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第12巻(亥の巻)
序文
凡例
総説歌
第1篇 天岩戸開(一)
01 正神邪霊
〔497〕
02 直会宴
〔498〕
03 蚊取別
〔499〕
04 初蚊斧
〔500〕
05 初貫徹
〔501〕
06 招待
〔502〕
07 覚醒
〔503〕
第2篇 天岩戸開(二)
08 思出の歌
〔504〕
09 正夢
〔505〕
10 深夜の琴
〔506〕
11 十二支
〔507〕
12 化身
〔508〕
13 秋月滝
〔509〕
14 大蛇ケ原
〔510〕
15 宣直し
〔511〕
16 国武丸
〔512〕
第3篇 天岩戸開(三)
17 雲の戸開
〔513〕
18 水牛
〔514〕
19 呉の海原
〔515〕
20 救ひ舟
〔516〕
21 立花島
〔517〕
22 一島攻撃
〔518〕
23 短兵急
〔519〕
24 言霊の徳
〔520〕
25 琴平丸
〔521〕
26 秋月皎々
〔522〕
27 航空船
〔523〕
第4篇 古事記略解
28 三柱の貴子
〔524〕
29 子生の誓
〔525〕
30 天の岩戸
〔526〕
余白歌
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第一四章
大蛇
(
をろち
)
ケ
原
(
はら
)
〔五一〇〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第12巻 霊主体従 亥の巻
篇:
第2篇 天岩戸開(二)
よみ(新仮名遣い):
あまのいわとびらき(二)
章:
第14章 大蛇ケ原
よみ(新仮名遣い):
おろちがはら
通し章番号:
510
口述日:
1922(大正11)年03月09日(旧02月11日)
口述場所:
筆録者:
加藤明子
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1922(大正11)年9月30日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
初公の前身は、聖地エルサレムで天使長を補佐する行成彦の従神・行平別であった。それがイホの都の人民の中に、侠客と現れていたのであった。
初公は谷道を宣伝使たちを探して降ってくると、大蛇が宣伝使たちを口にくわえて飲み込んでしまったところに出くわした。
初公は怒り、大蛇に向かって宣伝歌を歌おうとしたが、体が動かなくなってしまった。大蛇はやってきて、初公も飲み込んでしまった。初公は真っ暗な大蛇の腹の中を宣伝歌を歌いながら進んで行くと、光るものに出会ったと思ったら、それは蚊取別の頭であった。
気がつくと、そこは大蛇の腹の中ではなく、秋月の滝のちょっと下手の谷道であった。初公は、またしても大蛇に幻惑されたかと思うや、大岩石が一同めがけて降り注いだ。
一同は岩石をよけていたが、疲れ果ててついには谷底に落ち込んでしまった。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2020-11-12 00:42:54
OBC :
rm1214
愛善世界社版:
117頁
八幡書店版:
第2輯 668頁
修補版:
校定版:
123頁
普及版:
50頁
初版:
ページ備考:
001
有為
(
うゐ
)
転変
(
てんべん
)
の
世
(
よ
)
の
習
(
なら
)
ひ
002
淵瀬
(
ふちせ
)
と
変
(
かは
)
る
人
(
ひと
)
の
身
(
み
)
は
003
栄枯
(
えいこ
)
盛衰
(
せいすゐ
)
会者
(
ゑしや
)
定離
(
ぢやうり
)
004
浮世
(
うきよ
)
の
風
(
かぜ
)
に
操
(
あやつ
)
られ
005
高天原
(
たかあまはら
)
の
天使長
(
てんしちやう
)
006
その
神政
(
しんせい
)
を
輔翼
(
ほよく
)
する
007
行成彦
(
ゆきなりひこ
)
の
伴神
(
ともがみ
)
と
008
仕
(
つか
)
へて
其
(
その
)
名
(
な
)
を
内外
(
うちそと
)
に
009
轟
(
とどろ
)
かしたる
行平別
(
ゆきひらわけ
)
[
※
初公の本名
]
の
010
神
(
かみ
)
の
命
(
みこと
)
はイホの
国
(
くに
)
011
花
(
はな
)
の
都
(
みやこ
)
に
現
(
あら
)
はれて
012
卑
(
いや
)
しき
人
(
ひと
)
の
群
(
むれ
)
に
入
(
い
)
り
013
弱
(
よわ
)
きを
救
(
すく
)
ふ
侠客
(
をとこだて
)
014
名
(
な
)
も
初公
(
はつこう
)
と
改
(
あらた
)
めて
015
花
(
はな
)
咲
(
さ
)
く
春
(
はる
)
を
待
(
ま
)
つ
間
(
うち
)
に
016
世
(
よ
)
は
常暗
(
とこやみ
)
となり
果
(
は
)
てて
017
春夏秋
(
はるなつあき
)
の
別
(
わか
)
ちなく
018
悪魔
(
あくま
)
は
日々
(
ひび
)
にふゆの
空
(
そら
)
019
心
(
こころ
)
さむしく
世
(
よ
)
を
渡
(
わた
)
る
020
身
(
み
)
の
果
(
はて
)
こそは
哀
(
あはれ
)
なり
021
月日
(
つきひ
)
は
廻
(
めぐ
)
る
時津風
(
ときつかぜ
)
022
神
(
かみ
)
の
伊吹
(
いぶき
)
に
払
(
はら
)
はれて
023
心
(
こころ
)
も
勇
(
いさ
)
む
宣伝使
(
せんでんし
)
024
五
(
ご
)
人
(
にん
)
の
後
(
あと
)
に
従
(
したが
)
ひて
025
夜
(
よ
)
も
秋月
(
あきづき
)
の
滝
(
たき
)
の
音
(
ね
)
に
026
曲
(
まが
)
言向
(
ことむ
)
けて
唯
(
ただ
)
一人
(
ひとり
)
027
神
(
かみ
)
の
御稜威
(
みいづ
)
を
称
(
たた
)
へつつ
028
深雪
(
みゆき
)
の
滝
(
たき
)
に
立
(
た
)
ち
向
(
むか
)
ふ。
029
初公
(
はつこう
)
の
行平別
(
ゆきひらわけ
)
は、
030
荊棘
(
けいきよく
)
茂
(
しげ
)
る
谷道
(
たにみち
)
を、
031
尋
(
たづ
)
ね
尋
(
たづ
)
ねて
瀑布
(
たき
)
を
目当
(
めあ
)
てに
下
(
くだ
)
り
行
(
ゆ
)
く。
032
瀑布
(
ばくふ
)
の
前
(
まへ
)
には
数十
(
すうじふ
)
人
(
にん
)
の
人声
(
ひとごゑ
)
、
033
見
(
み
)
れば
蚊取別
(
かとりわけ
)
、
034
祝姫
(
はふりひめ
)
その
他
(
た
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
を
口
(
くち
)
に
啣
(
くわ
)
へながら、
035
蜒々
(
えんえん
)
たる
大蛇
(
をろち
)
は
鎌首
(
かまくび
)
を
立
(
た
)
て
此方
(
こなた
)
に
向
(
むか
)
つて
進
(
すす
)
み
来
(
く
)
る。
036
数十
(
すうじふ
)
人
(
にん
)
の
人々
(
ひとびと
)
はこの
光景
(
くわうけい
)
を
見
(
み
)
て、
037
手
(
て
)
を
打
(
う
)
ち
心地
(
ここち
)
よげに
立
(
た
)
ち
騒
(
さわ
)
いで
居
(
ゐ
)
る。
038
初公
(
はつこう
)
は
之
(
これ
)
を
見
(
み
)
るより
怒
(
いか
)
り
心頭
(
しんとう
)
に
達
(
たつ
)
し、
039
行平別(初公)
『につくき
大蛇
(
をろち
)
の
悪魔
(
あくま
)
、
040
五
(
ご
)
人
(
にん
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
を
呑
(
の
)
み
食
(
くら
)
はむとするか、
041
待
(
ま
)
て
待
(
ま
)
て
我
(
わが
)
真心
(
まごころ
)
の
言霊
(
ことたま
)
の
剣
(
つるぎ
)
に
亡
(
ほろ
)
ぼし
呉
(
く
)
れむ』
042
と
宣伝歌
(
せんでんか
)
を
歌
(
うた
)
はむとすれば、
043
口
(
くち
)
塞
(
ふさ
)
がり
痺
(
しび
)
れてピリツとも
動
(
うご
)
かなくなつて
居
(
を
)
る。
044
身体
(
からだ
)
は
見
(
み
)
る
見
(
み
)
る
硬直
(
かうちよく
)
して
自由
(
じいう
)
に
動
(
うご
)
く
事
(
こと
)
さへ
出来
(
でき
)
なくなつて
来
(
き
)
た。
045
行平別
(
ゆきひらわけ
)
は
身体
(
からだ
)
を
縛
(
しば
)
られ
口
(
くち
)
を
鎖
(
とざ
)
され、
046
どうする
事
(
こと
)
も
出来
(
でき
)
ず、
047
力
(
ちから
)
と
頼
(
たの
)
む
五
(
ご
)
人
(
にん
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
は、
048
見
(
み
)
る
見
(
み
)
る
大蛇
(
をろち
)
に
呑
(
の
)
まれて
了
(
しま
)
つた。
049
大蛇
(
をろち
)
は
行平別
(
ゆきひらわけ
)
に
向
(
むか
)
つて、
050
大蛇
(
をろち
)
『ヤア
彼処
(
あそこ
)
に、
051
もう
一人
(
ひとり
)
の
片割
(
かたわ
)
れが
居
(
を
)
る。
052
これも
序
(
ついで
)
に
呑
(
の
)
むでやらうか』
053
と
云
(
い
)
ひながら
大口
(
おほぐち
)
を
開
(
あ
)
けて、
054
今
(
いま
)
や
一口
(
ひとくち
)
に
食
(
くら
)
はむとする
勢
(
いきほひ
)
である。
055
行平別
(
ゆきひらわけ
)
は
心
(
こころ
)
の
中
(
うち
)
で
神言
(
かみごと
)
を
奏上
(
そうじやう
)
しながら……どうなとなれよ、
056
神々
(
かみがみ
)
に
任
(
まか
)
した
此
(
この
)
体
(
からだ
)
、
057
呑
(
の
)
むなら
呑
(
の
)
めよ……と
口
(
くち
)
には
得
(
え
)
云
(
い
)
はねど
顔色
(
がんしよく
)
に
現
(
あら
)
はして
居
(
ゐ
)
る。
058
心
(
こころ
)
では
一生
(
いつしやう
)
懸命
(
けんめい
)
祝詞
(
のりと
)
を
奏上
(
そうじやう
)
するや、
059
不思議
(
ふしぎ
)
に
発声
(
はつせい
)
の
自由
(
じいう
)
を
得
(
え
)
た。
060
行平別
『ヤア
大蛇
(
をろち
)
の
奴
(
やつ
)
、
061
貴様
(
きさま
)
は
怪
(
け
)
しからぬ
奴
(
やつ
)
だ。
062
五
(
ご
)
人
(
にん
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
を、
063
今
(
いま
)
見
(
み
)
て
居
(
を
)
れば、
064
一口
(
ひとくち
)
に
呑
(
の
)
んで
了
(
しま
)
ひよつたな。
065
ヨシ
俺
(
おれ
)
が
貴様
(
きさま
)
の
腹
(
はら
)
の
中
(
なか
)
に
這入
(
はい
)
つて、
066
大蛇
(
をろち
)
身中
(
しんちゆう
)
の
神
(
かみ
)
となつて
平
(
たひら
)
げてやらう。
067
サア
足
(
あし
)
から
呑
(
の
)
むか、
068
頭
(
あたま
)
から
呑
(
の
)
むか、
069
お
望
(
のぞ
)
み
次第
(
しだい
)
だ』
070
大蛇
(
をろち
)
は
一丈
(
いちぢやう
)
ばかりの
岐
(
また
)
になつた
舌
(
した
)
をペロペロと
出
(
だ
)
し、
071
行平別
(
ゆきひらわけ
)
を
舌
(
した
)
の
先
(
さき
)
に
巻
(
ま
)
いてグツと
呑
(
の
)
み
込
(
こ
)
むで
了
(
しま
)
つた。
072
行平別
『ヤア、
073
たうとう
俺
(
おれ
)
を
呑
(
の
)
むで
了
(
しま
)
ひよつたナ。
074
随分
(
ずゐぶん
)
暗
(
くら
)
い
穴
(
あな
)
だ。
075
五
(
ご
)
人
(
にん
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
は
何処
(
どこ
)
迄
(
まで
)
行
(
い
)
つて
居
(
を
)
るのか
知
(
し
)
ら。
076
大分
(
だいぶん
)
に
来
(
き
)
た
積
(
つも
)
りだがねつから
其処辺
(
そこら
)
に
声
(
こゑ
)
がせぬ。
077
随分
(
ずゐぶん
)
大
(
おほ
)
きな
大蛇
(
をろち
)
だ。
078
この
間
(
あひだ
)
夢
(
ゆめ
)
に
見
(
み
)
た
奴
(
やつ
)
かも
知
(
し
)
れぬぞ、
079
この
儘
(
まま
)
雲
(
くも
)
を
起
(
おこ
)
して
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
を
呑
(
の
)
むだまま
天
(
てん
)
に
舞
(
ま
)
ひ
上
(
あが
)
るのか
知
(
し
)
ら。
080
何
(
なに
)
構
(
かま
)
ふものか
舞
(
ま
)
ひ
上
(
あが
)
つたつて
腹
(
はら
)
の
中
(
なか
)
だ、
081
落
(
お
)
ちる
心配
(
しんぱい
)
はない、
082
また
地
(
ち
)
から
天
(
てん
)
におつこちた
者
(
もの
)
もない、
083
マア
緩
(
ゆつ
)
くり
宣伝歌
(
せんでんか
)
でも
歌
(
うた
)
つてやらうかい』
084
と、
085
真暗
(
まつくら
)
がりの
大蛇
(
をろち
)
の
腹
(
はら
)
を
四股
(
しこ
)
踏
(
ふ
)
み
進
(
すす
)
んで
行
(
ゆ
)
く。
086
行平別
『ヤア
大分
(
だいぶ
)
にジクジクして
居
(
を
)
るぞ。
087
大蛇
(
をろち
)
の
小便袋
(
せうべんぶくろ
)
を
踏
(
ふ
)
むだのぢやなからうかなア』
088
遥
(
はるか
)
向
(
むか
)
ふの
方
(
はう
)
に
少
(
すこ
)
し
光
(
ひか
)
る
物
(
もの
)
がある。
089
行平別
『サアこれからあの
光
(
ひかり
)
を
目蒐
(
めが
)
けて、
090
どんどんと
行平別
(
ゆきひらわけ
)
だ』
091
と
云
(
い
)
ひながら
足
(
あし
)
を
速
(
はや
)
めた。
092
何
(
なん
)
だか
黒
(
くろ
)
き
頭
(
あたま
)
が
見
(
み
)
える。
093
行平別
『ヤア
此奴
(
こいつ
)
ア
子持
(
こもち
)
だな、
094
大蛇
(
をろち
)
の
卵
(
たまご
)
だらう』
095
と
立止
(
たちとどま
)
つて
思案
(
しあん
)
をして
居
(
を
)
る、
096
闇
(
くらがり
)
より
蚊取別
(
かとりわけ
)
の
声
(
こゑ
)
として、
097
蚊取別
『ヤア
初公
(
はつこう
)
さま
甚
(
えろ
)
う
遅
(
おそ
)
かつたねえ』
098
行平別
『ヤア
蚊取別
(
かとりわけ
)
さまか、
099
秋月
(
あきづき
)
の
滝
(
たき
)
で
魔神
(
ましん
)
を
言向
(
ことむ
)
け
和
(
やは
)
して
居
(
ゐ
)
る
間
(
うち
)
にお
前
(
まへ
)
さまも
腹
(
はら
)
の
悪
(
わる
)
い、
100
五
(
ご
)
人
(
にん
)
一度
(
いちど
)
に
どろん
と
消
(
き
)
えて、
101
初
(
はつ
)
さま
一人
(
ひとり
)
をほつときぼりにして、
102
余
(
あんま
)
り
酷
(
ひど
)
いぢやないか、
103
五
(
ご
)
人
(
にん
)
が
五
(
ご
)
人
(
にん
)
ながら
揃
(
そろ
)
うて
五人情
(
ごにんじよう
)
の
薄
(
うす
)
いお
方
(
かた
)
だ。
104
私
(
わたくし
)
一
(
いち
)
人
(
にん
)
にするとは
余
(
あんま
)
りだよ』
105
蚊取別
(
かとりわけ
)
『イヤ、
106
秋月
(
あきづき
)
の
滝
(
たき
)
はお
前
(
まへ
)
に
一任
(
いちにん
)
したのだから、
107
それで
当然
(
あたりまへ
)
だ。
108
我々
(
われわれ
)
の
精神
(
せいしん
)
を
誤認
(
ごにん
)
されては
困
(
こま
)
るよ』
109
行平別
(
ゆきひらわけ
)
『エヽ
六
(
ろく
)
人
(
にん
)
でも
無
(
な
)
い
事
(
こと
)
を
仰有
(
おつしや
)
りますな。
110
併
(
しか
)
し
此処
(
ここ
)
は
大蛇
(
をろち
)
のトンネルですか、
111
イヤ
祝姫
(
はふりひめ
)
様
(
さま
)
も
万寿山
(
まんじゆざん
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
も
其処
(
そこ
)
に
居
(
を
)
られますか。
112
どうです
怪我
(
けが
)
はありませぬか』
113
祝姫
(
はふりひめ
)
『
別
(
べつ
)
に、
114
お
蔭
(
かげ
)
で
怪我
(
けが
)
もせず、
115
谷道
(
たにみち
)
を
越
(
こ
)
えて
此処
(
ここ
)
迄
(
まで
)
やつて
来
(
き
)
ました。
116
どうも
暗
(
くら
)
い
事
(
こと
)
ですなア、
117
軈
(
やが
)
て
深雪
(
みゆき
)
の
滝
(
たき
)
に
間
(
ま
)
もありますまいから、
118
此処
(
ここ
)
で
一服
(
いつぷく
)
揃
(
そろ
)
うてして
居
(
ゐ
)
ますのよ』
119
高光彦
(
たかてるひこ
)
『ヤア
初
(
はつ
)
さま、
120
御
(
ご
)
苦労
(
くらう
)
でしたなア、
121
マア
緩
(
ゆつ
)
くり
一服
(
いつぷく
)
致
(
いた
)
しませうかい』
122
行平別
(
ゆきひらわけ
)
『さう
気楽
(
きらく
)
な
事
(
こと
)
も
云
(
い
)
うて
居
(
を
)
られますまい、
123
此処
(
ここ
)
は
大蛇
(
をろち
)
のトンネルぢやありませぬか。
124
今
(
いま
)
貴方
(
あなた
)
方
(
がた
)
五
(
ご
)
人
(
にん
)
が
大蛇
(
をろち
)
に
呑
(
の
)
まれて
居
(
ゐ
)
たのを
見
(
み
)
ましたので、
125
何
(
なん
)
くそ、
126
この
行平別
(
ゆきひらわけ
)
の
言霊
(
ことたま
)
によつて、
127
大蛇
(
をろち
)
を
征服
(
せいふく
)
してやらむものと、
128
深雪
(
みゆき
)
の
滝
(
たき
)
に
進
(
すす
)
み
入
(
い
)
つたところ、
129
大蛇
(
をろち
)
の
奴
(
やつ
)
、
130
又
(
また
)
もや
我
(
われ
)
を
大
(
おほ
)
きな
長
(
なが
)
い
舌
(
した
)
の
先
(
さき
)
でペロリと
舐
(
なめ
)
て
喉坂峠
(
のどさかたうげ
)
をごろごろ、
131
漸
(
やうや
)
く
細頸道
(
ほそくびみち
)
を
探
(
さぐ
)
り
探
(
さぐ
)
りて
大野腹
(
おほのはら
)
にやつて
来
(
き
)
て
見
(
み
)
れば、
132
貴方
(
あなた
)
方
(
がた
)
の
私語声
(
ささやきごゑ
)
、
133
一体
(
いつたい
)
この
大蛇
(
をろち
)
と
云
(
い
)
ふ
奴
(
やつ
)
よほど
太
(
ふと
)
い
奴
(
やつ
)
ですなア。
134
どうでせう、
135
六
(
ろく
)
人
(
にん
)
が
力
(
ちから
)
を
合
(
あは
)
せて
横
(
よこ
)
つ
腹
(
ぱら
)
に
穴
(
あな
)
でも
開
(
あ
)
けて
出
(
で
)
てやりませうか』
136
蚊取別
(
かとりわけ
)
『オイオイ、
137
初公
(
はつこう
)
さまお
前
(
まへ
)
何
(
なに
)
を
呆
(
とぼ
)
けて
居
(
を
)
るのだ。
138
ここはシナイ
山
(
ざん
)
の
麓
(
ふもと
)
の
秋月
(
あきづき
)
の
滝
(
たき
)
の
二三町
(
にさんちやう
)
下手
(
しもて
)
だよ』
139
と
云
(
い
)
はれて
初公
(
はつこう
)
は、
140
目
(
め
)
を
擦
(
こす
)
り
四辺
(
あたり
)
を
見
(
み
)
れば、
141
こは
抑
(
そも
)
如何
(
いか
)
に
水音
(
みなおと
)
滔々
(
たうたう
)
として
白瀬川
(
しらせがは
)
が
布
(
ぬの
)
を
晒
(
さら
)
したる
如
(
ごと
)
く
流
(
なが
)
れて
居
(
ゐ
)
る。
142
行平別
(
ゆきひらわけ
)
『ヤアまた
大蛇
(
をろち
)
の
奴
(
やつ
)
、
143
魅
(
つま
)
みよつたなア、
144
油断
(
ゆだん
)
も
隙
(
すき
)
もあつたものぢやないワ、
145
岩
(
いは
)
も
木
(
き
)
も
草
(
くさ
)
も
皆
(
みな
)
化
(
ば
)
けて
化
(
ば
)
けて
化
(
ば
)
けさがしよるワ。
146
その
筈
(
はず
)
だ。
147
最前
(
さいぜん
)
も
云
(
い
)
つたなア、
148
我
(
われ
)
は
大化物
(
おほばけもの
)
だと、
149
大方
(
おほかた
)
蚊取別
(
かとりわけ
)
が
目
(
め
)
を
眩
(
くら
)
ますのだろう』
150
此
(
この
)
時
(
とき
)
山岳
(
さんがく
)
も
崩
(
くづ
)
るるばかりの
物音
(
ものおと
)
凄
(
すご
)
く、
151
見上
(
みあ
)
ぐる
許
(
ばか
)
りの
大岩石
(
だいがんせき
)
は
風
(
かぜ
)
に
吹
(
ふ
)
かれて
散
(
ち
)
る
木葉
(
このは
)
の
如
(
ごと
)
く、
152
天
(
てん
)
に
舞
(
ま
)
ひ
上
(
あが
)
り
地上
(
ちじやう
)
に
向
(
むか
)
つて、
153
ドスンドスンと
音
(
おと
)
を
立
(
た
)
てて
雨
(
あめ
)
や
霰
(
あられ
)
と
降
(
ふ
)
り
来
(
きた
)
る。
154
一行
(
いつかう
)
六
(
ろく
)
人
(
にん
)
は
空
(
そら
)
を
仰
(
あふ
)
ぎながら、
155
岩
(
いは
)
に
打
(
う
)
たれじと
前後
(
ぜんご
)
左右
(
さいう
)
に
躰
(
たい
)
をかはし、
156
汗
(
あせ
)
を
流
(
なが
)
して
飛
(
と
)
び
廻
(
まは
)
る
事
(
こと
)
殆
(
ほとん
)
ど
一時
(
ひととき
)
ばかり、
157
遂
(
つひ
)
には
足
(
あし
)
疲
(
つか
)
れ
目
(
め
)
眩
(
くら
)
み
千仭
(
せんじん
)
の
谷間
(
たにま
)
にズデンドウと
顛落
(
てんらく
)
した。
158
ハツと
思
(
おも
)
ふその
途端
(
とたん
)
目
(
め
)
を
開
(
ひら
)
けば、
159
高熊山
(
たかくまやま
)
の
巌窟
(
がんくつ
)
の
前
(
まへ
)
、
160
十四夜
(
いざよひ
)
の
月
(
つき
)
は
早
(
はや
)
くも
弥仙山
(
みせんざん
)
の
頂
(
いただき
)
に
姿
(
すがた
)
を
隠
(
かく
)
さむとする
真夜中
(
まよなか
)
頃
(
ごろ
)
なりき。
161
(
大正一一・三・九
旧二・一一
加藤明子
録)
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