霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第一章 貞操論(ていさうろん)〔一七二五〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第68巻 山河草木 未の巻 篇:第1篇 名花移植 よみ(新仮名遣い):めいかいしょく
章:第1章 貞操論 よみ(新仮名遣い):ていそうろん 通し章番号:1725
口述日:1925(大正14)年01月28日(旧01月5日) 口述場所:月光閣 筆録者:北村隆光 校正日: 校正場所: 初版発行日:1926(大正15)年9月30日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]
昔、左守の職を追われたシャカンナは、政敵の一掃と国政への復帰を胸に、山奥に部下を集めて山賊の棟梁となり時宜を狙っていたが、天命を知り塞に火を放ち、部下を解散し、今は一人娘のスバールを老後の力となして暮らしていた。
今年十五を数えるスバール姫は、スダルマン太子の来訪より、密かに太子に恋心を抱いていた。
シャカンナはある日、スバールに尋ねる。太子がここに踏み迷って来られた際、スバールに思し召しがあったように見受けられたが、もし太子から迎えが来たら、その気があるだろうか、と。
スバールは、実は太子が「きっと迎えに来る」と約束したこと、また自分も太子のことを思っていることを明かす。
シャカンナは、娘の恋愛によって自分が再び政界に復帰することができると喜ぶ。
スバールは、父に対する孝養と、夫に対する恋愛では道が違う、と釘をさす。
曰く、今回の恋愛が成就することによって、結果的に、父に対する孝養もできるかもしれないが、恋愛は流動的なものであり、恋愛を主とする限り、父への孝養を保障することはできない。
恋愛は理知・道徳と相容れないものであるから、「父への孝養のために太子と結婚する」というような、倫理に恋愛を従属させるようなことでは、恋愛が成り立たない。
倫理や道徳にとらわれて、女の一生を霊的に抹殺されることは耐えられない。「神聖な霊魂を男子に翻弄される事は、女一人として堪えられない悲哀」
人格と人格との結合によって、初めて完全な恋愛が行われる。
恋愛は恋愛として、どこまでも自由でなければならない。
だから、もし他にもっと好きな相手ができたら、そちらに恋愛を移すのが自然の成り行きであり、結婚を理由に貞操を守れ、というのは不合理である。
倫理の観点から結婚を見るなら、女子に貞操を強要するのであれば、当然夫に対しても貞操を強要しなければならない。
しかし、恋愛の観点から結婚を見るなら、夫は女房が他の男に恋するのを押さえつけてはいけないし、妻は妻で、夫の他の女に対する恋愛を遂げさせてあげるのが、真に夫を愛するということになる。
また、一夫一婦制に対しての反論
男女が平均に生まれないため、一夫一婦制ではない国も、世界にはたくさんある。
むしろ君子的人格者はたくさんの妻を持ち、その子供を四方に配ることが、国家にとって利益になる。
道徳と恋愛を別のものとして考えることで、家庭は家庭としてうまくいき、恋愛は恋愛として自由に行われる。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる] 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2018-06-05 19:54:01 OBC :rm6801
愛善世界社版:7頁 八幡書店版:第12輯 151頁 修補版: 校定版:7頁 普及版: 初版: ページ備考:
001 樹々(きぎ)(みどり)浅倉山(あさくらやま)嫩芽(どんが)002巻紙(まきがみ)(ひろ)げて(いち)(まい)々々(いちまい)楕円(だゑん)(した)をはみ()し、003晩春(ばんしゆん)(かぜ)()られて無言(むごん)(ささや)きをつづけて()る。
 004(はる)(をは)りとは()へ、005高地帯(かうちたい)山奥(やまおく)では都路(みやこぢ)()して(いつ)(げつ)ばかり()()(おひ)()ちも(おく)れてゐる。
006 (とら)007(おほかみ)008獅子(しし)009(くま)(うな)(ごゑ)010小鳥(ことり)百囀(ももさへづ)り、011春風(はるかぜ)木々(きぎ)(こずゑ)をもむ(おと)012それより(ほか)()くものもなき(この)山奥(やまおく)に、013(その)(むかし)タラハン(ごく)左守(さもり)(かみ)(つか)へたるシャカンナは014(とし)()いたりと(いへど)勇気(ゆうき)(むかし)(おとろ)へず、015一朝(いつてう)016(とき)()れば潜竜(せんりう)(ふち)()でて(てん)(をど)るが(ごと)く、017天下(てんか)国家(こくか)(ため)(むかし)とつたる杵柄(きねづか)(たくま)しき両腕(りやううで)国政(こくせい)(うへ)(こころ)みむとし、018数百(すうひやく)部下(ぶか)人跡(じんせき)(まれ)なる山奥(やまおく)(あつ)めて回天(くわいてん)神策(しんさく)身心(しんしん)(かたむ)けて()たが019フトした(こと)より、020()年波(としなみ)(とも)天命(てんめい)()山寨(さんさい)()(はな)ち、021数多(あまた)部下(ぶか)解散(かいさん)し、022今年(ことし)十五(じふご)(はる)(むか)へた最愛(さいあい)一女(いちぢよ)スバール(ひめ)老後(らうご)(ちから)となして023一陽(いちやう)来復(らいふく)(とき)()ちつつあつた。
024 (あたか)(てん)から()つて()いたる(ごと)(おも)ひがけなきタラハン(ごく)のスダルマン太子(たいし)025(わが)政敵(せいてき)なる左守(さもり)(せがれ)0251アリナと(とも)026雨露(あめつゆ)(しの)ぐに()ゆべき茅屋(あばらや)(やぶ)()(たた)くに()ひ、0261仮寝(うたたね)(ゆめ)(やぶ)られ027(じふ)(ねん)()りにて主従(しゆじゆう)対面(たいめん)をなしたる数奇(すうき)(きは)まる運命(うんめい)に、028大旱(たいかん)になやんで(しほ)れかかりし()()029雨露(あめつゆ)(めぐ)みに()ひて、0291生々(せいせい)復活(ふくくわつ)したるが(ごと)心地(ここち)し、030日夜(にちや)(うで)(やく)してタラハン(じやう)(そら)(なが)めて再生(さいせい)活躍(くわつやく)希望(きばう)(みなぎ)らしつつあつた。
031 日頃(ひごろ)(さび)しく(かん)ずる猛獣(まうじう)(こゑ)も、032悲哀(ひあい)()ちた百鳥(ももどり)(さへづ)りも033(この)(ごろ)(なん)となく生気(せいき)溌溂(はつらつ)として(おの)出盧(しゆつろ)(うなが)すものの(ごと)く、034谷川(たにがは)のせせらぎの()にも035(こずゑ)(わた)(かぜ)()にも、036希望(きばう)(こゑ)()ちて()るやうに(かん)じられた。
037 俗臭(ぞくしう)紛々(ふんぷん)として罪悪(ざいあく)()ちたる暗黒(あんこく)社会(しやくわい)038人面(にんめん)獣心(じうしん)化物(ばけもの)(ども)白昼(はくちう)横行(わうかう)濶歩(くわつぽ)する都大路(みやこおほぢ)(ちり)にも()まぬ天成(てんせい)美人(びじん)スバール(ひめ)が、039浅倉山(あさくらやま)山奥(やまおく)040(たま)(がは)上流(じやうりう)041(きよ)(なが)れて激潭(げきたん)飛沫(ひまつ)をとばす(きし)片辺(かたほとり)042千畳(せんでふ)岩石(がんせき)(もつ)区劃(くくわく)された(かは)(ふち)043(さび)しげに()てられた、0431()()()ちの茅屋(あばらや)044(おに)をも(ひし)(ちち)のシャカンナと(とも)に、045無心(むしん)生命(せいめい)(たも)ち、046千歳(ちとせ)(こけ)(たま)(はだ)(つつ)まれて、047(いま)まで社会(しやくわい)落伍(らくご)した人間(にんげん)(くづ)小盗人(こぬすと)(ども)に、048女帝(によてい)(ごと)く、049王女(わうぢよ)(ごと)くもてはやされ、050人生(じんせい)(はる)()ごすこそ、051せめてものスバール(ひめ)(こころ)(ほこ)り、052もし(この)ままにして()()でずば053(けもの)(くさ)山男(やまをとこ)(つま)となるか、054泥棒(どろばう)(つま)となつて女盗賊(をんなたうぞく)頭目(とうもく)として一生(いつしやう)(をは)るか、055(ただし)()るべき(はな)として(とき)(ちから)()()()(むす)ばず、056()()肥料(こえ)となるか、057さもなくば可惜(あたら)美人(びじん)生涯(しやうがい)真黒(まつくろ)毛脛(けずね)()(とほ)され、058果敢(はか)なき一生(いつしやう)(おく)るより(ほか)(みち)なき(ひめ)運命(うんめい)059人間(にんげん)としては(あま)りに艶麗(えんれい)()ぎたる(その)容貌(ようばう)060(ことわざ)()美人(びじん)薄命(はくめい)061結縁(むすぶ)(かみ)(にく)まれて(この)山中(さんちう)(はうむ)らるべき可惜(あたら)もの。062さりながら、063(ちち)権威(けんゐ)(わが)()(とし)(わか)きに()ぎたるを(さいは)ひ、064悪性(あくしやう)(をとこ)暴力(ばうりよく)()()(まくら)犠牲(ぎせい)にもならず、065今日(こんにち)十五(じふご)(はる)まで()(をか)されず、066(れい)(もてあそ)ばれず、067春秋(しゆんじう)(おく)(むか)へして()たのは、068せめてもの()少女(せうぢよ)にとつては(さいはひ)である。069(ろく)(さい)(はる)より父親(てておや)()(そだ)てられ070浅倉谷(あさくらだに)清流(せいりう)071(いは)にせかるる(たに)淵瀬(ふちせ)水鏡(みづかがみ)はあり(なが)ら、072()()でる(ごと)(なが)(かしら)黒髪(くろかみ)無雑作(むざふさ)にクルクルとまきつけて(むす)び、073浮世(うきよ)(かぜ)(ひびき)さへ()らず、074もし(ひと)あつて(この)美人(びじん)都大路(みやこおほぢ)真中(まんなか)につき()さうものなら、075万金(まんきん)(つひや)しても()られぬ(はず)(たま)()べたる(ごと)(かひな)(すね)(あらは)惜気(をしげ)もなく076タニグク(おろし)()()()()(くづ)(もてあそ)ばれ、077一片(いつぺん)人工(じんこう)(ほどこ)さず、078天成(てんせい)そのままの(たま)(はだ)(この)山奥(やまおく)(よこ)たへ、079(ひま)ある(とき)は、080獅子(しし)081(うさぎ)安息所(あんそくしよ)たる山林(さんりん)()()つて、082(たきぎ)背負(せお)ひ、083炊事(すゐじ)万端(ばんたん)まめまめしく(ちち)労苦(らうく)(たす)けて()た。084(べに)白粉(おしろい)香油(かうゆう)(など)補助(ほじよ)(てき)粧飾品(さうしよくひん)(うま)れて以来(このかた)085()(こと)もなく、086()につけた(こと)もない、087(ただ)惟神(かむながら)のままに生立(おひた)つた。088原野(げんや)()(にほ)(はな)(よそほひ)(この)山奥(やまおく)人知(ひとし)れずさらすのは、089宛然(さながら)造化(ざうくわ)技巧(ぎかう)をこらして(つく)()げた天真(てんしん)美貌(びばう)090どこへ(ころ)がしても(たま)(たま)091如何(いか)粗末(そまつ)でも蘭麝(らんじや)蘭麝(らんじや)()(そな)ふる道理(だうり)092どこともなく()ふに()はれぬ(ゆか)()がある。093蔭裏(かげうら)(まめ)時節(じせつ)()れば(はな)(ひら)()(むす)道理(だうり)094今年(ことし)十五(じふご)(はる)(むか)へたスバール(ひめ)095天極(てんごく)紫微宮(しびきう)より(くだ)らせ(たま)ひしエンゼルにも(ひと)しきスダルマン太子(たいし)の、096どこともなく雄々(をを)しき(をとこ)らしき(ゆか)しき容貌(ようばう)(その)謦咳(けいがい)(せつ)してより、097(とき)ならぬ(かほ)紅葉(もみぢ)()らし、098梅花(ばいくわ)一輪(いちりん)春陽(しゆんやう)()うて(ほころ)()めし心地(ここち)099子供心(こどもごころ)にも(こひ)てふものの(あや)しき魔物(まもの)捕捉(ほそく)さるるに(いた)つた。100(あめ)(あした)101(かぜ)(ゆふべ)102少女(せうぢよ)浅倉谷(あさくらだに)清流(せいりう)(むか)つて両手(りやうて)(あは)せ、103激湍(げきたん)飛沫(ひまつ)(たけ)(くる)有様(ありさま)()てはスダルマン太子(たいし)雄々(をを)しき御心(みこころ)(あが)め、104(きよ)溪流(けいりう)(なが)めては太子(たいし)御心(みこころ)(きよ)(かがみ)(はい)し、105小鳥(ことり)(こゑ)106(こずゑ)(わた)(かぜ)()太子(たいし)(あま)言葉(ことば)(ごと)(おも)はれ、107(はやし)()(にほ)(みどり)108(くれなゐ)109(しろ)110(あか)111黄色(きいろ)(はな)(なが)めては太子(たいし)(おん)(かんばせ)(しの)び、112満天(まんてん)星光(せいくわう)(あつ)して(のぼ)月影(つきかげ)(たい)しては、113あの円満(ゑんまん)なる(つき)(かんばせ)(まさ)しく太子(たいし)(きよ)き、114やさしき(おん)姿(すがた)115(わが)生命(せいめい)(つな)(あこ)がれ、116(もの)(せつ)し、117(こと)()れ、118森羅(しんら)万象(ばんしやう)(ことごと)く、119(いつ)として太子(たいし)(こゑ)ならざるはなく、120太子(たいし)姿(すがた)ならざるはなき、121(ふか)くも(こひ)(やみ)滝津瀬(たきつせ)のおちくる(ごと)強度(きやうど)(いきほひ)(もつ)122千尋(ちひろ)(ふか)(そこ)(しづ)()くのであつた。
123 シャカンナはスバール(ひめ)(この)(ごろ)様子(やうす)の、124如何(いか)にも()()ちぬに(こころ)(なや)ませ、125(むすめ)(おや)として、126あらむ(かぎ)りの思索(しさく)(めぐ)らし、127時々(ときどき)溜息(ためいき)()(こと)さへあつた。128(ある)(とき)シャカンナはスバール(ひめ)(むか)ひ、129(すこ)しく(こゑ)(ひそ)め、130(ひめ)(かほ)(のぞ)くやうにして頬杖(ほほづゑ)をつき(なが)ら、
131シャカンナ『スバール(ひめ)よ、132(まへ)今年(ことし)十五(じふご)(はる)(むか)へた年頃(としごろ)(むすめ)133(この)(おや)として自分(じぶん)もお(まへ)()()るにつけ、134可惜(あたら)名玉(めいぎよく)(この)山奥(やまおく)(うづ)()くはないのだ。135(わし)一旦(いつたん)左守(さもり)(かみ)職掌(しよくしやう)退(しりぞ)136君側(くんそく)(わだかま)奸邪(かんじや)侫人(ねいじん)(うち)(はら)137タラハン(ごく)城下(じやうか)安寧(あんねい)秩序(ちつじよ)(たも)ち、138(いつ)王家(わうけ)のため、139(いつ)国家(こくか)万民(ばんみん)のため140時節(じせつ)()つて一臂(いつぴ)(ちから)(ふる)つて()むと141(この)山奥(やまおく)山賊(さんぞく)(ども)()(あつ)め、142捲土(けんど)重来(ぢうらい)時期(じき)()つて()た。143()(こと)(ほと)んど(じふ)(ねん)144されど数多(あまた)部下(ぶか)(あつ)まつて()ても145(いち)(にん)として(こころ)(そこ)(うち)()かし、1451大業(たいげふ)遂行(すゐかう)(たい)片腕(かたうで)(ちから)になるものも()()ない。146それがため(ちち)はホトホト()(なか)(いや)になり、147(まへ)()(とほ)り、148タニグク(だに)山寨(さんさい)()(はな)つて、149玄真坊(げんしんばう)(あと)()つて()部下(ぶか)不在中(ふざいちう)150(この)浅倉谷(あさくらだに)(かく)()に、1501(まへ)二人(ふたり)佗住居(わびずまゐ)151味気(あぢき)なき余生(よせい)(おく)らむものと覚悟(かくご)()めて()たが、152雄心(ゆうしん)勃々(ぼつぼつ)として脾肉(ひにく)(たん)()へず、153一層(いつそう)のこと(この)()(おも)()にタラハン(じやう)(ただ)一騎(いつき)()()み、154君側(くんそく)(わだか)まる悪人輩(あくにんばら)(うち)(ほろ)ぼし、155国家(こくか)(わざはひ)(のぞ)き、156(わし)はその()自殺(じさつ)をなして(つみ)(しや)せむかと、157幾度(いくたび)かとつおいつ思案(しあん)はして()たが、158(てん)にも()にも(おや)一人(ひとり)159()一人(ひとり)其方(そなた)(あと)(のこ)して先立(さきだ)たむも、160其方(そなた)(たい)して不憫(ふびん)であり、161大悪人(だいあくにん)(むすめ)と、162其方(そなた)()(ひと)後指(うしろゆび)さされるのも心苦(こころぐる)しく、163それ(ゆゑ)164(をとこ)らしき(はたら)きも()なさず、165躊躇(ちうちよ)逡巡(しゆんじゆん)女々(めめ)しくも今日(けふ)(まで)166可惜(あたら)光陰(くわういん)(むな)しく(つひや)して()たのだ。167(しか)るに(てん)(めぐ)みか、168()(すく)ひか、169ゆくりなくも先月(あとげつ)今日(けふ)今頃(いまごろ)170(ゆめ)()(ごと)きスダルマン太子(たいし)(わが)茅屋(あばらや)()(まよ)つて()られ、171金枝(きんし)玉葉(ぎよくえふ)(おん)()(もつ)て、172(この)茅屋(あばらや)一夜(いちや)()ごされたのも(なに)かの(かみ)()引合(ひきあは)せであらう。173つらつら(おも)ふに、174(かみ)(さま)(この)シャカンナに(いち)()(はや)(やま)()(みやこ)(のぼ)つて、175国家(こくか)危急(ききふ)(すく)へとの暗示(あんじ)のやうにも(かんが)へられる。176それについては、177其方(そなた)(さいは)ひに()にも(まれ)なる美人(びじん)178万々一(まんまんいち)冥加(みやうが)(かな)つて太子(たいし)(さま)のお(こころ)()したならば、179それこそ(ちち)大望(たいまう)にとつても国家(こくか)にとつても(これ)(くらゐ)都合(つがふ)()(こと)はない。180(しか)しながら何事(なにごと)人間(にんげん)運命(うんめい)左右(さいう)されるものだから、181窮極(きうきよく)する(ところ)到底(たうてい)人間力(にんげんりき)ではいかないだらう。182そして(また)男女(だんぢよ)関係(くわんけい)()ふものは(じつ)不可思議(ふかしぎ)のもので、183(なに)(ほど)太子(たいし)(さま)がお(まへ)寵愛(ちようあい)(あそ)ばしても、184(まへ)(こころ)太子(たいし)恋慕(れんぼ)する(こころ)がなければ、185無理(むり)(おや)権威(けんゐ)(もつ)結婚(けつこん)()ひる(わけ)にも()かず、186(ちち)()より観察(くわんさつ)すれば、187どうやら太子(たいし)(さま)は、188其方(そなた)思召(おぼしめし)があるやうに(かん)ぜられた。189(しか)(なが)結婚(けつこん)恋愛(れんあい)によつて成立(せいりつ)するものだから、190(なに)(ほど)少女(せうぢよ)だと()つても、191(わが)(むすめ)だと()つても、192(これ)(ばか)りは(ちち)自由(じいう)にはならない。193(まへ)(かんが)へはどう(おも)つてゐるか、194遠慮(ゑんりよ)会釈(ゑしやく)()らぬ。195()つても()れぬ親娘(おやこ)(なか)だ。196そして、197(まへ)一生(いつしやう)一代(いちだい)大事件(だいじけん)だ。198(あらかじ)め、199(まへ)(こころ)(この)(ちち)()かしてくれ。200(まへ)(こころ)()いた(うへ)201(この)(ちち)にも(また)劃策(くわくさく)する(ところ)があるから』
202 スバール(ひめ)少女(せうぢよ)似合(にあ)はず、203性質(せいしつ)怜悧(れいり)(やま)(おく)(そだ)(なが)ら、204人情(にんじやう)機微(きび)比較(ひかく)(てき)(つう)じてゐた。205そして十二三(じふにさん)(さい)(ころ)より、206恋愛(れんあい)()(こと)趣味(しゆみ)(かん)じ、207数百(すうひやく)部下(ぶか)面貌(めんばう)一々(いちいち)点検(てんけん)して、208顔容(かほかたち)や、209性質(せいしつ)起居(たちゐ)振舞(ふるまひ)(とう)注意(ちうい)し、210男子(だんし)(たい)する一種(いつしゆ)批評眼(ひひやうがん)(そな)へて()た。211(しか)(なが)ら、212どの(をとこ)()ても心性(しんせい)下劣(げれつ)な、213容貌(ようばう)野卑(やひ)山猿(やまざる)(てき)人間(にんげん)(ばか)りで、214スバールが一生(いつしやう)(まか)(をつと)として(えら)むべき(たま)(ひと)つも見当(みあた)らなかつた。215(ろく)(さい)(とき)216タラハン(じやう)(あと)に、217(この)山奥(やまおく)(ちち)()(そだ)てられ、218(あら)くれ(をとこ)奇怪(きくわい)面貌(めんばう)をした小人輩(せうじんばら)(ばか)りを(なが)めて()(かれ)は……()(なか)(をとこ)()ふものは(すべ)(この)(やう)(けだもの)めいたものだらうか。219(いづ)れの人間(にんげん)()ても左右(さいう)()不揃(ふそろ)ひであつたり上下(うへした)になつてゐたり、220鼻柱(はなばしら)(みぎ)(まが)つたり(ひだり)(まが)つたり、221(くち)(かたち)から()()具合(ぐあひ)222起居(たちゐ)振舞(ふるまひ)(まで)()て、223……(じつ)男子(だんし)てふものは(なさけ)ないものだ。224(この)()(なか)何故(なにゆゑ)225こんな化物(ばけもの)(ばか)()んでゐるのだらう。226あゝ(なさけ)ない浮世(うきよ)だな……と、227いつも落胆(らくたん)失望(しつばう)(ふち)(しづ)んでゐたが、228フトした(こと)からタラハン(じやう)太子(たいし)(きみ)(めぐ)()ひ、229(その)気高(けだか)姿(すがた)(あこ)がれ、230(また)左守(さもり)(せがれ)アリナの容貌(ようばう)()(がた)(ところ)がある。231(これ)(おも)へば、232……(いま)(まで)(じふ)年間(ねんかん)(なが)めて()たやうな屑男(くづをとこ)(ばか)りではあるまい、233()(なか)には(ひやく)(にん)一人(ひとり)二人(ふたり)人間(にんげん)らしい(つら)をした(をとこ)もあるだらう。234太子(たいし)(さま)がお(かへ)りの(とき)235自分(じぶん)()(かた)(にぎ)つて、236『これ、237スバール、238屹度(きつと)(むか)へに()るよ』と(みみ)(そば)(ささや)(あそ)ばした(とき)(うれ)しさ。239(しか)し、240かやうな山奥(やまおく)(そだ)つた世間(せけん)()らずの(わらは)をば、241どうして永遠(ゑいゑん)寵愛(ちようあい)して(くだ)さる道理(だうり)があらう。242地位(ちゐ)()容貌(ようばう)()ひ、243名望(めいばう)()ひ、244比稀(たぐひまれ)なる若君(わかぎみ)なれば245都大路(みやこおほぢ)には立派(りつぱ)(をんな)沢山(たくさん)あるだらう。246そして太子(たいし)(さま)権威(けんゐ)富力(ふりよく)によらば、247いかなる天下(てんか)美人(びじん)も、248引寄(ひきよ)(たま)(こと)出来(でき)るであらう。249太子(たいし)(さま)は、250どこ(まで)(こひ)しい。251()ても()めても(わす)れられぬ。252(なん)だか(この)(ごろ)(わが)(こころ)さへボンヤリとして()たやうだ。253(しか)(なが)都大路(みやこおほぢ)()て、254(さひは)ひに太子(たいし)(さま)()寵愛(ちようあい)(かうむ)つた(ところ)でさへ、255(ゆめ)()朝顔(あさがほ)(はな)256(あさ)(つゆ)(かわ)けば(ゆふべ)(しほ)るる道理(だうり)257可惜(あたら)(つみ)(つく)るよりも一層(いつそう)(こと)258(わが)()ふる(こころ)太子(たいし)(さま)(たてまつ)り、259一生(いつしやう)(みさを)(まも)つて(ちち)(とも)(この)山奥(やまおく)()ちむか……と、260雄々(をを)しくも(こひ)(ほのほ)(みづか)()してゐた。261そこへ(ちち)のシャカンナが意味(いみ)ありげな言葉(ことば)()いて、262スバール(ひめ)(なん)とはなしに前途(ぜんと)有望(いうばう)のやうな(かん)じがムラムラと()()で、263俯向(うつむ)(なが)ら、264(かほ)(くれなゐ)()め、265(はづ)かしげに()ふ。
266『お(とう)(さま)267遠慮(ゑんりよ)会釈(ゑしやく)なく(おも)つてゐる(こと)()へと(おつしや)いましたから、268今日(けふ)(わらは)一生(いつしやう)一大事(いちだいじ)269(なに)もかも(おも)つてゐる(こと)(まをし)()げます。270どうか(しか)らないやうにして(くだ)さい』
271シャ『(なに)272(しか)るものか。273どんな(こと)でも(おも)つた(こと)(ちち)(まへ)()つて()るがよい』
274ス『そんなら(まをし)()げます。275もうかうなつてはお(かく)(まを)すも(およ)びませぬから、276太子(たいし)(さま)がお(かへ)りの(とき)277(わらは)()(かた)(にぎ)り「スバール(ひめ)よ、278(しばら)()つてゐよ。279屹度(きつと)(むか)へに()てやる」と仰有(おつしや)いました。280自惚(うぬぼれ)かは()りませぬが、281太子(たいし)(さま)は……あの(わらは)にラブしてゐらつしやるでせう。282そして(わらは)も……』
283シャ『アツハヽヽヽ、284さうだらう 285さうだらう、286やつぱり(ちち)(にら)んだ(とほ)りだ。287そして太子(たいし)(さま)(むか)へに()(くだ)さつたら、288(まへ)(よろこ)んで()くだらうな』
289ス『ハイ、290それは(まゐ)らぬ(こと)(ござ)いませぬが、291(なん)()つてもラブは神聖(しんせい)なもので(ござ)いますから、292余程(よほど)(かんが)へさして(いただ)かねばなりませぬ』
293シャ『ウン、294それもさうだな。295(なん)()つても一国(いつこく)主権者(しゆけんしや)におなり(あそ)ばす()(かた)296至尊(しそん)至貴(しき)にして(をか)すべからざる王太子(わうたいし)(さま)()になるのは297(まへ)(をんな)としては無上(むじやう)出世(しゆつせ)だ。298(まへ)(ため)()(ちち)枯木(かれき)(はな)()時節(じせつ)()るのだから、299どうか太子(たいし)(さま)思召(おぼしめし)がお(まへ)をどこ(まで)(きさき)にすると()(かんが)へが(きま)つたならば、300(ちち)(ため)にもなる(こと)だから(よろこ)んで()つてくれるだらうな』
301ス『(ちち)(ため)には孝養(かうやう)(つく)すを(もつ)()たるものの(つと)めと(いた)します。302(ちち)(ため)恋愛(れんあい)(ため)とは(みち)(ちが)ふぢやありませぬか。303もし(わらは)恋愛(れんあい)完全(くわんぜん)成就(じやうじゆ)したのならば、304副産物(ふくさんぶつ)としてお(とう)(さま)幸運(かううん)(むか)はれるでせう。305(とう)さまの幸運(かううん)はつまり()恋愛(れんあい)成就(じやうじゆ)するからでせう。306(わらは)はお(とう)(さま)(たい)しては孝養(かうやう)(しゆ)とし、307(をつと)(たい)しては恋愛(れんあい)(しゆ)とするものです。308それが至当(したう)道理(だうり)(かんが)へてゐます』
309シャ『アツハヽヽヽ、310何時(いつ)()に、311そんな理窟(りくつ)(おぼ)えたのだ。312(をつと)(しゆ)(ちち)(じう)とはチツとひどいぢやないか。313それでは倫理学(りんりがく)(じやう)由々(ゆゆ)しき大問題(だいもんだい)だ』
314ス『そんならお(とう)(さま)孝養(かうやう)(しゆ)として恋愛(れんあい)一生(いつしやう)(はうむ)りませう。315その(かは)316(この)山奥(やまおく)一生(いつしやう)()()てる覚悟(かくご)(ござ)いますから』
317シャ『そんな、318ならぬ(こと)()ふものぢやない。319(おや)()(でう)について太子(たいし)(さま)のお(きさき)になれば320孝養(かうやう)恋愛(れんあい)完全(くわんぜん)成就(じやうじゆ)するぢやないか』
321ス『孝養(かうやう)恋愛(れんあい)両方(りやうはう)円満(ゑんまん)成功(せいこう)すれば、322こんな結構(けつこう)(よろこ)びは(ござ)いませぬ。323(しか)(なが)()(なか)には、324さう(あつら)(むき)()かない(こと)沢山(たくさん)あるでせう。325(すべ)恋愛(れんあい)なるものは愛情(あいじやう)から()るものです。326愛情(あいじやう)はどこどこ(まで)拡大(くわくだい)すべきもの、327(また)流動性(りうどうせい)()びてゐるものですから、328倫理(りんり)道徳(だうとく)知識(ちしき)(もつ)制縛(せいばく)()るものではありませぬ。329もし恋愛(れんあい)理智(りち)(くは)はれば恋愛(れんあい)そのものは、330(せん)()遠方(ゑんぱう)()()してゐるぢやありませぬか。331智性(ちせい)意性(いせい)(すなは)理智(りち)愛情(あいじやう)とは到底(たうてい)両立(りやうりつ)しないものでせう』
332シャ『何時(いつ)()にか333(たれ)(をし)へないのに、334こましやくれたものだな。335ほんとに「油断(ゆだん)のならぬは(むすめ)だ」と()ふが、336(この)(ちち)もお(まへ)(はなし)()いて荒肝(あらぎも)(ひし)がれて(しま)つたよ』
337ス『お(とう)さまは昔気質(むかしかたぎ)でお(つもり)(すこ)(ふる)出来(でき)てゐますから、338恋愛(れんあい)問題(もんだい)(など)容喙(ようかい)なさる資格(しかく)はありますまいよ。339どうか(この)問題(もんだい)(わらは)意志(いし)(まか)して(くだ)さいませ。340(ふる)倫理(りんり)道徳説(だうとくせつ)(とら)はれて341可惜(あたら)(をんな)一生(いつしやう)霊的(れいてき)抹殺(まつさつ)される(こと)()へられませぬ。342神聖(しんせい)霊魂(れいこん)男子(だんし)翻弄(ほんろう)される(こと)343(をんな)一人(ひとり)として()へられない悲哀(ひあい)ですから、344仮令(たとへ)太子(たいし)(さま)(わらは)寵愛(ちようあい)して(くだ)さるにした(ところ)で、345(わらは)太子(たいし)(さま)以上(いじやう)(あい)する男子(だんし)(あら)はれたとすれば、346その(とき)はお(とう)(さま)はどう(おも)ひますか』
347シャ『これは()しからぬ。348(をんな)三界(さんがい)(いへ)なし」と()つて、349(をつと)(いへ)(とつ)いだ(とき)は、350いかなる不幸(ふかう)不満(ふまん)(こら)(しの)ばねばならぬ。351そして(しうと)(しうとめ)によく(つか)へ、352(おや)(をつと)無理(むり)平気(へいき)甘受(かんじゆ)せねばならぬものだ。353それが(をんな)として(もつと)(たふと)(つと)めだ。354その(かんが)へがなくちや到底(たうてい)(をんな)として()(こと)出来(でき)ないぞ。355それが(をんな)貞操(ていさう)だからのう』
356ス『ホヽヽヽ、357それだからお(とう)さまは(あたま)(ふる)いと()ふのですよ。358男女(だんぢよ)同権(どうけん)ぢやありませぬか。359男子(だんし)一個(いつこ)人格者(じんかくしや)ならば、360(をんな)だつてやつぱり一個(いつこ)人格者(じんかくしや)でせう。361人格(じんかく)人格(じんかく)との結合(けつがふ)によつて、362(はじ)めて完全(くわんぜん)恋愛(れんあい)(おこな)はれ、363結婚(けつこん)成立(せいりつ)するのでせう。364恋愛(れんあい)恋愛(れんあい)として、365どこ(まで)自由(じいう)でなけれねば、366結婚(けつこん)()関門(くわんもん)通過(つうくわ)した(をんな)(ほとん)奴隷(どれい)(てき)牢獄(らうごく)(とう)ぜられたやうなものです。367男子(だんし)()すつぽう(おの)(あい)する(をんな)幾人(いくにん)翻弄(ほんろう)し、368(をんな)一人(ひとり)貞操(ていさう)(まも)れと()ふのは不道理(ふだうり)至極(しごく)なやり(かた)ぢやありませぬか。369(たと)へば太子(たいし)(さま)(わらは)をラブし、370(わらは)太子(たいし)(さま)此上(こよ)なくラブしてる(あひだ)は、371(たがひ)貞操(ていさう)(たも)たれ、372完全(くわんぜん)結婚(けつこん)目的(もくてき)(たつ)するでせう。373もし太子(たいし)(さま)(おい)(わらは)以上(いじやう)(あい)する(をんな)出来(でき)(とき)は、374太子(たいし)恋愛(れんあい)(すで)(すで)(わらは)()つて()(をんな)(うつ)つてるぢやありませぬか。375それでも(わらは)(こひ)犠牲者(ぎせいしや)として霊的(れいてき)死者(ししや)位置(ゐち)(あま)んぜねばなりませぬか。376そんな不合理(ふがふり)(こと)が、377どこに(ござ)いませうぞ。378(これ)(はん)する場合(ばあひ)(すなは)(わらは)太子(たいし)(さま)以上(いじやう)恋愛(れんあい)する男子(だんし)(あら)はれた(とき)は、379(また)(その)男子(だんし)恋愛(れんあい)(うつ)すのは恋愛(れんあい)そのものにとり自然(しぜん)成行(なりゆき)でせう』
380シャ『オイ、381(むすめ)382(なん)()馬鹿(ばか)(こと)()ふか。383(たれ)にそんな悪知恵(わるぢゑ)をつけられたのだ』
384ス『ハイ、385(わらは)良心(りやうしん)が、386さう(ささや)いてゐます。387あのトンク霊界物語に「トンク」という名の人物は複数出るが、スバール姫の絡みで出るのは初めてである。山奥に一緒に住んでいてその後姿を消した「コルトン」の間違いか?だつて、388(わらは)始終(しじう)そんな(はなし)()かして()れましたよ』
389シャ『エー、390トンクの野郎(やらう)391(ろく)でもない(こと)(たましひ)()はらない愛娘(まなむすめ)()()みやがるものだから、392(むすめ)(こころ)白蟻(しらあり)がついて瑕物(きずもの)にして(しま)ひやがつた。393表面(うはべ)からは天成(てんせい)美人(びじん)も、394(はら)(なか)からは悪魔(あくま)(すで)()ぐつてゐる。395こんなものを(おそ)(おほ)くも太子(たいし)(つま)(たてまつ)(こと)出来(でき)ない。396エー、397(こま)つた(やつ)だな』
398(うで)()み、399(ふと)吐息(といき)をつく。
400ス『ホヽヽヽ、401(とう)さま、402(なん)でもない問題(もんだい)ぢやありませぬか。403よく(かんが)へて御覧(ごらん)なさい。404女子(ぢよし)ばかりに貞操(ていさう)強要(きやうえう)して男子(だんし)貞操(ていさう)強要(きやうえう)せないのは家庭(かてい)紊乱(びんらん)(もとゐ)となり、405()いては国家(こくか)破滅(はめつ)(きた)源泉(げんせん)となるものですよ。406女子(ぢよし)貞操(ていさう)必要(ひつえう)なれば男子(だんし)にも貞操(ていさう)必要(ひつえう)でせう。407もし(をつと)たるもの408(その)(つま)(ほか)(つま)(まさ)つて(あい)する女子(ぢよし)出来(でき)409(ひそ)かに恋愛(れんあい)(あぢ)ははむとする場合(ばあひ)410その(つま)は、411その(をつと)(たい)して叱言(こごと)()つたり、412悋気(りんき)をしてはいけませぬ。413(しん)(をつと)(あい)するのならば(をつと)意志(いし)(まか)すのが(つま)たるものの雅量(がりやう)ぢやありませぬか。414女房(にようばう)(こひ)(をつと)強圧(きやうあつ)(てき)におさへ415自分(じぶん)無理(むり)(あい)せよ」と(せま)打擲(ちやうちやく)したりして「自分(じぶん)絶対(ぜつたい)(てき)(あい)せよ」と()ふのは(けつ)して理解(りかい)ある男子(だんし)とは()へませぬ。416それ(くらゐ)雅量(がりやう)がなくては、417どこに男子(だんし)価値(かち)がありますか。418(また)419(つま)(つま)で、420自分(じぶん)(あい)する(をつと)が、421その(つま)よりも(あい)する(をんな)出来(でき)(とき)422(をつと)(あい)する恋愛(れんあい)()げさしてこそ、423(しん)(をつと)(あい)すると()(こと)になるのでせう。424(をつと)(をんな)()より(かく)(しの)んで(わづか)恋愛(れんあい)(あぢ)はひ、425(つま)(つま)(また)ヒヤヒヤビクビクし(なが)(ほか)(をとこ)恋愛(れんあい)(あぢ)はふやうな(こと)で、426どうして家庭(かてい)円満(ゑんまん)()きませう』
427シャ『馬鹿(ばか)()ふな、428そりや畜生(ちくしやう)のする(こと)だ。429(おやぢ)勝手(かつて)女房(にようばう)以外(いぐわい)(をんな)()ち、430(をんな)(をつと)以外(いぐわい)(をとこ)をもち、431そんな不仕鱈(ふしだら)(こと)して家庭(かてい)円満(ゑんまん)(たも)たれるか。432家庭(かてい)円満(ゑんまん)()いて(あき)れるぢやないか』
433ス『ホヽヽヽ、434(とう)さまの没分暁漢(わからずや)には(こま)つて(しま)ふわ。435(をつと)(つま)恋愛(れんあい)嫉妬(しつと)したり妨害(ばうがい)したり、436(つま)(をつと)恋愛(れんあい)嫉妬(しつと)したり妨害(ばうがい)する(など)は、437(じつ)卑怯(ひけふ)未練(みれん)()ふべきものです。438人格(じんかく)(そな)へたもののなすべき(こと)ぢやありませぬ。439(この)タラハン(ごく)(くに)(ちひ)さいから人間(にんげん)(こころ)(まで)(ちひ)さい。440それで恋愛(れんあい)冷却(れいきやく)した(をんな)でさへ、441自分(じぶん)(はう)恋愛(れんあい)(のこ)つて()れば無理(むり)(おさ)へつけ、442一方(いつぱう)恋愛(れんあい)犠牲(ぎせい)にしようとするやうでは、443家庭(かてい)円満(ゑんまん)()きませぬよ。444(また)恋愛(れんあい)倫理(りんり)道徳(だうとく)範囲(はんゐ)(りつ)する(こと)出来(でき)ませぬ。445(とう)さまは倫理(りんり)道徳(だうとく)加味(かみ)した恋愛論(れんあいろん)ですから、446()はば(にせ)恋愛論(れんあいろん)です。447社会(しやくわい)秩序(ちつじよ)だとか、448家庭(かてい)円満(ゑんまん)だとか()つて、449煩悶(はんもん)焦慮(せうりよ)し、450(かへつ)狭苦(せまくる)しい道徳(だうとく)をふりまはして、451益々(ますます)家庭(かてい)紊乱(びんらん)し、452社会(しやくわい)秩序(ちつじよ)(みだ)すやうになるのですよ。453男子(だんし)女子(ぢよし)社会(しやくわい)一般(いつぱん)(ひと)雅量(がりやう)理解(りかい)とをもたねば454国家(こくか)家庭(かてい)円満(ゑんまん)(をさ)まるものぢやありませぬわ。455(つま)(をつと)(たい)する貞操(ていさう)456(つま)以外(いぐわい)(をつと)恋愛者(れんあいしや)(たい)(すこ)しの妨害(ばうがい)もせず嫉妬(しつと)もせず、457むしろ好意(かうい)(もつ)(をつと)恋愛(れんあい)()げさするのは、458つまり(をつと)(たい)する(つま)貞操(ていさう)ですよ。459(また)(これ)(はん)する場合(ばあひ)同様(どうやう)で、460(をつと)(つま)(たい)する貞操(ていさう)(つま)恋愛(れんあい)()げさせ、461(をつと)(つま)同情(どうじやう)()せるのが、462(しん)(つま)(あい)する(こと)になるのです。463一夫(いつぷ)一婦(いつぷ)制度(せいど)(もつ)国家(こくか)存立(そんりつ)大本(たいほん)となす政体(せいたい)もあり、464一妻(いつさい)多夫(たふ)465多夫(たふ)一妻(いつさい)(もつ)国本(こくほん)となす政体(せいたい)世界(せかい)にあるぢやありませぬか。466男女(だんぢよ)平均(へいきん)(うま)れる(くに)では一夫(いつぷ)一婦(いつぷ)(せい)結構(けつこう)でせうが、467(をんな)(をとこ)より(おほ)(うま)れる(くに)468(また)(をとこ)(をんな)より(おほ)(うま)れる(くに)では、469到底(たうてい)一夫(いつぷ)一婦(いつぷ)(せい)(まも)れますまい。470それこそ(かへつ)不道徳(ふだうとく)になるのではありませぬか。471(をんな)(おほ)(くに)では(をんな)恋愛(れんあい)抹殺者(まつさつしや)出来(でき)472(をとこ)(おほ)(くに)では(をとこ)恋愛(れんあい)抹殺者(まつさつしや)出来(でき)るでせう。473こんな悲惨(ひさん)(こと)何処(どこ)にあるでせう』
474シャ『理窟(りくつ)はどうでもつくものだ。475(しか)(なが)らタラハン(ごく)一夫(いつぷ)一婦(いつぷ)制度(せいど)だ。476(これ)(やぶ)るものは道徳(だうとく)破壊者(はくわいしや)だ。477恋愛(れんあい)(など)(すゑ)(すゑ)だ』
478ス『今日(こんにち)()(なか)大人物(だいじんぶつ)(あら)はれないのは479一夫(いつぷ)一婦(いつぷ)制度(せいど)(おこな)はれてゐる弊害(へいがい)から()るのですよ。480(むかし)神代(かみよ)(かみ)(さま)御覧(ごらん)なさい。481大国主(おほくにぬし)(かみ)(さま)(うち)みる(しま)先々(さきざき)4811(かき)()(いそ)のさきおちず賢女(さかしめ)奇女(くわしめ)(めと)り、482国魂(くにたま)(かみ)()み、483大人物(だいじんぶつ)沢山(たくさん)(つく)りなさつたぢやありませぬか。484スダルマン太子(たいし)のやうな賢明(けんめい)君子(くんし)(てき)人格者(じんかくしや)は、485(わらは)のやうな賢女(さかしめ)奇女(くわしめ)を、486沢山(たくさん)(めあ)(あそ)ばし、487そして大人物(だいじんぶつ)四方(しはう)(まくば)(あそ)ばしたら、488屹度(きつと)()(なか)はよくなるでせう。489あんな大人物(だいじんぶつ)こそ沢山(たくさん)(をんな)があつても490生殖(せいしよく)(はう)から()国家(こくか)(たから)()()(こと)になるでせう。491(これ)(はん)して愚夫(ぐふ)愚婦(ぐふ)()へど矢張(やはり)一夫(いつぷ)一婦(いつぷ)とすればガラクタ人間(にんげん)(ばか)()(ひろ)まり、492益々(ますます)()堕落(だらく)するのみでせう。493(えう)するに社会(しやくわい)道徳(だうとく)(うへ)から(かんが)へて、494立派(りつぱ)人間(にんげん)(てん)(ほし)(かず)(ほど)沢山(たくさん)怜悧子(うましご)()み、495野卑(やひ)下劣(げれつ)半獣(はんじう)(てき)人間(にんげん)は、496なるべく()()まないやうにするのが、497国家(こくか)存立(そんりつ)(うへ)にも個人(こじん)経済(けいざい)(うへ)にも有利(いうり)でせう。498(とう)さま、499(これ)でも不道理(ふだうり)(きこ)えますかな』
500シャ『ハヽヽヽ、501まるで太子(たいし)(さま)を、502種馬(たねうま)間違(まちが)へてゐるぢやないか。503不都合(ふつがふ)千万(せんばん)(こと)()(やつ)ぢや』
504ス『その種馬(たねうま)におなり(あそ)ばすのが、505(くに)(きみ)たる(かた)()天職(てんしよく)でせう。506太子(たいし)(さま)のみならず、507(くに)立派(りつぱ)(ひと)(みな)種馬(たねうま)として社会(しやくわい)()沢山(たくさん)()(おと)さなくては、508社会(しやくわい)根本(こんぽん)(てき)改造(かいざう)はどうしても駄目(だめ)です』
509シャ『さうするとお(まへ)太子(たいし)(さま)沢山(たくさん)(をんな)をおもちになつた(とき)はどうするつもりだ。510理論(りろん)実際(じつさい)とは(おほい)(ちが)ふものだから、511その(とき)になつて悋気(りんき)(つの)()やしたり、512嫉妬(しつと)(ほのほ)をもやしたり、513その(とき)(つら)()(あぢ)はつて()ねば(わか)るまい。514(いま)こそ理論(りろん)では立派(りつぱ)(こと)()つてるが実地(じつち)になれば、515さうは()かないよ。516屹度(きつと)悋気(りんき)するに(きま)つてゐるわ』
517ス『オホヽヽヽ、518そんな雅量(がりやう)のないスバールぢや(ござ)いませぬ。519(わらは)だつて太子(たいし)(さま)以上(いじやう)(あい)する男子(だんし)出来(でき)(とき)520太子(たいし)(さま)故障(こしやう)()はれるやうな(こと)があつた(とき)は、521(わらは)(はう)から御免(ごめん)(かうむ)()けの(こと)ですわ。522一方(いつぱう)(こひ)圧迫(あつぱく)し、523どうして円満(ゑんまん)()けますか。524夫婦(ふうふ)家庭(かてい)重要品(ぢうえうひん)です。525家庭(かてい)恋愛(れんあい)別物(べつもの)ですよ。526家庭(かてい)家庭(かてい)として円満(ゑんまん)()き、527恋愛(れんあい)恋愛(れんあい)として自由(じいう)(おこな)ふべきものです。528太子(たいし)(さま)(うへ)(がた)から、529こんな手本(てほん)()して(もら)はなくては、530悋気(りんき)とか姦通(かんつう)とか不道徳(ふだうとく)とかの、531()まわしい問題(もんだい)絶滅(ぜつめつ)せないのです。532一夫(いつぷ)多婦(たふ)のモルモン(しう)御覧(ごらん)なさい。533(けつ)して沢山(たくさん)(つま)(なか)に、534悋気(りんき)嫉妬(しつと)や、535怨嗟(ゑんさ)(など)(こゑ)はありませぬよ。536()(かく)537旧来(きうらい)陋習(ろうしふ)打破(だは)せなくては、538家庭(かてい)国家(こくか)(をさ)まりませぬ。539(わらは)はスダルマン太子(たいし)(さま)こそは恋愛(れんあい)(たい)しても理解(りかい)()ち、540(また)社会(しやくわい)道徳(だうとく)(たい)しても完全(くわんぜん)改良(かいりやう)する資質(ししつ)をもつた(かた)(うかが)ひました。541それで恋愛(れんあい)()(かく)542国家(こくか)社会(しやくわい)のため必要(ひつえう)のためと欣慕(きんぼ)のあまり(つひ)恋愛(れんあい)転嫁(てんか)したのですわ、543ホヽヽヽ』
544十五(じふご)(さい)(むすめ)にも似合(にあ)はず、545おひおひと(こころ)生地(きぢ)(あら)はし、546(ちち)のシャカンナを(けむり)にまいて(しま)つた。
547シャカンナ『アヽア、548(じふ)(ねん)()てば一昔(ひとむかし)549(この)(やま)(おく)(まで)思想界(しさうかい)悪風(あくふう)(おそ)うて()たのかな』
550大正一四・一・五 新一・二八 於月光閣 北村隆光録)
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10/22【霊界物語ネット】王仁文庫 第六篇 たまの礎(裏の神諭)』をテキスト化しました。
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