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第68巻(未の巻)
序文
総説
第1篇 名花移植
01 貞操論
〔1725〕
02 恋盗詞
〔1726〕
03 山出女
〔1727〕
04 茶湯の艶
〔1728〕
第2篇 恋火狼火
05 変装太子
〔1729〕
06 信夫恋
〔1730〕
07 茶火酌
〔1731〕
08 帰鬼逸迫
〔1732〕
第3篇 民声魔声
09 衡平運動
〔1733〕
10 宗匠財
〔1734〕
11 宮山嵐
〔1735〕
12 妻狼の囁
〔1736〕
13 蛙の口
〔1737〕
第4篇 月光徹雲
14 会者浄離
〔1738〕
15 破粋者
〔1739〕
16 戦伝歌
〔1740〕
17 地の岩戸
〔1741〕
第5篇 神風駘蕩
18 救の網
〔1742〕
19 紅の川
〔1743〕
20 破滅
〔1744〕
21 祭政一致
〔1745〕
余白歌
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> 第1篇 名花移植 > 第4章 茶湯の艶
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第四章
茶湯
(
ちやのゆ
)
の
艶
(
えん
)
〔一七二八〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第68巻 山河草木 未の巻
篇:
第1篇 名花移植
よみ(新仮名遣い):
めいかいしょく
章:
第4章 茶湯の艶
よみ(新仮名遣い):
ちゃのゆのえん
通し章番号:
1728
口述日:
1925(大正14)年01月28日(旧01月5日)
口述場所:
筆録者:
北村隆光
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1926(大正15)年9月30日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
スバールは、タラハン市の町外れにある、茶湯の宗匠タルチンの館にかくまわれることになった。タルチンは、茶湯の道をかなり悟ってはいるが、流行らない宗匠。その女房は若い色黒の大女で、五斗俵を軽々と持ち運び、ヒステリ性を尊ぶ当世流の才子連には、見向きもされないようなタイプである。
タルチンがスバール姫に茶湯を教えているところへ、スダルマン太子がやってくる。二人は互いの逢瀬に恋の歌を交換し合う。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
OBC :
rm6804
愛善世界社版:
58頁
八幡書店版:
第12輯 171頁
修補版:
校定版:
58頁
普及版:
69頁
初版:
ページ備考:
001
タラハン
市
(
し
)
の
町外
(
まちはづ
)
れ、
002
裏
(
うら
)
は
薄濁
(
うすにご
)
つた
可
(
か
)
なり
広
(
ひろ
)
い
溝
(
みぞ
)
が
流
(
なが
)
れてゐる。
003
常磐木
(
ときはぎ
)
のこんもりとした
余
(
あま
)
り
広
(
ひろ
)
からぬ
屋敷
(
やしき
)
の
中
(
なか
)
に
004
茶湯
(
ちやのゆ
)
の
宗匠
(
そうしやう
)
タルチンの
形
(
かたち
)
ばかりの
茅屋
(
ばうをく
)
が
建
(
た
)
つてゐる。
005
家
(
いへ
)
は
古
(
ふる
)
く
狭
(
せま
)
けれども
006
宗匠
(
そうしやう
)
一人
(
ひとり
)
が
独身
(
どくしん
)
生活
(
せいくわつ
)
には
可
(
か
)
なり
広
(
ひろ
)
い。
007
しかも
母屋
(
おもや
)
と
離
(
はな
)
れて
煩
(
うるさ
)
き
物音
(
ものおと
)
も
聞
(
きこ
)
えず、
008
生
(
お
)
い
茂
(
しげ
)
れる
庭
(
には
)
の
植込
(
うゑこ
)
みを
吾
(
わが
)
物
(
もの
)
と
見
(
み
)
れば、
009
世間体
(
せけんてい
)
を
飾
(
かざ
)
つた
紳士
(
しんし
)
紳商
(
しんしやう
)
の
苦
(
くる
)
しい
外観
(
みえ
)
を
飾
(
かざ
)
る
別荘
(
べつさう
)
よりも
遥
(
はるか
)
に
勝
(
まさ
)
り、
010
呑気
(
のんき
)
で
住心地
(
すみごこち
)
もよい。
011
春雨
(
はるさめ
)
に
包
(
つつ
)
まるる
向日
(
むかひ
)
の
森
(
もり
)
、
012
朧月夜
(
おぼろづきよ
)
に
見渡
(
みわた
)
す
田圃道
(
たんぼみち
)
、
013
軒端
(
のきば
)
に
近
(
ちか
)
い
若葉
(
わかば
)
の
揺
(
ゆ
)
るぎ、
014
窓
(
まど
)
に
聞
(
きこ
)
ゆる
小田
(
をだ
)
の
蛙
(
かはず
)
の
泣
(
な
)
き
声
(
ごゑ
)
、
015
見
(
み
)
るからに
茶人
(
ちやじん
)
の
住
(
す
)
みさうな
家構
(
いへがま
)
へである。
016
雀
(
すずめ
)
の
子
(
こ
)
が
羽
(
は
)
ばたきをするのは、
017
やがて
天空
(
てんくう
)
をかける
準備
(
じゆんび
)
だ。
018
猫
(
ねこ
)
の
子
(
こ
)
がじやれるのは
大好物
(
だいかうぶつ
)
の
鼠
(
ねずみ
)
をとらむとする
下稽古
(
したげいこ
)
だ。
019
年頃
(
としごろ
)
の
女
(
をんな
)
が
鏡
(
かがみ
)
に
向
(
むか
)
つて、
020
顔面
(
がんめん
)
や
頭髪
(
とうはつ
)
の
整理
(
せいり
)
をするのは
恋愛
(
れんあい
)
至上
(
しじやう
)
主義
(
しゆぎ
)
を
完全
(
くわんぜん
)
に
達
(
たつ
)
せむ
為
(
ため
)
の
準備
(
じゆんび
)
である。
021
茶
(
ちや
)
の
湯
(
ゆ
)
の
宗匠
(
そうしやう
)
タルチンは
朝
(
あさ
)
早
(
はや
)
うから、
022
坊主頭
(
ばうずあたま
)
に
捻鉢巻
(
ねぢはちまき
)
、
023
腰衣
(
こしごろも
)
を
高
(
たか
)
くまき
上
(
あ
)
げ
座敷
(
ざしき
)
を
掃
(
は
)
いたり、
024
門
(
かど
)
を
掃除
(
さうぢ
)
したり、
025
何
(
なに
)
か
珍客
(
ちんきやく
)
の
出
(
で
)
て
来
(
く
)
る
様子
(
やうす
)
。
026
さうして
何
(
なん
)
となく
万金
(
まんきん
)
の
宝
(
たから
)
を
人知
(
ひとし
)
れぬ
処
(
ところ
)
で
拾
(
ひろ
)
つたやうな
顔付
(
かほつき
)
して
027
ニコニコと
笑
(
わら
)
つて
居
(
ゐ
)
る。
028
愚者
(
ぐしや
)
の
一芸
(
いちげい
)
とか
云
(
い
)
つて、
029
此
(
この
)
茶坊主
(
ちやばうず
)
も
茶
(
ちや
)
の
湯
(
ゆ
)
の
道
(
みち
)
丈
(
だ
)
けは
可
(
か
)
なり
覚
(
さと
)
つて
居
(
ゐ
)
るやうである。
030
母屋
(
おもや
)
の
方
(
はう
)
には
宗匠
(
そうしやう
)
の
女房
(
にようばう
)
として
年
(
とし
)
の
若
(
わか
)
い
体格美
(
たいかくび
)
に
傾
(
かたむ
)
き
過
(
す
)
ぎた
布袋
(
ほてい
)
女
(
をんな
)
が
一人
(
ひとり
)
住
(
す
)
まつてゐる。
031
五斗俵
(
ごとべう
)
を
軽々
(
かるがる
)
と
持
(
も
)
ち
運
(
はこ
)
ぶその
力
(
ちから
)
、
032
どこに
一点
(
いつてん
)
の
女
(
をんな
)
らしい
処
(
ところ
)
も
見
(
み
)
えない。
033
顔色
(
がんしよく
)
黒
(
くろ
)
く
頭髪
(
とうはつ
)
は
茶褐色
(
ちやかつしよく
)
の
大女
(
おほをんな
)
、
034
到底
(
たうてい
)
ヒステリ
性
(
せい
)
を
尊
(
たふと
)
ぶ
小説家
(
せうせつか
)
の
材料
(
ざいれう
)
になりさうもない
奴
(
やつ
)
。
035
もし
当世流
(
たうせいりう
)
の
才子風
(
さいしふう
)
より
見
(
み
)
れば
036
一切
(
いつさい
)
の
境遇
(
きやうぐう
)
に
何
(
なん
)
等
(
ら
)
の
意味
(
いみ
)
もなく
殆
(
ほとん
)
ど
生存
(
せいぞん
)
の
要
(
えう
)
もなく、
037
只
(
ただ
)
一個
(
いつこ
)
の
哀
(
あは
)
れ
至極
(
しごく
)
なる
肉体物
(
にくたいぶつ
)
に
過
(
す
)
ぎないのだ。
038
鞋虫
(
わらぢむし
)
の
文学者
(
ぶんがくしや
)
や、
039
穀潰
(
ごくつぶ
)
しの
政治家
(
せいぢか
)
や、
040
蓄音器
(
ちくおんき
)
の
教育家
(
けういくか
)
や、
041
米搗
(
こめつき
)
螽斯
(
ばつた
)
の
小役人
(
こやくにん
)
共
(
ども
)
が、
042
仔細
(
しさい
)
らしく
茶
(
ちや
)
の
湯
(
ゆ
)
の
手前
(
てまへ
)
を
誇
(
ほこ
)
り、
043
交際
(
かうさい
)
場裡
(
じやうり
)
の
補助
(
ほじよ
)
にもがなと、
044
茶坊主
(
ちやばうず
)
の
茅屋
(
ばうをく
)
を
折々
(
をりをり
)
訪
(
たづ
)
ねて
来
(
く
)
るのみで、
045
余
(
あま
)
り
流行
(
はや
)
らない
宗匠
(
そうしやう
)
である。
046
身代
(
しんだい
)
は
痩
(
や
)
せて
壁
(
かべ
)
迄
(
まで
)
が
骨
(
ほね
)
を
出
(
だ
)
し
軒
(
のき
)
は
傾
(
かたむ
)
き、
047
上雪隠
(
かみせつちん
)
の
屋根
(
やね
)
から
月
(
つき
)
を
見
(
み
)
る
重宝
(
ちようはう
)
な
住居
(
すまゐ
)
である。
048
夕立
(
ゆふだち
)
の
時
(
とき
)
にはバケツや、
049
盥
(
たらひ
)
、
050
手桶
(
てをけ
)
等
(
など
)
を
慌
(
あわ
)
てまはして
座敷中
(
ざしきぢう
)
に
持
(
も
)
ち
運
(
はこ
)
び、
051
時
(
とき
)
ならぬ
雨太鼓
(
あまだいこ
)
の
音
(
おと
)
をさせてゐる。
052
此
(
この
)
頃
(
ごろ
)
此
(
この
)
茶室
(
ちやしつ
)
に
家
(
いへ
)
と
主人
(
しゆじん
)
に
不相当
(
ふさうたう
)
な
珍客
(
ちんきやく
)
が、
053
チヨコチヨコ
窓
(
まど
)
の
内外
(
ないぐわい
)
から
顔
(
かほ
)
を
出
(
だ
)
す
事
(
こと
)
がある。
054
艶々
(
つやつや
)
した
髪
(
かみ
)
の
色
(
いろ
)
、
055
名人
(
めいじん
)
の
描
(
ゑが
)
いた
天人
(
てんにん
)
の
絵
(
ゑ
)
から
抜
(
ぬ
)
け
出
(
だ
)
したやうな
美人
(
びじん
)
が、
056
何処
(
どこ
)
とはなしに
初心
(
うぶ
)
々々
(
うぶ
)
しいけれども、
057
さりとて
田舎出
(
いなかで
)
の
女
(
をんな
)
とも
見
(
み
)
えず、
058
山猿
(
やまざる
)
の
娘
(
むすめ
)
とも
見
(
み
)
えず、
059
起居
(
ききよ
)
振舞
(
ふるまひ
)
しとやかに、
060
頭
(
あたま
)
の
先
(
さき
)
から
指
(
ゆび
)
の
先
(
さき
)
まで、
061
一寸
(
ちよつと
)
動
(
うご
)
けば
四辺
(
あたり
)
の
空気
(
くうき
)
は
千万
(
せんまん
)
里
(
り
)
の
彼方
(
かなた
)
迄
(
まで
)
波動
(
はどう
)
するかと
思
(
おも
)
はるる
位
(
くらゐ
)
、
062
有情
(
いうじやう
)
男子
(
だんし
)
の
肝魂
(
きもたま
)
を
奪
(
うば
)
つた。
063
宗匠
(
そうしやう
)
のタルチンは
妙齢
(
めうれい
)
の
美人
(
びじん
)
に
向
(
むか
)
つて
得意
(
とくい
)
の
茶道
(
さだう
)
に
就
(
つ
)
いて
鹿爪
(
しかつめ
)
らしき
講義
(
かうぎ
)
を
初
(
はじ
)
め
出
(
だ
)
した。
064
美
(
うつく
)
しき
乙女
(
をとめ
)
は
云
(
い
)
ふ
迄
(
まで
)
もなくアリナが
山奥
(
やまおく
)
から
生捕
(
いけど
)
つて
来
(
き
)
た、
065
山霊
(
さんれい
)
水伯
(
すいはく
)
の
精
(
せい
)
の
変化
(
へんげ
)
と
云
(
い
)
ふべき、
066
スバール
姫
(
ひめ
)
たる
事
(
こと
)
は
云
(
い
)
ふ
迄
(
まで
)
もない。
067
タル『
姫
(
ひめ
)
様
(
さま
)
、
068
女
(
をんな
)
の
最
(
もつと
)
も
習
(
なら
)
つておかねばならない
事
(
こと
)
は
茶
(
ちや
)
の
湯
(
ゆ
)
で
厶
(
ござ
)
いますから、
069
今日
(
こんにち
)
は
太子
(
たいし
)
様
(
さま
)
の
有難
(
ありがた
)
き
尊
(
たふと
)
き
御
(
ご
)
命令
(
めいれい
)
によりまして、
070
卑
(
いや
)
しき
私
(
わたし
)
が
茶
(
ちや
)
の
湯
(
ゆ
)
の
御
(
お
)
手前
(
てまへ
)
を
恐
(
おそ
)
れ
乍
(
なが
)
ら
伝授
(
でんじゆ
)
さして
頂
(
いただ
)
きませう。
071
先
(
ま
)
ず
茶
(
ちや
)
の
湯
(
ゆ
)
の
講目
(
かうもく
)
から
心得
(
こころえ
)
て
居
(
を
)
つて
貰
(
もら
)
はなくてはなりませぬから、
072
あらましの
事
(
こと
)
を
申
(
まをし
)
上
(
あ
)
げます』
073
ス『ハイ、
074
何
(
なに
)
から
何
(
なに
)
までお
世話
(
せわ
)
になりまして
有難
(
ありがた
)
う
厶
(
ござ
)
います。
075
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
つても
十
(
じふ
)
年
(
ねん
)
許
(
ばか
)
りも
子供
(
こども
)
の
時
(
とき
)
から
山奥
(
やまおく
)
に
連
(
つ
)
れ
行
(
ゆ
)
かれ、
076
此
(
この
)
世
(
よ
)
の
風
(
かぜ
)
にも
当
(
あた
)
つてゐないやうな、
077
おぼこ
娘
(
むすめ
)
の
世間
(
せけん
)
知
(
し
)
らずで
厶
(
ござ
)
いますから、
078
茶
(
ちや
)
の
湯
(
ゆ
)
に
限
(
かぎ
)
らず
何事
(
なにごと
)
も
御
(
ご
)
指導
(
しだう
)
をお
願
(
ねが
)
ひ
申
(
まを
)
します』
079
タルチンは
笑
(
ゑみ
)
を
満面
(
まんめん
)
に
浮
(
うか
)
べ、
080
低
(
ひく
)
い
鼻
(
はな
)
をピコつかせ、
081
三方白
(
さんぱうじろ
)
の
目
(
め
)
をきよろつかせ
乍
(
なが
)
ら、
082
フンと
右
(
みぎ
)
の
手
(
て
)
の
甲
(
かふ
)
で
鼻
(
はな
)
を
左
(
ひだり
)
から
右
(
みぎ
)
へ
撫
(
な
)
で、
083
自分
(
じぶん
)
の
尻
(
しり
)
の
方
(
はう
)
でモシヤモシヤとこすりつけ、
084
言葉
(
ことば
)
迄
(
まで
)
も
荘重
(
さうちよう
)
らしく
粧
(
よそほ
)
ひ
乍
(
なが
)
ら、
085
タル『
抑
(
そもそも
)
茶
(
ちや
)
の
湯
(
ゆ
)
は
三ケ
(
さんこ
)
の
綱領
(
かうりやう
)
を
以
(
もつ
)
て
本
(
もと
)
とされてゐます。
086
さうして
茶
(
ちや
)
の
湯
(
ゆ
)
の
仲通
(
なかどほり
)
の
習
(
なら
)
ひと
云
(
い
)
ふのは
明徳
(
めいとく
)
を
明
(
あきら
)
かにするの
謂
(
いひ
)
であつて、
087
天命
(
てんめい
)
に
基
(
もとづ
)
いて
性
(
せい
)
を
率
(
ひき
)
ゆるの
道
(
みち
)
で
厶
(
ござ
)
います。
088
扨
(
さ
)
て
茶
(
ちや
)
の
湯
(
ゆ
)
も、
089
その
大本
(
たいほん
)
を
極
(
きは
)
めるならば
何
(
いづ
)
れの
手前
(
てまへ
)
も
十三
(
じふさん
)
手前
(
てまへ
)
が
父
(
ちち
)
となり
母
(
はは
)
となるのです。
090
之
(
これ
)
から
三百
(
さんびやく
)
八十
(
はちじふ
)
手前
(
てまへ
)
も
分
(
わか
)
れるのです。
091
「すべて
物
(
もの
)
は
本末
(
ほんまつ
)
があり、
092
事
(
こと
)
には
終始
(
しうし
)
があり、
093
前後
(
ぜんご
)
する
事
(
こと
)
を
知
(
し
)
る
時
(
とき
)
は
即
(
すなは
)
ち
道
(
みち
)
に
近
(
ちか
)
し。
094
その
本
(
もと
)
乱
(
みだ
)
れて
未
(
いま
)
だ
其
(
その
)
末
(
すゑ
)
をさまるものは
非
(
あら
)
ざる
也
(
なり
)
」と
聖人
(
せいじん
)
が
説
(
と
)
かれてゐるでせう。
095
それ
故
(
ゆゑ
)
に
茶
(
ちや
)
の
湯
(
ゆ
)
は
十三
(
じふさん
)
手前
(
てまへ
)
を
根本
(
こんぽん
)
にして
諸々
(
もろもろ
)
の
手前
(
てまへ
)
は
此
(
この
)
中
(
うち
)
にあるのです。
096
そして
又
(
また
)
許可
(
ゆるし
)
の
手前
(
てまへ
)
と
云
(
い
)
ふ
所
(
ところ
)
迄
(
まで
)
稽古
(
けいこ
)
が
進
(
すす
)
むと
技芸
(
ことわざ
)
が
広
(
ひろ
)
くて、
097
色々
(
いろいろ
)
に
別
(
わか
)
れます。
098
これ
新民
(
しんみん
)
の
場
(
ば
)
にして
品々
(
しなじな
)
変
(
かは
)
りあり。
099
手前
(
てまへ
)
は、
100
その
心
(
こころ
)
を
選択
(
せんたく
)
するの
謂
(
いひ
)
であります。
101
古
(
いにしへ
)
東山殿
(
ひがしやまどの
)
より
千
(
せん
)
の
利休
(
りきう
)
及
(
および
)
現代
(
げんだい
)
に
至
(
いた
)
つて
其
(
そ
)
の
命
(
めい
)
維
(
こ
)
れ
新
(
あたら
)
しく、
102
拙者
(
せつしや
)
の
教
(
をし
)
ふる
所
(
ところ
)
は
真台子
(
しんだいす
)
七段
(
しちだん
)
は
允可
(
いんか
)
至極
(
しごく
)
なり。
103
徳
(
とく
)
を
明
(
あきら
)
かにするを
本
(
もと
)
となし、
104
民
(
たみ
)
を
明
(
あきら
)
かにするを
末
(
すゑ
)
とするが
故
(
ゆゑ
)
に、
105
茶
(
ちや
)
の
湯
(
ゆ
)
なるものは
仲通
(
なかどほり
)
を
本
(
もと
)
となし、
106
手前
(
てまへ
)
を
末
(
すゑ
)
となすのです。
107
真台子
(
しんだいす
)
を
本
(
もと
)
となすを
至善
(
しぜん
)
とするのです。
108
されば
七段
(
しちだん
)
は、
109
その
目
(
もく
)
の
大
(
だい
)
なるものです。
110
ここに
於
(
おい
)
て
其
(
その
)
精美
(
せいび
)
を
極
(
きは
)
め、
111
皆
(
みな
)
以
(
もつ
)
て
其
(
その
)
止
(
とど
)
まる
所
(
ところ
)
を
知
(
し
)
る
時
(
とき
)
は、
112
少
(
すこ
)
しの
疑
(
うたが
)
ひもなし。
113
故
(
ゆゑ
)
に
私
(
わたくし
)
の
教
(
をし
)
へるのを
茶
(
ちや
)
の
湯
(
ゆ
)
の
真台子
(
しんだいす
)
と
申
(
まを
)
します。
114
先
(
ま
)
づ
茶
(
ちや
)
の
湯
(
ゆ
)
の
席
(
せき
)
にはこれ
此
(
この
)
通
(
とほ
)
り
四畳半
(
よでふはん
)
、
115
順勝手
(
じゆんかつて
)
と
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
がある。
116
そして
順
(
じゆん
)
のまはり
式
(
しき
)
とは
居畳
(
ゐだたみ
)
より
左
(
ひだり
)
へ
廻
(
まは
)
るのを
順
(
じゆん
)
と
申
(
まを
)
し、
117
又
(
また
)
四畳半
(
よでふはん
)
に
順逆
(
じゆんぎやく
)
の
勝手
(
かつて
)
に
習
(
なら
)
ひがある。
118
順
(
じゆん
)
の
回
(
まは
)
り
式
(
しき
)
にして
仲
(
なか
)
の
半畳
(
はんぜふ
)
に
爐
(
ろ
)
をきり、
119
自在鎖
(
じざいぐさり
)
をかけるか、
120
または
五徳
(
ごとく
)
に
釜
(
かま
)
をかけるか、
121
之
(
これ
)
を
順勝手
(
じゆんかつて
)
と
申
(
まを
)
すのです。
122
今
(
いま
)
私
(
わたくし
)
が
一
(
ひと
)
つの
歌
(
うた
)
を
詠
(
よ
)
みますから、
123
つけとめておいて
下
(
くだ
)
さい』
124
ス『ハイ、
125
いろいろと
高遠
(
かうゑん
)
な
御
(
ご
)
教訓
(
けうくん
)
を
頂
(
いただ
)
きまして
有難
(
ありがた
)
う
厶
(
ござ
)
います。
126
何分
(
なにぶん
)
世間
(
せけん
)
慣
(
な
)
れのしない
少女
(
せうぢよ
)
の
事
(
こと
)
ですから、
127
嘸
(
さぞ
)
御
(
お
)
師匠
(
ししやう
)
様
(
さま
)
もまどろしい
事
(
こと
)
で
厶
(
ござ
)
いませう』
128
と
云
(
い
)
ひ
乍
(
なが
)
ら
料紙箱
(
れうしばこ
)
より
硯
(
すずり
)
、
129
筆
(
ふで
)
、
130
墨
(
すみ
)
、
131
巻紙
(
まきがみ
)
等
(
など
)
とり
出
(
だ
)
し、
132
タルチンの
読
(
よ
)
み
上
(
あ
)
げる
歌
(
うた
)
を
記
(
しる
)
し
初
(
はじ
)
めける。
133
タル『一、
134
門
(
かど
)
に
入
(
い
)
り
右
(
みぎ
)
に
座敷
(
ざしき
)
のあるならば
135
順勝手
(
じゆんかつて
)
とはかねて
知
(
し
)
るべし。
136
一、
137
亭主
(
ていしゆ
)
居
(
ゐ
)
て
左
(
ひだり
)
へ
廻
(
まは
)
るを
順
(
じゆん
)
と
云
(
い
)
ふ
138
之
(
これ
)
は
即
(
すなは
)
ち
正
(
せい
)
の
字
(
じ
)
の
心
(
こころ
)
。
139
一、
140
家
(
いへ
)
造
(
つく
)
りかねて
思案
(
しあん
)
をしてぞよき
141
建
(
た
)
て
上
(
あが
)
りのなきは
悪
(
あし
)
きものぞと。
142
一、
143
爐
(
ろ
)
の
内
(
うち
)
の
見
(
み
)
えにくき
程
(
ほど
)
難儀
(
なんぎ
)
なは
144
炭
(
すみ
)
する
時
(
とき
)
に
燈火
(
あかり
)
欲
(
ほ
)
しきぞ。
145
一、
146
枯木
(
かれき
)
だも
香
(
にほ
)
へと
藤
(
ふぢ
)
をまとわせて
147
流石
(
さすが
)
亭主
(
ていしゆ
)
の
手利
(
てぎ
)
きとは
知
(
し
)
る。
148
一、
149
野
(
の
)
も
山
(
やま
)
も
花
(
はな
)
も
香
(
にほひ
)
も
見
(
み
)
乍
(
なが
)
らに
150
生
(
い
)
ける
心
(
こころ
)
を
知
(
し
)
る
人
(
ひと
)
ぞ
知
(
し
)
る。
151
一、
152
よりよりに
埃
(
ほこり
)
を
払
(
はら
)
ふ
茶
(
ちや
)
の
湯師
(
ゆし
)
の
153
心
(
こころ
)
の
塵
(
ちり
)
はさもあらむかし。
154
一、
155
門
(
かど
)
に
入
(
い
)
り
左
(
ひだり
)
に
座敷
(
ざしき
)
のあるものは
156
逆勝手
(
ぎやくかつて
)
ぞと
知
(
し
)
るがよろしき。
157
一、
158
亭主
(
ていしゆ
)
居
(
ゐ
)
て
右
(
みぎ
)
へ
廻
(
まは
)
るを
逆
(
ぎやく
)
と
云
(
い
)
ひ
159
之
(
これ
)
は
即
(
すなは
)
ち
従
(
じゆう
)
の
字
(
じ
)
の
心
(
こころ
)
。
160
サアサア
此
(
この
)
歌
(
うた
)
によつて
爐
(
ろ
)
の
構
(
かま
)
へや
室内
(
しつない
)
の
様子
(
やうす
)
があらまし
解
(
わか
)
るでせう。
161
あまり
一度
(
いちど
)
に
沢山
(
たくさん
)
教
(
をし
)
へると、
162
お
忘
(
わす
)
れになるといかぬから、
163
もう
少
(
すこ
)
し
教
(
をし
)
へて
之
(
これ
)
で
休
(
やす
)
みませう。
164
又
(
また
)
明日
(
みやうにち
)
から
実地
(
じつち
)
の
手前
(
てまへ
)
を
御覧
(
ごらん
)
に
入
(
い
)
れますから。
165
扨
(
さて
)
茶
(
ちや
)
の
湯
(
ゆ
)
の
講目
(
かうもく
)
七段
(
しちだん
)
の
習
(
なら
)
ひを
申
(
まを
)
します。
166
初段
(
しよだん
)
、
167
大盆
(
だいぼん
)
、
168
小盆
(
こぼん
)
、
169
唐津物
(
からつもの
)
、
170
茶入台
(
ちやいれだい
)
、
171
天目
(
てんもく
)
172
二段
(
にだん
)
、
173
大盆
(
だいぼん
)
、
174
大海
(
だいかい
)
茶入
(
ちやいれ
)
、
175
合子
(
がふす
)
の
物置
(
ものおき
)
、
176
盆点
(
ぼんてん
)
177
三段
(
さんだん
)
、
178
大盆袋
(
だいぼんぶくろ
)
、
179
天目
(
てんもく
)
茶筌入
(
ちやせんいれ
)
180
四段
(
よだん
)
、
181
大盆
(
だいぼん
)
内海
(
ないかい
)
長緒
(
ながお
)
、
182
薄茶台
(
うすちやだい
)
、
183
天目
(
てんもく
)
三組
(
みくみ
)
184
五段
(
ごだん
)
、
185
大盆台
(
だいぼんだい
)
、
186
天目
(
てんもく
)
茶碗
(
ちやわん
)
、
187
二眼点
(
にがんてん
)
188
六段
(
ろくだん
)
、
189
丸盆
(
まるぼん
)
、
190
分紊
(
ぶんぶん
)
隠架
(
いんか
)
の
蓋置
(
ふたおき
)
191
七段
(
しちだん
)
、
192
大盆
(
だいぼん
)
二
(
ふた
)
つ
台
(
だい
)
、
193
天目
(
てんもく
)
穂屋
(
ほや
)
、
194
香爐
(
かうろ
)
、
195
蓋置
(
ふたおき
)
196
の
次第
(
しだい
)
をもボツボツ
教
(
をし
)
へませう』
197
ス『ハイ、
198
有難
(
ありがた
)
う、
199
どうかよろしう
願
(
ねが
)
ひます』
200
かかる
所
(
ところ
)
へ
面
(
おもて
)
を
包
(
つつ
)
み
足音
(
あしおと
)
を
忍
(
しの
)
ばせて、
201
空巣
(
あきす
)
狙
(
ねら
)
ひが
人
(
ひと
)
の
住宅
(
ぢうたく
)
を
覗
(
のぞ
)
くやうな
様子
(
やうす
)
で、
202
四辺
(
あたり
)
を
憚
(
はばか
)
り
乍
(
なが
)
ら
入
(
い
)
り
来
(
く
)
るのはスダルマン
太子
(
たいし
)
の
君
(
きみ
)
であつた。
203
タルチンは
太子
(
たいし
)
の
姿
(
すがた
)
を
見
(
み
)
るより
且
(
かつ
)
驚
(
おどろ
)
き
且
(
かつ
)
喜
(
よろこ
)
び
乍
(
なが
)
ら、
204
米搗
(
こめつき
)
螽斯
(
ばつた
)
宜
(
よろ
)
しく
幾度
(
いくど
)
となく
禿頭
(
とくとう
)
の
杵
(
きね
)
で
畳
(
たたみ
)
の
上
(
うへ
)
に
餅
(
もち
)
をつき
乍
(
なが
)
ら、
205
玄関口
(
げんくわんぐち
)
迄
(
まで
)
五足
(
いつあし
)
六足
(
むあし
)
スルスルと
後
(
あと
)
びざりをなし、
206
雪駄
(
せつた
)
のやうに
擦
(
す
)
りへらした
庭下駄
(
にはげた
)
を
足
(
あし
)
にひつかけ、
207
粋
(
すゐ
)
を
利
(
き
)
かして
母屋
(
おもや
)
の
方
(
はう
)
へと
208
茶色
(
ちやいろ
)
の
帽子
(
ばうし
)
を
目深
(
まぶか
)
に
冠
(
かぶ
)
り、
2081
稍
(
やや
)
俯向
(
うつむ
)
き
気味
(
ぎみ
)
になつて、
209
尻
(
しり
)
をプリンプリンとふり
乍
(
なが
)
ら
庭
(
には
)
の
木立
(
こだち
)
を
縫
(
ぬ
)
うて
帰
(
かへ
)
り
行
(
ゆ
)
く。
210
野山
(
のやま
)
に
嘯
(
うそぶ
)
く
虎
(
とら
)
、
211
獅子
(
しし
)
、
212
熊
(
くま
)
、
213
狼
(
おほかみ
)
も、
214
山林
(
さんりん
)
に
囀
(
さへづ
)
る
百鳥
(
ももどり
)
も
乃至
(
ないし
)
は
虫族
(
むしけら
)
地虫
(
ぢむし
)
の
類
(
るゐ
)
に
至
(
いた
)
る
迄
(
まで
)
、
215
天地
(
てんち
)
の
間
(
あひだ
)
に
生
(
い
)
きとし
生
(
い
)
けるもの、
216
一
(
いつ
)
として
恋
(
こひ
)
を
歌
(
うた
)
はぬはなく、
217
色情
(
いろ
)
におぼれぬものはない。
218
況
(
ま
)
してや
坊
(
ぼつ
)
ちやま
育
(
そだ
)
ちのタラハン
城
(
じやう
)
の
太子
(
たいし
)
、
219
青春
(
せいしゆん
)
の
血
(
ち
)
にもゆる
好男子
(
かうだんし
)
が
220
花
(
はな
)
も
恥
(
はぢ
)
らう
天成
(
てんせい
)
の
美人
(
びじん
)
の
前
(
まへ
)
に
出
(
で
)
ては
胸
(
むね
)
の
高鳴
(
たかな
)
りを、
2201
止
(
とど
)
むる
事
(
こと
)
は
出来
(
でき
)
なかつた。
221
スバール
姫
(
ひめ
)
も
同
(
おな
)
じ
思
(
おも
)
ひの
恋衣
(
こひごろも
)
、
222
頬
(
ほほ
)
を
紅
(
くれなゐ
)
に
染
(
そめ
)
乍
(
なが
)
ら、
223
片袖
(
かたそで
)
に
艶麗
(
えんれい
)
な
顔
(
かほ
)
を
包
(
つつ
)
んで
暫
(
しば
)
しは
無言
(
むごん
)
の
幕
(
まく
)
をつづけてゐた。
224
恋
(
こひ
)
にかけては
初心
(
うぶ
)
の
太子
(
たいし
)
と
初心
(
うぶ
)
の
乙女
(
をとめ
)
、
225
互
(
たがひ
)
に
云
(
い
)
ひたき
事
(
こと
)
も
口
(
くち
)
ごもり、
226
何
(
なん
)
とはなく
恋
(
こひ
)
の
曲物
(
くせもの
)
にとり
挫
(
ひし
)
がれて、
227
『
会
(
あ
)
ひたかつた、
228
見
(
み
)
たかつた、
229
可愛
(
かあ
)
いいものよ』
230
と
只
(
ただ
)
一言
(
ひとこと
)
の
口切
(
くちき
)
りさへも、
231
なし
得
(
え
)
ぬ
迄
(
まで
)
に
臆病
(
おくびやう
)
になつてゐた。
232
さりながら、
233
数多
(
あまた
)
のよからぬ
小盗人
(
こぬすびと
)
と
共
(
とも
)
に、
234
山
(
やま
)
の
奥
(
おく
)
とは
云
(
い
)
ひ
乍
(
なが
)
ら、
235
揉
(
も
)
まれて
居
(
ゐ
)
たスバール
姫
(
ひめ
)
は、
236
比較
(
ひかく
)
的
(
てき
)
心
(
こころ
)
も
開
(
ひら
)
けオキヤンになつて
居
(
ゐ
)
た。
237
スバール
姫
(
ひめ
)
は
思
(
おも
)
ひきつて
太子
(
たいし
)
の
肩
(
かた
)
に
飛
(
と
)
びつき、
238
腕
(
うで
)
もむしれる
許
(
ばか
)
り
固
(
かた
)
く
抱
(
だ
)
き
〆
(
し
)
めて
239
互
(
たがひ
)
の
熱
(
あつ
)
い
頬面
(
ほほべた
)
をピタリと
合
(
あは
)
せた。
240
四
(
よ
)
つの
目
(
め
)
には
恋
(
こひ
)
の
叶
(
かな
)
うた
嬉
(
うれ
)
し
涙
(
なみだ
)
が
滲
(
にじ
)
んでゐた。
241
スバール
姫
(
ひめ
)
は
思
(
おも
)
ひきつて
三十一
(
みそひと
)
文字
(
もじ
)
に
思
(
おも
)
ひを
述
(
の
)
べた。
242
『
我
(
わが
)
君
(
きみ
)
の
御幸
(
みゆき
)
のありしその
日
(
ひ
)
より
243
今日
(
けふ
)
の
吉
(
よ
)
き
日
(
ひ
)
を
待
(
ま
)
ちし
苦
(
くる
)
しさ。
244
嬉
(
うれ
)
しくもアリナの
君
(
きみ
)
に
迎
(
むか
)
へられ
245
太子
(
よつぎ
)
の
君
(
きみ
)
に
会
(
あ
)
ひし
嬉
(
うれ
)
しさ。
246
吾
(
わが
)
恋路
(
こひぢ
)
いや
永久
(
とこしへ
)
に
続
(
つづ
)
けかしと
247
過
(
す
)
ぎにし
日
(
ひ
)
より
祈
(
いの
)
りけるかな』
248
太
(
たい
)
『
浅倉
(
あさくら
)
の
山
(
やま
)
に
見初
(
みそ
)
めし
乙女子
(
をとめご
)
の
249
御姿
(
みすがた
)
こそは
命
(
いのち
)
なりけり。
250
汝
(
なれ
)
思
(
おも
)
ふ
吾
(
わが
)
恋衣
(
こひごろも
)
ボトボトと
251
乾
(
かわ
)
く
間
(
ま
)
もなく
涙
(
なみだ
)
しにけり。
252
天地
(
あめつち
)
の
神
(
かみ
)
の
恵
(
めぐ
)
みに
守
(
まも
)
られて
253
今日
(
けふ
)
嬉
(
うれ
)
しくも
汝
(
なれ
)
に
会
(
あ
)
ふかな。
254
人
(
ひと
)
はいざ
如何
(
いか
)
に
吾
(
わが
)
身
(
み
)
を
図
(
はか
)
ゆとも
255
いねてむ
後
(
のち
)
は
如何
(
いか
)
で
恐
(
おそ
)
れむ』
256
ス『
有難
(
ありがた
)
し
吾
(
わが
)
恋
(
こ
)
ふ
君
(
きみ
)
の
御言葉
(
みことば
)
は
257
賤
(
しづ
)
の
乙女
(
をとめ
)
の
命
(
いのち
)
なりけり。
258
永久
(
とこしへ
)
に
変
(
かは
)
らずあれと
祈
(
いの
)
るかな
259
君
(
きみ
)
と
吾
(
わが
)
身
(
み
)
の
美
(
うつく
)
しき
仲
(
なか
)
を』
260
(
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