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第64巻(卯の巻)上
序
総説
第1篇 日下開山
01 橄欖山
〔1630〕
02 宣伝使
〔1631〕
03 聖地夜
〔1632〕
04 訪問客
〔1633〕
05 至聖団
〔1634〕
第2篇 聖地巡拝
06 偶像都
〔1635〕
07 巡礼者
〔1636〕
08 自動車
〔1637〕
09 膝栗毛
〔1638〕
10 追懐念
〔1639〕
第3篇 花笑蝶舞
11 公憤私憤
〔1640〕
12 誘惑
〔1641〕
13 試練
〔1642〕
14 荒武事
〔1643〕
15 大相撲
〔1644〕
16 天消地滅
〔1645〕
第4篇 遠近不二
17 強請
〔1646〕
18 新聞種
〔1647〕
19 祭誤
〔1648〕
20 福命
〔1649〕
21 遍路
〔1650〕
22 妖行
〔1651〕
第5篇 山河異涯
23 暗着
〔1652〕
24 妖蝕
〔1653〕
25 地図面
〔1654〕
26 置去
〔1655〕
27 再転
〔1656〕
余白歌
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第六章
偶像都
(
ぐうざうのみやこ
)
〔一六三五〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第64巻上 山河草木 卯の巻上
篇:
第2篇 聖地巡拝
よみ(新仮名遣い):
せいちじゅんぱい
章:
第6章 偶像都
よみ(新仮名遣い):
ぐうぞうのみやこ
通し章番号:
1635
口述日:
1923(大正12)年07月11日(旧05月28日)
口述場所:
筆録者:
加藤明子
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1925(大正14)年10月16日
概要:
舞台:
エルサレム市街
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2017-11-25 18:18:34
OBC :
rm64a06
愛善世界社版:
71頁
八幡書店版:
第11輯 403頁
修補版:
校定版:
71頁
普及版:
62頁
初版:
ページ備考:
001
ブラバーサ、
002
マリヤの
二人
(
ふたり
)
は
又
(
また
)
もやエルサレムの
市街
(
しがい
)
を
巡覧
(
じゆんらん
)
し
始
(
はじ
)
め、
003
市内
(
しない
)
で
一番
(
いちばん
)
重要
(
ぢうえう
)
なモニユーメントになつて
居
(
ゐ
)
る
聖
(
せい
)
セバルクル
寺院
(
じゐん
)
を
見
(
み
)
るべく
寺門
(
じもん
)
を
潜
(
くぐ
)
りぬ。
004
マリヤ
『
聖師
(
せいし
)
様
(
さま
)
、
005
此
(
この
)
お
寺
(
てら
)
は
聖
(
せい
)
キリスト
様
(
さま
)
を
磔刑
(
はりつけ
)
に
処
(
しよ
)
した
場所
(
ばしよ
)
で、
006
ゴルゴタの
地
(
ち
)
の
上
(
うへ
)
に
建
(
た
)
てられてあるのだと
伝
(
つた
)
へられて
居
(
を
)
りますが、
007
併
(
しか
)
し
聖書
(
せいしよ
)
に
由
(
よ
)
つて
考
(
かんが
)
へてみると、
008
ゴルゴタは
市
(
し
)
の
外部
(
ぐわいぶ
)
に
存在
(
そんざい
)
して
居
(
ゐ
)
なければ
成
(
な
)
らぬ
筈
(
はず
)
です。
009
若
(
も
)
しも
現在
(
げんざい
)
の
城壁
(
じやうへき
)
が
当時
(
たうじ
)
のものよりも
拡張
(
くわくちやう
)
して
居
(
ゐ
)
るものとすれば、
010
問題
(
もんだい
)
にも
成
(
な
)
り
得
(
う
)
るでせうが、
011
同一
(
どういつ
)
の
場所
(
ばしよ
)
にありとすれば、
012
ダマスカスの
門
(
もん
)
の
外
(
そと
)
にある
一見
(
いつけん
)
頭骸骨
(
づがいこつ
)
状
(
じやう
)
の
目下
(
もくか
)
墓地
(
ぼち
)
になつて
居
(
ゐ
)
る
岩丘
(
がんきう
)
を
以
(
もつ
)
て、
013
ゴルゴタの
地
(
ち
)
と
認
(
みと
)
めなければ
成
(
な
)
らないと
思
(
おも
)
ひますわ』
014
ブラバーサ
『
吾々
(
われわれ
)
人間
(
にんげん
)
としては
到底
(
たうてい
)
真偽
(
しんぎ
)
は
判
(
わか
)
りませぬ。
015
大聖主
(
だいせいしゆ
)
が
御
(
ご
)
降臨
(
かうりん
)
の
上
(
うへ
)
御
(
お
)
定
(
さだ
)
めなさることでせう。
016
時
(
とき
)
に、
017
この
寺院
(
じゐん
)
の
由来
(
ゆらい
)
を
聞
(
き
)
かして
頂
(
いただ
)
き
度
(
た
)
いものですな』
018
マリヤ
『このお
寺
(
てら
)
の
由来
(
ゆらい
)
を
申
(
まを
)
せば、
019
コンスタンチン
帝
(
てい
)
の
命令
(
めいれい
)
に
由
(
よ
)
つて
発掘
(
はつくつ
)
された
結果
(
けつくわ
)
、
020
キリスト
様
(
さま
)
の
埋葬
(
まいさう
)
され
遊
(
あそ
)
ばした
洞窟
(
どうくつ
)
が
発見
(
はつけん
)
せられましたので、
021
帝
(
みかど
)
の
母上
(
ははうへ
)
なる
聖
(
せい
)
ヘレナ
様
(
さま
)
がエルサレムに
巡礼
(
じゆんれい
)
して
来
(
こ
)
られ、
022
爰
(
ここ
)
でキリストの
十字架
(
じふじか
)
を
発見
(
はつけん
)
しられたので、
023
弥
(
いよいよ
)
この
地
(
ち
)
をゴルゴタの
聖蹟
(
せいせき
)
と
認
(
みと
)
めて、
024
紀元
(
きげん
)
三百
(
さんびやく
)
三十六
(
さんじふろく
)
年
(
ねん
)
初
(
はじ
)
めてここに
寺院
(
じゐん
)
を
建立
(
こんりふ
)
されたと
云
(
い
)
ふことですが、
025
それを
又
(
また
)
六百
(
ろくぴやく
)
十四
(
じふよ
)
年
(
ねん
)
に
波斯人
(
ペルシヤじん
)
のために
焼亡
(
やきほろ
)
ぼされた
為
(
ため
)
、
026
直
(
ただち
)
に
改築
(
かいちく
)
をされましたと
云
(
い
)
ふことです。
027
その
後
(
のち
)
に
於
(
おい
)
ても
幾度
(
いくたび
)
となく
破壊
(
はくわい
)
改築
(
かいちく
)
修繕
(
しうぜん
)
等
(
とう
)
相次
(
あひつ
)
ぎ
今日
(
こんにち
)
に
至
(
いた
)
つたのだと
聞
(
き
)
いて
居
(
を
)
ります。
028
一度
(
いちど
)
お
寺
(
てら
)
の
内部
(
ないぶ
)
を
拝観
(
はいくわん
)
なさいませぬか。
029
妾
(
わたし
)
が
御
(
ご
)
案内
(
あんない
)
いたしますから』
030
ブラバーサ
『ハイ
有難
(
ありがた
)
う』
031
とマリヤの
後
(
あと
)
より
寺内
(
じない
)
へ
深
(
ふか
)
く
進
(
すす
)
み
入
(
い
)
る。
032
寺院内
(
じゐんない
)
へ
這入
(
はい
)
つて
見
(
み
)
ると、
033
迷宮
(
めいきう
)
の
様
(
やう
)
な
構造
(
こうざう
)
で
随分
(
ずゐぶん
)
複雑
(
ふくざつ
)
して
居
(
ゐ
)
て、
034
加
(
くは
)
ふるに
太陽
(
たいやう
)
の
光線
(
くわうせん
)
が
十分
(
じふぶん
)
徹
(
とほ
)
らない
薄暗闇
(
うすくらがり
)
で、
035
何
(
な
)
んとなく
寂
(
さび
)
しい
感
(
かん
)
じがする。
036
それぞれ
手
(
て
)
に
蝋燭
(
らふそく
)
を
携帯
(
けいたい
)
せなければ
成
(
な
)
らなくなつて
居
(
ゐ
)
る。
037
寺内
(
じない
)
の
空気
(
くうき
)
は
重
(
おも
)
くしめり
勝
(
がち
)
で
余
(
あま
)
り
気分
(
きぶん
)
の
良
(
い
)
い
所
(
ところ
)
ではない。
038
敷石
(
しきいし
)
は
全部
(
ぜんぶ
)
湿気
(
しつき
)
で
濡
(
ぬ
)
れて
居
(
ゐ
)
るため、
039
ウカウカして
居
(
ゐ
)
ると
脚下
(
あしもと
)
が
辷
(
すべ
)
つて
転倒
(
てんたう
)
せむとすること
屡
(
しばしば
)
である。
040
平和
(
へいわ
)
にして
清潔
(
せいけつ
)
なるものは
寺院
(
じゐん
)
だと
思
(
おも
)
つて
居
(
ゐ
)
た
高砂島
(
たかさごじま
)
の
明
(
あか
)
るい
生活
(
せいくわつ
)
に
馴
(
な
)
れたブラバーサの
心
(
こころ
)
に
取
(
と
)
つては
意外
(
いぐわい
)
の
感
(
かん
)
じに
襲
(
おそ
)
はれ、
041
危険
(
きけん
)
がチクチクと
身
(
み
)
に
迫
(
せま
)
る
様
(
やう
)
に
何
(
なん
)
となく
不安
(
ふあん
)
の
雲
(
くも
)
に
包
(
つつ
)
まれにける。
042
外
(
そと
)
のユダヤ
人街
(
じんがい
)
から
来
(
く
)
るのか、
043
内部
(
ないぶ
)
から
発
(
はつ
)
したのか
知
(
し
)
らぬが、
044
一種
(
いつしゆ
)
異様
(
いやう
)
の
厭
(
いや
)
な
臭気
(
しうき
)
が
襲
(
おそ
)
つて
来
(
く
)
る。
045
そして
内部
(
ないぶ
)
は
凡
(
すべ
)
てキリストの
磔刑
(
たくけい
)
に
関
(
くわん
)
するあらゆる
由緒
(
ゆいしよ
)
ある
場所
(
ばしよ
)
に
由
(
よ
)
つて
充
(
みた
)
されて
居
(
ゐ
)
て、
046
何
(
なん
)
となく
物悲
(
ものかな
)
しい
寂
(
さび
)
しい
感
(
かん
)
じを
与
(
あた
)
へる。
047
精霊
(
せいれい
)
が
八衢
(
やちまた
)
を
越
(
こ
)
えて
地獄
(
ぢごく
)
の
入口
(
いりぐち
)
に
達
(
たつ
)
した
時
(
とき
)
の
様
(
やう
)
な
気分
(
きぶん
)
になつて
来
(
く
)
る。
048
マリヤはブラバーサを
顧
(
かへり
)
みながら
初
(
はじ
)
めて
口
(
くち
)
を
開
(
ひら
)
き、
049
さも
愁
(
うれ
)
た
気
(
げ
)
に、
050
マリヤ
『
聖師
(
せいし
)
様
(
さま
)
、
051
この
長方形
(
ちやうはうけい
)
の
石
(
いし
)
はニコデモがキリスト
様
(
さま
)
の
体
(
からだ
)
に
油
(
あぶら
)
の
布
(
ぬの
)
を
以
(
もつ
)
て
捲
(
ま
)
くために
御
(
ご
)
身体
(
しんたい
)
をのせたと
伝
(
つた
)
へられるもので
御座
(
ござ
)
います。
052
これがヨセフの
墓
(
はか
)
で
此方
(
こちら
)
がアリマヂエの
墓
(
はか
)
で、
053
その
少
(
すこ
)
し
向
(
むか
)
ふにあるのはニコデモの
墓
(
はか
)
で
御座
(
ござ
)
いますよ。
054
そして
彼所
(
あすこ
)
がキリストの
復活
(
ふくくわつ
)
された
後
(
のち
)
母
(
はは
)
の
眼
(
め
)
に
現
(
あら
)
はれたまふたといふ
聖所
(
せいしよ
)
ですよ』
055
キリストを
刺
(
さ
)
した
鎗
(
やり
)
、
056
キリストを
投入
(
とうにふ
)
した
牢獄
(
らうごく
)
、
057
兵卒
(
へいそつ
)
がキリストの
衣
(
きぬ
)
をわかつた
場所
(
ばしよ
)
なぞ
一々
(
いちいち
)
叮嚀
(
ていねい
)
に
指
(
さ
)
し
示
(
しめ
)
すのであつた。
058
ブラバーサ
『
天下
(
てんか
)
万民
(
ばんみん
)
のために
犠牲
(
ぎせい
)
とお
成
(
な
)
り
下
(
くだ
)
さつた
救世主
(
きうせいしゆ
)
の
御
(
ご
)
遺跡
(
ゐせき
)
を
拝観
(
はいくわん
)
いたしまして、
059
何
(
なん
)
とも
言
(
い
)
ひ
得
(
え
)
ない
程
(
ほど
)
私
(
わたくし
)
は
御
(
ご
)
神徳
(
しんとく
)
を
頂
(
いただ
)
きました。
060
何時
(
いつ
)
の
世
(
よ
)
にも
善人
(
ぜんにん
)
は
俗悪
(
ぞくあく
)
世界
(
せかい
)
の
人間
(
にんげん
)
から
迫害
(
はくがい
)
されると
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
は
古今
(
ここん
)
一徹
(
いつてつ
)
ですな。
061
ルート・バハーの
大聖主
(
だいせいしゆ
)
も
肉体
(
にくたい
)
こそ
保存
(
ほぞん
)
されて
在
(
あ
)
りますが、
062
精神
(
せいしん
)
的
(
てき
)
に
牢獄
(
らうごく
)
に
投
(
な
)
げ
込
(
こ
)
まれ
銃剣
(
じうけん
)
にて
突
(
つ
)
き
刺
(
さ
)
され、
063
あらゆる
社会
(
しやくわい
)
の
侮辱
(
ぶじよく
)
と
嘲罵
(
てうば
)
とを
浴
(
あ
)
びせられ、
064
且
(
か
)
つ
大悪人
(
だいあくにん
)
の
如
(
ごと
)
く
扱
(
あつか
)
はれて
居
(
を
)
られますが、
065
何
(
ど
)
うか
一
(
いち
)
日
(
にち
)
も
早
(
はや
)
く
天晴
(
あつぱ
)
れ
世界
(
せかい
)
の
人類
(
じんるゐ
)
が
真
(
しん
)
の
救世主
(
きうせいしゆ
)
を
認
(
みと
)
める
様
(
やう
)
になつて
欲
(
ほ
)
しいもので
御座
(
ござ
)
いますよ。
066
ツルク
大聖主
(
だいせいしゆ
)
の
墓
(
はか
)
は
官憲
(
くわんけん
)
の
手
(
て
)
に
暴破
(
あばか
)
れ
聖壇
(
せいだん
)
は
破壊
(
はくわい
)
され
数多
(
あまた
)
の
聖教徒
(
せいけうと
)
は
圧迫
(
あつぱく
)
に
堪
(
た
)
へ
兼
(
か
)
ねて
四方
(
しはう
)
に
離散
(
りさん
)
し、
067
今
(
いま
)
は
純信
(
じゆんしん
)
な
神
(
かみ
)
に
生命
(
せいめい
)
を
捧
(
ささ
)
げたものばかりが
殉教
(
じゆんけう
)
的
(
てき
)
精神
(
せいしん
)
を
以
(
もつ
)
てウヅンバラ・チヤンダー
聖主
(
せいしゆ
)
夫妻
(
ふさい
)
を
唯一
(
ゆゐいつ
)
の
力
(
ちから
)
と
頼
(
たの
)
んで、
068
天下
(
てんか
)
万民
(
ばんみん
)
のために
熱烈
(
ねつれつ
)
なる
信仰
(
しんかう
)
を
続
(
つづ
)
けて
居
(
ゐ
)
るのです。
069
アヽ
惟神
(
かむながら
)
霊
(
たま
)
幸倍
(
ちはへ
)
坐世
(
ませ
)
』
070
マリヤは
涙
(
なみだ
)
に
暮
(
く
)
れながら、
071
聖師
(
せいし
)
の
先
(
さき
)
に
立
(
た
)
つてキリストの
十字架
(
じふじか
)
を
建
(
た
)
てた
正確
(
せいかく
)
な
地点
(
ちてん
)
や、
072
聖母
(
せいぼ
)
のマリヤが
十字架
(
じふじか
)
から
降
(
お
)
ろされたキリストの
亡骸
(
なきがら
)
を
受取
(
うけと
)
つた
場所
(
ばしよ
)
を
案内
(
あんない
)
するのであつた。
073
是
(
これ
)
等
(
ら
)
の
地点
(
ちてん
)
には、
074
それぞれそれに
因
(
ちな
)
んだ
名
(
な
)
を
附
(
ふ
)
したチヤペル(
礼拝堂
(
れいはいだう
)
)が
設
(
まう
)
けられありぬ。
075
マリヤ
『
是
(
これ
)
がアダムの
墓
(
はか
)
で
御座
(
ござ
)
いますが、
076
一番
(
いちばん
)
に
聖地
(
せいち
)
でも
不思議
(
ふしぎ
)
と
呼
(
よ
)
ばれて
居
(
を
)
ります。
077
そしてキリストの
聖
(
きよ
)
き
御
(
おん
)
血
(
ち
)
が
岩
(
いは
)
の
裂
(
わ
)
れ
目
(
め
)
からその
頭
(
あたま
)
に
浸
(
し
)
み
込
(
こ
)
むや
否
(
いな
)
や、
078
この
原人
(
げんじん
)
アダムは
忽
(
たちま
)
ち
蘇生
(
そせい
)
したと
言
(
い
)
ひ
伝
(
つた
)
へられて
居
(
を
)
るのですよ』
079
と
少
(
すこ
)
しく
怪
(
あや
)
し
気
(
げ
)
に
笑
(
わら
)
つて
居
(
ゐ
)
る。
080
ブラバーサは
感慨
(
かんがい
)
無量
(
むりやう
)
の
思
(
おも
)
ひに
充
(
み
)
ちて
一言
(
ひとこと
)
も
発
(
はつ
)
せず、
081
マリヤの
後
(
あと
)
から
心臓
(
しんざう
)
の
動悸
(
どうき
)
を
高
(
たか
)
め
乍
(
なが
)
ら
従
(
つ
)
いて
行
(
ゆ
)
く。
082
寺院
(
じゐん
)
の
東
(
ひがし
)
の
端
(
はし
)
の
方
(
はう
)
には
聖
(
せい
)
ヘレナの
礼拝堂
(
れいはいだう
)
が
建
(
た
)
つて
居
(
ゐ
)
る。
083
北
(
きた
)
の
神壇
(
しんだん
)
はキリストと
共
(
とも
)
に
十字架
(
じふじか
)
に
釘付
(
くぎつ
)
けられた
一人
(
ひとり
)
の
悔改
(
くいあらた
)
めたる
盗人
(
ぬすびと
)
のために
捧
(
ささ
)
げられたものだと
伝
(
つた
)
へて
居
(
ゐ
)
る。
084
主
(
おも
)
なる
神壇
(
しんだん
)
は
皇后
(
くわうごう
)
聖
(
せい
)
ヘレナのために
捧
(
ささ
)
げられたものと
伝
(
つた
)
へられて
居
(
ゐ
)
る。
085
その
側面
(
そくめん
)
を
地下
(
ちか
)
へ
十三段
(
じふさんだん
)
下
(
くだ
)
つた
処
(
ところ
)
に、
086
又
(
また
)
十字架
(
じふじか
)
発見
(
はつけん
)
のチヤペルが
建
(
た
)
てられて
居
(
ゐ
)
る。
087
茲
(
ここ
)
に
聖
(
せい
)
ヘレナが
夢
(
ゆめ
)
の
啓示
(
けいじ
)
に
由
(
よ
)
つて
三
(
みつ
)
つの
十字架
(
じふじか
)
を
発見
(
はつけん
)
したと
云
(
い
)
ふ。
088
ブラバーサ
『
聖
(
せい
)
ヘレナ
様
(
さま
)
が
夢
(
ゆめ
)
の
啓示
(
けいじ
)
に
由
(
よ
)
つて
三
(
みつ
)
つの
十字架
(
じふじか
)
を
発見
(
はつけん
)
されまして、
089
爰
(
ここ
)
にチヤペルをお
建
(
た
)
てになつたのですが、
090
その
発見
(
はつけん
)
された
三
(
みつ
)
つの
内
(
うち
)
でも
何
(
いづ
)
れがキリストの
架
(
か
)
けられた
十字架
(
じふじか
)
だか
分
(
わか
)
らなかつたので、
091
そこで
一
(
ひと
)
つ
一
(
ひと
)
つ
大病人
(
だいびやうにん
)
に
触
(
ふ
)
れさせて
試
(
こころ
)
みた
所
(
ところ
)
、
092
その
中
(
なか
)
の
一
(
ひと
)
つが
病人
(
びやうにん
)
を
癒
(
なほ
)
したのでそれをキリストのものとして
保存
(
ほぞん
)
されてあると
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
で
御座
(
ござ
)
います。
093
そしてキリストの
縛
(
しば
)
り
付
(
つ
)
けられなさつた
円柱
(
ゑんちう
)
が
在
(
あ
)
るのですが、
094
併
(
しか
)
しそれは
神壇
(
しんだん
)
の
壁
(
かべ
)
の
奥
(
おく
)
に
深
(
ふか
)
く
隠
(
かく
)
れて
居
(
ゐ
)
るので
容易
(
ようい
)
に
拝
(
はい
)
することは
出来
(
でき
)
ないのです。
095
所
(
ところ
)
がその
壁
(
かべ
)
には
丸
(
まる
)
い
穴
(
あな
)
があいて
居
(
ゐ
)
て、
096
信心
(
しんじん
)
の
深
(
ふか
)
い
礼拝者
(
れいはいしや
)
はそこにおいてある
摺子木
(
すりこぎ
)
様
(
やう
)
の
棒
(
ぼう
)
をその
穴
(
あな
)
に
差
(
さ
)
し
込
(
こ
)
み、
097
その
円柱
(
ゑんちゆう
)
にふれて
棒
(
ぼう
)
に
接吻
(
せつぷん
)
するのです。
098
サア
是
(
これ
)
からキリスト
様
(
さま
)
の
御
(
お
)
墓
(
はか
)
を
御
(
ご
)
案内
(
あんない
)
申
(
まを
)
し
上
(
あ
)
げませう』
099
とマリアは
前導
(
ぜんだう
)
に
立
(
た
)
ちて
奥
(
おく
)
へ
奥
(
おく
)
へと
進
(
すす
)
み
入
(
い
)
る。
100
寺
(
てら
)
の
中央
(
ちうあう
)
に
独立
(
どくりつ
)
した
長方形
(
ちやうはうけい
)
の
大理石
(
だいりせき
)
で
造
(
つく
)
られたキリストの
墓
(
はか
)
の
前
(
まへ
)
についた。
101
両人
(
りやうにん
)
は
恭敬
(
きようけい
)
礼拝
(
らいはい
)
稍
(
やや
)
久
(
ひさ
)
しふして
救世主
(
きうせいしゆ
)
を
追慕
(
つゐぼ
)
する
念
(
ねん
)
に
打
(
う
)
たれ、
102
思
(
おも
)
はず
知
(
し
)
らず
落涙
(
らくるい
)
して
居
(
ゐ
)
る。
103
沢山
(
たくさん
)
な
古風
(
こふう
)
を
帯
(
おび
)
た
燭灯
(
しよくとう
)
に
由
(
よ
)
つて
照
(
てら
)
され、
104
十八本
(
じふはちほん
)
の
柱
(
はしら
)
から
成
(
な
)
つた
円形
(
ゑんけい
)
の
建築
(
けんちく
)
の
中
(
なか
)
に
置
(
お
)
かれてある。
105
そこに
一人
(
ひとり
)
の
番僧
(
ばんそう
)
が
居
(
ゐ
)
て、
106
マリヤ
『
良
(
よ
)
くこそ
御
(
ご
)
参拝
(
さんぱい
)
に
成
(
な
)
りました。
107
どうかキリスト
様
(
さま
)
の
御
(
お
)
墓
(
はか
)
へ
御
(
お
)
賽銭
(
さいせん
)
をお
上
(
あ
)
げ
成
(
な
)
さいませ。
108
後生
(
ごしやう
)
のため
現世
(
げんせ
)
の
幸福
(
かうふく
)
のためで
御座
(
ござ
)
います』
109
と
抜目
(
ぬけめ
)
なき
言葉
(
ことば
)
でお
賽銭
(
さいせん
)
を
強要
(
きやうえう
)
して
居
(
ゐ
)
る。
110
ブラバーサは
心
(
こころ
)
の
内
(
うち
)
にて、
111
ブラバーサ
『アヽ
聖
(
せい
)
キリスト
様
(
さま
)
もお
気
(
き
)
の
毒
(
どく
)
だ。
112
賤
(
いや
)
しき
番僧
(
ばんそう
)
等
(
たち
)
の
糊口
(
ここう
)
の
種
(
たね
)
に
使
(
つか
)
はれたまふか。
113
世
(
よ
)
は
実
(
じつ
)
に
澆季
(
げうき
)
末法
(
まつぽふ
)
だなア』
114
と
歎息
(
たんそく
)
しながら
懐中
(
くわいちう
)
を
探
(
さぐ
)
つて
少
(
すこ
)
しばかりの
賽銭
(
さいせん
)
を
墓
(
はか
)
の
前
(
まへ
)
に
捧
(
ささ
)
げた。
115
番僧
(
ばんそう
)
は
餓虎
(
がこ
)
の
如
(
ごと
)
く
其
(
その
)
場
(
ば
)
で
賽銭
(
さいせん
)
を
拾
(
ひろ
)
ひ
上
(
あ
)
げ、
116
懐中
(
くわいちゆう
)
へ
隠
(
かく
)
して
了
(
しま
)
つた。
117
マリヤ
『この
寺院内
(
じゐんない
)
の
各種
(
かくしゆ
)
のチヤペルや
墓
(
はか
)
や、
118
神壇
(
しんだん
)
や
其
(
その
)
他
(
た
)
寺内
(
じない
)
の
各部分
(
かくぶぶん
)
、
119
又
(
また
)
は
聖
(
きよ
)
き
墓
(
はか
)
を
照
(
てら
)
して
居
(
ゐ
)
るランプに
至
(
いた
)
るまで、
120
ギリシヤ・オルソドツクス
及
(
およ
)
びローマ・カトリックや
其
(
その
)
他
(
た
)
アルメニヤ
派
(
は
)
の
間
(
あひだ
)
にそれぞれ
所有
(
しよいう
)
がきまつて
居
(
ゐ
)
るのです。
121
それは
此
(
この
)
お
寺
(
てら
)
ばかりでは
無
(
な
)
く、
122
エルサレムの
内外
(
ないぐわい
)
に
散在
(
さんざい
)
して
居
(
ゐ
)
る
宗教
(
しうけう
)
上
(
じやう
)
の
由緒
(
ゆいしよ
)
ある
場所
(
ばしよ
)
に
付
(
つ
)
いても
同様
(
どうやう
)
です。
123
実
(
じつ
)
に
皮肉
(
ひにく
)
なアイロニーぢやありませぬか。
124
そしてこのお
寺
(
てら
)
が
彼
(
か
)
の
有名
(
いうめい
)
な
十字軍
(
じふじぐん
)
の
戦争
(
せんそう
)
の
目的物
(
もくてきぶつ
)
であつたのです。
125
「
聖墓
(
せいぼ
)
を
記憶
(
きおく
)
せよ」との
声
(
こゑ
)
は、
126
第二回
(
だいにくわい
)
十字軍
(
じふじぐん
)
の
出征
(
しゆつせい
)
に
際
(
さい
)
して
欧羅巴
(
ヨーロツパ
)
諸国
(
しよこく
)
の
町々
(
まちまち
)
や
村落
(
そんらく
)
を
通
(
つう
)
じての
叫
(
さけ
)
びだつたので
御座
(
ござ
)
います』
127
ブラバーサ
『
欧州
(
おうしう
)
の
国々
(
くにぐに
)
が
聖墓
(
せいぼ
)
を
慕
(
した
)
つて
十字軍
(
じふじぐん
)
まで
起
(
おこ
)
した
時代
(
じだい
)
は、
128
その
信仰
(
しんかう
)
も
至
(
いた
)
つて
熱烈
(
ねつれつ
)
なものだつた
様
(
やう
)
ですが、
129
今日
(
こんにち
)
では
最早
(
もはや
)
信仰
(
しんかう
)
も
堕落
(
だらく
)
して
了
(
しま
)
つて
物質
(
ぶつしつ
)
的
(
てき
)
観念
(
かんねん
)
のみ
盛
(
さか
)
んになつて
来
(
き
)
ました
為
(
ため
)
に、
130
斯
(
かか
)
る
聖地
(
せいち
)
の
聖蹟
(
せいせき
)
も
余
(
あま
)
り
世人
(
せじん
)
に
顧
(
かへり
)
みられない
様
(
やう
)
ですなア。
131
時節
(
じせつ
)
には
神
(
かみ
)
も
叶
(
かな
)
はぬとルート・バハーの
教
(
をしへ
)
にも
示
(
しめ
)
されて
在
(
あ
)
りますが、
132
一
(
いち
)
時
(
じ
)
も
早
(
はや
)
く
聖
(
せい
)
キリストの
再臨
(
さいりん
)
されて
聖地
(
せいち
)
をして
太古
(
たいこ
)
の
隆盛
(
りうせい
)
に
復活
(
ふくくわつ
)
させ、
133
世界
(
せかい
)
万民
(
ばんみん
)
を
安養
(
あんやう
)
浄土
(
じやうど
)
の
悦落
(
えつらく
)
に
浴
(
よく
)
せしめ、
134
キリストの
恩恵
(
おんけい
)
を
悟
(
さと
)
らせ
度
(
た
)
きものですなア』
135
マリヤ
『
左様
(
さやう
)
で
御座
(
ござ
)
います。
136
妾
(
わたし
)
の
加入
(
かにふ
)
して
居
(
ゐ
)
ます
聖団
(
せいだん
)
は
只々
(
ただただ
)
キリスト・メシヤの
再臨
(
さいりん
)
のみを
待
(
ま
)
つて
居
(
ゐ
)
るのです。
137
一
(
いち
)
時
(
じ
)
も
早
(
はや
)
く
高砂島
(
たかさごじま
)
とやらに
再誕
(
さいたん
)
されたメシヤの
此
(
この
)
地
(
ち
)
に
再臨
(
さいりん
)
して
下
(
くだ
)
さる
事
(
こと
)
が
待
(
ま
)
ち
遠
(
どほ
)
しく
成
(
な
)
つて
参
(
まゐ
)
りましたわ』
138
是
(
これ
)
より
両人
(
りやうにん
)
は
寺門
(
じもん
)
を
出
(
で
)
て
市街
(
しがい
)
を
歩行
(
ほかう
)
し
初
(
はじ
)
めた。
139
肉屋
(
にくや
)
や
野菜物
(
やさいもの
)
店
(
てん
)
や、
140
其
(
その
)
他
(
た
)
土地
(
とち
)
にふさはしい
物
(
もの
)
を
売
(
う
)
つて
居
(
ゐ
)
る
雑貨店
(
ざつくわてん
)
等
(
とう
)
が、
141
みつしりと
軒
(
のき
)
を
並
(
なら
)
べて
居
(
ゐ
)
る
狭
(
せま
)
いオリエルタルな
通
(
とほ
)
りを
過
(
す
)
ぎて
所謂
(
いはゆる
)
「
苦痛
(
くつう
)
の
路
(
みち
)
」へ
出
(
で
)
た。
142
マリヤ
『
聖師
(
せいし
)
様
(
さま
)
、
143
ここは
苦痛
(
くつう
)
の
路
(
みち
)
と
謂
(
い
)
つてキリスト
様
(
さま
)
がピラトの
宮殿
(
きうでん
)
からゴルゴタの
地
(
ち
)
即
(
すなは
)
ち
今
(
いま
)
の
聖
(
せい
)
セバルクル
迄
(
まで
)
歩
(
あゆ
)
ませられたと
伝
(
つた
)
ふる
旧蹟
(
きうせき
)
で
御座
(
ござ
)
います。
144
そして
此
(
この
)
路
(
みち
)
の
上
(
うへ
)
には
十四
(
じふし
)
の
地点
(
ちてん
)
が
指定
(
してい
)
されてあります。
145
サア
是
(
これ
)
から
一々
(
いちいち
)
御
(
ご
)
案内
(
あんない
)
申
(
まを
)
しませう』
146
と
前
(
まへ
)
に
立
(
た
)
ちて
進
(
すす
)
む。
147
ブラバーサは「
成
(
な
)
る
程
(
ほど
)
成
(
な
)
る
程
(
ほど
)
」とうなづき、
148
趣味
(
しゆみ
)
深
(
ふか
)
く
味
(
あぢ
)
はひながらついて
行
(
ゆ
)
く。
149
マリヤ
『
爰
(
ここ
)
がキリスト
様
(
さま
)
が
磔刑
(
はりつけ
)
の
宣告
(
せんこく
)
を
受
(
う
)
けたまふた
悲
(
かな
)
しい
場所
(
ばしよ
)
で
御座
(
ござ
)
います。
150
その
次
(
つぎ
)
が
十字架
(
じふじか
)
を
負
(
お
)
はせ
奉
(
まつ
)
つた
場所
(
ばしよ
)
です。
151
この
東側
(
ひがしがは
)
のチヤペルを
拝
(
はい
)
して
御覧
(
ごらん
)
なさいませ。
152
其
(
その
)
時
(
とき
)
の
光景
(
くわうけい
)
がチヤンと
浮彫
(
うきぼり
)
で
以
(
もつ
)
て
現
(
あら
)
はしてあります』
153
と
話
(
はな
)
しながらズンズンと
歩
(
あゆ
)
みを
進
(
すす
)
め、
154
マリヤ
『
爰
(
ここ
)
がキリスト
様
(
さま
)
が
母上
(
ははうへ
)
様
(
さま
)
に
会見
(
くわいけん
)
遊
(
あそ
)
ばした
所
(
ところ
)
で、
155
熱烈
(
ねつれつ
)
な
信徒
(
しんと
)
の
立止
(
たちど
)
まつて
動
(
うご
)
かない
地点
(
ちてん
)
で
御座
(
ござ
)
います。
156
彼所
(
あすこ
)
に「
此
(
この
)
人
(
ひと
)
を
見
(
み
)
よ」のアーチが
御座
(
ござ
)
いませう。
157
あれはピラトの
訊問
(
じんもん
)
を
受
(
う
)
けた
後
(
あと
)
にキリスト
様
(
さま
)
がユダヤ
人
(
じん
)
の
群集
(
ぐんしふ
)
の
前
(
まへ
)
に
引出
(
ひきいだ
)
され
種々
(
しゆじゆ
)
の
迫害
(
はくがい
)
と
嘲罵
(
てうば
)
とを
受
(
う
)
けたまふた
所
(
ところ
)
です』
158
と
涙
(
なみだ
)
ぐまし
気
(
げ
)
にそろそろと
歩
(
あゆ
)
みながら、
159
後
(
あと
)
ふり
返
(
かへ
)
つてはブラバーサの
顔
(
かほ
)
を
見詰
(
みつ
)
めて、
160
マリヤ
『イエス
荊
(
いばら
)
の
冕
(
かんむり
)
を
被
(
か
)
ぶり
紫
(
むらさき
)
の
袍
(
はう
)
を
着
(
き
)
て
外
(
そと
)
に
出
(
い
)
づ。
161
ピラト
彼
(
かれ
)
等
(
ら
)
に
曰
(
い
)
ひけるは「
見
(
み
)
よ
是
(
これ
)
人
(
ひと
)
の
子
(
こ
)
也
(
なり
)
」と
馬太伝
(
またいでん
)
に
誌
(
しる
)
されてある
事実
(
じじつ
)
で、
162
キリスト
様
(
さま
)
が
二度目
(
にどめ
)
に
倒
(
たふ
)
れたまふた
地点
(
ちてん
)
は
爰
(
ここ
)
だと
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
です。
163
そしてキリスト
様
(
さま
)
に
従
(
したが
)
つて
来
(
き
)
たと
話
(
はな
)
された
地点
(
ちてん
)
は
爰
(
ここ
)
ですわ。
164
このチヤペルにチヤンと
彫込
(
ほりこ
)
んであります』
165
と
叮嚀
(
ていねい
)
親切
(
しんせつ
)
に
案内
(
あんない
)
したりける。
166
○
167
キリスト
教
(
けう
)
の
偶像
(
ぐうざう
)
を
以
(
もつ
)
て
飾
(
かざ
)
られたる
聖地
(
せいち
)
エルサレムは、
168
異教徒
(
いけうと
)
の
場合
(
ばあひ
)
よりも
勝
(
まさ
)
つてブラバーサの
心
(
こころ
)
を
痛
(
いた
)
めしめたのは、
169
後世
(
こうせい
)
の
僧侶
(
そうりよ
)
輩
(
はい
)
が
聖書
(
せいしよ
)
に
録
(
しる
)
されたる
一々
(
いちいち
)
の
場所
(
ばしよ
)
や
由緒
(
ゆいしよ
)
なぞを
捏造
(
ねつざう
)
して、
170
巡礼者
(
じゆんれいしや
)
の
財布
(
さいふ
)
をねらつて
居
(
ゐ
)
ることである。
171
一寸
(
ちよつと
)
見
(
み
)
ると
単純
(
たんじゆん
)
なる
信仰
(
しんかう
)
の
発露
(
はつろ
)
だらうと、
172
神直日
(
かむなほひ
)
大直日
(
おほなほひ
)
に
見直
(
みなほ
)
し
聞直
(
ききなほ
)
し
宣
(
の
)
り
直
(
なほ
)
すことも
吾々
(
われわれ
)
に
採
(
と
)
つては
出来得
(
できえ
)
ない
事
(
こと
)
も
無
(
な
)
いが、
173
一般
(
いつぱん
)
の
信仰
(
しんかう
)
なき
民衆
(
みんしう
)
やデモ
基督
(
キリスト
)
教徒
(
けうと
)
の
眼
(
まなこ
)
には
却
(
かへ
)
つて
不快
(
ふくわい
)
に
感
(
かん
)
ずるものたる
事
(
こと
)
を
恐
(
おそ
)
れたのである。
174
又
(
また
)
後世
(
こうせい
)
の
僧侶
(
そうりよ
)
や
信者
(
しんじや
)
がその
内部
(
ないぶ
)
的
(
てき
)
知識
(
ちしき
)
に
空
(
くう
)
なるがため、
175
外部
(
ぐわいぶ
)
に
徴
(
しるし
)
を
求
(
もと
)
めむとして
居
(
ゐ
)
る
事
(
こと
)
の
嘆
(
たん
)
ずべき
一
(
ひと
)
つの
証拠
(
しようこ
)
では
有
(
あ
)
るまいか。
176
アヽ
後世
(
こうせい
)
まで
唯一
(
ゆゐいつ
)
の
遺宝
(
ゐはう
)
たる
福音書
(
ふくいんしよ
)
の
中
(
なか
)
に
彼
(
か
)
れ
自身
(
じしん
)
の
姿
(
すがた
)
を
認
(
みと
)
め、
177
それから
霊泉
(
れいせん
)
を
汲
(
く
)
み
得
(
う
)
ることの
出来
(
でき
)
ない
信徒
(
しんと
)
等
(
ら
)
の
心
(
こころ
)
の
淋
(
さび
)
しさより、
178
斯様
(
かやう
)
な
偶像
(
ぐうざう
)
を
作
(
つく
)
り
出
(
だ
)
してせめてもの
慰安
(
ゐあん
)
の
料
(
れう
)
にして
居
(
ゐ
)
るのでは
有
(
あ
)
るまいか、
179
なぞと
又
(
また
)
もや
心
(
こころ
)
の
内
(
うち
)
にて
長大
(
ちやうだい
)
嘆息
(
たんそく
)
をして
居
(
ゐ
)
る。
180
マリヤ
『
聖師
(
せいし
)
様
(
さま
)
、
181
沢山
(
たくさん
)
の
偶像
(
ぐうざう
)
的
(
てき
)
事物
(
じぶつ
)
を
御覧
(
ごらん
)
になつて
非常
(
ひじやう
)
に
嘆息
(
たんそく
)
されて
居
(
ゐ
)
る
様
(
やう
)
で
御座
(
ござ
)
いますが、
182
何時
(
いつ
)
の
世
(
よ
)
にも
聖
(
せい
)
キリスト
様
(
さま
)
は
正
(
ただ
)
しくは
信仰
(
しんかう
)
され、
183
又
(
また
)
理解
(
りかい
)
されなかつた
様
(
やう
)
で
御座
(
ござ
)
います。
184
キリスト
様
(
さま
)
が
迫害
(
はくがい
)
されなさつた
当時
(
たうじ
)
と、
185
今日
(
こんにち
)
とを
問
(
と
)
はず、
186
世間
(
せけん
)
から
誤解
(
ごかい
)
されて
居
(
を
)
られます。
187
そして
普
(
あまね
)
く
世界
(
せかい
)
から
崇敬
(
すうけい
)
され
玉
(
たま
)
ふ
様
(
やう
)
になつた
後
(
のち
)
の
世
(
よ
)
は
真
(
しん
)
のキリスト
様
(
さま
)
では
無
(
な
)
くて
人間
(
にんげん
)
が
勝手
(
かつて
)
にキリスト
様
(
さま
)
に
似
(
に
)
せて
作
(
つく
)
つた
偶像
(
ぐうざう
)
を
崇
(
あが
)
め、
188
キリスト
教
(
けう
)
そのものを
信
(
しん
)
ずる
代
(
かは
)
りに、
189
それから
流
(
なが
)
れ
出
(
い
)
づる
美
(
うつく
)
しい
果実
(
くわじつ
)
のみを
夫
(
それ
)
と
誤認
(
ごにん
)
して
了
(
しま
)
ひ、
190
終
(
つひ
)
にキリスト
教
(
けう
)
は
肝心
(
かんじん
)
の
精神
(
せいしん
)
を
失
(
うしな
)
ひ
神
(
かみ
)
の
国
(
くに
)
の
教
(
をしへ
)
である
代
(
かは
)
りにそれは
良
(
よ
)
き
意味
(
いみ
)
に
於
(
おい
)
てではありますが、
191
地上
(
ちじやう
)
の
幸福
(
かうふく
)
をもたらす
手段
(
しゆだん
)
と
堕落
(
だらく
)
して
了
(
しま
)
つたので
御座
(
ござ
)
います。
192
夫
(
そ
)
れゆゑ
妾
(
わたし
)
も
此
(
こ
)
の
聖地
(
せいち
)
が
偶像
(
ぐうざう
)
のみにて
充
(
み
)
たされ
飾
(
かざ
)
られ、
193
真
(
しん
)
のキリスト
様
(
さま
)
を
認識
(
にんしき
)
し
得
(
え
)
ない
事
(
こと
)
の
矛盾
(
むじゆん
)
を
悲
(
かな
)
しむので
御座
(
ござ
)
います』
194
と
悔
(
く
)
やみながらマリヤは
猶
(
なほ
)
も
市中
(
しちう
)
を
歩
(
あゆ
)
み
続
(
つづ
)
ける。
195
(
大正一二・七・一一
旧五・二八
加藤明子
録)
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