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第64巻(卯の巻)上
序
総説
第1篇 日下開山
01 橄欖山
〔1630〕
02 宣伝使
〔1631〕
03 聖地夜
〔1632〕
04 訪問客
〔1633〕
05 至聖団
〔1634〕
第2篇 聖地巡拝
06 偶像都
〔1635〕
07 巡礼者
〔1636〕
08 自動車
〔1637〕
09 膝栗毛
〔1638〕
10 追懐念
〔1639〕
第3篇 花笑蝶舞
11 公憤私憤
〔1640〕
12 誘惑
〔1641〕
13 試練
〔1642〕
14 荒武事
〔1643〕
15 大相撲
〔1644〕
16 天消地滅
〔1645〕
第4篇 遠近不二
17 強請
〔1646〕
18 新聞種
〔1647〕
19 祭誤
〔1648〕
20 福命
〔1649〕
21 遍路
〔1650〕
22 妖行
〔1651〕
第5篇 山河異涯
23 暗着
〔1652〕
24 妖蝕
〔1653〕
25 地図面
〔1654〕
26 置去
〔1655〕
27 再転
〔1656〕
余白歌
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第八章
自動車
(
じどうしや
)
〔一六三七〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第64巻上 山河草木 卯の巻上
篇:
第2篇 聖地巡拝
よみ(新仮名遣い):
せいちじゅんぱい
章:
第8章 自動車
よみ(新仮名遣い):
じどうしゃ
通し章番号:
1637
口述日:
1923(大正12)年07月11日(旧05月28日)
口述場所:
筆録者:
加藤明子
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1925(大正14)年10月16日
概要:
舞台:
エルサレム市街近郊
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
主な登場人物
[?]
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2017-11-25 18:22:21
OBC :
rm64a08
愛善世界社版:
90頁
八幡書店版:
第11輯 410頁
修補版:
校定版:
90頁
普及版:
62頁
初版:
ページ備考:
001
マリヤはその
翌早朝
(
よくさうてう
)
から
又
(
また
)
もやブラバーサを
訪問
(
はうもん
)
して、
002
聖地
(
せいち
)
エルサレム
市街
(
しがい
)
附近
(
ふきん
)
の
案内
(
あんない
)
を
為
(
な
)
すべく、
003
愴惶
(
さうくわう
)
として
僧院
(
そうゐん
)
ホテルへやつて
来
(
き
)
た。
004
ブラバーサも
聖地
(
せいち
)
附近
(
ふきん
)
の
様子
(
やうす
)
を
一応
(
いちおう
)
調査
(
てうさ
)
しておく
必要
(
ひつえう
)
もあり、
005
高砂島
(
たかさごじま
)
の
故国
(
ここく
)
へも
報告
(
はうこく
)
せなくてはならないので、
006
此
(
この
)
婦人
(
ふじん
)
の
親切
(
しんせつ
)
な
案内
(
あんない
)
振
(
ぶり
)
を
非常
(
ひじやう
)
に
感謝
(
かんしや
)
の
誠意
(
せいい
)
を
以
(
もつ
)
て
迎
(
むか
)
へたのである。
007
マリヤもブラバーサの
人格
(
じんかく
)
には
非常
(
ひじやう
)
に
尊敬
(
そんけい
)
の
念
(
ねん
)
を
払
(
はら
)
つて
居
(
ゐ
)
た。
008
独身者
(
どくしんもの
)
のマリヤに
取
(
と
)
つては
実
(
じつ
)
にブラバーサこそ
唯一
(
ゆゐいつ
)
の
心
(
こころ
)
の
友
(
とも
)
であり
力
(
ちから
)
となりしなり。
009
ブラバーサは
今日
(
けふ
)
も
早朝
(
さうてう
)
からマリヤに
導
(
みちび
)
かれて、
010
聖地
(
せいち
)
の
巡覧
(
じゆんらん
)
にホテルを
立
(
た
)
ち
出
(
い
)
づる
事
(
こと
)
となつた。
011
ジヤツフア
門外
(
もんぐわい
)
から
出発
(
しゆつぱつ
)
する
乗合
(
のりあひ
)
自動車
(
じどうしや
)
でベツレヘムに
往復
(
わうふく
)
する
事
(
こと
)
とした。
012
自動車
(
じどうしや
)
は
土埃
(
つちほこり
)
を
立
(
た
)
てながらゲヘンナの
谷
(
たに
)
へと
降
(
くだ
)
つて
行
(
ゆ
)
く。
013
元
(
もと
)
はエルサレムの
市
(
し
)
の
西南
(
せいなん
)
にあつて、
014
北
(
きた
)
はシオンの
山
(
やま
)
、
015
南
(
みなみ
)
は
岡
(
をか
)
で
以
(
もつ
)
て
区画
(
くくわく
)
された
深
(
ふか
)
い
細長
(
ほそなが
)
い
谷
(
たに
)
である。
016
此処
(
ここ
)
は
昔
(
むかし
)
ユダヤとベニヤミン
族
(
ぞく
)
の
境
(
さかひ
)
になつて
居
(
ゐ
)
て、
017
ソロモン
以後
(
いご
)
、
018
ここで
恐
(
おそ
)
ろしい
人
(
ひと
)
の
犠牲
(
いけにへ
)
が
行
(
おこな
)
はれたが、
019
その
後
(
ご
)
は
屍体
(
したい
)
や
市
(
し
)
の
汚穢物
(
をゑぶつ
)
を
捨
(
すて
)
る
場所
(
ばしよ
)
となつて
了
(
しま
)
つたのである。
020
悪人
(
あくにん
)
の
運命
(
うんめい
)
に
付
(
つ
)
けて、
021
『ゲヘンナに
投
(
な
)
げ
入
(
い
)
れらるべし』と
云
(
い
)
はれて
居
(
ゐ
)
るのは
即
(
すなは
)
ち
此処
(
ここ
)
である。
022
急
(
いそ
)
がしく
馳走
(
ちそう
)
しつつ
自動車
(
じどうしや
)
は
高
(
たか
)
みになつた
豊饒
(
ほうぜう
)
な
平野
(
へいや
)
を
横
(
よこ
)
ぎる。
023
古
(
ふる
)
い
橄欖樹
(
かんらんじゆ
)
の
植
(
う
)
わつた
野
(
の
)
や
小丘
(
せうきう
)
である。
024
道路
(
だうろ
)
は
九十九
(
つくも
)
折
(
をり
)
になつて、
025
緩勾配
(
くわんこうばい
)
の
坂道
(
さかみち
)
を
上
(
のぼ
)
つて
行
(
ゆ
)
く。
026
左手
(
ひだりて
)
の
遠方
(
ゑんぱう
)
に
前景
(
ぜんけい
)
ときはだつて
違
(
ちが
)
つた
長
(
なが
)
い
一列
(
いちれつ
)
の
山脈
(
さんみやく
)
が
見
(
み
)
える。
027
その
麓
(
ふもと
)
の
深
(
ふか
)
き
所
(
ところ
)
に、
028
竹熊
(
たけくま
)
の
終焉所
(
しうえんしよ
)
なる
有名
(
いうめい
)
な
死海
(
しかい
)
が
照
(
て
)
つて
居
(
ゐ
)
るのである。
029
自動車
(
じどうしや
)
が
小高
(
こだか
)
い
丘
(
をか
)
の
上
(
うへ
)
に
来
(
き
)
たので、
030
窓
(
まど
)
から
首
(
くび
)
を
出
(
だ
)
して
眺
(
なが
)
めると
死海
(
しかい
)
の
面
(
おもて
)
が
強烈
(
きやうれつ
)
な
太陽
(
たいやう
)
の
光
(
ひかり
)
を
受
(
う
)
けてキラキラと
輝
(
かがや
)
いて
居
(
ゐ
)
るのが
見
(
み
)
える。
031
驢馬
(
ろば
)
や
駱駝
(
らくだ
)
に
乗
(
の
)
つた
田舎人
(
いなかびと
)
の
群
(
むれ
)
が
幾組
(
いくくみ
)
ともなく
通
(
とほ
)
つて
居
(
ゐ
)
る。
032
自動車
(
じどうしや
)
を
丘
(
をか
)
の
上
(
うへ
)
に
停
(
と
)
めて、
033
ブラバーサとマリヤの
二人
(
ふたり
)
は
四方
(
よも
)
の
景色
(
けしき
)
を
瞰下
(
かんか
)
しながら、
034
沿道
(
えんだう
)
の
色々
(
いろいろ
)
の
伝説
(
でんせつ
)
や
場所
(
ばしよ
)
に
就
(
つい
)
て
問答
(
もんだふ
)
を
始
(
はじ
)
め
出
(
だ
)
した。
035
ブラバーサ
『マリヤ
様
(
さま
)
、
036
聖地
(
せいち
)
附近
(
ふきん
)
の
色々
(
いろいろ
)
の
歴史
(
れきし
)
や
伝説
(
でんせつ
)
を
聞
(
き
)
かして
頂
(
いただ
)
きたいものですなア』
037
マリヤ
『この
丘
(
をか
)
の
上
(
うへ
)
で
四方
(
しはう
)
を
見晴
(
みは
)
らしながら、
038
聖地
(
せいち
)
案内
(
あんない
)
の
物語
(
ものがたり
)
も
又
(
また
)
一興
(
いつきよう
)
だと
思
(
おも
)
ひます。
039
妾
(
わたし
)
が
記憶
(
きおく
)
の
限
(
かぎ
)
り
申上
(
まをしあ
)
げませう。
040
伝説
(
でんせつ
)
や
口碑
(
こうひ
)
と
云
(
い
)
ふものは
随分
(
ずゐぶん
)
間違
(
まちが
)
つた
事
(
こと
)
が
多
(
おほ
)
いものですから、
041
万一
(
まんいち
)
間違
(
まちが
)
つて
居
(
を
)
りましてもそれは
妾
(
わたし
)
の
責任
(
せきにん
)
では
御座
(
ござ
)
いませぬ。
042
伝説
(
でんせつ
)
や
口碑
(
こうひ
)
が
悪
(
わる
)
いのですから』
043
ブラバーサ
『ハイ
承知
(
しようち
)
致
(
いた
)
しました。
044
何分
(
なにぶん
)
宜敷
(
よろし
)
くお
願
(
ねが
)
ひいたしませう』
045
マリヤ
『
有名
(
いうめい
)
なマヂの
泉
(
いづみ
)
から
発端
(
ほつたん
)
として
申上
(
まをしあ
)
げます。
046
マヂの
泉
(
いづみ
)
は
一名
(
いちめい
)
マリアの
泉
(
いづみ
)
と
云
(
い
)
つて
居
(
ゐ
)
ます。
047
その
前
(
まへ
)
の
名
(
な
)
の
由来
(
ゆらい
)
は
幼児
(
えうじ
)
キリストを
拝
(
はい
)
すべく、
048
星
(
ほし
)
の
導
(
みちび
)
きを
便
(
たよ
)
りに
遥々
(
はるばる
)
と
尋
(
たづ
)
ねて
来
(
き
)
た
東方
(
とうはう
)
の
博士
(
はかせ
)
等
(
ら
)
は
爰
(
ここ
)
まで
来
(
き
)
て
其
(
その
)
星
(
ほし
)
を
見失
(
みうしな
)
ひ、
049
途方
(
とはう
)
に
暮
(
く
)
れて
居
(
ゐ
)
たところ、
050
この
井戸
(
ゐど
)
の
水
(
みづ
)
を
汲
(
く
)
み、
051
疲労
(
ひらう
)
を
癒
(
い
)
やさむと
立止
(
たちとど
)
まつた
時
(
とき
)
に、
052
案内
(
あんない
)
に
立
(
た
)
つた
星
(
ほし
)
が
泉
(
いづみ
)
の
水
(
みづ
)
に
反映
(
はんえい
)
して
居
(
ゐ
)
るのを
見付
(
みつ
)
け、
053
歓喜
(
くわんき
)
に
充
(
み
)
たされて
彼
(
かれ
)
等
(
ら
)
は
再
(
ふたた
)
びこれに
従
(
したが
)
つて
進
(
すす
)
んだのでマヂの
泉
(
いづみ
)
と
称
(
とな
)
へられたと
云
(
い
)
ひます。
054
第二
(
だいに
)
の
名
(
な
)
は
聖
(
せい
)
なる
家族
(
かぞく
)
がベツレヘムの
道
(
みち
)
に
爰
(
ここ
)
に
息
(
いこ
)
つたと
想像
(
さうざう
)
される
処
(
ところ
)
から、
055
マリアの
泉
(
いづみ
)
と
称
(
とな
)
へられたと
伝
(
つた
)
はつて
居
(
ゐ
)
るので
御座
(
ござ
)
います。
056
またこの
丘
(
をか
)
を
下
(
くだ
)
る
途中
(
とちう
)
の
右側
(
みぎがは
)
の
小石
(
こいし
)
が
無数
(
むすう
)
に
沢山
(
たくさん
)
ゴロ
付
(
つ
)
いて
居
(
ゐ
)
る
小豆
(
こまめ
)
の
原
(
はら
)
が
御座
(
ござ
)
いますが、
057
伝説
(
でんせつ
)
に
拠
(
よ
)
るとキリストが
或
(
ある
)
時
(
とき
)
この
場所
(
ばしよ
)
を
御
(
お
)
通
(
とほ
)
りになると、
058
一人
(
ひとり
)
の
野良
(
のら
)
男
(
をとこ
)
が
畑
(
はた
)
で
働
(
はたら
)
いて
居
(
ゐ
)
たので、
059
キリストがお
前
(
まへ
)
は
今
(
いま
)
何
(
なに
)
を
蒔
(
ま
)
いて
居
(
ゐ
)
るかと
問
(
と
)
はれたら、
060
彼
(
か
)
の
男
(
をとこ
)
は
豆
(
まめ
)
を
蒔
(
ま
)
いて
居
(
ゐ
)
ながら
石
(
いし
)
を
蒔
(
ま
)
いて
居
(
を
)
るのだと
答
(
こた
)
へた、
061
それから
後
(
のち
)
収穫時
(
しうくわくどき
)
になつて
彼
(
か
)
の
男
(
をとこ
)
は
豆
(
まめ
)
の
代
(
かは
)
りに
石
(
いし
)
ばかりを
収穫
(
しうくわく
)
しなければ
成
(
な
)
らなかつたと
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
で
御座
(
ござ
)
います』
062
ブラバーサ
『
高砂島
(
たかさごじま
)
にも
空海
(
くうかい
)
の
事蹟
(
じせき
)
に
就
(
つい
)
て
石芋
(
いしいも
)
なぞの
伝説
(
でんせつ
)
もあります。
063
凡
(
すべ
)
て
伝説
(
でんせつ
)
と
云
(
い
)
ふものは
古今
(
ここん
)
東西
(
とうざい
)
相似
(
さうじ
)
のものの
多
(
おほ
)
いのは
不可思議
(
ふかしぎ
)
と
云
(
い
)
ふより
外
(
ほか
)
はありませぬ。
064
何
(
なに
)
かこの
小豆
(
こまめ
)
ケ
原
(
はら
)
にも
神秘
(
しんぴ
)
的
(
てき
)
の
意味
(
いみ
)
が
含
(
ふく
)
まれて
在
(
あ
)
るのかも
知
(
し
)
れませぬから、
065
伝説
(
でんせつ
)
だと
云
(
い
)
つて
余
(
あま
)
り
馬鹿
(
ばか
)
にも
成
(
な
)
りますまい、
066
アハヽヽヽ。
067
時
(
とき
)
にマリアの
泉
(
いづみ
)
に
映
(
うつ
)
つた
星
(
ほし
)
は、
068
高砂島
(
たかさごじま
)
に
今日
(
こんにち
)
も
現
(
あら
)
はれて
玉
(
たま
)
の
井
(
ゐ
)
の
水
(
みづ
)
に
影
(
かげ
)
をうつし、
069
万民
(
ばんみん
)
の
罪穢
(
ざいゑ
)
を
洗
(
あら
)
ひ
清
(
きよ
)
めて
居
(
を
)
られます。
070
私
(
わたくし
)
はこのマリアの
泉
(
いづみ
)
の
御
(
お
)
話
(
はなし
)
を
聞
(
き
)
いて
何
(
なん
)
となく
崇高
(
すうかう
)
偉大
(
ゐだい
)
なる
瑞
(
みづ
)
の
御魂
(
みたま
)
の
聖主
(
せいしゆ
)
の
俤
(
おもかげ
)
が
偲
(
しの
)
ばれてなりませぬわ。
071
一度
(
いちど
)
玉
(
たま
)
の
井
(
ゐ
)
の
水
(
みづ
)
を
汲
(
く
)
み
取
(
と
)
るものは、
072
直
(
ただ
)
ちに
天国
(
てんごく
)
の
門
(
もん
)
に
進
(
すす
)
み
得
(
う
)
る
良
(
よ
)
い
手蔓
(
てづる
)
に
取
(
と
)
り
付
(
つ
)
くことが
出来
(
でき
)
るのです』
073
マリヤ
『ウヅンバラチヤンダー
聖主
(
せいしゆ
)
が
一
(
いち
)
日
(
にち
)
も
早
(
はや
)
くこの
聖地
(
せいち
)
に
降臨
(
かうりん
)
されて、
074
霊
(
れい
)
の
清水
(
しみづ
)
にかわいた
吾々
(
われわれ
)
に
生命
(
いのち
)
の
露
(
つゆ
)
の
恵
(
めぐ
)
みを
与
(
あた
)
へ
玉
(
たま
)
ふ
日
(
ひ
)
が
待
(
ま
)
ち
遠
(
ど
)
ほしく
御座
(
ござ
)
います』
075
ブラバーサ
『マリヤ
様
(
さま
)
、
076
有名
(
いうめい
)
なラケルの
墓
(
はか
)
は
何
(
いづ
)
れの
方面
(
はうめん
)
に
御座
(
ござ
)
いますか』
077
マリヤ
『ラケルの
墓
(
はか
)
ですか。
078
それはこの
道端
(
みちばた
)
の
小
(
ちひ
)
さい
近代
(
きんだい
)
的
(
てき
)
の
建築物
(
けんちくぶつ
)
でありますが、
079
そこにヤコブが
愛妻
(
あいさい
)
の
亡骸
(
なきがら
)
を
葬
(
はうむ
)
つたと
伝
(
つた
)
へられて
居
(
を
)
ります。
080
それよりも
美
(
うつく
)
しい
物語
(
ものがたり
)
ののこつて
居
(
ゐ
)
るのはダビデの
泉
(
いづみ
)
ですわ』
081
ブラバーサ
『その
美
(
うつく
)
しい
物語
(
ものがたり
)
を
拝聴
(
はいちやう
)
いたしたいものですなア』
082
マリヤ
『
或
(
あ
)
る
時
(
とき
)
ダビデが
敵軍
(
てきぐん
)
に
取
(
と
)
り
囲
(
かこ
)
まれ、
083
疲
(
つか
)
れ
果
(
は
)
てて
彼
(
かれ
)
の
故郷
(
こきやう
)
なるベツレヘムの
門外
(
もんぐわい
)
にある
此
(
この
)
清泉
(
せいせん
)
の
一杯
(
いつぱい
)
の
水
(
みづ
)
を
渇望
(
かつばう
)
して
止
(
や
)
まなかつた。
084
所
(
ところ
)
が
忠実
(
ちうじつ
)
なる
部下
(
ぶか
)
の
一人
(
ひとり
)
がダビデのこの
泉水
(
せんすゐ
)
を
渇望
(
かつばう
)
して
居
(
ゐ
)
る
事
(
こと
)
を
探知
(
たんち
)
して、
085
黙
(
だま
)
つて
一人
(
ひとり
)
で
出
(
で
)
かけて
非常
(
ひじやう
)
なる
危険
(
きけん
)
を
冒
(
をか
)
した
後
(
のち
)
、
086
漸
(
やうや
)
く
少
(
すこ
)
しばかりの
水
(
みづ
)
を
汲
(
く
)
んで
帰
(
かへ
)
つて
来
(
き
)
たのです。
087
ダビデは
部下
(
ぶか
)
のものが
自分
(
じぶん
)
に
対
(
たい
)
する
真心
(
まごころ
)
の
愛
(
あい
)
から、
088
種々
(
しゆじゆ
)
の
危険
(
きけん
)
を
賭
(
と
)
してこの
霊水
(
れいすゐ
)
を
汲
(
く
)
み
得
(
え
)
て
帰
(
かへ
)
つて
来
(
き
)
たその
辛苦
(
しんく
)
を
思
(
おも
)
ふて、
089
その
水
(
みづ
)
をば
一介
(
いつかい
)
の
人間
(
にんげん
)
の
飲
(
の
)
み
物
(
もの
)
にするには
余
(
あま
)
り
勿体
(
もつたい
)
ないから
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
供物
(
くもつ
)
にせむと、
090
恭
(
うやうや
)
しく
神
(
かみ
)
に
感謝
(
かんしや
)
を
捧
(
ささ
)
げた
上
(
うへ
)
、
091
大地
(
だいち
)
にそそいで
了
(
しま
)
つたと
云
(
い
)
ひ
伝
(
つた
)
へて
居
(
を
)
ります。
092
信仰
(
しんかう
)
も
其処
(
そこ
)
まで
行
(
ゆ
)
かないと
駄目
(
だめ
)
ですなア』
093
ブラバーサ
『
信仰
(
しんかう
)
の
力
(
ちから
)
は
山嶽
(
さんがく
)
をも
移
(
うつ
)
すとか
申
(
まを
)
しまして、
094
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
に
信仰心
(
しんかうしん
)
ほど
強
(
つよ
)
く
清
(
きよ
)
く
且
(
か
)
つ
尊
(
たふと
)
いものは
有
(
あ
)
りませぬなア』
095
マリヤ
『
左様
(
さやう
)
です、
096
信仰
(
しんかう
)
の
力
(
ちから
)
ほど
偉大
(
ゐだい
)
なものは
有
(
あ
)
りませぬわ。
097
妾
(
わたし
)
だつて
三十
(
さんじふ
)
の
坂
(
さか
)
を
越
(
こ
)
え
乍
(
なが
)
ら
未
(
いま
)
だセリバシー
生活
(
せいくわつ
)
に
甘
(
あま
)
んじて
居
(
を
)
りますのも、
098
依然
(
やつぱり
)
信仰心
(
しんかうしん
)
のためですもの。
099
ベツレヘムの
町
(
まち
)
が
幾
(
いく
)
つもの
丘
(
をか
)
の
上
(
うへ
)
に
美
(
うつく
)
しく
位
(
くらゐ
)
して
居
(
を
)
りますが、
100
彼
(
かれ
)
は
世界
(
せかい
)
に
於
(
お
)
ける
最
(
もつと
)
も
小
(
ちひ
)
さきものとしられて
居
(
を
)
ります。
101
併
(
しか
)
しながら
妾
(
わたし
)
は
決
(
けつ
)
して
小
(
ちひ
)
さきものとは
思
(
おも
)
ひませぬ。
102
何故
(
なぜ
)
ならば
信仰
(
しんかう
)
の
対照物
(
たいせうぶつ
)
いな
御
(
ご
)
本尊
(
ほんぞん
)
なるエスキリストを、
103
イスラエル
民族
(
みんぞく
)
のみならず
世界
(
せかい
)
全人類
(
ぜんじんるい
)
救
(
すく
)
ひのために
主
(
しゆ
)
を
産
(
う
)
み
出
(
だ
)
しましたからです』
104
ブラバーサ
『
如何
(
いか
)
にも
救世主
(
きうせいしゆ
)
を
現
(
あら
)
はしたこのパレスチナの
聖地
(
せいち
)
は
偉大
(
ゐだい
)
です。
105
いな
荘厳味
(
そうごんみ
)
が
津々
(
しんしん
)
として
湧
(
わ
)
くやうです。
106
再臨
(
さいりん
)
のキリストを
出
(
だ
)
した
綾
(
あや
)
の
聖地
(
せいち
)
も
亦
(
また
)
、
107
偉大
(
ゐだい
)
と
云
(
い
)
はねばなりませぬわ』
108
マリヤ
『この
聖地
(
せいち
)
には
近代
(
きんだい
)
的
(
てき
)
の
教会
(
けうくわい
)
やホスピースや
僧院
(
そうゐん
)
が
諸所
(
しよしよ
)
に
沢山
(
たくさん
)
建
(
た
)
つて
居
(
を
)
りまして、
109
まだ
古
(
ふる
)
い
古
(
ふる
)
いユダヤ
人街
(
じんがい
)
が
彼方
(
あちら
)
此方
(
こちら
)
に
残
(
のこ
)
つて
居
(
を
)
りますので、
110
妾
(
わたし
)
はそこを
通行
(
つうかう
)
する
度
(
たび
)
毎
(
ごと
)
にキリストの
当時
(
たうじ
)
を
偲
(
しの
)
ぶので
御座
(
ござ
)
います。
111
アレ
彼
(
あ
)
の
通
(
とほ
)
り、
112
往来
(
わうらい
)
の
真中
(
まんなか
)
に
駱駝
(
らくだ
)
が
呑気
(
のんき
)
さうに
寝
(
ね
)
そべつて
噛
(
か
)
みなほしをやつて
居
(
ゐ
)
ます。
113
サア
是
(
これ
)
から
車
(
くるま
)
は
止
(
や
)
めにして、
114
徐々
(
そろそろ
)
テクル
事
(
こと
)
に
致
(
いた
)
しませうか。
115
自動車
(
じどうしや
)
で
素通
(
すどほ
)
りばかり
致
(
いた
)
しましても
余
(
あま
)
り
有益
(
いうえき
)
な
見学
(
けんがく
)
にもなりませぬからなア』
116
ブラバーサは
何事
(
なにごと
)
も
一切
(
いつさい
)
マリヤに
任
(
まか
)
して
居
(
ゐ
)
たので、
117
言
(
い
)
ふが
儘
(
まま
)
にマリヤの
後
(
あと
)
から
従
(
つ
)
いて
行
(
ゆ
)
くのであつた。
118
二人
(
ふたり
)
は
後
(
あと
)
になり
前
(
さき
)
になりしながら
道
(
みち
)
を
行
(
ゆ
)
くと、
119
相貌
(
さうばう
)
の
品
(
ひん
)
の
良
(
よ
)
いユダヤ
人
(
じん
)
に
幾人
(
いくにん
)
も
出逢
(
であ
)
ふた。
120
ブラバーサは
心
(
こころ
)
の
中
(
うち
)
にて、
121
ブラバーサ
『
成程
(
なるほど
)
イスラエルの
流
(
なが
)
れを
汲
(
く
)
んだユダヤ
人
(
じん
)
は
何処
(
どこ
)
ともなしに
気品
(
きひん
)
の
高
(
たか
)
い、
122
犯
(
をか
)
し
難
(
がた
)
い
処
(
ところ
)
がある、
123
是
(
これ
)
では
神
(
かみ
)
の
選民
(
せんみん
)
だと
言
(
い
)
つても
余
(
あま
)
り
過言
(
くわごん
)
では
無
(
な
)
い。
124
吾
(
わが
)
身
(
み
)
は
名
(
な
)
に
負
(
お
)
ふ
高砂
(
たかさご
)
の
神
(
かみ
)
の
国
(
くに
)
から
遥々
(
はるばる
)
出
(
で
)
て
来
(
き
)
たものだが、
125
神
(
かみ
)
の
選民
(
せんみん
)
と
称
(
しよう
)
するユダヤ
人
(
じん
)
の
気品
(
きひん
)
の
高
(
たか
)
い
所
(
ところ
)
を
見
(
み
)
て、
126
何
(
なん
)
だか
俄
(
にはか
)
にユダヤ
人
(
じん
)
崇敬
(
すうけい
)
の
気分
(
きぶん
)
が
頭
(
あたま
)
を
擡
(
もた
)
げて
来
(
き
)
さうだ。
127
そして
神
(
かみ
)
の
独子
(
ひとりご
)
と
称
(
しよう
)
するキリストの
聖跡
(
せいせき
)
を
尋
(
たづ
)
ねて
居
(
ゐ
)
る
自分
(
じぶん
)
は、
128
層一層
(
そういつそう
)
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
より
重大
(
ぢうだい
)
なる
使命
(
しめい
)
を
与
(
あた
)
へられて
居
(
を
)
るやうだ』
129
と
心
(
こころ
)
に
種々
(
しゆじゆ
)
の
感想
(
かんさう
)
を
抱
(
いだ
)
いて
居
(
ゐ
)
る。
130
マリヤ
『
聖師
(
せいし
)
様
(
さま
)
、
131
聖地
(
せいち
)
に
於
(
おい
)
て
第一番
(
だいいちばん
)
に
見
(
み
)
るべきものが
御座
(
ござ
)
います。
132
それは
聖誕
(
せいたん
)
の
場所
(
ばしよ
)
に
建
(
た
)
てられたと
称
(
しよう
)
して
居
(
ゐ
)
る「
聖降誕
(
せいかうたん
)
の
寺院
(
じゐん
)
」です。
133
是
(
これ
)
から
其
(
その
)
寺院
(
じゐん
)
へ
拝観
(
はいくわん
)
に
参
(
まゐ
)
りませう。
134
現今
(
げんこん
)
にては、
135
ローマ・カトリックやギリシヤ・オルソドツクスやアルメニヤ
教会
(
けうくわい
)
の
分有
(
ぶんいう
)
になつて
居
(
ゐ
)
ます。
136
そして
此
(
この
)
寺院
(
じゐん
)
も
昔
(
むかし
)
にコンスタンチン
帝
(
てい
)
が
建立
(
こんりふ
)
されたものだと
云
(
い
)
ふことです。
137
その
当時
(
たうじ
)
は
金銀
(
きんぎん
)
や
大理石
(
だいりせき
)
もモザイツクで
贅沢
(
ぜいたく
)
に
飾
(
かざ
)
られて
居
(
ゐ
)
たさうです。
138
今
(
いま
)
ではモザイツクが
少
(
すこ
)
しばかり
残
(
のこ
)
つて
居
(
を
)
りますが、
139
妙
(
めう
)
に
冷
(
ひや
)
やかな
荒廃
(
くわうはい
)
した
厭
(
いや
)
な
感
(
かん
)
じを
与
(
あた
)
へます』
140
と
云
(
い
)
ひながら、
141
漸
(
やうや
)
くにして
寺
(
てら
)
の
門前
(
もんぜん
)
に
着
(
つ
)
いた。
142
背
(
たけ
)
の
低
(
ひく
)
い、
143
肩先
(
かたさき
)
までも
届
(
とど
)
かぬ
様
(
やう
)
な
長方形
(
ちやうはうけい
)
の
石
(
いし
)
の
入口
(
いりぐち
)
を
潜
(
くぐ
)
ると、
144
コリント
式
(
しき
)
のカピタルを
持
(
も
)
つた
十本
(
じつぽん
)
づつ
四列
(
よれつ
)
の
円柱
(
ゑんちう
)
が
寺院
(
じゐん
)
の
内部
(
ないぶ
)
を
仕切
(
しき
)
つて
居
(
ゐ
)
て、
145
質素
(
しつそ
)
な
様
(
やう
)
だが
何
(
なん
)
となく
荘厳
(
さうごん
)
な
感
(
かん
)
じがする。
146
このバシリクは
実
(
じつ
)
に
現在
(
げんざい
)
に
残
(
のこ
)
つて
居
(
を
)
るキリスト
教
(
けう
)
の
建築物
(
けんちくぶつ
)
の
中
(
なか
)
では
最
(
もつと
)
も
古
(
ふる
)
きものだらうと
謂
(
い
)
はれて
居
(
を
)
るのである。
147
大神壇
(
だいしんだん
)
の
下
(
した
)
には
聖誕
(
せいたん
)
の
洞窟
(
どうくつ
)
があつて、
148
チヤペルに
造
(
つく
)
られ
三十二
(
さんじふに
)
箇
(
こ
)
の
小
(
ちひ
)
さいランプで
薄暗
(
うすぐら
)
く
照
(
て
)
らされてゐる。
149
誕生
(
たんじやう
)
の
地点
(
ちてん
)
は
神壇
(
しんだん
)
の
下
(
した
)
に
大理石
(
だいりせき
)
を
据
(
す
)
ゑ、
150
其
(
その
)
上
(
うへ
)
を
銀
(
ぎん
)
の
浮彫
(
うきぼり
)
でキリスト
聖誕
(
せいたん
)
の
地
(
ち
)
と
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
が
録
(
しる
)
されてある。
151
この
地点
(
ちてん
)
は
聖地
(
せいち
)
における
他
(
た
)
の
何
(
いづ
)
れの
場所
(
ばしよ
)
よりもズツと
古
(
ふる
)
くして、
152
最
(
もつと
)
も
信憑
(
しんぴよう
)
に
足
(
た
)
ると
云
(
い
)
ふことである。
153
何故
(
なぜ
)
なればこの
場所
(
ばしよ
)
は
紀元前
(
きげんぜん
)
四
(
よん
)
世紀
(
せいき
)
の
頃
(
ころ
)
に
生
(
い
)
きて
居
(
ゐ
)
た
聖
(
せい
)
ジエロームよりも、
154
二百
(
にひやく
)
年
(
ねん
)
以上
(
いじやう
)
も
前
(
まへ
)
から
既
(
すで
)
にキリスト
教徒
(
けうと
)
によつて
非常
(
ひじやう
)
に
畏敬
(
ゐけい
)
されて
居
(
ゐ
)
たからである。
155
其
(
その
)
他
(
た
)
寺院
(
じゐん
)
の
地下
(
ちか
)
には
色々
(
いろいろ
)
な
由緒
(
ゆいしよ
)
を
附
(
ふ
)
したチヤペルが
散在
(
さんざい
)
してゐる。
156
馬槽
(
ばさう
)
のチヤペルもその
一
(
ひと
)
つである。
157
その
馬槽
(
ばさう
)
は
大理石
(
だいりせき
)
で
立派
(
りつぱ
)
なものが
出来
(
でき
)
て
居
(
ゐ
)
るが、
158
幼児
(
えうじ
)
キリストがその
中
(
なか
)
に
置
(
お
)
かれたマヂ
礼拝
(
らいはい
)
の
神壇
(
しんだん
)
──
幼児
(
えうじ
)
のチヤペル──その
場所
(
ばしよ
)
へ
母
(
はは
)
達
(
たち
)
が
隠
(
かく
)
しておいた
幼児
(
えうじ
)
をヘロデが
殺
(
ころ
)
さしめた
聖
(
せい
)
ヨセフのチヤペル──その
場所
(
ばしよ
)
で
彼
(
かれ
)
がエヂプトに
避難
(
ひなん
)
せよとの
夢
(
ゆめ
)
の
啓示
(
けいじ
)
を
受
(
う
)
けた。
159
その
他
(
た
)
聖
(
せい
)
ジエロームの
住居
(
すまゐ
)
であつた
所
(
ところ
)
に
設
(
まう
)
けられたジエロームのチヤペル、
160
及
(
およ
)
び
岩
(
いは
)
の
中
(
なか
)
に
掘
(
ほ
)
られたこの
聖者
(
せいじや
)
の
墓
(
はか
)
などが
黙然
(
もくねん
)
として
三千
(
さんぜん
)
年
(
ねん
)
の
昔
(
むかし
)
を
物語
(
ものがた
)
り
居
(
ゐ
)
るなり。
161
(
大正一二・七・一一
旧五・二八
加藤明子
録)
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