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第八章 明志丸(あかしまる)〔四七五〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第11巻 霊主体従 戌の巻 篇:第2篇 意気揚々 よみ(新仮名遣い):いきようよう
章:第8章 明志丸 よみ(新仮名遣い):あかしまる 通し章番号:475
口述日:1922(大正11)年03月01日(旧02月03日) 口述場所: 筆録者:松村真澄 校正日: 校正場所: 初版発行日:1922(大正11)年9月10日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]
六人の宣伝使は、それぞれ別れて宣伝に行くこととし、梅ケ香姫は明志の湖のほとりに一人たどり着いた。そして船に乗り込み船中の客となった。
船中には、さいぜんの捕り手・勝公が乗り込んでおり、ウラル彦の命で三五教の宣伝使を捕えようと画策をめぐらしていた。しかし勝公は新玉原の森での失態を、仲間の八公に責められている。
そのうちに、八公は船の隅に梅ケ香姫を見つけた。勝公は名誉挽回とばかりに、梅ケ香姫をなんとか捕えようとしきりに様子を伺っている。
梅ケ香姫は先にすっくと立ち上がり、新玉原での勝公や鴨公の失敗を宣伝歌に歌い始めた。怒った勝公が梅ケ香姫に殴りかかろうとすると、大力の男が勝公の襟首をぐっと掴んで持ち上げてしまった。
この様を見て、八公、鴨公は勝公を見捨てて、大力の男の方についてしまう。この大力の男は時公であった。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる] 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2020-08-11 19:39:51 OBC :rm1108
愛善世界社版:77頁 八幡書店版:第2輯 541頁 修補版: 校定版:77頁 普及版:32頁 初版: ページ備考:
001山川(やまかは)どよみ国土(くぬち)()
002曲神(まがかみ)(たけ)常暗(とこやみ)
003(くも)(はら)して(うるは)しき
004神代(かみよ)()てて黄金(わうごん)
005世界(せかい)(つく)(かた)めむと
006黄金山(わうごんざん)()れませる
007三五教(あななひけう)宣伝使(せんでんし)
008東雲別(しののめわけ)青雲(あをくも)
009(わけ)(みこと)はやうやうに
010(もも)(なや)みを(しの)びつつ
011(かみ)仕組(しぐみ)もクス野原(のはら)
012男女(だんぢよ)六人(むたり)神司(かむづかさ)
013荒野(あれの)(はら)にめぐり()
014西(にし)西(にし)へと(きた)(もり)
015一夜(ひとよ)(つゆ)(しの)ぎつつ
016(かみ)(をしへ)(かしこ)みて
017(みち)明志(あかし)(みづうみ)
018こなたの(さと)各自(めいめい)
019(そで)(わか)ちて(すす)()
020(にしき)()()()()てて
021北風(きたかぜ)(さむ)(ふゆ)(そら)
022()一面(いちめん)銀世界(ぎんせかい)
023()きつ(たふ)れつ(ゆき)(みち)
024(はる)をも()たぬ梅ケ香(うめがか)
025(かをり)ゆかしき宣伝使(せんでんし)
026明志(あかし)(うみ)(きし)()
027(ひと)りとぼとぼ()きにける。
028 明志丸(あかしまる)数十(すうじふ)船客(せんきやく)()せ、029(いま)出帆(しゆつぱん)せむとする(とき)であつた。030梅ケ香姫(うめがかひめ)(いそ)船中(せんちう)(きやく)となつた。031(ほね)()(やう)寒風(かんぷう)はヒユーヒユーと(ふえ)()きて海面(かいめん)()()てる。032(なみ)()まれて(ふね)動揺(どうえう)刻々(こくこく)(はげ)しくなつて()た。033大抵(たいてい)船客(せんきやく)(さむ)さと(こは)さに(ふる)ひあがつて、034船底(ふなぞこ)(ちひ)さくなりてかぢりつく(やう)にして()る。035(なか)四五(しご)(にん)(をとこ)(こし)(ひさご)(つめ)()いてソロソロ(さけ)()(はじ)めたり。
036(かふ)(勝公)(そら)()ンだか、037ドンヨリとして日天(につてん)(さま)(ろく)()えず、038(しろ)(くも)一面(いちめん)天井(てんぜう)()つて()る。039()見渡(みわた)(かぎ)真白(まつしろ)けだ、040(あを)いものといつたら、041(この)明志(あかし)(うみ)貴様(きさま)(かほ)(だけ)だ。042(ひと)一杯(いつぱい)グツとやつて元気(げんき)をつけたらどうだい』
043(おつ)(八公)『イヤ(おれ)下戸(げこ)で………貴様(きさま)一人(ひとり)()ンだら()からう』
044(かふ)(勝公)『オイ八公(やつこう)045貴様(きさま)()ける(くち)だから、046相手(あひて)にして()らう』
047(しやく)突出(つきだ)す。048八公(やつこう)(しやく)受取(うけと)りて、049(ひさご)より()いでは()()いでは()む。050だんだんと(ゑひ)(まは)り、
051八公(やつこう)『オイ勝公(かつこう)052貴様(きさま)何時(いつ)にない悄気(しよげ)(かほ)しやがつて、053チツト元気(げんき)()さぬかい。054(きた)(もり)宣伝使(せんでんし)(しば)られやがつて、055それからと()ふものは大変(たいへん)顔色(かほいろ)(わる)いぞ』
056勝公(かつこう)(やかま)しい()ふない。057(いま)作戦(さくせん)計画(けいくわく)をやつて()(ところ)だ。058アーメニヤのウラル(ひこ)(かみ)さまから、059(きた)(もり)宣伝使(せんでんし)がやつて()るに(ちがひ)ないから、060彼奴(あいつ)(しば)つて()れて()いと()命令(めいれい)()けて毎日(まいにち)日日(ひにち)夜昼(よるひる)なしに()つて()つた(ところ)061大袈裟(おほげさ)にも一度(いちど)(ろく)(にん)もやつて()やがつたものだから、062如何(いか)強力(がうりき)(おれ)も、063一寸(ちよつと)面喰(めんくら)つたのだ。064(むら)(やつ)何奴(どいつ)此奴(こいつ)腰抜(こしぬけ)(ばか)りでビクビクと(ふる)ひあがつて、065みんな()げて(しま)ふなり、066(おれ)一人(ひとり)何程(なんぼ)(かた)くなつて気張(きば)つたところで、067どうにも()うにも仕方(しかた)がない、068(これ)からお(ことわ)(かたがた)(むら)(やつ)腑甲斐(ふがひ)ない(こと)を、069ウラルの(かみ)注進(ちゆうしん)()くのだ。070オイ貴様(きさま)()弱虫(よわむし)(うち)だ』
071八公(やつこう)『えらさうに()ふな、072霊縛(れいばく)とかいふものをかけられやがつて、073寒空(さむぞら)(いち)(にち)一夜(ひとよさ)化石(くわせき)(やう)になつて、074()ばつかりギヨロつかせて、075()つともない(なみだ)をボロボロ(たら)して()たぢやないか、076(むら)(やつ)()らぬと(おも)つて(えら)さうに()つても、077此処(ここ)証拠人(せうこにん)()るぞ、078貴様(きさま)(むら)(もの)(わる)(こと)をウラル(ひこ)()ふのなら勝手(かつて)()へ、079(おれ)村中(むらぢう)総代(そうだい)で、080()うやつて()(にん)()くのだ。081貴様(きさま)欠点(あら)全部(すつかり)申上(まをしあ)げるのだから、082無事(ぶじ)(かへ)れると(おも)ふな』
083勝公(かつこう)馬鹿(ばか)()ふな、084なにほど強力(がうりき)無双(むさう)(かつ)ちやまでも、085雑兵(ざふひやう)がガチガチ(ぶるひ)して()るやうな(こと)でどうして戦闘(せんとう)出来(でき)るか。086オイ鴨公(かもこう)087貴様(きさま)(なん)だ、088(あはて)一番(いちばん)(さき)宣伝使(せんでんし)(まへ)()きやがつて逃腰(にげごし)をした(とき)(ざま)つたら、089本当(ほんたう)()にもない(やう)姿(すがた)だ。090マア(やか)ましう()はずと(いや)でも(おう)でも(さけ)でも(くら)つて元気(げんき)()けて、091ここで(ひと)和合(わがふ)をしたらどうだ。092見直(みなほ)聞直(ききなほ)詔直(のりなほ)しだ』
093八公(やつこう)『コラ勝公(かつこう)094貴様(きさま)そンな(こと)()ふとやられるぞ。095()らぬ()三五教(あななひけう)(たましひ)()られやがつて、096宣伝歌(せんでんか)(やう)(こと)(ほざ)くぢやないか。097三五教(あななひけう)()(やつ)は、098(つき)()るとか(はし)るとか、099(ゆき)()むとか()まぬとか、100(うみ)(かへ)るとか(しほ)もない(こと)をほざく(をしへ)だ。101伝染(うつ)(やす)(やつ)だな、102全然(まるで)(しらみ)子孫(まご)みた(やう)(やつ)だ』
103勝公(かつこう)『ナニ(しらみ)子孫(まご)だ、104馬鹿(ばか)にするな、105(しらみ)本家(ほんけ)本元(ほんもと)(かつ)ちやまだ。106一寸(ちよつと)()(おれ)(あたま)を、107一寸(ちよつと)(つか)んでも一合(いちがふ)(くらゐ)(やしな)うてあるぞ。108(しらみ)()(やつ)(うま)故郷(こきやう)がないと()うて(くや)むと()(こと)だが、109(その)(うま)故郷(こきやう)()ふのは(かつ)ちやんの(あたま)だ。110何奴(どいつ)此奴(こいつ)(しらみ)をわかしやがつて、111(おれ)(あたま)にわいたと()かさずに、112うつつたうつつたと()かすものだから、113(しらみ)(やつ)(うま)故郷(こきやう)がないと()つて()きやがるのだ。114虚偽(きよぎ)()(なか)()ふのは(これ)でも()(わか)る』
115 (かも)116(ちひ)さい(こゑ)で、
117鴨公(かもこう)『オイ、118(いま)あの(すみ)くらに蓑笠(みのかさ)()()つて()(やつ)119どうやら宣伝使(れこ)らしいぞ』
120八公(やつこう)『さうだ(みづ)()れと()かす(やつ)だ』
121鴨公(かもこう)(みづ)()れと()つたつて、122こんな塩水(しほみづ)()まれたものぢやない。123(こめ)(みづ)でも一杯(いつぱい)()ましてやつて、124どうだ退屈(たいくつ)ざましに(をど)らしたら面白(おもしろ)からう』
125 勝公(かつこう)は『ヨー』と()(なが)ら、126酔眼(すゐがん)朦朧(まうろう)(をんな)(はう)見詰(みつ)め、
127勝公(かつこう)『ヤア()めた、128ハア(これ)(きた)(もり)失敗(しつぱい)(つぐな)へると()ふものだ。129(ふね)(なか)だ、130彼奴(あいつ)上陸(あが)(とき)我々(われわれ)前後(ぜんご)左右(さいう)から、131()()(あし)()り、132後手(うしろで)にふん(じば)つて、133アーメニヤへ()れて()(こと)にしようか。134()(かく)(さけ)()まして()はすが一等(いつとう)だ』
135鴨公(かもこう)『そいつは駄目(だめ)だぞ。136三五教(あななひけう)といふ(やつ)は、137(さけ)()むな(くら)ふなと(ぬか)(やつ)だ』
138八公(やつこう)『ソリヤ表面(おもて)(だけ)だ、139(さけ)(くら)はん(やつ)何処(どこ)にあろかい、140()神酒(みき)あがらぬ(かみ)はないと()つて(かみ)さまでさへも(さけ)()まれるんだ。141(その)(かみ)のお使(つかひ)(さけ)(きら)ひなんてぬかすのは、142そりや偽善(ぎぜん)だ。143彼奴(あいつ)(まへ)美味(うま)さうな(にほひ)をさして、144()んで()んで()みさがしてやらう。145さうすると、146宣伝使(せんでんし)(した)をチヨイチヨイ()しよつて(くちびる)(ねぶ)()す、147そこで、148オイ(ねい)さま一杯(いつぱい)突出(つきだ)すんだ』
149鴨公(かもこう)(おれ)下戸(げこ)だから(さけ)様子(やうす)()らぬが、150そんなものかいなア』
151 (をんな)宣伝使(せんでんし)はムツクと()つて、152宣伝歌(せんでんか)(うた)(はじ)めた。
153梅ケ香姫(かみ)(おもて)(あら)はれて
154常夜(とこよ)(やみ)明志丸(あかしまる)
155(すく)ひの(ふね)()せられて
156憂瀬(うきせ)(しづ)民草(たみぐさ)
157(すく)はむ(ため)(この)首途(かどで)
158千尋(ちひろ)(うみ)(そこ)よりも
159(ふか)(めぐみ)(かみ)(おん)
160(をし)(みちび)(きた)(もり)
161(かた)(いはほ)(こし)かけて
162(ここ)六人(むたり)宣伝使(せんでんし)
163(いき)(やす)らふ折柄(をりから)
164ウラルの(かみ)間者(まはしもの)
165(ふた)つの(まなこ)(ひか)らせて
166(うかが)(きた)可笑(をか)しさよ
167(いづ)れの(かた)(なが)むれば
168(こころ)(ばか)りの(かつ)さまや
169(たこ)(やう)なる(やつ)さまの
170(あし)もヒヨロヒヨロ鴨々(かもかも)
171おどして()たら(こし)()かし
172かも()れなと()らず(ぐち)
173高彦(たかひこ)さんの鎮魂(ちんこん)
174化石(くわせき)(やう)(かた)まつて
175一夜(ひとよ)一日(ひとひ)立暮(たちくら)
176(わらは)一同(いちどう)(あと)()うて
177三五教(あななひけう)宣伝使(せんでんし)
178取逃(とりに)がしたる事由(ことわけ)
179明志(あかし)(うみ)荒浪(あらなみ)
180()まれて(すす)()(どく)
181(さけ)機嫌(きげん)にまぎらして
182(たがひ)(あわ)()(かぜ)に』
183勝公(かつこう)『コラコラ(なに)(ぬか)しやがるのだ。184(をんな)(くせ)(かつ)さまだの、185(たこ)だの、186(かも)だのと、187猪口才(ちよこざい)三五教(あななひけう)(をしへ)善言(ぜんげん)美詞(びし)(ぬか)して()るぢやないか、188(かぜ)()くも()かぬも()つときやがれ、189弱味(よわみ)附込(つけこ)(かぜ)(かみ)さまと()つたら(おれ)(こと)だぞ。190此間(こなひだ)(ろく)(にん)()やがつたので、191見逃(みのが)しておいたのだ。192今日(けふ)(さいは)貴様(きさま)一人(ひとり)だ、193()いて()はうと、194()()はうと、195引裂(ひきさ)かうと(おれ)勝手(かつて)だ。196サア、197(ひと)ほざいて()い、198ほざいたが最後(さいご)貴様(きさま)(かさ)(だい)(ふか)餌食(ゑじき)だ』
199梅ケ香姫(うめがかひめ)『ホヽヽヽヽ、200(かつ)さんとやら、201(すゑ)まで()いて(くだ)さいな』
202勝公(かつこう)『エツ、203()かぬ。204(この)大勢(おほぜい)(なか)で、205(かつ)さまが()つたの()けたのと、206(はぢ)振舞(ふれま)ひやがつて男前(をとこまへ)()がるワイ。207()うなれば意地(いぢ)だ、208貴様(きさま)()つたか()けたか、209此処(ここ)(ひと)つ、210(この)(うみ)ぢやないが明志(あかし)をして、211(おれ)のあかりを()てねばならぬのだ。212どちらが(ぜん)(あく)か、213明志(あかし)(くら)しは(いま)(わか)るのだ』
214()(なが)ら、215鉄拳(てつけん)振上(ふりあ)げて、216梅ケ香姫(うめがかひめ)()つて(かか)らうとする。217(この)(とき)襟髪(えりがみ)をグツト(にぎ)つて二三尺(にさんじやく)ばかり(ねこ)をつまむだ(やう)(ひつさ)げた(をとこ)がある。
218(をとこ)(時公)『アハヽヽヽ、219サア(かつ)(まけ)明志(あかし)(うみ)だ。220(この)()(はな)したが最後(さいご)221(かつ)(かつを)餌食(ゑじき)だ』
222勝公(かつこう)『マアマア、223()()て、224()てと()つたら、225()つたが()からうぞ。226(ひと)つよりない生命(いのち)大切(だいじ)にせぬかい。227(おれ)でも(かみ)(さま)分霊(わけみたま)だぞ。228(おれ)貴様(きさま)(ころ)されたつてビクともせぬ(をとこ)だが、229貴様(きさま)(かみ)のお(みや)(この)(はう)(そこな)つたら、230貴様(きさま)(ばち)(あた)るから、231(ころ)すなら(ころ)せ、232地獄(ぢごく)仇討(かたきうち)をしてやるから………』
233(をとこ)(時公)()らず(ぐち)(たた)くない、234(ひと)つ、235貴様(きさま)(さけ)(くら)()つて大分(だいぶ)逆上(のぼせ)()るから、236調和(てうわ)()れる(やう)に、237(みづ)(なか)一遍(いつぺん)ドブ(づけ)茄子(なすび)とやつてやらうかい』
238勝公(かつこう)『マアマア()つて(くだ)さい、239(おな)(あめ)(した)のおほみたからだ。240四海(しかい)同胞(どうはう)だ』
241(をとこ)(時公)『ここは魔海(まかい)死海(しかい)()うて、242ここは(ひと)()(うみ)だ。243(この)死海(しかい)()註文(ちゆうもん)(どほ)死海(しかい)ドボンとやつてやらう』
244勝公(かつこう)『オイ(やつ)245(かも)246何故(なぜ)愚図(ぐづ)々々(ぐづ)としてやがるのだ、247此奴(こいつ)(あし)(さら)へぬかい。248此奴(こいつ)死海(しかい)ドボンだ』
249鴨公(かもこう)(ざま)()やがれ、250(つよ)(はう)()くのが当世(たうせい)だ、251貴様(きさま)(つよ)いと(おも)うて、252(おれ)()何時(いつ)も、253表向(おもてむき)はヘイヘイハイハイ()うて()るものの、254後向(うしろむき)(した)()してゐるのも()りやがらずに、255よい()になつて村中(むらぢう)(あば)(まは)した(その)(むく)いだ。256天道(てんだう)さまは正直(しやうぢき)だ、257貴様(きさま)がドブンとやられたら、258(きた)(むら)(もち)()いて(いは)ふぞい』
259勝公(かつこう)(ひと)難儀(なんぎ)()て、260見殺(みごろ)しにするのか』
261八公(やつこう)見殺(みごろ)しも(くそ)もあつたものかい、262………もしもし、263何処(どこ)何方(どなた)()りませぬが、264さう何時(いつ)までも()げては、265()(だる)いでせうから、266(いま)死海(しかい)ドボンとやらをやつて(くだ)さい』
267勝公(かつこう)『コラ貴様(きさま)までが相槌(あひづち)()ちやがつて、268友達(ともだち)甲斐(かひ)のない(やつ)だ』
269(をとこ)(時公)『アハヽヽヽ、270(よわ)(やつ)だ、271そんなら一寸(ちよつと)また(あと)(なぐさ)みに見合(みあは)しておかうかい』
272勝公(かつこう)『あとは(あと)273(いま)(いま)274一寸先(いつすんさき)(やみ)()275(やみ)(あと)には(つき)()る』
276八公(やつこう)(つき)(つき)だが(うん)つきだ、277(おれ)貴様(きさま)愛想(あいそ)つきた』
278 一人(ひとり)(をとこ)勝公(かつこう)をソロリと(ふね)(なか)(おろ)してやつた。
279勝公(かつこう)『ヤ、280有難(ありがた)御座(ござ)いました、281(かげ)生命(いのち)(たす)かりました』
282(をとこ)(時公)『ヤア、283(しばら)くお(あづ)けだ』
284八公(やつこう)『まるで(ちん)みたいに()はれてけつかる』
285(をとこ)(時公)『ヤア、286これはこれは梅ケ香姫(うめがかひめ)(さま)287不思議(ふしぎ)(ところ)でお()にかかりました。288(みな)(かた)はどうなさいました』
289梅ケ香姫(うめがかひめ)『ヤ、290あなたは(とき)さまであつたか』
291大正一一・三・一 旧二・三 松村真澄録)
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