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第66巻(巳の巻)
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第70巻(酉の巻)
第71巻(戌の巻)
第72巻(亥の巻)
特別編 入蒙記
天祥地瑞
第73巻(子の巻)
第74巻(丑の巻)
第75巻(寅の巻)
第76巻(卯の巻)
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第78巻(巳の巻)
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第9巻(申の巻)
序歌
凡例
総説歌
第1篇 長途の旅
01 都落
〔394〕
02 エデンの渡
〔395〕
03 三笠丸
〔396〕
04 大足彦
〔397〕
05 海上の神姿
〔398〕
06 刹那信心
〔399〕
07 地獄の沙汰
〔400〕
第2篇 一陽来復
08 再生の思
〔401〕
09 鴛鴦の衾
〔402〕
10 言葉の車
〔403〕
11 蓬莱山
〔404〕
第3篇 天涯万里
12 鹿島立
〔405〕
13 訣別の歌
〔406〕
14 闇の谷底
〔407〕
15 団子理屈
〔408〕
16 蛸釣られ
〔409〕
17 甦生
〔410〕
第4篇 千山万水
18 初陣
〔411〕
19 悔悟の涙
〔412〕
20 心の鏡
〔413〕
21 志芸山祇
〔414〕
22 晩夏の風
〔415〕
23 高照山
〔416〕
24 玉川の滝
〔417〕
25 窟の宿替
〔418〕
26 巴の舞
〔419〕
第5篇 百花爛漫
27 月光照梅
〔420〕
28 窟の邂逅
〔421〕
29 九人娘
〔422〕
30 救の神
〔423〕
31 七人の女
〔424〕
32 一絃琴
〔425〕
33 栗毛の駒
〔426〕
34 森林の囁
〔427〕
35 秋の月
〔428〕
36 偽神憑
〔429〕
37 凱歌
〔430〕
附録 第三回高熊山参拝紀行歌(二)
余白歌
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第一四章
闇
(
やみ
)
の
谷底
(
たにぞこ
)
〔四〇七〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第9巻 霊主体従 申の巻
篇:
第3篇 天涯万里
よみ(新仮名遣い):
てんがいばんり
章:
第14章 闇の谷底
よみ(新仮名遣い):
やみのたにぞこ
通し章番号:
407
口述日:
1922(大正11)年02月14日(旧01月18日)
口述場所:
筆録者:
加藤明子
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1922(大正11)年7月5日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
一行は照山峠を東に向かって下っていった。智利の国の里近くまで降りてきたところで、不思議にも一行の足は一歩も進むことができなくなってしまった。
かたわらの鬱蒼たる森林の中からは、淤縢山津見、駒山彦、照彦を呼ぶ破れ鐘のような声が響いてきた。三人はその声に、ひきつけられるようにして森の中へ入ってしまった。
後には、珍山彦と三姉妹が残された。珍山彦は、これから四人でハラの港からアタルの都に入り、常世の国へ渡って黄泉島の宣伝をするのだ、と伝えた。そして、宣伝使の実地教育を珍山彦自ら行うのだ、と諭した。
珍山彦は三姉妹に、九死に一生の困難を克服しなければ誠の道は開けない、その後は各自宣伝使となってばらばらになり、神業に奉仕するのだ、師匠兄弟を杖に付くようなことでは神界の奉仕はできない、と心構えを伝えた。
四人はハラの港に向かって進んで行く。
一方、淤縢山津見、駒山彦、照彦は怪しい声にひきつけられて谷川をさかのぼり、数里山奥に分け入っていた。高山と高山の深い谷間には月影もささず、夜はおいおいと更けていくばかりであった。
三人の身体はまたもや強直して動くことができなくなった。照彦は神懸りし、月照彦命である、と口を切った。そして淤縢山津見と駒山彦の心構えの甘さを厳しく問い詰め始めた。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2022-10-14 20:43:59
OBC :
rm0914
愛善世界社版:
110頁
八幡書店版:
第2輯 314頁
修補版:
校定版:
117頁
普及版:
43頁
初版:
ページ備考:
001
淤縢山津見
(
おどやまづみ
)
一行
(
いつかう
)
は、
002
照山峠
(
てるやまたうげ
)
を
東
(
ひがし
)
に
向
(
むか
)
つて
下
(
くだ
)
つて
行
(
ゆ
)
く。
003
智利
(
てる
)
の
国
(
くに
)
の
里
(
さと
)
近
(
ちか
)
くなつた
時
(
とき
)
、
004
一行
(
いつかう
)
の
足
(
あし
)
は
ぴたり
と
止
(
と
)
まり、
005
どうしても
一歩
(
いつぽ
)
も
進
(
すす
)
む
事
(
こと
)
が
出来
(
でき
)
ない。
006
珍山彦
(
うづやまひこ
)
『ヤア、
007
足
(
あし
)
が
歩
(
ある
)
けないやうになつちまつた。
008
どうだ、
009
皆
(
みな
)
さまは』
010
一同
(
いちどう
)
『イヤ、
011
吾々
(
われわれ
)
も
同
(
おな
)
じ
事
(
こと
)
だ。
012
合点
(
がてん
)
の
行
(
ゆ
)
かぬ
事
(
こと
)
もあるものだ』
013
駒山彦
(
こまやまひこ
)
『
何
(
なん
)
でもこれは
向
(
むか
)
ふに
悪
(
わる
)
い
奴
(
やつ
)
が
沢山
(
たくさん
)
居
(
ゐ
)
て、
014
吾々
(
われわれ
)
を
待
(
ま
)
ち
討
(
う
)
ちしようとして
居
(
ゐ
)
るのに
違
(
ちが
)
ひないワ。
015
そこで
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
が
吾々
(
われわれ
)
の
足
(
あし
)
を
縛
(
しば
)
つて、
016
軽々
(
かるがる
)
しく
進
(
すす
)
むでない。
017
胸
(
むね
)
に
手
(
て
)
をあて、
018
よく
後前
(
あとさき
)
を
考
(
かんが
)
へて
見
(
み
)
よ、
019
との
暗示
(
あんじ
)
を
与
(
あた
)
へられたのだらう』
020
一行
(
いつかう
)
七
(
しち
)
人
(
にん
)
は
途上
(
とじやう
)
に
立
(
た
)
つたまま、
021
石地蔵
(
いしぢざう
)
のやうに
固
(
かた
)
まつて
仕舞
(
しま
)
つた。
022
傍
(
かたはら
)
の
老樹
(
らうじゆ
)
鬱蒼
(
うつさう
)
たる
森林
(
しんりん
)
の
中
(
なか
)
より、
023
声
『
淤縢山津見
(
おどやまづみ
)
、
024
駒山彦
(
こまやまひこ
)
、
025
照彦
(
てるひこ
)
』
026
と
破鐘
(
われがね
)
のやうな
声
(
こゑ
)
が
響
(
ひび
)
いて
来
(
く
)
る。
027
その
声
(
こゑ
)
と
共
(
とも
)
に
三
(
さん
)
人
(
にん
)
の
身体
(
からだ
)
は、
028
何物
(
なにもの
)
にか
惹
(
ひ
)
きつけらるるが
如
(
ごと
)
き
心地
(
ここち
)
して、
029
思
(
おも
)
はず
知
(
し
)
らず
声
(
こゑ
)
する
方
(
はう
)
に
向
(
むか
)
つて、
030
自然
(
しぜん
)
に
足
(
あし
)
が
進
(
すす
)
み、
031
遂
(
つひ
)
に
三
(
さん
)
人
(
にん
)
の
姿
(
すがた
)
は
見
(
み
)
えなくなりたり。
032
後
(
あと
)
に
珍山彦
(
うづやまひこ
)
、
033
松
(
まつ
)
、
034
竹
(
たけ
)
、
035
梅
(
うめ
)
の
四
(
よ
)
人
(
にん
)
は、
036
何時
(
いつ
)
の
間
(
ま
)
にか
足
(
あし
)
も
自由
(
じいう
)
になり、
037
路傍
(
ろばう
)
の
清
(
きよ
)
き
芝生
(
しばふ
)
の
上
(
うへ
)
に
端坐
(
たんざ
)
して、
038
珍山彦
(
うづやまひこ
)
『サア
皆
(
みな
)
さま、
039
繊弱
(
かよわ
)
き
女
(
をんな
)
の
身
(
み
)
で、
040
まだ
三五教
(
あななひけう
)
の
教理
(
けうり
)
も
知
(
し
)
らずに、
041
宣伝使
(
せんでんし
)
となつて、
042
悪魔
(
あくま
)
の
蔓
(
はびこ
)
る
此
(
こ
)
の
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
を
教導
(
けうだう
)
すると
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
は、
043
一通
(
ひととほ
)
りの
苦労
(
くらう
)
では
行
(
ゆ
)
くものではない、
044
さうして、
045
斯
(
か
)
う
どや
どやと
七
(
しち
)
人
(
にん
)
も
列
(
なら
)
んで
宣伝
(
せんでん
)
に
歩
(
ある
)
くと
云
(
い
)
ふことは、
046
一寸
(
ちよつと
)
見
(
み
)
れば
華々
(
はなばな
)
しく
立派
(
りつぱ
)
に
見
(
み
)
えるが、
047
それは
皆
(
みな
)
仇花
(
あだばな
)
だ。
048
誠
(
まこと
)
の
道
(
みち
)
の
宣伝
(
せんでん
)
は
一人
(
ひとり
)
々々
(
ひとり
)
に
限
(
かぎ
)
る。
049
これから
姉妹
(
きやうだい
)
三
(
さん
)
人
(
にん
)
は、
050
この
珍山彦
(
うづやまひこ
)
が
及
(
およ
)
ばずながら
実地
(
じつち
)
の
教訓
(
けうくん
)
を
施
(
ほどこ
)
して
上
(
あ
)
げますから、
051
今
(
いま
)
の
間
(
うち
)
に
吾々
(
われわれ
)
四
(
よ
)
人
(
にん
)
は、
052
三
(
さん
)
人
(
にん
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
に
離
(
はな
)
れてハラの
港
(
みなと
)
からアタルへ
着
(
つ
)
き、
053
それから
常世
(
とこよ
)
の
国
(
くに
)
に
廻
(
まは
)
つて、
054
実物
(
じつぶつ
)
教育
(
けういく
)
を
受
(
う
)
け、
055
黄泉島
(
よもつじま
)
を
宣伝
(
せんでん
)
致
(
いた
)
しませう。
056
サアサアお
出
(
い
)
でなさいませ』
057
と
先
(
さき
)
に
立
(
た
)
つて
行
(
ゆ
)
く。
058
三
(
さん
)
人
(
にん
)
は
引
(
ひ
)
かるるやうに
珍山彦
(
うづやまひこ
)
の
後
(
あと
)
を
追
(
お
)
ふ。
059
珍山彦
(
うづやまひこ
)
は
言
(
ことば
)
しづかに、
060
珍山彦
『
皆
(
みな
)
さま、
061
淤縢山津見
(
おどやまづみ
)
や
駒山彦
(
こまやまひこ
)
や
照彦
(
てるひこ
)
のことは
すつかり
忘
(
わす
)
れて
仕舞
(
しま
)
ふのだ。
062
人間
(
にんげん
)
は
背水
(
はいすゐ
)
の
陣
(
ぢん
)
を
張
(
は
)
つて、
063
九死
(
きうし
)
に
一生
(
いつしやう
)
の
困難
(
こんなん
)
に
遭
(
あ
)
はねば、
064
真実
(
ほんと
)
の
誠
(
まこと
)
の
道
(
みち
)
は
開
(
ひら
)
けるものではない。
065
苦労
(
くらう
)
の
花
(
はな
)
の
咲
(
さ
)
いたのは
盛
(
さか
)
りが
長
(
なが
)
い、
066
これから
吾々
(
われわれ
)
と
共
(
とも
)
に
概略
(
あらかた
)
仕事
(
しごと
)
が
出来
(
でき
)
たら、
067
姉妹
(
きやうだい
)
三
(
さん
)
人
(
にん
)
手分
(
てわ
)
けして、
068
ちりちりばらばらになつて
神業
(
しんげふ
)
に
奉仕
(
ほうし
)
するのだ。
069
仮令
(
たとへ
)
一人
(
ひとり
)
になつても
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
が
守
(
まも
)
つて
下
(
くだ
)
さるから、
070
師匠
(
ししやう
)
や
兄弟
(
きやうだい
)
を
力
(
ちから
)
にしたり、
071
杖
(
つゑ
)
につくやうな
事
(
こと
)
では、
072
到底
(
たうてい
)
神界
(
しんかい
)
の
奉仕
(
ほうし
)
は
完全
(
くわんぜん
)
に
出来
(
でき
)
るものでない。
073
サア
行
(
ゆ
)
きませう』
074
と
ハラ
を
指
(
さ
)
して
進
(
すす
)
み
行
(
ゆ
)
く。
075
淤縢山津見
(
おどやまづみ
)
ほか
二人
(
ふたり
)
は、
076
怪
(
あや
)
しき
声
(
こゑ
)
に
惹
(
ひ
)
きつけられ、
077
不知
(
しらず
)
不識
(
しらず
)
の
間
(
あひだ
)
に
谷川
(
たにがは
)
を
遡
(
さかのぼ
)
つて、
078
数
(
すう
)
里
(
り
)
の
山奥
(
やまおく
)
に
迷
(
まよ
)
ひ
入
(
い
)
る。
079
折
(
をり
)
しも
十五夜
(
じふごや
)
の
月
(
つき
)
は
東天
(
とうてん
)
に
輝
(
かがや
)
き
渡
(
わた
)
れども、
080
峨々
(
がが
)
たる
高山
(
かうざん
)
と
高山
(
かうざん
)
との
深
(
ふか
)
き
谷間
(
たにま
)
は、
081
月影
(
つきかげ
)
もささず、
082
夜
(
よ
)
は
追々
(
おひおひ
)
と
更
(
ふ
)
け
行
(
ゆ
)
くばかり、
083
寂
(
さび
)
しさ
刻々
(
こくこく
)
に
迫
(
せま
)
り、
084
三
(
さん
)
人
(
にん
)
は
此処
(
ここ
)
に
云
(
い
)
ひ
合
(
あは
)
したる
如
(
ごと
)
く
一度
(
いちど
)
に
腰
(
こし
)
を
下
(
おろ
)
し、
085
谷川
(
たにがは
)
の
傍
(
かたはら
)
に
端坐
(
たんざ
)
しぬ。
086
三
(
さん
)
人
(
にん
)
の
身体
(
しんたい
)
は
又
(
また
)
もや
強直
(
きやうちよく
)
して、
087
びく
とも
出来
(
でき
)
なくなり、
088
自由
(
じいう
)
の
利
(
き
)
くは
首
(
くび
)
のみ、
089
鬱蒼
(
こんもり
)
とした
樫
(
かし
)
の
木
(
き
)
の
上
(
うへ
)
から
俄
(
にはか
)
に
090
声
『ウヽ』
091
と
大
(
だい
)
なる
唸
(
うな
)
り
声
(
ごゑ
)
聞
(
きこ
)
え
来
(
きた
)
る。
092
淤縢山津見
(
おどやまづみ
)
『ヤア
二人
(
ふたり
)
の
方
(
かた
)
、
093
私
(
わたし
)
は
身体
(
からだ
)
が
一寸
(
ちよつと
)
も
動
(
うご
)
かない、
094
貴方
(
あなた
)
は
如何
(
どう
)
ですか』
095
駒山彦
(
こまやまひこ
)
『へヽヽ
変
(
へん
)
だ。
096
こんな
変梃
(
へんてこ
)
な
事
(
こと
)
はないワ』
097
照彦
(
てるひこ
)
は
雷
(
らい
)
のやうな
声
(
こゑ
)
を
出
(
だ
)
して、
098
照彦
『
此
(
この
)
方
(
はう
)
は
月照彦
(
つきてるひこ
)
の
命
(
みこと
)
であるぞよ』
099
駒山彦
(
こまやまひこ
)
『
何
(
なに
)
、
100
月照彦
(
つきてるひこ
)
だ。
101
馬鹿
(
ばか
)
言
(
い
)
へ、
102
そんな
狂言
(
きやうげん
)
をすな。
103
貴様
(
きさま
)
は
三
(
さん
)
人
(
にん
)
の
娘
(
むすめ
)
さまに
つきてる
彦
(
ひこ
)
だが、
104
今
(
いま
)
は
薩張
(
さつぱり
)
離
(
はな
)
れてる
彦
(
ひこ
)
ぢやないか。
105
こんな
闇
(
くら
)
い
山奥
(
やまおく
)
へ
踏
(
ふ
)
み
迷
(
まよ
)
うて、
106
馬鹿
(
ばか
)
な
真似
(
まね
)
をすると、
107
駒山
(
こまやま
)
が
承知
(
しようち
)
をしないぞ。
108
そんな
気楽
(
きらく
)
な
事
(
こと
)
かい』
109
照彦
(
てるひこ
)
『
ア
ハヽヽヽ、
110
阿呆
(
あ
はう
)
らしいワイ。
111
三五教
(
あ
ななひけふ
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
と
豪
(
えら
)
さうに
言
(
い
)
つて、
112
そこら
辺
(
あ
たり
)
を
大
(
おほ
)
きな
声
(
こゑ
)
を
張
(
は
)
り
あ
げて
歩
(
ある
)
き
廻
(
まは
)
る
馬鹿
(
ばか
)
宣伝使
(
せんでんし
)
、
113
どうぢや、
114
一寸先
(
いつすんさき
)
は
真
(
しん
)
の
暗
(
やみ
)
の、
115
此
(
この
)
谷底
(
たにぞこ
)
に
捨
(
す
)
てられて、
116
ア
フンと
致
(
いた
)
したか。
117
顎
(
あ
ご
)
が
外
(
はづ
)
れたか。
118
あ
まり
呆
(
あ
き
)
れてものが
言
(
い
)
はれぬ。
119
開
(
あ
)
いた
口
(
くち
)
がすぼまらぬぞよ。
120
ア
ハヽヽ
憐
(
あ
は
)
れなものぢや、
121
身魂
(
みたま
)
の
性来
(
しやうらい
)
の
現
(
あ
ら
)
はれに
魂
(
たま
)
を
洗
(
あ
ら
)
へよ、
122
尻
(
しり
)
を
洗
(
あ
ら
)
へよ、
123
足
(
あ
し
)
を
洗
(
あ
ら
)
へよ、
124
明
(
あ
きら
)
かな
神
(
かみ
)
の
教
(
をしへ
)
は
あ
りながら、
125
歩
(
あ
ゆ
)
み
方
(
かた
)
が
違
(
ちが
)
ひはせぬか』
126
照彦
『
ア
ヽ、
127
此奴
(
こいつ
)
は
悪魔
(
あ
くま
)
の
神懸
(
かむがか
)
り
[
※
校定版では「神憑り」
]
になりよつた。
128
あ
られもない
事
(
こと
)
を
口走
(
くちばし
)
りよつて、
129
ほんにほんに
憐
(
あ
は
)
れな
者
(
もの
)
だな。
130
これこれ
淤縢山
(
おどやま
)
さま、
131
貴方
(
あ
なた
)
もぢつとして
居
(
ゐ
)
ずに、
132
此
(
この
)
場合
(
ばあひ
)
あ
つぱれ
審神
(
さには
)
をして
照彦
(
てるひこ
)
に
憑依
(
ひようい
)
して
居
(
ゐ
)
る
悪魔
(
あ
くま
)
を
現
(
あ
ら
)
はしてやつて
下
(
くだ
)
さいな』
133
淤縢山津見
『イヤ、
134
吾々
(
われわれ
)
も、
135
俄
(
にはか
)
に
足腰
(
あ
しこし
)
たたぬ
不自由
(
ふじゆう
)
の
身
(
み
)
、
136
あ
まりのことで
あふん
と
致
(
いた
)
して、
137
荒膽
(
あ
らぎも
)
をとられて
了
(
しま
)
つた。
138
ア
ヽ
耻
(
は
)
づかしい
事
(
こと
)
だワイ』
139
照彦
(
てるひこ
)
『
イ
ヒヽヽヽ、
140
可愍
(
い
ぢら
)
しいものだ。
141
異国
(
い
こく
)
の
果
(
はて
)
で
威張
(
ゐ
ば
)
つた
報
(
むく
)
いで、
142
い
まはの
際
(
きは
)
に
い
ろ
い
ろと
悔
(
くや
)
んだところで、
143
如何
(
い
かん
)
ともする
事
(
こと
)
は
出来
(
でき
)
まい。
144
かやうな
処
(
ところ
)
を
数多
(
あまた
)
の
国人
(
くにびと
)
に
見
(
み
)
られたならば、
145
宣伝使
(
せんでんし
)
の
威厳
(
ゐ
げん
)
は
全
(
まつた
)
く
地
(
ち
)
に
墜
(
お
)
ちるぞ。
146
神
(
かみ
)
が
意見
(
い
けん
)
致
(
いた
)
さうと
思
(
おも
)
つて、
147
い
ろいろ
雑多
(
ざつた
)
に
苦労
(
くらう
)
を
致
(
い
た
)
し、
148
湯津
(
ゆつ
)
石村
(
い
はむら
)
の
此
(
この
)
谷底
(
たにぞこ
)
に
誘
(
い
ざな
)
ひ
来
(
きた
)
りしは
神
(
かみ
)
の
慈悲
(
じひ
)
。
149
宣伝使
(
せんでんし
)
は
只
(
ただ
)
一人
(
ひとり
)
で
天下
(
てんか
)
を
布教
(
ふけう
)
宣伝
(
せんでん
)
すべきものだ。
150
それに
何
(
なん
)
ぞや、
151
物見
(
ものみ
)
遊山
(
ゆさん
)
のやうに、
152
ぞろぞろと
幾人
(
いくにん
)
もつらつて
宣伝
(
せんでん
)
に
歩
(
ある
)
く
屁古垂
(
へこたれ
)
者
(
もの
)
、
153
以後
(
い
ご
)
は
必
(
かなら
)
ず
慎
(
つつ
)
しめよ。
154
神
(
かみ
)
の
言葉
(
ことば
)
に
違背
(
ゐ
はい
)
するな。
155
い
いか、
156
返答
(
へんたふ
)
如何
(
い
か
)
に』
157
駒山彦
(
こまやまひこ
)
『
い
かにも、
158
蛸
(
たこ
)
にも、
159
蟹
(
かに
)
にも、
160
足
(
あし
)
は
四人前
(
よにんまへ
)
、
161
もう
い
い
加減
(
かげん
)
に
下
(
さが
)
つて
下
(
くだ
)
さい、
162
お
鎮
(
しづ
)
まりを
願
(
ねが
)
ひます。
163
天狗
(
てんぐ
)
か
何
(
なん
)
だか
知
(
し
)
らないが、
164
こんな
谷底
(
たにぞこ
)
へ
放
(
ほ
)
り
込
(
こ
)
まれて
意見
(
い
けん
)
も
何
(
なに
)
も
聞
(
き
)
かれるものか、
165
こら
照彦
(
てるひこ
)
の
副
(
ふく
)
守護神
(
しゆごじん
)
よ、
166
何時
(
い
つ
)
までも
愚図
(
ぐづ
)
々々
(
ぐづ
)
致
(
い
た
)
して
居
(
ゐ
)
ると、
167
霊縛
(
れいばく
)
をかけてやらうか』
168
照彦
『
ウ
フヽヽヽ、
169
う
しろを
振
(
ふ
)
り
向
(
む
)
いてよく
考
(
かんが
)
へて
見
(
み
)
よ。
170
う
ろうろと
此
(
この
)
山奥
(
やまおく
)
に
踏
(
ふ
)
み
迷
(
まよ
)
ひ
来
(
きた
)
りしは、
171
全
(
まつた
)
く
汝
(
なんぢ
)
の
身魂
(
みたま
)
の
暗
(
くら
)
きがため、
172
動
(
う
ご
)
きの
取
(
と
)
れぬ
汝
(
なんぢ
)
の
体
(
からだ
)
、
173
う
かうか
致
(
いた
)
すと
足許
(
あしもと
)
から
火
(
ひ
)
が
燃
(
も
)
えて
来
(
く
)
るぞよ。
174
艮
(
う
しとら
)
の
金神
(
こんじん
)
の
教
(
をしへ
)
を
何
(
なん
)
と
心得
(
こころえ
)
て
居
(
を
)
る。
175
牛
(
うし
)
の
糞
(
くそ
)
のやうな
身魂
(
みたま
)
を
致
(
いた
)
して、
176
天下
(
てんか
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
とは
片腹
(
かたはら
)
痛
(
いた
)
い、
177
有為
(
う
ゐ
)
転変
(
てんぺん
)
は
世
(
よ
)
の
習
(
なら
)
ひ、
178
牛
(
うし
)
の
糞
(
くそ
)
でも
天下
(
てんか
)
を
取
(
と
)
る、
179
煎豆
(
いりまめ
)
にも
花
(
はな
)
が
咲
(
さ
)
くと、
180
万一
(
まんいち
)
の
僥倖
(
げうかう
)
を
夢
(
ゆめ
)
みて
迂路
(
う
ろ
)
つき
廻
(
まは
)
る
宣伝使
(
せんでんし
)
、
181
後指
(
う
しろゆび
)
を
指
(
さ
)
されて
居
(
ゐ
)
るのも
気
(
き
)
がつかず、
182
得意
(
とくい
)
になつて
濁
(
にご
)
つた
言霊
(
ことたま
)
の
宣伝歌
(
せんでんか
)
を
歌
(
う
た
)
ふ
狼狽
(
う
ろた
)
へもの、
183
此
(
この
)
上
(
う
へ
)
もなき
迂濶
(
う
くわつ
)
、
184
迂愚
(
う
ぐ
)
、
185
迂散
(
う
さん
)
な
奴
(
やつ
)
ども』
186
駒山彦
(
こまやまひこ
)
『
う
つかりしとると、
187
どんな
目
(
め
)
に
遭
(
あ
)
はされるか
分
(
わか
)
つたものぢやない。
188
これこれ
淤縢山
(
おどやま
)
、
189
俯
(
う
つむ
)
いてばかり
居
(
を
)
らずに、
190
貴方
(
あなた
)
も
天下
(
てんか
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
ぢやないか、
191
何
(
なん
)
とかして
照彦
(
てるひこ
)
の
憑霊
(
ひようれい
)
を
縛
(
しば
)
つて
下
(
くだ
)
さいな』
192
淤縢山津見
『
煩
(
う
るさ
)
くても
仕方
(
しかた
)
がない。
193
これも
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
試
(
こころ
)
みだ。
194
気
(
き
)
を
落
(
お
)
ち
付
(
つ
)
けて
聞
(
き
)
いて
居
(
を
)
れば
大
(
おほい
)
に
得
(
う
)
るところがある。
195
私
(
わたし
)
は
却
(
かへ
)
つてこれが
嬉
(
う
れ
)
しい』
196
照彦
(
てるひこ
)
『
エ
ヘヽヽヽヽ』
197
駒山彦
(
こまやまひこ
)
『ヤア、
198
又
(
また
)
エ
ヘヽヽヽだ。
199
豪
(
え
ら
)
い
事
(
こと
)
になつて
来
(
き
)
た。
200
もう
好
(
え
)
い
加減
(
かげん
)
にお
鎮
(
しづ
)
まりを
願
(
ねが
)
ひませうか、
201
遠慮
(
ゑ
んりよ
)
会釈
(
ゑ
しやく
)
もなしに、
202
吾々
(
われわれ
)
の
小言
(
こごと
)
ばかり
言
(
い
)
つて、
203
得体
(
え
たい
)
の
知
(
し
)
れぬ
神憑
(
かむがか
)
りぢやなあ』
204
照彦
(
てるひこ
)
『
エ
ヘヽヽヽ
閻魔
(
え
んま
)
様
(
さま
)
とは
此
(
この
)
方
(
はう
)
の
事
(
こと
)
ぢやぞ、
205
これから
些
(
ち
)
と、
206
豪
(
え
ら
)
い
目
(
め
)
に
遭
(
あ
)
はしてやらう。
207
遠近
(
ゑ
んきん
)
を
股
(
また
)
にかけて、
208
遠慮
(
ゑ
んりよ
)
会釈
(
ゑ
しやく
)
もなしに
囀
(
さへづ
)
り
居
(
を
)
る
駒山彦
(
こまやまひこ
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
、
209
一
(
ひと
)
つや
二
(
ふた
)
つの
山坂
(
やまさか
)
を
越
(
こ
)
えて、
210
え
らいの、
211
苦
(
くる
)
しいのと、
212
耻
(
はぢ
)
も
知
(
し
)
らずに、
213
よくも
ほざい
たなあ、
214
口
(
くち
)
ばかり
偉
(
え
ら
)
さうに
申
(
まを
)
す
宣伝使
(
せんでんし
)
』
215
駒山彦
(
こまやまひこ
)
『
エ
ヘヽヽヽ
え
ぐい
事
(
こと
)
ばかり
言
(
い
)
ふ
得体
(
え
たい
)
の
分
(
わか
)
らぬ
副
(
ふく
)
守護神
(
しゆごじん
)
だ。
216
もう
結構
(
けつこう
)
です、
217
これで
御
(
ご
)
遠慮
(
ゑ
んりよ
)
申
(
まを
)
しませう。
218
好
(
え
え
)
加減
(
かげん
)
にやめて
下
(
くだ
)
さい。
219
縁起
(
え
んぎ
)
の
悪
(
わる
)
い、
220
此
(
この
)
暗
(
やみ
)
の
晩
(
ばん
)
に
谷底
(
たにぞこ
)
に
坐
(
すわ
)
らせられて、
221
怺
(
た
)
まつたものぢやありやしない、
222
馬鹿
(
ばか
)
々々
(
ばか
)
しい、
223
照彦
(
てるひこ
)
の
奴
(
やつ
)
、
224
もう
好
(
え
え
)
加減
(
かげん
)
に
鎮
(
しづ
)
まつたらどうぢや』
225
照彦
(
てるひこ
)
『オホヽヽヽ、
226
臆病者
(
お
くびやうもの
)
の
二人
(
ふたり
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
。
227
淤縢山津見
(
お
どやまづみ
)
、
228
何
(
なに
)
を
オ
ド
オ
ドと
恐
(
お
そ
)
れて
居
(
を
)
るのか。
229
奥山
(
お
くやま
)
の
谷
(
たに
)
より
深
(
ふか
)
い、
230
道
(
みち
)
を
分
(
わ
)
け
行
(
ゆ
)
く
三五教
(
あななひけふ
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
、
231
負
(
お
)
うた
子
(
こ
)
に
教
(
を
し
)
へられ、
232
浅瀬
(
あさせ
)
を
渡
(
わた
)
る
お
ろか
者
(
もの
)
の、
233
狼心
(
お
ほかみごころ
)
の
鬼
(
お
に
)
と
悪魔
(
あくま
)
の
容物
(
いれもの
)
となつた
お
化
(
ばけ
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
。
234
お
気
(
き
)
の
毒
(
どく
)
でも、
235
蠅毒
(
はひどく
)
でも、
236
猫
(
ねこ
)
入
(
い
)
らずでも、
237
汝
(
なんぢ
)
の
心
(
こころ
)
の
鬼
(
お
に
)
は
容易
(
ようい
)
に
往生
(
わ
うじやう
)
致
(
いた
)
さぬぞよ。
238
恐
(
お
そ
)
るべきは
人
(
ひと
)
の
心
(
こころ
)
の
持方
(
もちかた
)
一
(
ひと
)
つ、
239
往生際
(
わ
うじやうぎわ
)
の
悪
(
わる
)
い
守護神
(
しゆごじん
)
は、
240
神
(
かみ
)
は
綱
(
つな
)
を
切
(
き
)
つて
仕舞
(
しま
)
はうか』
241
駒山彦
(
こまやまひこ
)
『モヽヽヽ
お
いて
呉
(
く
)
れ、
242
大
(
お
ほ
)
きな
声
(
こゑ
)
で
俺
(
お
れ
)
達
(
たち
)
を
脅
(
お
びや
)
かしよつて、
243
そんな
事
(
こと
)
で
怖
(
お
)
ぢつく
俺
(
お
れ
)
ぢやないワイ。
244
を
かしな
声
(
こゑ
)
を
出
(
だ
)
しよつて、
245
人
(
ひと
)
の
欠点
(
あら
)
ばかり
ほじくる
奴
(
やつ
)
は、
246
鬼
(
お
に
)
か
大蛇
(
を
ろち
)
か
狼
(
お
ほかみ
)
の
守護神
(
しゆごじん
)
だ。
247
俺
(
お
れ
)
の
神力
(
しんりき
)
を
見
(
み
)
せてやらうか、
248
お
つ
魂消
(
たまげ
)
て
尾
(
を
)
を
捲
(
ま
)
きよるな。
249
俺
(
お
れ
)
が
奥
(
お
く
)
の
手
(
て
)
を
出
(
だ
)
して
見
(
み
)
せたら、
250
遉
(
さすが
)
の
鬼
(
お
に
)
の
守護神
(
しゆごじん
)
も
尾
(
を
)
をまいて
落
(
お
)
ちるだらう』
251
照彦
(
てるひこ
)
『
オ
ホヽヽヽ
面白
(
お
もしろ
)
い
面白
(
お
もしろ
)
い』
252
(
大正一一・二・一四
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加藤明子
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