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第64巻(卯の巻)上
序
総説
第1篇 日下開山
01 橄欖山
〔1630〕
02 宣伝使
〔1631〕
03 聖地夜
〔1632〕
04 訪問客
〔1633〕
05 至聖団
〔1634〕
第2篇 聖地巡拝
06 偶像都
〔1635〕
07 巡礼者
〔1636〕
08 自動車
〔1637〕
09 膝栗毛
〔1638〕
10 追懐念
〔1639〕
第3篇 花笑蝶舞
11 公憤私憤
〔1640〕
12 誘惑
〔1641〕
13 試練
〔1642〕
14 荒武事
〔1643〕
15 大相撲
〔1644〕
16 天消地滅
〔1645〕
第4篇 遠近不二
17 強請
〔1646〕
18 新聞種
〔1647〕
19 祭誤
〔1648〕
20 福命
〔1649〕
21 遍路
〔1650〕
22 妖行
〔1651〕
第5篇 山河異涯
23 暗着
〔1652〕
24 妖蝕
〔1653〕
25 地図面
〔1654〕
26 置去
〔1655〕
27 再転
〔1656〕
余白歌
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第二七章
再転
(
さいてん
)
〔一六五六〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第64巻上 山河草木 卯の巻上
篇:
第5篇 山河異涯
よみ(新仮名遣い):
さんがいがい
章:
第27章 再転
よみ(新仮名遣い):
さいてん
通し章番号:
1656
口述日:
1923(大正12)年07月13日(旧05月30日)
口述場所:
筆録者:
松村真澄
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1925(大正14)年10月16日
概要:
舞台:
シオン山の谷間のブラバーサの隠れ家(草庵)
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
主な登場人物
[?]
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2017-11-26 00:35:10
OBC :
rm64a27
愛善世界社版:
298頁
八幡書店版:
第11輯 488頁
修補版:
校定版:
300頁
普及版:
62頁
初版:
ページ備考:
001
シオン
山
(
ざん
)
の
谷間
(
たにあひ
)
のブラバーサが
草庵
(
さうあん
)
に
靴音
(
くつおと
)
高
(
たか
)
く
訪
(
たづ
)
ねて
来
(
き
)
た
一人
(
ひとり
)
の
紳士
(
しんし
)
は、
002
シカゴ
大学
(
だいがく
)
の
教授
(
けうじゆ
)
スバール
博士
(
はかせ
)
であつた。
003
博士
(
はかせ
)
は「
御免
(
ごめん
)
なさいませ」と
柴
(
しば
)
の
戸
(
と
)
を
排
(
はい
)
して
這入
(
はい
)
つて
来
(
き
)
た。
004
ブラバーサは
嬉
(
うれ
)
しげに
出
(
い
)
で
迎
(
むか
)
へ、
005
狭
(
せま
)
い
座敷
(
ざしき
)
の
奥
(
おく
)
へ
通
(
とほ
)
しけり。
006
ブラバーサ
『ヤアあなたは
橄欖山
(
かんらんさん
)
上
(
じやう
)
でお
目
(
め
)
にかかりました
博士
(
はかせ
)
で
御座
(
ござ
)
いますか。
007
かやうな
草庵
(
さうあん
)
を
能
(
よ
)
くマア
訪
(
たづ
)
ねて
下
(
くだ
)
さいました』
008
スバール博士
『ハイ
一寸
(
ちよつと
)
お
伺
(
うかが
)
ひし
度
(
た
)
いことが
御座
(
ござ
)
いますので
参
(
まゐ
)
りました。
009
実
(
じつ
)
の
所
(
ところ
)
は
私
(
わたし
)
もシカゴ
大学
(
だいがく
)
の
教授
(
けうじゆ
)
を
致
(
いた
)
して
居
(
を
)
りますが、
010
今度
(
こんど
)
シオン
大学
(
だいがく
)
の
建設
(
けんせつ
)
に
就
(
つい
)
て
委員
(
ゐゐん
)
に
選
(
えら
)
まれ
監督
(
かんとく
)
の
為
(
ため
)
に
茲
(
ここ
)
二
(
に
)
ケ
月
(
げつ
)
ばかり
以前
(
いぜん
)
から
参
(
まゐ
)
つて
居
(
を
)
るので
御座
(
ござ
)
います。
011
付
(
つ
)
いては
私
(
わたし
)
は
日
(
ひ
)
の
出島
(
でじま
)
は
隅
(
すみ
)
から
隅
(
すみ
)
迄
(
まで
)
二三回
(
にさんくわい
)
も
旅行
(
りよかう
)
を
致
(
いた
)
し、
012
神社
(
じんじや
)
仏閣
(
ぶつかく
)
を
巡拝
(
じゆんぱい
)
しお
札
(
ふだ
)
博士
(
はかせ
)
と
名
(
な
)
を
取
(
と
)
つた
男
(
をとこ
)
で
厶
(
ござ
)
いますよ。
013
あなたは
桶伏山
(
をけぶせやま
)
の
聖地
(
せいち
)
から
来
(
き
)
たと
仰
(
おほ
)
せられましたが、
014
私
(
わたし
)
も
一度
(
いちど
)
ルートバハーの
本山
(
ほんざん
)
に
参拝
(
さんぱい
)
致
(
いた
)
し
教主
(
けうしゆ
)
に
直接
(
ちよくせつ
)
お
目
(
め
)
にかかり、
015
言霊閣
(
ことたまかく
)
に
於
(
おい
)
てお
世話
(
せわ
)
になつた
事
(
こと
)
が
厶
(
ござ
)
います。
016
何
(
なん
)
だかルートバハーの
宣伝使
(
せんでんし
)
と
承
(
うけたま
)
はりますればなつかしいやうな
気
(
き
)
が
致
(
いた
)
しまして、
017
一度
(
いちど
)
お
尋
(
たづ
)
ね
申
(
まを
)
したいお
尋
(
たづ
)
ね
申
(
まを
)
したいと
思
(
おも
)
うてゐましたが、
018
忙
(
いそが
)
しい
為
(
ため
)
つい
其
(
その
)
機
(
き
)
を
得
(
え
)
ませぬでした。
019
然
(
しか
)
るに
二三
(
にさん
)
日
(
にち
)
以前
(
いぜん
)
の
夕方
(
ゆふがた
)
、
020
日
(
ひ
)
の
出島
(
でじま
)
より
守宮別
(
やもりわけ
)
と
云
(
い
)
ふ
男
(
をとこ
)
が
三
(
さん
)
人
(
にん
)
の
男女
(
だんぢよ
)
を
従
(
したが
)
へ
参
(
まゐ
)
りまして、
021
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
の
救世主
(
きうせいしゆ
)
だとか、
022
大
(
おほ
)
ミロク
様
(
さま
)
だとか
何
(
なん
)
とか
申
(
まを
)
し、
023
そして
貴方
(
あなた
)
のことを
偽
(
にせ
)
宣伝使
(
せんでんし
)
だなどと
悪
(
わる
)
く
云
(
い
)
つてゐましたよ。
024
そこで
私
(
わたし
)
がいろいろとあなたの
為
(
ため
)
に
弁解
(
べんかい
)
を
致
(
いた
)
しておきましたが、
025
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
つても
聞
(
き
)
かないものですから、
026
相手
(
あひて
)
にならずに
別
(
わか
)
れた
次第
(
しだい
)
ですが、
027
ありや
一体
(
いつたい
)
ドンナ
人
(
ひと
)
で
厶
(
ござ
)
いますか。
028
一遍
(
いつぺん
)
お
尋
(
たづ
)
ね
致
(
いた
)
したいと
思
(
おも
)
つてゐましたが、
029
今日
(
けふ
)
は
幸
(
さいは
)
ひ
日曜日
(
にちえうび
)
のことでもありお
邪魔
(
じやま
)
を
致
(
いた
)
しました
次第
(
しだい
)
で
厶
(
ござ
)
います』
030
ブラバーサ
『ハテナ、
031
守宮別
(
やもりわけ
)
と
云
(
い
)
ふ
男
(
をとこ
)
が
来
(
き
)
て
居
(
ゐ
)
ましたか、
032
ソリヤ
大方
(
おほかた
)
お
寅
(
とら
)
といふ
五十
(
ごじふ
)
格好
(
かくかう
)
の
婆
(
ば
)
アさまと
一所
(
いつしよ
)
ぢや
厶
(
ござ
)
いませぬか』
033
スバール博士
『
何
(
なん
)
でもお
寅
(
とら
)
さまにお
花
(
はな
)
さま、
034
曲彦
(
まがひこ
)
とか
言
(
い
)
はれたやうに
覚
(
おぼ
)
えて
居
(
を
)
ります。
035
そして
再臨
(
さいりん
)
のキリスト、
036
ミロクの
再生
(
さいせい
)
は
此
(
こ
)
の
婆
(
ば
)
アさまだと
言
(
い
)
つて、
037
守宮別
(
やもりわけ
)
さまが
固
(
かた
)
く
固
(
かた
)
く
主張
(
しゆちやう
)
して
居
(
を
)
りました。
038
余程
(
よほど
)
あの
連中
(
れんちう
)
さまは
変
(
かは
)
つて
居
(
を
)
りますなア』
039
ブラバーサ
『
大方
(
おほかた
)
私
(
わたし
)
が
此方
(
こちら
)
へ
来
(
き
)
たことをかぎつけて
邪魔
(
じやま
)
しに
来
(
き
)
たのでせう。
040
どこ
迄
(
まで
)
も
執念深
(
しふねんぶか
)
い
連中
(
れんちう
)
です。
041
本当
(
ほんたう
)
に
困
(
こま
)
りますワ』
042
スバール博士
『さぞお
困
(
こま
)
りで
厶
(
ござ
)
いませう。
043
併
(
しか
)
しあなたはキリストの
再臨
(
さいりん
)
に
就
(
つい
)
てお
出
(
いで
)
になつたといふ
先達
(
せんだつて
)
のお
話
(
はな
)
しでしたが、
044
私
(
わたし
)
は
世界
(
せかい
)
各国
(
かくこく
)
を
廻
(
まは
)
りましたが、
045
印度
(
いんど
)
にも
支那
(
しな
)
にも
日本
(
にほん
)
にも
露国
(
ろこく
)
にも
又
(
また
)
南米
(
なんべい
)
、
046
メキシコにも
救世主
(
きうせいしゆ
)
が
現
(
あら
)
はれてをりますよ。
047
何
(
いづ
)
れどつかの
或
(
ある
)
地点
(
ちてん
)
に
救世主
(
きうせいしゆ
)
がお
集
(
あつ
)
まりになつて
国会開
(
こくくわいびら
)
きをお
始
(
はじ
)
めにならなくては
真
(
しん
)
の
救世主
(
きうせいしゆ
)
が
人間
(
にんげん
)
としては
分
(
わか
)
らないと
思
(
おも
)
ひます。
048
あなたは
何
(
ど
)
う
思
(
おも
)
ひますか』
049
ブラバーサ
『
兎
(
と
)
も
角
(
かく
)
世界
(
せかい
)
の
救世主
(
きうせいしゆ
)
が
一所
(
ひとところ
)
へお
集
(
あつ
)
まりになり、
050
其
(
その
)
中
(
なか
)
で
最
(
もつと
)
も
公平
(
こうへい
)
無私
(
むし
)
にして
仁慈
(
じんじ
)
に
富
(
と
)
める
御
(
お
)
方
(
かた
)
が
真
(
しん
)
の
救世主
(
きうせいしゆ
)
と
選
(
えら
)
ばれるでせう。
051
イスラエルの
十二
(
じふに
)
の
流
(
なが
)
れから
一人
(
ひとり
)
づつ
救世主
(
きうせいしゆ
)
が
出
(
で
)
るといふことですから、
052
其
(
その
)
中
(
なか
)
から
大
(
だい
)
救世主
(
きうせいしゆ
)
が
出現
(
しゆつげん
)
されることと
思
(
おも
)
ひます』
053
スバール博士
『
成程
(
なるほど
)
それは
公平
(
こうへい
)
なる
見解
(
けんかい
)
です。
054
そして
御
(
ご
)
降臨
(
かうりん
)
の
場所
(
ばしよ
)
はどこだとお
考
(
かんが
)
へですか』
055
ブラバーサ
『
無論
(
むろん
)
私
(
わたし
)
はエルサレムだと
思
(
おも
)
つて
遥々
(
はるばる
)
茲
(
ここ
)
へ
参
(
まゐ
)
つたので
厶
(
ござ
)
います』
056
スバール博士
『
成程
(
なるほど
)
聖書
(
せいしよ
)
の
予言
(
よげん
)
によりますればエルサレムでせうが、
057
併
(
しか
)
し
救世主
(
きうせいしゆ
)
は
何処
(
どこ
)
へお
降
(
くだ
)
りになるか
分
(
わか
)
りますまい。
058
私
(
わたし
)
は
決
(
けつ
)
してエルサレムと
限
(
かぎ
)
つたものとは
思
(
おも
)
ひませぬ。
059
或
(
あるひ
)
は
日出島
(
ひのでじま
)
へ
現
(
あら
)
はれ
玉
(
たま
)
ふかも
知
(
し
)
れませぬ』
060
ブラバーサ
『さうかも
分
(
わか
)
りませぬなア』
061
かく
話
(
はな
)
して
居
(
ゐ
)
る
所
(
ところ
)
へスタスタやつて
来
(
き
)
たのはお
寅
(
とら
)
、
062
お
花
(
はな
)
、
063
曲彦
(
まがひこ
)
の
三
(
さん
)
人
(
にん
)
なりける。
064
お寅
『あゝ、
065
どうやらかうやら
隠
(
かく
)
れ
家
(
が
)
を
見
(
み
)
つけた。
066
これも
矢張
(
やはり
)
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
のお
導
(
みちび
)
き、
067
ヤレ
御免
(
ごめん
)
なされ、
068
お
前
(
まへ
)
さまはブラバーサさまだな。
069
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
の
救世主
(
きうせいしゆ
)
が
二三
(
にさん
)
日
(
にち
)
以前
(
いぜん
)
から
橄欖山
(
かんらんざん
)
に
御
(
ご
)
降臨
(
かうりん
)
になつたのを
御存
(
ごぞん
)
じですかな。
070
ヤ、
071
そこに
居
(
を
)
る
毛唐
(
けたう
)
さまは
此
(
こ
)
の
間
(
あひだ
)
橄欖山
(
かんらんさん
)
上
(
じやう
)
で
守宮別
(
やもりわけ
)
とチーチーパーパー
云
(
い
)
ふて
居
(
ゐ
)
た
博士
(
はかせ
)
だ
厶
(
ござ
)
いませぬか。
072
マアマア
因縁
(
いんねん
)
といふものはエライものだな。
073
又
(
また
)
こんな
所
(
ところ
)
で
会
(
あ
)
はうとは
思
(
おも
)
ひもよりませなんだ。
074
コレ
毛唐
(
けたう
)
さま、
075
お
前
(
まへ
)
さま
又
(
また
)
此
(
この
)
ブラバーサにだまされて
来
(
き
)
なさつたのかな。
076
チト
用心
(
ようじん
)
なさいませや』
077
スバールはうるさ
相
(
さう
)
な
顔
(
かほ
)
をし
乍
(
なが
)
ら、
078
日出島
(
ひのでじま
)
の
言葉
(
ことば
)
を
使
(
つか
)
つて、
079
スバール博士
『ヤアお
前
(
まへ
)
さまはルートバハーの
教
(
をしへ
)
をまぜ
返
(
かへ
)
しに
廻
(
まは
)
つてる、
080
あの
有名
(
いうめい
)
な
小北山
(
こぎたやま
)
のお
寅
(
とら
)
婆
(
ば
)
アさまだな。
081
そして
一人
(
ひとり
)
は
曲彦
(
まがひこ
)
、
082
それからお
花
(
はな
)
といふ
剛
(
がう
)
の
者
(
もの
)
だらう、
083
イヽかげんに
落着
(
おちつ
)
きなさらぬと
此
(
こ
)
の
聖地
(
せいち
)
には
相手
(
あひて
)
になる
者
(
もの
)
がなくなりますよ』
084
お寅
『
何
(
なん
)
とマア
流石
(
さすが
)
に
博士
(
はかせ
)
だワイ。
085
イロハ
四十八
(
しじふはち
)
文字
(
もじ
)
の
言葉
(
ことば
)
が
使
(
つか
)
へるやうになりましたな。
086
此
(
この
)
間
(
あひだ
)
迄
(
まで
)
四足
(
よつあし
)
か
鳥
(
とり
)
のやうにチーチーパーパー
云
(
い
)
ふて
居
(
を
)
つたのに、
087
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
に
一目
(
ひとめ
)
会
(
あ
)
ふたお
蔭
(
かげ
)
に
真人間
(
まにんげん
)
の
言葉
(
ことば
)
が
使
(
つか
)
へるやうになつたのかな。
088
コレお
花
(
はな
)
さま、
089
曲
(
まが
)
やん、
090
これでも
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
の
神力
(
しんりき
)
が
分
(
わか
)
りましたらうがなア』
091
曲彦
『
何
(
なに
)
しろ
夜抜
(
よぬけ
)
食逃
(
くひに
)
げの
張本人
(
ちやうほんにん
)
だから
偉
(
えら
)
いものですワイ』
092
お寅
『コレ
曲
(
まが
)
、
093
ソリヤ
何
(
なん
)
といふ
事
(
こと
)
をいふのだえ』
094
曲彦
『それだつて
事実
(
じじつ
)
は
事実
(
じじつ
)
ですもの、
095
仕方
(
しかた
)
がありませぬワ。
096
もし、
097
ブラバーサさま、
098
どうぞ
私
(
わたし
)
をあなたの
弟子
(
でし
)
にして
下
(
くだ
)
さいな。
099
実
(
じつ
)
の
所
(
ところ
)
はお
寅
(
とら
)
さまがお
金
(
かね
)
をおとし、
100
吾々
(
われわれ
)
三
(
さん
)
人
(
にん
)
は
無一物
(
むいつぶつ
)
ですから、
101
二進
(
につち
)
も
三進
(
さつち
)
も
仕方
(
しかた
)
がないのです』
102
ブラバーサはニタリと
笑
(
わら
)
ひ
乍
(
なが
)
ら、
103
ブラバーサ
『
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
様
(
さま
)
も、
104
お
金
(
かね
)
がないとヤツパリ、
105
お
困
(
こま
)
りですかな。
106
私
(
わたし
)
も
淋
(
さび
)
しい
懐
(
ふところ
)
だからお
金
(
かね
)
を
貸
(
か
)
して
上
(
あ
)
げる
訳
(
わけ
)
にも
行
(
ゆ
)
きませぬが、
107
マア
暫
(
しばら
)
く
茲
(
ここ
)
にをつて、
108
味
(
あぢ
)
ないものでも
喰
(
た
)
べてお
金
(
かね
)
の
来
(
く
)
る
迄
(
まで
)
お
待
(
ま
)
ちなさいませ。
109
電報
(
でんぱう
)
さへうてば
二十日
(
はつか
)
も
立
(
た
)
たん
内
(
うち
)
に
届
(
とど
)
きますからな』
110
スバール博士
『ヤア
大変
(
たいへん
)
御
(
お
)
邪魔
(
じやま
)
を
致
(
いた
)
しました。
111
何
(
いづ
)
れ
今度
(
こんど
)
の
日曜
(
にちえう
)
にはトツクリとお
目
(
め
)
にかかり
御
(
お
)
話
(
はなし
)
をさして
頂
(
いただ
)
きませう。
112
今日
(
けふ
)
は
用事
(
ようじ
)
もあり
少
(
すこ
)
し
急
(
いそ
)
ぎますから
御免
(
ごめん
)
を
蒙
(
かうむ
)
りませう』
113
ブラバーサ
『
折角
(
せつかく
)
お
越
(
こ
)
し
下
(
くだ
)
さいまして、
114
何
(
なん
)
の
御
(
お
)
愛想
(
あいそ
)
も
致
(
いた
)
さず
失礼
(
しつれい
)
を
致
(
いた
)
しました。
115
今度
(
こんど
)
お
足
(
あし
)
を
運
(
はこ
)
ばしてはすみませぬから、
116
私
(
わたし
)
の
方
(
はう
)
からお
訪
(
たづ
)
ね
致
(
いた
)
します』
117
博士
(
はかせ
)
は、
118
スバール博士
『
左様
(
さやう
)
ならば
後日
(
ごじつ
)
お
目
(
め
)
にかかりませう。
119
皆
(
みな
)
さま、
120
御
(
ご
)
ゆつくりなさいませ』
121
と
早
(
はや
)
くも
此
(
この
)
場
(
ば
)
をスタスタと
立去
(
たちさ
)
つた。
122
お
寅
(
とら
)
、
123
お
花
(
はな
)
、
124
曲彦
(
まがひこ
)
の
三
(
さん
)
人
(
にん
)
は
異郷
(
いきやう
)
の
空
(
そら
)
に
懐
(
ふところ
)
空
(
むな
)
しく
何
(
なん
)
となく
淋
(
さび
)
しくなり、
125
知己
(
ちき
)
と
云
(
い
)
ふて
別
(
べつ
)
になければ、
126
反対
(
はんたい
)
で
憎
(
にく
)
うてならぬブラバーサの
寓居
(
ぐうきよ
)
に
世話
(
せわ
)
にならうと
覚悟
(
かくご
)
をきわめワザとにおとなしく、
127
ブラバーサの
言
(
げん
)
に
従
(
したが
)
ひ、
128
何事
(
なにごと
)
もヘーヘーハイハイと
猫
(
ねこ
)
をかぶつて、
129
表面
(
へうめん
)
帰順
(
きじゆん
)
した
如
(
ごと
)
く
見
(
み
)
せかけてゐた。
130
其
(
その
)
翌日
(
よくじつ
)
の
日
(
ひ
)
の
暮
(
くれ
)
頃
(
ごろ
)
守宮別
(
やもりわけ
)
は
二百
(
にひやく
)
五十
(
ごじふ
)
円
(
ゑん
)
の
金
(
かね
)
を
懐
(
ふところ
)
にねぢ
込
(
こ
)
んで
茲
(
ここ
)
へ
訪
(
たづ
)
ねて
来
(
き
)
た。
131
守宮別
『
御免
(
ごめん
)
なさいませ。
132
ブラバーサ
様
(
さま
)
のお
宅
(
たく
)
はここで
厶
(
ござ
)
いますかな』
133
ブラバーサ
『ハイどなたか
知
(
し
)
りませぬがお
這入
(
はい
)
りなさいませ』
134
お寅
『あの
声
(
こゑ
)
は
守宮別
(
やもりわけ
)
さまぢやないか、
135
サアサア
早
(
はや
)
うお
這入
(
はい
)
りなさい』
136
守宮別
『あゝ
御免
(
ごめん
)
なさいませ、
137
お
寅
(
とら
)
さま、
138
あなたはヒドイですな。
139
本当
(
ほんたう
)
に
油断
(
ゆだん
)
のならぬ
悪性
(
あくしやう
)
な
人
(
ひと
)
だ。
140
オイ
曲彦
(
まがひこ
)
、
141
お
花
(
はな
)
さま、
142
人
(
ひと
)
を
置去
(
おきざり
)
にして
余
(
あま
)
り
友情
(
いうじやう
)
がなさすぎるだないか』
143
両人
(
りやうにん
)
は
一言
(
いちごん
)
もなくウツムク。
144
両人(曲彦、お花)
『ヽヽヽヽヽ』
145
お寅
『それだと
云
(
い
)
つて、
146
二万
(
にまん
)
四千
(
よんせん
)
両
(
りやう
)
の
金
(
かね
)
が
何
(
ど
)
うして
払
(
はら
)
へるものか。
147
お
前
(
まへ
)
は
又
(
また
)
夜脱
(
よぬ
)
けをして
来
(
き
)
たのかな。
148
よう
出
(
で
)
られたものだなア』
149
守宮別
『お
前
(
まへ
)
さまが
財布
(
さいふ
)
をおいといてくれたおかげで、
150
スツカリ
勘定
(
かんぢやう
)
をすまして
帰
(
かへ
)
つて
来
(
き
)
ましたよ。
151
サア
茲
(
ここ
)
に
二百
(
にひやく
)
五十
(
ごじふ
)
両
(
りやう
)
計
(
ばか
)
り
残
(
のこ
)
つてるからお
前
(
まへ
)
さまに
返
(
かへ
)
します』
152
お寅
『あのお
金
(
かね
)
は
何
(
ど
)
うして
勘定
(
かんぢやう
)
したのだい』
153
守宮別
『
何分
(
なにぶん
)
一
(
いち
)
ダースが
六弗
(
ろくドル
)
よりせないものだから、
154
何
(
なに
)
もかもお
前
(
まへ
)
さまの
分
(
ぶん
)
まで
払
(
はら
)
うて
二十五
(
にじふご
)
弗
(
ドル
)
ですみましたよ』
155
お寅
『あゝさうだつたかいな。
156
何
(
なん
)
とした、
157
あの
奴
(
やつこ
)
さまは
間違
(
まちが
)
つた
事
(
こと
)
を
云
(
い
)
つたのだらう。
158
マア
二百
(
にひやく
)
五十
(
ごじふ
)
両
(
りやう
)
あれば
少時
(
しばらく
)
大丈夫
(
だいぢやうぶ
)
だ。
159
国許
(
くにもと
)
へ
電報
(
でんぱう
)
かけさへすれば
送
(
おく
)
つてくれるからな。
160
ヘン、
161
今迄
(
いままで
)
耳
(
みみ
)
の
痛
(
いた
)
い
話
(
はなし
)
を、
162
御
(
ご
)
無理
(
むり
)
御尤
(
ごもつと
)
もでブラバーサさまに
聞
(
き
)
いてゐたが、
163
モウ
誰
(
たれ
)
が
聞
(
き
)
くものか。
164
コレ、
165
ブラバーサさま、
166
救世主
(
きうせいしゆ
)
は
瑞
(
みづ
)
の
御霊
(
みたま
)
だといひましたが、
167
あんな
奴
(
やつ
)
が
救世主
(
きうせいしゆ
)
になつてたまりますかい。
168
キユキユ
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
を
苦
(
くるし
)
める
救世主
(
きうせいしゆ
)
のキウの
字
(
じ
)
は
貧窮
(
ひんきう
)
の
窮
(
きう
)
の
字
(
じ
)
でせう。
169
オホヽヽヽ』
170
とソロソロメートルを
上
(
あ
)
げ
出
(
だ
)
した。
171
ブラバーサ
『
何
(
ど
)
うなつと
勝手
(
かつて
)
になさいませ。
172
事実
(
じじつ
)
が
証明
(
しようめい
)
致
(
いた
)
しますからな』
173
お寅
『サア
三
(
さん
)
人
(
にん
)
の
御
(
ご
)
連中
(
れんちう
)
、
174
コンナ
所
(
ところ
)
に
居
(
を
)
らぬと
早
(
はや
)
く
聖地
(
せいち
)
へ
行
(
ゆ
)
きませう。
175
そして
最早
(
もはや
)
エルサレムの
町
(
まち
)
に
誰
(
たれ
)
憚
(
はばか
)
る
所
(
ところ
)
ないのだから、
176
私
(
わたし
)
は
之
(
これ
)
から
橄欖山
(
かんらんざん
)
に
登
(
のぼ
)
つて
救世主
(
きうせいしゆ
)
になるから、
177
お
前
(
まへ
)
たち
三
(
さん
)
人
(
にん
)
は
町中
(
まちぢう
)
をふれて
歩
(
ある
)
くのだよ。
178
左様
(
さやう
)
なら、
179
何
(
いづ
)
れ
事実
(
じじつ
)
が
証明
(
しようめい
)
しますからな。
180
なア、
181
ブラバーサさま』
182
とプリンプリンと
大
(
おほ
)
きな
団尻
(
だんじり
)
をふり
羽
(
は
)
ばたきし
乍
(
なが
)
ら
帰
(
かへ
)
り
行
(
ゆ
)
く。
183
(
大正一二・七・一三
旧五・三〇
松村真澄
録)
184
(昭和一〇・三・九 於台湾航路吉野丸船室 王仁校正)
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