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応病施薬
インフォメーション
題名:
応病施薬
著者:
出口王仁三郎
ページ:
345
概要:
備考:
出典不明
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
OBC :
B123900c102
001
腹が減ると飯が食べたくなる。
002
それは経験によって人間が修得するものでなく、
003
生まれながらに神から与へられた本能である。
004
この本能はただに肉体方面に働くのみでなく精神方面にも働くものである。
005
即ち人間の精神が健全であると、
006
物の正邪善悪は、
007
ちゃうど腹の中から空腹を訴へると同様に、
008
心の中から
私語
(
ささや
)
く声によって判断することが出来るものである。
009
人として神を崇め君を尊びまた親を敬はねばならないといふくらゐのことは、
010
精神的本能の基本であって、
011
腹が減って飯が食べたくなる程度のものである。
012
ところが文明になるに従って段々胃腸患者が増加して、
013
欲望ばかりは無暗に募りながら、
014
しかも何を食っても美味くなく、
015
いつも青い顔をして吐息をついてゐる人間がウヨウヨしてゐるが、
016
それと同様に敬神忠孝の道すら判らない精神病患者が余りにも多い今の世の中である。
017
人として君に忠を尽し、
018
親に孝をなさねばならぬくらゐのことは、
019
何ら理窟を列べなくても自ら判らなければならぬはずである。
020
しかし、
021
君に忠を尽すことに苦痛を感じ親に孝を行ふことを嫌悪する人間は、
022
その汚れた自分の魂を隠すために「なぜ君に忠を尽さねばならぬか、
023
なぜ親に孝を行はなねばならぬか」と反問し議論する。
024
だが、
025
そんなことを論ずる人間は既にその魂の汚れてゐる証拠であって、
026
一種の精神上の病的現象なることに気がつかねばならない。
027
しかして地上に現はれた幾多の聖賢はかかる病人を医す為に天より降された医者であって、
028
その教理はちゃうど医薬に相当するものである。
029
故に今日までにかかる精神的病者の最も多かった国に多数の聖賢が現はれ、
030
この病気の最も猛威を逞しうした時代に種々雑多の教理が説かれてゐるのである。
031
ところが「良薬口に苦し」で胃病患者は甘い薬を要求し、
032
肺病患者は文化療法を喜ぶものである。
033
故に如何なる時代においても名医の投ずる神薬は退けられ、
034
雀は常に藪にのみ
蝟集
(
ゐしふ
)
するものである。
035
即ち日本の昔に言挙げの教理が無かったことは、
036
吾らの祖先が空気を呼吸する如く神を崇め、
037
水を飲む如く君を敬ひ、
038
飯を食ふ如く親を尊んでゐた証拠であって、
039
それによってのみこの
金甌無欠
(
きんおうむけつ
)
の国体が維持されたものである。
040
然るに精神病患者の充満してゐる今の世の中は、
041
無暗に皇道の理論が尊ばれ八万四千の経文が有り難がられる。
042
だがものの道理は今も昔も変りは無く、
043
名医の神薬はいつも患者の口に苦いものである。
044
種々雑多な宗教が次々に現はれ、
045
色々な教理が各方面から説かれるのは、
046
一面時代の要求ではあるがまた末世の一現象と見ることが出来る。
047
故に真の健康体を養ふためには、
048
どうしても神より与へられた精神的本能に目醒めることが大切であって、
049
教理なるものは第二義的の医薬に相当するものなることに気付かねばならぬ。
050
しかして今日の世の中は、
051
なるほど医薬そのものはなかなか立派なものがあるが、
052
応病施薬の名医が無いのが遺憾である。
053
もし真に仏教が復興するのなら釈迦に匹敵する人物が顕れなければ嘘である。
054
また基督教が更生するためには耶蘇が今、
055
再臨しなくては駄目である。
056
ともかく今日の宗教復興は、
057
胃病患者に肺病の妙薬を与へ、
058
脳病人に心臓薬を与へてゐるやうなものであって、
059
一時の安心
[
*
底本は「安神」
]
は得られるかも知れないが、
060
病魔の根本的治療は恐らく不可能事であらう。
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