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第66巻(巳の巻)
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第73巻(子の巻)
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第11巻(戌の巻)
言霊反
凡例
信天翁(二)
総説歌
第1篇 長駆進撃
01 クス野ケ原
〔468〕
02 一目お化
〔469〕
03 死生観
〔470〕
04 梅の花
〔471〕
05 大風呂敷
〔472〕
06 奇の都
〔473〕
07 露の宿
〔474〕
第2篇 意気揚々
08 明志丸
〔475〕
09 虎猫
〔476〕
10 立聞
〔477〕
11 表教
〔478〕
12 松と梅
〔479〕
13 転腹
〔480〕
14 鏡丸
〔481〕
第3篇 言霊解
15 大気津姫の段(一)
〔482〕
16 大気津姫の段(二)
〔483〕
17 大気津姫の段(三)
〔484〕
第4篇 満目荒寥
18 琵琶の湖
〔485〕
19 汐干丸
〔486〕
20 醜の窟
〔487〕
21 俄改心
〔488〕
22 征矢の雨
〔489〕
23 保食神
〔490〕
第5篇 乾坤清明
24 顕国宮
〔491〕
25 巫の舞
〔492〕
26 橘の舞
〔493〕
27 太玉松
〔494〕
28 二夫婦
〔495〕
29 千秋楽
〔496〕
余白歌
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第八章
明志丸
(
あかしまる
)
〔四七五〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第11巻 霊主体従 戌の巻
篇:
第2篇 意気揚々
よみ(新仮名遣い):
いきようよう
章:
第8章 明志丸
よみ(新仮名遣い):
あかしまる
通し章番号:
475
口述日:
1922(大正11)年03月01日(旧02月03日)
口述場所:
筆録者:
松村真澄
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1922(大正11)年9月10日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
六人の宣伝使は、それぞれ別れて宣伝に行くこととし、梅ケ香姫は明志の湖のほとりに一人たどり着いた。そして船に乗り込み船中の客となった。
船中には、さいぜんの捕り手・勝公が乗り込んでおり、ウラル彦の命で三五教の宣伝使を捕えようと画策をめぐらしていた。しかし勝公は新玉原の森での失態を、仲間の八公に責められている。
そのうちに、八公は船の隅に梅ケ香姫を見つけた。勝公は名誉挽回とばかりに、梅ケ香姫をなんとか捕えようとしきりに様子を伺っている。
梅ケ香姫は先にすっくと立ち上がり、新玉原での勝公や鴨公の失敗を宣伝歌に歌い始めた。怒った勝公が梅ケ香姫に殴りかかろうとすると、大力の男が勝公の襟首をぐっと掴んで持ち上げてしまった。
この様を見て、八公、鴨公は勝公を見捨てて、大力の男の方についてしまう。この大力の男は時公であった。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2020-08-11 19:39:51
OBC :
rm1108
愛善世界社版:
77頁
八幡書店版:
第2輯 541頁
修補版:
校定版:
77頁
普及版:
32頁
初版:
ページ備考:
001
山川
(
やまかは
)
どよみ
国土
(
くぬち
)
揺
(
ゆ
)
り
002
曲神
(
まがかみ
)
猛
(
たけ
)
ぶ
常暗
(
とこやみ
)
の
003
雲
(
くも
)
を
晴
(
はら
)
して
美
(
うるは
)
しき
004
神代
(
かみよ
)
を
建
(
た
)
てて
黄金
(
わうごん
)
の
005
世界
(
せかい
)
を
造
(
つく
)
り
固
(
かた
)
めむと
006
黄金山
(
わうごんざん
)
に
現
(
あ
)
れませる
007
三五教
(
あななひけう
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
008
東雲別
(
しののめわけ
)
や
青雲
(
あをくも
)
の
009
別
(
わけ
)
の
命
(
みこと
)
はやうやうに
010
百
(
もも
)
の
悩
(
なや
)
みを
忍
(
しの
)
びつつ
011
神
(
かみ
)
の
仕組
(
しぐみ
)
もクス
野原
(
のはら
)
012
男女
(
だんぢよ
)
六人
(
むたり
)
の
神司
(
かむづかさ
)
013
荒野
(
あれの
)
ケ
原
(
はら
)
にめぐり
会
(
あ
)
ひ
014
西
(
にし
)
へ
西
(
にし
)
へと
北
(
きた
)
の
森
(
もり
)
015
一夜
(
ひとよ
)
の
露
(
つゆ
)
を
凌
(
しの
)
ぎつつ
016
神
(
かみ
)
の
教
(
をしへ
)
を
畏
(
かしこ
)
みて
017
道
(
みち
)
も
明志
(
あかし
)
の
湖
(
みづうみ
)
の
018
こなたの
郷
(
さと
)
に
各自
(
めいめい
)
に
019
袖
(
そで
)
を
別
(
わか
)
ちて
進
(
すす
)
み
行
(
ゆ
)
く
020
錦
(
にしき
)
の
木
(
こ
)
の
葉
(
は
)
散
(
ち
)
り
果
(
は
)
てて
021
北風
(
きたかぜ
)
寒
(
さむ
)
き
冬
(
ふゆ
)
の
空
(
そら
)
022
地
(
ち
)
は
一面
(
いちめん
)
の
銀世界
(
ぎんせかい
)
023
行
(
ゆ
)
きつ
倒
(
たふ
)
れつ
雪
(
ゆき
)
の
路
(
みち
)
024
春
(
はる
)
をも
待
(
ま
)
たぬ
梅ケ香
(
うめがか
)
の
025
薫
(
かをり
)
ゆかしき
宣伝使
(
せんでんし
)
026
明志
(
あかし
)
の
湖
(
うみ
)
の
岸
(
きし
)
の
辺
(
べ
)
に
027
独
(
ひと
)
りとぼとぼ
着
(
つ
)
きにける。
028
明志丸
(
あかしまる
)
は
数十
(
すうじふ
)
の
船客
(
せんきやく
)
を
乗
(
の
)
せ、
029
今
(
いま
)
や
出帆
(
しゆつぱん
)
せむとする
時
(
とき
)
であつた。
030
梅ケ香姫
(
うめがかひめ
)
は
急
(
いそ
)
ぎ
船中
(
せんちう
)
の
客
(
きやく
)
となつた。
031
骨
(
ほね
)
を
裂
(
さ
)
く
様
(
やう
)
な
寒風
(
かんぷう
)
はヒユーヒユーと
笛
(
ふえ
)
を
吹
(
ふ
)
きて
海面
(
かいめん
)
を
掃
(
は
)
き
立
(
た
)
てる。
032
浪
(
なみ
)
に
揉
(
も
)
まれて
船
(
ふね
)
の
動揺
(
どうえう
)
は
刻々
(
こくこく
)
に
激
(
はげ
)
しくなつて
来
(
き
)
た。
033
大抵
(
たいてい
)
の
船客
(
せんきやく
)
は
寒
(
さむ
)
さと
怖
(
こは
)
さに
慄
(
ふる
)
ひあがつて、
034
船底
(
ふなぞこ
)
に
小
(
ちひ
)
さくなりてかぢりつく
様
(
やう
)
にして
居
(
ゐ
)
る。
035
中
(
なか
)
に
四五
(
しご
)
人
(
にん
)
の
男
(
をとこ
)
は
腰
(
こし
)
の
飄
(
ひさご
)
の
栓
(
つめ
)
を
抜
(
ぬ
)
いてソロソロ
酒
(
さけ
)
を
飲
(
の
)
み
始
(
はじ
)
めたり。
036
甲
(
かふ
)
(勝公)
『
空
(
そら
)
は
何
(
な
)
ンだか、
037
ドンヨリとして
日天
(
につてん
)
様
(
さま
)
も
碌
(
ろく
)
に
見
(
み
)
えず、
038
白
(
しろ
)
い
雲
(
くも
)
が
一面
(
いちめん
)
に
天井
(
てんぜう
)
を
張
(
は
)
つて
居
(
ゐ
)
る。
039
地
(
ち
)
は
見渡
(
みわた
)
す
限
(
かぎ
)
り
真白
(
まつしろ
)
けだ、
040
青
(
あを
)
いものといつたら、
041
此
(
この
)
明志
(
あかし
)
の
湖
(
うみ
)
と
貴様
(
きさま
)
の
顔
(
かほ
)
丈
(
だけ
)
だ。
042
一
(
ひと
)
つ
一杯
(
いつぱい
)
グツとやつて
元気
(
げんき
)
をつけたらどうだい』
043
乙
(
おつ
)
(八公)
『イヤ
俺
(
おれ
)
は
下戸
(
げこ
)
で………
貴様
(
きさま
)
一人
(
ひとり
)
飲
(
の
)
ンだら
宜
(
よ
)
からう』
044
甲
(
かふ
)
(勝公)
『オイ
八公
(
やつこう
)
、
045
貴様
(
きさま
)
は
飲
(
い
)
ける
口
(
くち
)
だから、
046
お
相手
(
あひて
)
にして
遣
(
や
)
らう』
047
と
杓
(
しやく
)
を
突出
(
つきだ
)
す。
048
八公
(
やつこう
)
は
杓
(
しやく
)
を
受取
(
うけと
)
りて、
049
瓢
(
ひさご
)
より
注
(
つ
)
いでは
飲
(
の
)
み
注
(
つ
)
いでは
呑
(
の
)
む。
050
だんだんと
酔
(
ゑひ
)
が
廻
(
まは
)
り、
051
八公
(
やつこう
)
『オイ
勝公
(
かつこう
)
、
052
貴様
(
きさま
)
は
何時
(
いつ
)
にない
悄気
(
しよげ
)
た
顔
(
かほ
)
しやがつて、
053
チツト
元気
(
げんき
)
を
出
(
だ
)
さぬかい。
054
北
(
きた
)
の
森
(
もり
)
で
宣伝使
(
せんでんし
)
に
縛
(
しば
)
られやがつて、
055
それからと
云
(
い
)
ふものは
大変
(
たいへん
)
に
顔色
(
かほいろ
)
が
悪
(
わる
)
いぞ』
056
勝公
(
かつこう
)
『
喧
(
やかま
)
しい
云
(
い
)
ふない。
057
今
(
いま
)
作戦
(
さくせん
)
計画
(
けいくわく
)
をやつて
居
(
ゐ
)
る
所
(
ところ
)
だ。
058
アーメニヤのウラル
彦
(
ひこ
)
の
神
(
かみ
)
さまから、
059
北
(
きた
)
の
森
(
もり
)
へ
宣伝使
(
せんでんし
)
がやつて
来
(
く
)
るに
違
(
ちがひ
)
ないから、
060
彼奴
(
あいつ
)
を
縛
(
しば
)
つて
連
(
つ
)
れて
来
(
こ
)
いと
云
(
い
)
ふ
命令
(
めいれい
)
を
受
(
う
)
けて
毎日
(
まいにち
)
日日
(
ひにち
)
夜昼
(
よるひる
)
なしに
張
(
は
)
つて
居
(
を
)
つた
処
(
ところ
)
、
061
大袈裟
(
おほげさ
)
にも
一度
(
いちど
)
に
六
(
ろく
)
人
(
にん
)
もやつて
来
(
き
)
やがつたものだから、
062
如何
(
いか
)
に
強力
(
がうりき
)
な
俺
(
おれ
)
も、
063
一寸
(
ちよつと
)
面喰
(
めんくら
)
つたのだ。
064
村
(
むら
)
の
奴
(
やつ
)
は
何奴
(
どいつ
)
も
此奴
(
こいつ
)
も
腰抜
(
こしぬけ
)
計
(
ばか
)
りでビクビクと
震
(
ふる
)
ひあがつて、
065
みんな
逃
(
に
)
げて
了
(
しま
)
ふなり、
066
俺
(
おれ
)
一人
(
ひとり
)
が
何程
(
なんぼ
)
固
(
かた
)
くなつて
気張
(
きば
)
つたところで、
067
どうにも
斯
(
か
)
うにも
仕方
(
しかた
)
がない、
068
是
(
これ
)
からお
断
(
ことわ
)
り
旁
(
かたがた
)
村
(
むら
)
の
奴
(
やつ
)
の
腑甲斐
(
ふがひ
)
ない
事
(
こと
)
を、
069
ウラルの
神
(
かみ
)
に
注進
(
ちゆうしん
)
に
行
(
ゆ
)
くのだ。
070
オイ
貴様
(
きさま
)
等
(
ら
)
も
弱虫
(
よわむし
)
の
中
(
うち
)
だ』
071
八公
(
やつこう
)
『えらさうに
言
(
い
)
ふな、
072
霊縛
(
れいばく
)
とかいふものをかけられやがつて、
073
寒空
(
さむぞら
)
に
一
(
いち
)
日
(
にち
)
一夜
(
ひとよさ
)
も
化石
(
くわせき
)
の
様
(
やう
)
になつて、
074
目
(
め
)
ばつかりギヨロつかせて、
075
見
(
み
)
つともない
涙
(
なみだ
)
をボロボロ
垂
(
たら
)
して
居
(
ゐ
)
たぢやないか、
076
村
(
むら
)
の
奴
(
やつ
)
が
居
(
を
)
らぬと
思
(
おも
)
つて
偉
(
えら
)
さうに
云
(
い
)
つても、
077
此処
(
ここ
)
に
証拠人
(
せうこにん
)
が
居
(
を
)
るぞ、
078
貴様
(
きさま
)
が
村
(
むら
)
の
者
(
もの
)
の
悪
(
わる
)
い
事
(
こと
)
をウラル
彦
(
ひこ
)
に
言
(
い
)
ふのなら
勝手
(
かつて
)
に
言
(
い
)
へ、
079
俺
(
おれ
)
は
村中
(
むらぢう
)
の
総代
(
そうだい
)
で、
080
斯
(
こ
)
うやつて
四
(
よ
)
人
(
にん
)
が
行
(
ゆ
)
くのだ。
081
貴様
(
きさま
)
の
欠点
(
あら
)
を
全部
(
すつかり
)
申上
(
まをしあ
)
げるのだから、
082
無事
(
ぶじ
)
に
帰
(
かへ
)
れると
思
(
おも
)
ふな』
083
勝公
(
かつこう
)
『
馬鹿
(
ばか
)
を
云
(
い
)
ふな、
084
なにほど
強力
(
がうりき
)
無双
(
むさう
)
の
勝
(
かつ
)
ちやまでも、
085
雑兵
(
ざふひやう
)
がガチガチ
慄
(
ぶるひ
)
して
居
(
ゐ
)
るやうな
事
(
こと
)
でどうして
戦闘
(
せんとう
)
が
出来
(
でき
)
るか。
086
オイ
鴨公
(
かもこう
)
、
087
貴様
(
きさま
)
何
(
なん
)
だ、
088
慌
(
あはて
)
て
一番
(
いちばん
)
先
(
さき
)
に
宣伝使
(
せんでんし
)
の
前
(
まへ
)
へ
行
(
ゆ
)
きやがつて
逃腰
(
にげごし
)
をした
時
(
とき
)
の
態
(
ざま
)
つたら、
089
本当
(
ほんたう
)
に
絵
(
ゑ
)
にもない
様
(
やう
)
な
姿
(
すがた
)
だ。
090
マア
喧
(
やか
)
ましう
言
(
い
)
はずと
厭
(
いや
)
でも
応
(
おう
)
でも
酒
(
さけ
)
でも
喰
(
くら
)
つて
元気
(
げんき
)
を
附
(
つ
)
けて、
091
ここで
一
(
ひと
)
つ
和合
(
わがふ
)
をしたらどうだ。
092
見直
(
みなほ
)
し
聞直
(
ききなほ
)
し
詔直
(
のりなほ
)
しだ』
093
八公
(
やつこう
)
『コラ
勝公
(
かつこう
)
、
094
貴様
(
きさま
)
そンな
事
(
こと
)
云
(
い
)
ふとやられるぞ。
095
知
(
し
)
らぬ
間
(
ま
)
に
三五教
(
あななひけう
)
に
魂
(
たましひ
)
を
取
(
と
)
られやがつて、
096
宣伝歌
(
せんでんか
)
の
様
(
やう
)
な
事
(
こと
)
を
吐
(
ほざ
)
くぢやないか。
097
三五教
(
あななひけう
)
と
云
(
い
)
ふ
奴
(
やつ
)
は、
098
月
(
つき
)
が
照
(
て
)
るとか
走
(
はし
)
るとか、
099
雪
(
ゆき
)
が
積
(
つ
)
むとか
積
(
つ
)
まぬとか、
100
海
(
うみ
)
が
覆
(
かへ
)
るとか
潮
(
しほ
)
もない
事
(
こと
)
をほざく
教
(
をしへ
)
だ。
101
伝染
(
うつ
)
り
易
(
やす
)
い
奴
(
やつ
)
だな、
102
全然
(
まるで
)
虱
(
しらみ
)
の
子孫
(
まご
)
みた
様
(
やう
)
な
奴
(
やつ
)
だ』
103
勝公
(
かつこう
)
『ナニ
虱
(
しらみ
)
の
子孫
(
まご
)
だ、
104
馬鹿
(
ばか
)
にするな、
105
虱
(
しらみ
)
の
本家
(
ほんけ
)
本元
(
ほんもと
)
は
勝
(
かつ
)
ちやまだ。
106
一寸
(
ちよつと
)
見
(
み
)
い
俺
(
おれ
)
の
頭
(
あたま
)
を、
107
一寸
(
ちよつと
)
掴
(
つか
)
んでも
一合
(
いちがふ
)
位
(
くらゐ
)
は
養
(
やしな
)
うてあるぞ。
108
虱
(
しらみ
)
と
云
(
い
)
ふ
奴
(
やつ
)
は
生
(
うま
)
れ
故郷
(
こきやう
)
がないと
云
(
い
)
うて
悔
(
くや
)
むと
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
だが、
109
其
(
その
)
生
(
うま
)
れ
故郷
(
こきやう
)
と
云
(
い
)
ふのは
勝
(
かつ
)
ちやんの
頭
(
あたま
)
だ。
110
何奴
(
どいつ
)
も
此奴
(
こいつ
)
も
虱
(
しらみ
)
をわかしやがつて、
111
俺
(
おれ
)
の
頭
(
あたま
)
にわいたと
吐
(
ぬ
)
かさずに、
112
うつつたうつつたと
吐
(
ぬ
)
かすものだから、
113
虱
(
しらみ
)
の
奴
(
やつ
)
生
(
うま
)
れ
故郷
(
こきやう
)
がないと
云
(
い
)
つて
泣
(
な
)
きやがるのだ。
114
虚偽
(
きよぎ
)
の
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
と
云
(
い
)
ふのは
是
(
これ
)
でも
能
(
よ
)
く
分
(
わか
)
る』
115
鴨
(
かも
)
、
116
小
(
ちひ
)
さい
声
(
こゑ
)
で、
117
鴨公
(
かもこう
)
『オイ、
118
今
(
いま
)
あの
隅
(
すみ
)
くらに
蓑笠
(
みのかさ
)
を
着
(
き
)
て
乗
(
の
)
つて
居
(
ゐ
)
る
奴
(
やつ
)
、
119
どうやら
宣伝使
(
れこ
)
らしいぞ』
120
八公
(
やつこう
)
『さうだ
水
(
みづ
)
を
呉
(
く
)
れと
吐
(
ぬ
)
かす
奴
(
やつ
)
だ』
121
鴨公
(
かもこう
)
『
水
(
みづ
)
を
呉
(
く
)
れと
云
(
い
)
つたつて、
122
こんな
塩水
(
しほみづ
)
は
飲
(
の
)
まれたものぢやない。
123
米
(
こめ
)
の
水
(
みづ
)
でも
一杯
(
いつぱい
)
飲
(
の
)
ましてやつて、
124
どうだ
退屈
(
たいくつ
)
ざましに
踊
(
をど
)
らしたら
面白
(
おもしろ
)
からう』
125
勝公
(
かつこう
)
は『ヨー』と
言
(
い
)
ひ
乍
(
なが
)
ら、
126
酔眼
(
すゐがん
)
朦朧
(
まうろう
)
と
女
(
をんな
)
の
方
(
はう
)
を
見詰
(
みつ
)
め、
127
勝公
(
かつこう
)
『ヤア
占
(
し
)
めた、
128
ハア
是
(
これ
)
で
北
(
きた
)
の
森
(
もり
)
の
失敗
(
しつぱい
)
も
償
(
つぐな
)
へると
云
(
い
)
ふものだ。
129
船
(
ふね
)
の
中
(
なか
)
だ、
130
彼奴
(
あいつ
)
が
上陸
(
あが
)
る
時
(
とき
)
に
我々
(
われわれ
)
が
前後
(
ぜんご
)
左右
(
さいう
)
から、
131
手
(
て
)
を
執
(
と
)
り
足
(
あし
)
を
取
(
と
)
り、
132
後手
(
うしろで
)
にふん
縛
(
じば
)
つて、
133
アーメニヤへ
連
(
つ
)
れて
行
(
ゆ
)
く
事
(
こと
)
にしようか。
134
兎
(
と
)
も
角
(
かく
)
酒
(
さけ
)
を
呑
(
の
)
まして
酔
(
よ
)
はすが
一等
(
いつとう
)
だ』
135
鴨公
(
かもこう
)
『そいつは
駄目
(
だめ
)
だぞ。
136
三五教
(
あななひけう
)
といふ
奴
(
やつ
)
は、
137
酒
(
さけ
)
は
飲
(
の
)
むな
喰
(
くら
)
ふなと
吐
(
ぬか
)
す
奴
(
やつ
)
だ』
138
八公
(
やつこう
)
『ソリヤ
表面
(
おもて
)
丈
(
だけ
)
だ、
139
酒
(
さけ
)
喰
(
くら
)
はん
奴
(
やつ
)
が
何処
(
どこ
)
にあろかい、
140
御
(
お
)
神酒
(
みき
)
あがらぬ
神
(
かみ
)
はないと
云
(
い
)
つて
神
(
かみ
)
さまでさへも
酒
(
さけ
)
を
飲
(
の
)
まれるんだ。
141
其
(
その
)
神
(
かみ
)
のお
使
(
つかひ
)
が
酒
(
さけ
)
を
嫌
(
きら
)
ひなんてぬかすのは、
142
そりや
偽善
(
ぎぜん
)
だ。
143
彼奴
(
あいつ
)
の
前
(
まへ
)
で
美味
(
うま
)
さうな
香
(
にほひ
)
をさして、
144
飲
(
の
)
んで
飲
(
の
)
んで
呑
(
の
)
みさがしてやらう。
145
さうすると、
146
宣伝使
(
せんでんし
)
が
舌
(
した
)
をチヨイチヨイ
出
(
だ
)
しよつて
唇
(
くちびる
)
を
甜
(
ねぶ
)
り
出
(
だ
)
す、
147
そこで、
148
オイ
姐
(
ねい
)
さま
一杯
(
いつぱい
)
と
突出
(
つきだ
)
すんだ』
149
鴨公
(
かもこう
)
『
俺
(
おれ
)
は
下戸
(
げこ
)
だから
酒
(
さけ
)
の
様子
(
やうす
)
は
知
(
し
)
らぬが、
150
そんなものかいなア』
151
女
(
をんな
)
宣伝使
(
せんでんし
)
はムツクと
立
(
た
)
つて、
152
宣伝歌
(
せんでんか
)
を
歌
(
うた
)
ひ
始
(
はじ
)
めた。
153
梅ケ香姫
『
神
(
かみ
)
が
表
(
おもて
)
に
現
(
あら
)
はれて
154
常夜
(
とこよ
)
の
暗
(
やみ
)
を
明志丸
(
あかしまる
)
155
救
(
すく
)
ひの
船
(
ふね
)
に
乗
(
の
)
せられて
156
憂瀬
(
うきせ
)
に
沈
(
しづ
)
む
民草
(
たみぐさ
)
を
157
救
(
すく
)
はむ
為
(
ため
)
の
此
(
この
)
首途
(
かどで
)
158
千尋
(
ちひろ
)
の
海
(
うみ
)
の
底
(
そこ
)
よりも
159
深
(
ふか
)
き
恵
(
めぐみ
)
の
神
(
かみ
)
の
恩
(
おん
)
160
教
(
をし
)
へ
導
(
みちび
)
き
北
(
きた
)
の
森
(
もり
)
161
堅
(
かた
)
き
巌
(
いはほ
)
に
腰
(
こし
)
かけて
162
茲
(
ここ
)
に
六人
(
むたり
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
163
息
(
いき
)
を
休
(
やす
)
らふ
折柄
(
をりから
)
に
164
ウラルの
神
(
かみ
)
の
間者
(
まはしもの
)
165
二
(
ふた
)
つの
眼
(
まなこ
)
を
光
(
ひか
)
らせて
166
窺
(
うかが
)
ひ
来
(
きた
)
る
可笑
(
をか
)
しさよ
167
何
(
いづ
)
れの
方
(
かた
)
と
眺
(
なが
)
むれば
168
心
(
こころ
)
許
(
ばか
)
りの
勝
(
かつ
)
さまや
169
蛸
(
たこ
)
の
様
(
やう
)
なる
八
(
やつ
)
さまの
170
足
(
あし
)
もヒヨロヒヨロ
鴨々
(
かもかも
)
と
171
おどして
見
(
み
)
たら
腰
(
こし
)
抜
(
ぬ
)
かし
172
かも
て
呉
(
く
)
れなと
減
(
へ
)
らず
口
(
ぐち
)
173
高彦
(
たかひこ
)
さんの
鎮魂
(
ちんこん
)
に
174
化石
(
くわせき
)
の
様
(
やう
)
に
固
(
かた
)
まつて
175
一夜
(
ひとよ
)
一日
(
ひとひ
)
を
立暮
(
たちくら
)
し
176
妾
(
わらは
)
一同
(
いちどう
)
の
後
(
あと
)
追
(
お
)
うて
177
三五教
(
あななひけう
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
178
取逃
(
とりに
)
がしたる
事由
(
ことわけ
)
を
179
明志
(
あかし
)
の
湖
(
うみ
)
の
荒浪
(
あらなみ
)
に
180
揉
(
も
)
まれて
進
(
すす
)
む
気
(
き
)
の
毒
(
どく
)
さ
181
酒
(
さけ
)
の
機嫌
(
きげん
)
にまぎらして
182
互
(
たがひ
)
に
泡
(
あわ
)
を
吹
(
ふ
)
く
風
(
かぜ
)
に』
183
勝公
(
かつこう
)
『コラコラ
何
(
なに
)
を
吐
(
ぬか
)
しやがるのだ。
184
女
(
をんな
)
の
癖
(
くせ
)
に
勝
(
かつ
)
さまだの、
185
蛸
(
たこ
)
だの、
186
鴨
(
かも
)
だのと、
187
猪口才
(
ちよこざい
)
な
三五教
(
あななひけう
)
の
教
(
をしへ
)
は
善言
(
ぜんげん
)
美詞
(
びし
)
と
吐
(
ぬか
)
して
居
(
ゐ
)
るぢやないか、
188
風
(
かぜ
)
引
(
ひ
)
くも
引
(
ひ
)
かぬも
抛
(
ほ
)
つときやがれ、
189
弱味
(
よわみ
)
に
附込
(
つけこ
)
む
風
(
かぜ
)
の
神
(
かみ
)
さまと
云
(
い
)
つたら
俺
(
おれ
)
の
事
(
こと
)
だぞ。
190
此間
(
こなひだ
)
は
六
(
ろく
)
人
(
にん
)
も
居
(
ゐ
)
やがつたので、
191
見逃
(
みのが
)
しておいたのだ。
192
今日
(
けふ
)
は
幸
(
さいは
)
ひ
貴様
(
きさま
)
一人
(
ひとり
)
だ、
193
焚
(
た
)
いて
喰
(
く
)
はうと、
194
煮
(
に
)
て
喰
(
く
)
はうと、
195
引裂
(
ひきさ
)
かうと
俺
(
おれ
)
の
勝手
(
かつて
)
だ。
196
サア、
197
モ
一
(
ひと
)
つ
ほざ
いて
見
(
み
)
い、
198
ほざいたが
最後
(
さいご
)
貴様
(
きさま
)
の
笠
(
かさ
)
の
台
(
だい
)
は
鱶
(
ふか
)
の
餌食
(
ゑじき
)
だ』
199
梅ケ香姫
(
うめがかひめ
)
『ホヽヽヽヽ、
200
勝
(
かつ
)
さんとやら、
201
末
(
すゑ
)
まで
聞
(
き
)
いて
下
(
くだ
)
さいな』
202
勝公
(
かつこう
)
『エツ、
203
聞
(
き
)
かぬ。
204
此
(
この
)
大勢
(
おほぜい
)
の
中
(
なか
)
で、
205
勝
(
かつ
)
さまが
勝
(
か
)
つたの
負
(
ま
)
けたのと、
206
恥
(
はぢ
)
を
振舞
(
ふれま
)
ひやがつて
男前
(
をとこまへ
)
が
下
(
さ
)
がるワイ。
207
斯
(
こ
)
うなれば
意地
(
いぢ
)
だ、
208
貴様
(
きさま
)
に
勝
(
か
)
つたか
負
(
ま
)
けたか、
209
此処
(
ここ
)
で
一
(
ひと
)
つ、
210
此
(
この
)
湖
(
うみ
)
ぢやないが
明志
(
あかし
)
をして、
211
俺
(
おれ
)
のあかりを
立
(
た
)
てねばならぬのだ。
212
どちらが
善
(
ぜん
)
か
悪
(
あく
)
か、
213
明志
(
あかし
)
暗
(
くら
)
しは
今
(
いま
)
に
分
(
わか
)
るのだ』
214
と
言
(
い
)
ひ
乍
(
なが
)
ら、
215
鉄拳
(
てつけん
)
を
振上
(
ふりあ
)
げて、
216
梅ケ香姫
(
うめがかひめ
)
に
打
(
う
)
つて
掛
(
かか
)
らうとする。
217
此
(
この
)
時
(
とき
)
襟髪
(
えりがみ
)
をグツト
握
(
にぎ
)
つて
二三尺
(
にさんじやく
)
ばかり
猫
(
ねこ
)
をつまむだ
様
(
やう
)
に
提
(
ひつさ
)
げた
男
(
をとこ
)
がある。
218
男
(
をとこ
)
(時公)
『アハヽヽヽ、
219
サア
勝
(
かつ
)
か
負
(
まけ
)
か
明志
(
あかし
)
の
湖
(
うみ
)
だ。
220
此
(
この
)
手
(
て
)
を
離
(
はな
)
したが
最後
(
さいご
)
、
221
勝
(
かつ
)
は
鰹
(
かつを
)
の
餌食
(
ゑじき
)
だ』
222
勝公
(
かつこう
)
『マアマア、
223
待
(
ま
)
て
待
(
ま
)
て、
224
待
(
ま
)
てと
言
(
い
)
つたら、
225
待
(
ま
)
つたが
宜
(
よ
)
からうぞ。
226
一
(
ひと
)
つよりない
生命
(
いのち
)
だ
大切
(
だいじ
)
にせぬかい。
227
俺
(
おれ
)
でも
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
分霊
(
わけみたま
)
だぞ。
228
俺
(
おれ
)
は
貴様
(
きさま
)
に
殺
(
ころ
)
されたつてビクともせぬ
男
(
をとこ
)
だが、
229
貴様
(
きさま
)
が
神
(
かみ
)
のお
宮
(
みや
)
の
此
(
この
)
方
(
はう
)
を
損
(
そこな
)
つたら、
230
貴様
(
きさま
)
に
罰
(
ばち
)
が
当
(
あた
)
るから、
231
殺
(
ころ
)
すなら
殺
(
ころ
)
せ、
232
地獄
(
ぢごく
)
で
仇討
(
かたきうち
)
をしてやるから………』
233
男
(
をとこ
)
(時公)
『
減
(
へ
)
らず
口
(
ぐち
)
を
叩
(
たた
)
くない、
234
一
(
ひと
)
つ、
235
貴様
(
きさま
)
は
酒
(
さけ
)
を
喰
(
くら
)
ひ
酔
(
よ
)
つて
大分
(
だいぶ
)
に
逆上
(
のぼせ
)
て
居
(
ゐ
)
るから、
236
調和
(
てうわ
)
の
取
(
と
)
れる
様
(
やう
)
に、
237
水
(
みづ
)
の
中
(
なか
)
へ
一遍
(
いつぺん
)
ドブ
漬
(
づけ
)
茄子
(
なすび
)
とやつてやらうかい』
238
勝公
(
かつこう
)
『マアマア
待
(
ま
)
つて
下
(
くだ
)
さい、
239
同
(
おな
)
じ
天
(
あめ
)
の
下
(
した
)
のおほみたからだ。
240
四海
(
しかい
)
同胞
(
どうはう
)
だ』
241
男
(
をとこ
)
(時公)
『ここは
魔海
(
まかい
)
死海
(
しかい
)
と
言
(
い
)
うて、
242
ここは
人
(
ひと
)
の
死
(
し
)
ぬ
海
(
うみ
)
だ。
243
此
(
この
)
死海
(
しかい
)
へ
御
(
ご
)
註文
(
ちゆうもん
)
通
(
どほ
)
り
死海
(
しかい
)
ドボンとやつてやらう』
244
勝公
(
かつこう
)
『オイ
八
(
やつ
)
、
245
鴨
(
かも
)
、
246
何故
(
なぜ
)
愚図
(
ぐづ
)
々々
(
ぐづ
)
としてやがるのだ、
247
此奴
(
こいつ
)
の
足
(
あし
)
を
攫
(
さら
)
へぬかい。
248
此奴
(
こいつ
)
を
死海
(
しかい
)
ドボンだ』
249
鴨公
(
かもこう
)
『
態
(
ざま
)
ア
見
(
み
)
やがれ、
250
強
(
つよ
)
い
方
(
はう
)
へ
附
(
つ
)
くのが
当世
(
たうせい
)
だ、
251
貴様
(
きさま
)
が
強
(
つよ
)
いと
思
(
おも
)
うて、
252
俺
(
おれ
)
等
(
ら
)
は
何時
(
いつ
)
も、
253
表向
(
おもてむき
)
はヘイヘイハイハイ
言
(
い
)
うて
居
(
ゐ
)
るものの、
254
後向
(
うしろむき
)
に
舌
(
した
)
を
出
(
だ
)
してゐるのも
知
(
し
)
りやがらずに、
255
よい
気
(
き
)
になつて
村中
(
むらぢう
)
で
暴
(
あば
)
れ
廻
(
まは
)
した
其
(
その
)
報
(
むく
)
いだ。
256
天道
(
てんだう
)
さまは
正直
(
しやうぢき
)
だ、
257
貴様
(
きさま
)
がドブンとやられたら、
258
北
(
きた
)
の
村
(
むら
)
は
餅
(
もち
)
搗
(
つ
)
いて
祝
(
いは
)
ふぞい』
259
勝公
(
かつこう
)
『
人
(
ひと
)
の
難儀
(
なんぎ
)
を
見
(
み
)
て、
260
見殺
(
みごろ
)
しにするのか』
261
八公
(
やつこう
)
『
見殺
(
みごろ
)
しも
糞
(
くそ
)
もあつたものかい、
262
………もしもし、
263
何処
(
どこ
)
の
何方
(
どなた
)
か
知
(
し
)
りませぬが、
264
さう
何時
(
いつ
)
までも
提
(
さ
)
げては、
265
お
手
(
て
)
が
倦
(
だる
)
いでせうから、
266
今
(
いま
)
の
死海
(
しかい
)
ドボンとやらをやつて
下
(
くだ
)
さい』
267
勝公
(
かつこう
)
『コラ
貴様
(
きさま
)
までが
相槌
(
あひづち
)
打
(
う
)
ちやがつて、
268
友達
(
ともだち
)
甲斐
(
かひ
)
のない
奴
(
やつ
)
だ』
269
男
(
をとこ
)
(時公)
『アハヽヽヽ、
270
弱
(
よわ
)
い
奴
(
やつ
)
だ、
271
そんなら
一寸
(
ちよつと
)
また
後
(
あと
)
の
慰
(
なぐさ
)
みに
見合
(
みあは
)
しておかうかい』
272
勝公
(
かつこう
)
『あとは
後
(
あと
)
、
273
今
(
いま
)
は
今
(
いま
)
、
274
一寸先
(
いつすんさき
)
や
暗
(
やみ
)
の
夜
(
よ
)
、
275
暗
(
やみ
)
の
後
(
あと
)
には
月
(
つき
)
が
出
(
で
)
る』
276
八公
(
やつこう
)
『
月
(
つき
)
は
月
(
つき
)
だが
運
(
うん
)
の
つき
だ、
277
俺
(
おれ
)
も
貴様
(
きさま
)
に
愛想
(
あいそ
)
が
つき
た』
278
一人
(
ひとり
)
の
男
(
をとこ
)
は
勝公
(
かつこう
)
をソロリと
船
(
ふね
)
の
中
(
なか
)
に
下
(
おろ
)
してやつた。
279
勝公
(
かつこう
)
『ヤ、
280
有難
(
ありがた
)
う
御座
(
ござ
)
いました、
281
お
蔭
(
かげ
)
で
生命
(
いのち
)
が
助
(
たす
)
かりました』
282
男
(
をとこ
)
(時公)
『ヤア、
283
暫
(
しばら
)
くお
預
(
あづ
)
けだ』
284
八公
(
やつこう
)
『まるで
狆
(
ちん
)
みたいに
言
(
い
)
はれてけつかる』
285
男
(
をとこ
)
(時公)
『ヤア、
286
これはこれは
梅ケ香姫
(
うめがかひめ
)
様
(
さま
)
、
287
不思議
(
ふしぎ
)
な
所
(
ところ
)
でお
目
(
め
)
にかかりました。
288
皆
(
みな
)
の
方
(
かた
)
はどうなさいました』
289
梅ケ香姫
(
うめがかひめ
)
『ヤ、
290
あなたは
時
(
とき
)
さまであつたか』
291
(
大正一一・三・一
旧二・三
松村真澄
録)
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