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第11巻(戌の巻)
言霊反
凡例
信天翁(二)
総説歌
第1篇 長駆進撃
01 クス野ケ原
〔468〕
02 一目お化
〔469〕
03 死生観
〔470〕
04 梅の花
〔471〕
05 大風呂敷
〔472〕
06 奇の都
〔473〕
07 露の宿
〔474〕
第2篇 意気揚々
08 明志丸
〔475〕
09 虎猫
〔476〕
10 立聞
〔477〕
11 表教
〔478〕
12 松と梅
〔479〕
13 転腹
〔480〕
14 鏡丸
〔481〕
第3篇 言霊解
15 大気津姫の段(一)
〔482〕
16 大気津姫の段(二)
〔483〕
17 大気津姫の段(三)
〔484〕
第4篇 満目荒寥
18 琵琶の湖
〔485〕
19 汐干丸
〔486〕
20 醜の窟
〔487〕
21 俄改心
〔488〕
22 征矢の雨
〔489〕
23 保食神
〔490〕
第5篇 乾坤清明
24 顕国宮
〔491〕
25 巫の舞
〔492〕
26 橘の舞
〔493〕
27 太玉松
〔494〕
28 二夫婦
〔495〕
29 千秋楽
〔496〕
余白歌
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第11巻
> 第4篇 満目荒寥 > 第20章 醜の窟
<<< 汐干丸
(B)
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第二〇章
醜
(
しこ
)
の
窟
(
いはや
)
〔四八七〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第11巻 霊主体従 戌の巻
篇:
第4篇 満目荒寥
よみ(新仮名遣い):
まんもくこうりょう
章:
第20章 醜の窟
よみ(新仮名遣い):
しこのいわや
通し章番号:
487
口述日:
1922(大正11)年03月03日(旧02月05日)
口述場所:
筆録者:
岩田久太郎
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1922(大正11)年9月10日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
梅ケ香姫は、コーカス山に進んで大気津姫を言向け和す決意を宣伝歌に歌った。
船中では、コーカス山側だった大工の馬公、牛公、鹿公、虎公が、宣伝使たちの共になって一緒にコーカス山に進んで行くことになった。
船が岸に着き、降りて雪深い山道を進んで行く。途中で日が暮れたため、牛公の提案で、近くの岩窟に宿を取ることになった。
牛公の話によると、竹野姫の前にも於縢山津見という宣伝使がやってきたが、やはり大気津姫の部下に捕まって、岩窟の中に閉じ込められてすでに百日以上になる、とのことであった。
牛公は自分がウラル教の目付けであることを口走ってしまう。一同が休んでいる岩窟の外には、ウラル教の捕り手の足音が聞こえてきた。時公はとっさに牛公に当身をくわせて気絶させた。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
[×閉じる]
:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2020-10-31 08:49:15
OBC :
rm1120
愛善世界社版:
192頁
八幡書店版:
第2輯 583頁
修補版:
校定版:
195頁
普及版:
84頁
初版:
ページ備考:
001
梅ケ香姫
(
うめがかひめ
)
は
立上
(
たちあが
)
り、
002
梅ケ香姫
『
四方
(
よも
)
の
山野
(
さんや
)
を
見渡
(
みわた
)
せば
003
雪
(
ゆき
)
の
衣
(
ころも
)
に
包
(
つつ
)
まれて
004
見
(
み
)
るも
清
(
きよ
)
けき
銀世界
(
ぎんせかい
)
005
世界
(
せかい
)
の
曲
(
まが
)
や
塵
(
ちり
)
芥
(
あくた
)
006
蔽
(
おほ
)
ひかくしてしらじらと
007
表面
(
うはべ
)
の
光
(
ひか
)
る
今
(
いま
)
の
世
(
よ
)
は
008
何処
(
どこ
)
も
彼処
(
かしこ
)
も
ゆき
詰
(
つま
)
る
009
青
(
あを
)
きは
海
(
うみ
)
の
浪
(
なみ
)
ばかり
010
青木
(
あをき
)
ケ
原
(
はら
)
に
現
(
あ
)
れませる
011
神
(
かむ
)
伊邪諾
(
いざなぎ
)
の
大神
(
おほかみ
)
や
012
木花姫
(
このはなひめ
)
の
御教
(
みをしへ
)
を
013
照
(
てら
)
し
行
(
ゆ
)
くなる
宣伝使
(
せんでんし
)
014
乗
(
の
)
りの
友船
(
ともぶね
)
人
(
ひと
)
多
(
おほ
)
く
015
皆
(
みな
)
口々
(
くちぐち
)
に
囁
(
ささや
)
きの
016
言
(
こと
)
の
葉
(
は
)
風
(
かぜ
)
に
煽
(
あふ
)
られて
017
心
(
こころ
)
も
曇
(
くも
)
る
胸
(
むね
)
の
闇
(
やみ
)
018
闇夜
(
やみよ
)
を
照
(
てら
)
す
朝日子
(
あさひこ
)
の
019
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
の
命
(
みこと
)
もて
020
曲津
(
まがつ
)
の
猛
(
たけ
)
ぶコーカスの
021
大気津
(
おほげつ
)
姫
(
ひめ
)
のあれませる
022
雪
(
ゆき
)
積
(
つ
)
む
山
(
やま
)
に
向
(
むか
)
ひたる
023
竹野
(
たけの
)
の
姫
(
ひめ
)
は
如何
(
いか
)
にして
024
岩窟
(
いはや
)
の
中
(
なか
)
に
捕
(
とら
)
はれし
025
嗚呼
(
ああ
)
我々
(
われわれ
)
は
千早振
(
ちはやふる
)
026
神
(
かみ
)
の
光
(
ひかり
)
を
身
(
み
)
に
受
(
う
)
けて
027
黒白
(
あやめ
)
も
分
(
わか
)
ぬ
岩窟
(
がんくつ
)
の
028
憂
(
うれひ
)
に
曇
(
くも
)
る
姉
(
あね
)
の
君
(
きみ
)
029
救
(
すく
)
ひまつらで
置
(
お
)
くべきか
030
コーカス
山
(
ざん
)
の
山颪
(
やまおろし
)
031
何
(
なに
)
かあらむや
神
(
かみ
)
の
道
(
みち
)
032
踏
(
ふ
)
み
分
(
わ
)
け
進
(
すす
)
む
我
(
わが
)
一行
(
いつかう
)
033
時
(
とき
)
は
来
(
きた
)
れり
時
(
とき
)
は
今
(
いま
)
034
天
(
あま
)
の
窟戸
(
いはやど
)
押
(
お
)
し
分
(
わ
)
けて
035
コーカス
山
(
ざん
)
に
集
(
あつ
)
まれる
036
百
(
もも
)
の
魔神
(
まがみ
)
を
言向
(
ことむ
)
けむ
037
言向
(
ことむけ
)
和
(
やは
)
す
皇神
(
すめかみ
)
の
038
広
(
ひろ
)
き
心
(
こころ
)
の
神直日
(
かむなほひ
)
039
恵
(
めぐみ
)
の
露
(
つゆ
)
も
大直日
(
おほなほひ
)
040
曲
(
まが
)
の
身魂
(
みたま
)
をスクスクに
041
直日
(
なほひ
)
に
見直
(
みなほ
)
し
聞直
(
ききなほ
)
し
042
宣
(
の
)
り
直
(
なほ
)
させん
宣伝使
(
せんでんし
)
043
千変
(
せんぺん
)
万化
(
ばんくわ
)
の
神界
(
しんかい
)
の
044
神
(
かみ
)
の
御業
(
みわざ
)
を
畏
(
かしこ
)
みて
045
言霊
(
ことたま
)
清
(
きよ
)
き
琵琶
(
びは
)
の
湖
(
うみ
)
046
渡
(
わた
)
りて
進
(
すす
)
む
五人
(
ごにん
)
連
(
づれ
)
047
心
(
こころ
)
竹野
(
たけの
)
の
姫
(
ひめ
)
の
神
(
かみ
)
048
神
(
かみ
)
を
力
(
ちから
)
に
神嘉言
(
かむよごと
)
049
讃美
(
たた
)
へて
待
(
ま
)
てよ
今
(
いま
)
暫
(
しば
)
し
050
暫
(
しば
)
し
隠
(
かく
)
るる
星影
(
ほしかげ
)
も
051
雲
(
くも
)
たち
退
(
の
)
けば
花
(
はな
)
の
空
(
そら
)
052
月
(
つき
)
は
盈
(
み
)
つとも
虧
(
か
)
くるとも
053
虧
(
か
)
けてはならぬ
姉妹
(
おとどひ
)
の
054
月
(
つき
)
雪
(
ゆき
)
花
(
はな
)
の
桃
(
もも
)
の
実
(
み
)
は
055
意富加牟豆美
(
おほかむづみ
)
と
顕
(
あら
)
はれて
056
黄泉戦
(
よもついくさ
)
に
勲
(
いさをし
)
を
057
建
(
た
)
てたる
如
(
ごと
)
く
今一度
(
いまいちど
)
058
天照
(
あまてる
)
神
(
かみ
)
の
御
(
おん
)
前
(
まへ
)
に
059
岩戸
(
いはと
)
開
(
びら
)
きの
神業
(
かむわざ
)
を
060
つかへまつらむそれ
迄
(
まで
)
は
061
虎
(
とら
)
狼
(
おほかみ
)
や
獅子
(
しし
)
熊
(
くま
)
の
062
醜
(
しこ
)
の
刃
(
やいば
)
をかい
潜
(
くぐ
)
り
063
清
(
きよ
)
き
命
(
いのち
)
を
保
(
たも
)
つべく
064
守
(
まも
)
らせ
玉
(
たま
)
へ
金
(
かね
)
の
神
(
かみ
)
065
神
(
かむ
)
須佐之男
(
すさのをの
)
大御神
(
おほみかみ
)
066
国治立
(
くにはるたち
)
の
大御神
(
おほみかみ
)
067
三五教
(
あななひけう
)
を
守
(
まも
)
ります
068
百
(
もも
)
の
神
(
かみ
)
達
(
たち
)
八十
(
やそ
)
の
神
(
かみ
)
069
松竹梅
(
まつたけうめ
)
の
行末
(
ゆくすゑ
)
を
070
厚
(
あつ
)
く
守
(
まも
)
れよ
克
(
よ
)
く
守
(
まも
)
れ
071
下
(
しも
)
国民
(
くにたみ
)
の
血
(
ち
)
を
絞
(
しぼ
)
り
072
膏
(
あぶら
)
を
抜
(
ぬ
)
きて
唯
(
ただ
)
一人
(
ひとり
)
073
奢
(
おご
)
りを
尽
(
つく
)
す
大気津
(
おほげつ
)
姫
(
ひめ
)
の
074
神
(
かみ
)
の
命
(
みこと
)
と
現
(
あら
)
はれし
075
ウラルの
姫
(
ひめ
)
に
附
(
つ
)
き
纏
(
まと
)
ふ
076
八岐
(
やまた
)
大蛇
(
をろち
)
や
醜狐
(
しこぎつね
)
077
醜
(
しこ
)
の
鬼神
(
おにがみ
)
八十
(
やそ
)
曲津
(
まがつ
)
078
神
(
かみ
)
の
御息
(
みいき
)
に
悉
(
ことごと
)
く
079
服
(
まつ
)
ろへまつる
今
(
いま
)
や
時
(
とき
)
080
アヽ
時
(
とき
)
さまよ
八
(
やつ
)
さまよ
081
牛
(
うし
)
馬
(
うま
)
鹿
(
しか
)
虎
(
とら
)
鴨
(
かも
)
さまよ
082
勇
(
いさ
)
み
進
(
すす
)
んでコーカスの
083
山
(
やま
)
吹
(
ふ
)
きまくる
醜
(
しこ
)
の
風
(
かぜ
)
084
皆
(
みな
)
一息
(
ひといき
)
に
吹
(
ふ
)
き
払
(
はら
)
ひ
085
祓
(
はら
)
ひ
清
(
きよ
)
むる
神
(
かみ
)
の
国
(
くに
)
086
神
(
かみ
)
と
国
(
くに
)
との
御
(
おん
)
為
(
ため
)
に
087
力
(
ちから
)
を
合
(
あは
)
せ
身
(
み
)
を
尽
(
つく
)
し
088
鑿
(
のみ
)
や
鉋
(
かんな
)
をふり
捨
(
す
)
てて
089
神
(
かみ
)
の
道
(
みち
)
のみ
歩
(
あゆ
)
みつつ
090
神
(
かみ
)
の
御魂
(
みたま
)
の
惟神
(
かむながら
)
091
霊
(
たま
)
の
幸
(
ちはひ
)
を
受
(
う
)
けよかし
092
進
(
すす
)
めよ
進
(
すす
)
めいざ
進
(
すす
)
め
093
進
(
すす
)
めよ
進
(
すす
)
めいざ
進
(
すす
)
め』
094
と
歌
(
うた
)
ひ
了
(
をは
)
りぬ。
095
時公
(
ときこう
)
『
八
(
やつ
)
さま
鴨
(
かも
)
さまどうだ。
096
最前
(
さいぜん
)
から
随分
(
ずゐぶん
)
噪
(
はしや
)
いで
居
(
ゐ
)
た
大工
(
だいく
)
さまの
牛
(
うし
)
、
097
馬
(
うま
)
、
098
鹿
(
しか
)
、
099
虎
(
とら
)
の
四
(
よ
)
つ
足
(
あし
)
、
100
オツトドツコイ
四
(
よ
)
人
(
にん
)
さまは、
101
どうやら
時
(
とき
)
さまの
宣伝歌
(
せんでんか
)
で
帰順
(
きじゆん
)
したらしいぞ。
102
これも
時
(
とき
)
の
力
(
ちから
)
と
云
(
い
)
ふものだ。
103
貴様
(
きさま
)
はいつも
俺
(
おれ
)
を、
104
時々
(
ときどき
)
脱線
(
だつせん
)
する
男
(
をとこ
)
だから
時
(
とき
)
さまだナンテ、
105
冷
(
ひや
)
かしよつたがどうだ、
106
時々
(
ときどき
)
功名
(
こうみやう
)
を
現
(
あら
)
はすたふ
とき
尊
(
たつ
)
とき
時
(
とき
)
さまだぞ』
107
八公
(
やつこう
)
『
何
(
なに
)
を
偉
(
えら
)
さうに
時
(
とき
)
めきやがる。
108
たふ
とき
も
尊
(
たつ
)
とき
も
同
(
おんな
)
じ
事
(
こつ
)
ちやないか。
109
貴様
(
きさま
)
クス
野ケ原
(
のがはら
)
で
梅ケ香姫
(
うめがかひめ
)
のお
洒落
(
しやれ
)
にかかつた
時
(
とき
)
と、
110
一
(
ひと
)
つ
目
(
め
)
小僧
(
こぞう
)
に
出逢
(
であ
)
つた
時
(
とき
)
の
状態
(
ざま
)
は
何
(
なん
)
だい。
111
知
(
し
)
らぬかと
思
(
おも
)
つて
法螺
(
ほら
)
を
吹
(
ふ
)
いても、
112
チヤンと
此
(
この
)
八
(
やつ
)
さんは
天眼通
(
てんがんつう
)
力
(
りき
)
で
調
(
しら
)
べてあるのだ。
113
八耳
(
やつみみ
)
の
八
(
やつ
)
さまと
云
(
い
)
へば
俺
(
おれ
)
の
事
(
こと
)
だ。
114
この
八
(
やつ
)
さまにはどんな
奴
(
やつ
)
でも
尾
(
を
)
を
捲
(
ま
)
くのだぞ』
115
時公
(
ときこう
)
『
八
(
やつ
)
は
やつ
だが、
116
負惜
(
まけをし
)
みの
強
(
つよ
)
い
奴
(
やつ
)
、
117
悪
(
わる
)
い
奴
(
やつ
)
、
118
法螺
(
ほら
)
を
吹
(
ふ
)
く
奴
(
やつ
)
、
119
困
(
こま
)
つた
奴
(
やつ
)
』
120
八公
(
やつこう
)
『コラコラ
時
(
とき
)
さま、
121
そらまだ
八
(
やつ
)
だない
四
(
よ
)
つだ、
122
八
(
やつ
)
が
四
(
よ
)
ツより
無
(
な
)
いぢやないか』
123
時公
(
ときこう
)
『
八
(
やつ
)
つ、
四
(
よ
)
つと
貴様
(
きさま
)
の
身魂
(
みたま
)
が
四
(
よ
)
つ
足
(
あし
)
だからそれで
合
(
あは
)
して
八
(
やつ
)
ツになるのだ。
124
分
(
わか
)
らぬ
奴
(
やつ
)
だなア』
125
鴨公
(
かもこう
)
『アハヽヽヽ、
126
コイツ
気味
(
きみ
)
が
良
(
よ
)
い。
127
胸
(
むね
)
がスツとした。
128
何
(
なん
)
でもかでも、
129
八
(
やつ
)
かましうする
奴
(
やつ
)
だから、
130
村
(
むら
)
の
者
(
もの
)
が
愛想
(
あいさう
)
を
尽
(
つ
)
かして、
131
厄介者
(
やつかいもの
)
扱
(
あつか
)
ひにしとる
位
(
くらゐ
)
だから、
132
コイツ
余程
(
よつぽど
)
酷
(
ひど
)
い
奴
(
やつ
)
だ』
133
牛公
(
うしこう
)
『オイ、
134
八
(
やつ
)
さま、
135
ギユウ
牛
(
ぎう
)
云
(
い
)
はされて
居
(
を
)
るな』
136
馬公
(
うまこう
)
『
馬鹿
(
ばか
)
野郎
(
やらう
)
、
137
状態
(
ざま
)
見
(
み
)
やがれ』
138
鹿公
(
しかこう
)
『
シカ
られ
通
(
とほ
)
しにして
居
(
ゐ
)
やがる』
139
虎公
(
とらこう
)
『
トラ
れてばつかり
居
(
ゐ
)
やがる、
140
揚
(
あ
)
げ
足
(
あし
)
と
油
(
あぶら
)
を』
141
時公
(
ときこう
)
『
時
(
とき
)
にとつての
御
(
ご
)
愛嬌
(
あいけう
)
だ』
142
かく
雑談
(
ざつだん
)
に
耽
(
ふけ
)
る
折
(
をり
)
しも
船
(
ふね
)
は
岸
(
きし
)
に
着
(
つ
)
いた。
143
船客
(
せんきやく
)
一同
(
いちどう
)
は
船
(
ふね
)
を
見捨
(
みす
)
てて
思
(
おも
)
ひ
思
(
おも
)
ひに
雪
(
ゆき
)
の
道
(
みち
)
を
進
(
すす
)
み
行
(
ゆ
)
く。
144
松代姫
(
まつよひめ
)
の
一行
(
いつかう
)
五
(
ご
)
人
(
にん
)
に
牛
(
うし
)
、
145
馬
(
うま
)
、
146
鹿
(
しか
)
、
147
虎
(
とら
)
を
加
(
くは
)
へて
九
(
く
)
人
(
にん
)
連
(
づ
)
れ、
148
宣伝歌
(
せんでんか
)
を
歌
(
うた
)
ひ
乍
(
なが
)
らコーカス
山
(
ざん
)
目蒐
(
めが
)
け、
149
人
(
ひと
)
の
往来
(
ゆきき
)
の
足跡
(
あしあと
)
をたよりに、
150
谷間
(
たにま
)
を
指
(
さ
)
して
進
(
すす
)
み
行
(
ゆ
)
くのであつた。
151
満山
(
まんざん
)
一面
(
いちめん
)
の
大雪
(
おほゆき
)
にて、
152
彼方
(
あちら
)
の
谷
(
たに
)
にも
此方
(
こちら
)
の
谷
(
たに
)
にも
雪
(
ゆき
)
の
重
(
おも
)
さにポンポンと
樹木
(
じゆもく
)
の
折
(
を
)
れる
音
(
おと
)
頻々
(
ひんぴん
)
と
聞
(
きこ
)
えて
居
(
ゐ
)
る。
153
鴨公
(
かもこう
)
『ヤア、
154
モーそろそろ
日
(
ひ
)
が
暮
(
くれ
)
る
時分
(
じぶん
)
だ。
155
そこら
一面
(
いちめん
)
雪
(
ゆき
)
で
明
(
あか
)
くなりやがつて、
156
昼
(
ひる
)
だと
思
(
おも
)
つて
居
(
ゐ
)
る
間
(
うち
)
に、
157
夜
(
よる
)
になつて
仕舞
(
しま
)
ふのは
雪
(
ゆき
)
の
道
(
みち
)
だ。
158
何処
(
どこ
)
ぞこの
辺
(
へん
)
に
猪小屋
(
ししごや
)
でもあつたら
一服
(
いつぷく
)
して、
159
都合
(
つがふ
)
がよければ
一泊
(
いつぱく
)
やらうかい』
160
八公
(
やつこう
)
『さうだ、
161
俺
(
おれ
)
も
最前
(
さいぜん
)
から
宿屋
(
やどや
)
を
探
(
さが
)
して
居
(
を
)
るのだが、
162
是
(
これ
)
から
一
(
いち
)
里
(
り
)
許
(
ばか
)
り
奥
(
おく
)
へ
行
(
ゆ
)
けば、
163
何百軒
(
なんびやくけん
)
とも
知
(
し
)
れぬ、
164
立派
(
りつぱ
)
な
家
(
いへ
)
が
建
(
た
)
つて
居
(
ゐ
)
るのだから、
165
そこ
迄
(
まで
)
無理
(
むり
)
に
行
(
ゆ
)
く
事
(
こと
)
にしよう』
166
時公
(
ときこう
)
『ヤア、
167
待
(
ま
)
て
待
(
ま
)
て、
168
其処
(
そこ
)
まで
行
(
い
)
つたら
最早
(
もはや
)
敵
(
てき
)
の
縄張
(
なはば
)
りだ。
169
それ
迄
(
まで
)
に
一夜
(
いちや
)
を
明
(
あか
)
し、
170
草臥
(
くたびれ
)
を
休
(
やす
)
めて、
171
明日
(
あす
)
の
元気
(
げんき
)
を
養
(
やしな
)
ふのだ』
172
牛公
(
うしこう
)
『
私
(
わたし
)
は
何時
(
いつ
)
もこの
辺
(
へん
)
を
往来
(
わうらい
)
する
者
(
もの
)
です。
173
山
(
やま
)
の
勝手
(
かつて
)
は
能
(
よ
)
く
知
(
し
)
つて
居
(
ゐ
)
ますが、
174
此
(
この
)
谷
(
たに
)
は
少
(
すこ
)
しく
右
(
みぎ
)
へ
下
(
お
)
りると
岩窟
(
いはあな
)
がある。
175
其処
(
そこ
)
で
一夜
(
いちや
)
を
明
(
あか
)
す
事
(
こと
)
にしませうか』
176
時公
(
ときこう
)
『どうです
松代姫
(
まつよひめ
)
さま』
177
松代姫
(
まつよひめ
)
『ハイ、
178
宜敷
(
よろし
)
からう、
179
今晩
(
こんばん
)
は
久
(
ひさ
)
し
振
(
ぶり
)
で
岩窟
(
いはあな
)
に
逗留
(
とうりう
)
さして
貰
(
もら
)
ひませうか』
180
と
衆議
(
しうぎ
)
一決
(
いつけつ
)
して、
181
牛公
(
うしこう
)
の
案内
(
あんない
)
につれ、
182
小
(
ちひ
)
さい
谷
(
たに
)
を
目
(
め
)
あてに
進
(
すす
)
み
行
(
ゆ
)
く。
183
牛公
(
うしこう
)
の
云
(
い
)
つた
通
(
とほ
)
り
二三十
(
にさんじふ
)
人
(
にん
)
は
気楽
(
きらく
)
に
寝
(
ね
)
られる、
184
立派
(
りつぱ
)
な
岩窟
(
がんくつ
)
があつた。
185
ここに
一行
(
いつかう
)
は
蓑
(
みの
)
を
敷
(
し
)
き、
186
携
(
たづさ
)
へ
持
(
も
)
てる
無花果
(
いちじゆく
)
を
食
(
く
)
つて、
187
逗留
(
とうりう
)
する
事
(
こと
)
になつた。
188
梅ケ香姫
(
うめがかひめ
)
『アヽ
都合
(
つがふ
)
のよい
岩窟
(
いはや
)
ですなア。
189
此
(
この
)
岩窟
(
いはや
)
を
見
(
み
)
るにつけ、
190
想
(
おも
)
ひ
出
(
だ
)
すのは
姉様
(
ねえさん
)
の
事
(
こと
)
、
191
姉様
(
ねえさん
)
が
押
(
お
)
し
込
(
こ
)
められて
居
(
を
)
る
岩窟
(
いはや
)
と
云
(
い
)
つたら、
192
こンなものでせうか』
193
牛公
(
うしこう
)
『
滅相
(
めつさう
)
もない。
194
コンナ
結構
(
けつこう
)
な
処
(
とこ
)
ですか、
195
この
山奥
(
やまおく
)
には
七穴
(
しちあな
)
と
云
(
い
)
つて、
196
七
(
なな
)
ツの
岩穴
(
いはあな
)
がある。
197
さうしてその
穴
(
あな
)
の
中
(
なか
)
は、
198
こンな
平坦
(
へいたん
)
な
座敷
(
ざしき
)
の
様
(
やう
)
な
処
(
とこ
)
ぢやない。
199
私
(
わし
)
も
一
(
いつ
)
ぺん
這入
(
はい
)
つて
見
(
み
)
た
事
(
こと
)
があるが、
200
穴
(
あな
)
の
中
(
なか
)
は
真暗
(
まつくら
)
がりで、
201
底
(
そこ
)
が
深
(
ふか
)
くて、
202
なんでも
竜宮
(
りうぐう
)
迄
(
まで
)
続
(
つづ
)
いて
居
(
ゐ
)
ると
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
で、
203
あんな
処
(
とこ
)
へ
入
(
い
)
れられようものなら、
204
ゆつくり
腰
(
こし
)
を
掛
(
かけ
)
る
事
(
こと
)
も
出来
(
でき
)
やしない。
205
両方
(
りやうはう
)
が
岩壁
(
いはかべ
)
になつて
居
(
ゐ
)
る。
206
そこへ
岩
(
いは
)
の
尖
(
とんがり
)
に
足
(
あし
)
を
掛
(
か
)
けて、
207
細
(
ほそ
)
い
穴
(
あな
)
を
股
(
また
)
を
拡
(
ひろ
)
げて
踏
(
ふ
)
ン
張
(
ば
)
るのだ。
208
一寸
(
ちよつと
)
居眠
(
ゐねむ
)
りでもしたが
最後
(
さいご
)
、
209
底
(
そこ
)
なき
穴
(
あな
)
へ
落込
(
おちこ
)
んで
仕舞
(
しま
)
ふのだ』
210
時公
(
ときこう
)
『そんな
穴
(
あな
)
が
七
(
なな
)
つもあるのか』
211
牛公
(
うしこう
)
『さうです。
212
此
(
この
)
間
(
あひだ
)
も
何
(
な
)
ンでも
淤縢山津見
(
おどやまづみ
)
とか
云
(
い
)
ふ
強
(
つよ
)
い
奴
(
やつ
)
が
出
(
で
)
て
来
(
き
)
て、
213
大気津
(
おほげつ
)
姫
(
ひめ
)
を
帰順
(
きじゆん
)
さすとか
云
(
い
)
つて
登
(
のぼ
)
つて
来
(
き
)
たところ、
214
大勢
(
おほぜい
)
の
者
(
もの
)
が
寄
(
よ
)
つてたかつて
攻
(
せ
)
めかけたら、
215
奴
(
やつこ
)
さま
其
(
その
)
穴
(
あな
)
の
中
(
なか
)
へ
隠
(
かく
)
れよつた。
216
そこで
大勢
(
おほぜい
)
の
者
(
もの
)
が
寄
(
よ
)
つてたかつて
岩蓋
(
いはぶた
)
をピシヤーンとしめて、
217
外
(
そと
)
から
鍵
(
かぎ
)
を
掛
(
か
)
けた。
218
それつきり
百
(
ひやく
)
日
(
にち
)
許
(
ばか
)
りになるのに
何
(
なん
)
の
音沙汰
(
おとさた
)
も
無
(
な
)
い。
219
大方
(
おほかた
)
穴
(
あな
)
の
底
(
そこ
)
へ
落
(
お
)
つこつて
死
(
し
)
んで
仕舞
(
しま
)
つたやらうとの
噂
(
うはさ
)
だ。
220
それから
暫
(
しばら
)
くすると、
221
背
(
せ
)
のスラリと
高
(
たか
)
い
竹野姫
(
たけのひめ
)
とか
云
(
い
)
ふ
小
(
せう
)
ン
便使
(
べんしい
)
が、
222
小
(
せう
)
ン
便歌
(
べんか
)
を
歌
(
うた
)
つてやつて
来
(
き
)
た。
223
そいつは
日
(
ひ
)
が
暮
(
くれ
)
て
泊
(
とま
)
るところがないものだから、
224
自分
(
じぶん
)
から
穴
(
あな
)
の
中
(
なか
)
へコソコソとはいつて
行
(
ゆ
)
きよつた。
225
馬鹿
(
ばか
)
な
奴
(
やつ
)
もありや
有
(
あ
)
るもんだなア』
226
馬公
(
うまこう
)
『オイオイ、
227
さう
口穢
(
くちぎたな
)
く
云
(
い
)
ふな。
228
御
(
ご
)
姉妹
(
きやうだい
)
が
居
(
を
)
られるぞ』
229
牛公
(
うしこう
)
『アヽさうだつたなア。
230
その
竹野姫
(
たけのひめ
)
と
云
(
い
)
ふ
小
(
せう
)
ン
便使
(
べんし
)
様
(
さま
)
が、
231
雪
(
ゆき
)
が
降
(
ふ
)
つてお
困
(
こま
)
りと
見
(
み
)
えて、
232
穴
(
あな
)
の
中
(
なか
)
へコツソリとお
這入
(
はいり
)
遊
(
あそ
)
ばした。
233
さうすると
大気津
(
おほげつ
)
姫
(
ひめ
)
様
(
さま
)
の
手下
(
てした
)
の
悪神
(
あくがみ
)
様
(
さま
)
が、
234
「サア
御
(
お
)
出
(
いで
)
なさつた」と
待
(
ま
)
ち
構
(
かま
)
へて
居
(
ゐ
)
らつしやつて、
235
外
(
そと
)
からピシヤリと
戸
(
と
)
を
御
(
お
)
しめ
遊
(
あそ
)
ばした。
236
竹野姫
(
たけのひめ
)
さまは
中
(
なか
)
から
金切声
(
かなきりごゑ
)
を
立
(
た
)
ててキヤーキヤー
御
(
お
)
ぬかし
遊
(
あそ
)
ばした。
237
外
(
そと
)
からは
悪神
(
わるがみ
)
様
(
さま
)
が「サア
斯
(
か
)
うなつたら
百年目
(
ひやくねんめ
)
だ、
238
底
(
そこ
)
無
(
な
)
き
穴
(
あな
)
へ
落
(
お
)
つこちて、
239
クタバリ
遊
(
あそ
)
ばすか、
240
飢
(
かつ
)
ゑて
御
(
お
)
死
(
し
)
に
遊
(
あそ
)
ばすか、
241
二
(
ふた
)
つに
一
(
ひと
)
つだ。
242
是
(
これ
)
で
吾々
(
われわれ
)
の
御
(
ご
)
心配
(
しんぱい
)
もとれて、
243
マアマア
御
(
ご
)
安心
(
あんしん
)
だ」と
仰有
(
おつしや
)
つて………』
244
馬公
(
うまこう
)
『コラコラ、
245
叮嚀
(
ていねい
)
に
云
(
い
)
ふもよいが、
246
余
(
あんま
)
り
叮嚀
(
ていねい
)
過
(
す
)
ぎるぢやないか。
247
竹野姫
(
たけのひめ
)
様
(
さま
)
の
事
(
こと
)
を
御
(
ご
)
叮嚀
(
ていねい
)
に
御
(
お
)
話
(
はなし
)
してもよいが、
248
悪神
(
あくがみ
)
の
方
(
はう
)
は
好
(
い
)
い
加減
(
かげん
)
に
区別
(
くべつ
)
せぬかい』
249
牛公
(
うしこう
)
『そンな
融通
(
ゆうづう
)
の
利
(
き
)
く
位
(
くらゐ
)
ならカチ
割
(
わ
)
り
大工
(
だいく
)
をやつたり、
250
ウラル
教
(
けう
)
の
目付役
(
めつけやく
)
をしとるものかい』
251
時公
(
ときこう
)
『
牛
(
うし
)
さん
随分
(
ずゐぶん
)
現金
(
げんきん
)
な
男
(
をとこ
)
だなア』
252
牛公
(
うしこう
)
『
長
(
なが
)
い
物
(
もの
)
には
捲
(
ま
)
かれ、
253
強
(
つよ
)
いものには
従
(
したが
)
ひ、
254
甘
(
あま
)
い
汁
(
しる
)
は
吸
(
す
)
へ、
255
苦
(
にが
)
い
汁
(
しる
)
は
擲
(
ほ
)
かせと
云
(
い
)
ふ
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
、
256
人間
(
にんげん
)
は
時世
(
ときよ
)
時節
(
じせつ
)
に
従
(
したが
)
ふのが
徳
(
とく
)
だからなア』
257
時公
(
ときこう
)
『お
前
(
まへ
)
等
(
ら
)
は
今
(
いま
)
初
(
はじ
)
めて
聞
(
き
)
いたが、
258
ウラル
教
(
けう
)
の
目付役
(
めつけやく
)
だと
云
(
い
)
つたね』
259
牛公
(
うしこう
)
『イーエ、
260
ソラ
違
(
ちが
)
ひます。
261
ホンの
一寸
(
ちよつと
)
口
(
くち
)
が
滑
(
すべ
)
つたのでモー
牛上
(
うしあげ
)
ました』
262
時公
(
ときこう
)
『イヤ、
263
さうだなからう』
264
牛公
(
うしこう
)
『
左様
(
さやう
)
々々
(
さやう
)
、
265
さうだなからう』
266
松代姫
(
まつよひめ
)
『
皆
(
みな
)
さま、
267
モウ
寝
(
ね
)
ませうか、
268
サア、
269
是
(
これ
)
から
神言
(
かみごと
)
を
奏上
(
そうじやう
)
して、
270
宣伝歌
(
せんでんか
)
を
一同
(
いちどう
)
揃
(
そろ
)
つて
上
(
あ
)
げませう』
271
時公
(
ときこう
)
『それは
宜敷
(
よろし
)
からう。
272
併
(
しか
)
し
今日
(
けふ
)
は
私
(
わたし
)
に
考
(
かんが
)
へがありますから、
273
籤引
(
くじびき
)
をして
一
(
いち
)
に
当
(
あた
)
つた
者
(
もの
)
から、
274
発声
(
はつせい
)
する
事
(
こと
)
にさして
下
(
くだ
)
さい』
275
松代姫
(
まつよひめ
)
『
時
(
とき
)
さまの
御
(
ご
)
随意
(
ずゐい
)
に……』
276
時公
(
ときこう
)
『サアサア、
277
これから
籤引
(
くじびき
)
だ。
278
御
(
ご
)
婦人
(
ふじん
)
方
(
がた
)
は
免除
(
めんぢよ
)
だ。
279
男
(
をとこ
)
七
(
しち
)
人
(
にん
)
が
籤引
(
くじびき
)
だ。
280
一番
(
いちばん
)
長
(
なが
)
い
奴
(
やつ
)
を
引
(
ひ
)
いた
者
(
もの
)
が
発声
(
はつせい
)
するのだ』
281
と
云
(
い
)
ひながら
草蓑
(
くさみの
)
の
端
(
はし
)
を
千切
(
ちぎ
)
つて
長短
(
ちやうたん
)
をこしらへ、
282
時公
(
ときこう
)
『サア、
283
引
(
ひ
)
いたり
引
(
ひ
)
いたり』
284
と
六
(
ろく
)
人
(
にん
)
の
前
(
まへ
)
へ
突
(
つ
)
き
出
(
だ
)
した。
285
六
(
ろく
)
人
(
にん
)
は
争
(
あらそ
)
つて
是
(
これ
)
を
引
(
ひ
)
いた。
286
時公
(
ときこう
)
『ヤア、
287
牛公
(
うしこう
)
が
一番
(
いちばん
)
長
(
なが
)
いのを
引
(
ひ
)
いたぞ。
288
サア
牛公
(
うしこう
)
、
289
お
前
(
まへ
)
から
宣伝歌
(
せんでんか
)
の
発声
(
はつせい
)
だ。
290
アレ
丈
(
だ
)
け
船
(
ふね
)
の
中
(
なか
)
でも
教
(
をし
)
へてあるなり、
291
途々
(
みちみち
)
聞
(
き
)
かしてあるから
云
(
い
)
へるだらう』
292
牛公
(
うしこう
)
『ハイハイ、
293
確
(
たしか
)
に
云
(
い
)
へます。
294
一遍
(
いつぺん
)
聞
(
き
)
いたら
忘
(
わす
)
れぬと
云
(
い
)
ふ
地獄耳
(
ぢごくみみ
)
だから、
295
何
(
なん
)
でもかでも
皆
(
みな
)
覚
(
おぼ
)
えて
居
(
を
)
る。
296
ソンナラ
皆様
(
みなさま
)
今日
(
けふ
)
は
私
(
わたくし
)
が
導師
(
だうし
)
だ。
297
後
(
あと
)
から
附
(
つ
)
いて
来
(
く
)
るのだよ』
298
と
云
(
い
)
ひ
乍
(
なが
)
ら
牛公
(
うしこう
)
は
宣伝歌
(
せんでんか
)
を
歌
(
うた
)
ひ
始
(
はじ
)
めた。
299
牛公
(
うしこう
)
『
神
(
かみ
)
が
表
(
おもて
)
に
現
(
あら
)
はれて
300
膳
(
ぜん
)
と
茶碗
(
ちやわん
)
を
立
(
た
)
て
別
(
わ
)
ける
301
この
世
(
よ
)
で
甘
(
うま
)
いは
燗酒
(
かんざけ
)
ぢや
302
心持
(
こころもち
)
よき
大御酒
(
おほみき
)
ぢや
303
唯
(
ただ
)
何事
(
なにごと
)
も
人
(
ひと
)
の
世
(
よ
)
は
304
酒
(
さけ
)
と
女
(
をんな
)
が
一
(
イ
)
ツちよい
305
呑
(
の
)
めよ
騒
(
さわ
)
げや
一寸先
(
いつすんさき
)
や
闇
(
やみ
)
よ
306
闇
(
やみ
)
の
後
(
あと
)
には
月
(
つき
)
が
出
(
で
)
る』
307
一同
(
いちどう
)
『アハヽヽヽヽ』
308
鴨公
(
かもこう
)
『コラ
牛公
(
うしこう
)
、
309
貴様
(
きさま
)
は
矢張
(
やつぱり
)
ウラル
教
(
けう
)
だ。
310
一寸先
(
いつすんさき
)
や
闇
(
やみ
)
だなんて
吐
(
ほざ
)
きやがつて、
311
宣
(
の
)
り
直
(
なほ
)
せ。
312
膳
(
ぜん
)
と
椀
(
わん
)
とを
立
(
た
)
て
分
(
わ
)
けるとは
何
(
なん
)
だ。
313
法螺事
(
ほらごと
)
ばつかり
云
(
い
)
ひやがつて』
314
牛公
(
うしこう
)
『
定
(
きま
)
つた
事
(
こと
)
よ、
315
大気津
(
おほげつ
)
姫
(
ひめ
)
の
家来
(
けらい
)
だもの、
316
食
(
く
)
ふ
事
(
こと
)
と、
317
呑
(
の
)
む
事
(
こと
)
と、
318
着
(
き
)
る
事
(
こと
)
より
外
(
ほか
)
には
何
(
なに
)
もないのだ。
319
その
癖
(
くせ
)
食
(
く
)
つたり
呑
(
の
)
んだりする
口
(
くち
)
から
出
(
で
)
るのだもの、
320
食
(
く
)
ふ
事
(
こと
)
や
飲
(
の
)
む
事
(
こと
)
を
云
(
い
)
ふのは
当
(
あた
)
り
前
(
まへ
)
だ。
321
サア、
322
鴨
(
かも
)
とやら、
323
もう
一口
(
ひとくち
)
云
(
い
)
ふなら
云
(
い
)
つて
見
(
み
)
い。
324
徳利
(
とくり
)
の
口
(
くち
)
ぢや、
325
一口
(
ひとくち
)
にやられるぞ。
326
土瓶
(
どびん
)
の
口
(
くち
)
ぢや、
327
二口
(
ふたくち
)
と
云
(
い
)
ふなら
云
(
い
)
つて
見
(
み
)
い』
328
時公
(
ときこう
)
『エー、
329
仕様
(
しやう
)
のない
奴
(
やつ
)
だ。
330
こんな
処
(
ところ
)
で
洒落
(
しやれ
)
どころか、
331
仕様
(
しやう
)
がない、
332
発起人
(
ほつきにん
)
の
俺
(
おれ
)
が
導師
(
だうし
)
になつて、
333
宣伝歌
(
せんでんか
)
を
唱
(
とな
)
へるから、
334
お
前
(
まへ
)
達
(
たち
)
や
随
(
つ
)
いて
来
(
く
)
るのだ』
335
と
云
(
い
)
ひつつ
宣伝歌
(
せんでんか
)
を
歌
(
うた
)
ひ
始
(
はじ
)
めた。
336
一同
(
いちどう
)
は
其
(
その
)
あとに
随
(
つ
)
いて
歌
(
うた
)
つて
居
(
ゐ
)
る。
337
この
時
(
とき
)
幾百
(
いくひやく
)
人
(
にん
)
とも
知
(
し
)
れぬ
足音
(
あしおと
)
が
岩窟
(
いはや
)
の
外
(
そと
)
に
聞
(
きこ
)
えて
来
(
き
)
た。
338
牛公
(
うしこう
)
は
岩戸
(
いはと
)
の
隙間
(
すきま
)
より
一寸
(
ちよつと
)
覗
(
のぞ
)
いて、
339
牛公
(
うしこう
)
『ヤア、
340
御
(
お
)
出
(
いで
)
た、
341
御
(
お
)
出
(
いで
)
た、
342
是
(
こ
)
れ
丈
(
だけ
)
味方
(
みかた
)
があれば
何程
(
なにほど
)
時公
(
ときこう
)
が
強
(
つよ
)
うても
大丈夫
(
だいぢやうぶ
)
だ』
343
と
口走
(
くちばし
)
つた。
344
時公
(
ときこう
)
は、
345
時公
(
ときこう
)
『これは
大変
(
たいへん
)
』
346
と
牛公
(
うしこう
)
に
当
(
あ
)
て
身
(
み
)
を
喰
(
くら
)
はした。
347
牛
(
うし
)
はウンとその
場
(
ば
)
で
倒
(
たふ
)
れた。
348
足音
(
あしおと
)
は
次第
(
しだい
)
々々
(
しだい
)
に
遠
(
とほ
)
ざかり
行
(
ゆ
)
くのであつた。
349
(
大正一一・三・三
旧二・五
岩田久太郎
録)
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