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第65巻(辰の巻)
序文
総説
第1篇 盗風賊雨
01 感謝組
〔1657〕
02 古峽の山
〔1658〕
03 岩侠
〔1659〕
04 不聞銃
〔1660〕
05 独許貧
〔1661〕
06 噴火口
〔1662〕
07 反鱗
〔1663〕
第2篇 地異転変
08 異心泥信
〔1664〕
09 劇流
〔1665〕
10 赤酒の声
〔1666〕
11 大笑裡
〔1667〕
12 天恵
〔1668〕
第3篇 虎熊惨状
13 隔世談
〔1669〕
14 山川動乱
〔1670〕
15 饅頭塚
〔1671〕
16 泥足坊
〔1672〕
17 山颪
〔1673〕
第4篇 神仙魔境
18 白骨堂
〔1674〕
19 谿の途
〔1675〕
20 熊鷹
〔1676〕
21 仙聖郷
〔1677〕
22 均霑
〔1678〕
23 義侠
〔1679〕
第5篇 讃歌応山
24 危母玉
〔1680〕
25 道歌
〔1681〕
26 七福神
〔1682〕
余白歌
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第一五章
饅頭塚
(
まんぢゆうづか
)
〔一六七一〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第65巻 山河草木 辰の巻
篇:
第3篇 虎熊惨状
よみ(新仮名遣い):
とらくまさんじょう
章:
第15章 饅頭塚
よみ(新仮名遣い):
まんじゅうづか
通し章番号:
1671
口述日:
1923(大正12)年07月16日(旧06月3日)
口述場所:
祥雲閣
筆録者:
加藤明子
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1926(大正15)年4月14日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
主な登場人物
[?]
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
OBC :
rm6515
愛善世界社版:
173頁
八幡書店版:
第11輯 672頁
修補版:
校定版:
181頁
普及版:
80頁
初版:
ページ備考:
001
ブラヷーダ
姫
(
ひめ
)
『
吾
(
わが
)
背
(
せ
)
の
君
(
きみ
)
に
従
(
したが
)
ひて
002
父
(
ちち
)
と
母
(
はは
)
とに
生
(
いき
)
別
(
わか
)
れ
003
スーラヤ
湖水
(
こすい
)
を
打
(
う
)
ち
渡
(
わた
)
り
004
エルの
港
(
みなと
)
に
安着
(
あんちやく
)
し
005
初稚姫
(
はつわかひめ
)
の
神人
(
しんじん
)
に
006
誡
(
いまし
)
められて
唯
(
ただ
)
一人
(
ひとり
)
007
恋
(
こひ
)
しき
夫
(
をつと
)
に
生
(
いき
)
別
(
わか
)
れ
008
歩
(
あゆ
)
みもなれぬ
旅
(
たび
)
の
空
(
そら
)
009
草鞋
(
わらぢ
)
に
足
(
あし
)
を
喰
(
く
)
はれつつ
010
夜
(
よ
)
を
日
(
ひ
)
についで
山
(
やま
)
を
越
(
こ
)
え
011
幾多
(
いくた
)
の
谷
(
たに
)
をうち
渡
(
わた
)
り
012
ハルセイ
湖
(
うみ
)
の
畔
(
ほとり
)
まで
013
来
(
き
)
かかる
折
(
をり
)
しも
盗人
(
ぬすびと
)
の
014
群
(
むれ
)
になんなく
捉
(
とら
)
へられ
015
名
(
な
)
もおそろしき
虎熊
(
とらくま
)
の
016
曲
(
まが
)
の
岩窟
(
いはや
)
に
連
(
つ
)
れ
往
(
ゆ
)
かれ
017
昼
(
ひる
)
尚
(
な
)
ほ
暗
(
くら
)
き
岩窟
(
がんくつ
)
の
018
牢獄
(
ひとや
)
の
中
(
うち
)
に
囚
(
とら
)
はれて
019
吾
(
わが
)
身
(
み
)
の
不運
(
ふうん
)
をかこつ
折
(
をり
)
020
隣
(
となり
)
の
牢獄
(
ひとや
)
にデビス
姫
(
ひめ
)
021
囚
(
とら
)
はれ
居
(
ゐ
)
ますと
悟
(
さと
)
りしゆ
022
気
(
き
)
の
毒
(
どく
)
なりと
思
(
おも
)
へども
023
何
(
なん
)
とはなしに
気
(
き
)
も
勇
(
いさ
)
み
024
地獄
(
ぢごく
)
で
仏
(
ほとけ
)
にあひしごと
025
心
(
こころ
)
は
俄
(
にはか
)
に
輝
(
かがや
)
きぬ
026
かかる
所
(
ところ
)
へ
治道
(
ちだう
)
居士
(
こじ
)
027
夢寐
(
むび
)
にも
忘
(
わす
)
れぬ
伊太彦
(
いたひこ
)
の
028
吾
(
わが
)
背
(
せ
)
の
君
(
きみ
)
が
現
(
あら
)
はれて
029
醜
(
しこ
)
の
身魂
(
みたま
)
をことごとく
030
生言霊
(
いくことたま
)
にまつろはし
031
妾
(
わらは
)
二人
(
ふたり
)
の
命
(
いのち
)
をば
032
救
(
すく
)
ひたまひて
一言
(
ひとこと
)
の
033
情
(
なさけ
)
の
言葉
(
ことば
)
もかけずして
034
再
(
ふたた
)
び
神
(
かみ
)
の
大道
(
おほみち
)
に
035
進
(
すす
)
ませたまひし
雄々
(
をを
)
しさよ
036
又
(
また
)
もや
妾
(
わらは
)
は
唯
(
ただ
)
一人
(
ひとり
)
037
神
(
かみ
)
の
教
(
をしへ
)
を
白雲
(
しらくも
)
の
038
国
(
くに
)
のあなたに
伝
(
つた
)
へむと
039
炎熱
(
えんねつ
)
はげしき
大野原
(
おほのはら
)
040
虻
(
あぶ
)
には
刺
(
さ
)
され
土蜂
(
つちばち
)
に
041
脅
(
おびや
)
かされて
漸
(
やうや
)
うに
042
セルの
山辺
(
やまべ
)
に
来
(
き
)
て
見
(
み
)
れば
043
俄
(
にはか
)
に
四辺
(
あたり
)
暗澹
(
あんたん
)
と
044
不快
(
ふくわい
)
の
空気
(
くうき
)
に
包
(
つつ
)
まれぬ
045
唯事
(
ただごと
)
ならじと
神
(
かみ
)
の
御名
(
みな
)
046
ただ
一心
(
いつしん
)
に
唱
(
とな
)
へつつ
047
千花
(
ちばな
)
の
香
(
かほ
)
る
山路
(
やまみち
)
を
048
進
(
すす
)
み
来
(
きた
)
れる
折柄
(
をりから
)
に
049
大地
(
だいち
)
は
俄
(
にはか
)
に
震動
(
しんどう
)
し
050
後
(
うしろ
)
に
聞
(
きこ
)
ゆる
爆音
(
ばくおん
)
は
051
獅子
(
しし
)
狼
(
おほかみ
)
か
虎熊
(
とらくま
)
か
052
但
(
ただ
)
しは
大蛇
(
をろち
)
の
襲来
(
しふらい
)
か
053
百千万
(
ひやくせんまん
)
の
雷
(
いかづち
)
の
054
一度
(
いちど
)
に
落
(
お
)
ちし
如
(
ごと
)
くなる
055
其
(
その
)
音響
(
おんきやう
)
に
振
(
ふ
)
りかへり
056
空
(
そら
)
を
仰
(
あふ
)
いで
眺
(
なが
)
むれば
057
豈計
(
あにはか
)
らむや
昨日
(
きのふ
)
まで
058
醜
(
しこ
)
の
曲津
(
まがつ
)
に
捉
(
とら
)
はれて
059
苦
(
くる
)
しみ
居
(
ゐ
)
たる
思出
(
おもひで
)
の
060
印象
(
いんしやう
)
深
(
ふか
)
き
雲
(
くも
)
の
山
(
やま
)
061
虎熊岳
(
とらくまだけ
)
の
爆発
(
ばくはつ
)
と
062
悟
(
さと
)
りし
時
(
とき
)
の
恐
(
おそ
)
ろしさ
063
身
(
み
)
の
毛
(
け
)
はよだち
足
(
あし
)
はなへ
064
進
(
すす
)
み
兼
(
か
)
ねたる
女気
(
をんなぎ
)
の
065
何
(
なん
)
と
詮方
(
せんかた
)
泣
(
な
)
く
涙
(
なみだ
)
066
止
(
とど
)
めかねたる
許
(
ばか
)
りなり
067
漸
(
やうや
)
く
心
(
こころ
)
も
安
(
やす
)
らぎて
068
胸
(
むね
)
の
動悸
(
どうき
)
も
鎮静
(
ちんせい
)
し
069
足
(
あし
)
も
漸
(
やうや
)
くすこやかに
070
なりし
吾
(
わが
)
身
(
み
)
の
嬉
(
うれ
)
しさよ
071
此
(
この
)
世
(
よ
)
に
神
(
かみ
)
の
居
(
ゐ
)
まさずば
072
此
(
この
)
恐
(
おそ
)
ろしき
爆音
(
ばくおん
)
に
073
妾
(
わらは
)
は
清
(
きよ
)
き
玉
(
たま
)
の
緒
(
を
)
の
074
命
(
いのち
)
も
消
(
き
)
えて
失
(
う
)
せましを
075
尊
(
たふと
)
き
神
(
かみ
)
の
御
(
おん
)
恵
(
めぐみ
)
076
仰
(
あふ
)
ぐも
畏
(
かしこ
)
き
次第
(
しだい
)
なり
077
あゝ
惟神
(
かむながら
)
々々
(
かむながら
)
078
御霊
(
みたま
)
幸
(
さち
)
倍
(
はへ
)
ましませよ
079
朝日
(
あさひ
)
は
照
(
て
)
るとも
曇
(
くも
)
るとも
080
月
(
つき
)
は
盈
(
み
)
つとも
虧
(
か
)
くるとも
081
仮令
(
たとへ
)
夫
(
をつと
)
に
離
(
はな
)
るとも
082
真
(
まこと
)
と
神
(
かみ
)
の
御教
(
みをしへ
)
は
083
幾千代
(
いくちよ
)
迄
(
まで
)
も
離
(
はな
)
れまじ
084
さはさりながら
皇神
(
すめかみ
)
よ
085
吾
(
わが
)
背
(
せ
)
の
君
(
きみ
)
の
行末
(
ゆくすゑ
)
を
086
やすく
守
(
まも
)
らせたまひつつ
087
ハルナの
都
(
みやこ
)
の
空
(
そら
)
高
(
たか
)
く
088
月
(
つき
)
の
顔
(
かんばせ
)
花
(
はな
)
の
色
(
いろ
)
089
夫婦
(
めをと
)
の
再会
(
さいくわい
)
恙
(
つつが
)
なく
090
許
(
ゆる
)
させたまへ
大御神
(
おほみかみ
)
091
一重
(
ひとへ
)
に
願
(
ねが
)
ひ
奉
(
たてまつ
)
る
092
あゝ
惟神
(
かむながら
)
々々
(
かむながら
)
093
神
(
かみ
)
の
教
(
をし
)
へぞ
尊
(
たふと
)
けれ
094
神
(
かみ
)
の
恵
(
めぐみ
)
ぞ
有難
(
ありがた
)
き』
095
斯
(
か
)
かる
所
(
ところ
)
へ
足
(
あし
)
をチガチガさせた
一匹
(
いつぴき
)
の
野狐
(
のぎつね
)
現
(
あら
)
はれ
来
(
きた
)
り、
096
ブラヷーダの
裾
(
すそ
)
を
喰
(
く
)
はへて
無理
(
むり
)
無体
(
むたい
)
に
草野
(
くさの
)
の
中
(
なか
)
に
引張
(
ひつぱ
)
らうとする。
097
ブラヷーダは
驚
(
おどろ
)
いて
逃
(
に
)
げむとすれど、
098
野狐
(
のぎつね
)
は
執念
(
しふねん
)
深
(
ぶか
)
く
裾
(
すそ
)
を
喰
(
くは
)
へ
如何
(
いか
)
に
藻掻
(
もが
)
いても
放
(
はな
)
さないので、
099
ブラヷーダは
止
(
や
)
むを
得
(
え
)
ず、
100
野狐
(
のぎつね
)
に
引
(
ひ
)
かるるまま、
101
身
(
み
)
の
丈
(
たけ
)
を
没
(
ぼつ
)
する
草野
(
くさの
)
の
中
(
なか
)
へ
従
(
つ
)
いて
往
(
ゆ
)
く。
102
野狐
(
のぎつね
)
は
原野
(
げんや
)
の
中
(
なか
)
に
饅頭形
(
まんぢゆうがた
)
になつて
居
(
ゐ
)
る
丘
(
をか
)
の
傍
(
かたはら
)
の、
103
可
(
か
)
なり
大
(
おほ
)
きな
穴
(
あな
)
に
引張
(
ひつぱ
)
り
込
(
こ
)
んで
了
(
しま
)
つた。
104
暫
(
しばら
)
くすると
山岳
(
さんがく
)
も
崩
(
くづ
)
るる
許
(
ばか
)
りの
大音響
(
だいおんきやう
)
が
聞
(
きこ
)
えた。
105
これは、
106
虎熊山
(
とらくまやま
)
の
爆発
(
ばくはつ
)
によつて、
107
山
(
やま
)
の
神
(
かみ
)
として
古
(
ふる
)
くより
身
(
み
)
を
潜
(
ひそ
)
めて、
108
世界
(
せかい
)
に
邪気
(
じやき
)
を
送
(
おく
)
りつつあつた
八大
(
はちだい
)
竜王
(
りうわう
)
の
一
(
ひとつ
)
、
109
マナスインナーガラシヤーであつた。
110
此
(
この
)
竜王
(
りうわう
)
は
身
(
み
)
の
長
(
なが
)
さ
五百万
(
ごひやくまん
)
丈
(
ぢやう
)
に
余
(
あま
)
り、
111
其
(
その
)
太
(
ふと
)
さもそれに
適当
(
てきたう
)
し、
112
三百万
(
さんびやくまん
)
丈
(
ぢやう
)
の
恐
(
おそ
)
ろしき
竜神
(
りうじん
)
である。
113
身体
(
しんたい
)
長大
(
ちやうだい
)
にして、
114
九天
(
きうてん
)
の
上
(
うへ
)
に
昇
(
のぼ
)
り、
115
或
(
あるひ
)
は
須弥仙
(
しゆみせん
)
を
廻
(
まは
)
ること
七廻
(
ななまは
)
りと
称
(
しよう
)
せられ、
116
よく
大海
(
だいかい
)
の
水
(
みづ
)
を
止
(
と
)
めて、
117
海中
(
かいちう
)
に
山
(
やま
)
を
湧出
(
ゆうしゆつ
)
させ、
118
或
(
あるひ
)
は
島
(
しま
)
を
沈没
(
ちんぼつ
)
させると
云
(
い
)
ふ
恐
(
おそ
)
ろしき
悪竜
(
あくりう
)
である。
119
今
(
いま
)
や
竜神
(
りうじん
)
は、
120
ブラヷーダが
隠
(
かく
)
れて
居
(
を
)
る
野狐
(
のぎつね
)
の
穴
(
あな
)
の
上
(
うへ
)
を、
121
身体
(
しんたい
)
の
一部
(
いちぶ
)
が
通
(
とほ
)
つて
居
(
を
)
るのである。
122
俄
(
にはか
)
に
穴
(
あな
)
の
中
(
なか
)
がパツと
暗
(
くら
)
くなつたと
思
(
おも
)
へば、
123
何
(
なん
)
とも
云
(
い
)
へぬ
腥臭
(
なまくさ
)
い
息
(
いき
)
が
鼻
(
はな
)
を
襲
(
おそ
)
ふて
来
(
き
)
た。
124
野狐
(
のぎつね
)
は
穴
(
あな
)
の
口
(
くち
)
にうづくまつて
姫
(
ひめ
)
の
安全
(
あんぜん
)
を
守
(
まも
)
つて
居
(
ゐ
)
た。
125
俄
(
にはか
)
に
再
(
ふたた
)
び
穴
(
あな
)
の
中
(
なか
)
が
明
(
あか
)
くなつたと
思
(
おも
)
へば、
126
野狐
(
のぎつね
)
は
忽
(
たちま
)
ち
又
(
また
)
ブラヷーダの
裾
(
すそ
)
を
喰
(
くは
)
へて
外
(
そと
)
へ
引
(
ひ
)
き
出
(
だ
)
さうとした。
127
ブラヷーダは
引
(
ひ
)
かるるままに
外
(
そと
)
に
出
(
で
)
て
見
(
み
)
れば、
128
四辺
(
あたり
)
の
草木
(
さうもく
)
は
皆
(
みな
)
倒
(
たふ
)
れ
目
(
め
)
も
届
(
とど
)
かぬ
許
(
ばか
)
りの
広
(
ひろ
)
い
草
(
くさ
)
の
溝
(
みぞ
)
が
穿
(
うが
)
たれたやうになつて
居
(
ゐ
)
る。
129
ブラヷーダは
野狐
(
のぎつね
)
に
向
(
むか
)
ひ
感謝
(
かんしや
)
の
意
(
い
)
を
表
(
へう
)
して、
130
ブラヷ『
吾
(
わが
)
命
(
いのち
)
助
(
たす
)
けたまひし
汝
(
な
)
が
命
(
みこと
)
131
其
(
その
)
御恵
(
みめぐみ
)
をいつか
忘
(
わす
)
れむ。
132
汝
(
なんぢ
)
なくば
吾
(
われ
)
はあへなく
身失
(
みう
)
せなむ
133
命
(
いのち
)
の
親
(
おや
)
の
野狐
(
のぎつね
)
の
生神
(
いきがみ
)
』
134
と
歌
(
うた
)
ふや、
135
野狐
(
のぎつね
)
は
尾
(
を
)
を
振
(
ふ
)
り、
136
首
(
くび
)
を
振
(
ふ
)
り、
137
喜
(
よろこ
)
びの
色
(
いろ
)
を
現
(
あら
)
はし、
138
再
(
ふたた
)
び
元
(
もと
)
の
山道
(
やまみち
)
へと
送
(
おく
)
つて
来
(
き
)
た。
139
ブラヷーダ
姫
(
ひめ
)
『いざさらば
恋
(
こひ
)
しき
君
(
きみ
)
に
別
(
わか
)
れなむ
140
やすくましませ
千代
(
ちよ
)
に
八千代
(
やちよ
)
に』
141
野狐
(
のぎつね
)
は
再
(
ふたた
)
び
草原
(
くさはら
)
に
姿
(
すがた
)
を
隠
(
かく
)
した。
142
ブラヷーダは
後
(
あと
)
振
(
ふ
)
りかへり、
143
天
(
てん
)
に
冲
(
ちう
)
する
虎熊山
(
とらくまやま
)
の
噴煙
(
ふんえん
)
を
眺
(
なが
)
めて、
144
ブラヷ『
仰
(
あふ
)
ぎ
見
(
み
)
れば
虎熊山
(
とらくまやま
)
の
空
(
そら
)
高
(
たか
)
く
145
おほひけるかな
醜
(
しこ
)
の
黒雲
(
くろくも
)
。
146
天津
(
あまつ
)
日
(
ひ
)
もかくれて
見
(
み
)
えぬ
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
に
147
醜
(
しこ
)
のまがみの
独
(
ひと
)
り
荒
(
すさ
)
べる。
148
世
(
よ
)
の
人
(
ひと
)
の
生血
(
いきち
)
を
絞
(
しぼ
)
る
曲
(
まが
)
こそは
149
虎熊山
(
とらくまやま
)
に
住
(
す
)
みしなるらむ。
150
皇神
(
すめかみ
)
の
怒
(
いか
)
りに
触
(
ふ
)
れて
高山
(
たかやま
)
は
151
爆発
(
ばくはつ
)
しけむさても
恐
(
おそ
)
ろし。
152
人々
(
ひとびと
)
の
恨
(
うらみ
)
を
集
(
あつ
)
めて
噴火口
(
ふんくわこう
)
153
吐
(
は
)
き
出
(
だ
)
す
煙
(
けぶり
)
は
空
(
そら
)
を
覆
(
おほ
)
へる。
154
西
(
にし
)
東
(
ひがし
)
南
(
みなみ
)
も
北
(
きた
)
も
黒雲
(
くろくも
)
に
155
包
(
つつ
)
まれてけり
今日
(
けふ
)
の
大空
(
おほぞら
)
。
156
いづみたま
瑞
(
みづ
)
の
御霊
(
みたま
)
のなかりせば
157
此
(
この
)
黒雲
(
くろくも
)
を
如何
(
いか
)
に
払
(
はら
)
はむ。
158
荒鉄
(
あらがね
)
の
地
(
つち
)
に
洪水
(
こうずい
)
氾濫
(
はんらん
)
し
159
空
(
そら
)
に
黒雲
(
くろくも
)
立
(
た
)
ちふさぎける。
160
黒雲
(
くろくも
)
を
伊吹
(
いぶき
)
払
(
はら
)
ひて
紅
(
くれなゐ
)
の
161
光
(
ひかり
)
をみする
厳
(
いづ
)
の
大神
(
おほかみ
)
。
162
濁流
(
だくりう
)
をながし
清
(
きよ
)
めて
神国
(
かみくに
)
の
163
昔
(
むかし
)
にかへす
瑞
(
みづ
)
の
大神
(
おほかみ
)
。
164
火
(
ひ
)
と
水
(
みづ
)
の
恵
(
めぐみ
)
によりて
地
(
つち
)
の
上
(
へ
)
も
165
いと
安
(
やす
)
らけく
開
(
ひら
)
けゆくらむ。
166
日
(
ひ
)
はかくれ
月
(
つき
)
は
山辺
(
やまべ
)
に
戦
(
をのの
)
きて
167
星
(
ほし
)
さへ
見
(
み
)
えぬ
御世
(
みよ
)
ぞうたてき。
168
大空
(
おほぞら
)
も
谷
(
たに
)
の
底
(
そこ
)
ひもおしなべて
169
雲霧
(
くもきり
)
ふさぐ
今
(
いま
)
の
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
。
170
厳御霊
(
いづみたま
)
瑞
(
みづ
)
の
御霊
(
みたま
)
のなかりせば
171
砕
(
くだ
)
けたる
世
(
よ
)
を
如何
(
いか
)
に
固
(
かた
)
めむ。
172
ブラヷーダ
吾
(
われ
)
はかよわき
身
(
み
)
なれども
173
瑞
(
みづ
)
の
御霊
(
みたま
)
に
従
(
したが
)
ひゆかむ。
174
高山
(
たかやま
)
に
生
(
お
)
ふる
諸木
(
もろき
)
は
荒風
(
あらかぜ
)
に
175
揉
(
も
)
まれて
柱
(
はしら
)
になるものはなし。
176
足曳
(
あしびき
)
の
深山
(
みやま
)
の
奥
(
おく
)
の
谷底
(
たにぞこ
)
に
177
生
(
お
)
ふる
大木
(
おほき
)
ぞ
世
(
よ
)
の
柱
(
はしら
)
なる。
178
皇神
(
すめかみ
)
の
作
(
つく
)
りたまひし
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
は
179
神
(
かみ
)
より
外
(
ほか
)
に
頼
(
たよ
)
るべきなし。
180
よしやよし
人
(
ひと
)
は
高
(
たか
)
きに
登
(
のぼ
)
るとも
181
いつかはおちむ
猿
(
さる
)
の
木登
(
きのぼ
)
り。
182
千丈
(
せんぢやう
)
の
滝
(
たき
)
よりおつる
水音
(
みなおと
)
は
183
ただ
轟々
(
ぐわうぐわう
)
と
底
(
そこ
)
にとどろく。
184
飛
(
と
)
ぶ
鳥
(
とり
)
も
虎熊山
(
とらくまやま
)
の
震
(
ふる
)
ひてゆ
185
征矢
(
そや
)
の
如
(
ごと
)
くに
地
(
ち
)
におちにけり』
186
かく
歌
(
うた
)
ひてブラヷーダ
姫
(
ひめ
)
は
187
又
(
また
)
もや
小声
(
こごゑ
)
に
宣伝歌
(
せんでんか
)
を
謡
(
うた
)
ひ
乍
(
なが
)
ら、
188
杖
(
つゑ
)
を
力
(
ちから
)
に、
189
トボトボと
雑草
(
ざつさう
)
茂
(
しげ
)
る
小径
(
こみち
)
をわけて、
190
西
(
にし
)
へ
西
(
にし
)
へと
進
(
すす
)
み
行
(
ゆ
)
く。
191
○
192
霞
(
かすみ
)
の
奥
(
おく
)
雲
(
くも
)
のあなたに
皇神
(
すめかみ
)
の
193
黄金
(
こがね
)
の
宮
(
みや
)
の
見
(
み
)
ゆる
嬉
(
うれ
)
しさ。
194
(
大正一二・七・一六
旧六・三
於祥雲閣
加藤明子
録)
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