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第一四章 新宅入(しんたくいり)〔一八二三〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第72巻 山河草木 亥の巻 篇:第2篇 杢迂拙婦 よみ(新仮名遣い):もくうせっぷ
章:第14章 新宅入 よみ(新仮名遣い):しんたくいり 通し章番号:1823
口述日:1926(大正15)年06月30日(旧05月21日) 口述場所:天之橋立なかや別館 筆録者:加藤明子 校正日: 校正場所: 初版発行日:1929(昭和4)年4月3日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]
高姫と妖幻坊の杢助は、海を渡ってようやくスガの港にやってきた。
噂に、三五教の大宮が建てられたと聞くと、なんとかしてその聖場を奪おうと思案を始めた。
手始めに、宿泊している旅館の別館を買い取ろうと、妖幻坊は曲輪の術を使い、庭の木の葉をお金に変えてしまう。
高姫そのお金で買い取った別館に、ウラナイ教の大看板を掲げて、宣伝の準備を始めた。
一方妖幻坊は、人から見えないように離れ座敷を作らせ、元の怪物の姿になって居座っている。
高姫は、今は元王妃の肉体に宿っているため、その気品と美貌で宣伝は功を奏し、ウラナイ教は大繁盛しだした。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる] 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2019-02-12 13:29:47 OBC :rm7214
愛善世界社版:165頁 八幡書店版:第12輯 662頁 修補版: 校定版:172頁 普及版:64頁 初版: ページ備考:
001ハルの湖水(こすい)(わた)(をり)
002(にはか)()()暴風(ばうふう)
003高砂丸(たかさごまる)沈没(ちんぼつ)
004妖幻坊(えうげんばう)杢助(もくすけ)
005高姫(たかひめ)(せな)()(なが)
006(なみ)()()(ただよ)ひつ
007(やうや)湖中(こちう)(うか)びたる
008(たけ)()(しげ)太魔(たま)(しま)
009銀杏(いてふ)浜辺(はまべ)()きにけり
010(ここ)二人(ふたり)種々(いろいろ)
011()からぬ(こと)をなし()へて
012浜辺(はまべ)(ふね)(うば)ひとり
013杢助(もくすけ)()をば(あや)つりつ
014もとより()れぬ(うみ)(うへ)
015(なみ)のまにまにくるくると
016彼方(あなた)此方(こなた)(なが)されつ
017終日(しうじつ)終夜(しうや)(みづ)(うへ)
018(はら)()かして彷徨(さまよ)ひつ
019やうやうスガの(みなと)(まで)
020(いのち)辛々(からがら)()きにける
021高姫(たかひめ)杢助(もくすけ)両人(りやうにん)
022湖辺(こへん)沿()ひし饂飩屋(うどんや)
023一寸(ちよつと)()()減腹(すきばら)
024(いや)せる(をり)しも(みち)()
025(ひと)(うはさ)にスガの(やま)
026三五教(あななひけう)大宮(おほみや)
027千木(ちぎ)(たか)()りて(あたら)しく
028()てられたりと()くよりも
029食指(しよくし)(おほ)いに(うご)()
030(なん)とか工夫(くふう)(めぐ)らして
031(その)聖場(せいぢやう)(うば)はむと
032(かんが)()るこそ(むし)()
033()黄昏(たそがれ)になりければ
034目抜(めぬ)きの場所(ばしよ)なる(なか)(まち)
035タルヤ旅館(りよくわん)()()んで
036一夜(いちや)宿(やど)(もと)めつつ
037二人(ふたり)此処(ここ)にやすやすと
038(あま)(ねむ)りにつきにけり。
039 高姫(たかひめ)040杢助(もくすけ)(あさ)(はや)くから()()でて宿屋(やどや)様子(やうす)(かんが)へて()ると、041()割合(わり)とは(ひろ)屋敷(やしき)(あたら)しい別館(べつくわん)()つて()る。042さうして(その)別館(べつくわん)北町(きたまち)街道(かいだう)(めん)し、043布教(ふけう)宣伝(せんでん)には(きは)めて()家構(いへがまへ)であつた。044妖幻坊(えうげんばう)曲輪(まがわ)(じゆつ)使(つか)ひ、045庭先(にはさき)()()七八(しちはち)(まい)(ひろ)つて()(なに)かムサムサ文言(もんごん)(とな)へると、046それが(たちま)百円札(ひやくゑんさつ)(かは)つて仕舞(しま)つた。047そつと懐中(ふところ)()()素知(そし)らぬ(かほ)して高姫(たかひめ)(まへ)にどつかと()し、
048『オイ、049千草(ちぐさ)(たか)チヤン、050(なん)此処(ここ)()家構(いへがまへ)ぢやないか。051(まへ)得意(とくい)布教(ふけう)宣伝(せんでん)とやらを此処(ここ)()つたら面白(おもしろ)からうよ』
052(たか)成程(なるほど)053(さすが)杢助(もくすけ)さまだ。054よう()がつきますこと、055(わたし)(ひと)三五教(あななひけう)(やつ)がスガの(やま)立派(りつぱ)なお(みや)()て、056大変(たいへん)(えら)(いきほひ)宣伝(せんでん)して()ると()(こと)だから、057(なん)だか()らぬ気色(きしよく)(わる)くて(たま)らぬので、058直様(すぐさま)スガの(やま)()()んで、059神司(かむつかさ)(つら)(かは)をひん()き、060道場破(だうぢやうやぶ)りをやつてやらうかとも(かんが)へましたが、061それでは(あま)りあどけない、062無理(むり)占領(せんりやう)したと町人(ちやうにん)にでも(おも)はれちや(のち)信用(しんよう)(くわん)するので063如何(どう)せうかなアと(いま)(かんが)へて()(ところ)ですよ。064(しか)(なに)(ほど)結構(けつこう)都合(つがふ)のよい(いへ)だと()つても065一旦(いつたん)(うみ)にはまつて真裸(まつぱだか)となり、066旅費(りよひ)(なに)もなくなつて仕舞(しま)つたのだから、067(いへ)(かり)やうもなく、0671仕方(しかた)がないぢやありませぬか。068()うして(えら)さうに宿屋(やどや)(とま)つて()るものの、069サア()勘定(かんぢやう)()(とき)如何(どう)せうかと(おも)つて、070さう(おも)()すと宿屋(やどや)(めし)(うま)(のど)(とほ)らないのですもの、071今晩(こんばん)(うま)夜抜(よぬ)けをしないと072グヅグヅして()ると無銭(むせん)飲食(いんしよく)とか(なん)とか()つて073バラモンの役所(やくしよ)引張(ひつぱ)られますからなア』
074『ハヽヽヽ()心配(しんぱい)()無用(むよう)だ。075そんな(こと)抜目(ぬけめ)のある杢助(もくすけ)だないよ。076一層(いつそう)(こと)077あの別館(べつくわん)主人(しゆじん)相談(さうだん)して買取(かひと)つたらどうだらう』
078(たか)買取(かひと)ると()つたつてお(かね)がなけれや仕様(しやう)がないぢやありませぬか。079せめて手附金(てつけきん)でもあれば(はなし)出来(でき)ますが、080昨夜(ゆうべ)宿料(やどれう)もないやうな(こと)で、081如何(どう)してそんなことが出来(でき)ませうか。082アヽ()うなれやお(かね)()しいワイ』
083(えう)(おれ)もお(かね)()しいのだけれど、084(さつ)はあつてもお(かね)(すこ)しもないのだから、
085(さつ)手形(てがた)沢山(たくさん)あれど
086 どうか(銅貨(どうくわ))こうか(硬貨(かうくわ))に苦労(くらう)する
087とか(なん)とか()つてな、088硬貨(かうくわ)()けれや矢張(やつぱり)(はな)しても効果(かうくわ)がないと()ふものだ。089(しか)どうか銅貨(どうくわ))してあの(いへ)()()れたいものだな』
090(たか)硬貨(かうくわ)がなくても紙幣(しへい)さへあれば結構(けつこう)ですが、091(かみ)らしいものは鼻紙(はなかみ)(ひと)()いのだもの、092仕方(しかた)がないワ』
093 杢助(もくすけ)はニツコと(わら)(ふところ)()()(たた)(なが)ら、
094『オイ、095(たか)チヤン、096此処(ここ)一寸(ちよつと)()()れて御覧(ごらん)097(まへ)大好物(だいかうぶつ)()()いて()るよ』
098 高姫(たかひめ)(いぶ)かりながら矢庭(やには)妖幻坊(えうげんばう)(ふところ)右手(みぎて)()()むと、099()れるやうな百円札(ひやくゑんさつ)七八(しちはち)(まい)()(さは)つた。100アツと(おどろ)尻餅(しりもち)をつき、
101『ヤアヤアヤアこれこれ(もく)チヤン、102(あぶ)ない(こと)をしなさるなや。103(まへ)さまは昨夜(ゆうべ)(わたし)()()()(かんが)へて何処(どこ)かで何々(なになに)して()たのだらう、104ほんたうに(おそ)ろしい(ひと)だワ』
105(えう)『ハヽヽ、106さう(おどろ)くものぢやない、107この杢助(もくすけ)(けつ)して泥棒(どろばう)なんかしないよ、108曲輪(まがわ)(じゆつ)(もつ)庭先(にはさき)()()(ひろ)一寸(ちよつと)紙幣(しへい)()かしたのだ』
109 高姫(たかひめ)曲輪(まがわ)(じゆつ)()へば(いち)()もなく(しん)ずる(くせ)がある。
110『マアマア、111(えら)いお(かた)だこと、112(それ)でこそ日出(ひのでの)(かみ)生宮(いきみや)(をつと)ですワ。113この(かね)さへあれば(ひと)主人(しゆじん)交渉(かけあ)つて、114あの(いへ)()()れるやうにせうぢやありませぬか。115(うら)には(また)離棟(はなれ)()つて()ますなり、116(まへ)さまがお(やす)みになるには大変(たいへん)都合(つがふ)がよろしいからなア』
117(えう)『ウンさうだ。118()うも別棟(べつむね)がないと(おれ)はとつくり(やす)めないからのう、119どうだい120(まへ)主人(しゆじん)交渉(かけあ)つてくれないか』
121(たか)『ハイ、122承知(しようち)(いた)しました』
123()(なが)らポンポンと()()()らす、124(しばら)くあつて一人(ひとり)下女(げぢよ)125(ふすま)をソツと(ひら)(しとやか)両手(りやうて)をつき、
126下女(げぢよ)『お()しになりましたのは此方(こなた)御座(ござ)いますか』
127(たか)『アヽさうだよ、128(まへ)此家(ここ)下女(げぢよ)()えるが、129下女(げぢよ)には(よう)がない、130一寸(ちよつと)()亭主(ていしゆ)()んで()(くだ)さい、131さうして(ついで)昨夜(ゆうべ)勘定書(かんぢやうがき)をね』
132 下女(げぢよ)は「ハイ(かしこまり)ました」と()(なが)ら、133足早(あしばや)()でて()く。134高姫(たかひめ)杢助(もくすけ)(ふところ)から()紙幣(しへい)引繰(ひつくり)かへし引繰(ひつくり)かへし(なが)めたが、135どうしても贋物(にせもの)とは()えぬ。136勇気(ゆうき)百倍(ひやくばい)して主人(しゆじん)(きた)るのを(いま)(おそ)しと()つて()ると、137顔中(かほぢう)みつちや出来(でき)五十(ごじふ)恰好(かつかう)(おやぢ)138テカテカ(ひか)つた(あたま)をヌツと()し、
139亭主(ていしゆ)『ハイ(わたし)当家(たうけ)主人(しゆじん)御座(ござ)います、140(めし)によりまして(まか)つん()ました』
141(たか)勘定書(かんぢやうがき)幾何(いくら)だな』
142(てい)『ハイ、143二人(ふたり)(さま)(いち)(ゑん)五十銭(ごじつせん)頂戴(ちやうだい)(いた)します』
144(たか)『そんなら、145これは茶代(ちやだい)一緒(いつしよ)だよ』
146()(なが)(ひやく)(ゑん)紙幣(しへい)()()せば、147亭主(ていしゆ)(おどろ)いて二人(ふたり)(かほ)見詰(みつ)(なが)ら、
148『こんな(おほ)きなお(かね)頂戴(ちやうだい)(いた)しましても剰銭(おつり)御座(ござ)いませぬ、149何卒(どうぞ)(こま)かいのでお(ねが)(いた)します』
150(たか)『イヤ剰銭(つり)()けりや宜敷(よろし)い、151(いち)(ゑん)五十銭(ごじつせん)昨夜(さくや)宿泊料(しゆくはくれう)152九十八(きうじふはち)(ゑん)五十銭(ごじつせん)はお茶代(ちやだい)だよ』
153(てい)宿屋業(やどやげふ)組合(くみあひ)規則(きそく)茶代(ちやだい)廃止(はいし)して()今日(こんにち)154こんな(もの)頂戴(ちやうだい)しましては仲間(なかま)はねられますから、155どうぞお(をさ)(くだ)さいませ』
156(たか)『アヽ茶代(ちやだい)(わる)けれや、157土産(みやげ)として()げて()かう、158それなら()いだらう』
159(てい)『ハイ、160土産(みやげ)なら幾何(いくら)でも頂戴(ちやうだい)(いた)します。161有難(ありがた)御座(ござ)います。162どうぞゆるゆるお宿(とま)(くだ)さいませ、163どうも不都合(ふつがふ)御座(ござ)いますが(しばら)()辛抱(しんばう)(ねが)ひます』
164(たか)(とき)亭主殿(ていしゆどの)165旦那(だんな)(さま)思召(おぼしめし)だが、166あの庭先(にはさき)(むか)ふに()つて()別館(べつくわん)当家(たうけ)所有物(しよいうぶつ)かえ』
167(てい)『ハイ、168左様(さやう)御座(ござ)います。169(やうや)()(あが)(たたみ)(ふすま)()れた(ところ)ですが()(たれ)()つて()りませぬ、170ほんたうに(あたら)しい(ところ)です』
171(たか)『お(かね)幾何(いくら)でも()すから172あの(いへ)使(つか)はして(もら)へますまいかな』
173(てい)『ハイ、174毎度(まいど)()贔屓(ひいき)(あづか)りまする(ほか)ならぬお客様(きやくさま)(こと)ですから、175言葉通(ことばどほ)り、176(ゆづ)りでもお()しでも(いた)します』
177(たか)(おな)(こと)なら(ゆづ)つて(もら)()いのだがな、178借家(しやくや)雑作(ざふさく)するのにも一々(いちいち)(こたへ)をせにやならないからな』
179(てい)一々(いちいち)御尤(ごもつとも)御座(ござ)います、180(なん)ならお(ゆづ)(いた)しませう』
181(たか)幾何(いくら)でわけて()れますか、182(かね)幾何(いくら)いつてもかまはぬのですから』
183(てい)(ちつ)とお(たか)いか()れませぬが、184五百(ごひやく)(ゑん)(ねが)ひたいものです』
185(たか)『サアそんなら五百(ごひやく)(ゑん)()()つて(くだ)さい。186さうしてこの(ひやく)(ゑん)187何彼(なにか)とお世話(せわ)にならねばならぬから、188(こころ)づけとして()げて()きませう』
189 亭主(ていしゆ)(じつ)(ところ)別館(べつくわん)190借家人(しやくやにん)(くび)()つて()んだ()め、191()()幽霊(いうれい)()るとか192化物(ばけもの)()るとか(うはさ)(たか)くなり193(いへ)()()もなく、194家内(かない)(もの)さへも気味(きみ)(わる)がつて(はい)らないので(もて)(あま)して()つた(ところ)195大枚(たいまい)五百(ごひやく)(ゑん)196しかも即金(そくきん)()うてやらうと()ふのだから、197(たな)から牡丹餅(ぼたもち)でも()ちて()たやうに「ハイハイ」と(ふた)返事(へんじ)(その)()売渡証(うりわたししよう)()いて仕舞(しま)つた。198これより杢助(もくすけ)199高姫(たかひめ)(その)()(うち)別館(べつくわん)()(うつ)200ウラナイ(けう)大看板(だいかんばん)(かか)げて、201宣伝(せんでん)準備(じゆんび)()りかかつた。
202(たか)『サア(もく)チヤン、203気楽(きらく)自分(じぶん)()出来(でき)たから、204ゆつくり(やす)んで(くだ)さい。205そして明日(あす)からは(おほい)活動(くわつどう)をして大勢(おほぜい)信者(しんじや)(あつ)め、206スガの(やま)三五教(あななひけう)一泡(ひとあわ)()かせにやなりませぬぞや』
207(えう)『アヽ(また)しても明日(あす)から(みみ)(たこ)になる(ほど)第一(だいいち)霊国(れいごく)天人(てんにん)208日出(ひのでの)(かみ)生宮(いきみや)209底津(そこつ)岩根(いはね)(おほ)ミロク、210三千(さんぜん)世界(せかい)救世主(きうせいしゆ)211ヘグレのヘグレのヘグレ武者(むしや)ヘグレ神社(じんじや)大神(おほかみ)212リントウビテンの大神(おほかみ)213木曽(きそ)義姫(よしひめ)(みこと)214ジヨウドウ行成(ゆきなり)215地上丸(ちじやうまる)216地上姫(ちじやうひめ)217耕大臣(たがやしだいじん)218定子姫(さだこひめ)(みこと)219杵築姫(きつきひめ)220言上姫(ことじやうひめ)とか(なん)とか()やくざ(がみ)さまの()()くのかと(おも)へば221(いま)から(あたま)(いた)むやうだワイ』
222(たか)『これ(もく)チヤン、223これ(ほど)(わたし)一生(いつしやう)懸命(けんめい)になつて(かみ)(さま)のお(みち)(ひら)かうとして()るのに、224何時(いつ)何時(いつ)(わたし)嘲弄(てうろう)するのですか。225(かみ)(さま)()()いて(あたま)(いた)いの、226()()うのと()(ひと)罰当(ばちあた)りですよ』
227(えう)『さうだから、228ウラナイ(けう)はお前様(まへさま)にお(まか)(まを)して229この杢兵衛(もくべゑ)さまは離棟(はなれ)一室(ひとま)立籠(たてこも)()(また)うつて(やす)まして(もら)ふのだ。230宣伝(せんでん)邪魔(じやま)をしても()まないからなア』
231(たか)『お(まへ)さまは(あま)人物(じんぶつ)(おほ)()ぎて人民(じんみん)直接(ちよくせつ)布教(ふけう)不適当(ふてきたう)だから232(ひる)(あひだ)離棟(はなれ)でお(やす)みなさい、233そのかはり夜分(やぶん)になつたら御用(ごよう)(おほ)せつけて()げますからねえ、234ほんとに(うれ)しいでせう、235可愛(かあい)いでせう』
236(えう)『まるで(おれ)種馬(たねうま)間違(まちが)へて()るやうだなア。237どれどれ(やま)(かみ)(さま)()機嫌(きげん)のよい(うち)離棟(はなれ)(まゐ)りませう。238サアこれから日出(ひのでの)(かみ)生宮(いきみや)239(おほ)ミロクさまを()()しなさい』
240()(なが)らドシンドシンと床板(とこいた)をしわらせ(なが)離棟(はなれ)座敷(ざしき)(おほ)きな図体(づうたい)(はこ)び、241(なか)から(ぢやう)まい(おろ)(もと)怪物(くわいぶつ)還元(くわんげん)大鼾声(おほいびき)をかき()仕舞(しま)つた。242妖幻坊(えうげんばう)人間(にんげん)()けて()るのが非常(ひじやう)(くる)しいので、243(そと)から()えない一室(いつしつ)何時(いつ)必要(ひつえう)として()るのである。244高姫(たかひめ)はいよいよ一陽(いちやう)来復(らいふく)春陽(しゆんやう)(いた)れりと(ふと)いお(しり)()(なが)245大道(だいだう)(こゑ)(はり)()げて宣伝(せんでん)(はじ)めた。246(しり)(おほ)きいが(なん)()つても千草姫(ちぐさひめ)肉体(にくたい)247何処(どこ)とはなしに気品(きひん)(たか)器量(きりやう)もよし、248(もの)さへ()はねば何処(いづこ)貴夫人(きふじん)か、249弁天(べんてん)(さま)再来(さいらい)かと(うたが)はるる(ばか)りの美貌(びばう)であつた。250高姫(たかひめ)必死(ひつし)宣伝(せんでん)(たちま)(こう)(そう)したと()え、251(その)翌日(よくじつ)からはワイワイと老若(らうにやく)男女(なんによ)()めかけて鮓詰(すしづめ)大繁昌(だいはんじやう)252スガ(やま)神殿(しんでん)よりも参詣者(さんけいしや)幾層倍(いくそうばい)()へるやうになつて()た。
253大正一五・六・三〇 旧五・二一 於天之橋立なかや旅館 加藤明子録)
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