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第68巻(未の巻)
序文
総説
第1篇 名花移植
01 貞操論
〔1725〕
02 恋盗詞
〔1726〕
03 山出女
〔1727〕
04 茶湯の艶
〔1728〕
第2篇 恋火狼火
05 変装太子
〔1729〕
06 信夫恋
〔1730〕
07 茶火酌
〔1731〕
08 帰鬼逸迫
〔1732〕
第3篇 民声魔声
09 衡平運動
〔1733〕
10 宗匠財
〔1734〕
11 宮山嵐
〔1735〕
12 妻狼の囁
〔1736〕
13 蛙の口
〔1737〕
第4篇 月光徹雲
14 会者浄離
〔1738〕
15 破粋者
〔1739〕
16 戦伝歌
〔1740〕
17 地の岩戸
〔1741〕
第5篇 神風駘蕩
18 救の網
〔1742〕
19 紅の川
〔1743〕
20 破滅
〔1744〕
21 祭政一致
〔1745〕
余白歌
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> 第5篇 神風駘蕩 > 第18章 救の網
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第一八章
救
(
すくひ
)
の
網
(
あみ
)
〔一七四二〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第68巻 山河草木 未の巻
篇:
第5篇 神風駘蕩
よみ(新仮名遣い):
しんぷうたいとう
章:
第18章 救の網
よみ(新仮名遣い):
すくいのあみ
通し章番号:
1742
口述日:
1925(大正14)年01月30日(旧01月7日)
口述場所:
月光閣
筆録者:
松村真澄
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1926(大正15)年9月30日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
インデス河の激流の上にかかる橋の袂に、番小屋があった。月夜に比丘姿のアリナが、この番小屋で体を休めていた。
そこへ、アリナの行方を追ってきた右守サクレンスと、その部下たち捜索隊がやってきて、アリナと同席する。
アリナは修験者のふりをして右守の企みをすっぱ抜くが、最後に自分の素性を明かして、右守に挑みかかる。
アリナは追っ手の白刃をかわして逃げ出すが、橋杭につまづき、激流の中に落ち込んでしまった。右守はアリナが死んだものと思い、帰っていく。
一方、民衆救護団長のバランスは、その下流で子分たちと密漁をしていたが、その網にかかったのが、瀕死のアリナであった。
そこへ、城へ帰る途中の太子・スバール姫、梅公別一行が通りかかる。梅公別の祈願によってアリナは息を吹き返す。
バランスは、太子に禁漁法の廃止を訴える。太子はバランスの民衆を思う志に感心し、城内に入って自分の国政改革助けるよう求める。
一行は城を目指して夜道を進み行くこととなった。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
OBC :
rm6818
愛善世界社版:
247頁
八幡書店版:
第12輯 243頁
修補版:
校定版:
251頁
普及版:
69頁
初版:
ページ備考:
001
浅倉
(
あさくら
)
山脈
(
さんみやく
)
の
千尾
(
ちを
)
千谷
(
ちだに
)
より
流
(
なが
)
れ
落
(
お
)
つる
玉野川
(
たまのがは
)
の
下流
(
かりう
)
をインデス
河
(
がは
)
と
云
(
い
)
ふ。
002
此
(
この
)
河
(
かは
)
はタラハン
国
(
ごく
)
の
中心
(
ちうしん
)
を
流
(
なが
)
れ、
003
北
(
きた
)
より
南
(
みなみ
)
に
遠
(
とほ
)
くカルマタ
国
(
こく
)
の
牛
(
うし
)
の
湖水
(
こすい
)
に
注
(
そそ
)
いでゐる。
004
左守
(
さもり
)
の
悴
(
せがれ
)
アリナは
005
身
(
み
)
なりも
軽
(
かる
)
き
比丘姿
(
びくすがた
)
、
006
深編笠
(
ふかあみがさ
)
を
被
(
かぶ
)
り
乍
(
なが
)
ら、
007
十二夜
(
じふにや
)
の
月
(
つき
)
の
朧
(
おぼろ
)
げに
照
(
て
)
り
渡
(
わた
)
る
野路
(
のぢ
)
を
辿
(
たど
)
つて
008
インデス
河
(
がは
)
の
畔
(
ほとり
)
に
着
(
つ
)
いた。
009
激流
(
げきりう
)
飛沫
(
ひまつ
)
を
飛
(
と
)
ばして
淙々
(
そうそう
)
たる
水音
(
みなおと
)
、
010
見
(
み
)
るも
凄
(
すさま
)
じく
川瀬
(
かはせ
)
に
竜
(
りう
)
の
跳
(
はね
)
るが
如
(
ごと
)
く、
011
川
(
かは
)
一面
(
いちめん
)
に
散在
(
さんざい
)
せる
岩
(
いは
)
にせかれて、
012
水
(
みづ
)
は
白玉
(
しらたま
)
となつて
高
(
たか
)
く
飛
(
とび
)
散
(
ち
)
つてゐる。
013
アリナは
橋
(
はし
)
の
傍
(
かたはら
)
の
藁小屋
(
わらごや
)
をみとめて、
014
息
(
いき
)
を
休
(
やす
)
むべく
潜
(
くぐ
)
り
入
(
い
)
つた。
015
ここは
橋番
(
はしばん
)
が
出張
(
しゆつちやう
)
して、
016
通行人
(
つうかうにん
)
一人
(
ひとり
)
に
対
(
たい
)
し
片道
(
かたみち
)
三厘
(
さんりん
)
の
橋銭
(
はしせん
)
を
取
(
と
)
る
為
(
ため
)
に
拵
(
こしら
)
へた
小屋
(
こや
)
である。
017
アリナは
月
(
つき
)
の
光
(
ひかり
)
を
仰
(
あふ
)
ぎ
乍
(
なが
)
ら、
018
藁屋
(
わらや
)
の
戸
(
と
)
を
開
(
あ
)
けて、
019
涼
(
すず
)
しき
風
(
かぜ
)
を
浴
(
あ
)
びてゐた。
020
斯
(
か
)
かる
所
(
ところ
)
へ
二三
(
にさん
)
人
(
にん
)
の
黒
(
くろ
)
い
影
(
かげ
)
、
021
向岸
(
むかふぎし
)
より
一本橋
(
いつぽんばし
)
を
撓
(
たわ
)
つかせ
乍
(
なが
)
ら
渡
(
わた
)
り
来
(
きた
)
る
者
(
もの
)
がある。
022
黒影
(
くろかげ
)
の
一人
(
ひとり
)
、
023
甲
(
かふ
)
『やア
家来
(
けらい
)
共
(
ども
)
、
024
今日
(
けふ
)
は
大変
(
たいへん
)
に
草臥
(
くたび
)
れたであらう。
025
仲々
(
なかなか
)
捜索隊
(
さうさくたい
)
も
骨
(
ほね
)
の
折
(
を
)
れるものだ。
026
やア
幸
(
さいはひ
)
ここに
橋番
(
はしばん
)
小屋
(
ごや
)
がある。
027
どうぢや、
028
まだ
家
(
うち
)
へ
帰
(
かへ
)
るには
四五十
(
しごじつ
)
町
(
ちやう
)
の
道
(
みち
)
のりがあるから、
029
此処
(
ここ
)
で
休息
(
きうそく
)
してボツボツ
帰
(
かへ
)
らうぢやないか』
030
乙
(
おつ
)
『ハイ、
031
休息
(
きうそく
)
して
帰
(
かへ
)
りませう。
032
夜道
(
よみち
)
に
日
(
ひ
)
は
暮
(
く
)
れませぬからなア』
033
甲
(
かふ
)
『
夜道
(
よみち
)
の
怖
(
こは
)
い
汝
(
きさま
)
も、
034
今日
(
けふ
)
は
主人
(
しゆじん
)
と
一緒
(
いつしよ
)
だから
大丈夫
(
だいぢやうぶ
)
だよ』
035
乙
(
おつ
)
『ハイ
左様
(
さやう
)
で
厶
(
ござ
)
います。
036
今日
(
けふ
)
は
旦那
(
だんな
)
様
(
さま
)
と
御
(
ご
)
一緒
(
いつしよ
)
で
厶
(
ござ
)
いますから
千人力
(
せんにんりき
)
で
厶
(
ござ
)
います。
037
何
(
なに
)
程
(
ほど
)
那美山
(
なみやま
)
の
狼
(
おほかみ
)
が
唸
(
うな
)
つた
所
(
ところ
)
で、
038
ビクとも
致
(
いた
)
しませぬわ』
039
丙
(
へい
)
『アツハヽヽヽ
旦那
(
だんな
)
様
(
さま
)
、
040
此奴
(
こいつ
)
ア
評判
(
ひやうばん
)
の
臆病者
(
おくびやうもの
)
で
厶
(
ござ
)
いまして、
041
今
(
いま
)
迄
(
まで
)
夜道
(
よみち
)
はした
事
(
こと
)
のない
奴
(
やつ
)
で
厶
(
ござ
)
いますよ。
042
夜道
(
よみち
)
は
昼
(
ひる
)
でも
恐
(
こは
)
い、
043
其
(
その
)
代
(
かは
)
り
夜食
(
やしよく
)
は
昼
(
ひる
)
でも
甘
(
うま
)
いとぬかす
奴
(
やつ
)
ですもの』
044
甲
(
かふ
)
『アツハヽヽヽ』
045
乙
(
おつ
)
『
馬鹿
(
ばか
)
言
(
い
)
ふない。
046
昼
(
ひる
)
の
夜食
(
やしよく
)
が
何処
(
どこ
)
にあるかい。
047
汝
(
きさま
)
も
余程
(
よほど
)
間
(
ま
)
の
抜
(
ぬ
)
けた
事
(
こと
)
をいふ
奴
(
やつ
)
だな』
048
甲
(
かふ
)
『ヤアどうやら
此
(
この
)
番小屋
(
ばんごや
)
には
生物
(
いきもの
)
がゐる
様
(
やう
)
だ。
049
コリヤ コリヤ
其
(
その
)
方
(
はう
)
は
何者
(
なにもの
)
だ』
050
アリナ『
拙僧
(
せつそう
)
は
諸国
(
しよこく
)
遍歴
(
へんれき
)
の
修験者
(
しゆげんじや
)
で
厶
(
ござ
)
る』
051
甲
(
かふ
)
『ハヽア、
052
其処
(
そこら
)
辺
(
あた
)
りを
法螺
(
ほら
)
吹
(
ふ
)
きまわる
比丘
(
びく
)
だなア。
053
ヤア
分
(
わか
)
つた
分
(
わか
)
つた。
054
エー、
055
比丘
(
びく
)
ならばチツと
許
(
ばか
)
り
予言
(
よげん
)
や
神占
(
うかがひ
)
が
出来
(
でき
)
るだらう。
056
どうか
一
(
ひと
)
つ
拙者
(
せつしや
)
の
願
(
ねがひ
)
を
聞
(
き
)
いてくれまいかなア』
057
ア『ハイ、
058
何事
(
なにごと
)
でも
承
(
うけたま
)
はりませう。
059
拙僧
(
せつそう
)
はスガ
山
(
さん
)
に
立籠
(
たてこも
)
つて
仏道
(
ぶつだう
)
を
修業
(
しうげふ
)
致
(
いた
)
す
天然坊
(
てんねんばう
)
と
申
(
まを
)
す
者
(
もの
)
、
060
たいていの
事
(
こと
)
は
百発
(
ひやくぱつ
)
百中
(
ひやくちゆう
)
、
061
天然坊
(
てんねんばう
)
の
星当
(
ほしあた
)
り、
062
合
(
あ
)
ふも
不思議
(
ふしぎ
)
、
063
合
(
あ
)
はぬも
不思議
(
ふしぎ
)
、
064
六十一
(
ろくじふいつ
)
卦
(
けい
)
筮竹
(
ぜいちく
)
の
変化
(
へんげ
)
に
仍
(
よ
)
つて、
065
或
(
あるひ
)
は
陽
(
やう
)
となり
陰
(
いん
)
となり、
066
乾坤
(
けんこん
)
離兌
(
りだ
)
などと、
067
種々
(
しゆじゆ
)
雑多
(
ざつた
)
に
変化
(
へんげ
)
致
(
いた
)
すによつて、
068
拙僧
(
せつそう
)
の
神占
(
うかがひ
)
をよく
翫味
(
ぐわんみ
)
なさらぬと
間違
(
まちがひ
)
が
出来
(
でき
)
ますよ。
069
お
前
(
まへ
)
さまはタラハン
城
(
じやう
)
の
大
(
だい
)
権力者
(
けんりよくしや
)
、
070
右守司
(
うもりのかみ
)
の
職掌
(
しよくしやう
)
を
勤
(
つと
)
めてゐらつしやる
方
(
かた
)
で
厶
(
ござ
)
らうがな』
071
甲
(
かふ
)
『ヤ、
072
これは
恐
(
おそ
)
れ
入
(
い
)
つた。
073
如何
(
いか
)
にも
御
(
お
)
察
(
さつ
)
しの
通
(
とほ
)
り、
074
右守司
(
うもりのかみ
)
のサクレンスで
厶
(
ござ
)
る』
075
ア『アツハヽヽ、
076
貴殿
(
きでん
)
は
何
(
なに
)
か
捜索物
(
そうさくぶつ
)
があるやうだが、
077
サクレンスといふ
名前
(
なまへ
)
では、
078
紛失物
(
ふんしつぶつ
)
の
所在
(
ありか
)
は
到底
(
たうてい
)
サグレンスで
厶
(
ござ
)
る。
079
貴殿
(
きでん
)
の
尋
(
たづ
)
ねらるる
者
(
もの
)
は、
080
物品
(
ぶつぴん
)
でもなく、
081
家畜
(
かちく
)
でもなく、
082
米
(
こめ
)
食
(
く
)
ふ
虫
(
むし
)
で
厶
(
ござ
)
らうがな』
083
サクレンス『ハイ
084
其
(
その
)
通
(
とほ
)
りで
厶
(
ござ
)
います。
085
何
(
ど
)
うしてマア
其方
(
そなた
)
はそれ
程
(
ほど
)
能
(
よ
)
く
御存
(
ごぞん
)
じで
厶
(
ござ
)
いますか』
086
ア『アツハヽヽ
拙僧
(
せつそう
)
は
月
(
つき
)
の
精
(
せい
)
より
衆生
(
しゆじやう
)
済度
(
さいど
)
の
為
(
ため
)
、
087
此
(
この
)
地上
(
ちじやう
)
へ
降
(
くだ
)
りし
者
(
もの
)
、
088
悪人
(
あくにん
)
を
懲
(
こら
)
し
善人
(
ぜんにん
)
を
救
(
すく
)
はむが
為
(
ため
)
、
089
一笠
(
いちりつ
)
一蓑
(
いつさ
)
一杖
(
いちぢやう
)
に
八
(
はつ
)
尺
(
しやく
)
の
身
(
み
)
を
任
(
まか
)
せ、
090
諸国
(
しよこく
)
を
遍歴
(
へんれき
)
致
(
いた
)
してゐるが、
091
タラハン
国
(
ごく
)
は
大変
(
たいへん
)
な
騒動
(
さうだう
)
が
起
(
おこ
)
つた
様子
(
やうす
)
で
厶
(
ござ
)
るなア』
092
サク『ハイ
093
一
(
ひと
)
つお
伺
(
うかが
)
ひを
致
(
いた
)
したう
厶
(
ござ
)
いますが、
094
私
(
わたし
)
の
希望
(
きばう
)
は
成就
(
じやうじゆ
)
するで
御座
(
ござ
)
いませうか』
095
ア『どういふ
希望
(
きばう
)
だ。
096
有体
(
ありてい
)
に
言
(
い
)
はつしやい。
097
道徳
(
だうとく
)
を
守
(
まも
)
つて、
098
如何
(
いか
)
なる
秘密
(
ひみつ
)
も
決
(
けつ
)
して
拙僧
(
せつそう
)
は
他言
(
たごん
)
は
仕
(
つかまつ
)
らぬ。
099
事
(
こと
)
と
品
(
しな
)
に
仍
(
よ
)
つては、
100
其方
(
そなた
)
の
力
(
ちから
)
になつて
進
(
しん
)
ぜたい』
101
サク『ハイ、
102
有難
(
ありがた
)
う
厶
(
ござ
)
います。
103
実
(
じつ
)
の
所
(
ところ
)
はタラハン
国
(
ごく
)
の
大王
(
だいわう
)
殿下
(
でんか
)
は
命
(
めい
)
旦夕
(
たんせき
)
に
迫
(
せま
)
り、
104
太子
(
たいし
)
様
(
さま
)
は
女
(
をんな
)
に
現
(
うつつ
)
を
抜
(
ぬ
)
かして、
105
駆
(
か
)
け
落
(
おち
)
を
遊
(
あそ
)
ばし、
106
今
(
いま
)
に
行衛
(
ゆくゑ
)
は
分
(
わか
)
らず、
107
国家
(
こくか
)
の
滅亡
(
めつぼう
)
は
旦夕
(
たんせき
)
に
迫
(
せま
)
る
場合
(
ばあひ
)
、
108
某
(
それがし
)
は
右守司
(
うもりのかみ
)
として
国家
(
こくか
)
の
窮状
(
きうじやう
)
をみるに
忍
(
しの
)
びず、
109
吾
(
わが
)
弟
(
おとうと
)
エールを
以
(
もつ
)
て、
110
已
(
や
)
むを
得
(
え
)
ず
王位
(
わうゐ
)
にのぼせ、
111
幸
(
さいはひ
)
王女
(
わうぢよ
)
バンナ
姫
(
ひめ
)
を
后
(
きさき
)
となし、
112
タラハン
国家
(
こくか
)
の
復興
(
ふくこう
)
を
企
(
くはだ
)
てつつある
最中
(
さいちう
)
で
厶
(
ござ
)
います。
113
此
(
この
)
目的
(
もくてき
)
は
必
(
かなら
)
ず
成功
(
せいこう
)
致
(
いた
)
すで
厶
(
ござ
)
いませうかな』
114
ア『ハヽヽヽ、
115
危
(
あやふ
)
い
哉
(
かな
)
災
(
わざはひ
)
なる
哉
(
かな
)
。
116
其方
(
そなた
)
の
面相
(
めんさう
)
には
殺気
(
さつき
)
が
漲
(
みなぎ
)
つて
居
(
を
)
りますよ。
117
そして
眉間
(
みけん
)
の
間
(
あひだ
)
に
有々
(
ありあり
)
と
剣難
(
けんなん
)
の
相
(
さう
)
が
現
(
あら
)
はれてゐる。
118
すぐ
様
(
さま
)
其
(
その
)
野心
(
やしん
)
を
改
(
あらた
)
めざるに
於
(
おい
)
ては、
119
忽
(
たちま
)
ち
災
(
わざはひ
)
身
(
み
)
に
及
(
およ
)
ぶで
厶
(
ござ
)
らう。
120
其方
(
そなた
)
は
太子
(
たいし
)
殿下
(
でんか
)
を
何処
(
どこ
)
かへ
隠
(
かく
)
し、
121
再
(
ふたた
)
び
世
(
よ
)
にあげない
考
(
かんが
)
へで
厶
(
ござ
)
らうがな。
122
拙僧
(
せつそう
)
は
聊
(
いささ
)
か
太子
(
たいし
)
に
由縁
(
ゆかり
)
のある
者
(
もの
)
、
123
其
(
その
)
お
行衛
(
ゆくゑ
)
を
捜
(
さが
)
さむ
為
(
ため
)
、
124
実
(
じつ
)
は
修騒者
(
しうげんじや
)
と
化
(
ば
)
け、
125
此
(
この
)
界隈
(
かいわい
)
を
夜間
(
やかん
)
を
窺
(
うかが
)
ひ
126
実
(
じつ
)
は
捜
(
さが
)
してゐるのだ』
127
サク『ナニ、
128
太子
(
たいし
)
殿下
(
でんか
)
に
由縁
(
ゆかり
)
のある
者
(
もの
)
とは、
129
何人
(
なにびと
)
で
厶
(
ござ
)
るかな』
130
ア『アツハヽヽヽ
右守
(
うもり
)
殿
(
どの
)
も
耄碌
(
まうろく
)
せられたなア、
131
そら
其
(
その
)
筈
(
はず
)
でもあらう。
132
二
(
ふた
)
つの
眼
(
まなこ
)
は
近眼
(
きんがん
)
でもあり、
133
片足
(
かたあし
)
は
不具
(
かたわ
)
でもあり、
134
左様
(
さやう
)
な
難
(
むつかし
)
き
不完全
(
ふくわんぜん
)
なる
体
(
からだ
)
を
動
(
うご
)
かして、
135
アリナの
所在
(
ありか
)
を
尋
(
たづ
)
ねまわるとは、
136
テも
偖
(
さて
)
も
御
(
ご
)
苦労千万
(
くらうせんばん
)
、
137
右守
(
うもり
)
殿
(
どの
)
が
躍起
(
やくき
)
となつて
尋
(
たづ
)
ねて
居
(
ゐ
)
るアリナの
君
(
きみ
)
は
斯
(
か
)
く
申
(
まを
)
す
拙僧
(
せつそう
)
で
厶
(
ござ
)
る。
138
美事
(
みごと
)
相手
(
あひて
)
になるならなつて
見
(
み
)
なされ、
139
アツハヽヽヽ』
140
サク『
最前
(
さいぜん
)
から
何
(
なん
)
だか
怪
(
あや
)
しき
奴
(
やつ
)
だと
思
(
おも
)
つてゐたが、
141
如何
(
いか
)
にも
其
(
その
)
方
(
はう
)
は
左守
(
さもり
)
の
悴
(
せがれ
)
アリナに
間違
(
まちがひ
)
ない。
142
ヤア
可
(
よ
)
い
所
(
ところ
)
で
出会
(
であ
)
うた。
143
オイ
家来
(
けらい
)
共
(
ども
)
、
144
有無
(
うむ
)
をいはせず
此
(
この
)
アリナをふん
縛
(
じば
)
れ』
145
『アイ』
146
と
答
(
こた
)
えて
両人
(
りやうにん
)
は
前後
(
ぜんご
)
よりアリナに
武者
(
むしや
)
振
(
ぶ
)
りつかむとする。
147
アリナは
飛鳥
(
ひてう
)
の
如
(
ごと
)
く
身
(
み
)
を
換
(
かわ
)
し、
148
右
(
みぎ
)
に
左
(
ひだり
)
に
敵
(
てき
)
の
鋭鋒
(
えいほう
)
をさけ
乍
(
なが
)
ら、
149
金剛杖
(
こんがうづゑ
)
にて、
150
白刃
(
しらは
)
の
刃
(
やいば
)
をうけ
流
(
なが
)
してゐる。
151
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
らアリナも
到底
(
たうてい
)
多勢
(
たぜい
)
に
無勢
(
ぶぜい
)
、
152
グヅグヅしてゐて
命
(
いのち
)
を
取
(
と
)
られちや
大変
(
たいへん
)
と、
153
一本橋
(
いつぽんばし
)
を
一生
(
いつしやう
)
懸命
(
けんめい
)
に
西側
(
にしがは
)
の
岸
(
きし
)
に
向
(
むか
)
つて
駆
(
かけ
)
出
(
だ
)
す
途端
(
とたん
)
、
154
粗末
(
そまつ
)
な
橋杭
(
はしぐひ
)
に
躓
(
つまづ
)
いて、
155
ザンブと
許
(
ばか
)
り
激流
(
げきりう
)
の
中
(
なか
)
に
落込
(
おちこ
)
んで
了
(
しま
)
つた。
156
右守
(
うもり
)
其
(
その
)
他
(
た
)
の
家来
(
けらい
)
共
(
ども
)
は
手
(
て
)
を
拍
(
う
)
つて
万歳
(
ばんざい
)
を
三唱
(
さんしやう
)
し、
157
肩肱
(
かたひぢ
)
怒
(
いか
)
らし
乍
(
なが
)
ら
勇
(
いさ
)
み
進
(
すす
)
んで
家路
(
いへぢ
)
をさして
帰
(
かへ
)
りゆく。
158
民衆
(
みんしう
)
救護団
(
きうごだん
)
の
女団長
(
をんなだんちやう
)
バランスは
159
沢山
(
たくさん
)
の
乾児
(
こぶん
)
を
養
(
やしな
)
ふ
其
(
その
)
費用
(
ひよう
)
に
窮
(
きう
)
し、
160
右守
(
うもり
)
が
禁断
(
きんだん
)
の
場所
(
ばしよ
)
と
定
(
さだ
)
めておいた、
161
魚
(
うを
)
が
淵
(
ふち
)
と
云
(
い
)
ふインデス
川
(
がは
)
の
稍
(
やや
)
水
(
みづ
)
の
淀
(
よど
)
んだ
場所
(
ばしよ
)
に
於
(
おい
)
て、
162
乾児
(
こぶん
)
と
共
(
とも
)
に
網打
(
あみうち
)
を
月夜
(
つきよ
)
を
幸
(
さいは
)
ひ
始
(
はじ
)
めてゐた。
163
此
(
この
)
地点
(
ちてん
)
は
岸辺
(
きしべ
)
に
老木
(
らうぼく
)
繁茂
(
はんも
)
し、
164
魚
(
うを
)
の
集合所
(
しふがふしよ
)
には
最適当
(
さいてきたう
)
の
場所
(
ばしよ
)
であり、
165
且
(
か
)
つ
沢山
(
たくさん
)
な
種々
(
いろいろ
)
の
魚介
(
ぎよかい
)
が
棲息
(
せいそく
)
してゐる。
166
万一
(
まんいち
)
此
(
この
)
場所
(
ばしよ
)
に
網
(
あみ
)
を
入
(
い
)
れ、
167
役人
(
やくにん
)
に
見
(
み
)
つからうものなら、
168
忽
(
たちま
)
ち
石子責
(
いしこぜめ
)
の
刑
(
けい
)
に
処
(
しよ
)
せらるるといふ
厳
(
きび
)
しき
掟
(
おきて
)
である。
169
バランスは
数十
(
すうじふ
)
人
(
にん
)
の
乾児
(
こぶん
)
に
見張
(
みはり
)
をさせ
乍
(
なが
)
らバサリバサリと
網
(
あみ
)
を
打
(
う
)
ち、
170
沢山
(
たくさん
)
な
魚
(
うを
)
を
捕獲
(
ほくわく
)
して
居
(
ゐ
)
た。
171
十網
(
とをあみ
)
許
(
ばか
)
り
打
(
う
)
つた
時
(
とき
)
、
172
非常
(
ひじやう
)
に
重
(
おも
)
たいものが
網
(
あみ
)
にかかつた。
173
バランスは
腕力
(
わんりよく
)
に
任
(
まか
)
せて
引上
(
ひきあ
)
げて
見
(
み
)
ると
人間
(
にんげん
)
の
死骸
(
しがい
)
である。
174
義侠心
(
ぎけふしん
)
に
富
(
と
)
める
彼女
(
かのぢよ
)
は、
175
『
吾
(
わが
)
網
(
あみ
)
にかかるは
何
(
なに
)
かの
因縁
(
いんねん
)
だらう。
176
何処
(
いづく
)
の
人
(
ひと
)
かは
知
(
し
)
らね
共
(
ども
)
、
177
モシ
命
(
いのち
)
の
助
(
たす
)
かるものなら、
178
所在
(
あらゆる
)
手段
(
しゆだん
)
を
尽
(
つく
)
して
助
(
たす
)
けてやらねばなるまい』
179
と、
180
乾児
(
こぶん
)
に
命
(
めい
)
じ
沢山
(
たくさん
)
の
焚物
(
たきもの
)
を
集
(
あつ
)
めさせ
181
河縁
(
かはべり
)
に
火
(
ひ
)
を
焚
(
た
)
いて
温
(
あたた
)
めてゐた。
182
そして
人工
(
じんこう
)
呼吸
(
こきふ
)
や、
183
種々
(
いろいろ
)
の
手段
(
てだて
)
を
尽
(
つく
)
してみたが、
184
息
(
いき
)
を
吹
(
ふき
)
返
(
かへ
)
さず、
185
殆
(
ほと
)
んど
絶望
(
ぜつばう
)
の
淵
(
ふち
)
に
沈
(
しづ
)
んでゐる
時
(
とき
)
しもあれ、
186
駒
(
こま
)
に
跨
(
またが
)
り
此
(
この
)
場
(
ば
)
に
現
(
あら
)
はれて
来
(
き
)
たのは、
187
水車
(
すいしや
)
小屋
(
ごや
)
に
捉
(
とら
)
はれてゐたスダルマン
太子
(
たいし
)
の
一行
(
いつかう
)
である。
188
バランスは
一目
(
ひとめ
)
見
(
み
)
るより
月影
(
つきかげ
)
にすかして、
189
スダルマン
太子
(
たいし
)
たる
事
(
こと
)
を
知
(
し
)
り、
1891
捨鉢
(
すてばち
)
気味
(
ぎみ
)
になり、
190
ゴテゴテぬかさば
強力
(
がうりき
)
に
任
(
まか
)
せ、
191
馬
(
うま
)
諸共
(
もろとも
)
河中
(
かちう
)
に
投
(
とう
)
じてくれむものと、
192
身構
(
みがまへ
)
をした。
193
太子
(
たいし
)
は
後
(
あと
)
を
振向
(
ふりむ
)
き
乍
(
なが
)
ら、
194
『
宣伝使
(
せんでんし
)
様
(
さま
)
、
195
何
(
ど
)
うやら
土左ヱ門
(
どざえもん
)
が
網
(
あみ
)
にかかつたやうです。
196
助
(
たす
)
けてやる
事
(
こと
)
は
出来
(
でき
)
ますまいかなア』
197
梅
(
うめ
)
『
如何
(
いか
)
にも
溺死者
(
できししや
)
とみえます。
198
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
に
祈
(
いの
)
つて
蘇生
(
そせい
)
さして
頂
(
いただ
)
きませう』
199
と
言
(
い
)
ひ
乍
(
なが
)
ら、
200
駒
(
こま
)
をヒラリと
飛下
(
とびお
)
り、
201
バランスの
前
(
まへ
)
に
進
(
すす
)
みよつて、
202
丁寧
(
ていねい
)
に
腰
(
こし
)
を
屈
(
かが
)
め、
203
『
見
(
み
)
れば
溺死人
(
できしにん
)
とみえますが、
204
貴方
(
あなた
)
等
(
がた
)
は
親切
(
しんせつ
)
に
介抱
(
かいはう
)
して
厶
(
ござ
)
る
様子
(
やうす
)
、
205
実
(
じつ
)
に
奇特
(
きとく
)
神妙
(
しんめう
)
の
至
(
いた
)
りで
厶
(
ござ
)
る』
206
バランスは
此
(
この
)
言葉
(
ことば
)
を
聞
(
き
)
いて、
207
案
(
あん
)
に
相違
(
さうゐ
)
し、
208
握
(
にぎ
)
りかためた
拳
(
こぶし
)
のやり
場
(
ば
)
に
困
(
こま
)
つたといふ
顔付
(
かほつき
)
にて、
209
『ハイ、
210
私
(
わたし
)
は
実
(
じつ
)
の
所
(
ところ
)
はバランスといふ
漁業
(
ぎよげふ
)
団長
(
だんちやう
)
で
厶
(
ござ
)
いますが、
211
禁断
(
きんだん
)
の
場所
(
ばしよ
)
を
犯
(
をか
)
して
魚族
(
うろくづ
)
を
捕獲
(
ほくわく
)
する
折
(
をり
)
しも、
212
吾
(
わが
)
網
(
あみ
)
にかかつたのは
比丘姿
(
びくすがた
)
の
旅人
(
たびびと
)
、
213
どうかして
助
(
たす
)
けたいものだと、
214
此
(
この
)
通
(
とほ
)
り
火
(
ひ
)
を
焚
(
た
)
いて
温
(
あたた
)
め、
215
いろいろと
手
(
て
)
を
尽
(
つく
)
しますれど
最早
(
もはや
)
駄目
(
だめ
)
で
厶
(
ござ
)
います。
216
モシ
之
(
これ
)
が
蘇生
(
そせい
)
するものならば、
217
どうか
宣伝使
(
せんでんし
)
のお
祈
(
いの
)
りによつて
助
(
たす
)
けて
頂
(
いただ
)
きたいもので
厶
(
ござ
)
います』
218
梅公別
(
うめこうわけ
)
は
直
(
ただち
)
に
天津
(
あまつ
)
祝詞
(
のりと
)
を
奏上
(
そうじやう
)
し、
219
天
(
あま
)
の
数歌
(
かずうた
)
を
唱
(
とな
)
へ
死者
(
ししや
)
の
前額部
(
ぜんがくぶ
)
に
右
(
みぎ
)
の
示指
(
ひとさし
)
をあてて
220
一生
(
いつしやう
)
懸命
(
けんめい
)
に
霊
(
れい
)
を
送
(
おく
)
る
事
(
こと
)
殆
(
ほとん
)
ど
五分
(
ごふん
)
、
221
不思議
(
ふしぎ
)
や
死人
(
しにん
)
はウンと
唸
(
うな
)
り
出
(
だ
)
し、
222
幽
(
かす
)
かに
手足
(
てあし
)
を
動
(
うご
)
かし
始
(
はじ
)
めた。
223
バランスを
始
(
はじ
)
め
一同
(
いちどう
)
の
歓喜
(
くわんき
)
は
例
(
たとふ
)
るに
物
(
もの
)
なき
程
(
ほど
)
であつた。
224
漸
(
やうや
)
くにして
死人
(
しにん
)
は
元気
(
げんき
)
回復
(
くわいふく
)
し、
225
四辺
(
あたり
)
をキヨロキヨロと
見
(
み
)
まわし
乍
(
なが
)
ら、
226
篝火
(
かがりび
)
にすかし
見
(
み
)
て、
227
ア『ヤア
貴方
(
あなた
)
はスダルマン
太子
(
たいし
)
様
(
さま
)
で
厶
(
ござ
)
いますか』
228
『
何
(
なに
)
、
229
汝
(
なんぢ
)
はアリナであつたか、
230
ヤア
可
(
い
)
い
所
(
ところ
)
で
其方
(
そなた
)
に
出会
(
であ
)
ひ、
231
余
(
よ
)
も
満足
(
まんぞく
)
だ』
232
ス『アリナ
様
(
さま
)
、
233
妾
(
わらは
)
はスバールで
厶
(
ござ
)
います。
234
貴方
(
あなた
)
は
死
(
し
)
んでいらつしやつたので
厶
(
ござ
)
いますよ。
235
ここに
厶
(
ござ
)
る
大
(
おほ
)
きなお
方
(
かた
)
の
網
(
あみ
)
にかかり
貴方
(
あなた
)
は
救
(
すく
)
はれたのです。
236
種々
(
いろいろ
)
と
此
(
この
)
方
(
かた
)
が
御
(
ご
)
介抱
(
かいはう
)
を
遊
(
あそ
)
ばしたさうで
厶
(
ござ
)
いますが、
237
どうしても
蘇生
(
そせい
)
の
望
(
のぞ
)
みがないので、
238
失望
(
しつばう
)
落胆
(
らくたん
)
してゐられた
所
(
ところ
)
へ、
239
三五教
(
あななひけう
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
梅公別
(
うめこうわけ
)
様
(
さま
)
、
240
即
(
すなは
)
ち
此
(
この
)
御
(
お
)
方
(
かた
)
が
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
に
祈
(
いの
)
つて、
241
貴方
(
あなた
)
を
助
(
たす
)
けて
下
(
くだ
)
さつたのですよ。
242
サア
御
(
お
)
礼
(
れい
)
を
申
(
まを
)
しなさい』
243
ア『ハイ、
244
有難
(
ありがた
)
う
厶
(
ござ
)
います。
245
モシ
宣伝使
(
せんでんし
)
様
(
さま
)
、
246
エー、
247
漁師
(
れふし
)
様
(
さま
)
、
248
再生
(
さいせい
)
の
御恩
(
ごおん
)
、
249
末代
(
まつだい
)
迄
(
まで
)
も
忘
(
わす
)
れは
致
(
いた
)
しませぬ』
250
と
簡単
(
かんたん
)
に
251
落涙
(
らくるゐ
)
して
感謝
(
かんしや
)
の
辞
(
ことば
)
を
呈
(
てい
)
する。
252
太
(
たい
)
『ヤア
結構
(
けつこう
)
々々
(
けつこう
)
、
253
汝
(
なんぢ
)
バランス、
254
禁断
(
きんだん
)
の
場所
(
ばしよ
)
を
冒
(
をか
)
した
罪
(
つみ
)
は
国法
(
こくはふ
)
上
(
じやう
)
許
(
ゆる
)
し
難
(
がた
)
いなれど、
255
汝
(
なんぢ
)
が
仁愛
(
じんあい
)
の
心
(
こころ
)
に
免
(
めん
)
じ
忘
(
わす
)
れておく』
256
バラ『
之
(
これ
)
は
之
(
これ
)
は
太子
(
たいし
)
殿下
(
でんか
)
で
厶
(
ござ
)
いましたか。
257
御
(
ご
)
仁慈
(
じんじ
)
のお
言葉
(
ことば
)
骨身
(
ほねみ
)
に
堪
(
こた
)
へて
有難
(
ありがた
)
う
存
(
ぞん
)
じます。
258
大体
(
だいたい
)
斯様
(
かやう
)
な
不公平
(
ふこうへい
)
な
法律
(
はふりつ
)
を
発布
(
はつぷ
)
し、
259
自然
(
しぜん
)
に
発生
(
わ
)
く
魚族
(
うろくづ
)
を
右守
(
うもり
)
の
司
(
かみ
)
の
特別
(
とくべつ
)
漁猟
(
ぎよれふ
)
区域
(
くゐき
)
となし、
260
人民
(
じんみん
)
一般
(
いつぱん
)
に
天然
(
てんねん
)
の
恩恵
(
おんけい
)
を
均霑
(
きんてん
)
させないといふのは
余
(
あま
)
り
矛盾
(
むじゆん
)
では
厶
(
ござ
)
いますまいか。
261
妾
(
わたし
)
は
民衆
(
みんしう
)
の
味方
(
みかた
)
と
成
(
な
)
つて
斯
(
か
)
かる
不公平
(
ふこうへい
)
なる
法律
(
はふりつ
)
を
撤回
(
てつくわい
)
し、
262
四民
(
しみん
)
平等
(
べうどう
)
の
神意
(
しんい
)
に
基
(
もとづ
)
き、
263
タラハン
国
(
ごく
)
の
政治
(
せいぢ
)
を
根本
(
こんぽん
)
的
(
てき
)
に
改革
(
かいかく
)
致
(
いた
)
し
度
(
た
)
く
念願
(
ねんぐわん
)
して
居
(
を
)
ります。
264
斯様
(
かやう
)
な
所
(
ところ
)
で
太子
(
たいし
)
様
(
さま
)
に
申
(
まをし
)
上
(
あ
)
げるのは
畏
(
おそ
)
れ
多
(
おほ
)
うは
厶
(
ござ
)
いまするが、
265
妾
(
わたし
)
の
一言
(
いちげん
)
は
国民
(
こくみん
)
全体
(
ぜんたい
)
の
声
(
こゑ
)
で
御座
(
ござ
)
いますから、
266
何卒
(
なにとぞ
)
々々
(
なにとぞ
)
仁慈
(
じんじ
)
の
御心
(
みこころ
)
を
以
(
もつ
)
て、
267
斯
(
か
)
かる
狭苦
(
せまくる
)
しき
法律
(
はふりつ
)
を
撤回
(
てつくわい
)
遊
(
あそ
)
ばす
様
(
やう
)
、
268
違法
(
ゐはふ
)
ながら
謹
(
つつ
)
しんで
殿下
(
でんか
)
に
直訴
(
ぢきそ
)
を
致
(
いた
)
します』
269
太
(
たい
)
『ヤ、
270
実
(
じつ
)
に
天晴
(
あつぱれ
)
な
汝
(
なんぢ
)
の
志
(
こころざし
)
、
271
感心
(
かんしん
)
々々
(
かんしん
)
。
272
余
(
よ
)
は
之
(
これ
)
より
城内
(
じやうない
)
に
帰
(
かへ
)
り
273
国政
(
こくせい
)
の
大改革
(
だいかいかく
)
を
断行
(
だんかう
)
する
考
(
かんが
)
へだ。
274
汝
(
なんぢ
)
は
民衆
(
みんしう
)
の
母
(
はは
)
として
今日
(
こんにち
)
迄
(
まで
)
国家
(
こくか
)
の
為
(
ため
)
大活動
(
だいくわつどう
)
をやつてゐた
事
(
こと
)
は、
275
うすうす
聞
(
き
)
いてゐる。
276
付
(
つ
)
いてはどうだ、
277
余
(
よ
)
の
政治
(
せいぢ
)
を
助
(
たす
)
けてくれる
心
(
こころ
)
はないか』
278
バラ『ハイ、
279
思
(
おも
)
ひもよらぬ
殿下
(
でんか
)
の
思召
(
おぼしめし
)
、
280
何分
(
なにぶん
)
鄙
(
ひな
)
に
育
(
そだ
)
つた
不作法
(
ぶさはふ
)
者
(
もの
)
、
281
到底
(
たうてい
)
廟堂
(
べうだう
)
に
立
(
た
)
つ
事
(
こと
)
は
出来
(
でき
)
ませぬ。
282
まして
今
(
いま
)
迄
(
まで
)
茶坊主
(
ちやばうず
)
の
妻
(
つま
)
と
迄
(
まで
)
成下
(
なりさが
)
つて
居
(
を
)
りました
卑
(
いや
)
しき
女
(
をんな
)
で
厶
(
ござ
)
いまするから……』
283
太
(
たい
)
『
其方
(
そち
)
にも
似合
(
にあ
)
はぬ
其
(
その
)
言葉
(
ことば
)
、
284
国民
(
こくみん
)
救護
(
きうご
)
の
為
(
ため
)
ならば、
285
勇
(
いさ
)
んで
余
(
よ
)
が
言葉
(
ことば
)
を
聞
(
き
)
いても
可
(
い
)
いぢやないか。
286
今
(
いま
)
迄
(
まで
)
の
如
(
ごと
)
く
特権
(
とくけん
)
階級
(
かいきふ
)
が
威張
(
ゐば
)
り
散
(
ち
)
らし、
287
下
(
しも
)
民衆
(
みんしう
)
の
難儀
(
なんぎ
)
を
知
(
し
)
らず
顔
(
がほ
)
に、
288
吾
(
わが
)
身
(
み
)
勝手
(
かつて
)
の
事
(
こと
)
を
致
(
いた
)
すやうな
悪政
(
あくせい
)
はやらせない
積
(
つもり
)
だ。
289
どうか
余
(
よ
)
が
頼
(
たの
)
みを
聞
(
き
)
いてはくれまいか』
290
バラ『ハイ、
291
思
(
おも
)
ひ
掛
(
がけ
)
なき
殿下
(
でんか
)
の
御
(
お
)
見出
(
みだ
)
しに
預
(
あづか
)
り、
292
日頃
(
ひごろ
)
の
願望
(
ぐわんまう
)
も
成就
(
じやうじゆ
)
の
時
(
とき
)
が
参
(
まゐ
)
りました
様
(
やう
)
で
厶
(
ござ
)
います。
293
左様
(
さやう
)
ならば
令旨
(
れいし
)
に
従
(
したが
)
ひ、
294
殿下
(
でんか
)
に
付添
(
つきそ
)
ひ
入内
(
にふだい
)
致
(
いた
)
すで
厶
(
ござ
)
いませう』
295
太
(
たい
)
『ヤア
満足
(
まんぞく
)
々々
(
まんぞく
)
、
296
時
(
とき
)
を
移
(
うつ
)
さず、
297
汝
(
なんぢ
)
は
余
(
よ
)
について
城内
(
じやうない
)
へ
来
(
き
)
てくれよ』
298
バラ『
畏
(
かしこ
)
まりました。
299
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
此
(
この
)
アリナ
様
(
さま
)
は
到底
(
たうてい
)
此
(
この
)
様子
(
やうす
)
では
歩行
(
ほかう
)
は
難
(
むつかし
)
からうと
存
(
ぞん
)
じますから、
300
妾
(
わらは
)
が
馬
(
うま
)
となり、
301
背
(
せな
)
に
負
(
お
)
ぶつてお
供
(
とも
)
を
致
(
いた
)
しませう』
302
梅
(
うめ
)
『ヤ、
303
バランスさま、
304
天晴
(
あつぱれ
)
々々
(
あつぱれ
)
。
305
男子
(
だんし
)
にまさる
貴女
(
あなた
)
の
勇気
(
ゆうき
)
、
306
貴女
(
あなた
)
こそ
神
(
かみ
)
の
化身
(
けしん
)
とも
云
(
い
)
ふべきお
方
(
かた
)
で
厶
(
ござ
)
います』
307
バラ『
左様
(
さやう
)
にお
褒
(
ほ
)
め
下
(
くだ
)
さつてはお
恥
(
はづか
)
しう
厶
(
ござ
)
います。
308
サア
参
(
まゐ
)
りませう』
309
とバランスはアリナを
背
(
せな
)
に
負
(
お
)
ひ
乍
(
なが
)
ら、
310
駿足
(
しゆんそく
)
の
後
(
あと
)
より
従
(
したが
)
ひ
行
(
ゆ
)
く。
311
此
(
この
)
時
(
とき
)
312
大空
(
おほぞら
)
の
月
(
つき
)
は
淡雲
(
あはくも
)
を
押分
(
おしわ
)
けてニコニコし
乍
(
なが
)
ら、
313
一行
(
いつかう
)
五
(
ご
)
人
(
にん
)
の
夜
(
よる
)
の
道芝
(
みちしば
)
を
清
(
きよ
)
く
明
(
あきら
)
けく
照
(
てら
)
させ
玉
(
たま
)
うた。
314
インデス
河
(
がは
)
の
河波
(
かはなみ
)
は
月光
(
げつくわう
)
を
浴
(
あ
)
びて
金鱗
(
きんりん
)
の
如
(
ごと
)
くキラリキラリと
瞬
(
またた
)
いてゐる。
315
(
大正一四・一・七
新一・三〇
於月光閣
松村真澄
録)
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