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第74巻(丑の巻)
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第65巻(辰の巻)
序文
総説
第1篇 盗風賊雨
01 感謝組
〔1657〕
02 古峽の山
〔1658〕
03 岩侠
〔1659〕
04 不聞銃
〔1660〕
05 独許貧
〔1661〕
06 噴火口
〔1662〕
07 反鱗
〔1663〕
第2篇 地異転変
08 異心泥信
〔1664〕
09 劇流
〔1665〕
10 赤酒の声
〔1666〕
11 大笑裡
〔1667〕
12 天恵
〔1668〕
第3篇 虎熊惨状
13 隔世談
〔1669〕
14 山川動乱
〔1670〕
15 饅頭塚
〔1671〕
16 泥足坊
〔1672〕
17 山颪
〔1673〕
第4篇 神仙魔境
18 白骨堂
〔1674〕
19 谿の途
〔1675〕
20 熊鷹
〔1676〕
21 仙聖郷
〔1677〕
22 均霑
〔1678〕
23 義侠
〔1679〕
第5篇 讃歌応山
24 危母玉
〔1680〕
25 道歌
〔1681〕
26 七福神
〔1682〕
余白歌
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> 第3篇 虎熊惨状 > 第16章 泥足坊
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第一六章
泥足坊
(
でいだるばう
)
〔一六七二〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第65巻 山河草木 辰の巻
篇:
第3篇 虎熊惨状
よみ(新仮名遣い):
とらくまさんじょう
章:
第16章 泥足坊
よみ(新仮名遣い):
でいだるぼう
通し章番号:
1672
口述日:
1923(大正12)年07月17日(旧06月4日)
口述場所:
祥雲閣
筆録者:
北村隆光
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1926(大正15)年4月14日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
スーラヤの湖(スダルマ湖の別名)
データ凡例:
データ最終更新日:
2018-07-07 22:28:58
OBC :
rm6516
愛善世界社版:
183頁
八幡書店版:
第11輯 675頁
修補版:
校定版:
191頁
普及版:
84頁
初版:
ページ備考:
001
神
(
かみ
)
の
教
(
をしへ
)
の
三千彦
(
みちひこ
)
が
002
スダルマ
湖水
(
こすい
)
の
西岸
(
せいがん
)
に
003
無事
(
ぶじ
)
安着
(
あんちやく
)
の
折
(
をり
)
もあれ
004
初稚姫
(
はつわかひめ
)
のあれまして
005
三五教
(
あななひけう
)
の
宣伝
(
せんでん
)
は
006
同行
(
どうかう
)
ならぬと
手厳
(
てきび
)
しく
007
いましめられて
是非
(
ぜひ
)
もなく
008
伴
(
ともな
)
ひ
来
(
きた
)
りしデビス
姫
(
ひめ
)
009
涙
(
なみだ
)
とともに
袂
(
たもと
)
をば
010
別
(
わか
)
ちて
一人
(
ひとり
)
スタスタと
011
姫
(
ひめ
)
の
身
(
み
)
の
上
(
うへ
)
案
(
あん
)
じつつ
012
ハルセイ
山
(
ざん
)
の
峠
(
たうげ
)
をば
013
半
(
なかば
)
登
(
のぼ
)
りし
折柄
(
をりから
)
に
014
道
(
みち
)
のかたへに
悲
(
かな
)
しげに
015
倒
(
たふ
)
れて
泣
(
な
)
ける
女
(
をんな
)
あり
016
何人
(
なにびと
)
ならむと
立
(
たち
)
寄
(
よ
)
つて
017
つらつら
見
(
み
)
れば
此
(
こ
)
は
如何
(
いか
)
に
018
年
(
とし
)
は
二八
(
にはち
)
の
花盛
(
はなざか
)
り
019
伊太彦
(
いたひこ
)
司
(
つかさ
)
が
最愛
(
さいあい
)
の
020
ブラヷーダ
姫
(
ひめ
)
と
覚
(
さと
)
りしゆ
021
労
(
いた
)
はり
助
(
たす
)
け
介抱
(
かいはう
)
し
022
厚
(
あつ
)
き
情
(
なさけ
)
にほだされて
023
胸
(
むね
)
に
焔
(
ほのほ
)
の
炎々
(
えんえん
)
と
024
立
(
たち
)
上
(
のぼ
)
りたる
苦
(
くる
)
しさに
025
心
(
こころ
)
は
同
(
おな
)
じ
恋
(
こひ
)
の
暗
(
やみ
)
026
月下
(
げつか
)
に
抱
(
いだ
)
き
泣
(
な
)
きゐたる
027
時
(
とき
)
しもあれやデビス
姫
(
ひめ
)
028
ここに
突然
(
とつぜん
)
現
(
あら
)
はれて
029
心
(
こころ
)
の
迷
(
まよ
)
ひを
説
(
と
)
き
明
(
あ
)
かす
030
二人
(
ふたり
)
は
恋
(
こひ
)
の
夢
(
ゆめ
)
さめて
031
汚
(
けが
)
れし
心
(
こころ
)
を
悔悟
(
くわいご
)
なし
032
詫
(
わ
)
ぶればデビスに
非
(
あら
)
ずして
033
木花姫
(
このはなひめ
)
の
御
(
おん
)
化身
(
けしん
)
034
尊
(
たふと
)
き
神
(
かみ
)
の
御
(
お
)
試
(
ため
)
しに
035
会
(
あ
)
ひし
二人
(
ふたり
)
の
胸
(
むね
)
の
裡
(
うち
)
036
可憐
(
かれん
)
の
乙女
(
をとめ
)
を
振
(
ふり
)
棄
(
す
)
てて
037
人跡
(
じんせき
)
稀
(
まれ
)
な
山径
(
やまみち
)
を
038
只
(
ただ
)
スタスタと
登
(
のぼ
)
り
行
(
ゆ
)
く
039
ハルセイ
山
(
ざん
)
の
峰
(
みね
)
を
吹
(
ふ
)
く
040
嵐
(
あらし
)
に
裾
(
すそ
)
をば
煽
(
あふ
)
られて
041
足
(
あし
)
もトボトボ
頂上
(
ちやうじやう
)
に
042
上
(
のぼ
)
りて
見
(
み
)
れば
三
(
さん
)
人
(
にん
)
の
043
見知
(
みし
)
らぬ
男
(
をとこ
)
が
朧夜
(
おぼろよ
)
の
044
木蔭
(
こかげ
)
にひそみ
何事
(
なにごと
)
か
045
声
(
こゑ
)
高々
(
たかだか
)
と
話
(
はな
)
し
居
(
ゐ
)
る
046
三千彦
(
みちひこ
)
心
(
こころ
)
に
思
(
おも
)
ふやう
047
これぞ
全
(
まつた
)
く
山賊
(
さんぞく
)
の
048
往来
(
ゆきき
)
の
人
(
ひと
)
を
待
(
ま
)
ち
構
(
かま
)
へ
049
宝
(
たから
)
を
奪
(
うば
)
ふその
為
(
ため
)
に
050
よからぬ
事
(
こと
)
の
相談
(
さうだん
)
を
051
なし
居
(
ゐ
)
るならむと
傍
(
かたはら
)
の
052
木蔭
(
こかげ
)
に
腰
(
こし
)
を
打
(
うち
)
卸
(
おろ
)
し
053
様子
(
やうす
)
如何
(
いか
)
にと
聞
(
き
)
き
居
(
ゐ
)
たる。
054
甲
(
かふ
)
『オイ、
055
随分
(
ずいぶん
)
恐
(
おそ
)
ろしかつたぢやないか。
056
今
(
いま
)
通
(
とほ
)
つた
奴
(
やつ
)
は、
0561
一体
(
いつたい
)
ありや
何
(
なん
)
だらうな。
057
何
(
なに
)
程
(
ほど
)
勇気
(
ゆうき
)
を
出
(
だ
)
して
呼
(
よ
)
びとめようと
思
(
おも
)
つても、
058
あまり
先方
(
むかう
)
が
大
(
おほ
)
きな
男
(
をとこ
)
だものだから、
059
怖気
(
おぢけ
)
がついて、
060
自然
(
しぜん
)
に
身体
(
からだ
)
が
慄
(
ふる
)
ひ、
061
どうする
事
(
こと
)
も
出来
(
でき
)
なかつたのだ。
062
あんな
奴
(
やつ
)
に
出会
(
であ
)
ふと
泥
(
どろ
)
さまもサツパリ
駄目
(
だめ
)
だのう』
063
乙
(
おつ
)
『うん、
064
彼奴
(
あいつ
)
ア
何
(
なん
)
でもデーダラボッチに
違
(
ちが
)
ひないぞ。
065
大
(
おほ
)
きな
法螺貝
(
ほらがひ
)
の
様
(
やう
)
な
声
(
こゑ
)
を
出
(
だ
)
しやがつて、
066
四辺
(
あたり
)
の
山
(
やま
)
や
谷
(
たに
)
を
響
(
ひび
)
かして
通
(
とほ
)
りやがつた
時
(
とき
)
の
怖
(
こは
)
さと
云
(
い
)
つたら、
067
体
(
からだ
)
が
縮
(
ちぢ
)
まる
様
(
やう
)
だつた。
068
睾丸
(
きんたま
)
は、
0681
何処
(
どこ
)
かへ
転宅
(
てんたく
)
する。
069
心臓院
(
しんざうゐん
)
の
庵主
(
あんしゆ
)
さまは
荷物
(
にもつ
)
を
引担
(
ひつかた
)
げて
遁走
(
とんそう
)
する。
070
肺臓院
(
はいざうゐん
)
の
半鐘
(
はんしよう
)
は
急
(
きふ
)
を
訴
(
うつた
)
へる。
071
五臓郡
(
ござうぐん
)
六腑村
(
ろくふむら
)
の
百姓
(
ひやくしやう
)
は
鍬
(
くは
)
を
担
(
かた
)
げて
逃
(
に
)
げ
出
(
だ
)
す。
072
本当
(
ほんたう
)
に
小宇宙
(
せううちう
)
の
君子国
(
くんしこく
)
は、
073
地異
(
ちい
)
天変
(
てんぺん
)
の
乱痴気
(
らんちき
)
騒
(
さわ
)
ぎだつたよ。
074
その
結果
(
けつくわ
)
、
075
俺
(
おれ
)
の
顔
(
かほ
)
まで
真青
(
まつさを
)
になつて
了
(
しま
)
つたよ』
076
丙
(
へい
)
『ハヽヽヽヽ、
077
弱
(
よわ
)
い
奴
(
やつ
)
だな。
078
あんな
小
(
ちひ
)
さいデーダラボッチがあるかい。
079
デーダラボッチと
云
(
い
)
へば
大道坊
(
おほだうばう
)
とも
泥足坊
(
でいだるばう
)
とも
別称
(
べつしよう
)
して、
080
スメール
山
(
ざん
)
を
足
(
あし
)
で
蹴
(
け
)
り
倒
(
たふ
)
し、
081
印度
(
いんど
)
の
海
(
うみ
)
を
埋
(
う
)
めようとするやうな
大道者
(
おほだうもの
)
だ。
082
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
の
大
(
おほ
)
道路妨
(
だうろばう
)
とはチツとは
選
(
せん
)
を
異
(
こと
)
にしてゐるが、
083
然
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
今
(
いま
)
通
(
とほ
)
つた
奴
(
やつ
)
は
屹度
(
きつと
)
比丘
(
びく
)
に
違
(
ちが
)
ひないぞ。
084
貴様
(
きさま
)
の
目
(
め
)
はあんまり、
085
びつくりして
目
(
め
)
の
黒玉
(
くろたま
)
が
転宅
(
てんたく
)
して、
086
白目
(
しろめ
)
許
(
ばか
)
りになり、
087
視神経
(
ししんけい
)
の
作用
(
さよう
)
で、
088
さう
大
(
おほ
)
きく
見
(
み
)
えたのだらう。
089
大
(
おほ
)
きいと
云
(
い
)
つても
八
(
はつ
)
尺
(
しやく
)
位
(
くらゐ
)
のものだ。
090
キツト
彼
(
あ
)
れは
軍人
(
ぐんじん
)
上
(
あが
)
りの
比丘
(
びく
)
に
違
(
ちが
)
ひないわ。
091
疑心
(
ぎしん
)
暗鬼
(
あんき
)
を
生
(
しやう
)
ずと
云
(
い
)
つて、
092
恐
(
こは
)
い
恐
(
こは
)
いと
思
(
おも
)
つてるから、
093
そんな
幻映
(
げんえい
)
を
生
(
しやう
)
じたのだ。
094
チツとしつかりせぬと
此
(
この
)
商売
(
しやうばい
)
は
駄目
(
だめ
)
だぞ』
095
乙
(
おつ
)
『
成程
(
なるほど
)
比丘
(
びく
)
かも
知
(
し
)
れぬ。
096
体中
(
からだぢう
)
が
比丘
(
びく
)
々々
(
びく
)
しよつた。
097
ハルセイ
峠
(
たうげ
)
の
二度
(
にど
)
ビツクリと
云
(
い
)
つて、
098
如何
(
いか
)
に
聖人
(
せいじん
)
君子
(
くんし
)
の
泥棒
(
どろばう
)
さまでも、
099
此
(
この
)
峠
(
たうげ
)
丈
(
だ
)
けは
一度
(
いちど
)
や
二度
(
にど
)
はビツクリする
事
(
こと
)
はあると、
100
昔
(
むかし
)
から
定評
(
ていひやう
)
があるのだ。
101
三五教
(
あななひけう
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
が「
胴
(
どう
)
を
据
(
す
)
ゑ、
102
腹帯
(
はらおび
)
をしめて
居
(
を
)
らぬと、
103
ビツクリ
箱
(
ばこ
)
が
開
(
あ
)
くぞよ、
104
今
(
いま
)
にビツクリして
目
(
め
)
まひが
来
(
く
)
るぞよ。
105
フン
延
(
の
)
びる
人民
(
じんみん
)
沢山
(
たつぴつ
)
出来
(
でき
)
るぞよ」と
謡
(
うた
)
ひもつて
通
(
とほ
)
りよつた。
106
チとビツクリに
慣
(
な
)
れて
置
(
お
)
かぬと、
107
吾々
(
われわれ
)
の
商売
(
しやうばい
)
は
真逆
(
まさか
)
の
時
(
とき
)
に、
108
十二分
(
じふにぶん
)
の
活動
(
くわつどう
)
が
出来
(
でき
)
ぬからのう。
109
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
つても
貴様
(
きさま
)
等
(
たち
)
二人
(
ふたり
)
は
新米
(
しんまい
)
だから
仕方
(
しかた
)
がないわ』
110
甲
(
かふ
)
『オイ、
111
何
(
なに
)
は
兎
(
と
)
もあれ、
112
今晩
(
こんばん
)
はテンと
仕事
(
しごと
)
がないぢやないか。
113
折角
(
せつかく
)
香
(
かう
)
ばしさうな
奴
(
やつ
)
が
来
(
き
)
たと
思
(
おも
)
へば、
114
吾
(
われ
)
は
伊太彦
(
いたひこ
)
宣伝使
(
せんでんし
)
なんて、
115
肝玉
(
きもたま
)
の
飛
(
と
)
び
出
(
で
)
る
様
(
やう
)
な
声
(
こゑ
)
で
通
(
とほ
)
つて
了
(
しま
)
ひやがる。
116
今度
(
こんど
)
は
四五
(
しご
)
人
(
にん
)
の
足音
(
あしおと
)
がしたので
一働
(
ひとはたら
)
きやらうと
思
(
おも
)
ひ、
117
捻鉢巻
(
ねぢはちまき
)
で
木蔭
(
こかげ
)
に
潜
(
ひそ
)
んで
居
(
ゐ
)
れば、
118
デーダラボッチのやうな
比丘
(
びく
)
が
通
(
とほ
)
りやがる。
119
本当
(
ほんたう
)
に
怪体
(
けたい
)
が
悪
(
わる
)
いぢやないか。
120
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
のやうな
新米
(
しんまい
)
は
到底
(
たうてい
)
あんな
奴
(
やつ
)
にかかつたら
駄目
(
だめ
)
だ。
121
年
(
とし
)
の
若
(
わか
)
い、
122
足
(
あし
)
の
弱
(
よわ
)
い、
123
女
(
をんな
)
でも
通
(
とほ
)
りよると、
124
都合
(
つがふ
)
が
宜
(
い
)
いのだけどなア』
125
乙
(
おつ
)
『さうだ。
126
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
は
人間
(
にんげん
)
相手
(
あひて
)
の
商売
(
しやうばい
)
だ。
127
人間
(
にんげん
)
は
男
(
をとこ
)
許
(
ばか
)
りぢやない。
128
爺
(
ぢぢ
)
も
婆
(
ばば
)
もある。
129
時
(
とき
)
には
若
(
わか
)
い
女
(
をんな
)
もあるだらう。
130
小口
(
こぐち
)
から
無理
(
むり
)
に
手
(
て
)
を
出
(
だ
)
すと
失敗
(
しくじ
)
るから、
131
マアよい
鳥
(
とり
)
が
来
(
く
)
る
迄
(
まで
)
、
132
ここで
待
(
ま
)
つのだな』
133
甲
(
かふ
)
『
待
(
ま
)
つ
身
(
み
)
につらき
沖
(
おき
)
の
舟
(
ふね
)
134
ほんに
遣
(
や
)
る
瀬
(
せ
)
がないわいな
135
チヽツヽシヤン シヤン シヤン
136
アツハヽヽヽヽ』
137
丙
(
へい
)
『
馬鹿
(
ばか
)
、
138
何
(
なに
)
を
惚
(
とぼ
)
けてゐるのだ。
139
千騎
(
せんき
)
一騎
(
いつき
)
ぢやないか』
140
甲
(
かふ
)
『
何
(
なに
)
、
141
歌
(
うた
)
でも
謡
(
うた
)
つて
肝玉
(
きもだま
)
を
錬
(
ね
)
つて
大
(
おほ
)
きくしてるのだ。
142
英雄
(
えいゆう
)
閑日月
(
かんじつげつ
)
あり、
143
綽々
(
しやくしやく
)
として
余裕
(
よゆう
)
を
存
(
そん
)
する
事
(
こと
)
大空
(
おほぞら
)
の
如
(
ごと
)
しだ』
144
乙
(
おつ
)
『ヘン、
145
よう
仰有
(
おつしや
)
りますわい。
146
鮟鱇
(
あんこう
)
の
様
(
やう
)
な
口
(
くち
)
から
阿呆
(
あはう
)
らしい、
147
そんな
歌
(
うた
)
がよく
謡
(
うた
)
へたものだ。
148
貴様
(
きさま
)
の
口
(
くち
)
つたら
丸
(
まる
)
で
河獺
(
とます
)
の
様
(
やう
)
だぞ。
149
貴様
(
きさま
)
が
飯
(
めし
)
を
喰
(
くら
)
ふ
時
(
とき
)
は、
150
狐
(
きつね
)
のやうに
口
(
くち
)
を
尖
(
とが
)
らし、
151
鼻
(
はな
)
が
曲
(
まが
)
り、
152
顔
(
かほ
)
一面
(
いちめん
)
が
丸
(
まる
)
で
馬
(
うま
)
のやうに
躍動
(
やくどう
)
するんだからな。
153
そして
頭
(
あたま
)
許
(
ばか
)
り
無茶
(
むちや
)
苦茶
(
くちや
)
に
動
(
うご
)
かしやがつて、
154
額口
(
ひたひぐち
)
から
上
(
うへ
)
が
縦
(
たて
)
に
振動
(
ふりうご
)
くと
云
(
い
)
ふ
怪体
(
けたい
)
な
御
(
ご
)
面相
(
めんさう
)
だから、
155
泥棒
(
どろばう
)
の
嚇
(
おど
)
し
文句
(
もんく
)
もサツパリ
駄目
(
だめ
)
だ。
156
驚
(
おどろ
)
く
処
(
どころ
)
か
向
(
むか
)
ふの
方
(
はう
)
から
笑
(
わら
)
つてかかるのだもの、
157
飯
(
めし
)
食
(
く
)
ふ
時
(
とき
)
ばかりか、
158
一言
(
ひとくち
)
喋
(
しやべ
)
つても
顔中
(
かほぢう
)
が
縦横
(
たてよこ
)
十文字
(
じふもんじ
)
に
躍動
(
やくどう
)
すると
云
(
い
)
ふ、
159
珍
(
ちん
)
な
代物
(
しろもの
)
だからサツパリ
駄目
(
だめ
)
だい。
160
一層
(
いつそう
)
の
事
(
こと
)
、
161
貴様
(
きさま
)
は
泥棒
(
どろばう
)
を
廃
(
よ
)
して、
162
ハルナの
都
(
みやこ
)
の
裏町辺
(
うらまちへん
)
で
小屋者
(
こやもの
)
となり、
163
顔芸
(
かほげい
)
でもしたら、
164
人気
(
にんき
)
を
呼
(
よ
)
ぶかも
知
(
し
)
れないぞ。
165
ハヽヽヽヽ』
166
甲
(
かふ
)
『コリヤ、
167
こんな
山
(
やま
)
の
上
(
うへ
)
で
人
(
ひと
)
の
顔
(
かほ
)
の
棚卸
(
たなおろ
)
しばかりしやがつて、
168
あまり
馬鹿
(
ばか
)
にするな。
169
之
(
これ
)
でも
泥棒
(
どろばう
)
さまとして、
170
相手
(
あひて
)
によつては
睨
(
にら
)
みが
利
(
き
)
くのだ。
171
マア
俺
(
おれ
)
の
過去
(
くわこ
)
は
咎
(
とが
)
めず、
172
将来
(
しやうらい
)
の
活動
(
くわつどう
)
を
見
(
み
)
てをれ。
173
「あんな
者
(
もの
)
がこんな
者
(
もの
)
であつたか」と
申
(
まを
)
して、
174
貴様
(
きさま
)
等
(
たち
)
がビツクリするやうな
大事業
(
だいじげふ
)
をして
見
(
み
)
せるわ』
175
乙
(
おつ
)
『ヘン、
176
御
(
お
)
手並
(
てなみ
)
拝見
(
はいけん
)
した
上
(
うへ
)
で、
177
その
業託
(
ごふたく
)
は
聞
(
き
)
かして
貰
(
もら
)
はうかい』
178
三千彦
(
みちひこ
)
は
三
(
さん
)
人
(
にん
)
の
話
(
はなし
)
を、
179
木蔭
(
こかげ
)
に
潜
(
ひそ
)
んで
面白
(
おもしろ
)
がつて
聞
(
き
)
いてゐた。
180
三千彦
(
みちひこ
)
(
独言
(
ひとりごと
)
)『
然
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
らブラヷーダ
姫
(
ひめ
)
は
後
(
あと
)
からここを
上
(
のぼ
)
つて
来
(
く
)
るに
違
(
ちが
)
ひない。
181
屹度
(
きつと
)
此奴
(
こいつ
)
等
(
ら
)
三
(
さん
)
人
(
にん
)
の
為
(
ため
)
に
裸体
(
はだか
)
にしられ、
182
凌辱
(
りようじよく
)
を
受
(
う
)
けるかも
知
(
し
)
れないから、
183
ブラヷーダさまが
無事
(
ぶじ
)
、
184
ここを
通過
(
つうくわ
)
する
迄
(
まで
)
、
185
此
(
この
)
木蔭
(
こかげ
)
に
潜
(
ひそ
)
んで
待
(
ま
)
つて
居
(
を
)
らう。
186
もし
事
(
こと
)
急
(
きふ
)
なりと
見
(
み
)
れば、
187
デーダラボッチだと
云
(
い
)
つて
嚇
(
おど
)
かして
散
(
ち
)
らしてやれば
宜
(
よ
)
いのだ。
188
うん、
189
さうださうだ』
190
と
一人
(
ひとり
)
頷
(
うなづ
)
き
乍
(
なが
)
ら
息
(
いき
)
をこらして
控
(
ひか
)
へてゐる。
191
折
(
をり
)
から
細
(
ほそ
)
いやさしい
女
(
をんな
)
の
宣伝歌
(
せんでんか
)
が
聞
(
きこ
)
えて
来
(
き
)
た。
192
泥棒
(
どろぼう
)
連
(
れん
)
は
耳
(
みみ
)
を
澄
(
す
)
まして
無言
(
むごん
)
の
儘
(
まま
)
、
193
様子
(
やうす
)
を
窺
(
うかが
)
つてゐる。
194
(
大正一二・七・一七
旧六・四
於祥雲閣
北村隆光
録)
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