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第72巻(亥の巻)
序文
総説
第1篇 水波洋妖
01 老の高砂
〔1810〕
02 時化の湖
〔1811〕
03 厳の欵乃
〔1812〕
04 銀杏姫
〔1813〕
05 蛸船
〔1814〕
06 夜鷹姫
〔1815〕
07 鰹の網引
〔1816〕
第2篇 杢迂拙婦
08 街宣
〔1817〕
09 欠恋坊
〔1818〕
10 清の歌
〔1819〕
11 問答所
〔1820〕
12 懺悔の生活
〔1821〕
13 捨台演
〔1822〕
14 新宅入
〔1823〕
15 災会
〔1824〕
16 東西奔走
〔1825〕
第3篇 転化退閉
17 六樫問答
〔1826〕
18 法城渡
〔1827〕
19 旧場皈
〔1828〕
20 九官鳥
〔1829〕
21 大会合
〔1830〕
22 妖魅帰
〔1831〕
筑紫潟
余白歌
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第一四章
新宅入
(
しんたくいり
)
〔一八二三〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第72巻 山河草木 亥の巻
篇:
第2篇 杢迂拙婦
よみ(新仮名遣い):
もくうせっぷ
章:
第14章 新宅入
よみ(新仮名遣い):
しんたくいり
通し章番号:
1823
口述日:
1926(大正15)年06月30日(旧05月21日)
口述場所:
天之橋立なかや別館
筆録者:
加藤明子
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1929(昭和4)年4月3日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
高姫と妖幻坊の杢助は、海を渡ってようやくスガの港にやってきた。
噂に、三五教の大宮が建てられたと聞くと、なんとかしてその聖場を奪おうと思案を始めた。
手始めに、宿泊している旅館の別館を買い取ろうと、妖幻坊は曲輪の術を使い、庭の木の葉をお金に変えてしまう。
高姫そのお金で買い取った別館に、ウラナイ教の大看板を掲げて、宣伝の準備を始めた。
一方妖幻坊は、人から見えないように離れ座敷を作らせ、元の怪物の姿になって居座っている。
高姫は、今は元王妃の肉体に宿っているため、その気品と美貌で宣伝は功を奏し、ウラナイ教は大繁盛しだした。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2019-02-12 13:29:47
OBC :
rm7214
愛善世界社版:
165頁
八幡書店版:
第12輯 662頁
修補版:
校定版:
172頁
普及版:
64頁
初版:
ページ備考:
001
ハルの
湖水
(
こすい
)
を
渡
(
わた
)
る
折
(
をり
)
002
俄
(
にはか
)
に
吹
(
ふ
)
き
来
(
く
)
る
暴風
(
ばうふう
)
に
003
高砂丸
(
たかさごまる
)
は
沈没
(
ちんぼつ
)
し
004
妖幻坊
(
えうげんばう
)
の
杢助
(
もくすけ
)
は
005
高姫
(
たかひめ
)
背
(
せな
)
に
負
(
お
)
ひ
乍
(
なが
)
ら
006
浪
(
なみ
)
の
間
(
ま
)
に
間
(
ま
)
に
漂
(
ただよ
)
ひつ
007
漸
(
やうや
)
く
湖中
(
こちう
)
に
浮
(
うか
)
びたる
008
竹
(
たけ
)
生
(
お
)
ひ
茂
(
しげ
)
る
太魔
(
たま
)
の
島
(
しま
)
009
銀杏
(
いてふ
)
の
浜辺
(
はまべ
)
に
着
(
つ
)
きにけり
010
茲
(
ここ
)
に
二人
(
ふたり
)
は
種々
(
いろいろ
)
の
011
良
(
よ
)
からぬ
事
(
こと
)
をなし
終
(
を
)
へて
012
浜辺
(
はまべ
)
の
船
(
ふね
)
を
奪
(
うば
)
ひとり
013
杢助
(
もくすけ
)
艪
(
ろ
)
をば
操
(
あや
)
つりつ
014
もとより
慣
(
な
)
れぬ
海
(
うみ
)
の
上
(
うへ
)
015
浪
(
なみ
)
のまにまにくるくると
016
彼方
(
あなた
)
や
此方
(
こなた
)
に
流
(
なが
)
されつ
017
終日
(
しうじつ
)
終夜
(
しうや
)
を
水
(
みづ
)
の
上
(
うへ
)
018
腹
(
はら
)
を
減
(
す
)
かして
彷徨
(
さまよ
)
ひつ
019
やうやうスガの
港
(
みなと
)
迄
(
まで
)
020
命
(
いのち
)
辛々
(
からがら
)
着
(
つ
)
きにける
021
高姫
(
たかひめ
)
杢助
(
もくすけ
)
両人
(
りやうにん
)
は
022
湖辺
(
こへん
)
に
沿
(
そ
)
ひし
饂飩屋
(
うどんや
)
に
023
一寸
(
ちよつと
)
立
(
た
)
ち
寄
(
よ
)
り
減腹
(
すきばら
)
を
024
癒
(
いや
)
せる
折
(
をり
)
しも
道
(
みち
)
を
往
(
ゆ
)
く
025
人
(
ひと
)
の
噂
(
うはさ
)
にスガの
山
(
やま
)
026
三五教
(
あななひけう
)
の
大宮
(
おほみや
)
が
027
千木
(
ちぎ
)
高
(
たか
)
知
(
し
)
りて
新
(
あたら
)
しく
028
建
(
た
)
てられたりと
聞
(
き
)
くよりも
029
食指
(
しよくし
)
は
大
(
おほ
)
いに
動
(
うご
)
き
出
(
だ
)
し
030
何
(
なん
)
とか
工夫
(
くふう
)
を
廻
(
めぐ
)
らして
031
其
(
その
)
聖場
(
せいぢやう
)
を
奪
(
うば
)
はむと
032
考
(
かんが
)
へ
居
(
ゐ
)
るこそ
虫
(
むし
)
の
良
(
よ
)
き
033
日
(
ひ
)
も
黄昏
(
たそがれ
)
になりければ
034
目抜
(
めぬ
)
きの
場所
(
ばしよ
)
なる
中
(
なか
)
の
町
(
まち
)
035
タルヤ
旅館
(
りよくわん
)
に
乗
(
の
)
り
込
(
こ
)
んで
036
一夜
(
いちや
)
の
宿
(
やど
)
を
求
(
もと
)
めつつ
037
二人
(
ふたり
)
は
此処
(
ここ
)
にやすやすと
038
甘
(
あま
)
き
睡
(
ねむ
)
りにつきにけり。
039
高姫
(
たかひめ
)
、
040
杢助
(
もくすけ
)
は
朝
(
あさ
)
早
(
はや
)
くから
起
(
お
)
き
出
(
い
)
でて
宿屋
(
やどや
)
の
様子
(
やうす
)
を
考
(
かんが
)
へて
居
(
ゐ
)
ると、
041
見
(
み
)
た
割合
(
わり
)
とは
広
(
ひろ
)
い
屋敷
(
やしき
)
で
新
(
あたら
)
しい
別館
(
べつくわん
)
が
建
(
た
)
つて
居
(
ゐ
)
る。
042
さうして
其
(
その
)
別館
(
べつくわん
)
は
北町
(
きたまち
)
の
街道
(
かいだう
)
に
面
(
めん
)
し、
043
布教
(
ふけう
)
や
宣伝
(
せんでん
)
には
極
(
きは
)
めて
可
(
よ
)
い
家構
(
いへがまへ
)
であつた。
044
妖幻坊
(
えうげんばう
)
は
曲輪
(
まがわ
)
の
術
(
じゆつ
)
を
使
(
つか
)
ひ、
045
庭先
(
にはさき
)
の
木
(
こ
)
の
葉
(
は
)
を
七八
(
しちはち
)
枚
(
まい
)
拾
(
ひろ
)
つて
来
(
き
)
て
何
(
なに
)
かムサムサ
文言
(
もんごん
)
を
唱
(
とな
)
へると、
046
それが
忽
(
たちま
)
ち
百円札
(
ひやくゑんさつ
)
に
変
(
かは
)
つて
仕舞
(
しま
)
つた。
047
そつと
懐中
(
ふところ
)
に
秘
(
ひ
)
め
置
(
お
)
き
素知
(
そし
)
らぬ
顔
(
かほ
)
して
高姫
(
たかひめ
)
の
前
(
まへ
)
にどつかと
坐
(
ざ
)
し、
048
『オイ、
049
千草
(
ちぐさ
)
の
高
(
たか
)
チヤン、
050
何
(
なん
)
と
此処
(
ここ
)
は
良
(
よ
)
い
家構
(
いへがまへ
)
ぢやないか。
051
お
前
(
まへ
)
の
得意
(
とくい
)
な
布教
(
ふけう
)
宣伝
(
せんでん
)
とやらを
此処
(
ここ
)
で
行
(
や
)
つたら
面白
(
おもしろ
)
からうよ』
052
高
(
たか
)
『
成程
(
なるほど
)
、
053
遉
(
さすが
)
は
杢助
(
もくすけ
)
さまだ。
054
よう
気
(
き
)
がつきますこと、
055
妾
(
わたし
)
も
一
(
ひと
)
つ
三五教
(
あななひけう
)
の
奴
(
やつ
)
がスガの
山
(
やま
)
で
立派
(
りつぱ
)
なお
宮
(
みや
)
を
建
(
た
)
て、
056
大変
(
たいへん
)
に
偉
(
えら
)
い
勢
(
いきほひ
)
で
宣伝
(
せんでん
)
して
居
(
ゐ
)
ると
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
だから、
057
何
(
なん
)
だか
知
(
し
)
らぬ
気色
(
きしよく
)
が
悪
(
わる
)
くて
耐
(
たま
)
らぬので、
058
直様
(
すぐさま
)
スガの
山
(
やま
)
に
乗
(
の
)
り
込
(
こ
)
んで、
059
神司
(
かむつかさ
)
の
面
(
つら
)
の
皮
(
かは
)
をひん
剥
(
む
)
き、
060
道場破
(
だうぢやうやぶ
)
りをやつてやらうかとも
考
(
かんが
)
へましたが、
061
それでは
余
(
あま
)
りあどけない、
062
無理
(
むり
)
に
占領
(
せんりやう
)
したと
町人
(
ちやうにん
)
にでも
思
(
おも
)
はれちや
後
(
のち
)
の
信用
(
しんよう
)
に
関
(
くわん
)
するので
063
如何
(
どう
)
せうかなアと
今
(
いま
)
考
(
かんが
)
へて
居
(
ゐ
)
た
処
(
ところ
)
ですよ。
064
併
(
しか
)
し
何
(
なに
)
程
(
ほど
)
結構
(
けつこう
)
な
都合
(
つがふ
)
のよい
家
(
いへ
)
だと
云
(
い
)
つても
065
一旦
(
いつたん
)
湖
(
うみ
)
にはまつて
真裸
(
まつぱだか
)
となり、
066
旅費
(
りよひ
)
も
何
(
なに
)
もなくなつて
仕舞
(
しま
)
つたのだから、
067
家
(
いへ
)
を
借
(
かり
)
やうもなく、
0671
仕方
(
しかた
)
がないぢやありませぬか。
068
斯
(
か
)
うして
偉
(
えら
)
さうに
宿屋
(
やどや
)
に
泊
(
とま
)
つて
居
(
ゐ
)
るものの、
069
サア
御
(
ご
)
勘定
(
かんぢやう
)
と
云
(
い
)
ふ
時
(
とき
)
は
如何
(
どう
)
せうかと
思
(
おも
)
つて、
070
さう
思
(
おも
)
ひ
出
(
だ
)
すと
宿屋
(
やどや
)
の
飯
(
めし
)
も
甘
(
うま
)
く
喉
(
のど
)
を
通
(
とほ
)
らないのですもの、
071
今晩
(
こんばん
)
は
甘
(
うま
)
く
夜抜
(
よぬ
)
けをしないと
072
グヅグヅして
居
(
ゐ
)
ると
無銭
(
むせん
)
飲食
(
いんしよく
)
とか
何
(
なん
)
とか
云
(
い
)
つて
073
バラモンの
役所
(
やくしよ
)
に
引張
(
ひつぱ
)
られますからなア』
074
『ハヽヽヽ
御
(
ご
)
心配
(
しんぱい
)
御
(
ご
)
無用
(
むよう
)
だ。
075
そんな
事
(
こと
)
に
抜目
(
ぬけめ
)
のある
杢助
(
もくすけ
)
だないよ。
076
一層
(
いつそう
)
の
事
(
こと
)
077
あの
別館
(
べつくわん
)
を
主人
(
しゆじん
)
に
相談
(
さうだん
)
して
買取
(
かひと
)
つたらどうだらう』
078
高
(
たか
)
『
買取
(
かひと
)
ると
云
(
い
)
つたつてお
金
(
かね
)
がなけれや
仕様
(
しやう
)
がないぢやありませぬか。
079
せめて
手附金
(
てつけきん
)
でもあれば
話
(
はなし
)
も
出来
(
でき
)
ますが、
080
昨夜
(
ゆうべ
)
の
宿料
(
やどれう
)
もないやうな
事
(
こと
)
で、
081
如何
(
どう
)
してそんなことが
出来
(
でき
)
ませうか。
082
アヽ
斯
(
か
)
うなれやお
金
(
かね
)
が
欲
(
ほ
)
しいワイ』
083
妖
(
えう
)
『
俺
(
おれ
)
もお
金
(
かね
)
が
欲
(
ほ
)
しいのだけれど、
084
お
札
(
さつ
)
はあつてもお
金
(
かね
)
は
些
(
すこ
)
しもないのだから、
085
札
(
さつ
)
や
手形
(
てがた
)
は
沢山
(
たくさん
)
あれど
086
どうか(
銅貨
(
どうくわ
)
)こうか(
硬貨
(
かうくわ
)
)に
苦労
(
くらう
)
する
087
とか
何
(
なん
)
とか
云
(
い
)
つてな、
088
硬貨
(
かうくわ
)
が
無
(
な
)
けれや
矢張
(
やつぱり
)
話
(
はな
)
しても
効果
(
かうくわ
)
がないと
云
(
い
)
ふものだ。
089
併
(
しか
)
し
どうか
(
銅貨
(
どうくわ
)
)してあの
家
(
いへ
)
を
手
(
て
)
に
入
(
い
)
れたいものだな』
090
高
(
たか
)
『
硬貨
(
かうくわ
)
がなくても
紙幣
(
しへい
)
さへあれば
結構
(
けつこう
)
ですが、
091
紙
(
かみ
)
らしいものは
鼻紙
(
はなかみ
)
一
(
ひと
)
つ
無
(
な
)
いのだもの、
092
仕方
(
しかた
)
がないワ』
093
杢助
(
もくすけ
)
はニツコと
笑
(
わら
)
ひ
懐
(
ふところ
)
を
三
(
み
)
つ
四
(
よ
)
つ
叩
(
たた
)
き
乍
(
なが
)
ら、
094
『オイ、
095
高
(
たか
)
チヤン、
096
此処
(
ここ
)
に
一寸
(
ちよつと
)
手
(
て
)
を
入
(
い
)
れて
御覧
(
ごらん
)
。
097
お
前
(
まへ
)
の
大好物
(
だいかうぶつ
)
が
目
(
め
)
を
剥
(
む
)
いて
居
(
ゐ
)
るよ』
098
高姫
(
たかひめ
)
は
訝
(
いぶ
)
かりながら
矢庭
(
やには
)
に
妖幻坊
(
えうげんばう
)
の
懐
(
ふところ
)
に
右手
(
みぎて
)
を
挿
(
さ
)
し
込
(
こ
)
むと、
099
切
(
き
)
れるやうな
百円札
(
ひやくゑんさつ
)
が
七八
(
しちはち
)
枚
(
まい
)
手
(
て
)
に
触
(
さは
)
つた。
100
アツと
驚
(
おどろ
)
き
尻餅
(
しりもち
)
をつき、
101
『ヤアヤアヤアこれこれ
杢
(
もく
)
チヤン、
102
危
(
あぶ
)
ない
事
(
こと
)
をしなさるなや。
103
お
前
(
まへ
)
さまは
昨夜
(
ゆうべ
)
妾
(
わたし
)
の
寝
(
ね
)
て
居
(
ゐ
)
る
間
(
ま
)
を
考
(
かんが
)
へて
何処
(
どこ
)
かで
何々
(
なになに
)
して
来
(
き
)
たのだらう、
104
ほんたうに
怖
(
おそ
)
ろしい
人
(
ひと
)
だワ』
105
妖
(
えう
)
『ハヽヽ、
106
さう
驚
(
おどろ
)
くものぢやない、
107
この
杢助
(
もくすけ
)
は
決
(
けつ
)
して
泥棒
(
どろばう
)
なんかしないよ、
108
曲輪
(
まがわ
)
の
術
(
じゆつ
)
を
以
(
もつ
)
て
庭先
(
にはさき
)
の
木
(
こ
)
の
葉
(
は
)
を
拾
(
ひろ
)
ひ
一寸
(
ちよつと
)
紙幣
(
しへい
)
に
化
(
ば
)
かしたのだ』
109
高姫
(
たかひめ
)
は
曲輪
(
まがわ
)
の
術
(
じゆつ
)
と
云
(
い
)
へば
一
(
いち
)
も
二
(
に
)
もなく
信
(
しん
)
ずる
癖
(
くせ
)
がある。
110
『マアマア、
111
偉
(
えら
)
いお
方
(
かた
)
だこと、
112
夫
(
それ
)
でこそ
日出
(
ひのでの
)
神
(
かみ
)
の
生宮
(
いきみや
)
の
夫
(
をつと
)
ですワ。
113
この
金
(
かね
)
さへあれば
一
(
ひと
)
つ
主人
(
しゆじん
)
に
交渉
(
かけあ
)
つて、
114
あの
家
(
いへ
)
を
手
(
て
)
に
入
(
い
)
れるやうにせうぢやありませぬか。
115
裏
(
うら
)
には
又
(
また
)
離棟
(
はなれ
)
も
建
(
た
)
つて
居
(
ゐ
)
ますなり、
116
お
前
(
まへ
)
さまがお
休
(
やす
)
みになるには
大変
(
たいへん
)
都合
(
つがふ
)
がよろしいからなア』
117
妖
(
えう
)
『ウンさうだ。
118
何
(
ど
)
うも
別棟
(
べつむね
)
がないと
俺
(
おれ
)
はとつくり
休
(
やす
)
めないからのう、
119
どうだい
120
お
前
(
まへ
)
主人
(
しゆじん
)
に
交渉
(
かけあ
)
つてくれないか』
121
高
(
たか
)
『ハイ、
122
承知
(
しようち
)
致
(
いた
)
しました』
123
と
云
(
い
)
ひ
乍
(
なが
)
らポンポンと
手
(
て
)
を
拍
(
う
)
ち
鳴
(
な
)
らす、
124
暫
(
しばら
)
くあつて
一人
(
ひとり
)
の
下女
(
げぢよ
)
、
125
襖
(
ふすま
)
をソツと
開
(
ひら
)
き
淑
(
しとやか
)
に
両手
(
りやうて
)
をつき、
126
下女
(
げぢよ
)
『お
召
(
め
)
しになりましたのは
此方
(
こなた
)
で
御座
(
ござ
)
いますか』
127
高
(
たか
)
『アヽさうだよ、
128
お
前
(
まへ
)
は
此家
(
ここ
)
の
下女
(
げぢよ
)
と
見
(
み
)
えるが、
129
下女
(
げぢよ
)
には
用
(
よう
)
がない、
130
一寸
(
ちよつと
)
御
(
ご
)
亭主
(
ていしゆ
)
を
呼
(
よ
)
んで
来
(
き
)
て
下
(
くだ
)
さい、
131
さうして
序
(
ついで
)
に
昨夜
(
ゆうべ
)
の
勘定書
(
かんぢやうがき
)
をね』
132
下女
(
げぢよ
)
は「ハイ
畏
(
かしこまり
)
ました」と
云
(
い
)
ひ
乍
(
なが
)
ら、
133
足早
(
あしばや
)
に
出
(
い
)
でて
行
(
ゆ
)
く。
134
高姫
(
たかひめ
)
は
杢助
(
もくすけ
)
の
懐
(
ふところ
)
から
出
(
で
)
た
紙幣
(
しへい
)
を
引繰
(
ひつくり
)
かへし
引繰
(
ひつくり
)
かへし
眺
(
なが
)
めたが、
135
どうしても
贋物
(
にせもの
)
とは
見
(
み
)
えぬ。
136
勇気
(
ゆうき
)
百倍
(
ひやくばい
)
して
主人
(
しゆじん
)
の
来
(
きた
)
るのを
今
(
いま
)
や
遅
(
おそ
)
しと
待
(
ま
)
つて
居
(
ゐ
)
ると、
137
顔中
(
かほぢう
)
に
みつちや
の
出来
(
でき
)
た
五十
(
ごじふ
)
恰好
(
かつかう
)
の
爺
(
おやぢ
)
、
138
テカテカ
光
(
ひか
)
つた
頭
(
あたま
)
をヌツと
出
(
だ
)
し、
139
亭主
(
ていしゆ
)
『ハイ
私
(
わたし
)
は
当家
(
たうけ
)
の
主人
(
しゆじん
)
で
御座
(
ござ
)
います、
140
お
召
(
めし
)
によりまして
罷
(
まか
)
り
つん
出
(
で
)
ました』
141
高
(
たか
)
『
勘定書
(
かんぢやうがき
)
は
幾何
(
いくら
)
だな』
142
亭
(
てい
)
『ハイ、
143
お
二人
(
ふたり
)
様
(
さま
)
で
一
(
いち
)
円
(
ゑん
)
五十銭
(
ごじつせん
)
頂戴
(
ちやうだい
)
致
(
いた
)
します』
144
高
(
たか
)
『そんなら、
145
これは
茶代
(
ちやだい
)
と
一緒
(
いつしよ
)
だよ』
146
と
云
(
い
)
ひ
乍
(
なが
)
ら
百
(
ひやく
)
円
(
ゑん
)
紙幣
(
しへい
)
を
投
(
な
)
げ
出
(
だ
)
せば、
147
亭主
(
ていしゆ
)
は
驚
(
おどろ
)
いて
二人
(
ふたり
)
の
顔
(
かほ
)
を
見詰
(
みつ
)
め
乍
(
なが
)
ら、
148
『こんな
大
(
おほ
)
きなお
金
(
かね
)
を
頂戴
(
ちやうだい
)
致
(
いた
)
しましても
剰銭
(
おつり
)
が
御座
(
ござ
)
いませぬ、
149
何卒
(
どうぞ
)
小
(
こま
)
かいのでお
願
(
ねが
)
ひ
致
(
いた
)
します』
150
高
(
たか
)
『イヤ
剰銭
(
つり
)
が
無
(
な
)
けりや
宜敷
(
よろし
)
い、
151
一
(
いち
)
円
(
ゑん
)
五十銭
(
ごじつせん
)
は
昨夜
(
さくや
)
の
宿泊料
(
しゆくはくれう
)
、
152
九十八
(
きうじふはち
)
円
(
ゑん
)
五十銭
(
ごじつせん
)
はお
茶代
(
ちやだい
)
だよ』
153
亭
(
てい
)
『
宿屋業
(
やどやげふ
)
組合
(
くみあひ
)
の
規則
(
きそく
)
で
茶代
(
ちやだい
)
を
廃止
(
はいし
)
して
居
(
ゐ
)
る
今日
(
こんにち
)
、
154
こんな
物
(
もの
)
を
頂戴
(
ちやうだい
)
しましては
仲間
(
なかま
)
を
はね
られますから、
155
どうぞお
納
(
をさ
)
め
下
(
くだ
)
さいませ』
156
高
(
たか
)
『アヽ
茶代
(
ちやだい
)
が
悪
(
わる
)
けれや、
157
お
土産
(
みやげ
)
として
上
(
あ
)
げて
置
(
お
)
かう、
158
それなら
好
(
よ
)
いだらう』
159
亭
(
てい
)
『ハイ、
160
お
土産
(
みやげ
)
なら
幾何
(
いくら
)
でも
頂戴
(
ちやうだい
)
致
(
いた
)
します。
161
有難
(
ありがた
)
う
御座
(
ござ
)
います。
162
どうぞゆるゆるお
宿
(
とま
)
り
下
(
くだ
)
さいませ、
163
どうも
不都合
(
ふつがふ
)
で
御座
(
ござ
)
いますが
暫
(
しばら
)
く
御
(
ご
)
辛抱
(
しんばう
)
願
(
ねが
)
ひます』
164
高
(
たか
)
『
時
(
とき
)
に
亭主殿
(
ていしゆどの
)
、
165
旦那
(
だんな
)
様
(
さま
)
の
思召
(
おぼしめし
)
だが、
166
あの
庭先
(
にはさき
)
の
向
(
むか
)
ふに
建
(
た
)
つて
居
(
ゐ
)
る
別館
(
べつくわん
)
は
当家
(
たうけ
)
の
所有物
(
しよいうぶつ
)
かえ』
167
亭
(
てい
)
『ハイ、
168
左様
(
さやう
)
で
御座
(
ござ
)
います。
169
漸
(
やうや
)
く
建
(
た
)
ち
上
(
あが
)
り
畳
(
たたみ
)
や
襖
(
ふすま
)
を
入
(
い
)
れた
処
(
ところ
)
ですが
未
(
ま
)
だ
誰
(
たれ
)
も
入
(
い
)
つて
居
(
を
)
りませぬ、
170
ほんたうに
新
(
あたら
)
しい
所
(
ところ
)
です』
171
高
(
たか
)
『お
金
(
かね
)
は
幾何
(
いくら
)
でも
出
(
だ
)
すから
172
あの
家
(
いへ
)
を
使
(
つか
)
はして
貰
(
もら
)
へますまいかな』
173
亭
(
てい
)
『ハイ、
174
毎度
(
まいど
)
御
(
ご
)
贔屓
(
ひいき
)
に
預
(
あづか
)
りまする
外
(
ほか
)
ならぬお
客様
(
きやくさま
)
の
事
(
こと
)
ですから、
175
お
言葉通
(
ことばどほ
)
り、
176
譲
(
ゆづ
)
りでもお
貸
(
か
)
しでも
致
(
いた
)
します』
177
高
(
たか
)
『
同
(
おな
)
じ
事
(
こと
)
なら
譲
(
ゆづ
)
つて
貰
(
もら
)
ひ
度
(
た
)
いのだがな、
178
借家
(
しやくや
)
は
雑作
(
ざふさく
)
するのにも
一々
(
いちいち
)
お
答
(
こたへ
)
をせにやならないからな』
179
亭
(
てい
)
『
一々
(
いちいち
)
御尤
(
ごもつとも
)
で
御座
(
ござ
)
います、
180
何
(
なん
)
ならお
譲
(
ゆづ
)
り
致
(
いた
)
しませう』
181
高
(
たか
)
『
幾何
(
いくら
)
でわけて
呉
(
く
)
れますか、
182
お
金
(
かね
)
は
幾何
(
いくら
)
いつてもかまはぬのですから』
183
亭
(
てい
)
『
些
(
ちつ
)
とお
高
(
たか
)
いか
知
(
し
)
れませぬが、
184
五百
(
ごひやく
)
円
(
ゑん
)
で
願
(
ねが
)
ひたいものです』
185
高
(
たか
)
『サアそんなら
五百
(
ごひやく
)
円
(
ゑん
)
受
(
う
)
け
取
(
と
)
つて
下
(
くだ
)
さい。
186
さうしてこの
百
(
ひやく
)
円
(
ゑん
)
は
187
何彼
(
なにか
)
とお
世話
(
せわ
)
にならねばならぬから、
188
お
心
(
こころ
)
づけとして
上
(
あ
)
げて
置
(
お
)
きませう』
189
亭主
(
ていしゆ
)
は
実
(
じつ
)
の
処
(
ところ
)
別館
(
べつくわん
)
は
190
借家人
(
しやくやにん
)
が
首
(
くび
)
を
吊
(
つ
)
つて
死
(
し
)
んだ
為
(
た
)
め、
191
夜
(
よ
)
な
夜
(
よ
)
な
幽霊
(
いうれい
)
が
出
(
で
)
るとか
192
化物
(
ばけもの
)
が
出
(
で
)
るとか
噂
(
うはさ
)
が
高
(
たか
)
くなり
193
家
(
いへ
)
の
借
(
か
)
り
手
(
て
)
もなく、
194
家内
(
かない
)
の
者
(
もの
)
さへも
気味
(
きみ
)
悪
(
わる
)
がつて
入
(
はい
)
らないので
持
(
もて
)
余
(
あま
)
して
居
(
を
)
つた
処
(
ところ
)
、
195
大枚
(
たいまい
)
五百
(
ごひやく
)
円
(
ゑん
)
、
196
しかも
即金
(
そくきん
)
で
買
(
か
)
うてやらうと
云
(
い
)
ふのだから、
197
棚
(
たな
)
から
牡丹餅
(
ぼたもち
)
でも
落
(
お
)
ちて
来
(
き
)
たやうに「ハイハイ」と
二
(
ふた
)
つ
返事
(
へんじ
)
で
其
(
その
)
場
(
ば
)
で
売渡証
(
うりわたししよう
)
を
書
(
か
)
いて
仕舞
(
しま
)
つた。
198
これより
杢助
(
もくすけ
)
、
199
高姫
(
たかひめ
)
は
其
(
その
)
日
(
ひ
)
の
中
(
うち
)
に
別館
(
べつくわん
)
に
引
(
ひ
)
き
移
(
うつ
)
り
200
ウラナイ
教
(
けう
)
の
大看板
(
だいかんばん
)
を
掲
(
かか
)
げて、
201
宣伝
(
せんでん
)
の
準備
(
じゆんび
)
に
取
(
と
)
りかかつた。
202
高
(
たか
)
『サア
杢
(
もく
)
チヤン、
203
気楽
(
きらく
)
な
自分
(
じぶん
)
の
巣
(
す
)
が
出来
(
でき
)
たから、
204
ゆつくり
休
(
やす
)
んで
下
(
くだ
)
さい。
205
そして
明日
(
あす
)
からは
大
(
おほい
)
に
活動
(
くわつどう
)
をして
大勢
(
おほぜい
)
の
信者
(
しんじや
)
を
集
(
あつ
)
め、
206
スガの
山
(
やま
)
の
三五教
(
あななひけう
)
に
一泡
(
ひとあわ
)
吹
(
ふ
)
かせにやなりませぬぞや』
207
妖
(
えう
)
『アヽ
又
(
また
)
しても
明日
(
あす
)
から
耳
(
みみ
)
が
蛸
(
たこ
)
になる
程
(
ほど
)
第一
(
だいいち
)
霊国
(
れいごく
)
の
天人
(
てんにん
)
、
208
日出
(
ひのでの
)
神
(
かみ
)
の
生宮
(
いきみや
)
、
209
底津
(
そこつ
)
岩根
(
いはね
)
の
大
(
おほ
)
ミロク、
210
三千
(
さんぜん
)
世界
(
せかい
)
の
救世主
(
きうせいしゆ
)
、
211
ヘグレのヘグレのヘグレ
武者
(
むしや
)
ヘグレ
神社
(
じんじや
)
の
大神
(
おほかみ
)
、
212
リントウビテンの
大神
(
おほかみ
)
、
213
木曽
(
きそ
)
義姫
(
よしひめ
)
の
命
(
みこと
)
、
214
ジヨウドウ
行成
(
ゆきなり
)
、
215
地上丸
(
ちじやうまる
)
、
216
地上姫
(
ちじやうひめ
)
、
217
耕大臣
(
たがやしだいじん
)
、
218
定子姫
(
さだこひめ
)
の
命
(
みこと
)
、
219
杵築姫
(
きつきひめ
)
、
220
言上姫
(
ことじやうひめ
)
とか
何
(
なん
)
とか
云
(
い
)
ふ
やくざ
神
(
がみ
)
さまの
名
(
な
)
を
聞
(
き
)
くのかと
思
(
おも
)
へば
221
今
(
いま
)
から
頭
(
あたま
)
が
痛
(
いた
)
むやうだワイ』
222
高
(
たか
)
『これ
杢
(
もく
)
チヤン、
223
これ
程
(
ほど
)
妾
(
わたし
)
が
一生
(
いつしやう
)
懸命
(
けんめい
)
になつて
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
のお
道
(
みち
)
を
開
(
ひら
)
かうとして
居
(
ゐ
)
るのに、
224
何時
(
いつ
)
も
何時
(
いつ
)
も
妾
(
わたし
)
を
嘲弄
(
てうろう
)
するのですか。
225
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
名
(
な
)
を
聞
(
き
)
いて
頭
(
あたま
)
が
痛
(
いた
)
いの、
226
目
(
め
)
が
眩
(
も
)
うのと
云
(
い
)
ふ
人
(
ひと
)
は
罰当
(
ばちあた
)
りですよ』
227
妖
(
えう
)
『さうだから、
228
ウラナイ
教
(
けう
)
はお
前様
(
まへさま
)
にお
任
(
まか
)
せ
申
(
まを
)
して
229
この
杢兵衛
(
もくべゑ
)
さまは
離棟
(
はなれ
)
の
一室
(
ひとま
)
に
立籠
(
たてこも
)
り
上
(
あ
)
げ
股
(
また
)
うつて
休
(
やす
)
まして
貰
(
もら
)
ふのだ。
230
宣伝
(
せんでん
)
の
邪魔
(
じやま
)
をしても
済
(
す
)
まないからなア』
231
高
(
たか
)
『お
前
(
まへ
)
さまは
余
(
あま
)
り
人物
(
じんぶつ
)
が
大
(
おほ
)
き
過
(
す
)
ぎて
人民
(
じんみん
)
に
直接
(
ちよくせつ
)
の
布教
(
ふけう
)
は
不適当
(
ふてきたう
)
だから
232
昼
(
ひる
)
の
間
(
あひだ
)
は
離棟
(
はなれ
)
でお
休
(
やす
)
みなさい、
233
そのかはり
夜分
(
やぶん
)
になつたら
御用
(
ごよう
)
を
仰
(
おほ
)
せつけて
上
(
あ
)
げますからねえ、
234
ほんとに
嬉
(
うれ
)
しいでせう、
235
可愛
(
かあい
)
いでせう』
236
妖
(
えう
)
『まるで
俺
(
おれ
)
を
種馬
(
たねうま
)
と
間違
(
まちが
)
へて
居
(
ゐ
)
るやうだなア。
237
どれどれ
山
(
やま
)
の
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
御
(
ご
)
機嫌
(
きげん
)
のよい
中
(
うち
)
に
離棟
(
はなれ
)
に
参
(
まゐ
)
りませう。
238
サアこれから
日出
(
ひのでの
)
神
(
かみ
)
の
生宮
(
いきみや
)
、
239
大
(
おほ
)
ミロクさまを
売
(
う
)
り
出
(
だ
)
しなさい』
240
と
云
(
い
)
ひ
乍
(
なが
)
らドシンドシンと
床板
(
とこいた
)
をしわらせ
乍
(
なが
)
ら
離棟
(
はなれ
)
座敷
(
ざしき
)
へ
大
(
おほ
)
きな
図体
(
づうたい
)
を
運
(
はこ
)
び、
241
中
(
なか
)
から
錠
(
ぢやう
)
まい
を
卸
(
おろ
)
し
元
(
もと
)
の
怪物
(
くわいぶつ
)
と
還元
(
くわんげん
)
し
大鼾声
(
おほいびき
)
をかき
寝
(
ね
)
て
仕舞
(
しま
)
つた。
242
妖幻坊
(
えうげんばう
)
は
人間
(
にんげん
)
に
化
(
ば
)
けて
居
(
ゐ
)
るのが
非常
(
ひじやう
)
に
苦
(
くる
)
しいので、
243
外
(
そと
)
から
見
(
み
)
えない
一室
(
いつしつ
)
を
何時
(
いつ
)
も
必要
(
ひつえう
)
として
居
(
ゐ
)
るのである。
244
高姫
(
たかひめ
)
はいよいよ
一陽
(
いちやう
)
来復
(
らいふく
)
春陽
(
しゆんやう
)
到
(
いた
)
れりと
太
(
ふと
)
いお
尻
(
しり
)
を
振
(
ふ
)
り
乍
(
なが
)
ら
245
大道
(
だいだう
)
を
声
(
こゑ
)
張
(
はり
)
上
(
あ
)
げて
宣伝
(
せんでん
)
し
初
(
はじ
)
めた。
246
尻
(
しり
)
は
大
(
おほ
)
きいが
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
つても
千草姫
(
ちぐさひめ
)
の
肉体
(
にくたい
)
、
247
何処
(
どこ
)
とはなしに
気品
(
きひん
)
も
高
(
たか
)
く
器量
(
きりやう
)
もよし、
248
物
(
もの
)
さへ
云
(
い
)
はねば
何処
(
いづこ
)
の
貴夫人
(
きふじん
)
か、
249
弁天
(
べんてん
)
様
(
さま
)
の
再来
(
さいらい
)
かと
疑
(
うたが
)
はるる
許
(
ばか
)
りの
美貌
(
びばう
)
であつた。
250
高姫
(
たかひめ
)
の
必死
(
ひつし
)
の
宣伝
(
せんでん
)
は
忽
(
たちま
)
ち
功
(
こう
)
を
奏
(
そう
)
したと
見
(
み
)
え、
251
其
(
その
)
翌日
(
よくじつ
)
からはワイワイと
老若
(
らうにやく
)
男女
(
なんによ
)
が
詰
(
つ
)
めかけて
鮓詰
(
すしづめ
)
の
大繁昌
(
だいはんじやう
)
、
252
スガ
山
(
やま
)
の
神殿
(
しんでん
)
よりも
参詣者
(
さんけいしや
)
が
幾層倍
(
いくそうばい
)
増
(
ふ
)
へるやうになつて
来
(
き
)
た。
253
(
大正一五・六・三〇
旧五・二一
於天之橋立なかや旅館
加藤明子
録)
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