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第10巻(酉の巻)
第11巻(戌の巻)
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第13巻(子の巻)
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第47巻(戌の巻)
第48巻(亥の巻)
真善美愛
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第61巻(子の巻)
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第66巻(巳の巻)
第67巻(午の巻)
第68巻(未の巻)
第69巻(申の巻)
第70巻(酉の巻)
第71巻(戌の巻)
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第73巻(子の巻)
第74巻(丑の巻)
第75巻(寅の巻)
第76巻(卯の巻)
第77巻(辰の巻)
第78巻(巳の巻)
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第81巻(申の巻)
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第68巻(未の巻)
序文
総説
第1篇 名花移植
01 貞操論
〔1725〕
02 恋盗詞
〔1726〕
03 山出女
〔1727〕
04 茶湯の艶
〔1728〕
第2篇 恋火狼火
05 変装太子
〔1729〕
06 信夫恋
〔1730〕
07 茶火酌
〔1731〕
08 帰鬼逸迫
〔1732〕
第3篇 民声魔声
09 衡平運動
〔1733〕
10 宗匠財
〔1734〕
11 宮山嵐
〔1735〕
12 妻狼の囁
〔1736〕
13 蛙の口
〔1737〕
第4篇 月光徹雲
14 会者浄離
〔1738〕
15 破粋者
〔1739〕
16 戦伝歌
〔1740〕
17 地の岩戸
〔1741〕
第5篇 神風駘蕩
18 救の網
〔1742〕
19 紅の川
〔1743〕
20 破滅
〔1744〕
21 祭政一致
〔1745〕
余白歌
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> 第1篇 名花移植 > 第2章 恋盗詞
<<< 貞操論
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山出女 >>>
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第二章
恋盗詞
(
こひどうし
)
〔一七二六〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第68巻 山河草木 未の巻
篇:
第1篇 名花移植
よみ(新仮名遣い):
めいかいしょく
章:
第2章 恋盗詞
よみ(新仮名遣い):
こいどうし
通し章番号:
1726
口述日:
1925(大正14)年01月28日(旧01月5日)
口述場所:
月光閣
筆録者:
加藤明子
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1926(大正15)年9月30日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
スダルマン太子は、城に帰ってより、スバール姫への激しい恋の思いに囚われていた。
アリナは太子の命を奉じ、密かにスバール姫を都へ迎えようと、再びタニグク山へとやってきた。
明け方、谷川の下流の森でシャカンナのかつての部下、山賊のハンナとタンヤが恋愛論を語り合っているのを立ち聞きする。
ハンナ:恋愛至上主義者。「恋愛なるものはあまりに神聖すぎて、かれこれと論議する事さえも出来ない」恋愛は「一種の感激」「人間乃至人生に対する、大きな自然に対する溜息」
タンヤ:倫理道徳主義者。「倫理の点を考慮して初めて神聖な恋愛とも言える」
タンヤとハンナは盗賊の相談を始める。二人はスバール姫をかどわかそうと決意し、シャカンナの隠れ家のほうへ進んでゆく。
アリナは親娘の危難を救おうと密かに二人の後をつけるが、追いつけずに見失ってしまう。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
[×閉じる]
:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
OBC :
rm6802
愛善世界社版:
27頁
八幡書店版:
第12輯 159頁
修補版:
校定版:
27頁
普及版:
69頁
初版:
ページ備考:
001
政治学
(
せいぢがく
)
の
研究
(
けんきう
)
や、
002
新思想
(
しんしさう
)
の
探究
(
たんきう
)
に
没頭
(
ぼつとう
)
し、
003
タラハン
国
(
ごく
)
上下
(
じやうげ
)
の
現状
(
げんじやう
)
を
痛歎
(
つうたん
)
の
余
(
あま
)
り
心身
(
しんしん
)
疲労
(
ひらう
)
し、
004
さしも
明敏
(
めいびん
)
なりし
頭脳
(
づなう
)
も
霞
(
かすみ
)
を
隔
(
へだ
)
てて
山
(
やま
)
を
見
(
み
)
るが
如
(
ごと
)
く、
005
朦朧
(
もうろう
)
として
鮮明
(
せんめい
)
を
欠
(
か
)
ぎ
006
外
(
よそ
)
の
見
(
み
)
る
目
(
め
)
よりは、
0061
憂鬱
(
いううつ
)
病者
(
びやうしや
)
かと
疑
(
うたが
)
はるる
迄
(
まで
)
に
煩悶
(
はんもん
)
苦悩
(
くなう
)
の
結果
(
けつくわ
)
007
殿内
(
でんない
)
深
(
ふか
)
く
閉
(
と
)
ぢ
籠
(
こ
)
もつて、
008
父王
(
ちちわう
)
の
頑迷
(
ぐわんめい
)
固陋
(
ころう
)
なる
骨董品
(
こつとうひん
)
的
(
てき
)
教訓
(
けうくん
)
を
嫌
(
きら
)
ひ、
009
又
(
また
)
老臣
(
らうしん
)
共
(
ども
)
の
時代
(
じだい
)
後
(
おく
)
れの
古風
(
こふう
)
の
頭
(
あたま
)
より
絞
(
しぼ
)
り
出
(
だ
)
した、
010
種々
(
しゆじゆ
)
の
忠告
(
ちうこく
)
にも
耳
(
みみ
)
を
借
(
か
)
かず、
011
左守
(
さもり
)
の
司
(
かみ
)
の
悴
(
せがれ
)
アリナを
唯一
(
ゆゐいつ
)
の
慰安者
(
ゐあんしや
)
となし、
012
己
(
おの
)
が
思想
(
しさう
)
の
伴侶
(
はんりよ
)
となし
鬱陶
(
うつたう
)
しき
日
(
ひ
)
を
送
(
おく
)
つて
居
(
ゐ
)
たスダルマン
太子
(
たいし
)
は、
013
偶々
(
たまたま
)
山野
(
さんや
)
の
遊
(
あそ
)
びに
山
(
やま
)
深
(
ふか
)
く
迷
(
まよ
)
ひ
込
(
こ
)
み、
014
不思議
(
ふしぎ
)
にも、
015
山奥
(
やまおく
)
に
咲
(
さ
)
き
匂
(
にほ
)
ふ
姫百合
(
ひめゆり
)
の
花
(
はな
)
に
恋
(
こひ
)
の
炎
(
ほのほ
)
を
燃
(
も
)
やし、
016
心
(
こころ
)
を
後
(
あと
)
に
万斛
(
ばんこく
)
の
涙
(
なみだ
)
を
心中
(
しんちう
)
深
(
ふか
)
く
湛
(
たた
)
え
乍
(
なが
)
ら、
017
アリナと
共
(
とも
)
にタラハン
城内
(
じやうない
)
へ
帰
(
かへ
)
つて
来
(
き
)
た。
018
女
(
をんな
)
と
云
(
い
)
ふものに
対
(
たい
)
しては
初心
(
うぶ
)
の
太子
(
たいし
)
、
019
恋愛
(
れんあい
)
と
云
(
い
)
ふものに
対
(
たい
)
しても
尚
(
なほ
)
更
(
さら
)
初心
(
うぶ
)
の
太子
(
たいし
)
、
020
美
(
び
)
の
神
(
かみ
)
の
権化
(
ごんげ
)
とも
見
(
み
)
るべき
清浄
(
しやうじやう
)
無垢
(
むく
)
の
乙女
(
をとめ
)
が、
021
人間界
(
にんげんかい
)
をかけ
離
(
はな
)
れた、
022
浅倉谷
(
あさくらだに
)
の
山奥
(
やまおく
)
に
包
(
つつ
)
まれて
居
(
ゐ
)
た
其
(
その
)
容姿
(
ようし
)
に
憧憬
(
どうけい
)
し、
023
数年来
(
すうねんらい
)
の
沈鬱性
(
ちんうつせい
)
は
一変
(
いつぺん
)
して、
024
危
(
あやふ
)
いかな
025
尊貴
(
そんき
)
の
身
(
み
)
を
保
(
も
)
ち
乍
(
なが
)
ら、
0251
暗雲
(
やみくも
)
飛
(
と
)
び
乗
(
の
)
りの
離
(
はな
)
れ
業
(
わざ
)
を
演
(
えん
)
ぜむとし、
026
山霊
(
さんれい
)
水伯
(
すいはく
)
の
精
(
せい
)
になつた
美人
(
びじん
)
の
相
(
さう
)
を、
027
自
(
みづか
)
らが
得意
(
とくい
)
の
絵筆
(
ゑふで
)
に
描
(
ゑが
)
いて
床
(
とこ
)
の
間
(
ま
)
にかけ、
028
朝
(
あさ
)
な
夕
(
ゆふ
)
な
画像
(
ぐわざう
)
に
向
(
むか
)
つて
生
(
い
)
きたる
人
(
ひと
)
に
云
(
い
)
ふ
如
(
ごと
)
く、
029
何事
(
なにごと
)
か
独語
(
どくご
)
するに
至
(
いた
)
つた。
030
この
画像
(
ぐわざう
)
こそ
人間
(
にんげん
)
の
命取
(
いのちと
)
り、
031
男殺
(
をとこごろ
)
しの
大魔者
(
だいまもの
)
である。
032
太子
(
たいし
)
の
煩悶
(
はんもん
)
は
以前
(
いぜん
)
に
百倍
(
ひやくばい
)
し、
033
立
(
た
)
つても
居
(
ゐ
)
ても
居
(
ゐ
)
られないやうな
様子
(
やうす
)
となつて
来
(
き
)
た。
034
太子
(
たいし
)
の
御心
(
みこころ
)
ならば、
035
仮令
(
たとへ
)
地獄
(
ぢごく
)
のドン
底
(
ぞこ
)
でも、
036
一
(
ひと
)
つよりない
命
(
いのち
)
でも
無雑作
(
むざふさ
)
におつぽり
出
(
だ
)
すと
云
(
い
)
ふ
忠臣
(
ちうしん
)
にして、
037
唯一
(
ゆゐいつ
)
の
太子
(
たいし
)
の
伴侶
(
はんりよ
)
たる
左守
(
さもり
)
の
悴
(
せがれ
)
アリナは、
038
夜
(
よる
)
窃
(
ひそか
)
に
命
(
めい
)
を
奉
(
ほう
)
じ、
039
山奥
(
やまおく
)
の
名玉
(
めいぎよく
)
、
040
月
(
つき
)
の
顔容
(
かんばせ
)
、
041
花
(
はな
)
の
姿
(
すがた
)
、
042
温
(
あたた
)
かき
雪
(
ゆき
)
の
肌
(
はだへ
)
に
包
(
つつ
)
まれた、
043
天津
(
あまつ
)
乙女
(
をとめ
)
の
化身
(
けしん
)
を
山奥
(
やまおく
)
より
引
(
ひ
)
きずり
出
(
だ
)
し、
044
秘
(
ひそか
)
に
太子
(
たいし
)
の
御心
(
みこころ
)
を
慰
(
なぐさ
)
めむものと
草鞋
(
わらぢ
)
脚絆
(
きやはん
)
に
身
(
み
)
を
固
(
かた
)
め、
045
服装
(
みなり
)
も
軽
(
かる
)
き
蓑笠
(
みのかさ
)
の
夜露
(
よつゆ
)
を
浴
(
あ
)
びて、
046
主
(
しゆ
)
を
思
(
おも
)
ふ
心
(
こころ
)
の
一筋途
(
ひとすぢみち
)
、
047
一筋縄
(
ひとすぢなは
)
では
行
(
ゆ
)
かぬ
左守
(
さもり
)
のシャカンナを、
048
夏
(
なつ
)
の
炎天
(
えんてん
)
に
地上
(
ちじやう
)
万物
(
ばんぶつ
)
を
霑
(
うるほ
)
す
夕立
(
ゆふだち
)
の
雨
(
あめ
)
の
ふるな
の
弁
(
べん
)
を
振
(
ふる
)
ひ、
049
邪
(
じや
)
が
非
(
ひ
)
でも、
050
縦
(
たて
)
でも
横
(
よこ
)
でも
頑固爺
(
ぐわんこおやぢ
)
を
納得
(
なつとく
)
させ、
051
肝腎
(
かんじん
)
の
玉
(
たま
)
を
抱
(
いだ
)
いて
帰
(
かへ
)
らねばおかぬと
雄健
(
をたけ
)
びしながら、
052
タニグク
山
(
やま
)
の
山口
(
やまぐち
)
、
053
玉
(
たま
)
の
川
(
かは
)
の
下流
(
かりう
)
、
054
岩瀬
(
いはせ
)
の
深森
(
もり
)
に
着
(
つ
)
いた。
055
夜
(
よ
)
はほんのりと
明
(
あ
)
け
放
(
はな
)
れむとする
時
(
とき
)
、
056
路傍
(
ろばう
)
の
岩
(
いは
)
に
腰
(
こし
)
打
(
う
)
ちかけ、
057
二
(
ふた
)
つの
黒
(
くろ
)
い
影
(
かげ
)
が
何
(
なん
)
だか
囁
(
ささや
)
き
合
(
あ
)
つて
居
(
ゐ
)
る。
058
谷川
(
たにがは
)
の
岩
(
いは
)
にせかるる
水音
(
みなおと
)
に
遮
(
さへぎ
)
られつつ、
059
しかと
言葉
(
ことば
)
の
筋
(
すぢ
)
は
解
(
わか
)
らない。
060
アリナは、
061
谷道
(
たにみち
)
に
直立
(
ちよくりつ
)
して、
062
頭
(
あたま
)
を
傾
(
かたむ
)
け
思
(
おも
)
ふやう、
063
……もはや
夜明
(
よあけ
)
に
間
(
ま
)
もない
暁
(
あかつき
)
の
空
(
そら
)
に
二人
(
ふたり
)
の
男
(
をとこ
)
が
囁
(
ささや
)
き、
064
合点
(
がつてん
)
のゆかぬ
事
(
こと
)
だ
哩
(
わい
)
、
065
噂
(
うはさ
)
に
聞
(
き
)
く
左守
(
さもり
)
のシャカンナが
一
(
いつ
)
ケ
月
(
げつ
)
以前
(
いぜん
)
迄
(
まで
)
抱
(
かか
)
えて
居
(
ゐ
)
た
山賊
(
さんぞく
)
の
片割
(
かたわれ
)
ではあるまいか。
066
何
(
なに
)
は
兎
(
と
)
もあれ
足音
(
あしおと
)
を
忍
(
しの
)
ばせ、
067
様子
(
やうす
)
を
伺
(
うかが
)
ひ
見
(
み
)
む……と
息
(
いき
)
を
凝
(
こ
)
らして
進
(
すす
)
みよつた。
068
二
(
ふた
)
つの
影
(
かげ
)
は
傍
(
そば
)
に
人
(
ひと
)
の
寄
(
よ
)
り
添
(
そ
)
ひ
居
(
を
)
るとは
知
(
し
)
らず、
069
盛
(
さか
)
んにメートルをあげて
居
(
ゐ
)
る。
070
ハンナ『オイ
君
(
きみ
)
、
071
此
(
この
)
間
(
あひだ
)
天帝
(
てんてい
)
の
化身
(
けしん
)
とか
云
(
い
)
ふ
山子
(
やまこ
)
坊主
(
ばうず
)
が
連
(
つ
)
れて
来
(
き
)
たダリヤ
姫
(
ひめ
)
とか
云
(
い
)
ふ
美人
(
びじん
)
のことを
思
(
おも
)
ひ
出
(
だ
)
すと、
072
俺
(
おれ
)
のやうな
恋愛
(
れんあい
)
観念
(
くわんねん
)
の
濃厚
(
のうこう
)
な
色男
(
いろをとこ
)
に
取
(
と
)
つては、
073
実
(
じつ
)
に
感慨
(
かんがい
)
無量
(
むりやう
)
だ。
074
君
(
きみ
)
だつて
平素
(
へいそ
)
の
偽善
(
ぎぜん
)
的
(
てき
)
言辞
(
げんじ
)
も
兜
(
かぶと
)
を
脱
(
ぬ
)
いで
俺
(
おれ
)
の
持論
(
ぢろん
)
に
賛意
(
さんい
)
を
表
(
へう
)
したく
成
(
な
)
るだらう』
075
タンヤ『
堂々
(
だうだう
)
たる
天下
(
てんか
)
の
男子
(
だんし
)
が、
076
女々
(
めめ
)
しい
恋愛
(
れんあい
)
だの、
077
神聖
(
しんせい
)
だなぞと
騒
(
さわ
)
ぎ
廻
(
まは
)
つて
風俗
(
ふうぞく
)
壊乱
(
くわいらん
)
の
火
(
ひ
)
の
手
(
て
)
を
煽
(
あ
)
ふり、
078
自分
(
じぶん
)
も
又
(
また
)
その
火中
(
くわちう
)
へ
喜
(
よろこ
)
んで
飛
(
と
)
び
込
(
こ
)
んで
行
(
ゆ
)
く
悲惨
(
ひさん
)
の
状態
(
じやうたい
)
を
見
(
み
)
ると、
079
実
(
じつ
)
に
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
の
奴
(
やつ
)
の
腰抜
(
こしぬ
)
け
加減
(
かげん
)
に
愛想
(
あいさう
)
が
尽
(
つ
)
きて
了
(
しま
)
ふわ。
080
ヘン、
081
泥坊
(
どろばう
)
稼
(
かせ
)
ぎの
身分
(
みぶん
)
でありながら、
082
恋愛
(
れんあい
)
の、
083
神聖
(
しんせい
)
のとは
臍茶
(
へそちや
)
の
至
(
いた
)
りだ。
084
オイ、
085
ハンナ、
086
そんなハンナリせぬ
腰抜論
(
こしぬけろん
)
は
聴
(
き
)
きたくないから、
087
俺
(
おれ
)
の
前
(
まへ
)
ではもう
言
(
い
)
つて
呉
(
く
)
れな。
088
気分
(
きぶん
)
が
悪
(
わる
)
くなるからのう』
089
ハ『ヘン、
090
泥坊
(
どろばう
)
だつて
恋愛論
(
れんあいろん
)
が
出来
(
でき
)
ない
理由
(
りいう
)
はあるまい。
091
先
(
ま
)
づ
聞
(
き
)
き
玉
(
たま
)
へ、
092
俺
(
おれ
)
の
名論
(
めいろん
)
卓説
(
たくせつ
)
を』
093
タ『
今日
(
けふ
)
は
僕
(
ぼく
)
も
死
(
し
)
んだ
女房
(
にようばう
)
の
命日
(
めいにち
)
だから、
094
供養
(
くやう
)
の
為
(
ため
)
に、
095
君
(
きみ
)
の
迷論
(
めいろん
)
に
対
(
たい
)
し
充分
(
じゆうぶん
)
なる
攻撃
(
こうげき
)
を
試
(
こころ
)
みる
心算
(
つもり
)
だが、
096
得心
(
とくしん
)
だらうねー』
097
ハ『
面白
(
おもしろ
)
い、
098
僕
(
ぼく
)
の
恋愛論
(
れんあいろん
)
に
口
(
くち
)
を
入
(
い
)
れる
余地
(
よち
)
があるならやつて
見
(
み
)
玉
(
たま
)
へ。
099
しどろもどろの
受太刀
(
うけだち
)
が
折
(
を
)
れて、
100
屹度
(
きつと
)
僕
(
ぼく
)
の
軍門
(
ぐんもん
)
に
降
(
くだ
)
るは
火
(
ひ
)
を
睹
(
み
)
るよりも
明
(
あきら
)
かな
事実
(
じじつ
)
だ。
101
オホン、
102
日進
(
につしん
)
月歩
(
げつぽ
)
文明
(
ぶんめい
)
の
今日
(
こんにち
)
では、
103
恋愛論
(
れんあいろん
)
に
趣味
(
しゆみ
)
を
持
(
も
)
たないものは、
104
最早
(
もはや
)
人外
(
じんぐわい
)
の
境域
(
きやうゐき
)
に
自
(
みづか
)
ら
堕落
(
だらく
)
して
居
(
ゐ
)
るものだ。
105
この
頃
(
ごろ
)
僕
(
ぼく
)
が
大
(
おほい
)
に
感
(
かん
)
ずる
事
(
こと
)
は、
106
性欲
(
せいよく
)
とか
恋愛
(
れんあい
)
と
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
に
関
(
くわん
)
する
議論
(
ぎろん
)
が、
107
著
(
いちじる
)
しく
抽象
(
ちうしやう
)
的
(
てき
)
に
成
(
な
)
つて
居
(
ゐ
)
ることだ。
108
然
(
しか
)
し
凡
(
すべ
)
ての
議論
(
ぎろん
)
が
反芻
(
はんすう
)
的
(
てき
)
で
一度
(
いちど
)
呑
(
の
)
み
込
(
こ
)
んだものを、
109
わざと
抽象
(
ちうしやう
)
的
(
てき
)
にして
出
(
だ
)
して
居
(
ゐ
)
る
様
(
やう
)
に
僕
(
ぼく
)
には
見
(
み
)
えて
成
(
な
)
らぬ。
110
ヤレ
恋愛
(
れんあい
)
は
神聖
(
しんせい
)
だとか
偏的
(
へんてき
)
だとか、
111
性
(
せい
)
の
問題
(
もんだい
)
は
斯
(
か
)
くあるべきものだとか、
112
そんな
風
(
ふう
)
に
恋愛
(
れんあい
)
を
自由
(
じいう
)
なものに
考
(
かんが
)
へては
不道徳
(
ふだうとく
)
だとか、
113
離婚
(
りこん
)
は
絶対
(
ぜつたい
)
に
不可
(
いけな
)
いとか
云
(
い
)
つて、
114
婦人会
(
ふじんくわい
)
連中
(
れんちう
)
が
首
(
くび
)
を
鳩
(
あつ
)
めて
決議
(
けつぎ
)
までやつたと
聞
(
き
)
いて、
115
僕
(
ぼく
)
は
不可思議
(
ふかしぎ
)
な
心持
(
こころも
)
ちがするのだ。
116
恋愛
(
れんあい
)
とか
性欲
(
せいよく
)
とか
云
(
い
)
ふものは、
117
そんなに
簡単
(
かんたん
)
に
無雑作
(
むざふさ
)
に
片付
(
かたづ
)
けらるるものだらうか。
118
今
(
いま
)
の
所謂
(
いはゆる
)
文明
(
ぶんめい
)
人間
(
にんげん
)
の
言
(
い
)
ふが
如
(
ごと
)
く、
119
一
(
いち
)
で
無
(
な
)
ければ
二
(
に
)
、
120
二
(
に
)
で
無
(
な
)
ければ
三
(
さん
)
と
云
(
い
)
ふやうに、
121
簡単
(
かんたん
)
に、
122
学問
(
がくもん
)
的
(
てき
)
乃至
(
ないし
)
知識
(
ちしき
)
的
(
てき
)
に
片付
(
かたづ
)
けて
了
(
しま
)
ふことの
出来
(
でき
)
るものだらうか。
123
僕
(
ぼく
)
は
何
(
ど
)
うも
左様
(
さやう
)
な
考
(
かんが
)
へは
持
(
も
)
てないのだ』
124
タ『ヘン、
125
国家
(
こくか
)
危急
(
ききふ
)
の
場合
(
ばあひ
)
に
当
(
あた
)
つた
今日
(
こんにち
)
、
126
恋愛
(
れんあい
)
問題
(
もんだい
)
なんか
唱
(
とな
)
へる
奴
(
やつ
)
の
野呂
(
のろ
)
さ
加減
(
かげん
)
に
呆
(
あき
)
れざるを
得
(
え
)
ないわ。
127
そんな
問題
(
もんだい
)
は
極
(
きは
)
めて
簡単
(
かんたん
)
に
片付
(
かたづ
)
けて
了
(
しま
)
ふ
方
(
はう
)
が
余程
(
よほど
)
人間
(
にんげん
)
らしいぢや
無
(
な
)
いか。
128
アタ
阿呆
(
あはう
)
らしい、
129
学問
(
がくもん
)
上
(
じやう
)
道徳
(
だうとく
)
上
(
じやう
)
から
見
(
み
)
ても
恋愛
(
れんあい
)
なんか
口
(
くち
)
にする
奴
(
やつ
)
は、
130
僕
(
ぼく
)
は
人間
(
にんげん
)
の
屑
(
くづ
)
だと
思
(
おも
)
つて
居
(
ゐ
)
る』
131
ハ『オイ、
132
タンヤ、
133
君
(
きみ
)
は
無味
(
むみ
)
乾燥
(
かんさう
)
な
心理
(
しんり
)
を
持
(
も
)
つて
居
(
ゐ
)
る
様
(
やう
)
だが、
134
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
は
理窟
(
りくつ
)
で
何
(
なに
)
程
(
ほど
)
押
(
お
)
し
通
(
とほ
)
したつて、
135
学問
(
がくもん
)
や
知識
(
ちしき
)
でいくら
攻
(
せ
)
めて
行
(
い
)
つたつて、
136
恋愛
(
れんあい
)
と
云
(
い
)
ふが
如
(
ごと
)
き
人間
(
にんげん
)
生涯
(
しやうがい
)
に
関
(
くわん
)
する
大問題
(
だいもんだい
)
を、
137
さう
易々
(
やすやす
)
と
片付
(
かたづ
)
ける
訳
(
わけ
)
には
行
(
ゆ
)
かないよ。
138
却
(
かへつ
)
てそれは
空想
(
くうさう
)
だ、
139
徒労
(
とらう
)
だ。
140
どうしても
人間
(
にんげん
)
には
信仰
(
しんかう
)
と
恋愛
(
れんあい
)
が
無
(
な
)
くてはならないのだから、
141
此
(
この
)
問題
(
もんだい
)
は
極
(
きわ
)
めて
慎重
(
しんちよう
)
に
研究
(
けんきう
)
すべき
価値
(
かち
)
が
充分
(
じゆうぶん
)
にあるよ』
142
タ『
恋愛
(
れんあい
)
と
云
(
い
)
ふものは
人
(
ひと
)
に
由
(
よ
)
つて
霊
(
れい
)
の
方面
(
はうめん
)
から
観察
(
くわんさつ
)
し、
143
或
(
あるひ
)
は
肉
(
にく
)
の
方面
(
はうめん
)
から
見
(
み
)
たり、
144
自然
(
しぜん
)
から
見
(
み
)
たり、
145
又
(
また
)
は
単
(
たん
)
なる
物質
(
ぶつしつ
)
から
見
(
み
)
たりするのもあるが、
146
要
(
えう
)
するに
道徳
(
だうとく
)
の
範囲内
(
はんゐない
)
に
於
(
おい
)
てでなければ、
147
神聖
(
しんせい
)
な
恋愛
(
れんあい
)
を
論議
(
ろんぎ
)
する
事
(
こと
)
は
出来
(
でき
)
ぬ。
148
万々一
(
まんまんいち
)
道徳
(
だうとく
)
を
度外
(
どぐわい
)
したる
恋愛
(
れんあい
)
を
唱
(
とな
)
ふるものありとすれば、
149
夫
(
そ
)
れは
人間
(
にんげん
)
以外
(
いぐわい
)
の
動物
(
どうぶつ
)
の
心理
(
しんり
)
状態
(
じやうたい
)
と
云
(
い
)
ふべきものだ』
150
ハ『それは
君
(
きみ
)
の
無味
(
むみ
)
乾燥
(
かんさう
)
な
頭脳
(
づなう
)
から
割
(
わ
)
り
出
(
だ
)
した
一面
(
いちめん
)
の
見方
(
みかた
)
であるが、
151
到底
(
たうてい
)
完全
(
くわんぜん
)
なる
恋愛
(
れんあい
)
、
152
または
性
(
せい
)
を
捕捉
(
ほそく
)
したものとは
言
(
い
)
はれない。
153
恋愛
(
れんあい
)
は
元来
(
ぐわんらい
)
自然
(
しぜん
)
と
同様
(
どうやう
)
に
端倪
(
たんげい
)
すべからざる
性質
(
せいしつ
)
のものだ。
154
極端
(
きよくたん
)
に
言
(
い
)
へば、
155
恋愛
(
れんあい
)
なるものは
余
(
あま
)
りに
神聖
(
しんせい
)
過
(
す
)
ぎて、
156
彼
(
かれ
)
此
(
これ
)
と
論議
(
ろんぎ
)
する
事
(
こと
)
さへも
出来
(
でき
)
ない
位
(
くらゐ
)
のものだ。
157
恋愛
(
れんあい
)
を
論議
(
ろんぎ
)
された
時
(
とき
)
には、
158
モハヤ
其
(
その
)
本当
(
ほんたう
)
のものは
何処
(
どこ
)
かに
去
(
さ
)
つて
了
(
しま
)
つて
居
(
ゐ
)
ると
言
(
い
)
つても
好
(
よ
)
い
位
(
くらゐ
)
だ。
159
換言
(
くわんげん
)
せば、
160
恋愛
(
れんあい
)
は
霊
(
れい
)
も
肉
(
にく
)
も
自然
(
しぜん
)
も
物質
(
ぶつしつ
)
も
凡
(
すべ
)
てを
打
(
う
)
つて
一丸
(
いちぐわん
)
と
為
(
な
)
した
処
(
ところ
)
にのみ、
161
恋愛
(
れんあい
)
の
髣髴
(
はうふつ
)
が
認
(
みと
)
められるもので、
162
何
(
なに
)
も
彼
(
か
)
もが
凡
(
すべ
)
て
同時
(
どうじ
)
にあるのだ。
163
霊肉
(
れいにく
)
一致
(
いつち
)
とは
好
(
よ
)
く
言
(
い
)
つたものだが、
164
夫
(
そ
)
れでさへ
充分
(
じゆうぶん
)
で
無
(
な
)
い
程
(
ほど
)
流動
(
りうどう
)
的
(
てき
)
なものだ。
165
だから
恋愛
(
れんあい
)
を
論
(
ろん
)
ずるに
当
(
あた
)
つては
君
(
きみ
)
の
説
(
せつ
)
の
様
(
やう
)
に、
166
普通
(
ふつう
)
の
倫理学
(
りんりがく
)
的
(
てき
)
論法
(
ろんぱふ
)
で、
167
斯
(
か
)
うだから
彼
(
ああ
)
だとか、
168
彼
(
ああ
)
だから
斯
(
か
)
うだとか
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
は
出来
(
でき
)
ない。
169
普通
(
ふつう
)
一般
(
いつぱん
)
的
(
てき
)
の
事実
(
じじつ
)
なら、
170
どんな
事
(
こと
)
でも
結果
(
けつくわ
)
から
押
(
お
)
して
考
(
かんが
)
へて
行
(
ゆ
)
けば、
171
答
(
こた
)
へは
可成
(
かなり
)
正確
(
せいかく
)
に
出
(
で
)
て
来
(
く
)
るが、
172
恋愛
(
れんあい
)
だけに
限
(
かぎ
)
つて、
173
さう
簡単
(
かんたん
)
に
片付
(
かたづ
)
かないよ。
174
知識
(
ちしき
)
や
倫理
(
りんり
)
的
(
てき
)
に
成
(
な
)
つた
時
(
とき
)
には、
175
最早
(
もはや
)
恋愛
(
れんあい
)
とか
性
(
せい
)
とか
言
(
い
)
ふものの
粕屑
(
かすくづ
)
であつて、
176
君
(
きみ
)
の
如
(
ごと
)
き
学者
(
がくしや
)
や、
177
論客
(
ろんきやく
)
が
何
(
なに
)
程
(
ほど
)
鹿爪
(
しかつめ
)
らしい
議論
(
ぎろん
)
や
意見
(
いけん
)
を
立
(
た
)
てて、
178
自分
(
じぶん
)
こそは
古来
(
こらい
)
の
恋愛論
(
れんあいろん
)
の
上
(
うへ
)
に
新
(
あたら
)
しい、
179
そして
的確
(
てきかく
)
な、
180
正当
(
せいたう
)
な、
181
一見地
(
いちけんち
)
を
加
(
くは
)
へたものと
自惚
(
うぬぼ
)
れて
居
(
ゐ
)
ても、
182
徒
(
いたづら
)
に
粕屑
(
かすくづ
)
を
握
(
つか
)
んで
金剛石
(
こんがうせき
)
の
様
(
やう
)
に
思
(
おも
)
つて
大騒
(
おほさわ
)
ぎをして
居
(
ゐ
)
るだけで、
183
恋愛
(
れんあい
)
の
本体
(
ほんたい
)
は
何時
(
いつ
)
の
間
(
ま
)
にやら
千万
(
せんまん
)
里
(
り
)
の
遠方
(
ゑんぱう
)
へ
滑
(
すべ
)
つて
逃
(
に
)
げて
往
(
い
)
つた
後
(
あと
)
なのだ』
184
タ『
君
(
きみ
)
の
説
(
せつ
)
は
全然
(
ぜんぜん
)
道徳
(
だうとく
)
を
無視
(
むし
)
し、
185
社会
(
しやくわい
)
の
秩序
(
ちつじよ
)
が
紊乱
(
びんらん
)
し、
186
家族
(
かぞく
)
制度
(
せいど
)
が
破壊
(
はくわい
)
されても、
187
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)
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ゆ
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天下
(
てんか
)
は
泰平
(
たいへい
)
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云
(
い
)
つたやうな
悪思想
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189
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は
自由
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190
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)
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191
動物性
(
どうぶつせい
)
を
帯
(
お
)
びて、
192
外道
(
げだう
)
の
主張
(
しゆちやう
)
だ。
193
僕
(
ぼく
)
は
賛成
(
さんせい
)
する
事
(
こと
)
は
出来
(
でき
)
ないよ。
194
三角
(
さんかく
)
問題
(
もんだい
)
や、
195
離婚
(
りこん
)
問題
(
もんだい
)
が
頻々
(
ひんぴん
)
として
社会
(
しやくわい
)
に
続出
(
ぞくしゆつ
)
するのも、
196
君
(
きみ
)
の
如
(
ごと
)
き
悪思想
(
あくしさう
)
のものが
覇張
(
はば
)
るからだ。
197
恋愛
(
れんあい
)
といふものは、
198
成程
(
なるほど
)
神聖
(
しんせい
)
なものでは
有
(
あ
)
るが、
199
少
(
すこ
)
しは
慎
(
つつし
)
みと
言
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
、
200
又
(
また
)
は
倫理
(
りんり
)
の
点
(
てん
)
を
考慮
(
かうりよ
)
して
始
(
はじ
)
めて
神聖
(
しんせい
)
な
恋愛
(
れんあい
)
とも
云
(
い
)
へるものだと
思
(
おも
)
ふ。
201
君
(
きみ
)
の
恋愛論
(
れんあいろん
)
は
所謂
(
いはゆる
)
風俗
(
ふうぞく
)
破壊論
(
はくわいろん
)
の
変態
(
へんたい
)
だ』
202
ハ『
君
(
きみ
)
の
様
(
やう
)
に、
203
恋愛
(
れんあい
)
を
道徳
(
だうとく
)
的
(
てき
)
問題視
(
もんだいし
)
し
過
(
す
)
ぎては、
204
その
本体
(
ほんたい
)
は
既
(
すで
)
に
蔭
(
かげ
)
も
形
(
かたち
)
も
無
(
な
)
くなつて
了
(
しま
)
ふ。
205
いつの
間
(
ま
)
にか
指
(
ゆび
)
の
股
(
また
)
から
滑
(
すべ
)
り
落
(
お
)
ちて
了
(
しま
)
つて
居
(
ゐ
)
るのだ。
206
夫
(
そ
)
れにも
気
(
き
)
が
付
(
つ
)
かず、
207
後
(
あと
)
に
残
(
のこ
)
つた
恋愛
(
れんあい
)
の
粕屑
(
かすくづ
)
許
(
ばか
)
りを
捉
(
とら
)
へて、
208
彼
(
かれ
)
此
(
これ
)
と
論議
(
ろんぎ
)
して
居
(
ゐ
)
る
様
(
やう
)
だ。
209
僕
(
ぼく
)
等
(
たち
)
は、
210
モウ
少
(
すこ
)
し
夫
(
そ
)
れを
活動
(
くわつどう
)
的
(
てき
)
存在物
(
そんざいぶつ
)
として、
211
刹那
(
せつな
)
々々
(
せつな
)
に
深
(
ふか
)
く
触
(
ふ
)
れて
行
(
ゆ
)
く
事
(
こと
)
を
念
(
ねん
)
とせなくては
成
(
な
)
らないだらうと
思
(
おも
)
ふのだ』
212
タ『
恋愛
(
れんあい
)
は
一夫
(
いつぷ
)
一婦
(
いつぷ
)
の
厳守
(
げんしゆ
)
に
由
(
よ
)
つて
始
(
はじ
)
めて
神聖
(
しんせい
)
たり
得
(
う
)
るのだ。
213
そして
人間
(
にんげん
)
たるものは
飽
(
あ
)
くまでも
一夫
(
いつぷ
)
一婦
(
いつぷ
)
の
道
(
みち
)
を
守
(
まも
)
つて
行
(
ゆ
)
かねば
人間
(
にんげん
)
としての
品格
(
ひんかく
)
が
保
(
たも
)
てない。
214
故
(
ゆゑ
)
に
何処
(
どこ
)
までも
倫理
(
りんり
)
的
(
てき
)
で
無
(
な
)
くては、
215
恋愛
(
れんあい
)
は
成立
(
せいりつ
)
せないと
思
(
おも
)
つて、
216
僕
(
ぼく
)
は
泥坊稼
(
どろばうかせぎ
)
の
傍
(
かたはら
)
永年
(
ながねん
)
努力
(
どりよく
)
して
居
(
ゐ
)
るのだ』
217
ハ『
他人
(
たにん
)
の
婦女
(
ふぢよ
)
を
強姦
(
がうかん
)
し、
218
財産
(
ざいさん
)
を
掠奪
(
りやくだつ
)
するを
以
(
もつ
)
てモツトーとする
泥坊稼
(
どろばうかせぎ
)
の
身
(
み
)
で
居
(
ゐ
)
ながら、
219
一夫
(
いつぷ
)
一婦
(
いつぷ
)
論
(
ろん
)
や、
220
道徳心
(
だうとくしん
)
を
以
(
もつ
)
て
此
(
この
)
問題
(
もんだい
)
に
対
(
たい
)
し、
221
永年
(
ながねん
)
の
努力
(
どりよく
)
を
惜
(
をし
)
まない
君
(
きみ
)
の
精神
(
せいしん
)
と
勇気
(
ゆうき
)
には
大
(
おほい
)
に
感服
(
かんぷく
)
するが、
222
実際
(
じつさい
)
其
(
その
)
場
(
ば
)
に
臨
(
のぞ
)
んで、
223
君
(
きみ
)
の
堅固
(
けんご
)
な
主張
(
しゆちやう
)
が
守
(
まも
)
れるか
守
(
まも
)
れないかは、
2231
第二
(
だいに
)
の
問題
(
もんだい
)
として、
224
兎
(
と
)
に
角
(
かく
)
も
努力
(
どりよく
)
しようとする
其
(
その
)
心懸
(
こころが
)
けは
僕
(
ぼく
)
は
愛
(
あい
)
する。
225
現
(
げん
)
に
僕
(
ぼく
)
なども
三角
(
さんかく
)
状態
(
じやうたい
)
の
苦
(
くる
)
しい
立場
(
たちば
)
に
立
(
た
)
ち、
226
恋愛
(
れんあい
)
の
好
(
よ
)
い
加減
(
かげん
)
でない
事
(
こと
)
を
痛感
(
つうかん
)
し、
227
人間
(
にんげん
)
の
魂
(
たましひ
)
の
玩弄
(
ぐわんろう
)
すべからざることを
痛切
(
つうせつ
)
に
知
(
し
)
つた
時
(
とき
)
には、
228
「
矢張
(
やつぱり
)
一夫
(
いつぷ
)
一婦
(
いつぷ
)
の
制度
(
せいど
)
が
結構
(
けつこう
)
だなア。
229
さう
云
(
い
)
ふ
風
(
ふう
)
に
出来
(
でき
)
て
居
(
ゐ
)
るのだなア」と
云
(
い
)
ふ
風
(
ふう
)
に
独語
(
どくご
)
せずには
居
(
ゐ
)
られなかつた
事
(
こと
)
もある。
230
故
(
ゆゑ
)
に
僕
(
ぼく
)
も
愛情
(
あいじやう
)
の
濃
(
こまや
)
かな、
231
一夫
(
いつぷ
)
一婦
(
いつぷ
)
の
仲
(
なか
)
、
232
お
互
(
たがひ
)
に
他
(
た
)
に
目
(
め
)
を
移
(
うつ
)
す
余裕
(
よゆう
)
のない、
233
円満
(
ゑんまん
)
にして
且
(
か
)
つ
濃厚
(
のうこう
)
な
夫婦
(
ふうふ
)
の
仲
(
なか
)
を
尊敬
(
そんけい
)
する
一人
(
ひとり
)
だ。
234
併
(
しか
)
しそれは
原則
(
げんそく
)
としてではない。
235
唯
(
ただ
)
好
(
よ
)
い
事
(
こと
)
だと
云
(
い
)
ふだけに
止
(
とど
)
めたいのだ。
236
何故
(
なぜ
)
ならば
237
自然
(
しぜん
)
はそんなに
簡単
(
かんたん
)
に
言
(
い
)
つて
了
(
しま
)
ふ
事
(
こと
)
の
出来
(
でき
)
るものでは
無
(
な
)
いのだ。
238
又
(
また
)
一夫
(
いつぷ
)
一婦
(
いつぷ
)
が
如何
(
いか
)
に
理想
(
りさう
)
的
(
てき
)
であるからと
言
(
い
)
つて、
239
皆
(
みな
)
の
人間
(
にんげん
)
が
訳
(
わけ
)
もなく
行
(
おこな
)
ふ
事
(
こと
)
が
出来
(
でき
)
る
様
(
やう
)
では、
240
又
(
また
)
出来
(
でき
)
るやうに
此
(
この
)
自然
(
しぜん
)
が
出来
(
でき
)
て
居
(
ゐ
)
ては、
241
それこそ
人生
(
じんせい
)
は
単調
(
たんてう
)
になつて
了
(
しま
)
つて、
242
微妙
(
びめう
)
な
美
(
び
)
の
波動
(
はどう
)
もなければ、
243
細微
(
さいび
)
な
感情
(
かんじやう
)
の
渦巻
(
うづまき
)
もなく、
244
全
(
まつた
)
く
色彩
(
しきさい
)
のない
荒涼
(
くわうりやう
)
たるものに
成
(
な
)
つて
了
(
しま
)
ふ。
245
否
(
いな
)
夫
(
そ
)
れだけならまだ
我慢
(
がまん
)
が
出来
(
でき
)
るとしても、
246
それでは
結局
(
けつきよく
)
この
人生
(
じんせい
)
が
成
(
な
)
り
立
(
た
)
つて
行
(
ゆ
)
かない。
247
悪
(
わる
)
く
型
(
かた
)
にはまつて
了
(
しま
)
つた
様
(
やう
)
になつて、
248
少
(
すこ
)
しの
余裕
(
よゆう
)
もなく、
249
終
(
つひ
)
には
破綻
(
はたん
)
百出
(
ひやくしゆつ
)
するに
至
(
いた
)
るものだ。
250
また
単
(
たん
)
に
生殖
(
せいしよく
)
と
云
(
い
)
ふ
点
(
てん
)
から
見
(
み
)
ても、
251
そんな
事
(
こと
)
ではとても
人生
(
じんせい
)
は
成立
(
せいりつ
)
して
行
(
ゆ
)
かないのは
好
(
よ
)
く
判
(
わか
)
る。
252
そこで
君
(
きみ
)
の
一夫
(
いつぷ
)
一婦
(
いつぷ
)
説
(
せつ
)
も
悪
(
わる
)
くはないが、
253
皆
(
みな
)
の
人間
(
にんげん
)
が
夫
(
そ
)
れになつては
困
(
こま
)
ると
云
(
い
)
ふ
形
(
かたち
)
になるのだ。
254
恋愛
(
れんあい
)
はモツト
自由
(
じいう
)
で
溌溂
(
はつらつ
)
として、
255
さうした
人間
(
にんげん
)
の
理智
(
りち
)
や
意識
(
いしき
)
で
拵
(
こしら
)
へた、
256
希望
(
きばう
)
とか
理想
(
りさう
)
とか、
257
道義
(
だうぎ
)
とか
品行
(
ひんかう
)
とか
云
(
い
)
ふ
型
(
かた
)
の
様
(
やう
)
なものなどは、
258
幾何
(
いくら
)
出来
(
でき
)
ても、
259
手早
(
てばや
)
く
且
(
か
)
つ
容易
(
ようい
)
に
内部
(
ないぶ
)
から
打壊
(
うちこは
)
して
了
(
しま
)
ふ
強
(
つよ
)
い
力
(
ちから
)
を
持
(
も
)
たなければ
成
(
な
)
らないと
云
(
い
)
ふことになるのだ』
260
タ『
君
(
きみ
)
の
如
(
ごと
)
き
自由
(
じいう
)
恋愛論者
(
れんあいろんしや
)
の
性欲
(
せいよく
)
万能
(
ばんのう
)
主義者
(
しゆぎしや
)
には、
261
僕
(
ぼく
)
も
大
(
おほい
)
に
面喰
(
めんくら
)
つた。
262
開
(
あ
)
いた
口
(
くち
)
が
閉
(
ふさ
)
がらないわ。
263
何
(
なん
)
なりと
御
(
ご
)
勝手
(
かつて
)
に
喋舌
(
しやべ
)
つたが
好
(
よ
)
からうよ』
264
ハ『
誤解
(
ごかい
)
しちや
困
(
こま
)
るよ。
265
僕
(
ぼく
)
だつて
決
(
けつ
)
して
自由
(
じいう
)
恋愛
(
れんあい
)
主義者
(
しゆぎしや
)
ではない。
266
又
(
また
)
単
(
たん
)
に
性欲
(
せいよく
)
の
満足
(
まんぞく
)
のみを
求
(
もと
)
めて
世
(
よ
)
を
乱
(
みだ
)
さうとするものでもない。
267
かつては
僕
(
ぼく
)
は
自然
(
しぜん
)
主義
(
しゆぎ
)
の
唱道者
(
しやうだうしや
)
として、
268
獣類
(
じうるゐ
)
に
近
(
ちか
)
い
無残
(
むざん
)
な
性欲
(
せいよく
)
を
恣
(
ほしいまま
)
にするものだと
云
(
い
)
ふやうに、
269
世間
(
せけん
)
から
勝手
(
かつて
)
に
定
(
き
)
められて
了
(
しま
)
つたこともあつたが、
270
決
(
けつ
)
して
僕
(
ぼく
)
は
性欲
(
せいよく
)
万能宗
(
ばんのうしう
)
の
信者
(
しんじや
)
ではない。
271
唯
(
ただ
)
僕
(
ぼく
)
は
恋愛
(
れんあい
)
といふものは、
272
さういふ
自由
(
じいう
)
な
奔放
(
ほんぱう
)
なものだといふ
事
(
こと
)
を
主張
(
しゆちやう
)
するのだ。
273
単
(
たん
)
なる
知識
(
ちしき
)
になつて
了
(
しま
)
つては、
274
約
(
つま
)
り
前
(
まへ
)
にも
云
(
い
)
つた
通
(
とほ
)
り、
275
粕屑
(
かすくづ
)
的
(
てき
)
論議
(
ろんぎ
)
になつて
了
(
しま
)
つては、
276
溌溂
(
はつらつ
)
とした
流動
(
りうどう
)
的
(
てき
)
存在
(
そんざい
)
としては、
277
到底
(
たうてい
)
そんな
風
(
ふう
)
に
定
(
き
)
めて
了
(
しま
)
ふ
事
(
こと
)
は
出来
(
でき
)
ないと
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
を
言
(
い
)
ひたいのだ』
278
タ『
君
(
きみ
)
の
説
(
せつ
)
の
如
(
ごと
)
きそんな
無検束
(
むけんそく
)
なことは
許
(
ゆる
)
せない。
279
君
(
きみ
)
がさう
言
(
い
)
ふ
風
(
ふう
)
に
恋愛
(
れんあい
)
なるものを
見
(
み
)
るなれば、
280
それだけでモウ
立派
(
りつぱ
)
な
正札
(
しやうふだ
)
附
(
つ
)
きの
自由
(
じいう
)
恋愛論者
(
れんあいろんしや
)
ではないか』
281
ハ『その
様
(
やう
)
にも
浅
(
あさ
)
く
考
(
かんが
)
へたら
取
(
と
)
れるだろうが、
282
その
点
(
てん
)
は
実
(
じつ
)
に
難
(
むつかし
)
いのだ。
283
そこに
非常
(
ひじやう
)
に
深
(
ふか
)
い
細
(
こま
)
かい、
284
ともすれば
見落
(
みおと
)
して
了
(
しま
)
ひさうなデリケートな、
285
心理
(
しんり
)
的
(
てき
)
境地
(
きやうち
)
が
存在
(
そんざい
)
して
居
(
ゐ
)
るのだ。
286
それは
一種
(
いつしゆ
)
の
理解
(
りかい
)
であるとも
云
(
い
)
はれるが、
287
又
(
また
)
一種
(
いつしゆ
)
の
感激
(
かんげき
)
だと
言
(
い
)
ひ
得
(
う
)
る。
288
更
(
さら
)
に
言
(
い
)
ひかへて
人間
(
にんげん
)
乃至
(
ないし
)
人生
(
じんせい
)
に
対
(
たい
)
する、
289
大
(
おほ
)
きな
自然
(
しぜん
)
に
対
(
たい
)
する
溜息
(
ためいき
)
が
在
(
あ
)
るとも
言
(
い
)
へる。
290
約
(
つ
)
まり
何
(
ど
)
うにも
成
(
な
)
らないと
云
(
い
)
ふ
心持
(
こころもち
)
に
近
(
ちか
)
いものだ。
291
恋愛
(
れんあい
)
なるものは
到底
(
たうてい
)
見通
(
みとほ
)
しする
事
(
こと
)
の
出来
(
でき
)
るものではない。
292
単純
(
たんじゆん
)
であつて、
293
併
(
しか
)
も
深奥
(
しんあう
)
なものだから、
294
取
(
と
)
らうと
思
(
おも
)
へば
直
(
すぐ
)
そこに
在
(
あ
)
るが、
295
扨
(
さ
)
て
何処
(
どこ
)
までいつても
端倪
(
たんげい
)
されないものだ。
296
この
心持
(
こころもち
)
が
約
(
つ
)
まり
恋愛
(
れんあい
)
の
純
(
じゆん
)
な
所
(
ところ
)
なのだ』
297
タ『
全然
(
ぜんぜん
)
君
(
きみ
)
の
説
(
せつ
)
は
二十
(
にじつ
)
世紀
(
せいき
)
頃
(
ごろ
)
に
生
(
い
)
きて
居
(
ゐ
)
た
小説家
(
せうせつか
)
の
田山
(
たやま
)
花袋
(
くわたい
)
の
様
(
やう
)
なことを
言
(
い
)
つてるぢやないか』
298
ハ『
当然
(
たうぜん
)
だよ。
299
実
(
じつ
)
は
田山
(
たやま
)
花袋
(
くわたい
)
の
恋愛説
(
れんあいせつ
)
に
心酔
(
しんすゐ
)
して
居
(
ゐ
)
るのだ、
300
アハヽヽヽ』
301
タ『オイ、
302
もう
夜
(
よ
)
が
明
(
あ
)
けるぢやないか。
303
恋愛論
(
れんあいろん
)
も、
304
よい
加減
(
かげん
)
に
幕
(
まく
)
を
卸
(
おろ
)
し、
305
弥々
(
いよいよ
)
これから
本業
(
ほんげふ
)
に
取
(
とり
)
かかるとせうかい。
306
此
(
この
)
間
(
あひだ
)
天帝
(
てんてい
)
の
化身
(
けしん
)
と
称
(
しよう
)
する
玄真坊
(
げんしんばう
)
が
連
(
つ
)
れて
来
(
き
)
よつたダリヤ
姫
(
ひめ
)
も
頗
(
すこぶ
)
る
素的
(
すてき
)
な
美人
(
びじん
)
だつたが、
307
然
(
しか
)
し
彼奴
(
あいつ
)
は、
308
既
(
すで
)
に
鼻
(
はな
)
の
先
(
さき
)
が
割
(
わ
)
れて
居
(
ゐ
)
る。
309
そんな
古
(
ふる
)
めかしいものよりも、
310
どうだ、
311
甘
(
うま
)
く
親分
(
おやぶん
)
の
所在
(
ありか
)
を
突
(
つ
)
き
止
(
と
)
めて、
312
有
(
あ
)
らむ
限
(
かぎ
)
りの
胡麻
(
ごま
)
を
擦
(
す
)
り、
313
元
(
もと
)
の
如
(
ごと
)
く
乾児
(
こぶん
)
に
使
(
つか
)
つて
貰
(
もら
)
ひ、
314
隙
(
すき
)
を
考
(
かんが
)
へて、
315
スバール
姫
(
ひめ
)
を
奪
(
うば
)
ひ
取
(
と
)
り、
316
タラハンの
町
(
まち
)
へそつと
連
(
つ
)
れ
行
(
ゆ
)
き、
317
金
(
かね
)
にかへやうものなら、
318
一万
(
いちまん
)
両
(
りやう
)
や
二万
(
にまん
)
両
(
りやう
)
は
受
(
う
)
け
合
(
あ
)
ひの
西瓜
(
すゐくわ
)
だ。
319
どうだ
一
(
ひと
)
つ
二人
(
ふたり
)
が
協力
(
けふりよく
)
して
甘
(
うま
)
く
目的
(
もくてき
)
を
達成
(
たつせい
)
し、
320
其
(
その
)
金
(
かね
)
を
以
(
もつ
)
て
立派
(
りつぱ
)
な
商売
(
しやうばい
)
を
営
(
いとな
)
み、
321
天晴
(
あつぱれ
)
紳士
(
しんし
)
となつて
世
(
よ
)
を
送
(
おく
)
らうぢやないか。
322
恋愛論
(
れんあいろん
)
も
恋愛論
(
れんあいろん
)
だが
323
俺
(
おれ
)
に
云
(
い
)
はせれば
花
(
はな
)
より
団子
(
だんご
)
だ。
324
華
(
くわ
)
を
去
(
さ
)
り
実
(
じつ
)
に
就
(
つ
)
くのが
最
(
もつと
)
も
安全
(
あんぜん
)
なるやり
方
(
かた
)
だよ』
325
ハ『
俺
(
おれ
)
もお
前
(
まへ
)
と
約束
(
やくそく
)
して
此処
(
ここ
)
迄
(
まで
)
やつて
来
(
き
)
たのだが、
326
あのスバール
姫
(
ひめ
)
はどことはなしに
優
(
やさ
)
しみがあり、
327
あれ
程
(
ほど
)
の
美人
(
びじん
)
を
娼婦
(
せうふ
)
に
売
(
う
)
るのは
何
(
なん
)
だか
可愛
(
かあい
)
さうな
気
(
き
)
がする。
328
甘
(
うま
)
く
目的
(
もくてき
)
を
達
(
たつ
)
したら、
329
あの
女
(
をんな
)
をそんな
泥水
(
どろみづ
)
に
落
(
おと
)
さず、
330
どうだ
俺
(
おれ
)
の
女房
(
にようばう
)
にスツパリと
呉
(
く
)
れる
雅量
(
がりやう
)
はないか。
331
俺
(
おれ
)
だつて
何時
(
いつ
)
迄
(
まで
)
も
金鎚
(
かなづち
)
の
川流
(
かはなが
)
れぢやあるまい。
332
きつと
頭
(
あたま
)
を
上
(
あ
)
げる
時
(
とき
)
がある。
333
其
(
その
)
時
(
とき
)
にはお
前
(
まへ
)
に
百万
(
ひやくまん
)
両
(
りやう
)
でもお
礼
(
れい
)
をするからなア』
334
タ『ヘン、
335
甘
(
うま
)
い
事
(
こと
)
を
仰有
(
おつしや
)
りますわい。
336
お
前
(
まへ
)
のやうな
猿面
(
さるめん
)
野郎
(
やらう
)
がスバール
姫
(
ひめ
)
を
恋慕
(
れんぼ
)
するなんで
性
(
しやう
)
に
合
(
あ
)
はないわ。
337
そんな
空想
(
くうさう
)
を
描
(
ゑが
)
くよりも、
338
甘
(
うま
)
く
姫
(
ひめ
)
を
奪
(
うば
)
ひ
取
(
と
)
り、
339
お
金
(
かね
)
にした
方
(
はう
)
が
何
(
なに
)
程
(
ほど
)
徳
(
とく
)
だか
知
(
し
)
れないよ。
340
又
(
また
)
かりに、
341
貴様
(
きさま
)
の
女房
(
にようばう
)
にスバール
姫
(
ひめ
)
が
成
(
な
)
つたとした
所
(
ところ
)
で、
342
貴様
(
きさま
)
のド
甲斐性
(
がひしやう
)
では
姫
(
ひめ
)
を
満足
(
まんぞく
)
さす
事
(
こと
)
も
出来
(
でき
)
まいし、
343
終
(
しまひ
)
の
果
(
はて
)
には……ド
甲斐性
(
かひしやう
)
なしだ、
344
腰抜
(
こしぬ
)
け
野郎
(
やらう
)
だ、
345
馬鹿
(
ばか
)
野郎
(
やらう
)
だ……と
姫
(
ひめ
)
の
方
(
はう
)
から
愛想
(
あいさう
)
尽
(
つ
)
かされ、
346
捨
(
す
)
てられるのは
今
(
いま
)
から
見
(
み
)
えて
居
(
ゐ
)
る。
347
万々一
(
まんまんいち
)
山奥
(
やまおく
)
に
育
(
そだ
)
つた
未通娘
(
おぼこむすめ
)
だから、
348
お
前
(
まへ
)
の
意思
(
いし
)
に
従
(
したが
)
ふにした
所
(
ところ
)
で
349
俺
(
おれ
)
をどうするのだ。
350
貴様
(
きさま
)
が
出世
(
しゆつせ
)
した
時
(
とき
)
俺
(
おれ
)
に
報酬
(
ほうしう
)
をやると
云
(
い
)
うたが、
351
貴様
(
きさま
)
の
力
(
ちから
)
ではミロクの
世
(
よ
)
迄
(
まで
)
待
(
ま
)
つた
所
(
ところ
)
で
到底
(
たうてい
)
覚束
(
おぼつか
)
ない
話
(
はなし
)
だ。
352
それよりも
甘
(
うま
)
く
手
(
て
)
に
入
(
はい
)
つたら
売
(
う
)
り
飛
(
と
)
ばすに
限
(
かぎ
)
るよ』
353
ハ『
俺
(
おれ
)
とスバール
姫
(
ひめ
)
とが
円満
(
ゑんまん
)
なホームを
作
(
つく
)
り、
354
そして
姫
(
ひめ
)
は
天成
(
てんせい
)
の
美人
(
びじん
)
だから、
355
立派
(
りつぱ
)
な
美人
(
びじん
)
を
生
(
う
)
むに
相違
(
さうゐ
)
ない。
356
世
(
よ
)
の
諺
(
ことわざ
)
にも
出藍
(
しゆつらん
)
の
誉
(
ほまれ
)
とか
云
(
い
)
つて、
357
あんなものがこんなものを
生
(
う
)
んだかと
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
もある。
358
雀
(
すずめ
)
が
鷹
(
たか
)
を
生
(
う
)
む
譬
(
たとへ
)
もある。
359
然
(
しか
)
るに
況
(
いは
)
んや
孔雀
(
くじやく
)
にも
比
(
ひ
)
すべきスバール
姫
(
ひめ
)
、
360
出来
(
でき
)
た
子
(
こ
)
はきつと
鳳凰
(
ほうわう
)
以上
(
いじやう
)
だらう。
361
その
鳳凰
(
ほうわう
)
を
今
(
いま
)
から
貴様
(
きさま
)
にやる
事
(
こと
)
の
約束
(
やくそく
)
して
置
(
お
)
かう。
362
貴様
(
きさま
)
が
夫
(
それ
)
を
女房
(
にようばう
)
にせうと
363
何万
(
なんまん
)
円
(
ゑん
)
に
売
(
う
)
り
飛
(
と
)
ばさうと
勝手
(
かつて
)
だ。
364
暫
(
しばら
)
く
時節
(
じせつ
)
を
待
(
ま
)
つてくれ。
365
時節
(
じせつ
)
さへ
来
(
く
)
れば
煎豆
(
いりまめ
)
にも
花
(
はな
)
が
咲
(
さ
)
くと
云
(
い
)
ふからのう』
366
タ『ヘン、
367
馬鹿
(
ばか
)
らしい、
368
俺
(
おれ
)
だつて
矢張
(
やつぱり
)
男
(
をとこ
)
だ。
369
貴様
(
きさま
)
がスバール
姫
(
ひめ
)
に
恋慕
(
れんぼ
)
した
如
(
ごと
)
く、
370
俺
(
おれ
)
だつて
矢張
(
やつぱり
)
恋慕
(
れんぼ
)
の
心
(
こころ
)
は
同様
(
どうやう
)
だ。
371
お
前
(
まへ
)
は
恋愛
(
れんあい
)
々々
(
れんあい
)
と
議論
(
ぎろん
)
許
(
ばか
)
りで
立派
(
りつぱ
)
に
喋舌
(
しやべ
)
り
立
(
た
)
てるが、
372
いつも
見事
(
みごと
)
に
成功
(
せいこう
)
した
事
(
こと
)
はあるまい。
373
十
(
じふ
)
人
(
にん
)
口説
(
くど
)
いて
一人
(
ひとり
)
応
(
おう
)
ずれば
一割
(
いちわり
)
に
当
(
あた
)
るから、
374
まんざら
捨
(
す
)
てたものではないとお
前
(
まへ
)
は
何時
(
いつ
)
も
云
(
い
)
つて
居
(
ゐ
)
るが、
375
百
(
ひやく
)
人
(
にん
)
千
(
せん
)
人
(
にん
)
口説
(
くど
)
いたつて、
376
其
(
その
)
御
(
ご
)
面相
(
めんさう
)
では
半人
(
はんにん
)
だつて
応
(
おう
)
ずるものはあるまい。
377
今
(
いま
)
迄
(
まで
)
一人
(
ひとり
)
でも
成功
(
せいこう
)
したものがあるなら
云
(
い
)
つて
見
(
み
)
よ』
378
ハ『ヘン、
379
偉
(
えら
)
相
(
さう
)
に
云
(
い
)
ふない。
380
俺
(
おれ
)
だつて
恋愛
(
れんあい
)
については、
381
聊
(
いささ
)
か
自信
(
じしん
)
をもつて
居
(
ゐ
)
るのだ。
382
まづ
僕
(
ぼく
)
の
女
(
をんな
)
に
対
(
たい
)
する
恋愛
(
れんあい
)
の
実際
(
じつさい
)
は、
383
今日
(
けふ
)
迄
(
まで
)
の
経験
(
けいけん
)
上
(
じやう
)
、
384
いつでも
半分
(
はんぶん
)
丈
(
だ
)
けは
必
(
かなら
)
ず
成就
(
じやうじゆ
)
して
居
(
ゐ
)
るのだ。
385
要
(
えう
)
するに
恋愛
(
れんあい
)
なるものは、
386
男女
(
だんぢよ
)
二人
(
ふたり
)
の
間
(
あひだ
)
に
合意
(
がふい
)
的
(
てき
)
に
成立
(
なりた
)
つものだから、
387
其
(
その
)
合意
(
がふい
)
的
(
てき
)
の
半分
(
はんぶん
)
、
388
即
(
すなは
)
ち
男
(
をとこ
)
の
俺
(
おれ
)
だけは
確
(
たしか
)
に
成功
(
せいこう
)
するが、
389
未
(
いま
)
だ
嘗
(
かつ
)
て、
390
女
(
をんな
)
の
方
(
はう
)
に、
391
実際
(
じつさい
)
の
事
(
こと
)
を
云
(
い
)
へば
出来
(
でき
)
た
事
(
こと
)
が
無
(
な
)
い。
392
それだから
僕
(
ぼく
)
の
恋愛
(
れんあい
)
は
半分
(
はんぶん
)
は
間違
(
まちがひ
)
なくきつと
成就
(
じやうじゆ
)
するのだ』
393
タ『ウフヽヽヽ、
394
ヘン
馬鹿
(
ばか
)
らしい。
395
貴様
(
きさま
)
はよい
馬鹿
(
ばか
)
だなア。
396
馬鹿者
(
ばかもの
)
の
典型
(
てんけい
)
とは
貴様
(
きさま
)
の
事
(
こと
)
だよ。
397
議論
(
ぎろん
)
許
(
ばか
)
り
立派
(
りつぱ
)
にベラベラ
喋舌
(
しやべ
)
るが
天成
(
てんせい
)
の
鈍物
(
どんぶつ
)
だから、
398
否
(
いな
)
馬鹿
(
ばか
)
野郎
(
やらう
)
だからお
話
(
はなし
)
にならないわ』
399
ハ『どこやらの
教
(
をし
)
へにも「
阿呆
(
あはう
)
になつて
居
(
ゐ
)
て
下
(
くだ
)
されよ。
400
阿呆
(
あはう
)
程
(
ほど
)
結構
(
けつこう
)
なものはないぞよ。
401
阿呆
(
あはう
)
になつて
居
(
を
)
らねば
物事
(
ものごと
)
成就
(
じやうじゆ
)
致
(
いた
)
さぬぞよ」と
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
があるぢやないか。
402
阿呆
(
あはう
)
は
所謂
(
いはゆる
)
馬鹿
(
ばか
)
野郎
(
やらう
)
だ。
403
俺
(
おれ
)
は
馬鹿
(
ばか
)
野郎
(
やらう
)
をもつて
天下
(
てんか
)
の
誇
(
ほこ
)
りとして
居
(
ゐ
)
るのだ。
404
良
(
よ
)
う
考
(
かんが
)
へて
見
(
み
)
よ。
405
彼奴
(
あいつ
)
は
学者
(
がくしや
)
だ、
406
智者
(
ちしや
)
だ、
407
才子
(
さいし
)
だ、
408
策士
(
さくし
)
だと
世間
(
せけん
)
から
云
(
い
)
はれて
居
(
ゐ
)
る
小賢
(
こざか
)
しい
人間
(
にんげん
)
よりも、
409
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
は
馬鹿
(
ばか
)
野郎
(
やらう
)
の
方
(
はう
)
が
最後
(
さいご
)
の
勝利
(
しようり
)
を
占
(
し
)
むるものだ。
410
天下
(
てんか
)
に
油断
(
ゆだん
)
のならぬものは、
411
美人
(
びじん
)
の
鼻声
(
はなごゑ
)
と、
412
阿呆
(
あはう
)
と、
413
暗
(
やみ
)
の
夜
(
よ
)
だと
云
(
い
)
ふぢやないか。
414
況
(
いは
)
んや
現代
(
げんだい
)
の
如
(
ごと
)
き
神経
(
しんけい
)
過敏
(
くわびん
)
の
病的
(
びやうてき
)
の
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
では、
415
馬鹿
(
ばか
)
でなくては、
416
世
(
よ
)
に
立
(
た
)
つ
事
(
こと
)
は
出来
(
でき
)
ないよ。
417
如何
(
いか
)
に
猛烈
(
まうれつ
)
なバチルスにも
犯
(
をか
)
されず、
418
バクテリヤにも
左右
(
さいう
)
されず、
419
俗物
(
ぞくぶつ
)
共
(
ども
)
の
相手
(
あひて
)
にもしられず、
420
万事
(
ばんじ
)
がボーとして
無頓着
(
むとんちやく
)
でトボケたやうな、
421
馬鹿気
(
ばかげ
)
た
処
(
ところ
)
に
処世
(
しよせい
)
上
(
じやう
)
、
422
無限
(
むげん
)
の
妙味
(
めうみ
)
があるのだ。
423
馬鹿
(
ばか
)
なるかな、
424
馬鹿
(
ばか
)
なるかなだ。
425
サアこれからお
前
(
まへ
)
と
俺
(
おれ
)
と
一致
(
いつち
)
してこの
大馬鹿
(
おほばか
)
を
尽
(
つく
)
しに
行
(
ゆ
)
かうぢやないか。
426
シャカンナに
取捉
(
とつつか
)
まえられて、
427
死損
(
しにぞこ
)
ねになるもよし、
428
スバール
姫
(
ひめ
)
に
肱鉄
(
ひぢてつ
)
をかまされて
馬鹿
(
ばか
)
を
見
(
み
)
るもよし、
429
兎
(
と
)
も
角
(
かく
)
人間
(
にんげん
)
は
馬鹿
(
ばか
)
に
場数
(
ばかず
)
を
踏
(
ふ
)
まねば
何事
(
なにごと
)
も
成功
(
せいこう
)
しないものだ。
430
一層
(
いつそう
)
の
事
(
こと
)
思
(
おも
)
ひ
切
(
き
)
つて
431
浅倉谷
(
あさくらだに
)
の
方面
(
はうめん
)
へ
馬鹿力
(
ばかぢから
)
を
現
(
あら
)
はし
強行軍
(
きやうかうぐん
)
と
出
(
で
)
かけようぢやないか。
432
こんな
所
(
ところ
)
に
鳶
(
とび
)
の
糞
(
ふん
)
を
頭
(
あたま
)
から
浴
(
あ
)
びて
石仏
(
いしぼとけ
)
のやうに
取越
(
とりこし
)
苦労
(
くらう
)
をして
居
(
ゐ
)
るのも
馬鹿
(
ばか
)
らしい。
433
サア
行
(
ゆ
)
かう』
434
タ『よし、
435
もうかうなりや
仕方
(
しかた
)
がない、
436
馬鹿
(
ばか
)
序
(
ついで
)
だ。
437
全隊
(
ぜんたい
)
進
(
すす
)
め オ
一二
(
いちに
)
』
438
と
谷間
(
たにま
)
の
細路
(
ほそみち
)
を
小足
(
こあし
)
に
刻
(
きざ
)
み
乍
(
なが
)
らチヨコチヨコ
進
(
すす
)
み
行
(
ゆ
)
く。
439
アリナは
万感
(
ばんかん
)
交々
(
こもごも
)
胸
(
むね
)
にたたへつつ、
440
二人
(
ふたり
)
の
話
(
はなし
)
を
聞
(
き
)
いて
飽
(
あく
)
迄
(
まで
)
追跡
(
つゐせき
)
し……
父娘
(
おやこ
)
の
危難
(
きなん
)
を
救
(
すく
)
はにやならぬ。
441
いや
却
(
かへ
)
つて
父娘
(
おやこ
)
両人
(
りやうにん
)
を
都
(
みやこ
)
へ
引
(
ひ
)
き
出
(
だ
)
すには
好
(
よ
)
い
機会
(
きくわい
)
が
出来
(
でき
)
たのかも
知
(
し
)
れない……といそいそしながら
進
(
すす
)
み
行
(
ゆ
)
く。
442
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
平坦
(
へいたん
)
な
都大路
(
みやこおほぢ
)
を
車馬
(
しやば
)
の
便
(
べん
)
によつて
歩
(
あゆ
)
んで
居
(
ゐ
)
たアリナの
足
(
あし
)
の
運
(
はこ
)
びは、
443
到底
(
たうてい
)
山野
(
さんや
)
に
慣
(
な
)
れた
山賊
(
さんぞく
)
の
足跡
(
あしあと
)
を
追撃
(
つゐげき
)
するには
余程
(
よほど
)
の
困難
(
こんなん
)
を
感
(
かん
)
ぜられた。
444
二人
(
ふたり
)
の
小盗児
(
せうとる
)
の
影
(
かげ
)
は
445
いつの
間
(
ま
)
にか
山
(
やま
)
の
裾
(
すそ
)
に
遮
(
さへ
)
ぎられて
見
(
み
)
えなくなつて
仕舞
(
しま
)
つた。
446
(
大正一四・一・五
新一・二八
於月光閣
加藤明子
録)
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