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第61巻(子の巻)
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第77巻(辰の巻)
第78巻(巳の巻)
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第72巻(亥の巻)
序文
総説
第1篇 水波洋妖
01 老の高砂
〔1810〕
02 時化の湖
〔1811〕
03 厳の欵乃
〔1812〕
04 銀杏姫
〔1813〕
05 蛸船
〔1814〕
06 夜鷹姫
〔1815〕
07 鰹の網引
〔1816〕
第2篇 杢迂拙婦
08 街宣
〔1817〕
09 欠恋坊
〔1818〕
10 清の歌
〔1819〕
11 問答所
〔1820〕
12 懺悔の生活
〔1821〕
13 捨台演
〔1822〕
14 新宅入
〔1823〕
15 災会
〔1824〕
16 東西奔走
〔1825〕
第3篇 転化退閉
17 六樫問答
〔1826〕
18 法城渡
〔1827〕
19 旧場皈
〔1828〕
20 九官鳥
〔1829〕
21 大会合
〔1830〕
22 妖魅帰
〔1831〕
筑紫潟
余白歌
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第九章
欠恋坊
(
かくれんばう
)
〔一八一八〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第72巻 山河草木 亥の巻
篇:
第2篇 杢迂拙婦
よみ(新仮名遣い):
もくうせっぷ
章:
第9章 欠恋坊
よみ(新仮名遣い):
かくれんぼう
通し章番号:
1818
口述日:
1926(大正15)年06月30日(旧05月21日)
口述場所:
天之橋立なかや別館
筆録者:
北村隆光
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1929(昭和4)年4月3日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
アリスは二人の子供が帰ってきたのに狂喜し、逆に病は重くなってしまう。ダリヤはそれを憂いて、スガ山の山王神社に夜、ひそかに参詣して父親の平癒を祈る。
そこへ玄真坊が神素盞嗚大神の化身と偽ってやってきて、たぶらかして連れ去ったのであった。そして二人はタニグク山の岩窟へやってくる(このお話は、第六十七巻の第十四章へと続きます)。
一方、長者の宅では、兄のイルクが妹の行方不明に心を痛め、ヨリコ姫に善後策を相談していた。すると、それまですやすやと眠っていた花香姫が目を覚まし、夢を報告する。
夢の中で、ダリヤはオーラ山の玄真坊にかどわかされたが、汚されることなく、二ヵ月後に立派な人に送られて戻ってくる、と知らされたのであった。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2018-12-20 00:48:12
OBC :
rm7209
愛善世界社版:
106頁
八幡書店版:
第12輯 643頁
修補版:
校定版:
110頁
普及版:
42頁
初版:
ページ備考:
001
吾
(
わが
)
子
(
こ
)
の
行衛
(
ゆくゑ
)
は
如何
(
いか
)
にぞと
002
待
(
ま
)
ち
焦
(
こが
)
れたる
父親
(
てておや
)
の
003
アリスの
親爺
(
おやぢ
)
は
両人
(
りやうにん
)
が
004
三五教
(
あななひけう
)
の
梅公別
(
うめこうわけ
)
005
神
(
かみ
)
の
司
(
つかさ
)
に
送
(
おく
)
られて
006
二人
(
ふたり
)
ニコニコ
帰
(
かへ
)
りしゆ
007
狂喜
(
きやうき
)
のあまり
逆上
(
ぎやくじやう
)
し
008
愈
(
いよいよ
)
病
(
やまひ
)
は
重
(
おも
)
りつつ
009
頭
(
あたま
)
痛
(
いた
)
むと
云
(
い
)
ひ
乍
(
なが
)
ら
010
財産
(
ざいさん
)
全部
(
ぜんぶ
)
を
投
(
な
)
げ
出
(
だ
)
して
011
奥
(
おく
)
の
間
(
ま
)
深
(
ふか
)
く
隠
(
かく
)
れけり
012
ダリヤの
姫
(
ひめ
)
は
驚
(
おどろ
)
いて
013
恋
(
こひ
)
しき
父
(
ちち
)
の
病
(
やまひ
)
をば
014
癒
(
いや
)
さむ
為
(
ため
)
にスガ
山
(
やま
)
の
015
山王
(
さんわう
)
神社
(
じんじや
)
に
夜
(
よる
)
密
(
ひそ
)
か
016
忍
(
しの
)
び
忍
(
しの
)
びに
参
(
ま
)
ゐ
詣
(
まう
)
で
017
真心
(
まごころ
)
籠
(
こ
)
めて
祈
(
いの
)
り
居
(
ゐ
)
る
018
時
(
とき
)
しもあれや
薄暗
(
うすやみ
)
を
019
ぼかしてヌツと
現
(
あら
)
はれし
020
白髪
(
はくはつ
)
異様
(
いやう
)
の
物影
(
ものかげ
)
は
021
祠
(
ほこら
)
の
前
(
まへ
)
に
悠々
(
いういう
)
と
022
近
(
ちか
)
より
来
(
きた
)
り
厳
(
おごそ
)
かに
023
声
(
こゑ
)
を
静
(
しづ
)
めて
告
(
つ
)
ぐるやう
024
『
吾
(
われ
)
は
尊
(
たふと
)
き
三五
(
あななひ
)
の
025
瑞
(
みづ
)
の
柱
(
はしら
)
と
聞
(
きこ
)
えたる
026
神
(
かむ
)
素盞嗚
(
すさのを
)
の
尊
(
みこと
)
ぞや
027
汝
(
なんぢ
)
の
家
(
いへ
)
は
昔
(
むかし
)
より
028
スガの
港
(
みなと
)
に
隠
(
かく
)
れなき
029
百万
(
ひやくまん
)
長者
(
ちやうじや
)
と
聞
(
きこ
)
えたる
030
万
(
よろづ
)
の
民
(
たみ
)
の
怨府
(
ゑんぷ
)
ぞや
031
その
罪
(
つみ
)
今
(
いま
)
に
報
(
むく
)
い
来
(
き
)
て
032
汝
(
なんぢ
)
の
母
(
はは
)
は
逸早
(
いちはや
)
く
033
この
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
ゆ
身
(
み
)
を
隠
(
かく
)
し
034
或
(
あ
)
る
山里
(
やまざと
)
へ
救
(
すく
)
はれて
035
細
(
ほそ
)
き
煙
(
けむり
)
を
立
(
た
)
て
乍
(
なが
)
ら
036
尼僧
(
にそう
)
生活
(
せいくわつ
)
営
(
いとな
)
みつ
037
汝
(
なんぢ
)
が
家
(
いへ
)
の
冥福
(
めいふく
)
を
038
祈
(
いの
)
り
居
(
ゐ
)
るこそ
憐
(
あは
)
れなる
039
しかのみならず
汝
(
な
)
が
父
(
ちち
)
の
040
アリスは
今
(
いま
)
や
重病
(
ぢうびやう
)
に
041
罹
(
かか
)
りて
生命
(
せいめい
)
危篤
(
きとく
)
なり
042
此
(
こ
)
の
難関
(
なんくわん
)
を
恙
(
つつが
)
なく
043
切
(
き
)
り
抜
(
ぬ
)
けなむと
思
(
おも
)
ふなら
044
吾
(
われ
)
の
教
(
をしへ
)
に
従
(
したが
)
ひて
045
大谷山
(
おほたにやま
)
の
谷間
(
たにあひ
)
に
046
神代
(
かみよ
)
の
昔
(
むかし
)
ゆ
降
(
くだ
)
り
在
(
ま
)
す
047
栄
(
さか
)
えの
神
(
かみ
)
の
御
(
おん
)
前
(
まへ
)
に
048
一日
(
ひとひ
)
も
早
(
はや
)
く
詣
(
まう
)
で
見
(
み
)
よ
049
吾
(
われ
)
は
汝
(
なんぢ
)
の
案内
(
あない
)
して
050
人目
(
ひとめ
)
を
忍
(
しの
)
び
夜
(
よる
)
の
道
(
みち
)
051
助
(
たす
)
け
行
(
ゆ
)
かなむダリヤ
姫
(
ひめ
)
052
答
(
いらへ
)
如何
(
いかに
)
』と
厳
(
おごそ
)
かに
053
宣
(
の
)
ればダリヤは
首
(
くび
)
傾
(
かた
)
げ
054
怪
(
あや
)
しみ
乍
(
なが
)
ら
言葉
(
ことば
)
なく
055
思案
(
しあん
)
にくれて
居
(
ゐ
)
たりしが
056
パツと
輝
(
かがや
)
く
火
(
ひ
)
の
光
(
ひかり
)
057
ハツと
驚
(
おどろ
)
き
眺
(
なが
)
むれば
058
又
(
また
)
もや
火影
(
ほかげ
)
はパツと
消
(
き
)
ゆ
059
此
(
こ
)
の
不思議
(
ふしぎ
)
なる
出来事
(
できごと
)
に
060
ダリヤの
心
(
こころ
)
は
動
(
うご
)
きつつ
061
心
(
こころ
)
定
(
さだ
)
めて
答
(
こた
)
へらく
062
『
神
(
かむ
)
素盞嗚
(
すさのをの
)
大神
(
おほかみ
)
か
063
山王
(
さんわう
)
神社
(
じんじや
)
の
御
(
ご
)
化身
(
けしん
)
か
064
妾
(
わたし
)
にや
少
(
すこ
)
しも
分
(
わか
)
らねど
065
人間離
(
にんげんばな
)
れのしたお
方
(
かた
)
066
仮令
(
たとへ
)
鬼神
(
きしん
)
であらうとも
067
斯
(
か
)
かる
妙術
(
めうじゆつ
)
ある
上
(
うへ
)
は
068
如何
(
いか
)
なる
願
(
ねがひ
)
もスクスクに
069
叶
(
かな
)
はせ
玉
(
たま
)
ふ
事
(
こと
)
ならむ
070
御
(
おん
)
身
(
み
)
の
後
(
あと
)
に
従
(
したが
)
ひて
071
何処
(
どこ
)
々々
(
どこ
)
迄
(
まで
)
も
参
(
まゐ
)
りませう
072
導
(
みちび
)
き
玉
(
たま
)
へ』と
手
(
て
)
を
合
(
あは
)
す
073
神
(
かむ
)
素盞嗚
(
すさのを
)
の
大神
(
おほかみ
)
に
074
化
(
ば
)
けたる
妖僧
(
えうそう
)
はオーラ
山
(
さん
)
075
岩窟
(
いはや
)
の
中
(
なか
)
に
立籠
(
たてこも
)
り
076
善男
(
ぜんなん
)
善女
(
ぜんによ
)
を
歎
(
あざむ
)
きて
077
謀反
(
むほん
)
を
企
(
たく
)
みし
玄真坊
(
げんしんばう
)
078
偽天帝
(
にせてんてい
)
の
化身
(
けしん
)
なる
079
偽
(
にせ
)
の
救主
(
きうしゆ
)
の
成
(
な
)
れの
果
(
はて
)
080
山子
(
やまこ
)
坊主
(
ばうず
)
と
知
(
し
)
られたり
081
玄真坊
(
げんしんばう
)
は
胸
(
むね
)
の
裡
(
うち
)
082
雀躍
(
こをど
)
りし
乍
(
なが
)
ら
言霊
(
ことたま
)
も
083
いと
荘重
(
さうちよう
)
に
宣
(
の
)
らすらく
084
善哉
(
ぜんざい
)
々々
(
ぜんざい
)
ダリヤ
姫
(
ひめ
)
085
汝
(
なんぢ
)
の
母
(
はは
)
は
三年前
(
みとせまへ
)
086
この
世
(
よ
)
を
已
(
すで
)
に
去
(
さ
)
りし
如
(
ごと
)
087
思
(
おも
)
ひ
居
(
を
)
れども
左
(
さ
)
にあらず
088
吾
(
わが
)
眷族
(
けんぞく
)
を
遣
(
つか
)
はして
089
墓場
(
はかば
)
の
土
(
つち
)
を
掘
(
ほ
)
り
出
(
いだ
)
し
090
甦生
(
よみがへ
)
らせて
山奥
(
やまおく
)
に
091
庵
(
いほり
)
を
結
(
むす
)
び
隠
(
かく
)
しあり
092
先
(
ま
)
づ
第一
(
だいいち
)
に
汝
(
な
)
が
母
(
はは
)
に
093
面会
(
めんくわい
)
させた
其
(
その
)
上
(
うへ
)
に
094
汝
(
なんぢ
)
が
父
(
ちち
)
の
重病
(
ぢうびやう
)
を
095
救
(
すく
)
はむ
為
(
ため
)
の
吾
(
わが
)
仕組
(
しぐみ
)
096
従
(
したが
)
ひ
来
(
きた
)
れと
云
(
い
)
ひ
乍
(
なが
)
ら
097
暗
(
やみ
)
の
山道
(
やまみち
)
スタスタと
098
ダリヤの
姫
(
ひめ
)
の
手
(
て
)
を
引
(
ひ
)
いて
099
人跡
(
じんせき
)
稀
(
まれ
)
なる
大野原
(
おほのはら
)
100
怪
(
あや
)
しき
声
(
こゑ
)
を
絞
(
しぼ
)
りつつ
101
般若
(
はんにや
)
心経
(
しんぎやう
)
波羅蜜
(
はらみつ
)
経
(
きやう
)
102
普門品
(
ふもんぼん
)
迄
(
まで
)
唱
(
とな
)
へつつ
103
タラハン
城下
(
じやうか
)
をさして
行
(
ゆ
)
く。
104
ダリヤ
姫
(
ひめ
)
は
稀代
(
きたい
)
の
売僧
(
まいす
)
、
105
オーラ
山
(
さん
)
の
悪党
(
あくたう
)
玄真坊
(
げんしんばう
)
とは
夢
(
ゆめ
)
にも
知
(
し
)
らず、
106
吾
(
わが
)
家
(
いへ
)
にヨリコ
姫
(
ひめ
)
、
107
花香
(
はなか
)
の
逗留
(
とうりう
)
し
居
(
を
)
る
事
(
こと
)
も
忘
(
わす
)
れて
了
(
しま
)
ひ、
108
死
(
し
)
んだと
思
(
おも
)
うた
母上
(
ははうへ
)
は、
109
或
(
ある
)
山奥
(
やまおく
)
に
生
(
い
)
きて
居
(
ゐ
)
ますと
聞
(
き
)
きしより
虚実
(
きよじつ
)
を
調
(
しら
)
ぶる
余裕
(
よゆう
)
もなく、
110
此
(
この
)
妖僧
(
えうそう
)
を
神
(
かむ
)
素盞嗚
(
すさのを
)
の
神
(
かみ
)
の
化身
(
けしん
)
と
深
(
ふか
)
く
信
(
しん
)
じて、
111
夜陰
(
やいん
)
にまぎれタラハン
城下
(
じやうか
)
を
指
(
さ
)
して
出
(
で
)
て
来
(
き
)
たのである。
112
玄真坊
(
げんしんばう
)
は
口
(
くち
)
から
出任
(
でまか
)
せの
事
(
こと
)
を
云
(
い
)
つて
噂
(
うはさ
)
に
高
(
たか
)
い
薬屋
(
くすりや
)
の
娘
(
むすめ
)
此
(
この
)
美人
(
びじん
)
を、
1121
うまく、
113
ちよろまかして
自分
(
じぶん
)
に
靡
(
なび
)
かせ
女房
(
にようばう
)
に
為
(
な
)
し
置
(
お
)
かば、
114
百万
(
ひやくまん
)
長者
(
ちやうじや
)
の
財産
(
ざいさん
)
は
二人
(
ふたり
)
の
兄
(
あに
)
はあつても、
115
そこは
何
(
なん
)
とか、
116
彼
(
かん
)
とか
文句
(
もんく
)
をつけ、
117
自分
(
じぶん
)
が
一人
(
ひとり
)
のものにせむと
色
(
いろ
)
と
欲
(
よく
)
との
二道
(
ふたみち
)
かけ、
118
此処
(
ここ
)
迄
(
まで
)
つり
出
(
だ
)
して
来
(
く
)
るは
来
(
き
)
たものの、
119
さて
何処
(
いづこ
)
へ
連
(
つ
)
れて
行
(
ゆ
)
かうか……と
心
(
こころ
)
の
裡
(
うち
)
に
悩
(
なや
)
んでゐた。
120
タラハン
川
(
がは
)
の
岸
(
きし
)
に
沿
(
そ
)
ひたる
常磐木
(
ときはぎ
)
の、
121
かなり
広
(
ひろ
)
い
森林
(
しんりん
)
がある。
122
此
(
この
)
森林
(
しんりん
)
は
一方
(
いつぱう
)
は
川辺
(
かはべ
)
の
事
(
こと
)
とて、
123
千畳敷
(
せんでふじき
)
の
岩
(
いは
)
が
並
(
なら
)
んで
居
(
ゐ
)
た。
124
二人
(
ふたり
)
は
此
(
この
)
岩
(
いは
)
の
上
(
うへ
)
に
座
(
ざ
)
を
占
(
し
)
め、
125
川
(
かは
)
の
流
(
なが
)
れを
眺
(
なが
)
め
乍
(
なが
)
ら
休息
(
きうそく
)
した。
126
ダリヤ『モシ、
127
大神
(
おほかみ
)
の
化身
(
けしん
)
様
(
さま
)
、
128
母
(
はは
)
の
居
(
を
)
りまする
山
(
やま
)
はどの
方面
(
はうめん
)
で
御座
(
ござ
)
いますか、
129
一寸
(
ちよつと
)
お
知
(
し
)
らせ
下
(
くだ
)
さいませ』
130
玄真
(
げんしん
)
『ウンウンヨシヨシ、
131
エー……コーツト……、
1311
あの
峰
(
みね
)
がエー
高満山
(
たかみつやま
)
、
132
それから、
133
その
向
(
むか
)
ふが、
134
エー
岸山
(
きしやま
)
、
135
川並山
(
かはなみやま
)
、
136
エー、
137
その
向
(
むか
)
ふがタニグク
山
(
やま
)
、
138
ウンあのタニグク
山
(
やま
)
の
一寸
(
ちよつと
)
後
(
うしろ
)
に、
139
コバルト
色
(
いろ
)
に
霞
(
かす
)
んで
居
(
ゐ
)
る
峰
(
みね
)
が
見
(
み
)
えるだらう。
140
あれが
大谷山
(
おほたにやま
)
と
云
(
い
)
つて、
141
あの
麓
(
ふもと
)
に、
142
何
(
なん
)
でエー、
143
汝
(
おまへ
)
のお
母
(
かあ
)
さまが
居
(
を
)
られるのだ。
144
そして、
145
其処
(
そこ
)
に
栄
(
さか
)
えの
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
祠
(
ほこら
)
がある。
146
その
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
が
願
(
ねがひ
)
事
(
ごと
)
を
何
(
なん
)
でも
聞
(
き
)
いて
下
(
くだ
)
さるのだ。
147
今
(
いま
)
其処
(
そこ
)
へ
案内
(
あんない
)
しようが、
148
何分
(
なにぶん
)
道
(
みち
)
が
悪
(
わる
)
いから、
149
お
前
(
まへ
)
も
難渋
(
なんじふ
)
すると
思
(
おも
)
つて、
150
休
(
やす
)
み
休
(
やす
)
み
行
(
ゆ
)
く
事
(
こと
)
にしたのだ』
151
ダリ『
何
(
なん
)
とマア
高
(
たか
)
い
山
(
やま
)
で
御座
(
ござ
)
いますこと、
152
まだ
彼処
(
あこ
)
迄
(
まで
)
は
大分
(
だいぶん
)
道程
(
みちのり
)
が
御座
(
ござ
)
いませうね』
153
玄
(
げん
)
『さうだ、
154
一寸
(
ちよつと
)
三十
(
さんじふ
)
里
(
り
)
許
(
ばか
)
りあるだらう、
155
女
(
をんな
)
の
足弱
(
あしよわ
)
を
連
(
つ
)
れて
行
(
ゆ
)
くのだから
156
先
(
ま
)
づ
三日
(
みつか
)
はかかる
事
(
こと
)
と
思
(
おも
)
はねばならぬ』
157
ダリ『アヽ
左様
(
さやう
)
で
御座
(
ござ
)
いますか、
158
仮令
(
たとへ
)
三日
(
みつか
)
が
十日
(
とをか
)
位
(
ぐらゐ
)
かかつてもお
母
(
かあ
)
さまに
会
(
あ
)
へたり、
159
お
父
(
とう
)
さまの
病気
(
びやうき
)
が
癒
(
い
)
えましたら
一寸
(
ちよつと
)
も
厭
(
いと
)
ひませぬ。
160
どうかお
願
(
ねがひ
)
申
(
まを
)
します』
161
玄
(
げん
)
『これ、
162
ダリヤさま、
163
お
前
(
まへ
)
は
俺
(
わし
)
を
本当
(
ほんたう
)
の
神
(
かみ
)
の
化身
(
けしん
)
と
思
(
おも
)
つてゐるか、
164
それとも
売僧
(
まいす
)
坊主
(
ばうず
)
だと
思
(
おも
)
つて
居
(
ゐ
)
るか、
165
本当
(
ほんたう
)
の
事
(
こと
)
を
聞
(
き
)
かして
貰
(
もら
)
ひ
度
(
た
)
いものだな』
166
ダリ『ハイ、
167
大神
(
おほかみ
)
様
(
さま
)
の
御
(
ご
)
化身
(
けしん
)
にしてはチツト
許
(
ばか
)
り……
斯
(
か
)
う
申
(
まを
)
すとすみませぬが、
168
お
軽
(
かる
)
いやうでもあり、
169
俗人
(
ぞくじん
)
にしては
凡
(
すべ
)
ての
点
(
てん
)
に
秀
(
ひい
)
でて
御座
(
ござ
)
るなり、
170
山子
(
やまこ
)
坊主
(
ばうず
)
では
到底
(
たうてい
)
出来
(
でき
)
ない
妙術
(
めうじゆつ
)
を
持
(
も
)
つて
御座
(
ござ
)
るなり、
171
とても
妾
(
わらは
)
の
如
(
ごと
)
き
凡眼
(
ぼんがん
)
では
竜
(
りう
)
の
片鱗
(
へんりん
)
でも
掴
(
つか
)
む
事
(
こと
)
が
出来
(
でき
)
ませぬ。
172
仮令
(
たとへ
)
山子
(
やまこ
)
坊主
(
ばうず
)
にした
処
(
ところ
)
で、
173
暗夜
(
やみよ
)
に
体
(
からだ
)
から
光
(
ひかり
)
を
出
(
だ
)
したり、
174
四辺
(
あたり
)
を
輝
(
かがや
)
かしたりなさる
御
(
ご
)
神徳
(
しんとく
)
を
持
(
も
)
つたお
方
(
かた
)
故
(
ゆゑ
)
、
175
お
言葉
(
ことば
)
に
従
(
したが
)
つて
置
(
お
)
けばキツト
望
(
のぞ
)
みを
叶
(
かな
)
へて
下
(
くだ
)
さるだらうと
信
(
しん
)
じまして、
176
御
(
ご
)
案内
(
あんない
)
を
願
(
ねが
)
つたので
御座
(
ござ
)
います』
177
玄
(
げん
)
『ハハア、
1771
成程
(
なるほど
)
178
其方
(
そなた
)
は
余程
(
よほど
)
の
才媛
(
さいゑん
)
だ。
179
拙者
(
せつしや
)
を
神
(
かみ
)
の
化身
(
けしん
)
と
信
(
しん
)
じて
跟
(
つ
)
いて
来
(
き
)
たのならば、
180
一向
(
いつかう
)
面白
(
おもしろ
)
くないが、
181
仮令
(
たとへ
)
山子
(
やまこ
)
坊主
(
ばうず
)
にもせよ、
182
不思議
(
ふしぎ
)
の
術
(
じゆつ
)
を
有
(
も
)
つて
居
(
ゐ
)
る
其
(
その
)
点
(
てん
)
に
憧憬
(
どうけい
)
して、
183
跟
(
つ
)
いて
来
(
き
)
たとあれや
益々
(
ますます
)
頼
(
たの
)
もしい。
184
それぢや
一
(
ひと
)
つ
何
(
なに
)
も
彼
(
か
)
も
打明
(
ぶちあ
)
けて
云
(
い
)
ふが、
185
拙僧
(
せつそう
)
こそは
天帝
(
てんてい
)
の
化身
(
けしん
)
、
186
天来
(
てんらい
)
の
救世主
(
きうせいしゆ
)
、
187
天下一
(
てんかいち
)
の
名僧
(
めいそう
)
知識
(
ちしき
)
と
自称
(
じしよう
)
する
智謀
(
ちぼう
)
絶倫
(
ぜつりん
)
の
英僧
(
えいそう
)
だ、
188
否
(
いや
)
マハトマの
聖雄
(
せいゆう
)
だ、
189
どうぢやダリヤ
姫殿
(
ひめどの
)
、
190
驚
(
おどろ
)
いたであらうなア』
191
ダリ『ホツホヽヽ、
192
まるつきり、
193
オーラ
山
(
さん
)
の
玄真坊
(
げんしんばう
)
見
(
み
)
たいなお
方
(
かた
)
ですな』
194
玄
(
げん
)
『オーサ、
195
さうぢや、
196
拙僧
(
せつそう
)
こそはオーラの
山
(
やま
)
に
年古
(
としふる
)
く
住
(
す
)
む
大天狗
(
だいてんぐ
)
の
化身
(
けしん
)
、
197
玄真坊
(
げんしんばう
)
で
御座
(
ござ
)
るぞや』
198
ダリ『ホツホヽヽ、
199
何
(
なん
)
とマア、
200
えらい
馬力
(
ばりき
)
ですこと、
201
大変
(
たいへん
)
なメートルが
上
(
あが
)
つてゐますよ。
202
さうすると
玄真
(
げんしん
)
さま、
203
お
前
(
まへ
)
は
美人
(
びじん
)
と
見
(
み
)
れば
岩窟
(
いはや
)
へ
引張
(
ひつぱ
)
り
込
(
こ
)
んで、
204
否応
(
いやおう
)
無
(
な
)
しに
獣欲
(
じうよく
)
を
遂
(
と
)
げる
淫乱
(
いんらん
)
上人
(
しやうにん
)
でせう。
205
母上
(
ははうへ
)
に
会
(
あ
)
はしてやらうなんて、
206
うまく
妾
(
わらは
)
を
騙
(
だま
)
かし、
207
何処
(
どつか
)
の
岩窟
(
いはや
)
へ
連
(
つ
)
れ
込
(
こ
)
む
算段
(
さんだん
)
でせうがなア。
208
もうこれから
御免
(
ごめん
)
を
蒙
(
かうむ
)
ります。
209
仮令
(
たとへ
)
烏
(
からす
)
にこつかせても
売僧
(
まいす
)
坊主
(
ばうず
)
さまにやこつかせませぬワ。
210
エー、
211
マー、
2111
マア
212
人
(
ひと
)
を
馬鹿
(
ばか
)
にして
下
(
くだ
)
さつた。
213
今時
(
いまどき
)
の
女
(
をんな
)
に、
214
そんな
偽
(
いつは
)
りを
喰
(
く
)
ふ
馬鹿
(
ばか
)
は
御座
(
ござ
)
いませぬよ。
215
口惜
(
くや
)
しいと
思召
(
おぼしめ
)
すなら、
216
目
(
め
)
なつと
噛
(
か
)
んで
死
(
し
)
になさい、
217
左様
(
さやう
)
なら』
218
と
捨台詞
(
すてぜりふ
)
を
残
(
のこ
)
し
逃
(
に
)
げ
出
(
だ
)
さむとした。
219
玄真坊
(
げんしんばう
)
は、
220
ヒユーヒユーと
口笛
(
くちぶえ
)
を
三四回
(
さんしくわい
)
吹
(
ふ
)
くや
否
(
いな
)
や、
221
七八
(
しちはち
)
人
(
にん
)
の
覆面
(
ふくめん
)
した
荒男
(
あらをとこ
)
、
222
森
(
もり
)
の
茂
(
しげ
)
みより
現
(
あら
)
はれ
来
(
きた
)
り、
223
手
(
て
)
とり
足
(
あし
)
とり
否応
(
いやおう
)
言
(
い
)
はさず、
224
玄真坊
(
げんしんばう
)
と
共
(
とも
)
に
野中
(
のなか
)
の
道
(
みち
)
をトントンと、
225
タニグク
山
(
やま
)
の
方面
(
はうめん
)
目蒐
(
めが
)
けて
担
(
かつ
)
ぎ
行
(
ゆ
)
く。
[
※
この話の続きは第67巻第14章へ戻る。
]
226
スガの
港
(
みなと
)
のアリスの
宅
(
うち
)
では、
227
ダリヤ
姫
(
ひめ
)
が
山王
(
さんわう
)
の
森
(
もり
)
に
夜中
(
やちう
)
参拝
(
さんぱい
)
した
限
(
き
)
り、
228
夜明
(
よあ
)
けになつても
帰
(
かへ
)
つて
来
(
こ
)
ないので、
229
門番
(
もんばん
)
のアル、
230
エスに
命
(
めい
)
じスガの
山
(
やま
)
の
木
(
こ
)
の
間
(
ま
)
を
隈
(
くま
)
なく
捜索
(
そうさく
)
せしめたが、
231
何程
(
いくら
)
探
(
さが
)
しても、
232
影
(
かげ
)
も
形
(
かたち
)
も
見
(
み
)
えぬのに
力
(
ちから
)
を
落
(
おと
)
し、
233
その
日
(
ひ
)
の
日
(
ひ
)
の
暮
(
くれ
)
頃
(
ごろ
)
、
234
青
(
あを
)
い
顔
(
かほ
)
して
帰
(
かへ
)
つて
来
(
き
)
た。
235
兄
(
あに
)
のイルクはこんな
事
(
こと
)
を
重病
(
ぢうびやう
)
の
父
(
ちち
)
に
聞
(
き
)
かしては
益々
(
ますます
)
病
(
やまひ
)
が
重
(
おも
)
る
計
(
ばか
)
りと
236
召使
(
めしつかひ
)
共
(
ども
)
によく
云
(
い
)
ひ
聞
(
き
)
かせ、
237
病父
(
びやうふ
)
のアリスにはダリヤ
姫
(
ひめ
)
の
事
(
こと
)
は
少
(
すこ
)
しも
話
(
はな
)
さない
事
(
こと
)
に
口止
(
くちど
)
めをして
了
(
しま
)
つた。
238
イルクはヨリコ
姫
(
ひめ
)
、
239
花香姫
(
はなかひめ
)
の
居間
(
ゐま
)
を
訪
(
たづ
)
ね、
240
『モシ、
241
ヨリコ
姫
(
ひめ
)
様
(
さま
)
、
242
最早
(
もう
)
お
寝
(
やす
)
みで
御座
(
ござ
)
いますか、
243
夜分
(
やぶん
)
遅
(
おそ
)
く
御
(
お
)
邪魔
(
じやま
)
致
(
いた
)
しますが』
244
と
伺
(
うかが
)
へば
中
(
なか
)
より、
245
優
(
やさ
)
しきヨリコ
姫
(
ひめ
)
の
声
(
こゑ
)
、
246
『ハイ、
247
未
(
ま
)
だ
寝
(
やす
)
んで
居
(
を
)
りませぬ。
248
さう
云
(
い
)
ふ
声
(
こゑ
)
はイルクさまで
御座
(
ござ
)
いますか、
249
まづまづお
這入
(
はい
)
り
下
(
くだ
)
さいませ。
250
妹
(
いもうと
)
は
宣伝
(
せんでん
)
の
草臥
(
くたぶれ
)
で
已
(
すで
)
に
寝
(
やす
)
んで
居
(
を
)
りますが、
251
お
構
(
かま
)
ひなくお
這入
(
はい
)
り
下
(
くだ
)
さいませ』
252
イルク『ハイ、
253
有難
(
ありがた
)
う、
254
然
(
しか
)
らば
御免
(
ごめん
)
を
蒙
(
かうむ
)
ります。
255
エー
突然
(
とつぜん
)
ながら、
256
一寸
(
ちよつと
)
お
智慧
(
ちゑ
)
を
貸
(
か
)
して
貰
(
もら
)
ひに
参
(
まゐ
)
りました。
257
と
云
(
い
)
ふのは
外
(
ほか
)
でも
御座
(
ござ
)
いませぬ、
258
妹
(
いもうと
)
のダリヤ
姫
(
ひめ
)
が
昨夜半
(
さくよなか
)
頃
(
ごろ
)
、
259
父
(
ちち
)
の
重病
(
ぢうびやう
)
を
苦
(
く
)
にして、
260
スガ
山
(
やま
)
の
山王
(
さんわう
)
の
祠
(
ほこら
)
に
参拝
(
さんぱい
)
致
(
いた
)
しました
限
(
き
)
り、
261
今朝
(
けさ
)
になつても
帰
(
かへ
)
り
来
(
こ
)
ず、
262
私
(
わたくし
)
も
非常
(
ひじやう
)
に
心配
(
しんぱい
)
を
致
(
いた
)
しまして
門番
(
もんばん
)
のアル、
263
エスを
遣
(
つか
)
はし、
264
山中
(
さんちう
)
隈
(
くま
)
なく
捜索
(
さうさく
)
をさせましたが、
265
呼
(
よ
)
べど
叫
(
さけ
)
べど
何
(
なん
)
の
音沙汰
(
おとさた
)
もなしの
礫
(
つぶて
)
、
266
日
(
ひ
)
の
暮頃
(
くれごろ
)
力
(
ちから
)
なげに
帰
(
かへ
)
つて
参
(
まゐ
)
りました。
267
若
(
も
)
しや
悪者
(
わるもの
)
にでも
拐
(
かどはか
)
されたのぢや
御座
(
ござ
)
いますまいかなア』
268
ヨ『ヤ、
269
初
(
はじ
)
めて
承
(
うけたまは
)
り
実
(
じつ
)
に
驚
(
おどろ
)
きました、
270
さぞさぞ
御
(
ご
)
心配
(
しんぱい
)
で
御座
(
ござ
)
いませう。
271
妾
(
わらは
)
は
未
(
ま
)
だ
霊眼
(
れいがん
)
が
開
(
ひら
)
けて
居
(
を
)
りませぬので、
272
何
(
ど
)
うの、
273
斯
(
か
)
うのと
云
(
い
)
ふお
指図
(
さしづ
)
も
出来
(
でき
)
ませぬが、
274
コレヤ、
275
キツト
悪
(
わる
)
い
奴
(
やつ
)
に
誑
(
たぶらか
)
され、
276
何処
(
どつか
)
の
山奥
(
やまおく
)
へ
連
(
つ
)
れて
行
(
ゆ
)
かれたのでせう。
277
然
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら、
2771
必
(
かなら
)
ず
御
(
ご
)
心配
(
しんぱい
)
なさいますな、
278
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
のお
守護
(
まもり
)
ある
以上
(
いじやう
)
は
滅多
(
めつた
)
の
事
(
こと
)
はありませぬからなア』
279
イ『
左様
(
さやう
)
で
御座
(
ござ
)
いませうかね、
280
折角
(
せつかく
)
梅公別
(
うめこうわけ
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
様
(
さま
)
に
助
(
たす
)
けられたと
思
(
おも
)
へば、
281
又
(
また
)
悪者
(
わるもの
)
に
攫
(
さらは
)
れるとは、
282
よくよく
運
(
うん
)
の
悪
(
わる
)
い
妹
(
いもうと
)
で
御座
(
ござ
)
います』
283
と
男泣
(
をとこな
)
きに
泣
(
な
)
く。
284
今
(
いま
)
迄
(
まで
)
スヤスヤ
眠
(
ねむ
)
つて
居
(
ゐ
)
た
花香
(
はなか
)
はフツと
目
(
め
)
を
醒
(
さ
)
まし、
285
『アヽ
姉
(
ねえ
)
さまですか、
286
いやイルク
様
(
さま
)
、
287
ようお
出
(
い
)
でなさいませ。
288
貴方
(
あなた
)
のお
出
(
で
)
ましとも
知
(
し
)
らずウツカリと
寝
(
ね
)
て
了
(
しま
)
ひまして、
289
エライ
失礼
(
しつれい
)
致
(
いた
)
しました。
290
ダリヤ
姫
(
ひめ
)
さまの
行衛
(
ゆくゑ
)
に
就
(
つい
)
て、
291
御
(
ご
)
相談
(
さうだん
)
して
居
(
ゐ
)
られますやうですが、
292
必
(
かなら
)
ず
御
(
ご
)
心配
(
しんぱい
)
なさいますな。
293
ダリヤ
様
(
さま
)
は
屹度
(
きつと
)
二
(
に
)
ケ
月
(
げつ
)
の
後
(
のち
)
にはお
帰
(
かへ
)
りになります。
294
妾
(
わたし
)
は
今
(
いま
)
夢
(
ゆめ
)
を
見
(
み
)
ましたが、
295
あのオーラ
山
(
さん
)
に
立籠
(
たてこも
)
つて
居
(
を
)
つた
玄真坊
(
げんしんばう
)
に
拐
(
かどはか
)
され、
296
何処
(
どこ
)
かの
山奥
(
やまおく
)
へ
連
(
つ
)
れ
行
(
ゆ
)
かれ、
297
玄真坊
(
げんしんばう
)
は
自分
(
じぶん
)
の
女房
(
にようばう
)
にしようとして、
298
いろいろと
骨
(
ほね
)
を
折
(
を
)
つて
居
(
を
)
りますが、
299
ダリヤ
姫
(
ひめ
)
様
(
さま
)
は
決
(
けつ
)
して
彼
(
かれ
)
に
汚
(
けが
)
され
給
(
たま
)
ふやうな
事
(
こと
)
なく、
300
立派
(
りつぱ
)
な
人
(
ひと
)
に
送
(
おく
)
られてお
帰
(
かへ
)
りになつた
夢
(
ゆめ
)
を
見
(
み
)
ました』
301
イル『ヤア、
302
そのお
夢
(
ゆめ
)
はキツト
正夢
(
まさゆめ
)
で
御座
(
ござ
)
いませう、
303
六十
(
ろくじふ
)
日
(
にち
)
と
云
(
い
)
へば
長
(
なが
)
いやうですが、
3031
直
(
す
)
ぐに
経
(
た
)
ちます。
304
どうか
其時
(
それ
)
迄
(
まで
)
父
(
ちち
)
が
生
(
い
)
きて
居
(
を
)
つてくれれば
宜
(
よろ
)
しいがな』
305
ヨリ『
一切
(
いつさい
)
を
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
に
任
(
まか
)
したお
父上
(
ちちうへ
)
、
306
仮令
(
たとへ
)
御
(
ご
)
病気
(
びやうき
)
でもお
命
(
いのち
)
に
別条
(
べつでう
)
は
御座
(
ござ
)
いませぬ。
307
お
宮
(
みや
)
の
普請
(
ふしん
)
が
立派
(
りつぱ
)
に
出来上
(
できあ
)
がつた
上
(
うへ
)
に、
308
ダリヤ
姫
(
ひめ
)
さまはお
帰
(
かへ
)
り、
309
お
父上
(
ちちうへ
)
は
御
(
ご
)
本復
(
ほんぷく
)
と
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
になるでせう。
310
お
宮
(
みや
)
の
出来上
(
できあが
)
りとダリヤさまのお
帰
(
かへ
)
りとお
父上
(
ちちうへ
)
の
御
(
ご
)
全快
(
ぜんくわい
)
と「
目出度
(
めでた
)
目出度
(
めでた
)
が
三
(
み
)
つ
重
(
かさ
)
なつて
鶴
(
つる
)
が
御門
(
ごもん
)
に
巣
(
す
)
をかける」と
云
(
い
)
ふ
瑞祥
(
ずゐしやう
)
がやがて
参
(
まゐ
)
りませう。
311
何事
(
なにごと
)
も
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
にお
任
(
まか
)
せして
時節
(
じせつ
)
をお
待
(
ま
)
ち
下
(
くだ
)
さいませ』
312
イルクは、
313
『ハイ、
314
有難
(
ありがた
)
う、
315
夜分
(
やぶん
)
にお
邪魔
(
じやま
)
致
(
いた
)
しました、
316
何分
(
なにぶん
)
宜
(
よろ
)
しうお
願
(
ねがひ
)
申
(
まを
)
します』
317
と
吾
(
わが
)
居室
(
ゐま
)
さして
帰
(
かへ
)
り
行
(
ゆ
)
く。
318
(
大正一五・六・三〇
旧五・二一
於天之橋立なかや旅館
北村隆光
録)
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