさつ
)
を
致
(
いた
)
しましたら、
123
どうしても
天国
(
てんごく
)
へは
行
(
ゆ
)
けませぬか、
124
はて
困
(
こま
)
つた
事
(
こと
)
で
厶
(
ござ
)
いますなア』
125
三千
(
みち
)
『
貴女
(
あなた
)
は
今
(
いま
)
承
(
うけたま
)
はれば、
126
親
(
おや
)
兄弟
(
きやうだい
)
、
127
夫
(
をつと
)
に
先立
(
さきだ
)
たれたと
仰有
(
おつしや
)
いましたが、
128
それや
又
(
また
)
どうして
左様
(
さやう
)
な
事
(
こと
)
になられたのですか。
129
貴女
(
あなた
)
が
今
(
いま
)
自害
(
じがい
)
して
果
(
は
)
てたなら、
130
親
(
おや
)
兄弟
(
きやうだい
)
、
131
夫
(
をつと
)
の
菩提
(
ぼだい
)
を
弔
(
とむら
)
ふものは
誰
(
たれ
)
も
厶
(
ござ
)
いますまい。
132
さすれば
却
(
かへつ
)
て
親
(
おや
)
に
対
(
たい
)
し
不孝
(
ふかう
)
となり、
133
夫
(
をつと
)
に
対
(
たい
)
して
不貞
(
ふてい
)
となるでせう』
134
スマナー『ハイ、
135
御
(
ご
)
親切
(
しんせつ
)
によく
言
(
い
)
つて
下
(
くだ
)
さいました。
136
貴方
(
あなた
)
の
御
(
ご
)
教訓
(
けうくん
)
によつて
妾
(
わたし
)
の
迷
(
まよ
)
ひも
醒
(
さ
)
めました。
137
何分
(
なにぶん
)
宜
(
よろ
)
しくお
願
(
ねが
)
ひ
申
(
まを
)
します。
138
妾
(
わたし
)
の
家
(
いへ
)
は
此
(
この
)
小村
(
こむら
)
では
厶
(
ござ
)
いますが、
139
夫
(
をつと
)
はバーダラと
申
(
まを
)
し、
140
村
(
むら
)
の
たばね
をして
居
(
を
)
りましたもので、
141
家
(
いへ
)
屋敷
(
やしき
)
も
可
(
か
)
なりに
広
(
ひろ
)
く、
142
財産
(
ざいさん
)
も
相応
(
さうおう
)
に
厶
(
ござ
)
いますが、
143
半月
(
はんつき
)
程
(
ほど
)
以前
(
いぜん
)
に、
144
虎熊山
(
とらくまやま
)
に
山砦
(
さんさい
)
を
作
(
つく
)
つて
居
(
ゐ
)
る
大泥棒
(
おほどろばう
)
の
乾児
(
こぶん
)
タールと
云
(
い
)
う
奴
(
やつ
)
が、
145
十数
(
じふすう
)
人
(
にん
)
の
手下
(
てした
)
を
引
(
ひ
)
きつれ
夜中
(
やちう
)
に
忍
(
しの
)
び
込
(
こ
)
み、
146
家内中
(
かないぢう
)
を
鏖殺
(
みなごろし
)
に
致
(
いた
)
し、
147
宝
(
たから
)
を
奪
(
うば
)
つて
帰
(
かへ
)
りました。
148
其
(
その
)
時
(
とき
)
妾
(
わたし
)
は、
149
押入
(
おしいれ
)
の
中
(
なか
)
に
布団
(
ふとん
)
を
被
(
かぶ
)
つて
都合
(
つがふ
)
よく
匿
(
かく
)
れましたので、
150
生
(
い
)
き
残
(
のこ
)
つたので
厶
(
ござ
)
います。
151
其
(
その
)
後
(
ご
)
は
村人
(
むらびと
)
の
世話
(
せわ
)
になつて
親
(
おや
)
兄弟
(
きやうだい
)
の
死骸
(
しがい
)
を
荼毘
(
だび
)
に
附
(
ふ
)
し、
152
此
(
この
)
堂
(
だう
)
に
白骨
(
はくこつ
)
を
納
(
をさ
)
めて、
153
相当
(
さうたう
)
のとひ
弔
(
とむら
)
ひを
致
(
いた
)
しましたが、
154
何
(
なん
)
となく
其
(
その
)
後
(
のち
)
は
心
(
こころ
)
淋
(
さび
)
しくなり、
155
又
(
また
)
いろいろの
若
(
わか
)
い
男
(
をとこ
)
が
煩
(
うる
)
さくて、
156
死
(
し
)
ぬ
気
(
き
)
になつたので
厶
(
ござ
)
います』
157
三千彦
(
みちひこ
)
は
涙
(
なみだ
)
を
流
(
なが
)
し
乍
(
なが
)
ら、
158
スマナーの
背
(
せな
)
を
三
(
み
)
つ
四
(
よ
)
つ
撫
(
な
)
でさすり
声
(
こゑ
)
も
柔
(
やさ
)
しく、
159
三千
(
みち
)
『スマナー
様
(
さま
)
、
160
承
(
うけたま
)
はれば
承
(
うけたま
)
はる
程
(
ほど
)
同情
(
どうじやう
)
に
堪
(
た
)
へませぬ。
161
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
162
斯
(
か
)
うなつた
上
(
うへ
)
は
最早
(
もはや
)
悔
(
くや
)
んでも
帰
(
かへ
)
らぬ
事
(
こと
)
、
163
これから
一
(
ひと
)
つ
気
(
き
)
を
取
(
と
)
り
直
(
なほ
)
し、
164
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
にお
仕
(
つか
)
へになつたらどうですか』
165
スマナー『ハイ
有難
(
ありがた
)
う
厶
(
ござ
)
います。
166
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
妾
(
わたし
)
の
村
(
むら
)
は
五六十
(
ごろくじつ
)
軒
(
けん
)
の
小在所
(
こざいしよ
)
で
厶
(
ござ
)
いますが、
167
先祖
(
せんぞ
)
代々
(
だいだい
)
からウラル
教
(
けう
)
を
信
(
しん
)
じて
居
(
を
)
りますので、
168
俄
(
にはか
)
に
貴方
(
あなた
)
のお
道
(
みち
)
に
入
(
い
)
る
事
(
こと
)
は
到底
(
たうてい
)
出来
(
でき
)
ますまい。
169
折角
(
せつかく
)
のお
言葉
(
ことば
)
で
厶
(
ござ
)
いますが、
170
何程
(
なにほど
)
妾
(
わたし
)
が
信
(
しん
)
じましても、
171
三百
(
さんびやく
)
人
(
にん
)
の
村人
(
むらびと
)
が
承知
(
しようち
)
せなければ
駄目
(
だめ
)
で
厶
(
ござ
)
いますからなア』
172
三千
(
みち
)
『
決
(
けつ
)
して
決
(
けつ
)
して
173
左様
(
さやう
)
な
事
(
こと
)
に
御
(
ご
)
心配
(
しんぱい
)
は
要
(
い
)
りませぬ。
174
何
(
いづ
)
れの
教
(
をしへ
)
も
誠
(
まこと
)
に
二
(
ふた
)
つはありませぬ。
175
又
(
また
)
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
は
元
(
もと
)
は
一柱
(
ひとはしら
)
ですから、
176
ウラル
教
(
けう
)
でも
宜
(
よろ
)
しい。
177
貴女
(
あなた
)
が
今
(
いま
)
死
(
し
)
ぬる
命
(
いのち
)
を
永
(
なが
)
らへて
比丘尼
(
びくに
)
となり、
178
祖先
(
そせん
)
を
弔
(
とむら
)
ひ、
179
又
(
また
)
村人
(
むらびと
)
を
慰
(
なぐさ
)
め、
180
この
山間
(
さんかん
)
に
小天国
(
せうてんごく
)
をお
造
(
つく
)
りになればよろしいでは
厶
(
ござ
)
いませぬか』
181
スマナー『
左様
(
さやう
)
ならば、
182
何事
(
なにごと
)
も
貴方
(
あなた
)
にお
任
(
まか
)
せ
致
(
いた
)
します。
183
どうぞ
一度
(
いちど
)
妾
(
わたし
)
の
淋
(
さび
)
しき
破屋
(
あばらや
)
にお
越
(
こ
)
し
下
(
くだ
)
さいますまいか』
184
三千
(
みち
)
『それは
願
(
ねが
)
うてもない
仕合
(
しあは
)
せで
厶
(
ござ
)
います。
185
知
(
し
)
らぬ
山道
(
やまみち
)
に
往
(
ゆ
)
き
暮
(
く
)
れて、
186
宿
(
やど
)
るべき
家
(
いへ
)
もなし、
187
体
(
からだ
)
は
疲
(
つか
)
れ、
188
困
(
こま
)
つて
居
(
を
)
つた
所
(
ところ
)
で
厶
(
ござ
)
いますから、
189
厚面
(
あつかま
)
しうは
厶
(
ござ
)
いますが、
190
今晩
(
こんばん
)
は
宿
(
と
)
めて
頂
(
いただ
)
きませう』
191
スマナー『
早速
(
さつそく
)
の
御
(
ご
)
承知
(
しようち
)
192
有難
(
ありがた
)
う
厶
(
ござ
)
います。
193
左様
(
さやう
)
ならば
妾
(
わたし
)
が
御
(
ご
)
案内
(
あんない
)
を
致
(
いた
)
しませう』
194
と
白骨堂
(
はくこつだう
)
の
階段
(
かいだん
)
を
下
(
くだ
)
り、
195
再
(
ふたた
)
び
阪道
(
さかみち
)
を
四五町
(
しごちやう
)
下
(
くだ
)
り、
196
右
(
みぎ
)
に
折
(
を
)
れ、
197
樹木
(
じゆもく
)
茂
(
しげ
)
れる
山道
(
やまみち
)
を
辿
(
たど
)
つて、
198
奥
(
おく
)
へ
奥
(
おく
)
へと
進
(
すす
)
み
入
(
い
)
る。
199
夏
(
なつ
)
とは
云
(
い
)
へど
樹木
(
じゆもく
)
覆
(
おほ
)
へる
谷川
(
たにがは
)
の
畔
(
ほとり
)
の
道
(
みち
)
を
行
(
ゆ
)
く
事
(
こと
)
とて、
200
身
(
み
)
も
慄
(
ふる
)
ふ
許
(
ばか
)
り
寒
(
さむ
)
さを
感
(
かん
)
じた。
201
(
大正一二・七・一七
旧六・四
於祥雲閣
加藤明子
録)
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