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第72巻(亥の巻)
序文
総説
第1篇 水波洋妖
01 老の高砂
〔1810〕
02 時化の湖
〔1811〕
03 厳の欵乃
〔1812〕
04 銀杏姫
〔1813〕
05 蛸船
〔1814〕
06 夜鷹姫
〔1815〕
07 鰹の網引
〔1816〕
第2篇 杢迂拙婦
08 街宣
〔1817〕
09 欠恋坊
〔1818〕
10 清の歌
〔1819〕
11 問答所
〔1820〕
12 懺悔の生活
〔1821〕
13 捨台演
〔1822〕
14 新宅入
〔1823〕
15 災会
〔1824〕
16 東西奔走
〔1825〕
第3篇 転化退閉
17 六樫問答
〔1826〕
18 法城渡
〔1827〕
19 旧場皈
〔1828〕
20 九官鳥
〔1829〕
21 大会合
〔1830〕
22 妖魅帰
〔1831〕
筑紫潟
余白歌
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> 第1篇 水波洋妖 > 第4章 銀杏姫
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第四章
銀杏姫
(
いてふひめ
)
〔一八一三〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第72巻 山河草木 亥の巻
篇:
第1篇 水波洋妖
よみ(新仮名遣い):
すいはようよう
章:
第4章 銀杏姫
よみ(新仮名遣い):
いちょうひめ
通し章番号:
1813
口述日:
1926(大正15)年06月29日(旧05月20日)
口述場所:
天之橋立なかや別館
筆録者:
加藤明子
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1929(昭和4)年4月3日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
杢助は船から飛び込んだ際、元の妖幻坊の正体をあらわし、獅子と虎のあいのこの恐ろしい姿となって、高姫を連れ、離れ島に漂着した。
妖幻坊は自分の姿の言い訳として、高姫を救うために魔術を使ったといってごまかす。
妖幻坊は、自分の姿が完全に元の妖怪に戻ってしまいそうになったので、高姫に隠れて変化の術を使おうと、竹やぶに飛び込んだ。
しかし、その竹やぶには恐ろしい蟻が住んでおり、たちまちに体中を噛み付かれて苦しみ倒れてしまった。
高姫はそのありさまを見て驚くが、竹やぶの後ろの大銀杏の祠に男女がいるのを目ざとく見つけ、彼らの着衣と船を失敬して妖幻坊を助け出そうとする。
二人の男女、フクエと岸子は、家の事情で仲を裂かれそうになり、銀杏の神のご利益を頼ってお参りにきていたのであった。
高姫は銀杏の女神の声色を使って二人をだまし、着物を献上させた上、竹やぶに飛び込んで妖幻坊を救うように仕向ける。
妖幻坊と高姫は、蟻に責められる二人を捨て置いて、さっさと逃げてしまう。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
八島の主(八島主)
データ凡例:
データ最終更新日:
2020-05-28 09:23:49
OBC :
rm7204
愛善世界社版:
42頁
八幡書店版:
第12輯 620頁
修補版:
校定版:
44頁
普及版:
14頁
初版:
ページ備考:
001
杢助
(
もくすけ
)
に
化
(
ば
)
けた
妖幻坊
(
えうげんばう
)
及
(
およ
)
び
千草
(
ちぐさ
)
の
高姫
(
たかひめ
)
は
002
高砂丸
(
たかさごまる
)
の
破壊
(
はくわい
)
沈没
(
ちんぼつ
)
に
命
(
いのち
)
許
(
ばか
)
りは
助
(
たす
)
からむものと、
003
両人
(
りやうにん
)
共
(
とも
)
手早
(
てばや
)
く
着衣
(
ちやくい
)
を
脱
(
ぬ
)
ぎすて、
004
真裸体
(
まつぱだか
)
となつて
海中
(
かいちう
)
に
飛
(
と
)
び
込
(
こ
)
んだ
際
(
さい
)
、
005
妖幻坊
(
えうげんばう
)
は
全
(
まつた
)
く
元
(
もと
)
の
正体
(
しやうたい
)
を
現
(
あら
)
はし
006
獅子
(
しし
)
と
虎
(
とら
)
との
混血児
(
あひのこ
)
たる
怖
(
おそ
)
ろしき
姿
(
すがた
)
となつて
了
(
しま
)
つた。
007
高姫
(
たかひめ
)
も
真裸体
(
まつぱだか
)
となつて
毛
(
け
)
だらけの
妖幻坊
(
えうげんばう
)
の
首
(
くび
)
に
喰
(
くら
)
ひつき、
008
浪
(
なみ
)
のままに
漂
(
ただよ
)
ひ
乍
(
なが
)
ら
老木
(
らうぼく
)
茂
(
しげ
)
れる
一
(
ひと
)
つの
離
(
はな
)
れ
島
(
じま
)
に
漂着
(
へうちやく
)
した。
009
高姫
(
たかひめ
)
はホツト
一息
(
ひといき
)
し
乍
(
なが
)
ら、
010
『アヽこれ
杢助
(
もくすけ
)
さま、
011
大変
(
たいへん
)
な
暴風雨
(
しけ
)
に
遭
(
あ
)
ひ、
012
妾
(
わたし
)
はもう
命
(
いのち
)
が
無
(
な
)
くなるかと
思
(
おも
)
つて
居
(
ゐ
)
ましたのに、
013
お
前
(
まへ
)
さまの
変身
(
へんしん
)
の
術
(
じゆつ
)
で
此
(
こ
)
の
荒湖
(
あらうみ
)
を
乗切
(
のりき
)
り、
014
お
蔭
(
かげ
)
で
命
(
いのち
)
が
助
(
たす
)
かりました。
015
何
(
なん
)
とマア
貴方
(
あなた
)
は
偉
(
えら
)
い
隠
(
かく
)
し
芸
(
げい
)
をもつて
居
(
ゐ
)
らつしやるのですねえ』
016
妖幻坊
(
えうげんばう
)
は
高姫
(
たかひめ
)
に
正体
(
しやうたい
)
を
見附
(
みつ
)
けられ、
017
大変
(
たいへん
)
に
心
(
こころ
)
を
痛
(
いた
)
め、
018
如何
(
どう
)
云
(
い
)
ひ
訳
(
わけ
)
をして
胡魔化
(
ごまくわ
)
さうかと
思
(
おも
)
つて
居
(
ゐ
)
た
矢先
(
やさき
)
、
019
高姫
(
たかひめ
)
の
方
(
はう
)
から
却
(
かへ
)
つて
感賞
(
かんしやう
)
の
言葉
(
ことば
)
を
受
(
う
)
け、
020
心
(
こころ
)
の
底
(
そこ
)
から
善意
(
ぜんい
)
に
解
(
かい
)
して
居
(
ゐ
)
る
事
(
こと
)
を
悟
(
さと
)
つたので、
021
わざと
得意
(
とくい
)
の
面
(
つら
)
をしやくり
乍
(
なが
)
ら、
022
『オイ、
023
千草
(
ちぐさ
)
の
高姫
(
たかひめ
)
、
024
俺
(
おれ
)
の
魔術
(
まじゆつ
)
は
偉
(
えら
)
いものだらうがな、
025
まさかの
時
(
とき
)
になれば
獅子
(
しし
)
とも
虎
(
とら
)
とも
分
(
わか
)
らぬ
斯
(
か
)
ういふ
怪体
(
けつたい
)
な
形相
(
ぎやうさう
)
に
変化
(
へんげ
)
するのだもの、
026
天下
(
てんか
)
に
怖
(
おそ
)
れるもの
一
(
ひと
)
つも
無
(
な
)
しだ。
027
俺
(
おれ
)
も
斯
(
か
)
う
云
(
い
)
ふ
美人
(
びじん
)
を
女房
(
にようばう
)
にして
居
(
ゐ
)
る
以上
(
いじやう
)
は、
028
一
(
ひと
)
つの
不思議
(
ふしぎ
)
な
妙術
(
めうじゆつ
)
を
使
(
つか
)
つてお
前
(
まへ
)
の
信用
(
しんよう
)
を
得
(
え
)
ておかないと、
029
何時
(
いつ
)
東助
(
とうすけ
)
の
野郎
(
やらう
)
に
鞍替
(
くらがへ
)
せらるるか
分
(
わか
)
らない
危険
(
きけん
)
区域
(
くゐき
)
に
置
(
お
)
かれて
居
(
ゐ
)
るのだから、
030
お
前
(
まへ
)
を
助
(
たす
)
ける
為
(
ため
)
に
斯
(
か
)
う
云
(
い
)
ふ
醜
(
みにく
)
い
肉体
(
にくたい
)
に
変化
(
へんげ
)
して
031
千草
(
ちぐさ
)
の
高姫
(
たかひめ
)
女帝
(
によてい
)
に
忠勤
(
ちうきん
)
を
励
(
はげ
)
んで
見
(
み
)
たのだよ、
032
アハヽヽヽ』
033
高姫
(
たかひめ
)
『アタ
憎
(
にく
)
らしい
杢助
(
もくすけ
)
さまだこと、
034
二
(
ふた
)
つ
目
(
め
)
には
東別
(
あづまのわけ
)
だの
東助
(
とうすけ
)
だのと、
035
そんな
旧
(
ふる
)
めかしい
話
(
はなし
)
は
止
(
や
)
めて
貰
(
もら
)
ひませうかい。
036
東助
(
とうすけ
)
なんて
淡路
(
あはぢ
)
の
洲本
(
すもと
)
で
船頭稼
(
せんどうかせ
)
ぎをやつて
居
(
を
)
つた、
037
渋紙面
(
しぶかみづら
)
をして
色
(
いろ
)
の
黒
(
くろ
)
い
独活
(
うど
)
の
大木
(
たいぼく
)
みたよな
体見倒
(
がらみだふ
)
しですよ。
038
何一
(
なにひと
)
つ
離
(
はな
)
れ
業
(
わざ
)
を
知
(
し
)
つて
居
(
ゐ
)
ると
云
(
い
)
ふでもなし、
039
八島
(
やしま
)
の
主
(
ぬし
)
[
※
初版・愛世版では「八島の別」だが、校定版では「八島の主」になっている。ここではイソ館の教主である八島主のことを指している。
]
のお
鬚
(
ひげ
)
の
塵
(
ちり
)
を
払
(
はら
)
ひ、
040
お
尻
(
しり
)
の
臭
(
にほひ
)
を
嗅
(
か
)
いで
喜
(
よろこ
)
んで
居
(
ゐ
)
るやうな
代物
(
しろもの
)
は、
041
仮令
(
たとへ
)
十千万
(
とちまん
)
両
(
りやう
)
の
金
(
かね
)
を
積
(
つ
)
んで
倒
(
さかさ
)
になつて
歩
(
ある
)
いて
見
(
み
)
せても
靡
(
なび
)
く
千草
(
ちぐさ
)
の
高姫
(
たかひめ
)
ぢやありませぬよ。
042
東助
(
とうすけ
)
なんて
云
(
い
)
ふのは
勿体
(
もつたい
)
ない、
043
彼奴
(
あいつ
)
は
豆腐
(
とうふ
)
の
助
(
すけ
)
で
結構
(
けつこう
)
だ。
044
此
(
この
)
高姫
(
たかひめ
)
の
指
(
ゆび
)
一本
(
いつぽん
)
で、
045
潰
(
つぶ
)
さうと
破
(
めが
)
うと
自由
(
じいう
)
自在
(
じざい
)
ですもの、
046
オホヽヽヽ』
047
妖
(
えう
)
『これ
高
(
たか
)
チヤン、
048
随分
(
ずいぶん
)
法螺
(
ほら
)
を
吹
(
ふ
)
くぢやないか、
049
斎苑
(
いそ
)
の
館
(
やかた
)
で
東助
(
とうすけ
)
に
肱鉄砲
(
ひぢてつぱう
)
を
打
(
う
)
ち
出
(
だ
)
され
脆
(
もろ
)
くも
敗北
(
はいぼく
)
し、
050
泣
(
な
)
く
泣
(
な
)
く
河鹿
(
かじか
)
峠
(
たうげ
)
を
渡
(
わた
)
つて
祠
(
ほこら
)
の
森
(
もり
)
に
逃
(
に
)
げ
込
(
こ
)
み、
051
世
(
よ
)
を
果無
(
はかな
)
むで
燻
(
くす
)
ぼつて
居
(
ゐ
)
たぢやないか、
052
些
(
ちつ
)
と
頬桁
(
ほほげた
)
が
過
(
す
)
ぎるぞや』
053
高
(
たか
)
『
頬下駄
(
ほほげた
)
を
履
(
は
)
くのは
呆助
(
はうすけ
)
位
(
くらゐ
)
が
適当
(
てきたう
)
ですよ。
054
いや
朴下駄
(
ほほげた
)
でも
東助
(
とうすけ
)
なら
過
(
す
)
ぎて
居
(
ゐ
)
る、
055
この
千草
(
ちぐさ
)
の
高姫
(
たかひめ
)
はトルマン
国
(
ごく
)
の
女帝
(
によてい
)
だから、
056
桐
(
きり
)
の
下駄
(
げた
)
か
伽羅
(
きやら
)
の
下駄
(
げた
)
が
性
(
しやう
)
に
合
(
あ
)
つて
居
(
ゐ
)
るのですよ。
057
ヘン、
058
朴下駄
(
ほほげた
)
が
過
(
す
)
ぎるなんて
余
(
あま
)
り
人
(
ひと
)
を
軽蔑
(
けいべつ
)
して
貰
(
もら
)
ひますまいかい』
059
妖
(
えう
)
『オイオイ
高
(
たか
)
チヤン、
060
さう
履
(
は
)
き
違
(
ちがひ
)
をして
貰
(
もら
)
つては
聊
(
いささ
)
か
迷惑
(
めいわく
)
だ。
061
話
(
はなし
)
が
脱線
(
だつせん
)
して
仕舞
(
しま
)
つたよ、
062
ほうげた
が
過
(
す
)
ぎると
云
(
い
)
つたのはお
前
(
まへ
)
の
口
(
くち
)
が
過
(
す
)
ぎると
云
(
い
)
つたのだ』
063
高
(
たか
)
『ヘン、
064
口
(
くち
)
が
過
(
す
)
ぎるなんて
馬鹿
(
ばか
)
にしなさるな、
065
妾
(
わたし
)
だつて
口
(
くち
)
すぎ
位
(
くらゐ
)
は
立派
(
りつぱ
)
に
致
(
いた
)
しますよ、
066
男
(
をとこ
)
の
一匹
(
いつぴき
)
や
二匹
(
にひき
)
位
(
くらゐ
)
遊
(
あそ
)
ばして
養
(
やしな
)
つてやりますワ』
067
妖
(
えう
)
『アハヽヽヽ、
068
益々
(
ますます
)
分
(
わか
)
らぬぢやないか』
069
高
(
たか
)
『
益々
(
ますます
)
分
(
わか
)
らぬの、
070
別
(
わか
)
れぬのと、
071
それや
何
(
なに
)
を
云
(
い
)
ふのですか、
072
お
前
(
まへ
)
さまは
此
(
この
)
高姫
(
たかひめ
)
に
別
(
わか
)
れようと
思
(
おも
)
つてゐらつしやるのでせう。
073
盛装
(
せいさう
)
を
凝
(
こ
)
らし
髪
(
かみ
)
を
立派
(
りつぱ
)
に
結
(
ゆ
)
つて
074
お
白粉
(
しろい
)
でもつけて
居
(
ゐ
)
た
姿
(
すがた
)
を
見
(
み
)
て、
075
お
前
(
まへ
)
さまは
岡惚
(
をかぼれ
)
をやつて
居
(
ゐ
)
たのだらう。
076
斯
(
か
)
う
難船
(
なんせん
)
して
保護色
(
ほごしよく
)
の
衣類
(
きもの
)
は
浪
(
なみ
)
に
攫
(
さら
)
はれ、
077
髪
(
かみ
)
はサンバラに
乱
(
みだ
)
れ、
078
要塞
(
えうさい
)
地帯
(
ちたい
)
が
丸出
(
まるだ
)
しになつた
姿
(
すがた
)
を
見
(
み
)
て
愛想
(
あいそ
)
が
尽
(
つ
)
きたのでせう。
079
ヘン、
080
これでも、
081
(
都々逸
(
どどいつ
)
)お
前
(
まへ
)
嫌
(
いや
)
でも
又
(
また
)
好
(
す
)
く
人
(
ひと
)
が
082
無
(
な
)
けれや
妾
(
わたし
)
の
身
(
み
)
が
立
(
た
)
たぬ
083
と
云
(
い
)
ふ
俗謡
(
ぞくえう
)
の
通
(
とほ
)
り
084
男
(
をとこ
)
のすたり
物
(
もの
)
はあつても
女
(
をんな
)
のすたり
物
(
もの
)
は
三千
(
さんぜん
)
世界
(
せかい
)
何処
(
どこ
)
を
探
(
さが
)
しても
滅多
(
めつた
)
に
有
(
あ
)
りませぬぞや。
085
ヘン、
086
嫌
(
いや
)
なら
嫌
(
いや
)
ときつぱりと
言
(
い
)
つて
下
(
くだ
)
さい、
087
此方
(
こつち
)
にも
考
(
かんが
)
へがありますからな』
088
妖
(
えう
)
『アヽ
益々
(
ますます
)
困
(
こま
)
つた
事
(
こと
)
を
云
(
い
)
ふぢやないか、
089
ハハー
分
(
わか
)
つた!
読
(
よ
)
めた! この
杢助
(
もくすけ
)
が
妖術
(
えうじゆつ
)
を
使
(
つか
)
ひ
過
(
す
)
ぎ、
090
斯
(
こ
)
んな
姿
(
すがた
)
に
化
(
ば
)
けた
姿
(
すがた
)
が
女帝
(
によてい
)
のお
目
(
め
)
に
留
(
とま
)
り、
091
秋風
(
あきかぜ
)
が
吹
(
ふ
)
いたのだな、
092
よし、
093
それならそれで
此
(
この
)
方
(
はう
)
にも
考
(
かんが
)
へる
余地
(
よち
)
は
十分
(
じふぶん
)
にある
筈
(
はず
)
だ』
094
高
(
たか
)
『
又
(
また
)
しても、
095
お
前
(
まへ
)
さまは
妾
(
わたし
)
を
術
(
じゆつ
)
無
(
な
)
がらすのかいなア、
096
エヽ
腹
(
はら
)
の
悪
(
わる
)
い
人
(
ひと
)
だこと、
097
そしてあの
曲輪
(
まがわ
)
の
玉
(
たま
)
は
如何
(
どう
)
なさいましたか。
098
よもや
湖
(
うみ
)
に
落
(
おと
)
しはなされますまいなア』
099
妖
(
えう
)
『ウン、
100
それや
心配
(
しんぱい
)
すな、
101
湖
(
うみ
)
に
飛
(
と
)
び
込
(
こ
)
む
際
(
さい
)
腹
(
はら
)
の
中
(
なか
)
へ
呑
(
の
)
み
込
(
こ
)
んでおいたから
大丈夫
(
だいぢやうぶ
)
だ』
102
高
(
たか
)
『マアマア
呑
(
の
)
み
込
(
こ
)
んだのですか、
103
ヘーン、
104
何故
(
なぜ
)
妾
(
わたし
)
に
呑
(
の
)
まして
下
(
くだ
)
さらないの、
105
本当
(
ほんたう
)
に
貴方
(
あなた
)
は
水臭
(
みづくさ
)
いお
方
(
かた
)
だワ』
106
妖
(
えう
)
『お
前
(
まへ
)
に
呑
(
の
)
ましたいは
山々
(
やまやま
)
だが、
107
咄嗟
(
とつさ
)
の
場合
(
ばあひ
)
、
108
そんな
余裕
(
よゆう
)
があつて
堪
(
たま
)
らうかい、
109
失礼
(
しつれい
)
乍
(
なが
)
ら
杢助
(
もくすけ
)
の
高天原
(
たかあまはら
)
にチヤンと
納
(
をさ
)
めておいたから、
110
何時
(
いつ
)
か
又
(
また
)
吐
(
は
)
き
出
(
だ
)
す
時
(
とき
)
があるであらう、
111
さう
心配
(
しんぱい
)
はするに
及
(
およ
)
ばないよ』
112
高
(
たか
)
『
成程
(
なるほど
)
、
113
抜目
(
ぬけめ
)
のない
杢助
(
もくすけ
)
さまだこと、
114
それでこそ
高姫
(
たかひめ
)
が
最愛
(
さいあい
)
の
夫
(
をつと
)
、
115
末代
(
まつだい
)
迄
(
まで
)
の
旦那
(
だんな
)
様
(
さま
)
だワ。
116
併
(
しか
)
し
杢助
(
もくすけ
)
さま、
117
此
(
この
)
島
(
しま
)
に
着
(
つ
)
くは
着
(
つ
)
いたが、
118
斯
(
か
)
う
裸
(
はだか
)
では
道中
(
だうちう
)
も
出来
(
でき
)
ないし、
119
曲輪
(
まがわ
)
の
法
(
はふ
)
でも
使
(
つか
)
つて
立派
(
りつぱ
)
な
着物
(
きもの
)
を
一
(
いち
)
枚
(
まい
)
拵
(
こしら
)
へて
下
(
くだ
)
さる
訳
(
わけ
)
には
行
(
ゆ
)
きますまいかなア。
120
貴方
(
あなた
)
だつてさう
毛
(
け
)
だらけの
変化姿
(
へんげすがた
)
では
人中
(
ひとなか
)
へも
出
(
で
)
られますまい』
121
妖
(
えう
)
『
成程
(
なるほど
)
、
122
お
前
(
まへ
)
の
云
(
い
)
ふ
通
(
とほ
)
りだ、
123
俺
(
おれ
)
の
聞
(
き
)
く
通
(
とほ
)
りだ。
124
雨蛙
(
あまがへる
)
が
木
(
き
)
に
止
(
と
)
まつて
鳴
(
な
)
く
通
(
とほ
)
りだ、
125
書
(
か
)
き
出
(
だ
)
しは
右
(
みぎ
)
の
通
(
とほ
)
りだ。
126
俺
(
おれ
)
も
此
(
この
)
通
(
とほ
)
りだ、
127
両手
(
りやうて
)
を
土
(
つち
)
について
正
(
まさ
)
に
高姫
(
たかひめ
)
の
君
(
きみ
)
に
謝
(
あやま
)
り
参
(
まゐ
)
らする
通
(
とほ
)
りだ。
128
アハヽヽヽ』
129
高
(
たか
)
『これ
杢
(
もく
)
チヤン、
130
笑
(
わら
)
うて
居
(
ゐ
)
る
場合
(
ばあひ
)
ぢやありませぬよ。
131
何
(
なに
)
程
(
ほど
)
春
(
はる
)
ぢやと
云
(
い
)
つても
斯
(
か
)
う
寒
(
さむ
)
くつては、
132
やりきれないぢやありませぬか、
133
何
(
なん
)
とか
工夫
(
くふう
)
が
御座
(
ござ
)
いますまいかなア』
134
妖
(
えう
)
『ヤア、
135
此処
(
ここ
)
に
船
(
ふね
)
が
一艘
(
いつそう
)
繋
(
つな
)
いである。
136
これから
考
(
かんが
)
へると、
137
誰
(
たれ
)
か
此
(
この
)
島
(
しま
)
に
上陸
(
じやうりく
)
して
居
(
ゐ
)
る
人間
(
にんげん
)
がある
筈
(
はず
)
だ。
138
一
(
ひと
)
つ
其奴
(
そいつ
)
の
皮
(
かは
)
を
剥
(
む
)
いて、
139
お
前
(
まへ
)
と
俺
(
おれ
)
とが
身
(
み
)
に
纒
(
まと
)
ふ
事
(
こと
)
とせうでは
無
(
な
)
いか』
140
高
(
たか
)
『
全然
(
まるつき
)
り
追剥
(
おひはぎ
)
のやうな
事
(
こと
)
をするのですか、
141
それでは
時置師
(
ときおかし
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
とは
言
(
い
)
はれますまい。
142
妾
(
わたし
)
だつて
何
(
なに
)
程
(
ほど
)
寒
(
さむ
)
くつても
泥棒
(
どろばう
)
した
衣類
(
きもの
)
を
身
(
み
)
に
纒
(
まと
)
ふ
事
(
こと
)
は
嫌
(
いや
)
です。
143
そんな
事
(
こと
)
をすれや
日出
(
ひのでの
)
神
(
かみ
)
の
神格
(
しんかく
)
が
薩張
(
さつぱり
)
地
(
ち
)
に
落
(
お
)
ちて
仕舞
(
しま
)
ひますワ』
144
妖
(
えう
)
『てもさても
馬鹿
(
ばか
)
正直
(
しやうぢき
)
な
女帝
(
によてい
)
様
(
さま
)
だなア。
145
昔
(
むかし
)
から
譬
(
たとへ
)
にも
背
(
せ
)
に
腹
(
はら
)
は
替
(
か
)
へられぬと
云
(
い
)
ふぢやないか。
146
大善
(
だいぜん
)
をなさむとすれば、
147
小悪
(
せうあく
)
は
時
(
とき
)
と
場合
(
ばあひ
)
により
止
(
や
)
むを
得
(
え
)
ないだらうよ。
148
アヽ
寒
(
さむ
)
い
寒
(
さむ
)
い、
149
斯
(
か
)
う
俄
(
にはか
)
に
強
(
きつ
)
い
風
(
かぜ
)
が
吹
(
ふ
)
いて
来
(
き
)
ては、
150
俺
(
おれ
)
も
耐
(
たま
)
らない。
151
何処
(
どこ
)
かに
好
(
よ
)
い
竹藪
(
たけやぶ
)
でもあれば、
152
すつこんで
風
(
かぜ
)
を
避
(
さ
)
けたいものだ』
153
と
云
(
い
)
ひ
乍
(
なが
)
ら、
154
「
高姫
(
たかひめ
)
続
(
つづ
)
け」と
一声
(
ひとこゑ
)
残
(
のこ
)
し、
155
篠竹
(
しのだけ
)
のシヨボシヨボと
生
(
は
)
えて
居
(
ゐ
)
る
竹藪
(
たけやぶ
)
の
中
(
なか
)
に
身
(
み
)
を
隠
(
かく
)
して
仕舞
(
しま
)
つた。
156
其
(
その
)
実
(
じつ
)
漸
(
やうや
)
くに
顔
(
かほ
)
だけ
人間
(
にんげん
)
らしく
化
(
ばけ
)
て
居
(
ゐ
)
るものの、
157
身
(
み
)
に
一片
(
いつぺん
)
の
布片
(
ふへん
)
も
纒
(
まと
)
つて
居
(
ゐ
)
ないので
苦
(
くる
)
しくつて
耐
(
たま
)
らず、
158
顔
(
かほ
)
までが
元
(
もと
)
の
妖怪
(
えうくわい
)
に
還元
(
くわんげん
)
しさうなので、
159
そんなエグイ
面
(
つら
)
を
見
(
み
)
せては、
160
流石
(
さすが
)
の
高姫
(
たかひめ
)
も
愛想
(
あいそ
)
をつかすだらうと
思
(
おも
)
ひ、
161
この
竹藪
(
たけやぶ
)
に
飛
(
と
)
び
込
(
こ
)
み
第二
(
だいに
)
の
変化術
(
へんげじゆつ
)
を
施
(
ほどこ
)
す
為
(
た
)
めであつた。
162
此
(
この
)
藪
(
やぶ
)
は
百
(
ひやく
)
坪
(
つぼ
)
許
(
ばか
)
りの
面積
(
めんせき
)
があつて、
163
其
(
その
)
中
(
なか
)
へ
入
(
い
)
るや
否
(
いな
)
や
忽
(
たちま
)
ち
白胡麻
(
しろごま
)
のやうな
蟻
(
あり
)
の
群
(
むれ
)
が
数知
(
かずし
)
れず
登
(
のぼ
)
りつき、
164
如何
(
いか
)
なる
人間
(
にんげん
)
と
雖
(
いへど
)
も
身体中
(
からだぢう
)
を
噛
(
か
)
み
破
(
やぶ
)
り、
165
忽
(
たちま
)
ち
身体
(
からだ
)
は
腫
(
はれ
)
上
(
あが
)
り
痛痒
(
いたかゆ
)
うて
耐
(
たま
)
らない。
166
さうこうして
居
(
ゐ
)
る
中
(
うち
)
に、
167
足
(
あし
)
の
一
(
いつ
)
尺
(
しやく
)
もある
怪
(
あや
)
しい
蜘蛛
(
くも
)
が
幾万
(
いくまん
)
ともなくやつて
来
(
き
)
て
尻
(
しり
)
から
粘着性
(
ねんちやくせい
)
の
強
(
つよ
)
い
糸
(
いと
)
を
出
(
だ
)
し、
168
身体
(
からだ
)
をぎりぎり
巻
(
まき
)
にして
仕舞
(
しま
)
ふと
云
(
い
)
ふ
怖
(
おそ
)
ろしい
魔
(
ま
)
の
森
(
もり
)
である。
169
それとも
知
(
し
)
らず
妖幻坊
(
えうげんばう
)
が
飛
(
と
)
び
込
(
こ
)
んだのだから
耐
(
たま
)
らない。
170
荒
(
あら
)
くたい
毛
(
け
)
の
間
(
あひだ
)
に
幾万
(
いくまん
)
とも
知
(
し
)
れない
蟻
(
あり
)
が
噛
(
か
)
みつく
痛
(
いた
)
さ、
171
遉
(
さすが
)
の
妖幻坊
(
えうげんばう
)
も
悲鳴
(
ひめい
)
をあげて
虎
(
とら
)
の
唸
(
うな
)
るやうな
呻吟声
(
うめきごゑ
)
で
高姫
(
たかひめ
)
の
救
(
すく
)
ひを
求
(
もと
)
めて
居
(
ゐ
)
る。
172
高姫
(
たかひめ
)
は
其
(
その
)
声
(
こゑ
)
を
聞
(
き
)
きつけて
藪
(
やぶ
)
の
傍
(
そば
)
に
立
(
た
)
ち
寄
(
よ
)
り
中
(
なか
)
を
覗
(
のぞ
)
いて
見
(
み
)
れば、
173
妖幻坊
(
えうげんばう
)
は
蟻
(
あり
)
に
責
(
せ
)
められ
七転
(
しちてん
)
八倒
(
はつたう
)
の
苦
(
くる
)
しみの
真最中
(
まつさいちう
)
であつた。
174
高姫
(
たかひめ
)
は
気
(
き
)
も
転倒
(
てんたう
)
せむ
許
(
ばか
)
り
打
(
う
)
ち
驚
(
おどろ
)
き
乍
(
なが
)
ら
竹藪
(
たけやぶ
)
の
後
(
うしろ
)
の
方
(
はう
)
に
廻
(
まは
)
つて
見
(
み
)
ると、
175
一寸
(
ちよつと
)
小高
(
こだか
)
い
塚
(
つか
)
が
在
(
あ
)
つて、
176
其
(
その
)
上
(
うへ
)
に
周囲
(
しうゐ
)
三丈
(
さんぢやう
)
もある
大銀杏
(
おほいてふ
)
が
天
(
てん
)
を
摩
(
ま
)
して
立
(
た
)
つて
居
(
ゐ
)
る。
177
銀杏
(
いてふ
)
の
根本
(
ねもと
)
には
小
(
ちひ
)
さい
祠
(
ほこら
)
が
立
(
た
)
つて
居
(
ゐ
)
て、
178
若
(
わか
)
い
男女
(
だんぢよ
)
が
何事
(
なにごと
)
か
欷
(
すすりな
)
きしながら
祈
(
いの
)
つて
居
(
ゐ
)
た。
179
抜
(
ぬ
)
け
目
(
め
)
のない
高姫
(
たかひめ
)
は、
180
早
(
はや
)
くも
男女
(
だんぢよ
)
二人
(
ふたり
)
の
着衣
(
ちやくい
)
を
失敬
(
しつけい
)
して
東助
(
とうすけ
)
の
難
(
なん
)
を
救
(
すく
)
ひ
自分
(
じぶん
)
も
着用
(
ちやくよう
)
せむものと、
181
銀杏
(
いてふ
)
の
木
(
き
)
の
後
(
うしろ
)
に
隠
(
かく
)
れて
両人
(
りやうにん
)
の
話
(
はなし
)
を
聞
(
き
)
いて
居
(
ゐ
)
た。
182
女
(
をんな
)
『もしフクエさま、
183
どう
致
(
いた
)
しませう。
184
何
(
なに
)
程
(
ほど
)
貴方
(
あなた
)
と
妾
(
わたし
)
と
恋
(
こひ
)
におちて
悩
(
なや
)
んで
居
(
ゐ
)
ましても、
185
強欲
(
がうよく
)
な
継母
(
ままはは
)
が、
186
貴方
(
あなた
)
との
恋
(
こひ
)
を
許
(
ゆる
)
して
呉
(
く
)
れないのですもの。
187
スガの
港
(
みなと
)
の
呉服屋
(
ごふくや
)
へ
嫁
(
よめ
)
に
行
(
ゆ
)
けと、
188
煙管
(
きせる
)
で
畳
(
たたみ
)
を
叩
(
たた
)
いての
日夜
(
にちや
)
の
折檻
(
せつかん
)
、
189
生
(
うみ
)
の
両親
(
りやうしん
)
は
既
(
すで
)
にこの
世
(
よ
)
を
去
(
さ
)
り、
190
継母
(
けいぼ
)
の
手
(
て
)
に
育
(
そだ
)
てられた
妾
(
わたし
)
、
191
その
恩義
(
おんぎ
)
を
思
(
おも
)
へばどうして
恋
(
こひ
)
しい
貴方
(
あなた
)
と、
192
天下
(
てんか
)
晴
(
は
)
れて
添
(
そ
)
ふ
事
(
こと
)
が
出来
(
でき
)
ませう。
193
又
(
また
)
妾
(
わたし
)
の
家
(
いへ
)
はスガの
呉服屋
(
ごふくや
)
さまに
大変
(
たいへん
)
な
借金
(
しやくきん
)
があり、
194
それを
返
(
かへ
)
さなけれやなりませず、
195
返
(
かへ
)
す
金
(
かね
)
はなし、
196
母
(
はは
)
も
大変
(
たいへん
)
に
心配
(
しんぱい
)
致
(
いた
)
して
居
(
を
)
ります。
197
若
(
も
)
し
妾
(
わたし
)
の
縁談
(
えんだん
)
を
断
(
ことわ
)
りでもせうものなら、
198
恋
(
こひ
)
しきスガの
里
(
さと
)
に
住
(
す
)
む
事
(
こと
)
は
出来
(
でき
)
ませぬ。
199
だと
云
(
い
)
つて
貴方
(
あなた
)
を
思
(
おも
)
ひ
切
(
き
)
る
事
(
こと
)
は
如何
(
どう
)
しても
出来
(
でき
)
ませぬ、
200
何
(
なん
)
とか
此
(
こ
)
の
銀杏
(
いてふ
)
の
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
御
(
ご
)
利益
(
りやく
)
によつて
円満
(
ゑんまん
)
な
解決
(
かいけつ
)
をつけて
貰
(
もら
)
ひたいもので
御座
(
ござ
)
います』
201
と
又
(
また
)
もや
欷
(
すすりな
)
く。
202
フクエ『オイ
岸子
(
きしこ
)
、
203
さう
悲観
(
ひくわん
)
したものぢやない。
204
此
(
この
)
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
は
女神
(
めがみ
)
様
(
さま
)
だと
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
だから、
205
きつとお
前
(
まへ
)
に
同情
(
どうじやう
)
して
下
(
くだ
)
さるに
相違
(
さうゐ
)
ない。
206
私
(
わし
)
ぢやとて
未
(
ま
)
だ
主人持
(
しゆじんもち
)
の
身
(
み
)
の
上
(
うへ
)
、
207
どうする
事
(
こと
)
も
出来
(
でき
)
ぬみじめな
有様
(
ありさま
)
だが、
208
お
前
(
まへ
)
と
別
(
わか
)
れる
位
(
くらゐ
)
なら、
209
一層
(
いつそ
)
ハルの
湖
(
うみ
)
へ
身
(
み
)
を
投
(
な
)
げて
死
(
し
)
んだが
増
(
ま
)
しだよ』
210
岸子
(
きしこ
)
『
此
(
この
)
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
に
一切
(
いつさい
)
の
衣服
(
いふく
)
をお
供
(
そな
)
へすれば
211
屹度
(
きつと
)
願
(
ねがひ
)
を
叶
(
かな
)
へて
下
(
くだ
)
さると
云
(
い
)
ふぢやありませぬか、
212
上衣
(
うはぎ
)
だけなりとお
供
(
そな
)
へして
帰
(
かへ
)
りませうか』
213
フクエ『
成程
(
なるほど
)
214
上衣
(
うはぎ
)
の
一
(
いち
)
枚
(
まい
)
位
(
ぐらゐ
)
お
供
(
そな
)
へしたつて
別
(
べつ
)
に
苦
(
くる
)
しくはない』
215
斯
(
か
)
く
話
(
はな
)
す
折
(
をり
)
しも、
216
銀杏
(
いてふ
)
の
木蔭
(
こかげ
)
より、
217
優
(
やさ
)
しき
女
(
をんな
)
の
声
(
こゑ
)
、
218
女
(
をんな
)
『
妾
(
わらは
)
こそは、
219
銀杏姫
(
いてふひめ
)
の
命
(
みこと
)
で
御座
(
ござ
)
るぞや、
220
今
(
いま
)
より
千五百
(
せんごひやく
)
年
(
ねん
)
の
昔
(
むかし
)
、
221
恋男
(
こひをとこ
)
に
逢
(
あ
)
はむ
為
(
た
)
め
盥
(
たらひ
)
の
船
(
ふね
)
に
乗
(
の
)
つて、
222
この
離
(
はな
)
れ
島
(
じま
)
に
夜
(
よ
)
な
夜
(
よ
)
な
通
(
かよ
)
ひ、
223
折柄
(
をりから
)
の
暴風雨
(
しけ
)
に
遇
(
あ
)
ひ、
224
惜
(
を
)
しき
命
(
いのち
)
を
湖
(
うみ
)
の
藻屑
(
もくづ
)
となし、
225
其
(
その
)
精霊
(
せいれい
)
凝
(
こ
)
つて
茲
(
ここ
)
に
裸姫
(
はだかひめ
)
となり、
226
名
(
な
)
も
銀杏
(
いてふ
)
ケ
姫
(
ひめ
)
の
命
(
みこと
)
と
改
(
あらた
)
め、
227
衣類
(
いるゐ
)
一切
(
いつさい
)
を
吾
(
われ
)
に
献
(
けん
)
ずるものには、
228
如何
(
いか
)
なる
恋
(
こひ
)
も
叶
(
かな
)
へ
得
(
え
)
させむ
229
縁結
(
えんむす
)
びの
守護神
(
しゆごじん
)
であるぞや。
230
そち
達
(
たち
)
両人
(
りやうにん
)
の
恋
(
こひ
)
はこの
千草
(
ちぐさ
)
オツトドツコイ
銀杏姫
(
いてふひめ
)
の
命
(
みこと
)
が
請合
(
うけあ
)
うて
叶
(
かな
)
へてやらう
程
(
ほど
)
に、
231
衣類
(
いるゐ
)
一切
(
いつさい
)
を
此処
(
ここ
)
に
脱
(
ぬ
)
ぎ
捨
(
す
)
て、
232
其
(
その
)
上
(
うへ
)
この
魔
(
ま
)
の
藪
(
やぶ
)
に
飛
(
と
)
び
込
(
こ
)
んで、
233
悩
(
なや
)
める
一
(
ひと
)
つの
生物
(
いきもの
)
を
真裸
(
まつぱだか
)
の
儘
(
まま
)
救
(
すく
)
ひ
出
(
だ
)
せよ。
234
さすれば
其方
(
そち
)
の
願望
(
ぐわんまう
)
は
必
(
かなら
)
ず
必
(
かなら
)
ず
今日
(
こんにち
)
只今
(
ただいま
)
より
叶
(
かな
)
へて
遣
(
つかは
)
すぞや、
235
夢々
(
ゆめゆめ
)
疑
(
うたが
)
ふ
勿
(
なか
)
れ、
236
夢々
(
ゆめゆめ
)
疑
(
うたが
)
ふ
勿
(
なか
)
れ』
237
と
云
(
い
)
ふ
声
(
こゑ
)
は
千草
(
ちぐさ
)
の
高姫
(
たかひめ
)
である。
238
二人
(
ふたり
)
の
男女
(
だんぢよ
)
は
実
(
まこと
)
の
神
(
かみ
)
の
言葉
(
ことば
)
と
信
(
しん
)
じ、
239
両人
(
りやうにん
)
一度
(
いちど
)
に
惜気
(
をしげ
)
もなく、
240
下着
(
したぎ
)
迄
(
まで
)
残
(
のこ
)
らず
脱
(
ぬ
)
ぎ
捨
(
す
)
て
銀杏姫
(
いてふひめ
)
の
命
(
みこと
)
に
奉
(
たてまつ
)
り、
241
神勅
(
しんちよく
)
の
如
(
ごと
)
く
魔
(
ま
)
の
藪
(
やぶ
)
に
飛
(
と
)
び
込
(
こ
)
んで、
242
白蟻
(
しろあり
)
に
悩
(
なや
)
み
苦
(
くる
)
しめる
妖幻坊
(
えうげんばう
)
をやつとの
事
(
こと
)
で
引
(
ひ
)
き
出
(
だ
)
して
仕舞
(
しま
)
つた。
243
不思議
(
ふしぎ
)
にも
白蟻
(
しろあり
)
は
藪
(
やぶ
)
の
外
(
そと
)
一歩
(
いつぽ
)
出
(
い
)
づるや
否
(
いな
)
や、
244
一匹
(
いつぴき
)
も
残
(
のこ
)
らず、
245
身体
(
からだ
)
より
落
(
お
)
ちて
藪中
(
やぶなか
)
に
逸早
(
いちはや
)
く
姿
(
すがた
)
を
隠
(
かく
)
して
仕舞
(
しま
)
つた。
246
二人
(
ふたり
)
の
男女
(
だんぢよ
)
は
甘々
(
うまうま
)
と
高姫
(
たかひめ
)
の
計略
(
けいりやく
)
にかかり
真裸
(
まつぱだか
)
にせられ、
247
其
(
その
)
上
(
うへ
)
妖幻坊
(
えうげんばう
)
を
救
(
すく
)
ふべく
藪中
(
やぶなか
)
に
飛
(
と
)
び
込
(
こ
)
んだ
為
(
ため
)
、
248
身体
(
からだ
)
一面
(
いちめん
)
白蟻
(
しろあり
)
に
集
(
たか
)
られ
身動
(
みうご
)
きならず、
249
七転
(
しちてん
)
八倒
(
ばつたう
)
の
苦
(
くる
)
しみをして
居
(
ゐ
)
る。
250
高
(
たか
)
『ホヽヽヽヽ、
251
オイそこな
若
(
わか
)
い
二人
(
ふたり
)
の
呆
(
はう
)
け
共
(
ども
)
、
252
こなさまは
銀杏姫
(
いてふひめ
)
の
命
(
みこと
)
でも
何
(
なん
)
でもないんだよ。
253
よつく
耳
(
みみ
)
を
浚
(
さら
)
へて
聞
(
き
)
いておきや、
254
ウラナイ
教
(
けう
)
の
大教主
(
だいけうしゆ
)
千草
(
ちぐさ
)
の
高姫
(
たかひめ
)
さまだよ。
255
二人
(
ふたり
)
が
真裸
(
まつぱだか
)
で
白蟻
(
しろあり
)
に
噛
(
か
)
み
殺
(
ころ
)
されるのも
前世
(
ぜんせ
)
の
因縁
(
いんねん
)
だ。
256
その
代
(
かは
)
り
潔
(
いさぎよ
)
く
蟻
(
あり
)
共
(
ども
)
に
喰
(
く
)
つて
貰
(
もら
)
つて
死
(
し
)
になさい、
257
屹度
(
きつと
)
最奥
(
さいあう
)
第一
(
だいいち
)
の
天国
(
てんごく
)
に
258
此
(
こ
)
の
贋
(
にせ
)
の
銀杏姫
(
いてふひめ
)
に
衣類
(
きもの
)
を
献
(
けん
)
じた
徳
(
とく
)
によつて
救
(
すく
)
ひ
上
(
あ
)
げてやらぬ
事
(
こと
)
もないぞや、
259
……これ
杢
(
もく
)
チヤン、
260
何
(
なに
)
を
呆
(
とぼ
)
けて
居
(
ゐ
)
るのぢや、
261
確
(
しつか
)
りなさらぬかいな』
262
妖
(
えう
)
『ヤア
高姫
(
たかひめ
)
、
263
よう
助
(
たす
)
けて
呉
(
く
)
れた。
264
思
(
おも
)
はず
知
(
し
)
らず
魔
(
ま
)
の
森
(
もり
)
に
飛
(
と
)
び
込
(
こ
)
んで
一
(
ひと
)
つよりない
命
(
いのち
)
を
棒
(
ぼう
)
に
振
(
ふ
)
る
処
(
ところ
)
だつた。
265
お
前
(
まへ
)
の
縦横
(
じうわう
)
無尽
(
むじん
)
の
智略
(
ちりやく
)
によつて
此
(
こ
)
の
杢助
(
もくすけ
)
も
一命
(
いちめい
)
が
助
(
たす
)
かつたやうなものだ。
266
いや
感謝
(
かんしや
)
するよ』
267
高
(
たか
)
『ホヽヽヽヽ、
268
これ
杢
(
もく
)
チヤン、
269
曲輪
(
まがわ
)
の
玉
(
たま
)
の
神力
(
しんりき
)
は
如何
(
どう
)
なつたのですか、
270
まさか
白蟻
(
しろあり
)
の
奴
(
やつ
)
に
奪
(
と
)
られたのぢやありますまいなア。
271
神変
(
しんぺん
)
不思議
(
ふしぎ
)
の
妙術
(
めうじゆつ
)
を
使
(
つか
)
ふお
前
(
まへ
)
さまが、
272
蟻
(
あり
)
なんかにしてやられるとは、
273
些
(
ち
)
つと
均衡
(
つりあひ
)
が
取
(
と
)
れぬぢやありませぬか』
274
妖
(
えう
)
『
甘
(
あま
)
いものには
蟻
(
あり
)
が
集
(
たか
)
る、
275
辛
(
から
)
い
奴
(
やつ
)
には
蟻
(
あり
)
が
集
(
たか
)
らぬと
云
(
い
)
ふぢやないか。
276
兎
(
と
)
に
角
(
かく
)
俺
(
おれ
)
は
人間
(
にんげん
)
としては
最上等
(
さいじやうとう
)
だ、
277
さうして
女
(
をんな
)
に
甘
(
あま
)
いだらう。
278
血液
(
けつえき
)
も
人一倍
(
ひといちばい
)
甘
(
あま
)
いなり、
279
何分
(
なにぶん
)
身魂
(
みたま
)
が
勝
(
すぐ
)
れて
良
(
よ
)
いものだから
蟻
(
あり
)
の
奴
(
やつ
)
、
280
有難
(
ありがた
)
がつて
吸
(
す
)
いついたら
離
(
はな
)
れぬのだよ。
281
お
前
(
まへ
)
だつて
俺
(
おれ
)
に
吸
(
す
)
ひついたら
容易
(
ようい
)
に
放
(
はな
)
して
呉
(
く
)
れまいがな』
282
高
(
たか
)
『
成程
(
なるほど
)
、
283
道理
(
だうり
)
を
聞
(
き
)
けば
御尤
(
ごもつと
)
も
千万
(
せんばん
)
、
284
迂
(
う
)
つかり
杢
(
もく
)
チヤンは、
285
これから
蟻
(
あり
)
の
居
(
ゐ
)
る
所
(
ところ
)
へは
行
(
い
)
つて
貰
(
もら
)
はないやうにせねばなりませぬワ。
286
妾
(
わたし
)
だつて
287
きつと
蟻
(
あり
)
につかれる
体
(
からだ
)
に
違
(
ちが
)
ひありませぬからなア』
288
妖
(
えう
)
『それやさうかも
知
(
し
)
れぬ、
289
いつも
喋々
(
てふてふ
)
喃々
(
なんなん
)
と
甘
(
あま
)
い
囁
(
ささや
)
きを
聞
(
き
)
かして
呉
(
く
)
れるからなアー。
290
併
(
しか
)
し
俺
(
おれ
)
を
救
(
たす
)
けて
呉
(
く
)
れた
二人
(
ふたり
)
の
男女
(
だんぢよ
)
は
可愛
(
かあい
)
さうだから
助
(
たす
)
けてやらうぢやないか。
291
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
うても
俺
(
おれ
)
の
命
(
いのち
)
の
親
(
おや
)
だからのう』
292
高
(
たか
)
『
杢
(
もく
)
チヤン、
293
それや
何
(
なに
)
を
云
(
い
)
ふのですか、
294
お
前
(
まへ
)
さまの
正体
(
しやうたい
)
を
見附
(
みつ
)
けられた
以上
(
いじやう
)
、
295
こんな
者
(
もの
)
を
置
(
お
)
いては
後日
(
ごじつ
)
の
妨
(
さまたげ
)
になるぢやありませぬか。
296
あの
通
(
とほ
)
り
蟻
(
あり
)
に
喰
(
く
)
はしておけば、
2961
別
(
べつ
)
に
人殺
(
ひとごろし
)
の
罪
(
つみ
)
にもならず、
297
蟻
(
あり
)
は
喜
(
よろこ
)
んで
腹
(
はら
)
を
膨
(
ふく
)
らすなり、
298
蟻
(
あり
)
の
為
(
た
)
めには
吾々
(
われわれ
)
は
救世主
(
きうせいしゆ
)
ですよ。
299
蟻
(
あり
)
だつて
人間
(
にんげん
)
だつて
同
(
おな
)
じ
事
(
こと
)
ですよ、
300
たつた
人間
(
にんげん
)
二人
(
ふたり
)
の
命
(
いのち
)
の
代
(
かは
)
りに
数百万
(
すうひやくまん
)
の
蟻
(
あり
)
の
命
(
いのち
)
を
救
(
すく
)
へば、
301
何程
(
いくら
)
功徳
(
くどく
)
になるか
知
(
し
)
れませぬよ。
302
そんな
宋襄
(
そうじやう
)
の
仁
(
じん
)
はおよしなさい。
303
折角
(
せつかく
)
喜
(
よろこ
)
んで
居
(
ゐ
)
た
蟻
(
あり
)
が
困
(
こま
)
りますよ。
304
サアサア
二人
(
ふたり
)
の
衣類
(
きもの
)
も
胡魔化
(
ごまくわ
)
して
剥
(
む
)
いたから、
305
貴方
(
あなた
)
は
男
(
をとこ
)
の
方
(
はう
)
をお
着
(
つ
)
けなさい。
306
妾
(
わたし
)
は
嫌
(
いや
)
だけれど
阿魔女
(
あまつちよ
)
の
方
(
はう
)
を
暫時
(
ざんじ
)
着
(
き
)
てやりますワ、
307
何
(
なん
)
と
智慧
(
ちゑ
)
程
(
ほど
)
世
(
よ
)
に
尊
(
たふと
)
いものがあらうか、
308
杢助
(
もくすけ
)
さま、
309
千草
(
ちぐさ
)
の
高姫
(
たかひめ
)
の
器量
(
きりやう
)
はちと
分
(
わか
)
りましたか』
310
妖
(
えう
)
『
烏賊
(
いか
)
にも、
311
蟹
(
かに
)
にも
蛸
(
たこ
)
にも
足
(
あし
)
は
四人前
(
よにんまへ
)
だ、
312
ヤア
感心
(
かんしん
)
々々
(
かんしん
)
、
313
お
前
(
まへ
)
の
腕前
(
うでまへ
)
には
時置師
(
ときおかし
)
の
杢助
(
もくすけ
)
も
恐
(
おそ
)
れ
入谷
(
いりや
)
の
鬼子
(
きし
)
母神
(
もじん
)
だ。
314
呆
(
あき
)
れ
蛙
(
がへる
)
の
面
(
つら
)
に
水
(
みづ
)
だ、
315
ウフヽヽヽ』
316
フクエ『もしもし
私
(
わたくし
)
を
助
(
たす
)
けて
下
(
くだ
)
さいな、
317
余
(
あま
)
り
殺生
(
せつしやう
)
ぢや
御座
(
ござ
)
いませぬか』
318
高姫
(
たかひめ
)
腮
(
あご
)
をしやくり
乍
(
なが
)
ら、
319
高
(
たか
)
『ヘン
頓馬
(
とんま
)
野郎
(
やらう
)
奴
(
め
)
。
320
それや
何
(
なに
)
を
云
(
い
)
ふのだ。
321
最前
(
さいぜん
)
あれだけ
丁寧
(
ていねい
)
に
引導
(
いんだう
)
を
渡
(
わた
)
して
置
(
お
)
いたぢやないか、
322
マア
悠
(
ゆつく
)
りと
其処
(
そこ
)
に
両人
(
りやうにん
)
が
寝
(
ね
)
て
喰
(
くは
)
れて
居
(
ゐ
)
たらよからう、
323
有難
(
ありがた
)
うと
感謝
(
かんしや
)
しなさい、
324
お
前
(
まへ
)
の
体
(
からだ
)
は
忽
(
たちま
)
ち
蟻ケ塔
(
ありがたふ
)
になるぞや、
325
朝
(
あさ
)
から
晩
(
ばん
)
迄
(
まで
)
働
(
はたら
)
いても
働
(
はたら
)
いても
喰
(
く
)
へぬ
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
に
326
寝
(
ね
)
とつて
喰
(
くは
)
れるとは
幸福
(
かうふく
)
な
人間
(
にんげん
)
だ、
327
オホヽヽヽ』
328
と
憎
(
にく
)
らしげに
腮
(
あご
)
を
突
(
つ
)
き
出
(
だ
)
し、
329
尻
(
しり
)
を
三
(
み
)
つ
四
(
よ
)
つ
叩
(
たた
)
いて
一目散
(
いちもくさん
)
に
杢助
(
もくすけ
)
と
共
(
とも
)
に
船着場
(
ふなつきば
)
に
馳
(
は
)
せ
帰
(
かへ
)
り、
330
二人
(
ふたり
)
の
繋
(
つな
)
いでおいた
小船
(
こぶね
)
に
身
(
み
)
を
任
(
まか
)
せ、
331
浪
(
なみ
)
なぎ
渡
(
わた
)
る
春
(
はる
)
の
湖面
(
こめん
)
を
鼻歌
(
はなうた
)
謡
(
うた
)
ひ
乍
(
なが
)
ら
甘
(
あま
)
き
囁
(
ささや
)
きをつづけて
何処
(
いづく
)
ともなく
漕
(
こ
)
いで
行
(
ゆ
)
く。
332
(
大正一五・六・二九
旧五・二〇
於天之橋立なかや旅館
加藤明子
録)
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