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第13巻(子の巻)
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第61巻(子の巻)
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第66巻(巳の巻)
第67巻(午の巻)
第68巻(未の巻)
第69巻(申の巻)
第70巻(酉の巻)
第71巻(戌の巻)
第72巻(亥の巻)
特別編 入蒙記
天祥地瑞
第73巻(子の巻)
第74巻(丑の巻)
第75巻(寅の巻)
第76巻(卯の巻)
第77巻(辰の巻)
第78巻(巳の巻)
第79巻(午の巻)
第80巻(未の巻)
第81巻(申の巻)
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第76巻(卯の巻)
序文
総説
日本所伝の天地開闢説
支那の開闢説
波斯の宇宙創造説
希臘の天地開闢説
エヂプトの開闢説
メキシコナフア族の天地創造説
マヤ族の万物創造説
北欧に於ける宇宙創造説
太平洋西北岸創造説
英領北亜米利加創造説
亜弗利加神話
ヘブライ天地創造説
パレスチン創造説
ミクロネシヤ創造説
インドネシヤ創造説
第1篇 春風駘蕩
01 高宮参拝
〔1918〕
02 魔の渓流
〔1919〕
03 行進歌
〔1920〕
04 怪しの巌山
〔1921〕
05 露の宿
〔1922〕
第2篇 晩春の神庭
06 報告祭
〔1923〕
07 外苑の逍遥
〔1924〕
08 善言美霊
〔1925〕
第3篇 孤軍奮闘
09 闇の河畔
〔1926〕
10 二本松の蔭
〔1927〕
11 栄城の山彦
〔1928〕
12 山上の祈り
〔1929〕
13 朝駒の別れ
〔1930〕
14 磐楠舟
〔1931〕
15 御舟巌
〔1932〕
余白歌
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エヂプトの
開闢
(
かいびやく
)
説
(
せつ
)
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第76巻 天祥地瑞 卯の巻
篇:
前付
よみ(新仮名遣い):
章:
エヂプトの開闢説
よみ(新仮名遣い):
えじぷとのかいびゃくせつ
通し章番号:
口述日:
1933(昭和8)年12月06日(旧10月19日)
口述場所:
水明閣
筆録者:
谷前清子
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1934(昭和9)年3月23日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
主な登場人物
[?]
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
OBC :
rm760007
愛善世界社版:
八幡書店版:
第13輯 438頁
修補版:
校定版:
39頁
普及版:
初版:
ページ備考:
001
世界
(
せかい
)
の
初
(
はじめ
)
には
地
(
ち
)
も
海
(
うみ
)
も
空
(
そら
)
も
無
(
な
)
く、
002
ただどろどろした
水
(
みづ
)
のやうなものが
果
(
はて
)
もなく
広
(
ひろ
)
がつてゐた。
003
その
名
(
な
)
を「ヌウ」といつて
其
(
その
)
中
(
なか
)
に
一
(
ひと
)
つの
神
(
かみ
)
があつた。
004
この
神
(
かみ
)
は「ヌウ」と
共
(
とも
)
に
始
(
はじ
)
まり「ヌウ」の
中
(
なか
)
に
宿
(
やど
)
つてはゐるが、
005
まだ
形
(
かたち
)
も
無
(
な
)
ければ
働
(
はたら
)
きもなく、
006
後
(
あと
)
にはこの
美
(
うる
)
はしい
天
(
てん
)
と
地
(
ち
)
を
生
(
う
)
み
出
(
だ
)
すやうな
何
(
なん
)
のしるしも
見
(
み
)
せなかつた。
007
そのうちに
時
(
とき
)
が
来
(
き
)
て、
008
神
(
かみ
)
のうちに
自分
(
じぶん
)
の
名
(
な
)
を
名乗
(
なの
)
りたいと
言
(
い
)
ふ
心
(
こころ
)
が
起
(
おこ
)
つて
来
(
き
)
た。
009
『わが
名
(
な
)
は
夜明
(
よあ
)
けには「ケベラ」、
010
日中
(
につちう
)
には「ラア」、
011
夕刻
(
ゆうこく
)
は「ツーム」である』
012
かう
言
(
い
)
ふと、
013
先
(
ま
)
づキラキラした
卵
(
たまご
)
の
姿
(
すがた
)
となつて
水
(
みづ
)
の
上
(
うへ
)
へ
浮
(
うか
)
んで
来
(
き
)
た。
014
そして
種々
(
しゆじゆ
)
の
神々
(
かみがみ
)
や
男
(
をとこ
)
や
女
(
をんな
)
や
動物
(
どうぶつ
)
や
植物
(
しよくぶつ
)
が
次
(
つ
)
ぎ
次
(
つ
)
ぎにこの
神
(
かみ
)
によつて
創造
(
さうざう
)
された。
015
「ケベラ」は
始
(
はじ
)
めにその
気高
(
けだか
)
い
姿
(
すがた
)
を
以
(
もつ
)
て「ヌウ」の
全面
(
ぜんめん
)
をおほうてゐたが、
016
自分
(
じぶん
)
の
住
(
す
)
むべき
場所
(
ばしよ
)
がきまらなかつたので、
017
その
浮
(
うか
)
んでゐる
水
(
みづ
)
を
分
(
わ
)
けて
天
(
てん
)
と
地
(
ち
)
を
造
(
つく
)
らうと
思
(
おも
)
つた。
018
そこで
神
(
かみ
)
は
先
(
ま
)
づ
風
(
かぜ
)
の
神
(
かみ
)
「シユウ」と
雨
(
あめ
)
の
女神
(
めがみ
)
「テフヌウト」を
造
(
つく
)
り、
019
次
(
つぎ
)
に
地
(
ち
)
の
神
(
かみ
)
「セブ」と
大空
(
おほぞら
)
の
女神
(
めがみ
)
「ヌウト」を
造
(
つく
)
つた。
020
「シユウ」は
神
(
かみ
)
の
命
(
めい
)
によつて「ヌウト」を
高
(
たか
)
く
天上
(
てんじやう
)
にさし
上
(
あ
)
げた。
021
そこで「ヌウト」は
地
(
ち
)
の
神
(
かみ
)
「セブ」が
長
(
なが
)
くなつて
寝
(
ね
)
てゐる
上
(
うへ
)
に
弓形
(
ゆみがた
)
にのりかかつて、
022
手足
(
てあし
)
の
指先
(
ゆびさき
)
を
西
(
にし
)
と
東
(
ひがし
)
の
地平線
(
ちへいせん
)
にすれすれにして
自分
(
じぶん
)
の
身
(
み
)
を
支
(
ささ
)
へることになつた。
023
かうしてこの
女神
(
めがみ
)
の
胴
(
どう
)
や
手足
(
てあし
)
の
上
(
うへ
)
についてゐる
無数
(
むすう
)
の
星
(
ほし
)
が、
024
暗
(
くら
)
い
中
(
なか
)
からキラキラと
光
(
ひかり
)
を
放
(
はな
)
つやうになつた。
025
けれどもこの
天地
(
てんち
)
には、
026
まだ
昼
(
ひる
)
と
夜
(
よる
)
との
区別
(
くべつ
)
が
無
(
な
)
かつた。
027
そのうちに「シユウ」と「テフヌウト」の
後
(
うしろ
)
にかくれてゐた「ヌウ」の
目
(
め
)
が、
028
次第
(
しだい
)
に
水
(
みづ
)
の
面
(
おも
)
から
登
(
のぼ
)
つて
大空
(
おほぞら
)
に
達
(
たつ
)
したので、
029
天地
(
てんち
)
は
始
(
はじ
)
めてその
光
(
ひかり
)
に
照
(
て
)
らされるやうになつた。
030
その
時
(
とき
)
から「ヌウ」の
目
(
め
)
は
日毎
(
ひごと
)
に
空
(
そら
)
を
横
(
よこ
)
ぎつて
地上
(
ちじやう
)
の
総
(
すべ
)
てのものを
見下
(
みおろ
)
し、
031
そこに
光
(
ひかり
)
と
熱
(
ねつ
)
とを
与
(
あた
)
へるやうになつた。
032
次
(
つぎ
)
に
神
(
かみ
)
は
夜
(
よる
)
を
照
(
て
)
らすために、
033
モウ
一
(
ひと
)
つの
目
(
め
)
を
天上
(
てんじやう
)
に
送
(
おく
)
り、
034
また
涙
(
なみだ
)
を
地上
(
ちじやう
)
に
落
(
おと
)
して
多
(
おほ
)
くの
男
(
をとこ
)
と
女
(
をんな
)
を
造
(
つく
)
つた。
035
その
後
(
ご
)
地上
(
ちじやう
)
の
人間
(
にんげん
)
を
守
(
まも
)
らせるために
多
(
おほ
)
くの
神々
(
かみがみ
)
を
造
(
つく
)
つた。
036
「オシリス」「イシス」「セット」「ネブチス」「ホルス」なぞはその
重
(
おも
)
なるもので「シユウ」「テフヌウト」「セブ」「ヌウト」の
諸神
(
しよしん
)
と
共
(
とも
)
に、
037
後
(
のち
)
に「ヘリオボリス」の
重
(
おも
)
なる
神々
(
かみがみ
)
として
祀
(
まつ
)
らるるものである。
038
神
(
かみ
)
はまた
地上
(
ちじやう
)
の
人間
(
にんげん
)
のために
禽獣
(
きんじう
)
草木
(
さうもく
)
を
造
(
つく
)
つて、
039
この
世界
(
せかい
)
を
種々
(
しゆじゆ
)
の
生物
(
せいぶつ
)
で
充
(
みた
)
した。
040
エヂプトの
神話
(
しんわ
)
には
猶
(
なほ
)
いくつかの
天地
(
てんち
)
創造説
(
さうざうせつ
)
が
伝
(
つた
)
へられてゐるが、
041
以上
(
いじやう
)
述
(
の
)
べたのが
一番
(
いちばん
)
まとまつた
代表
(
だいへう
)
的
(
てき
)
な
説
(
せつ
)
である。
042
此
(
こ
)
の
神話
(
しんわ
)
によつても
窺
(
うかが
)
はれるやうに、
043
エヂプト
神話
(
しんわ
)
の
中心
(
ちうしん
)
は、
044
いはゆる
太陽
(
たいやう
)
神話
(
しんわ
)
で、
045
エヂプト
人
(
じん
)
が
最上
(
さいじやう
)
の
神
(
かみ
)
として
崇
(
あが
)
めるのは
太陽神
(
たいやうしん
)
「ラー」であつた。
046
エヂプト
人
(
じん
)
の
信仰
(
しんかう
)
によると「ラー」は
毎朝
(
まいあさ
)
東
(
ひがし
)
の
空
(
そら
)
に
現
(
あら
)
はれ、
047
日
(
ひ
)
の
船
(
ふね
)
にのつて
天上
(
てんじやう
)
を
横
(
よこ
)
ぎるものと
考
(
かんが
)
へられてゐた。
048
この
旅行
(
りよかう
)
の
間
(
あひだ
)
に「ラー」は
絶
(
た
)
えず
地上
(
ちじやう
)
の
人間
(
にんげん
)
を
見下
(
みおろ
)
して、
049
その
行為
(
かうゐ
)
の
善悪
(
ぜんあく
)
を
見分
(
みわ
)
け、
050
また
彼
(
かれ
)
等
(
ら
)
に
光
(
ひかり
)
と
熱
(
ねつ
)
とを
与
(
あた
)
へるのである。
051
夕方
(
ゆふがた
)
には
西方
(
せいはう
)
の
山
(
やま
)
の
後
(
うしろ
)
へはいつて、
052
そこから
暗黒
(
あんこく
)
な
下界
(
げかい
)
へ
沈
(
しづ
)
んで
行
(
ゆ
)
く。
053
そして
夜
(
よる
)
の
間
(
あひだ
)
は
地
(
ち
)
の
底
(
そこ
)
を
流
(
なが
)
れる
大河
(
おほかは
)
の
荒浪
(
あらなみ
)
を
分
(
わ
)
け、
054
その
道
(
みち
)
をさへぎる
種々
(
しゆじゆ
)
の
敵
(
てき
)
と
戦
(
たたか
)
つて
正
(
ただ
)
しい
人間
(
にんげん
)
の
霊魂
(
れいこん
)
を
船
(
ふね
)
の
中
(
なか
)
へ
救
(
すく
)
ひ
上
(
あ
)
げながら、
055
暁方
(
あけがた
)
には
再
(
ふたた
)
び
東
(
ひがし
)
の
空
(
そら
)
に
現
(
あら
)
はれる。
056
「ラー」は
元来
(
ぐわんらい
)
北方
(
ほくぱう
)
の
神
(
かみ
)
で、
057
その
崇拝
(
すうはい
)
の
中心
(
ちうしん
)
は「ニイル」
河
(
がは
)
の
下流
(
かりう
)
地方
(
ちはう
)
にある「ヘリオボリス」であつたが、
058
南北
(
なんぼく
)
統一後
(
とういつご
)
、
059
そこから
次第
(
しだい
)
にエヂプトの
全国
(
ぜんこく
)
に
拡
(
ひろ
)
がつて
行
(
い
)
つた。
060
そして
後
(
のち
)
に
上
(
かみ
)
エヂプトの「テーベ」が
勢力
(
せいりよく
)
を
得
(
う
)
るやうになつてからは、
061
其
(
その
)
地方
(
ちはう
)
の
主神
(
スしん
)
たる「アメン」と
結合
(
けつがふ
)
して「アメン・ラー」として
崇拝
(
すうはい
)
された。
062
「ラー」は
普通
(
ふつう
)
に
人間
(
にんげん
)
の
姿
(
すがた
)
であらはされてゐるが、
063
時
(
とき
)
によると
鷹
(
たか
)
の
頭
(
あたま
)
をつけた
人間
(
にんげん
)
の
姿
(
すがた
)
にあらはされる
事
(
こと
)
もある。
064
つまりエヂプトでは
古
(
ふる
)
くから
鷹
(
たか
)
を
以
(
もつ
)
て
太陽
(
たいやう
)
を
表
(
あら
)
はす
習慣
(
しふくわん
)
があつたからで、
065
その
他
(
た
)
の
諸国
(
しよこく
)
でも
鷲
(
わし
)
や
鷹
(
たか
)
なぞの
鳥類
(
てうるゐ
)
を
太陽
(
たいやう
)
の
象徴
(
しやうちよう
)
とすることは
一般
(
いつぱん
)
に
行
(
おこな
)
はれた
風
(
ふう
)
である。
066
「アメン」はまた「アモン」とも
言
(
い
)
ひ、
067
本来
(
ほんらい
)
「カルナツク」の
地方神
(
ちはうしん
)
で、
068
その
名称
(
めいしよう
)
の
起源
(
きげん
)
は
明瞭
(
めいれう
)
ではないが、
069
一説
(
いつせつ
)
には「
隠
(
かく
)
れたるもの」と
言
(
い
)
ふ
意味
(
いみ
)
だとも
言
(
い
)
はれてゐる。
070
この
神
(
かみ
)
の
像
(
ざう
)
は
或
(
あるひ
)
は
王座
(
わうざ
)
によつた
人間
(
にんげん
)
の
姿
(
すがた
)
、
071
或
(
あるひ
)
は
人身
(
じんしん
)
蛙首
(
あしゆ
)
、
072
或
(
あるひ
)
は
人身
(
じんしん
)
蛇首
(
だしゆ
)
、
073
或
(
あるひ
)
は
猿
(
さる
)
、
074
或
(
あるひ
)
は
獅子
(
しし
)
、
075
或
(
あるひ
)
は
人身
(
じんしん
)
羊首
(
やうしゆ
)
の
姿
(
すがた
)
であらはされてゐるが、
076
中
(
なか
)
でも
頭上
(
づじやう
)
に
赤
(
あか
)
と
青
(
あを
)
のだんだらに
染
(
そ
)
め
分
(
わ
)
けた
一対
(
いつつゐ
)
の
長
(
なが
)
い
羽飾
(
はねかざり
)
をいただき、
077
頤髯
(
あごひげ
)
を
垂
(
た
)
らした
人間
(
にんげん
)
の
姿
(
すがた
)
をしてゐる
像
(
ざう
)
が
最
(
もつと
)
も
多
(
おほ
)
い。
078
後
(
のち
)
に
太陽神
(
たいやうしん
)
「ラー」と
融合
(
ゆうがふ
)
してからは、
079
後者
(
こうしや
)
の
属性
(
ぞくせい
)
をとつて
人身
(
じんしん
)
鷹首
(
ようしゆ
)
の
姿
(
すがた
)
にあらはされるやうになつた。
080
「アメン」の
崇拝
(
すうはい
)
の
中心
(
ちうしん
)
は「ニイル」
河谷
(
かこく
)
の「テーベ」で、
081
第十二
(
だいじふに
)
王朝
(
わうてう
)
の
時
(
とき
)
までは
単
(
たん
)
にこの
地方
(
ちはう
)
の
神
(
かみ
)
たるに
過
(
す
)
ぎなかつたが、
082
この
王朝
(
わうてう
)
が「テーベ」から
起
(
おこ
)
つてエヂプトを
統一
(
とういつ
)
するに
及
(
およ
)
んで、
083
その
崇拝
(
すうはい
)
は
速
(
すみや
)
かにエヂプトの
全土
(
ぜんど
)
に
拡
(
ひろ
)
がり、
084
多
(
おほ
)
くの
地方神
(
ちはうしん
)
の
属性
(
ぞくせい
)
をその
一身
(
いつしん
)
に
集
(
あつ
)
め、
085
遂
(
つひ
)
には「アメン・ラー」の
名
(
な
)
をもつて「
神々
(
かみがみ
)
の
王
(
わう
)
」と
讃
(
たた
)
へられるやうになつた。
086
「アメン」はまた「
地上
(
ちじやう
)
の
王
(
わう
)
の
王
(
わう
)
」として
歴代
(
れきだい
)
の
王
(
わう
)
はこの
神
(
かみ
)
の
化身
(
けしん
)
と
考
(
かんが
)
へられ、
087
またその
皇后
(
くわうごう
)
はこの
神
(
かみ
)
の
司祭
(
しさい
)
として
神
(
かみ
)
の
胤
(
たね
)
を
宿
(
やど
)
すものと
信
(
しん
)
ぜられてゐた。
088
「アメン」の
配偶
(
はいぐう
)
を「ムウト」と
言
(
い
)
ひ「
神々
(
かみがみ
)
の
女王
(
ぢよわう
)
」として
地上
(
ちじやう
)
の
万物
(
ばんぶつ
)
を
生
(
う
)
む「
一切
(
いつさい
)
の
母
(
はは
)
」と
考
(
かんが
)
へられてゐた。
089
この
女神
(
めがみ
)
は
通例
(
つうれい
)
南北
(
なんぼく
)
両
(
りやう
)
エヂプトの
王冠
(
わうくわん
)
を
戴
(
いただ
)
き、
090
手
(
て
)
に
笏
(
しやく
)
をとつた
姿
(
すがた
)
で
表
(
あら
)
はされてゐるが、
091
時
(
とき
)
には
母性
(
ぼせい
)
の
表象
(
へうしやう
)
たる
兀鷹
(
はげたか
)
、
092
若
(
も
)
しくは
獅子
(
しし
)
の
姿
(
すがた
)
であらはされることもあつた。
093
「アメン」と「ムウト」の
間
(
あひだ
)
に
生
(
うま
)
れた
神
(
かみ
)
を「コンスウ」と
言
(
い
)
ひ、
094
月
(
つき
)
の
神
(
かみ
)
で、
095
農作物
(
のうさくもつ
)
または
家畜
(
かちく
)
の
守護者
(
しゆごしや
)
とされ、
096
また
若
(
わか
)
い
男女
(
だんぢよ
)
の
心
(
こころ
)
に
愛
(
あい
)
を
吹
(
ふ
)
き
込
(
こ
)
む
神
(
かみ
)
として
崇拝
(
すうはい
)
された。
097
エヂプトの
神々
(
かみがみ
)
のうちで
一番
(
いちばん
)
広
(
ひろ
)
く
崇拝
(
すうはい
)
されたのは「オシリス」であつた。
098
「オシリス」は
本来
(
ほんらい
)
北方
(
ほくぱう
)
の
神
(
かみ
)
であるが、
099
南北
(
なんぼく
)
統一後
(
とういつご
)
、
100
その
信仰
(
しんかう
)
は
一般
(
いつぱん
)
に
盛
(
さか
)
んになつた。
101
この
神
(
かみ
)
は
地上
(
ちじやう
)
の
人類
(
じんるゐ
)
に
種々
(
しゆじゆ
)
な
生活
(
せいくわつ
)
の
道
(
みち
)
を
伝
(
つた
)
へ
同胞
(
どうはう
)
のやうに
相愛
(
あひあい
)
して、
102
平和
(
へいわ
)
に
此
(
こ
)
の
世
(
よ
)
を
送
(
おく
)
らせるために
人間
(
にんげん
)
の
形
(
かたち
)
で
天
(
てん
)
から
下
(
くだ
)
された
神
(
かみ
)
であつた。
103
併
(
しか
)
しその
同胞
(
どうはう
)
の
神
(
かみ
)
に「セット」
亦
(
また
)
の
名
(
な
)
を「チフォン」と
言
(
い
)
ふ
悪神
(
あくがみ
)
があつて、
104
秘密
(
ひみつ
)
な
計略
(
けいりやく
)
を
設
(
まう
)
けて
人知
(
ひとし
)
れず「オシリス」を
殺
(
ころ
)
してしまつた。
105
そこで「オシリス」の
妻
(
つま
)
の「イシス」はその
夫
(
をつと
)
の
遺骸
(
ゐがい
)
をたづねて
諸国
(
しよこく
)
をさまよつた
末
(
すゑ
)
、
106
やうやう
見付
(
みつ
)
け
出
(
だ
)
して
一旦
(
いつたん
)
は
蘇生
(
そせい
)
させたが、
107
「セット」に
見付
(
みつ
)
けられて
再
(
ふたた
)
びその
生命
(
せいめい
)
を
奪
(
うば
)
はれて
了
(
しま
)
つた。
108
「オシリス」の
遺子
(
ゐし
)
「ホルス」は
母
(
はは
)
の「イシス」の
手
(
て
)
で
養育
(
やういく
)
され、
109
成長
(
せいちやう
)
の
後
(
のち
)
「チフォン」
討伐
(
たうばつ
)
の
軍
(
ぐん
)
を
起
(
おこ
)
し、
110
激戦
(
げきせん
)
の
後
(
のち
)
その
敵
(
てき
)
を
破
(
やぶ
)
つて
父
(
ちち
)
の
王位
(
わうゐ
)
を
回復
(
くわいふく
)
した。
111
この
物語
(
ものがたり
)
は
後世
(
こうせい
)
エヂプト
人
(
じん
)
の
間
(
あひだ
)
に
広
(
ひろ
)
く
伝誦
(
でんしよう
)
された
伝説
(
でんせつ
)
の
一
(
ひと
)
つである。
112
「オシリス」はその
生前
(
せいぜん
)
に
受
(
う
)
けた
苦難
(
くなん
)
のために、
113
死後
(
しご
)
は
下界
(
げかい
)
に
下
(
くだ
)
つて
死者
(
ししや
)
の
裁判官
(
さいばんくわん
)
となつた。
114
彼
(
かれ
)
は
地下
(
ちか
)
の
世界
(
せかい
)
に
住
(
す
)
んで、
115
毎夜
(
まいよ
)
「ラー」の
船
(
ふね
)
と
共
(
とも
)
に
暗黒
(
あんこく
)
の
谷
(
たに
)
に
下
(
くだ
)
つて
行
(
ゆ
)
く
無数
(
むすう
)
の
霊魂
(
れいこん
)
に、
116
それぞれの
審判
(
しんぱん
)
を
与
(
あた
)
へるのである。
117
「オシリス」についで
崇
(
あが
)
められる
神
(
かみ
)
に「トート」がある。
118
「トート」は
智慧
(
ちゑ
)
の
神
(
かみ
)
で
下界
(
げかい
)
の
法廷
(
はふてい
)
では「オシリス」の
傍
(
かたはら
)
に
立
(
た
)
つて
人間
(
にんげん
)
の
心
(
こころ
)
の
目方
(
めかた
)
を
計
(
はか
)
る
秤
(
はかり
)
をながめながら、
119
手
(
て
)
に
紙
(
かみ
)
と
筆
(
ふで
)
を
以
(
もつ
)
て
控
(
ひか
)
へてゐる。
120
この
理由
(
りゆう
)
から「トート」は
神
(
かみ
)
の
書記
(
しよき
)
と
呼
(
よ
)
ばれてゐる。
121
この
神
(
かみ
)
の
像
(
ざう
)
は
鶴
(
つる
)
の
首
(
くび
)
を
持
(
も
)
つた
人間
(
にんげん
)
の
姿
(
すがた
)
に
描
(
ゑが
)
かれてゐる。
122
そしてその
頭
(
あたま
)
の
周囲
(
しうゐ
)
に
新月
(
しんげつ
)
の
形
(
かたち
)
をした
後光
(
ごくわう
)
がついてゐるのは、
123
時
(
とき
)
を
定
(
さだ
)
める
神
(
かみ
)
とされてゐたことを
示
(
しめ
)
すものである。
124
此
(
この
)
他
(
ほか
)
の
神々
(
かみがみ
)
には「イシス」の
妹
(
いもうと
)
の「ネブチス」「オシリス」と「イシス」の
子
(
こ
)
の「アヌビス」それから
前
(
まへ
)
に
述
(
の
)
べた「オシリス」の
弟
(
おとうと
)
の「セット」なぞがある。
125
「ネブチス」は
死
(
し
)
の
神
(
かみ
)
で、
126
「アヌビス」は
墓場
(
はかば
)
の
守神
(
まもりがみ
)
で、
127
「セット」は
総
(
すべ
)
ての
害悪
(
がいあく
)
の
源
(
みなもと
)
で
人類
(
じんるゐ
)
の
敵
(
てき
)
と
考
(
かんが
)
へられてゐた。
128
エヂプト
人
(
じん
)
は、
129
神々
(
かみがみ
)
は
地上
(
ちじやう
)
に
下
(
くだ
)
つて
常
(
つね
)
に
人間
(
にんげん
)
の
行為
(
かうゐ
)
を
監視
(
かんし
)
するものだと
信
(
しん
)
じてゐた。
130
そしてさう
言
(
い
)
ふ
場合
(
ばあひ
)
には
神々
(
かみがみ
)
はいろいろな
動物
(
どうぶつ
)
の
姿
(
すがた
)
になつてゐると
信
(
しん
)
じてゐたので、
131
自然
(
しぜん
)
に
色々
(
いろいろ
)
な
動物
(
どうぶつ
)
を
神
(
かみ
)
の
化身
(
けしん
)
として
崇拝
(
すうはい
)
するやうになつた。
132
例之
(
たとへば
)
エヂプト
産
(
さん
)
の
大甲虫
(
だいかふちう
)
を「ケベル」「ラー」の
化身
(
けしん
)
と
信
(
しん
)
じ、
133
山犬
(
やまいぬ
)
を「アヌビス」の
化身
(
けしん
)
とし、
134
鶴
(
つる
)
を「トート」の
化身
(
けしん
)
として
崇拝
(
すうはい
)
した。
135
そしてかう
言
(
い
)
ふ
神
(
かみ
)
の
動物
(
どうぶつ
)
を
殺
(
ころ
)
したものは、
136
たとへ
過失
(
くわしつ
)
にしても、
137
死
(
し
)
を
以
(
もつ
)
てその
罪
(
つみ
)
を
償
(
あがな
)
はなければならぬものとされてゐた。
138
中
(
なか
)
にもエヂプト
人
(
じん
)
の
最
(
もつと
)
も
崇拝
(
すうはい
)
した
動物
(
どうぶつ
)
は
下界
(
げかい
)
の
神
(
かみ
)
「オシリス」の
化身
(
けしん
)
として
尊敬
(
そんけい
)
された
牡牛
(
をうし
)
であつた。
139
後
(
のち
)
に「オシリス」の
神殿
(
しんでん
)
に
仕
(
つか
)
へる
神官
(
しんくわん
)
は
一定
(
いつてい
)
の
特徴
(
とくちよう
)
を
持
(
も
)
つた
牡牛
(
おうし
)
を
選
(
えら
)
んで
神獣
(
しんじう
)
とし、
140
これを「アビス・ブル」と
言
(
い
)
つて
崇拝
(
すうはい
)
した。
141
「アビス」は
全身
(
ぜんしん
)
が
漆
(
うるし
)
のやうに
黒
(
くろ
)
く
額
(
ひたひ
)
に
三角形
(
さんかくけい
)
の
白
(
しろ
)
い
斑点
(
はんてん
)
があつて、
142
背中
(
せなか
)
の
毛
(
け
)
は
鷲
(
わし
)
の
羽
(
はね
)
をひろげたやうな
形
(
かたち
)
になつてゐる。
143
その
上
(
うへ
)
右
(
みぎ
)
の
側腹
(
わきばら
)
には
三日月
(
みかづき
)
形
(
がた
)
の
白
(
しろ
)
い
斑点
(
はんてん
)
と、
144
咽
(
のど
)
の
下
(
した
)
に
大甲虫
(
だいかふちう
)
のやうなしるしがあつた。
145
かう
言
(
い
)
ふ
特徴
(
とくちよう
)
のある
牛
(
うし
)
が
見付
(
みつ
)
かると、
146
エヂプト
全国
(
ぜんこく
)
は
煮
(
に
)
え
返
(
かへ
)
るばかりの
騒
(
さわ
)
ぎをして、
147
その
吉兆
(
きちてう
)
を
祝
(
いは
)
ふのであつた。
148
そしてこの
神獣
(
しんじう
)
が
母
(
はは
)
の
乳
(
ちち
)
から
離
(
はな
)
れるのを
待
(
ま
)
つて、
149
祭司
(
さいし
)
等
(
たち
)
はこれを「ニイル」
河
(
がは
)
の
岸
(
きし
)
に
運
(
はこ
)
び、
150
美
(
うつく
)
しく
飾
(
かざ
)
りたてた
船
(
ふね
)
にのせて「メンフィス」へ
迎
(
むか
)
へ、
151
そこに
立派
(
りつぱ
)
な
神殿
(
しんでん
)
を
建
(
た
)
てて
安置
(
あんち
)
した。
152
「アビス」は
一生
(
いつしやう
)
の
間
(
あひだ
)
この
神殿
(
しんでん
)
の
中
(
なか
)
で
人々
(
ひとびと
)
の
奉仕
(
ほうし
)
を
受
(
う
)
け、
153
毎年
(
まいねん
)
の
誕生日
(
たんじやうび
)
には
盛
(
さか
)
んな
祭典
(
さいてん
)
が
行
(
おこな
)
はれた。
154
「アビス」がその
神殿
(
しんでん
)
で
命
(
いのち
)
を
終
(
をは
)
ると、
155
エヂプト
全国
(
ぜんこく
)
は
哀悼
(
あいたう
)
の
意
(
い
)
を
表
(
へう
)
して、
156
第二
(
だいに
)
の「アビス」が
発見
(
はつけん
)
されるまで
喪
(
も
)
を
続
(
つづ
)
けるのであつた。
157
「アビス」の
遺骸
(
ゐがい
)
はミイラとして
葬
(
はうむ
)
らるるのであるが、
158
その
葬
(
はうむ
)
つた
場所
(
ばしよ
)
は
深
(
ふか
)
く
秘
(
ひ
)
して
何人
(
なんぴと
)
にも
知
(
し
)
らせないやうにした。
159
近年
(
きんねん
)
この
墓地
(
ぼち
)
が
発掘
(
はつくつ
)
されて
始
(
はじ
)
めて
其
(
そ
)
の
秘密
(
ひみつ
)
が
発
(
あば
)
かれたが、
160
これらの
墓
(
はか
)
は
地下
(
ちか
)
の
岩
(
いは
)
を
掘
(
ほ
)
つて
造
(
つく
)
つた
広大
(
くわうだい
)
な
岩屋
(
いはや
)
のうちに
在
(
あ
)
つて、
161
通路
(
つうろ
)
の
両側
(
りやうがは
)
には
無数
(
むすう
)
の
部屋
(
へや
)
が
設
(
まう
)
けられ、
162
各
(
おのおの
)
の
部屋
(
へや
)
に
巨大
(
きよだい
)
な
石
(
いし
)
の
柩
(
ひつぎ
)
が
安置
(
あんち
)
されてゐた。
163
鳥
(
とり
)
の
中
(
なか
)
では
鷹
(
たか
)
と
鶴
(
つる
)
が
最
(
もつと
)
も
神聖
(
しんせい
)
なものであつた。
164
雪
(
ゆき
)
のやうな
羽
(
はね
)
と
真黒
(
まつくろ
)
な
尾
(
を
)
を
持
(
も
)
つた
鶴
(
つる
)
は「トート」の
神禽
(
しんきん
)
とされ、
165
鷹
(
たか
)
は「ホルス」の
表象
(
へうしやう
)
として
崇拝
(
すうはい
)
されたのである。
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