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第65巻(辰の巻)
序文
総説
第1篇 盗風賊雨
01 感謝組
〔1657〕
02 古峽の山
〔1658〕
03 岩侠
〔1659〕
04 不聞銃
〔1660〕
05 独許貧
〔1661〕
06 噴火口
〔1662〕
07 反鱗
〔1663〕
第2篇 地異転変
08 異心泥信
〔1664〕
09 劇流
〔1665〕
10 赤酒の声
〔1666〕
11 大笑裡
〔1667〕
12 天恵
〔1668〕
第3篇 虎熊惨状
13 隔世談
〔1669〕
14 山川動乱
〔1670〕
15 饅頭塚
〔1671〕
16 泥足坊
〔1672〕
17 山颪
〔1673〕
第4篇 神仙魔境
18 白骨堂
〔1674〕
19 谿の途
〔1675〕
20 熊鷹
〔1676〕
21 仙聖郷
〔1677〕
22 均霑
〔1678〕
23 義侠
〔1679〕
第5篇 讃歌応山
24 危母玉
〔1680〕
25 道歌
〔1681〕
26 七福神
〔1682〕
余白歌
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第一七章
山颪
(
やまおろし
)
〔一六七三〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第65巻 山河草木 辰の巻
篇:
第3篇 虎熊惨状
よみ(新仮名遣い):
とらくまさんじょう
章:
第17章 山颪
よみ(新仮名遣い):
やまおろし
通し章番号:
1673
口述日:
1923(大正12)年07月17日(旧06月4日)
口述場所:
祥雲閣
筆録者:
北村隆光
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1926(大正15)年4月14日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
スーラヤの湖(スダルマ湖の別名)
データ凡例:
データ最終更新日:
2018-07-07 22:29:11
OBC :
rm6517
愛善世界社版:
191頁
八幡書店版:
第11輯 678頁
修補版:
校定版:
199頁
普及版:
87頁
初版:
ページ備考:
001
ブラヷーダ
姫
(
ひめ
)
『
神
(
かみ
)
が
表
(
おもて
)
に
現
(
あら
)
はれて
002
善
(
ぜん
)
と
悪
(
あく
)
とを
立別
(
たてわ
)
ける
003
此
(
この
)
世
(
よ
)
を
造
(
つく
)
りし
神直日
(
かむなほひ
)
004
心
(
こころ
)
も
広
(
ひろ
)
き
大直日
(
おほなほひ
)
005
只
(
ただ
)
何事
(
なにごと
)
も
人
(
ひと
)
の
世
(
よ
)
は
006
直日
(
なほひ
)
に
見直
(
みなほ
)
し
聞直
(
ききなほ
)
し
007
詔直
(
のりなほ
)
し
行
(
ゆ
)
く
神
(
かみ
)
の
道
(
みち
)
008
スダルマ
湖
(
うみ
)
を
打
(
うち
)
渡
(
わた
)
り
009
山野
(
やまの
)
を
越
(
こ
)
えて
漸
(
やうや
)
くに
010
ハルセイ
山
(
ざん
)
の
峠
(
たうげ
)
をば
011
半
(
なか
)
ば
登
(
のぼ
)
れる
折
(
をり
)
もあれ
012
行
(
ゆ
)
き
疲
(
つか
)
れたる
足弱
(
あしよわ
)
の
013
忽
(
たちま
)
ち
大地
(
だいち
)
に
打
(
うち
)
倒
(
たふ
)
れ
014
進退
(
しんたい
)
ここに
谷
(
きは
)
まりて
015
息
(
いき
)
たえだえになりし
時
(
とき
)
016
仁慈
(
じんじ
)
無限
(
むげん
)
の
大神
(
おほかみ
)
の
017
道
(
みち
)
の
司
(
つかさ
)
の
三千彦
(
みちひこ
)
が
018
現
(
あら
)
はれまして
危難
(
きなん
)
をば
019
救
(
すく
)
はせ
給
(
たま
)
ひし
嬉
(
うれ
)
しさよ
020
その
真心
(
まごころ
)
にほだされて
021
忽
(
たちま
)
ち
眼
(
まなこ
)
相
(
あひ
)
晦
(
くら
)
み
022
燃
(
も
)
ゆる
情火
(
じやうくわ
)
の
消
(
け
)
し
難
(
がた
)
く
023
已
(
すで
)
に
危
(
あやふ
)
く
貞操
(
ていさう
)
の
024
破
(
やぶ
)
れむとするその
時
(
とき
)
に
025
天教山
(
てんけうざん
)
にあれませる
026
木花姫
(
このはなひめ
)
の
御
(
おん
)
化身
(
けしん
)
027
デビスの
姫
(
ひめ
)
と
現
(
あら
)
はれて
028
深
(
ふか
)
き
教
(
をしへ
)
を
宣
(
の
)
り
給
(
たま
)
ひ
029
ここに
二人
(
ふたり
)
は
夢
(
ゆめ
)
覚
(
さ
)
めて
030
惜
(
を
)
しき
袂
(
たもと
)
を
分
(
わか
)
ちつつ
031
男
(
をとこ
)
の
足
(
あし
)
のいと
早
(
はや
)
く
032
三千彦
(
みちひこ
)
司
(
つかさ
)
は
出
(
い
)
でましぬ
033
妾
(
わらは
)
は
後
(
あと
)
に
只
(
ただ
)
一人
(
ひとり
)
034
踏
(
ふ
)
みも
習
(
なら
)
はぬ
旅
(
たび
)
の
空
(
そら
)
035
険
(
けは
)
しき
阪
(
さか
)
をやうやうに
036
攀
(
よぢ
)
登
(
のぼ
)
り
行
(
ゆ
)
く
苦
(
くる
)
しさよ
037
三五教
(
あななひけう
)
の
大御神
(
おほみかみ
)
038
繊弱
(
かよわ
)
き
妾
(
わらは
)
を
憐
(
あは
)
れみて
039
一日
(
ひとひ
)
も
早
(
はや
)
く
吾
(
わが
)
夫
(
つま
)
の
040
御顔
(
みかほ
)
を
拝
(
をが
)
ませ
賜
(
たま
)
へかし
041
御空
(
みそら
)
は
高
(
たか
)
く
限
(
かぎ
)
りなし
042
大地
(
だいち
)
は
広
(
ひろ
)
く
極
(
きは
)
みなし
043
これの
天地
(
てんち
)
の
人草
(
ひとぐさ
)
の
044
数
(
かず
)
限
(
かぎ
)
りなく
住
(
す
)
むとても
045
妾
(
わらは
)
が
身魂
(
みたま
)
を
生
(
い
)
かしまし
046
慰
(
なぐさ
)
め
給
(
たま
)
ふ
生神
(
いきがみ
)
は
047
たつた
一人
(
ひとり
)
の
伊太彦
(
いたひこ
)
ぞ
048
あゝ
惟神
(
かむながら
)
々々
(
かむながら
)
049
守
(
まも
)
らせ
給
(
たま
)
へ
今日
(
けふ
)
の
旅
(
たび
)
050
ハルセイ
山
(
ざん
)
の
阪道
(
さかみち
)
は
051
昼
(
ひる
)
と
夜
(
よる
)
との
区別
(
わかち
)
なく
052
醜
(
しこ
)
の
盗人
(
ぬすびと
)
出没
(
しゆつぼつ
)
し
053
旅人
(
りよにん
)
を
掠
(
かす
)
めなやますと
054
聞
(
き
)
いたる
時
(
とき
)
の
驚
(
おどろ
)
きは
055
小
(
ちひ
)
さき
女
(
をんな
)
の
腸
(
はらわた
)
に
056
驚異
(
きやうい
)
の
波
(
なみ
)
を
打
(
う
)
たせけり
057
さは
去
(
さ
)
り
乍
(
なが
)
ら
吾々
(
われわれ
)
は
058
天地
(
てんち
)
を
造
(
つく
)
り
給
(
たま
)
ひたる
059
絶対
(
ぜつたい
)
無限
(
むげん
)
の
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
060
大道
(
おほぢ
)
を
進
(
すす
)
み
行
(
ゆ
)
くものぞ
061
誠心
(
まことごころ
)
を
立
(
たて
)
貫
(
ぬ
)
いて
062
正
(
ただ
)
しき
道
(
みち
)
を
進
(
すす
)
むなら
063
如何
(
いか
)
なる
仇
(
あだ
)
も
枉神
(
まがかみ
)
も
064
いかで
一指
(
いつし
)
を
染
(
そ
)
め
得
(
え
)
むや
065
あゝ
惟神
(
かむながら
)
々々
(
かむながら
)
066
御霊
(
みたま
)
の
恩頼
(
ふゆ
)
を
願
(
ね
)
ぎ
奉
(
まつ
)
る』
067
ブラヷーダは
峠
(
たうげ
)
の
頂
(
いただ
)
きに
漸
(
やうや
)
く
登
(
のぼ
)
りつめ、
068
朧月夜
(
おぼろづきよ
)
ながら
眼下
(
がんか
)
に
並立
(
へいりつ
)
する
連峯
(
れんぽう
)
の
頂
(
いただき
)
の
彼方
(
かなた
)
此方
(
こなた
)
に、
069
薄
(
うす
)
い
霧
(
きり
)
の
上
(
うへ
)
から
浮
(
う
)
いて
現
(
あら
)
はれてゐる
光景
(
くわうけい
)
を
眺
(
なが
)
め、
070
ブラヷーダ
姫
(
ひめ
)
『ハルセイの
峠
(
たうげ
)
に
立
(
た
)
ちて
眺
(
なが
)
むれば
071
四方
(
よも
)
の
山々
(
やまやま
)
真下
(
ました
)
に
見
(
み
)
えける。
072
霧
(
きり
)
の
海
(
うみ
)
に
浮
(
うか
)
べる
山
(
やま
)
の
頂
(
いただ
)
きは
073
神
(
かみ
)
の
造
(
つく
)
りし
家
(
いへ
)
かとぞ
思
(
おも
)
ふ。
074
三千彦
(
みちひこ
)
の
神
(
かみ
)
の
司
(
つかさ
)
に
助
(
たす
)
けられ
075
漸
(
やうや
)
く
頂上
(
そら
)
に
着
(
つ
)
きにけるかな。
076
大空
(
おほそら
)
に
月
(
つき
)
はませども
村肝
(
むらきも
)
の
077
心
(
こころ
)
にかかる
雲
(
くも
)
にかくれつ。
078
伊太彦
(
いたひこ
)
の
吾
(
わが
)
背
(
せ
)
の
君
(
きみ
)
は
如何
(
いか
)
にして
079
これの
山路
(
やまぢ
)
を
越
(
こ
)
えましにけむ。
080
治道
(
ちだう
)
居士
(
こじ
)
吹
(
ふ
)
き
立
(
た
)
て
給
(
たま
)
ふ
法螺
(
ほら
)
の
音
(
ね
)
も
081
聞
(
きこ
)
えずなりぬ
遠
(
とほ
)
く
行
(
ゆ
)
きけむ。
082
淋
(
さび
)
しさは
吾
(
わが
)
身
(
み
)
に
迫
(
せま
)
り
来
(
きた
)
るなり
083
人影
(
ひとかげ
)
もなき
山
(
やま
)
の
尾
(
を
)
の
上
(
へ
)
は。
084
天地
(
あめつち
)
の
神
(
かみ
)
の
恵
(
めぐみ
)
に
包
(
つつ
)
まれし
085
吾
(
わが
)
身
(
み
)
なれども
心
(
こころ
)
淋
(
さび
)
しき。
086
いざさらば
暫
(
しば
)
し
芝生
(
しばふ
)
にやすらひて
087
駒
(
こま
)
立
(
た
)
て
直
(
なほ
)
し
下
(
くだ
)
り
進
(
すす
)
まむ』
088
と
疲
(
つか
)
れた
足
(
あし
)
を
休
(
やす
)
むべく
芝生
(
しばふ
)
の
上
(
うへ
)
に
腰
(
こし
)
打
(
うち
)
掛
(
か
)
け、
089
天
(
あま
)
の
数歌
(
かずうた
)
を
歌
(
うた
)
ひ
合掌
(
がつしやう
)
して
居
(
ゐ
)
る。
090
四辺
(
あたり
)
の
木蔭
(
こかげ
)
からバラバラバラと
現
(
あら
)
はれし
三四
(
さんし
)
の
泥棒
(
どろばう
)
、
091
ブラヷーダの
前
(
まへ
)
に
立
(
たち
)
塞
(
ふさ
)
がり、
092
甲
(
かふ
)
は
顔中
(
かほぢう
)
を
縦横
(
たてよこ
)
十文字
(
じふもんじ
)
に
振
(
ふ
)
り
動
(
うご
)
かせ
乍
(
なが
)
ら、
093
甲
(
かふ
)
(
卑怯
(
ひけふ
)
な
声
(
こゑ
)
)『コヽヽヽコレ、
094
女
(
をんな
)
のタヽヽ
旅人
(
たびびと
)
、
095
ドヽヽヽどこへ
行
(
ゆ
)
くのだ』
096
ブラヷ『ハイ
妾
(
わらは
)
は
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
御用
(
ごよう
)
でエルサレムへ
参拝
(
さんぱい
)
を
致
(
いた
)
し、
097
月
(
つき
)
の
国
(
くに
)
の
都
(
みやこ
)
へ
進
(
すす
)
む
女
(
をんな
)
で
厶
(
ござ
)
います』
098
甲
(
かふ
)
『ナヽヽヽ
何
(
なん
)
だ。
099
月
(
つき
)
の
国
(
くに
)
へ
行
(
ゆ
)
く? ヘン、
100
小女
(
こめ
)
ツちよの
態
(
ざま
)
をして、
101
只
(
ただ
)
一人
(
ひとり
)
、
102
そんな
処
(
ところ
)
へ
無事
(
ぶじ
)
行
(
ゆ
)
けると
思
(
おも
)
ふか。
103
コレヤ、
104
おれをドヽヽどなたと
心得
(
こころえ
)
てる。
105
天下
(
てんか
)
晴
(
は
)
れてのデーダラボッチ……ウント ドツコイ、
106
大
(
おほ
)
道路妨
(
だうろばう
)
様
(
さま
)
だぞ』
107
折
(
をり
)
から
中秋
(
ちうしう
)
の
月
(
つき
)
は
雲
(
くも
)
を
押
(
お
)
し
分
(
わ
)
け
下界
(
げかい
)
を
照
(
て
)
らし
給
(
たま
)
ふと
共
(
とも
)
に、
108
珍妙
(
ちんめう
)
な
甲
(
かふ
)
の
顔
(
かほ
)
はパツと
姫
(
ひめ
)
の
前
(
まへ
)
に
展開
(
てんかい
)
した。
109
ブラヷーダは
可笑
(
をか
)
しさに
堪
(
こら
)
へきれず、
110
『プツフヽヽヽ』と
吹
(
ふ
)
き
出
(
だ
)
した。
111
甲
(
かふ
)
『オイ、
112
小女
(
こめ
)
ツちよ、
113
何
(
なに
)
が
可笑
(
をか
)
しいのだい』
114
ブラヷーダは
到頭
(
たうとう
)
悪胴
(
わるどう
)
を
据
(
す
)
ゑて
了
(
しま
)
つた。
115
ブラヷ『ホヽヽヽヽ、
116
あのまア、
117
馬
(
うま
)
とも
猿
(
さる
)
とも
化物
(
ばけもの
)
とも
分
(
わか
)
らぬやうな
顔
(
かほ
)
わいのう。
118
ハルナの
都
(
みやこ
)
へでも
捕獲
(
ほくわく
)
して
持
(
も
)
つて
行
(
い
)
つて、
119
動物園
(
どうぶつゑん
)
にでも
売
(
う
)
つたら
金儲
(
かねまう
)
けが
出来
(
でき
)
るだらう。
120
あゝ
良
(
い
)
いものが
見付
(
みつ
)
かつた。
121
コラ
妖怪
(
えうくわい
)
、
122
妾
(
わらは
)
が
今
(
いま
)
に
生捕
(
いけど
)
つてやるから
神妙
(
しんめう
)
に
手
(
て
)
をまはしたが
宜
(
よ
)
からうぞや』
123
甲
(
かふ
)
『オイ、
124
キヨキヨキヨ
兄弟
(
きやうだい
)
、
125
此奴
(
こいつ
)
ア
仲々
(
なかなか
)
度胸
(
どきよう
)
の
太
(
ふと
)
い
女
(
をんな
)
だぞ。
126
バヽヽヽ
化物
(
ばけもの
)
ではあるまいかな』
127
乙
(
おつ
)
『コーリヤ、
128
ヤイ、
129
女
(
をんな
)
の
分際
(
ぶんざい
)
として、
130
七
(
しち
)
尺
(
しやく
)
の
男子
(
だんし
)
に
向
(
むか
)
つて
暴言
(
ばうげん
)
を
吐
(
は
)
くとは
何事
(
なにごと
)
だ。
131
此
(
この
)
方
(
はう
)
は
泥棒
(
どろばう
)
様
(
さま
)
の
親分
(
おやぶん
)
だ。
132
綺麗
(
きれい
)
サツパリと
持物
(
もちもの
)
一切
(
いつさい
)
を
投
(
なげ
)
出
(
だ
)
し
真裸
(
まつぱだか
)
となれ。
133
四
(
し
)
の
五
(
ご
)
と
申
(
まを
)
して
六
(
ろく
)
でもない
事
(
こと
)
を
七
(
なら
)
べるに
於
(
おい
)
ては
此
(
この
)
方
(
はう
)
の
鉄腕
(
てつわん
)
によつて
八々
(
ばちばち
)
と
張
(
は
)
り
倒
(
たふ
)
し、
134
九々
(
くく
)
首
(
くび
)
引
(
ひき
)
抜
(
ぬ
)
いて、
135
生命
(
いのち
)
を
十々
(
とと
)
取
(
と
)
つて
了
(
しま
)
ふぞ。
136
さア
最早
(
もはや
)
百年目
(
ひやくねんめ
)
だ。
137
千万言
(
せんまんげん
)
を
費
(
つひや
)
して、
138
弁解
(
べんかい
)
しても
聞
(
き
)
く
耳
(
みみ
)
もたぬ
此
(
この
)
方
(
はう
)
、
139
素直
(
すなほ
)
に
往生
(
わうじやう
)
致
(
いた
)
すが
宜
(
よ
)
からう。
140
さすれば
貴様
(
きさま
)
の
親譲
(
おやゆづ
)
りのサック
丈
(
だけ
)
は
助
(
たす
)
けてやらう』
141
ブラヷ『ホヽヽヽヽ、
142
アタ
甲斐性
(
かひしやう
)
のない。
143
荒男
(
あらをとこ
)
が
繊弱
(
かよわ
)
き
女
(
をんな
)
の
一人
(
ひとり
)
を
捉
(
つか
)
まへて、
144
嚇
(
おど
)
しの
文句
(
もんく
)
を
並
(
なら
)
べるとは、
145
話
(
はなし
)
にならぬ
腰抜
(
こしぬ
)
けだな。
146
お
前
(
まへ
)
も
定
(
さだ
)
めて
両親
(
りやうしん
)
があるだらう。
147
こんな
厄雑
(
やくざ
)
ものを
生
(
う
)
んだ
親
(
おや
)
の
顔
(
かほ
)
が
見
(
み
)
たいものだわ。
148
あのまア、
149
情
(
なさけ
)
ない
顔
(
かほ
)
わいのう。
150
空威張
(
からゐば
)
りばつかりして
体中
(
からだぢう
)
が
慄
(
ふる
)
ふてるぢやないか』
151
甲
(
かふ
)
『ナヽヽヽ
何分
(
なにぶん
)
商売
(
しやうばい
)
に
慣
(
な
)
れぬ
新米
(
しんまい
)
だから、
152
チヽヽヽ
些
(
ちつ
)
とは
慄
(
ふる
)
ふのも
当然
(
たうぜん
)
だ。
153
お
前
(
まへ
)
だつて
初
(
はじ
)
めて
男
(
をとこ
)
に
接
(
せつ
)
した
時
(
とき
)
は
慄
(
ふる
)
ふだらう。
154
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
つても
今
(
いま
)
が
初陣
(
うひぢん
)
だから、
155
さう
見
(
み
)
さげたものぢやないわい』
156
丙
(
へい
)
『コリヤ
両人
(
りやうにん
)
、
157
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
ふ……
貴様
(
きさま
)
は
腰抜
(
こしぬ
)
けだ。
158
さア
之
(
これ
)
から
俺
(
おれ
)
が
一
(
ひと
)
つ
取
(
と
)
ツ
詰
(
つ
)
めてやらう。
159
俺
(
おれ
)
の
遣
(
や
)
り
口
(
くち
)
を
貴様
(
きさま
)
見
(
み
)
てゐるのだぞ』
160
と
云
(
い
)
ふより
早
(
はや
)
く
鉄拳
(
てつけん
)
を
固
(
かた
)
めて、
161
女
(
をんな
)
の
横面
(
よこつら
)
をポカツと
殴
(
なぐ
)
りつけようとした。
162
ブラヷーダは
手早
(
てばや
)
く
身
(
み
)
を
竦
(
すく
)
めた
途端
(
とたん
)
に
足
(
あし
)
をさらつた。
163
何条
(
なんでう
)
以
(
もつ
)
て
堪
(
たま
)
るべき、
164
二
(
ふた
)
つ
三
(
み
)
つ
筋斗
(
もんどり
)
打
(
う
)
つて、
165
急勾配
(
きふこうばい
)
の
坂道
(
さかみち
)
へ
四五間
(
しごけん
)
斗
(
ばか
)
り
転
(
ころ
)
げ
込
(
こ
)
み、
166
額
(
ひたひ
)
をしたたか
打
(
う
)
つて、
167
ウンと
云
(
い
)
つたきり、
168
平太
(
へた
)
つて
了
(
しま
)
つた。
169
ブラヷーダは
此
(
この
)
態
(
てい
)
を
見
(
み
)
て
勇気
(
ゆうき
)
頓
(
とみ
)
に
加
(
くは
)
はり、
170
ブラヷ『ホヽヽヽヽ、
171
泥棒
(
どろばう
)
の
親分
(
おやぶん
)
か
知
(
し
)
らぬが、
172
随分
(
ずいぶん
)
弱
(
よわ
)
いものだな。
173
オイ、
174
そこな
小童
(
こわつぱ
)
ども、
175
お
前
(
まへ
)
達
(
たち
)
も
一
(
ひと
)
つ
抓
(
つま
)
んで
放
(
ほ
)
つてやらうか』
176
甲
(
かふ
)
『ナヽヽヽ
何
(
なに
)
を
吐
(
ぬか
)
すのだい。
177
こんな
所
(
ところ
)
で
猫
(
ねこ
)
かなんぞの
様
(
やう
)
に、
178
抓
(
つま
)
んで
放
(
ほ
)
られて
堪
(
たま
)
るかい。
179
オイ、
180
手
(
て
)
をつないでくれ。
181
さうすりや、
182
何程
(
なんぼ
)
強
(
つよ
)
い
女
(
をんな
)
でも、
183
滅多
(
めつた
)
に
投
(
な
)
げる
気遣
(
きづか
)
ひはないから』
184
乙
(
おつ
)
『ソヽヽヽそれよりも
逃
(
に
)
げるが
勝
(
かち
)
だ』
185
甲
(
かふ
)
『ニヽヽヽ
逃
(
に
)
げると
云
(
い
)
つたつて、
186
交通
(
かうつう
)
機関
(
きくわん
)
が
命令
(
めいれい
)
を
聞
(
き
)
かぬぢやないか』
187
と
体
(
からだ
)
をガタガタ、
188
足
(
あし
)
をワナワナ、
189
唇
(
くちびる
)
を
紫色
(
むらさきいろ
)
に
染
(
そめ
)
て
戦
(
をのの
)
いてゐる。
190
ブラヷ『ホヽヽヽ、
191
泥棒
(
どろばう
)
と
云
(
い
)
ふものは、
192
もう
些
(
ちつ
)
と
気
(
き
)
の
利
(
き
)
いたものかと
思
(
おも
)
つたら、
193
弱
(
よわ
)
いものだな。
194
それもさうだらう。
195
なすべき
事業
(
じげふ
)
が
沢山
(
たくさん
)
あるのに、
196
何一
(
なにひと
)
つようせぬ
無器用
(
ぶきよう
)
な、
197
甲斐性
(
かひしやう
)
のない
代物
(
しろもの
)
だから、
198
働
(
はたら
)
かずに
人
(
ひと
)
の
物
(
もの
)
を
掠
(
かす
)
めて
露命
(
ろめい
)
を
繋
(
つな
)
がうと
云
(
い
)
ふ
奴
(
やつ
)
だもの、
199
気骨
(
きこつ
)
のあるものは、
200
有
(
あ
)
り
相
(
さう
)
な
道理
(
だうり
)
がない。
201
扨
(
さて
)
も
扨
(
さて
)
も
可憐
(
かわい
)
さうなものだな。
202
こりや
二人
(
ふたり
)
の
泥棒
(
どろばう
)
、
203
お
前
(
まへ
)
も
一
(
ひと
)
つ
改心
(
かいしん
)
せい……。
2031
と
云
(
い
)
つても
出来
(
でき
)
まいが、
204
せめて
泥棒
(
どろばう
)
だけは
止
(
や
)
めたがよからうぞ。
205
こんな
事
(
こと
)
を
致
(
いた
)
して
居
(
ゐ
)
ると、
206
終
(
しま
)
ひには
生命
(
いのち
)
もなくなつて
了
(
しま
)
ふぞや』
207
乙
(
おつ
)
『ハイ、
208
もうこれ
限
(
ぎ
)
りで
泥棒
(
どろばう
)
はやめます。
209
何卒
(
どうぞ
)
御
(
ご
)
機嫌
(
きげん
)
よう、
210
ここをお
通
(
とほ
)
り
下
(
くだ
)
さいませ』
211
ブラヷーダ
姫
(
ひめ
)
『
初
(
はじ
)
めての
旅路
(
たびぢ
)
に
出
(
い
)
でて
初
(
はじめ
)
ての
212
小盗人
(
こぬすびと
)
等
(
ら
)
に
初
(
はじ
)
めて
遭
(
あ
)
ひぬ。
213
いざさらば
小盗人
(
こぬすびと
)
達
(
たち
)
別
(
わか
)
れなむ
214
心
(
こころ
)
改
(
あらた
)
め
善
(
ぜん
)
にかへれよ』
215
甲
(
かふ
)
乙
(
おつ
)
一度
(
いちど
)
に、
216
『
盗
(
ぬす
)
みする
心
(
こころ
)
はもとより
無
(
な
)
けれども
217
命
(
いのち
)
惜
(
をし
)
さに
迷
(
まよ
)
ひぬるかな。
218
今
(
いま
)
よりは
仮令
(
たとへ
)
死
(
し
)
すとも
盗人
(
ぬすびと
)
は
219
孫
(
まご
)
の
代
(
だい
)
まで
致
(
いた
)
しますまい』
220
傍
(
かたはら
)
の
密樹
(
みつじゆ
)
の
蔭
(
かげ
)
より
四辺
(
あたり
)
に
響
(
ひび
)
く
男
(
をとこ
)
の
声
(
こゑ
)
、
221
『ブラヷーダ
姫
(
ひめ
)
の
命
(
みこと
)
よ
逸早
(
いちはや
)
く
222
下
(
くだ
)
り
行
(
ゆ
)
きませ
阪
(
さか
)
三千彦
(
みちひこ
)
を』
223
ブラヷーダ
姫
(
ひめ
)
『
音
(
おと
)
に
聞
(
き
)
く
険
(
けは
)
しき
峠
(
たうげ
)
の
坂
(
さか
)
三千
(
みち
)
を
224
彦々
(
ひこひこ
)
として
下
(
くだ
)
り
行
(
ゆ
)
かまし』
225
と
答
(
こた
)
へ
乍
(
なが
)
ら
226
又
(
また
)
もや
宣伝歌
(
せんでんか
)
を
謡
(
うた
)
ひつつ
次第
(
しだい
)
々々
(
しだい
)
に
遠
(
とほ
)
ざかり
行
(
ゆ
)
く。
227
三
(
さん
)
人
(
にん
)
の
泥棒
(
どろばう
)
は
転
(
こ
)
けつ
輾
(
まろ
)
びつ、
228
林
(
はやし
)
の
中
(
なか
)
に
姿
(
すがた
)
を
隠
(
かく
)
した。
229
三千
(
みち
)
『アハヽヽヽヽ、
230
悪
(
あく
)
と
云
(
い
)
ふものは、
231
正義
(
せいぎ
)
の
前
(
まへ
)
には
弱
(
よわ
)
いものだな』
232
(
大正一二・七・一七
旧六・四
於祥雲閣
北村隆光
録)
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