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第77巻(辰の巻)
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第72巻(亥の巻)
序文
総説
第1篇 水波洋妖
01 老の高砂
〔1810〕
02 時化の湖
〔1811〕
03 厳の欵乃
〔1812〕
04 銀杏姫
〔1813〕
05 蛸船
〔1814〕
06 夜鷹姫
〔1815〕
07 鰹の網引
〔1816〕
第2篇 杢迂拙婦
08 街宣
〔1817〕
09 欠恋坊
〔1818〕
10 清の歌
〔1819〕
11 問答所
〔1820〕
12 懺悔の生活
〔1821〕
13 捨台演
〔1822〕
14 新宅入
〔1823〕
15 災会
〔1824〕
16 東西奔走
〔1825〕
第3篇 転化退閉
17 六樫問答
〔1826〕
18 法城渡
〔1827〕
19 旧場皈
〔1828〕
20 九官鳥
〔1829〕
21 大会合
〔1830〕
22 妖魅帰
〔1831〕
筑紫潟
余白歌
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第二〇章
九官鳥
(
きうくわんてう
)
〔一八二九〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第72巻 山河草木 亥の巻
篇:
第3篇 転化退閉
よみ(新仮名遣い):
てんかたいへい
章:
第20章 九官鳥
よみ(新仮名遣い):
きゅうかんちょう
通し章番号:
1829
口述日:
1926(大正15)年07月01日(旧05月22日)
口述場所:
天之橋立なかや別館
筆録者:
加藤明子
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1929(昭和4)年4月3日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
OBC :
rm7220
愛善世界社版:
249頁
八幡書店版:
第12輯 691頁
修補版:
校定版:
260頁
普及版:
98頁
初版:
ページ備考:
001
キユーバーは、
002
杢助
(
もくすけ
)
に
呶鳴
(
どな
)
りつけられ
003
高姫
(
たかひめ
)
には
嘲笑
(
てうせう
)
され、
004
お
為
(
ため
)
ごかしに
五百
(
ごひやく
)
円
(
ゑん
)
で
買
(
か
)
つた
北町
(
きたまち
)
の
家
(
いへ
)
を
貰
(
もら
)
つた
事
(
こと
)
は
貰
(
もら
)
つたものの、
005
杢助
(
もくすけ
)
、
006
高姫
(
たかひめ
)
の
事
(
こと
)
だから、
007
何時
(
いつ
)
変替
(
へんがへ
)
を
云
(
い
)
うて
来
(
く
)
るかも
分
(
わか
)
らない。
008
キユーバー『エヽ
本当
(
ほんたう
)
につまらない、
009
高姫
(
たかひめ
)
さまの
提灯持
(
ちやうちんもち
)
をして
町々
(
まちまち
)
をふれ
廻
(
まは
)
り、
010
杢助
(
もくすけ
)
の
奴
(
やつ
)
は
手
(
て
)
を
濡
(
ぬら
)
さずして
結構
(
けつこう
)
な
神館
(
かむやかた
)
を
占領
(
せんりやう
)
し、
011
千草姫
(
ちぐさひめ
)
と
喋々
(
てふてふ
)
喃々
(
なんなん
)
、
012
意茶
(
いちや
)
ついて
居
(
ゐ
)
るかと
思
(
おも
)
へば、
013
ごふ
腹
(
ばら
)
で
耐
(
たま
)
らないワ。
014
待
(
ま
)
て
待
(
ま
)
て
015
茲
(
ここ
)
が
一
(
ひと
)
つ
辛抱
(
しんばう
)
のし
所
(
どころ
)
だ、
016
時節
(
じせつ
)
を
待
(
ま
)
つて
杢助
(
もくすけ
)
を
叩
(
たた
)
き
出
(
だ
)
し、
017
完全
(
くわんぜん
)
に
高姫
(
たかひめ
)
を
此方
(
こつち
)
の
物
(
もの
)
となし
018
スガの
神館
(
かむやかた
)
の
神司
(
かむづかさ
)
となつて
一
(
ひと
)
つ
羽振
(
はぶり
)
を
利
(
き
)
かしてやらう』
019
と、
0191
伊万里
(
いまり
)
焼
(
やき
)
の
達磨
(
だるま
)
の
出来損
(
できそこ
)
なひのやうな
面構
(
つらがまへ
)
を
晒
(
さら
)
し
乍
(
なが
)
ら
悄々
(
しほしほ
)
と
帰
(
かへ
)
つて
行
(
ゆ
)
く。
020
北町
(
きたまち
)
の
神館
(
かむやかた
)
に
帰
(
かへ
)
つて
見
(
み
)
れば
きちん
と
錠
(
ぢやう
)
が
卸
(
お
)
り、
021
こじても
捻
(
ね
)
ぢても、
0211
些
(
ちつ
)
とも
開
(
あ
)
かない。
022
キユ『エヽ
杢助
(
もくすけ
)
の
奴
(
やつ
)
023
人
(
ひと
)
を
馬鹿
(
ばか
)
にして
居
(
ゐ
)
やがる。
024
待
(
ま
)
て
待
(
ま
)
て、
025
ひよつとしたら
隣
(
となり
)
の
元
(
もと
)
の
家主
(
やぬし
)
に
鍵
(
かぎ
)
を
預
(
あづ
)
けて
置
(
お
)
きやがつたかも
知
(
し
)
れぬ』
026
と
呟
(
つぶや
)
き
乍
(
なが
)
ら
樽屋
(
たるや
)
の
表
(
おもて
)
へ
立
(
たち
)
はだかり、
027
キユ『
御免
(
ごめん
)
なさい、
028
拙僧
(
せつそう
)
はウラナイ
教
(
けう
)
本部
(
ほんぶ
)
の
高等
(
かうとう
)
役員
(
やくゐん
)
キユーバーですが、
029
もしや
杢助
(
もくすけ
)
さまが
鍵
(
かぎ
)
でも
預
(
あづ
)
けては
置
(
お
)
かなかつたでせうか、
030
一寸
(
ちよつと
)
お
尋
(
たづ
)
ね
致
(
いた
)
します』
031
主人
(
しゆじん
)
の
久助
(
きうすけ
)
は
蛙
(
かへる
)
の
鳴
(
な
)
くやうな
妙
(
めう
)
な
声
(
こゑ
)
がするので
表
(
おもて
)
へ
来
(
き
)
て
見
(
み
)
ると
妖僧
(
えうそう
)
が
立
(
た
)
つて
居
(
ゐ
)
る。
032
久助
(
きうすけ
)
『ヤ、
033
御用
(
ごよう
)
で
御座
(
ござ
)
いますかな』
034
キユ『
別
(
べつ
)
に
用
(
よう
)
と
云
(
い
)
ふやうな
事
(
こと
)
はありませぬが、
035
今日
(
けふ
)
からあの
神館
(
かむやかた
)
は
拙僧
(
せつそう
)
の
所有物
(
しよいうぶつ
)
となり
居住
(
すまゐ
)
する
積
(
つも
)
りです。
036
杢助
(
もくすけ
)
さまが
鍵
(
かぎ
)
でも
預
(
あづ
)
けて
置
(
お
)
きはしませぬかな』
037
久
(
きう
)
『
確
(
たしか
)
に
預
(
あづ
)
かつて
居
(
ゐ
)
ますが、
038
………この
鍵
(
かぎ
)
は
誰
(
たれ
)
が
来
(
き
)
ても
渡
(
わた
)
して
呉
(
く
)
れな………との
仰
(
おほ
)
せ、
039
仮令
(
たとへ
)
貴方
(
あなた
)
がお
買
(
か
)
ひになつても
滅多
(
めつた
)
にお
渡
(
わた
)
し
申
(
まを
)
す
訳
(
わけ
)
には
参
(
まゐ
)
りませぬ』
040
キユ『
元来
(
ぐわんらい
)
この
家
(
や
)
の
代金
(
だいきん
)
は
拙者
(
せつしや
)
が
三百
(
さんびやく
)
円
(
えん
)
、
041
杢助
(
もくすけ
)
さまが
三百
(
さんびやく
)
円
(
えん
)
出
(
だ
)
して
買
(
か
)
つたのですから、
042
当然
(
たうぜん
)
半分
(
はんぶん
)
は
拙者
(
せつしや
)
の
物
(
もの
)
、
043
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
044
お
前
(
まへ
)
さまも
聞
(
き
)
いて
居
(
ゐ
)
られるだらうが、
045
スガの
宮
(
みや
)
の
神館
(
かむやかた
)
は
問答
(
もんだふ
)
の
結果
(
けつくわ
)
、
046
杢助
(
もくすけ
)
さまの
領有
(
りやういう
)
となり、
047
最早
(
もはや
)
此
(
この
)
神館
(
かむやかた
)
は
不必用
(
ふひつよう
)
となつたので、
048
拙僧
(
せつそう
)
に
買
(
か
)
つて
呉
(
く
)
れぬかとのお
頼
(
たの
)
みだから、
049
残
(
のこ
)
り
三百
(
さんびやく
)
円
(
えん
)
をおつ
放
(
ぽ
)
り
出
(
だ
)
し
今
(
いま
)
買
(
か
)
つて
来
(
き
)
たのですよ。
050
怪
(
あや
)
しう
思
(
おも
)
はれるのなら、
051
余
(
あま
)
り
遠
(
とほ
)
くもないからスガの
神館
(
かむやかた
)
迄
(
まで
)
行
(
い
)
つて
調
(
しら
)
べて
来
(
き
)
て
下
(
くだ
)
さい』
052
久
(
きう
)
『あのお
金
(
かね
)
はさうすると
貴方
(
あなた
)
が
半分
(
はんぶん
)
お
出
(
だ
)
しなさつたのですか、
053
ヘエー』
054
キウ『さうですとも、
055
拙僧
(
せつそう
)
はスコブッツエン
宗
(
しう
)
の
教祖
(
けうそ
)
大黒主
(
おほくろぬし
)
様
(
さま
)
の
片腕
(
かたうで
)
とも
云
(
い
)
ふべき
豪僧
(
がうそう
)
だ、
056
何時
(
いつ
)
もお
金
(
かね
)
が
懐
(
ふところ
)
に
目
(
め
)
を
剥
(
む
)
いて
居
(
ゐ
)
る。
057
杢助
(
もくすけ
)
如
(
ごと
)
きは
諸国
(
しよこく
)
修業
(
しうげふ
)
の
遍歴者
(
へんれきしや
)
だからお
金
(
かね
)
の
有
(
あ
)
らう
筈
(
はず
)
はなし、
058
話
(
はなし
)
に
聞
(
き
)
けば、
059
ハルの
湖
(
みづうみ
)
で
高砂丸
(
たかさごまる
)
に
乗
(
の
)
り
込
(
こ
)
み、
060
高姫
(
たかひめ
)
が
暴風雨
(
しけ
)
に
遇
(
あ
)
うて
沈没
(
ちんぼつ
)
したので、
061
夫婦
(
ふうふ
)
共
(
とも
)
真裸
(
まつぱだか
)
となり、
062
命
(
いのち
)
辛々
(
からがら
)
スガの
港
(
みなと
)
に
着
(
つ
)
いた
位
(
くらゐ
)
だから、
063
一文
(
いちもん
)
半銭
(
きなか
)
も
金
(
かね
)
を
持
(
も
)
つて
居
(
ゐ
)
る
道理
(
だうり
)
がないのだ。
064
あの
三百
(
さんびやく
)
円
(
えん
)
も
実
(
じつ
)
は
怪
(
あや
)
しいものだよ。
065
どこかで
何々
(
なになに
)
して
来
(
き
)
よつたのかも
知
(
し
)
れたものぢやない』
066
久
(
きう
)
『アヽ
左様
(
さやう
)
で
御座
(
ござ
)
いますか。
067
そんなら
如才
(
じよさい
)
は
御座
(
ござ
)
いますまいから
鍵
(
かぎ
)
をお
渡
(
わた
)
し
申
(
まをし
)
ます』
068
と
懐
(
ふところ
)
より
取
(
と
)
り
出
(
だ
)
しキユーバーに
渡
(
わた
)
した。
069
キユーバーは
機嫌
(
きげん
)
を
直
(
なほ
)
しながら
肩
(
かた
)
を
四角
(
しかく
)
に
揺
(
ゆす
)
り、
070
北町
(
きたまち
)
の
小路
(
こうぢ
)
を
大股
(
おほまた
)
に
跨
(
また
)
げて
帰
(
かへ
)
り
行
(
ゆ
)
く。
071
キユ『ヤア
久
(
ひさ
)
し
振
(
ぶり
)
に
俺
(
おれ
)
の
巣
(
す
)
が
出来
(
でき
)
たワイ、
072
ヤ
巣
(
す
)
では
無
(
な
)
い
073
御
(
ご
)
本丸
(
ほんまる
)
が
出来
(
でき
)
たのだ。
074
弥々
(
いよいよ
)
今日
(
けふ
)
から
北町城
(
きたまちじやう
)
の
城主
(
じやうしゆ
)
天然坊
(
てんねんばう
)
キユーバーの
君様
(
きみさま
)
だ。
075
斯
(
か
)
うなると
第一
(
だいいち
)
に
必要
(
ひつえう
)
なものは
嬶村屋
(
かかむらや
)
だ、
076
否
(
いな
)
女帝
(
によてい
)
様
(
さま
)
だ。
077
何
(
いづ
)
れこの
神館
(
かむやかた
)
へは
些
(
ち
)
つとは
美
(
うつく
)
しい
女
(
をんな
)
も
参
(
まゐ
)
つて
来
(
く
)
るだらう、
078
四五
(
しご
)
日
(
にち
)
の
間
(
うち
)
に
物色
(
ぶつしよく
)
して、
079
これぞと
云
(
い
)
ふ
奴
(
やつ
)
を
選
(
えら
)
み
出
(
だ
)
し、
080
当座
(
たうざ
)
の
鼻
(
はな
)
ふさぎに
引
(
ひ
)
つ
張
(
ぱ
)
り
込
(
こ
)
んで
置
(
お
)
かう、
081
その
間
(
あひだ
)
に
千草姫
(
ちぐさひめ
)
が
何
(
なん
)
とかならうから』
082
等
(
など
)
と
独
(
ひとり
)
言
(
ごと
)
をほざき
乍
(
なが
)
ら、
083
押入
(
おしい
)
れから
夜具
(
やぐ
)
を
引
(
ひ
)
つぱり
出
(
だ
)
し、
084
揚股
(
あげまた
)
をうつて
寝
(
ね
)
て
仕舞
(
しま
)
つた。
085
暫
(
しばら
)
くすると、
086
トントンと
表戸
(
おもてど
)
を
叩
(
たた
)
いて
隣
(
となり
)
のお
三
(
さん
)
がやつて
来
(
き
)
た。
087
お
三
(
さん
)
『
御免
(
ごめん
)
なさいませ、
088
キユーバー
様
(
さま
)
はお
宅
(
たく
)
で
御座
(
ござ
)
いますか』
089
武士
(
ぶし
)
の
子
(
こ
)
は
轡
(
くつわ
)
の
音
(
おと
)
に
目
(
め
)
を
醒
(
さ
)
まし
090
乞食
(
こじき
)
の
子
(
こ
)
は
茶碗
(
ちやわん
)
の
音
(
おと
)
に
目
(
め
)
を
醒
(
さ
)
まし
091
キユーバーは
女
(
をんな
)
の
声
(
こゑ
)
に
目
(
め
)
を
醒
(
さ
)
ます
092
寝呆
(
ねぼ
)
けた
顔
(
かほ
)
を
撫
(
な
)
でながら
093
ひびきのいつた
濁声
(
だくせい
)
で
094
キユ『ハイハイハイハイようお
出
(
い
)
で
095
何用
(
なによう
)
あつて
御座
(
ござ
)
つたか
096
御用
(
ごよう
)
の
赴
(
おもむ
)
き
聞
(
き
)
きませう』と
097
寝床
(
ねどこ
)
を
立
(
た
)
つて
上
(
あが
)
り
口
(
ぐち
)
098
火鉢
(
ひばち
)
の
前
(
まへ
)
に
四角
(
しかく
)
ばり
099
お
三
(
さん
)
の
顔
(
かほ
)
を
睨
(
ねめ
)
つける
100
お
三
(
さん
)
はぎよつとしながらも
101
揉手
(
もみで
)
をなして
丁寧
(
ていねい
)
に
102
鈴
(
すず
)
の
鳴
(
な
)
るよな
声
(
こゑ
)
出
(
だ
)
して
103
お
三
(
さん
)
『これはこれは
当家
(
たうけ
)
の
主
(
あるじ
)
のキユーバー
様
(
さま
)
104
お
寝
(
やす
)
み
中
(
ちう
)
を
驚
(
おどろ
)
かしまして
105
誠
(
まこと
)
に
申
(
まをし
)
訳
(
わけ
)
御座
(
ござ
)
いませぬ
106
妾
(
わたし
)
は
主人
(
しゆじん
)
の
言
(
い
)
ひつけで
107
お
伺
(
うかが
)
ひ
申
(
まを
)
しに
参
(
まゐ
)
りました
108
やがて
主人
(
しゆじん
)
が
見
(
み
)
えますから
109
何処
(
どこ
)
へも
往
(
ゆ
)
つては
下
(
くだ
)
さるな』
110
云
(
い
)
へばキユーバーは
禿頭
(
はげあたま
)
111
縦
(
たて
)
に
揺
(
ゆすぶ
)
つて
涎
(
よだれ
)
繰
(
く
)
り
112
キウ『てもまア
綺麗
(
きれい
)
な
女
(
をんな
)
だな
113
俺
(
おれ
)
もお
前
(
まへ
)
の
知
(
し
)
る
通
(
とほ
)
り
114
今日
(
けふ
)
から
此所
(
ここ
)
の
主
(
あるじ
)
とはなつたれど
115
飯
(
めし
)
たく
女
(
をんな
)
もない
始末
(
しまつ
)
116
お
前
(
まへ
)
のやうな
渋皮
(
しぶかは
)
の
117
剥
(
む
)
けた
女
(
をんな
)
をいつ
迄
(
まで
)
も
118
宿屋
(
やどや
)
の
下女
(
げぢよ
)
にしておくは
119
可惜
(
あつたら
)
ものよ
勿体
(
もつたい
)
ない
120
おほかたお
前
(
まへ
)
を
俺
(
おれ
)
の
女房
(
にようばう
)
に
121
貰
(
もら
)
うて
呉
(
く
)
れとの
掛合
(
かけあひ
)
に
122
久助
(
きうすけ
)
さまがエチエチと
123
媒介
(
なかうど
)
せうとて
来
(
く
)
るのだらう
124
お
前
(
まへ
)
も
俺
(
おれ
)
に
添
(
そ
)
うたなら
125
今日
(
けふ
)
から
此方
(
ここ
)
の
奥様
(
おくさま
)
だ
126
この
家
(
いへ
)
屋敷
(
やしき
)
もすつかりと
127
お
前
(
まへ
)
と
俺
(
おれ
)
の
共有物
(
きよういうぶつ
)
128
俄
(
にはか
)
に
蠑螈
(
いもり
)
が
竜
(
りう
)
となり
129
天上
(
てんじやう
)
したよな
出世
(
しゆつせ
)
ぞや
130
キユーバー
司
(
つかさ
)
の
救世主
(
きうせいしゆ
)
は
131
お
前
(
まへ
)
の
為
(
ため
)
には
福
(
ふく
)
の
神
(
かみ
)
132
あまり
憎
(
にく
)
うはあるまい』と
133
曲
(
まが
)
つた
口
(
くち
)
から
吹
(
ふ
)
き
立
(
た
)
てる
134
お
三
(
さん
)
は
顔
(
かほ
)
を
赤
(
あか
)
くして
135
お
三
(
さん
)
『これこれ
申
(
まを
)
しキユーバーさま
136
そんな
話
(
はなし
)
ぢやありませぬ
137
深
(
ふか
)
い
様子
(
やうす
)
は
知
(
し
)
らね
共
(
ども
)
138
杢助
(
もくすけ
)
さまが
渡
(
わた
)
された
139
お
金
(
かね
)
がさつぱり
夜
(
よる
)
の
間
(
ま
)
に
140
木
(
こ
)
の
葉
(
は
)
になつて
仕舞
(
しま
)
うたと
141
親方
(
おやかた
)
さまの
御
(
ご
)
立腹
(
りつぷく
)
142
これや
斯
(
か
)
うしては
居
(
ゐ
)
られない
143
お
役人衆
(
やくにんしう
)
に
訴
(
うつた
)
へて
144
お
前
(
まへ
)
と
杢助
(
もくすけ
)
夫婦
(
ふうふ
)
をば
145
縛
(
しば
)
つて
貰
(
もら
)
ふかと
御
(
ご
)
相談
(
さうだん
)
146
妾
(
わたし
)
は
聞
(
き
)
くに
聞
(
き
)
き
兼
(
か
)
ねて
147
まうしまうし
御
(
ご
)
主人
(
しゆじん
)
様
(
さま
)
148
御
(
ご
)
立腹
(
りつぷく
)
遊
(
あそ
)
ばすは
尤
(
もつと
)
もなれど
149
短気
(
たんき
)
は
損気
(
そんき
)
と
申
(
まをし
)
ます
150
一
(
ひと
)
先
(
ま
)
づ
隣
(
となり
)
のキユーバーさまに
151
実否
(
じつぴ
)
を
糺
(
ただ
)
した
其
(
その
)
上
(
うへ
)
で
152
訴
(
うつた
)
へなさるが
宜
(
よ
)
からうと
153
申
(
まをし
)
上
(
あ
)
げたら
御
(
ご
)
主人
(
しゆじん
)
は
154
そんならお
前
(
まへ
)
に
任
(
まか
)
すから
155
キユーバーが
居
(
を
)
るか
居
(
を
)
らないか
156
調
(
しら
)
べて
来
(
こ
)
いとの
御
(
ご
)
命令
(
めいれい
)
157
よもや
如才
(
じよさい
)
はありますまいが
158
贋札
(
にせさつ
)
などを
使
(
つか
)
うたら
159
お
上
(
かみ
)
の
規則
(
きそく
)
に
照
(
て
)
らされて
160
臭
(
くさ
)
いお
飯
(
まんま
)
食
(
く
)
はにやならむ
161
それが
気
(
き
)
の
毒
(
どく
)
と
思
(
おも
)
うた
故
(
ゆゑ
)
162
主人
(
しゆじん
)
の
鋭鋒
(
えいほう
)
止
(
と
)
めおいて
163
親切
(
しんせつ
)
づくで
来
(
き
)
ましたよ』
164
云
(
い
)
へばキユーバーは
驚
(
おどろ
)
いて
165
キユ『そんな
怪体
(
けたい
)
の
事
(
こと
)
あろか
166
正真
(
しやうしん
)
正銘
(
しやうめい
)
の
百円札
(
ひやくゑんさつ
)
167
手
(
て
)
の
切
(
き
)
れさうな
新
(
あたら
)
しい
168
立派
(
りつぱ
)
なお
金
(
かね
)
ぢやなかつたか
169
昨夜
(
さくや
)
の
間
(
あひだ
)
に
泥棒
(
どろばう
)
が
170
お
前
(
まへ
)
の
家
(
うち
)
へ
飛
(
と
)
び
込
(
こ
)
んで
171
お
金
(
かね
)
をすつかりかつ
攫
(
さら
)
へ
172
木
(
こ
)
の
葉
(
は
)
とかへておいたのだらう
173
そんな
馬鹿
(
ばか
)
らしい
出来事
(
できごと
)
が
174
三千
(
さんぜん
)
世界
(
せかい
)
にあるものか
175
何
(
なに
)
は
兎
(
と
)
も
角
(
かく
)
久助
(
きうすけ
)
を
176
連
(
つ
)
れて
出
(
で
)
て
来
(
こ
)
いキユーバーが
177
天地
(
てんち
)
の
道理
(
だうり
)
を
説
(
と
)
き
聞
(
きか
)
せ
178
疑念
(
うたがひ
)
晴
(
はら
)
してやる
程
(
ほど
)
に
179
アハヽヽハヽヽ
訳
(
わけ
)
もない
180
しやつちもない
事
(
こと
)
云
(
い
)
うて
来
(
く
)
る』
181
などと
嘯
(
うそぶ
)
き
取
(
とり
)
合
(
あ
)
はぬ
182
お
三
(
さん
)
は
止
(
や
)
むなく
立
(
たち
)
帰
(
かへ
)
り
183
主人
(
しゆじん
)
の
前
(
まへ
)
に
両手
(
りやうて
)
つき
184
キユーバーの
言葉
(
ことば
)
其
(
その
)
儘
(
まま
)
に
185
委曲
(
つぶさ
)
に
談
(
かた
)
れば
久助
(
きうすけ
)
は
186
しきりに
首
(
くび
)
を
振
(
ふ
)
り
乍
(
なが
)
ら
187
キユーバー
館
(
やかた
)
をさして
行
(
ゆ
)
く
188
キユーバーは
又
(
また
)
もや
揚股
(
あげまた
)
を
189
打
(
う
)
つて
鼻歌
(
はなうた
)
謡
(
うた
)
ひつつ
190
冥想
(
めいさう
)
に
耽
(
ふけ
)
る
折
(
をり
)
もあれ
191
表戸
(
おもてど
)
ガラリと
引開
(
ひきあ
)
けて
192
血相
(
けつさう
)
荒
(
あら
)
く
入
(
い
)
り
来
(
きた
)
る
193
樽屋
(
たるや
)
の
主
(
あるじ
)
久助
(
きうすけ
)
は
194
御免
(
ごめん
)
なさいと
慳貪
(
けんどん
)
な
195
言葉
(
ことば
)
の
端
(
はし
)
も
荒
(
あら
)
らかに
196
庭
(
には
)
にすつくと
立
(
た
)
つたまま
197
久助
(
きうすけ
)
『
山子
(
やまこ
)
坊主
(
ばうず
)
のキユーバーさま
198
お
前
(
まへ
)
はよつぽど
悪党
(
あくたう
)
だ
199
杢助
(
もくすけ
)
夫婦
(
ふうふ
)
と
腹
(
はら
)
合
(
あは
)
せ
200
魔法
(
まはふ
)
を
使
(
つか
)
つて
木
(
き
)
の
落葉
(
おちば
)
201
金
(
かね
)
と
見
(
み
)
せかけ
甘々
(
うまうま
)
と
202
大事
(
だいじ
)
の
大事
(
だいじ
)
の
吾
(
わが
)
家
(
いへ
)
を
203
横領
(
わうりやう
)
いたした
曲者
(
くせもの
)
よ
204
もう
了見
(
れうけん
)
はならない
程
(
ほど
)
に
205
如何
(
どん
)
な
云
(
い
)
ひ
訳
(
わけ
)
なさろとも
206
決
(
けつ
)
して
耳
(
みみ
)
は
借
(
か
)
しませぬ
207
バラモン
役所
(
やくしよ
)
へ
訴
(
うつた
)
へて
208
私
(
わたし
)
が
白
(
しろ
)
いかお
前
(
まへ
)
等
(
ら
)
の
209
腹
(
はら
)
が
黒
(
くろ
)
いかきつぱりと
210
分
(
わ
)
けて
貰
(
もら
)
はにやおきませぬ
211
覚悟
(
かくご
)
を
定
(
き
)
めて
居
(
ゐ
)
て
下
(
くだ
)
されよ
212
いま
番頭
(
ばんとう
)
をお
役所
(
やくしよ
)
へ
213
出頭
(
しゆつとう
)
さしておきました
214
やがて
縄目
(
なはめ
)
の
恥
(
はぢ
)
をかき
215
町内
(
ちやうない
)
隈
(
くま
)
なく
籐丸籠
(
とうまるかご
)
に
乗
(
の
)
せられて
216
詐欺
(
さぎ
)
横領
(
わうりやう
)
の
罪人
(
ざいにん
)
と
217
引
(
ひ
)
き
廻
(
まは
)
されて
町人
(
まちびと
)
の
218
笑
(
わら
)
ひの
種
(
たね
)
となつた
上
(
うへ
)
219
お
前
(
まへ
)
の
命
(
いのち
)
は
風前
(
ふうぜん
)
の
220
燈火
(
とうくわ
)
となつて
消
(
き
)
えるだろ
221
南無
(
なむ
)
阿弥陀仏
(
あみだぶつ
)
阿弥陀
(
あみだ
)
仏
(
ぶつ
)
222
頓生
(
とんしやう
)
菩提
(
ぼだい
)
惟神
(
かむながら
)
223
目玉
(
めだま
)
飛
(
と
)
び
出
(
だ
)
しましませ』と
224
体
(
からだ
)
をぷりぷりゆすりつつ
225
閾
(
しきゐ
)
を
蹴
(
け
)
たてて
帰
(
かへ
)
り
行
(
ゆ
)
く
226
後
(
あと
)
にキユーバーは
手
(
て
)
を
組
(
く
)
んで
227
キユ『
自分
(
じぶん
)
の
金
(
かね
)
でもないものを
228
自分
(
じぶん
)
の
金
(
かね
)
だと
法螺
(
ほら
)
吹
(
ふ
)
いた
229
其
(
その
)
天罰
(
てんばつ
)
が
報
(
むく
)
い
来
(
き
)
て
230
杢助
(
もくすけ
)
夫婦
(
ふうふ
)
の
罪科
(
つみとが
)
の
231
相伴
(
しやうばん
)
せなくちやならないか
232
ほんに
思
(
おも
)
へば
口惜
(
くちを
)
しい
233
昔
(
むかし
)
の
聖人
(
せいじん
)
の
教
(
をしへ
)
にも
234
口
(
くち
)
は
禍
(
わざはひ
)
の
門
(
もん
)
とやら
235
もうこれからは
心得
(
こころえ
)
て
236
決
(
けつ
)
して
嘘
(
うそ
)
は
言
(
い
)
はうまい
237
とは
云
(
い
)
ふものの
此
(
この
)
証
(
あか
)
り
238
どしたらはつきり
立
(
た
)
つだらう』
239
などと
青息
(
あをいき
)
吐息
(
といき
)
つき
240
表戸
(
おもてど
)
ぴしやりと
引
(
ひ
)
きしめて
241
離棟
(
はなれ
)
の
館
(
やかた
)
に
立籠
(
たてこも
)
り
242
中
(
なか
)
から
錠
(
ぢやう
)
を
卸
(
おろ
)
しおき
243
長持
(
ながもち
)
開
(
あ
)
けて
中
(
なか
)
に
入
(
い
)
り
244
布団
(
ふとん
)
被
(
かぶ
)
つて
慄
(
ふる
)
ひ
居
(
ゐ
)
る
245
キユーバーの
身
(
み
)
こそ
憐
(
あは
)
れなり。
246
(
大正一五・七・一
旧五・二二
於天之橋立なかや別館
加藤明子
録)
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