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第64巻(卯の巻)上
序
総説
第1篇 日下開山
01 橄欖山
〔1630〕
02 宣伝使
〔1631〕
03 聖地夜
〔1632〕
04 訪問客
〔1633〕
05 至聖団
〔1634〕
第2篇 聖地巡拝
06 偶像都
〔1635〕
07 巡礼者
〔1636〕
08 自動車
〔1637〕
09 膝栗毛
〔1638〕
10 追懐念
〔1639〕
第3篇 花笑蝶舞
11 公憤私憤
〔1640〕
12 誘惑
〔1641〕
13 試練
〔1642〕
14 荒武事
〔1643〕
15 大相撲
〔1644〕
16 天消地滅
〔1645〕
第4篇 遠近不二
17 強請
〔1646〕
18 新聞種
〔1647〕
19 祭誤
〔1648〕
20 福命
〔1649〕
21 遍路
〔1650〕
22 妖行
〔1651〕
第5篇 山河異涯
23 暗着
〔1652〕
24 妖蝕
〔1653〕
25 地図面
〔1654〕
26 置去
〔1655〕
27 再転
〔1656〕
余白歌
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第一四章
荒武事
(
あらぶごと
)
〔一六四三〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第64巻上 山河草木 卯の巻上
篇:
第3篇 花笑蝶舞
よみ(新仮名遣い):
かしょうちょうぶ
章:
第14章 荒武事
よみ(新仮名遣い):
あらぶごと
通し章番号:
1643
口述日:
1923(大正12)年07月12日(旧05月29日)
口述場所:
筆録者:
松村真澄
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1925(大正14)年10月16日
概要:
舞台:
アメリカンコロニーの奥の一室、橄欖山の中腹
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
主な登場人物
[?]
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:
備考:
タグ:
オリオン(オレゴン)
データ凡例:
データ最終更新日:
2019-02-22 00:15:58
OBC :
rm64a14
愛善世界社版:
160頁
八幡書店版:
第11輯 437頁
修補版:
校定版:
160頁
普及版:
62頁
初版:
ページ備考:
001
アメリカンコロニーの
奥
(
おく
)
の
一室
(
いつしつ
)
には、
002
スバツフオードとマリヤが
煙草盆
(
たばこぼん
)
を
中
(
なか
)
において、
003
ヒソビソ
話
(
はなし
)
に
耽
(
ふけ
)
つてゐる。
004
スバッフォード
『マリヤさま、
005
あなた
此
(
この
)
頃
(
ごろ
)
は
何
(
なん
)
となしにソハソハしてゐるぢやありませぬか。
006
沈着
(
ちんちやく
)
な
貴女
(
あなた
)
に
似
(
に
)
ず、
007
此
(
この
)
頃
(
ごろ
)
の
様子
(
やうす
)
と
云
(
い
)
つたら、
008
丸
(
まる
)
で
恋
(
こひ
)
に
狂
(
くる
)
ふた
野良犬
(
のらいぬ
)
のやうだと、
009
団体員
(
だんたいゐん
)
が
言
(
い
)
つてゐましたよ。
010
チと
心得
(
こころえ
)
て
貰
(
もら
)
はないと、
011
コロニーの
統一
(
とういつ
)
が
出来
(
でき
)
ないだありませぬか。
012
私
(
わたくし
)
はかうして
老人
(
らうじん
)
であるし、
013
何時
(
いつ
)
昇天
(
しようてん
)
するか
知
(
し
)
れませぬ。
014
さうするとあなたが
一人
(
ひとり
)
でコロニーを
背負
(
せお
)
つて
立
(
た
)
たねばなりませぬ。
015
噂
(
うはさ
)
に
聞
(
き
)
けば
貴女
(
あなた
)
は
日出島
(
ひのでじま
)
から
来
(
き
)
てる
聖師
(
せいし
)
に
大変
(
たいへん
)
恋慕
(
れんぼ
)
してゐられるさうだが、
016
あの
方
(
かた
)
はお
国
(
くに
)
に
妻子
(
さいし
)
があるといふことだ。
017
妻子
(
さいし
)
のある
方
(
かた
)
に
恋慕
(
れんぼ
)
したつて、
018
目的
(
もくてき
)
は
達
(
たつ
)
しませぬよ。
019
今迄
(
いままで
)
何程
(
なにほど
)
よい
縁
(
えん
)
があつても、
020
神政
(
しんせい
)
成就
(
じやうじゆ
)
迄
(
まで
)
は
夫
(
をつと
)
は
持
(
も
)
たない、
021
男
(
をとこ
)
に
目
(
め
)
はくれないと、
022
独身
(
どくしん
)
生活
(
せいくわつ
)
を
主張
(
しゆちやう
)
した
貴女
(
あなた
)
に
似合
(
にあ
)
はず、
023
変
(
へん
)
だと
皆
(
みな
)
の
者
(
もの
)
がヒソビソ
話
(
はな
)
してゐますよ。
024
何程
(
なにほど
)
強
(
つよ
)
いことを
言
(
い
)
ふてもヤハリ
女
(
をんな
)
といふ
者
(
もの
)
は
弱
(
よわ
)
い
者
(
もの
)
ですな。
025
狐独
(
こどく
)
の
淋
(
さび
)
しみに
堪
(
た
)
へられないと
見
(
み
)
えますワイ。
026
モウ
少時
(
しばらく
)
の
所
(
ところ
)
だから、
027
チツと
辛抱
(
しんばう
)
をして
貰
(
もら
)
はねばなりますまい。
028
キツと
貴女
(
あなた
)
のお
気
(
き
)
に
入
(
い
)
る
適当
(
てきたう
)
な
夫
(
をつと
)
が
現
(
あら
)
はれて
来
(
く
)
るでせう。
029
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
は
最後
(
さいご
)
迄
(
まで
)
忍
(
しの
)
ぶ
者
(
もの
)
は
救
(
すく
)
はるべし……と
仰有
(
おつしや
)
るだありませぬか』
030
マリヤ
『ハイ、
031
妾
(
わたし
)
は
最後
(
さいご
)
迄
(
まで
)
忍
(
しの
)
んで
来
(
き
)
たのですよ。
032
モウ
此
(
この
)
上
(
うへ
)
忍
(
しの
)
ぶ
事
(
こと
)
は
生命
(
いのち
)
に
関
(
くわん
)
しますもの……そんなこと
仰有
(
おつしや
)
るのは、
033
チト
残酷
(
ざんこく
)
ですワ。
034
妾
(
わたし
)
は
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
御
(
ご
)
摂理
(
せつり
)
によつて
夫
(
をつと
)
を
定
(
さだ
)
めましたから、
035
どうぞ
御
(
ご
)
承諾
(
しようだく
)
を
願
(
ねが
)
ひたう
御座
(
ござ
)
います』
036
スバッフォード
『さうすると、
037
人
(
ひと
)
の
噂
(
うはさ
)
といふものはバカにならぬものだなア。
038
そして
其
(
その
)
夫
(
をつと
)
といふのはどこの
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
ふ
方
(
かた
)
だなア、
039
ヨモヤ、
040
妻子
(
さいし
)
のある
日出島
(
ひのでじま
)
の
聖師
(
せいし
)
ではあろまいなア』
041
マリヤ
『あの……
妾
(
わたし
)
は……
聖師
(
せいし
)
……
否々
(
いえいえ
)
生死
(
せいし
)
を
共
(
とも
)
にせうと
約
(
やく
)
したお
方
(
かた
)
が
御座
(
ござ
)
います。
042
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
らネームを
告
(
つ
)
げる
丈
(
だけ
)
は
少時
(
しばらく
)
猶予
(
いうよ
)
を
願
(
ねが
)
ひたう
御座
(
ござ
)
います』
043
スバッフォード
『
心機
(
しんき
)
一転
(
いつてん
)
も
甚
(
はなは
)
だしいぢやありませぬか。
044
お
前
(
まへ
)
さまはブラバーサ
様
(
さま
)
に
恋
(
こひ
)
してゐるのだらう。
045
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
つても
其
(
その
)
顔
(
かほ
)
に
現
(
あら
)
はれてゐる、
046
年寄
(
としより
)
の
目
(
め
)
で
睨
(
にら
)
んだら、
047
メツタに
間違
(
まちが
)
ひはありますまい。
048
左様
(
さやう
)
なことをなさつては、
049
アメリカンコロニーも
破滅
(
はめつ
)
に
陥
(
おちい
)
らねばなるまい。
050
あゝ
何
(
なん
)
とした
悪魔
(
あくま
)
が
魅入
(
みい
)
れたものだらうなア』
051
マリヤ
『ソリヤ
何
(
なに
)
を
仰有
(
おつしや
)
います。
052
女
(
をんな
)
が
夫
(
をつと
)
をもてないと
云
(
い
)
ふ
道理
(
だうり
)
が
何処
(
どこ
)
に
御座
(
ござ
)
いませう。
053
妾
(
わたし
)
も
最早
(
もはや
)
三十
(
さんじふ
)
、
054
いい
加減
(
かげん
)
に
夫
(
をつと
)
を
有
(
も
)
たなくちや
御子生
(
みこう
)
みの
御
(
ご
)
神業
(
しんげふ
)
が
勤
(
つと
)
まらぬぢやありませぬか、
055
グヅグヅしてゐると、
056
歳月
(
さいげつ
)
は
妾
(
わたし
)
をすてて
省
(
かへり
)
みず、
057
年
(
とし
)
がよつてから、
058
何程
(
なにほど
)
夫
(
をつと
)
をあさつてみた
所
(
ところ
)
で、
059
乞食
(
こじき
)
だつて
来
(
き
)
てくれは
致
(
いた
)
しませぬワ。
060
花
(
はな
)
も
半開
(
はんかい
)
の
中
(
うち
)
が
値打
(
ねうち
)
があるのです。
061
妾
(
わたし
)
の
花
(
はな
)
は
最早
(
もはや
)
満開
(
まんかい
)
、
062
一
(
ひと
)
つ
風
(
かぜ
)
が
吹
(
ふ
)
いても
散
(
ち
)
らうとしてる
所
(
ところ
)
です。
063
散
(
ち
)
らない
中
(
うち
)
に
夫
(
をつと
)
を
持
(
も
)
たなくちや
人生
(
じんせい
)
の
本分
(
ほんぶん
)
を、
064
何
(
ど
)
うして
尽
(
つく
)
すことが
出来
(
でき
)
ませう』
065
スバッフォード
『モウ
永
(
なが
)
いことぢやない。
066
やがてキリストの
再臨
(
さいりん
)
があるのだから、
067
そこ
迄
(
まで
)
待
(
ま
)
つても
余
(
あま
)
りおそくはあらうまい。
068
あのサロメさまを
御覧
(
ごらん
)
なさい。
069
貴族
(
きぞく
)
の
家
(
いへ
)
に
生
(
うま
)
れ、
070
どんな
夫
(
をつと
)
と
添
(
そ
)
はうとママな
身
(
み
)
を
持
(
も
)
ち
乍
(
なが
)
ら、
071
キリストの
再臨
(
さいりん
)
を
待
(
ま
)
ちかね、
072
独身
(
どくしん
)
生活
(
せいくわつ
)
をつづけてゐられるだありませぬか』
073
マリヤ
『あの
方
(
かた
)
は
再臨
(
さいりん
)
のキリストを
理想
(
りさう
)
の
夫
(
をつと
)
として
空想
(
くうさう
)
を
画
(
ゑが
)
いてをるのですから、
074
別物
(
べつもの
)
ですよ。
075
妾
(
わたし
)
は
左様
(
さやう
)
な
野心
(
やしん
)
は
御座
(
ござ
)
いませぬから、
076
相当
(
さうたう
)
の
夫
(
をつと
)
を
有
(
も
)
たうと
思
(
おも
)
ふので
御座
(
ござ
)
います。
077
そんな
開
(
ひら
)
けないことを
言
(
い
)
はずに、
078
コロニーの
連中
(
れんちう
)
に、
079
あなたから
一口
(
ひとくち
)
、
080
神界
(
しんかい
)
の
都合
(
つがふ
)
に
依
(
よ
)
つて、
081
斯
(
か
)
う
斯
(
か
)
うだと
発表
(
はつぺう
)
して
下
(
くだ
)
さいませ。
082
さうすれば、
083
団体員
(
だんたいゐん
)
は
仏
(
ぶつ
)
が
法
(
ほふ
)
とも
小言
(
こごと
)
を
云
(
い
)
ふ
者
(
もの
)
は
御座
(
ござ
)
いますまい』
084
スバッフォード
『コレ、
085
マリヤさま、
086
お
前
(
まへ
)
さまも
天
(
てん
)
の
選民
(
せんみん
)
たるユダヤ
人
(
じん
)
の
女
(
をんな
)
だないか。
087
なぜ
今
(
いま
)
となつて、
088
モウ
一息
(
ひといき
)
といふ
所
(
ところ
)
の
辛抱
(
しんばう
)
が
出来
(
でき
)
ないのですか』
089
マリヤ
『ハイ、
090
之
(
これ
)
から
七十
(
しちじふ
)
日
(
にち
)
が
間
(
あひだ
)
辛抱
(
しんばう
)
致
(
いた
)
します。
091
七十
(
しちじふ
)
日
(
にち
)
経
(
た
)
ちさへすれば、
092
仮令
(
たとへ
)
貴師
(
あなた
)
が
何
(
なん
)
と
仰有
(
おつしや
)
らうとも、
093
大神
(
おほかみ
)
様
(
さま
)
がお
姿
(
すがた
)
を
現
(
あら
)
はしてお
叱
(
しか
)
り
遊
(
あそ
)
ばさう
共
(
とも
)
、
094
最早
(
もはや
)
私
(
わたし
)
の
意志
(
いし
)
の
自由
(
じいう
)
に
致
(
いた
)
す
考
(
かんが
)
へで
御座
(
ござ
)
います。
095
どうぞ
広
(
ひろ
)
き
心
(
こころ
)
に
見直
(
みなほ
)
して
御
(
ご
)
承諾
(
しようだく
)
を
願
(
ねが
)
ひたいもので
御座
(
ござ
)
いますワ』
096
スバッフォード
『
七十
(
しちじふ
)
日
(
にち
)
? ソレヤ
又
(
また
)
何
(
ど
)
うしてさう
云
(
い
)
ふ
日限
(
にちげん
)
を
切
(
き
)
つたのだなア、
097
人
(
ひと
)
の
噂
(
うはさ
)
も
七十五
(
しちじふご
)
日
(
にち
)
と
聞
(
き
)
いてゐるが、
098
七十
(
しちじふ
)
日
(
にち
)
とは
何
(
なに
)
か
意味
(
いみ
)
があり
相
(
さう
)
だ。
099
コレ、
100
マリヤさま、
101
七十
(
しちじふ
)
日
(
にち
)
の
因縁
(
いんねん
)
を
聞
(
き
)
かして
下
(
くだ
)
さい』
102
マリヤ
『
百
(
ひやく
)
日
(
にち
)
の
行
(
ぎやう
)
の
上
(
あが
)
りに
夫婦
(
ふうふ
)
になつてやらうと
仰有
(
おつしや
)
いました。
103
それで
七十
(
しちじふ
)
日
(
にち
)
と
云
(
い
)
つたので
御座
(
ござ
)
います』
104
スバッフォード
『ハヽヽヽヽ、
105
てつきり、
106
日出島
(
ひのでじま
)
の
聖師
(
せいし
)
と
約束
(
やくそく
)
をしたのだなア。
107
いかにも
聖師
(
せいし
)
は
百
(
ひやく
)
日
(
にち
)
の
行
(
ぎやう
)
をすると
仰有
(
おつしや
)
つたが
已
(
すで
)
に
三十
(
さんじふ
)
日
(
にち
)
を
経過
(
けいくわ
)
した。
108
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
聖師
(
せいし
)
ともあらう
者
(
もの
)
が、
109
そんなことを
約束
(
やくそく
)
さるる
道理
(
だうり
)
が……ないがなア、
110
コレ、
111
マリヤさま、
112
お
前
(
まへ
)
だまされてゐるのだなからうな』
113
マリヤ
『
決
(
けつ
)
して
決
(
けつ
)
して、
114
大磐石
(
だいばんじやく
)
ですよ。
115
妾
(
わたし
)
も
女
(
をんな
)
のはしくれ、
116
男
(
をとこ
)
に
欺
(
あざむ
)
かれるやうなヘマは
致
(
いた
)
しませぬ』
117
スバッフォード
『ハーテナ、
118
合点
(
がつてん
)
の
行
(
ゆ
)
かぬことを
云
(
い
)
ふぢやないか。
119
貴女
(
あなた
)
は
何
(
ど
)
うかしてゐますね』
120
マリヤ
『
何程
(
なにほど
)
同化
(
どうくわ
)
し
難
(
がた
)
きユダヤ
人
(
じん
)
でも、
121
女
(
をんな
)
と
男
(
をとこ
)
ですもの、
122
同化
(
どうくわ
)
もしませうかい。
123
どうぞ
此
(
この
)
結婚
(
けつこん
)
問題
(
もんだい
)
ばかりは
本人
(
ほんにん
)
の
自由
(
じいう
)
意志
(
いし
)
に
任
(
まか
)
して
下
(
くだ
)
さいませ。
124
貴師
(
あなた
)
のやうに
年
(
とし
)
が
老
(
よ
)
つて
血
(
ち
)
も
情
(
じやう
)
も
乾
(
かわ
)
き
切
(
き
)
つた、
125
聖
(
きよ
)
きお
方
(
かた
)
と、
126
青春
(
せいしゆん
)
の
血
(
ち
)
に
燃
(
も
)
ゆる
若
(
わか
)
い
女
(
をんな
)
とは、
127
同日
(
どうじつ
)
に
語
(
かた
)
る
訳
(
わけ
)
には
行
(
ゆ
)
きませぬからねえ』
128
スバッフォード
『アハヽヽヽ、
129
こなひだから
余
(
あま
)
り
陽気
(
やうき
)
が
悪
(
わる
)
うて、
130
空気
(
くうき
)
の
流通
(
りうつう
)
が
悪
(
わる
)
く、
131
蒸
(
む
)
すので、
132
年老
(
としより
)
の
私
(
わたし
)
も
頭
(
あたま
)
がポカポカとして
来
(
き
)
た。
133
大方
(
おほかた
)
お
前
(
まへ
)
は
精神
(
せいしん
)
に
異状
(
いじやう
)
を
来
(
きた
)
して
居
(
を
)
るのだあるまいかな。
134
さうで
無
(
な
)
ければ
鬼
(
おに
)
の
霊
(
れい
)
にでも
憑依
(
ひようい
)
されたのだらう。
135
此
(
この
)
頃
(
ごろ
)
ゲツセマネの
園
(
その
)
の
近辺
(
きんぺん
)
に
悪
(
わる
)
い
狐
(
きつね
)
がウロつくといふことだが、
136
其奴
(
そいつ
)
の
霊
(
れい
)
にでも
憑依
(
ひようい
)
されたのであるまいかな。
137
これマリヤさまチツと
用心
(
ようじん
)
なさいよ。
138
キツと
狐
(
きつね
)
の
霊
(
れい
)
ですよ。
139
コンコンさまにつままれたのですよ』
140
マリヤ
『ホヽヽヽヽ、
141
信心
(
しんじん
)
堅固
(
けんご
)
な
妾
(
わたし
)
、
142
何
(
ど
)
うしてさやうな
者
(
もの
)
につままれませうか。
143
ケツでもコンでも
構
(
かま
)
ひませぬ、
144
妾
(
わたし
)
はケツコンさへすれば
可
(
い
)
いのですもの、
145
ホヽヽヽヽ』
146
スバッフォード
『アヽ、
147
何
(
なん
)
となく
怪体
(
けつたい
)
な
風
(
かぜ
)
が
吹
(
ふ
)
いて
来
(
き
)
たぞ。
148
あゝ
一
(
ひと
)
つ
窓
(
まど
)
でも
開
(
あ
)
けて
気
(
き
)
を
晴
(
は
)
らさうかな』
149
マリヤ
『ホヽヽヽヽ、
150
あのスバツフオードさまの
仰有
(
おつしや
)
ることワイノ。
151
窓
(
まど
)
を
開
(
あ
)
けたつて、
152
ついてゐない
狐
(
きつね
)
はメツタに
飛出
(
とびだ
)
す
気遣
(
きづかひ
)
はありませぬよ』
153
スバッフォード
『
丸
(
まる
)
で
春情期
(
しゆんじやうき
)
の
犬
(
いぬ
)
の
様
(
やう
)
だなア』
154
と
小声
(
こごゑ
)
に
呟
(
つぶや
)
く。
155
マリヤはスバツフオードに
向
(
むか
)
ひ、
156
マリヤ
『モシ
老師
(
らうし
)
様
(
さま
)
、
157
妾
(
わたし
)
は
之
(
これ
)
から
聖地
(
せいち
)
の
巡拝
(
じゆんぱい
)
に
行
(
い
)
つて
参
(
まゐ
)
ります。
158
どうぞお
留守
(
るす
)
を
願
(
ねが
)
ひますよ。
159
前
(
まへ
)
以
(
もつ
)
て
申
(
まを
)
しておきますが、
160
妾
(
わたし
)
も
女
(
をんな
)
です。
161
七十
(
しちじふ
)
日
(
にち
)
の
間
(
あひだ
)
メツタにブラバーサ
様
(
さま
)
のホテルを
訪
(
たづ
)
ねるやうなことは
致
(
いた
)
しませぬから、
162
御
(
ご
)
安心
(
あんしん
)
下
(
くだ
)
さいませ』
163
と
予防線
(
よばうせん
)
を
張
(
は
)
り
早
(
はや
)
くも
門口
(
もんぐち
)
に
飛出
(
とびだ
)
した。
164
橄欖山
(
かんらんざん
)
の
中腹
(
ちうふく
)
、
165
橄欖樹
(
かんらんじゆ
)
の
下
(
もと
)
に
腰
(
こし
)
打
(
う
)
ちかけて
雑談
(
ざつだん
)
に
耽
(
ふけ
)
つてゐる
三
(
さん
)
人
(
にん
)
のアラブがあつた。
166
各
(
おのおの
)
手
(
て
)
にスコツプを
持
(
も
)
ち
乍
(
なが
)
ら、
167
木
(
き
)
の
株
(
かぶ
)
に
腰打
(
こしうち
)
かけ、
168
テク『オイ、
169
此
(
この
)
頃
(
ごろ
)
、
170
アメリカンコロニーのマリヤといふ
女
(
をんな
)
、
171
チツと
様子
(
やうす
)
が
変
(
へん
)
だないか、
172
目
(
め
)
も
何
(
なに
)
も
釣上
(
つりあが
)
つてゐるやうだなア』
173
ツーロ『
彼奴
(
あいつ
)
ア
有名
(
いうめい
)
な
独身
(
どくしん
)
生活
(
せいくわつ
)
の
女
(
をんな
)
だが、
174
ヤツパリ
性欲
(
せいよく
)
は
押
(
おさ
)
へ
切
(
き
)
れないとみえて、
175
橄欖山
(
かんらんざん
)
へ
参拝
(
さんぱい
)
を
標榜
(
へうばう
)
し、
176
男
(
をとこ
)
をあさつてゐるのかも
知
(
し
)
れないよ。
177
何
(
ど
)
うだ
一
(
ひと
)
つ
彼奴
(
あいつ
)
を
甘
(
うま
)
く
抱
(
だ
)
き
込
(
こ
)
んで、
178
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
の
者
(
もの
)
にしたら
面白
(
おもしろ
)
からうぞ。
179
アラブアラブとユダヤの
奴
(
やつ
)
に
軽蔑
(
けいべつ
)
されてゐるのだから、
180
ユダヤ
人
(
じん
)
のカンカンを
甘
(
うま
)
くおとさうものなら、
181
それこそアラブ
全体
(
ぜんたい
)
の
面目
(
めんぼく
)
を
輝
(
かがや
)
かすといふものだ。
182
やがて
来
(
く
)
る
時分
(
じぶん
)
だから、
183
何
(
なん
)
とか
一
(
ひと
)
つ
工夫
(
くふう
)
をせうだないか』
184
トンク『ソリヤ
面白
(
おもしろ
)
からう、
185
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
三
(
さん
)
人
(
にん
)
の
男
(
をとこ
)
に
一人
(
ひとり
)
の
女
(
をんな
)
、
186
此奴
(
こいつ
)
ア
紛擾
(
ふんぜう
)
の
種
(
たね
)
をまくやうなものだから、
187
先
(
ま
)
づ
此
(
この
)
計画
(
けいくわく
)
は
中止
(
ちゆうし
)
した
方
(
はう
)
が
安全
(
あんぜん
)
かも
知
(
し
)
れないよ。
188
ラマ
教
(
けう
)
ならば
多夫
(
たふ
)
一妻
(
いつさい
)
でよからうが、
189
吾々
(
われわれ
)
はそんなことしたら
天則
(
てんそく
)
違反
(
ゐはん
)
で
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
から
罰
(
ばつ
)
せられるからなア』
190
テク『さう
心配
(
しんぱい
)
するな、
191
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
のやうな
色
(
いろ
)
の
黒
(
くろ
)
い、
192
唇
(
くちびる
)
の
厚
(
あつ
)
い
醜男
(
ぶをとこ
)
人種
(
じんしゆ
)
が、
193
何程
(
なにほど
)
あせつたつて、
194
一瞥
(
いちべつ
)
も
投
(
な
)
げてくれないのは
当然
(
たうぜん
)
だ。
195
先
(
ま
)
づ
相手
(
あひて
)
にならぬ
方
(
はう
)
が
安全
(
あんぜん
)
かも
知
(
し
)
れないよ』
196
ツーロ『
気
(
き
)
の
弱
(
よわ
)
いことを
云
(
い
)
ふな、
197
断
(
だん
)
じて
行
(
おこな
)
へば
鬼神
(
きしん
)
も
之
(
これ
)
をさく。
198
躊躇
(
ちうちよ
)
逡巡
(
しゆんじゆん
)
するは
男子
(
だんし
)
の
執
(
と
)
らざる
所
(
ところ
)
だ。
199
今
(
いま
)
にもやつて
来
(
き
)
よつたら、
200
大
(
だい
)
勇猛心
(
ゆうまうしん
)
を
発揮
(
はつき
)
して
獅子
(
しし
)
奮迅
(
ふんじん
)
の
活動
(
くわつどう
)
をやるのだ。
201
一人
(
ひとり
)
は
足
(
あし
)
をさらへ、
202
一人
(
ひとり
)
は
猿轡
(
さるぐつわ
)
をはませ、
203
一人
(
ひとり
)
はかついでキドロンの
谷底
(
たにそこ
)
へでもつれて
行
(
ゆ
)
き、
204
厭応
(
いやおう
)
云
(
い
)
はせず
此方
(
こつち
)
のものにするのだ』
205
テク『オイ、
206
汝
(
きさま
)
は
酒
(
さけ
)
の
気
(
け
)
のある
時
(
とき
)
ばかり、
207
そんな
強
(
つよ
)
いことを
言
(
い
)
ひやがるが、
208
酔
(
ゑひ
)
のさめた
時
(
とき
)
何
(
ど
)
うだい、
209
其
(
その
)
元気
(
げんき
)
をどこ
迄
(
まで
)
も
持続
(
ぢぞく
)
することが
出来
(
でき
)
れば、
210
おれだつて
汝
(
きさま
)
と
同盟
(
どうめい
)
して
決行
(
けつかう
)
せないことはないが、
211
何分
(
なにぶん
)
弱味噌
(
よわみそ
)
だから、
212
先
(
さき
)
が
案
(
あん
)
じられて、
213
する
気
(
き
)
にもなれないワ。
214
のうトンク、
215
さうだないか』
216
トンク『ナアニ
成敗
(
せいはい
)
は
時
(
とき
)
の
運
(
うん
)
だ。
217
一
(
ひと
)
つ
肝玉
(
きもだま
)
をおつぽり
出
(
だ
)
して
決行
(
けつかう
)
と
出
(
で
)
かけやう。
218
ゴテゴテいつたらこの
聖地
(
せいち
)
を
立去
(
たちさ
)
り、
219
アラビヤの
本国
(
ほんごく
)
へ
帰
(
かへ
)
れば
可
(
い
)
いだないか。
220
聖地
(
せいち
)
に
居
(
を
)
らなくても
救
(
すく
)
はれる
者
(
もの
)
は
救
(
すく
)
はれるのだからなア、
221
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
がマリヤを
何々
(
なになに
)
せうといふのは
決
(
けつ
)
して
肉欲
(
にくよく
)
の
為
(
ため
)
だない。
222
大
(
おほい
)
にアラブの
気前
(
きまへ
)
を
見
(
み
)
せる
為
(
ため
)
だ。
223
言
(
い
)
はば
四千万
(
よんせんまん
)
のアラブ
人
(
じん
)
を
代表
(
だいへう
)
してのアラブ
仕事
(
しごと
)
だから、
224
大
(
たい
)
したものだぞ。
225
親譲
(
おやゆづ
)
りのハンドルが
利
(
き
)
かぬとこ
迄
(
まで
)
こき
使
(
つか
)
はれて、
226
僅
(
わづか
)
に
半弗
(
はんドル
)
より
貰
(
もら
)
はれぬのだからバカげて
仕方
(
しかた
)
がないワ。
227
婦人
(
ふじん
)
国有
(
こくいう
)
の
議論
(
ぎろん
)
さへ、
228
独逸
(
ドイツ
)
では
起
(
おこ
)
つたでないか。
229
何
(
なに
)
、
230
かまふものかい、
231
三
(
さん
)
人
(
にん
)
同盟
(
どうめい
)
でマリヤを
国有
(
こくいう
)
にせうぢやないか、
232
サア
斯
(
か
)
うきまつた
以上
(
いじやう
)
は、
233
速
(
すみやか
)
に
決行
(
けつかう
)
と
出
(
で
)
かけやう』
234
テク『どこへ
出
(
で
)
かけやうと
云
(
い
)
ふのだい。
235
コロニーには
百
(
ひやく
)
人
(
にん
)
ばかりの
団体
(
だんたい
)
がゐるだないか』
236
トンク『そんな
所
(
ところ
)
へ
行
(
ゆ
)
かなくても、
237
キツと
此処
(
ここ
)
へやつて
来
(
く
)
るのだ』
238
と
云
(
い
)
つてゐる。
239
そこへソンナこととは
夢
(
ゆめ
)
にも
知
(
し
)
らぬマリヤは
細
(
ほそ
)
い
杖
(
つゑ
)
を
力
(
ちから
)
に、
240
九十九
(
つくも
)
折
(
をり
)
の
坂
(
さか
)
をソロソロと
登
(
のぼ
)
つて
来
(
き
)
た。
241
三
(
さん
)
人
(
にん
)
は
互
(
たがひ
)
に
目
(
め
)
くばせし、
242
物
(
もの
)
をも
言
(
い
)
はず、
243
マリヤの
体
(
からだ
)
に
喰
(
くら
)
ひつき、
244
担
(
かつ
)
ぎ
出
(
だ
)
した。
245
マリヤは
悲鳴
(
ひめい
)
を
上
(
あ
)
げて、
246
「
人殺
(
ひとごろ
)
し
人殺
(
ひとごろ
)
し」と
叫
(
さけ
)
ぶ。
247
斯
(
か
)
かる
折
(
をり
)
しもあたりの
木魂
(
こだま
)
を
響
(
ひび
)
かして
宣伝歌
(
せんでんか
)
の
声
(
こゑ
)
聞
(
きこ
)
え
来
(
き
)
たりぬ。
248
ブラバーサ
『
神
(
かみ
)
が
表
(
おもて
)
に
現
(
あら
)
はれて
249
善
(
ぜん
)
と
悪
(
あく
)
とを
立分
(
たてわ
)
ける
250
時世
(
ときよ
)
時節
(
じせつ
)
は
近
(
ちか
)
づきぬ
251
オレゴン
星座
(
せいざ
)
を
立
(
たち
)
はなれ
252
ウヅの
聖地
(
せいち
)
に
雲
(
くも
)
に
乗
(
の
)
り
253
降
(
くだ
)
らせ
玉
(
たま
)
ふキリストの
254
御声
(
みこゑ
)
は
近
(
ちか
)
く
聞
(
きこ
)
えけり
255
日出
(
ひので
)
の
島
(
しま
)
に
日
(
ひ
)
の
神
(
かみ
)
の
256
現
(
あら
)
はれまして
中天
(
ちうてん
)
に
257
光
(
ひか
)
り
輝
(
かがや
)
き
進
(
すす
)
むごと
258
暗夜
(
あんや
)
も
漸
(
やうや
)
く
開
(
あ
)
け
近
(
ちか
)
く
259
夜
(
よる
)
の
守護
(
しゆご
)
は
忽
(
たちま
)
ちに
260
光明
(
くわうみやう
)
世界
(
せかい
)
と
進
(
すす
)
み
行
(
ゆ
)
く
261
あゝ
惟神
(
かむながら
)
々々
(
かむながら
)
262
神
(
かみ
)
は
吾
(
われ
)
等
(
ら
)
と
共
(
とも
)
にあり
263
自転倒
(
おのころ
)
島
(
じま
)
を
立出
(
たちい
)
でて
264
万里
(
ばんり
)
の
波濤
(
はたう
)
を
打渡
(
うちわた
)
り
265
音
(
おと
)
に
名高
(
なだか
)
きエルサレム
266
神
(
かみ
)
の
定
(
さだ
)
めし
聖場
(
せいぢやう
)
に
267
下
(
くだ
)
り
来
(
きた
)
りし
吾
(
われ
)
こそは
268
救
(
すく
)
ひの
神
(
かみ
)
の
先走
(
さきばし
)
り
269
名
(
な
)
さへ
目出度
(
めでた
)
きブラバーサ
270
いかなる
神
(
かみ
)
の
経綸
(
けいりん
)
か
271
ユダヤの
女
(
をんな
)
に
恋慕
(
れんぼ
)
され
272
進退
(
しんたい
)
維
(
ここ
)
に
谷
(
きは
)
まりて
273
首
(
くび
)
もまはらぬ
破目
(
はめ
)
となり
274
朝
(
あさ
)
な
夕
(
ゆふ
)
なに
橄欖
(
かんらん
)
の
275
山
(
やま
)
に
詣
(
まう
)
でて
禍
(
わざはひ
)
を
276
除
(
のぞ
)
かむ
為
(
ため
)
に
登
(
のぼ
)
り
行
(
ゆ
)
く
277
国治立
(
くにはるたちの
)
大御神
(
おほみかみ
)
278
神
(
かむ
)
素盞嗚
(
すさのをの
)
大御神
(
おほみかみ
)
279
何卒
(
なにとぞ
)
吾身
(
わがみ
)
の
災
(
わざはひ
)
を
280
厳
(
いづ
)
と
瑞
(
みづ
)
との
御光
(
みひかり
)
に
281
救
(
すく
)
はせ
玉
(
たま
)
へ
惟神
(
かむながら
)
282
神
(
かみ
)
の
御前
(
みまへ
)
に
願
(
ね
)
ぎまつる
283
朝日
(
あさひ
)
は
照
(
て
)
る
共
(
とも
)
曇
(
くも
)
るとも
284
月
(
つき
)
は
盈
(
み
)
つとも
虧
(
か
)
くる
共
(
とも
)
285
仮令
(
たとへ
)
大地
(
だいち
)
は
沈
(
しづ
)
むとも
286
神
(
かみ
)
に
任
(
まか
)
せし
此
(
この
)
体
(
からだ
)
287
仮令
(
たとへ
)
野
(
の
)
の
末
(
すゑ
)
山
(
やま
)
の
奥
(
おく
)
288
屍
(
かばね
)
をさらす
苦
(
くるし
)
みも
289
何
(
なに
)
か
厭
(
いと
)
はむ
道
(
みち
)
の
為
(
ため
)
290
国
(
くに
)
に
残
(
のこ
)
せし
妻
(
つま
)
や
子
(
こ
)
は
291
いかに
此
(
この
)
世
(
よ
)
を
送
(
おく
)
るらむ
292
聖地
(
せいち
)
にいます
師
(
し
)
の
君
(
きみ
)
の
293
あらはれませる
日
(
ひ
)
は
何時
(
いつ
)
ぞ
294
神
(
かみ
)
の
集
(
あつ
)
まるエルサレム
295
聖
(
きよ
)
き
都
(
みやこ
)
と
聞
(
き
)
き
乍
(
なが
)
ら
296
何
(
なん
)
とはなしに
村肝
(
むらきも
)
の
297
心
(
こころ
)
淋
(
さび
)
しくなりにけり
298
思
(
おも
)
へば
思
(
おも
)
へば
人
(
ひと
)
の
身
(
み
)
の
299
果敢
(
はか
)
なき
弱
(
よわ
)
き
有様
(
ありさま
)
を
300
今
(
いま
)
目
(
ま
)
のあたり
悟
(
さと
)
りけり
301
恵
(
めぐ
)
ませ
玉
(
たま
)
へ
三五
(
あななひ
)
の
302
皇
(
すめ
)
大神
(
おほかみ
)
の
御
(
おん
)
前
(
まへ
)
に
303
畏
(
かしこ
)
み
畏
(
かしこ
)
み
願
(
ね
)
ぎまつる』
304
此
(
この
)
声
(
こゑ
)
に
驚
(
おどろ
)
いて
三
(
さん
)
人
(
にん
)
はマリヤを
其
(
その
)
場
(
ば
)
に
投棄
(
なげす
)
て、
305
雲
(
くも
)
を
霞
(
かすみ
)
と
逃
(
に
)
げ
去
(
さ
)
りにけり。
306
マリヤは
余
(
あま
)
りの
驚
(
おどろ
)
きと
大地
(
だいち
)
に
投
(
な
)
げられたはずみに
気絶
(
きぜつ
)
して
了
(
しま
)
ひ、
307
坂路
(
さかみち
)
に
大
(
だい
)
の
字
(
じ
)
となつてふん
伸
(
の
)
びてゐる。
308
ブラバーサは
魔法瓶
(
まほふびん
)
から
清水
(
せいすゐ
)
を
出
(
だ
)
し、
309
倒
(
たふ
)
れたる
女
(
をんな
)
の
顔
(
かほ
)
に
注
(
そそ
)
ぎかけた。
310
よくよく
見
(
み
)
れば
自分
(
じぶん
)
を
恋
(
こ
)
ひ
慕
(
した
)
ふてゐるマリヤであつた。
311
ブラバーサはマリヤの
気
(
き
)
のついたのを
幸
(
さいは
)
ひ、
312
顔
(
かほ
)
をかくして
一生
(
いつしやう
)
懸命
(
けんめい
)
にかけ
出
(
いだ
)
す。
313
マリヤは
後姿
(
うしろすがた
)
を
見
(
み
)
て、
314
それと
悟
(
さと
)
つたか、
315
苦痛
(
くつう
)
を
忘
(
わす
)
れ、
316
尻
(
しり
)
端折
(
はしを
)
つて
夜叉
(
やしや
)
の
如
(
ごと
)
く
後
(
あと
)
を
追
(
お
)
つかけ
進
(
すす
)
み
行
(
ゆ
)
く。
317
ブラバーサは
林
(
はやし
)
の
繁
(
しげ
)
みに
身
(
み
)
をかくしマリヤの
通
(
とほ
)
り
過
(
す
)
ぎたあとで、
318
ホツと
息
(
いき
)
をつぎ、
319
両手
(
りやうて
)
を
合
(
あは
)
せ、
320
ブラバーサ
『あゝ
惟神
(
かむながら
)
霊
(
たま
)
幸倍
(
ちはへ
)
坐世
(
ませ
)
』
321
(
大正一二・七・一二
旧五・二九
松村真澄
録)
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