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第64巻(卯の巻)上
序
総説
第1篇 日下開山
01 橄欖山
〔1630〕
02 宣伝使
〔1631〕
03 聖地夜
〔1632〕
04 訪問客
〔1633〕
05 至聖団
〔1634〕
第2篇 聖地巡拝
06 偶像都
〔1635〕
07 巡礼者
〔1636〕
08 自動車
〔1637〕
09 膝栗毛
〔1638〕
10 追懐念
〔1639〕
第3篇 花笑蝶舞
11 公憤私憤
〔1640〕
12 誘惑
〔1641〕
13 試練
〔1642〕
14 荒武事
〔1643〕
15 大相撲
〔1644〕
16 天消地滅
〔1645〕
第4篇 遠近不二
17 強請
〔1646〕
18 新聞種
〔1647〕
19 祭誤
〔1648〕
20 福命
〔1649〕
21 遍路
〔1650〕
22 妖行
〔1651〕
第5篇 山河異涯
23 暗着
〔1652〕
24 妖蝕
〔1653〕
25 地図面
〔1654〕
26 置去
〔1655〕
27 再転
〔1656〕
余白歌
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第一七章
強請
(
ゆすり
)
〔一六四六〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第64巻上 山河草木 卯の巻上
篇:
第4篇 遠近不二
よみ(新仮名遣い):
えんきんふじ
章:
第17章 強請
よみ(新仮名遣い):
ゆすり
通し章番号:
1646
口述日:
1923(大正12)年07月13日(旧05月30日)
口述場所:
筆録者:
松村真澄
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1925(大正14)年10月16日
概要:
舞台:
シオン山の谷間のブラバーサの隠れ家
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2020-05-24 12:07:26
OBC :
rm64a17
愛善世界社版:
203頁
八幡書店版:
第11輯 453頁
修補版:
校定版:
203頁
普及版:
62頁
初版:
ページ備考:
001
シオン
山
(
ざん
)
の
谷間
(
たにあひ
)
に
草庵
(
さうあん
)
を
結
(
むす
)
んで、
002
恋
(
こひ
)
の
鋭鋒
(
えいほう
)
を
避
(
さ
)
けて
居
(
ゐ
)
たブラバーサの
隠家
(
かくれが
)
へ
慌
(
あわた
)
だしくやつて
来
(
き
)
たのは
三
(
さん
)
人
(
にん
)
のアラブである。
003
ブラバーサは
橄欖山
(
かんらんさん
)
上
(
じやう
)
に
於
(
おい
)
て、
004
ゆくりなくもマリヤの
愛情
(
あいじやう
)
に
絆
(
ほだ
)
され、
005
自分
(
じぶん
)
も
何時
(
いつ
)
の
間
(
ま
)
にやら
恋
(
こひ
)
の
虜
(
とりこ
)
となり、
006
夫婦
(
ふうふ
)
の
約束
(
やくそく
)
をしたものの、
007
今
(
いま
)
となつて
考
(
かんが
)
へてみれば、
008
何
(
なん
)
とはなしに
重罪
(
ぢうざい
)
を
犯
(
をか
)
したやうな
心持
(
こころもち
)
がして
来出
(
きだ
)
した。
009
……あゝなぜ
私
(
わたし
)
は
之丈
(
これだけ
)
愚昧
(
ぐまい
)
だらう。
010
一度
(
いちど
)
ならず
二度
(
にど
)
迄
(
まで
)
も
恋
(
こひ
)
の
誘惑
(
いうわく
)
におち、
011
はるばる
聖地
(
せいち
)
から
万里
(
ばんり
)
の
海
(
うみ
)
を
渡
(
わた
)
りてここ
迄
(
まで
)
来
(
き
)
乍
(
なが
)
ら、
012
かやうなことで
何
(
ど
)
うして
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
に
申訳
(
まをしわけ
)
が
立
(
た
)
たう。
013
又
(
また
)
ルートバハーの
教主
(
けうしゆ
)
に
対
(
たい
)
しても
言訳
(
いひわけ
)
がない。
014
困
(
こま
)
つたことになつたものだ。
015
……と
朝
(
あさ
)
早
(
はや
)
うから
草庵
(
さうあん
)
の
中
(
なか
)
に
端座
(
たんざ
)
して
悔悟
(
くわいご
)
の
涙
(
なみだ
)
にくれてゐた。
016
そこへ
三
(
さん
)
人
(
にん
)
のアラブが
柴
(
しば
)
の
戸
(
と
)
押
(
おし
)
あけドヤドヤと
入来
(
いりきた
)
り、
017
テク『ヤ、
018
お
早
(
はや
)
う。
019
わつちは
何時
(
いつ
)
も
橄欖山
(
かんらんざん
)
のシオン
大学
(
だいがく
)
の
工事
(
こうじ
)
に
使
(
つか
)
はれてゐるアラブだが、
020
夜前
(
やぜん
)
一寸
(
ちよつと
)
面白
(
おもしろ
)
いことを
吾々
(
われわれ
)
三
(
さん
)
人
(
にん
)
が
見
(
み
)
たので
御
(
ご
)
相談
(
さうだん
)
に
参
(
まゐ
)
りやした』
021
ブラバーサ
『して
又
(
また
)
あなた
方
(
がた
)
が
私
(
わたし
)
の
草庵
(
さうあん
)
を
訪
(
たづ
)
ねて
下
(
くだ
)
さつたのは、
022
何
(
なに
)
か
変
(
かは
)
つたことが
御座
(
ござ
)
いますかな』
023
テク
『ヘン、
024
トボケまいぞ。
025
夕
(
ゆふ
)
べの
活劇
(
くわつげき
)
は
何
(
ど
)
うだい。
026
誰
(
たれ
)
も
知
(
し
)
らぬかと
思
(
おも
)
つてゐても、
027
天
(
てん
)
知
(
し
)
る
地
(
ち
)
知
(
し
)
ると
言
(
い
)
つて、
028
チヤンと
吾々
(
われわれ
)
三
(
さん
)
人
(
にん
)
さまの
耳
(
みみ
)
につつぬけるほど
響
(
ひび
)
いたのだ。
029
イヤ
耳
(
みみ
)
ばかりでない、
030
此
(
この
)
二
(
ふた
)
つの
黒
(
くろ
)
い
眼
(
め
)
で、
031
作事場
(
さくじば
)
の
隅
(
すみ
)
から
覗
(
のぞ
)
いておいたのだ。
032
二組
(
ふたくみ
)
の
男女
(
だんぢよ
)
が
随分
(
ずゐぶん
)
立派
(
りつぱ
)
な
活劇
(
くわつげき
)
をやつたでせう。
033
之
(
これ
)
でも
違
(
ちが
)
ひますかな』
034
ブラバーサ
『
之
(
これ
)
は
聊
(
いささ
)
か
迷惑
(
めいわく
)
、
035
拙者
(
せつしや
)
は
此
(
この
)
草庵
(
さうあん
)
よりここ
二三
(
にさん
)
日
(
にち
)
、
036
一歩
(
いつぽ
)
も
出
(
で
)
たこともありませぬ。
037
ソリヤ
大方
(
おほかた
)
何
(
なに
)
かの
間違
(
まちが
)
ひでせう』
038
と
聞
(
き
)
くよりトンクは、
039
トンク
『ヘン、
040
馬鹿
(
ばか
)
にするない。
041
おれは
聾
(
つんぼ
)
でも
盲
(
めくら
)
でもないぞ。
042
お
前
(
まへ
)
も
日
(
ひ
)
の
出島
(
でじま
)
からやつて
来
(
き
)
たルートバハーの
宣伝使
(
せんでんし
)
だといふことだが、
043
宣伝使
(
せんでんし
)
はウソを
云
(
い
)
つて
可
(
い
)
いのか。
044
此
(
この
)
聖地
(
せいち
)
へ
各国
(
かくこく
)
の
人々
(
ひとびと
)
が
出
(
で
)
て
来
(
き
)
てるが、
045
ウソをつく
奴
(
やつ
)
アお
前
(
まへ
)
ばかりだ。
046
お
前
(
まへ
)
は
日
(
ひ
)
の
出島
(
でじま
)
の
代表者
(
だいへうしや
)
とも
認
(
みと
)
めらるべき
者
(
もの
)
だ。
047
其
(
その
)
代表者
(
だいへうしや
)
が
嘘
(
うそ
)
つきとあれば
日
(
ひ
)
の
出
(
で
)
島
(
しま
)
の
人間
(
にんげん
)
は
一体
(
いつたい
)
に
嘘
(
うそ
)
つきと
定
(
きま
)
つて
了
(
しま
)
ふが
夫
(
そ
)
れでも
可
(
い
)
いのか。
048
キリストの
再臨
(
さいりん
)
に
間
(
ま
)
もなき
今日
(
こんにち
)
、
049
嘘
(
うそ
)
を
云
(
い
)
ふ
国民
(
こくみん
)
は
世界
(
せかい
)
の
連盟
(
れんめい
)
から
排斥
(
はいせき
)
され、
050
今迄
(
いままで
)
のユダヤ
人
(
じん
)
の
様
(
やう
)
に
放浪
(
はうらう
)
の
民
(
たみ
)
とならねばならないぞ。
051
しつかり
性念
(
しやうねん
)
を
据
(
す
)
ゑ、
052
本当
(
ほんたう
)
の
事
(
こと
)
を
云
(
い
)
つたら
何
(
ど
)
うだ。
053
お
前
(
まへ
)
一人
(
ひとり
)
の
嘘
(
うそ
)
が
日出島
(
ひのでじま
)
全体
(
ぜんたい
)
の
嘘
(
うそ
)
になるのだ。
054
ここには
都新聞
(
みやこしんぶん
)
も
聖地
(
せいち
)
新報
(
しんぽう
)
も
亦
(
また
)
回々教
(
フイフイけう
)
新聞
(
しんぶん
)
も
発刊
(
はつかん
)
されてゐるから、
055
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
が
記者
(
きしや
)
に
会
(
あ
)
うて
夕
(
ゆふ
)
べの
実状
(
じつじやう
)
を
喋
(
しやべ
)
らうものなら、
056
汝
(
おめえ
)
は
此処
(
ここ
)
に
居
(
を
)
るこた
出来
(
でき
)
ないのだ。
057
ユダヤの
女
(
をんな
)
をチヨロまかしやがつて……ユダヤ
人
(
じん
)
全体
(
ぜんたい
)
の
敵
(
かたき
)
としてハリツケに
会
(
あ
)
はなならぬが、
058
それでも
可
(
い
)
いか。
059
汝
(
てめえ
)
の
出様
(
でやう
)
によつて
此
(
この
)
方
(
はう
)
にも
考
(
かんが
)
へがある、
060
サアどうだ。
061
判然
(
はつきり
)
と
返答
(
へんたふ
)
を
聞
(
き
)
かして
貰
(
もら
)
はうかい』
062
ブラバーサ
『
此奴
(
こいつ
)
ア
近頃
(
ちかごろ
)
迷惑
(
めいわく
)
の
至
(
いた
)
りだ。
063
拙者
(
せつしや
)
はソンナ
覚
(
おぼえ
)
は
決
(
けつ
)
して
御座
(
ござ
)
らぬ』
064
テク
『
馬鹿
(
ばか
)
云
(
い
)
ふない。
065
汝
(
おめえ
)
が
隠
(
かく
)
したつて
駄目
(
だめ
)
だ。
066
サロメにもヤコブにもチヤンとテクが
調
(
しら
)
べ
上
(
あ
)
げて
来
(
き
)
てあるのだ。
067
グヅグヅしてると、
068
四
(
よ
)
人
(
にん
)
の
奴
(
やつ
)
ア、
069
ユダヤ
人
(
じん
)
の
怨府
(
ゑんぷ
)
となつて、
070
忽
(
たちま
)
ち
寂滅
(
じやくめつ
)
為楽
(
ゐらく
)
の
運命
(
うんめい
)
に
陥
(
おちい
)
るが、
071
それが
可哀相
(
かあいさう
)
だと
思
(
おも
)
つて、
072
おれ
達
(
たち
)
三
(
さん
)
人
(
にん
)
が
談判
(
だんぱん
)
に
来
(
き
)
たのだ』
073
ブラバーサ
『
何
(
ど
)
うすれば
可
(
い
)
いと
云
(
い
)
ふのだ』
074
テク
『ザマア
見
(
み
)
やがれ、
075
ヤツパリ
覚
(
おぼえ
)
があるだらう。
076
汝
(
おめえ
)
の
命
(
いのち
)
とつり
替
(
か
)
への
一万
(
いちまん
)
両
(
りやう
)
、
077
ここへオツぽり
出
(
だ
)
せ。
078
さうすりやおれ
達
(
たち
)
や
沈黙
(
ちんもく
)
を
守
(
まも
)
つてやる。
079
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
三
(
さん
)
人
(
にん
)
の
外
(
ほか
)
にやお
月
(
つき
)
さまより
見
(
み
)
たものはないのだから、
080
お
月
(
つき
)
さまが
仰有
(
おつしや
)
らぬ
限
(
かぎ
)
り
分
(
わか
)
る
気遣
(
きづかひ
)
はない。
081
こんな
事
(
こと
)
を
都新聞
(
みやこしんぶん
)
の
記者
(
きしや
)
にでも
話
(
はな
)
さうものなら、
082
二万
(
にまん
)
両
(
りやう
)
や
三万
(
さんまん
)
両
(
りやう
)
の
報酬
(
ほうしう
)
を
呉
(
く
)
れるに
違
(
ちが
)
ひない。
083
何
(
なに
)
しろ
一方
(
いつぱう
)
はルートバハーの
宣伝使
(
せんでんし
)
、
084
一方
(
いつぱう
)
は
貴族
(
きぞく
)
の
娘
(
むすめ
)
サロメさまといふのだからな……
何
(
なに
)
しろ
可
(
い
)
い
金儲
(
かねまうけ
)
の
種
(
たね
)
を
見
(
み
)
つけたものだ。
085
イヒヽヽヽ』
086
ブラバーサ
『ナアニ、
087
一万
(
いちまん
)
両
(
りやう
)
到底
(
たうてい
)
ソンナことは
出来
(
でき
)
ない、
088
アヽそこは
世界
(
せかい
)
同胞
(
どうはう
)
のよしみで、
089
一封
(
いつぷう
)
包
(
つつ
)
むことにして
辛抱
(
しんばう
)
して
呉
(
く
)
れ。
090
又
(
また
)
何
(
なに
)
か……
埋合
(
うめあは
)
せをすることもあらうから……』
091
テク
『
一封
(
いつぷう
)
だと
云
(
い
)
つても、
092
一銭
(
いつせん
)
でも
一封
(
いつぷう
)
だ。
093
十千万
(
とちまん
)
両
(
りやう
)
でも
一封
(
いつぷう
)
だ。
094
一封
(
いつぷう
)
なら
一封
(
いつぷう
)
で
可
(
い
)
いからいくらと
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
を
表
(
おもて
)
へ
現
(
あら
)
はして
貰
(
もら
)
はうかい』
095
ツーロは、
096
ツーロ
『オイ、
097
テク、
098
さう
尻
(
しり
)
から
火
(
ひ
)
のついたやうに
喧
(
やかま
)
しく
云
(
い
)
はなくても
可
(
い
)
いワ。
099
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
つてもサロメ、
100
マリヤといふ
別嬪
(
べつぴん
)
を
自由
(
じいう
)
自在
(
じざい
)
に
翻弄
(
ほんろう
)
するといふ
抜目
(
ぬけめ
)
のない
宣伝使
(
せんでんし
)
だから、
101
そこは
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
の
面
(
つら
)
の
潰
(
つぶ
)
れるよなことはなさる
筈
(
はず
)
はない。
102
マア
聖師
(
せいし
)
の
意志
(
いし
)
に
任
(
まか
)
す
方
(
はう
)
が
可
(
よ
)
からうぞ』
103
テク
『ソンナラ、
104
お
任
(
まか
)
せせう。
105
テクの
面
(
つら
)
のつぶれないやうに
頼
(
たの
)
みますぜ』
106
ブラバーサは
是非
(
ぜひ
)
なく
百
(
ひやく
)
円
(
ゑん
)
を
包
(
つつ
)
んで、
107
前
(
まへ
)
につき
出
(
だ
)
し、
108
ブラバーサ
『サア
之
(
これ
)
で
辛抱
(
しんばう
)
してくれ。
109
おれも
災難
(
さいなん
)
だ。
110
別
(
べつ
)
に
自分
(
じぶん
)
の
方
(
はう
)
から
恋
(
こひ
)
したのでもなし、
111
自然
(
しぜん
)
の
成行
(
なりゆき
)
であのやうな
災難
(
さいなん
)
に
会
(
あ
)
うたのだから……』
112
テクは
其
(
その
)
包
(
つつみ
)
を
受取
(
うけと
)
り、
113
テク
『
成
(
な
)
る
程
(
ほど
)
エライ
災難
(
さいなん
)
に
会
(
あ
)
うたものだなア。
114
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
もアンナ
災難
(
さいなん
)
に
幾度
(
いくど
)
も
会
(
あ
)
うてみたいものだワイ……モシモシ
聖師
(
せいし
)
さま……エー
一寸
(
ちよつと
)
ここで
中
(
なか
)
をあらためて
見
(
み
)
ましても
宜
(
よろ
)
しいだらうな』
115
ブラバーサ
『どうぞ
御
(
ご
)
勝手
(
かつて
)
に
開
(
ひら
)
いて
下
(
くだ
)
さい』
116
テクは
包
(
つつみ
)
をほどいて
見
(
み
)
て、
117
ふくれ
面
(
づら
)
、
118
テク
『エーツ、
119
馬鹿
(
ばか
)
にするない。
120
たつたの
百
(
ひやく
)
両
(
りやう
)
位
(
ぐらゐ
)
な
目
(
め
)
くされ
金
(
がね
)
に
誰
(
たれ
)
がコンナイヤな
事
(
こと
)
を
云
(
い
)
うて
来
(
く
)
るものかい』
121
と
言
(
い
)
ひ
乍
(
なが
)
ら
其
(
その
)
場
(
ば
)
にブツつけたり。
122
ブラバーサ
『
大切
(
たいせつ
)
なお
金
(
かね
)
、
123
必要
(
ひつえう
)
がなければ
元
(
もと
)
へ
納
(
をさ
)
めておきませう』
124
と
手早
(
てばや
)
く
拾
(
ひろ
)
うて
懐
(
ふところ
)
に
入
(
い
)
れる。
125
トンクは、
126
トンク
『オイ、
127
テク、
128
ツーロ、
129
コンナ
奴
(
やつ
)
に
相手
(
あひて
)
になつて
居
(
を
)
つても
駄目
(
だめ
)
だ。
130
命
(
いのち
)
より
金
(
かね
)
が
惜
(
をし
)
いとみえるワイ。
131
モウ
構
(
かま
)
ふことはない、
132
都新聞
(
みやこしんぶん
)
へ
行
(
い
)
つてドツサリと
褒美
(
はうび
)
を
貰
(
もら
)
うて
来
(
こ
)
う。
133
此奴
(
こいつ
)
とあとの
三
(
さん
)
人
(
にん
)
には
気
(
き
)
の
毒
(
どく
)
だが
自業
(
じごふ
)
自得
(
じとく
)
だから
仕方
(
しかた
)
があるまいサア
帰
(
かへ
)
らう』
134
ツーロは
二人
(
ふたり
)
に
向
(
むか
)
ひ、
135
ツーロ
『オイ、
136
一寸
(
ちよつと
)
待
(
ま
)
て。
137
おれ
達
(
たち
)
は
金
(
かね
)
のよなものが
目的
(
もくてき
)
だない。
138
夫
(
そ
)
れよりもマリヤを
此方
(
こちら
)
へ
渡
(
わた
)
してさへ
貰
(
もら
)
へば
可
(
い
)
いのだ、
139
……オイ
先生
(
せんせい
)
、
140
一万
(
いちまん
)
両
(
りやう
)
の
金
(
かね
)
の
代
(
かは
)
りにチツと
高
(
たか
)
いけれどマリヤを
此方
(
こちら
)
へ
渡
(
わた
)
すといふ
証文
(
しようもん
)
を
書
(
か
)
いて
貰
(
もら
)
はうかい。
141
無
(
な
)
い
懐
(
ふところ
)
をしぼつて
出
(
だ
)
すよりも、
142
お
前
(
まへ
)
もそれの
方
(
はう
)
が
可
(
い
)
いだらう』
143
ブラバーサ
『マリヤは
拙者
(
せつしや
)
の
女
(
をんな
)
ではない。
144
又
(
また
)
仮令
(
たとへ
)
自分
(
じぶん
)
の
女房
(
にようばう
)
にした
所
(
ところ
)
で、
145
彼
(
かれ
)
の
意志
(
いし
)
を
無視
(
むし
)
してお
前
(
まへ
)
達
(
たち
)
にやるといふ
訳
(
わけ
)
には
行
(
ゆ
)
くまい、
146
マア
二三
(
にさん
)
日
(
にち
)
考
(
かんが
)
へさしてくれ』
147
テク
『ヘン
何
(
なに
)
をぬかしやがるのだい。
148
マリヤをとらうと
取
(
と
)
ろまいとテクの
勝手
(
かつて
)
だよ。
149
こないだも
橄欖山
(
かんらんざん
)
の
上
(
うへ
)
でマリヤを
物
(
もの
)
にせうとしてる
所
(
ところ
)
へ、
150
汝
(
てめえ
)
がせうもない
事
(
こと
)
吐
(
ぬか
)
しやがるものだから、
151
役人
(
やくにん
)
が
来
(
き
)
たと
思
(
おも
)
つて
逃
(
にげ
)
たが
後
(
あと
)
で
汝
(
てめえ
)
と
分
(
わか
)
り、
152
歯
(
は
)
がみをしたのだ。
153
オイ
兄弟
(
きやうだい
)
、
154
此奴
(
こいつ
)
を
縛
(
しば
)
りシオンの
谷
(
たに
)
へ
葬
(
はうむ
)
つて
了
(
しま
)
へば、
155
マリヤは
此方
(
こちら
)
の
者
(
もの
)
だ。
156
サアやつて
了
(
しま
)
へ
一
(
ひ
)
イ
二
(
ふ
)
ウ
三
(
み
)
ツだ』
157
トンク、ツーロ
『ヨーシ
来
(
き
)
た』
158
と
両人
(
りやうにん
)
は
手
(
て
)
ンでに
棍棒
(
こんぼう
)
を
打振
(
うちふ
)
りブラバーサに
打
(
う
)
つてかかる。
159
ブラバーサは
一生
(
いつしやう
)
懸命
(
けんめい
)
に
神言
(
かみごと
)
を
奏上
(
そうじやう
)
した。
160
三
(
さん
)
人
(
にん
)
は
其
(
その
)
言霊
(
ことたま
)
に
打
(
う
)
たれ、
161
『エー
此奴
(
こいつ
)
ア
大変
(
たいへん
)
だ』とこけつ
転
(
まろ
)
びつ
先
(
さき
)
を
争
(
あらそ
)
ひ
逃
(
に
)
げ
散
(
ち
)
りて
行
(
ゆ
)
く。
162
(
大正一二・七・一三
旧五・三〇
松村真澄
録)
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