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第69巻(申の巻)
第70巻(酉の巻)
第71巻(戌の巻)
第72巻(亥の巻)
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天祥地瑞
第73巻(子の巻)
第74巻(丑の巻)
第75巻(寅の巻)
第76巻(卯の巻)
第77巻(辰の巻)
第78巻(巳の巻)
第79巻(午の巻)
第80巻(未の巻)
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第8巻(未の巻)
序文
凡例
総説
第1篇 智利の都
01 朝日丸
〔351〕
02 五十韻
〔352〕
03 身魂相応
〔353〕
04 烏の妻
〔354〕
05 三人世の元
〔355〕
06 火の玉
〔356〕
第2篇 四十八文字
07 蛸入道
〔357〕
08 改心祈願
〔358〕
09 鏡の池
〔359〕
10 仮名手本
〔360〕
第3篇 秘露より巴留へ
11 海の竜宮
〔361〕
12 身代り
〔362〕
13 修羅場
〔363〕
14 秘露の邂逅
〔364〕
15 ブラジル峠
〔365〕
16 霊縛
〔366〕
17 敵味方
〔367〕
18 巴留の関守
〔368〕
第4篇 巴留の国
19 刹那心
〔369〕
20 張子の虎
〔370〕
21 滝の村
〔371〕
22 五月姫
〔372〕
23 黒頭巾
〔373〕
24 盲目審神
〔374〕
25 火の車
〔375〕
26 讃嘆
〔376〕
27 沙漠
〔377〕
28 玉詩異
〔378〕
29 原山祇
〔379〕
第5篇 宇都の国
30 珍山峠
〔380〕
31 谷間の温泉
〔381〕
32 朝の紅顔
〔382〕
33 天上眉毛
〔383〕
34 烏天狗
〔384〕
35 一二三世
〔385〕
36 大蛇の背
〔386〕
37 珍山彦
〔387〕
38 華燭の典
〔388〕
第6篇 黄泉比良坂
39 言霊解一
〔389〕
40 言霊解二
〔390〕
41 言霊解三
〔391〕
42 言霊解四
〔392〕
43 言霊解五
〔393〕
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第四章
烏
(
からす
)
の
妻
(
つま
)
〔三五四〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第8巻 霊主体従 未の巻
篇:
第1篇 智利の都
よみ(新仮名遣い):
てるのみやこ
章:
第4章 烏の妻
よみ(新仮名遣い):
からすのつま
通し章番号:
354
口述日:
1922(大正11)年02月06日(旧01月10日)
口述場所:
筆録者:
東尾吉雄
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1922(大正11)年6月15日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
明けて、日の出神は船中の人々に対して、天地の神の徳を説き諭していた。そこへ、一天にわかに掻き曇り、ものすごい風が吹きすさんで波は山岳のごとくになった。
日の出神は声を張り上げて、宣伝歌の言霊を風に向かって述べ立てた。すると嵐は忽然と静まった。
船中の人々は日の出神の神徳に感じて、進んでその教理を聴聞することとなった。ここに清彦は今までの罪悪をすべて悔改め、日の出神の弟子となり、高砂洲に宣伝を試みることになった。駒山彦と猿世彦は示し合わせて、追って高砂洲に上陸することになる。
船中の旅人たちの噂話に、面那芸司が船旅の途中、海に沈んでしまったことを知った日の出神は、さっと不安の色を浮かべた。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
[×閉じる]
:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2020-05-31 19:11:37
OBC :
rm0804
愛善世界社版:
26頁
八幡書店版:
第2輯 161頁
修補版:
校定版:
28頁
普及版:
12頁
初版:
ページ備考:
001
波
(
なみ
)
は
高砂
(
たかさご
)
日
(
ひ
)
は
照
(
て
)
り
渡
(
わた
)
る
002
智利
(
てる
)
の
都
(
みやこ
)
に
月
(
つき
)
は
澄
(
す
)
む
003
と、
004
船頭
(
せんどう
)
は
節
(
ふし
)
面白
(
おもしろ
)
く
海風
(
うなかぜ
)
に
声
(
こゑ
)
をさらしながら
唄
(
うた
)
ひはじめたり。
005
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
は
船中
(
せんちう
)
の
人々
(
ひとびと
)
に
対
(
たい
)
して、
006
天地
(
てんち
)
の
神
(
かみ
)
の
高徳
(
かうとく
)
を
諄々
(
じゆんじゆん
)
と
説
(
と
)
き
始
(
はじ
)
めたる
折
(
をり
)
しも、
007
俄
(
にはか
)
に
一天
(
いつてん
)
掻
(
か
)
き
曇
(
くも
)
り、
008
颶風
(
ぐふう
)
吹
(
ふ
)
き
荒
(
すさ
)
み、
009
波
(
なみ
)
は
山岳
(
さんがく
)
のごとく
立
(
た
)
ちはじめ、
010
今
(
いま
)
まで
元気張
(
げんきば
)
つてゐた
猿世彦
(
さるよひこ
)
、
011
駒山彦
(
こまやまひこ
)
は、
012
蒼白
(
さうはく
)
な
顔
(
かほ
)
になり、
013
片隅
(
かたすみ
)
にブルブルと
慄
(
ふる
)
へゐる。
014
数多
(
あまた
)
の
船客
(
せんきやく
)
は、
015
何
(
いづ
)
れも
船底
(
ふなぞこ
)
にかぢりつき
我
(
わ
)
が
命
(
いのち
)
は
風前
(
ふうぜん
)
の
燈火
(
ともしび
)
かと
不安
(
ふあん
)
の
念
(
ねん
)
に
駆
(
か
)
られて、
016
口々
(
くちぐち
)
に
何事
(
なにごと
)
をか
祈
(
いの
)
り
始
(
はじ
)
めけり。
017
船中
(
せんちう
)
は
俄
(
にはか
)
に
人声
(
ひとごゑ
)
ピタリと
止
(
とま
)
り、
018
ただ
小
(
ちひ
)
さき
祈願
(
きぐわん
)
の
声
(
こゑ
)
のするのみなりき。
019
波
(
なみ
)
の
音
(
おと
)
はますます
高
(
たか
)
く、
020
時々
(
ときどき
)
潮
(
しほ
)
を
船
(
ふね
)
に
浴
(
あび
)
せて
猛
(
たけ
)
り
狂
(
くる
)
ふ。
021
この
時
(
とき
)
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
は、
022
声
(
こゑ
)
を
張
(
は
)
り
上
(
あ
)
げて
大音声
(
だいおんじやう
)
に
呼
(
よ
)
ばはりたまふ。
023
『
高天原
(
たかあまはら
)
を
知
(
し
)
ろし
食
(
め
)
す
024
天
(
あめ
)
の
御柱
(
みはしら
)
大神
(
おほかみ
)
の
025
神勅
(
みこと
)
畏
(
かしこ
)
み
天
(
あめ
)
の
下
(
した
)
026
四方
(
よも
)
の
国々
(
くにぐに
)
隈
(
くま
)
もなく
027
神
(
かみ
)
の
教
(
をしへ
)
を
宣
(
の
)
べ
伝
(
つた
)
ふ
028
闇夜
(
やみよ
)
を
照
(
て
)
らす
宣伝使
(
せんでんし
)
029
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
の
鹿島立
(
かしまだ
)
ち
030
神
(
かみ
)
の
御
(
おん
)
ため
国
(
くに
)
のため
031
世人
(
よびと
)
を
救
(
すく
)
ふそのために
032
潮
(
しほ
)
の
八百路
(
やほぢ
)
の
八塩路
(
やしほぢ
)
の
033
潮
(
しほ
)
を
分
(
わ
)
けつつ
進
(
すす
)
み
行
(
ゆ
)
く
034
吾
(
われ
)
は
尊
(
たふと
)
き
神
(
かみ
)
の
御子
(
みこ
)
035
瑞
(
みづ
)
の
教
(
をしへ
)
を
謹
(
つつし
)
みて
036
聴
(
き
)
く
諸人
(
もろびと
)
の
真心
(
まごころ
)
を
037
憫
(
あはれ
)
みたまへ
天津
(
あまつ
)
神
(
かみ
)
038
救
(
すく
)
はせたまへ
国津
(
くにつ
)
神
(
かみ
)
039
科戸
(
しなど
)
の
神
(
かみ
)
や
水分
(
みくまり
)
の
040
正
(
ただ
)
しき
神
(
かみ
)
は
何事
(
なにごと
)
ぞ
041
波路
(
なみぢ
)
も
高
(
たか
)
く
竜神
(
たつがみ
)
の
042
底
(
そこ
)
の
藻屑
(
もくづ
)
と
鳴門灘
(
なるとなだ
)
043
渦巻
(
うづまき
)
わたる
海原
(
うなばら
)
も
044
御国
(
みくに
)
を
思
(
おも
)
ふ
真心
(
まごころ
)
の
045
道
(
みち
)
に
通
(
かよ
)
ひし
宣伝使
(
せんでんし
)
046
吾
(
わ
)
が
言霊
(
ことたま
)
は
天地
(
あめつち
)
に
047
充
(
み
)
てる
誠
(
まこと
)
の
神
(
かみ
)
の
声
(
こゑ
)
048
大海原
(
おほうなばら
)
を
知
(
し
)
ろし
食
(
め
)
す
049
海原彦
(
うなばらひこ
)
や
豊玉姫
(
とよたまひめ
)
の
050
神
(
かみ
)
の
命
(
みこと
)
は
今
(
いま
)
いづく
051
神
(
かみ
)
に
祀
(
まつ
)
れる
玉依姫
(
たまよりひめ
)
の
052
神
(
かみ
)
の
命
(
みこと
)
はいま
何処
(
いづこ
)
053
雨風
(
あめかぜ
)
繁
(
しげ
)
く
波
(
なみ
)
高
(
たか
)
く
054
この
諸人
(
もろびと
)
を
脅
(
おびや
)
かす
055
大綿津見
(
おほわだつみ
)
の
枉神
(
まがかみ
)
を
056
伊吹
(
いぶ
)
きに
祓
(
はら
)
へ
吹
(
ふ
)
き
祓
(
はら
)
へ
057
伊吹
(
いぶ
)
き
祓
(
はら
)
ふの
力
(
ちから
)
無
(
な
)
く
058
吾
(
わ
)
が
言霊
(
ことたま
)
の
聞
(
きこ
)
えずば
059
吾
(
われ
)
はこれより
天地
(
あめつち
)
の
060
神
(
かみ
)
に
代
(
かは
)
りて
三五
(
あななひ
)
の
061
言挙
(
ことあ
)
げなさむ
綿津
(
わだつ
)
神
(
かみ
)
062
科戸
(
しなど
)
の
彦
(
ひこ
)
や
科戸姫
(
しなどひめ
)
063
疾
(
と
)
く
凪
(
な
)
ぎ
渡
(
わた
)
れ
静
(
しづ
)
まれよ
064
とく
凪
(
な
)
ぎ
渡
(
わた
)
れ
静
(
しづ
)
まれよ』
065
と、
066
清
(
きよ
)
き
言霊
(
ことたま
)
を
風
(
かぜ
)
に
向
(
むか
)
つて
述
(
の
)
べ
立
(
た
)
てたまへば、
067
さしも
猛烈
(
まうれつ
)
なりし
暴風
(
ばうふう
)
も、
068
車軸
(
しやぢく
)
を
流
(
なが
)
す
大雨
(
おほあめ
)
も、
069
忽然
(
こつぜん
)
として
静
(
しづ
)
まり、
070
天津
(
あまつ
)
御空
(
みそら
)
は
黒雲
(
くろくも
)
の
上衣
(
うはぎ
)
を
脱
(
ぬ
)
ぎて、
071
紺碧
(
こんぺき
)
の
肌
(
はだ
)
を
現
(
あら
)
はし、
072
日
(
ひ
)
は
晃々
(
くわうくわう
)
として
中天
(
ちうてん
)
に
輝
(
かがや
)
き、
073
海
(
うみ
)
の
諸鳥
(
もろとり
)
は
悠々
(
いういう
)
として
翼
(
つばさ
)
をひろげ、
074
頭上
(
づじやう
)
に
高
(
たか
)
く
喜
(
よろこ
)
ばしき
声
(
こゑ
)
を
張
(
は
)
り
上
(
あ
)
げて、
075
口々
(
くちぐち
)
に
叫
(
さけ
)
びはじめけり。
076
紺碧
(
こんぺき
)
の
海面
(
かいめん
)
は、
077
あたかも
鏡
(
かがみ
)
のごとく
凪
(
な
)
ぎ
渡
(
わた
)
り、
078
地獄
(
ぢごく
)
を
出
(
い
)
でて
天国
(
てんごく
)
の
春
(
はる
)
に
逢
(
あ
)
うたるごとき
心地
(
ここち
)
せられ、
079
船中
(
せんちう
)
の
諸人
(
もろびと
)
は、
080
ほとんど
蘇生
(
そせい
)
したる
面色
(
おももち
)
にて、
081
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
の
身辺
(
しんぺん
)
に
寄
(
よ
)
り
集
(
あつ
)
まり、
082
その
神徳
(
しんとく
)
を
感謝
(
かんしや
)
し、
083
なほも
進
(
すす
)
みて
教理
(
けうり
)
を
拝聴
(
はいちやう
)
することとなりぬ。
084
船中
(
せんちう
)
の
人々
(
ひとびと
)
は
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
の
神徳
(
しんとく
)
に
感
(
かん
)
じ、
085
心
(
こころ
)
の
底
(
そこ
)
より
信仰
(
しんかう
)
の
念
(
ねん
)
を
起
(
おこ
)
し、
086
なほも
進
(
すす
)
みてその
教理
(
けうり
)
を
聴聞
(
ちやうもん
)
したりける。
087
ここに
清彦
(
きよひこ
)
は、
088
今
(
いま
)
までの
凡
(
すべ
)
ての
罪悪
(
ざいあく
)
を
悔
(
く
)
い
改
(
あらた
)
め、
089
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
の
弟子
(
でし
)
となり、
090
高砂島
(
たかさごじま
)
に
宣伝
(
せんでん
)
を
試
(
こころ
)
むる
事
(
こと
)
となりぬ。
091
猿世彦
(
さるよひこ
)
、
092
駒山彦
(
こまやまひこ
)
は、
093
清彦
(
きよひこ
)
の
後
(
あと
)
を
追
(
お
)
ひて、
094
何事
(
なにごと
)
か
諜
(
しめ
)
し
合
(
あは
)
せ、
095
高砂島
(
たかさごじま
)
に
上陸
(
じやうりく
)
したりけり。
096
またもや
船中
(
せんちう
)
に
雑談
(
ざつだん
)
の
花
(
はな
)
は
咲
(
さ
)
き
出
(
い
)
でにけり。
097
甲
(
かふ
)
(民)
『やれやれ
恐
(
おそ
)
ろしい
事
(
こと
)
だつたのう。
098
すんで
の
事
(
こと
)
で
竜宮
(
りうぐう
)
行
(
ゆ
)
きをする
所
(
ところ
)
だつたが、
099
渡
(
わた
)
る
浮世
(
うきよ
)
に
鬼
(
おに
)
は
無
(
な
)
い、
100
天道
(
てんだう
)
は
人
(
ひと
)
を
殺
(
ころ
)
さずとはよく
言
(
い
)
つたものだ。
101
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
様
(
さま
)
がこの
船
(
ふね
)
に
乗
(
の
)
つて
居
(
を
)
られなかつたら、
102
吾々
(
われわれ
)
は
鱶
(
ふか
)
の
餌食
(
ゑじき
)
になつて
了
(
しま
)
つたかも
知
(
し
)
れない。
103
若
(
も
)
しもソンナ
事
(
こと
)
があつたら、
104
俺
(
おれ
)
は
死
(
し
)
ぬのは
天命
(
てんめい
)
だと
思
(
おも
)
つて
諦
(
あきら
)
めるが、
105
国
(
くに
)
に
残
(
のこ
)
つた
妻
(
つま
)
や
子
(
こ
)
が、
106
どうして
月日
(
つきひ
)
を
送
(
おく
)
るだらう。
107
女房
(
にようばう
)
が「あゝ
恋
(
こひ
)
しい
民
(
たみ
)
さまは」と
云
(
い
)
つて
泣
(
な
)
くかも
知
(
し
)
れぬ』
108
乙
(
おつ
)
『コンナ
処
(
ところ
)
でのろけるない。
109
貴様
(
きさま
)
が
死
(
し
)
んだつて
泣
(
な
)
く
者
(
もの
)
があるか。
110
村中
(
むらぢう
)
の
悪者
(
わるもの
)
が
無
(
な
)
くなつたと
云
(
い
)
つて、
111
餅
(
もち
)
でも
搗
(
つ
)
いて
祝
(
いは
)
ふ
者
(
もの
)
もあらうし、
112
貴様
(
きさま
)
の
嬶
(
かかあ
)
は、
113
鹿公
(
しかこう
)
と
入魂
(
じつこん
)
だから、
114
邪魔
(
じやま
)
が
払
(
はら
)
はれた、
115
目
(
め
)
の
上
(
うへ
)
の
瘤
(
こぶ
)
が
取
(
と
)
れたと
云
(
い
)
うて、
116
餅
(
もち
)
でも
搗
(
つ
)
いて
祝
(
いは
)
ふかも
知
(
し
)
れぬよ。
117
泣
(
な
)
く
者
(
もの
)
と
云
(
い
)
つたら
烏
(
からす
)
か、
118
柿
(
かき
)
の
木
(
き
)
に
蝉
(
せみ
)
がとまつて
啼
(
な
)
く
位
(
くらゐ
)
だ。
119
アツハツハヽヽ』
120
民
(
たみ
)
『
馬鹿
(
ばか
)
にするない、
121
死
(
し
)
んで
喜
(
よろこ
)
ぶ
奴
(
やつ
)
が
広
(
ひろ
)
い
世界
(
せかい
)
に
有
(
あ
)
つて
堪
(
たま
)
るか。
122
天
(
てん
)
にも
地
(
ち
)
にも、
123
一人
(
ひとり
)
の
夫
(
をつと
)
一人
(
ひとり
)
の
女房
(
にようばう
)
だ。
124
俺
(
おれ
)
が
国許
(
くにもと
)
を
出立
(
しゆつたつ
)
する
時
(
とき
)
、
125
女房
(
にようばう
)
が
俺
(
おれ
)
の
袂
(
たもと
)
に
縋
(
すが
)
りついて、
126
ドウゾ
一
(
いち
)
日
(
にち
)
も
早
(
はや
)
う
帰
(
かへ
)
つて
来
(
き
)
て
頂戴
(
ちやうだい
)
ネ、
127
あなたのお
顔
(
かほ
)
が
見
(
み
)
えねば
夜
(
よ
)
も
明
(
あ
)
けぬ、
128
日
(
ひ
)
も
暮
(
く
)
れぬ、
129
毎日
(
まいにち
)
高砂
(
たかさご
)
の
空
(
そら
)
を
眺
(
なが
)
めて
待
(
ま
)
つて
居
(
ゐ
)
ます、
130
エヘン、
131
あの
優
(
やさ
)
しい
顔
(
かほ
)
で
泣
(
な
)
きよつたぞ。
132
そこを
貴様
(
きさま
)
に
見
(
み
)
せてやりたかつたワイ』
133
乙
(
おつ
)
『
馬鹿
(
ばか
)
にするない。
134
あの
優
(
やさ
)
しい
嬶
(
かかあ
)
も
有
(
あ
)
つたものかい、
135
頭
(
あたま
)
の
禿
(
は
)
げた
神楽鼻
(
かぐらばな
)
の、
136
鰐口
(
わにぐち
)
の
団栗目
(
どんぐりめ
)
の、
137
天下
(
てんか
)
一品
(
いつぴん
)
珍無類
(
ちんむるゐ
)
の
御
(
ご
)
面相
(
めんさう
)
の
別嬪
(
べつぴん
)
を、
138
烏
(
からす
)
だつて
顧
(
かへり
)
みるものは
有
(
あ
)
りやしないよ』
139
丙
(
へい
)
『
左様
(
さう
)
も
言
(
い
)
はれぬぞ。
140
何時
(
いつ
)
やらも
野良
(
のら
)
へ
出
(
で
)
て
働
(
はたら
)
いて
居
(
ゐ
)
る
時
(
とき
)
に、
141
側
(
そば
)
の
森
(
もり
)
に
烏
(
からす
)
が
来
(
き
)
よつて、
142
カカア、
143
カカアと
呼
(
よ
)
んで
居
(
ゐ
)
たよ』
144
民
(
たみ
)
『ソンナ
話
(
はなし
)
は
止
(
や
)
めにして
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
を
拝
(
をが
)
まぬかい。
145
また
波
(
なみ
)
でも
立
(
た
)
つたら、
146
今度
(
こんど
)
はもう
助
(
たす
)
かりつこは
無
(
な
)
いぞ』
147
丁
(
てい
)
『
此
(
この
)
間
(
あひだ
)
も、
148
面那芸
(
つらなぎ
)
の
宣使
(
かみ
)
さまとかが
船
(
ふね
)
に
乗
(
の
)
つて、
149
筑紫
(
つくし
)
の
島
(
しま
)
から
天教山
(
てんけうざん
)
へ
行
(
ゆ
)
かれる
途中
(
とちう
)
に
海
(
うみ
)
が
荒
(
あ
)
れて
船
(
ふね
)
は
暗礁
(
あんせう
)
にぶつつかり、
150
メキメキと
壊
(
こは
)
れて
了
(
しま
)
つた。
151
そして
客
(
きやく
)
は
残
(
のこ
)
らず
死
(
し
)
んで
了
(
しま
)
つたと
云
(
い
)
ふことだよ』
152
民
(
たみ
)
『その
面那芸
(
つらなぎ
)
の
宣使
(
かみ
)
はどう
成
(
な
)
つたのだ。
153
ソンナ
時
(
とき
)
には
此処
(
ここ
)
に
御座
(
ござ
)
る
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
様
(
さま
)
の
様
(
やう
)
に、
154
何故
(
なぜ
)
神徳
(
しんとく
)
をよう
現
(
あらは
)
さなかつたのだらう。
155
面那芸
(
つらなぎ
)
の
司
(
かみ
)
とは
噂
(
うはさ
)
に
聞
(
き
)
く
宣伝使
(
せんでんし
)
でないか』
156
乙
(
おつ
)
『さう、
157
宣伝使
(
せんでんし
)
だ。
158
併
(
しか
)
し
神徳
(
しんとく
)
が
無
(
な
)
いから、
159
危急
(
ききふ
)
存亡
(
そんばう
)
の
場合
(
ばあひ
)
に
人
(
ひと
)
を
救
(
すく
)
ふ
様
(
やう
)
な
事
(
こと
)
は、
160
薩張
(
さつぱ
)
りよう
センデン
使
(
し
)
だよ。
161
それで
自分
(
じぶん
)
も
一緒
(
いつしよ
)
にぶくぶくと
脆
(
もろ
)
くも
沈
(
しづ
)
んで
了
(
しま
)
つて、
162
あゝあゝ
苦
(
くる
)
しい
辛
(
つら
)
い
難儀
(
なんぎ
)
な
事
(
こと
)
に
成
(
な
)
つたと
泡
(
あわ
)
を
吹
(
ふ
)
いた。
163
そこで
つらなぎ
の
司
(
かみ
)
ぢや。
164
誰
(
たれ
)
も
彼
(
かれ
)
も
皆
(
みな
)
辛
(
つら
)
い
難儀
(
なんぎ
)
な
目
(
め
)
に
逢
(
あ
)
つて、
165
つらなぎ
のかみに
成
(
な
)
つて
了
(
しま
)
つたのだ。
166
最前
(
さいぜん
)
のやうに、
167
清彦
(
きよひこ
)
さまの
様
(
やう
)
な
説教
(
せつけう
)
をする
宣伝使
(
せんでんし
)
もあるし、
168
若
(
も
)
しも
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
が
此
(
こ
)
の
船
(
ふね
)
に
乗
(
の
)
つて
居
(
を
)
られ
無
(
な
)
かつたら
清彦
(
きよひこ
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
が、
169
また
面那芸
(
つらなぎ
)
の
司
(
かみ
)
の
様
(
やう
)
な
運命
(
うんめい
)
に
成
(
な
)
つたかも
知
(
し
)
れぬ。
170
さうすれば
俺
(
おい
)
らも
皆
(
みな
)
面那芸
(
つらなぎ
)
のめに
逢
(
あ
)
うとるのだ。
171
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
様
(
さま
)
の
御
(
ご
)
神徳
(
しんとく
)
を
忘
(
わす
)
れてはならぬぞ、
172
あゝ
有難
(
ありがた
)
い、
173
有難
(
ありがた
)
い』
174
と
口々
(
くちぐち
)
に
私語
(
ささやい
)
てゐる。
175
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
はこの
雑談中
(
ざつだんちう
)
に、
176
面那芸
(
つらなぎ
)
の
司
(
かみ
)
の
乗
(
の
)
れる
船
(
ふね
)
の
沈没
(
ちんぼつ
)
した
事
(
こと
)
を
聞
(
き
)
いて
胸
(
むね
)
を
躍
(
をど
)
らせ、
177
その
顔
(
かほ
)
には、
178
颯
(
さつ
)
と
不安
(
ふあん
)
の
色
(
いろ
)
漂
(
ただよ
)
ひにける。
179
(
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