第二一章　遍路(へんろ)〔一六五〇〕

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著者：出口王仁三郎巻：霊界物語第64巻上山河草木卯の巻上篇：第4篇遠近不二よみ（新仮名遣い）：えんきんふじ

章：第21章遍路よみ（新仮名遣い）：へんろ通し章番号：1650

口述日：1923（大正12）年07月13日（旧05月30日）口述場所：筆録者：加藤明子校正日：校正場所：初版発行日：1925（大正14）年10月16日

概要：舞台：小北山のユラリ教あらすじ[?]このあらすじは東京の望月さん作成です（一部加筆訂正してあります）。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]：主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]：備考：タグ：データ凡例：データ最終更新日：2017-12-06 16:43:15 OBC ：rm64a21

愛善世界社版：234頁八幡書店版：第11輯 464頁修補版：校定版：235頁普及版：62頁初版：ページ備考：

001　お寅(とら)、002お花(はな)の両人(りやうにん)は溝傍(みぞばた)に立(た)つた長屋(ながや)の窓(まど)をあけて額(ひたひ)を集(あつ)め、003六ケ(むつか)しい顔(かほ)をして何(なに)かブツブツ囁(ささや)き居(ゐ)たる処(ところ)へ、004編笠(あみがさ)を目深(まぶか)に被(かぶ)つた一人(ひとり)の男(をとこ)が訪(と)ひ来(き)たり、005涼(すず)しい声(こゑ)で宣伝歌(せんでんか)を歌(うた)ひ初(はじ)めける。

006男（竹彦）『いまも昔(むかし)も変(かは)りなく

007ろんより実(じつ)は責(せめ)がたし

008ははと妻(つま)とを兼(か)ぬる身(み)の

009によ子(し)の教(をしへ)の第一(だいいち)は

010ほかには非(あら)ず淑徳(しゆくとく)ぞ

011へい常(じやう)父母(ふぼ)を天(てん)として

012とつがば夫(をつと)を天(てん)とせよ

013ちちと母(はは)とに引(ひき)かへて

014りよう人(じん)舅姑(しゆうと)に尽(つく)すべし

015ぬい針(はり)洗濯(せんたく)怠(おこた)らず

016る守(す)は一層(いつそう)つつしみて

017をんなの務(つと)めを全(まつた)うし

018わが儘(まま)気儘(きまま)のことをせず

019かよわき女(をんな)の腕(うで)ながら

020よの為(た)め人(ひと)のためとのみ

021ただ一筋(ひとすぢ)に尽(つく)すべし

022れいを見倣(みなら)ふ幼子(をさなご)の

023その行末(ゆくすゑ)の善悪(ぜんあく)は

024つひに育(そだ)ての母(はは)になる

025ねんには念(ねん)を加(くは)へつつ

026なににつけても物事(ものごと)を

027らうを厭(いと)はず努(つと)むべし

028む益(えき)の驕(おごり)を誡(いま)しめて

029うちの小者(こもの)に目(め)をかけよ

030ゐなか者(もの)とて侮(あなど)るな

031のうある高(たか)ひめ爪(つめ)かくす

032おもひの儘(まま)に言(い)ふなかれ

033くちは禍(わざはひ)の門(かど)ぞかし

034やさしく素直(すなほ)に慎(つつし)みて

035まげの操(みさを)ぞいや高(たか)き

036けがれぬ身(み)こそ尊(たふと)けれ

037ふ徳(とく)の名(な)をば世(よ)にたてず

038ここを吾(わが)縁(えん)とせし上(うへ)は

039えんを二度(にど)とは求(もと)むなよ

040てい操(さう)かはらぬ姫小松(ひめこまつ)

041あらしに雪(ゆき)に逢(あ)ふとても

042さかゆる色(いろ)こそ目出(めで)たけれ

043きん銀(ぎん)瑪瑙(めなう)瑠璃(るり)しやこも

044ゆめと見(み)るまの不義(ふぎ)の富(とみ)

045めをばかくまじ望(のぞ)むまじ

046みなその為(ため)に昔(むかし)より

047しにし貞女(ていぢよ)も数多(かずおほ)し

048ゑ得(とく)せよかし女(をんな)達(たち)

049ひとの鑑(かがみ)と仰(あふ)がれて

050もも年(とせ)千年(ちとせ)の後(のち)迄(まで)も

051せ間(けん)に名(な)をば知(し)られよと

052すゑの末(すゑ)迄(まで)祈(いの)るべし』

053　此(この)歌(うた)を聞(き)いて、054お寅(とら)は大変(たいへん)に御(ご)機嫌(きげん)な顔(かほ)をしながら、

055お寅（虎嶋寅子）『これ、056遍路(へんろ)さま、057お前(まへ)さまは乞食(こじき)にも似(に)ずホントに身魂(みたま)の研(みが)けた人(ひと)と見(み)えますわい、058ちやつと上(あが)つて一服(いつぷく)して下(くだ)さい。059コレコレお花(はな)さま、060今(いま)の歌(うた)を聞(き)きましたか、061「能(のう)ある高姫(たかひめ)爪(つめ)かくす」といつたでせう。062私(わたし)の守護神(しゆごじん)は高姫(たかひめ)と云(い)つて昔(むかし)の神政(しんせい)成就(じやうじゆ)には随分(ずいぶん)尽(つく)したものですからなア。063今(いま)私(わたし)がかう爪(つめ)を隠(かく)して柔和(おとな)しくして居(ゐ)るのは曰(いは)く因縁(いんねん)があることですよ。064見違(みちが)ひをしては困(こま)りますよ。065今(いま)もお遍路(へんろ)さまの云(い)ふやうに百(ひやく)年(ねん)千(せん)年(ねん)の後(のち)迄(まで)も世間(せけん)に名(な)をば知(し)られると云(い)つたでせう。066お前(まへ)はこの高姫(たかひめ)の生(うま)れ変(かは)りの日(ひ)の出(で)の神(かみ)の生宮(いきみや)お寅(とら)にむかつて、067爪揚子(つまやうじ)の先(さき)で重箱(ぢうばこ)の隅(すみ)をほじくるやうに詰問(きつもん)をしなさるが、068ちと了見(れうけん)が違(ちが)ひはしませぬかい。069お前(まへ)さまも前世(ぜんせ)には、070黒姫(くろひめ)さまと云(い)つて随分(ずゐぶん)妾(わたし)の為(ため)に活動(くわつどう)した因縁(いんねん)によつて、071又(また)一緒(いつしよ)に集(よ)つてかうして神政(しんせい)成就(じやうじゆ)の活動(くわつどう)をして居(ゐ)るのぢやありませぬか』

072お花(はな)『ソンナ事(こと)は今更(いまさら)改(あらた)めて聞(き)かずとも耳(みみ)が蛸(たこ)になる程(ほど)聞(き)かして貰(もら)つて居(ゐ)ますワ。073能(のう)ある高姫(たかひめ)と云(い)ふたのではなく能(のう)ある鷹(たか)は爪(つめ)かくすと云(い)つたのですよ。074ねえ、075遍路(へんろ)さま高姫(たかひめ)ぢやありますまい』

076お寅『ちつと位(ぐらゐ)違(ちが)つたつて構(かま)はぬぢやありませぬか。077的(てつ)きり妾(わたし)の身魂(みたま)の性来(しやうらい)を歌(うた)つて下(くだ)さつたのだから、078高姫(たかひめ)だと思(おも)つて居(を)ればよいのですよ』

079お花『今(いま)のお歌(うた)に嫁(とつ)がば夫(をつと)を天(てん)とせよと仰有(おつしや)いましたが、080貴女(あなた)は、081夫(をつと)に対(たい)してテンと貞操(ていさう)を尽(つく)して居(ゐ)ないぢやありませぬか。082久之助(ひさのすけ)さまがあれ丈(だけ)矢釜(やかま)しくお止(と)めなさるのも聞(き)かず、083守宮別(やもりわけ)さまと年(ねん)が年中(ねんぢう)そこら中(ぢう)を飛(と)び廻(まは)つて居(を)られたではありませぬか。084貴女(あなた)は自分(じぶん)に都合(つがふ)のよい所(ところ)ばかりとつてゐらつしやるのですなア』

085お寅『ヘン神界(しんかい)の御用(ごよう)と人間界(にんげんかい)と一所(いつしよ)にして貰(もら)ふてたまりますかい。086一家(いつか)の婦人(ふじん)としてなれば兎(と)に角(かく)、087このお寅(とら)は三千(さんぜん)世界(せかい)の立替(たてかへ)立直(たてなほ)しの日(ひ)の出神(でのかみ)様(さま)の御用(ごよう)をする生宮(いきみや)ですよ。088神(かみ)の柱(はしら)と人間(にんげん)と一所(いつしよ)にしてたまりますか。089お前(まへ)さまも永(なが)らく日(ひ)の出(で)さまの教(をしへ)を聞(き)きながら、090何(なん)と云(い)ふ分(わか)らぬ事(こと)を仰有(おつしや)るのです』

091お花『ハイハイ、092とても貴女(あなた)のお口(くち)にはお花(はな)も叶(かな)ひませぬから、093沈黙(ちんもく)致(いた)しませう』

094お寅『もう此(この)後(ご)はお寅(とら)の事(こと)に就(つい)ては何(なに)も云(い)つて下(くだ)さるな。095何程(なにほど)竜宮(りうぐう)の乙姫(おとひめ)様(さま)の生宮(いきみや)だと云(い)つても、096日(ひ)の出神(でのかみ)の生宮(いきみや)に比(くら)ぶれば主人(しゆじん)と奴(やつこ)程(ほど)違(ちが)ふのですからなア。097モシモシ遍路(へんろ)さま、098這入(はい)つて一服(いつぷく)して下(くだ)さいませ』

099　門(かど)に立(た)つた男(をとこ)は『ハイ有難(ありがた)う』と深編笠(ふかあみがさ)をぬぎ捨(す)て、100つかつかと入(い)り来(き)たり、101よくよく見(み)れば、102どこともなしに見覚(みおぼ)えのある顔(かほ)なり。

103男（竹彦）『ご免(めん)なさいませ、104暫(しばら)くお目(め)にかかりませぬが、105私(わたし)は竹彦(たけひこ)で御座(ござ)いますよ』

106お寅『成程(なるほど)竹(たけ)さまかいな。107それならそれで何故(なぜ)名乗(なの)つて這入(はい)らぬのだい。108一(いち)年(ねん)ばかりも顔(かほ)を見(み)せなさらぬと思(おも)へば、109一体(いつたい)どこへ行(い)つて居(ゐ)ましたか』

110竹彦『ハイ、111別(べつ)に何処(どこ)へも行(い)つて居(を)りませぬ。112余(あま)り貴女方(あなたがた)等(ら)の仰有(おつしや)る事(こと)がクレクレ変(かは)るので信仰(しんかう)を破(やぶ)り今(いま)は浪華(なには)の土地(とち)で大道会(おほみちくわい)と云(い)ふものを開(ひら)き、113パンフレツトを発行(はつかう)し、114ルートバハーの別働隊(べつどうたい)として活動(くわつどう)して居(ゐ)るのですよ。115此(この)頃(ごろ)守宮(やもり)さまが外国(ぐわいこく)から帰(かへ)られたと云(い)ふ事(こと)を一寸(ちよつと)新聞(しんぶん)で見(み)ましたから、116お出(い)でになつて居(を)りはすまいかと思(おも)つて一寸(ちよつと)偵察(ていさつ)に来(き)たのです。117まだ見(み)えて居(を)りませぬかな』

118お花『竹(たけ)さま、119随分(ずゐぶん)久(ひさ)し振(ぶり)ぢやありませぬか。120お前(まへ)もちつと日(ひ)の出神(でのかみ)の教(をしへ)を聞(き)いたらどうです。121守宮別(やもりわけ)さまも来(き)て居(ゐ)られますよ』

122　お寅(とら)は慌(あわて)てお花(はな)の口(くち)に手(て)をあて、

123お寅『これお花(はな)さま、124何呆(なにとぼ)けた事(こと)を云(い)ふのだい。125守宮別(やもりわけ)さまはまだお出(いで)にならぬぢやないか。126大方(おほかた)夢(ゆめ)でも見(み)たのでせう。127夢(ゆめ)の守宮別(やもりわけ)と云(い)ふからなア』

128お花『ソンナラ矢張(やつぱり)夢(ゆめ)にして置(お)きませうかいなあ』

129竹彦『ハヽヽヽヽ、130さうすると矢張(やつぱ)り御(おん)大(たい)は帰(かへ)つて来(き)てゐるのだな。131そいつは面白(おもしろ)い、132一(ひと)つ大道会(おほみちくわい)の会員(くわいいん)となつて、133パンフレツトも書(か)いて貰(もら)はうかなあ』

134お寅『これこれ竹(たけ)さま、135それはなりませぬぞや。136水晶(すゐしやう)身魂(みたま)の守宮別(やもりわけ)さまにその様(やう)な物質(ぶつしつ)的(てき)のパンフレツトの話(はな)しをして貰(もら)つて堪(たま)りますか。137守宮別(やもりわけ)さまはパンよりもお酒(さけ)が好(す)きなのですよ。138お前(まへ)は日(ひ)の出神(でのかみ)の教(をしへ)を捨(すて)てお蔭(かげ)をおとしたパンフレツトだよ。139ちつと改心(かいしん)なされ』

140竹彦『お寅(とら)さま、141お前(まへ)さまの云(い)ふ事(こと)は何(なに)が何(なに)やらちつとも分(わか)らないぢやないか。142パンフレツトと云(い)ふ事(こと)は小冊子(せうさつし)と云(い)ふ事(こと)だよ。143薄(うす)い雑誌(ざつし)を発行(はつかう)して変性(へんじやう)女子(によし)の教(をしへ)を世界(せかい)に拡(ひろ)めるのですよ』

144お寅『エヽざつしもない何(なん)と云(い)ふ馬鹿(ばか)な真似(まね)をするのだい。145お前(まへ)さまはこれだけ曇(くも)つた三千(さんぜん)世界(せかい)をまだ此(この)上(うへ)に曇(くも)らさうとするのかい。146ちと改心(かいしん)して貰(もら)はぬと世界(せかい)の人民(じんみん)の苦(くる)しみが長(なが)くなるぢやありませぬか。147これだから変性(へんじやう)女子(によし)の教(をしへ)を聞(き)くと碌(ろく)な事(こと)が出(で)けぬと云(い)ふのだ。148あゝどいつもこいつも誠(まこと)の人(ひと)は一人(ひとり)も無(な)いわい。149日(ひ)の出(で)さまも嘸(さぞ)骨(ほね)の折(を)れる事(こと)だらう。150底津(そこつ)岩根(いはね)の大(おほ)ミロク様(さま)のお心(こころ)がおいとしい哩(わい)のう』