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天祥地瑞
第73巻(子の巻)
第74巻(丑の巻)
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第77巻(辰の巻)
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第65巻(辰の巻)
序文
総説
第1篇 盗風賊雨
01 感謝組
〔1657〕
02 古峽の山
〔1658〕
03 岩侠
〔1659〕
04 不聞銃
〔1660〕
05 独許貧
〔1661〕
06 噴火口
〔1662〕
07 反鱗
〔1663〕
第2篇 地異転変
08 異心泥信
〔1664〕
09 劇流
〔1665〕
10 赤酒の声
〔1666〕
11 大笑裡
〔1667〕
12 天恵
〔1668〕
第3篇 虎熊惨状
13 隔世談
〔1669〕
14 山川動乱
〔1670〕
15 饅頭塚
〔1671〕
16 泥足坊
〔1672〕
17 山颪
〔1673〕
第4篇 神仙魔境
18 白骨堂
〔1674〕
19 谿の途
〔1675〕
20 熊鷹
〔1676〕
21 仙聖郷
〔1677〕
22 均霑
〔1678〕
23 義侠
〔1679〕
第5篇 讃歌応山
24 危母玉
〔1680〕
25 道歌
〔1681〕
26 七福神
〔1682〕
余白歌
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第一三章
隔世談
(
かくせいだん
)
〔一六六九〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第65巻 山河草木 辰の巻
篇:
第3篇 虎熊惨状
よみ(新仮名遣い):
とらくまさんじょう
章:
第13章 隔世談
よみ(新仮名遣い):
かくせいだん
通し章番号:
1669
口述日:
1923(大正12)年07月16日(旧06月3日)
口述場所:
祥雲閣
筆録者:
北村隆光
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1926(大正15)年4月14日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
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:
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
OBC :
rm6513
愛善世界社版:
151頁
八幡書店版:
第11輯 664頁
修補版:
校定版:
157頁
普及版:
71頁
初版:
ページ備考:
001
伊太彦
(
いたひこ
)
『
神
(
かみ
)
の
教
(
をしへ
)
の
伊太彦
(
いたひこ
)
は
002
初稚姫
(
はつわかひめ
)
の
訓戒
(
いましめ
)
に
003
恋
(
こひ
)
しき
妻
(
つま
)
に
生
(
い
)
き
別
(
わか
)
れ
004
一人
(
ひとり
)
トボトボ
山道
(
やまみち
)
を
005
いとど
烈
(
はげ
)
しき
炎熱
(
えんねつ
)
と
006
戦
(
たたか
)
ひ
乍
(
なが
)
ら
汗水
(
あせみづ
)
に
007
なりて
山野
(
さんや
)
を
渉
(
わた
)
り
行
(
ゆ
)
く
008
心
(
こころ
)
淋
(
さび
)
しき
一人旅
(
ひとりたび
)
009
神
(
かみ
)
の
恵
(
めぐ
)
みを
力
(
ちから
)
とし
010
夜光
(
やくわう
)
の
玉
(
たま
)
を
杖
(
つゑ
)
として
011
吾
(
わが
)
師
(
し
)
の
君
(
きみ
)
や
妻
(
つま
)
の
身
(
み
)
を
012
案
(
あん
)
じ
煩
(
わづら
)
ひハルセイの
013
沼
(
ぬま
)
の
畔
(
ほとり
)
に
来
(
き
)
て
見
(
み
)
れば
014
人
(
ひと
)
を
掠
(
かす
)
むる
盗人
(
ぬすびと
)
の
015
二人
(
ふたり
)
の
男
(
をとこ
)
に
巡
(
めぐ
)
り
合
(
あ
)
ひ
016
神
(
かみ
)
の
教
(
をしへ
)
を
説
(
と
)
き
諭
(
さと
)
し
017
大泥棒
(
おほどろばう
)
の
立
(
たて
)
籠
(
こ
)
もる
018
虎熊山
(
とらくまやま
)
の
岩窟
(
がんくつ
)
に
019
妻
(
つま
)
の
命
(
みこと
)
やデビス
姫
(
ひめ
)
020
二人
(
ふたり
)
の
身
(
み
)
をば
助
(
たす
)
けむと
021
登
(
のぼ
)
り
行
(
ゆ
)
く
折
(
をり
)
傍
(
かたはら
)
の
022
林
(
はやし
)
の
中
(
なか
)
の
呻
(
うめ
)
き
声
(
ごゑ
)
023
何者
(
なにもの
)
なるか
知
(
し
)
らねども
024
見捨
(
みす
)
てかねたる
義侠心
(
ぎけふしん
)
025
近付
(
ちかづ
)
き
見
(
み
)
れば
暴虐
(
ばうぎやく
)
の
026
限
(
かぎ
)
りを
尽
(
つく
)
す
大泥棒
(
おほどろばう
)
027
ハールが
頭
(
かしら
)
に
繃帯
(
ほうたい
)
し
028
虫
(
むし
)
の
息
(
いき
)
にて
呻
(
うめ
)
きゐる
029
伊太彦
(
いたひこ
)
忽
(
たちま
)
ち
三五
(
あななひ
)
の
030
神
(
かみ
)
の
御名
(
みな
)
をば
奉称
(
ほうしよう
)
し
031
天
(
あま
)
の
数歌
(
かずうた
)
声
(
こゑ
)
高
(
たか
)
く
032
歌
(
うた
)
へば
不思議
(
ふしぎ
)
や
忽
(
たちま
)
ちに
033
厳
(
いづ
)
の
神徳
(
しんとく
)
現
(
あら
)
はれて
034
ハールはムツクと
起
(
お
)
き
上
(
あが
)
り
035
救命
(
きうめい
)
謝恩
(
しやおん
)
の
宣言
(
のりごと
)
に
036
喜
(
よろこ
)
び
勇
(
いさ
)
む
折
(
をり
)
もあれ
037
エムとタツとの
両人
(
りやうにん
)
は
038
伊太彦
(
いたひこ
)
司
(
つかさ
)
に
打
(
うち
)
向
(
むか
)
ひ
039
ハールの
罪悪
(
ざいあく
)
一々
(
いちいち
)
に
040
宣
(
の
)
り
伝
(
つた
)
ふれば
伊太彦
(
いたひこ
)
は
041
誠
(
まこと
)
の
道
(
みち
)
を
説
(
と
)
き
諭
(
さと
)
し
042
ハールを
岩窟
(
いはや
)
の
案内
(
あない
)
とし
043
息
(
いき
)
もせきせき
登
(
のぼ
)
り
行
(
ゆ
)
く
044
さしも
堅固
(
けんご
)
な
岩窟
(
がんくつ
)
の
045
その
入口
(
いりぐち
)
に
来
(
き
)
て
見
(
み
)
れば
046
番人
(
ばんにん
)
一人
(
ひとり
)
居
(
を
)
らばこそ
047
藻抜
(
もぬ
)
けの
殻
(
から
)
の
不思議
(
ふしぎ
)
さに
048
ドンドンドンと
隧道
(
トンネル
)
を
049
ハール、エム、タツに
案内
(
あない
)
させ
050
牢獄
(
ひとや
)
の
前
(
まへ
)
に
来
(
き
)
て
見
(
み
)
れば
051
豈計
(
あにはか
)
らむや
治道
(
ちだう
)
居士
(
こじ
)
052
デビスの
姫
(
ひめ
)
やブラヷーダ
053
改心組
(
かいしんぐみ
)
の
一同
(
いちどう
)
が
054
セールの
親分
(
おやぶん
)
真中
(
まんなか
)
に
055
四五
(
しご
)
の
小頭
(
こがしら
)
取
(
とり
)
囲
(
かこ
)
み
056
教
(
をしへ
)
を
垂
(
た
)
るる
最中
(
さいちう
)
と
057
悟
(
さと
)
りし
時
(
とき
)
の
嬉
(
うれ
)
しさよ
058
案
(
あん
)
じ
過
(
す
)
ごした
吾
(
わが
)
妻
(
つま
)
の
059
無事
(
ぶじ
)
なる
顔
(
かほ
)
を
一目
(
ひとめ
)
見
(
み
)
て
060
抱
(
だ
)
きつき
度
(
た
)
くは
思
(
おも
)
へども
061
初稚姫
(
はつわかひめ
)
の
御
(
おん
)
教
(
をしへ
)
062
あたりの
人
(
ひと
)
の
手前
(
てまへ
)
をば
063
恥
(
はぢ
)
らひ
苦
(
くる
)
しさ
相忍
(
あひしの
)
び
064
ハールを
連
(
つ
)
れて
只
(
ただ
)
二人
(
ふたり
)
065
虎熊山
(
とらくまやま
)
を
後
(
あと
)
にして
066
セルの
山辺
(
やまべ
)
に
来
(
き
)
て
見
(
み
)
れば
067
神
(
かみ
)
の
恵
(
めぐ
)
みの
百
(
もも
)
の
花
(
はな
)
068
処
(
ところ
)
狭
(
せ
)
き
迄
(
まで
)
咲
(
さ
)
き
匂
(
にほ
)
ひ
069
蓮
(
はちす
)
の
花
(
はな
)
は
殊更
(
ことさら
)
に
070
白
(
しろ
)
青
(
あを
)
黄色
(
きいろ
)
紫
(
むらさき
)
の
071
艶
(
えん
)
を
競
(
きそ
)
ひてザワザワと
072
涼
(
すず
)
しき
風
(
かぜ
)
に
翻
(
ひるがへ
)
り
073
笑
(
ゑみ
)
を
湛
(
たた
)
へて
迎
(
むか
)
へゐる
074
あゝ
惟神
(
かむながら
)
々々
(
かむながら
)
075
吾
(
われ
)
は
尊
(
たふと
)
き
大神
(
おほかみ
)
の
076
御稜威
(
みいづ
)
を
受
(
う
)
けて
大野原
(
おほのはら
)
077
虎
(
とら
)
伏
(
ふ
)
す
山辺
(
やまべ
)
も
恙
(
つつが
)
なく
078
神都
(
みやこ
)
をさして
進
(
すす
)
み
来
(
く
)
る
079
心
(
こころ
)
の
中
(
うち
)
ぞ
楽
(
たの
)
しけれ
080
朝日
(
あさひ
)
は
照
(
て
)
るとも
曇
(
くも
)
るとも
081
月
(
つき
)
は
盈
(
み
)
つとも
虧
(
か
)
くるとも
082
月
(
つき
)
落
(
お
)
ち
星
(
ほし
)
は
消
(
き
)
ゆるとも
083
印度
(
いんど
)
の
海
(
うみ
)
はあするとも
084
虎熊山
(
とらくまやま
)
は
破裂
(
はれつ
)
して
085
熔岩
(
ようがん
)
四方
(
よも
)
に
降
(
ふ
)
らすとも
086
いかでか
恐
(
おそ
)
れむ
惟神
(
かむながら
)
087
神
(
かみ
)
に
任
(
まか
)
せし
吾々
(
われわれ
)
は
088
至
(
いた
)
る
所
(
ところ
)
に
青山
(
せいざん
)
の
089
媚
(
こ
)
びを
呈
(
てい
)
して
待
(
ま
)
てるあり
090
思
(
おも
)
へば
思
(
おも
)
へば
有難
(
ありがた
)
し
091
天国
(
てんごく
)
浄土
(
じやうど
)
の
光景
(
くわうけい
)
を
092
今
(
いま
)
目
(
ま
)
の
辺
(
あた
)
り
眺
(
なが
)
めつつ
093
尊
(
たふと
)
き
聖
(
きよ
)
き
三五
(
あななひ
)
の
094
教
(
をしへ
)
の
道
(
みち
)
に
進
(
すす
)
み
行
(
ゆ
)
く
095
あゝ
惟神
(
かむながら
)
々々
(
かむながら
)
096
御霊
(
みたま
)
のふゆを
願
(
ね
)
ぎ
奉
(
まつ
)
る』
097
二抱
(
ふたかか
)
へもあらうといふパインが、
098
一方
(
いつぱう
)
は
山
(
やま
)
、
099
一方
(
いつぱう
)
は
野辺
(
のべ
)
の
細道
(
ほそみち
)
の
傍
(
かたはら
)
に、
100
月
(
つき
)
の
傘
(
かさ
)
を
拡
(
ひろ
)
げたやうに
只
(
ただ
)
一本
(
いつぽん
)
聳
(
そび
)
え
立
(
た
)
つてゐる。
101
その
松
(
まつ
)
の
木蔭
(
こかげ
)
に、
102
四五
(
しご
)
人
(
にん
)
の
男
(
をとこ
)
が
首
(
くび
)
を
鳩
(
あつ
)
めて
何事
(
なにごと
)
か、
103
ヒソビソ
話
(
はなし
)
に
耽
(
ふけ
)
つてゐた。
104
甲
(
かふ
)
『オイ、
105
そこら
中
(
ぢう
)
の
民家
(
みんか
)
を
漁
(
あさ
)
つて、
106
葡萄酒
(
ぶだうしゆ
)
やいろいろの
肴
(
さかな
)
を
掠奪
(
りやくだつ
)
して
来
(
き
)
たが、
107
然
(
しか
)
し
早
(
はや
)
く
帰
(
かへ
)
らないと、
108
今夜
(
こんや
)
の
結婚
(
けつこん
)
の
間
(
ま
)
に
合
(
あ
)
はないかも
知
(
し
)
れぬぞ。
109
さうすりや
又
(
また
)
親分
(
おやぶん
)
から
叱言
(
こごと
)
を
頂戴
(
ちやうだい
)
せなならぬからのう』
110
乙
(
おつ
)
『どれ
程
(
ほど
)
急
(
いそ
)
いだ
所
(
ところ
)
で、
111
之
(
これ
)
丈
(
だけ
)
の
道程
(
みちのり
)
だ。
112
到底
(
たうてい
)
今夜
(
こんや
)
の
間
(
ま
)
に
合
(
あ
)
ひさうな
事
(
こと
)
はないわ。
113
一層
(
いつそう
)
の
事
(
こと
)
、
114
酒
(
さけ
)
も
肴
(
さかな
)
もここにあるから、
115
此
(
この
)
松
(
まつ
)
の
木
(
き
)
の
下
(
した
)
で、
116
一杯
(
いつぱい
)
やらうではないか』
117
甲
(
かふ
)
『そんな
事
(
こと
)
したら、
118
それこそ
大変
(
たいへん
)
だ。
119
俺
(
おれ
)
等
(
たち
)
は
直
(
すぐ
)
破門
(
はもん
)
されて
了
(
しま
)
ふぞ。
120
破門
(
はもん
)
だけならいいが、
121
他
(
よそ
)
へ
出
(
で
)
て
喋
(
しや
)
べると
云
(
い
)
つて
手足
(
てあし
)
をフン
縛
(
しば
)
られ、
122
噴火口
(
ふんくわこう
)
に
投
(
な
)
げ
入
(
い
)
れられて
見
(
み
)
よ。
123
あつたら
命
(
いのち
)
が
台
(
だい
)
なしだ。
124
貴様
(
きさま
)
は
酒
(
さけ
)
を
喰
(
くら
)
ふとワヤな
事
(
こと
)
を
云
(
い
)
ふから
駄目
(
だめ
)
だ』
125
乙
(
おつ
)
『
何
(
なに
)
、
126
構
(
かま
)
ふものかい。
127
かうして
五
(
ご
)
人
(
にん
)
居
(
を
)
れば、
128
一
(
ひと
)
つの
村
(
むら
)
でも
団体
(
だんたい
)
でも
作
(
つく
)
れるから、
129
あんな
高
(
たか
)
い
山
(
やま
)
に
行
(
ゆ
)
かずに、
130
一
(
ひと
)
つ
新団体
(
しんだんたい
)
でも
拵
(
こしら
)
へて
自由
(
じいう
)
行動
(
かうどう
)
でも
採
(
と
)
つたらどうだ』
131
丙
(
へい
)
、
132
丁
(
てい
)
、
133
戊
(
ぼ
)
の
三
(
さん
)
人
(
にん
)
は
手
(
て
)
を
拍
(
う
)
つて、
134
三
(
さん
)
人
(
にん
)
『イヤ、
135
賛成
(
さんせい
)
、
136
乙
(
おつ
)
の
言
(
い
)
ふ
通
(
とほ
)
りだ。
137
別
(
べつ
)
にセールの
大将
(
たいしやう
)
を、
138
さう
恐
(
こは
)
がるに
及
(
およ
)
ばぬぢやないか。
139
あんな
大将
(
たいしやう
)
を
頭
(
かしら
)
に
仰
(
あふ
)
いでると、
140
何時
(
いつ
)
どんな
目
(
め
)
に
会
(
あ
)
はされるか
分
(
わか
)
りはせぬぞ。
141
あの
副親分
(
ふくおやぶん
)
を
見
(
み
)
い、
142
あれ
丈
(
だけ
)
骨
(
ほね
)
を
折
(
を
)
つて
基礎
(
きそ
)
を
固
(
かた
)
めたが、
143
遂
(
つひ
)
に
暗打
(
やみうち
)
にあつて
頭
(
あたま
)
を
割
(
わ
)
つて
了
(
しま
)
つたぢやないか。
144
俺
(
おれ
)
やハールの
親分
(
おやぶん
)
が
気
(
き
)
の
毒
(
どく
)
で
堪
(
たま
)
らぬわ。
145
その
時
(
とき
)
から
岩窟
(
いはや
)
を
飛
(
と
)
び
出
(
だ
)
さう
飛
(
と
)
び
出
(
だ
)
さうと
思
(
おも
)
つて
居
(
を
)
つたのだが、
146
今度
(
こんど
)
大親分
(
おほおやぶん
)
が
婚礼
(
こんれい
)
の
材料
(
ざいれう
)
を
集
(
あつ
)
めて
来
(
こ
)
いと
出
(
だ
)
して
呉
(
く
)
れた
時
(
とき
)
、
147
再
(
ふたた
)
び
岩窟
(
いはや
)
に
帰
(
かへ
)
るまいと
覚悟
(
かくご
)
をきめた
位
(
くらゐ
)
だから、
148
マア
一杯
(
いつぱい
)
ここでやつて
相談
(
さうだん
)
をきめようぢやないか』
149
甲
(
かふ
)
『トランスの
相談
(
さうだん
)
をきめると
云
(
い
)
つても、
150
別
(
べつ
)
に
立派
(
りつぱ
)
な
案
(
あん
)
も
出
(
で
)
まいぢやないか』
151
乙
(
おつ
)
『
喧
(
やかま
)
しう
云
(
い
)
ふな。
152
俺
(
おれ
)
の
云
(
い
)
ふ
通
(
とほ
)
りにせい。
153
俺
(
おれ
)
はこう
見
(
み
)
えても
餓鬼
(
がき
)
会社
(
くわいしや
)
の
社長
(
しやちやう
)
をやつて
居
(
を
)
つたものだ。
154
田舎
(
いなか
)
の
村
(
むら
)
ではあるけれど、
155
それでも、
156
ザツと
五十軒
(
ごじつけん
)
ばかりの
戸主
(
こしゆ
)
から
選
(
えら
)
まれて
村会
(
そんくわい
)
議員
(
ぎゐん
)
、
157
否
(
いな
)
村会
(
そんくわい
)
代議士
(
だいぎし
)
に
一度
(
いちど
)
は
当選
(
たうせん
)
した
男
(
をとこ
)
だぞ。
158
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
つても
尋常
(
じんじやう
)
大学
(
だいがく
)
の
出身者
(
しゆつしんしや
)
だからな』
159
丙
(
へい
)
『アハヽヽヽ、
160
尋常
(
じんじやう
)
大学
(
だいがく
)
が
聞
(
き
)
いて
呆
(
あき
)
れるわい。
161
村会
(
そんくわい
)
代議士
(
だいぎし
)
なんてまだ
聞
(
き
)
き
初
(
はじ
)
めだ。
162
戸別
(
こべつ
)
巡礼
(
じゆんれい
)
をやつて、
163
ヤツとの
事
(
こと
)
で
村会
(
そんくわい
)
議員
(
ぎゐん
)
になつたのだらう』
164
丁
(
てい
)
『
何
(
なに
)
、
165
此奴
(
こいつ
)
村会
(
そんくわい
)
議員
(
ぎゐん
)
どころか、
166
此奴
(
こいつ
)
の
奉公
(
ほうこう
)
して
居
(
を
)
つた
主人
(
しゆじん
)
が
村会
(
そんくわい
)
議員
(
ぎゐん
)
になつて
居
(
を
)
つたのだ。
167
その
事
(
こと
)
を
云
(
い
)
つてるのだよ』
168
丙
(
へい
)
『アハヽヽヽ、
169
大方
(
おほかた
)
、
170
そんな
事
(
こと
)
だらうと
思
(
おも
)
つて
居
(
を
)
つた』
171
乙
(
おつ
)
『
馬鹿
(
ばか
)
云
(
い
)
ふない。
172
主人
(
しゆじん
)
がならうと、
173
俺
(
おれ
)
がならうと、
174
同
(
おな
)
じ
一軒
(
いつけん
)
の
宅
(
うち
)
に
住居
(
ぢうきよ
)
してる
以上
(
いじやう
)
は
同
(
おな
)
じ
事
(
こと
)
ぢやないか。
175
エー、
176
奥
(
おく
)
さまは
村会
(
そんくわい
)
代議士
(
だいぎし
)
夫人
(
ふじん
)
と
崇
(
あが
)
められてゐる
以上
(
いじやう
)
は、
177
俺
(
おれ
)
だつて
村会
(
そんくわい
)
代議士
(
だいぎし
)
家僕
(
かぼく
)
だ、
178
主人
(
しゆじん
)
の
心
(
こころ
)
は
僕
(
しもべ
)
の
心
(
こころ
)
、
179
僕
(
しもべ
)
の
心
(
こころ
)
は
主人
(
しゆじん
)
の
心
(
こころ
)
と
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
を
知
(
し
)
らぬかい。
180
訳
(
わけ
)
の
分
(
わか
)
らぬ
奴
(
やつ
)
だな』
181
丙
(
へい
)
『どちらが
訳
(
わけ
)
が
分
(
わか
)
らぬか、
182
本当
(
ほんたう
)
に
分
(
わか
)
らぬわい。
183
困
(
こま
)
つた
唐変木
(
たうへんぼく
)
だな。
184
オイ
村会
(
そんくわい
)
代議士
(
だいぎし
)
、
185
そんなら
一
(
ひと
)
つ
案
(
あん
)
を
出
(
だ
)
して
呉
(
く
)
れ。
186
その
上
(
うへ
)
で
賛否
(
さんぴ
)
の
決
(
けつ
)
を
与
(
あた
)
へねばならぬからのう』
187
乙
(
おつ
)
『ヨシ、
188
かう
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
があらうと
思
(
おも
)
つて、
189
前
(
まへ
)
から
腹案
(
ふくあん
)
を
拵
(
こしら
)
へて
待
(
ま
)
つてゐたのだ。
190
○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○
191
まア、
192
こんなものだよ。
193
どうだ
賛成
(
さんせい
)
だらうな。
194
アハヽヽヽ』
195
丙
(
へい
)
『いや、
196
大方
(
おほかた
)
賛成
(
さんせい
)
だ。
197
然
(
しか
)
し、
198
宣伝使
(
せんでんし
)
、
199
比丘
(
びく
)
に
対
(
たい
)
する
条目
(
でうもく
)
だけは
削除
(
さくぢよ
)
して
欲
(
ほ
)
しいものだな』
200
乙
(
おつ
)
『そら
又
(
また
)
何故
(
なぜ
)
だ。
201
怪
(
あや
)
しい
事
(
こと
)
を
云
(
い
)
ふぢやないか』
202
丙
(
へい
)
『
宣伝使
(
せんでんし
)
や
比丘
(
びく
)
は
神仏
(
しんぶつ
)
に
仕
(
つか
)
へるものだ。
203
あんな
者
(
もの
)
に
向
(
むか
)
へば、
204
忽
(
たちま
)
ち
罰
(
ばち
)
が
当
(
あた
)
り、
205
身体
(
からだ
)
が
動
(
うご
)
けぬやうになるからな』
206
乙
(
おつ
)
『アハヽヽヽ、
207
気
(
き
)
の
弱
(
よわ
)
いものだな。
208
宣伝使
(
せんでんし
)
が
何
(
なに
)
が
恐
(
こは
)
い。
209
身
(
み
)
に
寸鉄
(
すんてつ
)
を
帯
(
お
)
びるでなし、
210
まるで
箒
(
はうき
)
で
蜻蛉
(
とんぼ
)
を
押
(
おさ
)
へるやうなものだ』
211
甲
(
かふ
)
『そんな
事
(
こと
)
云
(
い
)
はずに
早
(
はや
)
く
帰
(
かへ
)
らうぢやないか』
212
乙
(
おつ
)
『
矢釜
(
やかま
)
しう
云
(
い
)
ふない。
213
帰
(
かへ
)
り
度
(
た
)
い
奴
(
やつ
)
はトツトと
帰
(
かへ
)
れ。
214
そして
親分
(
おやぶん
)
が
二人
(
ふたり
)
のナイスをおいて
脂下
(
やにさが
)
つてゐる
所
(
ところ
)
を、
215
ケナリさうな
顔
(
かほ
)
して
指
(
ゆび
)
を
喰
(
くは
)
へて
見
(
み
)
せて
貰
(
もら
)
へ。
216
それが
貴様
(
きさま
)
の
性
(
しやう
)
に
合
(
あ
)
うてるわい。
217
ウツフヽヽヽ。
218
これ
丈
(
だけ
)
沢山
(
たくさん
)
の
酒
(
さけ
)
や
肴
(
さかな
)
を
盗
(
と
)
つて
来
(
き
)
乍
(
なが
)
ら、
219
又
(
また
)
人
(
ひと
)
に
取
(
と
)
られるのも
残念
(
ざんねん
)
だ。
220
此
(
この
)
松
(
まつ
)
の
下
(
した
)
で
鱈腹
(
たらふく
)
喰
(
く
)
つて、
221
新団体
(
しんだんたい
)
を
組織
(
そしき
)
して
活躍
(
くわつやく
)
するのだ。
222
どうだ
丙
(
へい
)
、
223
丁
(
てい
)
、
224
戊
(
ぼ
)
、
225
賛成
(
さんせい
)
だらう』
226
丙
(
へい
)
丁
(
てい
)
戊
(
ぼ
)
『
賛成
(
さんせい
)
々々
(
さんせい
)
』
227
乙
(
おつ
)
『これ
丈
(
だ
)
け
四
(
よ
)
人
(
にん
)
まで
大多数
(
だいたすう
)
の
賛成
(
さんせい
)
があるのに、
228
只
(
ただ
)
一人
(
ひとり
)
異議
(
いぎ
)
を
唱
(
とな
)
へるのは、
229
俺
(
おれ
)
等
(
たち
)
の
計画
(
けいくわく
)
を
裏切
(
うらぎ
)
るものだ。
230
エー
面倒
(
めんだう
)
臭
(
くさ
)
い。
231
一
(
ひと
)
つバラしてやらうかい。
232
之
(
これ
)
も
泥棒
(
どろばう
)
の
練習
(
れんしふ
)
になり
肝玉
(
きもだま
)
が
据
(
すは
)
つていいぞ』
233
甲
(
かふ
)
『オイ、
234
コラコラそんな
無茶
(
むちや
)
な
事
(
こと
)
を
云
(
い
)
ふない。
235
俺
(
おれ
)
が
一口
(
ひとくち
)
異見
(
いけん
)
を
唱
(
とな
)
へたと
云
(
い
)
つて、
236
バラすの
何
(
なん
)
のつて、
237
余
(
あんま
)
りぢやないか』
238
乙
(
おつ
)
『あんまりも
糞
(
くそ
)
もあつたものかい。
239
貴様
(
きさま
)
は
常平生
(
つねへいぜい
)
から
大将
(
たいしやう
)
のお
髯
(
ひげ
)
の
塵
(
ちり
)
許
(
ばか
)
り
払
(
はら
)
ひやがつて、
240
俺
(
おれ
)
等
(
たち
)
の
悪口
(
わるくち
)
許
(
ばか
)
り
告
(
つ
)
げた
奴
(
やつ
)
だ。
241
サア
三
(
さん
)
人
(
にん
)
の
兄弟
(
きやうだい
)
、
242
此奴
(
こいつ
)
をヤツつけて
了
(
しま
)
へ』
243
ここに
四
(
よ
)
人
(
にん
)
は
甲
(
かふ
)
一
(
いち
)
人
(
にん
)
を
取
(
と
)
りまいて、
244
四辺
(
あたり
)
の
棒千切
(
ぼうちぎれ
)
を
拾
(
ひろ
)
ひ
打
(
う
)
ちかかつた。
245
甲
(
かふ
)
は
矢庭
(
やには
)
に
木片
(
きぎれ
)
を
拾
(
ひろ
)
ひ、
246
力
(
ちから
)
限
(
かぎ
)
りに
防禦
(
ばうぎよ
)
に
力
(
つと
)
めてゐる。
247
かかる
所
(
ところ
)
へ
四辺
(
あたり
)
の
木精
(
こだま
)
を
響
(
ひび
)
かして
聞
(
きこ
)
えて
来
(
き
)
たのは
宣伝歌
(
せんでんか
)
の
声
(
こゑ
)
であつた。
248
五
(
ご
)
人
(
にん
)
は
各自
(
めいめい
)
傷
(
きず
)
だらけになつたまま、
249
その
場
(
ば
)
に
平太
(
へた
)
つて
了
(
しま
)
つた。
250
ハールは
伊太彦
(
いたひこ
)
に
従
(
したが
)
ひ、
251
ここ
迄
(
まで
)
やつて
来
(
き
)
て
五
(
ご
)
人
(
にん
)
の
男
(
をとこ
)
が
倒
(
たふ
)
れてゐるのに
不審
(
ふしん
)
を
起
(
おこ
)
し、
252
わざわざ
松
(
まつ
)
の
木
(
き
)
の
根元
(
ねもと
)
に
寄
(
よ
)
り
道
(
みち
)
して
調
(
しら
)
べて
見
(
み
)
ると、
253
今
(
いま
)
迄
(
まで
)
使
(
つか
)
つて
居
(
ゐ
)
た
五
(
ご
)
人
(
にん
)
の
部下
(
ぶか
)
であつた。
254
ハールは
大喝
(
だいかつ
)
一声
(
いつせい
)
、
255
目
(
め
)
を
剥
(
む
)
き
乍
(
なが
)
ら、
256
ハール『こらツ、
257
者共
(
ものども
)
、
258
何
(
なに
)
を
致
(
いた
)
して
居
(
を
)
るか』
259
甲
(
かふ
)
『ハイ、
260
親方
(
おやかた
)
、
261
よう
来
(
き
)
て
下
(
くだ
)
さいました。
262
今
(
いま
)
四
(
よ
)
人
(
にん
)
の
奴
(
やつ
)
め、
263
貴方
(
あなた
)
や
大親分
(
おほおやぶん
)
に
対
(
たい
)
し、
264
謀反
(
むほん
)
の
相談
(
さうだん
)
致
(
いた
)
しましたので、
265
私
(
わたし
)
が
意見
(
いけん
)
しました
所
(
ところ
)
、
266
大変
(
たいへん
)
に
腹
(
はら
)
を
立
(
た
)
て、
267
殺
(
ころ
)
してやらうと
云
(
い
)
つて
斯
(
こ
)
んな
目
(
め
)
に
会
(
あ
)
はせました。
268
私
(
わたし
)
も
力
(
ちから
)
一杯
(
いつぱい
)
戦
(
たたか
)
ひ、
269
血
(
ち
)
みどろになつて
居
(
を
)
ります
所
(
ところ
)
へ、
270
恐
(
おそ
)
ろしい
宣伝歌
(
せんでんか
)
が
聞
(
きこ
)
えましたので、
271
誰
(
たれ
)
も
尻餅
(
しりもち
)
をついて
身動
(
みうご
)
きが
出来
(
でき
)
ぬやうになつたのです。
272
何卒
(
どうぞ
)
副親分
(
ふくおやぶん
)
様
(
さま
)
、
273
私
(
わたし
)
を
助
(
たす
)
けて
下
(
くだ
)
さいませ』
274
ハール『ア、
275
お
前
(
まへ
)
はオスだつたな。
276
そして
其処
(
そこ
)
に
倒
(
たふ
)
れてゐる
奴
(
やつ
)
は、
277
メスにキス、
278
バツタにイナゴだな。
279
こりやこりやメス、
280
キス、
281
バツタにイナゴ、
282
その
顔
(
かほ
)
は
何
(
なん
)
だ。
283
ヤツパリ
貴様
(
きさま
)
は
相変
(
あひかは
)
らず
泥棒
(
どろばう
)
をやらうとするのか。
284
もういい
加減
(
かげん
)
に
改心
(
かいしん
)
したらどうだ。
285
オス
貴様
(
きさま
)
も
泥棒
(
どろばう
)
なんか、
286
悪
(
わる
)
い
事
(
こと
)
致
(
いた
)
すでないぞ』
287
オス『ヘイ、
288
泥棒
(
どろばう
)
はもう
出来
(
でき
)
ませぬか』
289
ハール『ウン、
290
何
(
なに
)
も
彼
(
か
)
も
新規
(
しんき
)
蒔
(
ま
)
き
直
(
なほ
)
しだ。
291
虎熊山
(
とらくまやま
)
の
岩窟
(
いはや
)
は
最早
(
もはや
)
亡
(
ほろ
)
びて
了
(
しま
)
ふたのだ。
292
それ
故
(
ゆゑ
)
俺
(
おれ
)
も
館
(
やかた
)
を
焼
(
や
)
かれ、
293
居
(
を
)
る
所
(
ところ
)
が
無
(
な
)
いので
俄
(
にはか
)
に
改心
(
かいしん
)
して
宣伝使
(
せんでんし
)
のお
伴
(
とも
)
をして、
294
誠
(
まこと
)
の
道
(
みち
)
の
旅
(
たび
)
をしてゐるのだ。
295
貴様
(
きさま
)
もいい
加減
(
かげん
)
に
泥棒
(
どろばう
)
商売
(
しやうばい
)
は
止
(
や
)
めたがよからうぞ』
296
メス『もしもし
副親分
(
ふくおやぶん
)
さま、
297
そりや
本当
(
ほんたう
)
ですか。
298
私
(
わたし
)
は
今
(
いま
)
、
299
貴方
(
あなた
)
には
済
(
す
)
まないが、
300
あまり
親分
(
おやぶん
)
が
横暴
(
わうばう
)
な
事
(
こと
)
をやるので、
301
実
(
じつ
)
は
愛憎
(
あいそ
)
をつかし
新団体
(
しんだんたい
)
を
組織
(
そしき
)
し、
302
今
(
いま
)
ここで
定款
(
ていくわん
)
まで
拵
(
こしら
)
へ、
303
発会式
(
はつくわいしき
)
を
終
(
をは
)
つた
所
(
ところ
)
で
厶
(
ござ
)
います。
304
そした
所
(
ところ
)
、
305
オスの
奴
(
やつ
)
、
306
反対
(
はんたい
)
を
称
(
とな
)
へるものだから、
307
此
(
この
)
様
(
やう
)
な
時勢
(
じせい
)
に
合
(
あ
)
はぬ
骨董品
(
こつとうひん
)
は
片付
(
かたづ
)
けた
方
(
はう
)
がよいと
思
(
おも
)
ひ、
308
打
(
ぶ
)
ち
のめ
さうとした
所
(
ところ
)
で
厶
(
ござ
)
います。
309
何卒
(
どうぞ
)
、
310
貴方
(
あなた
)
、
311
私
(
わたし
)
等
(
たち
)
の
団長
(
だんちやう
)
となつて
一旗
(
ひとはた
)
挙
(
あ
)
げて
下
(
くだ
)
さいますまいかな』
312
ハール『
馬鹿
(
ばか
)
云
(
い
)
ふな。
313
泥棒
(
どろばう
)
はスツカリ
廃業
(
はいげふ
)
したのだ。
314
ここに
厶
(
ござ
)
る
宣伝使
(
せんでんし
)
は
神力
(
しんりき
)
無双
(
むさう
)
の
生神
(
いきがみ
)
様
(
さま
)
だ。
315
懐
(
ふところ
)
に
夜光
(
やくわう
)
の
玉
(
たま
)
を
持
(
も
)
つて
厶
(
ござ
)
るから、
316
貴様
(
きさま
)
等
(
ら
)
の
心
(
こころ
)
の
底
(
そこ
)
は
手
(
て
)
にとる
如
(
ごと
)
く
御存
(
ごぞん
)
じだぞ』
317
メス『ハイ、
318
貴方
(
あなた
)
が
本当
(
ほんたう
)
に
廃業
(
はいげふ
)
なさつたのなら
仕方
(
しかた
)
がありませぬ。
319
私
(
わたし
)
等
(
たち
)
が
勝手
(
かつて
)
に
小団体
(
せうだんたい
)
を
作
(
つく
)
つて
商売
(
しやうばい
)
繁昌
(
はんじやう
)
のため
大活動
(
だいくわつどう
)
を
致
(
いた
)
しますから』
320
ハール『オイ、
321
やめたらどうだ。
322
そんな
事
(
こと
)
云
(
い
)
ふと
虎熊山
(
とらくまやま
)
が
破裂
(
はれつ
)
したらどうする。
323
破裂
(
はれつ
)
の
前兆
(
ぜんてう
)
として、
324
あの
通
(
とほ
)
り
噴煙
(
ふんえん
)
濛々
(
もうもう
)
と
立
(
たち
)
上
(
あが
)
つてるぢやないか。
325
あの
鳴動
(
めいどう
)
を
聞
(
き
)
け。
326
俺
(
おれ
)
等
(
たち
)
仲間
(
なかま
)
が
霊山
(
れいざん
)
を
汚
(
けが
)
したによつて、
327
山
(
やま
)
の
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
が
立腹
(
りつぷく
)
して
厶
(
ござ
)
るのだ。
328
貴様
(
きさま
)
もここで
改心
(
かいしん
)
せなくちや
虎熊山
(
とらくまやま
)
の
熔岩
(
ようがん
)
に
押
(
おし
)
潰
(
つぶ
)
されて
了
(
しま
)
ふぞ』
329
メス『
今更
(
いまさら
)
泥棒
(
どろばう
)
をやめた
所
(
ところ
)
で、
330
之
(
これ
)
と
云
(
い
)
ふ
商売
(
しやうばい
)
も
無
(
な
)
し、
331
仕方
(
しかた
)
がありませぬわ。
332
人間
(
にんげん
)
は
意志
(
いし
)
の
自由
(
じいう
)
を
有
(
いう
)
してゐますから、
333
何卒
(
どうぞ
)
私
(
わたし
)
の
意志
(
いし
)
迄
(
まで
)
は
束縛
(
そくばく
)
して
下
(
くだ
)
さいますな。
334
のう、
335
キス、
336
バツタ、
337
イナゴ、
338
さうぢやないか』
339
三
(
さん
)
人
(
にん
)
一度
(
いちど
)
に、
340
『ウン、
341
さうださうだ、
342
泥棒
(
どろぼう
)
三日
(
みつか
)
したら
味
(
あぢ
)
が
忘
(
わす
)
れられぬと
云
(
い
)
ふから、
343
今更
(
いまさら
)
やめいと
云
(
い
)
つても
止
(
や
)
められるものかい。
344
俺
(
おれ
)
等
(
たち
)
も
初
(
はじ
)
めから
泥棒
(
どろばう
)
したくはなかつたが、
345
セール、
346
ハールの
親方
(
おやかた
)
がすすめたから
初
(
はじ
)
めたのだ。
347
折角
(
せつかく
)
乍
(
なが
)
ら
348
ハール
親分
(
おやぶん
)
の
提案
(
ていあん
)
には
賛成
(
さんせい
)
する
事
(
こと
)
が
出来
(
でき
)
ませぬわい』
349
ハール『
左様
(
さやう
)
の
事
(
こと
)
を
申
(
まを
)
してゐると
今
(
いま
)
に
虎熊山
(
とらくまやま
)
が
破裂
(
はれつ
)
し、
350
貴様
(
きさま
)
等
(
ら
)
は
滅亡
(
めつぼう
)
せなくてはならぬぞ』
351
メス『ハヽヽヽ、
352
虎熊山
(
とらくまやま
)
は
昔
(
むかし
)
古来
(
こらい
)
から
噴火
(
ふんくわ
)
してゐますよ。
353
唸
(
うな
)
るのも
鳴動
(
めいどう
)
するのも
今日
(
けふ
)
に
初
(
はじ
)
まつた
事
(
こと
)
ぢやありませぬわい。
354
大
(
おほ
)
きにお
世話
(
せわ
)
さまです。
355
貴方
(
あなた
)
のやうに
泥棒心
(
どろばうごころ
)
の
俄
(
にはか
)
に
無
(
な
)
くなるやうな
腰抜
(
こしぬ
)
けには、
356
用
(
よう
)
はありませぬわ』
357
と
身体
(
からだ
)
が
丈夫
(
ぢやうぶ
)
になつたのでソロソロ
強
(
つよ
)
くなり、
358
又
(
また
)
もや
泥棒
(
どろばう
)
至上
(
しじやう
)
主義
(
しゆぎ
)
を
盛
(
さか
)
んに
述
(
の
)
べ
立
(
た
)
てる。
359
丙
(
へい
)
、
360
丁
(
てい
)
、
361
戊
(
ぼ
)
三
(
さん
)
人
(
にん
)
も
川水
(
かはみづ
)
の
流
(
なが
)
るる
如
(
ごと
)
く
泥棒
(
どろばう
)
の
有益
(
いうえき
)
なる
事
(
こと
)
をまくし
立
(
た
)
て、
362
ハールを
手古摺
(
てこず
)
らしてゐる。
363
雲
(
くも
)
にかすんだ
虎熊山
(
とらくまやま
)
の
鳴動
(
めいどう
)
は
俄
(
にはか
)
に
猛烈
(
まうれつ
)
となり、
364
大地
(
だいち
)
はビリビリビリと
震
(
ふる
)
ひ
出
(
だ
)
して
来
(
き
)
た。
365
流石
(
さすが
)
の
四
(
よ
)
人
(
にん
)
も
真青
(
まつさを
)
になつて
草
(
くさ
)
に
噛
(
か
)
ぶり
付
(
つ
)
いてゐる。
366
轟然
(
ぐわうぜん
)
たる
一発
(
いつぱつ
)
の
響
(
ひびき
)
と
共
(
とも
)
に、
367
虎熊山
(
とらくまやま
)
は
大爆発
(
だいばくはつ
)
を
来
(
き
)
たし、
368
黒煙
(
こくえん
)
天
(
てん
)
に
漲
(
みなぎ
)
り、
369
熔岩
(
ようがん
)
は
雨
(
あめ
)
の
如
(
ごと
)
く、
3691
四方
(
しはう
)
に
散乱
(
さんらん
)
し
370
数
(
すう
)
里
(
り
)
を
隔
(
へだ
)
てた
此
(
この
)
地点
(
ちてん
)
迄
(
まで
)
降
(
ふ
)
つて
来
(
き
)
た。
371
一同
(
いちどう
)
は
恐
(
おそ
)
れ
戦
(
をのの
)
いて
俄
(
にはか
)
に
心
(
こころ
)
を
翻
(
ひるがへ
)
し、
372
改心
(
かいしん
)
の
祈願
(
きぐわん
)
をなし
初
(
はじ
)
めた。
373
神
(
かみ
)
の
御恵
(
みめぐみ
)
か、
374
雨
(
あめ
)
の
如
(
ごと
)
く
降
(
ふ
)
り
来
(
きた
)
つた
巨大
(
きよだい
)
なる
熔岩
(
ようがん
)
は
一人
(
ひとり
)
も
傷
(
きず
)
つけずにをさまつて
了
(
しま
)
つた。
375
これより
一同
(
いちどう
)
は
改心
(
かいしん
)
の
尊
(
たふと
)
き
事
(
こと
)
を
悟
(
さと
)
り、
376
伊太彦
(
いたひこ
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
に
従
(
したが
)
ひお
礼
(
れい
)
詣
(
まゐ
)
りと
称
(
しよう
)
して
聖地
(
せいち
)
エルサレムへ
向
(
むか
)
ふ
事
(
こと
)
となつた。
377
(
大正一二・七・一六
旧六・三
於祥雲閣
北村隆光
録)
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