第七章 鰹の網引〔一八一六〕
インフォメーション
著者:出口王仁三郎
巻:霊界物語 第72巻 山河草木 亥の巻
篇:第1篇 水波洋妖
よみ(新仮名遣い):すいはようよう
章:第7章 鰹の網引
よみ(新仮名遣い):かつおのあみひき
通し章番号:1816
口述日:1926(大正15)年06月29日(旧05月20日)
口述場所:天之橋立なかや別館
筆録者:北村隆光
校正日:
校正場所:
初版発行日:1929(昭和4)年4月3日
概要:
舞台:
あらすじ[?]このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:常磐丸の船中では、玄真坊、コブライ、コオロのけんかも済み、船中では皆がそれぞれ歌を歌っている。
幻真坊は船頭の歌う、恵比須祭の欸乃(ふなうた)を聞いて、自分も改心のふなうたを面白く歌う。
ようやく常磐丸はスガの港に到着する。宣伝使一行は、浜で漁師たちが引き網漁をしているのを見物する。
照公別は、漁師たちが魚を一網打尽にするように信者を集めるには、人の集まる公会堂、劇場、学校などで宣伝をしたらどうか、と提案するが、照国別は、「神の道の宣伝は一人対一人が相応の理に適っている」と諭す。
照公別は師に、これまで何人の信者を導いたのですか、と質問するが、照国別は、まだ一人もいない、と答える。つまり、照公別もまだ、「信者」の数には入っていないと、逆に諭されてしまう。
また、玄真坊の方が、照公別よりも信仰が進んでいると説く。
大なる悪事をしたものは、悔い改める心もまた深く、真剣身がある。そこに身魂相応の理が働き、たちまち地獄は天国となる。
一方、悪いことはしないが良いこともしない、という人間は逆に、自分は善人だからと慢心が働き、知らず知らずに魂が堕落して地獄に向かってしまう。
それというのも、人間は天地経綸の主宰者として神様の代理を現界で務めるために生まれてきたのである。
だから、たとえ悪事をしなくとも、自分が生まれてきたそもそもの理由であるその職責を果たせなければ、身魂の故郷である天国には帰りようがないのである。
照公別は師の戒めに心を立て直す歌を歌う。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]:
備考:
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データ凡例:
データ最終更新日:
OBC :rm7207
愛善世界社版:80頁
八幡書店版:第12輯 635頁
修補版:
校定版:83頁
普及版:33頁
初版:
ページ備考:
001 常磐丸の船中に於ける玄真坊、002コブライ、003コオロの直接行動的争ひも無事に済んで004船端に皷の波を打たせ乍ら水上静かに辷り行く。
005 船中の無聊を慰むるため006彼方此方に面白き国の俗謡が聞えて来た。007中にも最も著しきは恵比須祭の欵乃である。008船頭は舷頭に立ち乍ら海に馴れたる爽かな声で009節面白く唄ひ出した。
010『正月のー朔日二日の初夢に 011如月山の楠の木を
013白銀柱押し立てて
014黄金の富を積ませつつ
016宝の島へと乗り込んで 017数多の宝を積み込んで
018追手の風に任せつつ 019思ふ港へ馳せ込んで
022神の昔の二柱 023金輪際より揺ぎ出でたる此島を
024自転倒島と云ふとかや
026黄金白銀花咲いて
028散らぬ盛りに国々は 029浦々迄も豊かにて
030五穀草木不足なく 031七珍万宝倉に満ち
033長命無病と聞くからは
034四方の国より船寄する 035綾や錦の下着より
036縞に木綿の紅までも 037唐に大和を取りまぜて
039猟、漁りの里々は
040山に雉鴨鶴もある
043ヤンサ、目出度やお鉢水
045 玄真坊は此歌を聞いて飛び上り、046自分も一つ負けぬ気になり、047貧弱な頭から、048こぼれ出した欵乃は一寸変ちきちんなものである。
049玄真坊『春の海面よく光る 050大島小島数々と
051碁石のやうに並ぶ中
053彼方此方と横行し 054宝を積んだ船見れば
058貰つて帰る凄い船
062一生頭が上るまい
063俺も昔は山賊の 064大頭目と手を組んで
067数多の火影を輝かし
069天帝の御化身救世主 070玄真如来の説法を
071聴聞なさると触れ込ませ 072彼方此方の村々ゆ
073善男善女を誑かし 074もう一息と云ふ処へ
075三五教の梅公別 076女房をつれて出で来り
077二人の女と諸共に 078蛸の揚げ壺喰はされた
079実にも甲斐なき蛸坊主 080今から思へば恐ろしや
088三百人の不良分子
089彼方此方に振り向いて
091山の岩窟にダリヤ姫
093藻脱けの殻の馬鹿らしさ
095神谷村の里庄なる
098奪ひ返して吾妻に
100思ふた事も水の泡
102やつて来た事思ひ出しや
103全身隈なく冷汗が 104夕立の如くに湧いて来る
106今乗る船は常磐丸
107斎苑の館の神様の 108御用を遊ばす宣伝使
109照国別の師の君に 110危き所を助けられ
111心の底から立直し 112お伴に仕へ侍り行く
115心の基礎をつき直し 116神に刃向かふ仇あれば
117鬼でも蛇でも構はない 118命を的に飛び込んで
122面白狸の腹皷
124狸坊主の蛸坊主
125人が笑はうが謗らうが
128自分の罪の償ひを
131三五教の宣伝使
133一生此世を送りませう
135美人の事は思ひきり 136一生懸命に神様の
137誠の道を伝へませう
140神は吾等と共にあり
141人は神の子神の宮 142神に任せし此体
143虎狼も何かあらむ 144上下揃うて世を円く
146弥勒菩薩の再来と
147仕へまつらむ斎苑館 148神素盞嗚の大神の
149御前に誓ひ願ぎ奉る 150御前に誓ひ願ぎ奉る
152 常磐丸は漸くにして翌日の真昼頃スガの港に安着した。153この港には鰹の漁が盛にある。154丁度常磐丸の着いた頃、155網引きが初まつて居た。156一行は旅の憂さを慰むるため漁師に頼んで引網の中に加はり、157ともに面白可笑く歌を謡ふこととなつた。
158 幾艘の船は網の周囲に集つて音頭をとり乍ら陸上に向つて網を引き上げる。159親船が先づ歌の節々の初めを謡うと160他の船の漁師達は之に和して後をつぎ、161以て力の緩急を等しくする、162その調子は丁度木遣節のやうである。
163『せめて此子が男の子なら
167スガは照る照る太魔の島曇る
168 あいの高山雨が降る。
169大高お岩は二つに割れて
170 割れて世がよいヨヤハアサツサ。
171引けよ若衆、きれいな加勢
172 十二船魂勇ませて。
173旦那大黒内儀さま恵比須
174 中の小供がお船魂。
175船の艫艪へ鶯とめて
176 明日は大漁と泣かせ度い。
177船は新造でも艪は新木でも
178 船頭さまが無けれや走りやせぬ。
181照国別『これ照公さま、182何と面白い網引ぢやないか、183沢山の船頭衆が黒いお尻を出し、184真裸の真跣で黒い鉢巻を横ンチヨに絞めて185大きな網を海上一面に張り廻し、186言霊を一斉に揃へて鰹を上げる処は何とも云へぬ壮観の感に打たれるぢやないか』
187照公別『如何にも師の君の仰せの通り、188壮絶快絶の極ですな。189吾々宣伝使も、190あの引網に倣つて一遍に少くとも数万人の信者を引き寄せ、191うまく宣伝をやつたら面白いでせうな。192どうです先生、193これからスガの町へ行つたら、194大公会堂でも借り込んで195数万の町民に一度に聴かせてやつたら、196大神の神徳に浴する信者が沢山に出来るかも知れませぬ。197労少くして効多き、198最も文明式の方法ぢやありますまいか』
199照国『イヤイヤさうではないよ、200公会堂なんかは神の道の宣伝には絶対に適しない。201公会堂は政治家や主義者の私淑する処だ、202そんな処で神聖な神様の教をした処で、203身魂に相応しないから、204労多くして功無しだ』
205照公『そんなら先生、206劇場は如何でせうか』
207照国『尚々不可ない、208劇場は遊覧客の集まる処だ。209歌舞伎や浄瑠璃や浪花節、210手品師、211活動写真等やる処で、212仮令聴衆が幾何やつて来ても、213遊山気分で出て来るからチツとも耳へ這入らない。214却つて神の御名を傷つけるやうなものだ』
215照公『成程、216さう聞けば仕方がありませぬな、217そんなら学校の講堂は如何でせうか』
218照国『学校の講堂は学問の研究をする処だ、219深遠微妙な形而上の真理や信仰は、220到底学校の講堂で話した処で駄目だ。221何人も研究心を基礎として聞くから、222何人も真の信仰には入れないよ。223青年会館だの倶楽部だの公会堂だの、224民衆の集まる処は凡て駄目だ。225夜足で捕つた魚や網で捕つた魚は、226同じ魚でも味が悪い。227一匹々々釣の先に餌つけて釣り上げた魚は味が良い如く、228神の道の宣伝は一人対一人が相応の理に適うとるのだ。229止むを得ないなら五六人は仕方がないとしても、230それが却つて駄目になる』
231照公『成程232さうすると仲々宣伝と云ふものは、233容易に拡まらないものですな』
234照国『一人の誠の信者を神の道に引き入れた者は235神界に於てはヒマラヤ山を千里の遠方へ一人して運んで行つたよりも、236功名として褒めらるるのだからなア』
237照公『さうすると先生は入信以来、238どれ位誠の信者をお導きになりましたか』
239照国『残念乍ら、240未だ一人も誠の信者を、241ようこしらへてゐないのだ』
242照公『ヘーエ、243さうすると、244梅公別や吾々は宣伝使の試補となつて廻つてゐますが、245まだ信者の数には入つては居ないのですか』
247照公『何と心細いものぢやありませぬか』
248照国『さうだから心細いと何時も言ふのだ』
249照公『此玄真坊さまはさうすると、250未だ信者の門口にも行かないのでせうね』
251照国『ヤア此玄真坊殿は随分悪い事も行つて来たが、252お前に比べては余程信仰が進んで居るよ、253已に天国へ一歩を踏入れて居る』
254照公『それや又どうした訳ですか。255吾々は未だ一度も大した嘘もつかず、256泥棒もせず、2561嬶舎弟もやらず、257正直一途に神のお道を歩んで来たぢやありませぬか。258それに何ぞや大山子の張本、259勿体なくも天帝の御名を騙る曲神の権化とも云ふべき行為を敢てした玄真坊殿が天国に足を踏込むとは260一向に合点が行きませぬ』
261照国『大なる悪事を為したる者は悔い改むる心も亦深い。262真剣味がある。263それ故身魂相応の理によつて264直に掌をかへす如く地獄は化して天国となるのだ。265沈香も焚かず庇も放らずと云ふ人間に限つて、266自分は善人だ、267決して悪い事はせないから天国に上れるだらう等と慢心して居ると、268知らず識らずに魂が堕落して地獄に向ふものだ。269悪い事をせないのは人間として当然の所業だ。270人間は凡て天地経綸の主宰者だから271此世に生れて来た以上は、272何なりと天地の為に神に代る丈けの御用を勤め上げねばならない責任をもつてゐるのだ。273その責任を果す事の出来ない人間は、274仮令悪事をせなくとも、275神の生宮として地上に産みおとされた職責が果されて居ない。276それだから、2761身魂の故郷たる天国に帰ることが出来ないのだ』
277照公『天国に吾魂在りと思ひしに
278地獄に向へる事の歎てさ。
279今よりは心の駒を立直し
280神の任さしの神業励まむ』
281玄真『身は仮令根底の国に沈むとも
282神の恵みは忘れざるらむ』
283照国『千早振る神の恵みは世の人の
284夢にも知らぬ処にひそむ。
285暗の夜を照り明さむと宣伝使
286よさし玉ひぬ瑞の大神』
287(大正一五・六・二九 旧五・二〇 於天之橋立なかや別館 北村隆光録)