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第64巻(卯の巻)上
序
総説
第1篇 日下開山
01 橄欖山
〔1630〕
02 宣伝使
〔1631〕
03 聖地夜
〔1632〕
04 訪問客
〔1633〕
05 至聖団
〔1634〕
第2篇 聖地巡拝
06 偶像都
〔1635〕
07 巡礼者
〔1636〕
08 自動車
〔1637〕
09 膝栗毛
〔1638〕
10 追懐念
〔1639〕
第3篇 花笑蝶舞
11 公憤私憤
〔1640〕
12 誘惑
〔1641〕
13 試練
〔1642〕
14 荒武事
〔1643〕
15 大相撲
〔1644〕
16 天消地滅
〔1645〕
第4篇 遠近不二
17 強請
〔1646〕
18 新聞種
〔1647〕
19 祭誤
〔1648〕
20 福命
〔1649〕
21 遍路
〔1650〕
22 妖行
〔1651〕
第5篇 山河異涯
23 暗着
〔1652〕
24 妖蝕
〔1653〕
25 地図面
〔1654〕
26 置去
〔1655〕
27 再転
〔1656〕
余白歌
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第七章
巡礼者
(
じゆんれいしや
)
〔一六三六〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第64巻上 山河草木 卯の巻上
篇:
第2篇 聖地巡拝
よみ(新仮名遣い):
せいちじゅんぱい
章:
第7章 巡礼者
よみ(新仮名遣い):
じゅんれいしゃ
通し章番号:
1636
口述日:
1923(大正12)年07月11日(旧05月28日)
口述場所:
筆録者:
北村隆光
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1925(大正14)年10月16日
概要:
舞台:
エルサレム市街
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2017-10-10 01:32:47
OBC :
rm64a07
愛善世界社版:
83頁
八幡書店版:
第11輯 408頁
修補版:
校定版:
83頁
普及版:
62頁
初版:
ページ備考:
001
マリヤは
再
(
ふたた
)
び
寺院
(
じゐん
)
を
辞
(
じ
)
して、
002
ユダヤ
人
(
じん
)
クオーターの
西端
(
せいたん
)
なる
所謂
(
いはゆる
)
ユダヤ
人
(
じん
)
『
慟哭
(
どうこく
)
の
壁
(
かべ
)
』を
見
(
み
)
に
行
(
ゆ
)
かうでは
有
(
あ
)
りますまいかとブラバーサを
顧
(
かへり
)
みた。
003
ブラバーサは
余
(
あま
)
り
気乗
(
きの
)
りがせなかつたけれども、
004
折角
(
せつかく
)
の
案内
(
あんない
)
でもあり
又
(
また
)
一度
(
いちど
)
は
参考
(
さんかう
)
のために
是非
(
ぜひ
)
調
(
しら
)
べて
置
(
お
)
きたいと
思
(
おも
)
つたのでマリヤに
一任
(
いちにん
)
して
従
(
つ
)
いて
行
(
ゆ
)
く。
005
荒
(
あら
)
い
大
(
おほ
)
きい
石
(
いし
)
で
築
(
きづ
)
き
上
(
あ
)
げた
壁
(
かべ
)
の
間
(
あひだ
)
を
迷宮
(
めいきう
)
の
様
(
やう
)
に
廻
(
まは
)
つて
行
(
ゆ
)
くと、
006
『
神殿
(
しんでん
)
の
広場
(
ひろば
)
』のふもとの
丈
(
たけ
)
の
高
(
たか
)
い
壁
(
かべ
)
に
突
(
つ
)
き
当
(
あた
)
つた。
007
石畳
(
いしだたみ
)
になつた
路
(
みち
)
は
壁
(
かべ
)
に
引添
(
ひきそ
)
ふて
三十間
(
さんじつけん
)
ばかり
走
(
はし
)
つて
居
(
ゐ
)
て、
008
其
(
その
)
先
(
さき
)
はピタツと
行詰
(
ゆきつま
)
りになつて
居
(
ゐ
)
る。
009
其
(
その
)
周囲
(
しうゐ
)
は
何
(
なん
)
となく
恐
(
おそ
)
ろしい
様
(
やう
)
な
気味
(
きみ
)
の
悪
(
わる
)
い
感
(
かん
)
じを
与
(
あた
)
へる。
010
茲
(
ここ
)
でユダヤ
人
(
じん
)
は
滅亡
(
めつぼう
)
したエルサレムの
為
(
ため
)
に
声
(
こゑ
)
を
限
(
かぎ
)
りに
号泣
(
がうきふ
)
するのである。
011
何時
(
いつ
)
も
幾何
(
いくばく
)
かのユダヤ
人
(
じん
)
が
爰
(
ここ
)
に
出
(
で
)
て
来
(
き
)
て、
012
頻
(
しき
)
りに
祈祷
(
きたう
)
を
捧
(
ささ
)
げたり
聖書
(
せいしよ
)
を
拝誦
(
はいしよう
)
してユダヤ
民族
(
みんぞく
)
の
過去
(
くわこ
)
の
光栄
(
くわうえい
)
を
思
(
おも
)
ひ
浮
(
う
)
かべて
泣
(
な
)
くのである。
013
そして
金曜日
(
きんえうび
)
と
土曜日
(
どえうび
)
との
夕刻
(
ゆふこく
)
には、
014
最
(
もつと
)
も
多人数
(
たにんずう
)
が
集
(
あつ
)
まつて
来
(
く
)
るのである。
015
又
(
また
)
ベツスオーウー(渝越節)
[
※
「ベッスオーウー」とは聖書に記されたユダヤ教の重要な祭典の一つである「過越祭(すぎこしさい)」のこと。ヘブライ語では「ペサハ」。英語でPassover(パスオーバー)と呼ぶが、それを日本語読みしたのが「ベッスオーウー」と思われる。
]
の
様
(
やう
)
なユダヤ
人
(
じん
)
の
祭典日
(
さいてんび
)
には、
016
老若
(
ろうにやく
)
男女
(
だんぢよ
)
凡
(
すべ
)
ての
階級
(
かいきふ
)
の
人々
(
ひとびと
)
が
集
(
あつ
)
まつてその
中
(
なか
)
の
長老
(
ちやうらう
)
らしきものが、
017
壊
(
こは
)
たれたる
宮
(
みや
)
のために
018
と
歌
(
うた
)
ふと
群集
(
ぐんしふ
)
は
異口
(
いく
)
同音
(
どうおん
)
に、
019
吾
(
われ
)
等
(
ら
)
はひとり
坐
(
ざ
)
して
泣
(
な
)
く
020
と
答
(
こた
)
へて
歌
(
うた
)
ふ
其
(
その
)
有様
(
ありさま
)
は、
021
実
(
じつ
)
に
物凄
(
ものすご
)
い
感
(
かん
)
じを
両人
(
りやうにん
)
の
心
(
こころ
)
に
与
(
あた
)
へた。
022
また、
023
毀
(
こは
)
たれたる
宮
(
みや
)
のために
024
潰
(
つひ
)
えたる
城壁
(
じやうへき
)
のために
025
過
(
す
)
ぎ
去
(
さ
)
りし
偉大
(
ゐだい
)
のために
026
われ
等
(
ら
)
は
死
(
し
)
せる
偉人
(
ゐじん
)
のために
027
焼
(
や
)
かれたる
宝玉
(
はうぎよく
)
のために
028
と
云
(
い
)
ふ
風
(
ふう
)
に
謡
(
うた
)
ふと
群衆
(
ぐんしう
)
は
同
(
おな
)
じ
様
(
やう
)
に、
029
われ
等
(
ら
)
はひとり
坐
(
ざ
)
して
泣
(
な
)
く
030
と
答
(
こた
)
へて
涙
(
なみだ
)
をしぼつて
居
(
ゐ
)
る。
031
壁
(
かべ
)
にはユダヤ
時代
(
じだい
)
、
032
ローマ
時代
(
じだい
)
、
033
アラブ
時代
(
じだい
)
に
築
(
きづ
)
き
上
(
あ
)
げられた
部分
(
ぶぶん
)
が
明瞭
(
めいれう
)
に
見分
(
みわ
)
けられて、
034
一番
(
いちばん
)
下層
(
かそう
)
の
大石
(
おほいし
)
はユダヤ
時代
(
じだい
)
の
物
(
もの
)
だと
伝
(
つた
)
へられて
居
(
ゐ
)
る。
035
それ
等
(
ら
)
の
年代
(
ねんだい
)
と
人々
(
ひとびと
)
の
触接
(
しよくせつ
)
との
関係
(
くわんけい
)
とに
由
(
よ
)
つて
非常
(
ひじやう
)
に
黒
(
くろ
)
ずんで
汚
(
きた
)
なくなり、
036
その
表面
(
へうめん
)
にヘブリユーの
文字
(
もんじ
)
が
無数
(
むすう
)
に
書
(
か
)
き
録
(
しる
)
されてある。
037
またその
大石
(
おほいし
)
には
方々
(
はうばう
)
に
沢山
(
たくさん
)
の
釘
(
くぎ
)
が
打込
(
うちこ
)
んであるが、
038
是
(
これ
)
等
(
ら
)
は
諸国
(
しよこく
)
に
散在
(
さんざい
)
して
居
(
ゐ
)
る
信仰
(
しんかう
)
強
(
つよ
)
きユダヤ
人
(
じん
)
が
祖先
(
そせん
)
の
地
(
ち
)
を
訪
(
おとづ
)
れて
遥々
(
はるばる
)
と
爰
(
ここ
)
に
来
(
き
)
た
時
(
とき
)
に
打込
(
うちこ
)
んだ
釘
(
くぎ
)
で、
039
それが
石
(
いし
)
に
確
(
しつか
)
りと
刺
(
ささ
)
つて
居
(
を
)
れば
居
(
を
)
るほど、
040
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
が
彼
(
かれ
)
等
(
ら
)
を
捕
(
とら
)
へて
居
(
を
)
らるることが
確
(
たしか
)
だとの
信仰
(
しんかう
)
に
基
(
もと
)
づくものである。
041
両人
(
りやうにん
)
は
爰
(
ここ
)
に
停立
(
ていりつ
)
して
往時
(
わうじ
)
の
追懐
(
つゐくわい
)
に
耽
(
ふけ
)
つて
居
(
ゐ
)
た。
042
そこへ
十二三
(
じふにさん
)
人
(
にん
)
の
人
(
ひと
)
が
集
(
あつ
)
まつて
来
(
き
)
て、
043
其
(
その
)
壁
(
かべ
)
に
頭
(
あたま
)
をつけて
接吻
(
せつぷん
)
し
初
(
はじ
)
め
出
(
だ
)
した。
044
ブラバーサは
此
(
この
)
態
(
さま
)
を
見
(
み
)
て
一種
(
いつしゆ
)
名状
(
めいじやう
)
すべからざる
感
(
かん
)
じに
襲
(
おそ
)
はれた。
045
それは
勿論
(
もちろん
)
宗教
(
しうけう
)
的
(
てき
)
のものでも
無
(
な
)
く、
046
また
憐愍
(
れんみん
)
や
同情
(
どうじやう
)
に
由来
(
ゆらい
)
するものでも
無
(
な
)
く、
047
また
普通
(
ふつう
)
のキリスト
教徒
(
けうと
)
のユダヤ
人
(
じん
)
に
対
(
たい
)
して
有
(
も
)
つて
居
(
ゐ
)
る
反感
(
はんかん
)
から
来
(
きた
)
る
応報
(
おうはう
)
的
(
てき
)
感
(
かん
)
じでは
勿論
(
もちろん
)
ない。
048
それは
気味
(
きみ
)
悪
(
わる
)
い
程
(
ほど
)
根深
(
ねぶか
)
いもので、
049
たとへば
執拗
(
しつえう
)
な
運命
(
うんめい
)
に
対
(
たい
)
する
恐
(
おそ
)
れとでも
言
(
い
)
つたら
良
(
よ
)
ささうな
本能
(
ほんのう
)
的
(
てき
)
のものである。
050
この
光景
(
くわうけい
)
を
見
(
み
)
た
両人
(
りやうにん
)
は、
051
他
(
た
)
の
英米人
(
えいべいじん
)
のやうに
微笑
(
びせう
)
しながら
平気
(
へいき
)
で
彼
(
かれ
)
等
(
ら
)
の
動作
(
どうさ
)
を
見
(
み
)
つづけたり、
052
其
(
その
)
光景
(
くわうけい
)
を
撮影
(
さつえい
)
したりする
様
(
やう
)
な
事
(
こと
)
は
到底
(
たうてい
)
出来
(
でき
)
ない
悲哀
(
ひあい
)
に
閉
(
と
)
ざされて
了
(
しま
)
つた。
053
一
(
いつ
)
分間
(
ぷんかん
)
と
雖
(
いへど
)
もそこに
立止
(
たちど
)
まつて
傍観
(
ばうくわん
)
するに
堪
(
た
)
へずなり、
054
仔細
(
しさい
)
に
其
(
その
)
有様
(
ありさま
)
や
壁
(
かべ
)
などの
歴史
(
れきし
)
的
(
てき
)
構造
(
こうざう
)
にも
注目
(
ちうもく
)
してゐる
暇
(
ひま
)
なく、
055
顔
(
かほ
)
を
背
(
そむ
)
けてマリヤと
共
(
とも
)
にその
場
(
ば
)
を
逸早
(
いちはや
)
く
立去
(
たちさ
)
つた。
056
爰
(
ここ
)
は
実
(
じつ
)
にエルサレムに
於
(
お
)
ける
最
(
もつと
)
も
深刻味
(
しんこくみ
)
の
湧
(
わ
)
いて
来
(
く
)
る
場所
(
ばしよ
)
である。
057
『
永劫
(
えいごふ
)
のユダヤ
人
(
じん
)
』と
云
(
い
)
ふ
声
(
こゑ
)
が
何処
(
どこ
)
からともなく
耳
(
みみ
)
に
響
(
ひび
)
いて
来
(
く
)
る。
058
是
(
これ
)
等
(
ら
)
の
干涸
(
ひから
)
びた
老人
(
らうじん
)
等
(
ら
)
は、
059
何
(
いづ
)
れもアブラハムの
裔
(
すゑ
)
ダビデの
裔
(
すゑ
)
である
神
(
かみ
)
より
選
(
えら
)
ばれたるイスラエル
民族
(
みんぞく
)
の
代表者
(
だいへうしや
)
である
彼
(
かれ
)
等
(
ら
)
の
中
(
なか
)
から
全人類
(
ぜんじんるゐ
)
の
救
(
すく
)
ひ
主
(
ぬし
)
イエス・キリストが
生
(
うま
)
れたまうたのだ。
060
彼
(
かれ
)
等
(
ら
)
は
二千
(
にせん
)
六百
(
ろくぴやく
)
年
(
ねん
)
の
間
(
あひだ
)
、
061
祖先
(
そせん
)
の
光栄
(
くわうえい
)
と
正反対
(
せいはんたい
)
に
人
(
ひと
)
の
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
の
一番
(
いちばん
)
擯斥
(
ひんせき
)
せられ、
062
軽蔑
(
けいべつ
)
せらるるものとして、
063
その
落着
(
おちつ
)
くべき
祖国
(
そこく
)
を
有
(
も
)
たずして
世界
(
せかい
)
を
漂浪
(
へうらう
)
して
居
(
ゐ
)
たのである。
064
欧洲
(
おうしう
)
大戦
(
たいせん
)
後
(
ご
)
このパレスチナの
故国
(
ここく
)
は
漸
(
やうや
)
くユダヤ
人
(
じん
)
のものと
成
(
な
)
つたが、
065
未
(
いま
)
だ
世界
(
せかい
)
に
漂浪
(
へうらう
)
して
居
(
ゐ
)
るものがその
大部分
(
だいぶぶん
)
を
占
(
し
)
めて
居
(
ゐ
)
るといふ
有様
(
ありさま
)
である。
066
是
(
これ
)
もキリストを
十字架
(
じふじか
)
に
付
(
つ
)
けた
彼
(
かれ
)
等
(
ら
)
の
祖先
(
そせん
)
の
罪業
(
ざいごふ
)
の
報
(
むく
)
いとも
言
(
い
)
ふべきものだらうか。
067
夫
(
そ
)
れにしては
余
(
あま
)
り
残酷
(
ざんこく
)
過
(
す
)
ぎると
思
(
おも
)
ふ。
068
キリストを
釘付
(
くぎつ
)
けにしたのは
彼
(
かれ
)
等
(
ら
)
ばかりで
無
(
な
)
く、
069
人類
(
じんるゐ
)
全体
(
ぜんたい
)
なのである。
070
キリストを
救世主
(
きうせいしゆ
)
と
仰
(
あふ
)
がなかつたものは
彼
(
かれ
)
ユダヤ
人
(
じん
)
ばかりで
無
(
な
)
く、
071
世界
(
せかい
)
人類
(
じんるゐ
)
の
大多数
(
だいたすう
)
である。
072
聖書
(
せいしよ
)
の
予言
(
よげん
)
にかなはせむが
為
(
ため
)
とは
云
(
い
)
へ、
073
余
(
あま
)
りに
可哀相
(
かあいさう
)
だ。
074
彼
(
かれ
)
等
(
ら
)
はキリストの
懐
(
ふところ
)
に
帰
(
かへ
)
つて
罪
(
つみ
)
の
赦
(
ゆる
)
しを
乞
(
こ
)
ふこと
無
(
な
)
しに、
075
何時
(
いつ
)
までメシヤを
待望
(
たいばう
)
して
世界
(
せかい
)
を
放浪
(
はうらう
)
するのであらうか。
076
それにしてもアメリカンコロニーの
人
(
ひと
)
達
(
たち
)
は、
077
早
(
はや
)
くも
目
(
め
)
を
醒
(
さ
)
ましてユダヤ
人
(
じん
)
にも
似
(
に
)
ずキリストの
再臨
(
さいりん
)
を
神妙
(
しんめう
)
に
生命
(
せいめい
)
、
078
財産
(
ざいさん
)
その
他
(
た
)
一切
(
いつさい
)
を
捧
(
ささ
)
げて
待
(
ま
)
つて
居
(
ゐ
)
る
信念
(
しんねん
)
の
力
(
ちから
)
の
強
(
つよ
)
いのには、
079
感激
(
かんげき
)
の
至
(
いた
)
りだとブラバーサの
心
(
こころ
)
は
忽
(
たちま
)
ちコロニーへと
走
(
はし
)
つて
了
(
しま
)
つた。
080
マリヤに
導
(
みちび
)
かれて『
汚物
(
をぶつ
)
の
門
(
もん
)
』を
出
(
い
)
で、
081
シロアムの
谷
(
たに
)
を
見下
(
みお
)
ろしながら
城壁
(
じやうへき
)
に
添
(
そ
)
ふて
歩
(
あゆ
)
み
出
(
だ
)
した。
082
キリストが
盲者
(
まうじや
)
の
目
(
め
)
を
癒
(
なほ
)
されたシロアムの
池
(
いけ
)
や、
083
バアージンが
水
(
みづ
)
を
汲
(
く
)
んだ
泉
(
いづみ
)
や、
084
ユダがキリストを
売
(
う
)
つた
金
(
かね
)
で
買
(
か
)
ひ
求
(
もと
)
めた『
血
(
ち
)
の
畑
(
はた
)
』や、
085
そのくびれた
木
(
き
)
なぞの
所在
(
ありか
)
を
案内
(
あんない
)
されつつダビデ
王
(
わう
)
の
墓
(
はか
)
の
在
(
あ
)
る
所
(
ところ
)
からシオンの
門
(
もん
)
を
入
(
い
)
り、
086
ダビデ
塔
(
たふ
)
の
下
(
した
)
を
通
(
とほ
)
つて
漸
(
やうや
)
くマリヤと
共
(
とも
)
に
一先
(
ひとま
)
づカトリックの
僧院
(
そうゐん
)
ホテルに
帰
(
かへ
)
つて
息
(
いき
)
を
休
(
やす
)
め、
087
夕餉
(
ゆふげ
)
を
済
(
す
)
ませることとした。
088
ホテルの
食卓
(
しよくたく
)
では
英米人
(
えいべいじん
)
四五
(
しご
)
人
(
にん
)
と
同席
(
どうせき
)
せなければ
成
(
な
)
らなかつた。
089
紳士
(
しんし
)
を
装
(
よそほ
)
つて
威厳
(
ゐげん
)
を
持
(
ぢ
)
した
長
(
なが
)
い
沈黙
(
ちんもく
)
と、
090
無意味
(
むいみ
)
なあたり
障
(
さはり
)
の
無
(
な
)
い
会話
(
くわいわ
)
とには
流石
(
さすが
)
のブラバーサも
堪
(
た
)
へ
得
(
え
)
られなくなり、
091
今
(
いま
)
親切
(
しんせつ
)
に
二度
(
にど
)
までも
案内
(
あんない
)
して
呉
(
く
)
れたユダヤの
婦人
(
ふじん
)
マリヤとの
対照
(
たいせう
)
を
思
(
おも
)
つて、
092
宗教
(
しうけう
)
信者
(
しんじや
)
と
非信者
(
ひしんじや
)
との
温情
(
をんじやう
)
の
程度
(
ていど
)
に
雲泥
(
うんでい
)
の
相違
(
さうゐ
)
あることを
感得
(
かんとく
)
したのである。
093
食堂
(
しよくだう
)
の
何十
(
なんじふ
)
と
云
(
い
)
ふ
顔
(
かほ
)
の
何
(
いづ
)
れを
見
(
み
)
ても、
094
本当
(
ほんたう
)
の
信仰
(
しんかう
)
に
燃
(
も
)
え
立
(
た
)
つた
巡礼
(
じゆんれい
)
の
心
(
こころ
)
に
駆
(
か
)
られてこの
聖地
(
せいち
)
に
参
(
まゐ
)
つて
居
(
ゐ
)
ると
思
(
おも
)
ふやうな
人
(
ひと
)
は
一人
(
ひとり
)
も
見
(
み
)
る
事
(
こと
)
が
出来
(
でき
)
なかつた。
095
彼
(
かれ
)
等
(
ら
)
は
何
(
いづ
)
れも
物見
(
ものみ
)
遊山
(
ゆさん
)
的
(
てき
)
の
心
(
こころ
)
でやつて
来
(
き
)
て、
096
万事
(
ばんじ
)
に
贅沢
(
ぜいたく
)
を
尽
(
つく
)
し、
097
六
(
ろく
)
コースもある
様
(
やう
)
な
食事
(
しよくじ
)
を
一
(
いち
)
日
(
にち
)
に
二度
(
にど
)
もしながら、
098
それに
自
(
みづか
)
ら
疑問
(
ぎもん
)
を
抱
(
いだ
)
き
謙遜
(
けんそん
)
な
心持
(
こころもち
)
になる
事
(
こと
)
なしに、
099
満足
(
まんぞく
)
し
切
(
き
)
つて
盲滅法
(
めくらめつぱふ
)
的
(
てき
)
に
暮
(
くら
)
して
居
(
ゐ
)
る
酔生
(
すゐせい
)
夢死
(
むし
)
の
徒
(
と
)
とよりは
見
(
み
)
えなかつた。
100
ブラバーサは
曾
(
かつ
)
て
耽読
(
たんどく
)
した『
二人
(
ふたり
)
の
巡礼者
(
じゆんれいしや
)
』と
云
(
い
)
ふトルストイの
童話
(
どうわ
)
を
思
(
おも
)
ひ
出
(
だ
)
して、
101
なつかしまずには
居
(
を
)
られなかつた。
102
二人
(
ふたり
)
の
敬虔
(
けいけん
)
なロシアの
百姓
(
ひやくしやう
)
は、
103
一生
(
いつしやう
)
かかつて
其
(
その
)
目的
(
もくてき
)
のために
働
(
はたら
)
いて
貯
(
たくは
)
へた
金
(
かね
)
で
聖地
(
せいち
)
の
巡礼
(
じゆんれい
)
に
出
(
で
)
かけたが、
104
其
(
その
)
中
(
なか
)
の
一人
(
ひとり
)
は
途中
(
とちう
)
で
不図
(
ふと
)
したことから
一家
(
いつか
)
全体
(
ぜんたい
)
が
疫病
(
えきびやう
)
になやんだ。
105
他
(
た
)
の
一人
(
ひとり
)
は
途
(
みち
)
すがら
全家
(
ぜんか
)
挙
(
こぞ
)
つて
疫病
(
えきびやう
)
にかかつて
居
(
ゐ
)
た
不幸
(
ふかう
)
な
全員
(
ぜんゐん
)
を
介抱
(
かいほう
)
し
初
(
はじ
)
めた
為
(
ため
)
に、
106
友
(
とも
)
とはぐれて
旅費
(
りよひ
)
に
持
(
も
)
つて
来
(
き
)
た
金
(
かね
)
はその
為
(
ため
)
に
残
(
のこ
)
らず
使
(
つか
)
つて
了
(
しま
)
ひ、
107
結局
(
けつきよく
)
目的
(
もくてき
)
の
巡礼
(
じゆんれい
)
を
為
(
な
)
し
遂
(
と
)
げずして
故郷
(
こきやう
)
に
帰
(
かへ
)
つた。
108
第一
(
だいいち
)
の
巡礼者
(
じゆんれいしや
)
は
彼
(
かれ
)
の
友
(
とも
)
に
逢
(
あ
)
つて
巡礼
(
じゆんれい
)
をしなかつた
彼
(
かれ
)
の
友
(
とも
)
の
方
(
はう
)
が、
109
自分
(
じぶん
)
よりも
却
(
かへ
)
つて
本当
(
ほんたう
)
の
巡礼者
(
じゆんれいしや
)
であつたことを
認
(
みと
)
めたと
云
(
い
)
ふ
文句
(
もんく
)
を
心中
(
しんちう
)
に
繰返
(
くりかへ
)
しつつ、
110
食卓
(
しよくたく
)
を
離
(
はな
)
れて
吾
(
わが
)
居間
(
ゐま
)
に
帰
(
かへ
)
り、
111
長椅子
(
ながいす
)
の
上
(
うへ
)
に
横
(
よこ
)
たはつた。
112
マリヤは
又
(
また
)
もや
例
(
れい
)
の
帰神
(
かむがかり
)
気分
(
きぶん
)
になり、
113
ブラバーサに
軽
(
かる
)
く
挨拶
(
あいさつ
)
を
交
(
か
)
はし、
114
周章
(
あわて
)
て
再会
(
さいくわい
)
を
約
(
やく
)
し
乍
(
なが
)
らアメリカンコロニーをさして
帰
(
かへ
)
り
行
(
ゆ
)
く。
115
ブラバーサは
大神
(
おほかみ
)
の
神号
(
しんがう
)
を
唱
(
とな
)
へ
天津
(
あまつ
)
祝詞
(
のりと
)
を
奏上
(
そうじやう
)
し
終
(
をは
)
り、
116
窓外
(
そうぐわい
)
の
家々
(
いへいへ
)
の
薄明
(
うすあ
)
かるい
灯火
(
とうくわ
)
を
見下
(
みお
)
ろしながら、
117
草臥
(
くたび
)
れてソフアの
上
(
うへ
)
に
白川
(
しらかは
)
夜舟
(
よふね
)
を
漕
(
こ
)
ぐこととなりぬ。
118
(
大正一二・七・一一
旧五・二八
北村隆光
録)
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