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第64巻(卯の巻)上
序
総説
第1篇 日下開山
01 橄欖山
〔1630〕
02 宣伝使
〔1631〕
03 聖地夜
〔1632〕
04 訪問客
〔1633〕
05 至聖団
〔1634〕
第2篇 聖地巡拝
06 偶像都
〔1635〕
07 巡礼者
〔1636〕
08 自動車
〔1637〕
09 膝栗毛
〔1638〕
10 追懐念
〔1639〕
第3篇 花笑蝶舞
11 公憤私憤
〔1640〕
12 誘惑
〔1641〕
13 試練
〔1642〕
14 荒武事
〔1643〕
15 大相撲
〔1644〕
16 天消地滅
〔1645〕
第4篇 遠近不二
17 強請
〔1646〕
18 新聞種
〔1647〕
19 祭誤
〔1648〕
20 福命
〔1649〕
21 遍路
〔1650〕
22 妖行
〔1651〕
第5篇 山河異涯
23 暗着
〔1652〕
24 妖蝕
〔1653〕
25 地図面
〔1654〕
26 置去
〔1655〕
27 再転
〔1656〕
余白歌
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第二四章
妖蝕
(
えうしよく
)
〔一六五三〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第64巻上 山河草木 卯の巻上
篇:
第5篇 山河異涯
よみ(新仮名遣い):
さんがいがい
章:
第24章 妖蝕
よみ(新仮名遣い):
ようしょく
通し章番号:
1653
口述日:
1923(大正12)年07月13日(旧05月30日)
口述場所:
筆録者:
北村隆光
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1925(大正14)年10月16日
概要:
舞台:
僧院ホテルのお寅の部屋
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2017-11-26 00:18:41
OBC :
rm64a24
愛善世界社版:
265頁
八幡書店版:
第11輯 476頁
修補版:
校定版:
267頁
普及版:
62頁
初版:
ページ備考:
001
お
寅
(
とら
)
外
(
ほか
)
三
(
さん
)
人
(
にん
)
は
漸
(
やうや
)
くにしてカトリックの
僧院
(
そうゐん
)
ホテルの
二階
(
にかい
)
に
宿泊
(
しゆくはく
)
する
事
(
こと
)
となつた。
002
折柄
(
をりから
)
チンチンと
鈴
(
リン
)
の
音
(
おと
)
、
003
けたたましく
配達
(
はいたつ
)
して
来
(
き
)
た
新聞
(
しんぶん
)
を
一
(
いち
)
枚
(
まい
)
買
(
か
)
つて
守宮別
(
やもりわけ
)
は
読
(
よ
)
んで
見
(
み
)
た。
004
守宮別
『ヤアお
寅
(
とら
)
さま、
005
えらい
事
(
こと
)
が
出
(
で
)
て
居
(
ゐ
)
ますよ。
006
救世主
(
きうせいしゆ
)
の
再臨
(
さいりん
)
に
先立
(
さきだ
)
つて
日
(
ひ
)
の
出島
(
でじま
)
からブラバーサがやつて
来
(
き
)
たと
云
(
い
)
ふ
記事
(
きじ
)
が
見
(
み
)
えて
居
(
ゐ
)
ますわい。
007
随分
(
ずゐぶん
)
もてたものですわい。
008
こりやグヅグヅしてゐると
吾々
(
われわれ
)
は
駄目
(
だめ
)
ですよ』
009
お寅
『
何
(
なに
)
?ブラバーサの
事
(
こと
)
が
出
(
で
)
て
居
(
ゐ
)
るのかい。
010
大方
(
おほかた
)
女
(
をんな
)
にでも
相手
(
あひて
)
になつて、
011
しくじつた
記事
(
きじ
)
ででもなからうかな』
012
守宮別
『
何
(
なん
)
だか
知
(
し
)
りませぬが、
013
伯爵
(
はくしやく
)
の
娘
(
むすめ
)
サロメと
云
(
い
)
ふ
絶世
(
ぜつせい
)
の
美人
(
びじん
)
とアメリカンコロニーの
牛耳
(
ぎうじ
)
を
握
(
にぎ
)
つてるマリヤと
云
(
い
)
ふ
女
(
をんな
)
が
橄欖山
(
かんらんざん
)
の
上
(
うへ
)
でブラバーサを
引張凧
(
ひつぱりだこ
)
にしてる
記事
(
きじ
)
ですわ』
014
お寅
『
一
(
いつ
)
ぺん
読
(
よ
)
んで
下
(
くだ
)
さいな』
015
守宮別
『
読
(
よ
)
んでも
英語
(
えいご
)
で
書
(
か
)
いてあるのだからお
前
(
まへ
)
さまには
分
(
わか
)
りますまい。
016
バカに
褒
(
ほ
)
めて
書
(
か
)
いてあるからな。
017
エーもう
措
(
お
)
きませうかい』
018
お寅
『
分
(
わか
)
らいでもお
前
(
まへ
)
さまは、
019
そこをうまく
訳
(
やく
)
して、
020
わし
等
(
たち
)
の
耳
(
みみ
)
に
分
(
わか
)
るやうに
読
(
よ
)
むのだよ』
021
守宮別
『エー、
022
仕方
(
しかた
)
がない。
023
それでは
訳
(
やく
)
して
読
(
よ
)
みませう。
024
面倒
(
めんだう
)
臭
(
くさ
)
いな』
025
と
云
(
い
)
ひ
乍
(
なが
)
ら
新聞
(
しんぶん
)
をお
寅
(
とら
)
の
前
(
まへ
)
におき、
026
守宮別
『エー、
027
二号
(
にがう
)
活字
(
くわつじ
)
で
見出
(
みだ
)
しが「
橄欖山
(
かんらんさん
)
上
(
じやう
)
の
聖劇
(
せいげき
)
」と
書
(
か
)
いてありますわい』
028
お寅
『
聖劇
(
せいげき
)
と
云
(
い
)
ふのは
何
(
なん
)
の
事
(
こと
)
ぢやい?それを
細
(
こま
)
こう
説
(
と
)
いて
下
(
くだ
)
さい』
029
守宮別
『
聖劇
(
せいげき
)
といつたら
聖劇
(
せいげき
)
ぢやありませぬか。
030
一旦
(
いつたん
)
日本語
(
にほんご
)
に
訳
(
やく
)
して
又
(
また
)
日本語
(
にほんご
)
に
訳
(
やく
)
さねばならぬと
大変
(
たいへん
)
手間
(
てま
)
がとれますからな』
031
お寅
『ソンナ
聖劇
(
せいげき
)
なんて……それは、
032
英語
(
えいご
)
でせう。
033
日本
(
やまと
)
言葉
(
ことば
)
にソンナ
言葉
(
ことば
)
はない
筈
(
はず
)
だ』
034
守宮別
『エー、
035
仕方
(
しかた
)
がないな。
036
お
寅
(
とら
)
さま、
037
聖劇
(
せいげき
)
と
云
(
い
)
ふのは
結構
(
けつこう
)
な
神
(
かみ
)
さまのお
芝居
(
しばゐ
)
と
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
だよ』
038
お寅
『
成程
(
なるほど
)
、
039
さうすると
此
(
この
)
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
の
生宮
(
いきみや
)
が
橄欖山
(
かんらんさん
)
上
(
じやう
)
に
降
(
くだ
)
つて
来
(
き
)
たと
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
ぢやな』
040
守宮別
『マア
黙
(
だま
)
つて
聞
(
き
)
いて
下
(
くだ
)
さい。
041
エー、
042
○
月
(
ぐわつ
)
○
日
(
にち
)
の
夜
(
よ
)
、
043
十二
(
じふに
)
時
(
じ
)
頃
(
ごろ
)
橄欖山
(
かんらんさん
)
上
(
じやう
)
に
於
(
おい
)
て
前代
(
ぜんだい
)
未聞
(
みもん
)
の
聖劇
(
せいげき
)
が
演
(
えん
)
ぜられた、
044
その
登場
(
とうぢやう
)
役者
(
やくしや
)
と
云
(
い
)
ふのは
基督
(
キリスト
)
の
再臨
(
さいりん
)
に
先
(
さき
)
だつて
日
(
ひ
)
の
出島
(
でじま
)
より
派遣
(
はけん
)
されたる
神力
(
しんりき
)
無双
(
むそう
)
の
神人
(
しんじん
)
、
045
ブラバーサと
云
(
い
)
ふ
紳士
(
しんし
)
、
046
ルートバハーの
宣伝使
(
せんでんし
)
として
聖地
(
せいち
)
エルサレムに
数十
(
すうじふ
)
日
(
にち
)
以前
(
いぜん
)
に
到着
(
たうちやく
)
され、
047
今
(
いま
)
はシオン
山
(
ざん
)
の
麓
(
ふもと
)
に
草庵
(
さうあん
)
を
結
(
むす
)
び
聖業
(
せいげふ
)
を
朝夕
(
あさゆふ
)
修行
(
しうぎやう
)
せるもの、
048
又
(
また
)
一人
(
ひとり
)
の
男
(
をとこ
)
は
基督教
(
キリストけう
)
の
有名
(
いうめい
)
なる
宣伝使
(
せんでんし
)
、
049
ヤコブと
云
(
い
)
ふ
眉目
(
びもく
)
清秀
(
せいしう
)
の
青年
(
せいねん
)
である。
050
女
(
をんな
)
は
某
(
ぼう
)
伯爵
(
はくしやく
)
の
令嬢
(
れいぢやう
)
サロメ
姫
(
ひめ
)
の
君
(
きみ
)
にて、
051
基督
(
キリスト
)
再臨
(
さいりん
)
を
前知
(
ぜんち
)
し、
052
ヨルダン
川
(
がは
)
の
辺
(
ほとり
)
に
建
(
た
)
てるバハイ
教
(
けう
)
のチヤーチに
参詣
(
さんけい
)
し、
053
バハーウラー
聖師
(
せいし
)
の
教
(
をしへ
)
を
受
(
う
)
け
居
(
を
)
れる
淑女
(
しゆくぢよ
)
である。
054
又
(
また
)
一人
(
ひとり
)
の
女
(
をんな
)
はアメリカンコロニーの
牛耳
(
ぎうじ
)
を
執
(
と
)
れるマリヤと
云
(
い
)
ふサロメ
姫
(
ひめ
)
に
劣
(
おと
)
らぬ
容色
(
ようしよく
)
端麗
(
たんれい
)
なる
美人
(
びじん
)
である。
055
此
(
この
)
四
(
よ
)
人
(
にん
)
は
日出島
(
ひのでじま
)
より
救世主
(
きうせいしゆ
)
の
降臨
(
かうりん
)
する
事
(
こと
)
を
前知
(
ぜんち
)
し、
056
深夜
(
しんや
)
に
期
(
き
)
せずして、
057
橄欖山
(
かんらんざん
)
(
霊山
(
れいざん
)
会場
(
ゑぢやう
)
の
蓮華台
(
れんげだい
)
)に
現
(
あら
)
はれ、
058
神政
(
しんせい
)
成就
(
じやうじゆ
)
の
大神業
(
だいしんげふ
)
を
修
(
しう
)
されたり。
059
是
(
これ
)
等
(
ら
)
の
二男
(
になん
)
二女
(
にぢよ
)
は
天下
(
てんか
)
に
先立
(
さきだ
)
つて
基督
(
キリスト
)
の
再臨
(
さいりん
)
を
前知
(
ぜんち
)
したる
聖哲
(
せいてつ
)
なれば、
060
決
(
けつ
)
してその
言
(
げん
)
に
詐
(
いつは
)
りあるべしとも
思
(
おも
)
はれず、
061
品行
(
ひんかう
)
極
(
きは
)
めて
方正
(
はうせい
)
にして
万人
(
ばんにん
)
の
模範
(
もはん
)
となるべき
人格者
(
じんかくしや
)
である。
062
ブラバーサの
云
(
い
)
ふ
所
(
ところ
)
を
綜合
(
そうがふ
)
すれば
基督
(
キリスト
)
の
再臨
(
さいりん
)
も
最早
(
もはや
)
遠
(
とほ
)
からずとの
事
(
こと
)
なり、
063
神縁
(
しんえん
)
深
(
ふか
)
きエルサレムの
市民
(
しみん
)
は
此
(
この
)
四
(
よ
)
人
(
にん
)
の
努力
(
どりよく
)
に
感謝
(
かんしや
)
せざるべからず。
064
実
(
じつ
)
に
稀代
(
きだい
)
の
神人
(
しんじん
)
と
云
(
い
)
ふべし。
065
因
(
ちなみ
)
に
云
(
い
)
ふ。
066
ブラバーサは
今
(
いま
)
やシオンの
山麓
(
さんろく
)
に
草庵
(
さうあん
)
を
結
(
むす
)
び、
067
神業
(
しんげふ
)
に
修行
(
しうぎやう
)
されつつあるは
前記
(
ぜんき
)
の
如
(
ごと
)
し。
068
またサロメ
姫
(
ひめ
)
はバハイ
教
(
けう
)
のバハーウラーの
別室
(
べつしつ
)
に
著述
(
ちよじゆつ
)
に
耽
(
ふけ
)
りつつあり。
069
ヤコブは
今
(
いま
)
や
僧院
(
そうゐん
)
ホテルに
滞在中
(
たいざいちう
)
なり。
070
マリヤはアメリカンコロニーにあつて
数多
(
あまた
)
の
信徒
(
しんと
)
を
教養
(
けうやう
)
しつつあり。
071
基督
(
キリスト
)
再臨
(
さいりん
)
に
就
(
つ
)
いて
教
(
をしへ
)
を
乞
(
こ
)
はむとするものは
此
(
この
)
四
(
よ
)
人
(
にん
)
の
居所
(
きよしよ
)
を
訪
(
たづ
)
ねらるべし』
072
と
読
(
よ
)
み
終
(
をは
)
り、
073
守宮別
『お
寅
(
とら
)
さま、
074
何
(
なん
)
とブラバーサは
偉
(
えら
)
い
信用
(
しんよう
)
を
受
(
う
)
けたものぢやありませぬか。
075
もう
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
も
斯
(
か
)
うなつちや
駄目
(
だめ
)
ですよ』
076
お寅
『
何
(
なに
)
、
077
それが
御
(
お
)
仕組
(
しぐみ
)
だよ。
078
これからそのサロメ、
079
マリヤとやらを、
080
うまく
説
(
と
)
き
伏
(
ふ
)
せ、
081
ブラバーサの
所在
(
ありか
)
をつきとめて、
082
ウーンと
云
(
い
)
ふ
程
(
ほど
)
往生
(
わうじやう
)
さしておけば、
083
ブラバーサが
救世主
(
きうせいしゆ
)
は
此
(
この
)
お
方
(
かた
)
ですと
云
(
い
)
へば、
084
何
(
なに
)
もかも
埒
(
らち
)
が
明
(
あ
)
くのだよ。
085
御
(
ご
)
神業
(
しんげふ
)
と
云
(
い
)
ふものは
凶
(
きよう
)
を
変
(
へん
)
じて
吉
(
きち
)
となし、
086
過
(
くわ
)
を
転
(
てん
)
じて
福
(
ふく
)
となし、
087
敵
(
てき
)
を
味方
(
みかた
)
にするのが
一厘
(
いちりん
)
の
仕組
(
しぐみ
)
だよ』
088
守宮別
『さう、
089
貴方
(
あなた
)
の
考
(
かんが
)
へ
通
(
どほ
)
り、
090
うまく
行
(
ゆ
)
くでせうかな』
091
お寅
『
行
(
ゆ
)
かいでかな。
092
「
成
(
な
)
せば
成
(
な
)
る、
093
成
(
な
)
さねばならぬ
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
にならぬと
思
(
おも
)
ふ
人
(
ひと
)
の
愚
(
おろか
)
さ」と
云
(
い
)
ふ
古歌
(
こか
)
があるだらう。
094
さあこれから
千騎
(
せんき
)
一騎
(
いつき
)
の
活動
(
くわつどう
)
だ。
095
時
(
とき
)
おくれては
一大事
(
いちだいじ
)
だ。
096
何
(
なに
)
は
兎
(
と
)
もあれ、
097
アメリカンコロニーとやらに
行
(
い
)
つて、
098
そのマリヤに
会
(
あ
)
ふて
来
(
こ
)
やう。
099
さうすればブラバーサの
様子
(
やうす
)
が
大概
(
たいがい
)
分
(
わか
)
るだらう』
100
守宮別
『
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
さまなら、
101
その
位
(
くらゐ
)
の
事
(
こと
)
は
尋
(
たづ
)
ねなくても
様子
(
やうす
)
が
分
(
わか
)
りさうなものですな』
102
お寅
『エー、
103
やかましいわいな。
104
又
(
また
)
しても
小理窟
(
こりくつ
)
を
云
(
い
)
ふのかいな。
105
サーサ、
106
行
(
ゆ
)
きませう。
107
ブラバーサに
先
(
さき
)
にしてやられちや
駄目
(
だめ
)
ですよ』
108
曲彦
(
まがひこ
)
はそばより、
109
曲彦
『これお
寅
(
とら
)
さま、
110
天
(
てん
)
からきまつた
救世主
(
きうせいしゆ
)
なら、
111
さう
騒
(
さわ
)
がなくても
向
(
む
)
かふから
歓迎
(
くわんげい
)
してくれますよ。
112
此方
(
こちら
)
から
自家
(
じか
)
広告
(
くわうこく
)
しても
人
(
ひと
)
が
用
(
もち
)
ゐなければ
駄目
(
だめ
)
ですがな』
113
お寅
『コリヤ
曲彦
(
まがひこ
)
、
114
そりや
何
(
なに
)
を
云
(
い
)
ふのだい。
115
今
(
いま
)
の
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
は
自家
(
じか
)
広告
(
くわうこく
)
が
肝腎
(
かんじん
)
だよ。
116
自分
(
じぶん
)
の
事
(
こと
)
は
自分
(
じぶん
)
で
現
(
あら
)
はさねば、
117
自分
(
じぶん
)
の
事
(
こと
)
は
誰
(
たれ
)
も
認
(
みと
)
めて
呉
(
く
)
れませぬよ。
118
死
(
し
)
んでから
千
(
せん
)
年
(
ねん
)
も
万
(
まん
)
年
(
ねん
)
も
経
(
た
)
つて
認
(
みと
)
めて
呉
(
く
)
れても
駄目
(
だめ
)
だからな。
119
これ、
120
お
花
(
はな
)
さま、
121
お
前
(
まへ
)
もシツカリして
下
(
くだ
)
さらぬと、
122
ここは
戦場
(
せんぢやう
)
ですよ』
123
かかる
処
(
ところ
)
へボーイが
西洋
(
せいやう
)
料理
(
れうり
)
を
持
(
も
)
つて
来
(
き
)
た。
124
守宮別
(
やもりわけ
)
はボーイに「ビールを
一打
(
いちダース
)
ばかり
持
(
も
)
つて
来
(
こ
)
い」と
命
(
めい
)
じた。
125
暫
(
しばら
)
くすると、
126
沢山
(
たくさん
)
の
皿
(
さら
)
やコツプや、
127
ビールを
先繰
(
せんぐ
)
り
持
(
も
)
つて
来
(
く
)
る。
128
守宮別
(
やもりわけ
)
は
目
(
め
)
を
細
(
ほそ
)
うし
乍
(
なが
)
ら、
129
涎
(
よだれ
)
をくつてビールの
喇叭飲
(
ラツパの
)
みをやつて
居
(
ゐ
)
る。
130
お
寅
(
とら
)
は
今迄
(
いままで
)
喰
(
く
)
つた
事
(
こと
)
のない
西洋
(
せいやう
)
料理
(
れうり
)
を
見
(
み
)
て
顔
(
かほ
)
をしかめ
乍
(
なが
)
ら、
131
先繰
(
せんぐ
)
り
先繰
(
せんぐ
)
り
喰
(
く
)
つてしまひ、
132
お寅
『あゝ、
133
バタ
臭
(
くさ
)
い、
134
コンナ
聖地
(
せいち
)
に
牛
(
うし
)
の
乳
(
ちち
)
を
飲
(
の
)
ましたり、
135
牛肉
(
ぎうにく
)
を
喰
(
く
)
はしたりするから
駄目
(
だめ
)
だわい。
136
もう
今日
(
けふ
)
限
(
かぎ
)
り、
137
皆
(
みな
)
さま
西洋
(
せいやう
)
料理
(
れうり
)
を
喰
(
く
)
はぬ
様
(
やう
)
にして
下
(
くだ
)
されや。
138
宜
(
よろ
)
しいかな。
139
何
(
なん
)
だか
気分
(
きぶん
)
が
悪
(
わる
)
くなつて
来
(
き
)
ましたよ。
140
人間
(
にんげん
)
は
人間
(
にんげん
)
の
喰
(
く
)
ふもの、
141
馬
(
うま
)
は
馬
(
うま
)
の
喰
(
く
)
ふもの、
142
猫
(
ねこ
)
は
猫
(
ねこ
)
の
喰
(
く
)
ふ
物
(
もの
)
ときまつてゐるのだ。
143
馬
(
うま
)
や
猫
(
ねこ
)
の
喰
(
く
)
ふものを
人間
(
にんげん
)
が
喰
(
く
)
ふのはチツと
無理
(
むり
)
だわい。
144
まして
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
の
生宮
(
いきみや
)
にはこんなものは
喰
(
く
)
はれませぬわい。
145
コレ、
146
守宮別
(
やもりわけ
)
さま、
147
もつと
清潔
(
せいけつ
)
な
食物
(
くひもの
)
を
次
(
つぎ
)
から
持
(
も
)
つて
来
(
く
)
る
様
(
やう
)
に
云
(
い
)
つて
下
(
くだ
)
さい。
148
今度
(
こんど
)
はこれで
宜
(
い
)
いが、
149
もう、
150
こんな
汚
(
きたな
)
いものは
喰
(
く
)
ひませぬからな』
151
守宮別
『ソンナ
事
(
こと
)
云
(
い
)
つたつて、
152
ここではこれより
喰
(
く
)
ふ
物
(
もの
)
がないのですよ。
153
辛抱
(
しんばう
)
しなさい』
154
お寅
『あゝ
仕方
(
しかた
)
がない、
155
ソンナラこれからサア
皆
(
みな
)
さま、
156
コロニーとかへ
行
(
ゆ
)
きませう。
157
さうして、
158
ヤコブやマリヤに
会
(
あ
)
ふて
一
(
ひと
)
つブラバーサの
様子
(
やうす
)
を
聞
(
き
)
きませう』
159
曲彦
『ブラバーサはシオン
山
(
ざん
)
の
麓
(
ふもと
)
にゐると
書
(
か
)
いてあるぢやありませぬか。
160
ソンナ
処
(
ところ
)
に
行
(
ゆ
)
かずに、
161
直
(
すぐ
)
にブラバーサの
処
(
ところ
)
に
行
(
い
)
つては
如何
(
どう
)
ですか』
162
お寅
『ハーテ
分
(
わか
)
らぬ
曲
(
まが
)
だな。
163
なぜ
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
の
云
(
い
)
ふ
通
(
とほ
)
りになさらぬのかい。
164
サーサ、
165
小荷物
(
こにもつ
)
をここに
預
(
あづ
)
けて
出掛
(
でかけ
)
ませう。
166
これ
守宮別
(
やもりわけ
)
さま、
167
いい
加減
(
かげん
)
に
飲
(
の
)
んでおきなさい。
168
また
酔
(
よ
)
ひつぶれては
肝腎
(
かんじん
)
の
通弁
(
つうべん
)
が
出来
(
でき
)
ませぬぢやありませぬか』
169
守宮別
『ママ
待
(
ま
)
つて
下
(
くだ
)
さい。
170
このうまいビールを
飲
(
の
)
まずには
行
(
ゆ
)
けませぬ。
171
折角
(
せつかく
)
遠
(
とほ
)
い
所
(
ところ
)
から
来
(
き
)
たのですから、
172
ユツクリして
明日
(
あす
)
又
(
また
)
訪
(
たづ
)
ねる
事
(
こと
)
にしませう』
173
お寅
『エー
仕方
(
しかた
)
のない、
174
ド
倒
(
たふ
)
しものだな。
175
褌
(
ふんどし
)
の
川流
(
かはなが
)
れぢやないが
くひ
にかかつたら、
176
チツとも
離
(
はな
)
れはせぬわ』
177
守宮別
(
やもりわけ
)
はお
寅
(
とら
)
の
言葉
(
ことば
)
を
耳
(
みみ
)
にもかけず、
178
グイグイと
喇叭飲
(
ラツパの
)
みを
初
(
はじ
)
め、
179
十二本
(
じふにほん
)
のビールをスツカリ
飲
(
の
)
んで
了
(
しま
)
ひ、
180
又
(
また
)
手
(
て
)
を
拍
(
う
)
つてボーイを
呼
(
よ
)
んだ。
181
ボーイは
慌
(
あわた
)
だしく、
182
段梯子
(
だんばしご
)
を
上
(
のぼ
)
つて
来
(
き
)
た。
183
ボーイ
『お
客
(
きやく
)
さま、
184
何
(
なん
)
ぞ
御用
(
ごよう
)
ですか』
185
守宮別
(
やもりわけ
)
は
英語
(
えいご
)
で、
186
守宮別
『ビール、
187
もう
一打
(
いちダース
)
もつて
来
(
こ
)
い、
188
初
(
はじ
)
めはおいしかつたが、
189
後
(
のち
)
ほどまづい
奴
(
やつ
)
を
持
(
も
)
つて
来
(
き
)
て、
190
太
(
ふと
)
い
奴
(
やつ
)
だ。
191
もつとうまい
奴
(
やつ
)
を
持
(
も
)
つて
来
(
こ
)
い』
192
ボーイ
『うまいのなら
何程
(
なんぼ
)
でもありますがチツと
高価
(
たか
)
いですよ』
193
守宮別
『
高
(
たか
)
いと
云
(
い
)
つても
知
(
し
)
れたものだ。
194
うまい
奴
(
やつ
)
を
持
(
も
)
つて
来
(
こ
)
い。
195
兵站部
(
へいたんぶ
)
はお
寅
(
とら
)
さまがついてゐるからな。
196
滅多
(
めつた
)
に
逃
(
に
)
げも
隠
(
かく
)
れもせぬわい。
197
あゝ
酔
(
よ
)
うた
酔
(
よ
)
うた
早
(
はや
)
く
持
(
も
)
つて
来
(
こ
)
い。
198
おい
曲彦
(
まがひこ
)
、
199
貴様
(
きさま
)
もチツとやつたらどうだ。
200
そんな
貧相
(
ひんさう
)
な
顔
(
かほ
)
してると
誰
(
たれ
)
も
買手
(
かひて
)
がなくて
貧乏神
(
びんばふがみ
)
と
間違
(
まちが
)
へられるぞ』
201
と
酔
(
よ
)
ふてソロソロ
ワヤ
口
(
ぐち
)
をたたき
初
(
はじ
)
めける。
202
(
大正一二・七・一三
旧五・三〇
北村隆光
録)
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