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満蒙出征の辞
インフォメーション
題名:
満蒙出征の辞
著者:
出口王仁三郎
ページ:
194
概要:
備考:
大正十三年二月一二日、祥雲閣で十数人の熱心な信者を前に行なった演説であるが、入蒙記第六章の抜萃と思われる
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
OBC :
B123900c066
001
私は日本肇国の大精神を天下に明らかにし、
002
万世一系の皇室の尊厳無比なることを、
003
あまねく天下に示し、
004
かつ日本肇国の精神は征伐に非ず、
005
侵略に非ず、
006
善言美詞の言霊を以て万国の民を神の大道に言向和すにある事を堅く信じます。
007
すべて世界の人民を治むるは、
008
武力や智力では到底駄目です、
009
結局は精神的結合の要素たる、
010
すべての旧慣に囚はれざる新宗教の力によるより外はないと信じます。
011
つらつら現今の我が国情を考へて見まするに、
012
我が国の人口は年々七十万づつの増加を以て進みつつあると統計学者は云つてをります。
013
この割合で進んで行けば大正三十一年には七千七百万の同胞となり、
014
同じく五十一年には一億余万人に達すると云ふ計算になります。
015
とにかく我が国人口の増加は年々の事実の証明するところであつて、
016
これに要する食糧品たる米麦が現に年々七八十万石の不足を告げつつある事もまた事実である以上、
017
この人口と食糧との不均衡は我が国存立の上において一問題たらねばなりませぬ。
018
殊に我が国家将来の存立及び発展については、
019
単に米麦が満足に得らるるのみではすまされませぬ。
020
日進月歩の世界の前途には鋼鉄や綿類や毛布、
021
皮革等を主として幾多の物資が無限に需要さるることは今日においても明らかなる題目であるのに、
022
我が国においてはこれを将来に充実せしむべき安全なる政策が立つてをりますか。
023
実に思うて見れば心細い次第であります。
024
一朝有事の時は海外からその供給を断たれたならば、
025
我が国は如何なる方法を以てその需要を充たす事が出来ようか。
026
思うてここに至れば実に慄然たらざるを得ないのであります。
027
歴代の我が国為政の局に当る人々は国家の前途を焦慮した結果、
028
植民政策なるものを立て、
029
過剰の人口を他に移してその移住者の生活の安定を得せしめむとして居ります。
030
先づ第一に合衆国の如き異人種憎悪に富んでゐる国土のほか、
031
メキシコや南米や南洋諸島を目的としてゐるやうですが、
032
国家万年の長計からすれば、
033
これらの遠隔の諸地方へ農耕移民を送つたばかりでは済みますまい。
034
我が接境の比隣には国家としての支那や露西亜があり、
035
相互の関係が善にもあれ悪にもあれ、
036
到底離るべからざるものがあるのであります。
037
また我が領土内には朝鮮あり、
038
その将来についてはいはゆる識者と云はるる人々が不断に頭をなやましてゐるやうであります。
039
我が皇国がその永遠存立を安全ならしめ、
040
関係諸国と共に共存共栄の福利を楽しまむとすれば、
041
是非ともこれに添ふべき一大国策を樹立せなくてはなりませぬ。
042
いはゆる皇国の満蒙政策は即ちこの目的精神から樹てられたものであります。
043
けだし満蒙の地はその位置が支那本部と露領シベリヤとの中間にはさまり、
044
我が朝鮮とは
鴨緑
(
ありなれ
)
の水を隔てて相連つてゐるのみならず、
045
あらゆる産業の資源備はらざるはなく、
046
開発の前途は実に春風洋々の感があり、
047
しかも近世の歴史的関係は必然的に、
048
我が皇国がその開発任務を負はねばならぬやうになつたのであります。
049
故に今我が国が上下一致努力して、
050
既定の開発策を徹底せしむるには、
051
我が対支政策全部の基調を満蒙におくこと、
052
行き詰つた日支関係の現状を相互的に善導し得ると共に、
053
将来永遠の円満策を樹立することが出来るでせう。
054
またロシアとの交渉の中継点とする事が出来るでせう。
055
朝鮮人多数に生活の安定を得せしめて、
056
朝鮮統治上の有力なる補助とすることも出来るでせう。
057
人口食糧調節の上にも実に偉大なる効験をなし得らるるでありませう。
058
また我が重要物資の供給地たらしむる事も出来るでせう。
059
我が皇国国防の第一線の要地たらしむることも出来るでせう。
060
しかしながら満蒙の経営は議論と実地は大変に径庭がある。
061
いかなる有識者の徹底せる立策といへども、
062
肝腎要のその人を得ざれば到底完成するものではない。
063
渺々
(
べうべう
)
として天に連る満蒙の大沙漠、
064
ここには無限の富源が天地開闢の当初より委棄されてある。
065
この蒙古の大平原こそ天が我が国に与へたる唯一の
賜物
(
たまもの
)
でなければならぬ。
066
我が国の為政者が満蒙開発策として満鉄を敷設し、
067
鄭家屯
(
ていかとん
)
や、
068
洮南府
(
たうなんふ
)
や、
069
パインタラの東蒙古の一部に少しばかり手をつけてゐるくらゐでは、
070
到底この開発策はものにはならないであらう。
071
どうしても我が皇国存立のため、
072
東亜安全のため、
073
世界平和のために、
074
我が国が率先して天与の大蒙古を開拓せなくてはならない位置にあることを私は堅く信じます。
075
そしてその目的を達するには旧慣に囚はれざる新宗教の宣伝を以て第一の手段方法と考へるのであります。
076
我が国における既成宗教の現状を見れば、
077
宗教の発展どころか現状維持に汲々たる有様ではありませぬか。
078
気息
奄々
(
えんえん
)
として瀕死の境にある我が国の既成宗教が、
079
いかにしてこの大事業に着手するの余裕がありませう。
080
また一人の英雄的宗教家の輩出せむとする気配もなき我が国の瀕死的宗教に頼るの愚なることは言をまたないでありませう。
081
故に私は日本人口の増加に伴ひ発生する生活の不安定を憂慮し、
082
朝鮮における同胞の安危を憂ひ、
083
次いで東亜の動乱の発生せむ事を恐るるのあまり、
084
いよいよ神勅を奉じて徒手空拳、
085
二三の同志と共に長途の旅に上らむとするのであります。
086
大胆と云はうか無謀と云はうか、
087
ほとんど夢に等しい経綸を胸に描いて出て行く私としては、
088
実に名状すべからざる感慨に打たれるのであります。
089
しかしながら私は天地創造の神を信じます。
090
天下万民のために十字架を負ひ、
091
あらゆる艱難を嘗め、
092
生死の境に
出入
(
しゆつにふ
)
することをむしろ本懐とするものであります。
093
今の時において、
094
満蒙開発の実行に着手せなくては、
095
金甌無欠の我が皇国も前途はなはだ心細いことになるであらうと憂慮に堪へないのであります。
096
(大正十三年二月)
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