第二六章 秋月皎々〔五二二〕
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OBC ：rm1226
愛善世界社版：
八幡書店版：
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001心も広き琵琶の湖 002中に漂ふ竹の島 003神素盞嗚大神の 004瑞の御霊と現れませる 006秋月姫の神司は 007島の頂上を搗き固め 008珍の御舎千木高く 009仕へ奉りて皇神の 010瑞の御霊を朝夕に 011斎き奉らせ天地に 012塞がる四方の村雲を 014神の御稜威を照さむと 015朝な夕なに真心を 016籠めて祈願の神嘉言 017市杵嶋姫神司 018夜も呉竹の宮の奥に 019天津祝詞の太祝詞 021眼下に響く鬨の声 022沖の嵐か波の音か 025上りて真下を眺むれば 026思ひも掛けぬ戦士 027雲霞の如く群がりて 028鋼鉄の鉾を打振りつ 029島に住まへる百人を 030当るを幸ひ斬りまくる 032右往左往に逃げ惑ふ 034他所の見る目も憐れなり 036小笹の籔に火放てば 037折から吹き来る潮風に 038火は煽られて濛々と 039破竹の音も騒がしく 040宛然修羅の戦場と 041忽ち変る神の島 042見るに忍びぬ次第なり。
043 秋月姫は立ち上り、
044秋月姫『ヤアヤア、045敵軍間近く押寄せたり。046高倉別はあらざるか、047竜山別は何処ぞ』
048と呼はる声に、049高倉別は目を擦り乍ら忽ちこの場に飛むで出で、
050高倉別『只今お召しになつたのは何の御用で御座いますか』
051秋月姫『汝高倉別、052速に高楼に上り相図の鼓を打てよ』
053 ハツと答へて、054高倉別は飛鳥の如く高楼目がけて馳上り、
055高倉別『神聖無比のこの嶋に向つて攻め来る大軍は果して何者ぞ。056ウラル姫の部下の魔軍か、057但は天教山の神軍か。058何は兎もあれ、059防禦の用意』
060と其儘ヒラリと一足飛び、
061高倉別『ヤアヤア竜山別はあらざるか。062敵軍間近く押寄せ来り乱暴狼藉、063竹藪に火を放つて只一戦にこの神嶋を屠らむとする憎き計画と覚えたり。064ヤアヤア諸人共、065防禦の用意』
066と呼はれば、067竜山別は声に応じてこの場に現はれ来り、
068竜山別『思ひ掛けなき敵の襲撃、069敵は何者なるや、070一先づ偵察仕らむ』
071 高倉別は早く行けよと下知すれば、072ハイと答へて竜山別は、073栗毛の馬に跨り、074八十曲りの坂道を手綱を掻い繰り、075シトシトと阪下さして進み行く。076高倉別は館の内の人数を残らず招集めたるに、077集まるもの男女合せて僅に四十八人。
078高倉別『ヤア皆の者共、079雲霞の如き大軍本島に攻め寄せたり。080斯くなる上は衆寡敵せず、081体を以て体に対し、082力を以て力に対する時は勝敗已に明々白々たり。083如かず、084汝等は口を清め手を洗ひ、085呉竹の宮の前に致つて恭しく神言を奏上し、086宣伝歌を唱へて神の守護を受け、087寄せ来る敵を言向け和せよ。088我はこれより奥に進み秋月姫の御身の上を守護し奉らむ』
089と言ひ捨て奥殿目がけて進み入る。090一同は命の如く身体を清め呉竹の宮の前に端坐し声も朗かに天津祝詞を奏上したりける。091秋月姫は高楼に登り、092寄せ来る敵に打向ひ悠々迫らざる態度を以て声淑かに天津祝詞の神嘉言を奏上し、093終つて天地に向ひ祈願の言葉を奏上し給ふ。
094秋月姫『仰げば高し久方の 095天津御空を知食す 096神伊邪那岐の大御神 098神伊邪那美の大御神 099神素盞嗚大神と 100現れ出でませる大空の 101光も清き月照彦の 102神の命や足真彦 103少名彦神、弘子彦の 105醜の軍を言向けて 109十握の剣の威徳にて 111荒ぶる神も程々に 113照し給ひて天が下 114四方の国には仇もなく 115穢れも罪も枉事も 116薙払へかし神の風 118善と悪とを立別ける 119善を助けて悪神を 120言向け和す神の道 121唯何事も人の世は 122直日に見直し聞直し 123世の枉事は詔り直す 125嶋に塞がる村雲を 126霽して誠の日月を 127照させ給へ逸早く 128此世を造りし大本の 129皇大神の御前に 130畏み畏み祈ぎ奉る』
131と歌ひ終り、132高楼より降り来る折しも、133高倉別は馬に跨り急ぎ館に立帰り、
134高倉別『秋月姫神に申し上げます。135当山の寄せ手はウラル彦、136ウラル姫の魔軍ならむと思ひきや、137撞の御柱大神の珍の御子なる五柱の一神、138天津彦根神、139鋼鉄の鉾を打揮ひ竹藪に火を放ち、140狼狽へ騒いで逃げ廻る嶋人を一人々々引捕へ、141見るも悲惨なその振舞、142建物を破壊し生物を屠戮し乱暴狼藉至らざる無く、143群がる数万の軍勢に対し、144味方は僅に老若男女を合して四十余人、145人盛なれば天に勝つとやら、146もう斯うなる上は是非に及ばず潔く自刃を遂げ、147名も無き敵の奴輩に殺されむは末代の恥、148我より冥途の魁仕らむ』
149と早くも両肌を脱ぎ、150短刀を脇腹に突き立てむとする一刹那竜山別は、151宙を飛むでこの場に現はれ来り、152高倉別が短刀を矢庭に引奪り声を励まして、
153竜山別『ヤア高倉別殿、154貴神は尊き神に仕ふる神司、155この場に及ンで神より受けし貴重なる生命を自ら捨てむとし給ふは何事ぞ。156今の今迄全心全力をつくし、157力およばずして後に運命を天に任さむのみ。158是人を教ふる我々の採るべき道には非ざるか。159少時思ひとどまり給へ。160善悪邪正を鏡にかけし如く明知し給ふ誠の神はいかで吾等を捨て給はむや。161自殺は罪悪中の罪悪なり。162貴神は何故に斯かる危急の場合に臨みて神に祈願せざるや』
163高倉別『アヽ貴神は竜山別殿、164俄の敵の襲来に心も眩み一身の処置に迷ひ、165神を忘れ道を忘れたるこそ我不覚、166恥かしさの限りなれ。167然らば仰せの如くこれより高楼に登り、168天地の神に祈願を凝らさむ』
169と悠々として高楼目がけて登り行く。
170 天津彦根神は数万の神軍を率ゐて勝に乗じ表門に迫り来たる。171館の老若男女は悲鳴をあげて前後左右に逃げ廻るにぞ勝誇つたる神軍は潮の如くに門内に乱れ入る。172奥殿の高楼には荘厳なる一絃琴の音爽かに天津祝詞の声清々しく響き居る。173天津彦根神は祝詞の声に心和ぎ茫然として耳を傾け聞き入りぬ。174暫くにして太刀、175弓矢を大地に投げ付け両手を拍つて共に神言を奏上する急変の態度に数多の戦士は、176大将軍のこの挙動に感染しけむ、177何れも武器を捨て大地に端坐して両手を拍ち天津祝詞を声高々と奏上する。
178 時置師神、179行平別神は宣伝歌を歌ひながら神軍の後方に立つて面白可笑くし手を振り足を轟かし歌ひ舞ふ。180秋月姫は高倉別、181竜山別を従へこの場に現はれ、182長袖しとやかに、
187と扇を開いて地踏み鳴らし舞ひ狂ひ玉ふ。188高倉別、189竜山別を初め神軍の大将天津彦根命、190時置師神、191行平別神は中央に現はれ、192秋月姫と諸共に手拍子足拍子を揃へ、193敵味方の区別も忘れて狂ふが如く踊り廻る。
194 この時天上に群がれる黒雲は科戸の風に吹き散りて、195天日の光晃々と輝き始め素盞嗚命の疑は全く晴れ渡つた。196天津彦根神は喜び勇むで数多の将卒を引連れ、197琵琶の湖を渡りて天教山に凱旋せり。198後に残りし時置師神、199行平別神は、200或は殺され或は負傷に悩む嶋人に一々伊吹の狭霧を施し、201死したる者を生かし傷つける者を癒やし、202焼けたる林は天の数歌を歌ひ上げて再旧の如く青々と緑の山に化せしめける。
203 茲にまた高光彦の宣伝使は時置師神、204行平別神と共に窃にこの嶋に現れ来り、205森林の中に身を潜めて天の数歌を歌ひこの惨状を平和に治めたる勇神なり。206秋月姫は高光彦と結婚の約を結び、207永くこの島に留まりて神業に参加し給ひぬ。208又、209中の弟玉光彦は瀬戸の海の一つ島なる深雪姫を娶り、210万寿山に立ち帰り父磐樟彦神の後継者となりて永遠に神業に参加し給ひけるとなむ。
211（大正一一・三・一一 旧二・一三 北村隆光録）
霊界物語.ネット～出口王仁三郎 大図書館～