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第71巻(戌の巻)
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第73巻(子の巻)
第74巻(丑の巻)
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第76巻(卯の巻)
第77巻(辰の巻)
第78巻(巳の巻)
第79巻(午の巻)
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第8巻(未の巻)
序文
凡例
総説
第1篇 智利の都
01 朝日丸
〔351〕
02 五十韻
〔352〕
03 身魂相応
〔353〕
04 烏の妻
〔354〕
05 三人世の元
〔355〕
06 火の玉
〔356〕
第2篇 四十八文字
07 蛸入道
〔357〕
08 改心祈願
〔358〕
09 鏡の池
〔359〕
10 仮名手本
〔360〕
第3篇 秘露より巴留へ
11 海の竜宮
〔361〕
12 身代り
〔362〕
13 修羅場
〔363〕
14 秘露の邂逅
〔364〕
15 ブラジル峠
〔365〕
16 霊縛
〔366〕
17 敵味方
〔367〕
18 巴留の関守
〔368〕
第4篇 巴留の国
19 刹那心
〔369〕
20 張子の虎
〔370〕
21 滝の村
〔371〕
22 五月姫
〔372〕
23 黒頭巾
〔373〕
24 盲目審神
〔374〕
25 火の車
〔375〕
26 讃嘆
〔376〕
27 沙漠
〔377〕
28 玉詩異
〔378〕
29 原山祇
〔379〕
第5篇 宇都の国
30 珍山峠
〔380〕
31 谷間の温泉
〔381〕
32 朝の紅顔
〔382〕
33 天上眉毛
〔383〕
34 烏天狗
〔384〕
35 一二三世
〔385〕
36 大蛇の背
〔386〕
37 珍山彦
〔387〕
38 華燭の典
〔388〕
第6篇 黄泉比良坂
39 言霊解一
〔389〕
40 言霊解二
〔390〕
41 言霊解三
〔391〕
42 言霊解四
〔392〕
43 言霊解五
〔393〕
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第九章
鏡
(
かがみ
)
の
池
(
いけ
)
〔三五九〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第8巻 霊主体従 未の巻
篇:
第2篇 四十八文字
よみ(新仮名遣い):
しじゅうはちもじ
章:
第9章 鏡の池
よみ(新仮名遣い):
かがみのいけ
通し章番号:
359
口述日:
1922(大正11)年02月06日(旧01月10日)
口述場所:
筆録者:
北村隆光
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1922(大正11)年6月15日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
猿世彦は鏡の池で禊をなして、狭依彦と名を改めた。狭依彦の名は遠近にとどろき、洗礼を受けに来る者や教理を聞きに来るものが次第に増えていった。
狭依彦は三五教の教理は船中で聞いたに過ぎなかったので、夜昼鏡の池に祈願を込めていた。
あるとき黒彦という男が信者の中から現れて、質問を始めた。そして、蕎麦やらうどんやら黍の起源やらを尋ねた。狭依彦はそれに答えて、二人の滑稽な問答はどんどん脱線していく。
すると鏡の池の水がブクブクと泡立ち始め、竹筒を吹くような声で、二人の問答をなじり始めた。狭依彦は驚いて、池の神様に黒彦の問答の答えを伺うと、池の神様の声は、黒彦に答えを聞け、という。
黒彦は得意になって、またもや言葉遊びのおかしな問答を始める。すると鏡の池の声は、お前たちの取り違いははなはだしい、と怒りの声に変わり、ほら貝のような唸り声が次第に大きくなってきた。
黒彦は恐れをなして逃げてしまった。また、そこにいた過半数の信者たちも、あちこちに逃げてしまい、後に残ったのは腰を抜かした肝の小さい人間ばかりであった。
狭依彦も腰を抜かしてしまい、その場に祈願をこらしていた。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
OBC :
rm0809
愛善世界社版:
55頁
八幡書店版:
第2輯 171頁
修補版:
校定版:
57頁
普及版:
25頁
初版:
ページ備考:
001
猿世彦
(
さるよひこ
)
はアリナの
滝
(
たき
)
に
身
(
み
)
を
清
(
きよ
)
め、
002
この
巌窟
(
がんくつ
)
の
鏡
(
かがみ
)
の
池
(
いけ
)
に
禊
(
みそぎ
)
をなし
洗礼
(
せんれい
)
を
施
(
ほどこ
)
しゐたり。
003
猿世彦
(
さるよひこ
)
は
名
(
な
)
を
狭依彦
(
さよりひこ
)
と
改
(
あらた
)
めける。
004
狭依彦
(
さよりひこ
)
の
名
(
な
)
は
遠近
(
ゑんきん
)
に
轟
(
とどろ
)
きわたり、
005
洗礼
(
せんれい
)
を
受
(
う
)
けに
来
(
く
)
るもの、
006
教理
(
けうり
)
を
尋
(
たづ
)
ねに
来
(
く
)
るもの
続々
(
ぞくぞく
)
殖
(
ふ
)
え
来
(
き
)
たりぬ。
007
元来
(
ぐわんらい
)
三五教
(
あななひけう
)
の
教理
(
けうり
)
は、
008
船
(
ふね
)
の
中
(
なか
)
にて
聞
(
き
)
き
囓
(
かじ
)
りの
俄
(
にはか
)
宣伝使
(
せんでんし
)
なりければ、
009
深
(
ふか
)
き
事
(
こと
)
は
分
(
わか
)
らず。
010
されど
苟
(
いやし
)
くも
宣伝使
(
せんでんし
)
たるもの、
011
知
(
し
)
らぬとは
云
(
い
)
はれざれば
夜昼
(
よるひる
)
鏡
(
かがみ
)
の
池
(
いけ
)
に
祈願
(
きぐわん
)
を
籠
(
こ
)
め、
012
曲
(
まが
)
りなりにも
説教
(
せつけう
)
を
始
(
はじ
)
め
居
(
ゐ
)
たりける。
013
このとき
黒彦
(
くろひこ
)
と
云
(
い
)
ふ
色
(
いろ
)
の
浅黒
(
あさぐろ
)
き
眼
(
め
)
の
くるり
とした
鼻
(
はな
)
の
小高
(
こだか
)
く
口許
(
くちもと
)
の
締
(
しま
)
りし
中肉
(
ちうにく
)
中背
(
ちうぜい
)
の
男
(
をとこ
)
、
014
大勢
(
おほぜい
)
の
信者
(
しんじや
)
の
中
(
なか
)
より
現
(
あら
)
はれて
質問
(
しつもん
)
を
始
(
はじ
)
めたりける。
015
黒彦
(
くろひこ
)
『もしもし
宣伝使
(
せんでんし
)
様
(
さま
)
、
016
貴方
(
あなた
)
は
宇宙
(
うちう
)
一切
(
いつさい
)
の
事
(
こと
)
は
何
(
なん
)
でも
言霊
(
ことたま
)
で
解決
(
かいけつ
)
を
与
(
あた
)
へると
仰有
(
おつしや
)
つたさうですが、
017
一
(
ひと
)
つ
聞
(
き
)
かして
頂
(
いただ
)
きたいですが
何
(
なに
)
をお
尋
(
たづ
)
ねしても
構
(
かま
)
ひませぬか』
018
狭依彦
(
さよりひこ
)
『
我
(
われ
)
は
天下
(
てんか
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
、
019
ドンナ
事
(
こと
)
でも
知
(
し
)
らない
事
(
こと
)
は
無
(
な
)
い
事
(
こと
)
は
無
(
な
)
い』
020
黒彦
(
くろひこ
)
『
曖昧
(
あいまい
)
な
御
(
お
)
言葉
(
ことば
)
ですな、
021
知
(
し
)
つてるのですか、
022
知
(
し
)
らぬのですか』
023
狭依彦
(
さよりひこ
)
『ドンナ
事
(
こと
)
でも、
024
知
(
し
)
る
事
(
こと
)
は
知
(
し
)
る、
025
知
(
し
)
らぬ
事
(
こと
)
は
無
(
な
)
い
事
(
こと
)
は
無
(
な
)
い。
026
何
(
なん
)
なつと
聞
(
き
)
かつしやれ』
027
黒彦
(
くろひこ
)
『
一寸
(
ちよつと
)
お
尋
(
たづ
)
ねしますが、
028
あの
蕎麦
(
そば
)
は
何
(
なん
)
で
蕎麦
(
そば
)
と
云
(
い
)
ふのですか』
029
狭依彦
(
さよりひこ
)
『お
前
(
まへ
)
の
内
(
うち
)
に
作
(
つく
)
つてゐませぬか。
030
雪隠
(
せつちん
)
の
傍
(
そば
)
や、
031
山
(
やま
)
の
側
(
そば
)
や、
032
畑
(
はたけ
)
の
側
(
そば
)
や
其辺中
(
そこらぢう
)
の
側
(
そば
)
に
生
(
は
)
えてるだらう、
033
それで
蕎麦
(
そば
)
と
云
(
い
)
ふのだよ』
034
黒彦
(
くろひこ
)
『
貴方
(
あなた
)
の
仰有
(
おつしや
)
る
事
(
こと
)
は
チツト
違
(
ちが
)
ひはしませぬか、
035
此間
(
こないだ
)
も
大中教
(
だいちうけう
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
が
遣
(
や
)
つて
来
(
き
)
て、
036
蕎麦
(
そば
)
と
言
(
い
)
ふものは、
037
昔
(
むかし
)
の
昔
(
むかし
)
の
ズツト
昔
(
むかし
)
の
其
(
その
)
昔
(
むかし
)
、
038
天
(
てん
)
の
御
(
ご
)
三体
(
さんたい
)
の
大神
(
おほかみ
)
様
(
さま
)
が
柱
(
はしら
)
の
無
(
な
)
い
屋根
(
やね
)
ばかりの
三角形
(
さんかくけい
)
の
家
(
いへ
)
を
造
(
つく
)
つて、
039
其処
(
そこ
)
へお
住居
(
すまゐ
)
を
遊
(
あそ
)
ばした。
040
其
(
その
)
家
(
いへ
)
の
側
(
そば
)
に
出来
(
でき
)
たので
蕎麦
(
そば
)
と
云
(
い
)
ふのです。
041
それで
屋根
(
やね
)
の
形
(
かたち
)
に
蕎麦
(
そば
)
は
三角
(
さんかく
)
になつてるだらう、
042
お
前
(
まへ
)
達
(
たち
)
の
雪隠
(
せつちん
)
の
側
(
そば
)
にも、
043
家
(
いへ
)
の
側
(
そば
)
にも
出来
(
でき
)
てるではないか。
044
側
(
そば
)
に
居
(
を
)
りながら
貴様
(
きさま
)
は
余
(
よ
)
つ
程
(
ぽど
)
饂飩
(
うどん
)
な
奴
(
やつ
)
だと
云
(
い
)
ひましたよ』
045
狭依彦
(
さよりひこ
)
『あゝお
前
(
まへ
)
さまはウラル
彦
(
ひこ
)
の
教
(
をしへ
)
を
奉
(
ほう
)
ずる
人
(
ひと
)
だな』
046
黒彦
(
くろひこ
)
『
尤
(
もつとも
)
だ、
047
何
(
なん
)
でも
世界
(
せかい
)
の
事
(
こと
)
は
皆
(
みな
)
知
(
し
)
つてるとか、
048
知
(
し
)
らぬとか、
049
蕎麦
(
そば
)
を
掻
(
か
)
いて
喰
(
く
)
ふ
様
(
やう
)
な
法螺
(
ほら
)
を
吹
(
ふ
)
いて、
050
側
(
そば
)
の
人間
(
にんげん
)
を
あつと
云
(
い
)
はさうと
思
(
おも
)
つても、
051
さうはいかぬぞえ。
052
お
前
(
まへ
)
達
(
たち
)
の
様
(
やう
)
なものが
宣伝使
(
せんでんし
)
になつて
居
(
を
)
つては、
053
薩張
(
さつぱ
)
り
宣伝使
(
せんでんし
)
の
相場
(
さうば
)
が
狂
(
くる
)
つて
仕舞
(
しま
)
ふワ。
054
馬鹿
(
ばか
)
々々
(
ばか
)
しい』
055
狭依彦
(
さよりひこ
)
『それならお
前
(
まへ
)
さま、
056
大中教
(
だいちうけう
)
の
宣伝
(
せんでん
)
をやつて
下
(
くだ
)
さい。
057
貴方
(
あなた
)
の
仰有
(
おつしや
)
る
事
(
こと
)
が
理屈
(
りくつ
)
に
合
(
あ
)
うてゐるなら
私
(
わたくし
)
は
大中教
(
だいちうけう
)
に
従
(
したが
)
ひます。
058
それなら、
059
此方
(
こちら
)
からお
尋
(
たづ
)
ねするが
黍
(
きび
)
と
云
(
い
)
ふのはどう
云
(
い
)
ふ
処
(
ところ
)
から
名
(
な
)
が
附
(
つ
)
いたのですか』
060
黒彦
(
くろひこ
)
『
黍
(
きび
)
の
穂
(
ほ
)
は
気味
(
きび
)
が
良
(
い
)
いほど
実
(
み
)
がなるから
黍
(
きび
)
だ。
061
ずる
黍
(
きび
)
は
手
(
て
)
に
撫
(
な
)
でて
見
(
み
)
ると
ズルズル
するから、
062
ずる
黍
(
きび
)
だ。
063
大根
(
だいこ
)
は
神
(
かみ
)
さまの
大好物
(
だいかうぶつ
)
だから
大根
(
だいこ
)
と
云
(
い
)
ふのだ。
064
蕪
(
かぶら
)
は
余
(
あんま
)
り
味
(
あぢ
)
が
良
(
よ
)
いから、
065
オイ
一
(
ひと
)
つお
前
(
まへ
)
も
かぶら
ぬかと
云
(
い
)
うて、
066
つき
出
(
だ
)
すから
蕪
(
かぶら
)
と
云
(
い
)
ふのだ。
067
米
(
こめ
)
の
炊
(
た
)
いたのは
美味
(
うま
)
いから、
068
子供
(
こども
)
が
食
(
く
)
つても
ウマウマ
と
云
(
い
)
ふから
ママ
と
云
(
い
)
ふのだ。
069
さあさあ
何
(
なん
)
でも
聞
(
き
)
いたり
聞
(
き
)
いたり』
070
狭依彦
(
さよりひこ
)
は
一寸
(
ちよつと
)
感心
(
かんしん
)
したやうな
顔
(
かほ
)
して
首
(
くび
)
を
傾
(
かたむ
)
け、
071
狭依彦
(
さよりひこ
)
『へえ、
072
ソンナものですか、
073
それは
結構
(
けつこう
)
な
事
(
こと
)
を
聞
(
き
)
きました。
074
私
(
わたくし
)
もコンナ
話
(
はなし
)
は
大好物
(
だいかうぶつ
)
で
気味
(
きび
)
が
宜
(
よろ
)
しい』
075
と
下
(
くだ
)
らぬ
理屈
(
りくつ
)
に
感心
(
かんしん
)
をしてゐる。
076
鏡
(
かがみ
)
の
池
(
いけ
)
の
水
(
みづ
)
は
俄
(
にはか
)
に
ブクブク
と
泡立
(
あわた
)
ち
初
(
はじ
)
め、
077
そして
水
(
みづ
)
の
中
(
なか
)
から
竹筒
(
たけづつ
)
を
吹
(
ふ
)
く
様
(
やう
)
な
声
(
こゑ
)
がして、
078
『
卑
(
いや
)
しい
奴
(
やつ
)
らだ。
079
喰物
(
くひもの
)
ばかりの
問答
(
もんだふ
)
をしよつて
気味
(
きび
)
が
良
(
よ
)
いから
黍
(
きび
)
だの、
080
大好物
(
だいかうぶつ
)
だから
大根
(
だいこ
)
だの、
081
召
(
め
)
し
上
(
あが
)
れの、
082
うまうま
のと、
083
何
(
なん
)
と
言
(
い
)
ふ
喰
(
く
)
ひ
違
(
ちが
)
ひの
事
(
こと
)
を
申
(
まを
)
すか。
084
やり
直
(
なほ
)
せ、
085
宣
(
の
)
り
直
(
なほ
)
せ、
086
オーン、
087
ボロボロボロ』
088
狭依彦
(
さよりひこ
)
『いや
大変
(
たいへん
)
だ。
089
池
(
いけ
)
の
中
(
なか
)
からものを
云
(
い
)
ひだしたぞ。
090
何
(
なん
)
でも
之
(
これ
)
は
教
(
をし
)
へて
呉
(
く
)
れるに
違
(
ちが
)
ひ
無
(
な
)
い。
091
おい
黒
(
くろ
)
さま、
092
お
前
(
まへ
)
に
用
(
よう
)
は
無
(
な
)
い。
093
俺
(
わし
)
は
此
(
この
)
池
(
いけ
)
を
鑑
(
かがみ
)
として
之
(
これ
)
から
何
(
なん
)
でも
聞
(
き
)
くのだ。
094
もしもし
鏡
(
かがみ
)
の
池
(
いけ
)
の
神
(
かみ
)
さま、
095
之
(
これ
)
からコンナ
奴
(
やつ
)
が
来
(
き
)
たら
直
(
すぐ
)
に
私
(
わたくし
)
に
教
(
をし
)
へて
下
(
くだ
)
されや』
096
池
(
いけ
)
の
中
(
なか
)
から
竹筒
(
たけづつ
)
を
吹
(
ふ
)
く
様
(
やう
)
な
声
(
こゑ
)
で、
097
『
黒彦
(
くろひこ
)
に
教
(
をし
)
へて
貰
(
もら
)
へ』
098
狭依彦
(
さよりひこ
)
『やあ、
099
こいつは
堪
(
たま
)
らぬ、
100
偉
(
えら
)
い
事
(
こと
)
を
仰有
(
おつしや
)
る。
101
矢張
(
やつぱ
)
り
黒彦
(
くろひこ
)
が
偉
(
えら
)
いかしら、
102
モシモシ
黒彦
(
くろひこ
)
さまお
尋
(
たづ
)
ね
致
(
いた
)
します。
103
私
(
わたくし
)
の
頭
(
あたま
)
は
如何
(
どう
)
したら
毛
(
け
)
が
生
(
は
)
えますか』
104
黒彦
(
くろひこ
)
『それあ、
105
生
(
は
)
えるとも、
106
一篇
(
いつぺん
)
芝
(
しば
)
を
冠
(
かぶ
)
つて
来
(
き
)
たら
生
(
は
)
える』
107
狭依彦
(
さよりひこ
)
『ソンナ
事
(
こと
)
は、
108
きまつてる。
109
此
(
この
)
儘
(
まま
)
生
(
は
)
えぬかと
頼
(
たの
)
むのだ』
110
黒彦
(
くろひこ
)
『
瓢箪
(
へうたん
)
に
毛
(
け
)
が
生
(
は
)
えたらお
前
(
まへ
)
さまの
頭
(
あたま
)
にも
毛
(
け
)
が
生
(
は
)
えるよ。
111
枯木
(
かれき
)
に
花
(
はな
)
が
咲
(
さ
)
くか、
112
煎豆
(
いりまめ
)
に
花
(
はな
)
が
咲
(
さ
)
いたら
其
(
その
)
時
(
とき
)
はお
前
(
まへ
)
の
頭
(
あたま
)
に
毛
(
け
)
が
生
(
は
)
えるのだよ。
113
三五教
(
あななひけう
)
では
煎豆
(
いりまめ
)
に
花
(
はな
)
が
咲
(
さ
)
くと
云
(
い
)
ふではないか』
114
狭依彦
(
さよりひこ
)
『もう
宜
(
よろ
)
しい、
115
何
(
なん
)
にもお
尋
(
たづ
)
ねしませぬ。
116
口
(
くち
)
計
(
ばか
)
り
矢釜
(
やかま
)
しい、
117
雀
(
すずめ
)
の
様
(
やう
)
に
云
(
い
)
うて
何
(
なん
)
にも
知
(
し
)
りはせぬ
癖
(
くせ
)
に
偉
(
えら
)
さうに
言
(
い
)
ふない』
118
黒彦
(
くろひこ
)
『
俺
(
わし
)
を
雀
(
すずめ
)
と
云
(
い
)
うたが、
119
雀
(
すずめ
)
の
因縁
(
いんねん
)
知
(
し
)
つてるか』
120
狭依彦
(
さよりひこ
)
『
知
(
し
)
つとらいでか、
121
鈴
(
すず
)
の
様
(
やう
)
に
矢釜
(
やかま
)
しく
囀
(
さへづ
)
るから
雀
(
すずめ
)
だよ。
122
四十雀
(
しじふがら
)
の
様
(
やう
)
に、
123
始終
(
しじう
)
ガラガラ
吐
(
ぬ
)
かしよつてな』
124
黒彦
(
くろひこ
)
『ソンナラ
鷹
(
たか
)
の
因縁
(
いんねん
)
知
(
し
)
つてるか』
125
狭依彦
(
さよりひこ
)
『
高
(
たか
)
い
処
(
ところ
)
へ
飛
(
と
)
ぶから
鷹
(
たか
)
だ。
126
そこら
中
(
ぢう
)
を
飛
(
と
)
び
廻
(
まは
)
るから
鳶
(
とび
)
と
云
(
い
)
ふのだ』
127
黒彦
(
くろひこ
)
『ソンナラ
雲雀
(
ひばり
)
は
如何
(
どう
)
だ』
128
狭依彦
(
さよりひこ
)
『
高
(
たか
)
い
処
(
ところ
)
へ
上
(
あが
)
り
上
(
あが
)
つて
告天子
(
こくてんし
)
と
云
(
い
)
つて
威張
(
ゐば
)
り
散
(
ち
)
らすから
雲雀
(
いばり
)
と
云
(
い
)
ふのだ。
129
雲雀
(
うんじやく
)
何
(
な
)
んぞ
大鵬
(
たいほう
)
の
志
(
こころざし
)
を
知
(
し
)
らむやと
云
(
い
)
ふのはお
前
(
まへ
)
達
(
たち
)
の
事
(
こと
)
だよ。
130
解
(
と
)
く
位
(
くらゐ
)
の
事
(
こと
)
なら
何
(
なん
)
でも
講釈
(
かうしやく
)
してやる。
131
朝
(
あさ
)
も
早
(
はや
)
うから
ガアガア
鳴
(
な
)
きたてる、
132
日
(
ひ
)
の
暮
(
くれ
)
に
又
(
また
)
ガアガア
声
(
こゑ
)
を
嗄
(
か
)
らして
鳴
(
な
)
く
奴
(
やつ
)
を
声
(
こゑ
)
を
烏
(
からす
)
と
云
(
い
)
ふのだ。
133
三五教
(
あななひけう
)
の
教
(
をしへ
)
には
一
(
ひと
)
つも
穴
(
あな
)
が
無
(
な
)
からうがな』
134
としたり
顔
(
がほ
)
に
云
(
い
)
ふ。
135
またもや
鏡
(
かがみ
)
の
池
(
いけ
)
はブクブクと
泡
(
あわ
)
が
立
(
た
)
つて、
136
前
(
まへ
)
の
様
(
やう
)
な
拍子
(
へうし
)
抜
(
ぬ
)
けのした
声
(
こゑ
)
で、
137
『お
前
(
まへ
)
達
(
たち
)
は
とり
どりの
講釈
(
かうしやく
)
を
致
(
いた
)
すが、
138
どえらい
とり
違
(
ちが
)
ひだよ。
139
もつと
心
(
こころ
)
を
とり
直
(
なほ
)
したが
良
(
よ
)
からう。
140
ブーツブーツ』
141
と
法螺貝
(
ほらがひ
)
の
様
(
やう
)
な
唸
(
うな
)
り
声
(
ごゑ
)
が
聞
(
きこ
)
え
来
(
き
)
たる。
142
黒彦
(
くろひこ
)
『
此奴
(
こいつ
)
は
堪
(
たま
)
らぬ、
143
化物
(
ばけもの
)
だ。
144
何
(
なに
)
が
飛
(
と
)
び
出
(
で
)
るか
分
(
わか
)
りやせぬ。
145
皆
(
みな
)
の
者
(
もの
)
逃
(
に
)
げろ
逃
(
に
)
げろ』
146
と
尻
(
しり
)
引
(
ひ
)
つ
紮
(
から
)
げて
一目散
(
いちもくさん
)
に
逃
(
に
)
げ
出
(
だ
)
したり。
147
唸
(
うな
)
り
声
(
ごゑ
)
は
刻々
(
こくこく
)
と
高
(
たか
)
まり
来
(
き
)
たり、
148
大地震
(
だいぢしん
)
の
様
(
やう
)
にブルブルと
大地
(
だいち
)
一面
(
いちめん
)
が
動
(
うご
)
き
出
(
だ
)
したれば、
149
転
(
こ
)
けつ
輾
(
まろ
)
びつ、
150
過半数
(
くわはんすう
)
の
人間
(
にんげん
)
は
四方
(
しはう
)
に
逃
(
に
)
げ
散
(
ち
)
りぬ。
151
膽玉
(
きもだま
)
の
小
(
ちひ
)
さい
腰
(
こし
)
を
抜
(
ぬ
)
かした
人間
(
にんげん
)
ばかり、
152
依然
(
いぜん
)
として
其
(
その
)
場
(
ば
)
に
残
(
のこ
)
り
居
(
ゐ
)
たるなり。
153
狭依彦
(
さよりひこ
)
もまた
腰
(
こし
)
を
抜
(
ぬ
)
かし
其
(
その
)
場
(
ば
)
に
依然
(
いぜん
)
として
祈願
(
きぐわん
)
を
凝
(
こ
)
らしつつありき。
154
唸
(
うな
)
り
声
(
ごゑ
)
はますます
烈
(
はげ
)
しくなる
一方
(
いつぱう
)
なりけり。
155
(
大正一一・二・六
旧一・一〇
北村隆光
録)
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