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第61巻(子の巻)
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第11巻(戌の巻)
言霊反
凡例
信天翁(二)
総説歌
第1篇 長駆進撃
01 クス野ケ原
〔468〕
02 一目お化
〔469〕
03 死生観
〔470〕
04 梅の花
〔471〕
05 大風呂敷
〔472〕
06 奇の都
〔473〕
07 露の宿
〔474〕
第2篇 意気揚々
08 明志丸
〔475〕
09 虎猫
〔476〕
10 立聞
〔477〕
11 表教
〔478〕
12 松と梅
〔479〕
13 転腹
〔480〕
14 鏡丸
〔481〕
第3篇 言霊解
15 大気津姫の段(一)
〔482〕
16 大気津姫の段(二)
〔483〕
17 大気津姫の段(三)
〔484〕
第4篇 満目荒寥
18 琵琶の湖
〔485〕
19 汐干丸
〔486〕
20 醜の窟
〔487〕
21 俄改心
〔488〕
22 征矢の雨
〔489〕
23 保食神
〔490〕
第5篇 乾坤清明
24 顕国宮
〔491〕
25 巫の舞
〔492〕
26 橘の舞
〔493〕
27 太玉松
〔494〕
28 二夫婦
〔495〕
29 千秋楽
〔496〕
余白歌
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> 第1篇 長駆進撃 > 第6章 奇の都
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第六章
奇
(
くす
)
の
都
(
みやこ
)
〔四七三〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第11巻 霊主体従 戌の巻
篇:
第1篇 長駆進撃
よみ(新仮名遣い):
ちょうくしんげき
章:
第6章 奇の都
よみ(新仮名遣い):
くすのみやこ
通し章番号:
473
口述日:
1922(大正11)年02月28日(旧02月02日)
口述場所:
筆録者:
北村隆光
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1922(大正11)年9月10日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
一行は冬の荒れ野原を進んで行く。クス野ケ原には巨大な長方形の岩があり、その下に巨大な穴があって、そこが大蛇の住処だという。
岩の近くまで来た一同は、神言を奏上し、宣伝歌を歌い始めた。宣伝歌を歌い終わると、大音響が響き、岩が唸り始めた。時公は岩に向かって、許してやるから気の済むまで騒げ、と言うと、大音響はぴたりと止まった。
このとき、岩の下の穴からは紫の煙が立ち上っていた。見れば、岩上には三人の美しい娘が扇を片手に舞を舞っている。それは月・雪・花の三姉妹の宣伝使であった。
月・雪・花の宣伝使は、宣伝の途中このクス野ケ原に大蛇のあることを聞き、大蛇を言向け和そうと宣伝歌を歌ったところ、大蛇は今後は地上には出ないと誓い、今その穴を封印したところである、と語った。
また三姉妹の宣伝使は、この原野に火を放って耕せば、非常に収穫があるでしょう、と語った。東彦はさっそく原野に火をかけた。
宣伝使一行は、鉄彦と時公に、この原野の開墾を命じた。後にここは肥沃な土地に五穀が実り、非常に栄え、クスの都と呼ばれるまでになった。
宣伝使一行は別れを告げ、西へ西へと進んでいった。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2020-08-11 19:32:21
OBC :
rm1106
愛善世界社版:
52頁
八幡書店版:
第2輯 532頁
修補版:
校定版:
52頁
普及版:
21頁
初版:
ページ備考:
001
一行
(
いつかう
)
は
身
(
み
)
を
没
(
ぼつ
)
する
許
(
ばか
)
りの
冬
(
ふゆ
)
の
荒野
(
あれの
)
ケ
原
(
はら
)
を、
002
草
(
くさ
)
を
分
(
わ
)
けつつ
大蛇
(
をろち
)
の
棲処
(
すみか
)
と
覚
(
おぼ
)
しき
処
(
ところ
)
へ
進
(
すす
)
んで
行
(
い
)
つた。
003
此処
(
ここ
)
には
大変
(
たいへん
)
な
大
(
おほ
)
きな
長方形
(
ちやうはうけい
)
の
岩
(
いは
)
ありて、
004
萱
(
かや
)
の
穂
(
ほ
)
を
圧
(
あつ
)
して
高
(
たか
)
く
突出
(
とつしゆつ
)
してゐる。
005
鉄彦
(
かなひこ
)
『
向
(
むか
)
ふに
見
(
み
)
えるあの
岩石
(
がんせき
)
の
下
(
した
)
には
大変
(
たいへん
)
な
大
(
おほ
)
きな
穴
(
あな
)
があつて、
006
その
穴
(
あな
)
に
血腥
(
ちなまぐ
)
さい
膏
(
あぶら
)
の
様
(
やう
)
な
水
(
みづ
)
が
一杯
(
いつぱい
)
に
漂
(
ただよ
)
ひ、
007
竜宮
(
りうぐう
)
まで
通
(
とほ
)
つて
居
(
を
)
るといふ
事
(
こと
)
です。
008
何時
(
いつ
)
も
其
(
その
)
穴
(
あな
)
から
太
(
ふと
)
い
奴
(
やつ
)
が
首
(
くび
)
を
突
(
つ
)
き
出
(
だ
)
して
此
(
この
)
荒野
(
あらの
)
を
通
(
かよ
)
ふ
獅子
(
しし
)
や、
009
虎
(
とら
)
や、
010
狼
(
おほかみ
)
、
011
人間
(
にんげん
)
などを
呑
(
の
)
むのです。
012
此
(
この
)
大蛇
(
をろち
)
の
為
(
た
)
めに
結構
(
けつこう
)
な
原野
(
げんや
)
を
耕
(
たがや
)
す
者
(
もの
)
はなく、
013
草
(
くさ
)
の
生
(
は
)
える
儘
(
まま
)
にしてあるのです。
014
此
(
この
)
大蛇
(
をろち
)
を
言向
(
ことむけ
)
和
(
やは
)
して
草野
(
くさの
)
を
開
(
ひら
)
き
五穀
(
ごこく
)
の
種子
(
たね
)
を
播
(
ま
)
き、
015
都
(
みやこ
)
をつくつたならば、
016
何
(
ど
)
れほど
世界
(
せかい
)
の
者
(
もの
)
が
喜
(
よろこ
)
ぶ
事
(
こと
)
か
知
(
し
)
れますまい』
017
東彦
(
あづまひこ
)
『それは
面白
(
おもしろ
)
い。
018
サア
愈
(
いよいよ
)
此処
(
ここ
)
で
宣伝歌
(
せんでんか
)
を
歌
(
うた
)
ひませう』
019
と
一同
(
いちどう
)
は
岩
(
いは
)
の
近
(
ちか
)
くまで
立寄
(
たちよ
)
つて
神言
(
かみごと
)
を
奏上
(
そうじやう
)
し、
020
口
(
くち
)
を
揃
(
そろ
)
へて
宣伝歌
(
せんでんか
)
を
歌
(
うた
)
ひ
始
(
はじ
)
めた。
021
宣伝歌
(
せんでんか
)
の
終
(
をは
)
ると
共
(
とも
)
に、
022
南北
(
なんぽく
)
百間
(
ひやくけん
)
許
(
ばか
)
り、
023
東西
(
とうざい
)
五六十
(
ごろくじつ
)
間
(
けん
)
許
(
ばか
)
りの
巌
(
いはほ
)
は、
024
強大
(
きやうだい
)
なる
音響
(
おんきやう
)
をたてて
呻
(
うな
)
り
始
(
はじ
)
めた。
025
此
(
この
)
音響
(
おんきやう
)
に
天
(
てん
)
震
(
ふる
)
い
地
(
ち
)
割
(
わ
)
るるかと
許
(
ばか
)
り
疑
(
うたが
)
はれた。
026
時公
(
ときこう
)
、
027
肩
(
かた
)
を
怒
(
いか
)
らし
肱
(
ひぢ
)
を
張
(
は
)
り、
028
時公
(
ときこう
)
『ヤア
岩公
(
いはこう
)
が
吐
(
ほざ
)
き
出
(
だ
)
したぞ。
029
コラ
岩公
(
いはこう
)
、
030
貴様
(
きさま
)
は
何
(
なに
)
も
いは
公
(
こう
)
だと
思
(
おも
)
つたら
中々
(
なかなか
)
能
(
よ
)
う
呻
(
うな
)
りやがる。
031
それ
丈
(
だ
)
け
呻
(
うな
)
る
言霊
(
ことたま
)
があるなら、
032
時
(
とき
)
さまが
許
(
ゆる
)
してやるから
何
(
なん
)
なりと
吐
(
ほざ
)
け』
033
不思議
(
ふしぎ
)
や
時公
(
ときこう
)
の
言葉
(
ことば
)
終
(
をは
)
ると
共
(
とも
)
に、
034
さしもの
大音響
(
だいおんきやう
)
は
ピタリ
と
止
(
と
)
まつた。
035
時公
(
ときこう
)
、
036
得意
(
とくい
)
になり
鼻
(
はな
)
を
ツン
とさせながら、
037
時公
(
ときこう
)
『ヤア、
038
皆
(
みな
)
の
方々
(
かたがた
)
、
039
イヤ
宣伝使
(
せんでんし
)
様
(
さま
)
、
040
時
(
とき
)
さんの
言霊
(
ことたま
)
は、
041
まあざつとした
所
(
ところ
)
で
此
(
この
)
通
(
とほ
)
り、
042
とつときの
力
(
ちから
)
を
出
(
だ
)
さうものなら、
043
こんな
岩
(
いは
)
くらゐ
鼻
(
はな
)
の
先
(
さき
)
で
仮令
(
たとへ
)
百千万
(
ひやくせんまん
)
でも
吹
(
ふ
)
き
散
(
ち
)
らすのですよ。
044
なんと
信仰
(
しんかう
)
の
力
(
ちから
)
は
強
(
つよ
)
いものでせう』
045
東彦
(
あづまひこ
)
『さうだ。
046
信仰
(
しんかう
)
の
力
(
ちから
)
は
山
(
やま
)
をも
動
(
うご
)
かすといふからな。
047
此
(
この
)
位
(
くらゐ
)
の
事
(
こと
)
が
出来
(
でき
)
ないでは
宣伝使
(
せんでんし
)
のお
供
(
とも
)
は
叶
(
かな
)
はない』
048
この
時
(
とき
)
岩穴
(
いはあな
)
より
紫
(
むらさき
)
の
烟
(
けむり
)
、
049
幾丈
(
いくぢやう
)
ともなく
天
(
てん
)
に
向
(
むか
)
つて
シユー
シユーと
音
(
おと
)
をたてて
昇
(
のぼ
)
り
行
(
ゆ
)
く。
050
岩
(
いは
)
の
周囲
(
しうゐ
)
は
紫
(
むらさき
)
の
烟
(
けむり
)
に
包
(
つつ
)
まれて
仕舞
(
しま
)
つた。
051
見
(
み
)
れば
岩上
(
がんじやう
)
には
三
(
さん
)
人
(
にん
)
の
娘
(
むすめ
)
が
立
(
た
)
つて
居
(
ゐ
)
る。
052
三
(
さん
)
人
(
にん
)
の
娘
(
むすめ
)
は
日
(
ひ
)
の
丸
(
まる
)
の
扇
(
あふぎ
)
を
両手
(
りやうて
)
に
持
(
も
)
ち、
053
何事
(
なにごと
)
か
小声
(
こごゑ
)
に
歌
(
うた
)
ひ
乍
(
なが
)
ら
三
(
さん
)
人
(
にん
)
巴
(
ともゑ
)
となつて
岩上
(
がんじやう
)
に
淑
(
しとや
)
かに
舞
(
ま
)
ひ
始
(
はじ
)
めた。
054
梅ケ香姫
(
うめがかひめ
)
は
不思議
(
ふしぎ
)
さうに
首
(
くび
)
を
傾
(
かたむ
)
けて
三
(
さん
)
人
(
にん
)
の
女
(
をんな
)
の
舞
(
まひ
)
を
凝視
(
みつ
)
めて
居
(
ゐ
)
た。
055
時公
(
ときこう
)
『ヤア
大蛇
(
をろち
)
の
奴
(
やつ
)
、
056
うまい
事
(
こと
)
をやりやがる。
057
斯
(
こ
)
んな
優
(
やさ
)
しい
姿
(
すがた
)
で
舞
(
ま
)
ひよると、
058
なんぼ
大蛇
(
をろち
)
でも
可愛
(
かは
)
ゆくなつて
来
(
く
)
る、
059
サアサア、
060
舞
(
ま
)
うたり
舞
(
ま
)
うたり。
061
モシモシ
皆
(
みな
)
さま、
062
女
(
をんな
)
は
魔
(
ま
)
と
謂
(
い
)
ひますから
御
(
ご
)
用心
(
ようじん
)
なさい』
063
東彦
(
あづまひこ
)
『イヤ、
064
我々
(
われわれ
)
は
大丈夫
(
だいぢやうぶ
)
だが
時
(
とき
)
さま、
065
確
(
しつか
)
りしないと
美
(
うつく
)
しい
女
(
をんな
)
だと
思
(
おも
)
つたら
大変
(
たいへん
)
だ。
066
それお
前
(
まへ
)
の
足許
(
あしもと
)
に
大蛇
(
だいじや
)
の
尾
(
を
)
が
見
(
み
)
えて
居
(
を
)
る』
067
時公
(
ときこう
)
は、
068
時公
『エツ』
069
と
言
(
い
)
ひつつ
足許
(
あしもと
)
を
見
(
み
)
て
何処
(
どこ
)
に
何処
(
どこ
)
にと
探
(
さが
)
してゐる。
070
三
(
さん
)
人
(
にん
)
の
姿
(
すがた
)
はパツと
消
(
き
)
えた。
071
時公
(
ときこう
)
は
岩上
(
がんじやう
)
に
再
(
ふたた
)
び
目
(
め
)
を
注
(
そそ
)
ぐと
三
(
さん
)
人
(
にん
)
の
姿
(
すがた
)
は
影
(
かげ
)
も
形
(
かたち
)
も
無
(
な
)
い。
072
時公
(
ときこう
)
『ヤア、
073
又
(
また
)
化
(
ば
)
けやがつた。
074
今度
(
こんど
)
は
何
(
なん
)
だ。
075
オイ
大蛇
(
をろち
)
、
076
所望
(
しよもう
)
だ、
077
一
(
ひと
)
つ
黄泉
(
よもつ
)
比良坂
(
ひらさか
)
の
桃
(
もも
)
の
実
(
み
)
の
舞
(
まひ
)
をやつて
呉
(
く
)
れないか。
078
東西
(
とうざい
)
々々
(
とうざい
)
、
079
只今
(
ただいま
)
岩上
(
がんじやう
)
に
現
(
あらは
)
れまする
太夫
(
たいふ
)
大蛇姫
(
をろちひめ
)
、
080
之
(
これ
)
から
黄泉
(
よもつ
)
比良坂
(
ひらさか
)
の
桃
(
もも
)
の
実
(
み
)
の
舞
(
まひ
)
を
御覧
(
ごらん
)
に
入
(
い
)
れます』
081
東彦
(
あづまひこ
)
『アツハツハヽヽヽヽ』
082
梅ケ香姫
(
うめがかひめ
)
『ホヽヽヽ』
083
斯
(
か
)
く
笑
(
わら
)
ふ
折
(
をり
)
しも、
084
三
(
さん
)
人
(
にん
)
の
娘
(
むすめ
)
は
枯
(
か
)
れたる
萱
(
かや
)
を
分
(
わ
)
け
乍
(
なが
)
らシトシトと
五
(
ご
)
人
(
にん
)
の
前
(
まへ
)
に
現
(
あらは
)
れ
来
(
きた
)
り
両手
(
りやうて
)
をついて、
085
三
(
さん
)
人
(
にん
)
『ヤア、
086
貴方
(
あなた
)
は
三五教
(
あななひけう
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
、
087
お
道
(
みち
)
の
為
(
た
)
め、
088
世人
(
よびと
)
の
為
(
た
)
め、
089
御
(
ご
)
苦労
(
くらう
)
様
(
さま
)
で
御座
(
ござ
)
います』
090
梅ケ香姫
(
うめがかひめ
)
『ヤア、
091
さう
言
(
い
)
ふ
貴女
(
あなた
)
は、
092
ハザマの
国
(
くに
)
の
月
(
つき
)
、
093
雪
(
ゆき
)
、
094
花
(
はな
)
の
三
(
さん
)
人
(
にん
)
のお
娘御
(
むすめご
)
では
御座
(
ござ
)
いませぬか』
095
三
(
さん
)
人
(
にん
)
一度
(
いちど
)
に
梅ケ香姫
(
うめがかひめ
)
の
顔
(
かほ
)
を
見
(
み
)
て、
096
三
(
さん
)
人
(
にん
)
『ヤア、
097
梅ケ香姫
(
うめがかひめ
)
さま、
098
不思議
(
ふしぎ
)
な
所
(
ところ
)
でお
目
(
め
)
にかかりました。
099
之
(
これ
)
も
全
(
まつた
)
く
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
のお
引合
(
ひきあは
)
せ、
100
能
(
よ
)
うマア
無事
(
ぶじ
)
で
御用
(
ごよう
)
をして
居
(
ゐ
)
て
下
(
くだ
)
さいました。
101
お
姉様
(
あねさま
)
の
松代姫
(
まつよひめ
)
様
(
さま
)
、
102
竹野姫
(
たけのひめ
)
様
(
さま
)
は、
103
御
(
お
)
壮健
(
たつしや
)
で
御座
(
ござ
)
いますか』
104
梅ケ香姫
(
うめがかひめ
)
『ハイ、
105
有難
(
ありがた
)
う
御座
(
ござ
)
います。
106
姉妹
(
きやうだい
)
三
(
さん
)
人
(
にん
)
手分
(
てわ
)
けを
致
(
いた
)
しましてお
道
(
みち
)
の
為
(
た
)
め、
107
宣伝使
(
せんでんし
)
になつて
廻
(
まは
)
つて
居
(
を
)
ります』
108
時公
(
ときこう
)
『ヤア、
109
何
(
なん
)
ぢや、
110
薩張
(
さつぱ
)
り
見当
(
けんたう
)
がとれぬ
様
(
やう
)
になつて
来
(
き
)
やがつた。
111
これこれお
岩
(
いは
)
さまの
化
(
ば
)
け
物
(
もの
)
、
112
お
梅
(
うめ
)
さま
何
(
なん
)
の
事
(
こと
)
だ。
113
瞞
(
だま
)
さうと
言
(
い
)
つたつて
此
(
この
)
時
(
とき
)
さんは
瞞
(
だま
)
されないぞ』
114
女
(
をんな
)
四
(
よ
)
人
(
にん
)
一度
(
いちど
)
に、
115
梅、月、雪、花
『オホヽヽヽヽ』
116
男
(
をとこ
)
三
(
さん
)
人
(
にん
)
一度
(
いちど
)
に、
117
東彦、高彦、鉄彦
『ワツハヽヽヽヽ』
118
時公
(
ときこう
)
面
(
つら
)
を
脹
(
ふく
)
らし
手
(
て
)
を
組
(
く
)
み
俯向
(
うつむ
)
いて
思案顔
(
しあんがほ
)
。
119
梅ケ香姫
(
うめがかひめ
)
『
今
(
いま
)
此処
(
ここ
)
に
居
(
ゐ
)
られまする
御
(
お
)
方
(
かた
)
は、
120
東雲別
(
しののめわけの
)
命
(
みこと
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
東彦
(
あづまひこ
)
の
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
、
121
青雲別
(
あをくもわけ
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
高彦
(
たかひこ
)
の
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
で
御座
(
ござ
)
います。
122
又
(
また
)
此方
(
こちら
)
に
居
(
ゐ
)
られる
方
(
かた
)
は
鉄谷村
(
かなたにむら
)
の
酋長
(
しうちやう
)
で
鉄彦
(
かなひこ
)
と
謂
(
い
)
ふ。
123
此処
(
ここ
)
に
居
(
を
)
られる
奴
(
やつこ
)
さまは
鉄彦
(
かなひこ
)
さまの
門番
(
もんばん
)
の
時公
(
ときこう
)
さんで
御座
(
ござ
)
います。
124
一寸
(
ちよつと
)
妾
(
わたし
)
が
紹介
(
せうかい
)
致
(
いた
)
します』
125
秋月姫
(
あきづきひめ
)
『ヤアこれはこれは、
126
存
(
ぞん
)
ぜぬ
事
(
こと
)
とて、
127
失礼
(
しつれい
)
を
致
(
いた
)
しました。
128
貴神
(
あなた
)
様
(
さま
)
が
東彦
(
あづまひこ
)
様
(
さま
)
ですか、
129
まあ
貴神
(
あなた
)
様
(
さま
)
は
高彦
(
たかひこ
)
様
(
さま
)
、
130
何分
(
なにぶん
)
女
(
をんな
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
の
事
(
こと
)
、
131
宜
(
よろ
)
しく
御
(
お
)
引立
(
ひきたて
)
を
願
(
ねが
)
ひます。
132
これはこれは
鉄彦
(
かなひこ
)
様
(
さま
)
、
133
能
(
よ
)
うまあ
来
(
き
)
て
下
(
くだ
)
さいました』
134
時公
(
ときこう
)
『
何
(
なん
)
だ、
135
訳
(
わけ
)
が
分
(
わか
)
らぬ
様
(
やう
)
になつて
来
(
き
)
たワイ。
136
梅姫
(
うめひめ
)
の
奴
(
やつ
)
、
137
あんな
別嬪
(
べつぴん
)
に
門番
(
もんばん
)
だの、
138
奴
(
やつ
)
さんだのと
素破
(
すつぱ
)
ぬきやがつて、
139
非道
(
ひど
)
い
奴
(
やつ
)
だ。
140
チツト
位
(
ぐらゐ
)
気
(
き
)
を
利
(
き
)
かしたつて
宜
(
よ
)
かりさうなものだなあ』
141
高彦
(
たかひこ
)
『ヤア
月
(
つき
)
、
142
雪
(
ゆき
)
、
143
花
(
はな
)
の
三人
(
さんにん
)
様
(
さま
)
にお
尋
(
たづ
)
ね
致
(
いた
)
しまするが、
144
此処
(
ここ
)
は
大蛇
(
をろち
)
の
巣窟
(
さうくつ
)
ではありませぬか』
145
秋月姫
(
あきづきひめ
)
『ハイ
左様
(
さやう
)
で
御座
(
ござ
)
います。
146
二三
(
にさん
)
日
(
にち
)
以前
(
まへ
)
に
不思議
(
ふしぎ
)
にも
姉妹
(
きやうだい
)
三
(
さん
)
人
(
にん
)
は
此
(
この
)
野中
(
のなか
)
で
邂逅
(
めぐりあ
)
ひ
大蛇
(
をろち
)
の
巣窟
(
さうくつ
)
があつて
種々
(
いろいろ
)
の
災
(
わざはひ
)
をすると
言
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
を
聞
(
き
)
きましたので、
147
これも
言向
(
ことむ
)
け
和
(
やは
)
さねば
宣伝使
(
せんでんし
)
の
役
(
やく
)
が
済
(
す
)
まぬと
思
(
おも
)
ひましたから、
148
姉妹
(
きやうだい
)
三
(
さん
)
人
(
にん
)
力
(
ちから
)
を
協
(
あは
)
せ
倶
(
とも
)
に
神言
(
かみごと
)
を
奏上
(
そうじやう
)
し、
149
宣伝歌
(
せんでんか
)
を
謡
(
うた
)
ひ
チク
チクと
迫
(
せま
)
つた
処
(
ところ
)
大蛇
(
をろち
)
は
大
(
おほ
)
きな
姿
(
すがた
)
を
現
(
あらは
)
し
涙
(
なみだ
)
をボロボロと
零
(
こぼ
)
し、
150
今後
(
こんご
)
は
地底
(
ちてい
)
に
潜
(
ひそ
)
んで
決
(
けつ
)
して
此処
(
ここ
)
へは
出
(
で
)
て
来
(
き
)
ませぬからと
誓
(
ちか
)
ひましたので、
151
鎮魂
(
ちんこん
)
を
以
(
もつ
)
て
再
(
ふたた
)
び
出
(
で
)
ない
様
(
やう
)
に
封
(
ふう
)
じ
込
(
こ
)
みました
処
(
ところ
)
で
御座
(
ござ
)
います。
152
此
(
この
)
クスの
原
(
はら
)
や
新玉原
(
あらたまはら
)
は
随分
(
ずゐぶん
)
お
土
(
つち
)
も
肥
(
こ
)
えてゐます。
153
これから
此
(
この
)
原野
(
げんや
)
に
火
(
ひ
)
をかけて
耕作
(
かうさく
)
を
致
(
いた
)
しましたら
沢山
(
たくさん
)
の
収穫
(
しうくわく
)
があがり、
154
数多
(
あまた
)
の
人間
(
にんげん
)
が
喜
(
よろこ
)
ぶ
事
(
こと
)
でせう』
155
東彦
(
あづまひこ
)
『ヤア
貴女
(
あなた
)
に
功名
(
こうみやう
)
を
先
(
さき
)
んじられて
仕舞
(
しま
)
ひました。
156
何
(
なに
)
は
兎
(
と
)
もあれ
結構
(
けつこう
)
な
事
(
こと
)
だ。
157
さあ
此
(
この
)
原野
(
げんや
)
に
火
(
ひ
)
を
放
(
つ
)
けませう』
158
と
火打
(
ひうち
)
を
取
(
と
)
り
出
(
だ
)
し、
159
折
(
をり
)
から
吹
(
ふ
)
き
来
(
く
)
る
風
(
かぜ
)
に
向
(
むか
)
つて
火
(
ひ
)
を
放
(
はな
)
つた。
160
火
(
ひ
)
は
見
(
み
)
る
見
(
み
)
る
四方
(
しはう
)
に
燃
(
も
)
え
拡
(
ひろ
)
がり、
161
さしもに
広
(
ひろ
)
き
荒野原
(
あれのはら
)
は
焼野
(
やけの
)
ケ
原
(
はら
)
となつて
仕舞
(
しま
)
つた。
162
これより
宣伝使
(
せんでんし
)
一同
(
いちどう
)
は、
163
鉄彦
(
かなひこ
)
に
此
(
この
)
原野
(
げんや
)
の
開墾
(
かいこん
)
を
命
(
めい
)
じ、
164
時公
(
ときこう
)
は
喜
(
よろこ
)
んで
鉄彦
(
かなひこ
)
の
命
(
めい
)
に
従
(
したが
)
ひ、
165
開墾
(
かいこん
)
に
従事
(
じうじ
)
し
家屋
(
かをく
)
を
造
(
つく
)
つてこれに
住
(
す
)
んだ。
166
五穀
(
ごこく
)
は
良
(
よ
)
く
実
(
みの
)
り
蔓物
(
つるもの
)
は
豊
(
ゆたか
)
に、
167
遂
(
つひ
)
には
大変
(
たいへん
)
に
繁華
(
はんくわ
)
な
都
(
みやこ
)
が
出来
(
でき
)
た。
168
これをクスの
都
(
みやこ
)
と
謂
(
い
)
ふ。
169
宣伝使
(
せんでんし
)
一行
(
いつかう
)
は
凱歌
(
がいか
)
を
挙
(
あ
)
げ、
170
時公
(
ときこう
)
に
別
(
わか
)
れを
告
(
つ
)
げ、
171
又
(
また
)
もや
宣伝歌
(
せんでんか
)
を
歌
(
うた
)
ひ
乍
(
なが
)
ら、
172
西
(
にし
)
へ
西
(
にし
)
へと
進
(
すす
)
み
行
(
ゆ
)
くのであつた。
173
(
大正一一・二・二八
旧二・二
北村隆光
録)
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