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第67巻(午の巻)
第68巻(未の巻)
第69巻(申の巻)
第70巻(酉の巻)
第71巻(戌の巻)
第72巻(亥の巻)
特別編 入蒙記
天祥地瑞
第73巻(子の巻)
第74巻(丑の巻)
第75巻(寅の巻)
第76巻(卯の巻)
第77巻(辰の巻)
第78巻(巳の巻)
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第65巻(辰の巻)
序文
総説
第1篇 盗風賊雨
01 感謝組
〔1657〕
02 古峽の山
〔1658〕
03 岩侠
〔1659〕
04 不聞銃
〔1660〕
05 独許貧
〔1661〕
06 噴火口
〔1662〕
07 反鱗
〔1663〕
第2篇 地異転変
08 異心泥信
〔1664〕
09 劇流
〔1665〕
10 赤酒の声
〔1666〕
11 大笑裡
〔1667〕
12 天恵
〔1668〕
第3篇 虎熊惨状
13 隔世談
〔1669〕
14 山川動乱
〔1670〕
15 饅頭塚
〔1671〕
16 泥足坊
〔1672〕
17 山颪
〔1673〕
第4篇 神仙魔境
18 白骨堂
〔1674〕
19 谿の途
〔1675〕
20 熊鷹
〔1676〕
21 仙聖郷
〔1677〕
22 均霑
〔1678〕
23 義侠
〔1679〕
第5篇 讃歌応山
24 危母玉
〔1680〕
25 道歌
〔1681〕
26 七福神
〔1682〕
余白歌
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> 第4篇 神仙魔境 > 第20章 熊鷹
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第二〇章
熊鷹
(
くまたか
)
〔一六七六〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第65巻 山河草木 辰の巻
篇:
第4篇 神仙魔境
よみ(新仮名遣い):
しんせんまきょう
章:
第20章 熊鷹
よみ(新仮名遣い):
くまたか
通し章番号:
1676
口述日:
1923(大正12)年07月17日(旧06月4日)
口述場所:
祥雲閣
筆録者:
松村真澄
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1926(大正15)年4月14日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2018-04-07 14:03:15
OBC :
rm6520
愛善世界社版:
218頁
八幡書店版:
第11輯 687頁
修補版:
校定版:
229頁
普及版:
98頁
初版:
ページ備考:
001
三千彦
(
みちひこ
)
、
002
スマナー
姫
(
ひめ
)
の
二人
(
ふたり
)
は、
003
黄昏
(
たそがれ
)
の
暗
(
やみ
)
を
幸
(
さいは
)
ひ、
004
ソツト
家路
(
いへぢ
)
に
帰
(
かへ
)
り、
005
裏口
(
うらぐち
)
から
考
(
かんが
)
へてゐた。
006
テーラは
二三十
(
にさんじふ
)
人
(
にん
)
の
若
(
わか
)
い
男
(
をとこ
)
を
集
(
あつ
)
めて、
007
テーラ『オイ、
008
お
前
(
まへ
)
達
(
たち
)
、
0081
青年隊
(
せいねんたい
)
に
宣告
(
せんこく
)
をしておくが、
009
此
(
この
)
通
(
とほ
)
り
一家
(
いつか
)
断絶
(
だんぜつ
)
の
厄
(
やく
)
に
会
(
あ
)
ひ、
010
スマナーが
只
(
ただ
)
一人
(
ひとり
)
残
(
のこ
)
つて
居
(
を
)
つたが、
011
それも
亦
(
また
)
何
(
ど
)
うしたものか、
012
行衛
(
ゆくゑ
)
が
不明
(
ふめい
)
となつて
了
(
しま
)
つた。
013
斯
(
か
)
うなるといふと、
014
ここの
遺産
(
ゐさん
)
は
法律
(
はふりつ
)
上
(
じやう
)
親戚
(
しんせき
)
の
者
(
もの
)
が
継
(
つ
)
がねばならぬ。
015
ハテ
困
(
こま
)
つた
事
(
こと
)
が
出来
(
でき
)
たものだ。
016
俺
(
おれ
)
は
元
(
もと
)
より
寡欲
(
くわよく
)
恬淡
(
てんたん
)
だから、
017
親類
(
しんるゐ
)
の
財産
(
ざいさん
)
を
欲
(
ほ
)
しいとは
夢
(
ゆめ
)
にも
思
(
おも
)
はぬが、
018
これも
天
(
てん
)
から
降
(
ふ
)
つて
湧
(
わ
)
いた
出来事
(
できごと
)
だから、
019
辛抱
(
しんばう
)
して
遺産
(
ゐさん
)
相続
(
さうぞく
)
する
事
(
こと
)
にするから、
020
青年隊
(
せいねんたい
)
の
御
(
ご
)
連中
(
れんちう
)
021
何卒
(
どうぞ
)
俺
(
おれ
)
に
同情
(
どうじやう
)
してくれ
玉
(
たま
)
へ。
022
ホンに
困
(
こま
)
つた
事
(
こと
)
がイヒヽヽヽ
到来
(
たうらい
)
したものだよ。
023
今日
(
けふ
)
お
前
(
まへ
)
達
(
たち
)
に
来
(
き
)
て
貰
(
もら
)
うたのは、
024
一杯
(
いつぱい
)
祝
(
いはひ
)
……オツトドツコイ、
025
祝
(
いはひ
)
所
(
どころ
)
か
家内中
(
かないぢう
)
全滅
(
ぜんめつ
)
したのだから、
026
亡
(
な
)
き
人
(
ひと
)
の
魂
(
たましひ
)
を
慰
(
なぐさ
)
める
為
(
ため
)
にタラ
腹
(
ふく
)
飲
(
の
)
んで
貰
(
もら
)
ひたいのだ。
027
俺
(
おれ
)
の
拵
(
こしら
)
へた
財産
(
ざいさん
)
ぢやなし、
028
酒
(
さけ
)
位
(
くらゐ
)
は
充分
(
じゆうぶん
)
飲
(
の
)
ましてやるから、
029
ドシドシ
飲
(
の
)
んでくれよ』
030
と
得意面
(
とくいづら
)
をさらしてゐる。
031
青年
(
せいねん
)
の
中
(
なか
)
より
一人
(
ひとり
)
の
男
(
をとこ
)
、
032
テーラの
前
(
まへ
)
に
進
(
すす
)
み
寄
(
よ
)
り、
033
ターク
『オイ、
034
テーラ、
035
一家
(
いつか
)
全滅
(
ぜんめつ
)
とはそら
何
(
なに
)
を
云
(
い
)
ふのだ。
036
ここにはスマナーといふ
未亡人
(
みばうじん
)
が
残
(
のこ
)
つてるぢやないか、
037
未亡人
(
みばうじん
)
のある
以上
(
いじやう
)
は、
038
汝
(
きさま
)
の
自由
(
じいう
)
にはなるまいぞ。
039
何程
(
なにほど
)
汝
(
きさま
)
が
自由
(
じいう
)
にするといふても、
040
青年隊
(
せいねんたい
)
が
承知
(
しようち
)
せぬのだ。
041
何
(
なん
)
ぞ
又
(
また
)
042
スマナーさまから
財産
(
ざいさん
)
管理
(
くわんり
)
の
依頼状
(
いらいじやう
)
でも
受
(
う
)
けてるのか、
043
ヨモヤ
汝
(
きさま
)
のやうな
極道
(
ごくだう
)
には、
044
如何
(
いか
)
にスマナーさまが
血迷
(
ちまよ
)
ふたと
云
(
い
)
つても、
045
依頼
(
いらい
)
する
筈
(
はず
)
があるまいぞ』
046
テーラ『オイ、
047
ターク、
048
そら
何
(
なに
)
を
云
(
い
)
ふのだ。
049
已
(
すで
)
に
已
(
すで
)
にスマナーは
遺書
(
かきおき
)
をおいて
家
(
いへ
)
を
飛
(
とび
)
出
(
だ
)
し、
050
自殺
(
じさつ
)
をすると
書
(
か
)
いて
居
(
ゐ
)
るぞ。
051
今
(
いま
)
頃
(
ごろ
)
にはどつかの
谷川
(
たにがは
)
へでも
身
(
み
)
を
投
(
な
)
げて
死
(
し
)
んでゐるに
違
(
ちがひ
)
ないワ。
052
さうすりや
無論
(
むろん
)
俺
(
おれ
)
の
財産
(
ざいさん
)
だ。
053
今日
(
けふ
)
からここの
主人
(
あるじ
)
は
俺
(
おれ
)
だ。
054
何程
(
なにほど
)
村中
(
むらぢう
)
の
奴
(
やつ
)
がゴテゴテ
云
(
い
)
つても、
055
切
(
き
)
つても
切
(
き
)
れぬ
親戚
(
しんせき
)
の
端
(
はし
)
だから、
056
仕方
(
しかた
)
がないワ』
057
ターク『そんなら
其
(
その
)
遺書
(
かきおき
)
を
見
(
み
)
せて
貰
(
もら
)
はふかい。
058
サア
皆
(
みな
)
の
前
(
まへ
)
で
読
(
よ
)
んでくれ』
059
テーラは
懐中
(
ふところ
)
から
遺書
(
かきおき
)
を
一寸
(
ちよつと
)
出
(
だ
)
し、
060
大勢
(
おほぜい
)
の
前
(
まへ
)
にふり
廻
(
まは
)
し
乍
(
なが
)
ら、
061
テーラ『ソレ、
062
此
(
この
)
通
(
とほ
)
りだ』
063
と、
064
はしくれを
一寸
(
ちよつと
)
まくり、
065
テーラ『オイ、
066
皆
(
みな
)
の
連中
(
れんちう
)
、
067
此
(
この
)
筆跡
(
ひつせき
)
はスマナーに
間違
(
まちがひ
)
あるまいがな。
068
どうだ
069
違
(
ちが
)
ふと
思
(
おも
)
ふ
者
(
もの
)
は
違
(
ちが
)
ふと
云
(
い
)
つてくれ』
070
ターク『
成程
(
なるほど
)
、
071
実
(
じつ
)
に
麗
(
うるは
)
しい
水茎
(
みづくき
)
の
跡
(
あと
)
だ。
072
此
(
この
)
村
(
むら
)
にこれ
丈
(
だけ
)
書
(
か
)
く
者
(
もの
)
は、
073
スマナーさまより
外
(
ほか
)
にはない
筈
(
はず
)
だ』
074
テーラ『そらみたか。
075
これで
疑
(
うたがひ
)
が
晴
(
は
)
れただろ、
076
エヘヽヽヽ。
077
果報
(
くわはう
)
は
寝
(
ね
)
て
待
(
ま
)
てだ。
078
一家
(
いつか
)
の
家宝
(
かほう
)
も、
079
山林
(
さんりん
)
田畑
(
でんぱた
)
も
今日
(
けふ
)
から
皆
(
みな
)
、
080
此
(
この
)
テーラさまの
所有品
(
しよいうひん
)
だ。
081
あゝあ、
082
俄
(
にはか
)
に
長者
(
ちやうじや
)
になると
何
(
なん
)
だか
肩
(
かた
)
が
重
(
おも
)
たいやうだワ。
083
イヤ
体
(
からだ
)
が
大
(
おほ
)
きくなつたやうな
気
(
き
)
がし
出
(
だ
)
した。
084
テモ
扨
(
さて
)
も
煩
(
うる
)
さい
事
(
こと
)
だワイ。
085
イヒヽヽヽ』
086
ターク『オイ、
087
其
(
その
)
遺書
(
かきおき
)
を
皆
(
みな
)
の
前
(
まへ
)
で
一遍
(
いつぺん
)
読
(
よ
)
んで
貰
(
もら
)
ひたいのだ。
088
何
(
なに
)
が
書
(
か
)
いてあるか、
089
分
(
わか
)
らぬからのう』
090
テーラ『
一寸
(
ちよつと
)
お
前
(
まへ
)
読
(
よ
)
んでくれぬか。
091
俺
(
おれ
)
は
些
(
ちつ
)
と
許
(
ばか
)
り
目
(
め
)
が
悪
(
わる
)
いのだから、
092
日
(
ひ
)
の
暮
(
くれ
)
と
云
(
い
)
ひ
余
(
あま
)
り
細
(
こま
)
かいので
見
(
み
)
えにくいワ』
093
ターク『ヘーン、
094
巧
(
うま
)
い
事
(
こと
)
言
(
い
)
ふ
哩
(
わい
)
。
095
明盲
(
あきめくら
)
の
癖
(
くせ
)
に、
096
汝
(
きさま
)
何時
(
いつ
)
やら、
097
人
(
ひと
)
の
前
(
まへ
)
で
新聞
(
しんぶん
)
を
逆様
(
さかさま
)
に
読
(
よ
)
んで
居
(
を
)
つたでないか。
098
……さうすると
傍
(
かたはら
)
から、
099
テーラさま、
100
そら
新聞
(
しんぶん
)
が
逆様
(
さかさま
)
ぢやないかと
云
(
い
)
はれた
時
(
とき
)
、
101
汝
(
きさま
)
負
(
まけ
)
惜
(
をし
)
みを
出
(
だ
)
しやがつて……ナアニお
前
(
まへ
)
に
見
(
み
)
せてるのだと
言
(
い
)
ひやがつた
位
(
くらゐ
)
だから、
102
こんな
美
(
うつく
)
しい
字
(
じ
)
が
汝
(
きさま
)
に
読
(
よ
)
める
道理
(
だうり
)
がない。
103
サア
玉手箱
(
たまてばこ
)
を
一
(
ひと
)
つあけてやろ。
104
此
(
この
)
文句
(
もんく
)
に
仍
(
よ
)
つて、
105
汝
(
きさま
)
が
財産
(
ざいさん
)
を
相続
(
さうぞく
)
するか、
106
村
(
むら
)
の
共有物
(
きよういうぶつ
)
になるか、
107
スマナーさまの
遺言
(
ゆいごん
)
通
(
どほり
)
だ』
108
テーラは
稍
(
やや
)
狼狽
(
らうばい
)
の
色
(
いろ
)
を
浮
(
うか
)
べ、
109
タークの
耳
(
みみ
)
のはたに
口
(
くち
)
を
寄
(
よ
)
せ、
110
『オイ、
111
ターク、
112
俺
(
おれ
)
に
都合
(
つがふ
)
の
悪
(
わる
)
い
所
(
とこ
)
があつたら、
113
そこは
巧
(
うま
)
く
利益
(
りえき
)
のやうに
読
(
よ
)
んでくれよ。
114
其
(
その
)
代
(
かは
)
り
成功
(
せいこう
)
したら
汝
(
きさま
)
に
財産
(
ざいさん
)
の
十分
(
じふぶん
)
の
一
(
いち
)
位
(
ぐらゐ
)
はやるからなア。
115
さうすりや
汝
(
きさま
)
も
何時
(
いつ
)
迄
(
まで
)
も
難儀
(
なんぎ
)
をしてをらいでもよかろ。
116
其
(
その
)
金
(
かね
)
を
持
(
も
)
つて
洋行
(
やうかう
)
をして
博士
(
はかせ
)
になつて
来
(
こ
)
うとママだよ』
117
と
小声
(
こごゑ
)
になつて
囁
(
ささや
)
く。
118
タークは
何
(
なん
)
の
頓着
(
とんちやく
)
もなく、
119
巻紙
(
まきがみ
)
をくり
拡
(
ひろ
)
げ、
120
ターク『サア、
121
青年隊
(
せいねんたい
)
の
御
(
ご
)
連中
(
れんちう
)
、
122
今
(
いま
)
此
(
この
)
遺書
(
かきおき
)
を
朗読
(
らうどく
)
致
(
いた
)
します。
123
テーラの
運
(
うん
)
不運
(
ふうん
)
の
之
(
これ
)
できまる
所
(
ところ
)
だ』
124
大勢
(
おほぜい
)
は
一同
(
いちどう
)
に
手
(
て
)
を
拍
(
う
)
つて『ヒヤ ヒヤ』と
迎
(
むか
)
へる。
125
ターク『
一
(
ひとつ
)
、
126
妾
(
わらは
)
事
(
こと
)
如何
(
いか
)
なる
前生
(
ぜんせい
)
の
罪
(
つみ
)
の
廻
(
めぐ
)
り
来
(
きた
)
りしや、
127
親
(
おや
)
兄弟
(
きやうだい
)
夫
(
をつと
)
迄
(
まで
)
、
128
無残
(
むざん
)
な
最期
(
さいご
)
を
遂
(
と
)
げ、
129
後
(
あと
)
に
淋
(
さび
)
しく
一人
(
ひとり
)
空閨
(
くうけい
)
を
守
(
まも
)
り、
130
亡
(
な
)
き
両親
(
りやうしん
)
に
孝養
(
かうやう
)
を
尽
(
つく
)
し、
131
夫
(
をつと
)
に
貞節
(
ていせつ
)
を
守
(
まも
)
り
居
(
を
)
りし
所
(
ところ
)
、
132
人
(
ひと
)
の
悪事
(
あくじ
)
を
剔抉
(
てつけつ
)
し
官
(
くわん
)
に
訴
(
うつた
)
ふるを
専業
(
せんげふ
)
とするテーラの
厭
(
いや
)
な
男
(
をとこ
)
、
133
朝
(
あさ
)
から
晩
(
ばん
)
まで、
134
晩
(
ばん
)
から
夜明
(
よあけ
)
迄
(
まで
)
、
135
厭
(
いや
)
らしく
無体
(
むたい
)
な
恋慕
(
れんぼ
)
をなし、
136
未亡人
(
みばうじん
)
と
悔
(
あなど
)
り、
137
酒
(
さけ
)
を
燗
(
かん
)
せよ、
138
肩
(
かた
)
を
打
(
う
)
て、
139
足
(
あし
)
を
揉
(
も
)
め……は
未
(
ま
)
だ
愚
(
おろ
)
か、
140
身分
(
みぶん
)
にも
似合
(
にあ
)
はぬ
不埒
(
ふらち
)
な
事
(
こと
)
を
強請
(
きやうせい
)
致
(
いた
)
し、
141
立
(
た
)
つてもゐても
居
(
ゐ
)
られなく
相
(
あひ
)
成
(
な
)
りし
故
(
ゆゑ
)
、
142
妾
(
わらは
)
は
覚悟
(
かくご
)
をきはめ、
143
白骨堂
(
はくこつだう
)
の
前
(
まへ
)
にて
自刃
(
じじん
)
致
(
いた
)
し、
144
夫
(
をつと
)
の
後
(
あと
)
を
逐
(
お
)
ふ
積
(
つもり
)
に
候
(
さふらふ
)
。
145
就
(
つい
)
ては
村
(
むら
)
の
人々
(
ひとびと
)
並
(
ならび
)
に
青年隊
(
せいねんたい
)
の
皆々
(
みなみな
)
様
(
さま
)
、
146
テーラの
悪党
(
あくたう
)
を
糾弾
(
きうだん
)
遊
(
あそ
)
ばした
上
(
うへ
)
、
147
所
(
ところ
)
払
(
ばらひ
)
になし
下
(
くだ
)
され
度
(
たく
)
偏
(
ひとへ
)
に
願
(
ねがひ
)
上
(
あげ
)
参
(
まゐ
)
らせ
候
(
さふらふ
)
。
148
又
(
また
)
夫
(
をつと
)
の
遺産
(
ゐさん
)
は
残
(
のこ
)
らず
金
(
かね
)
に
代
(
か
)
へ、
149
白骨堂
(
はくこつだう
)
を
立派
(
りつぱ
)
に
御
(
お
)
建
(
た
)
て
下
(
くだ
)
され、
150
山林
(
さんりん
)
田畑
(
でんぱた
)
は
白骨堂
(
はくこつだう
)
の
維持費
(
ゐぢひ
)
として
村人
(
むらびと
)
に
於
(
おい
)
て、
151
保管
(
ほくわん
)
下
(
くだ
)
さる
様
(
やう
)
偏
(
ひとへ
)
に
念
(
ねん
)
じ
上
(
あ
)
げ
参
(
まゐ
)
らせ
候
(
さふらふ
)
。
152
誠
(
まこと
)
に
誠
(
まこと
)
に
厭
(
いや
)
らしきテーラの
為
(
ため
)
に、
153
此
(
この
)
世
(
よ
)
を
去
(
さ
)
る
心持
(
こころもち
)
に
相
(
あひ
)
成
(
なり
)
候
(
さふらふ
)
者
(
もの
)
なれば、
154
彼
(
か
)
れテーラは
妾
(
わらは
)
の
為
(
ため
)
には
不倶
(
ふぐ
)
戴天
(
たいてん
)
の
仇敵
(
きうてき
)
にて
御座
(
ござ
)
候
(
さふらふ
)
。
155
仮
(
かり
)
にも
村長
(
むらをさ
)
の
妻
(
つま
)
たる
妾
(
わらは
)
に
向
(
むか
)
つて、
156
卑
(
いや
)
しき
番太
(
ばんた
)
の
身
(
み
)
を
以
(
もつ
)
て
恋慕
(
れんぼ
)
するなどとは
実
(
じつ
)
に
言語
(
ごんご
)
道断
(
どうだん
)
の
振舞
(
ふるまひ
)
にて、
157
悔
(
くや
)
しく
腹立
(
はらだ
)
たしく
存
(
ぞん
)
じ
候
(
さふらふ
)
。
158
此
(
この
)
村
(
むら
)
の
古来
(
こらい
)
よりの
掟
(
おきて
)
にてらし、
159
斯
(
かく
)
の
如
(
ごと
)
き
不倫常
(
ふりんじやう
)
の
人物
(
じんぶつ
)
は、
160
一
(
いち
)
時
(
じ
)
も
早
(
はや
)
く
叩
(
たた
)
き
払
(
ばらひ
)
になし
下
(
くだ
)
さらむことを、
161
懇願
(
こんぐわん
)
致
(
いた
)
します。
162
仙聖郷
(
せんせいきやう
)
の
御
(
ご
)
一同
(
いちどう
)
様
(
さま
)
及
(
および
)
青年隊
(
せいねんたい
)
の
御
(
ご
)
一同
(
いちどう
)
様
(
さま
)
へ
163
スマナーより
164
謹言
(
きんげん
)
』
165
テーラは
眉
(
まゆ
)
を
逆立
(
さかだ
)
て、
166
面
(
つら
)
をふくらせ、
167
ヤケクソになつて、
168
尻
(
しり
)
ひきまくり、
169
あぐらをかいて、
170
悪胴
(
わるどう
)
をすゑて
了
(
しま
)
つた。
171
ターク『ハヽヽヽ、
172
オイ、
173
テーラ、
174
汝
(
きさま
)
は
怪
(
け
)
しからぬ
奴
(
やつ
)
だ。
175
今
(
いま
)
此
(
この
)
遺書
(
かきおき
)
の
文句
(
もんく
)
を
聞
(
き
)
いただらう。
176
馬鹿
(
ばか
)
な
奴
(
やつ
)
だなア、
177
サアとつとと
此処
(
ここ
)
を
立
(
た
)
つて
行
(
ゆ
)
け』
178
テーラ『ヘン、
179
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
つても
親族
(
しんぞく
)
の
端
(
はし
)
だ。
180
ゴテゴテ
吐
(
ぬか
)
すと、
181
裁判
(
さいばん
)
してでも
取
(
と
)
つてみせうぞ。
182
お
前
(
まへ
)
達
(
たち
)
はバータラ
家
(
け
)
の
財産
(
ざいさん
)
を
占領
(
せんりやう
)
せうと
思
(
おも
)
うて
企
(
たく
)
んでゐるのだらう。
183
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
つても
相続権
(
さうぞくけん
)
は
俺
(
おれ
)
にあるのだから、
184
村中
(
むらぢう
)
と
喧嘩
(
けんくわ
)
をしても
美事
(
みごと
)
取
(
と
)
つて
見
(
み
)
せう。
185
俺
(
おれ
)
は
汝
(
きさま
)
の
知
(
し
)
つてる
通
(
とほ
)
り、
186
上
(
うへ
)
の
役人
(
やくにん
)
に
接近
(
せつきん
)
し
偵羅
(
ていら
)
をやつてるのだから、
187
俺
(
おれ
)
の
言
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
は
何
(
なん
)
でもお
取
(
とり
)
上
(
あげ
)
になるのだ。
188
汝
(
きさま
)
の
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
はお
取
(
とり
)
上
(
あげ
)
にならぬのだ。
189
嘘
(
うそ
)
でも
何
(
なん
)
でも
偵羅
(
ていら
)
といふ
肩書
(
かたがき
)
に
対
(
たい
)
し
採用
(
さいよう
)
して
下
(
くだ
)
さるのだ。
190
俺
(
おれ
)
の
御
(
ご
)
機嫌
(
きげん
)
を
損
(
そん
)
じてみよ。
191
汝
(
きさま
)
等
(
ら
)
がバータラ
家
(
け
)
の
財産
(
ざいさん
)
の
横領
(
わうりやう
)
を
企
(
くはだ
)
てたと
訴
(
うつた
)
へてみよ。
192
汝
(
きさま
)
等
(
ら
)
は
横領罪
(
わうりやうざい
)
とか
騒擾罪
(
さうぜうざい
)
とかで、
193
万古
(
まんご
)
末代
(
まつだい
)
此
(
この
)
世
(
よ
)
の
明
(
あか
)
りの
見
(
み
)
えぬ
所
(
ところ
)
へやつて
了
(
しま
)
ふがそれでもよいか。
194
第一
(
だいいち
)
タークの
奴
(
やつ
)
、
195
此奴
(
こいつ
)
が
張本人
(
ちやうほんにん
)
だ。
196
首魁
(
しゆくわい
)
は
死刑
(
しけい
)
に
処
(
しよ
)
すといふ
刑法
(
けいはふ
)
を
知
(
し
)
つてるか。
197
お
恐
(
おそ
)
れ
乍
(
なが
)
らと、
198
此
(
この
)
テーラさまの
三寸
(
さんずん
)
の
舌
(
した
)
が
動
(
うご
)
くが
最後
(
さいご
)
、
199
汝
(
きさま
)
の
命
(
いのち
)
は
無
(
な
)
いのだから……
何
(
ど
)
うだ。
200
それでも
俺
(
おれ
)
の
意志
(
いし
)
に
反対
(
はんたい
)
する
積
(
つも
)
りか、
201
エヽーン』
202
ターク『どうなつと
勝手
(
かつて
)
にせい。
203
善
(
ぜん
)
はしまひにや
分
(
わか
)
るから。
204
悪
(
あく
)
は
始
(
はじ
)
めは
巧
(
うま
)
く
行
(
ゆ
)
きよるが、
205
九分
(
くぶ
)
九厘
(
くりん
)
で
化
(
ばけ
)
が
現
(
あら
)
はれるからのう』
206
テーラ『アハツハ、
207
それだから
汝
(
きさま
)
お
目出度
(
めでた
)
いといふのだ。
208
今日
(
こんにち
)
の
制度
(
せいど
)
を
知
(
し
)
つてるか、
209
今日
(
こんにち
)
の
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
は
紳士
(
しんし
)
紳商
(
しんしやう
)
官吏
(
くわんり
)
の
天下
(
てんか
)
だぞ。
210
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
もヤツパリ
官吏
(
くわんり
)
の
下
(
した
)
を
働
(
はたら
)
いてる
者
(
もの
)
だ。
211
人民
(
じんみん
)
のクセに
何
(
なに
)
を
云
(
い
)
ふのだ。
212
時勢
(
じせい
)
を
知
(
し
)
らぬと
云
(
い
)
つても
余
(
あんま
)
りぢやないか。
213
何
(
なに
)
程
(
ほど
)
善
(
ぜん
)
な
事
(
こと
)
でも○○のする
事
(
こと
)
は
打
(
ぶつ
)
潰
(
つぶ
)
して
了
(
しま
)
ふのが
今日
(
こんにち
)
の
行
(
や
)
り
方
(
かた
)
だ。
214
何
(
なに
)
程
(
ほど
)
悪
(
わる
)
い
事
(
こと
)
でも○○がすれば
善
(
ぜん
)
となつて
通
(
とほ
)
るのだ。
215
些
(
ちつ
)
と
改心
(
かいしん
)
して
天下
(
てんか
)
の
趨勢
(
すうせい
)
を
考
(
かんが
)
へてみたら
何
(
ど
)
うだい』
216
タークは
青年会
(
せいねんくわい
)
の
会長
(
くわいちやう
)
をしてゐる
事
(
こと
)
とて、
217
一寸
(
ちよつと
)
気骨
(
きこつ
)
のある
男
(
をとこ
)
、
218
中々
(
なかなか
)
テーラのおどしには
容易
(
ようい
)
には
乗
(
の
)
らない。
219
ターク『ヘン、
220
バンタのザマして
偉
(
えら
)
相
(
さう
)
に
云
(
い
)
ふない、
221
冷飯
(
ひやめし
)
奴
(
め
)
が。
222
グヅグヅ
吐
(
ぬか
)
すと、
223
村内
(
そんない
)
一同
(
いちどう
)
に
同盟軍
(
どうめいぐん
)
を
作
(
つく
)
り、
224
汝
(
きさま
)
に
冷飯
(
ひやめし
)
を
供給
(
きようきふ
)
しない
事
(
こと
)
にするぞ。
225
何
(
なに
)
程
(
ほど
)
官吏
(
くわんり
)
の
下役
(
したやく
)
だと
威張
(
ゐば
)
つて
居
(
を
)
つても、
226
糧道
(
りやうだう
)
を
絶
(
た
)
たれちや
駄目
(
だめ
)
だらう……。
227
オイ、
228
皆
(
みな
)
の
連中
(
れんちう
)
、
229
心配
(
しんぱい
)
するにや
及
(
およ
)
ばぬから、
230
此
(
この
)
テーラをスマナーさまの
遺書
(
かきおき
)
の
通
(
とほ
)
り、
231
追
(
お
)
つ
払
(
ぱら
)
うて
村
(
むら
)
に
置
(
お
)
かないやうにせうぢやないか』
232
青年
(
せいねん
)
の
中
(
なか
)
より
少
(
すこ
)
し
背
(
せ
)
の
高
(
たか
)
い、
233
インターはつかつかと
前
(
まへ
)
に
進
(
すす
)
み
来
(
きた
)
り、
234
インタ『ヤア、
235
会長
(
くわいちやう
)
、
236
君
(
きみ
)
の
説
(
せつ
)
には
賛成
(
さんせい
)
だ。
237
一
(
いち
)
百姓
(
ひやくしやう
)
、
238
二
(
に
)
宣伝使
(
せんでんし
)
、
239
三
(
さん
)
商売
(
あきなひ
)
、
240
四
(
し
)
職人
(
しよくにん
)
、
241
五
(
ご
)
毘丘
(
びく
)
、
242
六
(
ろく
)
巫子
(
みこ
)
、
243
七
(
しち
)
乞食
(
こじき
)
、
244
八
(
はち
)
バンタ、
245
九
(
く
)
汚家
(
をげ
)
、
246
十
(
じふ
)
隠亡
(
おんぼ
)
、
247
と
云
(
い
)
つて、
248
社会
(
しやくわい
)
の
階級
(
かいきふ
)
は
自然
(
しぜん
)
に
定
(
き
)
まつて
居
(
ゐ
)
るのだ。
249
第一
(
だいいち
)
に
位
(
くらゐ
)
するお
百姓
(
ひやくしやう
)
さまを
掴
(
つか
)
まへて、
250
番太
(
ばんた
)
が
何
(
なに
)
を
云
(
い
)
ふのだ。
251
野良犬
(
のらいぬ
)
奴
(
め
)
が。
252
そんな
脅
(
おど
)
し
文句
(
もんく
)
が
怖
(
こは
)
うて、
253
此
(
この
)
悪
(
あく
)
の
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
に、
254
一
(
いち
)
日
(
にち
)
だつて
生活
(
せいくわつ
)
がつづけられるかい。
255
馬鹿
(
ばか
)
だなア』
256
テーラ『
喧
(
やかま
)
しい
哩
(
わい
)
、
257
番太
(
ばんた
)
が
何
(
なに
)
、
258
それ
程
(
ほど
)
卑
(
いや
)
しいのだい。
259
今日
(
こんにち
)
は
衡平
(
かうへい
)
運動
(
うんどう
)
さへ
起
(
おこ
)
つてるぢやないか。
260
衡平団
(
かうへいだん
)
の
勢力
(
せいりよく
)
を
知
(
し
)
らぬか。
261
時勢
(
じせい
)
遅
(
おく
)
れの
頓馬
(
とんま
)
野郎
(
やらう
)
だな。
262
今
(
いま
)
おれがヒユーと
一
(
ひと
)
つ
笛
(
ふえ
)
を
吹
(
ふ
)
かうものなら、
263
夫
(
そ
)
れこそ
捕手
(
とりて
)
が
裏山
(
うらやま
)
にかくしてあるのだ。
264
何百
(
なんびやく
)
人
(
にん
)
といふ
程
(
ほど
)
やつて
来
(
き
)
て、
265
村
(
むら
)
の
奴
(
やつ
)
ア
一人
(
ひとり
)
も
残
(
のこ
)
らず、
266
牢
(
らう
)
へ
打
(
ぶ
)
ち
込
(
こ
)
んで
了
(
しま
)
ふのだから、
267
それでも
可
(
い
)
いか。
268
仙聖郷
(
せんせいきやう
)
の
長者
(
ちやうじや
)
の
財産
(
ざいさん
)
は、
269
百
(
ひやく
)
人
(
にん
)
や
千
(
せん
)
人
(
にん
)
の
家族
(
かぞく
)
が
一生
(
いつしやう
)
遊
(
あそ
)
んで
暮
(
くら
)
しても
尽
(
つ
)
きない
程
(
ほど
)
あるのだから、
270
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
の
上官
(
じやうくわん
)
に
一寸
(
ちよつと
)
申
(
まをし
)
上
(
あ
)
げ、
271
財産
(
ざいさん
)
没収
(
ぼつしう
)
の
準備
(
じゆんび
)
がしてあるのだ。
272
マゴマゴしてると
汝
(
きさま
)
たちの
身辺
(
しんぺん
)
が
危
(
あぶ
)
ないぞ。
273
サア
笛
(
ふえ
)
を
吹
(
ふ
)
かうか、
274
笛
(
ふえ
)
を
吹
(
ふ
)
いたが
最後
(
さいご
)
、
275
汝
(
きさま
)
たちの
命
(
いのち
)
は
風前
(
ふうぜん
)
の
燈火
(
ともしび
)
だ。
276
テモさても
憐
(
あはれ
)
な
者
(
もの
)
だ
哩
(
わい
)
。
277
アツハツハ』
278
ターク『オイ
青年隊
(
せいねんたい
)
、
279
此奴
(
こいつ
)
ア、
280
うつかりして
居
(
を
)
れぬぞ。
281
皆
(
みな
)
の
中
(
うち
)
から
四五
(
しご
)
人
(
にん
)
手分
(
てわ
)
けして、
282
村中
(
むらぢう
)
の
中老組
(
ちうらうぐみ
)
を
招
(
よ
)
んで
来
(
き
)
てくれ。
283
そして
各自
(
めんめ
)
に
得物
(
えもの
)
を
携
(
たづさ
)
へて
来
(
こ
)
いと
言
(
い
)
つてくれ。
284
そして
後
(
あと
)
に
残
(
のこ
)
つた
青年
(
せいねん
)
は
各自
(
めんめ
)
に
鍬
(
くは
)
なり、
285
手斧
(
ちよんの
)
なり、
286
鎌
(
かま
)
なり、
287
鶴嘴
(
つるばし
)
なり、
288
百姓
(
ひやくしやう
)
道具
(
だうぐ
)
を
取
(
と
)
つて
用心
(
ようじん
)
せい。
289
此奴
(
こいつ
)
の
事
(
こと
)
だから、
290
どんな
事
(
こと
)
してるか
分
(
わか
)
らぬから、
291
準備
(
じゆんび
)
をしておかなならぬからのう』
292
と
大声
(
おほごゑ
)
に
怒鳴
(
どな
)
り
出
(
だ
)
した。
293
気
(
き
)
の
利
(
き
)
いた
青年
(
せいねん
)
は
跣足
(
はだし
)
で
裏口
(
うらぐち
)
から
飛
(
とび
)
出
(
だ
)
し、
294
村中
(
むらぢう
)
の
中老組
(
ちうらうぐみ
)
を
呼
(
よび
)
集
(
あつ
)
めにいつた。
295
テーラは
懐中
(
ふところ
)
から
呼子
(
よびこ
)
の
笛
(
ふえ
)
を
取
(
とり
)
出
(
だ
)
し、
296
切
(
しき
)
りにヒヨロ ヒヨロ ヒヨロと
吹
(
ふき
)
立
(
た
)
てる。
297
忽
(
たちま
)
ち
数百
(
すうひやく
)
人
(
にん
)
の
足音
(
あしおと
)
、
298
体
(
たい
)
を
固
(
かた
)
めた
黒装束
(
くろしやうぞく
)
の
捕手
(
とりて
)
は、
299
十手
(
じつて
)
、
300
叉又
(
さしまた
)
、
301
鎌
(
かま
)
、
302
槍
(
やり
)
なんど
手
(
て
)
ん
手
(
で
)
に
携
(
たづさ
)
へ、
303
バラバラと
飛
(
とび
)
込
(
こ
)
んで
来
(
き
)
た。
304
テーラ『これはこれはお
役人
(
やくにん
)
様
(
さま
)
、
305
能
(
よ
)
う
来
(
き
)
て
下
(
くだ
)
さいました。
306
ここに
居
(
ゐ
)
る
奴
(
やつ
)
等
(
ら
)
は
当家
(
たうけ
)
の
財産
(
ざいさん
)
を
横領
(
わうりやう
)
せうと
致
(
いた
)
し、
307
今
(
いま
)
斯
(
こ
)
の
通
(
とほ
)
り、
308
数十
(
すうじふ
)
名
(
めい
)
を
以
(
もつ
)
て
押寄
(
おしよ
)
せて
来
(
き
)
たのです。
309
つまり
騒擾罪
(
さうぜうざい
)
ですから、
310
一番
(
いちばん
)
にターク、
311
インターの
首魁
(
しゆくわい
)
をフン
縛
(
じば
)
つて
下
(
くだ
)
さいませ。
312
親戚
(
しんせき
)
の
私
(
わたし
)
が
何
(
ど
)
うしても
遺産
(
ゐさん
)
を
相続
(
さうぞく
)
すべき
権利
(
けんり
)
が
厶
(
ござ
)
いますから、
313
巧
(
うま
)
く
手
(
て
)
に
入
(
い
)
れば、
314
お
役人
(
やくにん
)
御
(
ご
)
一同
(
いちどう
)
へ
分配
(
ぶんぱい
)
致
(
いた
)
しますからなア、
315
決
(
けつ
)
してお
約束
(
やくそく
)
は
違
(
たが
)
へませぬから、
316
御
(
ご
)
安心
(
あんしん
)
の
上
(
うへ
)
何卒
(
どうぞ
)
此奴
(
こいつ
)
等
(
ら
)
をおくくり
下
(
くだ
)
さいませ』
317
捕手
(
とりて
)
の
頭
(
かしら
)
キングレスは
威丈高
(
ゐたけだか
)
になり、
318
『オイ、
319
当家
(
たうけ
)
は
一人
(
ひとり
)
も
残
(
のこ
)
らず
不慮
(
ふりよ
)
の
炎難
(
さいなん
)
にかかつて
滅亡
(
めつぼう
)
し、
320
憂愁
(
いうしう
)
の
空気
(
くうき
)
が
漂
(
ただよ
)
うてるにも
係
(
かか
)
はらず、
321
其
(
その
)
方
(
はう
)
は
不都合
(
ふつがふ
)
千万
(
せんばん
)
にも
当家
(
たうけ
)
の
財産
(
ざいさん
)
を
横領
(
わうりやう
)
せむと
押寄
(
おしよ
)
せて
来
(
き
)
たのか、
322
返答
(
へんたふ
)
次第
(
しだい
)
に
依
(
よ
)
つては
容赦
(
ようしや
)
は
致
(
いた
)
さぬが
何
(
ど
)
うだ。
323
当家
(
たうけ
)
は
一人
(
ひとり
)
も
残
(
のこ
)
らず
滅亡
(
めつぼう
)
したのだから、
324
親類
(
しんるゐ
)
関係
(
くわんけい
)
のテーラが
遺産
(
ゐさん
)
相続
(
さうぞく
)
するのは
法律
(
はふりつ
)
の
許
(
ゆる
)
す
所
(
ところ
)
だ。
325
不都合
(
ふつがふ
)
千万
(
せんばん
)
な、
326
マゴマゴしてると
皆
(
みな
)
捕縛
(
ほばく
)
するぞ』
327
ターク『モシ、
328
キングレスさまとやら、
329
万々一
(
まんまんいち
)
、
330
未亡人
(
みばうじん
)
のスマナーさまが
生
(
いき
)
残
(
のこ
)
つて
居
(
を
)
つたら
何
(
ど
)
うなりますか。
331
それでも
遺産
(
ゐさん
)
をテーラが
相続
(
さうぞく
)
せねばならぬのですか。
332
左様
(
さやう
)
な
法律
(
はふりつ
)
は
未
(
ま
)
だ
聞
(
き
)
いた
事
(
こと
)
は
厶
(
ござ
)
いませぬが…』
333
キング『きまつた
事
(
こと
)
だ。
334
もし
未亡人
(
みばうじん
)
が
居
(
を
)
るとすれば、
335
却
(
かへつ
)
てテーラが
財産
(
ざいさん
)
横領
(
わうりやう
)
を
企
(
くはだ
)
てた
事
(
こと
)
になり、
336
大罪人
(
だいざいにん
)
となる
所
(
ところ
)
だ。
337
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
今
(
いま
)
軒下
(
のきした
)
に
隠
(
かく
)
れて
聞
(
き
)
いて
居
(
を
)
れば、
338
夫
(
をつと
)
の
後
(
あと
)
を
逐
(
お
)
うて
自殺
(
じさつ
)
をすると
申
(
まを
)
し、
339
書置
(
かきおき
)
まで
残
(
のこ
)
しておいたぢやないか』
340
ターク『
成程
(
なるほど
)
、
341
夫
(
そ
)
れには
間違
(
まちがひ
)
厶
(
ござ
)
いませぬが、
342
もしも
死
(
し
)
なずに
居
(
を
)
つたら、
343
矢張
(
やつぱり
)
、
344
テーラの
物
(
もの
)
にはなりますまいな』
345
キング『
無論
(
むろん
)
の
事
(
こと
)
だ』
346
テーラ『アハヽヽヽ、
347
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
つても
運
(
うん
)
が
向
(
む
)
いて
来
(
き
)
たのだから……オイ、
348
ターク、
349
インター、
350
駄目
(
だめ
)
だよ。
351
神妙
(
しんめう
)
に
捕縛
(
ほばく
)
されるか。
352
但
(
ただ
)
しは
茲
(
ここ
)
であやまるなら、
353
俺
(
おれ
)
も
村
(
むら
)
のよしみで
許
(
ゆる
)
して
貰
(
もら
)
うてやる。
354
何
(
ど
)
うだ。
355
返答
(
へんたふ
)
を
早
(
はや
)
く
致
(
いた
)
せ』
356
此
(
この
)
間
(
あひだ
)
に
五六
(
ごろく
)
人
(
にん
)
の
青年
(
せいねん
)
は
中老
(
ちうらう
)
をかり
集
(
あつ
)
めると
云
(
い
)
つて
出
(
で
)
たのは、
357
其
(
その
)
実
(
じつ
)
白骨堂
(
はくこつだう
)
のあたりにまだスマナーが
生
(
い
)
きてうろついて
居
(
を
)
りはせぬか、
358
それさへ
居
(
を
)
ればテーラの
鼻
(
はな
)
をあかしてやるのに
好都合
(
かうつがふ
)
だと、
359
目
(
め
)
ひき
袖
(
そで
)
ひき
捜索
(
さうさく
)
に
出
(
で
)
たのであつた。
360
かかる
所
(
ところ
)
へ
幽
(
かす
)
かな
女
(
をんな
)
の
歌
(
うた
)
ふ
声
(
こゑ
)
が
聞
(
きこ
)
えて
来
(
き
)
た。
361
(
大正一二・七・一七
旧六・四
於祥雲閣
松村真澄
録)
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