霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
目 次設 定
設定
印刷用画面を開く [?]プリント専用のシンプルな画面が開きます。文章の途中から印刷したい場合は、文頭にしたい位置のアンカーをクリックしてから開いて下さい。[×閉じる]
話者名の追加表示 [?]セリフの前に話者名が記していない場合、誰がしゃべっているセリフなのか分からなくなってしまう場合があります。底本にはありませんが、話者名を追加して表示します。[×閉じる]
表示できる章
テキストのタイプ [?]ルビを表示させたまま文字列を選択してコピー&ペーストすると、ブラウザによってはルビも一緒にコピーされてしまい、ブログ等に引用するのに手間がかかります。そんな時には「コピー用のテキスト」に変更して下さい。ルビも脚注もない、ベタなテキストが表示され、きれいにコピーできます。[×閉じる]

文字サイズ
フォント

ルビの表示



アンカーの表示 [?]本文中に挿入している3~4桁の数字がアンカーです。原則として句読点ごとに付けており、標準設定では本文の左端に表示させています。クリックするとその位置から表示されます(URLの#の後ろに付ける場合は数字の頭に「a」を付けて下さい)。長いテキストをスクロールさせながら読んでいると、どこまで読んだのか分からなくなってしまう時がありますが、読んでいる位置を知るための目安にして下さい。目障りな場合は「表示しない」設定にして下さい。[×閉じる]


宣伝歌 [?]宣伝歌など七五調の歌は、底本ではたいてい二段組でレイアウトされています。しかしブラウザで読む場合には、二段組だと読みづらいので、標準設定では一段組に変更して(ただし二段目は分かるように一文字下げて)表示しています。お好みよって二段組に変更して下さい。[×閉じる]
脚注 [?][※]や[#]で括られている文字は当サイトで独自に付けた脚注です。まだ少ししか付いていませんが、目障りな場合は「表示しない」設定に変えて下さい。ただし[#]は重要な注記なので表示を消すことは出来ません。[×閉じる]


文字の色
背景の色
ルビの色
傍点の色 [?]底本で傍点(圏点)が付いている文字は、『霊界物語ネット』では太字で表示されますが、その色を変えます。[×閉じる]
外字1の色 [?]この設定は現在使われておりません。[×閉じる]
外字2の色 [?]文字がフォントに存在せず、画像を使っている場合がありますが、その画像の周囲の色を変えます。[×閉じる]

  

表示がおかしくなったらリロードしたり、クッキーを削除してみて下さい。


【新着情報】10月30~31日に旧サイトから新サイトへの移行作業を行う予定です。実験用サイトサブスク
マーキングパネル
設定パネルで「全てのアンカーを表示」させてアンカーをクリックして下さい。

【引数の設定例】 &mky=a010-a021a034  アンカー010から021と、034を、イエローでマーキング。

          

第五章 変装(へんさう)太子(たいし)〔一七二九〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第68巻 山河草木 未の巻 篇:第2篇 恋火狼火 よみ(新仮名遣い):れんかろうか
章:第5章 変装太子 よみ(新仮名遣い):へんそうたいし 通し章番号:1729
口述日:1925(大正14)年01月29日(旧01月6日) 口述場所:月光閣 筆録者:加藤明子 校正日: 校正場所: 初版発行日:1926(大正15)年9月30日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]
太子は、スバール姫との逢瀬のため、アリナを自分の身代わりにする。太子は労働服を着て城を抜け出し、アリナは太子の錦衣を着て太子の部屋に座り込んだ。アリナは、太子が平民生活を希望するなら、自分が代わりに王位に上ろうか、と独語している。
ところへ、アリナの父、左守が太子に会いにやってくる。妻の命日に、息子を帰宅させようと頼みにやってきたのであった。アリナははっとするが、「アリナは先に帰った」と嘘を言って、その場を切り抜ける。
アリナが、自分の父親さえも騙せた自分の手並みに一人悦にいっているうちに、夜はふけていった。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる] 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日: OBC :rm6805
愛善世界社版:71頁 八幡書店版:第12輯 176頁 修補版: 校定版:71頁 普及版:69頁 初版: ページ備考:
001 タラハン(じやう)太子殿(たいしでん)(おく)()には、002スダルマン太子(たいし)と、003アリナがいつもの(ごと)(むつま)しげに(くび)(あつ)めて(ある)秘密(ひみつ)(かた)()つて()る。
004アリナ『太子(たいし)(さま)005昨夜(さくや)如何(いかが)(ござ)いました。006(さだ)めてスバール(ひめ)(さま)もお(よろこ)(あそ)ばしたでせう』
007 太子(たいし)(やや)(ほほ)()めながら、008アリナに(かほ)(かく)すやうな調子(てうし)で、
009太子(たいし)『いやもう本当(ほんたう)愉快(ゆくわい)だつた。010人生(じんせい)恋愛(れんあい)成就(じやうじゆ)した(とき)(くらゐ)(たの)しいものはない。011()(うま)れかへつたやうな心持(こころもち)がしたよ。012(これ)()ふのもお(まへ)尽力(じんりよく)(いた)(ところ)感謝(かんしや)して()る』
013ア『勿体(もつたい)ない014(なん)()(こと)仰有(おつしや)いますか。015臣下(しんか)(きみ)(ため)に、016所有(あらゆる)(ちから)(つく)すのは当然(あたりまへ)(ござ)います。017(しか)(なが)らタルチンの(いへ)()(かげ)もない茅屋(あばらや)018(さぞ)窮屈(きうくつ)(ござ)いましたでせう。019九五(きうご)(おん)()(もつ)()のやうな(ところ)へお(かよ)(あそ)ばすやうにしたのも020(みな)(わたくし)不行届(ふゆきとど)きからで(ござ)います』
021(たい)『それだと()つて(ほか)(ひめ)(かく)適当(てきたう)(いへ)もなし、022(まへ)としては(ちから)(いつ)ぱい(つく)して()れたのだ。023そんな心遣(こころづかひ)無用(むよう)だ。024さうしていつも(ひろ)(やかた)起臥(きぐわ)して()(わが)()は、025あのやうな風流(ふうりう)茅屋(ばうをく)大変(たいへん)()()つたよ。026平民(へいみん)生活(せいくわつ)(あぢ)(おぼ)え、027昨日(さくじつ)(はじ)めて平民(へいみん)気楽(きらく)(こと)や、028何事(なにごと)大袈裟(おほげさ)でなく簡単(かんたん)(かた)づく(こと)(あぢ)(おぼ)029(じつ)有難(ありがた)かつたよ。030(はじ)めて人間(にんげん)になつたやうな心持(こころもち)がした。031あゝ(わし)はなぜこんな身分(みぶん)(うま)れて()たのだらう、032(もん)出入(でいり)にも仰々(ぎやうぎやう)しい数多(あまた)衛兵(ゑいへい)送迎(そうげい)され、033まるきり動物園(どうぶつゑん)(とら)(おく)るやうな塩梅(あんばい)(しき)だ。034出来(でき)(こと)なら035(まへ)(わし)地位(ちゐ)(かは)つて()しいものだ』
036ア『左様(さやう)思召(おぼしめ)すのも()無理(むり)(ござ)いませぬ。037()窮屈(きうくつ)()境遇(きやうぐう)(さつ)(たてまつ)ります。038(しか)(なが)ら、039殿下(でんか)はタラハン(ごく)君主(きみ)たるべく040使命(しめい)をもつて、0401(てん)よりお(くだ)(あそ)ばした(かみ)御子(みこ)(ござ)いますから、041(これ)(ばか)りはどうする(こと)出来(でき)ませぬ。042(それ)(ゆゑ)(わたくし)(あた)(かぎ)殿下(でんか)()自由(じいう)になるやうと(つと)めて()るので(ござ)います』
043(たい)(じつ)はアリナよ、044(まへ)折入(をりい)つての(たの)みがある。045(なん)()いては()れまいかなア。046()一生(いつしやう)(ねが)ひだから』
047ア『父祖(ふそ)代々(だいだい)厚恩(こうおん)()けた(わたくし)()(うへ)048如何(いか)なる(こと)でも身命(しんめい)()して(うけたま)はりませう』
049(たい)早速(さつそく)承知(しようち)満足(まんぞく)(おも)ふ。050(じつ)はアリナ051(まへ)(わし)変装(へんさう)して(しばら)(この)殿内(でんない)(をさ)まつて()(もら)()いのだ』
052ア『成程(なるほど)053妙案(めうあん)(ござ)いますな。054(わたくし)替玉(かへだま)にしておいて殿下(でんか)(ひめ)(さま)匿家(かくれが)へお(かよ)(あそ)ばすと()()考案(かうあん)ですか。055半日(はんにち)(いち)(にち)(ぐらゐ)()(とほ)(こと)出来(でき)るでせう。056(しか)(なが)くなりますと化狐(ばけぎつね)尻尾(しつぽ)()えますから』
057(たい)『ハヽヽヽヽ。058化狐(ばけぎつね)化狸(ばけだぬき)()らぬが、059(まへ)(かほ)()生写(いきうつ)しと()(こと)だから、060(かはら)(きん)(くわ)したやうな(こと)もあるまい。061どうか(たの)むよ』
062ア『殿下(でんか)(おほ)せなれば如何(いか)なる(こと)でも(つつし)んでお()(いた)しますが、063金玉(きんぎよく)(おん)()()()ました(ところ)で、064()つた金箔(きんぱく)(すぐ)()げて仕舞(しま)ひますから、065()れは(わたくし)()つて随分(ずいぶん)重大(ぢうだい)役目(やくめ)(ござ)います。066(わたくし)今日(けふ)(いち)(にち)半日(はんにち)か、067(かり)殿下(でんか)となつて太子(たいし)気分(きぶん)(あぢ)はつて()ませう。068殿下(でんか)(しばら)平民(へいみん)気分(きぶん)(あぢ)はつて御覧(ごらん)なさいませ』
069(たい)『アヽ面白(おもしろ)い、070どうか(たの)むよ。071今日(けふ)夕方(ゆふがた)から薄暗(うすやみ)(まぎ)れて頬被(ほほかむり)をグツスリとなし、072労働服(らうどうふく)でも(まと)うて鼻歌(はなうた)でも(うた)()かけて()よう。073どうか(その)(ふく)をそつと調達(てうたつ)しておいては()れまいか』
074ア『かかる()用命(ようめい)(かなら)(くだ)るべきものと(ぞん)じまして、075ちやんと用意(ようい)をしておきました』
076(たい)『お(まへ)労働者(らうどうしや)知己(ちき)でもあるのか』
077ア『いえ(べつ)知己(ちき)()つてはありませぬが、078横町(よこまち)古物商(ふるてや)()つておきました』
079(たい)(なに)から(なに)(まで)()()のない(をとこ)だな、080アツハヽヽヽヽ』
081ア『(わたくし)(また)(をんな)()ふものの(はだ)(ぞん)じませぬが、082殿下(でんか)()かせられてもお(はつ)(やう)(うかが)ひます。083如何(いかが)(ござ)いました。084随分(ずいぶん)趣味(しゆみ)津々(しんしん)たるものでせうなア』
085(たい)趣味(しゆみ)津々(しんしん)どころか086(てん)()もタラハン(じやう)()ふも(さら)なり、087自分(じぶん)(いのち)(まで)どこかへ吸収(きふしう)されたやうな心持(こころもち)になつたよ。088()(なか)(こひ)()ふもの(くらゐ)神聖(しんせい)尊貴(そんき)なものは()るまいと(おも)ふ。089あゝもう(たま)らなくなつて()た。090(はや)今日(けふ)()()れないかなア』
091ア『殿下(でんか)092(あま)りぢや(ござ)いませぬか。093貴方(あなた)(こひ)勇者(ゆうしや)094(わたくし)()はば(こひ)敗者(はいしや)(いな)従僕(じゆうぼく)です。095従僕(じゆうぼく)(まへ)でさう(のろ)けられては(この)アリナもやり()れませぬわ、096アツハヽヽヽヽ』
097(たい)(それ)だと()つて「どんな塩梅(あんばい)だつた」などとお(まへ)(はう)から()情緒(じやうちよ)()きずり()さうとするものだから098(こひ)には(もろ)()(たましひ)()らず()らずに()いて()たのだ。099あゝアリナ100もう()()()れなくなつて()たよ』
101ア『大変(たいへん)()()したやうですが、102(わたくし)(ひと)心配(しんぱい)()えて()たやうです。103殿下(でんか)神聖(しんせい)恋愛(れんあい)(たましひ)傾注(けいちう)されるのは大変(たいへん)結構(けつこう)では()りますが、104それが(ため)王家(わうけ)(わす)れ、105(あるひ)平民(へいみん)にならうなどの野心(やしん)(おこ)されては、106取持(とりもち)をしたこのアリナは王家(わうけ)(たい)国家(こくか)(たい)し、107()をもつて(わび)ても(およ)ばないやうな(つみ)になりますから、108そこは(あま)(ねつ)せないやう程々(ほどほど)(こひ)(あぢ)はつて(いただ)()いものです』
109(たい)王家(わうけ)王家(わうけ)110国家(こくか)国家(こくか)だ。111王家(わうけ)国家(こくか)恋愛(れんあい)とを混同(こんどう)して(もら)つては(こま)るよ。112()王位(わうゐ)(のぼ)れば(くに)(ちち)として万機(ばんき)政治(せいぢ)総攪(そうらん)し、113(また)恋愛(れんあい)としては上下(じやうげ)障壁(しやうへき)撤廃(てつぱい)し、114天成(てんせい)意志(いし)によつて(おも)存分(ぞんぶん)(あい)情味(じやうみ)(あぢ)はふ(つも)りだ』
115ア『殿下(でんか)がそこ(まで)()()(あそば)した(うへ)116到底(たうてい)(わたくし)言葉(ことば)(いま)(ところ)(みみ)にはお()(くだ)さいますまい。117(みづ)出端(でばな)118()()(さか)りは、119鬼神(きしん)(いへど)(これ)制止(せいし)する(こと)出来(でき)ぬとの(こと)120(しばら)猛烈(まうれつ)殿下(でんか)情炎(じやうえん)(やや)下火(したび)になる(まで)何事(なにごと)申上(まをしあげ)ますまい』
121(たい)『やア有難(ありがた)い、122それが()(たい)しての忠義(ちうぎ)だ。123()(いへど)(けつ)して(たましひ)(くさ)つて()ないから、124王家(わうけ)国家(こくか)()てるやうな(こと)はしないから安心(あんしん)して()れ』
125ア『(その)言葉(ことば)(うけたま)はり、126(すこ)しく(むね)()()きました。127どうか充分(じゆうぶん)注意(ちうい)(はら)つて完全(くわんぜん)(こひ)をお()(あそば)しませ』
128(たい)()()()れないのかな。129アヽどうして今日(けふ)(また)これ(ほど)()(なが)いのだらう。130一日(いちじつ)千秋(せんしう)(おも)ひとはよく()つたものだ。131やつぱり聖人(せいじん)(うそ)()はないなア』
132ア『まだ()(どき)(ござ)います。133夕暮(ゆふぐれ)(まで)には二時(ふたとき)(あま)りも(ござ)いますから、134御悠(ごゆつく)りなさいませ』
135(たい)『どうも、136じつとしては()られないやうだ。137()(たましひ)向日(むかひ)(もり)茶坊主(ちやばうず)(やかた)(すで)(すで)訪問(はうもん)して()るやうだ。138エヽもう(たま)らない労働服(らうどうふく)()して()れ』
139ア『()れはお(やす)御用(ごよう)(ござ)いますが、140さうお()きになつても(ひる)(うち)人目(ひとめ)にかかる(おそ)れが()ります。141どうして(この)(もん)をお(くぐ)(あそ)ばしますか』
142(たい)『アツハヽヽヽ、143そんな心配(しんぱい)はして()れな。144今日(けふ)早朝(さうてう)から(うら)高壁(たかべい)()()える稽古(けいこ)をしておいた。145精神(せいしん)一到(いつたう)何事(なにごと)()らざらむやだ。146表門(おもてもん)裏門(うらもん)衛士(ゑいし)()つてゐるから、147()適当(てきたう)148人目(ひとめ)にかからない(ところ)から(にげ)()(つも)りだ』
149ア『万々一(まんまんいち)怪我(けが)でもあつては大変(たいへん)(ござ)いますから、150もう(しばら)くの(うち)()ちを(ねが)()いものです』
151(たい)『や、152今日(けふ)だけは自由(じいう)(まか)して()れ。153暗雲(やみくも)()()りの芸当(げいたう)(こひ)()めには()むを()まい。154アヽ、155スバール(ひめ)はどうして()るだらう。156きつと(しろ)(くび)()ばして()()姿(すがた)157(いま)(いま)かと(まど)()けて(のぞ)いて()るだらう。158アヽ可愛(かあい)いものだ。159……オイ、160スバール161(いま)()くから()つて()れ。162きつと()其方(そなた)見捨(みす)てるやうな(こと)はしない。163永久(えいきう)永久(えいきう)にミロクの()(まで)(まへ)(あい)する」と()つた(こと)滅多(めつた)反古(ほご)にはしないよ』
164 アリナは(あたま)()(なが)ら、
165ア『もし殿下(でんか)(あま)りぢや(ござ)いませぬか。166(なに)(ほど)貴方(あなた)のお(こゑ)でも向日(むかひ)(もり)(まで)(とど)きませぬよ。167そして(わたくし)(まへ)でお(のろ)けをたつぷりお()かせ(くだ)さるとは、168(ちつ)殺生(せつしやう)ぢや(ござ)いませぬか。169青春(せいしゆん)()()ゆる(わたくし)(こころ)170(ちつ)とは(さつ)して(いただ)()いもので(ござ)いますなア』
171(たい)『ウン、172それや(さつ)して()るよ。173そんな(こと)(すゐ)()かないやうな()ではない。174(まへ)(その)(うち)175どこかでスバールのやうな美人(びじん)(たづ)()し、176(つま)にしたらよいぢやないか。177一度(いちど)178どこかの(やま)来月(らいげつ)あたり(あそ)びに()つて()ようか。179(また)あんな美人(びじん)()ふかも()れない』
180ア『殿下(でんか)もう沢山(たくさん)です。181(わたくし)神妙(しんめう)()名代(みやうだい)(つと)めて()りますから、182殿下(でんか)変装(へんさう)(あそ)ばして(おも)()つてお(いで)なさいませ。183(すこ)夕暮(ゆふぐれ)には(はや)(ござ)いますが、184恋愛(れんあい)(かみ)のお(まも)りが()れば、185人目(ひとめ)にかからず安全(あんぜん)(ひめ)(さま)のお(そば)()かれるでせう。186サア労働服(らうどうふく)()(こと)(をし)へて()げませう。187(はや)錦衣(きんい)をお()ぎなさいませ』
188 太子(たいし)はアリナの言葉(ことば)()たり(かしこ)しと無雑作(むざふさ)錦衣(きんい)()()て、189真裸体(まつぱだか)となつて仕舞(しま)つた。190アリナは()つて()自分(じぶん)(おほ)トランクから労働服(らうどうふく)()()太子(たいし)()せた。191太子(たいし)はニコニコしながら、
192(たい)『オイ、193アリナ、194どうだ、195労働者(らうどうしや)として似合(にあ)ふかな』
196ア『如何(いか)にもよく似合(にあ)ひますよ。197金看板(きんかんばん)()きの労働者(らうどうしや)()えますよ。198殿下(でんか)はお(とく)(たか)いから、199どんな衣裳(いしやう)をお()しになつても本当(ほんたう)によく似合(にあ)ひます。200労働者(らうどうしや)としても(じつ)立派(りつぱ)なものですわ。201それではスバール(ひめ)(さま)がゾツコン恋慕(れんぼ)(あそ)ばすのも無理(むり)(ござ)いませぬ』
202(たい)一層(いつそう)(こと)203(この)衣裳(いしやう)末代(まつだい)(はな)したくない。204労働者(らうどうしや)となつて九尺(くしやく)二間(にけん)裏長屋(うらながや)で、205(ひめ)世話(せわ)女房(にようばう)として、206(ひと)簡易(かんい)生活(せいくわつ)でも(おく)つて()たいものだなア、207アツハヽヽヽ。208オイ、209アリナ、210(あと)(たの)むよ』
211()ふより(はや)身軽(みがる)になつたのを(さいは)ひ、212頬被(ほほかむり)をグツスリとしながら(ましら)(ごと)高壁(たかかべ)()()213(ふか)(ほり)(たくみ)()()して、214(しろ)馬場(ばんば)密林(みつりん)(なか)姿(すがた)(かく)して(しま)つた。215(あと)にアリナは茫然(ばうぜん)として溜息(ためいき)をつき、
216ア『アヽ(こま)つた(こと)出来(でき)()たものだわい。217どうか無事(ぶじ)茶坊主(ちやばうず)屋敷(やしき)(まで)()(あそ)ばせばよいがなア。218アヽ(これ)から(うま)れてから一度(いちど)()(こと)もない錦衣(きんい)()(まと)219明日(あす)(あさ)(まで)太子(たいし)となり()ましてやらうか』
220錦衣(きんい)(まと)自分(じぶん)着物(きもの)をトランクの(なか)(をさ)め、221わざと物々(ものもの)しく(みす)をさげ、222(きり)火鉢(ひばち)(まへ)()沢山(たくさん)坐布団(ざぶとん)()き、223バイの化物然(ばけものぜん)()まし()んで()た。
224ア『(なん)とまア(さる)にも衣裳(いしやう)とか()つて、225よく似合(にあ)うものだなア。226どれ(ひと)227(つぎ)()(かがみ)でも()()う』
228()(なが)ら、229つと()つて(かがみ)()()独語(ひとりごと)
230『ヤア(われ)(なが)見紛(みまが)(ばか)太子(たいし)()()()るわい。231これなら一生(いつしやう)()()ました(ところ)232滅多(めつた)尻尾(しつぽ)(つか)まる(こと)はない。233太子(たいし)(さま)平民(へいみん)生活(せいくわつ)がお()きなり、234自分(じぶん)同様(どうやう)だが、235(しか)人間(にんげん)(うま)れて一度(いちど)王位(わうゐ)(のぼ)つて()るも(をとこ)らしい仕事(しごと)だ。236太子(たいし)永遠(えいゑん)(かは)つて()しいと仰有(おつしや)つたら太子(たいし)(ため)だ、237(かは)つてもあげよう。238(また)自分(じぶん)(ため)にも栄誉(えいよ)だ。239(しか)(なが)大王(だいわう)殿下(でんか)(ちち)左守(さもり)(その)()重臣(ぢうしん)(ども)()(うま)(くら)ます(こと)出来(でき)ようかなア。240暗雲(やみくも)()()りの芸当(げいたう)とは所謂(いはゆる)この(こと)だ。241太子(たいし)危険(きけん)ををかして恋愛(れんあい)充実(じゆうじつ)()げ、242()のアリナは(また)大危険(だいきけん)(をか)して王位(わうゐ)(のぼ)らむとするのだ。243徳川(とくがは)天一坊(てんいちばう)真裸足(まつぱだし)()げるだらう、244アツハヽヽヽ。245いや(しか)246何時(いつ)老臣(らうしん)(ども)()機嫌(きげん)(うかが)ひに()るかも()れない。247どれ、248太子(たいし)玉座(ぎよくざ)()まし()んで()らねばなるまい』
249(また)もや(かがみ)()()()でて、250太子(たいし)居間(ゐま)(なに)()はぬ(かほ)して(すわ)()んだ。251そこへ奥女中(おくぢよちう)案内(あんない)252(ちち)左守(さもり)太子(たいし)()機嫌(きげん)(うかが)ひと(しよう)(たづ)ねて()た。253左守(さもり)はポンポンと二拍手(にはくしゆ)しながら低頭(ていとう)平身(へいしん)し、
254()『エヽ老臣(らうしん)左守(さもり)255(つつし)んで殿下(でんか)()機嫌(きげん)(うかが)(たてまつ)ります。256(ちち)大王(だいわう)(さま)にも()(かは)らせなく()政務(せいむ)(みそな)はせたまふこと大慶(たいけい)至極(しごく)(ぞん)(たてまつ)ります。257(おそ)(なが)殿下(でんか)に、258老臣(らうしん)として王家(わうけ)()めに一応(いちおう)(まをし)(あげ)ますが、259(しん)(せがれ)アリナなるもの(あま)殿下(でんか)()寵愛(ちようあい)(おぼ)260(おや)(おや)とも(おも)はず、261悪言(あくげん)暴語(ばうご)(はな)ち、262デモクラシーだとか、263共産(きやうさん)主義(しゆぎ)だとか(わけ)(わか)らぬ(こと)(まをし)て、264(この)(ちち)手古擦(てこず)らせます。265それに(この)(ごろ)殿下(でんか)のお(そば)御用(ごよう)なりと(まを)し、266一度(いちど)(わが)(やかた)(かへ)つて(まゐ)りませぬ。267どうか今晩(こんばん)亡妻(ばうさい)命日(めいにち)(ござ)いますれば、268霊前(れいぜん)参拝(さんぱい)させ()(おも)ひますれば、269どうか明朝(みやうてう)(まで)(ひま)をお(つか)はし(くだ)さいませ。270()()つてお(ねが)ひに(まゐ)りました』
271 アリナはハツと(むね)(とどろ)かせ、272(にはか)顔色(がんしよく)(あを)ざめ(くちびる)さえビリビリと(ふる)()したが273(さすが)横着物(わうちやくもの)274臍下(さいか)丹田(たんでん)にグツと(いき)()め、275大胆(だいたん)至極(しごく)にも(はじ)めて太子(たいし)口真似(くちまね)をやり()した。
276ア『やア(その)(はう)老臣(らうしん)左守(さもり)(ござ)るか。277老体(らうたい)()をもつて()くも入内(にふだい)(いた)した。278()満足(まんぞく)(おも)ふぞ。279(なんぢ)(まを)(とほ)(ちち)(きは)めて健全(けんぜん)政務(せいむ)(みそなは)すによつて、280(かなら)(かなら)心痛(しんつう)(いた)すな。281もはや夜間(やかん)(こと)でもあり、282()(すこ)研究(けんきう)したい(こと)もあれば、283(いち)()(はや)(この)()退却(たいきやく)せよ。284(また)明日(あす)面会(めんくわい)(ゆる)すであらう』
285()(おそ)(なが)殿下(でんか)(おほ)せを(いな)むでは(ござ)りませぬが、286如何(いか)なる御用(ごよう)(ござ)いませうとも、287今晩(こんばん)だけはアリナをおかへし(くだ)さいませ』
288ア『(その)アリナは二時(ふたとき)以前(いぜん)(ちち)(やかた)(かへ)ると(まをし)()ていつた。289(さつ)する(ところ)(なんぢ)途中(とちう)()(ちが)ひになつたのであらう』
290()『アヽ、291左様(さやう)(ござ)いましたか、292これは失礼(しつれい)(こと)(まをし)(あげ)ました。293それでは老臣(らうしん)(いそ)帰宅(きたく)(いた)しませう、294御免(ごめん)(くだ)さいませ』
295()(なが)倉皇(さうくわう)として奥女中(おくぢよちう)()()かれながら(くだ)()く。296(あと)見送(みおく)つてアリナはホツと一息(ひといき)つきながら、
297ア『アヽ、298地獄(ぢごく)(うへ)一足飛(いつそくとび)だつた。299(しか)(なが)暗雲(やみくも)()()りの第一線(だいいつせん)突破(とつぱ)したやうなものだ。300現在(げんざい)(せがれ)殿下(でんか)間違(まちが)(かへ)るやうだからもう大丈夫(だいぢやうぶ)だ。301()抜目(ぬけめ)のない狸爺(たぬきおやぢ)(わが)正体(しやうたい)看破(かんぱ)する(こと)出来(でき)ない(まで)(たくみ)()()ましたのも(まつた)(てん)()保護(ほご)だ。302だがも(ひと)つの難関(なんくわん)大王(だいわう)(さま)のお()えになつた(とき)だ。303エヽ取越(とりこし)苦労(くらう)禁物(きんもつ)だ。304まア(その)(とき)(また)(その)(とき)(かぜ)()くだらう。305あゝ愉快(ゆくわい)々々(ゆくわい)306もう(なん)だかタラハン(ごく)国王(こくわう)になつたやうな()がする。307イツヒヽヽヽ』
308大胆(だいたん)不敵(ふてき)にも会心(くわいしん)(ゑみ)()らして()る。
309 (よる)(とばり)()ろされて310間毎(まごと)々々(まごと)銀燭(ぎんしよく)()(またた)()した。
311大正一四・一・六 新一・二九 於月光閣 加藤明子録)
絶賛発売中『超訳霊界物語2/出口王仁三郎の「身魂磨き」実践書/一人旅するスサノオの宣伝使たち』
逆リンク(このページにリンクが張られているページ)
オニド関連サイト最新更新情報
10/22【霊界物語ネット】王仁文庫 第六篇 たまの礎(裏の神諭)』をテキスト化しました。
5/8【霊界物語ネット】霊界物語ネットに出口王仁三郎の第六歌集『霧の海』を掲載しました。
このページに誤字・脱字や表示乱れなどを見つけたら教えて下さい。
返信が必要な場合はメールでお送り下さい。【メールアドレス
合言葉「みろく」を入力して下さい→  
霊界物語ネットは飯塚弘明が運営しています。【メールアドレス】 / 動作に不具合や誤字脱字等を発見されましたら是非お知らせ下さるようお願い申し上げます。 / 本サイトに掲載されている霊界物語等の著作物の電子データは飯塚弘明ほか、多数の方々の協力によって作られました。(スペシャルサンクス) / 本サイトの著作権(デザイン、プログラム、凡例等)は飯塚弘明にあります。出口王仁三郎の著作物(霊界物語等)の著作権は保護期間が過ぎていますのでご自由にお使いいただいて構いません。ただし一部分を引用するのではなく、本サイト掲載の大部分を利用して電子書籍等に転用する場合には、必ず出典と連絡先を記して下さい。→「本サイト掲載文献の利用について」 / 出口王仁三郎の著作物は明治~昭和初期に書かれたものです。現代においては差別的と見なされる言葉や表現もありますが、当時の時代背景を鑑みてそのままにしてあります。 / プライバシーポリシー
(C) 2007-2024 Iizuka Hiroaki