第一六章 東西奔走〔一八二五〕
インフォメーション
著者:出口王仁三郎
巻:霊界物語 第72巻 山河草木 亥の巻
篇:第2篇 杢迂拙婦
よみ(新仮名遣い):もくうせっぷ
章:第16章 東西奔走
よみ(新仮名遣い):とうざいほんそう
通し章番号:1825
口述日:1926(大正15)年06月30日(旧05月21日)
口述場所:天之橋立なかや別館
筆録者:加藤明子
校正日:
校正場所:
初版発行日:1929(昭和4)年4月3日
概要:
舞台:
あらすじ[?]このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:妖幻坊の杢助は離れの間からやってきて、人間の臭いに気づいて高姫に問いただす。
高姫はキューバーを締め上げたことを話す。
杢助は、キューバーが大黒主の片腕と知り、なんとか丸め込んで大黒主に取り入って国の実権を握ってしまおうと謀る。
杢助はキューバーの始末を高姫に任せ、また離れの間に下がった。
高姫はキューバーに活を入れて生き返らせる。二人は早速、スガの宮のヨリコ姫に挑戦しに出発する。夜道を宣伝しながらスガの宮に向かっていく。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
OBC :rm7216
愛善世界社版:188頁
八幡書店版:第12輯 670頁
修補版:
校定版:195頁
普及版:73頁
初版:
ページ備考:
001 妖幻坊は別館の戸を開け、002ズシンズシンと床を響かせ乍ら現はれ来り、
003『ヤア高チヤン、004御苦労だつたな、005ヤ、006信者が最早皆帰んだと見えるな』
007高『ハイ、008皆帰しましたよ、009これから貴方と妾と二人の舞台ですワ、010酒でも燗して上ませうか』
011妖『ウン一杯つけて貰つても好いが、012然し何だか妙な香がするぢやないか、013何処ともなしに男臭くて仕方がないがのう』
014 高姫は素知らぬ顔で、
015『ハイ、016それやさうでせうよ、017此処に猪が一匹絞めて御座いますもの、018一寸御覧なさい019床の下に放り込んでおきましたよ』
020妖『何だ、021これや人間ぢやないか、022甚い事したものぢやないか』
023高『人間の猪(死体)ですよ、024此奴はね、025妾がトルマン城に居つた時からスコブッツエン宗の教主だと威張り散らし、026大黒主を笠に着たり、027一方では大足別をかつぎ、028何うにも斯うにも仕方が無いので、029妾の美貌を幸ひ此奴をちよろまかせ、030トルマン城の危急を救うたのですよ』
031妖『成程、032併し乍ら、033スコブッツエン宗の教祖と云へば大黒主様の御片腕だ。034大蛇様の兄弟分、035……ウン、0351とどつこい036大蛇のやうな勢を持つて居る立派な宣伝使だ。037どうだ高姫、038この坊主に活を入れて生きかへらし、039お前の方から色仕掛で親切に待遇し、040此奴を手蔓として大黒主に取り入り、041トルマン国の政権を握つて仕舞はうぢやないか。042さうすりや043スガの宮なんか叩き潰さうと、044どうせうと此方の勝手だからなア』
045高『遉は杢助様、046よい所に気がつきました。047どれだけ智慧があるか知れませぬねえ、048そんなら此のキユーバーを助けても宜いのですか』
049妖『アー、050いゝとも好いとも、051併し乍ら色をもつて、052ちよろまかしてもよいが、053要領を得さしては不可ないよ、054些と俺も妬るからのう』
055高『そんな事は御心配下さいますな、056ヘン057それ程安つぽい高姫と思つて貰つちや片腹痛う御座いますワ』
058妖『俺が此処に居ると話が仕難いかも知れぬ、059別室に入つて休むから、060そこはお前の力で旨く取込んでおけ』
061高『何程甘つたるい事を云つても決して怒りませぬね』
062妖『口先許りなら、063どんな事云つてもよい。064つまりお前が甘く操つて下僕代りに使ひさへすればよいのだ』
065と云ひ乍ら別館に姿を隠して仕舞つた。066高姫はキユーバーを床下より引き上げ活を入れ、067天の数歌を奏上した。068ウンと一声息吹き返し四辺きよろきよろ見廻し乍ら、
069キユ『ヤアお前は千草ぢやないか、070人の喉を締めたりして気絶さすとは甚いぢやないか』
071高『そんな事は当然ですよ、072よう考へて御覧なさい。073焼餅焼の嫌な嫌な爺が裏に寝て居るのに074お前さまが談判するなんて出て行きなさるものだから、075喧嘩しては近所になりが悪いと思うて一寸喉に手をあてた丈ですよ。076息を止めたの殺さうのと、077そんな大袈娑な事をした覚は御座いませぬよ』
078キユ『本当にお前は今の夫が嫌なのか』
079高『それやさうですとも、080好だつたらどうして貴方の目を眩して気絶して居るのを生きかへらしませうか。081妾の今の夫は怒るのも甚いけれど又機嫌の直るのも早い、082アツサリした人ですからなア。083それで今も今とて夫に相談しましたら、084俺に心配は要らない、085キユーバーさまを可愛がつて上げるが好いと云ふのです、086何と今の男は開けて居ませうがな』
087キユ『どちらが開けて居るのか、088弄ばれて居るのか、089テンと訳が分らぬワイ。090然し一旦気絶して居た処を呼びいけた所を見れば些しは信用してもよいワイ。091そんなら今の夫には済まないが、092時々は御無心を云うても宜いか、093其時は頼むよ』
094高『それやさうですとも、095貴方の口で貴方が仰有るのですもの、096貴方の御自由ですワ。097それはさうと、098明日はスガの宮に乗り込み、099ヨリコ姫と一生一代の問答をやらうと思ふのですが、100妾も些つと許り心許ないやうな気がしてなりませぬ、101一つ今晩の間に練習して置きたいと思ひますがなア』
102キユ『サア、103お前も仲々の雄弁家だが、104ヨリコと云ふ奴は又稀代の雄弁家だ。105懸河の弁を、1051振つて滔々とやり出す時は106如何なる雄弁家も旗を捲き鉾を収めて逃げ出すのだからのう。107一つ夜分の宣伝旁練習するのも宜からう、108本町に出てやつて見たら如何だい。109俺は見え隠れに跟いて行つてやるからのう』
110聞くより高姫雀躍し 111頭の髪を撫で上げて
112顔に塗つたる薄化粧 113派出な単衣を身に纒い
114老海茶袴を穿ちつつ 115桐の下駄をば足にかけ
116神官扇を手に持つて
118太夫の道中宜しくの 119肩と尻とを振り乍ら
120反り身になつて本町の 121人通り多き十字街
122月の光を浴び乍ら
124悠々然と出で来り
126鈴を振るよな声絞り
127『これこれ申し皆の人
129千草の姫の演説を
131妾は元はトルマン国の 132王妃と仕へし身の上ぞ
133衆生済度のその為めに 134雲を押し分けて天降り
135市井の巷に往き来して 136天地を創り給ひたる
137誠の親の御神徳 138無限絶対無始無終
139厚き恵の御由来を 140世の人々に宣り伝へ
141八衢地獄の苦しみを 142助けて神の永久に
143鎮まり居ます天国の
145救ひ導き永久に 146変らず動かぬ楽しみを
147与へむ為めの此旅出 148悪く思つたり疑がつて
150妾は王妃の身であれば
151此世に何の不自由も
153大慈大悲の吾心 154世界の人の苦しみを
155見るに忍びず此通り 156女の繊弱き身をもつて
158世の為め神の道の為め
159難行苦行をして居ます
161此頃建つたスガ山の 162神の館に三五の
163教の射場が出来ました 164其処を守れる神司
165玉清別と云ふ人は 166何処の馬骨か知らねども
167千草の姫に比ぶれば
172傍に建ちし大道場
173預る女はヨリコ姫 174花香にダリヤと云ふ女
175問答所の看板を 176臆面もなく掲げ出し
177世人を煙にまいて居る 178抑々人間と云ふものは
180どうして宗教の真諦が
182天から下つた生身魂
183日出神の永久に 184宿らせ玉ふ肉の宮
186これから皆さま見て御座れ
187明日は館に乗り込んで
189宗教問答おつ始め 190誠の道に帰順させ
191天晴れ勝つて見せませう 192何程偉そに云つたとて
194泥棒の手下の奴輩に
195姉貴々々と立てられて 196威張つて居つたよな代物が
197どうして誠の神の道 198完全に委曲に説けませう
199皆さま今から言うておく 200何程仕事がせわしくも
201明日一日は張込んで 202此方とヨリコの問答を
203何方がよいか虚か実か
206今から予告致します
209善と悪とを立別ける
211明日一日が断末魔 212思へば思へば気の毒で
214お道の為と人の為め
215神の御為め国の為め
217皆さま察して下さんせ 218何も好んで争論を
223此方の説が勝つたなら
227誠の教を宣伝し
232三十三相は未だ愚か
233五十六億七千万
235此世の中を天国の 236常磐堅磐の楽園と
237立替遊ばす経綸ぞや 238喜び遊ばせ人々よ
239神の言葉に嘘はない
241此世を創りし神直日 242心も広き大直日
243唯何事も人の世は 244直日に見直し聞き直し
245世の過は宣り直す
247此世を乱し世の人を
253明日の吉き日ぞ待たれける』
254 キユーバーは後の方から255蟇が風を引いたやうな響のある声を出して、
256『神が表に現はれて 257善と悪とを立別ける
258此世を創造りし神直日 259心も広き大直日
260ただ何事も人の世は 261直日に見直し聞き直す
263皆さま耳を掃除して
264一言半句も漏らさずに 265生宮さまの御託宣
267下つ岩根の大ミロク
268日出神の生宮と
272現はれ此処に下りまし 273鬼や大蛇の魂に
275人の難儀を救はむと
276大慈大悲の心もて
280天地雲泥の違ひぞや
283時は来れり時は今
284爺さまも婆さまも孫つれて 285近所合壁誘ひ合せ
286明日の大事な談判を
290尊い御縁が結ばれて 291万劫末代永久に
293此世この儘天国の
295必ず疑ひ遊ばすな
296スコブッツエン宗の大教主
298生宮様の後につき 299お伴に仕へて居りまする
301生宮さまの御神徳
305と歌ひ乍ら、306スガの町々を残る隈なく東西屋もどきに歩いて仕舞つた。
307(大正一五・六・三〇 旧五・二一 於天之橋立なかや別館 加藤明子録)