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天祥地瑞
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第64巻(卯の巻)上
序
総説
第1篇 日下開山
01 橄欖山
〔1630〕
02 宣伝使
〔1631〕
03 聖地夜
〔1632〕
04 訪問客
〔1633〕
05 至聖団
〔1634〕
第2篇 聖地巡拝
06 偶像都
〔1635〕
07 巡礼者
〔1636〕
08 自動車
〔1637〕
09 膝栗毛
〔1638〕
10 追懐念
〔1639〕
第3篇 花笑蝶舞
11 公憤私憤
〔1640〕
12 誘惑
〔1641〕
13 試練
〔1642〕
14 荒武事
〔1643〕
15 大相撲
〔1644〕
16 天消地滅
〔1645〕
第4篇 遠近不二
17 強請
〔1646〕
18 新聞種
〔1647〕
19 祭誤
〔1648〕
20 福命
〔1649〕
21 遍路
〔1650〕
22 妖行
〔1651〕
第5篇 山河異涯
23 暗着
〔1652〕
24 妖蝕
〔1653〕
25 地図面
〔1654〕
26 置去
〔1655〕
27 再転
〔1656〕
余白歌
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> 第4篇 遠近不二 > 第18章 新聞種
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(N)
祭誤 >>>
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第一八章
新聞種
(
しんぶんだね
)
〔一六四七〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第64巻上 山河草木 卯の巻上
篇:
第4篇 遠近不二
よみ(新仮名遣い):
えんきんふじ
章:
第18章 新聞種
よみ(新仮名遣い):
しんぶんだね
通し章番号:
1647
口述日:
1923(大正12)年07月13日(旧05月30日)
口述場所:
筆録者:
松村真澄
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1925(大正14)年10月16日
概要:
舞台:
バハイ教のチャーチ
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2020-05-24 12:11:23
OBC :
rm64a18
愛善世界社版:
210頁
八幡書店版:
第11輯 456頁
修補版:
校定版:
210頁
普及版:
62頁
初版:
ページ備考:
001
ヨルダン
河
(
がは
)
の
河縁
(
かはべり
)
に
新
(
あたら
)
しく
建
(
た
)
つたバハイ
教
(
けう
)
のチヤーチがある。
002
そこには、
003
バハーウラーが
足
(
あし
)
を
止
(
とど
)
めて、
004
各国人
(
かくこくじん
)
に
対
(
たい
)
し、
005
バハイ
教
(
けう
)
を
宣伝
(
せんでん
)
してゐた。
006
次
(
つぎ
)
から
次
(
つぎ
)
へ
聞
(
き
)
き
伝
(
つた
)
へて
救世主
(
きうせいしゆ
)
の
再臨
(
さいりん
)
の
如
(
ごと
)
く、
007
聖地
(
せいち
)
に
集
(
あつ
)
まる
各国人
(
かくこくじん
)
はその
教
(
をしへ
)
を
聴
(
き
)
かむと、
008
昼
(
ひる
)
となく
夜
(
よる
)
となく
可
(
か
)
なりに
集
(
あつ
)
まつて
来
(
き
)
た。
009
サロメもヤコブとの
恋愛
(
れんあい
)
関係
(
くわんけい
)
より
両親
(
りやうしん
)
と
意見
(
いけん
)
合
(
あ
)
はず、
010
此
(
この
)
チヤーチに
隠
(
かく
)
れてバハイの
教
(
をしへ
)
を
研究
(
けんきう
)
してゐた。
011
ヨルダン
河
(
かは
)
は
朝霧
(
あさぎり
)
立
(
た
)
ち
昇
(
のぼ
)
り、
012
余
(
あま
)
り
広
(
ひろ
)
からぬ
向
(
むか
)
ふ
岸
(
ぎし
)
の
樹木
(
じゆもく
)
さへも
見
(
み
)
えない
迄
(
まで
)
に
濃霧
(
のうむ
)
に
包
(
つつ
)
まれてゐる。
013
川
(
かは
)
べりの
窓
(
まど
)
をあけて
水
(
みづ
)
の
流
(
なが
)
れを
打見
(
うちみ
)
やりながら、
014
バハーウラーと
共
(
とも
)
に
世間話
(
せけんばなし
)
に
耽
(
ふけ
)
つてゐる。
015
サロメは、
016
サロメ
『
聖師
(
せいし
)
様
(
さま
)
、
017
此
(
この
)
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
に
最
(
もつと
)
も
幸福
(
かうふく
)
な
人
(
ひと
)
と
云
(
い
)
へば
如何
(
いか
)
なる
人
(
ひと
)
で
御座
(
ござ
)
いませうか』
018
バハーウラー
『
一般
(
いつぱん
)
の
人
(
ひと
)
は
一国
(
いつこく
)
の
主権者
(
しゆけんしや
)
となり、
019
或
(
あるひ
)
は
貴族
(
きぞく
)
生活
(
せいくわつ
)
をして
道
(
みち
)
を
行
(
ゆ
)
くにも
馬車
(
ばしや
)
自動車
(
じどうしや
)
に
乗
(
の
)
り、
020
何一
(
なにひと
)
つ
不自由
(
ふじゆう
)
なく
安楽
(
あんらく
)
に
暮
(
くら
)
す
者
(
もの
)
を
最
(
もつと
)
も
幸福者
(
かうふくもの
)
として
居
(
を
)
りますが、
021
私
(
わたし
)
なんかは、
022
世界
(
せかい
)
人類
(
じんるゐ
)
を
救済
(
きうさい
)
する
聖
(
きよ
)
き
神
(
かみ
)
の
使
(
つかひ
)
となる
位
(
くらゐ
)
、
023
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
に
幸福
(
かうふく
)
な
者
(
もの
)
はないと
思
(
おも
)
ひます。
024
そして
夫婦
(
ふうふ
)
睦
(
むつ
)
まじく、
025
二三
(
にさん
)
人
(
にん
)
の
子
(
こ
)
を
生
(
う
)
んで
其
(
その
)
子
(
こ
)
も
親
(
おや
)
も
同
(
おな
)
じ
神
(
かみ
)
さまの
道
(
みち
)
に、
026
一身
(
いつしん
)
を
捧
(
ささ
)
げて
信仰
(
しんかう
)
する
人
(
ひと
)
の
家庭
(
かてい
)
位
(
くらゐ
)
幸福
(
かうふく
)
なものはなからうと
考
(
かんが
)
へます』
027
サロメ
『
成程
(
なるほど
)
、
028
妾
(
わたし
)
も
御存
(
ごぞん
)
じの
通
(
とほ
)
り、
029
貴族
(
きぞく
)
の
家
(
いへ
)
に
生
(
うま
)
れ、
030
ウルサイ
虚礼虚式
(
きよれいきよしき
)
に
束縛
(
そくばく
)
され、
031
少
(
すこ
)
しも
自由
(
じいう
)
の
行動
(
かうどう
)
は
出来
(
でき
)
ず、
032
殆
(
ほとん
)
ど
慈悲
(
じひ
)
の
牢獄
(
らうごく
)
に
投
(
とう
)
ぜられたやうなもので
御座
(
ござ
)
いました。
033
其
(
その
)
苦痛
(
くつう
)
に
堪
(
た
)
へかねて、
034
筆墨
(
ひつぼく
)
に
親
(
したし
)
み、
035
下
(
くだ
)
らぬ
小説
(
せうせつ
)
を
書
(
か
)
いたり
歌
(
うた
)
などをよんで、
036
悶々
(
もんもん
)
の
情
(
じやう
)
を
消
(
け
)
さむと
努
(
つと
)
めてゐましたが、
037
小説
(
せうせつ
)
を
一
(
ひと
)
つ
書
(
か
)
いても
身
(
み
)
の
生
(
うま
)
れが
貴族
(
きぞく
)
の
為
(
ため
)
に、
038
あちらにつかへ、
039
此方
(
こちら
)
につかへ、
040
思
(
おも
)
ふやうに
筆
(
ふで
)
を
走
(
はし
)
らすことも
出来
(
でき
)
ないので、
041
本当
(
ほんたう
)
に
人生
(
じんせい
)
貴族
(
きぞく
)
となる
勿
(
なか
)
れといふ
言
(
こと
)
を
深
(
ふか
)
く
味
(
あぢ
)
はひました。
042
それから
無理解
(
むりかい
)
な
親
(
おや
)
兄弟
(
きやうだい
)
の
圧迫
(
あつぱく
)
によつて、
043
素性
(
すじやう
)
卑
(
いや
)
しき
毘舎
(
びしや
)
の
妻
(
つま
)
として
追
(
おひ
)
やられ、
044
十
(
じふ
)
年
(
ねん
)
が
間
(
あひだ
)
あるにあられぬ
苦痛
(
くつう
)
と
不愉快
(
ふゆくわい
)
を
忍
(
しの
)
んで
参
(
まゐ
)
りましたが、
045
とうと
居
(
ゐ
)
たたまらなくなつて、
046
毘舎
(
びしや
)
の
家
(
いへ
)
を
飛
(
と
)
び
出
(
だ
)
し、
047
自分
(
じぶん
)
に
同情
(
どうじやう
)
をしてくれる
男
(
をとこ
)
の
方
(
はう
)
へ
走
(
はし
)
つたので
御座
(
ござ
)
いますが、
048
之
(
これ
)
も
又
(
また
)
ウルサイこつて
御座
(
ござ
)
います。
049
どうしたら
天下
(
てんか
)
晴
(
は
)
れての
夫婦
(
ふうふ
)
になれるであらうかと、
050
いろいろと
心
(
こころ
)
を
痛
(
いた
)
めましたが、
051
モウ
此
(
この
)
上
(
うへ
)
は
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
のお
力
(
ちから
)
を
借
(
か
)
りるより
仕方
(
しかた
)
がないと
存
(
ぞん
)
じまして、
052
バハイ
教
(
けう
)
の
教
(
をしへ
)
を
信仰
(
しんかう
)
することになつたので
御座
(
ござ
)
います。
053
本当
(
ほんたう
)
に
不運
(
ふうん
)
な
生付
(
うまれつき
)
で
御座
(
ござ
)
います』
054
バハーウラー
『
成程
(
なるほど
)
、
055
貴女
(
あなた
)
のお
考
(
かんが
)
へも
強
(
あなが
)
ち
無理
(
むり
)
ではありますまい。
056
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
今日
(
こんにち
)
の
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
は
分
(
わか
)
らずやが
多
(
おほ
)
くて、
057
誤解
(
ごかい
)
する
者
(
もの
)
ばかりですから、
058
余程
(
よほど
)
心得
(
こころえ
)
なくちやなりますまい。
059
あなたもシオンの
女王
(
ぢよわう
)
として
随分
(
ずゐぶん
)
新聞紙
(
しんぶんし
)
に
喧
(
やかま
)
しく
書
(
か
)
き
立
(
た
)
てられましたなア』
060
サロメ
『
世界中
(
せかいぢう
)
へ
醜名
(
しうめい
)
を
拡
(
ひろ
)
めてくれました。
061
ルートバハー
教
(
けう
)
のウヅンバラチヤンダーさまと
東西
(
とうざい
)
相並
(
あひなら
)
んで
新聞種
(
しんぶんだね
)
の
巨壁
(
きよへき
)
となりましたよ。
062
オホヽヽヽ』
063
バハーウラー
『あなたが
普通
(
ふつう
)
の
平民
(
へいみん
)
の
生
(
うま
)
れであつたならあれ
位
(
くらゐ
)
な
事
(
こと
)
は、
064
六号
(
ろくがう
)
活字
(
くわつじ
)
で
人
(
ひと
)
の
気
(
き
)
のつかないやうな
所
(
ところ
)
へ、
065
ホンの
二行
(
にぎやう
)
か
三行
(
さんぎやう
)
のせるのですけれど、
066
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
つても
伯爵家
(
はくしやくけ
)
のお
嬢
(
ぢやう
)
さまだから
新聞屋
(
しんぶんや
)
の
阿呆
(
あはう
)
奴
(
め
)
が、
067
針小
(
しんせう
)
棒大
(
ぼうだい
)
に
書
(
か
)
き
立
(
た
)
てたのでせう。
068
ウヅンバラチヤンダーさまだつて、
069
やつぱり、
070
ルートバハー
教
(
けう
)
といふ
背景
(
はいけい
)
がなければ、
071
あれ
程
(
ほど
)
喧
(
やまか
)
しくならなかつたでせう。
072
本当
(
ほんたう
)
に
新聞
(
しんぶん
)
記者
(
きしや
)
位
(
くらゐ
)
悪
(
わる
)
い
奴
(
やつ
)
はありませぬなア』
073
サロメ
『
新聞
(
しんぶん
)
記者
(
きしや
)
に
狙
(
ねら
)
はれたが
最後
(
さいご
)
、
074
助
(
たす
)
かりつこはありませぬよ。
075
丸
(
まる
)
で
胡麻
(
ごま
)
の
縄
(
はへ
)
の
様
(
やう
)
なもので、
076
何処
(
どこ
)
へ
隠
(
かく
)
れて
居
(
を
)
つても
探
(
さが
)
し
出
(
だ
)
して、
077
おマンマの
種
(
たね
)
を
拵
(
こしら
)
へやうとするのですからねえ』
078
バハーウラー
『
時
(
とき
)
にサロメさま、
079
此
(
この
)
頃
(
ごろ
)
日出島
(
ひのでじま
)
から、
080
立派
(
りつぱ
)
な
宣伝使
(
せんでんし
)
が
聖地
(
せいち
)
へ
見
(
み
)
えて
居
(
を
)
りますが、
081
お
聞
(
きき
)
及
(
およ
)
びで
御座
(
ござ
)
いますか』
082
サロメ
『ハイ、
083
存
(
ぞん
)
じて
居
(
を
)
ります。
084
本当
(
ほんたう
)
に
立派
(
りつぱ
)
な
方
(
かた
)
で
御座
(
ござ
)
いますねエ』
085
バハーウラー
『あなたは
此処
(
ここ
)
へお
出
(
いで
)
になつてから
殆
(
ほとん
)
ど
二
(
に
)
ケ
月
(
げつ
)
になりますさうですが、
086
どこでお
会
(
あ
)
ひになつたのですか。
087
根
(
ね
)
つから
貴女
(
あなた
)
が
其
(
その
)
方
(
かた
)
にお
会
(
あ
)
ひになる
機会
(
きくわい
)
がなかつたやうに
思
(
おも
)
ひますが……』
088
サロメ
『ハイ、
089
妾
(
わたし
)
は
橄欖山
(
かんらんざん
)
へ
夜分
(
やぶん
)
にお
参
(
まゐ
)
りする
時
(
とき
)
、
090
チヨコチヨコ
山上
(
さんじやう
)
や
坂
(
さか
)
の
途中
(
とちう
)
に
於
(
おい
)
て、
091
お
目
(
め
)
にかかり、
092
お
話
(
はな
)
しもさして
頂
(
いただ
)
いて
居
(
を
)
ります。
093
それ
故
(
ゆゑ
)
あの
方
(
かた
)
の
人格
(
じんかく
)
も
思想
(
しさう
)
もよく
存
(
ぞん
)
じて
居
(
を
)
ります』
094
バハーウラーは
微笑
(
びせう
)
を
泛
(
うか
)
べ
乍
(
なが
)
ら、
095
バハーウラー
『ヤコブさまに
比
(
くら
)
べては、
096
あなたどちらが
良
(
よ
)
いと
思
(
おも
)
ひますか』
097
サロメ
『お
尋
(
たづ
)
ねまでもありませぬワ、
098
ホヽヽヽヽ』
099
かかる
所
(
ところ
)
へ『
御免
(
ごめん
)
なさいませ』と
言
(
い
)
ひ
乍
(
なが
)
ら
受付
(
うけつけ
)
に
案内
(
あんない
)
されて
這入
(
はい
)
つて
来
(
き
)
たのは、
100
ブラバーサであつた。
101
ブラバーサは、
102
ブラバーサ
『これはこれは
聖師
(
せいし
)
様
(
さま
)
、
103
此
(
この
)
間
(
あひだ
)
は
御
(
ご
)
親切
(
しんせつ
)
にお
尋
(
たづ
)
ね
下
(
くだ
)
さいまして、
104
有難
(
ありがた
)
う
御座
(
ござ
)
います。
105
今日
(
けふ
)
は
折入
(
をりい
)
つて、
106
サロメ
様
(
さま
)
に
御
(
ご
)
相談
(
さうだん
)
致
(
いた
)
したいことがあつて、
107
お
伺
(
うかが
)
ひ
致
(
いた
)
しました』
108
バハーウラー
『ヤ、
109
よう
来
(
き
)
て
下
(
くだ
)
さいました。
110
呼
(
よ
)
ぶより
誹
(
そし
)
れとか
云
(
い
)
つて、
111
今
(
いま
)
も
今
(
いま
)
とて
貴方
(
あなた
)
のことを
話
(
はな
)
して
居
(
を
)
つた
所
(
ところ
)
です。
112
サロメさまに
御用
(
ごよう
)
とあれば
私
(
わたし
)
は
席
(
せき
)
を
外
(
はづ
)
します。
113
どうぞゆつくりお
話
(
はな
)
し
下
(
くだ
)
さいませ、
114
……モシ、
115
サロメさま、
116
ヤコブさまのことを
忘
(
わす
)
れちや
可
(
い
)
けませぬよ』
117
とニツコリと
笑
(
わら
)
ひ、
118
気
(
き
)
を
利
(
き
)
かして
此
(
この
)
場
(
ば
)
を
立去
(
たちさ
)
りぬ。
119
サロメ
『ブラバーサさま、
120
能
(
よ
)
くマア
訪
(
たづ
)
ねて
下
(
くだ
)
さいました。
121
一昨夜
(
いつさくや
)
はエライ
失礼
(
しつれい
)
を
致
(
いた
)
しましたね。
122
妾
(
わたし
)
思
(
おも
)
ひ
出
(
だ
)
しても
恥
(
はづか
)
しうなつて
参
(
まゐ
)
りましたワ』
123
ブラバーサ
『イヤもう
失礼
(
しつれい
)
は
御
(
お
)
互
(
たがひ
)
で
御座
(
ござ
)
います。
124
併
(
しか
)
しサロメさま、
125
今日
(
こんにち
)
参
(
まゐ
)
りましたのは
外
(
ほか
)
のことだ
御座
(
ござ
)
りませぬ、
126
吾々
(
われわれ
)
の
身
(
み
)
の
上
(
うへ
)
に
関
(
くわん
)
して
大変
(
たいへん
)
なことが
起
(
おこ
)
つて
居
(
ゐ
)
るので
御座
(
ござ
)
います』
127
サロメ
『
大変
(
たいへん
)
とはソリヤドンナことで
御座
(
ござ
)
いますか。
128
どうぞ
早
(
はや
)
く
聞
(
き
)
かして
下
(
くだ
)
さいませ。
129
何
(
なん
)
だか
妾
(
わたし
)
も
胸
(
むね
)
が
騒
(
さわ
)
いでなりませぬワ』
130
ブラバーサは
眉
(
まゆ
)
をひそめ
乍
(
なが
)
ら
言
(
い
)
ひ
憎
(
にく
)
相
(
さう
)
にして、
131
ブラバーサ
『
実
(
じつ
)
の
所
(
ところ
)
は
一昨夜
(
いつさくや
)
の
山上
(
さんじやう
)
の
活劇
(
くわつげき
)
を
三
(
さん
)
人
(
にん
)
のアラブがスツカリ
見
(
み
)
て
居
(
を
)
つたと
見
(
み
)
えまして、
132
私
(
わたし
)
の
草庵
(
さうあん
)
を
訪
(
たづ
)
ね、
133
一万
(
いちまん
)
両
(
りやう
)
の
金
(
かね
)
を
出
(
だ
)
さねば、
134
新聞
(
しんぶん
)
へ
出
(
だ
)
すとか
言
(
い
)
つて、
135
強請
(
ゆすり
)
に
参
(
まゐ
)
りました。
136
私
(
わたし
)
だつて
遠国
(
ゑんごく
)
から
参
(
まゐ
)
つた
者
(
もの
)
で
御座
(
ござ
)
いますから、
137
夫
(
そ
)
れ
程
(
ほど
)
の
大金
(
たいきん
)
は
持
(
も
)
つてゐる
筈
(
はず
)
もなし、
138
已
(
や
)
むを
得
(
え
)
ず
百
(
ひやく
)
両
(
りやう
)
包
(
つつ
)
んでやつた
所
(
ところ
)
、
139
忽
(
たちま
)
ち
大地
(
だいち
)
にぶつつけて、
140
之
(
これ
)
から
新聞社
(
しんぶんしや
)
へ
行
(
い
)
つて
二三万
(
にさんまん
)
両
(
りやう
)
の
金
(
かね
)
を
貰
(
もら
)
つて
来
(
く
)
る、
141
さうすりやお
前
(
まへ
)
達
(
たち
)
四
(
よ
)
人
(
にん
)
はユダヤ
人
(
じん
)
の
怨府
(
ゑんぷ
)
となり
磔刑
(
はりつけ
)
に
会
(
あ
)
ふだらうと
捨台詞
(
すてぜりふ
)
を
残
(
のこ
)
して
帰
(
かへ
)
りました。
142
グヅグヅしてゐて
新聞
(
しんぶん
)
にでも
出
(
だ
)
されちや
大変
(
たいへん
)
ですから、
143
何
(
なに
)
か
貴女
(
あなた
)
によいお
考
(
かんがへ
)
はなからうかと
御
(
ご
)
相談
(
さうだん
)
に
参
(
まゐ
)
りました』
144
聞
(
き
)
くよりサロメは
目
(
め
)
を
丸
(
まる
)
うし、
145
面色
(
かほいろ
)
迄
(
まで
)
変
(
か
)
へて
稍
(
やや
)
慄
(
ふる
)
ひ
声
(
ごゑ
)
になり、
146
サロメ
『ヤ、
147
其奴
(
そいつ
)
ア
大変
(
たいへん
)
です。
148
何
(
ど
)
うしませうかなア』
149
ブラバーサ
『
何
(
ど
)
うも
仕方
(
しかた
)
がありませぬ。
150
恥
(
はづか
)
し
乍
(
なが
)
ら、
151
何
(
いづ
)
れ
分
(
わか
)
ることですから、
152
バハーウラーさまに
一伍
(
いちぶ
)
一什
(
しじふ
)
打
(
うち
)
あけて、
153
何
(
なに
)
かよい
智慧
(
ちゑ
)
を
借
(
か
)
らうぢやありませぬか』
154
サロメ
『だつてマサカ、
155
ソンナ
恥
(
はづか
)
しいことが
言
(
い
)
へぬぢやありませぬか。
156
あゝ
困
(
こま
)
つたことですねえ』
157
斯
(
かか
)
る
所
(
ところ
)
へ
聖師
(
せいし
)
バハーウラーは
少
(
すこ
)
しく
苦々
(
にがにが
)
しい
顔
(
かほ
)
をし
乍
(
なが
)
ら
現
(
あら
)
はれ
来
(
きた
)
り、
158
バハーウラー
『モシお
二人
(
ふたり
)
さま、
159
都新聞
(
みやこしんぶん
)
の
記者
(
きしや
)
があなた
方
(
がた
)
にお
目
(
め
)
にかかりたいと
云
(
い
)
つて
参
(
まゐ
)
りましたが、
160
何
(
ど
)
う
致
(
いた
)
しませうかね』
161
サロメ
『ハテ、
162
困
(
こま
)
りましたねえ』
163
ブラバーサ
『モウ
斯
(
か
)
うなつては
隠
(
かく
)
れたつて
駄目
(
だめ
)
でせう。
164
此方
(
こちら
)
の
方
(
はう
)
から
面会
(
めんくわい
)
して、
165
何
(
なに
)
もかも
事情
(
じじやう
)
を
云
(
い
)
つてやりませう。
166
それの
方
(
はう
)
が
却
(
かへつ
)
て
良
(
よ
)
いかも
知
(
し
)
れませぬよ。
167
新聞
(
しんぶん
)
記者
(
きしや
)
に
隠
(
かく
)
れると、
168
憶測
(
おくそく
)
で
針小
(
しんせう
)
棒大
(
ぼうだい
)
に
何
(
なに
)
を
書
(
か
)
き
立
(
た
)
てるか
知
(
し
)
れませぬからな』
169
サロメは
胴
(
どう
)
を
据
(
す
)
ゑて、
170
サロメ
『ソンナラさう
致
(
いた
)
しませう。
171
聖師
(
せいし
)
様
(
さま
)
、
172
記者
(
きしや
)
様
(
さま
)
をどうか
此方
(
こちら
)
へお
出
(
い
)
で
下
(
くだ
)
さる
様
(
やう
)
に
云
(
い
)
つて
下
(
くだ
)
さいませぬか』
173
バハーウラーは『
宜
(
よろ
)
しい』と
諾
(
うなづ
)
き
乍
(
なが
)
ら
表
(
おもて
)
へ
出
(
い
)
で
行
(
ゆ
)
く。
174
(
大正一二・七・一三
旧五・三〇
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録)
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